特許第6168885号(P6168885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168885
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフト
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20170713BHJP
【FI】
   A63B53/10 A
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-141638(P2013-141638)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-12996(P2015-12996A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504017809
【氏名又は名称】ダンロップスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−103519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とを含有する繊維強化エポキシ樹脂材料からなるゴルフクラブシャフトであって、
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂と、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、
前記エポキシ樹脂成分中のオキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂の含有率が、1質量%〜30質量%であり、
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率が20質量%〜44質量%であることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物の30℃における複素粘度が4000Pa・s〜40000Pa・sである請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、ノボラック型エポキシ樹脂を含有する請求項1または2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量が、100g/eq〜300g/eqであり、
前記エポキシ樹脂成分中のノボラック型エポキシ樹脂の含有率が、1質量%〜25質量%である請求項3に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、さらに、ポリビニルホルマールを2質量部〜12質量部含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂と前記ポリビニルホルマールとの質量比(ポリビニルホルマール/オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂)が、0.05〜12である請求項5に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、25℃で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有し、
前記液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂の粘度(25℃)が、6Pa・s〜30Pa・sである請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物のエポキシ当量が、200g/eq〜400g/eqである請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤として、ジシアンジアミドを含有し、硬化促進剤として、尿素誘導体を含有するものである請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項10】
前記強化繊維が、炭素繊維である請求項1〜9のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項11】
前記強化繊維の引張弾性率は、10t/mm2〜70t/mm2である請求項1〜10のいずれか一項に記載のゴルフクラブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関し、より詳細には、ゴルフクラブシャフトの強度の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフクラブシャフトには、繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体が使用されている。繊維強化エポキシ樹脂に使用される樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、(A)平均エポキシ当量が250〜350であるエポキシ樹脂、(B)硬化剤を含んでなり、加熱硬化せしめて得られる硬化物のガラス転移温度Tg(℃)と、該硬化物のゴム状態の弾性率G'r(MPa)が次式(1)と(2)をそれぞれ満足するエポキシ樹脂組成物が記載されている。
80℃≦Tg≦200℃ (1)
1≦G'r≦8 (2)
【0003】
特許文献2には、(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂 15〜50質量%、(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂 20〜60質量%、(C)多官能エポキシ樹脂 15〜30質量%のエポキシ樹脂を含んでなり、(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤を、その活性水素当量数が全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して1.15倍〜1.50倍となるように添加されたエポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−327041号公報
【特許文献2】特開2011−231187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴルフクラブの高性能化、高品位化に伴って、前記した繊維強化複合材料からなる管状体では、強度が十分ではなくなってきている。特に近年では、シャフトの重心位置、しなりの大きさなどを制御するために、シャフトに薄肉部分を設けるため、ゴルフクラブシャフトにはより高い強度が求められている。
【0006】
従来、繊維強化複合材料に使用される樹脂成分は、耐熱性の観点から高架橋密度を有するものが多く、樹脂成分の靱性が不十分であった。そのため、繊維強化複合材料において、強化繊維と樹脂成分との界面強度が不十分であった。しかし、単に樹脂成分の架橋密度を低くして靱性を高めた場合、強化繊維と樹脂成分との界面強度が向上するものの、樹脂成分の弾性率が低下し、繊維強化複合材料の圧縮強度が低下してしまう。
【0007】
ゴルフクラブシャフトには、打撃時に曲げやねじりのように様々な力が作用する。そのため、強化繊維と樹脂成分との界面強度を向上させても、繊維強化複合材料の圧縮強度が低いと、ゴルフクラブシャフトの強度は向上しない。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強度に優れたゴルフクラブシャフトを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゴルフクラブシャフトは、エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とを含有する繊維強化エポキシ樹脂材料からなるゴルフクラブシャフトであって、前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂と、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率が20質量%〜44質量%であることを特徴とする。
