(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平坦な端面が対向する二つの部材の間に配置され、平坦な前記端面に圧着される平坦な当接面を一端と他端に形成して前記当接面が前記端面に圧着した状態から傾斜が可能な免震柱を有し、
二つの前記部材と前記免震柱の少なくとも一方に設けられて前記当接面と前記端面の少なくとも一方を水平方向から囲むように突出し、二つの前記部材が水平方向へ相対移動した際に前記免震柱が水平方向へ移動するのを防止し、前記端面と前記当接面が圧着した状態から前記免震柱が傾きを開始する支点を形成するようにしたストッパ部材を有し、
二つの前記部材の平坦な前記端面及び該端面に圧着される前記免震柱の平坦な前記当接面と、前記支点を形成する前記ストッパ部材とによりトリガ機構を構成した
ことを特徴とする免震構造。
前記ストッパ部材は、前記免震柱が自重で復帰できる傾斜角度に対応した位置で前記免震柱又は二つの前記部材に接する突出長さの突出部を備えて傾斜角制限部材を形成したことを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
二つの前記部材の平坦な前記端面と前記免震柱の平坦な前記当接面は、水平二軸方向における幅と奥行きの大きさが異なっていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
二つの前記部材と前記免震柱との間に形成する前記支点が、二つの前記部材及び前記免震柱の水平方向外側へ張り出した位置に設けられ、前記免震柱が傾きを開始するトリガ荷重を増加させたことを特徴とする請求項2に記載の免震構造。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0021】
図9a、
図9bは、本発明の免震構造を適用する構造物の一例である立体倉庫100を示しており、この立体倉庫100は自動倉庫の場合を示している。立体倉庫100は複数の鋼鉄製の柱1と複数段の鋼鉄製の梁2を備えることにより複数のラック3(棚)を立体的に組み立てた構成を有している。立体倉庫100は、スタッカークレーン4を挟んで立設されており、立体倉庫100はスタッカークレーン4の走行方向に沿って延びた長さを有しており、スタッカークレーン4の走行方向と直交する方向には格納される荷の大きさに対応した狭い幅となっている。前記立体倉庫100を構成する複数の柱1は、ラック3に格納される荷の重量を支持するために高い強度を有している。
【0022】
図9a、
図9bに示す立体倉庫100を構成する複数の柱1の夫々に対して本発明の免震構造5を設ける。この免震構造5は、
図9a、
図9bに示すように、立体倉庫100に備えられる夫々の柱1の同一の高さ位置に設けられる。
【0023】
前記免震構造5は、立体倉庫100のうち免震構造5よりも上側がロッキングする挙動を生じないようにするために、立体倉庫100の上側から1/3〜1/2程度の高さ位置に設置されている。このように、免震構造5を立体倉庫100の上部に設置しても、免震構造5によって、免震構造5よりも上側の揺れが小さくなることで、結果的に免震構造5よりも下側の構造物の揺れも小さくなることが本発明者の研究によって判明している。
【実施例1】
【0024】
立体倉庫100を構成する柱1は、
図1a、
図1bに示す如く、上端に板状部材12を備えた下側の柱部材1A(第一の部材)と、下端に板状部材12'を備えた上側の柱部材1B(第二の部材)によって構成されており、二つの柱部材1A,1Bは対向する板状部材12,12'が水平且つ平坦な端面6,7を有している。二つの柱部材1A,1Bに備えた板状部材12,12'の間には、傾くことで立体倉庫100の柱1を免震する免震柱10が傾斜自在に配設される。この免震柱10の一端と他端には、前記平坦な端面6,7と対向して当接できる平坦な当接面8,9が形成されている。前記二つの柱部材1A,1B及び免震柱10は、水平断面が矩形形状を有する中空又は中実の角型鋼材である。尚、二つの柱部材1A,1B及び免震柱10は、角型鋼材に限定されるものではなく、H型鋼材、I型鋼材、Z型鋼材、円筒型鋼材であっても良い。
