(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6168637
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】コーヒー抽出装置
(51)【国際特許分類】
A47J 31/00 20060101AFI20170713BHJP
A23F 5/00 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
A47J31/00
!A23F5/00
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-34479(P2017-34479)
(22)【出願日】2017年2月27日
【審査請求日】2017年5月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513072949
【氏名又は名称】HARIO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 将平
【審査官】
安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭50−114483(JP,U)
【文献】
特開2001−78892(JP,A)
【文献】
実開平1−99321(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOTECHNO/CABA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー粉を受けて容器の開口の上に配置される濾し器と、水を収容する貯水器と、この貯水器から供給される水を前記濾し器内のコーヒー粉上に滴下させる滴下口を下部に有する滴下部材と、前記貯水器と前記滴下部材とを前記濾し器の上方に支持するフレームとを具備し、
前記滴下部材は、リサジュー曲線運動をする振り子機構を含み、この振り子機構の下端に前記滴下口を有することを特徴とするコーヒー抽出装置。
【請求項2】
前記振り子機構は、前記貯水器の下方に配置され、上部振動軸の周りを単振動する上部振動部材と、前記上部振動軸の下方に位置して当該上部振動軸に交差する下部振動軸の周りを単振動するように、前記上部振動部材に連結された下部振動部材とを含むことを特徴とする請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項3】
前記フレームは、上部支持部と、それの下方に離れて配置される下部支持部とを具備し、
前記貯水器は、前記上部支持部に支持され、内部に貯留する水を滴下するために下方へ延出する給水管を具備し、
前記上部振動部材は、前記下部支持部上に配置される前記上部振動軸周りを単振動するように前記下部支持部材上に支持され、
前記下部振動部材は、前記上部振動部材の下部に配置される前記下部振動軸周りを単振動するように前記上部振動部材の下部に連結され、前記給水管から滴下される水を受ける水受け部材と、この水受け部材から水を流下させるように当該水受け部材から下方へ延出し下端に前記滴下口を有する導水管部材とを具備することを特徴とする請求項2に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項4】
前記導水管部材は、下端部に錘を有することを特徴とする請求項3に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項5】
前記水受け部材は、上方に開放する開口を具備し、
前記給水管の下端は、前記水受け部材へ水を滴下させるように前記開口の上方に配置されることを特徴とする請求項3に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項6】
前記濾し器は、内側に装着される濾紙を介してコーヒー粉を受けることを特徴とする請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項7】
前記濾し器は、濾し網を具備することを特徴とする請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項8】
前記濾し器は、中央に抽出口を有する円錐漏斗型であり、内側に装着される円錐形の濾紙を介してコーヒー粉を受けることを特徴とする請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項9】
前記フレームの下部支持部は水平板状で、前記振動部材を揺動可能に挿通させる開口を具備し、
前記上部振動部材は、屈曲した金属丸棒材からなり、前記下部支持部の開口を揺動可能に上下に通過して下方へ突出するU字状の湾曲部と、この湾曲部の両端に連続して逆U字状に屈曲し下端が前記下部支持部の上面に揺動自在に当接する一対の支持脚部とを具備し、当該一対の支持脚の下端間を通る前記上部振動軸の周りを単振動するように構成され、
前記下部振動部材は、前記水受け部材の開口の対向縁間に渡るアーチ状の吊り手と、この吊り手と前記上部振動部材とを連結するフック部材とをさらに具備し、このフック部材と前記上部振動部材との接点を通る前記下部振動軸の周りを単振動するように構成されることを特徴とする請求項3に記載のコーヒー抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー粉から冷水でコーヒーを抽出するためのコーヒー抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷水により、コーヒー粉から抽出されたコーヒーは、香りや酸味、にが味などコーヒー本来の成分が失われておらず、湯で抽出されたコーヒーに比べて風味が優れると共に、抽出後の風味の変化が小さく、保存性にもすぐれているが、抽出に時間がかかる。従来、コーヒー粉から冷水でコーヒーを抽出するためのコーヒー抽出装置として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
