(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1では、圧入の過程でCFRPリングの径が、締め代分だけ瞬間的に広げられるため、回転子シャフトの軸方向端部側となる永久磁石の角部と接触するCFRPリングの内周面に応力集中が発生し、その大きさによっては強度の低下を招く可能性があった。そのため、強度のさらなる向上の要望がある場合には、改善の余地があると考えられていた。
【0007】
上述した特許文献2では、1つの永久磁石ロータが内径の大きさの異なる保持リングを複数備えるものであることから、コスト増となる可能性があった。また、一方の軸端側(保持リングの内径が小さい側)では、他方の軸端側(保持リングの内径が大きい側)に対し、永久磁石ロータの外側に配置されるステータとのギャップが大きくなり、また永久磁石の体積が小さくなるため、その分電気特性の低下を招くという課題があった。
【0008】
以上のことから、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リングへの応力集中を抑制することができる永久磁石式回転電機の回転子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する第1の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、
回転子シャフトの外周面に配置された永久磁石と、
前記回転子シャフトの一方の端部側から前記永久磁石の外側に圧入されて当該永久磁石を前記回転子シャフトに保持する保持リングと、
前記永久磁石に対し前記回転子シャフトの軸方向で隣接して設けられ、圧入される前記保持リングの内周面と面接触しつつ当該保持リングが前記回転子シャフトの一方の端部側から当該回転子シャフトの他方の端部側へ向かうに従い当該保持リングを徐々に拡径しながら前記永久磁石側へ案内するリング案内部と
を備えることを特徴とする。
【0010】
前述した課題を解決する第2の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第1の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記リング案内部は、前記回転子シャフトの外周面に固定されたリング部材であり、
前記リング部材の外周面の径は、前記回転子シャフトの軸方向に沿い、前記永久磁石側からその反対側へ向かうに従い漸減している
ことを特徴とする。
【0011】
前述した課題を解決する第3の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第2の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記リング部材は、非磁性体である
ことを特徴とする。
【0012】
前述した課題を解決する第4の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第1の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記回転子シャフトは、当該回転子シャフトの一方の端部側に設けられ、前記永久磁石が配置された当該回転子シャフトの外周面よりも径の大きい大径部を有し、
前記リング案内部は、前記大径部であり、
前記大径部の外周面の径は、前記回転子シャフトの軸方向に沿い、前記永久磁石側からその反対側へ向かうに従い漸減している
ことを特徴とする。
【0013】
前述した課題を解決する第5の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第4の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記永久磁石が配置された前記回転子シャフトの外周面のうち前記大径部に隣接する部分の径は、前記回転子シャフトの軸方向に沿い、前記リング案内部側へ向かうに従い漸減している
ことを特徴とする。
【0014】
前述した課題を解決する第6の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第5の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記永久磁石が配置された前記回転子シャフトの外周面のうち前記大径部に隣接する部分にて径の漸減割合は、前記回転子シャフトの軸方向にて、前記大径部の外周面の径の漸減割合と同じである
