特許第6168529号(P6168529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6168529多価抗原測定用コンジュゲート、これを用いた多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップおよびイムノクロマト測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168529
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】多価抗原測定用コンジュゲート、これを用いた多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップおよびイムノクロマト測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20170713BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/553
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-172946(P2015-172946)
(22)【出願日】2015年9月2日
(62)【分割の表示】特願2012-509454(P2012-509454)の分割
【原出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2016-28241(P2016-28241A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2015年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-84121(P2010-84121)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
(72)【発明者】
【氏名】森田 元喜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佐智子
(72)【発明者】
【氏名】横川 伸也
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−033378(JP,A)
【文献】 特開2004−294157(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001598(WO,A1)
【文献】 特開平6−130062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である多価抗原に対するモノクローナル抗体が金コロイドに固定化されている多価抗原測定用コンジュゲートであって、
前記モノクローナル抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の1/3〜1/2の抗体濃度の、モノクローナル抗体溶液と金コロイド溶液との混合液から調整したものであり、
さらに、以下の条件を満たす多価抗原測定用コンジュゲート;
条件;
10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)中で生じる多価抗原とコンジュゲートとの凝集体の粒子径が70μm〜80μmである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価抗原を測定対象とするイムノクロマトテストストリップ、及びこれを用いたイムノクロマト測定方法に関する。より具体的には、本発明は、測定対象となる多価抗原に対する抗体の溶液と金コロイド溶液との混合液中の該抗体の濃度を特定の範囲にして製造したコンジュゲートを用いることにより、測定範囲を調節した、イムノクロマトテストストリップ及びイムノクロマト測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野、医学研究分野などにおいて、血液や体液中の特定成分(血清アルブミン、免疫グロブリン、肝炎ウイルス、リウマチ因子、C反応性タンパク質(CRP)、D-ダイマー、ヘモグロビン等)の濃度を測定することが必要とされ、種々の測定方法が開発されている。なかでも多く採用されている方法は、前記の種々の測定対象物質(または成分)に対する抗体または抗原などを不溶性担体粒子に固定化し、これと対応する抗原又は抗体(すなわち測定対象物質)を反応させて、検体中のこれらの存在や量を検査する免疫学的検査が広く実施されている。定性検査としてはポリクローナル抗体を用いた一元免疫拡散法による方法がある。また、定量検査としては、ラテックス凝集免疫測定法や免疫比濁法などがある。
【0003】
最近では、診療所や小病院においても、「患者を診察している間に種々の検査を実施したい」、というニーズが増加しており、従来の検査センターなどへの外注検査から、Point of Care Testing(POCT)による検査が行われるようになってきている。このようなPOCT試薬の代表例としては、インフルエンザ感染などを検査するイムノクロマトテストストリップが挙げられる。
【0004】
イムノクロマト測定方法において、測定対象物質に対する抗体または抗原を固定化する不溶性担体として、金コロイドが広く使われている。また、この金コロイドを標識体とする種々の測定方法が報告されている(特許文献1〜4)。このようなイムノクロマト測定方法としては、測定対象物質に対する抗体を金コロイドに固定化したコンジュゲートと検体中の測定対象物質との複合体が、毛細管現象により不溶性メンブレン担体中を展開し、該メンブレン担体に固定化された測定対象物質に対する抗体に捕捉される、いわゆるサンドイッチ反応を原理とする測定方法が代表的である。
【0005】
従来から、このようなサンドイッチ反応を原理とするイムノクロマト測定方法において、CRPやD-ダイマーのような多価抗原を測定対象物質とすると、溶液系で反応を行うラテックス凝集反応に比べて広い測定範囲を確保できないという課題がある。特許文献5には、金コロイド粒子上への単位表面積当りの抗体の結合量を調整することにより、インフルエンザ抗原を測定対象物質として、検出感度を調整する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、単位表面積当りの抗体の結合量が増すにつれて検出感度が高くなるといういわば当然の結果が得られているに過ぎず、多価抗原を測定対象としたサンドイッチイムノクロマト測定方法において広い濃度範囲での測定を可能にする方法については一切言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】:特開平2−141665号公報
【特許文献2】:特開平6-94719号公報
