特許第6168691号(P6168691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168691
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】拭き取り可能な油汚れ防止用被覆剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 101/04 20060101AFI20170713BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170713BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C09D101/04
   C09D7/12
   C09D5/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-160700(P2013-160700)
(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-30784(P2015-30784A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 繁
(72)【発明者】
【氏名】中本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】笠原 富規
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0032706(US,A1)
【文献】 特開昭55−120672(JP,A)
【文献】 特表2009−527356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 101/04
C09D 5/00
C09D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のヒドロキシアルキルセルロース系高分子化合物、1種以上の展延成分、及び被覆剤全量に対して、1.0〜15.0質量%のC〜Cアルコールを含有する、基材上に被覆膜形成後拭き取り可能な油汚れ防止用被覆剤。
【請求項2】
さらに添加剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の油汚れ防止用被覆剤。
【請求項3】
水溶性高分子化合物の質量平均分子量が10,000〜5,000,000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の油汚れ防止用被覆剤。
【請求項4】
展延成分の分子量又は質量平均分子量が50〜9,000であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤。
【請求項5】
展延成分が、グリセリン、グリコール類及びポリグリコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤。
【請求項6】
水溶性高分子化合物と展延成分の質量比が15:1〜1:1の範囲であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤から得られる、拭き取り可能な被覆膜。
【請求項8】
水に可溶であることを特徴とする請求項に記載の拭き取り可能な被覆膜。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤を基材上に塗布して、乾燥させることを特徴する、拭き取り可能な被覆膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厨房の壁面等の基材上に塗布等することで保護被膜を形成することができ、かつ基材上に被覆膜形成後水で濡らした布等で拭き取り可能な被覆剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、厨房等の油等を使用する環境では、その壁面に油分等が付着したが、掃除等で速やかに油分等を除去しなければ、その油が酸化等の原因により硬化して除去しづらくなっていた。また、除去するには、特殊な洗剤で油分等を分解して除去する方法、へらなどで削って除去する方法等を行なっていた。
簡単に除去するための方法として、あらかじめ壁面に除去可能な膜を形成させ、その膜ごと油等を除去する方法が知られている。特許文献1には熱水の加熱によって体積の膨張する発泡成分を含有する熱剥離被膜が記載されていて、特許文献2にはアクリル系コポリマーを用いた可剥離性被覆組成物が記載されている。また、これらの被覆膜は膜ごと除去することを目的としているため、膜に十分な強度が必要であり、そのために各種重合物を用いている。
しかし、厨房等の壁面であるから、より安全な材料のみで構成された被覆剤であることが望ましく、また油等が付着した被覆剤を剥がしとるのにかなりの労働を要するため、広いスペースで利用するには簡単に除去できるものが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−119064号公報
【特許文献2】特開2001−89697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、簡単に壁面等の基材上の広い面積に膜を形成することができ、簡単に基材上から除去できる被覆膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ヒドロキシアルキルセルロース等の水溶性高分子化合物及びグリセリン等の展延成分を使用することにより膜のまま剥離させるのではなく、膜を水や温水等に溶解させて膜を除去させることで、簡単に油分等とともに壁面等の基材上から綺麗に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)1種以上の水溶性高分子化合物及び1種以上の展延成分を含有する、基材上に被覆膜形成後拭き取り可能な油汚れ防止用被覆剤、