ことを特徴とする。
【0015】
前述した課題を解決する第7の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第1から第6の何れか一つの発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記リング案内部は、軸方向にて前記永久磁石に隣接する端部側の外周面の高さが前記永久磁石の外周面の外面の高さと同じである
ことを特徴とする。
【0016】
前述した課題を解決する第8の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第1から第7の何れか一つの発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記保持リングは、炭素繊維を周方向に沿い切れ目なく一方向に巻き回したものに合成樹脂を含浸した、炭素繊維強化プラスチックにより成形されたものである
ことを特徴とする。
【0017】
前述した課題を解決する第9の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子は、第8の発明に係る永久磁石式回転電機の回転子であって、
前記保持リングは、前記炭素繊維の巻き回し始点が内周側に配置される一方、前記炭素繊維の巻き回し終点が外周側に配置されるものであり、
前記保持リングは、前記炭素繊維の巻き回し方向が前記回転子シャフトの回転方向と逆向きとなるように、前記回転子シャフトに圧入されている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リング案内部を備えることで、回転子シャフトの一方の端部側から保持リングを圧入したときに、保持リングの径が瞬間的に広げられることなく徐々に広げられていくことになる。そして、保持リングがさらに圧入されると、保持リングの径が広げられた状態のまま、リング案内部から永久磁石へと滑らかに移動することなる。そのため、保持リングの内周面に対して永久磁石の軸方向端部(角部)が点接触したり線接触したりすることが無く、この接触による保持リングの内周面への応力集中をなくすことができる。永久磁石や保持リングを特殊な形状に加工する必要が無く、リング案内部を設けただけである。よって、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リングへの応力集中を抑制することができる。
【0019】
また保持リングは、炭素繊維を周方向に沿い切れ目なく一方向に巻き回したものに合成樹脂を含浸した、炭素繊維強化プラスチックにより成形されたものである。また、このようにして形成された保持リングは、炭素繊維の巻き回し方向が回転子シャフトの回転方向と逆向きとなるように、回転子シャフトに圧入される。このため、回転子鉄心が高速回転して気流による剥離力が保持リングに作用しても、保持リングの強度を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る永久磁石式回転電機の回転子の実施例について、以下に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
本発明の第一の実施例に係る永久磁石式回転電機の回転子について、
図1〜6に基づいて説明する。
図1〜5にてC1が中心軸(回転軸)を示し、
図6にてXが保持リングの圧入方向を示している。
【0023】
本実施例に係る永久磁石式回転電機の回転子10は、
図1〜6に示すように、回転子シャフト11と、複数の永久磁石13と、複数の保持リング14とを有する。
【0024】
回転子シャフト11の径方向断面は、円形状をなしている。回転子シャフト11は、大径部11aと小径部11bとを有する。大径部11aは、小径部11bよりも径方向で大きい形状をなしている。小径部11bは、大径部11aよりも径方向で小さい形状をなしている。小径部11bにおける大径部11aに隣接する箇所が、永久磁石13が取り付けられる磁石取付部11baをなしている。
【0025】
