【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (2)2013年9月27日〜9月28日 東京工業大学大岡山キャンパスにおいて開催された電気化学秋季大会で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ化リチウム(LiF)と金属Mの酸化物(MはFe、Mn、Tiのうち少なくとも1つの金属元素)から成ることを特徴とする非水系リチウムイオン二次電池用の正極活物質。
フッ化リチウム(LiF)と金属Mの酸化物(MはFe、Mn、Tiのうちの少なくとも1つの金属元素)を不活性雰囲気下で、加熱することなく乾式で混合することを特徴とする非水系リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
フッ化リチウム(LiF)と金属酸化物FeOを不活性雰囲気下で、加熱することなく乾式で混合することを特徴とする非水系リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る正極活物質は、フッ化リチウム(LiF)と、金属Mの酸化物(金属酸化物)から成ることを特徴としている。さらに、本質的には、その製造の際に外部からの加熱を必要としないという特徴も有する。
【0018】
本発明に係る正極活物質の原料となるフッ化リチウム(LiF)と、金属Mの酸化物(金属酸化物)は、その混合の際に粉砕・混合を用いる。粉砕・混合に用いられる具体的手段については、特に限定されない。
例えば、金属酸化物の酸化を防ぐため、乾式下で(例えば、相対湿度10%以下)ボールミルを用いることが好ましく、そのうち特に、原料を充分に粉砕・混合することができる点から遊星型ボールミルを用いることが好ましい。この他にも、固形物質の粉砕・混合の目的で従来から用いられている各種の手段が適用可能であり、例えば、振動ミル、ターボミル、ディスクミル等を挙げることができる。
【0019】
このようにして得られる混合物は、平均粒径が、例えば、0.1〜50μmの範囲内、中でも0.1〜10μmの範囲内、特に、0.5〜3μmの範囲内であることが好ましい。当該正極活物質の平均粒径が小さすぎると取り扱い性が悪くなる虞があり、当該非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の平均粒径が大きすぎると平坦な活物質層を得るのが困難になる虞があるからである。
【0020】
また、低レートでの電池特性評価では、平均粒径が大きい活物質がエネルギー密度を稼ぐ上で有利であるが、高レートでの電池特性が要求される際には、活物質平均粒径を小さめに制御することで対応可能である。なお、本発明に係る正極活物質の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される該正極活物質の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0021】
本発明に係る正極活物質は、不活性雰囲気下において、LiFおよび、金属Mの酸化物を上記乾式混合することにより製造することができる。
【0022】
本発明に係る正極活物質の原料である金属Mの酸化物としては、例えば、FeO、Fe
3O
4、MnO、Mn
2O
3、Mn
3O
4、MnO
2、TiOを使用することができ、このうち、高いエネルギー密度が得られることおよび取り扱いの容易性から、FeOを用いることが特に好ましい。この他の金属Mの酸化物としては、良好な充放電特性を発揮できる点から、MnO、Mn
2O
3、Mn
3O
4、MnO
2、TiOのうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。この他には、金属Mの酸化物としてFe
3O
4を用いることも可能である。
【0023】
金属Mの酸化物にFeOを用いる場合には、これまで合成例の無い立方晶系の空間群Fm−3mに属するLiFeOFが生成されたことがXRDパターン解析から確認されている(後述の実施例1参照)。この得られたLiFeOFは、本発明の特に好適な正極活物質であり、従来のリチウム元素を含有する正極活物質では得られなかった高いエネルギー密度を奏することが確認されている(後述の実施例2、3参照)。
なお、これら金属Mの酸化物は、1種類のみならず複数種類を混合して用いることもできる。
【0024】
このように、本発明に係る正極活物質は、その製造の際に加熱することなく(外部からの加熱を必要とせずに)、原料を混合するのみで得られ、高いエネルギー密度が得られるという優れた特徴を有する。
【0025】
なお、当該原料の混合・粉砕(ドライミリング)により生じる摩擦熱によって、ある程度は必然的に温度が上昇するという側面がある。とりわけ本発明に係る正極活物質がフッ化リチウム(LiF)と、金属酸化物FeOを混合して得る場合には、この上昇温度も高々100℃以下であることを本発明者らは確認している。
【0026】
むしろ、当該正極活物質においては、その製造時の温度条件が200℃以上となる場合には、不安定な状態となり、本発明の原料混合物から形成された化合物LiFeOFが分解してしまうことを本発明者らは確認している。(後述の実施例4参照)。この原因は、加熱によりフッ素が揮発することや、加熱により所望とする正極活物質が酸化されることが考えられる。このようなことから、本発明に係る正極活物質は、特にフッ化リチウム(LiF)と金属酸化物FeOを混合して得る場合には、優れた充放電特性を発揮するLiFeOFの化合物状態を維持するという観点から、200℃未満の温度条件で製造することが好ましい。
