特許第6168257号(P6168257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6168257
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】アンテナ回路および通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 5/328 20150101AFI20170713BHJP
   H01Q 5/10 20150101ALI20170713BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20170713BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20170713BHJP
   H01Q 1/50 20060101ALI20170713BHJP
   H01Q 9/04 20060101ALI20170713BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20170713BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01Q5/328
   H01Q5/10
   H01F17/00 B
   H01F27/00
   H01Q1/50
   H01Q9/04
   H03H7/38 A
   H04B1/40
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-509047(P2017-509047)
(86)(22)【出願日】2016年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2016080162
【審査請求日】2017年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-204610(P2015-204610)
(32)【優先日】2015年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 浩
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
【審査官】 赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−160817(JP,A)
【文献】 国際公開第01/24316(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050482(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/328
H01F 17/00
H01F 27/00
H01Q 1/50
H01Q 5/10
H01Q 9/04
H03H 7/38
H04B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射導体と、
前記放射導体の給電ポートと給電回路との間に設けられる整合回路と、
前記放射導体の周波数特性調整用ポートと接地との間に接続され、可変リアクタンス回路を含む周波数特性調整回路と、を備え、
整合回路はシャント接続された第1インダクタンス素子を含み、
前記周波数特性調整回路は第2インダクタンス素子を含み、
前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とが互いに磁気結合している、
ことを特徴とする、アンテナ回路。
【請求項2】
前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とは、互いのインダクタンスを高める極性で結合する、請求項1に記載のアンテナ回路。
【請求項3】
前記可変リアクタンス回路は、複数のリアクタンス素子と、それらを選択するスイッチとを備え、
前記第2インダクタンス素子は前記スイッチと前記放射導体の周波数特性調整用ポートとの間に接続される、請求項1または2に記載のアンテナ回路。
【請求項4】
前記可変リアクタンス回路は、複数のリアクタンス素子と、それらを選択するスイッチとを備え、
前記第2インダクタンス素子は前記スイッチと接地との間に接続される、請求項1または2に記載のアンテナ回路。
【請求項5】
前記第2インダクタンス素子の第1端は接地され、前記スイッチと前記第2インダクタンス素子の第2端との間に接続された伝送線路を備える、請求項4に記載のアンテナ回路。
【請求項6】
前記第1インダクタンス素子の第1端は接地され、前記給電回路または前記給電ポートと前記第1インダクタンス素子の第2端との間に接続された伝送線路を備える、請求項1から5のいずれかに記載のアンテナ回路。