【特許文献3】:特開平6-213891号公報
【特許文献4】:特開2001-21564号公報
【特許文献5】:特開2007-33378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多価抗原を測定対象とし、金コロイドを標識体として用いるイムノクロマト測定方法において、広い測定範囲を有する多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは、サンドイッチ反応を原理とするイムノクロマト測定方法において、CRPやDダイマーのような多価抗原を測定する際、広い測定範囲を確保できないという問題点について次のように考察し、鋭意研究を行い、本発明を完成させた。
【0009】
(考察)
1.測定対象がCRPやDダイマーのような多価抗原である場合、抗体との結合点が複数あるため、一価抗原(抗原決定基が1つの抗原)に比べて、抗原抗体反応を介して容易にコンジュゲートと測定対象多価抗原との凝集体が生成する。
2.ラテックス凝集反応を利用するような溶液系での測定方法と異なり、イムノクロマト法では、上記の凝集体が毛細管現象により不溶性メンブレン担体中を展開し、測定対象である多価抗原に対するモノクローナル抗体(捕捉抗体ということがある)が固定化された測定ラインに到達する必要がある。
3.そのため、生成する凝集体が大きくなるにつれて、イムノクロマトテストストリップを構成するサンプルパッド、コンジュゲートパッドまたは不溶性メンブレン担体の中を展開できる凝集体量(数)が低下し、その結果、捕捉抗体固定化部位でのサンドイッチ複合体(コンジュゲート、測定対象および捕捉抗体の複合体)が減少し測定シグナルが低下する。
4.上記の測定シグナルの低下を起こりにくくするためには、より多くの凝集体が展開し、測定ラインに到達できるように、凝集体の粒子サイズを小さくする方法が考えられる。
5.しかしながら、凝集体を小さくすると、相反して測定ラインのサンドイッチ複合体のシグナル自体は小さくなり、検出感度が低下するというイムノクロマト測定法に付随する問題点がある。
【0010】
本発明者らは、上記考察に基づき以下(i)〜(v)の方策を検討した結果、(v)の方策の中でも特定の条件で製造されたコンジュゲートを用いたイムノクロマトテストストリップにおいて上記の問題点を解決しうることを見出した。
(i)金コロイドの粒子サイズを調節し、凝集体の粒子サイズを制御する。
(ii)界面活性剤の添加、pH、イオン強度などを調節することにより、抗原抗体反応を制御し、凝集体の粒子サイズを制御する。
(iii)不溶性メンブレン担体の孔径を調節することにより、凝集体の展開を制御する。
(iv)あらかじめ大きな凝集体を除去することにより、不溶性メンブレン担体中での展開を向上させる。
(v)金コロイドに結合する抗体分子数(量)を制御し、凝集体の粒子サイズを制御する。
【0011】
すなわち本発明は、測定対象である多価抗原に対するモノクローナル抗体が金コロイドと結合した多価抗原測定用コンジュゲートを用いたイムノクロマトテストストリップであって、該コンジュゲートが、該抗体の最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の抗体濃度となるように該抗体溶液と金コロイド溶液とを混合することにより得られたコンジュゲートである、イムノクロマトテストストリップである。
本発明は以下の構成を有する。
[1]測定対象である多価抗原に対するモノクローナル抗体の溶液と金コロイド溶液との混合液から得られる多価抗原測定用コンジュゲートであって、該混合液の該抗体濃度が、該抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の抗体濃度であることを特徴とする多価抗原測定用コンジュゲート。
[2]以下の(1)および(2)を含む多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップ。
(1)前記[1]に記載のコンジュゲート
(2)測定対象である多価抗原に対するモノクローナル抗体が固定化された不溶性メンブレン担体
[3]さらに以下の(3)〜(5)を含む前記[2]に記載の多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップ。
(3)サンプルパッド
(4)サンプルパッドに接して配置され、前記[2](1)に記載のコンジュゲートを含有するコンジュゲートパッド
(5)吸収パッド
[4]測定対象である多価抗原が、CRPまたはD−ダイマーである前記[2]または[3]に記載の多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップ。
[5]前記[2]〜[4]のいずれかに記載のイムノクロマトテストストリップを用いて、試料中の測定対象である多価抗原を測定するイムノクロマト測定方法。
[6]以下の1)および2)の工程を含む多価抗原測定用コンジュゲートを製造する方法であって、1)の混合液の抗体濃度が、最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の抗体濃度であることを特徴とする多価抗原測定用コンジュゲートの製造方法。
1)多価抗原に対するモノクローナル抗体溶液と金コロイド溶液との混合液を得る工程
2)該混合液からコンジュゲートを得る工程
【発明の効果】
【0012】
本発明の多価抗原測定用コンジュゲート、これを用いた多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップおよびイムノクロマト測定方法によれば、多価抗原を測定対象物質とした広い濃度範囲での測定が可能になり、希釈などの煩雑な操作を回避できる。また、測定時の手間とコストが削減できるため、診療所や小病院で求められているPoint of Care Testing(POCT)という社会ニーズにも応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各pH条件および各濃度の抗CRPモノクローナル抗体溶液を用いた塩滴定法により当該抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度を確認した写真である。
図2】抗体感作濃度と生成する凝集体の粒度の関係を示すグラフである。
図3】CRP測定用テストストリップの構成模式図である。
図4】各抗体濃度の混合液から得られたCRP測定用コンジュゲートを用いて各濃度のCRPを測定した結果を示すグラフである。
図5-1】2種類の抗体濃度の混合液から得られたCRP測定用コンジュゲートを用いて各濃度のCRPを測定した結果(反射光強度)を示すグラフである。
図5-2】2種類の抗体濃度の混合液から得られたCRP測定用コンジュゲートを用いて各濃度のCRPを測定した結果(粒度)を示すグラフである。
