【実施例】
【0046】
[実施例1]
1.塩滴定法による抗CRPモノクローナル抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の決定
抗CRPモノクローナル抗体(受託番号FERM BP-11344のハイブリドーマが産生する抗体、以下単にFERM BP-11344抗体という)をpH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件の緩衝液(後記i)〜iv))にて希釈して、各pHについて、10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100μg/mLの抗体溶液を作製した。また、1 OD/mLの金コロイド(粒径40nm)溶液を0.2mol/L K
2CO
3を用いて、pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件のpHに調整した。各pH条件において、金コロイド溶液450μLに対して各濃度の抗体溶液を50μL添加し、この混合液中の抗体濃度をもとに最大結合抗体濃度を求めた。撹拌後、それぞれの混合液に10%NaCl溶液100μLを添加し、室温で5分反応させた後、混合液の色調変化を目視で判定(写真撮影)し(
図1)、抗体濃度を上げてもそれ以上色調変化が認められない状態を与える最小の抗体濃度を、最大結合抗体濃度とした。その結果、FERM BP-11344抗体の金コロイド(粒径40nm)への最大結合抗体濃度を3μg/mL、至適感作pHをpH7.0に決定した。
i) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)
ii) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)
iii)2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)
iv)2mmol/Lほう酸緩衝液(pH9.0)
【0047】
2.抗CRPモノクローナル抗体と金コロイドとの結合体(コンジュゲート)の作製
FERM BP-11344抗体と金コロイド(粒径40nm)とを、これらの混合液の抗体濃度が上記1で決定した最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の4/5、3/5、1/2、1/3、1/4、1/6の濃度になるように、混合してコンジュゲートを作製した。すなわち、1 OD/mLの金コロイド溶液(pH7.0)20mLに対し、上記の各濃度になるように2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)で調製した抗体溶液を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。これらの金コロイドと抗体との混合液それぞれに対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を2mL添加し、さらに5分間撹拌後、10℃にて、10,000rpmで45分間遠心し、沈渣(コンジュゲート)を得た。得られた沈渣に、Conjugate Dilution Buffer(Scripps社製)を1.2mL添加しそれぞれのコンジュゲートを懸濁し各コンジュゲートの吸光度を531nm(使用した金コロイドの最大吸収波長)で測定した。(結果は図示せず)。
【0048】
3.CRPと抗CRP抗体コンジュゲートとの反応により生成する凝集体の粒度分析
上記2の最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の4/5(2.4μg/mL)、3/5(1.8μg/mL)、1/2(1.5μg/mL)、1/3(1.0μg/mL)の濃度において作製した抗CRP抗体コンジュゲートを10mmol/Lリン酸緩衝液(10mmol/L PB、pH7.2)または0.3%オクチル硫酸ナトリウム(0.3%SOS-PB)、で希釈し1 OD/mLに調製した。これらのコンジュゲート溶液100μLに対して、コンジュゲートの希釈液と同一の希釈液300μLを粒度分布測定用ガラスキュベットに入れ、さらに30mg/LのCRP標準液(積水メディカル株式会社製、ナノピア用CRPキャリブレーターA )4μLを添加してボルテックスミキサーにて1〜2秒撹拌した後、粒度分布をダイナミック光散乱法により5分間測定した(装置:野崎産業株式会社、NICOMP C370)。混合液に添加した抗体濃度と反応開始5分後の凝集体の粒子径の関係を
図2に示す。
希釈液にリン酸緩衝液(PB)を用いたときには、抗体濃度が最大結合抗体濃度(3μg/mL)の1/2の濃度よりも大きくなると凝集体の粒子径が急激に増大し100μm以上になるのに対し、最大結合抗体濃度の1/3〜1/2の濃度で調製したコンジュゲートでは、凝集体の粒子径が70μm〜80μmと小さな状態で維持された。また、0.3%オクチル硫酸ナトリウム−リン酸緩衝液(0.3%SOS-PB)の場合には、抗体濃度が最大結合抗体濃度(3μg/mL)の1/2より濃くなると凝集体の粒度(粒子径)が急激に増大し80μm以上になるのに対し、最大結合抗体濃度の1/3〜1/2の濃度の混合液から調製したコンジュゲートでは、凝集体の粒子径が60μm〜70μmと小さな状態で維持された。
【0049】
4.抗CRP抗体コンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスの作製
1)コンジュゲートパッドの作製
上記2で調製した抗CRPモノクローナル抗体感作コンジュゲートを20 OD/mLとなるように、1.33%カゼイン、4%スクロース溶液(pH7.5)と混合して検出試薬を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、30分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0050】
2)抗CRP抗体固定化メンブレンの作製
ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)の短辺の一端に、1mg/mLに調製した抗CRPモノクローナル抗体(受託番号FERM BP-11345のハイブリドーマが産生する抗体、以下単にFERM BP-11345抗体という)及び2.5%スクロースを含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)を、イムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて1μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗CRP抗体固定化メンブレンとした。