【0027】
本発明に係る正極活物質は、非水系リチウムイオン二次電池としての実際の使用に際しては、Mが二価の金属の場合で説明すると、先ず、下記(3)式に示す初回充電反応によって、余計なガス発生を起こすことなく、二次電池内正極側にMOF正極を電解生成する。それ以降は、該MOF正極が正極として機能し、(4)式に示す可逆充放電反応を可能とすることを特徴とする。
【0029】
本発明に係る正極活物質に対する負極としては、エネルギー密度、コストの側面、および取り扱いの容易性から炭素負極(例えば、グラファイト)が好ましく、また、電池の安全性や取り扱いの容易性からリチウムチタン酸化物(LTO)(例えば、Li
4Ti
5O
12)を用いることが好ましいが、これに限定されることはなく、例えば、負極を炭素電極とする場合には、以下の(5)式および(6)式に示す充放電反応が起こる。
【0031】
本発明によれば、特に上記の金属MがFeの場合、すなわち、原料となる酸化金属にFeOを用いる場合には、これまでに直接合成報告例のないLiFeOFとして機能する正極活物質が得られる。
【0032】
上記の本発明に係る正極活物質は、非水系リチウムイオン二次電池の正極としてそのまま用いてもよいが、電極の導電性(レート特性)を向上させるために、公知の導電材との複合体を形成させてもよい。特に、炭素源を添加して混合することが好ましい。
【0033】
すなわち、本発明に従えば、レート特性を向上させる観点から、上記で得られた正極活物質であるLiF−MO混合正極を、不活性雰囲気下で炭素微粒子と共に粉砕・混合することにより、カーボンコートすることができる。不活性雰囲気としては、真空、窒素ガスやアルゴンガス等を用いることができ、例えば、アルゴンガスを用いることができる。
【0034】
このような炭素源の添加は複数回(例えば2段階)に分けて行ってもよい。この場合、第1段階では粉砕・混合、第2段階ではカーボンコートを主な狙いとすることが多い。
第1段階では、炭素源として、アセチレンブラック、グラファイトまたは、カーボンナノチューブなどを使用することができ、このうち特に、取り扱いの容易性などからアセチレンブラックを用いることが好ましい。第2段階では、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等を使用することができるが、電極として使用する際の導電性の高さからアセチレンブラックが好適である。(例えば、後述の実施例参照)
【0035】
例えば、本発明の製造方法の一例としては、LiFとFeOを不活性雰囲気下で5時間から100時間混合した後、アセチレンブラックを加え、さらに不活性雰囲気下で10時間から48時間混合することでLiF−FeO混合正極(LiFeOF化合物正極)が得られる(例えば、後述の実施例参照)。
【0036】
本発明に従えば、以上のようにして得られた正極活物質LiF−MOを含むリチウムイオン非水系二次電池正極が提供される。
【0037】
図1は、本発明に係わる非水系リチウムイオン二次電池の層構成の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係わる非水系リチウムイオン二次電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
非水系リチウムイオン二次電池10は、正極活物質層2および正極集電体4を備える正極6と負極活物質層3および負極集電体5を備える負極7と、正極6と負極7に挟持される電解質層1を備える。
【0038】
このように、本発明において、正極活物質を含有する正極と負極、その間に介在する電解質を備える非水系リチウムイオン二次電池が提供され、高いエネルギー密度を発揮する。特に好適には、炭素負極(例えば、グラファイト)を用いることであり、この場合にはエネルギー密度が高く、低コストで製造でき、さらに取り扱いが容易な非水系リチウムイオン二次電池が提供される。
【0039】
以下、本発明に係わる非水系リチウムイオン二次電池に用いられる、正極、負極、および電解質層、ならびに本発明に係わる非水系リチウムイオン二次電池に好適に用いられるセパレータおよび電池ケースについて、詳細に説明する。
【0040】
本発明に使用される正極は、好ましくは上述した正極活物質を含む正極活物質層を備えるものであり、通常、これに加えて正極集電体、および該当正極集電体に接続された正極リードを備える。
【0041】
[集電体]
集電体としては、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス、銅等の導電体が用いられる。集電体の形状は、箔状、網状および多孔体状等が挙げられる。これらのなかでも、二次電池の正極作動電位において安定であり、薄膜に加工し易く、安価であるという点から、アルミニウム箔が好ましい。
【0042】
[バインダー]
バインダーとしては、熱可塑性樹脂が用いられ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と言うことがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言うことがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0043】
