(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.触媒
1−1 担体
1−2 触媒活性金属
2.触媒の製造方法
2−1 ゾルゲル法による複合酸化物の製造
2−2 触媒活性金属の担持
2−3 還元活性化処理
3.燃料電池システム
3−1 燃料電池システムの構成
3−2 燃料電池システムの動作
4.本実施形態の効果
【0023】
(1.触媒)
本実施形態に係る触媒は、ゾルゲル法により製造され、Ce(セリウム)とZr(ジルコニウム)との複合酸化物から構成される担体に、Co(コバルト)を少なくとも含む触媒活性金属が担持されている構成を有している。この触媒は、炭化水素ガスと接触することにより、炭化水素ガスを改質して、CO(一酸化炭素)とH
2(水素)とを得る反応を促進するよう作用する。触媒の作用については後述する。
【0024】
(1−1 担体)
本実施形態では、担体を構成するCeとZrとの複合酸化物は、一般式を用いて、Ce
xZr
yO
2−zで表すことができる。上記の式において、x+y=1.0であり、「x」は、0.2≦x≦0.8の関係を満足することが好ましく、0.3≦x≦0.7の関係を満足することがより好ましく、0.4≦x≦0.6の関係を満足することがさらに好ましい。
【0025】
また、該複合酸化物は、蛍石型結晶構造を有しており、上記の「x」は、蛍石型結晶構造におけるCeサイトに対するZrの置換量を示している。このCeとZrとの複合酸化物においては、Ce
3+イオンとCe
4+イオンとの間で可逆的な酸化還元反応が生じやすいため、該複合酸化物の酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)が高い。
【0026】
そこで、本実施形態では、該複合酸化物に酸素欠陥を導入する。酸素欠陥が導入された複合酸化物に酸素を供給すると、酸素欠陥を減らす反応、すなわち、酸化反応が生じる。該反応は発熱反応であるため、この発熱反応により生じる熱により、担体としての複合酸化物自体の温度が上昇するため、外部からのエネルギーを供給することなく、常温で触媒が起動し触媒の温度を上げることができる。すなわち、上記の複合酸化物を有する本実施形態に係る触媒は自己発熱能を示す。
【0027】
触媒の温度が上がると、触媒に接触する炭化水素の燃焼反応が進行しやすくなるため、その燃焼によりさらに触媒の温度が上がる。その結果、炭化水素の改質反応が進行しやすくなる。そして、発熱反応である炭化水素の燃焼反応と、吸熱反応である炭化水素の改質反応と、が釣り合い、水素が安定的に生じる。
【0028】
特に、ゾルゲル法により製造されたCeとZrとの複合酸化物は、それ自体の触媒能が比較的に高いため、炭化水素の改質反応が効率的に進行し、水素(H
2)収率を高くすることができる。すなわち、同じ組成であれば、ゾルゲル法により製造された複合酸化物の触媒能は、ゾルゲル法以外の方法により製造された上記の複合酸化物の触媒能よりも高い。
【0029】
導入される酸素欠陥量は、上記の一般式において、「z」として表すことができる。「z」は、0.04≦zであることが好ましい。なお、「z」は2未満であるが、本実施形態では、上記の蛍石型結晶構造を維持できる程度の酸素欠陥量が上限となる。複合酸化物に酸素欠陥を導入する方法は後述する。
【0030】
(1−2 触媒活性金属)
本実施形態では、触媒活性金属は、Co(コバルト)を少なくとも含む。したがって、触媒活性金属は、Coと他の金属との混合物であってもよい。このような混合物としては、たとえば、Coと貴金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等)との混合物、Coと、遷移金属(Ni、Cu等)と、の混合物等が例示される。
【0031】
また、触媒における触媒活性金属の含有量(担持量)は、担体100質量%に対して、Coが0.1〜10質量%の範囲内である。ゾルゲル法により製造された上記の複合酸化物に、Coを上記の範囲で担持させることにより、より高いH
2(水素)収率を実現することができる。本実施形態では、H
