【実施例1】
【0028】
図2は、本発明の実施例1における氷スラリー製造装置1を示す。
図1で、符号10は 対象溶液Liqで満たされた氷スラリー生成部(試験部)、20は氷スラリー生成部10の下部に送水用配管(流入管)21を介して接続され、送水用配管21を通して氷スラリー生成部10内を加圧する加圧送水用ポンプ(加圧手段)、22は氷スラリー生成部10内の圧力を測定する圧力計、23は氷スラリー生成部10の上部に一端が接続され、途中にバルブ24が設けられた流出管、25はバルブ24と接続された排出管、26はバルブ24から排出管25を通って排出される液体Liqを貯留するドレンタンク(貯留槽)、27は試験溶液(所定の冷媒)Fluで満たされ、氷スラリー生成部10が漬けられた水槽部、28は水槽部27内に設置され、水槽部27内の試験溶液Fluを冷却することにより氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqを冷却する熱交換器である。熱交換器28はスパイラル状になったチタン管を用いることが好適であり、チタン管内はブライン(食塩水を成分とする不凍液)が配管29を介して冷却水循環装置30により低温に制御されて流れている。撹拌機31は水槽部27内の試験溶液Fluを適宜撹拌することにより水槽部27内の温度を調節している。熱交換器28、配管29、冷却水循環装置30および撹拌機31により熱交換手段が構成されている。
【0029】
加圧送水用ポンプ20としてはプランジャーポンプ(最大圧力p=20MPa、最大流量Q=18.0ml/min)を使用することが好適であり、送水用配管21としては内径1.9mm、外径3.2mmのステンレスパイプ(耐圧50MPa以上)を用いることが好適である。送水用配管21の配管継手(不図示)およびバルブ24にも同様の耐圧製品を用いることが好ましい。水槽部27を満たす試験溶液Fluとしてはプロピレングリコール水溶液(30wt%濃度、凝固点−15℃)が好適である。水槽部27内の試験溶液Fluは、氷スラリー生成部10を水槽部27内にドブ漬けして冷却するための冷媒であるため、マイナス温度領域においても凍結しない液体であれば何でも良い。一般的に使用される冷媒(ブライン)としては、上記のプロピレングリコール水溶液の他にエチレングリコール水溶液等であってもよい。水槽部27内の温度は熱起電力の直線性が良く流通量が多いK型熱電対(外径0.3mm)32a〜32cを用いて測定し、氷スラリー生成部10内の温度は同様のK型熱電対32d、32eを用いて測定している。水槽部27内の温度測定個所は
図2に示される1箇所Maと、後述するフランジ上の2箇所MbおよびMcの計3箇所であり、氷スラリー生成部10内の温度測定個所は送水用配管21の表面1箇所Meと流出管23の表面1箇所Mdとの計2箇所に設置している。
【0030】
図3は、氷スラリー生成部10の拡大図を示す。
図3で
図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図3に示されるように、氷スラリー生成部10は内径25mm、外径45mm、長さ70mmの透明アクリル円筒容器11(内容積:0.034L)をパッキン(不図示)を介してステンレス製のフランジ12aおよび12bにより挟み、フランジ12aと12bとをボルト14a及び14bで締めることにより耐圧容器としている。符号13aおよび13eはボルト14aを締めるナットであり、13bおよび13fはボルト14bを締めるナットである。氷スラリー生成部10は、フランジ12b部に接続されている送水用配管21の一部およびフランジ12aに接続されている流出管23の一部を含め、温度調節された水槽部27内に浸されている。発明者は、予めアクリル材の許容応力を用いて透明アクリル円筒容器11の耐圧限界に関する理論計算を行い、さらに安全率を考慮した結果、本発明の氷スラリー製造装置1の最高付加圧力を一応20MPaと設定した。透明アクリル円筒容器11は加圧される圧力容器としては耐圧縮性が低い。しかし、氷スラリーの製造過程を可視化し観察しやすくするために透明アクリル円筒容器11を用いた。実働器では透明アクリル円筒容器11に替えて金属製(ステンレス製等)の容器を用いて製作することができるため、例えば上記最高付加圧力を40MPa程度とすることは十分に可能である。
【0031】
図4は、氷スラリー生成部10の外観写真を示す。
図4で
図3と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図4に示されるように、フランジ12aと12bとは他のボルト14c及び14dでも締められている。撮影の都合上、
図4ではボルト14cを締めるフランジ12a上のナット13cのみおよびボルト14dを締めるフランジ12a上のナット13dのみが写されており、フランジ12b下のナットは写されてはいないが、これらのナットはナット13eおよび13fと同様にボルト14d、14cを締めている。
【0032】
実験方法.
