特許第6168380号(P6168380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6168380障害物検出方法、及び障害物検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168380
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】障害物検出方法、及び障害物検出システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20170713BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   G08G1/16
   B60R21/00 624D
   B60R21/00 624C
   B60R21/00 626G
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-117671(P2012-117671)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-246483(P2013-246483A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】織茂 郁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元気
(72)【発明者】
【氏名】中村 三友
【審査官】 小山 憲子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−288782(JP,A)
【文献】 再公表特許第2003/063087(JP,A1)
【文献】 特開2011−186526(JP,A)
【文献】 特開2008−309533(JP,A)
【文献】 特開2005−107870(JP,A)
【文献】 特開2010−211680(JP,A)
【文献】 特開平10−283592(JP,A)
【文献】 特開平05−288519(JP,A)
【文献】 特開2002−032891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が走行する走行路の周辺に存在する周辺物のうち、該移動体の走行の障害となる周辺物を検出する障害物検出方法において、
前記移動体の外形をレーザー計測器で計測することにより、該移動体の3次元空間情報を取得する移動体計測工程と、
前記移動体の3次元空間情報に基づいて、該移動体の外形面をモデル化した移動体モデルを得る移動体モデル化工程と、
前記走行路を構成する3次元空間情報に基づいて、該走行路の表面をモデル化した路面モデルを得る路面モデル化工程と、
前記移動体モデルを前記路面モデル上で移動させながら、移動体の障害となる周辺物を障害物として検出する検出工程と、を備え、
前記検出工程では、前記周辺物を構成する3次元空間情報と前記移動体モデルとを比較することによって、移動体モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する、ことを特徴とする障害物検出方法。
【請求項2】
前記移動体モデル化工程では、同一面上にあるとみなされる3次元空間情報についてはスムージング処理を施して前記移動体モデルを取得し、
前記路面モデル化工程では、スムージング処理を施すことで前記走行路の表面を平坦面にする、ことを特徴とする請求項1記載の障害物検出方法。
【請求項3】
前記移動体モデルに色情報を付与して、移動体画像を得る移動体画像取得工程と、
前記周辺物を構成する3次元空間情報に色情報を付与して、周辺物画像を得る周辺物画像取得工程と、
前記移動体画像、及び前記周辺物画像を重畳表示する表示工程と、を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の障害物検出方法。
【請求項4】
前記移動体画像取得工程では、前記移動体の写真に基づいて、前記移動体モデルに色情報を付与し、
前記周辺物画像取得工程では、前記周辺物の写真に基づいて、前記周辺物を構成する3次元空間情報に色情報を付与する、ことを特徴とする請求項3記載の障害物検出方法。
【請求項5】
移動体が走行する走行路の周辺に存在する周辺物のうち、該移動体の走行の障害となる周辺物を検出する障害物検出システムにおいて、
前記移動体の外形をレーザー計測器で計測することで取得した3次元空間情報で、該移動体の外形を表した移動体空間情報を記憶する移動体外形記憶手段と、
前記走行路の表面を3次元空間情報で表した路面空間情報を、記憶する路面記憶手段と、
前記周辺物を3次元空間情報で表した周辺物空間情報を、記憶する周辺物記憶手段と、
前記移動体空間情報に基づいて、前記移動体の外形面をモデル化した移動体モデルを得る移動体モデル化手段と、
前記路面空間情報に基づいて、該走行路の表面をモデル化した路面モデルを得る路面モデル化手段と、
前記移動体モデルを走行させる経路を、前記路面モデル上に指定する経路指定手段と、
