(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
DMAによる分級においてはシースガス流に対し垂直に電界を印加し、それにより惹起される静電吸引力によって帯電微粒子がシースガス流を横断し、対向電極へ移動する過程において粒径に依存した抵抗をシースガス流から受けることで微粒子を分級するものである。シースガス流を必要とすることで装置の構成と制御は必然的に複雑で高価なものとなる。
【0012】
また、その粒径分解能はシースガス流量と試料流量との商によって決まるため、信号量を増やすために試料流量を増やそうとしても試料流量を増やすには限界がある。
【0013】
さらに、これに用いられる安価な微粒子数計数器であるファラデーカップ電流計では帯電した捕集微粒子から得られる電流値が数10fA以上となる微粒子濃度でなければ信頼性のある計測はできない。そのため、低微粒子濃度の計測には高価な核凝縮パーティクルカウンターが使用されている。
【0014】
他の測定装置である光学式パーティクルカウンターは、DMAに比べ安価ではあるが、300nm以下の粒径の微粒子を計測することはできない。
【0015】
本発明の第1の目的は、DMAのようにシース流を用いないで、特定の測定電極で電気移動度範囲の明確な帯電粒子を検出できるようにすることである。
【0016】
ナノマテリアルの形状観察や定性定量分析のためのサンプルは、特定粒径の粒子が一箇所に偏在していたり、サンプリングの過程で粒子の特定成分のみが蒸発したり、又はサンプリングの過程で粒子が破壊されて形状が変わる等、サンプリングに偏りや変質があると分析結果は現実を反映しなくなる。さらに、どの電気移動度(これは粒径の関数である。)の粒子が元の濃度に対してどのような関係でサンプリングされたか、すなわち電気移動度と濃度分布の関係が定量的に把握できることが、観察結果又は分析結果から元の状態を推定する上で不可欠である。
【0017】
本発明の第2の目的は、粒子濃度分布が一様で、かつ元の空間に存在する粒子濃度との関係が定量的に明らかなサンプルを作成する装置を提供することである。
【0018】
本発明の第3の目的は、低屈折率膜やナノサイズ触媒として使用するのに適する均一分散したナノ粒子膜や、燃料電池用高分子電解質膜にダメージを与えないで触媒添加するのに適したナノ粒子膜成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の目的を達成するために、本発明の微粒子分級測定装置は、内部を流れる試料ガスが層流となりうる平行な流路を備えている。その流路の出口側又は入口側、好ましくは出口側には送風機構が配置され、その送風機構はその流路の入口から試料ガスを吸入するとともに、吸入された試料ガスが流路内を層流となって流れる条件で駆動される。その流路の入口側には帯電器が配置され、帯電器は放電電極、放射線源、X線管等、試料ガスを帯電させる構造を含み、試料ガス中の微粒子を帯電させる。
【0020】
その流路の対向する一対の面の一方の面上には、帯電器の下流に1又は複数の吸引側電極が配置されている。それらの吸引側電極は流路方向に沿って流路の入口から互いに異なる距離の位置に配置され、各吸引側電極は流路方向に所定の電極幅をもち、互いに電気的に分離されている。その流路の対向する一対の面の他方の面上には分級電極が配置されている。分級電極は吸引側電極に対向して配置され、吸引側電極との間に流路を流れる試料ガス中の帯電微粒子を吸引側電極側に引き付ける電界を発生させる。
【0021】
吸引側電極の少なくとも1つは測定電極として使用される。測定電極にはそれぞれの検流回路が接続され、検流回路は測定電極に到達した微粒子がもつ電荷量を検出する。
【0022】
検流回路は演算部に接続されている。演算部は検流回路により検出された電荷量に基づいて測定電極に到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量を算出する。
【0023】
本発明の一形態では、吸引側電極は2以上の測定電極を含む。測定電極にはそれぞれの検流回路が接続されており、それぞれの測定電極には異なる粒径範囲の帯電微粒子が到達し、それぞれの測定電極に到達した帯電微粒子による電荷量がそれぞれの検流回路により検出される。
【0024】
流路断面積が入り口から出口まで一定の場合、n番目とn+1番目の2つの測定電極の流れ方向の幅が等しく、かつそれに直交する方向でも電極幅が等しいとすれば、電極面積が等しくなり、この場合、測定される帯電微粒子の粒径分布の大粒径側のテール高さが同じになる。電極幅が異なることにより電極面積が異なる場合は、両電極の測定値を電極面積比によって同じ面積あたりに補正をすること、すなわち一方の電極の測定値に電極面積比を乗じること、によっても粒径分布の大粒径側のテール高さを同じにすることができる。
【0025】
検流回路と演算部との間に、n番目とn+1番目の2つの測定電極のそれぞれの検流回路の測定信号の差分を取る差分回路をさらに備えることができる。これにより、両測定電極に到達する大粒径側帯電微粒子を相殺することができ、n番目の測定電極に到達する帯電微粒子をより限られた粒径範囲で測定することができる。その場合、n番目とn+1番目の2つの測定電極についてそれぞれ測定される帯電微粒子の粒径分布の大粒径側のテール高さが同じになるように調整されている場合は、両測定電極に到達する帯電微粒子の相殺を正確に行うことができるようになる。差分、および大粒径側のテール高さが同じになるように電極面積比による調整は電気回路で行ってもよく、ソフトウエアによる演算で行ってもよい。
【0026】
本発明の他の形態では、吸引側電極は最も上流側に配置されたトラップ電極と、それより下流側に配置された1又は複数の測定電極を含む。測定電極にはそれぞれ所定の粒径を含む粒径範囲の帯電微粒子が到達し、トラップ電極にはそれらの粒径範囲より小さい微粒子とそれらの粒径範囲より大きい帯電微粒子が到達する。それらの粒径範囲より大きい帯電微粒子に関しては、重力沈降の影響が大きくなるために、トラップ電極に到達することにより又はトラップ電極に到達するまでに流路の底面に到達することにより試料ガスの流れから取り除かれる。
【0027】
帯電器の放電電極に電圧を印加する荷電電源は印加電圧を変えることができるものとすることができる。その場合、荷電電源により放電電極による電界強度を変えることによって同じ測定電極に到達する帯電微粒子の分級粒径範囲を変更することができる。
【0028】