2収率は60%以上であることが好ましい。
【0032】
なお、ゾルゲル法以外の方法により製造された上記の複合酸化物に、触媒活性金属としてCoを含む遷移金属を担持させても、高いH
2(水素)収率を実現することはできない。
【0033】
さらに、触媒活性金属の含有量(担持量)は、担体100質量%に対して、Coが0.1〜1質量%の範囲内であることが好ましい。このようにすることにより、上記の効果に加えて、炭化水素の改質反応において触媒上に析出する炭素量を低減することができる。炭素は触媒活性金属上に析出することが多いため、触媒活性金属が担持されていない場合に、炭素析出量が最も少なくなると予想される。しかしながら、本実施形態に係る触媒は、触媒活性金属としてのCoを上記の範囲で担持させることにより、触媒活性金属を担持させない場合よりも炭素の析出を抑制することができる。
【0034】
(2.触媒の製造方法)
上記の触媒は、CeとZrとの複合酸化物をゾルゲル法により製造し、該複合酸化物に、Co(コバルト)を少なくとも含む触媒活性金属を担持させ、該複合酸化物に酸素欠陥を導入することにより製造される。以下、触媒の製造方法について具体的に説明する。
【0035】
(2−1 ゾルゲル法による複合酸化物の製造)
まず、CeとZrとの複合酸化物をゾルゲル法により製造する。ゾルゲル法としては、たとえば、金属アルコキシドを用いる方法等が例示されるが、本実施形態では、ゾルゲル法の一種である錯体重合法によりCeとZrとの複合酸化物を製造する。
【0036】
錯体重合法では、まず、複合酸化物の原料として、CeおよびZrの金属塩をそれぞれ準備する。金属塩としては、特に制限されず、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等を用いればよい。これらの金属塩をクエン酸溶液に溶解させると、CeおよびZrのクエン酸錯体がそれぞれ形成され、該錯体は溶液中に均一に分散する。
【0037】
次に、CeおよびZrのクエン酸錯体が存在する溶液に、エチレングリコール等のグリコール溶液を添加し、撹拌しながら120℃程度まで加熱する。その結果、クエン酸とグリコールとのエステル重合反応が生じて溶液の粘度が上昇し、CeおよびZrが均一に分散したゲル状のポリエステル樹脂が得られる。
【0038】
得られたポリエステル樹脂を所定の温度(たとえば、300℃)で熱処理することにより、有機成分の一部あるいは全部を除去して、CeとZrとの複合酸化物の前駆体が得られる。得られた前駆体を所定の温度(たとえば、800℃)で熱処理することにより、CeとZrとの複合酸化物を得ることができる。なお、この複合酸化物は、酸素欠陥を有していないか、あるいは、有していても極微量である。
【0039】
(2−2 触媒活性金属の担持)
続いて、得られた複合酸化物(担体)に、上述した触媒活性金属を担持させる。触媒活性金属を担持させる方法としては特に制限されない。本実施形態では、触媒活性金属の原料を溶媒に溶解し、担体としての複合酸化物の粉体を溶媒に投入して、溶媒を蒸発させることにより、触媒活性金属を担体に担持させる。
【0040】
なお、「触媒活性金属が担体に担持されている」とは、触媒活性金属が担体上に固定されていることをいう。触媒活性金属は、何らかの物質を介して固定されていてもよいし、直接固定されていてもよい。また、担体の一部に固定されていてもよいし、担体の表面を被覆していてもよい。
【0041】
触媒活性金属の原料としては、溶媒に溶解できる原料であれば、特に制限されず、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。溶媒も特に制限されず、たとえば、水等が例示される。また、触媒活性金属が複数の金属である場合には、担体に同時に担持させてもよいし、逐次担持させてもよい。
【0042】
触媒活性金属が担持された担体は、必要に応じて、熱処理等により、担体に含まれる不純物が除去される。不純物としては、複合酸化物あるいは触媒活性金属に含まれる有機成分、配位子等が例示される。
【0043】
(2−3 還元活性化処理)