前記経路指定手段で指定された経路にしたがって、前記移動体モデルを移動させるモデル移動手段と、
前記移動体モデルを移動させながら、前記移動体の障害となる前記周辺物を障害物として検出する検出手段と、を備え、
前記検出手段では、前記周辺物空間情報と前記移動体モデルとを比較することによって、移動体モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する、ことを特徴とする障害物検出システム。
【請求項6】
前記移動体モデル化手段は、同一面上にあるとみなされる3次元空間情報についてはスムージング処理を施して前記移動体モデルを取得し、
前記路面モデル化手段は、スムージング処理を施すことで前記走行路の表面を平坦面にする、ことを特徴とする請求項5記載の障害物検出システム。
【請求項7】
前記移動体モデルに色情報を付与して、移動体画像を得る移動体画像取得手段と、
前記周辺物空間情報に色情報を付与して、周辺物画像を得る周辺物画像取得手段と、
前記移動体画像、及び前記周辺物画像を重畳表示する表示手段と、を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の障害物検出システム。
【請求項8】
前記移動体画像取得手段は、前記移動体の写真に基づいて、前記移動体モデルに色情報を付与し、
前記周辺物画像取得手段は、前記周辺物の写真に基づいて、前記周辺物空間情報に色情報を付与する、ことを特徴とする請求項7記載の障害物検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、軌道上を走行する車両(以下、「列車」という。)や、道路上を走行する車両(以下、「自動車」という。)などが、走行する際に障害となるものを検出する技術に関するものであり、より具体的には、列車や自動車など(以下、これらを総称して「移動体」という。)の3次元モデルと、軌道や道路といった走行路及びその周辺の3次元の空間情報とを比較することで、移動体にとっての障害物を検出する障害物検出方法、及び障害物検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車が走行するための軌道や、自動車が走行するための道路など、移動体が走行するための「走行路」には、通常、建築限界が設定されている。この建築限界は、移動体が安全に走行するために設けられる断面空間であり、言い換えれば、建築限界内に存在する物は移動体にとって障害物となるわけである。
【0003】
例えば道路の場合、道路構造令の第12条で建築限界が定められており、一般的な道路であれば路面上4.5mまでの断面空間には、あらゆる物が設置できないこととなっている。軌道上の場合は、列車形状の違いから鉄道事業者ごとにそれぞれ独自の建築限界を設定している。
【0004】
走行路を建設した当初は、当然ながら建築限界内に障害となる物は存在しない。ところが、長期にわたって供用するうちに、建築限界内に物が存在するようになることがある。例えば、図5に示すように走行路上を横断する電線のたわみ部分や、図6に示すように樹木が伸長した部分、あるいは不注意によって設置された看板等が挙げられる。軌道の場合、このような建築限界内に置かれた障害物を検出するために、定期的に建築限界測定車を走行させている。他方、道路の場合は、延長も長く、建築限界測定車のような車両を走行させることも困難なことから、障害物検出のための定量的な手法は確立されていないのが現状である。
【0005】
ところで、風力発電設備の一部や、山上に建設する鉄塔の一部、あるいは新幹線車両など、極めて大型の積荷を輸送する場合、移動体が建築限界を超えることがある。本来なら建築限界を超えた移動体は走行できないところであるが、走行路の中には建築限界を超える走行可能空間を備えている区間もあり、その区間を経路として選択すれば目的地まで大型積荷を輸送することができる。ところが現状では、計画した経路上で移動体が走行できるか否かは、過去の経験等から推し測るほかなく、合理的に判断する適当な手法がない。
【0006】
走行路上にある障害物を検出する技術については、これまでも多々提案されているが、その多くが移動体に何らかのセンサーを設置し、走行しながらリアルタイムで検出する技術である。例えば特許文献1では、車両に取り付けた超音波センサーで障害物を検出する技術を提案している。また、特許文献2では車両に取り付けたカメラで障害物を検出する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−265451号公報
【特許文献2】特開2010−205041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2では、移動体に取り付けたセンサーで障害物を検出するわけであるから、当然ながら実際に走行しなければ、走行上障害となる物を検出することができない。そのうえ、建築限界内に障害物を検出したとしても、どの位置に何があったのかを記録することができないため、その障害物に対する適切な処置を取ることができない。