測定電極が複数個設けられている形態の場合、測定電極の位置及び電極幅、並びに測定電極数のうちの少なくとも1つを変化させることによって同じ測定電極により測定される分級粒径範囲を変更することができる。
【0029】
測定電極が1つだけ設けられている形態の場合、測定電極の位置及び電極幅のうちの少なくとも一方を変化させることによって同じ測定電極により測定される分級粒径範囲を変更することができる。
【0030】
送風機構に流量調整弁等、流量調整機構を設けることができる。その流量調整機構を調節して試料ガス流量を変化させることによって同じ測定電極に到達する帯電微粒子の分級粒径範囲を変更することができる。
【0031】
分級電極と吸引側電極の間に荷電微粒子を吸引側電極側に引き付ける電界を発生させるために分級電極に分級電圧を印加する分級電源は分級電圧の大きさを変えることができるものとすることができる。その場合、分級電圧を変化させることによって同じ測定電極に到達する帯電微粒子の分級粒径範囲を変更することができる。また、分級電極を流路に沿って複数に分割し、異なる電界強度を印可することで測定する電気移動度の刻み幅を変化させてもよい。例えば、入り口側の分級電極には低い電界を与え、電気移動度の大きい粒子は細かい電気移動度幅で採取し、出口側の分級電極には高い電界を与え、電気移動度の小さい粒子は大きな電気移動度幅で採取することもできる。
【0032】
第2の目的を達成するために、本発明のサンプル作成装置は、内部を流れる試料ガスが層流となりうる平行な流路と、前記流路の入り口から試料ガス吸入するとともに、吸入された試料ガスが前記流路内を層流となって流れる条件で駆動される送風機構と、前記流路の入り口側に配置され試料ガス中の微粒子を帯電させる帯電器と、前記流路の対向する一対の面の一方の面上で、前記帯電器の下流に流路方向に沿って配置され、表面がサンプリング用捕集基板の載置面となっている吸引側電極と、前記一対の面の他方の面上で、前記吸引側電極に対向して配置され、前記吸引側電極との間に前記流路を流れる試料ガス中の帯電粒子を前記吸引側電極側に引き付けて前記サンプリング用捕集基板に捕集する電界を発生させる分級電極と、を備えている。
【0033】
サンプリング用捕集基板は、試料ガス中の帯電粒子を捕集してTEM、SEM、GC/ME、ICP/MS等、化学分析や形状観察用のサンプルを作成するための基板であり、例えばアルミホイル、シリコン基板、サファイア基板、TEMグリッド、SEM試料台などである。
【0034】
第3の目的を達成するために、本発明のナノ粒子膜成膜装置は、内部を流れる試料ガスが層流となりうる平行な流路と、前記流路の入り口から試料ガス吸入するとともに、吸入された試料ガスが前記流路内を層流となって流れる条件で駆動される送風機構と、前記流路の入り口側に配置され試料ガス中の微粒子を帯電させる帯電器と、前記流路の対向する一対の面の一方の面上で、前記帯電器の下流に流路方向に沿って配置され、表面がナノ粒子膜成膜基板の載置面となっている吸引側電極と、前記一対の面の他方の面上で、前記吸引側電極に対向して配置され、前記吸引側電極との間に前記流路を流れる試料ガス中の帯電粒子を前記吸引側電極側に引き付けて前記ナノ粒子膜成膜基板に堆積させる電界を発生させる分級電極と、を備えている。
【0035】
ナノ粒子膜成膜基板は、試料ガス中の帯電粒子を堆積させてナノ粒子膜を形成するためのガラス基板や、ナノサイズ触媒を形成するための高分子電解質膜が形成された基板などである。
【0036】
本発明のサンプル作成装置及びナノ粒子膜成膜装置における流路、送風機構、帯電器、吸引側電極及び分級電極は、本発明の微粒子分級測定装置のものと同様の構成とすることができる。しかし、サンプル作成装置及びナノ粒子膜成膜装置では、帯電微粒子の分級された微粒子の量を測定しないので、吸引側電極を測定電極とすることはなく、検流回路と帯電微粒子の分級された微粒子の量を算出する演算部は必要ではない。
【0037】
サンプリング用捕集基板やナノ粒子膜成膜基板は、吸引側電極の表面上に、層流を妨げないよう、かつ、電界を乱さないように載置される。層流を妨げないよう、かつ、電界を乱さないように載置する方法として、吸引電極に凹部を設け、その凹部に基板を配置することにより基板が流路にはみ出さないようにするか、又は吸引電極を基板厚さ分だけ薄く設計するか、もしくは吸引電極を基板厚さ分だけ流路から下げ、吸引電極の全体を基板が覆うことにより流路への基板のはみ出しを防いで、層流を妨げない構造とすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の微粒子分級測定装置は、帯電微粒子を含む試料ガスを層流にして分級領域に導き、帯電微粒子を粒径に応じて分級をして所定の電極幅をもつ測定電極で検出するようにしたので、特定の測定電極で検出される帯電微粒子の測定粒径範囲が明確であり、且つその範囲内の微粒子数が測定できる効果を達成できる。
【0039】
そして、本発明の微粒子分級測定装置は、送風機構以外に可動部を持たず、単純で堅牢な構造をしているので、安価で、携帯可能で、かつ堅牢な特性をもつ。
【0040】
さらに、本発明の微粒子分級測定装置では、DMAのようにシース流を用いないことから試料流量の制限がなくなり、試料流量を大きくすることができるため、検出器に電流計を使用した場合、検出感度として10個/ccを達成できる。
【0041】
本発明のナノ粒子膜成膜装置では、粒子に加わる外力は電界によるクーロン力と流体からの抗力しかなく、蒸着やスパッタリングに較べ、粒子の運動エネルギーが低く、基板へのダメージが少ない。ナノ粒子の分級サンプリング装置としては、インバクターなど空気力学的分級方法に比べ粒子の衝突時の衝撃による変形、減圧による揮発成分の蒸発の影響を受けず、元の状態を保存している。さらに、後述の(16)式から、サンプリング点における単位時間、面積辺りの粒子濃度と、元の空間に存在する粒子濃度の関係が定量的に明らかであり、TEM、SEM、AFM観察の結果から、元の粒径分布を算出できる。
【0042】
本発明のナノ粒子膜成膜装置によれば、均一分散したナノ粒子膜や、燃料電池用高分子電解質膜にダメージを与えないで触媒添加したナノ粒子膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1に本発明の微粒子分級測定装置の一実施例を概略的に示す。流路10は入口12と出口14に開口をもち、流れ方向も流路幅方向もともに断面が長方形の扁平な形状になっている。その流路の寸法、形状は、特に限定されるものではないが、例えば縦(高さ)4mm、横(流路幅)250mm、奥行き(流路長さ)450mmの扁平な直方体である。