図2に示されるように、まず氷スラリー生成部10を水槽部27内に浸し、水槽部27内の試験溶液Fluを設定温度に保持する。ここで、設定温度とは
図1に示される加圧冷温保持状態S1の温度T1℃である。例えば圧力P1=28MPaの場合、対象溶液Liqの塩分濃度=0wt%では計算される凝固点が−2.1℃となるため、T1℃=−2℃程度が好適である。あるいは圧力P1=25MPaで対象溶液Liqの塩分濃度=0.9wt%では計算される凝固点が−2.46℃となるため、T1℃=−2.4℃〜−2.0℃程度が好適である。上述したように最高付加圧力を20MPaとした場合、対象溶液Liqの塩分濃度=0wt%では計算される凝固点が−1.5℃となるため、T1℃=−1.4℃程度が好適である。あるいは同じ圧力で対象溶液Liqの塩分濃度=0.9wt%では計算される凝固点が−2.0℃となるため、T1℃=−1.9℃程度が好適である。次に、プランジャーポンプ20を作動させて氷スラリー生成部10内および流出管23内を対象溶液Liqで満たした後、バルブ24を手で閉める。即ち、氷スラリー生成部10内および流出管23内のガス(Gas:気体)を抜き、液相で満たすガス抜きを行う。つまり、バルブ24を閉とした後のプランジャーポンプ20による加圧の前に、バルブ24を開としてプランジャーポンプ20により氷スラリー生成部10内を加圧することにより、氷スラリー生成部10内および流出管23内に存在し得る気体Gasをドレンタンク26へ排出して、氷スラリー生成部10内および流出管23内を液相で満たす。ガス抜きを行う理由は、氷スラリー生成部10および流出管23内にガスが存在すると加圧に時間がかかってしまうため等による。ガス抜きの方法としては、圧力計22に付随のガス抜きコック(不図示)を操作して、バルブ24からドレンタンク26に導いた排出管25からの気相(Gas)排出状況を観察し、気相が排出されなくなったことにより氷スラリー生成部10および流出管23内が液相で満たされたことを確認している。
【0033】
氷スラリー生成部10内の圧力が所定の圧力(所定の加圧状態)になり、且つ送水用配管21の表面温度(K型熱電対32eによる箇所Meの温度)と流出管23の表面温度(K型熱電対32dによる箇所Mdの温度)との温度差が0.5K以下になったことを確認した後、バルブ24を手で開き大気圧へ減圧する。ここで、所定の圧力とは上述した
図1に示される加圧冷温保持状態S1の圧力P1であり、対象溶液Liqの塩分濃度に応じて適宜、圧力P1=20MPa等に設定すればよい。送水用配管21の表面温度と流出管23の表面温度との差が0.5K以下になったことを確認する理由は、片側の温度だけで上記設定温度を確認するより精度を高めるためである。以上のように、バルブ24を閉とした後のプランジャーポンプ20による加圧により氷スラリー生成部10内を所定の加圧状態に維持し、熱交換器28等の熱交換手段による水槽部27内の冷却により氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqが常圧における凝固点(0℃)以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点(上述したように、例えば圧力P1=28MPaの場合、対象溶液Liqの塩分濃度=0wt%では−2.1℃)以上の温度(左記条件では例えば−2.0℃)に保持された後、バルブ24を開として流出管23(および排出管25)からドレンタンク26へ)対象溶液Liqを排出し、氷スラリー生成部10内を常圧へ減圧することにより、氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqを凝固させて氷スラリーを製造することができる。大気圧への減圧と同時に氷スラリー生成部10のビデオ撮影を行い、氷スラリー生成状況を記録する。具体的には、氷スラリー生成部10を水槽部27から取り出し、フランジ12aおよび12bを外して、生成された氷スラリーを直接観察する。対象溶液Liqが所定の塩分濃度水溶液の場合、生成される氷スラリーは塩水氷スラリーとなる。
【0034】
本発明の実施例1における氷スラリー製造装置1では、氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqの温度を直接測定せず、上述したK型熱電対32eおよび32dにより送水用配管21の表面温度と流出管23の表面温度とを測定している。このため、予め大気圧条件下(対象溶液Liqの凝固点=0℃)の際のK型熱電対32eによる送水用配管21の表面温度とK型熱電対32dによる流出管23の表面温度とを測定する予備実験を行い、当該予備実験の結果に基づき、送水用配管21の表面温度および流出管23の表面温度から対象溶液LIqの温度へ換算することにより対象溶液Liqの温度を得ている。
【0035】
