【実施例】
【0018】
図1に示すように、本発明に係る軸シール機構11は、例えば、蒸気タービンやガスタービンに適用されるものであって、車室ケーシングや静翼等の固定部(静止部)12と回転軸13との間に形成される環状空間14内に設けられている。
【0019】
具体的に、
図1及び
図2に示すように、固定部12の内周部には、軸シール機構11の外殻をなすシールハウジング21が、回転軸13の周方向に沿うように、環状に設けられている。更に、シールハウジング21の内周部には、環状溝21aが形成されており、この環状溝21a内には、多数の薄板シール片22が、回転軸13の周方向に沿うように配置されている。
【0020】
そして、薄板シール片22の外周側基端部22aは、環状溝21a内に固定される一方、薄板シール片22の内周側先端部22bは、回転軸13の外周面に所定の予圧で摺接している。このとき、薄板シール片22は、自由端となる内周側先端部22bが、回転軸13の外周面に対して回転方向への傾きを持って、当該外周面となす角が鋭角となるように、配置されている。なお、傾斜支持された薄板シール片22においては、回転軸13に面した面を下面とし、その下面の反対側の面を上面とする。
【0021】
即ち、固定部12と回転軸13との間に形成される環状空間14内には、蒸気や燃焼ガス等の流体Gが、高圧側から低圧側に向って、回転時13の軸方向に流れている。これに対して、軸シール機構11は、薄板シール片22を回転軸13の周方向に多層に配置した環状シール構造となっており、その環状に配置した多数の薄板シール片22を境にして、環状空間14を、流体流れ方向上流側となる高圧側領域と、流体流れ方向下流側となる低圧側領域とに仕切ることによって、その高圧側領域から低圧側領域に漏れる流体Gの漏れ量を低減させるものとなっている。
【0022】
ここで、
図2及び
図3に示すように、薄板シール片22は、可撓性を有する可撓性材料で、且つ、回転軸13の軸方向に幅寸法を有する平板状に形成されている。詳細には、薄板シール片22は、基端側(外周側基端部22a)の板幅が先端側(内周側先端部22b)の板幅よりも幅広となるT字形をなすと共に、可撓性を発揮できる程度に薄肉化されており、回転軸13の周方向に一定量の微小隙間を有して、環状に配置されている。
【0023】
そして、薄板シール片22の基端側は、薄板シール片22の環状配置を保持するための左右一対のリテーナ23,24によって、板幅方向両側から囲むように挟持されている。更に、リテーナ23,24は、シールハウジング21の環状溝21a内に嵌め込まれている。
【0024】
また、薄板シール片22の高圧側及び低圧側には、流体Gのガイド板となる高圧側プレート25及び低圧側プレート26が設けられている。
【0025】
具体的に、薄板シール片22における高圧側領域と対向する左側部(
図2,3の紙面左側に位置する側部)には、環状の高圧側プレート25が配置されている。この高圧側プレート25は、薄板シール片22における高圧側領域と対向する高圧側側縁部22cに隣接して設けられており、その高圧側側縁部22cとリテーナ23との間に挟持されている。
【0026】
このとき、高圧側プレート25の内周側先端部25aは、環状溝21aの開口縁部まで延びているものの、薄板シール片22の内周側先端部22bには達していない。更に、環状溝21aにおける高圧側領域と対向する高圧側側面21bと、高圧側プレート25との間には、回転軸13の軸方向(流体流れ方向、シール片板幅方向)において、一定量の高圧側隙間δHが形成されている。
【0027】
このように、高圧側プレート25を設けることにより、薄板シール片22の内周側先端部22bが、その高圧側プレート25の内周側先端部25aよりも、回転軸13の径方向内側に配置されるため、高圧側領域から流れ込んできた流体Gは、薄板シール片22の先端側から流入する。
【0028】
一方、薄板シール片22における低圧側領域と対向する右側部(
図2,3の紙面右側に位置する側部)には、環状の低圧側プレート26が配置されている。この低圧側プレート26は、薄板シール片22における低圧側領域と対向する低圧側側縁部22dに隣接して設けられており、その低圧側側縁部22dと、リテーナ24及び環状溝21aにおける低圧側領域と対向する低圧側側面21cとの間に挟持されている。
【0029】
このとき、低圧側プレート26の内周側先端部26aは、環状溝21aの開口縁部及び薄板シール片22の内周側先端部22bには達しておらず、高圧側プレート25の内周側先端部25aよりも回転軸13の径方向外側に配置されている。即ち、低圧側プレート26の長さは、高圧側プレート25の長さよりも短くなっている。更に、環状溝21aの低圧側側面21cと低圧側側縁部22dとの間には、回転軸13の軸方向において、一定量の低圧側隙間δLが形成されている。
【0030】
このように、低圧側プレート26を設けることにより、低圧側側面21cと低圧側側縁部22dとの間に、低圧側隙間δLを形成することができる。そして、低圧側隙間δLは、低圧側プレート26の板厚によって形成されるため、その低圧側プレート26の板厚を調整することにより、低圧側隙間δLの隙間量を設定することができる。
