【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において、
HPCはヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製 HPC(L)、重量平均分子量140000)、
HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製 メトローズ(登録商標)60SH4000、2wt%水溶液で4000mP・s(20℃))、
PVAはポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA−105、平均分子量22万、4wt%水溶液で5.2〜6mPa・s(20℃))、
AAACはアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体(ルーブリゾール社製 PEMULEM TR−1、0.2wt%水溶液で5500〜16500mP・s(25℃))、
SPAはポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業社製、平均分子量3百万)、
EGはエチレングリコール(和光純薬工業社製)、
PGはプロピレングリコール(和光純薬工業社製)、
PEGはポリエチレングリコール(和光純薬工業社製 PEG400、分子量400)、PPG1000はポリプロピレングリコール(和光純薬工業社製、分子量1000)、
PPG3000はポリプロピレングリコール(和光純薬工業社製、分子量3000)
を表す。
【0029】
<被覆剤の調製>
[実施例1]
HPC0.1g、グリセリン0.1g、モノラウリン酸ヘキサグリセリル0.5g及び水99.3gを攪拌して溶解させ、被覆剤組成物を得た。この時の水溶性高分子と展延成分との質量比は、1:1であった。また、粘度は1.41mP・s(25℃)であった。
【0030】
[実施例2−18、比較例1−3]
水溶性高分子としてHPC又は第1表に記載の水溶性高分子を、展延成分としてグリセリン又は第1表に記載の展延成分を、添加剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリル又は第1表に記載の添加剤を、第1表に記載する配合割合で仕込み、実施例1と同様の方法で被覆剤組成物を得た。
なお、各組成物の25℃における粘度を、B型粘度計(東械産業株式会社社製)を用いて測定した。結果を第1表に示す。
【0031】
[実施例19−28]
水溶性高分子としてHPCを0.1g、展延成分としてグリセリンを0.1g、添加剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリルを0.5g、C
1〜C
6アルコールを第3表に記載のC
1〜C
6アルコールを第3表に記載する配合割合で、溶媒として水を第3表に記載する配合割合で仕込み、実施例1と同様の方法で被覆剤組成物を得た。
【0032】
<被覆膜作成>
前記被覆剤組成物を布(綿100%)に含浸させた後、ステンレス製基板(SUS304、A4サイズ)に塗り広げ、60℃、10分で乾燥させ、ステンレス面へ被覆膜を得た。
【0033】
なお、比較例4として、何も塗布しないステンレス製基板を用いた。
【0034】
【表1】
【0035】
<評価>
[評価1] ベタツキの評価
ステンレス面へ塗布した基板の「ベタツキ」状況を、塗膜作成直後及び1日後に、下記指標によって評価した。評価結果を第2表に示す。
なお、表中、「−」は、被覆膜が形成されていないため、評価していないことを示す。
◎:手で触っても、全くベタツキを感じなかった
○:手で触っても、ほとんどベタツキを感じなかった
△:手で触ると、少しベタツキを感じた
×:手で触ると、ベタツキを感じた
【0036】
[評価2] 油除去作業性の評価
塗布面に対して廃棄油(半年間使用したもの)を染み込ませた塗布用ローラーで塗り広げオーブントースターで2分加熱した。布を使用し塗布面からの油の除去性を、2cm角のスポンジを用いて「作業面でのスポンジの動かしやすさ」と「一拭き当たりの油の除去性」の観点から、下記指標によって評価した。対象面について布を5往復させ油の除去作業を実施した。評価結果を第2表及び第4表に示す。
【0037】
「作業面でのスポンジの動かしやすさ」
◎:油を拭き取る際に対象面上で布を非常にスムーズに動かすことが出来た
○:油を拭き取る際に対象面上で布をスムーズに動かすことが出来た
△:油を拭き取る際に対象面上で布をなんとか動かすことが出来た
×:油を拭き取る際に糊状となり対象面上で布をスムーズに動かすことが出来なかった「一拭き当たりの油の除去性」
◎:一拭きで落とせる油の量が多く、作業性が非常に良好であった
○:一拭きで落とせる油の量がまあまあ多く、作業性が良好であった
△:一拭きで落とせる油の量が少なく、作業性が悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:一拭きで落とせる油の量が非常に少なく、作業性が悪かった。拭いた場合に油が広がるのみであった
【0038】
[評価3] 油除去作業後の仕上がりの評価
評価2において油除去作業を行った後の対象面の仕上がりを、「スポンジの拭き跡残り」と「油分の拭き残り」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第2表及び第4表に示す。
【0039】
「スポンジの拭き跡残り」
◎:油除去作業後に塗膜成分が残らず、仕上がりが非常に良好であった
○:油除去作業後に塗膜成分がほとんど残らず、仕上がりが良好であった
△:油除去作業後に塗膜成分が少し残り、仕上がりが悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:油除去作業後に塗膜成分が残り、仕上がりが悪かった
「油分の拭き残り」
◎:油除去作業後に油分が残らず、仕上がりが非常に良好であった