本実験条件の範囲は、氷スラリー生成部10への付加圧力は0〜15MPa、氷スラリー生成部10内の温度は0〜−8℃である。対象溶液Liqは蒸留水に塩化ナトリウムを溶かした溶液を用いている。対象溶液Liqの塩分濃度は0.9wt%と3.0wt%とである。しかし、上述したように、実働器では透明アクリル円筒容器11に替えて金属製(ステンレス製等)の容器を用いて製作することができるため、上記最高付加圧力を40MPa程度とすることは十分に可能である。このため、氷スラリー生成部10内の温度は0〜−8℃に限定されるものではなく、対象溶液Liqの塩分濃度も0.9wt%と3.0wt%とに限定されるものではない。
【0036】
以上のように、対象溶液Liqから氷スラリーを製造する本発明の氷スラリー製造方法によれば、まず対象溶液Liqを常圧より高い所定の加圧状態に維持する。所定の加圧状態とは上述したように
図1に示される加圧冷温保持状態S1の圧力P1であり、対象溶液Liqの塩分濃度に応じて適宜、圧力P1=20MPa等に設定すればよい。続いて、対象溶液Liqを常圧における凝固点(0℃)以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点(上述したように、例えば圧力P1=28MPaの場合、対象溶液Liqの塩分濃度=0wt%では−2.1℃)以上の温度に保持する。この後、対象溶液Liqを所定の加圧状態から常圧へ減圧することにより凝固させて氷スラリーを製造することができる。対象溶液Liqが所定の塩分濃度水溶液である場合、氷スラリーは塩水氷スラリーである。
【0037】
上述した従来の過冷却方法では、いつ凝固が始まるか分からない状態の過冷却状態を精密な温度管理を行うことにより実現している。一方、本発明の氷スラリー製造装置1および製造方法では、対象溶液Liqはバルブ24を開けて氷スラリー生成部10内を常圧へ減圧することにより瞬時に過冷却状態になり、その後凝固を始める。即ち、バルブ24の開放時の圧力衝撃等により対象溶液Liqは必ず氷スラリーへ凝固することが分かっている。つまり、本発明の氷スラリー製造装置1および製造方法は従来の過冷却方法に比べて、
図1に示される加圧冷温保持状態S1から温度T1℃を保持したまま圧力を大気圧(1.0気圧)へ減圧する際の高い過冷却状態(後述する過冷却度(凝固点Tcと大気圧における凝固点との差)が大きい状態)からの凝固を実現することができる点と、さらにその過冷却凝固のタイミングを対象溶液Liqの圧力と温度とを制御することにより任意に制御することができる点とにおいて顕著に優れている。
【0038】
実験条件.
まず、水および塩化ナトリウム水溶液の圧力と凝固点降下の関係を示す。一般に、圧力と凝固点との関係(
図1に示される融解曲線OC)はクライペイロン−クラウジウス(Clapeyron-Clausius)の式(またはクラウジウス−クライペイロンの式とも言う。)を用いて表すことができる(式1)。
【0039】
【数1】
【0040】
式1で、Tは温度(K)、Teは凝固点の温度(K)、Pは圧力(MPa)、Lはモル融解熱、V
L、V
sは各々液体、固体のモル体積を示している。式1に水と氷の密度を基にしたモル体積(Te=0℃=273Kにおける、1atmでの水、氷の1gの体積は各々1.000cm
3、1.091cm
3、)、氷のモル融解熱(1gについて80cal)を代入し、圧力による体積変化はないものと考えると、式2のような関係式が導き出される。
【0041】
【数2】
【0042】
式2は、水への付加圧力が1atm(1MPa)上昇する毎に凝固点が−0.0075(K)降下することを表している。発明者は塩化ナトリウム水溶液(0.9wt%、3.0wt%)に対しても同様の計算を行った。
図5は、塩化ナトリウム水溶液(0.9wt%、3.0wt%)に対する付加圧力と凝固点降下との関係を示す。
図5で、縦軸は温度T(℃)、横軸は付加圧力Pg(MPa)を表しており、
図5中の各線は付加圧力を変化させた時の凝固点(Te)の計算値を示し、塩分濃度C=0wt%(水)、0.9wt%、3.0wt%の場合の凝固点Teを各々実線、破線、一点破線で示す。塩化ナトリウム水溶液の計算においては、非特許文献7および8を参考に濃度変化に伴うモル融解熱、平衡凍結温度および水溶液のモル体積の変化を考慮している。一方、固体のモル体積には、全て純氷の値を使用している。
図5に示されるように、凝固点Teは付加圧力Pgの上昇と共に低下する。
図5で、濃度C=0.9wt%、3.0wt%の塩化ナトリウム水溶液に25MPaの圧力を付加した場合、凝固点Teは各々−2.46℃、−4.05℃まで降下する。さらに同温度条件において付加圧力を一気に開放し、大気圧まで減圧した場合、大気圧下における凝固点(各々、−0.54℃、−1.81℃)より、各溶液は過冷却度(以下、T
subと表記する。)が1.92、2.24Kの過冷却状態となる。ここで、過冷却度T
subとは濃度Cに関わらず付加圧力時の溶液温度Tと融解曲線における温度Teとの差である。
【0043】
加圧時の過冷却状態.