【0051】
3)サンプルパッドの作製
24mmol/L 塩化ナトリウム、0.5%スクロース及び30mmol/Lエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.2)を、一定体積に切断したグラスファイバー製パッド(Lydall社)に該パッド体積の1.15倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、サンプルパッドとした。
【0052】
4)テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)に上記抗CRP抗体固定化メンブレン(b)を貼り、該メンブレンの展開上流部側に抗CRP抗体(c)を配置し、さらに3rd Pad(h)を装着した。次いで上記1)で作成したコンジュゲートパッド(d)を配置装着した。さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記3)で作製したサンプルパッド(e)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(f)(Whatman社、740-E)を配置装着した。また、最後に抗体固定化メンブレンおよび吸収パッドを被覆するように上面にポリエステルフィルム(g)を配置装着しラミネートした。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してテストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック製の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、
図3中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。
図3にテストストリップの模式構成図を示した。
【0053】
5)CRP濃度の測定範囲の検討
上記の種々の抗体感作濃度において作製したイムノクロマトテストデバイスを用いて、CRPの測定範囲を検討した。ナノピア用CRPキャリブレーターA (積水メディカル株式会社製)を用いて、CRP濃度1.5,3.0,6.0,30.0,90.0,180.0,300.0mg/Lの抗原液を作製し、各濃度の抗原液を0.3%オクチル硫酸ナトリウム−10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で30倍に希釈した。希釈した抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて5分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(
図4)。その結果、最大結合抗体濃度の1/2より高い濃度で混合液を調製したコンジュゲートでは、抗原(CRP)濃度30.0mg/L位から測定シグナルがプラトーになったのに対し、最大結合抗体濃度の1/4〜1/2の濃度で混合液を調製したコンジュゲートでは、抗原(CRP)濃度300.0mg/Lまで測定シグナルが右肩上がりに増大した。また、最大結合抗体濃度の1/6の濃度で調製した標識体では、検出感度が著しく低下した。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1で求めた最大結合抗体濃度(3μg/mL)またはその1/3の濃度の混合液で作製したコンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスを用い、CRPの測定範囲と凝集体の粒度との関係を検討した。
ナノピア用CRPキャリブレーターA (積水メディカル株式会社製)を用いて、CRP濃度0,1.5,3.0,6.0,30.0,90.0,180.0,300.0mg/Lの抗原液を作製し、各濃度の抗原液を10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)で100倍に希釈した。希釈した抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて5分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(
図5−1)。
また、実施例1-3の方法と同様の方法で、CRP濃度0,3.0,30.0,300.0mg/Lの抗原液について、凝集体の粒度分布を測定した(
図5−2)。
その結果、最大結合抗体濃度(3μg/mL)の混合液で調製したコンジュゲートを用いたテストデバイスでは、CRP濃度0〜30.0mg/Lにおいて、反射吸光度はCRP濃度に比例して増加し、30.0mg/L以上の濃度でプラトーになった。このとき、凝集体の粒度は反射吸光度と同様、0〜30.0mg/Lで約70〜100nmとなり、30.0mg/L以上の濃度でも約100nmのままであった。一方、最大結合抗体濃度の1/3の濃度の混合液で調製したコンジュゲートを用いたテストデバイスでは、反射吸光度はCRP濃度0〜300.0mg/Lまで濃度に比例して増加した。このとき、凝集体の粒度は69nmから74nmまでわずかに大きくなっただけであった。
【0055】
[実施例3]
1.塩滴定法による抗D-ダイマーモノクローナル抗体の金コロイドへの最大結合抗体濃度の決定
(1)抗D-ダイマーモノクローナル抗体
バトロキソビン処理フィブリノゲンを免疫原としてKohlerとMilsteinの方法[Nature、第256巻495頁(1975年)参照]に準じ、前記抗原で免疫したマウスの脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して当該抗体を産生するハイブリドーマを作製し、そのなかから、D−ダイマーに反応性の高いクローン#672101を選択した。以下、クローン#672101の産生する抗体を単に#672101抗体という。
(2)上記で得られた#672101抗体を以下pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件の緩衝液(後記i)〜iv))にて希釈して、各pHについて、10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100μg/mLの抗体溶液を作製した。また、1 OD/mLの金コロイド(粒径40nm)溶液を0.2mol/L K
2CO
3を用いて、pH6.0, 7.0, 8.0, 9.0の4条件のpHに調製した。各pH条件において、金コロイド溶液450μLに対して、各濃度の抗体溶液を50μL添加し、この混合液中の抗体濃度をもとに最大結合抗体濃度を求めた。撹拌後、それぞれの混合溶液に10%NaCl溶液100μLを添加し、室温で5分反応させた後、混合液の色調変化を目視で判定(写真撮影)し(