【0009】
本願発明の課題は、走行路上を実際に移動体が走行することなく、建築限界内に存在する物の有無、あるいは移動体の走行の可否を判断することができ、しかも移動体にとって障害となる物の位置を把握することができる障害物検出方法、及び障害物検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、走行路やその周辺に存在する物を表す3次元の空間情報と、移動体を表す3次元の空間情報に基づいて、障害物を検出するという点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0011】
本願発明の障害物検出方法は、移動体計測工程、移動体モデル化工程、路面モデル化工程、及び検出工程を備えたものである。移動体計測工程では、移動体の外形をレーザー計測器で計測することによって移動体の3次元空間情報を取得する。移動体モデル化工程では、移動体の外形面をモデル化して移動体モデルを取得する。路面モデル化工程では、走行路を構成する3次元空間情報に基づいて、走行路の表面をモデル化した路面モデルを得る。検出工程では、移動体モデルを路面モデル上で移動させながら、移動体の障害となる周辺物を障害物として検出する。このとき、周辺物を構成する3次元空間情報と移動体モデルとを比較することによって、移動体モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する。
なお、移動体モデル化工程では、同一面上にあるとみなされる3次元空間情報についてはスムージング処理を施して移動体モデルを取得し、路面モデル化工程では、スムージング処理を施すことで走行路の表面を平坦面にすることもできる。
【0012】
本願発明の障害物検出方法は、建築限界モデル化工程、路面モデル化工程、及び検出工程を備えたものとすることもできる。表層モデル記憶手段は、対象地域の表面形状を3次元で表した表層モデルを記憶するものである。建築限界モデル化工程では、走行路の建築限界をモデル化した建築限界モデルを取得する。路面モデル化工程では、走行路を構成する3次元空間情報に基づいて、走行路の表面をモデル化した路面モデルを得る。検出工程では、建築限界モデルを路面モデル上で移動させながら、建築限界内に位置する周辺物を障害物として検出する。このとき、周辺物を構成する3次元空間情報と建築限界モデルとを比較することによって、建築限界モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する。
【0013】
本願発明の障害物検出方法は、移動体画像取得工程と、周辺物画像取得工程と、表示工程を備えたものとすることもできる。移動体画像取得工程では、移動体モデルに色情報を付与して移動体画像を得る。周辺物画像取得工では、周辺物を構成する3次元空間情報に色情報を付与して、周辺物画像を得る。表示工程では、移動体画像及び周辺物画像を重畳表示する。このとき、移動体の写真に基づいて移動体モデルに色情報を付与し、周辺物の写真に基づいて周辺物を構成する3次元空間情報に色情報を付与することもできる。
【0014】
本願発明の障害物検出システムは、移動体外形記憶手段、路面記憶手段、周辺物記憶手段、移動体モデル化手段、路面モデル化手段、経路指定手段、モデル移動手段、及び検出手段を備えたものである。移動体外形記憶手段は、移動体の外形を3次元空間情報で表した移動体空間情報を、記憶するものである。この3次元空間情報は、移動体の外形をレーザー計測器で計測することで取得したものである。路面記憶手段は、走行路の表面を3次元空間情報で表した路面空間情報を、記憶するものである。周辺物記憶手段は、周辺物を3次元空間情報で表した周辺物空間情報を、記憶するものである。移動体モデル化手段は、移動体空間情報に基づいて、移動体の外形面をモデル化した移動体モデルを得るものである。路面モデル化手段は、路面空間情報に基づいて、走行路の表面をモデル化した路面モデルを得るものである。経路指定手段は、移動体モデルを走行させる経路を、路面モデル上に指定するものである。モデル移動手段は、経路指定手段で指定された経路にしたがって、移動体モデルを移動させるものである。検出手段は、移動体モデルを移動させながら、移動体の障害となる周辺物を障害物として検出するものである。このとき、周辺物空間情報と移動体モデルとを比較することによって、移動体モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する。
なお、移動体モデル化手段を、同一面上にあるとみなされる3次元空間情報についてはスムージング処理を施して移動体モデルを取得するものとし、路面モデル化手段を、スムージング処理を施すことで走行路の表面を平坦面にするものとすることもできる。
【0015】
本願発明の障害物検出システムは、移動体計測手段を備えたものとすることもできる。移動体計測手段は、移動体の外形を計測することにより、移動体空間情報を取得するものである。
【0016】