[非水系リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
非水系リチウムイオン二次電池用正極は、集電体に、活物質、導電材およびバインダーを含む正極合材を担持(積層)することによって製造される。
集電体に、正極合材を担持する方法としては、(1)正極合材を加圧成形する方法、(2)有機溶媒等と正極合材を混合して、正極合材のペーストを調製し、そのペーストを、集電体に塗工し、さらに、集電体に塗工したペーストを乾燥した後、プレスする等して固着する方法が挙げられる。
【0044】
集電体に、ペーストを塗工する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。本発明では、これらの塗工法を、複数組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[負極の製造方法]
負極電極は、一般に、集電体に、活物質、導電材およびバインダーを含む負極合材を担持(積層)することによって製造される。
集電体に、負極合材を担持する方法としては、(1)負極合材を加圧成形する方法、(2)有機溶媒等と負極合材を混合して、負極合材のペーストを調製し、そのペーストを、集電体に塗工し、さらに、集電体に塗工したペーストを乾燥した後、プレスする等して固着する方法が挙げられる。
【0046】
[負極活物質]
負極活物質としては、エネルギー密度を稼ぐ上ではリチウム金属あるいは、リチウムを含有した合金が望ましいが、負極にリチウム含有組成のものを用いると製造過程で還元もしくは不活性ガス雰囲気が不可欠となる。製造コストを低減し、電池の安全性を高めるためには、グラファイト等の炭素材料が好適である。その他の負極候補としては、リチウムイオンを挿入・脱離することのできる周期表第14族元素を単体または主成分として含む金属元素、例えば、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等が挙げられる。本発明の正極活物質にはリチウムが含有されているため、このようにリチウムを含まない材料も負極として用いることが可能である。
【0047】
[非水電解質]
本発明における非水電解質とは、アルカリイオンを含有する物質からなる液体または固体であって、アルカリイオンとして、主にリチウムイオンを含有する。
非水電解質は、リチウムイオン以外のアルカリイオンを含んでいてもよい。リチウムイオン以外のアルカリイオンとしては、リチウムイオンおよびカリウムイオンのいずれか一方、あるいは、リチウムイオンおよびカリウムイオンの両方が好ましい。
【0048】
非水電解質に含有されるリチウムイオンの含有割合は、アルカリイオン全体の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上(100質量%を含む)である。
【0049】
本発明における非水電解質は、通常、電解質および有機溶媒を含有する非水電解液として用いられる。
電解質としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4が挙げられる。これらは、2種以上を混合した混合物を使用してもよい。
電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3およびLiN(SO
2CF
3)
2からなる群より選択される少なくとも1種のリチウム塩を含むことが好ましい。
【0050】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンスルトン等の含硫黄化合物;または、前記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したもの等が用いられる。
【0051】
本発明では、非水電解質として、上記の非水電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。
固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子、ポリオルガノシロキサン鎖およびポリオキシアルキレン鎖から選ばれる少なくとも1種以上を含む高分子等の高分子固体電解質に電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプの電解質や、Li
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4等の硫化物含有電解質;LiZr
2(PO
4)
3等のNASICON型電解質等の無機固体電解質が挙げられる。
このような固体電解質を用いることにより、非水系リチウムイオン二次電池の安全性をより高めることができることがある。
なお、本発明の非水系リチウムイオン二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータとして機能する場合もある。その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0052】
[セパレータ]