【0009】
エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物に、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂を配合することにより、樹脂成分を高靱性化すると同時に、高強度化、高弾性率化を図ることができる。また、前記メチルエチルケトンでの膨潤率は、エポキシ樹脂組成物の架橋密度を指標するものである。メチルエチルケトンでの膨潤率が前記範囲に入るエポキシ樹脂組成物の硬化物は、適度な伸度を有し、強化繊維に対する接着性に優れる。これらの結果、強化繊維とマトリックス樹脂の界面強度が向上し、強化繊維による複合化の効果が大きくなり、かつ、樹脂成分の強度および弾性率が高くなり、得られるゴルフクラブシャフトの機械的強度が一段と向上する。
【0010】
前記エポキシ樹脂組成物の30℃における複素粘度は4000Pa・s〜40000Pa・sが好ましい。前記エポキシ樹脂成分中のオキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂の含有率は、1質量%〜40質量%が好ましい。前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、さらに、ポリビニルホルマールを2質量部〜12質量部含有することが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物のエポキシ当量は、200g/eq〜400g/eqが好ましい。前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤として、ジシアンジアミドを含有し、硬化促進剤として、尿素誘導体を含有することが好ましい。
【0011】
前記強化繊維は、炭素繊維であることが好ましい。前記強化繊維の引張弾性率は、10tf/mm〜70tf/mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴルフクラブシャフトは、強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】引張試験の態様を説明する説明図である。
図2】繊維方向90度曲げ試験の態様を説明する説明図である。
図3】曲げ試験の態様を説明する説明図である。
図4】繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体を構成する繊維強化プリプレグの積層態様を示す図である。
図5】プリプレグの貼合わせ態様を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のゴルフクラブシャフトは、エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とを含有する繊維強化エポキシ樹脂材料から形成されたゴルフクラブシャフトである。前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂と、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率が20質量%〜44質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物について説明する。前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂と、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とを含有する。オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂は、分子内に剛直であるオキサゾリドン骨格を有する。そのため、エポキシ樹脂成分として、比較的柔軟な骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂に加えて剛直なオキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂を配合することにより、樹脂成分の引張強度、引張弾性率を維持しつつ、樹脂成分の靱性を高めることができる。これにより、強化繊維と樹脂成分との界面強度を高めることができ、得られるゴルフクラブシャフトの強度を高めることができる。
【0016】
前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂は、分子内にオキサゾリドン骨格を有するものであれば特に限定されない。前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂としては、エポキシ化合物とイソシアネート化合物とを反応させて得られるイソシアネート変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
前記イソシアネート変性エポキシ樹脂を構成するエポキシ化合物としては、エポキシ基を2つ以上有する化合物であればよく、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールADジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールSジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、4,4’−ビフェニルジイルビス(グリシジルエーテル)、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビス(グリシジルオキシ)−1,1’−ビフェニルなどの2官能のエポキシ化合物;トリス[4−(グリシジルオキシ)フェニル]メタン、1,1,1−トリス[4−(グリシジルオキシ)フェニル]エタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどの3官能以上のエポキシ化合物;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラックなどのノボラックをグリシジル化した化合物が挙げられる。前記エポキシ化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記イソシアネート変性エポキシ樹脂を構成するイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を2つ以上有する化合物であればよく、例えば、メタンジイソシアネート、エタン−1,2−ジイソシアネート、プロパン−1,3−ジイソシアネート、ブタン−1,1−ジイソシアネート、ブタン−1,2−ジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ペンタン−1,5−ジイソシアネート、2−メチルブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサン−1,6−ジイソシアネート、ヘプタン−1,7−ジイソシアネート、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、オクタン−1,8−ジイソシアネート、ノナン−1,9−ジイソシアネート、デカン−1,10−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ω,ω’−1,3−ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、ω,ω’−1,4−ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3−イソシアナートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、トランスビニレンジイソシアネート、2−ブテン−1,4−ジイソシアネート、2−メチルブテン−1,4−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,5−