回転子シャフト11の磁石取付部11baにおける外周面には、磁極を構成するための複数の永久磁石13が、回転子シャフト11の周方向および軸方向に沿って隣接して配置される。複数の永久磁石13は、これらの外周面13cが同一平面をなすように回転子シャフト11の外周面に配置される。
【0026】
複数の永久磁石13の外周面13cには、永久磁石13を回転子シャフト11の外周面側に締め付けるバインドリングとしての保持リング14が軸方向に複数装着される。すなわち、複数の保持リング14を回転子シャフト11の一方の端部側から圧入することで、複数の永久磁石13は、回転子シャフト11の磁石取付部11baに強固に固定される。
【0027】
各保持リング14は、円管状をなし、回転子シャフト11の軸方向にて、回転子シャフト11の磁石取付部11baに配置される1つの永久磁石13全体を覆う形状を有する。複数の保持リング14は、内径が回転子シャフト11の外周面に配置される複数の永久磁石13の外径に対して所定の締め代をもつように形成されている。保持リング14として、炭素繊維にエポキシ樹脂などの合成樹脂を浸みこませてなる炭素繊維強化プラスチックにより、円管状に製作してなるものを用いることが好ましい。
【0028】
上述した永久磁石式回転電機の回転子10は、回転子シャフト11の外周面における複数の永久磁石13に対し回転子シャフト11の軸方向で隣接する箇所に、焼嵌めで固定された一対の端板(リング案内部)12,12をさらに有する。これら端板12,12により、複数の永久磁石13の回転子シャフト11の軸方向への移動が規制される。なお、これら端板12,12の外周面12c,12cにも、保持リング14が複数装着される。
【0029】
端板12として、非磁性体であって、焼嵌めが可能な材質、例えば、アルミニウム製やステンレス製のものを用いることが可能である。端板12は、リング状をなしている。端板12は、軸方向にて永久磁石13に隣接しない端部12a側に向けて端板12の厚みが漸減しており、永久磁石13に隣接する端部12b側の厚みd1と比べて永久磁石13に隣接しない端部12a側の厚みd2が薄くなるように形成されている。端板12は、外周面12cにおける軸方向にて永久磁石13に隣接しない端部12a側に形成されたテーパ面12caを有する。すなわち、端板12の外周面12cは、軸方向にて、端部12a側へ向かうに従い漸減する形状をなすテーパ面12caを有する。これにより、端板12の他方の端部12bが永久磁石13と隣接するように端板12を回転子シャフト11に焼嵌めで固定することで、端板12における軸方向にて永久磁石13に隣接しない端部12a側が永久磁石13と反対側に配置されることになり、保持リング14を圧入したときに、保持リング14の内周面が端板12の外周面12cと面接触し、端板12のテーパ面12caにより、保持リング14を徐々に拡径していくことになる。
【0030】
なお、端板12のテーパ面12caのテーパ角θは、軸方向(保持リング14の圧入方向)に対して0.5度〜1.5度の範囲であることが好ましい。これは、テーパ角θが前記範囲内であると、保持リング14を圧入したときに、徐々に(緩やかに)拡径していくことになり、瞬間的に応力集中を生じさせることがないからである。
【0031】
永久磁石13の外周面13cと、端板12の外周面12cの端部12b側と、回転子シャフト11の大径部11aの外周面とには、外径寸法(高さ)が同一となるように研磨などの機械加工が施されることが好ましい。これは、保持リング14を圧入したときに、外径寸法差による保持リング14の内周面との点接触や線接触が無くなり、この接触による保持リング14の内周面への応力集中をより確実になくすことができるからである。
【0032】
ここで、上述した永久磁石式回転電機の回転子10の製造方法について説明する。
【0033】
先ず、保持リング14を圧入する前の永久磁石式回転電機の回転子10は、
図5Aに示すように、軸方向に複数個に分割された永久磁石13が回転子シャフト11に貼り付けられており、複数の永久磁石13の軸方向両端に、回転子シャフト11に焼嵌めされた非磁性体の端板12が固定されている。回転子シャフト11の一方の端部側であって、保持リング14の圧入方向上流側に固定される端板12(