本発明の非水系リチウムイオン二次電池は、通常、セパレータをさらに備えている。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体等の材質からなる多孔質フィルム、不織布、織布等の形態をなす材料が用いられる。
【0053】
セパレータの厚さは、電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄いほど好ましい。
セパレータの厚さは、一般に、5〜200μm程度であることが好ましく、より好ましくは5〜40μm程度である。
【0054】
電極群の形状としては、例えば、この電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円形、楕円形、長方形、角が取れたような長方形等をなすような形状が挙げられる。
【0055】
また、非水系リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型等の形状が挙げられる。
【0056】
このようにして得られた非水系リチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池に比べて、充放電を繰り返した際の放電容量維持率が大きく、充放電サイクル特性に優れている。さらに、リチウムデンドライトの生成も抑制することができ、二次電池としての安定性に優れている。
なお、リチウムデンドライトは、充放電の繰り返しに伴って電極に析出するリチウムの樹枝状晶のことである。このリチウムデンドライトによって、正極と負極が短絡すると、非水系リチウムイオン二次電池が機能しなくなる。
【0057】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造)(酸化金属FeO)
(実施例1)
フッ化リチウム(LiF、和光純薬社製)と酸化鉄(FeO、和光純薬社製)を前述した式(6)の組成よりLi過剰となるように、モル比がLiF:FeO=1.2:1となるように秤量し、雰囲気制御可能である遊星ボールミル用容器に入れ、直径3mmのジルコニアボール40gと共に、アルゴン雰囲気下において密閉した。これを600rpmの条件下でボールミル(フリッチュ社製、pulverisette7)で混合粉砕した。ボールミルで混合粉砕時間について、24時間、48時間、および72時間とした各サンプルを取得した。その後、さらに炭素源としてアセチレンブラックを、活物質:アセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100)が70重量%:5重量%となる比率で加え、これを600rpmの条件下で24時間、混合した。
次に、得られた混合物:炭素源(アセチレンブラック)を75重量%:20重量%の比率になるように、アセチレンブラックを秤量し、雰囲気制御可能である遊星ボールミル用容器に入れ、直径3mmのジルコニアボール20gと共に、アルゴン雰囲気下において密閉した。これを400rpmの条件下で、3時間ボールミルで混合することで、LiF−FeO混合正極(LiFeOF化合物正極)を製造した。
【0059】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の構造解析)
実施例1の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質について、X線回折測定を行った。詳細な測定条件は以下の通りである。
X線回折測定装置:TTRIII(Cu−Kα、リガク製)
測定範囲:2θ=10〜80°
測定間隔:0.02°
走査速度:0.02°/min
測定電圧:50kV
測定電流:300mA
【0060】
図2(a)は、実施例1の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質であるLiF−FeO混合正極(LiFeOF化合物正極)のXRDパターンである。得られた正極活物質のXRDパターンは、参考として示しているフッ化リチウム(LiF)と酸化鉄(FeO)のICDDデータより得られたXRDピークと一致している。得られた実施例1のLiF−FeO混合正極(LiFeOF化合物正極)のXRDピークは、すべてLiFとFeOの回折ピークと帰属され、ミリング時間が24時間、48時間、72時間と長時間化するほど、回折ピークがLiFeOFに近付いた。特に72時間ミリングを行ったサンプルによれば、回折ピークは、36°、43°、および62°で観察された。得られた回折ピークから、LiF−FeO混合正極(LiFeOF化合物正極)は、立方晶系の空間群Fm−3mに属するLiFeOFであることが確認された。
【0061】
調製したLiFeOF化合物正極の粒子径を観察するために、SEM観察を行った結果を
図2(b)に示している。その結果、得られたLiFeOF化合物正極の一次粒子径は、1μm以下であることが確認された。
【0062】
図2(c)は、実施例1の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質であるLiFeOF化合物正極のX線吸収微細構造(XANES)スペクトルを示す。同図では、上述したボールミルで回転させた時間を24時間、48時間、および72時間とした正極活物質の各サンプルごとに示している。さらに、鉄系化合物の標準サンプルとしてFeOとFeF
2の結果、および電気化学的に合成したLiFeOFの結果も示している。
【0063】