【0025】
前記免震柱10の一端10aの当接面8と、免震柱10の他端10bの当接面9は、二つの柱部材1A,1Bに備えた板状部材12,12'の端面6,7に当接することで、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10は直線の状態に保持される。
【0026】
前記板状部材12,12'と免震柱10との間には、前記免震柱10の水平方向の変位を拘束し且つ前記免震柱10が傾き始める際の支点Eを形成する係止機構(ストッパ部材)を備えることでトリガ機能を発揮するようにしたトリガ機構11を設ける。
図1a、
図1bに示すトリガ機構11は、二つの柱部材1A,1Bに有する平坦な端面6,7と、前記二つの柱部材1A,1Bの間に配置されて前記平坦な端面6,7に圧着される平坦な当接面8,9を有する免震柱10と、前記二つの柱部材1A,1Bから板状部材12,12'を介して免震柱10の一端10a及び他端10bである端部を水平方向から取り囲むように突出したストッパ部材13とにより構成されている。更に、
図1a、
図1bに示す前記ストッパ部材13は、前記板状部材12,12'から離反するに従って免震柱10から離反するクリアランス14を形成するように傾斜しており、前記クリアランス14によって免震柱10は支点Eを中心に傾くことができる。ここで、二つの柱部材1A,1Bの断面が矩形であることにより、前記支点Eは、免震柱10の平坦な当接面8,9における水平で直線に延びた端縁によって形成される。
【0027】
図1a、
図1bの実施例では、二つの柱部材1A,1Bと、この二つの柱部材1A,1Bの間に配置された免震柱10と、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10との間に設けられたトリガ機構11とによって前記免震構造5は構成されている。
【0028】
しかし、前記免震構造5に代えて、前記板状部材12,12'と、該板状部材12,12'の間に配置した免震構造5と、前記板状部材12,12'と免震構造5との間に設けられたトリガ機構11とによって、免震する構造物とは独立してユニット化した免震構造5とすることができる。このようにユニット化した免震構造5は、構造物の柱部材1A,1Bの途中、或いは、構造物を構成する梁2と梁2のような部材の間に組み込んで容易に配置することができる。
【0029】
そして、前記トリガ機構11によれば、二つの柱部材1A,1Bが水平方向へ相対移動した際には、ストッパ部材13の内面に免震柱10の端面6,7の端縁が当接することで、免震柱10は二つの柱部材1A,1Bに対して水平方向外側へ移動することが防止される。このため、前記ストッパ部材13の内面と免震柱10の端面6,7の端縁が支点Eとなって、免震柱10は傾きを開始するようになる。尚、前記免震柱10を傾斜させるために、
図1a、
図1bに示すように、ストッパ部材13の内面と免震柱10の外面との間に、板状部材12,12'から離反するに従って免震柱10から離反するクリアランス14を形成する代わりに、前記免震柱10とストッパ部材13との間に、免震柱10の外面と平行な所定のクリアランスを設けても良い。
【0030】
図1c、
図1dは、前記トリガ機構11の他の例を示したものである。前記トリガ機構11は、上下対称な形状を有して配置されるため、
図1c、図dでは、免震柱10の下端と下側の柱部材1Aとの間に設けられるトリガ機構11のみを示している。
図1cのトリガ機構11は、免震柱10の外面と平行なクリアランス14'を形成するように板状部材12から突出した突出部からなるストッパ部材13を形成しており、且つ、免震柱10の一端10a(下端)の外周には凸部26が突出している。従って、前記免震柱10は、凸部26がストッパ部材13に当接することによって水平方向への移動が防止され、且つ、免震柱10は凸部26を支点Eとして傾きを開始できるようになっている。前記凸部26は、柱部材1Aに設けた板状部材12の上面に近いにおけるストッパ部材13の内面に設けてもよい。又、前記凸部26は、免震柱10の周囲に複数個、間隔をおいて並べて設けてもよく、又、免震柱10の周囲に連続的に環状に設けてもよい。
