【実施例1】
【0025】
図1は、本願発明の実施の形態の一例である金属担持処理において予想されている化学反応を示すフロー図である。この例では、SAM を形成せず、Pd等の特別な触媒も使用せずに、金属Cuを担持させる処理を実現する場合(Pdフリー)について説明する。
図1の処理には、大きく3つのステップが含まれる。大気圧プラズマ照射ステップ(ステップSTFF1)と、水素ラジカル処理ステップ(ステップSTFF2)と、金属担持(触媒化)処理ステップ(ステップSTFF3)である。
【0026】
まず、大気圧プラズマ照射ステップ(ステップSTFF1)について、具体的に説明する。
【0027】
プラズマは、気体状態の物質にさらにエネルギーを与えることで、電離し生成される第4の状態である。プラズマ中には、荷電粒子であるイオンと電気的に中性なラジカルという活性種が存在している。これらの粒子が固体表面と衝突し、物理的及び化学的反応を起こすことにより、エッチングや表面改質が可能になる。
【0028】
プラズマでの表面処理は、従来、低圧プラズマが用いられてきた。近年、大気圧プラズマが、盛んに研究・開発されている。大気圧プラズマは、真空容器や排気装置などの高額な真空装置を必要としないため、設備投資が少ない。また、大気圧プラズマは、真空排気・大気開放工程が省略できることから、処理時間の短縮が期待できるため、コスト的に有利である。さらに、大気圧プラズマは、低圧プラズマと比較して、原料ガス分子の量が多いため、非常に高密度のプラズマの生成が可能であり、エッチングや表面改質での高速処理プロセスが期待される。そのため、大気圧プラズマは、低圧プラズマに代わる技術として注目されている。
【0029】
以下の具体例では、大気圧プラズマ処理には、μ−AP型大気圧非平衡プラズマ装置(NUエコ・エンジニアリング製)を使用した。表面を還元する目的で、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化したものを照射する。プラズマガスは、Ar+H
2(0.5 %)を使用し、ガス流量は4L/min とした。また、プラズマ照射面積は10×10mm、照射ヘッドの移動速度は10mm/secとした。
【0030】
また、素地は、無機素材を含むものである。無機素材の具体例は、Si、SiC 、SiC+Alである。これらは、化学的に安定しており、従来の技術では、めっき処理等をすることが困難であった。また、担持させる金属として、Cu、Niを検討した。Siは、これらとシリサイドを形成することが知られている。実験では、無電解Niめっき又は無電解Cuめっき後には、テープ試験により密着性評価を行った。
【0031】
図1のステップSTFF1では、SiC に対して、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化して照射する。プラズマ中の電子が処理前のSiC (Unprocessed iC)(物質MTFF1)に衝突することにより、Si−C の結合が切断され、Siダングリングボンド(未結合手)が生成される(物質MTFF2)。
【0032】
続いて、
図1のステップSTFF2において、生成されたダングリングボンドがプラズマ中の水素ラジカルと結合し、SiがSi−H として水素終端(Hydrogen termination )される(物質MTFF3)。
【0033】
続いて、
図1のステップSTFF3において、水素終端された素地を、Cuの水溶液に浸漬する。これにより、H とCuの置換反応が進行し、Cuシリサイドが形成される(物質MTFF4)。さらに、そこを触媒核として、自己触媒機能により、無電解Cuめっきが実現する。
【0034】
図2は、SiC+Alを用いてプラズマを照射した後、Pdを使用することなく、Cuめっきを行った実験結果を示す。
図2にあるように、SiC+Alウエハー上にCuめっき皮膜を得ることができた。Siは、一般的に、Cuとシリサイドを形成することが知られている。特に、CuはH に比べ貴である(すなわち、標準電極電位が水素よりも高い。)。大気圧プラズマ照射後にCuの水溶液に浸漬することで置換反応が進行し、Cuシリサイドが形成され、そこを触媒核として無電解Cuめっきが実現することができたものと考えられる。よって、素地に大気圧プラズマを照射することによって十分に表面改質を行うことができれば、触媒としてレアメタルであるPdを使用しない、Pdフリーでのめっき処理が可能であることがわかる。