発明者は、本実験験に先立ち、加圧状態におかれた各溶液の過冷却凝固現象を把握するため、以下の実験を行った。まず、減圧操作を行わず、付加圧力Pg一定の状態で温度Tを徐々に低下させ、氷スラリー生成部10内に氷片が確認された時の温度Tを記録した。ここで、各溶液の冷却速度は−2.5℃・min
−1程度である。
図6および7は、各々溶液濃度C=0.9wt%、C=3.0wt%の場合における、自発的に過冷却が解除され、氷スラリー生成部10内に氷層が確認された時の圧力Pgと温度Tとの間の関係および圧力解放試験時の実験条件を示す。
図6、7で、縦軸は温度T(℃)、横軸は付加圧力Pg(MPa)を表し、融解曲線も合わせて示す。
図6、7において、各々黒丸印●または黒三角印▲は圧力Pg=10MPaまたは15MPa一定(減圧操作を行わない場合)で温度Tを低下させた場合における氷スラリー生成部10内に氷層が確認された時の凝固点を示す。一方、
図6、7において、各々白丸印○または白三角印△は圧力Pg=10MPaまたは15MPaで温度Tiを適宜設定した後、圧力解放試験を行った時の実験条件(圧力Pg=10MPaまたは15MPa、温度Ti)を示す。
図6、7より明らかなように、自発的な過冷却解除温度(自発凝固開始点:各々黒丸印●または黒三角印▲における温度T)は、濃度Cおよび圧力Pgの変化によらず融解曲線より2℃(または2K)以下に分布している(
図6では少なくともTsub≒2.3K、
図7では少なくともT
sub≒3.7K)。従って、本実験により、高圧状態においても溶液の過冷却状態が確認された。言い換えれば、加圧時に凝固点以下(過冷却度T
subが2.0K)でも自然凝固しないというデータを得ることができた。以上の関係に基づき、本願明細書における圧力解放実験は、過冷却度T
subが2.0Kの範囲内で行った。本実験の結果、全ての条件において、圧力開放と同時に氷スラリーが生成されることを確認した。なお圧力解放後は、いずれの実験においても大気圧状態としている。
【0044】
氷スラリーの生成状況.
図8、
図9は、氷スラリー生成部10内に氷スラリーが生成された時の連続写真を示す。
図8、9に示されるように、溶液濃度Cは各々0.9wt%、3.0wt%であり、初期圧力P
iniは共に15MPaであり、初期温度は溶液温度Tとその濃度Cおよび圧力Pgによって決定される凝固点との差(過冷却度T
sub)で表わすと共にT
sub=0Kであり、圧力開放直後の大気圧下における溶液の過冷却度(T
sub_a)は
図8ではT
sub_a=1.2K、
図9ではT
sub_a=1.3Kである。ここで、T
sub=0Kは溶液温度が圧力P
ini=15MPaにおける融解曲線上の温度(溶液濃度C=0.9wt%、3.0wt%の各凝固点はTe=−1.7℃、−3.2℃)と等しいことを意味している。経過時間は、バルブ24を操作して減圧開始した時点を0s(秒)として、
図8(A)が12s経過後、
図8(B)が25s経過後、
図8(C)が50s経過後を表しており、
図9(A)が11s経過後、
図9(B)が24s経過後、
図9(C)が49s経過後を表している。
図8、9に示されるように、付加(加圧)状態での過冷却度T
sub=0Kであるが、バルブ24の操作による急減圧に伴い、各濃度Cの溶液は一瞬にして大気圧下における過冷却状態となる。例えば、
図8に示される溶液の場合、溶液濃度C=0.9wt%、圧力Pg=15MPaの凝固点における温度Te=−1.7℃であるが、大気圧下での凝固点における温度Te=−0.5℃であるため、圧力開放と共に溶液は過冷却度T
sub_a=1.2Kの状態となる。その結果、圧力開放と同時に氷スラリー生成部10内に氷スラリーが生成される。氷スラリー層の生成起点は、
図8(A)では上側の金属製フランジ12aであり、
図9(A)では下側の金属製フランジ12bである。
図8(B)、(C)および
図9(B)、(C)に示されるように、その後、氷スラリー層は時間の経過と共に鉛直方向に成長することが分かる。
図8の過冷却度T
sub_a=1.2Kの場合と
図9の過冷却度T
sub_a=1.3Kの場合とで氷スラリーの生成速度を検討すると、
図8(C)に示される50s経過後の写真と
図9(C)に示される49s経過後の写真との比較により、過冷却度T
sub_aが小さい
図8の場合の方が氷スラリーは比較的緩やかな速度で生成することが分かる。
図8、9の場合、氷スラリーの生成が終了するまでの時間は約50sである。
【0045】
図10、11および12は、溶液濃度、過冷却度T
sub、T