続いて、触媒活性金属が担持された複合酸化物(担体)に酸素欠陥を導入するために、還元活性化処理を行う。還元活性化処理後の担体には、複合酸化物内部で生じる酸化反応に起因する自己発熱能が付与され、本実施形態に係る触媒が製造される。
【0044】
還元活性化処理は、触媒の自己発熱能による発熱を契機として炭化水素の改質反応が進行し始める程度の酸素欠陥を導入できるような処理であれば、特に制限されない。本実施形態では、固定床流通式の反応装置を用いて、複合酸化物を所定の温度に保持して、還元性ガスに曝すことにより、酸素欠陥を導入する。還元活性化処理を行う温度としては、触媒活性金属の種類、複合酸化物の組成等に応じて決定すればよいが、本実施形態では、200〜400℃の範囲内とすればよい。なお、本明細書では、還元活性化処理を行う温度を最低還元温度ともいう。
【0045】
(3.燃料電池システム)
次に、本実施形態に係る触媒を用いる水素製造装置を含む燃料電池システムについて説明する。
【0046】
(3−1 燃料電池システムの構成)
燃料電池システムにおける燃料電池の方式としては特に制限されないが、以下では、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を用いたシステムについて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システム10は、主として、炭化水素ガス供給器12と、酸素供給器13と、改質器14と、SOFC30と、を有する。改質器14には、本実施形態に係る触媒が配置されている。また、本実施形態に係る水素製造装置は、主として、炭化水素ガス供給器12と、酸素供給器13と、改質器14と、から構成される。
【0047】
炭化水素ガス供給手段の一例としての炭化水素ガス供給器12は、混合弁16およびバルブ17を介して、本実施形態に係る触媒が配置された改質器14に炭化水素ガスを供給する。供給された炭化水素ガスは、改質器14内において燃焼反応および改質反応に用いられる。また、炭化水素ガス供給器12は、脱硫装置を有していてもよい。なお、炭化水素ガス供給器12から供給される炭化水素ガスは特に制限されないが、本実施形態では、炭素数が3以上の炭化水素ガスあるいは該炭化水素を主成分とするガスであることが好ましい。
【0048】
酸素ガス供給手段の一例としての酸素ガス供給器13は、混合弁16およびバルブ17を介して、改質器14に酸素ガスを供給する。供給された酸素ガスは、改質器14内において、本実施形態に係る触媒の自己発熱能を発揮させるため、あるいは、炭化水素ガスの燃焼反応を促進するために用いられる。なお、酸素ガス供給器13から供給される酸素ガスは純酸素であってもよいが、窒素等が含まれていてもよく、空気であってもよい。
【0049】
改質手段の一例としての改質器14には、上述したように本実施形態に係る触媒が配置されている。改質器14に供給されるガス(炭化水素ガス、酸素ガス等)は、触媒の自己発熱能を発揮するための酸化反応と、炭化水素の燃焼反応と、炭化水素の改質反応と、に用いられ、その結果、主として、H
2(水素)ガスおよびCO(一酸化炭素)ガスのような改質ガス15が生じる。改質器14で生じた改質ガス15は、バルブ18を介して、SOFC30に供給される。
【0050】
混合弁16は、炭化水素ガス供給器12から供給される炭化水素ガスと、酸素ガス供給器13が供給する酸素ガスと、を混合して改質器14に供給する。また、混合弁16は、炭化水素ガスの流量と酸素ガスの流量とを調整する機構を有しており、改質器14に供給する炭化水素ガスと酸素ガスとの割合を可変にできる。
【0051】
SOFC30は、シールレス仕切り板31により、アノード領域32とカソード領域33に分けられている。固体電解質34は、一端が閉じた円筒形を有している。閉端側はアノード領域32に配置され、開端側はカソード領域33に配置されている。そのため、固体電解質34の外側はアノード領域32と接しており、固体電解質34の内側はカソード領域33と接している。また、酸素ガス供給パイプ35が、固体電解質34の開端部から挿入され、その先端がカソード領域33に配置されている。酸素ガス供給パイプ35の他端は、図示しない酸素ガス供給部に接続されている。酸素ガス供給パイプ35から供給される酸素も、純酸素ばかりでなく、空気であってよい。また、固体電解質34の外側には負極36が配置され、内側には正極37が配置される。なお、SOFC30のカソード領域33には、燃焼後の排気ガス排出口39が配設されている。
