特許第6168412号(P6168412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168412
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】熱媒体油
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20170713BHJP
   C09F 1/04 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C09K5/10 E
   C09F1/04
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-7403(P2014-7403)
(22)【出願日】2014年1月20日
(65)【公開番号】特開2015-134888(P2015-134888A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】舟越 靖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義昌
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−109493(JP,A)
【文献】 特開平05−009481(JP,A)
【文献】 特開昭56−036569(JP,A)
【文献】 特開2012−201833(JP,A)
【文献】 特開2000−072715(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065653(WO,A1)
【文献】 米国特許第05932030(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
C09F 1/04
C10M101/000−177/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン類と炭素数1〜10の一価アルコール類からなる液状ロジンエステル類のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする熱媒体油。
【請求項2】
前記ロジン類が、精製ロジン、不均化ロジンおよび水素化ロジンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の熱媒体油。
【請求項3】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノールおよびtert−ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱媒体油。
【請求項4】
前記ロジンエステル類が、酸価が2.0mgKOH/g以下、40℃における粘度が2000mPa・s以下、沸点が300℃以上、引火点が150℃以上、および150℃における熱伝導率が0.11W/m・K以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の熱媒体油。
【請求項5】
前記ロジンエステル類におけるロジン類の含有率が50〜90重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の熱媒体油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱媒体油に関し、更に詳しくは非食用植物原料であるロジン類から誘導されるエステル系熱媒体油に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に広く用いられる熱媒体油として、優れた性能を有する合成系有機熱媒体油が知られており、例えばジアルキルナフタレン、水素化トリフェニル、ジアルキルビフェニル、トリアルキルビフェニル、ジベンジルトルエンなどが挙げられる。しかし、これら合成系有機熱媒体油の中には、環境中に放出された場合に安全性が懸念されるものもあり、例えばジベンジルトルエン、ジエチルビフェニルなどは化審法上の監視化学物質に指定されている。また、合成系有機熱媒体は、高い安定性を有する反面、低分解性であり、環境への残留や生体への蓄積が問題視されている。
【0003】
このような環境配慮の観点から、安全性に優れた天然植物系の油が再注目されている。例えば、菜種油、とうもろこし油、紅花油などの植物油の誘導体(該低級アルコールエステル化物)を電気絶縁油として使用することが提案されている(特許文献1〜3を参照)が、これら植物油誘導体を熱媒体油として用いる旨の教示も示唆もなされていない。
【0004】
ところで、植物油の多くは食用油であるため、これらを熱媒体油などの産業用途に転用することは、食糧資源の本来的使用が制限される(以下、食糧問題という)との見方もある。この考え方は、例えば、バイオ燃料における「エネルギーと食料」との競合問題と同様である。
【0005】
このような背景から、環境配慮型であり、しかも非食用の天然物に由来する新規な熱媒体油の出現が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−72715号公報
【特許文献2】特開平9−259638号公報
【特許文献3】特開2000−90740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、環境配慮および食糧問題の観点から、非食用天然物を用いた誘導体からなる新規な熱媒体油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記従来技術の課題を解決すべく、非食用天然物であるロジン類から得られるエステル化物に着目した。すなわち、該ロジンエステル類の特性と熱媒体油への適用相関に着目して鋭意検討を重ねた結果、特定のロジンエステル類が、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ロジン類と炭素数1〜10の一価アルコール類からなる液状ロジンエステル類(以下、「特定ロジンエステル類」という)のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする熱媒体油に係る。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、環境配慮型であり、しかも非食用天然物を用いた誘導体であるため前記食糧問題の懸念がない、熱媒体油を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特定ロジンエステル類の構成成分であるロジン類としては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンなどの天然ロジンが挙げられる。なお、該天然ロジンは、得られる熱媒体油の色調や熱安定性を考慮すると、蒸留、再結晶等の精製処理を施して用いるのが好ましく、該精製ロジンの色調は、ガードナー色数で2以下、より好ましくは1以下とされる。また、前記ロジン類として、必要に応じて不均化ロジン、水素化ロジンなどの変性ロジン類を用いることができ、これら変性ロジン類から誘導される特定ロジンエステル類は、天然ロジンや精製ロジンから誘導される特定ロジンエステルに比べて、熱安定性、耐酸化性などに優れる。