sub_aを変化させた場合における氷スラリー生成状況の連続写真を示す。
図10では溶液濃度C=0.9wt%、過冷却度T
sub=1.0K、T
sub_a=2.2Kであり、
図11では溶液濃度C=0.9wt%、過冷却度T
sub=2.0K、T
sub_a=3.2Kであり、
図12では溶液濃度C=3.0wt%、過冷却度T
sub=2.0K、T
sub_a=3.3Kであり、初期圧力P
iniは3つ共15MPaである。経過時間は、バルブ24を操作して減圧開始した時点を0sとして、
図10(A)が7s経過後、
図10(B)が14s経過後、
図10(C)が30s経過後を表しており、
図11(A)が2s経過後、
図11(B)が5s経過後、
図11(C)が11s経過後を表しており、
図12(A)が2s経過後、
図12(B)が5s経過後、
図12(C)が11s経過後を表している。ここで、上述した過冷却度T
sub=2.0Kの範囲内で実験を行うという条件は、
図5に示されるように初期圧力P
iniを25MPaまで上昇させることにより、同じ溶液温度Tでも容易に液相状態(T
sub=0K)を維持することが可能であるため、上記条件を満たすことが可能である。しかし、本実験では上述した透明アクリル円筒容器11を用いる都合上、初期圧力P
ini=15MPaにて実験を行った。
図10ないし12に示されるように(特に
図10(C)と
図11(C)および
図12(C)とを比較すると明らかなように)、過冷却度T
subが大きくなるほど(溶液温度Tが低いほど)、氷スラリー生成速度が早くなることが分かる。加えて、(
図10と
図11および
図12とを比較すると明らかなように)生成速度の増加に伴い、より白濁した氷スラリー層を形成することが分かる。一方、
図11、12に示されるように、溶液濃度Cが異なる場合(0.9wt%と3.0wt%)でも過冷却度が同じ場合(T
sub=2.0K)、氷スラリーの生成速度はほぼ等しくなることが分かる。さらに、
図11と
図12とを比較すると、氷スラリーの性状は濃度が高くなるほど白濁した状態になることが分かる。氷スラリー層が白濁する主な要因は、氷充填率と氷粒子径の大きさとに起因すると考えられる。
【0046】
図13は、塩分濃度C=0.9wt%、初期圧力P
ini=10MPa、過冷却度T
sub=2.0K、T
sub_a=2.8Kにおいて生成された氷スラリーの顕微鏡写真を示す。
図13に示されるように、氷粒は概ね球形状であり、密集した状態で氷スラリーが生成されていることが分かる。
図8、9に示されるように過冷却度T
subが小さい場合、氷スラリー層の一部に樹枝状および針状氷の形成が確認された(図は省略)。
【0047】
氷スラリーの生成速度
氷スラリーの生成量および性状は、圧力開放時の溶液温度に大きく依存すると考えられる。
図14は、氷スラリー生成速度と過冷却度との関係を示す。
図14で、横軸に過冷却度T
sub[K]を示し、縦軸の左側に氷スラリー生成部10の体積を氷スラリーが生成終了するまでの凍結時間で除した体積凍結速度Uv[L/s]を示し、縦軸の右側に体積凍結速度を氷スラリー生成部10の水平方向断面積で除した氷スラリー成長速度U[mm/s]を示す。
図14で、白丸印○は溶液濃度C=0.9wt%、初期圧力Pg=10MPaの場合、黒丸印●は溶液濃度C=0.9wt%、初期圧力Pg=15MPaの場合、白三角印△は溶液濃度C=3.0wt%、初期圧力Pg=10MPaの場合、黒三角印▲は溶液濃度C=3.0wt%、初期圧力Pg=15MPaの場合における体積凍結速度Uv(および氷スラリー成長速度U)を示す。
図14に示されるように、過冷却度T
subの増大とともに体積凍結速度Uvは増加するのが分かる。さらにその増加傾向は、溶液濃度Cと初期圧力Pgとが変化した場合でも同様である。
図14中には、氷スラリー生成の観察結果より得られた氷性状の違いを区分する領域(透明:Transparent regionあるいは白濁:White region)を示している。
図14で過冷却度T
sub=3K付近に見られる高い体積凍結速度Uvの領域(破線で示される
図14右上の円形領域:Opposed freezing)は、上下のステンレスフランジ12aおよび12bより同時に対向状態で氷スラリーが成長したため、極端に大きい体積凍結速度Uv(および氷スラリー成長速度U)を示している。即ち、本発明の実施例1における氷スラリー製造装置1および製造方法では、対象溶液Liqを常圧より高い所定の加圧状態(加圧冷温保持状態)に保持し、続いて、対象溶液Liqを常圧における凝固点(0℃)以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点以下の過冷却度2K乃至3K付近の温度で保持する。この後、対象溶液Liqを所定の加圧状態から常圧へ減圧することにより、速い体積凍結速度Uv(および氷スラリー成長速度U)で凝固させて氷スラリーを製造することができる。