【0045】
流路10の出口14側には試料吸引用に送風機構としてのファン15が配置されている。ファン15を回転させるモータ16は駆動回路17により駆動される。ファン15の試料ガス吸入側には流量調整弁18として手動のバタフライ弁が設けられており、流量調整弁18を調節することにより試料ガス流量を変化させることができるようになっている。ファン15は流路10の幅全体にわたって均一に吸引し、流路10の入口12から試料ガスを吸入する。ファン15は、吸入された試料ガスが流路10内を層流となって流れる条件で駆動される。層流となる条件はレイノルズが概ね2000以下となる条件である。
【0046】
流路10の出口側にはファン15の下流に流路を流れる試料ガス流量を測定する流量計19が設けられている。流量計19は流路10の入口側と出口側のいずれに配置してもよいが、試料ガス中の粒子が流量計19にも付着するため、この実施例や後述の
図12の実施例のように出口側に配置する方が好ましい。
【0047】
流路10の入口付近には試料ガス中の微粒子を帯電させる帯電器が配置されている。この実施例では、帯電器は単極荷電の様式をとるように構成されている。帯電器は流路10を挟んで一方の側に取り付けられたワイヤー状の放電電極20と、それらの放電電極20に対向して流路10の他方の側に配置された対向電極22とからなる。放電電極20と対向電極22との間で放電を起こさせるように、放電電極20には荷電電源21が接続されている。放電電極20の形状はワイヤー状のものに限らず、対向電極22に垂直に取り付けられた1又は複数の針であってもよく、対向電極22との間で放電できるものであればよい。
【0048】
流路10の幅広の対向する一対の底面(実施例では天井面と下底面)は互いに平行で、同じ広さをもっている。その一方の底面である下底面上には、流路方向に沿って入口12から互いに異なる距離の位置に複数の吸引側電極24,26が配置されている。吸引側電極24,26は流路方向に沿ってそれぞれ所定の電極幅をもち、互いに電気的に分離されている。吸引側電極24,26には測定電極24−1,〜24−n(測定電極24−1,〜24−nの符号は包括的に単に「24」とのみ表示されることもある。検流回路28についても同様である。)とトラップ電極26が含まれる。各測定電極24−1,〜24−nには測定電極に到達した微粒子がもつ電荷量を検出するためにそれぞれの検流回路28−1,〜28−nが接続されている。測定電極24−1,〜24−nは互いに近接して配置することもでき、図示の実施例のように測定電極間に隙間をもって配置することもできる。トラップ電極26には検流回路は接続されていないが、極微小粒径を測定したい場合はここに検流回路を接続してもよい。隣接する吸引側電極間には絶縁部材が挟まれて、又は空気層を介して電極間が互いに電気的に分離されている。それらの絶縁部材は電極間を電気的に分離することができればよいので、厚くする必要はなく、例えば0.5mm程度でよいが、もちろんこの厚みは、絶縁部材の体積抵抗率に依存する。
【0049】
流路10の幅広の対向する一対の底面の他方の底面である天井面には、吸引側電極24,26に対向して分級電極30が配置されている。分級電極30は吸引側電極24,26との間に流路10を流れる試料ガス中の帯電微粒子を吸引側電極側に引き付ける電界を発生させるものである。
【0050】
この電界が流路10を流れる試料ガスの流れの方向に対して垂直又はほぼ垂直になるように、分級電極30の面積と吸引側電極24、26の合計面積がほぼ等しくなり、空間的にも正面どうしで対向していることが好ましい。そのため、吸引側電極24、26は互いに電気的には分離されているが、隣接する吸引側電極24、26の隙間は少ない方が好ましい。吸引側電極24、26は到達した帯電微粒子の電荷量が測定される測定電極24のみで構成してもよいが、この実施例のように、帯電微粒子は到達するが測定電極としては使用されないトラップ電極26を含んでいてもよい。トラップ電極26を含んでいる場合には、流路10を流れる試料ガスの流れの方向に対して垂直方向又はほぼ垂直方向の電界を作用させるためには、トラップ電極26にも測定電極24と同じ電位が与えられる。ここで同じ電位にはグランド電位を含む。
【0051】
この実施例において、測定電極24のうちの流路の入口にもっとも近い第1の測定電極24−1より入口側に1つのトラップ電極26が配置され、そのトラップ電極26の入口側の先端位置と、分級電極30の入口側の先端位置は、流路方向(
図3でのy方向)の同じ位置になるように位置決めされており、その位置が分級領域の基点(
図3でのy=0の位置)となっている。以後の説明において、測定電極24の位置と幅の特定は、この分級領域の基点からの距離として表示される。分級電極30と吸引側電極24,26の間が分級領域となっている。流路の入口から分級領域の基点までの距離を助走距離と呼ぶ。助走距離では帯電微粒子は分級領域に達していないので、分級電界の影響を受けずに試料ガスの流れに乗って移動する。
【0052】
この実施例において、測定電極24−1,〜24−nとトラップ電極26は同電位とされ、分級電極30との間に流路を流れる試料ガスの流れに対し垂直方向又はほぼ垂直方向の電界が形成される。分級電極30には分級電圧を印加するための分級電源32が接続されており、分級電源32からの電圧印加により、分級電極30と吸引側電極24,26の間に試料ガス中の帯電微粒子が吸引側電極側に吸引される方向の電界が形成される。例えば、吸引側電極24,26を接地電位とした場合、帯電微粒子がマイナスの電荷をもっている場合は分級電極30の電圧をマイナスの電圧とし、逆に帯電微粒子がプラスの電荷をもっている場合は分級電極30の電圧をプラスの電圧となるように分級電源32から分級電極30に電圧印加を行う。
【0053】
例えば、対向電極22を接地電位として放電電極20をプラス側にして単極放電を行うと試料ガス中の微粒子はプラスの単極荷電をもつので、吸引側電極の測定電極24−1,〜24−nとトラップ電極26を接地電位として分級電極30をプラス側にする。
【0054】
この実施例において、帯電器を作動させ、分級電界を作用させた状態でファン16を作動させると、試料ガスが流路10の入口から導入され、試料ガスに含まれる微粒子は帯電器の放電によって荷電される。分級電極30と吸引側電極24、26の間には分級電界がかけられているので、荷電された微粒子は試料ガスの流れに沿って分級電界中に送られる。帯電器で荷電された微粒子は、分級電界が存在するところまでは試料ガスの流れの方向に移動し、分級電界に到達すると分級電界によって吸引側電極24、26の方向に移動を始める。