図1にて右側に固定される端板12)は、軸方向にて永久磁石13に隣接しない端部12a側が保持リング14の圧入方向上流側に配置される。なお、回転子シャフト11の他方の端部側であって、保持リング14の圧入方向下流側に固定される端板12(
図1にて左側に固定される端板12)は、軸方向にて永久磁石13に隣接しない端部12a側が保持リング14の圧入方向下流側に配置される。
【0034】
図5Aにおいて、保持リング14は、回転子シャフト11の一方の端部側からこの他方の端部側(
図5A中右側から左側)に向かって1個ずつ圧入される。なお、
図6においては、保持リング14は左側から右側に向かって1個ずつ圧入される。保持リング14は端板12のテーパ面12caに沿って径が徐々に広がり、締め代分が膨らんだ状態で所定の位置まで圧入されて、永久磁石13と両端の端板12を固定することになる。
図1に示すように、保持リング14は、永久磁石13と端板12の外周面13c,12cに嵌合された状態となる。なお、圧入時の荷重を低減させるために、端板12と永久磁石13の外周面12c,13cに潤滑剤を塗布して、摩擦力を下げた状態で保持リング14を圧入することもできる。
【0035】
端板12のテーパ面12caに沿って、保持リング14の径が徐々に広がりながら圧入されるため、保持リング14の内周面に応力集中が発生しにくくなり、保持リング14の強度の低下を抑制できる。
【0036】
したがって、本実施例によれば、回転子シャフト11の外周面にて軸方向および周方向で隣接して配置された複数の永久磁石13と、回転子シャフト11の一方の端部側から永久磁石13の外側および端板12の外側に圧入されて当該永久磁石13を回転子シャフト11に保持する保持リング14と、複数の永久磁石13に対し回転子シャフト11の軸方向で隣接して設けられ、圧入される保持リング14の内周面と面接触しつつ当該保持リング14が回転子シャフト11の一方の端部側から回転子シャフト11の他方の端部側へ向かうに従い当該保持リング14を徐々に拡径しながら永久磁石13側へ案内するリング案内部をなす端板12とを備えることで、保持リング14を圧入したときに、保持リング14の径が瞬間的に広げられることなく徐々に広げられていくことになる。そして、保持リング14がさらに圧入されると、保持リング14の径が広げられた状態のまま、端板12の外周面12cから永久磁石13の外周面13cへと滑らかに移動することとなる。そのため、保持リング14の内周面に対して永久磁石13の軸方向端部(角部)が点接触したり線接触したりすることが無く、この接触による保持リング14の内周面への応力集中をなくすことができる。永久磁石や保持リングを特殊な形状に加工する必要が無く、端板12を設けただけである。よって、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リング14への応力集中を抑制することができる。
【0037】
端板12の外周面12cの径は、回転子シャフト11の軸方向に沿い、永久磁石13側からその反対側へ向かうに従い漸減していることにより、圧入される保持リング14の内周面と端板12の外周面12cのテーパ面12caとが面接触すると共に、保持リング14の径が瞬間的に広げられることなく徐々に広げられていくことになる。永久磁石や保持リングを特殊な形状に加工する必要が無く、端板12の外周面12cのみを加工しただけである。よって、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リング14への応力集中を確実に抑制することができる。
【0038】
端板12がアルミニウム製またはステンレス製であることにより、外周面12cにテーパ面12caを容易に作製することができる。これにより、製造コスト増を抑制ができる。
【0039】
端板12は、軸方向にて、他方の端部12b側の外周面12cの高さが永久磁石13の外周面13cと同じであることにより、保持リング14を圧入したときに、保持リング14が端板12の外周面12cから永久磁石13の外周面13c側へ円滑に移動することができる。
【実施例2】
【0040】
本発明の第二の実施例に係る永久磁石式回転電機の回転子について、
図7〜10に基づいて説明する。
図7,8にてC2が中心軸(回転軸)を示している。
【0041】
本実施例に係る永久磁石式回転電機の回転子10Aは、
図7〜10に示すように、回転子シャフト11Aと、複数の永久磁石13と、複数の保持リング14Aとを有する。