【請求項7】
前記第1インダクタンス素子および前記第2インダクタンス素子は、積層された複数の誘電体基材と当該複数の誘電体基材に形成された導体パターンとで構成され、前記第1インダクタンス素子および前記第2インダクタンス素子を含む1チップ部品として構成される、請求項1から6のいずれかに記載のアンテナ回路。
【請求項8】
アンテナ回路と、前記アンテナ回路に接続される給電回路とを備える通信装置であって、
前記アンテナ回路は、
放射導体と、
前記放射導体の給電ポートと前記給電回路との間に設けられる整合回路と、
前記放射導体の周波数特性調整用ポートと接地との間に接続され、可変リアクタンス回路を含む周波数特性調整回路と、を備え、
整合回路はシャント接続された第1インダクタンス素子を含み、
前記周波数特性調整回路は第2インダクタンス素子を含み、
前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とが互いに磁気結合している、
ことを特徴とする、通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数特性を可変としたアンテナ回路およびそれを備える通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1つの放射電極の給電ポートに給電回路が接続され、給電ポートから離れた周波数特性調整用ポートに可変リアクタンス回路が接続されるアンテナ回路が特許文献1に示されている。
【0003】
ここで、上記アンテナ回路の基本的な構成を図13に示す。このアンテナ回路は、放射導体10の給電ポート10Fと給電回路20との接続部とグランド導体11との間に整合回路30が接続される。また、放射導体10の周波数特性調整用ポート10Cとグランド導体11との間に周波数特性調整回路40が接続される。周波数特性調整回路40はリアクタンスを切り替える回路であり、このリアクタンスによって、アンテナの周波数特性が切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−160817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図13に示されるような、周波数特性調整用ポートに対してシャント接続する周波数特性調整回路40のリアクタンスを切り替えると、放射導体10の共振特性が変化する。
【0006】
図14(A)(B)は、図13に示したアンテナ回路の周波数特性を示す図である。図14(A)は、図13において給電回路20から放射導体10側を視た反射係数をスミスチャート上に表した図、図14(B)はその反射損失の周波数特性図である。図14(A)(B)において曲線Lは、周波数特性調整回路40を第1状態(誘導性リアクタンスの大きな状態)にして、周波数をスイープした時の特性を表している。また、図14(A)(B)において曲線Hは、周波数特性調整回路40を第2状態(誘導性リアクタンスの小さな状態)にして、周波数をスイープした時の特性を曲線Hで表している。
【0007】
図14(A)に示した例では、周波数特性調整回路40が第1状態であるとき、放射導体10の共振周波数は730MHz、反射損失−4dBでの帯域幅は105MHzである。また、周波数特性調整回路40が第2状態であるとき、放射導体10の共振周波数は930MHz、反射損失−4dBでの帯域幅は71MHzである。
【0008】
このように、周波数特性調整回路40のリアクタンスによって、放射導体10の共振周波数は変化するが、帯域幅も変化してしまう。図14(A)(B)に示した例では、上記第1状態では広帯域で整合するが、第2状態では狭帯域特性となってしまう。すなわち、中心周波数730MHz帯での整合の深さは適度に浅いが、中心周波数930MHz帯での整合の深さは深くなりすぎている。
【0009】
本発明の目的は、共振周波数の切替による整合状態の変化を抑制して、広帯域に亘って整合できるアンテナ回路およびそれを備える通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明のアンテナ回路は、
放射導体と、前記放射導体の給電ポートと給電回路との間に設けられる整合回路と、前記放射導体の周波数特性調整用ポートと接地との間に接続され、可変リアクタンス回路を含む周波数特性調整回路と、を備え、
整合回路はシャント接続された第1インダクタンス素子を含み、前記周波数特性調整回路は第2インダクタンス素子を含み、前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とが互いに磁気結合している、ことを特徴とする。
【0011】