【0052】
(3−2 燃料電池システムの動作)
次に、本実施形態に係る燃料電池システム10の動作について説明する。具体的には、燃料電池システム10が停止している状態から起動し、発電を行うまでの動作について説明する。なお、停止している状態とは、改質器14およびSOFC30の両方が常温である状態をいう。
【0053】
まず、燃料電池システム10を起動するために、炭化水素ガス供給器12から炭化水素ガスを供給し、酸素ガス供給器13から酸素ガスを供給する。これらのガスは混合弁16を介して混合され、炭化水素ガスと酸素ガスとの混合ガスが改質器14に供給される。炭化水素ガスと酸素ガスとの割合は適宜決定すればよい。
【0054】
改質器14に配置されている本実施形態に係る触媒は、混合ガス中の酸素ガスと接触すると、下記の式(1)に示す反応により、触媒を構成する複合酸化物が酸化され発熱する。すなわち、触媒の自己発熱能が発揮され、外部からエネルギーを供給することなく発熱する。
Ce
xZr
yO
2−z+0.5zO
2 → Ce
xZr
yO
2 …式(1)
【0055】
この発熱により、触媒自体の温度が上昇し、下記の式(2)に示す燃焼反応が進行しやすくなる。すなわち、触媒の自己発熱による熱を駆動力として、式(2)に示す反応が進行する。
C
nH
m+(n+0.25m)O
2 → nCO
2+0.5mH
2O …式(2)
【0056】
式(2)に示す燃焼反応が進行すると、さらに触媒の温度が上昇する。そして、下記の式(3)および(4)に示す炭化水素の改質反応が進行する温度まで上昇すると、式(3)および(4)により、H
2(水素)ガスおよびCO(一酸化炭素)ガスを含む改質ガス(水素含有ガス)が生じる。改質反応の進行度合いの指標としては、水素収率に加え、たとえば、炭化水素ガスが反応に消費される割合(転化率)が例示される。
C
nH
m+nH
2O → nCO+(0.5m+n)H
2 …式(3)
C
nH
m+nCO
2 → 2nCO+0.5mH
2 …式(4)
【0057】
生じたH
2ガスおよびCOガスは、改質ガス15として、改質器14からバルブ18を介して、SOFC30に供給される。その結果、SOFC30において、改質ガス15と接触する固体電解質34の外側は燃料極となる。一方、酸素供給パイプ35から供給される酸素ガスと接触する固体電解質34の内部は空気極となる。その結果、燃料極と空気極との間において電気化学反応が生じ、負極36と正極37とに接続されている負荷38に電流が流れ、電力として取り出すことができる。すなわち、燃料電池システム10が発電する。
【0058】
本実施形態に係る触媒は自己発熱能を有しているため、上述した操作を行うことにより、燃料電池システム10を常温状態から起動することができるが、起動後に、該触媒を構成する複合酸化物が酸化された場合には、触媒の自己発熱能が失われる。そこで、触媒の自己発熱能を回復させるために、下記に示す構成を採用する。
【0059】
すなわち、
図1に示すように、燃料電池システム10は、改質器14で生じた水素ガスを含む改質ガス15を貯留するタンク40と、改質器14を加熱する熱源41と、熱源41を駆動する電源42と、電源42を充電する充電制御器43と、をさらに有している。タンク40は、改質器14において生じる改質ガス15を所定量蓄積することができる。また、負極36と正極37とからは電源42に充電するための配線が充電制御器43に接続されており、燃料電池システム10の稼働中に電源42を充電することができる。
【0060】