得られたLiFeOF化合物正極のXANESスペクトルから、ボールミルによるミリング時間が長くなるにつれて、グラフの曲線(カーブ)が、グラフの右側にシフトしていた。特に、ミリング時間が72時間を越えた場合には、LiF−FeO混合物から電気化学的に合成したLiFeOFの曲線とよく似た曲線に変化していることから、LiFeOFが生成されているものと考えられる。
【0064】
以上のことから、本実施例の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質は、原料にLiFとFeOを用いた場合には、特に、ミリング時間が長時間(例えば、72時間)を越えた場合には、化合物LiFeOFが形成されたことが確認された。
すなわち、本発明に係る正極活物質は、本質的には混合物から成ることから、総称すれば混合正極といえるものの、そのなかでも原料にLiFとFeOを用いた場合には、製造条件によっては、化合物LiFeOFから成る正極活物質(化合物正極)といえることが示された。
【0065】
(リチウム金属負極を用いた非水系リチウムイオン二次電池の製造)
(実施例2)
正極活物質として、上記実施例1の方法により製造し、カーボンコート処理を施した非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質と結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業社製、Polyflon PTFE F−103)をそれぞれ用意した。これらカーボンコート後の正極活物質、および結着剤を、カーボンコート後の正極活物質:結着剤=95重量%:5重量%となるように混合したものをφ10mmのディスク状電極に成形した。
正極集電体として、チタンメッシュを準備した。
負極として、リチウム金属(本城金属社製)を準備した。
電解液として、非水電解液1M LiPF
6/EC:DMC=1:1(体積比)(富山薬品工業株式会社社製)を準備した。
セパレータとしてポリプロピレンセパレーター(商標セルガード3501)を準備した。
電池ケースとして、コインセル(SUS2032型)を準備した。上記正極集電体、正極合剤、上記電解質層、および上記負極を、アルミ箔、正極合剤層、電解質層、リチウム金属の順となるように電池ケースに収納して、実施例2の非水系リチウムイオン二次電池を製造した。
以上の工程は、すべてアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0066】
(チタン酸リチウム(LTO)負極を用いた非水系リチウムイオン二次電池の製造)
(実施例3)
用いた負極材料をリチウム金属からチタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12(LTO)に変更した以外は、実施例2と同様に行った。
【0067】
(非水系リチウムイオン二次電池の充放電試験)
実施例2および、実施例3の非水系リチウムイオン二次電池について、25℃、定電流モードで充放電試験を行った。具体的には、まず、以下の電流密度の条件下、5Vを上限として、定電流モードで充電を行った。次に、1.0V、1.3Vまたは、1.5Vまで放電を行い、得られた容量を放電容量とした。
実施例2、3の電流密度:0.2mA/cm
2
【0068】
図3(a)は、実施例2のLiFeOF化合物正極を用いた非水系リチウムイオン二次電池の充放電曲線である。充放電曲線では、上述したボールミルに供した時間を24時間、48時間、および72時間とした正極活物質の各サンプルごとにその結果を示している。すなわち、ミリング時間が24時間のサンプルでは、初回充放電容量が、131/110mAh/gであった。また、ミリング時間が48時間のサンプルでは、初回充放電容量が、188/184mAh/gであった。さらに、ミリング時間が72時間のサンプルでは、初回充放電容量が、239/253mAh/gであった。
【0069】
初回充電反応においては、ミリング時間が24時間から72時間へと増加するにつれて、3.0V付近の充電平坦部の領域が増大し、LiFeOF化合物正極の充電容量が増加することが確認された。このことは、LiFeOF化合物正極において、ミリング時間の増加と共に、LiFeOF相が形成されたことに起因していると考えられる。
【0070】
さらに、ミリング時間が72時間のサンプルについて、サイクル特性を確認した。
図3(b)は、電流密度0.2mA/cm
2、電圧範囲1.8〜4.9Vの条件で得られたサイクル特性を示している。放電容量は、10サイクルを経過後も250mAh/gを維持した。
【0071】
(ファイン化プロセス)
次に述べるように、LiFeOF化合物正極を簡便に調整するため、LiFとFeOをそれぞれ、雰囲気制御容器をアルゴン雰囲気下で密閉した後、600rpmで24時間粉砕することで、1/100μmオーダーまで微細化したものを用いた。その後、実施例1と同様の方法で24時間混合することで得た。
図4に電流密度:0.2mA/cm
2の条件下で測定して得られたLiFeOF化合物正極の初回および2回目の充放電曲線を示す。
図4から、初回充電容量は、4.9Vまで265mAh/gであることが確認された。この結果は、LiFeOFの理論容量275mAh/gとほぼ一致していた。
また、初回放電反応においては、初回放電容量は292mAh/gを示し、110%の充放電効率を発揮した。また、表1に示すようにリチウム金属負極に対する初回放電反応においてレート特性を検討した結果、電流密度1.0mA/cm