上記整合回路による整合の深さは、主に第1インダクタンス素子の実効的なリアクタンスで定まる。上記構成によれば、周波数特性調整回路に流れる電流が第1インダクタンス素子の実効的なリアクタンスを変化させる。したがって、周波数特性調整回路のリアクタンスが変わって、共振周波数が変化するとともに、整合の深さが変化する。このことにより、共振周波数が変化しても必要な周波数帯域幅を確保できる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とは、互いのインダクタンスを高める極性で結合することが好ましい。これにより、周波数特性調整回路に流れる電流の増減方向と第1インダクタンスの増減方向を合わせることができる。
【0013】
(3)上記(1)または(2)において、前記可変リアクタンス回路は、複数のリアクタンス素子と、それらを選択するスイッチとを備え、前記第2インダクタンス素子は前記スイッチと前記放射導体の周波数特性調整用ポートとの間に接続されてもよい。これにより、可変リアクタンス素子を用いることなく可変リアクタンス回路が構成できる。また、スイッチの切替に関わらず、第1インダクタンス素子と第2インダクタンス素子との結合が保てる。
【0014】
(4)上記(1)または(2)において、前記可変リアクタンス回路は、複数のリアクタンス素子と、それらを選択するスイッチとを備え、前記第2インダクタンス素子は前記スイッチと接地との間に接続されてもよい。これにより、可変リアクタンス素子を用いることなく可変リアクタンス回路が構成できる。また、第1インダクタンス素子と第2インダクタンス素子とが結合しない状態が作れるので、第2インダクタンス素子のインダクタンスを大きくすることで、第1インダクタンス素子と第2インダクタンス素子との必要な結合係数を小さくできる。
【0015】
(5)上記(4)において、前記第2インダクタンス素子の第1端は接地され、前記スイッチと前記第2インダクタンス素子の第2端との間に接続された伝送線路を備えてもよい。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記第1インダクタンス素子の第1端は接地され、前記給電回路または前記給電ポートと前記第1インダクタンス素子の第2端との間に接続された伝送線路を備えてもよい。これにより、伝送線路の有無による特性変化は少ない。
【0017】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記第1インダクタンス素子および前記第2インダクタンス素子は、積層された複数の誘電体基材と当該複数の誘電体基材に形成された導体パターンとで構成され、前記第1インダクタンス素子および前記第2インダクタンス素子を含む1チップ部品として構成されることが好ましい。これにより、所定の高い結合係数で結合する第1インダクタンス素子および第2インダクタンス素子を構成できる。また、実質的な部品数を削減できる。
【0018】
(8)本発明の通信装置は、
アンテナ回路と、前記アンテナ回路に接続される給電回路とを備える通信装置であって、
前記アンテナ回路は、
放射導体と、前記放射導体の給電ポートと前記給電回路との間に設けられる整合回路と、前記放射導体の周波数特性調整用ポートと接地との間に接続され、可変リアクタンス回路を含む周波数特性調整回路と、を備え、
整合回路はシャント接続された第1インダクタンス素子を含み、前記周波数特性調整回路は第2インダクタンス素子を含み、前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子とが互いに磁気結合している、ことを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、周波数特性調整回路の制御によって、共振周波数が変化しても必要な周波数帯域幅を確保できるので、広帯域での通信が可能な通信装置が構成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、共振周波数の切替による整合状態の変化を抑制して、広帯域に亘って整合できるアンテナ回路およびそれを備える通信装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は第1の実施形態に係るアンテナ回路101の回路構成を示す図である。
図2図2(A)は、図1において、給電回路20から放射導体10側を視た反射係数をスミスチャート上に表した図、図2(B)はその反射損失の周波数特性図である。
図3図3はトランスTFの外観斜視図である。
図4図4はトランスTFの各層の平面図である。
図5図5(A)は、本実施形態のアンテナ回路が備える、放射導体10およびグランド導体11の構造を示す斜視図、図5(B)はその平面図である。
図6図6はアンテナ回路101の回路図である。
図7図7は第2の実施形態に係るアンテナ回路102の回路図である。
図8図8は第3の実施形態に係るアンテナ回路103の回路図である。
図9図9は第4の実施形態に係るアンテナ回路104Aの回路図である。
