(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168846
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】音響振動板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 7/10 20060101AFI20170713BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20170713BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
H04R7/10
H04R7/02 D
H04R31/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-108202(P2013-108202)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2014-230086(P2014-230086A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100141162
【弁理士】
【氏名又は名称】森 啓
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 厚則
【審査官】
岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−000600(JP,U)
【文献】
特表2001−514118(JP,A)
【文献】
特開2010−157926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H04R 1/00− 1/08
1/12− 1/14
1/42− 1/46
7/00− 9/10
9/18
31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低剛性層と、
前記低剛性層の両面に設けられ、前記低剛性層よりも剛性が高い2つの高剛性層と、
前記低剛性層よりも剛性が高く、前記2つの高剛性層の一方から他方まで延在して前記2つの高剛性層を相互に連結する少なくとも1つの補強要素とを具備しており、
前記低剛性層、2つの前記高剛性層および前記補強要素はいずれも炭素質であり、かつ
下記の(a)または(b)を満たす:
(a)前記補強要素は、前記低剛性層を貫通して設けられ、かつ前記2つの高剛性層の少なくとも一方の側から前記低剛性層が局所的に押し潰されて前記2つの高剛性層が相互に連絡した形状を有する、
(b)前記補強要素は、前記低剛性層の縁に設けられ、前記2つの高剛性層の少なくとも一方の縁が曲がって他方に連絡した形状を有する、
音響振動板。
【請求項2】
前記(a)を満たす、請求項1記載の音響振動板。
【請求項3】
複数の補強要素が所定の間隔で設けられる、請求項2記載の音響振動板。
【請求項4】
前記補強要素は、前記低剛性層が筒状に押し潰されて多数のドーム形状が残った形状を有する請求項2または3記載の音響振動板。
【請求項5】
前記(b)を満たす、請求項1記載の音響振動板。
【請求項6】
シート状の高分子多孔体の両面に2枚のシート状の高分子物質を重ね、
前記2枚のシート状高分子物質の少なくとも一方の側から前記高分子多孔体を局所的に押し潰すかまたは前記2つのシート状高分子物質の少なくとも一方の縁を曲げて一方を他方に連絡させて高分子複合体とし、
前記高分子複合体を非酸化雰囲気中で焼成して炭素化することを含む音響振動板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響振動板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1において説明されているように、音響特性、特に高音域の特性が要求される振動板には、弾性率(または剛性)が高いことと密度が低いことという一見相反する性質が求められる。
【0003】
特許文献1には、樹脂を焼成して炭素化する過程で消失して気孔を残すPMMAなどの球状粒子を樹脂に混合して焼成することにより得られる炭素多孔体からなる低密度層の両面に、PMMAを使用しない高密度層を配することで、剛性を維持しつつ低密度化した炭素質音響振動板が記載されている。しかしながら、2つの高密度(高剛性)層の間に剛性の低い多孔質の層が介在することから、振動に位相差を生じ、音響特性の向上には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−157926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、音響特性、特に高音域の特性に優れた音響振動板とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、低剛性層と、前記低剛性層の両面に設けられ、前記低剛性層よりも剛性が高い2つの高剛性層と、前記低剛性層よりも剛性が高く、前記2つの高剛性層の一方から他方まで延在して前記2つの高剛性層を相互に連結する少なくとも1つの補強要素とを具備する音響振動板が提供される。
【0007】
好ましくは、前記補強要素は、前記2つの高剛性層と同素材である。
【0008】
一実施形態では、前記補強要素は、前記低剛性層を貫通して設けられる。この場合に、複数の補強要素が所定の間隔で千鳥状に設けられることが好ましい。
【0009】
前述の実施形態において、前記補強要素は、前記2つの高剛性層の少なくとも一方の側から前記低剛性層が局所的に押し潰されて前記2つの高剛性層が相互に連絡した形状を有する。
【0010】
さらに、前記補強要素は、前記低剛性層が筒状に押し潰されて多数のドーム形状が残った形状を有するものでも良い。
【0011】
他の実施形態において、前記補強要素は、前記低剛性層の縁に設けられる。
【0012】
この場合に、前記補強要素は、前記2つの高剛性層の少なくとも一方の縁が曲がって他方に連絡した形状を有するものでも良い。
【0013】
前述の低剛性層、2つの高剛性層および補強要素はいずれも炭素質であることが好ましい。
【0014】
前述の音響振動板は、シート状の高分子多孔体の両面に2枚のシート状の高分子物質を重ね、前記2枚のシート状高分子物質の少なくとも一方の側から前記高分子多孔体を局所的に押し潰すかまたは前記2つのシート状高分子物質の少なくとも一方の縁を曲げて一方を他方に連絡させて高分子複合体とし、前記高分子複合体を非酸化雰囲気中で焼成して炭素化することを含む方法により製造される。