【0048】
以上より、本発明の実施例1によれば、まず
図1に示されるように、(容器内の)水を加圧してP1気圧とし、同時に温度を大気圧時(1.0気圧)における平衡凍結温度(0℃)以下の温度T1に保持する。
図1の融解曲線OCに示されるように、加圧冷温保持状態S1の圧力P1気圧では加圧された水の平衡凍結温度(凝固点)はTc℃であり、加圧冷温保持状態S1の温度T1℃は凝固点Tc℃より高い。このため、加圧冷温保持状態S1では水は液相の状態を維持する。ここで、加圧冷温保持状態S1から温度T1℃を保持したまま圧力を大気圧(1.0気圧)へ減圧すると、水は一転して過冷却状態となるが、温度T1℃は大気圧における凝固点(0℃)より低いため、その後、凝固(凍結、製氷)を開始する(
図1に示される減圧(常圧)冷温保持状態S2)。ここで、水のかわりに水溶液(対象溶液または対象液体)を用いることにより、水溶液から氷スラリーを生成することができる。以上のように、本発明の氷スラリー製造装置1および製造方法によれば、対象溶液Liqの圧力Pと温度Tとを制御することによって容易に氷スラリーを生成することができ、さらに凝固(減圧)のタイミングを任意にコントロールできるという特徴を有している。即ち、高精度の温度制御技術が不要である氷スラリーの製造装置等を提供することができる。
【0049】
本発明の実施例1における氷スラリー製造装置1の構成は、
図1に示されるように、対象溶液Liqで満たされた氷スラリー生成部(試験部)10、氷スラリー生成部10の下部に送水用配管(流入管)21を介して接続され、送水用配管21を通して氷スラリー生成部10内を加圧する加圧送水用ポンプ(加圧手段)20、氷スラリー生成部10内の圧力を測定する圧力計22、氷スラリー生成部10の上部に一端が接続され、途中にバルブ24が設けられた流出管23、バルブ24と接続された排出管25、バルブ24から排出管25を通って排出される液体を貯留するドレンタンク(貯留槽)26、試験溶液(所定の冷媒)Fluで満たされ、氷スラリー生成部10が漬けられた水槽部27、水槽部27内に設置され、水槽部27内の試験溶液Fluを冷却することにより氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqを冷却する熱交換器28を備えている。氷スラリー生成部10内の圧力が所定の圧力(所定の加圧状態)になり、且つ送水用配管21の表面温度(K型熱電対32eによる箇所Meの温度)と流出管23の表面温度(K型熱電対32dによる箇所Mdの温度)との温度差が0.5K以下になったことを確認した後、バルブ24を手で開き大気圧へ減圧する。ここで、所定の圧力とは上述した
図1に示される加圧冷温保持状態S1の圧力P1である。以上のように、バルブ24を閉とした後のプランジャーポンプ20による加圧により氷スラリー生成部10内を所定の加圧状態に維持し、熱交換器28等の熱交換手段による水槽部27内の冷却により氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqが常圧における凝固点(0℃)以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点以上の温度に保持された後、バルブ24を開として流出管23(および排出管25)からドレンタンク261へ)対象溶液Liqを排出し、氷スラリー生成部10内を常圧へ減圧することにより、氷スラリー生成部10内の対象溶液Liqを凝固させて氷スラリーを製造することができる。対象溶液Liqが所定の塩分濃度水溶液の場合、生成される氷スラリーは塩水氷スラリーとなる。本発明の実施例1によれば、塩分濃度Cが0.9wt%という極めて低減した塩水氷スラリーを生成することができる。即ち、低濃度水溶液(例えば、1wt%以下の低塩分濃度)を用いた氷スラリーを生成することができる。この結果、海水濃度程度(約3.5wt%程度)の塩化ナトリウム水溶液を用いた従来の氷スラリー生成方法とは異なり、生体組織に直接接触するような医療分野への応用が容易な氷スラリー製造装置1および製造方法を提供することができる。本発明の氷スラリー製造装置1および製造方法では、対象溶液Liqはバルブ24を開けて氷スラリー生成部10内を常圧へ減圧することにより瞬時に過冷却状態になり、その後凝固を始める。即ち、バルブ24の開放時の圧力衝撃等により必ず氷スラリーへ凝固することが分かっている。つまり、本発明の氷スラリー製造装置1および製造方法は従来の過冷却方法に比べて、