触媒の自己発熱能を回復させるには、まず、改質器14にタンク40が接続されるようにバルブ17を切り替えるとともに、外気側にガスが流れるようにバルブ18を切り替える。次に、タンク40に蓄積された改質ガス15を流しながら、電源42により熱源41を駆動して改質器14を加熱する。熱源41は、上述した還元活性化処理と同様に、改質器14を200〜400℃の範囲内に保持できる程度の熱を放出できればよい。改質ガスには、複合酸化物を還元できる還元性ガス(H
2(水素)ガスおよびCO(一酸化炭素)ガス)が含まれているため、還元活性化処理を行うことができ、触媒の自己発熱能が回復する。
【0061】
還元活性化処理が終了すると、バルブ17、18を閉じ、熱源41の駆動を停止する。そして、上述した操作を行って、燃料電池システム10を稼働させればよい。
【0062】
したがって、本実施形態に係る燃料電池システムは、本実施形態に係る触媒を有しているため、自立型のオンサイト用燃料電池システムに好適である。
【0063】
(4.本実施形態の効果)
本実施形態によれば、ゾルゲル法により製造されたCeとZrとの複合酸化物を担体として用い、該担体に、Co(コバルト)を少なくとも含む触媒活性金属を担持させた触媒が得られる。ゾルゲル法により製造されたCeとZrとの複合酸化物自体が、比較的に高い触媒能を有しているため、Coを少なくとも含む触媒活性金属を該複合酸化物に担持させることにより、本実施形態に係る触媒は、高い水素収率を実現することができる。
【0064】
このような高い水素収率は、ゾルゲル法により製造された上記の複合酸化物に、触媒活性金属としてCoを担持させることにより得られる効果である。換言すれば、高価な貴金属を触媒活性金属として用いなくても、ゾルゲル法により製造された上記の複合酸化物に、安価な触媒活性金属であるCoを担持させることにより、高い水素収率(たとえば、60%以上)が得られる。
【0065】
このような複合酸化物は、特に、ゾルゲル法の一種である錯体重合法を用いて、製造することが好ましい。すなわち、複合酸化物を構成することになるCe(セリウム)およびZr(ジルコニウム)のクエン酸錯体を作製して、このクエン酸錯体とグリコールとのエステル重合反応により、CeおよびZrを含むゲル状のポリエステルを得る。得られたポリエステルを熱処理することにより、CeとZrとの複合酸化物を製造することができる。
【0066】
また、担体に対するCoの含有量(担持量)を上述した範囲とすることにより、触媒に析出する炭素量を抑制することができる。その結果、改質反応を繰り返す場合に、炭素の析出に起因する水素収率の低下を抑制することができる。通常、炭素の析出は、触媒活性金属上に見られるため、触媒活性金属を担持させると、炭素の析出量が多くなると想定される。ところが、本実施形態によれば、特定量のCoを担体に担持させることにより、触媒活性金属を担持させない場合よりもむしろ、炭素の析出を抑制することができる。
【0067】
本実施形態に係る触媒を用いることで、炭化水素ガスの改質反応が効率的に進行し、その結果、水素含有ガスを効率よく製造することができる。したがって、本実施形態に係る触媒を有する水素製造装置は、水素製造に好適である。特に、本実施形態に係る触媒は、自己発熱能を有しているため、常温で起動および停止を行うオンサイト用燃料電池システムに好適である。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0070】
(試験1)
試験1では、触媒の特性として、炭化水素ガスとしてのn−C
4H
10の転化率と、水素収率と、を測定した。まず、触媒の担体を構成する複合酸化物を以下のようにして製造した。
【0071】
(複合酸化物の製造)
(溶液Aの作製)
2Lビーカー内で、セリウムの硝酸塩として、21.93g(Ceが0.05mol)のCeNO
3・6H
2O (関東化学製)、および、ジルコニウムの硝酸塩として、13.78g(Zrが0.05mol)のZrO(NO
3)・2H
2O(和光純薬工業製)を350mLの水に添加して溶解し、金属塩水溶液である溶液Aを作製した。
【0072】
(溶液Bの作製)
1Lビーカー内で、98gのクエン酸(和光純薬工業製)を400mlの水に添加して溶解し、クエン酸水溶液である溶液Bを作製した。
【0073】