図6】各pH条件および各濃度の抗D-ダイマーモノクローナル抗体溶液を用いた塩滴定法により当該抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度を確認した写真である。
図7】D-ダイマー測定用テストストリップの構成模式図である。
図8】2種類の抗体濃度の混合液から得られたD-ダイマー測定用コンジュゲートを用いて各濃度のD-ダイマーを測定した結果(反射光強度)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における「測定対象」(「測定対象物」と言うこともある)とは、モノクローナル抗体との結合部位を複数有する多価抗原をいう。CRP、D-ダイマー、ヘモグロビンなどが例示されるがこれに制限されるものではない。
【0015】
本発明で用いられるモノクローナル抗体は、測定対象の多価抗原に対するモノクローナル抗体であり、当該抗体を産生するハイブリドーマは、一般的には、KohlerとMilsteinの方法[Nature、第256巻495頁(1975年)参照]に準じ、前記抗原で免疫した動物の脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して作製することができる。また、測定対象に対する抗体が市販されていれば、それらを利用することが可能である。
【0016】
本発明において「標識体」とは、金コロイド(粒子)のことである。金コロイドの粒径は、イムノクロマトテストストリップの感度に大きく影響することが知られているが、本発明の金コロイドの粒径としては20〜60nmが好ましく、特に35〜45nmが好ましい。
【0017】
上記の金コロイドは一般に知られている方法、例えば、加熱したテトラクロロ金(III)酸水溶液にクエン酸三ナトリウム水溶液を滴下攪拌することによって製造することができる。
【0018】
抗体の金コロイドへの固定化は、通常物理吸着によって行う。本明細書では、上記のような標識体に測定対象の多価抗原に対するモノクローナル抗体あるいはコントロール用抗体が固定化されたものを「コンジュゲート」という。
【0019】
本発明における抗体の金コロイドへの「最大結合抗体濃度」とは、後述の実施例に記載した公知の塩滴定法によって求められる濃度をいう。すなわち、金コロイド溶液に対して各濃度の抗体溶液を添加して撹拌し抗体と金コロイドを反応させた後、塩(10%NaCl)を添加して金コロイドと抗体の混合液の色調変化の程度を観察し、抗体濃度を上げてもそれ以上色調変化が認められない状態を与える最小の抗体濃度を、最大結合抗体濃度とする。色調の変化は目視観察でも、その他の光学的手段で検出してもよい。実施例に示すようにpH条件を変動させた場合、求められた最大結合抗体濃度がより低いpH条件でコンジュゲートを作成することが好ましい。
【0020】
抗体溶液と金コロイド溶液とを混合した混合液より金コロイドにモノクローナル抗体が結合したコンジュゲートが得られるが、本発明では、該混合液の抗体濃度を、上記塩滴定法によって求められる最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の抗体濃度とすることにより、所望のコンジュゲートを製造することができる。
【0021】
本発明のコンジュゲートを得るための混合液の抗体濃度は上記最大結合抗体濃度の1/4〜1/2である必要があるが、抗体濃度が1/4未満では測定感度が低下しすぎるため不適当であり、1/2より濃くなると抗原抗体反応による凝集体が急激に大きくなり、測定範囲が狭くなる。したがって、1/4〜1/2の濃度が適当な感度を維持でき、広い測定範囲を達成できるため望ましく、1/3の濃度はよりいっそう望ましい。抗体を金コロイドに結合させる際の緩衝液とpHは、塩滴定法により最大結合抗体濃度を決定する際同時に決定され、2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6-7)または2mmol/Lホウ酸緩衝液(pH8-9)等から至適条件が決定される。抗体を金コロイドに結合させた後、金コロイド上の抗体が結合していない領域は、BSA などを結合させブロッキングするのが好適である。なお、BSA などを結合させブロッキングする場合には、BSA などを結合させる前における混合液の抗体濃度を、最大結合抗体濃度の1/4〜1/2にしておく必要があることはいうまでもない。
【0022】
このようにして得られたコンジュゲートは、変性を阻止するための変性阻止剤中に分散され保存される。この変性阻止剤としては、BSA などの蛋白質、グリセリン、糖などが用いられる。
【0023】
本発明において、「検出試薬」とは具体的には少なくともコンジュゲートを含有する溶液である。
【0024】
検出試薬は、コンジュゲートを安定な状態に保ち、測定試料と混合されたときにコンジュゲートに固定化された抗体が測定対象と特異的に反応するのを促進する、あるいはコンジュゲートを迅速かつ効果的に溶解、流動化する目的で、例えば1種類以上の安定化剤、溶解補助剤等を含み得る。該安定化剤、溶解補助剤等としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、スクロース、カゼイン、アミノ酸類などをあげることができる。また、検出試薬は、検出感度の向上を目的とし、必要に応じてポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の公知の増感剤を含み得る。更に検出試薬は、Ca2+イオンのキレート剤であるEDTAやEGTAなども含み得る。
【0025】
なお、本明細書において、「検出」又は「測定」という用語は、測定対象の存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0026】
本発明において、「サンプルパッド」とは、測定試料を受け入れる部位であり、パッドに成型された状態で液体の測定試料を吸収し、液体と測定対象とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、後述する抗体固定化メンブレンにおける非特異的反応(吸着)を防止・抑制する目的で、通常使用されるブロッキング剤等を含ませることができる。該ブロッキング剤としては、例えばNEO PROTEIN SAVER(東洋紡績株式会社)、イムノブロックTM(大日本製薬株式会社)、Applie Block(生化学バイオビジネス株式会社)、SEA BLOCKTM/EIA/WB(East Coast Biologics社)、Blocking One(ナカライテスク社)、BSA、Blocking Peptide Fragment(東洋紡績株式会社)、Starting BlockTM(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific社)、Smart BlockTM(CANDOR Bioscience 社)、HeteroBlock(OMEGA Biologicals社)、等から、特異的反応そのものに悪影響を与えないものを適宜選択可能である。