(2)さらに添加剤を含有することを特徴とする(1)に記載の油汚れ防止用被覆剤、
(3)さらにC〜Cアルコールを含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の油汚れ防止用被覆剤、
(4)水溶性高分子化合物の質量平均分子量が10,000〜5,000,000であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤、
(5)水溶性高分子化合物が、ヒドロキシアルキルセルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、アクリル系高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤、
(6)展延成分の分子量又は質量平均分子量が50〜9,000であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤、
(7)展延成分が、グリセリン、グリコール類及びポリグリコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤、及び、
(8)水溶性高分子化合物と展延成分の質量比が15:1〜1:1の範囲であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤に関する。
また、本発明は、
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤から得られる、拭き取り可能な被覆膜
(10)水に可溶であることを特徴とする(9)に記載の拭き取り可能な被覆膜、及び
(11)(1)〜(8)のいずれかに記載の油汚れ防止用被覆剤を基材上に塗布して、乾燥させることを特徴する、拭き取り可能な被覆膜の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油汚れ防止用被覆剤による被覆膜は、主に水溶性高分子と展延成分から構成されたものであるので、容易に水に溶解することができる。しかし、単に水溶性高分子のみを用いた被覆膜の場合は、被覆膜が水に溶解するが、付着した油等が再度、壁面等の基材に付着等して綺麗に除去することができない。本発明品は、水溶性高分子化合物と展延成分が水素結合等の弱い結合で膜構造を維持しつつ、徐々に水に溶解する効果が期待できるため、付着した油等が拭き取る布に移動し綺麗に除去できる。また、被覆膜の接着性が強すぎると、壁面等の基材上から除去しにくくなり、また、強い力をかけることで除去できたとしても、付着した油等を布の内部に保持できず、何回も布を洗浄する等の対策をしないと広い範囲において除去作業をすることができない。
付着した油等とともに被覆膜を剥がして除去する油汚れ防止用被覆剤も知られているが、これらの製品は剥がす行為を行なうため、膜の強度を強くする必要がある。そのため、これらの製品では均一に塗布すること、十分な膜厚が必要なこと、十分な強度を有する高分子を原料にする必要があること等の要件が必要である。これらの条件を満たさない限り、広い範囲で被覆膜を形成することは困難である。しかし、本発明の被覆膜は、溶解させながら除去するので、不均一な膜厚であってもよく、膜厚が薄い部分があってもよい。このように水で湿らせた布等で拭き取ることができる被覆膜であるため、広い範囲に被覆膜を形成することができる。
また、本発明品を用いた場合は、除去し残した小さな被覆膜を除去する場合にヘラ等で擦って落とす必要がないので、壁面等に傷をつける可能性がない。
【0008】
さらに本発明品は、保存安定性に関しても優れている。本発明品のように被覆膜を形成できる剤は、長期間保管すると、凝集等によって白濁する可能性がある。また、室温下で長期間白濁しなくても、寒冷地での保管を想定した場合、つまり、冷却した場合に白濁する場合も生じる。被覆剤にさらにC〜Cアルコールを含有させることで、被覆剤の効果を低下させずに、保存安定性を向上させることもできる。
【0009】
このように本発明の被覆剤は、狭い範囲の被覆膜でも、広い範囲の被覆膜でも形成することができ、また、それを除去することも容易にでき、良好な保存安定性を有しているので、一般家庭等の台所、レストラン等の厨房、スーパー等の食品陳列棚や厨房、ラーメン屋等のテーブル、等の食品を調理や陳列をする部分(以下、本発明においては、これらを含めて「基材」という)に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(油汚れ防止用被覆剤)
本発明の油汚れ防止用被覆剤は、厨房の壁面などの基材上に塗布して被覆膜形成後、水で濡らした布等で拭き取り可能な被覆剤である。
本発明の油汚れ防止用被覆剤は、水溶性高分子化合物、展延成分を必須成分として含有する。さらに、溶媒、その他の成分、C〜Cアルコールを添加してもよい。
水溶性高分子化合物の含有量は水溶性高分子化合物、展延成分、溶媒、その他の成分、C〜Cアルコールを含む組成物全量(以下、単に組成物全量という)の0.01〜10質量%が好ましく、さらに0.1〜5質量%が好ましい。
展延成分の含有量は組成物全量の0.01〜10質量%が好ましく、さらに0.05〜5質量%が好ましい。
水溶性高分子化合物と展延成分との質量比は、水溶性高分子化合物:展延成分=15:1〜1:1が好ましく、さらに12:1〜3:1が好ましい。
また、前記被覆剤の粘度(単位:mPa・s、温度25℃)は、水溶性高分子の種類や量によって大きく変化するが、1.13〜400が好ましく、1.3〜100がさらに好ましい。
【0011】
(水溶性高分子化合物)
本発明の水溶性高分子化合物は皮膜形成成分であり、ここで水溶性高分子化合物とは、水に溶解することができる部分を有する高分子化合物のことを示す。