次に、溶液A(金属塩水溶液)に溶液B(クエン酸水溶液)を添加して撹拌し、さらに、グリコール溶液としてのエチレングリコール(和光純薬工業製)を56mL添加し、スラリーを作製した。作製したスラリーにスターラーを入れ、ホットプレート上で加熱撹拌しながら水を蒸発させた。水の蒸発後、縮合重合反応(エステル重合反応)が開始したと同時にスターラーを止め、ガラス棒で撹拌した。縮合重合反応の終了後に得られるゲル状のポリエステル樹脂を1Lビーカーに移してスターラーも取り出した。その後、ゲル状のポリエステル樹脂が茶色になるまで加熱撹拌し、120℃に保持した乾燥機内で一晩乾燥させることにより、粉末状のCeとZrとの複合酸化物の前駆体を得た。
【0074】
得られた前駆体の粉末を300℃、2時間の条件で熱処理を行った後、さらに粉砕して焼成皿上で、800℃、5時間の条件で焼成することで、CeとZrとの複合酸化物を得た。この複合酸化物は、一般式Ce
0.5Zr
0.5O
2で表される複合酸化物であった。すなわち、一般式Ce
xZr
yO
2−zにおいて、x=y=0.5、かつz=0であり、複合酸化物に酸素欠陥は導入されていなかった。
【0075】
(複合酸化物への触媒活性金属の担持)
次に、得られた複合酸化物(Ce
0.5Zr
0.5O
2)の表面に、表1に示す量の表1に示す触媒活性金属を以下に示す方法により担持させた。なお、表1に示す量は、担体である複合酸化物100質量%に対する量である。
【0076】
(実施例1)
300mLビーカー内で、コバルトの硝酸塩として、0.50gのCo(NO
3)
2・6H
2O (和光純薬工業製)を蒸留水に添加して溶解し、0.15LのCo水溶液を得た。次に、上述の方法により作製した10gのCe
0.5Zr
0.5O
2を、Co水溶液に添加した後、室温で12時間撹拌して、溶液と複合酸化物とを混合して完全になじませた。
【0077】
その後、混合物を加熱型ホットスターラー上で加熱撹拌し、水分を蒸発させることにより複合酸化物の表面にCoを被覆し、さらに、乾燥機により60℃、24時間の条件で乾燥して、Coが担持された複合酸化物を得た。
【0078】
次に、この複合酸化物を磁性乳鉢で粉砕した後、パイレックス(登録商標)ガラス製の容器に挿入し、縦型管状炉中で空気中450℃、5時間の条件で熱処理を施した。なお、昇温速度は10℃/minであった。熱処理後、室温まで自然に冷却した。
【0079】
(実施例2)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)の添加量を0.05gとしたこと以外は実施例1と同様の手順により、Coが担持された複合酸化物を調製した。
【0080】
(実施例3)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)とともに、0.029mgのRh(NO
3)
3・nH
2O(Rh純度35.3%)(株式会社ミツワ化学製)を蒸留水に添加したこと以外は、実施例1と同様の手順により、CoおよびRhが担持された複合酸化物を調製した。すなわち、実施例3では、複合酸化物に、触媒活性金属として、CoおよびRhを同時に担持させた。
【0081】
(実施例4)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)の添加量を0.05gとしたこと以外は実施例3と同様の手順により、CoおよびRhが担持された複合酸化物を調製した。
【0082】
(実施例5)
まず、実施例1と同様の手順により、Coが担持された複合酸化物を調製し、粉末Aとした。
【0083】
次に、300mLビーカー内で、0.029mgのRh(NO
3)
3・nH
2O(Rh純度35.3%)(ミツワ化学製)を蒸留水に添加して溶解し、0.15LのRh水溶液を得た。続いて、上記の粉末A10gを、Rh水溶液に添加した後、室温で12時間撹拌して、溶液と粉末Aとを混合して完全になじませた。
【0084】
その後、混合物を加熱型ホットスターラー上で加熱撹拌し、水分を蒸発させることで粉末Aの表面にRhを被覆し、さらに、乾燥機により60℃、24hの条件で乾燥して、CoおよびRhが担持された複合酸化物を調製した。すなわち、実施例5では、複合酸化物にCoを担持させた後に、Rhを担持させた。