2で190mAh/gを示した。微細化したLiFとFeOを用いて調製したLiFeOF化合物正極のエネルギー密度は、電流密度0.2mA/cm
2で730Wh/kgという従来では得られない高い値が示された。例えば、上述した非特許文献1で示されたエネルギー密度が608Wh/kgであることからも、従来の二次電池で得られるエネルギー密度よりも格段に高いことが確認された。
【0073】
実施例3のLiFeOF化合物正極のうち、ミリング時間が72時間のサンプルについて、以下の電池特性を確認した。
先ず、
図5(a)は、実施例3のミリング時間が72時間のサンプルを正極に用いて、チタン酸リチウム(LTO)を負極とした場合の非水系リチウムイオン二次電池の充放電曲線を示している。この充放電曲線から、初回充放電容量は、180/149mAh/gであることが確認された。
次に、
図5(b)は、同サンプルを用いて電圧範囲0.3〜3.4Vで得られたサイクル特性を示している。この結果から、LiFeOF化合物正極の放電容量は、40サイクルにおいても130mAh/gを維持していることが確認された。このように、本発明の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いることで、安定かつ良好な充放電が可能であることが見出された。
【0074】
(加熱による影響)
(実施例4)
本発明に係る正極活物質が加熱により受ける影響を確認した。
実施例1により得られた72時間のメカニカルミリング後の正極活物質のサンプルに対して、加熱焼成を行った。100℃、150℃、200℃、300℃、および400℃の各温度で焼成した後のサンプルのXRD測定結果を
図6に示す。この結果から、本発明に係る正極活物質は、焼成温度が150℃の場合では充分に安定であるが、200℃の場合では、化合物LiFeOFは消滅してLiFとFe
3O
4に分解されており、焼成温度が400℃の場合ではほぼ完全に分解されたことが確認された。なお、上記の加熱実験では、温度制御がよくない高温層を用いたので、300度以下の加熱条件では、設定温度に対するばらつきが大きく、高温側では+30%程度の誤差が想定される実験条件であったため、加熱温度を150℃と設定した場合では、実温度が190℃程度まで上昇した時間があるものと考えられる。このようなことから、LiFとFeOを混合して得る本発明の正極活物質を製造する際には、200℃未満の温度条件で行うことが好ましい。また、本発明の正極活物質がLiFとFe
3O
4に分解された事実から、次の2つが理解される。(1)先ず、本発明の正極活物質は、1つの態様として、原料の酸化金属にFe
3O
4を用いた場合、すなわち、当該LiFとFe
3O
4から成る正極活物質が含まれることが当然に理解される。(2)次に、本発明の正極活物質は、1つの態様として、原料の酸化金属にFeOを用いた場合には、上述のLiFeOFに、LiF、FeO、Fe
3O
4の少なくとも1つを含む正極活物質が含まれることが当然に理解される。
【0075】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造)(酸化金属MnO)
(実施例5)
ミリング時間を24時間として作成した本発明に係る正極活物質について、FeOを酸化マンガン(MnO)に変更した以外は、実施例1、実施例2および、実施例3と同様に実施した。
【0076】
図7(a)は、本実施例の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質であるLiF−MnO混合正極のXRDパターンを示したグラフである。得られた活物質のXRDパターンは、参考と示しているフッ化リチウム(LiF)と酸化マンガン(MnO)のICDDデータより得られたXRDピークと一致しており、得られたLiF−MnO混合正極のXRDピークは、すべてLiFとMnOのピークと帰属される。このようなことから、LiF−MnO混合正極は、LiFとMnOから成る混合物であることが考えられる。調製したLiF−MnO混合正極の粒子径を観察するために、SEM観察を行った結果を
図7(b)に示している。その結果、得られたLiF−MnO混合正極の一次粒子径は、1μm以下であることが確認された。
【0077】
作成した正極活物質のサンプル(LiF−MnO混合正極)について、非水系リチウムイオン二次電池としての以下の電池特性を確認した。
先ず、リチウム金属を負極に用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.8〜4.9V)を
図8(a)に示す。この結果から、初回放電反応においては、初回充電容量は220mAh/g、初回放電容量は220mAh/gを示し、100%の充放電効率を発揮した。
次に、チタン酸リチウム(LTO)を負極として用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:0.3〜3.4V)を
図8(b)に示す。この結果から、初回充電容量は200mAh/g、初回放電容量は145mAh/gを示し、73%の充放電効率を発揮した。
さらに、炭素電極(グラファイト)を負極として用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.8〜4.9V)を