そのため、水溶性高分子化合物は完全に水に溶解したもののみではなく、一部が水に溶解しないで残る場合も含まれる。したがって、水に溶解させたときの状態は、溶液、懸濁液の両方を含む。本発明の水溶性高分子化合物の質量平均分子量は好ましくは、10,000〜5,000,000である。
なお、本発明において、質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Gel permeation chromatography)により測定したポリスチレン換算値である。
【0012】
具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、塩化ジメチルアリルアンモニウム/アクリルアミド共重合体、塩化ジメチルアリルアンモニウム/アクリルアミド/アクリル酸共重合体等のアクリル系高分子化合物;
ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン等のビニル系高分子化合物;
高重合ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール系高分子化合物;
メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース等のセルロース系高分子化合物;
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース系高分子化合物;
フコイダン、カラギナン、アルギン酸ナトリウム、寒天等の海藻由来物;
キサンタンガム、アラビアゴム、ジェランガム、プルラン、マルメロ、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリグルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシアルキルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。これらの1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0013】
本発明のヒドロキシアルキルセルロースの質量平均分子量は、50,000〜5,000,000であり、100,000〜2,000,000が好ましい。本発明に使用するヒドロキシアルキルセルロースの置換度は、特に限定されるものではないが、0.5〜3.0の範囲が好ましい。
なお、ヒドロキシアルキルセルロースの置換度は、セルロースを構成するグルコース残基に含有する3個の水酸基が、置換基により置換される数の平均値である。3個の水酸基が全て置換された場合、置換度は3.0となる。置換度の測定方法はセルロース誘導体の種類により異なるが、重量法、加水分解後逆滴定法、元素分析法など公知の方法を使用すればよい。
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、公知の方法で製造することもできるし、市販品を使用することもできる。例えば、ヒドロキシプロピルセルロースの場合、ヒドロキシプロピルセルロース(銘柄HPC−M、L、SL、H、SSL:日本曹達株式会社製)等を使用できる。
【0014】
(展延成分)
展延成分としては、本発明の被覆剤を広い面積に滑らかに塗布することができるようにする効果があれば特に限定されるものではないが、水溶性であることが望まれる。展延成分としては、グリセリン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリグリコール類等を例示することができるが、特に、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等、水酸基を有する分子量(重合体の場合は質量平均分子量)が50〜9,000の化合物が好ましい。
【0015】
(溶媒)
溶媒としては、水溶性高分子化合物、展延成分、その他添加物を溶解できれば特に限定されるものではないが、好ましくは水である。
【0016】
(添加剤)
その他の成分として、各種添加物を加えることができる。添加剤としては、安定剤、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤、抗菌剤、香料、増粘剤等を例示することができる。ただし、C〜Cアルコールは除く。添加剤の量は特に限定されるものではないが、組成物全量の0.01〜10質量%が好ましい。
【0017】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び、両性界面活性剤が例示できる。
【0018】
上記ノニオン界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル(ラウリン酸スクロース等)、ポリオキシエチレンソルビットテトラ脂肪酸エステル(テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(60E.O.)等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル(25E.O.)等)、グリセリン脂肪酸エステル(ジイソシアリン酸グリセリン等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0019】
上記カチオン界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジメチルアンモニウム塩、トリ長鎖アルキルモノメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩、モノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0020】