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,6−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−3,5−ジイソシアネート、ω,ω’−1,3−ジメチルベンゼンジイソシアネート、ω,ω’−1,4−ジメチルベンゼンジイソシアネート、ω,ω’−1,4−ジメチルナフタレンジイソシアネート、ω,ω’−1,5−ジメチルナフタレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメトキシビスフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジメトキシジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルサルファイト−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジイソシアネート、ジメチルシランジイソシアネート、ジフェニルシランジイソシアネートなどの2官能イソシアネート化合物;ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4−フェニルイソシアネートチオフォスフェート)−3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトライソシアネートなどの3官能以上のイソシアネート化合物;が挙げられる。前記イソシアネート化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記イソシアネート変性エポキシ樹脂は、オキサゾリドン環形成触媒の下で、前記エポキシ化合物とイソシアネート化合物とを反応させることで得られる。前記オキサゾリドン環形成触媒としては、特に限定されず、例えば、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムヨーダイド、テトラブチルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウム塩;ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、N−メチルモルホリンなどの3級アミン;塩化リチウム、ブトキシリチウムなどのリチウム化合物、3フッ化ホウ素などの錯塩;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;アリルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ジアリルジフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムクロライド、エチルトリフェニルホスホニウムヨーダイド、テトラブチルホスホニウムアセテート・酢酸錯体、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムヨーダイドなどのホスホニウム化合物;トリフェニルアンチモン及びヨウ素の組み合わせ;2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;などが挙げられる。これらの触媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記イソシアネート変性エポキシ樹脂は、分子中に、ビフェニル、ジフェニルメタン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、ビスフェノールAC、ビスフェノールS、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラックよりなる群から選択される少なくとも1種の構造を含むことが好ましい。
【0021】
前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂の数平均分子量は、800以上が好ましく、より好ましくは900以上、さらに好ましくは1000以上であり、5000以下が好ましく、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定すればよい。
【0022】
前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、250以上が好ましく、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上であり、1000以下が好ましく、より好ましくは900以下、さらに好ましくは800以下である。
【0023】
前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂としては、例えば、AER4151、AER4152(旭化成イーマテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂組成物が含有するエポキシ樹脂成分全体に占めるオキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂の含有率は、1質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂の含有率が1質量%以上であれば、繊維強化エポキシ樹脂材料のマトリックス樹脂が良好な弾性率および伸度を有するものとなり、40質量%以下であれば、繊維強化エポキシ樹脂材料のマトリックス樹脂が適切なタック、粘度を有するものとなる。
【0025】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、常温(25℃)で液体状のものでも固体状のものでも使用できる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を有する。
【0026】
前記常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂の粘度(25℃)は、60P(6Pa・s)以上が好ましく、より好ましくは75P(7.5Pa・s)以上、さらに好ましくは90P(9Pa・s)以上であり、300P(30Pa・s)以下が好ましく、より好ましくは250P(25Pa・s)以下、さらに好ましくは200P(20Pa・s)以下である。エポキシ樹脂の粘度は、粘弾性測定器(アントンパール社製、「MCR301」、印加トルク6mN・m)により、測定できる。前記常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、170以上が好ましく、より好ましくは175以上、さらに好ましくは180以上であり、300以下が好ましく、より好ましくは290以下、さらに好ましくは280以下である。
【0027】
前記常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、300以上が好ましく、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上であり、20000以下が好ましく、より好ましくは18000以下、さらに好ましくは16000以下である。
【0028】
常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER(登録商標)827、jER828、jER828EL、jER828XA、jER834(以上、三菱化学社製)、エポトート(登録商標)YD−115、エポトートYD−115G、エポトートYD−115CA、エポトートYD−118T、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−128G、エポトートYD−128S(以上、東都化成社製)、EPICLON(登録商標)840、EPICLON840−S、EPICLON850、EPICLON850−S(以上、DIC社製)が挙げられる。
【0029】