図10図10は第4の実施形態に係る別のアンテナ回路104Bの回路図である。
図11図11は第5の実施形態に係るアンテナ回路105の回路図である。
図12図12は第6の実施形態に係る通信装置206のブロック図である。
図13図13は従来のアンテナ回路の一例である。
図14図14(A)は図13において、給電回路20から放射導体10側を視た反射係数をスミスチャート上に表した図、図14(B)はその反射損失の周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0023】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係るアンテナ回路101の回路構成を示す図である。このアンテナ回路101は、放射導体10、整合回路30、および周波数特性調整回路40を含む。
【0024】
整合回路30は放射導体10の給電ポート10Fと給電回路20との間に設けられる。本実施形態では、整合回路30は、給電ポート10Fへの給電ラインからグランドへシャント接続された第1インダクタンス素子L1で構成されている。
【0025】
周波数特性調整回路40は放射導体10の周波数特性調整用ポート10Cとグランド導体11との間に設けられる。この周波数特性調整回路40は、第2インダクタンス素子L2、第3インダクタンス素子L3、第4インダクタンス素子L4、およびスイッチSWで構成される。第3インダクタンス素子L3,第4インダクタンス素子L4、およびスイッチSWによって可変リアクタンス回路40Rが構成される。
【0026】
第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは互いに磁気結合する。第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは、互いのインダクタンスを高める極性で結合する。後に示すように、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とで1チップ部品構造のトランスが構成される。
【0027】
図1に示すように、第1インダクタンス素子L1にグランド導体11から放射導体10方向へ電流i1が流れるとき、第2インダクタンス素子L2にグランド導体11から放射導体10方向へ電流i2が流れる。そして、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とで減極性のトランスが構成されていると見なすことができる。
【0028】
ここで、第1インダクタンス素子L1のインダクタンスをL1、第2インダクタンス素子L2のインダクタンスをL2で表し、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2との結合係数をk、その結合により生じる相互インダクタンスをM12で表すと、
整合回路30が備えるインダクタンス素子L1の実効インダクタンスL1aは次式で表すことができる。
【0029】
L1a=L1+M12(i2/i1)
M12=k√(L1*L2)
結合係数kは正の値であるので、第1インダクタンス素子L1の実効インダクタンスL1aは、第2インダクタンス素子L2との結合によって、M12(i2/i1)だけ高まる。
【0030】
第3インダクタンス素子L3と第4インダクタンス素子L4とはインダクタンスが異なる。スイッチSWの切替によって、可変リアクタンス回路40Rのインダクタンスが切り替えられる。可変リアクタンス回路40Rのインダクタンスを大きくすることで、放射導体10の共振周波数が切り替えられる。本実施形態では、例えば第1インダクタンス素子L1のインダクタンスL1、第2インダクタンス素子L2のインダクタンスL2、第3インダクタンス素子L3のインダクタンスL3、第4インダクタンス素子L4のインダクタンスL4を次のとおりとする。その他の条件は後述する。
【0031】
L1:6.8nH
L2:2nH
L3:70nH
L4:3.5nH
スイッチSWが第3インダクタンス素子L3側を選択しているとき、放射導体10の共振周波数は730MHz、スイッチSWが第4インダクタンス素子L4側を選択しているとき、放射導体10の共振周波数は930MHzとなる。
【0032】
図2(A)は、図1において、給電回路20から放射導体10側を視た反射係数をスミスチャート上に表した図、図2(B)はその反射損失の周波数特性図である。図2(A)(B)において曲線Lは、周波数特性調整回路40を第1状態(誘導性リアクタンスの大きな状態)にして、周波数をスイープした時の特性を表している。また、図2(A)(B)において曲線H1は、周波数特性調整回路40を第2状態(誘導性リアクタンスの小さな状態)にして、周波数をスイープした時の特性を表している。さらに、図2(A)(B)において曲線H0は、上記結合係数kを0とし、周波数特性調整回路40を第2状態(誘導性リアクタンスの小さな状態)にして、周波数をスイープした時の特性を表している。すなわち上記曲線H0は、比較例として示した図14(A)(B)における曲線Hと同じである。