【0031】
又、
図1dのトリガ機構11は、ストッパ部材13が免震柱10の外面と平行なクリアランス14'を形成するように設けられた場合において、柱部材1Bの一端に対して外側に突出する張出部10'(フランジ部)を設けている。従って、免震柱10は、前記張出部10'の外側の端部がストッパ部材13に当接することによって水平方向への移動が防止され、且つ、免震柱10は張出部10'の外側の端部を支点Eとして傾きを開始できるようになっている。尚、
図1c、
図1dでは、ストッパ部材13が免震柱10の外面と平行なクリアランス14'を形成するように設けられた場合について示したが、
図1aに示すように、ストッパ部材13は免震柱10の長手方向中心側へ向かって間隔が開くように傾斜していてもよい。
【0032】
又、前記板状部材12,12'の端面6,7と免震柱10の当接面8,9との間には、薄いゴム材料等で形成されシート状弾性材28を介在させてもよい。
【0033】
図2a〜
図2dは、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10との間に設けた前記トリガ機構11を構成するストッパ部材13の形状例を示したものである。二つの柱部材1A,1Bに設けたトリガ機構11を構成するストッパ部材13は上下対称な形状を有しているため、
図2a〜
図2dでは下側の柱部材1Aの板状部材12に設けたストッパ部材13のみを示している。
【0034】
図2aは、
図1aと同様に、前記免震柱10の一端10aの全外周を囲むように突出したストッパ部材13を設けた場合を示しており、
図2bは、ストッパ部材13の変形例を示すもので、板状部材12の4つのコーナ部のみにストッパ部材13'を設けた場合を示しており、
図2cは、板状部材12の4つの辺部のみにストッパ部材13''を設けた場合を示している。
図2dは、板状部材12に対して免震柱10の一端10aの外周を囲むように、スタッド部材である突起15によるストッパ部材13を設けた場合を示している。
【0035】
尚、
図1a〜
図1d、
図2a〜
図2dの実施例においては、トリガ機構11としてのストッパ部材13を、二つの柱部材1A,1Bに備えた場合について説明したが、前記ストッパ部材13は、免震柱10の一端10aと他端10bに設けるようにしてもよい。
<免震柱の幅と奥行きの設定について>
【0036】
免震構造5の柱1の幅または奥行きの大きさを増加すると、免震構造5のトリガ荷重の増加と免震構造5の剛性の増大に利用することができる。
【0037】
図3a〜
図3dは、前記免震柱10の断面形状を示したものであり、この免震柱10の断面形状は、端部10a,10bの当接面8,9の形状を表わしている。
図3aは、免震柱10の断面形状が、水平二軸方向(X,Y)において幅B1と奥行きB2が同じ大きさである正方形の場合を示しており、
図3bは、免震柱10の断面形状が水平二軸方向(X,Y)において、幅B1と奥行きB2の大きさが異なった長方形の場合を示している。又、前記免震柱10の断面形状は、
図3aの正方形の四隅を切除した
図3cに示す正八角形の形状を有していてもよく、或いは、
図3bの長方形の四隅を切除した
図3dに示す細長い八角形の形状を有していてもよい。又、前記免震柱10の断面形状は、上記の形状以外に六角形等の多角形とすることができ、又は、円形、或いは楕円形とすることもできる。
【0038】
上記実施例では次のように作動する。
【0039】
図1aは静止状態の時の柱1を示しており、上側の柱部材1Bに掛かる荷の荷重は、柱部材1Bの平坦な端面7と免震柱10の平坦な当接面9、及び、免震柱10の平坦な当接面8と柱部材1Aの平坦な端面6を介して下側の柱部材1Aに伝えられ、柱1は直線の状態を保持している。
【0040】
又、
図1aにおいて、地震の発生により柱1に水平方向に比較的小さい加速度S1の揺れが発生した場合にも、前記の柱1は直線の状態を保持する。
【0041】