本願発明の障害物検出システムは、建築限界記憶手段、路面記憶手段、周辺物記憶手段、建築限界モデル化手段、路面モデル化手段、経路指定手段、モデル移動手段、及び検出手段を備えたものである。建築限界記憶手段は、走行路の建築限界を3次元空間情報で表した移動体空間情報を、記憶するものである。路面記憶手段は、走行路の表面を3次元空間情報で表した建築限界空間情報を、記憶するものである。周辺物記憶手段は、記周辺物を3次元空間情報で表した周辺物空間情報を、記憶するものである。建築限界モデル化手段は、建築限界空間情報に基づいて、建築限界をモデル化した建築限界モデルを得るものである。路面モデル化手段は、路面空間情報に基づいて、走行路の表面をモデル化した路面モデルを得るものである。経路指定手段は、建築限界モデルを移動させる経路を、路面モデル上に指定するものである。モデル移動手段は、経路指定手段で指定された経路にしたがって、建築限界モデルを移動させるものである。検出手段は、建築限界モデルを移動させながら、建築限界内に位置する周辺物を障害物として検出するものである。このとき、周辺物空間情報と建築限界モデルとを比較することによって、建築限界モデルとの離隔が所定閾値以下となる周辺物を障害物として検出する。
【0017】
本願発明の障害物検出システムは、移動体画像取得手段と、周辺物画像取得手段と、表示手段を備えたものとすることもできる。移動体画像取得手段は、移動体モデルに色情報を付与して、移動体画像を得るものである。周辺物画像取得手段は、周辺物空間情報に色情報を付与して、周辺物画像を得るものである。表示手段は、移動体画像、及び周辺物画像を重畳表示するものである。このとき、移動体の写真に基づいて移動体モデルに色情報を付与し、周辺物の写真に基づいて周辺物を構成する3次元空間情報に色情報を付与することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の障害物検出方法、及び障害物検出システムには、次のような効果がある。
(1)走行路上を実際に移動体が走行することなく、建築限界内に存在する物の有無や、建築限界を超える移動体の走行の可否について判断することができる。そのため、効果的な輸送計画を立案することができる。
(2)障害となる物が確認された場合、その位置を特定することができるため、容易に対策を講じることができる。
(3)あらかじめ移動体を計測するので、標準的な移動体に限らず、あらゆる移動体を対象とすることができる。
(4)移動体の画像と、走行路やその周辺にある物の画像を、重畳表示することで、障害となるものを視覚的に把握することができる。その結果、何が障害となっているかを容易に判断することができる。
(5)さらに、写真を使って画像を作成すれば、実物と同様に目視確認できるので、障害物の実態をより把握しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は走行しながら計測する状況を示すモデル図、(b)は跨道橋桁下空間をレーザー計測するイメージを示す説明図。
図2】移動体をレーザー計測器で計測する状況を示す説明図。
図3】一般的な道路の建築限界を示す道路横断図
図4】モバイルマッピングシステム(Mobile Mapping System)によって取得した道路周辺の計測点群を示すモデル図。
図5】走行路上を横断する電線のたわみ部分が、建築限界内の障害物となる状況を示すモデル図。
図6】樹木が伸長した部分が、建築限界内の障害物となる状況を示すモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の障害物検出方法、及び障害物検出システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0021】
1.全体概要
本願発明は、例えば道路や軌道といった走行路において、自動車や列車など移動体にとって走行上障害となる物を抽出するものである。走行路上に存在する数多くの物を取り扱うことから、これらを表す3次元の空間情報を利用する。そこで、まずは3次元の空間情報について説明する。
【0022】
3次元の空間情報は、平面座標値と高さの情報を持つ点や線、面、あるいはこれらの組み合わせで構成される情報である。さらに平面座標値とは、緯度と経度あるいはX座標とY座標で表されるものであり、高さとは標高など所定の基準水平面からの鉛直方向の距離を意味する。この3次元の空間情報は、種々の手段によって作成することができる。例えば、2枚1組のステレオ航空写真(衛星写真)を基に作成したり、航空レーザー計測や衛星レーダー計測によって作成したり、あるいは直接現地を測量して作成することもできる。昨今では、車両に搭載した計測器で、走行しながら沿道地形をレーザー計測するモバイルマッピングシステム(Mobile Mapping System:MMS)が開発され多用されている。
【0023】
図1は、MMSを説明する図で、(a)は走行しながら計測する状況を示すモデル図であり、(b)は跨道橋桁下空間をレーザー計測するイメージを示す説明図である。この図に示すようにMMSでは、計測車両1が走行しながら、搭載した計測器2によって道路上や沿道を含む道路周辺を計測することができる。このとき計測車両1に搭載する計測器2としては、計測車両1の位置を取得する測位計(例えばGPS)、走行時の姿勢を取得する慣性計測装置(例えばIMU)、レーザー距離計、画像取得装置(例えば広角レンズカメラ)などが挙げられる。