【0033】
スイッチSWが第2状態にされて、第2インダクタンス素子L2に流れる電流が増大することで、第1インダクタンス素子L1の実効インダクタンスが増加する。このことにより、図2(A)の曲線H0は矢印で示す方向に(コンダクタンス円に沿った方向に)移動して曲線H1で示す軌跡となる。
【0034】
この例では、スイッチSWが第3インダクタンス素子L3を選択しているとき、放射導体10の共振周波数は730MHz、反射損失−4dBでの帯域幅は105MHzである。また、スイッチSWが第4インダクタンス素子L4を選択しているとき、放射導体10の共振周波数は930MHz、反射損失−4dBでの帯域幅は97MHzである。
【0035】
図14に示した比較例と比べると、低域側(中心周波数730MHz)での反射損失特性は殆ど変わらず、高域側(中心周波数930MHz)反射損失特性が変化している。すなわち、高域側でも低域側と同程度に広帯域特性が維持される。ここで、中心周波数730MHzの帯域は例えばLTEバンド28に相当し、中心周波数930MHzの帯域は例えばGSM(登録商標)900の周波数帯に相当する。
【0036】
図3はトランスTFの外観斜視図であり、図4はトランスTFの各層の平面図である。トランスTFは、複数の絶縁性の基材S1〜S7を備える。基材S1〜S7には各種導体パターンが形成されている。「各種導体パターン」には、基材の表面に形成された導体パターンだけでなく、層内部に形成されたビア導体や、積層体の端面に形成された導体等も含む。
【0037】
基材S1の上面は積層体100の実装面(下面)に相当する。基材S1および基材S7には端子P1,P2,P3,P4がそれぞれ形成されている。
【0038】
基材S2,S3,S4,S5,S6には導体L2B,L2A,L1C,L1B,L1Aがそれぞれ形成されている。
【0039】
導体L1Aの第1端は第1端子P1に接続されている。導体L1Aの第2端はビア導体V1を介して導体L1Bの第1端に接続されている。導体L1Bの第2端はビア導体V2を介して導体L1Cの第1端に接続されている。導体L1Cの第2端は第4端子P4に接続されている。導体L2Aの第1端は第3端子P3に接続されている。導体L2Aの第2端はビア導体V3を介して導体L2Bの第1端に接続されている。導体L2Bの第2端は第2端子P2に接続されている。
【0040】
上記導体L1A,L1B,L1Cおよびビア導体V1,V2によって第1インダクタンス素子L1が構成され、導体L2A,L2Bおよびビア導体V3によって第2インダクタンス素子L2が構成される。したがって、端子P1−P4に第1インダクタンス素子L1が接続され、端子P2−P3に第2インダクタンス素子L2が接続された、トランスTFが構成される。
【0041】
積層体100の各基材層はLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)等で構成された非磁性セラミック積層体であってもよいし、ポリイミドや液晶ポリマ等の樹脂材料で構成した樹脂積層体であってもよい。このように、基材層が非磁性体であることにより(磁性体フェライトではないので)、数100MHzを超える高周波数帯でも所定インダクタンス、所定結合係数のトランスおよび移相器として用いることができる。
【0042】
上記各種導体パターンは、AgやCuを主成分とする比抵抗の小さな導体材料によって構成される。基材層がセラミックであれば、例えば、AgやCuを主成分とする導電性ペーストのスクリーン印刷および焼成により形成される。また、基材層が樹脂であれば、例えば、Al箔やCu箔等の金属箔がエッチング等によりパターニングされることにより形成される。
【0043】
第1インダクタンス素子L1および第2インダクタンス素子L2は、実質的に同一の内外径を有し、コイル巻回軸は実質的に同じ(同軸)関係にある。第1インダクタンス素子L1のインダクタンスは、導体L1A,L1B,L1C等によるコイル巻回数によって定めることができ、第2インダクタンス素子L2のインダクタンスは、導体L2A,L2B等によるコイル巻回数によって定めることができる。第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2との結合係数は、導体L1Cと導体L2Aとの層間距離、第1インダクタンス素子L1の巻回軸と第2インダクタンス素子L2との巻回軸のずれ、等によって定めることができる。
【0044】
図5(A)は、本実施形態のアンテナ回路が備える、放射導体10およびグランド導体11の構造を示す斜視図、図5(B)はその平面図である。放射導体10およびグランド導体11は通信装置の筐体の金属部で構成される。図6はアンテナ回路101の回路図である。