【0042】
回転子シャフト11Aの径方向断面は、円形状をなしている。回転子シャフト11Aは、第一大径部11Aaと第二大径部(リング案内部)11Abとを有する。第二大径部11Abは、回転子シャフト11Aの一方の端部側であって、保持リング14Aの圧入方向上流側に設けられる。第一大径部11Aaは、回転子シャフト11Aの他方の端部側であって、保持リング14Aの圧入方向下流側に設けられる。回転子シャフト11Aの軸方向にて、第一大径部11Aaと第二大径部11Abとの間の箇所が、永久磁石13が取り付けられる磁石取付部11Acをなしている。
【0043】
第一大径部11Aaは、磁石取付部11Acよりも径方向外側となり、磁石取付部11Acに取り付けられた永久磁石13の外周面13cよりも径方向内側となる大きさを有する。第一大径部11Aaは、回転子シャフト11Aの周方向全体に亘り、回転子シャフト11Aの径方向外側へ突出する形状をなす鍔部11Aaaを有する。鍔部11Aaaの頂部は、磁石取付部11Acに取り付けられた永久磁石13とほぼ同じ高さをなしている。
図7中左端に配置される永久磁石13と鍔部11Aaaとの間に隙間Lがあり、この隙間Lに接着剤15が充填される。これにより、鍔部11Aaaと永久磁石14との接触が回避される。第二大径部11Abは、磁石取付部11Acよりも径方向外側へ大きい形状をなしている。
回転子シャフト11Aの磁石取付部11Acにおける外周面には、磁極を構成するための複数の永久磁石13が、回転子シャフト11Aの周方向および軸方向に沿って隣接して配置される。複数の永久磁石13は、これらの外周面13cが同一平面をなすように回転子シャフト11Aの外周面に配置される。
【0044】
複数の永久磁石13の外周面13cには、永久磁石13を回転子シャフト11Aの外周面側に締め付けてバインドリングとしての保持リング14Aが軸方向に複数装着される。すなわち、複数の保持リング14Aを回転子シャフト11Aの一方の端部側から圧入することで、複数の永久磁石13は、回転子シャフト11Aの磁石取付部11Acに強固に固定される。
【0045】
保持リング14Aは、上述した保持リング14と形状以外は同じである。各保持リング14Aは、円管状をなし、回転子シャフト11Aの軸方向にて、回転子シャフト11Aの磁石取付部11Acに配置される複数(図示例では2つ)の永久磁石13全体を覆う形状を有する。複数の保持リング14Aは、内径が回転子シャフト11Aの外周面に配置される複数の永久磁石13の外径に対して所定の締め代をもつように形成されている。
【0046】
上述した回転子シャフト11Aの第二大径部11Abの外周面の径は、回転子シャフト11Aの軸方向に沿い、永久磁石13側からその反対側へ向かうに従い漸減する形状をなすテーパ面11Abaを有する。これにより、圧入される保持リング14Aの内周面が第二大径部11Abの外周面であるテーパ面11Abaと面接触し、保持リング14Aが回転子シャフト11Aの一方の端部側から回転子シャフト11Aの他方の端部側へ向かうに従い、テーパ面11Abaにより保持リング14Aを徐々に拡径していくことになる。
【0047】
なお、第二大径部11Abのテーパ面11Abaのテーパ角θは、第一の実施例の場合と同様、軸方向(保持リング14Aの圧入方向)に対して0.5度〜1.5度の範囲であることが好ましい。これは、テーパ角θが前記範囲内であると、保持リング14Aを圧入したときに、徐々に(緩やかに)拡径していくことになり、瞬間的に応力集中を生じさせることがないからである。
【0048】
永久磁石13の外周面13cと、第二大径部11Abの外周面にて磁石取付部11Acに隣接する端部側とには、外径寸法(高さ)が同一となるように研磨などの機械加工が施されることが好ましい。これは、保持リング14Aを圧入したときに、外径寸法差による保持リング14Aの内周面との点接触や線接触が無くなり、この接触による保持リング14Aの内周面への応力集中をより確実になくすことができるからである。
【0049】
磁石取付部11Acのうち、第二大径部11Abに隣接する部分には、テーパ面11Acaが形成されており、そのテーパ角θは、テーパ面11Abaのテーパ角θと同じになっている。
【0050】