【0027】
本発明において、「コンジュゲートパッド」とは、測定対象と特異的に反応するコンジュゲートを内在し、測定試料が該コンジュゲートパッドを通過する際、コンジュゲートと試料中の測定対象物とが複合体(凝集体)を形成する機能を有する部位をいう。該コンジュゲートパッドは、それ単独で抗体固定化メンブレンに接するように配置されていてもよいし、あるいは、前記サンプルパッドと接触して配置され、毛細管流によってサンプルパッドを通過した測定試料を受入れ、引き続き該測定試料を毛細管流によって前記サンプルパッドとは異なる面で接触する別のパッド(後述する3rd Pad)へ移送するように配置してもよい。なお、サンプルパッド、コンジュゲートパッドの一種以上の部位の選択や、選択された部位を抗体固定化メンブレンにどのように配置するかは、適宜に変更可能である。
【0028】
該コンジュゲートパッドに適した材料として、紙、セルロース混合物、ニトロセルロース、ポリエステル、アクリロニトリルコポリマー、ガラス繊維(グラスファイバー)またはレーヨンのような不織繊維が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。
【0029】
後述の如く不溶性メンブレン担体に「コントロール捕捉抗体」を固定化する場合には、コンジュゲートパッドに、アッセイの信頼性を担保するための「コントロール抗体」、例えば、標識体で標識され且つ測定対象物質と反応しない抗体や、標識体で標識されたKLH(スカシ貝ヘモシアニン)などの高抗原性タンパク質などを含ませる。これらのコントロール抗体は、測定試料中に存在する可能性が考えられない成分(物質)であり、後述する「コントロール捕捉抗体」と適切に対応するよう適宜に選択可能である。また、抗原抗体反応がイオン感受性を持つ場合には、コンジュゲートパッドに金属イオン類または金属イオンのキレート剤であるEDTAやEGTAなどを含有させておいてもよい。
【0030】
3rd Padは、測定試料と検出試薬との反応成分のうち、測定に不要な成分を除去し、必要な反応成分が抗体固定化メンブレンをスムーズに展開できるようにすることを目的として配置させることができる。例えば、全血または全血を溶血させた試料を用いる場合には、血球や不溶性の血球破砕物などは測定に不要な成分として除去することが望ましい。また、この3rd Padには、抗原抗体反応により生成する凝集体の内、抗体固定化メンブレンに移動し、スムーズに展開できない位に大きくなった凝集体をあらかじめ除去するという付加的な効果を併せ持たせることも可能である。3rd Padとしては、液体と測定対象の成分とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には血球分離膜やそれに類する膜が用いられる。
【0031】
本明細書において、捕捉抗体を不溶性メンブレン担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」と表現することがある。
【0032】
本発明のイムノクロマトテストストリップにおいて、捕捉抗体の不溶性メンブレン担体への固定化は、一般に周知の方法で実施することができる。例えば、フロースルー式の場合、上記の捕捉抗体を所定の濃度に調製し、その液を一定量、点あるいは+など特定のシンボル状に、不溶性メンブレン担体に塗布する。ラテラルフロー式の場合には、上記の捕捉抗体を所定の濃度に調製し、その液をノズルから一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、ライン状に不溶性メンブレン担体に塗布することにより行われる。この際、捕捉抗体の濃度は0.1mg/mL〜5mg/mLが好ましく、0.5mg/mL〜2mg/mLがさらに好適である。また、捕捉抗体の不溶性メンブレン担体への固定化量は、フロースルー式の場合には不溶性メンブレン担体に滴下する塗付量を調節することによって最適化でき、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化できる。特に、ラテラルフロー式の場合、0.5μL/cm〜2μL/cmが好適である。
【0033】
なお、本発明において、「フロースルー式メンブレンアッセイ」という場合は、試料等が不溶性メンブレン担体に対して垂直方向に通過するように展開する方式を指し、「ラテラルフロー式メンブレンアッセイ」という場合は、試料が不溶性メンブレン担体に対して並行方向に移動するように展開する方式を指す。
【0034】
また、上記の捕捉抗体は、通常所定の緩衝液を用いて調製することができる。該緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液をあげることができる。緩衝液のpHは6.0〜9.5の範囲が好ましく、6.5〜8.5がより好ましく、7.0〜8.0がさらに好ましい。緩衝液には、さらにNaClなどの塩類、スクロースなどの安定剤や保存剤、プロクリンなどの防腐剤等を含んでもよい。塩類はNaClなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する目的で添加するものも含まれる。
【0035】
不溶性メンブレン担体に捕捉抗体を固定化した後、さらに、通常使用されるブロッキング剤を溶液あるいは蒸気状にして捕捉抗体固定化部位以外を被覆し、ブロッキングを行うこともできる。
【0036】
本明細書では、上記のように捕捉抗体が固定化された不溶性メンブレン担体を「抗体固定化メンブレン」ということがある。
【0037】
なお、不溶性メンブレン担体には、「コントロール捕捉抗体」を固定化することができる。該コントロール捕捉抗体は、アッセイの信頼性を担保するための抗体であって、コンジュゲートパッドに含ませた対応する「コントロール抗体」を捕捉するものである。例えば、コンジュゲートパッドに標識されたKLHをコントロール抗体として含む場合には、抗KLH抗体などがコントロール捕捉抗体に該当する。コントロール捕捉抗体を不溶性メンブレン担体に固定化する位置は、アッセイ系の設計に適合するよう適宜選択することができる。
【0038】