【0055】
ここで、微粒子の粒径と電界中での移動速度の関係であるが、拡散荷電を主とする帯電条件を設定したときは微粒子の電荷量は概ねその粒径に比例する。電界中に荷電された微粒子を置いたとき、小さな微粒子は、電荷量が小さいが空気から受ける抵抗も小さいために素早く静電気力に吸引され電界中を移動する。一方、粒径が大きくなると空気からの抵抗がより支配的となる為に電界中の移動速度が低下する。しかし、粒径がさらに大きくなると空気から受ける抵抗も増大するが、電荷量も大きくなることによる静電気力の効果が大きくなり、その結果、ある粒径以上の微粒子の電界中での移動速度は変化しなくなる。
図2に粒径と電界中での動き易さ(電気移動度)の関係を示す。
図2のデータは文献値をもとにしたシミュレーションで補完した実測値である。
図2に限らず、
図6から
図10に示したデータも一実施例の装置で帯電させた場合のデータである。
【0056】
荷電された微粒子は分級部の電界中で、試料ガスの流れに沿って排気側に流されながら、吸引側電極に向かって移動する。小さな微粒子は入口に近い吸引側電極により多く捕捉される。しかし、吸引側電極に近い位置、すなわち流路の下底面側の位置、で吸い込まれた大きな微粒子も入り口に近い吸引側電極に捕捉される。吸引側電極のうち、測定電極24−1,〜24−nに到達した微粒子の電荷がそれぞれの測定電極24−1,〜24−nに接続された検流回路28−1,〜28−nによって検出される。但し、測定電極に到達した帯電微粒子の検出は、検流回路28−1,〜28−nによる検出に限定されるものではなく、他の実施例としては、例えば水晶振動子による重量測定等、他の検出方法でもよい。
【0057】
ここで、帯電微粒子の粒径ごとの測定電極に到達する割合(捕捉率)の計算方法を示す。その計算モデルは次の如くである。
【0058】
流路10での試料ガスは、電極間(分級電極30と吸引側電極24,26の間)は層流となる条件で流す。このときの速度分布を(1)式により表わす。
v=f(x) (1)
ここで、vは試料ガス流速、xは流路の下底面を基準にしたときの電極間方向の距離である。
【0059】
流路10にそって分級電界が作用し始める点を基点として流路の出口方向に向かう方向をy方向とすると、
図3に示されるように、この層流の中にある微粒子はy方向に対しては速度vで移動し、分級電界により吸引側電極側に速度v
xで移動する。速度v
xは電気移動度Zpと分級電界の電界強度Eの積として(2)で表わすことができる。
v
x=ZpE (2)
【0060】
電気移動度Zpは後で説明するとして、電界強度Eは分級電極と吸引側電極との間に印加される分級電圧Vと電極間距離dにより、
E=V/d (3)
となる。
【0061】
ここで、分級電界が作用し始める基点(y=0)においてx方向の任意の位置x
0にあった電気移動度Zpをもつ帯電微粒子が吸引側電極に到達するまでの時間t
x0は次のように表わされる。
t
x0=x
0/v
x
=x
0d/ZpV (4)
【0062】
その帯電微粒子が吸引側電極に到達したときのy方向の移動距離L
0は次のように表わすことができる。
【0063】
ここで、電気移動度Zpは
Zp=NeCc/3πμDp (6)
と表わされる。Nは電荷数、eは電気素量、Ccはカニンガム補正係数、πは円周率、μは粘性係数、Dpは粒子径である。粘性係数μとカニンガム補正係数Ccは次の(7)〜(10)式により表わされる。
【0064】
ここで、μγは基準粘性係数、Tγμは粘性係数基準温度(絶対温度)、Sμは粘性係数基準サザランド数、Tは温度(絶対温度)、Knはクヌッセン数、αc、βc、γcは定数、λは平均自由工程、λγは基準平均自由工程、Pγλは平均自由工程基準圧力、Pは圧力、Tγλは平均自由工程基準温度(絶対温度)、Sλは平均自由工程基準サザランド数である。
【0065】
以上の説明から、電気移動度Zpは帯電微粒子の粒径Dpの関数であるので、分級電界が作用し始める基点(y=0)においてx方向の任意の位置x
0にあった種々の粒径の帯電微粒子が吸引側電極に到達したときのy方向の移動距離L
0を求めることができる。
【0066】
ある粒径Dpの粒子の分級部入り口での濃度分布は無視できるとして、吸引側電極に最も近い位置、x=0から吸い込まれた粒子の移動距離Lは
L=Lmin=0 (11)
となる。
【0067】
一方、吸引側電極から最も遠い位置、x=d(dは電極間距離)から吸い込まれた粒子の移動距離Lは
となる。ここで、試料ガス流量をQとし、流路10の入口の開口幅をWとすると、
の関係があるので、
Lmax=Qd/WZpV (14)
となる。
【0068】
LminからLoの間の吸引側電極に捉えられる単位時間、単位面積あたりの粒子濃度q(個/m
2/sec)は、
である。これに(5)式と(12)式に基づいて整理すると、
q=(CZpV)/d (16)
となり、電極間方向xの位置xoに関係なく、0<xo<dの間、すなわち粒子の移動距離LminからLmaxの間で均等に分布する。ここで、Cは装置に吸い込まれる電気移動度Zpの粒子濃度(個/m
3)である。
【0069】
(16)式が成立することを実測定により示す。粒径23nmで価数1の粒子、すなわち電気移動度が一定の単分散粒子、を表1の諸元の装置に導入し、電圧を0Vから400Vに変化させた場合の各測定電極により検出された電流密度を
図4に示す。
図4中の数値は測定電極の入口側の位置と出口側の位置を分級領域の基点からの距離(単位はメートル)で表わしたものである。例えば、0.01m−0.0458mはその測定電極の入口側の位置が分級領域の基点から0.01mの位置にあり、出口側の位置が0.0458mの位置にあることを示し、その間が流路方向に沿った電極幅である。
図4の結果から、分級部入口から異なる距離に置かれた電極により検出される電流密度は、印加電界強度のある範囲内では同じ直線上を上昇している。ここで、電流密度は、単位測定電極面積、単位入口粒子濃度あたりの値で表わしている。さらに、(13)式で表わされるように、電界強度の上昇に伴い、粒子の到達距離が低下していることもわかる。
【0070】
さらに、表1の緒元の測定装置を用い、電圧を400Vとして、粒径23nmで価数1の粒子を導入した。導入する粒子数濃度を変化させたときの第1測定電極(入口に最も近い測定電極0.01m−0.0458m)での検出信号を測定した。その結果を