【0012】
特定ロジンエステル類を収得するためには、アルコール類として、炭素数1〜10の1価アルコールを用いることが必須とされる。炭素数が10を超えるアルコールを用いると、得られるロジンエステル類の粘度や流動性が低下する傾向にあり、また該アルコール類の分子量増加に伴って、ロジンエステル類中の植物由来成分であるロジン含有量も減少するため、本発明の目的とする熱媒体油を収得することは困難となる。前記炭素数1〜10の一価アルコール類のうちでは、炭素数1〜4の一価アルコールが好ましく使用できる。該アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブチルアルコールが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。なお、バイオマス由来のアルコール類を使用することにより、得られるロジンエステル類の植物由来成分率を更に高めることができる。
【0013】
特定ロジンエステル類の製造法としては、格別限定されず、従来公知のエステル化方法を採用できる。前記ロジン類とアルコール類の各仕込み量については、格別限定されないが、通常は、OH基/COOH基(当量比)が0.8〜1.5、好ましくは0.9〜1.3の範囲となるよう決定される。エステル化反応は、用いるアルコール類の沸点などを考慮して決定され、通常は反応温度が150〜320℃、好ましくは150〜300℃、また反応時間は通常10〜24時間程度とされる。更に、反応時間を短縮する目的で、パラトルエンスルホン酸などの酸触媒、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどの金属の水酸化物、酸化カルシウムや酸化マグネシウムなどの金属酸化物などの触媒存在下にエステル化反応を進行させてもよい。該反応は分水管を経由して系外に生成水を除きながら進行させることができ、得られる特定ロジンエステル類の色調をより考慮すれば、不活性ガス気流下に反応させることが望ましい。該反応は、必要があれば加圧下に行ってもよく、またロジン類やアルコール類に対して非反応性の有機溶剤を存在下に反応を進めてもよい。該有機溶剤としては、例えばヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。なお、使用溶剤や未反応原料を留去する必要があれば、適宜に減圧下で行えばよい。
【0014】
本発明で用いる特定ロジンエステル類としては、酸価が2.0mgKOH/g以下、好ましくは1.0mgKOH/g以下であり、40℃における粘度が2000mPa・s以下、好ましくは50〜1500mPa・sであり、沸点が300℃以上、好ましくは300〜500℃である。酸価を2.0mgKOH/g以下となるよう低下させることで、得られる熱媒体油が接触する金属に対する腐食性が抑制され、長期間安定的に使用できる。また上記のような粘度および沸点条件とすることで、熱媒体油としてのハンドリング性を向上させることができる。
【0015】
熱媒体油に要求される諸物性のうち代表的なものとして、例えば引火点、熱伝導率が挙げられる。本発明で用いる特定ロジンエステル類の引火点は、通常は150〜250℃、好ましくは170〜250℃である。また、特定ロジンエステル類の熱伝導率(150℃での測定値)は、通常は0.11〜0.15W/m・K、好ましくは0.12〜0.15W/m・Kである。特定ロジンエステル類の引火点および熱伝導率は、いずれも、代表的な市販品である熱媒体油の該物性値と同様であり、本発明の熱媒体油の用途に好適であることが推認できる。
【0016】
特定ロジンエステル類における植物由来成分であるロジン類の含有率は、50〜90重量%であることが好ましく、より好ましくは70〜90重量%とされる。すなわち、植物由来成分率が多く、環境負荷に貢献できる製品に付与される各国の識別表示制度に幅広く適合でき、該熱媒体油の利用幅が広がると期待しうるためである。
【0017】
本発明の熱媒体油は特定ロジンエステル類を含有することに特徴がある。本発明の熱媒体油は、特定ロジンエステル類のみから調製されたものに限定されず、本発明の目的や効果を逸脱しない限り、必要に応じて、各種公知の合成系有機熱媒体油や植物油系熱媒体油を適宜に配合したものであってもよい。また、本発明の熱媒体油には、公知の熱媒体油に用いられる各種添加剤を格別限定なく配合でき、該添加剤として例えば、酸化防止剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、油性剤、耐摩耗性剤、極圧剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、錆止め剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、殺菌剤、着色剤等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
得られたロジンエステル類の諸物性は、以下のようにして測定した。
酸価:JIS K0070に準じて測定した。
粘度:B型粘度計(製品名「VISCO BLOCK VTB−250」、(株)トキメック製、ローターNo.HM−3)を用い、40℃で測定した。
沸点:試料100mlと沸騰石をト字管が設置された内容量200mlのフラスコに入れ、温度計の水銀球の上端がト字管の留出口の中央部にくるように設置した。ついで、マントルヒーターで加熱しながら、1分間に3〜4mlの留出速度で蒸留し始めた時の温度を沸点として読み取った。
ロジン類の含有率:ロジン類の分子量を302、アルコール類の分子量をXとし、下記の式により算出した。
ロジン類の含有率(%)=〔302/(X+302)〕×100
引火点:JIS K2265に準じ、クリーブランド開放式引火点測定装置にて測定した。
熱伝導率:熱線法(JIS R2251−1を参照)に準じ、熱伝導率測定装置(商品名「ARC−TC−1000型」、アグネ社製)を用いて、150℃で測定した。
【0019】
(実施例1)
中国ガムロジンのメチルエステル(荒川化学工業(株)製、試作品)の測定値(酸価、粘度、沸点、引火点、熱伝導率)、植物由来成分率の計算値を表1に示す。
【0020】
(実施例2)
中国不均化ロジンのメチルエステル(荒川化学工業(株)製、試作品)の各測定値などを表1に示す。
【0021】
(実施例3)
中国水素化ロジンのメチルエステル(荒川化学工業(株)製、試作品)の各測定値などを表1に示す。
【0022】
(実施例4)
中国不均化ロジンのエチルエステル(荒川化学工業(株)製、試作品)の各測定値などを表1に示す。
【0023】
(実施例5)
中国不均化ロジンのブチルエステル(荒川化学工業(株)製、試作品)の各測定値などを表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1中、参考例1はNeoSK-OIL1400、参考例2はKSK-OIL260である(いずれも綜研化学(株)製の商品名)。
【0026】
表1から明らかなように、実施例1〜5に示される特定ロジンエステル類からなる熱媒体油は、参考例1〜2の市販熱媒体油と比べて、いずれも遜色がない諸物性を有することが分かる。