上記アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸、アシル乳酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アシルイセチオン酸塩、アルキルグリシジルエーテルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、脂肪酸アミドエーテルリン酸塩が挙げられる。
【0021】
上記両性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリシン塩、カルボキシメチルグリシン塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルグリシン塩、アルキルポリアミノポリカルボキシグリシン塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルイミノジプロピオン酸塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルプロピオン酸塩、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−プロピルスルホン酸塩、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩、N−脂肪酸アミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩が挙げられる。
【0022】
また、他にも、上記界面活性剤として、レシチン誘導体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、プロピレングルコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0023】
上記界面活性剤の一種又は二種以上を任意に配合することができるが、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、モノラウリン酸ヘキサグリセリルが特に好ましい。
また、界面活性剤の含有量は、組成物全量の0.01〜10質量%が好ましい。
【0024】
(防腐剤)
防腐剤としては、特に限定されるものではないが、菌等の発生および増殖に対して抑制等の防腐効果が発揮できればよく、水溶性であるほうが好ましい。防腐剤は、長期間保管する場合に菌等が原因で発生する濁り等を防止し、また、菌等が副生成する臭気物質の発生も抑制することができる。防腐剤は、本発明の被覆剤に溶解していても良く、また、沈殿や懸濁等していても良い。防腐剤が溶解していれば被覆剤均一に防腐効果を発揮することができ、沈殿していれば、塗布時にデカンテーション等で防腐剤を除去でき、被覆膜から防腐剤を分離することができる。
具体的には、安息香酸およびその塩、ソルビン酸およびその塩、パラオキシ安息香酸エステル類、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸およびその塩、しらこたん白、ポリリジン、ペクチン分解物、チアベンダゾール、イマザリル、オルトフェニルフェノール、ジフェニル、グリセリン脂肪酸エステル、サリチル酸塩類、トリクロサン、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、オルトフェニルフェノール、クロラミンT、ヒノキチオール、ピリチオン亜鉛、ポリアミノプロピルピグアナイド、メチルクロロイソチアゾリノン、メチルイソチアゾリン、クロロブタノール、クレゾール等を例示することができるが、塩化ベンザルコニウムが好ましい。
また、防腐剤の含有量は組成物全量の0.01〜10質量%が好ましい。
【0025】
(C〜Cアルコール)
〜Cアルコールとは、炭素数が1〜6のアルコール類であり、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、ネオペンタノール、t−ペンタノール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、1−メチルペンタノール、又は2−メチルペンタノール等を例示することができるが、エタノールが特に良好である。
また、C〜Cアルコールの含有量は組成物全量の0.1〜20質量%が好ましく、さらに1.0〜15質量%が好ましく、乾燥性や臭気の面から、2.0〜6.0質量%が特に好ましい。
【0026】
(製造方法)
本剤の製造は、特に限定されるものではないが、各成分を混合し攪拌することで行うことができる。本剤を水溶液にする場合は、溶解時間短縮の為、必要に応じてホモミキサー、ボールミル等を使用したり加熱することができる。
また、本剤を1回分の使用量に小分けし、塗布前に水に溶解させて使用することもできる。
【0027】
(使用の態様)
本発明の油汚れ防止用被覆剤は、油汚れの生じる基材上なら、通常どこでも適用可能である。
本発明の油汚れ防止用被覆剤は、スプレー吹き付け法、スプレーで吹き付けた後スポンジ等で塗り広げる方法、被膜剤を含浸させたウェットティッシュ等で塗布する方法等で厨房等の壁面等の基材上に塗布し、乾燥させる。乾燥させる温度は、溶媒や添加成分の種類により適宜選択して行う。乾燥後、油汚れ防止用被覆剤中の溶媒等の揮発成分が揮発して、壁面等の基材上には保護被膜が形成される。好ましくは、室温下で放置して自然乾燥によって保護被膜が形成される。
油が付着した後、水で湿らせた布等で拭き取ることにより付着した油等を被覆剤とともに除去することができる。また、水でも除去することができるが、40℃程度の温水に湿らせた布を使用することでより容易に除去することが可能である。除去する際に使用する物の材質は特に限定されるものではないが、吸水性があり、ふき取り操作の行いやすいものが望ましく、布、紙、スポンジ等の高分子材料等が使用できる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において、
HPCはヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製 HPC(L)、重量平均分子量140000)、
HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製 メトローズ(登録商標)60SH4000、2wt%水溶液で4000mP・s(20℃))、
PVAはポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA−105、平均分子量22万、4wt%水溶液で5.2〜6mPa・s(20℃))、
AAACはアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体(ルーブリゾール社製 PEMULEM TR−1、0.2wt%水溶液で5500〜16500mP・s(25℃))、
SPAはポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業社製、平均分子量3百万)、
EGはエチレングリコール(和光純薬工業社製)、
PGはプロピレングリコール(和光純薬工業社製)、
PEGはポリエチレングリコール(和光純薬工業社製 PEG400、分子量400)、PPG1000はポリプロピレングリコール(和光純薬工業社製、分子量1000)、
PPG3000はポリプロピレングリコール(和光純薬工業社製、分子量3000)
を表す。
【0029】
<被覆剤の調製>
[実施例1]
HPC0.1g、グリセリン0.1g、モノラウリン酸ヘキサグリセリル0.5g及び水99.3gを攪拌して溶解させ、被覆剤組成物を得た。この時の水溶性高分子と展延成分との質量比は、1:1であった。また、粘度は1.41mP・s(25℃)であった。
【0030】
[実施例2−18、比較例1−3]
水溶性高分子としてHPC又は第1表に記載の水溶性高分子を、展延成分としてグリセリン又は第1表に記載の展延成分を、添加剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリル又は第1表に記載の添加剤を、第1表に記載する配合割合で仕込み、実施例1と同様の方法で被覆剤組成物を得た。
なお、各組成物の25℃における粘度を、B型粘度計(東械産業株式会社社製)を用いて測定した。結果を第1表に示す。
【0031】
[実施例19−28]
水溶性高分子としてHPCを0.1g、展延成分としてグリセリンを0.1g、添加剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリルを0.5g、C〜Cアルコールを第3表に記載のC〜Cアルコールを第3表に記載する配合割合で、溶媒として水を第3表に記載する配合割合で仕込み、実施例1と同様の方法で被覆剤組成物を得た。
【0032】
<被覆膜作成>
前記被覆剤組成物を布(綿100%)に含浸させた後、ステンレス製基板(SUS304、A4サイズ)に塗り広げ、60℃、10分で乾燥させ、ステンレス面へ被覆膜を得た。
【0033】
なお、比較例4として、何も塗布しないステンレス製基板を用いた。
【0034】
【表1】
【0035】
<評価>
[評価1] ベタツキの評価
ステンレス面へ塗布した基板の「ベタツキ」状況を、塗膜作成直後及び1日後に、下記指標によって評価した。評価結果を第2表に示す。
なお、表中、「−」は、被覆膜が形成されていないため、評価していないことを示す。
◎:手で触っても、全くベタツキを感じなかった
○:手で触っても、ほとんどベタツキを感じなかった
△:手で触ると、少しベタツキを感じた
×:手で触ると、ベタツキを感じた
【0036】
[評価2] 油除去作業性の評価
塗布面に対して廃棄油(半年間使用したもの)を染み込ませた塗布用ローラーで塗り広げオーブントースターで2分加熱した。布を使用し塗布面からの油の除去性を、2cm角のスポンジを用いて「作業面でのスポンジの動かしやすさ」と「一拭き当たりの油の除去性」の観点から、下記指標によって評価した。対象面について布を5往復させ油の除去作業を実施した。評価結果を第2表及び第4表に示す。
【0037】
「作業面でのスポンジの動かしやすさ」
◎:油を拭き取る際に対象面上で布を非常にスムーズに動かすことが出来た
○:油を拭き取る際に対象面上で布をスムーズに動かすことが出来た
△:油を拭き取る際に対象面上で布をなんとか動かすことが出来た
×:油を拭き取る際に糊状となり対象面上で布をスムーズに動かすことが出来なかった「一拭き当たりの油の除去性」
◎:一拭きで落とせる油の量が多く、作業性が非常に良好であった
○:一拭きで落とせる油の量がまあまあ多く、作業性が良好であった
△:一拭きで落とせる油の量が少なく、作業性が悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:一拭きで落とせる油の量が非常に少なく、作業性が悪かった。拭いた場合に油が広がるのみであった
【0038】
[評価3] 油除去作業後の仕上がりの評価
評価2において油除去作業を行った後の対象面の仕上がりを、「スポンジの拭き跡残り」と「油分の拭き残り」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第2表及び第4表に示す。
【0039】
「スポンジの拭き跡残り」
◎:油除去作業後に塗膜成分が残らず、仕上がりが非常に良好であった
○:油除去作業後に塗膜成分がほとんど残らず、仕上がりが良好であった
△:油除去作業後に塗膜成分が少し残り、仕上がりが悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:油除去作業後に塗膜成分が残り、仕上がりが悪かった
「油分の拭き残り」
◎:油除去作業後に油分が残らず、仕上がりが非常に良好であった
○:油除去作業後に油分がほとんど残らず、仕上がりが良好であった