図5に示す。検出信号は粒子数濃度に対して直線性を示している。測定を2回行ったところ、十分な再現性も示している。
【0071】
吸引側電極の風向方向長さがL’(m)の時、計測される電流値は
I=CZpVNeL’/d
となり、LminからLmaxの間に同じ長さの吸引側電極を置くと粒径Dpに関しては同じ量の測定信号を得ることができる。また、信号量は電極の長さに比例することから、その比を以って電極長さの不均一の影響も排除できる。ここで、eは電気素量(c)である。
【0072】
一実施例において単極荷電様式により帯電した微粒子の粒径と電気移動度(粒子濃度)の関係、及び粒径とその粒径の粒子1000個/cc当たりの検出電流値(感度)を示す実験値を文献値で補完したグラフを
図6に示す。
後述する
図18から
図20の実施例の構成において、測定条件及び装置諸元を表1のように設定し、
図2の粒径―電気移動度となるよう帯電させたときの第2測定電極24−2と第1測定電極24−1間の差分信号、第3電極24−3と第2電極24−2間の差分信号、第4電極24−4と第3電極24−3間の差分信号、第5電極24−5と第4電極24−4間の差分信号、第6電極24−6と第5電極24−5間の差分信号が与える粒径範囲を
図7に示す。なお、表及び図において、「E+X」は「10
+X」、「E−X」は「10
-X」を表わす。
【0074】
図1の構造において、測定条件及び装置諸元を表2のように設定し、
図2の粒径―電気移動度となるよう帯電させたときの第1測定電極24−1と第2測定電極24−2に到達する割合(捕捉率)、及び第1測定電極24−1と第2測定電極24−2間の差分信号が与える粒径範囲を
図8に示す。
【0076】
時定数とは測定周期のことであり、時定数が1秒とは1秒間ごとに捕集された粒子数に応じた信号を出すことを意味する。時定数は最小検出粒子濃度に影響する。0.1秒ごとに信号を出そうとすると信号量が1/10になってしまい、時定数を大きくしすぎると速く変化する現象に追随できなくなる。
【0077】
図8は、この2段電極型装置について求められた粒径ごとの第1測定電極24−1により捕捉される割合(捕捉率)a、第2測定電極24−2により捕捉される捕捉率b及び第1測定電極24−1による捕捉率から第2測定電極24−2による捕捉率を差し引いた差分信号cを粒径ごとに示したものである。捕捉率の差分をとると、第一測定電極単独では大粒径側粒子の影響を排除し得ないが、差分信号を取ることで特定粒径範囲の信号のみを取り出すことができる。
【0078】
同様にして、
図1の構造において、8段電極型装置について、表3の測定条件及び装置諸元により規定され、
図2の粒径―電気移動度となるよう帯電させたときの実施例について、各測定電極に捕捉される粒径ごとの捕捉率を
図9に示す。
【0080】
図9の結果に基づいて、第n、第n+1電極の差分信号が示す粒径ごとの捕捉率を
図10に示す。
図10のグラフでは、電極間での差分の粒径分布のピーク値が等しくなるように規格化処理が施されている。
【0081】
差分により得られる粒径分布がもつ意味は次の通りである。差分前は各電極には大粒径粒子が際限なく入っているが、差分化により、ある決まった粒径範囲の粒子のみをカウントすることができる。さらに、差分化によって振動、温度、輻射等のノイズをキャンセルし、高いS/N比の測定信号を得ることができる。
【0082】
規格化の意義は次の通りである。粒径の大きな粒子ほど理論的にも実際にも単位時間あたりに導入された粒子数に対して各電極に捕捉される粒子数の比が低くなる。規格化とは、導入される粒子数の濃度を1としたとき、この電極に捕捉される粒子数の低減を論理的にソフト処理で補正することである。
【0083】
図1の実施例に戻ると、各測定電極に接続された検流回路28−1,28−2は、
図11A、
図11Bに示されるように、演算部54に接続されて、帯電微粒子のもつ電荷量から所定の演算処理がなされる。実施の形態によっては、
図11A)のように検流回路28−1,28−2から差分回路60を経て演算部54に接続される。ここでは、測定電極は2つとして説明しているが、実施の形態によっては、測定電極は1つの場合もあり、その場合は
図11Bのように差分回路は設けられない。また、他の実施の形態によっては、測定電極は3つ以上の場合もあり、その場合は差分回路60は差分を求めようとする測定電極間ごとに設けられる。
【0084】
演算部54はこの微粒子分級測定装置の動作を制御するための専用コンピュータにより、又は外部の汎用コンピュータ、例えばパーソナルコンピュータにより実現することができる。演算部54には測定結果を表示する液晶表示装置等の表示部55aと記録を取るためのプリンタ等の記録部55bが接続されている。
【0085】
図1の実施例に適用されものとして説明すると、演算部54は、測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量として微粒子数、総表面積、総重量、又はそれらの濃度値を算出するものである。
【0086】
例えば、測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量として粒子濃度を算出するために、演算部54は粒子濃度変換演算手段を備えている。そのために、演算部54は測定電極24−1,24−2ごとの電荷量と微粒子数との関係を示す粒子数検量データを保持しており、測定電極24−1,24−2について検流回路28−1,28−2により検出された電荷量から粒子数検量データに基づいてそれぞれの測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の粒子数を算出する。
【0087】
粒子数検量データは予め求めて、演算部54であるコンピュータに保持しておく。測定対象によって典型的な粒径分布は一定である場合が多い。
【0088】
粒子数検量データは、測定対象に対して、正確な粒子数を計数する装置、例えばDMAとCPCの組み合わせと、実施例の微粒子分級測定装置とを並行運転させることにより求めることができる。例えば、
図17に基準計器(DMA)で測定したある大気の粒径毎の個数濃度分布の例を示す。同時に同じ試料を本装置にも吸い込ませる。基準計器の測定結果を本装置のある運転条件における粒径区分毎に積算した結果を、それに相当する電極の差分信号とともに表4に示す。測定前に清浄な空気を吸い込ませ、吸い込み粒子数0個/ccにおいて測定電流は0Aとなるよう、0点調整されているので、