図6)、抗体濃度を上げてもそれ以上色調変化が認められない状態を与える最小の抗体濃度を、最大結合抗体濃度とした。その結果、#672101抗体の金コロイド(粒径40nm)への最大結合抗体濃度を3μg/mL、至適感作pHをpH8.0に決定した。
i) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)
ii) 2mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)
iii) 2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)
iv) 2mmol/Lほう酸緩衝液(pH9.0)
【0056】
2.抗D-ダイマーモノクローナル抗体と金コロイドとの結合体(コンジュゲート)の作製
#672101抗体を上記1で決定した最大結合抗体濃度(3μg/mL)及び最大結合抗体濃度の1/3の濃度になるように金コロイド(粒径40nm)と混合して、コンジュゲートを作製した。すなわち、1 OD/mLの金コロイド溶液(pH8.0)20mLに対し、上記の各濃度になるように2mmol/Lほう酸緩衝液(pH8.0)で調製した抗体溶液を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。
これらの金コロイドと抗体との混合液それぞれに対し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を2mL添加し、さらに5分間撹拌後、10℃にて、10,000rpmで45分間遠心し、沈渣(コンジュゲート)を得た。得られた沈渣に、Conjugate Dilution Buffer(Scripps社製)を1.2mL添加しそれぞれのコンジュゲートを懸濁し各コンジュゲートの吸光度を531nm(使用した金コロイドの最大吸収波長)で測定した(結果は図示せず)。
【0057】
3.抗D-ダイマーモノクローナル抗体コンジュゲートを用いたイムノクロマトデバイスの作製
1)コンジュゲートパッドの作製
上記2で調製した抗D-ダイマーモノクローナル抗体感作コンジュゲートを20 OD/mLとなるように、1.33%カゼイン、4%スクロース溶液(pH7.5)と混合して検出試薬を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、30分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0058】
2)抗D-ダイマー抗体固定化メンブレンの作製
ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)の短辺の一端に、1mg/mLに調製した抗D-ダイマーモノクローナル抗体( murine MAb against human D-dimer FDP fragment, clone DD3B6、American Diagnosticainc.社製)及び2.5%スクロースを含む10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)を、イムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて1μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、抗D-ダイマー抗体固定化メンブレンとした。
【0059】
3)サンプルパッドの作製
24mmol/L 塩化ナトリウム、0.5%スクロース及び30mmol/Lエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.2)を、一定体積に切断したグラスファイバー製パッド(Lydall社)に該パッド体積の1.15倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、45分乾燥し、サンプルパッドとした。
【0060】
4)テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(i)に上記抗D-ダイマー抗体固定化メンブレン(j)を貼り、該メンブレンの展開上流部側に抗D-ダイマー抗体(k)の塗布部を配置し、さら3rd Pad (m)を装着した。次いで上記1)で作製したコンジュゲートパッド(l)を配置装着した。さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記3)で作製したサンプルパッド(n)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(p)(Whatman社、740-E)を配置装着した。また、最後に抗体固定化メンブレンおよび吸収パッドを被覆するように上面にポリエステルフィルム(q)を配置装着しラミネートした。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してテストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック製の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、
図7中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。
図7にテストストリップの模式構成図を示した。
【0061】
5)D-ダイマー濃度の測定範囲の検討
上記の2種類の抗体感作濃度において作製したイムノクロマトテストデバイスを用いて、D-ダイマーの測定範囲を検討した。ナノピア用D-ダイマーキャリブレーター(積水メディカル株式会社製、60μg/mL)を市販ヒトプール血漿にて希釈した。希釈後のD-ダイマー濃度をナノピアD-ダイマー(積水メディカル株式会社製)を用いて測定したところ、各抗原液の濃度は0.4, 1.1, 5.3, 10.0, 15.3, 19.4μg/mLであった。
各濃度の抗原液120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA-1000(浜松ホトニクス社)を用いて10分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した(
図8)。その結果、最大結合抗体濃度の混合液で調製したコンジュゲートでは、抗原(D-ダイマー)濃度5.3μg/mL位から測定シグナルがプラトーになったのに対し、最大結合抗体濃度の1/3の濃度の混合液で調製したコンジュゲートでは、15.3μg/mLまで測定シグナルが右肩上がりに増大し、明らかに測定範囲が広がることが判った。