このコーヒー抽出装置においては、受け容器の上部に濾し材を備えたロートが載置される。ロートの上方に水の滴下ノズルを備えた水溜め部が配置される。ロート内に投入されたコーヒー粉に、滴下ノズルから冷水を滴下させ、この冷水により、濾し材を介して受け容器へコーヒーを抽出する。水溜め部は、その下部に、中心から末拡り状に分岐した複数本の滴下ノズルを有する。複数本のノズルから、コーヒー粉の上の複数箇所に水が滴下され、コーヒー粉全体に水が行き届く。このため、短い時間で必要量のコーヒーの抽出がなされる。
一方、砂のような微粒子のベッドに、リサジュー図形を描画する振り子装置が特許文献2に記載されている。この装置においては、振り子の下端に、振り子が揺るときにベッドの表面を貫通する先細の先端を持つスクライブが設けられる。振り子は、固定された第1の水平軸を中心にして前後に揺動する第1の運動と、水平軸の下方に設けられる第2の水平軸を中心にして左右に揺動する第2運動がもたらされ、それにより振り子のユニバーサル運動がもたらされるように吊される。振り子の振動軌跡のパターンは、一般に、第1の水平軸に対する振り子の解放位置により多様に変化する。2つの振動軸を持つ振り子は、様々な楕円軌道で揺動し、周期的にその回転方向を変えて複雑な振動パターンを作り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−78892号公報
【特許文献2】米国特許第4067111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のコーヒー抽出装置においては、水をコーヒー粉上の複数箇所に滴下できるが、その位置と数は固定される。また、滴下ノズルの数を増やすのには限界がある。
したがって、本発明は、滴下部材に、リサジュー曲線運動をする振り子機構を応用し、水の滴下位置を移動させることにより、コーヒー粉に万遍なく、効率的に水を浸潤させ、より短時間で風味に優れたコーヒーを抽出できるコーヒー抽出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明のコーヒー抽出装置1は、容器3の開口3aの上に配置されコーヒー粉Gを受ける濾し器4と、水を収容する貯水器5と、この貯水器5から供給される水を濾し器4内のコーヒー粉G上に滴下させる滴下部材6と、貯水器5と滴下部材6とを濾し器4の上方に支持するフレーム2とを具備する。滴下部材6は、リサジュー曲線運動をする振り子機構13,14を含み、この振り子機構13,14の下端に、滴下口16aを有する。振り子機構13,14に任意の初期振動を与えると、その先端はリサジュー曲線を描いて濾し器4の上方の一定範囲を稠密に埋めるように移動しつつ、滴下口16aからコーヒー粉Gへ水を滴下させる。振り子機構13,14の振動に電力等の追加的外部動力は不要である。水の滴下点は、時間と共にコーヒー粉G上の広範囲に稠密に広がり、コーヒー粉Gに均一に浸潤する。その結果、濾し器4を介して容器3内に風味の豊かなコーヒーが抽出される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコーヒー抽出装置1は、滴下部材6が、振り子機構13,14により、リサジュー曲線運動を行い、その運動軌跡に沿って、コーヒー粉上の広範囲に稠密に水を滴下させることができるため、風味の豊かな水出しコーヒーを比較的短時間で抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るコーヒー抽出装置の一部を切欠した正面図である。
【
図3】
図1のコーヒー抽出装置の上部の縦断正面図である。
【
図4】
図1のコーヒー抽出装置の上部の縦断側面図である。
【
図5】
図1のコーヒー抽出装置の下部の縦断正面図である。
【
図6】
図1のコーヒー抽出装置の一部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1、
図2において、コーヒー抽出装置1は、フレーム2と、抽出されたコーヒーを収容する容器3と、容器3の開口3aの上に配置され、コーヒー粉Gを受ける濾し器4と、冷水を収容する貯水器5と、この貯水器5から供給される水を濾し器4内のコーヒー粉G上に滴下させる滴下部材6とを具備する。
【0009】
フレーム2は、4本の支柱7の内側に、いずれも矩形の平板からなる上部支持板8、下部支持板9及び底部支持板10を水平に支持してなる。
図3、
図4に示すように、上部支持板8、下部支持板9は、それぞれ板面の中央に上下に貫通する開口8a、9aを有する。底部支持板10上に容器3が、下部支持板9上に滴下部材6の上端部が、上部支持板8上に貯水器5が、それぞれ支持される。
【0010】
図5において、濾し器4は、中央下部に抽出口4aを有する円錐漏斗型であり、内側に装着される円錐形の濾紙11を介してコーヒー粉Gを受ける。濾し器4は、それ自体、濾紙11に代わる濾し網を有するものであってもよいし、円錐ロート型でなくてもよい。
【0011】
図3、
図4に示すように、貯水器5は、上部の大径筒部5aの下部に小径筒部5bを有し、その下部に筒状出口5bを有する。小径筒部5bと筒状出口5bが、上部支持板8の開口8aに挿通される。筒状出口5bに、滴下頻度を調整するためのコック5dを介して、滴下部材6に水を滴下して供給する給水管12が接続される。