変換計数=基準粒子数/測定電流
なる変換計数を求めることができる。以後、測定電流値にこの値を乗じたものが測定粒子数濃度となる。
【0090】
測定電極24−1、24−2に到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量として総表面積を算出するために、演算部54は表面積変換演算手段を備えている。表面積変換演算手段は測定電極24−1,24−2ごとの電荷量と総表面との関係を示す総表面積検量データを保持しており、測定電極24−1,24−2について検流回路28−1,28−2により検出された電荷量から総表面積検量データに基づいてそれぞれ測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の総表面積を算出する。
【0091】
総表面積検量データも予め求めて、演算部54であるコンピュータに保持しておく。総表面積検量データは、正確な表面積を測定できる装置、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)又はAFM(原子間力顕微鏡)と、実施例の微粒子分級測定装置とを並行運転させることにより求めることができる。例えば、本装置に試料を吸い込ませながら、静電捕集器等により同じ試料を捕集し、それをSEM,TEM,AFMで観察し、その画像を粒径解析ソフトにより解析し、捕集された粒子の粒径とその個数濃度を求める。あとは上記の粒子数濃度の場合と同様の方法により変換計数を求める。
【0092】
測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量として総重量を算出するために、演算部54は重量濃度変換演算手段を備えている。重量濃度変換演算手段は測定電極24−1,24−2ごとの電荷量と総重量との関係を示す総重量検量データを保持しており、測定電極24−1,24−2について検流回路28−1,28−2により検出された電荷量から総重量検量データに基づいてそれぞれの測定電極24−1,24−2に到達した帯電微粒子の総重量を算出する。
【0093】
総重量検量データも予め求めて、演算部54であるコンピュータに保持しておく。総重量検量データは、正確な重量濃度を計数する装置、たとえばTEOM(振動素子式マイクロ天秤)又はエレクトリカル・ロープレッシャー・インパクターと、実施例の微粒子分級測定装置とを並行運転させることにより求めることができる。
【0094】
表5に基準計器(TEOM)で測定したある大気の粒径毎の重量濃度分布の例を示す。これは、同時に同じ試料を本装置にも吸い込ませ、基準計器の測定結果を本装置の粒径区分毎に積算し、それに相当する電極の差分信号とともに示したものである。測定前に清浄な空気を吸い込ませ、吸い込み粒子数0個/ccにおいて測定電流は0Aとなるよう、0点調整されているので、
変換計数=基準重量濃度/測定電流
なる変換計数を求めることができる。以後、測定電流値にこの値を乗じたものが測定重量濃度となる。
【0096】
流路10の入口側(又は出口側)に試料ガス流量を測定する流量計19が設けられているので、演算部54は、算出した微粒子数、総表面積又は総重量を、流量計19により測定された試料ガス流量で割り算をすることによってそれぞれの濃度値を算出する濃度値算出部58を備えている。
【0097】
さらには、演算部54は、DMAで行われているごとき多価帯電の影響を除去するデータ処理を行う逆演算部62−1,62−2を備えることにより、DMAやCPCといった他の測定装置による値付けなしに粒子数濃度を求めることができるようになる。
【0098】
流路は、この実施例では流路の流れ方向に対して垂直方向の断面形状が横方向に扁平な形状であるが、流路の断面形状を実施例のものから90度回転させた縦方向に扁平な形状のものとしてもよい。また、実施例に示したような断面が方形のものに限らず、円形のものや、吸引側電極(測定電極とトラップ電極)と分級電極を2重円筒状に互いに対向するように配した構造でもよい。
【0099】
帯電器の放電電極は、針電極に限定されるものではなく、ワイヤー電極と対向側平板電極との組合せ、両方ワイヤー電極どうしの組合せ、それらの組合せを複数配したもの、さらにその複数の電極の極性を流路に対して上下千鳥状に異なるように配したもの、流路に対して垂直に一組もしくは複数組のワイヤー電極を配し、それに対向して一組もしくは複数組の平板電極を流路に対して水平もしくは垂直に配したものなどでもよい。
【0100】
帯電器における放電電極にかける電圧、放電電極と対向電極との距離、放電電極の数、又は放電電極の配置密度を変化させると
図2に示した曲線の傾きを変化させることができる。これによって同じ測定電極であっても捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0101】
測定電極の位置、電極幅又は枚数を変化させることによっても、同じ測定電極であっても捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0102】
分級電圧又は試料ガス流速を変化させることによっても、同じ測定電極であっても捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0103】
また、測定電極の電極幅を細くすれば、分級電界の基点から同じ距離に配置される電極幅の広い測定電極に比べて粒径分解能を上げることができる。
【0104】
図12は本発明の微粒子分級測定装置の他の実施例を概略的に示す。
図1の実施例の微粒子分級測定装置と相違する点は、分級電極30に対向する吸引側電極である測定電極24aとトラップ電極26aだけであり、他の構成は同じである。
図1の実施例の構成部分と同じ部分は同じ符号を付し、説明を省略する。
【0105】
分級電極30に対向する吸引側電極は、1つの測定電極24aと、流路の試料ガスの流れの方向に対して測定電極24aよりも上流側、すなわち流路10の入口側、に配置されたトラップ電極26aとからなる。
図1の実施例と同様に、分級電極30の流路入口側の先端位置とトラップ電極26aの流路入口側の先端位置が流路入口から同じ距離の位置に位置決めされており、その先端位置が分級領域の基点となり、流路入口から分級領域の基点までの距離が助走距離である。
【0106】
測定電極24aとトラップ電極26aは同電位とされ、測定電極24aには検流回路28aが接続され、トラップ電極26aには検流回路は接続されていない点も
