特許第6168706号(P6168706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168706
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】軸シール機構
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/22 20060101AFI20170713BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20170713BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170713BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20170713BHJP
   F01D 11/12 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   F16J15/22
   F16J15/447
   F01D25/00 M
   F02C7/28 B
   F01D11/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-253686(P2014-253686)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-114168(P2016-114168A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀和
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 昂平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亜積
(72)【発明者】
【氏名】大山 宏治
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第2650048(FR,A1)
【文献】 特開2013−145007(JP,A)
【文献】 特開2008−275157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/22
F16J 15/447
F01D 25/00
F02C 7/28
F01D 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と回転軸との間に形成される環状空間内に設けられることにより、前記環状空間を高圧側領域と低圧側領域とに仕切って、前記環状空間内を前記高圧側領域から前記低圧側領域に向けて回転軸方向に流れる流体を阻止するようにした軸シール機構において、
前記固定部の内周部に設けられる環状のシールハウジングと、
外周側基端部が前記シールハウジングに固定される一方、内周側先端部が前記回転軸の外周面と鋭角をなすように自由端となると共に、回転軸方向に幅寸法を有して、回転軸周方向に環状に積層される複数の薄板シール片と、
前記シールハウジングとの間において回転軸方向に高圧側隙間が形成されるように、前記高圧側領域と対向する前記薄板シール片の高圧側側縁部に隣接して設けられる環状の高圧側プレートと、
前記低圧側領域と対向する前記薄板シール片の低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において回転軸方向に低圧側隙間が形成されるように、前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間に挟持される環状の低圧側プレートと、
前記高圧側側縁部に形成される高圧側段差部と、
前記低圧側側縁部に形成される低圧側段差部と、
前記高圧側プレートに形成され、前記高圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する高圧側係止部と、
前記低圧側プレートに形成され、前記低圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する低圧側係止部とを備える
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項2】
請求項1に記載の軸シール機構において、
前記高圧側段差部の傾斜端面と前記高圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合し、
前記低圧側段差部の傾斜端面と前記低圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合する
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項3】
固定部と回転軸との間に形成される環状空間内に設けられることにより、前記環状空間を高圧側領域と低圧側領域とに仕切って、前記環状空間内を前記高圧側領域から前記低圧側領域に向けて回転軸方向に流れる流体を阻止するようにした軸シール機構において、
前記固定部の内周部に設けられる環状のシールハウジングと、