本発明において、不溶性メンブレン担体(単に、メンブレンと記載することがある)としては、任意の材質が使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等があげられるがこれらに限定されない。具体的には、ミリポア社、東洋濾紙社、ワットマン社などより販売されているガラス繊維ろ紙やセルロースろ紙などをあげることができる。また、この不溶性メンブレン担体の孔径と構造を適宜選択することにより、凝集体がメンブレン中を流れる速度を制御することが可能である。凝集体がメンブレン中を流れる速度を制御することにより、メンブレンに固定化された抗体(捕捉抗体)に結合するコンジュゲート量を調節することができるため、メンブレンの孔径と構造は、本発明のイムノクロマトテストストリップのほかの構成材料との組み合わせを考慮して最適化することが望ましい。メンブレンとして、好適には、ミリポア社、Hi Flow Plus HF180などが用いられる。
【0039】
本発明において、吸収パッドとは、抗体固定化不溶性メンブレン担体部を移動・通過した測定試料を吸収することにより、測定試料の展開を制御する液体吸収性を有する部位である。ラテラルフロー式においては、ストリップ構成の最下流に設ければよく、フロースルー式においては、例えば捕捉抗体を固定化した膜の下部に設ければよい。該吸収体としては、例えば、ろ紙を用いることができるが、これに限定されない。好適には、Whatman社、740-Eが用いられる。
【0040】
本発明において、「イムノクロマトテストストリップ」とは、少なくとも抗体を固定化した不溶性メンブレンを含むものであればよく、さらに必要に応じて試薬成分や他のメンブレン等を含むものをいう。他のメンブレンとしては、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、吸収パッド等が挙げられる。
該テストストリップは、通常、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上に配列させる。該固相支持体を測定試料の毛管流を妨げない物質で構成することはもとより、接着剤の成分を測定試料の毛管流を妨げない物質とすることは明らかである。なお、抗体固定化メンブレンの機械的強度を上げ且つアッセイ中の水分の蒸発(乾燥)を防ぐ目的でポリエステルフィルムなどをラミネートすることも可能である。該テストストリップは、テストストリップの大きさや、測定試料の添加方法・位置、メンブレン上の抗体の固定化位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0041】
また、本発明の多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップは、少なくとも、多価抗原に対するモノクローナル抗体固定化メンブレンおよび、本発明の製造方法で作製された多価抗原に対するモノクローナル抗体が標識体に固定化されているコンジュゲートを含むものであればよく、測定条件、測定試料に応じて他の試薬や構成を含み得る。
【0042】
本明細書において「試料」(「測定試料」または「抗原液」ともいう)とは、主に生体(生物)由来の体液を言う。具体的には、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、膵臓抽出液、涙液、耳漏又は前立腺液などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。一般的には、血清、血漿が好ましい。また、上記の試料は適宜希釈液によって希釈することが可能であるが、本明細書では、希釈・未希釈に係わらず「試料」または「測定試料」と表す。
【0043】
全血を検体とするときには、該希釈液に赤血球を溶血する作用を併せ持たせてもよい。この際の希釈倍率は適宜目的とする測定範囲に合わせて調節でき、好ましくは10倍から500倍である。上記の溶血作用を持たせた希釈液としては、精製水、pH6.0〜10.0の緩衝液等が挙げられる。pH6.0〜10.0の緩衝液としては10 mmol/L〜20mmol/Lのものが好ましく、例えば、10mmol/L〜20mmol/Lのリン酸緩衝液、10mmol/L〜20mmol/LのTris-HCl緩衝液、10mmol/L〜20mmol/Lのグリシン-HCl緩衝液等が好ましい。
【0044】
また、溶血作用を増強し、試料のテストストリップでの展開速度を制御する目的で、これらの希釈液に抗原抗体反応に影響しない非イオン性の界面活性剤を添加することも可能である。また、上記の希釈液にCa2+イオンのキレート剤であるEDTAやEGTAなどを含有させてもよい。
【0045】
本発明のイムノクロマトテストストリップの作製は実施例に記載の方法を適宜、修飾・改変して行うことができる。
コンジュゲートに由来するシグナルを測定する方法としては、公知の方法に従って行えばよく、例えば、吸光度あるいは反射光の強度を測定すればよい。
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
1.塩滴定法による抗CRPモノクローナル抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の決定
抗CRPモノクローナル抗体(受託番号FERM BP-11344のハイブリドーマが産生する抗体、以下単にFERM BP-11344抗体という)をpH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件の緩衝液(後記i)〜iv))にて希釈して、各pHについて、10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100μg/mLの抗体溶液を作製した。また、1 OD/mLの金コロイド(粒径40nm)溶液を0.2mol/L K2CO3を用いて、pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件のpHに調整した。各pH条件において、金コロイド溶液450μLに対して各濃度の抗体溶液を50μL添加し、この混合液中の抗体濃度をもとに最大結合抗体濃度を求めた。撹拌後、それぞれの混合液に10%NaCl溶液100μLを添加し、室温で5分反応させた後、混合液の色調変化を目視で判定(写真撮影)し(図1)、抗体濃度を上げてもそれ以上色調変化が認められない状態を与える最小の抗体濃度を、最大結合抗体濃度とした。その結果、FERM BP-11344抗体の金コロイド(粒径40nm)への最大結合抗体濃度を3μg/mL、至適感作pHをpH7.0に決定した。
i) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)
ii) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)
iii)2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)
iv)2mmol/Lほう酸緩衝液(pH9.0)
【0047】
2.抗CRPモノクローナル抗体と金コロイドとの結合体(コンジュゲート)の作製