【0031】
また、高圧側隙間δH及び低圧側隙間δLの隙間量に応じて、薄板シール片22の上面及び下面に形成される流体Gによる圧力分布を設定することができる。更に、高圧側隙間δHの隙間量と低圧側隙間δLの隙間量との大小関係に応じて、薄板シール片22の上下面間における圧力分布の相対的な位置ずれによる圧力差の大きさ(浮上力)を、設定することができる。
【0032】
なお、本発明に係る軸シール機構11においては、低圧側プレート26の内周側先端部26aと回転軸13の外周面との間における径方向隙間量を、高圧側プレート25の内周側先端部25aと回転軸13の外周面との間における径方向隙間量よりも、大きくすることにより、安定した浮上力を得るようにしている。
【0033】
以上より、回転軸13の回転が停止しているときには、薄板シール片22の内周側先端部22bが、回転軸13の外周面に所定の予圧で接触する。一方、回転軸13が回転しているときには、薄板シート片22の上下面間における圧力分布の相対的な位置ずれによる圧力差と、回転軸13の回転によって生じる流体Gの動圧効果とよって、薄板シール片22に対して浮上力が作用する。これにより、薄板シール片22が撓んで、それらの内周側先端部22bが、回転軸13の外周面から浮上して非接触となり、回転軸13や薄板シール片22の摩耗及び発熱が防止される。これと同時に、回転軸13に対して非接触状態となった薄板シール片22によって、高圧側領域から低圧側領域に向けて流れる流体Gの漏れ量が低減される。
【0034】
ここで、
図4に示すように、薄板シール片22の高圧側側縁部22c及び低圧側側縁部22dには、段差部(高圧側段差部)31及び段差部(低圧側段差部)32が形成されている。これらの段差部31,32は、側縁部22c,22dの径方向中間部(長手方向中間部)に配置されており、薄板シール片22における段差部31よりも径方向内側の部分の板幅を一定とし、且つ、薄板シール片22を先細り状に形成するような、段差形成をなしている。そして、段差部31,32の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0035】
これに対して、高圧側プレート25の内周側先端部25aには、係止部(高圧側係止部)25bが形成されている。そして、係止部25bは、薄板シール片22の板幅方向において、高圧側プレート25から高圧側側縁部22cに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0036】
また、低圧側プレート26の内周側先端部26aには、係止部(低圧側係止部)26bが形成されている。そして、係止部26bは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側プレート26から低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0037】
即ち、段差部31の傾斜端面と係止部25bの傾斜面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっており、段差部32の傾斜端面と係止部26bの傾斜面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部25b,26bの傾斜面と段差部31,32の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0038】
以上より、例えば、タービン運転時における高圧側領域から低圧側領域に向かう流体Gの圧力によって、薄板シール片22が低圧側領域に向けて押されたり、軸シール機構11の組立後において、機構組立誤差が発生したりして、低圧側隙間δLの隙間量が、安定した浮上力を得ることができる隙間量よりも小さくなると(例えば、δH>δL)、薄板シール片22に形成される圧力分布や、薄板シール片22に作用する圧力差が乱れてしまう。これにより、薄板シール片22には、浮上力の作用方向とは逆向きとなる押付力が作用することになり、その内周側先端部22bが、回転軸13の回転停止時における予圧力よりも大きな圧力で、回転軸13に向けて押し付けられるような変形が生じる。
【0039】
しかしながら、本発明に係る軸シール機構11においては、高圧側プレート25及び低圧側プレート26に係止部25b,26bを設け、この係止部25b,26によって、薄板シール片22の段差部31,32を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部31,32が係止部25b,26bに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0040】
また、係止部25b,26bに傾斜面と、段差部31,32に傾斜端面とを、回転軸13の径方向において、係合可能としたことにより、仮に、薄板シール片22が高圧側または低圧側に傾いて組み付けられた場合であっても、段差部31,32を係止部25b,26bによって必ず係止することができる。