外周側基端部が前記シールハウジングに固定される一方、内周側先端部が前記回転軸の外周面と鋭角をなすように自由端となると共に、回転軸方向に幅寸法を有して、前記低圧側領域と対向する低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において回転軸方向に低圧側隙間が形成されるように、回転軸周方向に環状に積層される複数の薄板シール片とを備え、
前記低圧側側縁部に形成される低圧側段差部と、
前記シールハウジングに形成され、前記低圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する低圧側係止部とを備える
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項4】
請求項3に記載の軸シール機構において、
前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において前記低圧側隙間が形成されるように、前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間に挟持される環状の低圧側プレートを備え、
前記低圧側係止部は、前記低圧側プレートの内周側先端部よりも回転軸径方向内側において、前記低圧側段差部を係止する
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項5】
請求項3または4に記載の軸シール機構において、
前記低圧側段差部の傾斜端面と前記低圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合する
ことを特徴とする軸シール機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンやガスタービンの回転軸周りに設けられ、高圧側から低圧側に漏れる流体の漏れ量を低減させるための軸シール機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蒸気タービンやガスタービンの回転軸周りには、駆動力の損失を抑えることを目的として、高圧側から低圧側に漏れる流体の漏れ量を低減させるための軸シール機構が設けられている。このような軸シール機構は、回転軸方向に幅寸法を有する平板状の薄板シール片を、回転軸周方向に多層に配置した環状シール構造となっている。そして、薄板シール片の外周側基端部は、環状のシールハウジングに固定される一方、薄板シール片の内周側先端部は、回転軸の外周面に所定の予圧で摺接している。これにより、軸シール機構においては、回転軸の径方向外側に環状に配置した多数の薄板シール片を境にして、回転軸の周囲空間を、高圧側領域と低圧側領域とに仕切ることができる。
【0003】
よって、回転軸の回転が停止しているときには、薄板シール片の内周側先端部が、回転軸の外周面に所定の予圧で接触する。一方、回転軸が回転しているときには、薄板シール片の上下面間における圧力分布の相対的な位置ずれによる圧力差と、回転軸の回転によって生じる流体の動圧効果とによって、薄板シール片が撓むことにより、それらの内周側先端部が、回転軸の外周面から浮上して、非接触となる。これにより、薄板シール片や回転軸の摩耗及び発熱を防止している。なお、薄板シール片においては、回転軸に面した面を下面とし、その下面の反対側の面を上面としている。
【0004】
そして、このような、従来の軸シール機構としては、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0154199号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、軸シール機構においては、薄板シール片の低圧側及び高圧側に、所定量の隙間をそれぞれ設けるようにしている。そして、低圧側隙間及び高圧側隙間の隙間量を調整することにより、薄板シール片に上記圧力差を発生させて、当該薄板シール片に浮上力を与えることが可能となっている。つまり、低圧側隙間及び高圧側隙間における隙間管理は、薄板シール片を浮上させる上で、非常に重要な要素となっている。
【0007】
しかしながら、上述した隙間量は、微小な量となるにも関わらず、薄板シール片と、その周囲に設けられる複数の支持部材とによって形成されている。これにより、それらの隙間量を予め正しく設定していても、薄板シール片及び支持部材の加工誤差や組付誤差等によって、組み付け時における実際の隙間量が、安定した浮上力を得ることができる適正な隙間量とならないことがある。
【0008】
このとき、実際の隙間量が、適正な隙間量よりも小さくなってしまうと、圧力分布や圧力差が乱れてしまい、薄板シール片に対して、浮上力の作用方向とは逆向きとなる押付力が作用する場合がある。このように、内周側先端部を押し付けようとする押付力が、薄板シール片に作用すると、その内周側先端部が、回転軸と接触してしまい、摩耗するおそれがある。
【0009】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、薄板シール片に押付力が作用しても、その押付力による変形を抑制して、薄板シール片における回転軸との接触による摩耗を防止することができる軸シール機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に係る軸シール機構は、
固定部と回転軸との間に形成される環状空間内に設けられることにより、前記環状空間を高圧側領域と低圧側領域とに仕切って、前記環状空間内を前記高圧側領域から前記低圧側領域に向けて回転軸方向に流れる流体を阻止するようにした軸シール機構において、