FERM BP-11344抗体と金コロイド(粒径40nm)とを、これらの混合液の抗体濃度が上記1で決定した最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の4/5、3/5、1/2、1/3、1/4、1/6の濃度になるように、混合してコンジュゲートを作製した。すなわち、1 OD/mLの金コロイド溶液(pH7.0)20mLに対し、上記の各濃度になるように2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で調製した抗体溶液を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。これらの金コロイドと抗体との混合液それぞれに対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を2mL添加し、さらに5分間撹拌後、10℃にて、10,000rpmで45分間遠心し、沈渣(コンジュゲート)を得た。得られた沈渣に、Conjugate Dilution Buffer(Scripps社製)を1.2mL添加しそれぞれのコンジュゲートを懸濁し各コンジュゲートの吸光度を531nm(使用した金コロイドの最大吸収波長)で測定した。(結果は図示せず)。
【0048】
3.CRPと抗CRP抗体コンジュゲートとの反応により生成する凝集体の粒度分析
上記2の最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の4/5(2.4μg/mL)、3/5(1.8μg/mL)、1/2(1.5μg/mL)、1/3(1.0μg/mL)の濃度において作製した抗CRP抗体コンジュゲートを10mmol/Lリン酸緩衝液(10mmol/L PB、pH7.2)または0.3%オクチル硫酸ナトリウム(0.3%SOS-PB)、で希釈し1 OD/mLに調製した。これらのコンジュゲート溶液100μLに対して、コンジュゲートの希釈液と同一の希釈液300μLを粒度分布測定用ガラスキュベットに入れ、さらに30mg/LのCRP標準液(積水メディカル株式会社製、ナノピア用CRPキャリブレーターA )4μLを添加してボルテックスミキサーにて1〜2秒撹拌した後、粒度分布をダイナミック光散乱法により5分間測定した(装置:野崎産業株式会社、NICOMP C370)。混合液に添加した抗体濃度と反応開始5分後の凝集体の粒子径の関係を図2に示す。
希釈液にリン酸緩衝液(PB)を用いたときには、抗体濃度が最大結合抗体濃度(3μg/mL)の1/2の濃度よりも大きくなると凝集体の粒子径が急激に増大し100μm以上になるのに対し、最大結合抗体濃度の1/3〜1/2の濃度で調製したコンジュゲートでは、凝集体の粒子径が70μm〜80μmと小さな状態で維持された。また、0.3%オクチル硫酸ナトリウム−リン酸緩衝液(0.3%SOS-PB)の場合には、抗体濃度が最大結合抗体濃度(3μg/mL)の1/2より濃くなると凝集体の粒度(粒子径)が急激に増大し80μm以上になるのに対し、最大結合抗体濃度の1/3〜1/2の濃度の混合液から調製したコンジュゲートでは、凝集体の粒子径が60μm〜70μmと小さな状態で維持された。
【0049】
4.抗CRP抗体コンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスの作製
1)コンジュゲートパッドの作製
上記2で調製した抗CRPモノクローナル抗体感作コンジュゲートを20 OD/mLとなるように、1.33%カゼイン、4%スクロース溶液(pH7.5)と混合して検出試薬を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、30分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0050】
2)抗CRP抗体固定化メンブレンの作製
ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)の短辺の一端に、1mg/mLに調製した抗CRPモノクローナル抗体(受託番号FERM BP-11345のハイブリドーマが産生する抗体、以下単にFERM BP-11345抗体という)及び2.5%スクロースを含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)を、イムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて1μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗CRP抗体固定化メンブレンとした。
【0051】
3)サンプルパッドの作製
24mmol/L 塩化ナトリウム、0.5%スクロース及び30mmol/Lエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.2)を、一定体積に切断したグラスファイバー製パッド(Lydall社)に該パッド体積の1.15倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、サンプルパッドとした。
【0052】
4)テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)に上記抗CRP抗体固定化メンブレン(b)を貼り、該メンブレンの展開上流部側に抗CRP抗体(c)を配置し、さらに3rd Pad(h)を装着した。次いで上記1)で作成したコンジュゲートパッド(d)を配置装着した。さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記3)で作製したサンプルパッド(e)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(f)(Whatman社、740-E)を配置装着した。また、最後に抗体固定化メンブレンおよび吸収パッドを被覆するように上面にポリエステルフィルム(g)を配置装着しラミネートした。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してテストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック製の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、図3中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。図3にテストストリップの模式構成図を示した。
【0053】
5)CRP濃度の測定範囲の検討