図8(c)に示す。この結果から、初回放電容量は、150mAh/gを示し、60%の充放電効率を発揮した。
【0078】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造)(酸化金属Mn
3O
4)
(実施例6)
フッ化リチウム(LiF、和光純薬社製)と四酸化三マンガン(Mn
3O
4、和光純薬社製)をモル比がLiF:Mn
3O
4=4.5:1となるように秤量し、雰囲気制御可能である遊星ボールミル用容器に入れ、直径3mmのジルコニアボール30gと共に、アルゴン雰囲気下において密閉した。これを600rpmの条件下でボールミル(フリッチュ社製、pulverisette7)で攪拌した。ボールミルで攪拌した時間について、8時間としたサンプルを取得した。次に、得られた混合物:炭素源(アセチレンブラック)を70重量%:25重量%の比率になるように、アセチレンブラックを秤量し、雰囲気制御可能である遊星ボールミル用容器に入れ、直径3mmのジルコニアボール20gと共に、アルゴン雰囲気下において密閉した。これを350rpmの条件下で、5時間ボールミルで攪拌することで、LiF−Mn
3O
4混合正極を製造した。得られたLiF−Mn
3O
4混合正極は、XRDピークが観測されないことから、微粒子化されているものと考えられる。これ以外の工程については、実施例2、実施例3と同様の方法で行った。
【0079】
作成した正極活物質のサンプル(LiF−Mn
3O
4混合正極)について、非水系リチウムイオン二次電池としての以下の電池特性を確認した。
先ず、リチウム金属を負極に用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.5〜4.8V)を
図9(a)に示す。この結果から、初回充放電反応においては、初回充電容量は177mAh/g、初回放電容量は230mAh/gを示し、130%の充放電効率を発揮した。
次に、炭素電極(グラファイト)を負極として用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:2.0〜4.8V)を
図9(b)に示す。この結果から、初回充電容量は170mAh/g、初回放電容量は100mAh/gを示し、60%の充放電効率を発揮した。
【0080】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造)(酸化金属Mn
2O
3、MnO
2)
(実施例7)
LiF−Mn
2O
3及び、LiF−MnO
2混合正極の調製は、Mn
3O
4をMn
2O
3又は、MnO
2に変更した以外は、実施例6と同様に行った。
【0081】
実施例2と同様の方法で作成した正極活物質のサンプル(LiF−Mn
2O
3、LiF−MnO
2)について非水系リチウムイオン二次電池としての以下の電池特性を確認した。
先ず、LiF−Mn
2O
3のリチウム金属を負極に用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.5〜4.8V)を
図10(a)に示す。この結果から、初回充放電反応においては、初回充電容量は140mAh/g、初回放電容量は200mAh/gを示した。次に、LiF−MnO
2のリチウム金属を負極に用いた場合の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.5〜4.8V)を
図10(b)に示す。この結果から、初回充放電反応においては、初回充電容量が75mAh/g、初回放電容量が225mAh/gを示した。
【0082】
(非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造)(酸化金属TiO)
(実施例8)
ミリング時間を24時間として作成した本発明に係る正極活物質について、FeOを酸化チタン(TiO)に変更した以外は、実施例1および実施例2と同様に行った。
【0083】
図11(a)は、本実施例の非水系リチウムイオン二次電池用正極活物質であるLiF−TiO混合正極のXRDパターンを示したグラフである。得られた活物質のXRDパターンは、参考と示しているフッ化リチウム(LiF)と酸化チタン(TiO)のICDDデータより得られたXRDピークと一致しており、得られたLiF−TiO混合正極のXRDピークは、すべてLiFとTiOのピークと帰属される。このようなことから、LiF−TiO混合正極は、主として、LiFとTiOから成る混合物であることが考えられる。調製したLiF−TiO混合正極の粒子径を観察するために、SEM観察を行った結果を
図11(b)に示している。その結果、得られたLiF−TiO混合正極の一次粒子径は、1μm以下であることが確認された。
【0084】
図12は、実施例2と同様の方法で作成した本実施例のLiF−TiO混合正極について、リチウム金属を負極として用いた場合の非水系リチウムイオン二次電池の充放電曲線(電流密度:0.2mA/cm
2、電圧範囲:1.5〜4.9V)である。
図12から、当該LiF−TiO混合正極は、初回充電容量が386mAh/g(1.3電子反応)であり、初回放電容量が330mAh/g(1.3電子反応)であることが確認された。
【0085】
以上の実施例では、金属Mが単独の場合で類似の特性が得られていることから、金属Mを複数に組み合わせた場合にも、上記と同様に、良好な電池特性が得られると考えられる。