即ち、柱1に掛る荷重によって、前記柱部材1Bの端面7と免震柱10の当接面9は当接して圧着され、及び、免震柱10の当接面8と柱部材1Aの端面6は当接して圧着される。このとき、柱部材1A,1Bには、免震柱10の一端10aと他端10bの外周を取り囲むストッパ部材13が設けてあるので、免震柱10が水平方向外側へ移動することは防止される。従って、中小規模の地震によって、水平方向に比較的小さい加速度S1の揺れが発生しても、免震柱10の当接面8,9と柱部材1A,1Bの端面6,7が当接するトリガ機能によって免震柱10は傾くことができず、柱1は直線の状態に保持される。このとき、
図3a〜
図3dに示す免震柱10の当接面8,9と柱部材1A,1Bの端面6,7が当接する幅B1と奥行きB2の大きさを変更すると、免震柱10が傾きを開始するトリガ荷重の大きさを変えることができる。前記幅B1と奥行きB2の大きさを大きく設定すると、免震柱10が傾きを開始するトリガ荷重は大きくなる。
【0042】
一方、大規模地震の発生によって、
図1bに示すように水平左右方向に大きな加速度S2の揺れが発生した場合には、柱部材1A,1Bは水平方向へ相対移動した状態となる。このとき、免震柱10の一端10a及び他端10bは、当接面8,9の端縁がストッパ部材13の内面に当接して移動できないため、端面6,7と当接面8,9の当接によるトリガ荷重の範囲を超えた負荷が免震柱10に作用した場合には、
図1bに示すように、免震柱10は当接面8,9の端縁を支点Eとして傾きを開始する。このように免震柱10が傾くことにより、水平左右方向への大きな加速度S2の揺れは免震される。又、水平奥行き方向に大きな加速度S2の揺れが発生した場合にも、同様にして免震柱10が奥行き方向へ傾くことにより、水平奥行き方向の大きな加速度S2の揺れは免震される。このとき、当接面8,9の左右方向の幅の大きさ及び奥行き方向の大きさを大きく設定すると、免震柱10は左右方向及び奥行き方向へ傾き難くなるので、大きなトリガ荷重を設定することができる。このように、簡単な構成の免震構造5を備えることによって、立体倉庫100(構造物)の柱1に作用する揺れを、水平二軸方向で効果的に免震することができる。
【0043】
前記したように、地震によって傾いた免震柱10は、前記支点Eを中心に傾きを戻す力が作用するため、揺れが治まった状態では、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10は
図1aのように直線の状態に復元される。
【0044】
図1a〜
図1dに示すように、二つの柱部材1A,1Bに設けた板状部材12から免震柱10の一端10a及び他端10bを囲むように突出したストッパ部材13を設けて、免震柱10の水平方向への移動を防止し、且つ、支点Eにより免震柱10の傾きを開始させるようにしたトリガ機構11を備えたので、簡単な構成のトリガ機構11によって柱1を水平二軸方向で効果的に免震できるようになる。
【0045】
例えば、立体倉庫100である自動倉庫に荷を格納する際に大きな揺れの荷重が加わる方向や隣接する構造物との距離が近く、中小規模程度の地震では免震構造5を作動させたくない方向に対しては、免震構造5を作動させたくない方向の大きさBを大きくすることで、免震構造5の免震柱10が傾き始めるトリガ荷重を大きく設定することができる。即ち、
図3a、
図3cに示すように、免震柱10の断面形状を、水平二軸方向(X,Y)の幅B1と奥行きB2の大きさBが同一である場合には、水平二軸方向(X,Y)で同一のトリガ荷重を設定することができる。又、
図3b、
図3dに示すように、免震柱10の断面形状を、水平二軸方向(X,Y)の幅B1と奥行きB2の大きさを異なった大きさとした場合には、水平二軸方向(X,Y)でのトリガ荷重を違えて設定することができる。
【0046】
上記実施例に示したトリガ機構11では、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10は平坦な端面6,7と平坦な当接面8,9の当接によって直線に保持される。更に、二つの柱部材1A,1Bが水平方向へ相対移動した際には、前記免震柱10の一端10a及び他端10bが二つの柱部材1A,1Bに対して水平方向外側へ移動するのをストッパ部材13によって防止される。このため、免震柱10は支点Eを中心に傾くようになり、これによって、簡単な構成の免震構造5によって構造物を水平二軸方向で効果的に免震することができる。即ち、水平二軸方向(X,Y)と交叉する水平全方向に対する免震が可能になる。