前記固定部の内周部に設けられる環状のシールハウジングと、
外周側基端部が前記シールハウジングに固定される一方、内周側先端部が前記回転軸の外周面と鋭角をなすように自由端となると共に、回転軸方向に幅寸法を有して、回転軸周方向に環状に積層される複数の薄板シール片と、
前記シールハウジングとの間において回転軸方向に高圧側隙間が形成されるように、前記高圧側領域と対向する前記薄板シール片の高圧側側縁部に隣接して設けられる環状の高圧側プレートと、
前記低圧側領域と対向する前記薄板シール片の低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において回転軸方向に低圧側隙間が形成されるように、前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間に挟持される環状の低圧側プレートと、
前記高圧側側縁部に形成される高圧側段差部と、
前記低圧側側縁部に形成される低圧側段差部と、
前記高圧側プレートに形成され、前記高圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する高圧側係止部と、
前記低圧側プレートに形成され、前記低圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する低圧側係止部とを備える
ことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に係る軸シール機構は、
前記高圧側段差部の傾斜端面と前記高圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合し、
前記低圧側段差部の傾斜端面と前記低圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合する
ことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に係る軸シール機構は、
固定部と回転軸との間に形成される環状空間内に設けられることにより、前記環状空間を高圧側領域と低圧側領域とに仕切って、前記環状空間内を前記高圧側領域から前記低圧側領域に向けて回転軸方向に流れる流体を阻止するようにした軸シール機構において、
前記固定部の内周部に設けられる環状のシールハウジングと、
外周側基端部が前記シールハウジングに固定される一方、内周側先端部が前記回転軸の外周面と鋭角をなすように自由端となると共に、回転軸方向に幅寸法を有して、前記低圧側領域と対向する低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において回転軸方向に低圧側隙間が形成されるように、回転軸周方向に環状に積層される複数の薄板シール片とを備え、
前記低圧側側縁部に形成される低圧側段差部と、
前記シールハウジングに形成され、前記低圧側段差部を回転軸径方向内側から係止する低圧側係止部とを備える
ことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に係る軸シール機構は、
前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間において前記低圧側隙間が形成されるように、前記低圧側側縁部と前記シールハウジングとの間に挟持される環状の低圧側プレートを備え、
前記低圧側係止部は、前記低圧側プレートの内周側先端部よりも回転軸径方向内側において、前記低圧側段差部を係止する
ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第5の発明に係る軸シール機構は、
前記低圧側段差部の傾斜端面と前記低圧側係止部の傾斜面とは、回転軸径方向において係合する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
従って、本発明に係る軸シール機構によれば、薄板シール片を回転軸径方向内側から係止することにより、薄板シール片に押付力が作用しても、その押付力による変形を抑制して、薄板シール片における回転軸との接触による摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る軸シール機構の概略構成図である。
図2】本発明に係る軸シール機構の軸方向断面図である。
図3】薄板シール片の支持構造を分解した状態の図である。
図4】実施例1に係る軸シール機構の詳細図であって、薄板シール片の正面図である。
図5】実施例2に係る軸シール機構の詳細図であって、薄板シール片の正面図である。
図6】実施例3に係る軸シール機構の詳細図であって、薄板シール片の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る軸シール機構について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1に示すように、本発明に係る軸シール機構11は、例えば、蒸気タービンやガスタービンに適用されるものであって、車室ケーシングや静翼等の固定部(静止部)12と回転軸13との間に形成される環状空間14内に設けられている。
【0019】