上記の種々の抗体感作濃度において作製したイムノクロマトテストデバイスを用いて、CRPの測定範囲を検討した。ナノピア用CRPキャリブレーターA (積水メディカル株式会社製)を用いて、CRP濃度1.5,3.0,6.0,30.0,90.0,180.0,300.0mg/Lの抗原液を作製し、各濃度の抗原液を0.3%オクチル硫酸ナトリウム−10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で30倍に希釈した。希釈した抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて5分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(図4)。その結果、最大結合抗体濃度の1/2より高い濃度で混合液を調製したコンジュゲートでは、抗原(CRP)濃度30.0mg/L位から測定シグナルがプラトーになったのに対し、最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の濃度で混合液を調製したコンジュゲートでは、抗原(CRP)濃度300.0mg/Lまで測定シグナルが右肩上がりに増大した。また、最大結合抗体濃度の1/6の濃度で調製した標識体では、検出感度が著しく低下した。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1で求めた最大結合抗体濃度(3μg/mL)またはその1/3の濃度の混合液で作製したコンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスを用い、CRPの測定範囲と凝集体の粒度との関係を検討した。
ナノピア用CRPキャリブレーターA (積水メディカル株式会社製)を用いて、CRP濃度0,1.5,3.0,6.0,30.0,90.0,180.0,300.0mg/Lの抗原液を作製し、各濃度の抗原液を10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で100倍に希釈した。希釈した抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて5分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(図5−1)。
また、実施例1-3の方法と同様の方法で、CRP濃度0,3.0,30.0,300.0mg/Lの抗原液について、凝集体の粒度分布を測定した(図5−2)。
その結果、最大結合抗体濃度(3μg/mL)の混合液で調製したコンジュゲートを用いたテストデバイスでは、CRP濃度0〜30.0mg/Lにおいて、反射吸光度はCRP濃度に比例して増加し、30.0mg/L以上の濃度でプラトーになった。このとき、凝集体の粒度は反射吸光度と同様、0〜30.0mg/Lで約70〜100nmとなり、30.0mg/L以上の濃度でも約100nmのままであった。一方、最大結合抗体濃度の1/3の濃度の混合液で調製したコンジュゲートを用いたテストデバイスでは、反射吸光度はCRP濃度0〜300.0mg/Lまで濃度に比例して増加した。このとき、凝集体の粒度は69nmから74nmまでわずかに大きくなっただけであった。
【0055】
[実施例3]
1.塩滴定法による抗D-ダイマーモノクローナル抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の決定
(1)抗D-ダイマーモノクローナル抗体
バトロキソビン処理フィブリノゲンを免疫原としてKohlerとMilsteinの方法[Nature、第256巻495頁(1975年)参照]に準じ、前記抗原で免疫したマウスの脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して当該抗体を産生するハイブリドーマを作製し、そのなかから、D−ダイマーに反応性の高いクローン#672101を選択した。以下、クローン#672101の産生する抗体を単に#672101抗体という。
(2)上記で得られた#672101抗体を以下pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件の緩衝液(後記i)〜iv))にて希釈して、各pHについて、10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100μg/mLの抗体溶液を作製した。また、1 OD/mLの金コロイド(粒径40nm)溶液を0.2mol/L K2CO3を用いて、pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件のpHに調製した。各pH条件において、金コロイド溶液450μLに対して、各濃度の抗体溶液を50μL添加し、この混合液中の抗体濃度をもとに最大結合抗体濃度を求めた。撹拌後、それぞれの混合溶液に10%NaCl溶液100μLを添加し、室温で5分反応させた後、混合液の色調変化を目視で判定(写真撮影)し(図6)、抗体濃度を上げてもそれ以上色調変化が認められない状態を与える最小の抗体濃度を、最大結合抗体濃度とした。その結果、#672101抗体の金コロイド(粒径40nm)への最大結合抗体濃度を3μg/mL、至適感作pHをpH8.0に決定した。
i) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)
ii) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)
iii) 2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)
iv) 2mmol/Lほう酸緩衝液(pH9.0)
【0056】
2.抗D-ダイマーモノクローナル抗体と金コロイドとの結合体(コンジュゲート)の作製
#672101抗体を上記1で決定した最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の1/3の濃度になるように金コロイド(粒径40nm)と混合して、コンジュゲートを作製した。すなわち、1 OD/mLの金コロイド溶液(pH8.0)20mLに対し、上記の各濃度になるように2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)で調製した抗体溶液を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。
これらの金コロイドと抗体との混合液それぞれに対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を2mL添加し、さらに5分間撹拌後、10℃にて、10,000rpmで45分間遠心し、沈渣(コンジュゲート)を得た。得られた沈渣に、Conjugate Dilution Buffer(Scripps社製)を1.2mL添加しそれぞれのコンジュゲートを懸濁し各コンジュゲートの吸光度を531nm(使用した金コロイドの最大吸収波長)で測定した(結果は図示せず)。