△:油除去作業後に油分が少し残り、仕上がりが悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:油除去作業後に油分が残り、仕上がりが悪かった
[評価4] 塗布面のムラ評価
塗布作業時の「ムラ」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 1回の塗布でムラ無く塗布できた
○: 1回の塗布では、若干のムラが生じた
△: 数回の塗布でも、若干のムラが生じた
×: ムラなく塗布できなかった
【0040】
[評価5] 塗布時の乾燥速度の評価
塗布作業時の「乾燥性」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 非常に速く乾燥した
○: やや速く乾燥した
△: 約10分で乾燥した
×: なかなか乾燥しなかった
【0041】
[評価6] 塗布時の臭気評価
塗布作業時の被覆剤の「臭気」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: ほぼ臭気は気にならなかった
○: 若干臭気がした
△: 若干鼻を突くような臭いがした
×: 十分に臭気を感じた
【0042】
[評価7] 被覆剤の保存安定性評価
被覆剤の保存安定性の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 室温下でも−5℃保管時でも1ヶ月以上、白濁しなかった
○: 室温下では1ヶ月以上白濁しなかったが、−5℃保管時では1ヶ月後に若干白濁した
△: 室温下では1ヶ月以上白濁しなかったが、−5℃保管時では1週間以内で白濁した
×: 室温下でも−5℃保管時でも若干白濁した
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
評価1より、本発明品は塗布直後も1日後にもベタツキがなく良好であった。比較例2および3のベタツキの評価が悪かったのは、水溶性高分子を含有していないことで、基板表面に被覆膜を形成していないことを示している。したがって、水溶性高分子は壁面等の感触を良くするために必要であることがわかった。
評価2より、本発明品を用いると拭き取り操作が容易であり、一拭き当たりの油の除去量は多いことがわかった。また、比較例2および3も同様に良いことから、何かの成分を塗布することで布等をスムーズに移動させることができることがわかる。しかし、水溶性高分子のみの場合は、水溶性高分子が直ぐに水に溶解できるわけではないので、布をスムーズに移動させることはできないことを示している。したがって、広い範囲で除去する場合、作業時間が長くかかってしまうことが判明した。
評価3より、本発明品を用いると綺麗に塗膜分及び油が除去できたが、比較例は全て十分に除去できなかった。これは、単に油が被覆膜のみに付着したり、基板表面を布等でスムーズに移動させたりしても、両方を同時に満たさない限り、油を綺麗に除去できないことを示している。
以上の評価結果より水溶性高分子及び展延成分を含有する被膜形成剤は良好な被覆膜を形成し、油が付着した後であっても、被覆膜の除去作業が良好であり、さらに除去後のステンレス基板への油の付着もないことがわかった。
【0048】
評価4〜7より、C〜Cアルコールを含有させると、塗布時のムラ、塗布後の乾燥性、塗布時の臭気、および被膜剤の保存安定性において良好であることがわかった。さらに評価6より、C〜Cアルコールはエタノールが特に臭気において良好であることがわかった。
【0049】
[評価8] 被覆剤使用及び不使用時の作業比較
(本発明の作業)
実施例2に記載の被覆剤600gを厨房レンジフードの壁面及び天井面約20mに塗布した。この作業時間に1人で1時間かかった。約2ヵ月間通常の調理業務を行なった。その後、除去作業を行った。この作業時間に1人で1時間かかった。除去後の壁面及び天井面に油等の付着や被覆膜の付着が無いことを確認した。また、被覆膜除去には洗剤を使用せずにお湯のみを用い、高所の被覆作業及び被覆膜除去は柄の長いモップを使用し、台等の設置は不要であった。
【0050】
(従来の通常の油除去作業)
厨房レンジフードの壁面及び天井面約20mに対して、被覆剤を塗布しないで、約6ヶ月間通常の調理業務を行なった後、油除去作業を行った。油除去作業には、強アルカリ性洗剤を使用し、高所の除去作業には安定した台を設置して、その上で行なった。なお、油の付着が強い場所には、金属製のヘラを用いて、力をかけて除去した。
【0051】
(比較)
厨房の壁面約20mに対して、本発明の被覆剤を使用した場合(以下、「本発明法」という)と被覆剤を使用しないで従来通りの作業を行った場合(以下、「従来法」という)の作業の比較を第6表にまとめた。
本発明法の作業では、被覆剤塗布作業に1時間、その被覆膜の除去作業に1時間の計2時間かかり、6ヶ月間を想定すると2ヶ月に1回の作業の場合では3回実施することになるので、6ヶ月当り6時間かかる。また従来法は6ヶ月間を想定すると1回程度の実施しかできず、その作業時間は5時間である。比較すると、本発明法の6ヶ月当りの作業時間は従来法と比較して同等であった。
清掃作業者に対する負荷では、本発明法では強アルカリ洗浄剤や高所作業が無いことから、作業者が負傷する危険性が軽減された。また、レストラン等の営業時間外である深夜に行ったため、従来法の作業後の清掃作業者は大変疲労していた。
厨房及び厨房を所有する業者に対する負荷では、本発明法の作業は壁面及び天井面を金属製のヘラでこする必要がないので損傷する可能性がなかった。また、1回当りの作業時間が短いので、レストラン等の営業時間又は、厨房での材料仕込み時間に影響することなく、壁面及び天井面の清掃作業を行うことができた。
以上の結果から、本発明品を用いると、清掃業務の安全性や作業性が向上した。さらに厨房の占有時間が短いため、レストラン等の営業時間に影響することも無くなった。このように本発明は換気扇の羽等の狭い範囲に用いる被覆剤と異なり、広い面積の被覆及びその除去に適したものである。
【0052】
【表6】