図1に示される加圧冷温保持状態S1から温度T1℃を保持したまま圧力を大気圧へ減圧する際の高い過冷却状態(過冷却度が大きい状態)からの凝固を実現することができる点と、さらにその過冷却凝固のタイミングを対象溶液Liqの圧力と温度とを制御することにより任意に制御することができる点とにおいて顕著に優れている。この結果、氷スラリーの製造に大きな動力と定期的なメンテナンスとが必要でなく、小型化が容易な氷スラリー製造装置1および製造方法を提供することができる。
【実施例3】
【0053】
図16は、本発明の実施例3における氷スラリー製造装置3を示す。
図16で
図2と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図16において、符号41は対象溶液Liqで満たされた配管部であって、一端に(ニードル)バルブ44とバルブ41に続く(先端広がり)ノズル45とが接続されたものであり、46はノズル45から排出される氷スラリーSlrを貯留するドレンタンク(貯留槽)である。
図16に示されるように、バルブ44およびバルブ44に接続された配管部41の一部(コイル状に表示された部分等)は断熱領域Ada(点線で示す。)におかれている。続いて、符号40は配管部41の他の一端に接続され、配管部41内の対象溶液Liqを加圧する加圧用ポンプ(加圧手段)、42は配管部41内の圧力を測定する圧力計、47は試験溶液(所定の冷媒)Fluで満たされ、配管部41の断熱領域Adaにない部分が漬けられた水槽部である。水槽部47内は冷却水循環装置50によりブライン等の試験溶液Fluが入口Entから出口Extへ流されており、試験溶液Fluは出口Extから配管49を通って冷却水循環装置50へ循環している。このため、水槽部47内は低温に制御されている。水槽部47は配管部41の断熱領域Adaにない部分を冷却することにより配管部41内の対象溶液Liqを冷却する熱交換器になっている。水槽部47、断熱領域Adaにない配管部41および冷却水循環装置50により熱交換手段が構成されている。
【0054】
加圧用ポンプ40としては実施例1のプランジャーポンプ20を使用することが好適であり、配管部41としてはステンレスパイプ(耐圧50MPa以上)を用いることが好適である。配管部41の配管継手(不図示)およびバルブ44にも同様の耐圧製品を用いることが好ましい。水槽部47を満たす試験溶液Fluとしては実施例1と同様にプロピレングリコール水溶液(30wt%濃度、凝固点−15℃)が好適である。水槽部47内の試験溶液Fluは、配管部41を水槽部47内にドブ漬けして冷却するための冷媒であるため、マイナス温度領域においても凍結しない液体であれば何でも良い。一般的に使用される冷媒(ブライン)としては、プロピレングリコール水溶液の他にエチレングリコール水溶液等であってもよい。水槽部47内の温度はK型熱電対(外径0.3mm)52を用いて測定した。
【0055】
図16に示されるように、断熱領域Adaにない部分の配管部41を水槽部47内に浸し、冷却水循環装置50を作動させて試験溶液Fluを流水し、水槽部47(=熱交換器)内の個所Mの水温をK型熱電対52の観察により設定温度に保持する。ここで、設定温度とは加圧冷温保持状態の温度であり、例えば圧力P=15MPaで対象溶液Liqの塩分濃度=0.9wt%では計算される凝固点の温度Te=−1.7℃となるため、−1.5℃程度が好適である。次に、加圧用ポンプ40を作動させて配管部41内を加圧する。配管部41内の圧力はバルブ44の操作により調整する。圧力計42の観察により配管部41内の圧力が所定の圧力(所定の加圧状態)になったことを確認した後、バルブ44を手で開き断熱領域Adaにある部分の配管部41内の対象溶液Liqをノズル45から流出することにより、対象溶液Liqの圧力を大気圧へ減圧する。ここで、所定の圧力とは上述した加圧冷温保持状態の圧力である。以上のように、バルブ44を閉とした後の加圧用ポンプ40による配管部41への加圧により配管部41内を所定の加圧状態に維持し、熱交換手段による冷却により配管部41内の対象溶液Liqが常圧における凝固点以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点以上の温度に保持する。この後、バルブ44を開としてノズル45から断熱領域Adaの配管部41内にある対象溶液Liqをノズル45から流出し対象溶液Liqの圧力を常圧へ減圧することにより、対象溶液Liqを凝固させて氷スラリーSlrを生成することができる。生成した氷スラリーSlrはドレンタンク(貯留槽)46へ貯留させる。このため、実施例3における氷スラリー生成部はノズル45およびドレンタンク46とも言える。