○:油除去作業後に油分がほとんど残らず、仕上がりが良好であった
△:油除去作業後に油分が少し残り、仕上がりが悪いほどではないが良好であるとはいえなかった
×:油除去作業後に油分が残り、仕上がりが悪かった
[評価4] 塗布面のムラ評価
塗布作業時の「ムラ」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 1回の塗布でムラ無く塗布できた
○: 1回の塗布では、若干のムラが生じた
△: 数回の塗布でも、若干のムラが生じた
×: ムラなく塗布できなかった
【0040】
[評価5] 塗布時の乾燥速度の評価
塗布作業時の「乾燥性」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 非常に速く乾燥した
○: やや速く乾燥した
△: 約10分で乾燥した
×: なかなか乾燥しなかった
【0041】
[評価6] 塗布時の臭気評価
塗布作業時の被覆剤の「臭気」の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: ほぼ臭気は気にならなかった
○: 若干臭気がした
△: 若干鼻を突くような臭いがした
×: 十分に臭気を感じた
【0042】
[評価7] 被覆剤の保存安定性評価
被覆剤の保存安定性の観点から、下記指標によって評価した。評価結果を第5表に示す。
◎: 室温下でも−5℃保管時でも1ヶ月以上、白濁しなかった
○: 室温下では1ヶ月以上白濁しなかったが、−5℃保管時では1ヶ月後に若干白濁した
△: 室温下では1ヶ月以上白濁しなかったが、−5℃保管時では1週間以内で白濁した
×: 室温下でも−5℃保管時でも若干白濁した
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
評価1より、本発明品は塗布直後も1日後にもベタツキがなく良好であった。比較例2および3のベタツキの評価が悪かったのは、水溶性高分子を含有していないことで、基板表面に被覆膜を形成していないことを示している。したがって、水溶性高分子は壁面等の感触を良くするために必要であることがわかった。
評価2より、本発明品を用いると拭き取り操作が容易であり、一拭き当たりの油の除去量は多いことがわかった。また、比較例2および3も同様に良いことから、何かの成分を塗布することで布等をスムーズに移動させることができることがわかる。しかし、水溶性高分子のみの場合は、水溶性高分子が直ぐに水に溶解できるわけではないので、布をスムーズに移動させることはできないことを示している。したがって、広い範囲で除去する場合、作業時間が長くかかってしまうことが判明した。
評価3より、本発明品を用いると綺麗に塗膜分及び油が除去できたが、比較例は全て十分に除去できなかった。これは、単に油が被覆膜のみに付着したり、基板表面を布等でスムーズに移動させたりしても、両方を同時に満たさない限り、油を綺麗に除去できないことを示している。
以上の評価結果より水溶性高分子及び展延成分を含有する被膜形成剤は良好な被覆膜を形成し、油が付着した後であっても、被覆膜の除去作業が良好であり、さらに除去後のステンレス基板への油の付着もないことがわかった。
【0048】
評価4〜7より、C
1〜C
6アルコールを含有させると、塗布時のムラ、塗布後の乾燥性、塗布時の臭気、および被膜剤の保存安定性において良好であることがわかった。さらに評価6より、C
1〜C
6アルコールはエタノールが特に臭気において良好であることがわかった。
【0049】
[評価8] 被覆剤使用及び不使用時の作業比較
(本発明の作業)
実施例2に記載の被覆剤600gを厨房レンジフードの壁面及び天井面約20m
2に塗布した。この作業時間に1人で1時間かかった。約2ヵ月間通常の調理業務を行なった。その後、除去作業を行った。この作業時間に1人で1時間かかった。除去後の壁面及び天井面に油等の付着や被覆膜の付着が無いことを確認した。また、被覆膜除去には洗剤を使用せずにお湯のみを用い、高所の被覆作業及び被覆膜除去は柄の長いモップを使用し、台等の設置は不要であった。
【0050】
(従来の通常の油除去作業)
厨房レンジフードの壁面及び天井面約20m
2に対して、被覆剤を塗布しないで、約6ヶ月間通常の調理業務を行なった後、油除去作業を行った。油除去作業には、強アルカリ性洗剤を使用し、高所の除去作業には安定した台を設置して、その上で行なった。なお、油の付着が強い場所には、金属製のヘラを用いて、力をかけて除去した。
【0051】
(比較)
厨房の壁面約20m
2に対して、本発明の被覆剤を使用した場合(以下、「本発明法」という)と被覆剤を使用しないで従来通りの作業を行った場合(以下、「従来法」という)の作業の比較を第6表にまとめた。
本発明法の作業では、被覆剤塗布作業に1時間、その被覆膜の除去作業に1時間の計2時間かかり、6ヶ月間を想定すると2ヶ月に1回の作業の場合では3回実施することになるので、6ヶ月当り6時間かかる。また従来法は6ヶ月間を想定すると1回程度の実施しかできず、その作業時間は5時間である。比較すると、本発明法の6ヶ月当りの作業時間は従来法と比較して同等であった。
清掃作業者に対する負荷では、本発明法では強アルカリ洗浄剤や高所作業が無いことから、作業者が負傷する危険性が軽減された。また、レストラン等の営業時間外である深夜に行ったため、従来法の作業後の清掃作業者は大変疲労していた。
厨房及び厨房を所有する業者に対する負荷では、本発明法の作業は壁面及び天井面を金属製のヘラでこする必要がないので損傷する可能性がなかった。また、1回当りの作業時間が短いので、レストラン等の営業時間又は、厨房での材料仕込み時間に影響することなく、壁面及び天井面の清掃作業を行うことができた。
以上の結果から、本発明品を用いると、清掃業務の安全性や作業性が向上した。さらに厨房の占有時間が短いため、レストラン等の営業時間に影響することも無くなった。このように本発明は換気扇の羽等の狭い範囲に用いる被覆剤と異なり、広い面積の被覆及びその除去に適したものである。
【0052】
【表6】