第二大径部11Abと第一大径部11Aaの鍔部11Aaaとにより、磁石取付部11Acに取り付けられた複数の永久磁石13の回転子シャフト11Aの軸方向への移動が規制される。
【0051】
本実施例では、第二大径部11Abがリング案内部をなしている。
【0052】
ここで、上述した永久磁石式回転電機の回転子10Aの製造方法について説明する。
【0053】
先ず、保持リング14Aを圧入する前の永久磁石式回転電機の回転子10Aは、
図8に示すように、回転子シャフト11Aの軸方向にて、第一大径部11Aaの鍔部11Aaaと第二大径部11Abとで囲まれる磁石取付部11Acに軸方向に複数個に分割された永久磁石13が貼り付けられている。回転子シャフト11Aは、第二大径部11Abが回転子シャフト11Aの一方の端部側であって、保持リング14Aの圧入方向上流側となるように配置される。保持リング14Aの圧入方向にて最下流側に貼り付けられた永久磁石13と鍔部11Aaaとの間には、接着剤15が充填されている。
【0054】
図8において、保持リング14Aは、回転子シャフト11Aの一方の端部側からこの他方の端部側(
図8中右側から左側)に向かって1個ずつ圧入される。保持リング14Aは第二大径部11Abのテーパ面11Abaに沿って径が徐々に広がり、締め代分が膨らんだ状態で所定の位置まで圧入されて、永久磁石13を固定することになる。
図7に示すように、保持リング14Aは、永久磁石13の外周面13cに嵌合された状態となる。なお、圧入時の荷重を低減させるために、第二大径部11Abaと永久磁石13の外周面13cに潤滑剤を塗布して、摩擦力を下げた状態で保持リング14Aを圧入することもできる。
【0055】
第二大径部11Abのテーパ面11Abaに沿って、保持リング14Aの径が徐々に広がりながら圧入されるため、保持リング14Aの内周面に応力集中が発生しにくくなり、保持リング14Aの強度の低下を抑制できる。また、回転子シャフト11Aの一方の端部側で、保持リング14Aの圧入方向最上流側に貼り付けられた永久磁石13にあっては、この外周面13cが回転子シャフト11Aの軸方向に沿い保持リング14Aの圧入方向上流側へ向かうに従い回転子シャフト11Aの中心軸C2側へ傾き可能に配置されることから、永久磁石が傾かない場合と比べて、第二大径部11Abから保持リング14Aの圧入方向上流側に貼り付けられた永久磁石13へ保持リング14Aが円滑に移動することになる。
【0056】
したがって、本実施例によれば、回転子シャフト11Aの外周面にて軸方向および周方向で隣接して配置された複数の永久磁石13と、回転子シャフト11Aの一方の端部側から複数の永久磁石13の外側に圧入されて当該複数の永久磁石13を回転子シャフト11Aに保持する保持リング14Aと、複数の永久磁石13に対し回転子シャフト11Aの軸方向で隣接して設けられ、圧入される保持リング14Aの内周面と面接触しつつ当該保持リング14Aが回転子シャフト11Aの一方の端部側から回転子シャフト11Aの他方の端部側へ向かうに従い当該保持リング14Aを徐々に拡径しながら永久磁石13側へ案内するリング案内部をなす第二大径部11Abとを備えることで、保持リング14Aを圧入したときに、保持リング14Aの径が瞬間的に広げられることなく徐々に広げられていくことになる。そして、保持リング14Aがさらに圧入されると、保持リング14Aの径が広げられた状態のまま、第二大径部11Abの外周面から永久磁石13の外周面13cへと滑らかに移動することになる。そのため、保持リング14Aの内周面に対して永久磁石13の軸方向端部(角部)が点接触したり面接触したりすることが無く、この接触による保持リング14Aの内周面への応力集中をなくすことができる。永久磁石や保持リングを特殊な形状に加工する必要が無く、第二大径部11Abを設けただけである。よって、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リング14Aへの応力集中を抑制することができる。
【0057】
第二大径部11Abの外周面の径は、回転子シャフト11Aの軸方向に沿い、永久磁石13側からその反対側へ向かうに従い漸減していることにより、圧入される保持リング14Aの内周面と第二大径部11Abの外周面のテーパ面11Abaとが面接触すると共に、保持リング14Aの径が瞬間的に広げられることなく徐々に広げられていくことになる。永久磁石や保持リングを特殊な形状に加工する必要が無く、第二大径部11Abの外周面のみを加工しただけである。よって、簡易な構成にて、電気特性を保持しつつ、圧入時における保持リング14Aへの応力集中を確実に抑制することができる。端板自体の製造が不要となるため、端板の製造コストおよび端板を回転子シャフト11Aに焼き嵌めをするまでの作業工程を削減することができる。また、端板を無くすことで、