【0041】
更に、本発明に係る軸シール機構11においては、既存のシール機構の構成部品のうち、薄板シール片22、高圧側プレート25、及び、低圧側プレート26のみに、形状変更を施すようにしている。これにより、シールハウジング21等の大きな部材に対して、形状変更を必要としないため、大幅は設計変更をすることなく、押付力による薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0042】
なお、上述した実施形態においては、薄板シール片22を高圧側プレート25及び低圧側プレート26によって係止する構成としているが、
図5及び
図6に示すように、薄板シール片22をシールハウジング21によって係止する構成としても構わない。
【0043】
そこで、
図5に示すように、薄板シール片22の低圧側側縁部22dには、段差部(低圧側段差部)33が形成されている。この段差部33は、低圧側プレート26の内周側先端部26aよりも回転軸13の径方向内側に配置されており、低圧側側縁部22dを切り欠くような切欠形状をなしている。そして、段差部33の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0044】
これに対して、シールハウジング21の低圧側側面21cには、係止部(低圧側係止部)21dが形成されている。そして、係止部21dは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側側面21cから低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0045】
即ち、係止部21dは、低圧側プレート26の内周側先端部26aよりも回転軸13の径方向内側に配置されており、その係止部21dの傾斜面と段差部33の傾斜端面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部21dの傾斜面と段差部33の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0046】
従って、シールハウジング21に係止部21dを設け、この係止部21dによって、薄板シール片22の段差部33を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部33が係止部21dに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0047】
更に、大きな部材となるシールハウジング21に係止部21dを設けることにより、係止部21dの剛性を向上させることができるので、係止部21dと段差部33との間の係合状態を長期に亘って維持することができる。
【0048】
また、
図6に示すように、薄板シール片22の低圧側側縁部22dには、段差部(低圧側段差部)34が形成されている。この段差部34は、低圧側側縁部22dの径方向中間部(長手方向中間部)に配置されており、薄板シール片22の板幅方向中心側に向けて凹むことにより、薄板シール片22を先細り状に形成するような、段差形成をなしている。そして、段差部34の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0049】
これに対して、シールハウジング21の低圧側側面21cには、係止部(低圧側係止部)21eが形成されている。そして、係止部21eは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側側面21cから低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0050】
即ち、係止部21eの傾斜面と段差部34の傾斜端面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部21eの傾斜面と段差部34の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0051】
従って、シールハウジング21に係止部21eを設け、この係止部21eによって、薄板シール片22の段差部34を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部34が係止部21eに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0052】
更に、大きな部材となるシールハウジング21に係止部21eを設けることにより、係止部21eの剛性を向上させることができるので、係止部21eと段差部34との間の係合状態を長期に亘って維持することができる。しかも、低圧側プレート26を設ける必要が無いため、軸シール機構11の構成を簡素にすることができるだけでなく、軸シール機構11の製造コストを削減することができる。