具体的に、図1及び図2に示すように、固定部12の内周部には、軸シール機構11の外殻をなすシールハウジング21が、回転軸13の周方向に沿うように、環状に設けられている。更に、シールハウジング21の内周部には、環状溝21aが形成されており、この環状溝21a内には、多数の薄板シール片22が、回転軸13の周方向に沿うように配置されている。
【0020】
そして、薄板シール片22の外周側基端部22aは、環状溝21a内に固定される一方、薄板シール片22の内周側先端部22bは、回転軸13の外周面に所定の予圧で摺接している。このとき、薄板シール片22は、自由端となる内周側先端部22bが、回転軸13の外周面に対して回転方向への傾きを持って、当該外周面となす角が鋭角となるように、配置されている。なお、傾斜支持された薄板シール片22においては、回転軸13に面した面を下面とし、その下面の反対側の面を上面とする。
【0021】
即ち、固定部12と回転軸13との間に形成される環状空間14内には、蒸気や燃焼ガス等の流体Gが、高圧側から低圧側に向って、回転時13の軸方向に流れている。これに対して、軸シール機構11は、薄板シール片22を回転軸13の周方向に多層に配置した環状シール構造となっており、その環状に配置した多数の薄板シール片22を境にして、環状空間14を、流体流れ方向上流側となる高圧側領域と、流体流れ方向下流側となる低圧側領域とに仕切ることによって、その高圧側領域から低圧側領域に漏れる流体Gの漏れ量を低減させるものとなっている。
【0022】
ここで、図2及び図3に示すように、薄板シール片22は、可撓性を有する可撓性材料で、且つ、回転軸13の軸方向に幅寸法を有する平板状に形成されている。詳細には、薄板シール片22は、基端側(外周側基端部22a)の板幅が先端側(内周側先端部22b)の板幅よりも幅広となるT字形をなすと共に、可撓性を発揮できる程度に薄肉化されており、回転軸13の周方向に一定量の微小隙間を有して、環状に配置されている。
【0023】
そして、薄板シール片22の基端側は、薄板シール片22の環状配置を保持するための左右一対のリテーナ23,24によって、板幅方向両側から囲むように挟持されている。更に、リテーナ23,24は、シールハウジング21の環状溝21a内に嵌め込まれている。
【0024】
また、薄板シール片22の高圧側及び低圧側には、流体Gのガイド板となる高圧側プレート25及び低圧側プレート26が設けられている。
【0025】
具体的に、薄板シール片22における高圧側領域と対向する左側部(図2,3の紙面左側に位置する側部)には、環状の高圧側プレート25が配置されている。この高圧側プレート25は、薄板シール片22における高圧側領域と対向する高圧側側縁部22cに隣接して設けられており、その高圧側側縁部22cとリテーナ23との間に挟持されている。
【0026】
このとき、高圧側プレート25の内周側先端部25aは、環状溝21aの開口縁部まで延びているものの、薄板シール片22の内周側先端部22bには達していない。更に、環状溝21aにおける高圧側領域と対向する高圧側側面21bと、高圧側プレート25との間には、回転軸13の軸方向(流体流れ方向、シール片板幅方向)において、一定量の高圧側隙間δHが形成されている。
【0027】
このように、高圧側プレート25を設けることにより、薄板シール片22の内周側先端部22bが、その高圧側プレート25の内周側先端部25aよりも、回転軸13の径方向内側に配置されるため、高圧側領域から流れ込んできた流体Gは、薄板シール片22の先端側から流入する。
【0028】
一方、薄板シール片22における低圧側領域と対向する右側部(図2,3の紙面右側に位置する側部)には、環状の低圧側プレート26が配置されている。この低圧側プレート26は、薄板シール片22における低圧側領域と対向する低圧側側縁部22dに隣接して設けられており、その低圧側側縁部22dと、リテーナ24及び環状溝21aにおける低圧側領域と対向する低圧側側面21cとの間に挟持されている。
【0029】
このとき、低圧側プレート26の内周側先端部26aは、環状溝21aの開口縁部及び薄板シール片22の内周側先端部22bには達しておらず、高圧側プレート25の内周側先端部25aよりも回転軸13の径方向外側に配置されている。即ち、低圧側プレート26の長さは、高圧側プレート25の長さよりも短くなっている。更に、環状溝21aの低圧側側面21cと低圧側側縁部22dとの間には、回転軸13の軸方向において、一定量の低圧側隙間δLが形成されている。
【0030】
このように、低圧側プレート26を設けることにより、低圧側側面21cと低圧側側縁部22dとの間に、低圧側隙間δLを形成することができる。そして、低圧側隙間δLは、低圧側プレート26の板厚によって形成されるため、その低圧側プレート26の板厚を調整することにより、低圧側隙間δLの隙間量を設定することができる。
【0031】
また、高圧側隙間δH及び低圧側隙間δLの隙間量に応じて、薄板シール片22の上面及び下面に形成される流体Gによる圧力分布を設定することができる。更に、高圧側隙間δHの隙間量と低圧側隙間δLの隙間量との大小関係に応じて、薄板シール片22の上下面間における圧力分布の相対的な位置ずれによる圧力差の大きさ(浮上力)を、設定することができる。
【0032】
なお、本発明に係る軸シール機構11においては、低圧側プレート26の内周側先端部26aと回転軸13の外周面との間における径方向隙間量を、高圧側プレート25の内周側先端部25aと回転軸13の外周面との間における径方向隙間量よりも、大きくすることにより、安定した浮上力を得るようにしている。