【0057】
3.抗D-ダイマーモノクローナル抗体コンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスの作製
1)コンジュゲートパッドの作製
上記2で調製した抗D-ダイマーモノクローナル抗体感作コンジュゲートを20 OD/mLとなるように、1.33%カゼイン、4%スクロース溶液(pH7.5)と混合して検出試薬を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、30分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0058】
2)抗D-ダイマー抗体固定化メンブレンの作製
ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)の短辺の一端に、1mg/mLに調製した抗D-ダイマーモノクローナル抗体( murine MAb against human D-dimer FDP fragment, clone DD3B6、American Diagnosticainc.社製)及び2.5%スクロースを含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)を、イムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて1μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗D-ダイマー抗体固定化メンブレンとした。
【0059】
3)サンプルパッドの作製
24mmol/L 塩化ナトリウム、0.5%スクロース及び30mmol/Lエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.2)を、一定体積に切断したグラスファイバー製パッド(Lydall社)に該パッド体積の1.15倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、サンプルパッドとした。
【0060】
4)テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(i)に上記抗D-ダイマー抗体固定化メンブレン(j)を貼り、該メンブレンの展開上流部側に抗D-ダイマー抗体(k)の塗布部を配置し、さら3rd Pad (m)を装着した。次いで上記1)で作製したコンジュゲートパッド(l)を配置装着した。さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記3)で作製したサンプルパッド(n)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(p)(Whatman社、740-E)を配置装着した。また、最後に抗体固定化メンブレンおよび吸収パッドを被覆するように上面にポリエステルフィルム(q)を配置装着しラミネートした。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してテストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック製の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、図7中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。図7にテストストリップの模式構成図を示した。
【0061】
5)D-ダイマー濃度の測定範囲の検討
上記の2種類の抗体感作濃度において作製したイムノクロマトテストデバイスを用いて、D-ダイマーの測定範囲を検討した。ナノピア用D-ダイマーキャリブレーター(積水メディカル株式会社製、60μg/mL)を市販ヒトプール血漿にて希釈した。希釈後のD-ダイマー濃度をナノピアD-ダイマー(積水メディカル株式会社製)を用いて測定したところ、各抗原液の濃度は0.4, 1.1, 5.3, 10.0, 15.3, 19.4μg/mLであった。
各濃度の抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて10分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(図8)。その結果、最大結合抗体濃度の混合液で調製したコンジュゲートでは、抗原(D-ダイマー)濃度5.3μg/mL位から測定シグナルがプラトーになったのに対し、最大結合抗体濃度の1/3の濃度の混合液で調製したコンジュゲートでは、15.3μg/mLまで測定シグナルが右肩上がりに増大し、明らかに測定範囲が広がることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の多価抗原測定用コンジュゲート、これを用いた多価抗原測定用イムノクロマトテストストリップおよびイムノクロマト測定方法によれば、多価抗原を測定対象物質とした従来よりも測定範囲の広い測定が可能になる。また、希釈操作の手間とコストを削減することができるため、診療所や小病院で求められているPoint of Care Testing(POCT)という社会ニーズにも応えることができる。
【符号の説明】
【0063】
(a)プラスチック製粘着シート
(b)抗CRP抗体固定化メンブレン
(c)抗CRP抗体
(d)コンジュゲートパッド
(e)サンプルパッド
(f)吸収パッド
(g)ポリエステルフィルム
(h)3rd Pad
(i)プラスチック製粘着シート
(j)抗D-ダイマー抗体固定化メンブレン
(k)抗D-ダイマー抗体
(l)コンジュゲートパッド
(m)3rd Pad
(n)サンプルパッド
(p)吸収パッド
(q)ポリエステルフィルム
【受託番号】
【0064】
FERM BP-11344
FERM BP-11345
【0065】
[寄託生物材料への言及]
(1)FERM BP-11344(#08202産生ハイブリドーマ)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成21年11月26日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-11344
(2)FERM BP-11345(#08203産生ハイブリドーマ)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成21年11月26日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-11345
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8