図1の実施例と同様である。
【0107】
流路入口から導入された試料ガスに含まれる微粒子は、放電電極20aの放電によって荷電される。分級電極30とトラップ電極26a、測定電極24a間には分級用の電界がかけられており、荷電された微粒子は試料ガス流れに沿ってこの分級電界中に送られる。
【0108】
図13に本実施例における帯電微粒子の粒径と電界中での動き易さ(電気移動度)の関係を示す。これは実験値を非特許文献3によって補完したものである。ここでは、所定の粒径としてほぼ400nmの粒径を境にして、400nmよりも小さい粒径の微粒子は単極拡散荷電により帯電させられており、400nmよりも大きい粒径の微粒子は単極電界荷電により帯電させられている。
【0109】
微粒子分級測定装置でも、荷電された微粒子は分級部の電界中で、試料ガスの流れに沿って排気側に流されながら、トラップ電極26a及び測定電極24aに向かって移動する。非常に小さな微粒子と、非常に大きな微粒子は入口側のトラップ電極26aに捕捉され、特定粒径範囲の微粒子だけが測定電極24aに到達し、その電荷が測定電極24aに接続された検流回路28aによって検出される。
【0110】
図12の構成において、測定条件及び装置諸元を表6のように設定し、
図13の粒径―電気移動度となるよう帯電させたときの第1測定電極24−1に到達する粒径範囲を
図14に示す。
図14は幾種かの粒径の粒子の分級部内での軌跡を示したものである。
【0111】
図13に示すように、この荷電状態では(1)9nmの粒子と16500nmの粒子が同じ電気移動度を持ち、また、(2)23nmと4200nmの粒子が同じ電気移動度を持っており、さらに(3)400nmの粒子が最小の電気移動度をもっていることがわかる。
【0112】
図14でDpmaxと表示した軌跡は、それより水平距離が小さい領域にその粒径の粒子が全て吸い込まれることを表す。Dp50と表示した軌跡は、鉛直距離0の線と交わる水平方向距離から水平方向距離0までの領域に単位時間当たりに捕集される粒子数が、入り口から単位時間当たりに吸い込まれる粒子数の50%であること(Dp50と表示した軌跡が鉛直距離0の線と交わる水平方向距離からDpmaxの軌跡が鉛直距離0の線と交わる水平方向距離までの領域に単位時間当たりに捕集される粒子数が入り口から単位時間あたりの吸い込まれる粒子数の50%と同義。)を意味する。
【0113】
(1)から9nmの粒子と16500nmの粒子は同じ領域に存在し、かつ、
図14の例ではその領域に測定に関与しないトラップ電極を配置することで、それ以上の電気移動度をもつ粒子をトラップ電極に捕捉することにより排除している。つまり、
図13の電気移動度検出上限を示している。
図13の電気移動度検出上限を示す小粒径側粒径が9nmであり、これが
図13の検出下限粒径であり、電気移動度検出上限を示す大粒径側粒径が16500nmである。すなわち、この実施例では一枚の測定電極で粒径範囲9から16500nmの範囲の粒子のみを検出することができる。電極の必要な長さは最も電気移動度の小さい(3)の400nmの粒子が捕集できる長さである。つまり
図14のDpmax400の軌跡が鉛直距離0の線と交わる水平方向距離までの長さがあればよいことが判ると。23nmと4200nmの粒子はその50%が検出される。
【0114】
図15は、同実施例における帯電微粒子の粒径と測定電極24aによる捕捉率を示すグラフである。
【0115】
図16は、
図18〜
図20に示された実施例における単極荷電様式により帯電した微粒子の粒径と平均価数の関係、及び各粒径の粒子濃度が1000個/ccの時の単位時間当たりの測定電極単位面積に捕捉される粒子密度の関係を示す実験値を文献値で補完したグラフである。
【0117】
測定電極24aに接続された検流回路28aも、
図11A又は
図11Bに示される演算部54に接続されて、帯電微粒子のもつ電荷量から所定の演算処理がなされる。
図12の実施例では測定電極は1つであるので、検流回路も1つである。
図11A又は
図11において、検流回路28−1を検流回路28aとし、他方の検流回路28−2を削除し、差分回路60又は差分演算手段も削除すれば、この実施例の制御部54となる。演算部54はこの実施例においても微粒子分級測定装置の動作を制御するための専用コンピュータにより、又は外部の汎用コンピュータ、例えばパーソナルコンピュータにより実現することができる。
【0118】
この実施例においても、演算部54は、測定電極24aに到達した帯電微粒子の分級された微粒子の量として微粒子数、総表面積、総重量、又はそれらの濃度値を算出するものである。そのため、演算部54は粒子数濃度変換演算手段、重量濃度変換演算手段及び表面積変換演算手段を備える。各部の機能は
図1の実施例について
図11A及び
図11Bに基づいて説明したとおりであり、粒子数濃度変換演算手段、重量濃度変換演算手段及び表面積変換演算手段のために演算部54が保持する検量データも
図11A及び
図11Bに基づいて説明したとおりの方法で求めることができる。
【0119】
この実施例においても、流路は
図1の実施例に関して説明したのと同様に変形することができる。
【0120】
帯電器における放電電極にかける電圧、放電電極と対向電極との距離、放電電極の数、又は放電電極の配置密度を変化させると
図13に示した曲線の極小値の位置、V字型を描く曲線の狭角を変化させることができる。これによって測定電極で捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0121】
測定電極の位置又は電極幅を変化させることによっても、測定電極で捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0122】
分級電圧又は試料ガス流速を変化させることによっても、測定電極で捕捉される粒径範囲を変化させることができる。
【0123】
図18から
図20により微粒子分級測定装置のさらに他の実施例の具体的な構造を示す。
図20は流路に沿った断面図を表わしている。
【0124】
流路10は扁平な直方体をなし、その入口12と出口14にはそれぞれ試料ガスの流れを平行流にするために整流抵抗11a、11bが配置されている。整流抵抗11a、11bは試料が流路幅方向に均一に分散するような流路抵抗になるように設定されている。流路につながる試料導入口13aと排出口13bは流れの断面積が流路10よりも小さくなっているが、整流抵抗11a、11bによって流路10での試料ガスの流れは流路幅にわたって均一な平行流となる。