【0056】
本実施例3において、配管部41内の対象溶液Liqが所定の塩分濃度(0.9wt%等)水溶液の場合、生成される氷スラリーSlrは塩水氷スラリーとなる。一方、配管部41内の対象溶液Liqとして真水を用いることにより、氷スラリーSlrとして真氷を生成することができる。
【0057】
以上より、本発明の実施例3による氷スラリー製造装置3の構成は、
図16に示されるように、対象溶液Liqで満たされた配管部41であって、一端に(ニードル)バルブ44とバルブ44に続くノズル45とが接続されたものと、ノズル45から排出される氷スラリーSlrを貯留するドレンタンク46と、配管部41の他の一端に接続され、配管部41内の対象溶液Liqを加圧する加圧用ポンプ(加圧手段)40と、配管部41内の圧力を測定する圧力計42と、試験溶液(所定の冷媒)Fluで満たされ、配管部41の断熱領域Adaにない部分が漬けられた水槽部47とを備えている。
図16に示されるように、バルブ44およびバルブ44に接続された配管部41の一部(コイル状に表示された部分等)は断熱領域Ada(点線で示す。)におかれている。水槽部47内は冷却水循環装置50によりブライン等の試験溶液Fluが入口Entから出口Extへ流されており、試験溶液Fluは出口Extから配管49を通って冷却水循環装置50へ循環している。このため、水槽部47内は低温に制御されている。バルブ44を閉とした後の加圧用ポンプ40による配管部41への加圧により配管部41内を所定の加圧状態に維持し、熱交換手段(水槽部47、断熱領域Adaにない配管部41および冷却水循環装置50)による冷却により配管部41内の対象溶液Liqが常圧における凝固点以下の温度で且つ所定の加圧状態における凝固点以上の温度に保持する。この後、バルブ44を開としてノズル45から断熱領域Adaの配管部41内にある対象溶液Liqを流出し常圧へ減圧することにより、対象溶液Liqを凝固させて氷スラリーSlrをドレンタンク46へ貯留させることができる。
【0058】
実施例3における氷スラリー製造装置3および製造方法によれば、実施例1と同様に、対象溶液Liqの圧力Pと温度Tとを制御することによって容易に氷スラリーSlrを生成することができ、さらに凝固(減圧)のタイミングを任意にコントロールできるという特徴を有している。即ち、高精度の温度制御技術が不要である氷スラリーの製造装置3および製造方法を提供することができる。実施例3によれば実施例1と同様に、塩分濃度Cが0.9wt%という極めて低減した塩水氷スラリーを生成することができる。即ち、低濃度水溶液(例えば、1wt%以下の低塩分濃度)を用いた氷スラリーを生成することができる。この結果、海水濃度程度(約3.5wt%程度)の塩化ナトリウム水溶液を用いた従来の氷スラリー生成方法とは異なり、生体組織に直接接触するような医療分野への応用が容易な氷スラリー製造装置3および製造方法を提供することができる。実施例3の氷スラリー製造装置3および製造方法では、対象溶液Liqはバルブ44を開けて断熱領域Adaにある配管部41内を常圧へ減圧することにより瞬時に過冷却状態になり、その後凝固を始める。即ち、対象溶液Liqはバルブ44の開放時の圧力衝撃等により必ず氷スラリーSlrへ凝固することが分かっている。つまり、実施例3の氷スラリー製造装置3および製造方法も実施例1と同様に、従来の過冷却方法に比べて、
図1に示される加圧冷温保持状態S1から温度T1℃を保持したまま圧力を大気圧へ減圧する際の高い過冷却状態(過冷却度が大きい状態)からの凝固を実現することができる点と、さらにその過冷却凝固のタイミングを対象溶液Liqの圧力と温度とを制御することにより任意に制御することができる点とにおいて顕著に優れている。この結果、氷スラリーの製造に大きな動力と定期的なメンテナンスとが必要でなく、小型化が容易な氷スラリー製造装置3および製造方法を提供することができる。実施例3においても実施例2と同様に対象溶液Liqとして真水を用いることにより、氷スラリーSlrとして真氷を生成することができる。この結果、実施例1よりもさらに生体組織に直接接触するような医療分野への応用が容易な氷スラリー製造装置3および製造方法を提供することができる。