【0033】
以上より、回転軸13の回転が停止しているときには、薄板シール片22の内周側先端部22bが、回転軸13の外周面に所定の予圧で接触する。一方、回転軸13が回転しているときには、薄板シート片22の上下面間における圧力分布の相対的な位置ずれによる圧力差と、回転軸13の回転によって生じる流体Gの動圧効果とよって、薄板シール片22に対して浮上力が作用する。これにより、薄板シール片22が撓んで、それらの内周側先端部22bが、回転軸13の外周面から浮上して非接触となり、回転軸13や薄板シール片22の摩耗及び発熱が防止される。これと同時に、回転軸13に対して非接触状態となった薄板シール片22によって、高圧側領域から低圧側領域に向けて流れる流体Gの漏れ量が低減される。
【0034】
ここで、図4に示すように、薄板シール片22の高圧側側縁部22c及び低圧側側縁部22dには、段差部(高圧側段差部)31及び段差部(低圧側段差部)32が形成されている。これらの段差部31,32は、側縁部22c,22dの径方向中間部(長手方向中間部)に配置されており、薄板シール片22における段差部31よりも径方向内側の部分の板幅を一定とし、且つ、薄板シール片22を先細り状に形成するような、段差形成をなしている。そして、段差部31,32の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0035】
これに対して、高圧側プレート25の内周側先端部25aには、係止部(高圧側係止部)25bが形成されている。そして、係止部25bは、薄板シール片22の板幅方向において、高圧側プレート25から高圧側側縁部22cに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0036】
また、低圧側プレート26の内周側先端部26aには、係止部(低圧側係止部)26bが形成されている。そして、係止部26bは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側プレート26から低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0037】
即ち、段差部31の傾斜端面と係止部25bの傾斜面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっており、段差部32の傾斜端面と係止部26bの傾斜面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部25b,26bの傾斜面と段差部31,32の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0038】
以上より、例えば、タービン運転時における高圧側領域から低圧側領域に向かう流体Gの圧力によって、薄板シール片22が低圧側領域に向けて押されたり、軸シール機構11の組立後において、機構組立誤差が発生したりして、低圧側隙間δLの隙間量が、安定した浮上力を得ることができる隙間量よりも小さくなると(例えば、δH>δL)、薄板シール片22に形成される圧力分布や、薄板シール片22に作用する圧力差が乱れてしまう。これにより、薄板シール片22には、浮上力の作用方向とは逆向きとなる押付力が作用することになり、その内周側先端部22bが、回転軸13の回転停止時における予圧力よりも大きな圧力で、回転軸13に向けて押し付けられるような変形が生じる。
【0039】
しかしながら、本発明に係る軸シール機構11においては、高圧側プレート25及び低圧側プレート26に係止部25b,26bを設け、この係止部25b,26によって、薄板シール片22の段差部31,32を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部31,32が係止部25b,26bに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0040】
また、係止部25b,26bに傾斜面と、段差部31,32に傾斜端面とを、回転軸13の径方向において、係合可能としたことにより、仮に、薄板シール片22が高圧側または低圧側に傾いて組み付けられた場合であっても、段差部31,32を係止部25b,26bによって必ず係止することができる。
【0041】
更に、本発明に係る軸シール機構11においては、既存のシール機構の構成部品のうち、薄板シール片22、高圧側プレート25、及び、低圧側プレート26のみに、形状変更を施すようにしている。これにより、シールハウジング21等の大きな部材に対して、形状変更を必要としないため、大幅は設計変更をすることなく、押付力による薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0042】
なお、上述した実施形態においては、薄板シール片22を高圧側プレート25及び低圧側プレート26によって係止する構成としているが、図5及び図6に示すように、薄板シール片22をシールハウジング21によって係止する構成としても構わない。
【0043】