【0035】
図3は、Siウエハーを用いてプラズマを照射した後、Pdを使用することなく、Cuめっきを行った実験結果を示す図である。(a)及び(b)と(c)及び(d)とは、それぞれ、異なる素地に対して実験を行ったものである。(b)は、(a)のめっき部分を100 倍に拡大したものである。(d)は、(c)のめっき部分を100 倍に拡大したものである。
【0036】
図3(a)及び(c)にあるように、本具体例の手法により、密着性のよいCuめっきが得られた。特に、
図3(a)にあるように、本実施例の手法により、エッチング痕がほとんど存在せず、光沢のあるCuめっき皮膜が得られた。ただし、
図3(c)にあるように、密着性の良いCuめっきが得られても、大きなエッチング痕が多数存在する場合があった。この場合、エッチングされた部分のみCuめっきが析出していた。2種類のサンプルは、Siウエハーの抵抗率によって表面状態が異なったものと考えられる。テスターで両サンプルの抵抗値を測定したところ、エッチング痕が発生しなかったSiウエハーは、発生したSiウエハーよりも約1000倍抵抗値が大きかった。このことより、エッチング痕が発生したサンプルでは、電流の偏りがあったことが予想される。つまり、電流が流れやすい個所(例えば、Siウエハー上でSi酸化被膜が薄い個所、キズがついている箇所、など)に優先的にプラズマ電流が流れたために、大きなエッチング痕が発生したと考えられる。よって、素地の抵抗が高い場合には、バイアス電圧を印加することにより、電流の偏りをなくし、質のよいめっきが実現できる。他方、例えばSiC+Alのように、金属が含まれて素地の抵抗が低い場合には、バイアス電圧を印加しないことにより、電流の偏りをなくし、質のよいめっきを実現することができる。
【0037】
以上より、アルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化したものを照射することにより、無機材料に、密着性のよいめっきを形成することが可能である。また、表面改質を十分に行うことにより、触媒としてレアメタルであるPd等を使用することなく、めっき処理が可能である。さらに、大気圧プラズマを照射することによって、従来の脱脂、エッチング、SAM 等の前処理工程が省略可能となる。
【0038】
図4は、
図1の金属担持処理を実現する金属担持処理装置の構成の一例を示す概略ブロック図である。金属担持処理装置1は、照射部3と、金属担持部5を備える(照射部3と金属担持部5を併せたものが
、「担持手段」の一例である。)。照射部3では、素地に対してアルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化したものを照射する(
図1のステップSFF1及びSTFF2参照)。そして、金属担持部5では、照射部3による処理後の素地を、金属の水溶液に浸漬する(
図1のステップSFF3参照)。これにより、無機素材と金属とを結合させることが可能になる。
【0039】
続いて、SAM を形成せず、Pd等の特別な触媒も使用せず(Pdフリー)に、Niめっき処理を実現する場合について、説明する。手順及び想定される反応メカニズムは、以下のとおりである。まず、Siウエハーに対して大気圧プラズマを照射する。そして、大気圧プラズマを照射後に、Cu水溶液に浸漬することにより、置換反応が進行し、Cuシリサイドが形成される(
図1のステップSTFF3及び物質MTFF4参照)。続いて、Cuシリサイドを触媒核として、無電解Niめっきが析出する。
【0040】
図5は、Pd等を使用することなく、Niめっきを行った実験結果を示す図である。
図5において、点線四角部分が、プラズマ照射部である。
図5より、この処理によって、Niめっきを実現することが可能であることがわかる。
【実施例2】
【0041】
この実施例では、
図6〜
図9を参照して、触媒としてPdを使用して、SAM を形成せずにめっき処理を実現する場合(SAM フリー)について説明する。プラズマ処理により、SiC+Alウエハー表面が活性化している状態であれば、SAM を形成しなくても、SiC 等に対してめっき処理を行うことができることを示す。