【0012】
図6に示すように、滴下部材6は、リサジュー曲線運動をする振り子機構を有し、その下端に滴下口16aを有する。振り子機構は、上部振動軸xの周りを単振動する上部振動部材13と、下部振動軸yの周りを単振動するように、上部振動部材13に連結された下部振動部材14とを有する。下部振動軸yは、上部振動軸xの下方に位置してこれと交差するように配置される。
【0013】
図6に示すように、上部振動部材13は、屈曲した金属丸棒材からなり、下部支持板9の開口9aを揺動可能に上下に通過して下方へ突出するU字状の湾曲部13aと、この湾曲部13aの両端に連続して逆U字状に屈曲する一対の支持脚部13bとを具備する。支持脚部13bの下端は球面状に形成され、下部支持板9の上面に形成された支持凹部9bの湾曲凹面上に揺動自在に当接する。したがって、上部振動部材13は、一対の支持脚13bの下端間を通る上部振動軸xの周りを振動する。
【0014】
図6に示すように、下部振動部材14は、カップ状の水受け部材15と、導水管部材16とを具備する。給水管12は、下部支持板9の開口9aを通過して下方へ延び、下端が水受け部材15の開口15aの上方に配置される。貯水器5内の水は、給水管12を介して水受け部材15内へ滴下される。導水管部材16は、水受け部材15に連通して下方へ延出し、下端に滴下口16aを有する。導水管部材16の下端部には、錘17が固着される。
【0015】
図6に示すように、水受け部材15は、上方に開放する開口15aの対向縁間に渡るアーチ状の吊り手15bを具備する。吊り手15bと上部振動部材13との間が、フック部材18で連結される。フック部材18は、金属丸棒材をS字状に屈曲してなり、上部湾曲部18aが、上部振動部材13のU字状湾曲部13aに掛けられ、下部湾曲部18bが、吊り手15bに掛けられる。したがって、下部振動部材14は、フック部材18と上部振動部材13との接点を通る下部振動軸yの周りを振動する。
【0016】
滴下部材6を任意の角度引き上げて解放することにより、滴下部材6に初期振動を与えると、その先端はリサジュー曲線を描いて濾し器4の上方の一定範囲を稠密に埋めるように移動しつつ、滴下口16aからコーヒー粉Gへ所定の時間間隔で水を滴下させる。滴下部材6の振幅は、時の経過と共に縮小し、その振動軌跡は徐々に濾し器4の中心部に収束する。そして、所定時間(例えば30分程度)の経過により、滴下部材6は、濾し器4の中心上で静止する。このため、水の滴下密度は、濾し器4の中心部に向かうにしたがって高くなる。コーヒー粉Gの層の厚さも、濾し器4の中心部に向かうにしたがって増大するから、滴下される水の量がこれに比例して増大することにより、効率的にコーヒーの抽出が行われる。
【0017】
貯水器5から供給される水は、給水管12の下端から受水部材15内へ所定の時間間隔で滴下される。受水部材15内へ滴下された水は、次々と、相互間に空間を置いて導水管16内を下降し、下端の滴下口16aから、濾し器4内のコーヒー粉G上に落下する。水が、滴下口16aにおいて、導水管16内の上層の空気により押し出される際、一瞬、水泡を形成した後、破裂し、大きさ及び形状の異なる複数の水滴となって飛散し、コーヒー粉G上に広く薄く落下する。このため、コーヒー粉に、より均一に水を浸透させることができ、コーヒー抽出の効率化を図ることができる。
【0018】
本発明の図示の実施形態に係るコーヒー抽出装置Aと、従来の一点から水を滴下する定点滴下式のコーヒー抽出装置Bとを用いて、同量、同粒度のコーヒー粉に、同量、同温度の水を滴下してコーヒーの抽出を行い、その結果を比較する試験を行った。抽出装置Bについては、それに推奨される抽出時間、4時間をかけて抽出を行った。抽出装置Aについては、0.5時間かけて抽出を行った。その結果、抽出時間が1/8であるにもかかわらず、抽出装置Aの方が、抽出装置Bよりも、抽出されたコーヒーの濃度(不純物総溶解度(TDS))の平均値が高かった。この試験結果から見て、図示の実施形態に係るコーヒー抽出装置のコーヒー抽出効率が従来のものより高いことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0019】
1 コーヒー抽出装置
2 フレーム
3 容器
3a 開口
4 濾し器
4a 抽出口
5 貯水器
5a 大径筒部
5b 小径筒部
5c 筒状出口
5d コック
6 滴下部材
7 支柱
8 上部支持板
8a 開口
9 下部支持板
9a 開口
10 底部支持板
11 濾紙
12 給水管
13 上部振動部材
13a 湾曲部
13b 脚部
14 下部振動部材
15 水受け部材
15a 開口
15b 吊り手
16 導水管
16a 滴下口
17 錘
18 フック部材
18a 上部湾曲部
18b 下部湾曲部
【要約】
【課題】短時間で風味に優れたコーヒーを抽出できる水出し式のコーヒー抽出装置を提供する。
【解決手段】コーヒー抽出装置1は、容器3の開口3aの上に配置されコーヒー粉Gを受ける濾し器4と、水を収容する貯水器5と、この貯水器5から供給される水を濾し器4内のコーヒー粉G上に滴下させる滴下部材6と、貯水器5と滴下部材6とを濾し器4の上方に支持するフレーム2とを具備する。滴下部材6は、リサジュー曲線運動をする振り子機構13,14を含み、それの下端に、滴下口16aを有する。滴下部材6に任意の初期振動を与えると、その先端はリサジュー曲線を描いて濾し器4の上方の一定範囲を稠密に埋めるように移動しつつ、滴下口16aからコーヒー粉Gへ水を滴下させる。
【選択図】
図1