【0047】
ここで、前記板状部材12,12'の端面6,7と免震柱10の当接面8,9との間に、薄いゴム等で形成されるシート状弾性材28を設置すると、板状部材12,12'と免震柱10との衝撃的な接触荷重を抑制することができる。前記シート状弾性材28は、ゴム材料の代わりに発泡材料を利用することもできる。この場合、ゴム材料に比べて復元力は小さくなるが、接触荷重の抑制効果を高めることが期待できる。
【実施例2】
【0048】
図4a、
図4bは本発明の実施例2の免震構造を示す。
図4a、
図4bに示すトリガ機構11は、免震柱10の一端10a及び他端10bに外側へ向けて突出した張出部27(フランジ部)と、板状部材12,12'に突設されて前記張出部27の外周をクリアランスを有して囲む所要長さのストッパ部材13とにより構成している。
図4a、
図4bのストッパ部材13は断面矩形の筒形を有している。23は補強ブラケットである。又、前記ストッパ部材13は、前記免震柱10が自重で復帰できる傾斜角度に対応した位置で前記免震柱10に接する突出長さJを有することにより傾斜角制限部材24を構成している。
【0049】
図5a、
図5bは実施例2の
図4a、
図4bの変形例である免震構造を示す。
図5a、
図5bに示すトリガ機構11は、板状部材12,12'と、該板状部材12,12'に固定されて前記免震柱10の一端10a及び他端10bに設けたフランジ状の張出部27の外周を囲むように突出した所要長さのストッパ部材13とにより構成されている。
図5a、
図5bのストッパ部材13は、断面がU字形の鋼材からなっていて、張出部27を前後、左右から挟むように対称に配置されている。このストッパ部材13は、そのウェブ面が、板状部材12,12'に対する固定部分では前記張出部27に接近しており、板状部材12,12'から離反することにより免震柱10との間隔が増加するように傾斜した傾斜面25を形成している。又、前記ストッパ部材13は、前記免震柱10が自重で復帰できる傾斜角度に対応した位置で前記免震柱10に接する突出長さJを有することにより傾斜角制限部材24を構成している。
【0050】
図4a、
図4b、
図5a、
図5bの実施例によれば、前記ストッパ部材13により突出長さJを有する傾斜角制限部材24を構成したので、該傾斜角制限部材24によって前記免震柱10が自重で復帰できる傾斜角度以上に傾くことを制限することができる。
【0051】
図4a、
図4b、
図5a、
図5bに示す第2の実施例においても、板状部材12,12'と、該板状部材12,12'に備えたストッパ部材13と、免震柱10とからなるトリガ機構11を備えた免震構造5は、免震する構造物とは独立してユニット化することができ、このユニット化した免震構造5は構造物の柱部材1A,1Bや梁2などに容易に組み込んで配置することができる。
【実施例3】
【0052】
図6a、
図6bは、立体倉庫100を構成する柱1に備える免震構造5の別の実施例を示している。
図6a、
図6bに示す免震構造5は、二つの柱部材1A,1Bの端面6,7と免震柱10の当接面8,9の一方の中心に備えた凸部20と、前記凸部20と嵌合するように二つの柱部材1A,1Bの端面6,7と免震柱10の当接面8,9の他方の中心に備えた凹部21とからなるストッパ部材13を備えたトリガ機構11を構成している。
図6aでは、免震柱10の当接フランジ17に凸部20が設けられ、該凸部20は、角パイプからなる柱部材1A,1Bによって形成された凹部21に嵌合している。前記凸部20及び凹部21は、截頭角錐形状或いは、截頭円錐形状とすることができる。一方、
図6bでは、柱部材1A,1Bの板状部材12,12'に凸部20を設け、免震柱10に凹部21を設けた場合を示している。そして、
図6a、
図6bの実施例では、前記トリガ機構11の凸部20と凹部21が調芯機構を兼ねた構成となっている。
【0053】
又、