図6は、本願発明の実施の形態の他の一例である金属担持処理において予想されている化学反応を示すフロー図である。素地がSiC+Alであり、担持させる金属がNiである場合について、処理による変化を具体的に示しつつ説明する。
【0042】
図6も、
図1と同様に、大きく3つのステップが含まれる。大気圧プラズマ照射ステップ(ステップSTFC1)と、水素ラジカル処理ステップ(ステップSTFC2)と、金属担持ステップ(ステップSTFC3)である。金属担持のステップにおいて、Pdで置換させる点が異なる。
図6の処理も、
図4の金属担持処理装置と同様に実現することが可能である。
【0043】
図6のステップSTFC1及びステップSTFC2の処理は、それぞれ、
図1のステップSTFF1及びステップSTFF2の処理と同じである。そして、ステップSTFC3において、水素終端された素地を、PdCl2 水溶液(本実施例では、0.01g/L のものを使用した。)に浸漬することで、Pdシリサイド(Si−Pd)が形成される(触媒化により、物質MTFC4が形成される。)。ここで、水素終端することなく単純にPdCl2 水溶液に浸漬した場合には、表面に触媒が存在する状態にとどまる。そのため、密着性のよいものは得られない。
図6では、Pdシリサイドは共有結合であるため、密着性の良好なめっき皮膜が得られる。そして、これを無電解Niめっき液に浸漬することにより、Pdを触媒核として無電解Niめっきが実現する。
【0044】
図7は、SiC+Alウエハーに対し、大気圧プラズマ照射後、Pdを付与し、無電界Niめっきを行い、テープ試験後の実験結果を示す図である。(a)は、バイアス電圧(bias voltage )を印加した場合であり、(b)は、バイアス電圧を印加していない場合である。プラズマを照射することで、照射された素地に、めっき皮膜を得ることができた。さらに、SiC 上にもめっきは析出しており、めっき後のテープ剥離試験では剥がれは発生しなかった。そのため、密着性のよいめっき皮膜を得ることができた。しかし、(a)にあるように、得られためっき皮膜は、プラズマ照射によるエッチング痕が多数発生していた。そのため、非常に荒れた状態であった。そこで、バイアス電圧を印加せずに大気圧プラズマ処理を行った。これにより、(b)にあるように、エッチング痕は緩和され、光沢のあるめっき皮膜を得ることができた。エッチング痕は、Alが分布している箇所に主に発生していた。これは、Alは、SiC と比較して、電流が流れやすいために起こったのではないかと考えられる。そのため、バイアス電圧を印加せずにプラズマ照射強度を弱くすることで、Al+SiCウエハー表面の電流の偏りを緩和できると予想される。
【0045】
図8は、Siウエハーに対して大気圧プラズマ照射後、Pdを付与し、無電解Niめっき処理を行った実験結果を示す図である。Pdを付与した無電解Niめっきにより、SiC+Alウエハーと同様に、照射された部分では、密着性の良いNiめっき皮膜が得られた。
【0046】
図9は、SiC ウエハーに対してプラズマ照射後めっき処理を行った実験結果を示す図である。(a)は、プラズマ照射前の表面状態を示すグラフである。(b)は、プラズマ照射後の表面状態を示すグラフである。縦軸は、表面状態の変化(μm)を示し、横軸は、位置(mm)を示す。(c)は、SiC ウエハーに対してアルゴンと水素の混合ガスをプラズマ化したものを照射後、Pdを付与し、無電解Niめっき処理を行った実験結果を示す図である。(a)及び(b)より、プラズマ照射後の表面状態は、エッチング痕が多数あり面が荒くなっている。また、(c)より、Pdを付与した無電解Niめっきでは、照射された部分で、密着性の良いめっき皮膜が得られた。この結果より、Pdを付与してめっきした場合、Pdを触媒として析出しためっき皮膜は、面が荒れたことによるアンカー効果によって密着性を保つことができた可能性が考えられる。
【0047】
以上より、大気圧プラズマ処理後、SAM を形成せずに無電解Niめっきを行うと、照射された部分にのみ、密着性のよいめっき皮膜が得られた。よって、大気圧プラズマ処理を行うことにより、SAM フリーでのめっきが可能である。さらに、触媒Pdを使用することから、例えばCu等の他の金属についても、同様に、めっき処理等が可能であると考えられる。