【発明の効果】
【0015】
剛性の高い補強要素により2つの高剛性層を相互に連結した構造とすることにより、2つの高剛性層の振動に位相差が生じずに一体的に振動することで音響特性が改善される。また厚み方向の圧縮に対する音響振動板全体の剛性が向上する。
【0016】
低剛性層が筒状に押し潰されて多数のドーム形状が残った形状を有することで、共振ピークが抑えられて音響特性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る音響振動板の製造工程を説明するための図である。
【
図3】円筒状に形成される補強要素を説明するための図である。
【
図4】六角筒状に形成される補強要素を説明するための図である。
【
図5】蜂の巣状に形成される補強要素を説明するための図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る音響振動板の構造を説明するための図である。
【
図7】実施例において得られた音響振動板の周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【
図8】比較例において得られた音響振動板の周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る音響振動板の製造工程を説明する図である。
図1の(a)欄に示すように、例えばPVAスポンジのようなシート状の高分子多孔体10の両面に、セロファンフィルムのようなシート状の高分子物質を貼り付けることによって高分子物質の層12
1,12
2を形成し、その一方の面から針14で高分子多孔体10の層を局所的に押し潰す((b)欄)。これにより、層12
2の一部が局所的に層12
1に連絡した高分子複合体が得られる((c)欄)。この高分子複合体を非酸化雰囲気中で焼成して炭素化することによって、(d)欄に示すように、シート状高分子多孔体を起源とする低密度の炭素多孔体からなる低剛性層16の両面にシート状高分子物質を起源とする高密度の炭素からなる高剛性層18
1,18
2を有し、高剛性層18
2から高剛性層18
1まで延在して高剛性層18
1と高剛性層18
2を相互に連結する、高密度の炭素からなる補強要素20を有する音響振動板22が得られる。
【0019】
複数の補強要素を形成する場合には、1本の針14に代えて、例えば生け花で用いる剣山のように、所定の間隔および配置で複数の針を有する器具を用いれば、
図2に示すように、補強要素の起源となる多数の高分子層を一度に形成することができる。また、針が筒状になったものを用いれば、押し潰されずに残る中心部分がドーム状に盛り上がった多数のドーム形状の補強要素が音響振動板の表面に形成されて、共振ピークが抑えられ音響特性が向上する。筒の断面の形は、
図3に示すような円形でも、
図4に示すような六角形などの多角形でも良い。また
図5に示すように、蜂の巣状に形成しても良い。
【0020】
前述した実施形態のように低剛性層を貫通して補強要素を形成する代わりに、一方のシート状高分子物質の縁を曲げて他方のシート状高分子物質に連絡させたものを焼成・炭素化することにより、
図6に示すように、低剛性層16の縁に高剛性層18
1,18
2を相互に連結する補強要素20が形成された、疑似ドーム形状としても良い。
【実施例】
【0021】
0.5mm厚のPVAスポンジシート(アイオン株式会社製、ベルイーターD(D))の両面に、セロファンフィルム(フタムラ化学株式会社製、G−3(#300))を液状糊(ヤマト株式会社製、アラビックヤマト)で貼り合わせ、その一方の面から、多数の針がピッチ2〜3mmで千鳥状に配置された器具を押し付けることによって、一方のセロファンフィルムの層が他方のセロファンフィルムの層に達するまでPVAスポンジシートの層を押し潰し、これを250℃で3時間熱処理して炭素前駆体とした。この炭素前駆体を窒素雰囲気中、800℃で1時間加熱して炭素化し、さらに、窒素雰囲気中、1400℃で3時間加熱して炭素質音響振動板を得た。
<比較例>
多数の針が配置された器具を押し付けてPVAスポンジシートの層を押し潰す工程がないことを除いて実施例と同じ工程により、高剛性層を相互に連結する補強要素を持たない炭素質音響振動板を得た。
【0022】
実施例で得られた炭素質音響振動板の周波数特性の測定結果を
図7に、比較例で得られた炭素質音響振動板の周波数特性の測定結果を
図8に示す。両者を比較すると、高剛性層を相互に連結する補強要素を持たない音響振動板(
図8)では5kHz付近にピークやディップがあるが、補強要素を有する音響振動板(
図7)ではそれに比べてフラットであり、特性が改善している。特性改善の原因としては、表裏の高剛性層が結合した点ができることにより、板の振動が適度に分散したためと推測される。
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉〜〈10〉に記載する。
〈1〉 低剛性層と、
前記低剛性層の両面に設けられ、前記低剛性層よりも剛性が高い2つの高剛性層と、
前記低剛性層よりも剛性が高く、前記2つの高剛性層の一方から他方まで延在して前記2つの高剛性層を相互に連結する少なくとも1つの補強要素とを具備する音響振動板。
〈2〉 前記補強要素は、前記2つの高剛性層と同素材である項目1記載の音響振動板。
〈3〉 前記補強要素は、前記低剛性層を貫通して設けられる項目1または2記載の音響振動板。
〈4〉 複数の補強要素が所定の間隔で設けられる項目3記載の音響振動板。
〈5〉 前記補強要素は、前記2つの高剛性層の少なくとも一方の側から前記低剛性層が局所的に押し潰されて前記2つの高剛性層が相互に連絡した形状を有する項目3または4記載の音響振動板。
〈6〉 前記補強要素は、前記低剛性層が筒状に押し潰されて多数のドーム形状が残った形状を有する項目5記載の音響振動板。
〈7〉 前記補強要素は、前記低剛性層の縁に設けられる項目1または2記載の音響振動板。
〈8〉 前記補強要素は、前記2つの高剛性層の少なくとも一方の縁が曲がって他方に連絡した形状を有する項目7記載の音響振動板。
〈9〉 前記低剛性層、2つの高剛性層および補強要素はいずれも炭素質である項目1〜8のいずれか1項記載の音響振動板。
〈10〉 シート状の高分子多孔体の両面に2枚のシート状の高分子物質を重ね、
前記2枚のシート状高分子物質の少なくとも一方の側から前記高分子多孔体を局所的に押し潰すかまたは前記2つのシート状高分子物質の少なくとも一方の縁を曲げて一方を他方に連絡させて高分子複合体とし、
前記高分子複合体を非酸化雰囲気中で焼成して炭素化することを含む音響振動板の製造方法。