そこで、図5に示すように、薄板シール片22の低圧側側縁部22dには、段差部(低圧側段差部)33が形成されている。この段差部33は、低圧側プレート26の内周側先端部26aよりも回転軸13の径方向内側に配置されており、低圧側側縁部22dを切り欠くような切欠形状をなしている。そして、段差部33の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0044】
これに対して、シールハウジング21の低圧側側面21cには、係止部(低圧側係止部)21dが形成されている。そして、係止部21dは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側側面21cから低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0045】
即ち、係止部21dは、低圧側プレート26の内周側先端部26aよりも回転軸13の径方向内側に配置されており、その係止部21dの傾斜面と段差部33の傾斜端面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部21dの傾斜面と段差部33の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0046】
従って、シールハウジング21に係止部21dを設け、この係止部21dによって、薄板シール片22の段差部33を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部33が係止部21dに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0047】
更に、大きな部材となるシールハウジング21に係止部21dを設けることにより、係止部21dの剛性を向上させることができるので、係止部21dと段差部33との間の係合状態を長期に亘って維持することができる。
【0048】
また、図6に示すように、薄板シール片22の低圧側側縁部22dには、段差部(低圧側段差部)34が形成されている。この段差部34は、低圧側側縁部22dの径方向中間部(長手方向中間部)に配置されており、薄板シール片22の板幅方向中心側に向けて凹むことにより、薄板シール片22を先細り状に形成するような、段差形成をなしている。そして、段差部34の段差は、傾斜端面によって形成されている。この傾斜端面は、回転軸13の径方向内側を向いており、シール片板幅方向外側傾斜端部が、シール片板幅方向内側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向内側に位置するように傾斜している。
【0049】
これに対して、シールハウジング21の低圧側側面21cには、係止部(低圧側係止部)21eが形成されている。そして、係止部21eは、薄板シール片22の板幅方向において、低圧側側面21cから低圧側側縁部22dに向けて突出するように形成されており、その突出先端部には、環状の傾斜面が形成されている。この傾斜面は、回転軸13の径方向外側を向いており、シール片板幅方向内側傾斜端部が、シール片板幅方向外側傾斜端部よりも、回転軸13の径方向外側に位置するように傾斜している。
【0050】
即ち、係止部21eの傾斜面と段差部34の傾斜端面とは、回転軸13の径方向において、係合可能となっている。これにより、係合状態となる係止部21eの傾斜面と段差部34の傾斜端面との間においては、回転軸13の径方向における抜け防止が図られている。
【0051】
従って、シールハウジング21に係止部21eを設け、この係止部21eによって、薄板シール片22の段差部34を、回転軸13の径方向内側から径方向外側に向けて係止可能とすることにより、予圧力よりも大きな押付力が薄板シール片22に作用しても、段差部34が係止部21eに引っ掛かるため、薄板シール片22における回転軸13に向けての変形を抑制することができる。これにより、薄板シール片22の内周側先端部22bを、回転軸13に接触させることなく、非接触状態に維持させることができるので、薄板シール片22の摩耗を防止することができる。
【0052】
更に、大きな部材となるシールハウジング21に係止部21eを設けることにより、係止部21eの剛性を向上させることができるので、係止部21eと段差部34との間の係合状態を長期に亘って維持することができる。しかも、低圧側プレート26を設ける必要が無いため、軸シール機構11の構成を簡素にすることができるだけでなく、軸シール機構11の製造コストを削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る軸シール機構においては、押付力による薄板シール片の破損を防止して、シール片寿命の延長化を図ることができるため、タービンの連続運転において、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
11 軸シール機構
12 固定部
13 回転軸
14 環状空間
21 シールハウジング
21a 環状溝
21b 高圧側側面
21c 低圧側側面
21d,21e 係止部
22 薄板シール片
22a 外周側基端部
22b 内周側基端部
22c 高圧側側縁部
22d 低圧側側縁部
23,24 リテーナ
25 高圧側プレート
25a 内周側先端部
25b 係止部
26 低圧側プレート
26a 内周側先端部
26b 係止部
31〜34 段差部
G 流体
δH 高圧側隙間
δL 低圧側隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6