常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER1001、jER1002、jER1003、jER1003F、jER1004、jER1004FS、jER1004F、jER1004AF、jER1055、jER1005F、jER1006FS、jER1007、jER1007FS、jER1008、jER1009(以上、三菱化学社製)、エポトートYD−011、エポトートYD−012、エポトートYD−013、エポトートYD−014、エポトートYD−017、エポトートYD−019、エポトートYD−020N、エポトートYD−020H(以上、東都化成社製)、EPICLON1050、EPICLON3050、EPICLON4050、EPICLON7050(以上、DIC社製)が挙げられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、常温(25℃)で液体状のものでも固体状のものでも使用できる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を有する。
【0031】
前記常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の粘度(25℃)は、9P(0.9Pa・s)以上が好ましく、より好ましくは12P(1.2Pa・s)以上、さらに好ましくは15P(1.5Pa・s)以上であり、300P(30Pa・s)以下が好ましく、より好ましくは250P(25Pa・s)以下、さらに好ましくは200P(20Pa・s)以下である。前記常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、150以上が好ましく、より好ましくは155以上、さらに好ましくは160以上であり、300以下が好ましく、より好ましくは290以下、さらに好ましくは280以下である。
【0032】
前記常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、300以上が好ましく、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上であり、20000以下が好ましく、より好ましくは18000以下、さらに好ましくは16000以下である。
【0033】
常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、jER806、jER807(以上、三菱化学社製)、EPICLON830、EPICLON830−S、EPICLON835(以上、DIC社製)が挙げられる。常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER4005P、jER4007P、jER4010P(以上、三菱化学社製)が挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂として、常温(25℃)で固体状であるものを使用する場合、そのビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量は650以上が好ましく、より好ましくは700以上、さらに好ましくは750以上であり、10000以下が好ましく、より好ましくは9500以下、さらに好ましくは9000以下である。前記重量平均分子量が前記範囲内であれば、有効に架橋構造を形成することができる。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定すればよい。
【0035】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂は、常温(25℃)で液体状のものと、常温で固体状のものとを併用することが好ましい。このような態様としては、例えば、常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂と常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;が挙げられる。これらの中でも、常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いる態様が好ましい。
【0036】
前記エポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の両方を含有することも好ましい。この場合、前記エポキシ樹脂組成物中の前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ビスフェノールF型エポキシ樹脂)は、0.3以上が好ましく、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上であり、3.0以下が好ましく、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。前記質量比が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の強度、靱性を維持しつつプリプレグのタック性を向上できる。
【0037】
前記エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂成分としてノボラック型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。前記ノボラック型エポキシ樹脂は、分子内に2個超(好ましくは3個以上)のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂である。ノボラック型エポキシ樹脂を含有することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物の架橋密度を制御することができる。架橋密度を制御して、エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸度を適度な範囲とすることにより、強化繊維とエポキシ樹脂との界面強度が向上すると考えられる。前記ノボラック型エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0038】
前記ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、50以上が好ましく、75以上がより好ましく、100以上がさらに好ましく、500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下がさらに好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量が前記範囲内であれば、有効に架橋構造を形成することができる。
【0039】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、jER(登録商標)152、jER154(以上、三菱化学社製)、EPICLON(登録商標)N−740、EPICLON N−770、EPICLON N−775(以上、DIC(株)製)、PY307、EPN1179、EPN1180(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、YDPN638、YDPN638P(以上、東都化成(株)製)、DEN431、DEN438、DEN439(以上、ダウケミカル社製)、EPR600(Bakelite社製)、EPPN−201(日本化薬(株)製)などが挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
エポキシ樹脂組成物が含有するエポキシ樹脂成分全体に占めるノボラック型エポキシ樹脂の含有率は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましく、19質量%以下がさらに好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂の含有率が1質量%以上であれば、架橋密度が高められ樹脂組成物の硬化物の強度が一層向上し、25質量%以下であれば、樹脂組成物の硬化物の伸びが維持され、強化繊維との界面強度が高くなり、繊維強化エポキシ樹脂材料の強度が一層向上する。
【0041】