【0024】
本願発明は、走行路周辺の地形(表面形状)を表す3次元空間情報、及び「走行モデル(移動体をモデル化したもの)」を用いて、走行上障害となる物を検出する。具体的には、走行路周辺の3次元空間情報に基づいて「路面モデル(走行路面をモデル化したもの)」を作成し、この路面モデル上で走行モデルを移動させて、走行モデルに接触する(あるいは接触する可能性のある)“物”を障害物として検出する。なお、走行モデルとしては、実際に移動する移動体を計測して得られる「移動体モデル」、標準的な走行モデルである「建築限界モデル」がある。
【0025】
以下、要素ごとに詳述する。なお、障害物検出方法の例で本願発明の技術内容を説明し、障害物検出システム特有の内容については後に説明することとする。
【0026】
2.走行モデル
前記のとおり本願発明では、走行モデルとして「移動体モデル」、「建築限界モデル」それぞれのケースで障害物を検出することができる。次に、それぞれのモデルについて詳しく説明する。
【0027】
(移動体モデル)
移動体モデルは、実際の形状を計測した結果に基づいて作成される。図2は、移動体3をレーザー計測器4で計測する状況を示す説明図である。このように、まずは移動体3の外形を計測して3次元空間情報を取得する。このときの計測方法としては、地上固定式のレーザー計測器4を用いてもよいし、MMSを採用することもできるし、あるいは直接TS(トータルステーション)等で計測してもよい。なお、移動体3の外形全体を計測することが望ましく、そのため地上固定式のレーザー計測器4やTSでは固定位置を変えながら、MMSでは移動体3の周囲を計測車両で移動しながら、計測するとよい。
【0028】
計測によって取得された3次元空間情報に基づいて、移動体3の外形を面としてモデル化する。例えば、計測点を結ぶ三角形や四角形(あるいはそれ以上の多角形)からなるメッシュを形成し、このメッシュの集合を移動体モデルとすることができる。なお、移動体3の外形面が凹凸のない平坦面であれば、その部分を表す移動体モデルもまた平坦面となるはずである。しかしながら、計測精度等の理由から必ずしもそのとおり平坦面として移動体モデルが形成されるとは限らない。この場合、多少の凹凸面であればそのままの状態で移動体モデルとすることもできるが、同一面上にあるとみなされる3次元空間情報については補正するなどスムージング処理を施して移動体モデルとすることもできる。
【0029】
以上のように、移動体3を実際に計測して移動体モデルを作成することで、建築限界を超えるような移動体3が、走行路上を物理的に走行できるか否かを判断できるという効果を奏する。
【0030】
(建築限界モデル)
移動体の安全な走行を確保するため、道路や軌道には物の設置を制限する断面空間、すなわち建築限界が設けられている。図3は、一般的な道路の建築限界を示す道路横断図である。この図に示すように、建築限界は走行路の横断面上で構成されるものであり、移動体モデルが立体的なモデルであるのに対して、建築限界モデルは断面空間を表す面的なモデル、あるいは断面空間の輪郭を表す線的なモデルである。走行モデルとして建築限界モデルを採用した場合、移動体を計測する手間が省けるという効果を奏する。
【0031】
2.路面モデル
路面モデルは、走行路周辺の地形を表す3次元空間情報(以下、単に「走行路空間情報」という。)に基づいて作成される。図4は、MMSによって取得した道路周辺の計測点群を示すモデル図である。ここで走行路周辺とは、移動体が走行する走行路面、及びその他の周辺物で構成されるもので、したがって走行路空間情報は、走行路面の3次元空間情報、及び周辺物の3次元空間情報で構成される。なお、ここで用いる走行路空間情報は、本願発明のために計測して取得してもよいが、当然ながら既存のものがあればこれを利用することもできる。
【0032】
走行路空間情報のうち走行路面の3次元空間情報を取り出して、路面モデルを作成する。路面モデルは、移動体モデルと同様の手法で作成され、例えば、計測点を結ぶ三角形や四角形(あるいはそれ以上の多角形)からなるメッシュを形成し、このメッシュの集合を路面モデルとすることができる。また、スムージング処理を施すことで平坦面に補正できることも、移動体モデルの場合と同様である。
【0033】
一方の周辺物の3次元空間情報は、周辺物ごとにモデル化してもよいが、点や線、面(あるいはこれらの組み合わせ)の状態のままとしてもよい。なぜなら、その周辺物が移動体の障害となるか否かは、3次元空間情報によって判断できるので、必ずしも周辺物をモデル化しておく必要がないからである。なお、障害物が何であるかを把握するには、後に説明する画像を利用すれば容易に判断できる。
【0034】
3.障害物の検出
既述のとおり、路面モデル上で走行モデルを移動させて、走行モデルに接触する(あるいは接触する可能性のある)“物”を障害物として検出する。その具体的内容について、次に説明する。