図7に示すように、第一の実施例では端板を支持していた両端の保持リングの挿入も不要となり、保持リングの使用量を削減できる。
【0058】
永久磁石13が配置された回転子シャフト11Aの外周面のうち第二大径部11Abに隣接する部分の径は、回転子シャフト11Aの軸方向に沿い、リング案内部をなす第二大径部11Ab側へ向かうに従い漸減していることにより、圧入される保持リング14Aの第二大径部11Abaから永久磁石13への移動がより円滑になる。
【0059】
永久磁石13が配置された回転子シャフト11Aの外周面のうち第二大径部11Abに隣接する部分にて径の漸減割合(テーパ面11Acaのテーパ角θ)は、回転子シャフト11Aの軸方向にて、第二大径部11Abの外周面の径の漸減割合(テーパ面11Abaのテーパ角θ)と同じであることにより、圧入される保持リング14Aの内周面が永久磁石13の外周面13cとより確実に面接触することとなり、圧入時における保持リング14Aへの応力集中をより確実に抑制することができる。
【0060】
第二大径部11Abは、軸方向にて、永久磁石13に隣接する端部側の外周面の高さが永久磁石13の外周面13cの高さと同じであることにより、保持リング14Aを圧入したときに、保持リング14Aが第二大径部11Abの外周面から永久磁石13の外周面13c側へ円滑に移動することができる。
【実施例3】
【0061】
本発明の第三の実施例として、第一,第二の実施例で用いていた保持リングとしても使用できる、保持リング14B(
図11A参照)について説明する。
【0062】
この保持リング14Bの製法を説明する。まず、炭素繊維を、周方向に沿い切れ目なく一方向に、フィラメントワインディング法により、予め決めたリング幅(指定の軸方向幅)になるまで巻き回す。このとき、炭素繊維の巻き回し始点は内周側に配置され、炭素繊維の巻き回し終点は外周側に配置される。このようにして巻き回した円筒状の炭素繊維に、エポキシ樹脂などの合成樹脂を浸みこませて、保持リング14Bを製造する。つまり保持リング14bは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の、いわば「連続巻き品」である。
【0063】
この保持リング14Bを、永久磁石が配置された回転子シャフトに圧入することにより、永久磁石式回転電機の回転子が構成される。この回転子は、高速(例えば、10,000min
-1以上)で回転するため、保持リング14Bの外周面には、空気に接触することによる剥離力が作用する。
この保持リング14Bでは、その外周面に炭素繊維の巻き回し終点が1箇所あるのみである。したがって、空気による剥離力による剥離開始点は、上記の炭素繊維の巻き回し終点の1箇所のみであり、剥離開始点を最小限に抑えることができる。このため、保持リング14Bは、炭素繊維が本来持っている強度を十分に発揮することができる。この結果、連続巻き品である保持リング14Bは、大きな圧入荷重が作用してもこれに耐えることができる、信頼性の高い部材となる。
【0064】
ここで比較例として、
図11Bを参照して、従来の保持リング101について説明する。この保持リング101の製法を説明する。まず、フィラメントワインディング法により炭素繊維を巻回して、軸方向寸法が長い円筒部材を作り、この円筒部材に合成樹脂を浸みこませて、炭素繊維プラスチック(CFRP)製のリング部材100を製造する。このリング部材100を、予め決めたリング幅(指定の軸方向幅)ごとに、輪切りにして切断し、CFRP製の保持リング101を製造していた。従来の保持リング101は、いわば「切断品」である。
【0065】
CFRP製の保持リング101の端面(切断面)には、炭素繊維の切れ目が無数に存在することとなる。このため、保持リング101の内径側から外径側に向かう内圧を加えて破壊させるリングバースト試験をしたところ、保持リング101の端面(切断面)の炭素繊維が最初に剥離し、そこを起点に剥離が拡大して破壊するモードが確認された。つまり、炭素繊維の強度を十分に発揮できていないことがわかった。このため、上述のようにリング部材100を軸方向に複数分割して製造した保持リング101においては、保持リング101の破壊の起点を増やすことになり、高速回転体に使用するのは好ましくない。