前記エポキシ樹脂組成物の態様としては、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂とを含む態様;オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む態様;オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とを含む態様;オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とを含む態様;オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とを含む態様;オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とを含む態様;が挙げられる。
【0042】
前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分として、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂のみを含有してもよいし、これらの他に分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、すなわち2官能のエポキシ樹脂を含有することも好ましい。前記2官能のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量(g/eq)は、200以上が好ましく、250以上がより好ましく、400以下が好ましく、350以下がより好ましい。エポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量が、200未満の場合、エポキシ樹脂成分が常温で液状になってしまい、プリプレグの作製や成型が困難になる場合がある。また、エポキシ当量が400より大きくなると、エポキシ樹脂成分が常温で固体になり成型が困難になる場合がある。
【0044】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。前記硬化剤としては、ジシアンジアミド;4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミンのような活性水素を有する芳香族アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルのような活性水素を有する脂肪族アミン;これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン;ジメチルアニリン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールのような活性水素を持たない第三アミン;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;ポリアミド樹脂;ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物のようなカルボン酸無水物;アジピン酸ヒドラジドやナフタレンジカルボン酸ヒドラジドのようなポリカルボン酸ヒドラジド;ノボラック樹脂などのポリフェノ硬化促進剤ール化合物;チオグリコール酸とポリオールのエステルのようなポリメルカプタン;および、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などを用いることができる。硬化剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硬化剤としてジシアンジアミドを使用することが好ましい。
【0045】
前記ジシアンジアミドの添加量は、エポキシ樹脂成分のエポキシ基1モルに対して、13g以上が好ましく、15g以上がより好ましく、17g以上がさらに好ましく、40g以下が好ましく、38g以下が好ましく、35g以下がさらに好ましい。ジシアンジアミドの添加量が13g以上であれば、硬化反応がより進行し、強度が一層向上し、40g以下であれば、樹脂組成物の硬化物の伸びが維持され、強化繊維との界面強度が高くなり、繊維強化エポキシ樹脂材料の強度が一層向上する。
【0046】
前記硬化剤には、硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組合せることができる。硬化促進剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。前記炭化水素基は、例えば、さらに、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基などで置換されていてもよい。前記尿素誘導体としては、例えば、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(パラクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(オルソメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(パラメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(メトキシフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(ニトロフェニル)−1,1−ジメチル尿素等のモノ尿素化合物の誘導体;および、N,N−フェニレン−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)、N,N−(4−メチル−1,3−フェニレン)−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)などのビス尿素化合物の誘導体を挙げることができる。硬化促進剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
好ましい組合せの例としては、ジシアンジアミドに、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化促進剤として組合せる例が挙げられる。これらの中でも、ジシアンジアミドに、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)を硬化促進剤として組み合わせることがより好ましい。
【0048】
本発明では特に、硬化剤としてジシアンジアミド(DICY)を、硬化助剤として尿素誘導体を使用することが好ましい。この場合、ジシアンジアミド(DICY)と尿素誘導体の含比率は、質量比(DICY/尿素誘導体)で、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上がより好ましく、3.0以下が好ましく、2.8以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。また、前記質量比(DICY/尿素誘導体)は、2が最も好ましい。DICY/尿素誘導体の質量比が前記範囲内であれば、硬化速度が速く、硬化物が、良好な物性を有する。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに、オリゴマー、高分子化合物、有機または無機の粒子などの他成分を含んでもよい。
【0050】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合できるオリゴマーとしては、ポリエステル骨格およびポリウレタン骨格を有するポリエステルポリウレタン、ポリエステル骨格およびポリウレタン骨格を有し、さらに分子鎖末端に(メタ)アクリレート基を有するウレタン(メタ)アクリレート、インデン系オリゴマーなどが挙げられる。
【0051】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合できる高分子化合物としては、熱可塑性樹脂が好適に用いられる。熱可塑性樹脂を配合することにより、樹脂の粘度制御やプリプレグシートの取扱い性制御、あるいは接着性改善の効果が増進するので好ましい。
【0052】