【0045】
放射導体10の第1端とグランド導体との間にはキャパシタ13が接続されていて、放射導体10の第2端とグランド導体との間にはインダクタ12が接続されている。図6において矢印線は電流の経路および方向の例を示している。
【0046】
キャパシタ13は例えば0.2pF以上1pF未満(例えば0.6pF)であり、通信周波数帯では高インピーダンスである。インダクタ12は例えば60nH未満15nH以上(例えば19nH)であり、通信周波数帯で高インピーダンスである。そのため、放射導体10の第1端および第2端は等価的に開放端として作用する。この構造により、キャパシタ13およびインダクタ12の値によって、放射電極の形状を変えずにアンテナの共振周波数を所望の周波数に定めることができる。
【0047】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、整合回路に伝送線路が接続されたアンテナ回路について示す。
【0048】
図7は第2の実施形態に係るアンテナ回路102の回路図である。図1に示したアンテナ回路101とは、伝送線路51を備える点で異なる。アンテナ回路102においては、第1インダクタンス素子L1の第1端は接地され、給電回路20または給電ポート10Fと第1インダクタンス素子L1の第2端との間に伝送線路51を備えている。
【0049】
アンテナ回路102の構成によれば、給電ポート10Fと周波数特性調整用ポート10Cとが比較的大きく離れていても、それぞれのポートに接続される第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とを磁界結合させることができる。伝送線路51を設けることにより、整合回路のリアクタンス成分が変化する場合には、それに応じて第1インダクタンス素子L1のインダクタンスを変更すればよい。
【0050】
本実施形態によれば、伝送線路51は、第2インダクタンス素子L2、スイッチSW、第3インダクタンス素子L3および第4インダクタンス素子L4による周波数特性調整回路に影響を与えない。
【0051】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、周波数特性調整回路に伝送線路が接続されたアンテナ回路について示す。
【0052】
図8は第3の実施形態に係るアンテナ回路103の回路図である。図1に示したアンテナ回路101とは、伝送線路52を備える点で異なる。アンテナ回路103においては、第2インダクタンス素子L2の第1端は接地され、スイッチSWと第2インダクタンス素子L2の第2端との間に伝送線路52が設けられている。また、スイッチSWは放射導体10の周波数特性調整用ポート10Cに接続され、第3インダクタンス素子L3と第2インダクタンス素子L2との間に伝送線路52が接続されている。このように、周波数特性調整回路に伝送線路52を設けてもよい。
【0053】
本実施形態によれば、スイッチSWの切替によって、周波数特性調整用ポート10Cに「第4インダクタンス素子L4が接続される状態」と、「第3インダクタンス素子L3+第2インダクタンス素子L2が接続される状態」とに切り替えられる。したがって、周波数特性調整用ポート10Cに接続されるリアクタンスを大きく変化させることができ、そのことで、周波数可変範囲を広げることができる。
【0054】
本実施形態によれば、アンテナ整合の深さ(反射損失曲線の谷の深さ)を深くするために、第1インダクタンス素子L1のインダクタンスを小さくする必要がある場合にも適用できる。
【0055】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、周波数特性調整用ポートにスイッチを介さないインダクタンス素子を備えたアンテナ回路について示す。
【0056】
図9は第4の実施形態に係るアンテナ回路104Aの回路図である。図8に示したアンテナ回路103とは異なり、周波数特性調整用ポート10Cとグランドとの間に直接(スイッチSWを介さずに)第5インダクタンス素子L5が接続されている。また、図8に示したアンテナ回路103と異なり、伝送線路52および第3インダクタンス素子L3を備えない。したがって、スイッチSWは、第2インダクタンス素子L2または第4インダクタンス素子L4の一方を選択する。
【0057】
図10は第4の実施形態に係る別のアンテナ回路104Bの回路図である。このアンテナ回路104Bはアンテナ回路104Aに伝送線路51を設けた例である。
【0058】
本実施形態によれば、次のような特徴がある。
【0059】
(1)スイッチSWが第2インダクタンス素子L2を選択している状態で、周波数特性調整用ポート10Cとグランドとの間にはスイッチSWを介して第2インダクタンス素子L2のみが接続されるので、第2インダクタンス素子L2のインダクタンスを大きく設定できることから、結合が強くなくても、第1インダクタンス素子L1の実効的なリアクタンスの制御量を大きくできる。