【0035】
(走行モデルの移動)
走行モデル(移動体モデル又は建築限界モデル)を路面モデル上で移動させるわけであるが、そのため走行モデルが移動する平面線形、すなわち経路(path)を路面モデル上で設定する。このとき、軌道であればレール位置に基づいて設定することができるし、道路であれば、車道や道路幅員、車線、あるいはこれらの中心線に基づいて設定することができる。経路が設定できると、走行モデルを路面モデル上で移動させる。なお現在では、車両の軌跡を計算するソフトウェアとして多種多様のものが知られており、これを用いて走行モデルを移動させることもできる。
【0036】
走行モデルを移動させながら、走行モデルと周辺物の3次元空間情報との距離(離隔)に基づいて障害物を抽出していく。この離隔は、絶対値ではなく正負(±)をもった値とする。このとき、走行モデルから離れる方向を正(+)、その逆を負(−)とすることができる。例えば移動体モデルの場合、外形面の位置を0とし、外形面から離れる方向が正(+)、外形面で囲まれる内部空間側が負(−)となる。また、建築限界モデルの場合、建築限界の輪郭線の位置を0とし、この輪郭線から離れる方向が正(+)、建築限界と路面で囲まれる内部側が負(−)となる。
【0037】
離隔が所定の閾値以下となったものを障害物として検出する。この閾値は、状況や目的に応じて適宜設定することができる。閾値を0とすれば、走行モデルと確実に接触する物を障害物として検出できるし、例えば閾値を10cmとすれば、走行モデルと接触する可能性がある物も障害物として検出できる。もちろん、10cm以上の値を閾値としてさらに広く障害物を検出することもできる。
【0038】
なお、周辺物の3次元空間情報すべてに対して離隔を算出し、それぞれ閾値と比較して障害物を検出することもできるが、走行モデル内に位置する周辺物の3次元空間情報を障害物として検出することもできる。例えば移動体モデルの場合、外形面で囲まれる内部空間内に位置する周辺物の3次元空間情報を障害物として検出し、建築限界モデルの場合、建築限界と路面で囲まれる内部に位置する周辺物の3次元空間情報を障害物として検出する。このとき、移動体モデルや移動体モデルを閾値の分だけ大きく(小さく)しておく必要がある。
【0039】
4.画像表示
走行モデルや、路面モデル、周辺物の3次元空間情報は、3次元空間情報からなるため、それだけでも形状を把握することはできるが、これらに色情報を付与すると、さらに視認性が向上する。ここで色情報とは、陰影、色調、きめ、模様、周囲の撮像との相互関係、周囲の撮像との複合関係、またはそれらの組み合わせを意味する。
【0040】
3次元空間情報に色情報を付与するには、写真画像を利用することができる。この場合、移動体にカメラやビデオなどの撮影手段を搭載して、実際に走行しながら撮影して写真画像を取得する。撮影時の撮影手段の位置と姿勢(撮影方向)、さらに画角や画面距離といった諸元がわかれば、容易に3次元空間情報に色情報を付与することができる。なお、撮影手段の位置と姿勢については、移動体に測位計(例えばGPS)、及び慣性計測装置(例えばIMU)を搭載しておけば計測値を取得することができる。
【0041】
写真画像を利用するほかにも、3次元空間情報に色情報を付与することはできる。例えば、レーザー計測器で計測した際のレーザーの反射強度に応じて色情報を付与する。色情報が付与されれば、RGBや、CMYK、NCSといった画素値を用いてディスプレイ上に表示することができる。したがって、色情報を付与した走行モデルと、同じく色情報を付与した周辺物の3次元空間情報とを重ね合わせて表示(重畳表示)すれば、移動体の走行上障害となるものがより明確に把握できるようになる。
【0042】
5.障害物検出システム
障害物検出システムは、既述の障害物検出方法を実施するためのシステムであり、プログラムをコンピュータに実行させることによって実現するものである。以下、個別に説明する。なお、障害物検出方法で説明した内容と重複するものは、ここでは繰り返しての説明は行わない。
【0043】
(移動体計測手段)
移動体計測手段は、移動体の外形を計測して3次元空間情報を取得するものである。このときの計測方法としては、既述のとおり、固定式のレーザー計測器や、MMS、TS等が選択される。
【0044】
(移動体外形記憶手段)
移動体外形記憶手段は、移動体計測手段で計測した結果得られた3次元空間情報(以下、「移動体空間情報」という。)を記憶するものであり、具体的にはコンピュータのハードディスクやCD−ROMといった記憶媒体である。つまり、移動体空間情報はコンピュータで処理可能なデータ形式で形成されている。
【0045】
(建築限界記憶手段)
建築限界記憶手段は、走行路の建築限界を3次元空間情報で表した「建築限界空間情報」を記憶するものであり、移動体外形記憶手段と同様、具体的にはコンピュータのハードディスクやCD−ROMといった記憶媒体である。「建築限界空間情報」もコンピュータで処理可能なデータ形式で形成されている。
【0046】