前記熱可塑性樹脂の例としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンなどが挙げられる。ポリアミド、ポリイミド及びポリスルホンは主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子上に置換基を有してもよい。本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、ポリビニルホルマールを含有することが好ましい。ポリビニルホルマールを含有すれば、硬化物の靱性、伸度がより向上する。
【0053】
前記熱可塑性樹脂の含有量としては、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましく、12質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が2質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の伸びがよくなり、タックを付与できる。一方、熱可塑性樹脂の含有量が12質量部超になると、エポキシ樹脂組成物が常温で固化してしまうおそれがある。そのため、強化繊維への含浸性が低下し、プリプレグ作製時にボイドを引き起こす場合がある。
【0054】
前記熱可塑性樹脂としてポリビニルホルマールを配合する場合、前記オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とポリビニルホルマールとの質量比(ポリビニルホルマール/オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂)は、0.05以上、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.1以上であり、12以下、好ましくは6以下、さらに好ましくは3以下である。前記質量比が0.05以上であればエポキシ樹脂組成物の硬化物の伸びが向上し、12以下であればホルマール樹脂とオキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂が均一に分散し、エポキシ樹脂組成物の硬化物の物性がより良好となる。
【0055】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合し得る有機粒子としては、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子が用いられる。これらの粒子は樹脂の靭性向上、繊維強化複合材料の耐衝撃性向上の効果を有する。さらに、ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が好ましく用いられる。
【0056】
市販の架橋ゴム粒子としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるXER−91(日本合成ゴム工業社製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒社製)、YR−500シリーズ(東都化成社製)等を使用することができる。市販のコアシェルゴム粒子としては、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体からなるパラロイドEXL−2655(呉羽化学工業社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなるスタフィロイドAC−3355、TR−2122(武田薬品工業社製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合体からなるPARALOIDEXL−2611、EXL−3387(登録商標、商品名、Rohm
& Haas社製)等を使用することができる。
【0057】
また、熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミドあるいはポリイミドの粒子が好ましく用いられる。市販のポリアミド粒子としては、東レ社製、商品名:SP−500、ATOCHEM社製、オルガソール(登録商標)等を使用することができる。
【0058】
前記エポキシ樹脂組成物に配合し得る無機粒子としては、シリカ、アルミナ、スメクタイト、合成マイカ等を配合することができる。これらの無機粒子は、主としてレオロジー制御、即ち増粘や揺変性付与のために、エポキシ樹脂組成物に配合される。
【0059】
前記エポキシ樹脂組成物は、30℃における複素粘度が4000Pa・s以上が好ましく、より好ましくは4500Pa・s以上、さらに好ましくは5000Pa・s以上であり、40000Pa・s以下が好ましく、より好ましくは30000Pa・s以下、さらに好ましくは20000Pa・s以下である。複素粘度が4000Pa・s未満の場合、エポキシ樹脂組成物の凝集性が低下し、プリプレグのタック性が得られず、作業性が悪くなる傾向がある。40000Pa・s超の場合、プリプレグの柔軟性が低下し、作業性が悪くなる傾向がある。
【0060】
本発明において、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率は、20質量%以上、好ましくは25質量%以上であり、44質量%以下、好ましくは38質量%以下である。前記メチルエチルケトンでの膨潤率は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の架橋度を指標するものである。前記膨潤率が20質量%未満では、架橋密度が高すぎて、エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸びが低下し、44質量%を超えると架橋密度が小さすぎ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の強度が低下する。
【0061】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の引張強さ(最大引張応力)は、85MPa以上が好ましく、より好ましくは90MPa以上、さらに好ましくは95MPa以上であり、500MPa以下が好ましく、より好ましくは450MPa以下、さらに好ましいは400MPa以下である。
【0062】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の破断伸度(引張破壊ひずみ)は、13%以上が好ましく、より好ましくは14%以上、さらに好ましくは15%以上であり、300%以下が好ましく、より好ましくは200%以下、さらに好ましくは100%以下である。
【0063】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の引張弾性率(初期弾性率)は、2900MPa以上が好ましく、より好ましくは3100MPa以上、さらに好ましくは3300MPa以上であり、10000MPa以下が好ましく、より好ましくは8000MPa以下、さらに好ましいは6000MPa以下である。引張強度、伸度および引張弾性率の測定方法は、後述する。
【0064】
前記繊維強化エポキシ樹脂材料の樹脂成分は、前記エポキシ樹脂組成物のみによって構成されることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、市販のエポキシ樹脂組成物を併用してもよい。市販のエポキシ樹脂組成物を併用する場合、繊維強化エポキシ樹脂材料の樹脂成分中の市販のエポキシ樹脂組成物の含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明において、繊維強化エポキシ樹脂材料に使用する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などを挙げることができる。また、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。これらのなかでも炭素繊維を使用することが好ましい。
【0066】