【0060】
(2)第2インダクタンス素子L2を第4インダクタンス素子L4よりも小さなインダクタンスとし、第2インダクタンス素子L2に流れる電流を比較的大きくすることで、第1インダクタンス素子L1の実効的なリアクタンスの変動量を大きくできる。
【0061】
(3)第5インダクタンス素子L5を設けることで、スイッチSWに流れる電流を減らすことができ、そのことにより、スイッチSWでの損失を低減できる。
【0062】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では、以上の各実施形態とは整合回路の構成が異なるアンテナ回路について示す。
【0063】
図11は第5の実施形態に係るアンテナ回路105の回路図である。整合回路30は、放射導体10の給電ポート10Fと給電回路20との間に設けられている。この整合回路30は、給電回路20と給電ポート10Fとの間にシリーズに接続される素子E1,E2と、グランドに対してシャントに接続される第1インダクタンス素子L1を備えている。
【0064】
このように、整合回路は、グランドに対してシャント接続される第1インダクタンス素子L1だけでなく、シリーズ接続されるインダクタやキャパシタ等のリアクタンス素子を備えてもよい。
【0065】
《第6の実施形態》
第6の実施形態では通信装置の例を示す。
【0066】
図12は第6の実施形態に係る通信装置206のブロック図である。この通信装置206は例えば携帯電話端末である。アンテナ回路101は第1の実施形態で示したアンテナ回路101である。RFIC76と受信フィルタ72との間にはローノイズアンプ74が設けられていて、RFIC76と送信フィルタ73との間にはパワーアンプ75が設けられている。ベースバンドIC77にはRFIC76や表示装置78が接続されている。
【0067】
ベースバンドIC77は、通信周波数帯に応じて、アンテナ回路101の周波数特性調整回路のスイッチを切り替える。このことによって可変リアクタンス回路のリアクタンスを定め、通信周波数帯で所定の反射損失特性となるように制御される。
【0068】
《他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、周波数特性調整回路40が備える可変リアクタンス回路は、誘導性リアクタンスを変化させるものであったが、周波数特性調整回路40はキャパシタを備え、可変リアクタンス回路は容量性リアクタンスを変化させる構成であってもよい。
【0069】
以上に示した各実施形態では、スイッチSWはSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチを例示したが、3つ以上の切替を行うスイッチであってもよい。それにより、3以上の周波数帯域で、整合の深さをそれぞれ設定できる。
【0070】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。例えば、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
E1,E2…素子
77…ベースバンドIC
L1…第1インダクタンス素子
L2…第2インダクタンス素子
L3…第3インダクタンス素子
L4…第4インダクタンス素子
L5…第5インダクタンス素子
L1A,L1B,L1C,L2A,L2B…導体
P1,P2,P3,P4…端子
S1〜S7…基材
SW…スイッチ
TF…トランス
V1,V2,V3…ビア導体
10…放射導体
10C…周波数特性調整用ポート
10F…給電ポート
11…グランド導体
12…インダクタ
13…キャパシタ
20…給電回路
30…整合回路
40…周波数特性調整回路
40R…可変リアクタンス回路
51,52…伝送線路
72…受信フィルタ
73…送信フィルタ
74…ローノイズアンプ
75…パワーアンプ
76…RFIC
78…表示装置
100…積層体
101〜103…アンテナ回路
104A,104B…アンテナ回路
105…アンテナ回路
206…通信装置
【要約】
放射導体(10)と、放射導体(10)の給電ポート(10F)と給電回路(20)との間に設けられる整合回路(30)と、放射導体(10)の周波数特性調整用ポート(10C)と接地との間に接続され、可変リアクタンス回路(40R)を含む周波数特性調整回路(40)と、を備える。整合回路(30)はシャント接続された第1インダクタンス素子(L1)を含み、周波数特性調整回路(40)は第2インダクタンス素子(L2)を含み、第1インダクタンス素子(L1)と第2インダクタンス素子(L2)とは互いに磁気結合している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14