(走行路記憶手段)
路面記憶手段は、既述した「走行路空間情報」を記憶するものであり、移動体外形記憶手段と同様、具体的にはコンピュータのハードディスクやCD−ROMといった記憶媒体である。「走行路空間情報」もコンピュータで処理可能なデータ形式で形成されている。
【0047】
(路面記憶手段)
路面記憶手段は、既述した走行路空間情報のうち、走行路面の3次元空間情報(以下、「路面空間情報」という。)を記憶するものであり、移動体外形記憶手段と同様、具体的にはコンピュータのハードディスクやCD−ROMといった記憶媒体である。「路面空間情報」もコンピュータで処理可能なデータ形式で形成されている。
【0048】
(周辺物記憶手段)
周辺物記憶手段は、既述した走行路空間情報のうち、周辺物の3次元空間情報(以下、「周辺物空間情報」という。)を記憶するものであり、移動体外形記憶手段と同様、具体的にはコンピュータのハードディスクやCD−ROMといった記憶媒体である。「周辺物空間情報」もコンピュータで処理可能なデータ形式で形成されている。
【0049】
(移動体モデル化手段)
移動体モデル化手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものである。まずは、移動体外形記憶手段から移動体空間情報を読み出し、既述のとおり移動体モデルを作成する。ここで作成された移動体モデルは、コンピュータのハードディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0050】
(建築限界モデル化手段)
建築限界モデル化手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものである。まずは、建築限界記憶手段から建築限界空間情報を読み出し、既述のとおり建築限界モデルを作成する。ここで作成された建築限界モデルは、コンピュータのハードディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0051】
(路面モデル化手段)
路面モデル化手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものである。まずは、路面記憶手段から路面空間情報を読み出し、既述のとおり路面モデルを作成する。ここで作成された路面モデルは、コンピュータのハードディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0052】
(経路指定手段)
経路指定手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものである。具体的には、マウスや、キーボード、コントローラーといった入力手段を用いて、走行モデルが移動する平面線形、すなわち経路(path)を路面モデル上で設定する。ここ設定された経路は、経路情報としてコンピュータのハードディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0053】
(モデル移動手段)
モデル移動手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものである。移動体モデル(又は建築限界モデル)、路面モデル、及び経路情報を読み出し、そして路面モデルと経路情報に基づいて、移動体モデル(又は建築限界モデル)の配置を徐々に変更させながら移動させていく。
【0054】
(検出手段)
検出手段は、ソフトウェアを用いてコンピュータに処理させるものであり、既述のとおり、走行モデルと周辺物の3次元空間情報との距離(離隔)に基づいて障害物を抽出していく。ここで検出された障害物の3次元空間情報は、コンピュータのハードディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0055】
(移動体画像取得手段及び周辺物画像取得手段)
移動体画像取得手段及び周辺物画像取得手段は、写真画像を取得できるカメラやビデオなどの撮影手段である。あるいは、既述のとおりレーザー計測器も、色情報を与えることができることから、移動体画像取得手段及び周辺物画像取得手段として採用できる。
【0056】
(表示手段)
表示手段は、色情報を付与した走行モデルと、周辺物の3次元空間情報とを重畳表示するもので、具体的には、RGBや、CMYK、NCSといった画素値を用いて表示するディスプレイが例示できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明の障害物検出方法、及び障害物検出システムは、軌道上を走行する列車や、道路上を走行する自動車に利用することができるうえ、あらゆる積荷を積載した状態で事前に障害物を検出することができる。したがって、建築限界内の障害物の有無を判断する道路管理者や鉄道事業者にとっては極めて便宜に利用でき、大型の積荷を輸送する輸送業者にとっても好適に利用できる発明である。
【符号の説明】
【0058】
1 計測車両
2 計測器
3 移動体
4 レーザー計測器
図1
図2
図3
図4
図5
図6