前記炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられるが、中でも、引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維の形態としては、前駆体繊維に撚りをかけて焼成して得られる炭素繊維、いわゆる有撚糸、その有撚糸の撚りを解いた炭素繊維、いわゆる解撚糸、前駆体繊維に実質的に撚りをかけずに熱処理を行う無撚糸などが使用できる。無撚糸又は解撚糸が、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスを考慮すると好ましく、さらに、プリプレグシート同士の接着性などの取扱性の面からは無撚糸が好ましい。また、本発明における炭素繊維は、黒鉛繊維も含むことができる。
【0067】
前記強化繊維の引張弾性率は、10tf/mm(98GPa)以上が好ましく、24tf/mm(235GPa)以上がより好ましく、70tf/mm(686GPa)以下が好ましく、50tf/mm(490GPa)以下がより好ましい。前記引張弾性率は、JIS R 7601(1986)「炭素繊維試験方法」に準拠して測定する。強化繊維の引張弾性率が、前記範囲内であれば、曲げ強度の高い管状体が得られる。
【0068】
本発明の繊維強化エポキシ樹脂材料中の強化繊維の含有率は、35質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、85質量%以下が好ましく、より好ましくは84質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。強化繊維の含有率が、前記範囲内であれば、樹脂の高強度が十分に生かせる良好な繊維強化エポキシ樹脂材料となるからである。
【0069】
本発明のゴルフクラブシャフトを製造する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、前記エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維などの強化繊維に含浸させて得られるプリプレグを作製し、ゴルフクラブシャフトを構成する各材料の形状に裁断し、積層後、積層体を加熱しながら圧力を付与する方法を挙げることができる。
【0070】
前記プリプレグは、エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノールなどの溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維に含浸させるウエット法と、加熱によりエポキシ樹脂組成物を低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。ウエット法は、強化繊維をエポキシ樹脂組成物からなる溶液に浸漬した後に引き上げ、オーブンなどを用いて加熱しながら溶媒を蒸発させてプリプレグを得る方法である。ホットメルト法には、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦エポキシ樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側あるいは片側から、かかるフィルムを重ね、加熱することによりエポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグとする方法がある。ホットメルト法は、溶媒がプリプレグ中に実質的に残留しないことから好ましい。
【0071】
プリプレグの積層体を加熱しながら圧力を付与する方法には、ラッピングテープ法、内圧成型法などがある。ラッピングテープ法は、マンドレルなどの芯金にプリプレグを巻いて、成型体を得る方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻き付け、プリプレグの固定及び圧力付与のために、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻き付け、オーブン中で樹脂を加熱し硬化させた後、芯金を抜き去って成型体を得る方法である。成型体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0072】
内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブなどの内圧付与体にプリプレグを巻きつけプリフォームとし、次にこれを金型中に設置し、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力をかけると共に金型を加熱して成型する方法である。
【0073】
前記プリプレグにおける強化繊維の形態としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組み紐などを挙げることができる。ここで、長繊維とは、実質的に10mm以上連続な単繊維または繊維束を意味する。一方向に引き揃えられた長繊維を用いた所謂一方向プリプレグは、繊維の方向が揃っており、繊維の曲がりが少ないため繊維方向の強度利用率が高い。また、一方向プリプレグは、複数のプリプレグを、強化繊維の配列方向が異なるように適切に積層した後成型すると、成形物の各方向の弾性率と強度の設計が容易になる。
【0074】
前記プリプレグの形状としては、シート状が好ましい。プリプレグをシート状とする場合、厚さは0.01mm以上が好ましく、より好ましくは0.03mm以上であり、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.9mm以下である。
【0075】
ゴルフクラブシャフトを構成するプリプレグの積層枚数、強化繊維の含有率、および、1枚のプリプレグの厚みなどは、所望の特性に応じて、適宜変更することが好ましい。特に、シャフトの軸線に対して、強化繊維の配列が傾斜して配されるバイアスプリプレグと、シャフトの軸線に対して、強化繊維の配列が平行に配されるストレートプリプレグと、シャフトの軸線に対して、強化繊維の配列が直角に配されるフーププリプレグとを適宜配置して、ゴルフクラブシャフトに必要な剛性や強度を付与することが好ましい。
【0076】
また、中間基材である前記プリプレグを用いずにゴルフクラブシャフトを得ることもできる。具体的には、強化繊維のロービングにエポキシ樹脂組成物を含浸させ、芯金に巻き取った後、樹脂を加熱し硬化させるフィラメントワインディング成型法によっても成型体が得られる。成型体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0077】
前記ゴルフクラブシャフトの長さは、40インチ(101.6cm)以上が好ましく、より好ましくは41インチ(104.1cm)以上であり、49インチ(124.5cm)以下が好ましく、より好ましくは48インチ(121.9cm)以下である。また、管状体の重さは、30g以上が好ましく、より好ましくは35g以上であり、80g以下が好ましく、より好ましくは75g以下である。管状体の長さ、重さが上記範囲内であれば、この管状体からなるゴルフクラブシャフトを用いたゴルフクラブの操作性が良好となる。
【0078】
前記ゴルフクラブシャフトの肉厚は、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上であり、4mm以下が好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。シャフトの肉厚が上記範囲内であれば、良好なしなりが得られる。また、シャフトの肉厚は、薄肉部の位置を調整することにより、シャフトの重心や、しなりの位置を制御できる。
【0079】
本発明のゴルフクラブシャフトは、ゴルフクラブに使用できる。前記ゴルフクラブは、ゴルフクラブシャフトと、このゴルフクラブシャフトの一端に設けられたゴルフクラブヘッドと、前記ゴルフクラブシャフトの他端に設けられたグリップを有する。前記ゴルフクラブヘッドとしては、ウッド型、ユーティリティ型、アイアン型が挙げられる。前記ゴルフクラブヘッドを構成する材料は、特に限定されるものではなく、例えばチタン、チタン合金、炭素繊維強化プラスチック、ステンレス鋼、マルエージング鋼、軟鉄などが挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0081】
[評価方法]
(1)試験片の作製
[樹脂引張試験片、及びメチルエチルケトン膨潤試験用試験片の作製]