【0085】
次に、CoおよびRhが担持された複合酸化物を、実施例1と同様の条件で熱処理を行った。
【0086】
(比較例1)
触媒活性金属を担持させなかった以外は実施例1と同様の手順により、触媒活性金属が担持されていない複合酸化物を調製した。
【0087】
(
参考例1〜3)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)の添加量を5.0g(
参考例1)、2.5g(
参考例2)、1.5g(
参考例3)とした以外は実施例1と同様の手順により、Coが担持された複合酸化物を調製した。
【0088】
(
参考例4〜5)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)の添加量を5.0g(
参考例4)、2.5g(
参考例5)とした以外は実施例3と同様の手順により、CoおよびRhが同時に担持された複合酸化物を調製した。
【0089】
(
参考例6〜7)
Co(NO
3)
2・6H
2O(和光純薬工業製)の添加量を5.0g(
参考例6)、2.5g(
参考例7)とした以外は実施例5と同様の手順により、CoおよびRhが逐次担持された複合酸化物を調製した。
【0090】
(比較例2)
担体である複合酸化物(Ce
0.5Zr
0.5O
2)を以下に示す沈殿法により調製した以外は、実施例1と同様の手順により、Coが担持された複合酸化物を調製した。
【0091】
沈殿法では、まず、0.5Lビーカー内で、セリウムの硝酸塩として、53.1gのCeNO
3・6H
2O(和光純薬工業製)と、ジルコニウムの硝酸塩として、33gのZrO(NO
3)・2H
2O(和光純薬工業製)と、を0.3Lの蒸留水に添加して溶解し、前駆体水溶液(A)を作製した。
【0092】
次に、1Lビーカー内で、0.2LのNH
3水(濃度25%)をスターラーで撹拌した。そして、マイクロチューブポンプにより、上記の前駆体水溶液(A)をNH
3水に滴下した。その際、滴下速度は2mL/min程度とした。前駆体水溶液(A)の滴下終了後、NH
3水を一晩撹拌した。次の日に、吸引ろ過および1Lの蒸留水での洗浄を3回繰り返し、最後に吸引ろ過を行い、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を磁製の蒸発皿に載せ、70℃、12時間以上の条件で乾燥した。その後、排気焼成炉中で300℃、3時間保持し、仮焼成した。さらに、乳鉢で粉砕した後に焼成炉を用い、空気中で550℃、3時間の条件で熱処理し、さらに、空気中で800℃、5時間の条件で熱処理して、担体としての複合酸化物(Ce
0.5Zr
0.5O
2)を得た。
【0093】
(還元活性化処理)
上記で得られた担体(複合酸化物)の粉末に、固定床流通式の反応装置を用いて、以下に示す還元活性化処理を行った。まず、常圧固定床流通式反応装置に備えられた石英反応管に、該担体の粉末を0.1g充填して触媒層とした。なお、石英反応管の外径は9.9mm、内径は7.0mmであった。
【0094】
続いて、通過速度が30mL/min、圧力が0.1MPa、処理温度(最低還元温度)が200〜400℃の条件で純水素(H
2)を石英反応管内に供給して、還元活性化処理を行い、複合酸化物に酸素欠陥を導入して触媒を得た。なお、最低還元温度までの昇温速度は10℃/minとし、最低還元温度における保持時間を1時間とした。
【0095】
得られた触媒に対し、炭化水素ガスとしてのn−C
4H
10と、酸素ガスと、空気と、を供給し、n−C
4H
10が上述した燃焼反応および改質反応に消費された割合(n−C
4H
10転化率)と、改質反応により生じる水素ガスの収率(H
2収率)と、を以下に示す方法により測定した。
【0096】
(n−C
4H
10転化率およびH
2収率)
この測定は、還元活性化処理に引き続いて行った。まず、触媒に供給するガスをAr(アルゴン)に切り替え、流量を50mL/minとして、触媒層を、室温まで冷却した。そして、測定開始時の触媒層入口温度を100℃、反応圧力を0.1MPa、反応ガスの混合比をn−C