図6a、
図6bの実施例では、柱部材1A,1Bの板状部材12,12'が免震柱10の当接フランジ17に対して外側へ突出した形状を有しており、これによって、柱部材1A,1Bの板状部材12,12'の周囲によって免震柱10の傾きが開始される支点Eを形成している。尚、
図6a、
図6bでは、当接フランジ17よりも板状部材12,12'が外側に突出して、当接フランジ17の外周によって支点Eを形成した場合を示したが、板状部材12,12'よりも当接フランジ17が外側に突出して、板状部材12,12'の外周によって支点Eを形成するようにしてもよい。
【0054】
図6a、
図6bの実施例によると、柱部材1A,1Bが水平方向に相対移動する際に、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10との間に設けられて嵌合する凸部20と凹部21からなるストッパ部材13により、免震柱10が水平方向外側へ移動するのを防止する。又、大規模地震によって二つの柱部材1A,1Bを相対移動させる大きな揺れが作用したときには、凸部20と凹部21が案内となって、免震柱10は当接フランジ17による支点Eを中心に傾きを開始してトリガ機能を生じ、これにより柱1に作用する揺れは免震される。
【0055】
図6a、
図6bの実施例では、二つの柱部材1A,1B又は免震柱10を凹部21として利用できるので、免震構造5の構成を簡略にすることができる。更に、当接フランジ17と板状部材12,12'により支点Eを免震柱10よりも水平方向外側へ任意に張り出して設けることができるので、簡単な構成により免震柱10が傾きを開始するトリガ荷重を増加することができる。
【0056】
又、上記したように、凸部20と凹部21は調芯機構を兼ねるようになっているので、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10との間に水平方向に位置ずれが存在した場合でも、傾斜した免震柱10が復元する際には、二つの柱部材1A,1Bと免震柱10は一定の位置に調整されて復元されるようになる。上記
図6a、
図6bに示した凸部20と凹部21からなる調芯機構は他の実施例においても適用することができる。
【実施例4】
【0057】
図7a、
図7bは、立体倉庫100を構成する柱1に備える免震構造5の他の実施例を示している。
図7a、
図7bに示す免震構造5は、前記
図6a、
図6bと同一の構成において、下側の柱部材1Aの上端と上側の柱部材1Bの下端に設けた板状部材12,12'と、前記当接フランジ17との間に、二つの柱部材1A,1Bの端面6,7と免震柱10の当接面8,9を密着した状態で弾力的に連結するトリガ付加部材18を備えたトリガ機構11を構成している。前記トリガ付加部材18としては図示する皿ばね等による復元ばね19(弾性体)を備えることができる。
【0058】
図7a、
図7bに示す実施例のトリガ機構11では、二つの柱部材1A,1Bの端面6,7と免震柱10の当接面8,9を密着させた状態に引き付けておく復元ばね19によるトリガ付加部材18を備えたので、
図1a〜
図1d、
図6a、
図6bの場合に比して、免震柱10が支点Eを中心に傾きを開始するトリガ荷重は増加するようになる。更に、復元ばね19の引き付け強度を選定することにより、トリガ荷重を調節することができる。又、復元ばね19の引き付け強度を選定することにより、免震柱10が傾く際の固有周期を調節することができる。
<トリガ加速度設定について>
【0059】
免震柱10に水平方向に揺れの荷重が加わった際に免震柱10が傾き始めるときのモーメントM
Pは、次式で表わされる。
【数1】
α:トリガ震度(重力加速度を1とした無次元数)
H:免震柱10の高さ
N:柱1の数
M:免震装置より上部の質量
g:重力加速度
f
O:復元ばねに与えた初期荷重
B:柱の幅B1及び奥行きB2の大きさ
【0060】
この式を、柱の幅B1及び奥行きB2の大きさBでまとめると、以下のようになる。
【数2】
【0061】