【0125】
流路10の出口14につながる排出口13bには送風機構としてブロア40が接続され、ブロア40の上流に風量センサ42が配置されている。流路10を流れる試料ガス流量が一定になるように調節器44が設けられており、調節器44は風量センサ42による検出風量が試料ガスを層流にするように予め定められた一定量になるようにブロア40の送風量を調節する。
【0126】
流路10の入口付近には試料ガス中の微粒子を帯電させる帯電器が配置されている。帯電器はこの実施例では流路10の天井面側に流路10の幅方向に張られたワイヤーからなる放電電極20と、流路10の下底面側に放電電極20に平行に配置された対向電極22からなる。放電電極20と対向電極22は、
図18、
図19B及び
図20では紙面垂直方向に延びる形状をしている。放電電極20は流路10から後退した位置に配置され、放電電極20と対向電極22との間隔は7mmであるが、これは単に一例であり、この距離は荷電電圧や欲しいイオン濃度によって変わるものである。
【0127】
流路10の下底面上には、流路方向に沿って入口12から互いに異なる距離の位置に上流側から順にトラップ電極26及び6枚の測定電極24−1〜24−6が配置されている。測定電極24−1,〜24−6は互いに近接して配置され、隣接する測定電極間に隙間をもって配置されている。トラップ電極26及び各測定電極24−1〜24−6には、流路方向に対して中央の位置にスタッド46が溶接されている。スタッド46はトラップ電極26及び測定電極24−1〜24−6について流路幅方向に沿って3個ずつ設けられている。各スタッド25はこの測定装置のベース基板48に開けられた穴に嵌め込まれていることによりトラップ電極26及び測定電極24−1〜24−6の流路方向の位置決めがなされている。
【0128】
測定電極24−1〜24−6のスタッド46のうち、流路幅方向の中央に配置されたものは検出した電流を取り出すための端子を兼ねており、それらのスタッド46はそれぞれの検流回路28−1〜28−6に接続されている。検流回路28−1〜28−6は増幅回路(アンプ)を備えている。検流回路28−1〜28−6はここでは全ての測定電極に設けられているが、電流値を検出しようとする測定電極のみに接続してもよい。トラップ電極26のスタッド46には検流回路は接続されておらず、接地されている。トラップ電極26及び各測定電極24−1〜24−6に対向して、流路10の天井面には1つの分級電極30が配置されている。トラップ電極26及び各測定電極24−1〜24−6と分級電極30は、流路10の入口側と出口側の位置が一致している。
【0129】
流路10の入口側で、帯電器とトラップ電極26の間には圧力センサ50も配置されており、流路10を流れる試料ガスの圧力も検知されるようになっている。圧力センサ50は流路10を流れる試料ガス流の異常を検知するためのものである。
【0130】
各部に動作に必要な直流電源を供給するためにAC/DC電源52が設けられており、AC/DC電源52からそれぞれのスイッチを介して各部に電源が供給される。
【0131】
検流回路や各種センサからの検出信号を取り込んで記録するとともに、分級のための計算を行うためにCPU54aが設けられている。CPU54aは
図11に示された演算部54を実現するものである。AC/DCアダプター56はCPU54aに電源供給するためのものである。
【0132】
この実施例でも試料ガスの分級動作は
図1の実施例のものと同じであるので、動作説明は省略する。
【0133】
この実施例では測定電極24−1〜24−6の位置は、ベース基板29の穴と、測定電極24−1〜24−6でのスタッド25の取付け位置で決まる。例えば、ベース基板48の穴の位置が固定されているものとすると、測定電極24−1〜24−6でのスタッド25の取付け位置を流路方向の中央の位置からずらしたものに交換することにより、測定電極24−1〜24−6の流路方向の位置を変化させることができる。
【0134】
この実施例では測定電極は6枚配置されているが、例えば、電極幅を2倍にし、1枚の電極に2列6個のスタッド46を取り付ければ、電極枚数を3枚に変更することができる。
【0135】
また、1枚目から6枚目の測定電極の各検出信号に対し、1枚目と2枚目の測定電極の検出信号、3枚目と4枚目の測定電極の検出信号、5枚目と6枚目の測定電極の検出信号をそれぞれハードウエアにより、又はソフトウエアによって加算すれば電極枚数を3枚にした場合と同じ結果になる。
【0136】
図12の実施例も、その具体的な構造として
図20に示されたものと同様の電極構造をとることができる。その場合、トラップ電極26aにもスタッド46を取り付け、そのスタッド46を嵌めるベース基板の穴を流路方向に延びた長穴とし、流路方向の幅の異なるトラップ電極と交換することによりトラップ電極の位置と幅を変更することができる。
【0137】
サンプル作成装置の実施例、及びナノ粒子膜成膜装置の実施例は、微粒子分級測定装置について説明した以上の実施例における流路、送風機構、帯電器、吸引側電極及び分級電極をもち、吸引側電極24−1,24−2,…24−n,24aは測定電極としての機能をもたず、その表面にサンプリング用捕集基板又はナノ粒子膜成膜基板を載置するものとなる。微粒子分級測定装置の実施例における検流回路と帯電微粒子の分級された微粒子の量を算出する演算部は必要ではない。
【0138】
吸引側電極はサンプリング用捕集基板又はナノ粒子膜成膜基板を層流を妨げないよう、かつ、電界を乱さないように載置するために、例えば
図21に示されるような構造をしている。
【0139】
図21の実施例では、吸引電極24は平板状の基板70(サンプリング用捕集基板又はナノ粒子膜成膜基板)の厚さ分だけ流路10から下げられて配置されている。基板70は吸引電極24の全体を覆うように配置されている。これにより、基板70の表面は流路10の底面と同じ高さになり、基板70が流路10へはみ出すことがなく、流路10での層流を妨げることがない。
【0140】
基板70が流路10へはみ出さない構造として、吸引電極24に基板70の厚さ分だけの凹部を形成してその凹部に基板70を配置する構造、又は吸引電極24の厚さを基板70の厚さ分だけ薄くして吸引電極24上に基板70を配置する構造でもよい。いずれの構造でも、吸引電極24上に配置された基板70の表面が流路10の底面と同じ高さになることによって流路10での層流を妨げない。