4H
10/O
2/Ar=1/2/4(モル比)、全ガス供給速度を407mL/分、空間速度(SV)を248L/時間・gとした条件下で、反応ガスを触媒に供給して測定を開始した。
【0097】
反応ガスを供給してから60min後の反応生成物をTCD検出器付きガスクロマトグラフ(Agilent Techonologies製6890N、カラムはHP-PLOT MolesieveおよびHP-PLOT Q)により分析し、n−C
4H
10転化率およびH
2収率を算出した。結果を表1に示す。また、実施例1、2、
参考例1〜3、比較例1および2について、Coの含有量と、H
2収率と、の関係を
図2に示す。
【0098】
なお、測定の間、電気炉による加熱は行っておらず、反応で生成した熱により触媒層は加熱された。また、n−C
4H
10転化率およびH
2収率は、カーボンバランスを考慮し、下記の数式(1)〜(3)により算出した。
【数1】
【数2】
【数3】
【0099】
【表1】
【0100】
表1および
図2より、ゾルゲル法により製造されたCeとZrとの複合酸化物を担体として、該担体に、触媒活性金属としてCo(コバルト)を担持された触媒(実施例1〜12)は、H
2収率が高いことが確認できた。これは、n−C
4H
10の転化が安定して進行したためだと思われる。
【0101】
これに対し、担体を沈殿法により製造した場合(比較例2)、H
2収率が極めて低く、ゾルゲル法で製造された担体のみの触媒よりもH
2収率が低いことが確認できた。
【0102】
(試験2)
試験2では、試験1の実施例1、2および
参考例2、比較例1について、改質反応を5サイクル繰り返し、サイクルごとのH
2収率および5サイクル終了後に触媒上に析出した炭素量(炭素沈着量)について評価した。
【0103】
試験1で用いた固定床流通式の反応装置において、最低還元温度において1時間還元活性化処理を行い、Ar(アルゴン)でパージした後、常温域である25℃にて、0.1gの触媒を用い、反応ガスはn−C
4H
10/O
2/Ar=1/2/4の反応ガスを使用し、空間速度248L/h・gの条件で駆動し、改質反応を5回繰り返して行った。
【0104】
反応終了後(5サイクル終了後)の触媒の上に析出した炭素量を測定するため、
図3に示すTPO(Temperature Programmed Oxidation)装置による分析を行った。反応終了後の触媒全量(使用量が多い場合は0.05g)を、石英ウールを用いて石英管リアクターに充填し、TPO装置にセットした。その後O
2/Ar=5/95の混合ガスを30mL/minの流量で1000℃まで10℃/minの速度で昇温した。精製したCO
xはGCオーブン内に設置したメタン化触媒(メタナイザー)によってCH
4とし、CG−FIDによって定量を行った。結果を表2に示す。また、実施例1、2および
参考例2、比較例1について、Coの含有量と、各サイクルにおけるH
2収率と、の関係を
図4に示す。
【0105】
なお、炭素沈着量は触媒100質量%に対する量として算出した。また、サイクルごとにおけるH
2収率は、試験1と同様にして算出した。
【0106】
【表2】
【0107】
表2および
図4より、触媒におけるCoの含有量(担持量)が比較的に多い場合(
参考例2)には、3サイクル目で水素収率が0となってしまうことが確認できた。これは、触媒上に析出した炭素量が多いためであると考えられる。
【0108】
一方、触媒におけるCoの担持量が比較的に少ない場合(実施例1および2)には、5サイクル後のH
2収率は低下せず、1サイクル目のH
2収率と同等であることが確認できた。これは、触媒上に析出する炭素量が少ないためであると考えられる。特に、炭素が析出しやすい触媒活性金属が担持されている場合であっても、その担持量を特定の範囲とすることにより、むしろ触媒活性金属が担持されている方が、触媒活性金属が担持されていない担体(比較例1)よりも、炭素の析出量が少なく、その結果、改質反応を繰り返してもH
2収率が低下しないことが確認できた。