上式より、免震構造5を構成する柱1の断面積の幅B1と奥行きB2の大きさBが大きいほど、対応できるトリガ加速度αを大きく設定できることになる。柱1の断面積の奥行きB2を大きくした場合には、奥行き方向で対応できるトリガ加速度αを大きく設定できることになる。
<免震構造の剛性の増大>
【0062】
前記復元ばね19を有するトリガ機構11を備えた免震構造5の固有振動数F(Hz)は、次式で与えられる。以下では、説明を簡略にするために、当接フランジ17の幅と奥行きの大きさBの場合について説明する。
【数3】
k
O:復元ばねの係数
B:当接フランジ17の当接面8,9の幅の大きさ
L:復元ばね19の間隔
H:免震柱10の高さ
N:柱1の数
M:免震装置より上部の質量
【0063】
上記式から、免震構造5に設置する復元ばね19の係数k
Oを大きくすると、水平二軸方向(X,Y)の固有振動数はともに大きくなる。一方、免震柱10に備えた当接フランジ17の当接面8,9の大きさBは、水平二軸方向で各別に設定できるため、免震構造5の剛性を大きくしたい方向もしくは小さくしたい方向の大きさBを調整することで、固有振動数は任意に設定することができる。
【0064】
従って、
図7a、
図7bの実施例では、前記免震柱10に備えた当接フランジ17の当接面8,9の幅B1と奥行きB2の大きさBによるトリガ機能に、前記復元ばね19によるトリガ付加部材18によるトリガ荷重が加えられることにより、免震柱10が傾きを開始する際のトリガ荷重は大きな値に設定することができる。
【0065】
例えば、構造物に配管や隣接した構造との取り合いが存在するために、ブレース等による補強が難しく剛性が低下する部分がある場合には、地震発生時の変形が大きくなることが考えられる。このような剛性が低い部分に対しては、免震柱10に備えた当接フランジ17の当接面8,9の幅B1と奥行きB2の大きさBを大きくして免震構造5の剛性を増大させることで、地震による負荷の作用時に構造物が局部的に大きく変形する問題を抑制することができる。
【0066】
図8a、
図8bは、本発明の免震構造が適用される構造物の例と、構造物に対して本発明の免震構造を適用する場所を示している。
図8a、
図8bに示すように、本発明の前記免震構造5は、
図9a、
図9bに示した立体倉庫100、又は、ボイラ設備101、又は、立体駐車設備102、又は、クレーン、アンローダ、コンベア装置等の荷役設備103のような構造物を構成する柱1に適用することができる。前記免震構造5は、
図8aに示すように、構造物を構成する柱1の途中に設けることができる他、柱1の下端と基礎Gとの間に設けることもできる。又、前記免震構造5は、
図8bに示すように、構造物を構成する梁2,2からなる部材の間に設けることできる。
【0067】
次に、
図10a〜
図10cを参照して、構造物の柱1に複数段の免震構造5を設けた場合について説明する。
図10aは免震構造5を備えていない立体倉庫100を示し、
図10bは一段の免震構造5を備えた立体倉庫100の場合を示し、
図10cは二段の免震構造5を備えた立体倉庫100の場合を比較して示している。
図10aのように、免震構造5を備えない立体倉庫100では、地震により基礎が揺れると、立体倉庫100に伝えられた揺れは上部へ向かうほど大きな加速度の揺れとなり、上端部の揺れは非常に大きくなる。
【0068】
一方、
図10bに示すように、一段の免震構造5を備えた立体倉庫100では、免震構造5による免震作用によって、例えば変形量δを吸収できるため、免震構造5よりも上部への揺れの伝わりを低減できるので、立体倉庫100の上部の揺れは低減される。又、
図10cに示すように、柱1に、上下二段の免震構造5を備えた立体倉庫100では、二段の免震構造5の免震作用によって、変形量2δまでの変形を免震装置として許容できるようになるので、より揺れが大きくなる大規模地震まで免震装置として対応できるようになる。従って、免震の機能が小さい免震構造5であっても、
図10cに示すように、免震構造5を多段に設けることによって、地震によって構造物が大きく変形する揺れを吸収して免震することができる。
【0069】
尚、本発明の免震構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。