【0066】
なお、保持リングの内径側から外径側に向かう内圧を加えて破壊させるリングバースト試験において、切断品である保持リング101と、連続巻き品である保持リング14Bの破壊モードを比較したところ、切断品(保持リング101)は5個中3個が炭素繊維の「剥離」で破壊したのに対して、連続巻き品(保持リング14B)は5個全て炭素繊維の「破断」で破壊することがわかった。これにより、破壊の強度(5個の平均値)は、連続巻き品(保持リング14B)の方が切断品(保持リング101)に対して、1割ほど高くできた。
【実施例4】
【0067】
次に本発明の第四の実施例として、第三の実施例の保持リング14Bを備えた回転子10Bを、
図12A,
図12Bを参照して説明する。
【0068】
この回転子10Bは、回転子シャフト11Bの周面に永久磁石13を配置し、永久磁石13の外周面に、保持リング14Bを圧入したものである。なお、
図12Aは保持リング14Bを圧入する前の状態を、
図12Bは保持リング14Bを圧入した後の状態を示している。
【0069】
本例において、回転子シャフト11Bは、図中でαで示す方向に回転する。また保持リング14Bでは、炭素繊維は内周側を巻き回しの始点として、図中でβで示す方向に巻き回され、炭素繊維の巻き回しの終点は、外周側となる。
この例において重要なのは、回転子シャフト11bの回転方向αに対して、保持リング14Bの炭素繊維の巻き回し方向βが逆方向になるように、保持リング14Bを回転子シャフト11Bに備えていることである。
【0070】
保持リング14Bが備えられた回転子10Bが回転する際には、保持リング14Bの外周面は、数百m/sの高速な風による空気抵抗に起因する剥離力を受ける。この場合であっても、回転子シャフト11bの回転方向αと、保持リング14Bの炭素繊維の巻き回し方向βとが逆方向になっているため、炭素繊維の巻き回しの終点は、空気抵抗による剥離力を受けても、剥離しにくくなる。
【0071】
ここで、各実施例の変形例を、以下に説明する。
上記の第1の実施例では、回転子シャフト11の外周にて周方向および軸方向に隣接して配置された複数の永久磁石13と、回転子シャフト11の軸方向にて複数の永久磁石13と隣接して配置される一対の端板12とを備え、一対の端板12の外周面12cにテーパ面12caがそれぞれ形成された永久磁石式回転電機の回転子10を用いて説明したが、回転子シャフト11の外周にて周方向および軸方向に隣接して配置された複数の永久磁石13と、回転子シャフト11の軸方向にて複数の永久磁石13と隣接して配置される一対の端板12とを備え、一方の端板12の外周面12cにテーパ面が形成された永久磁石式回転電機の回転子とすることも可能である。このような永久磁石式回転電機の回転子であっても、上述した永久磁石式回転電機の回転子10と同様な作用効果を奏する。また、周方向および軸方向に隣接して配置された複数の永久磁石13に限定されず、回転子シャフトの外周に配置された永久磁石であれば同様な作用効果を奏する。
【0072】
上記の第2の実施例では、テーパ面11Acaが設けられた磁石取付部11Acを有する回転子シャフト11Aを備える回転電機の回転子10Aを用いて説明したが、テーパ面11Acaが設けられていない磁石取付部を有する回転子シャフトを備える回転電機の回転子とすることも可能である。
回転子シャフト(11)の外周面に配置された永久磁石(13)と、回転子シャフト(11)の一方の端部側から永久磁石(13)の外側に圧入されて永久磁石(13)を回転子シャフト(11)に保持する保持リング(14)と、永久磁石(13)に対し回転子シャフト(11)の軸方向で隣接して設けられ、圧入される保持リング(14)の内周面と面接触しつつ保持リング(14)が回転子シャフト(11)の一方の端部側から回転子シャフト(11)の他方の端部側へ向かうに従い保持リング(14)を徐々に拡径しながら永久磁石(13)側へ案内する端板(12)とを備える。このため、圧入時における保持リング(14)への応力集中を抑制することができる。