表1に示したエポキシ樹脂組成物の配合と同様となるように、エポキシ樹脂成分をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して、エポキシ樹脂のMEK溶液を作製した(MEK含有率30%)。得られたエポキシ樹脂のMEK溶液を乾燥し、加熱して融解し、硬化剤および硬化促進剤を加えて撹拌した。得られたエポキシ樹脂組成物を厚み2mmの注型金型に注ぎ、130℃で2時間処理して硬化させた。硬化した樹脂板より引張試験用試験片をJIS K 7162(1994)試験片1BAに従い成型した。また、2cm×2cmの正方形状の試験片を切り出し、メチルエチルケトン膨潤試験用試験片とした。
【0082】
[複素粘度試験片]
表1に示した組成になるように、エポキシ樹脂をMEKに溶解して、エポキシ樹脂のMEK溶液を作製した(MEK含有率30%)。得られたエポキシ樹脂のMEK溶液に、硬化剤および硬化促進剤を加えて撹拌し、エポキシ樹脂組成物溶液を調製した。前記エポキシ樹脂組成物溶液を、離型紙に塗布して80〜90℃で3分間乾燥させて、エポキシ樹脂組成物シートを作製した。
【0083】
[繊維方向90度曲げ試験片]
複素粘度試験片と同様にしてエポキシ樹脂組成物シートを作製した。繊維目付100g/mの炭素繊維シートに得られたエポキシ樹脂組成物シートをホットメルト法により含浸させ、炭素繊維含有率が70質量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグを裁断し、繊維方向が一定となるように22枚積層した。0.1mmの離型シートで挟み、2mmのスペーサを用いて、80℃×30分+130℃×2時間の条件でプレスして、エポキシ樹脂を硬化させて、繊維強化エポキシ樹脂材料シートを得た。得られた繊維強化エポキシ樹脂材料シートを、長さ:繊維垂直方向に100mm、幅:繊維方向に15mmになるように裁断して、試験片を作製した。
【0084】
(2)メチルエチルケトン膨潤試験
前記で得られたメチルエチルケトン膨潤試験用試験片(2cm角、厚み2mm)をメチルエチルケトン100mLに浸漬させ、40℃で48時保持した。浸漬前後の試験片の質量を測定し、メチルエチルケトン膨潤率は、下記のようにして算出した。
膨潤率=100×[膨潤試験後の試験片の質量−膨潤試験前の試験片の質量]/膨潤試験前の試験片の質量
【0085】
(3)引張試験
引張試験は、JIS K 7161(1994)に従い、島津オートグラフ(島津製作所社製)を用いて、引張速度1mm/minで行った。図1(a)は、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる試験片12についての引張試験方法を模式的に説明する説明図である。図1(b)は、図1(a)の試験片12を掴むチャック10を側面から見た側面図である。なお、図1(b)において、チャック10の内側には、滑り止めのための凹凸が設けられているが、図示していない。図1(a)において、矢印方向が引張試験の方向である。
【0086】
(4)複素粘度
粘弾性測定器(アントンパール社製、MCR301)を用いて測定した。測定条件は、直径12mmのパラレルプレートを使用し、測定温度域20℃〜130℃、昇温速度8℃/min、印加トルク6mN・m、ギャップ0.5mmとした。
【0087】
(5)プリプレグの取扱性
プリプレグについて、管状体を成型する際のプリプレグの細断、マンドレルへの巻き付けの作業性を官能評価した。細断および巻き付けの作業性に優れるものを「○」、細断または巻き付けの作業性に劣るものを「×」と評価した。
【0088】
(6)繊維方向90度曲げ試験片
試験は、JIS K 7074(1988)に従い、島津オートグラフ(島津製作所社製)を用いて、押し込み速度5mm/minで行った。具体的には、図2に示すように、支点(半径2.0mm)20、20間距離が72mmになるように、繊維強化エポキシ樹脂材料17を下方から2点で支えた。支点間の中心において、繊維強化エポキシ樹脂材料17の上方から圧子(半径5.0mm)21を荷重Fで押し込み、繊維強化エポキシ樹脂材料17の曲げ強さ(試験片に加わる最大曲げ応力)を測定した。なお、支点20および圧子21の軸方向と繊維強化エポキシ樹脂材料17内の強化繊維の繊維方向とが平行となるように配置した。
【0089】
(7)3点曲げ試験
図3に示すように、支点20、20間距離が300mmになるように、管状体18を下方から2点で支えて、支点間の中点22において、管状体18の上方から荷重Fを加えて、管状体が破断したときの荷重値(ピーク値)を測定した。なお、管状体18に荷重Fをかける中点22は、管状体の中心部に位置させるようにした。測定は以下の条件で行った。
試験装置:島津社製オートグラフ
荷重速度:20mm/min
【0090】
[繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体の作製]
表1に示した組成になるように、エポキシ樹脂をメチルエチルケトンに溶解して、エポキシ樹脂のMEK溶液を作製した(MEK含有率:30質量%)。得られたエポキシ樹脂のMEK溶液に、硬化剤および硬化促進剤を加えて撹拌し、エポキシ樹脂組成物溶液を調製した。前記エポキシ樹脂組成物溶液を、離型紙に塗布して80℃〜90℃で3分間乾燥させてエポキシ樹脂組成物シートを作製した。繊維目付100g/mの炭素繊維シートに得られたエポキシ樹脂組成物シートをホットメルト法により含浸させ、炭素繊維含有率が70質量%のプリプレグを作製した。
【0091】
繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体は、シートワインディング法により作製した。すなわち、図4に示したように、プリプレグ1〜8を順番に芯金(マンドレル)に巻回した。プリプレグ1が、最内層を構成し、プリプレグ8が最外層を構成する。プリプレグ1、4、5、7、8は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して平行に配されるストレートプリプレグである。プリプレグ2、3は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して傾斜して配されるバイアスプリプレグである。プリプレグ6は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して直角に配されるフーププリプレグである。図5に示したように、プリプレグ2とプリプレグ3、および、プリプレグ5とプリプレグ6とを貼り合わせて、強化繊維の傾斜方向が交差するようにした。なお、プリプレグ6としては、市販のプリプレグ(東レ社製、トレカプリプレグP805S−3)を用いた。得られた巻回体の外周面にテープを巻き付けて、加熱して硬化反応を行った。巻回条件および硬化条件を以下に示した。図4、5中、寸法は、mm単位で表示されている。
【0092】
巻回条件:
ローリングスピード:34Hz
テープ:信越化学社製PT−30H、テンション6000±100gf
ピッチ:2.0mm
主軸回転数:1870〜1890Hz
硬化条件:
(1)常温から80℃に30分で昇温
(2)80℃±5℃で30分±5分保持
(3)80℃から130℃に30分間で昇温
(4)130℃±5℃で120分±5分間保持。
【0093】
エポキシ樹脂組成物、繊維強化エポキシ樹脂材料についての評価結果を表1に示した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1で使用した原料は、以下の通りである。
jER828EL:三菱化学社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq、重量平均分子量:400、粘度(25℃):12Pa・s〜15Pa・s)
jER807:三菱化学社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:165g/eq、重量平均分子量:350、粘度(25℃):3Pa・s〜4.5Pa・s)
jER4005P:三菱化学社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:1070g/eq、重量平均分子量:7200、25℃で固体)
jER154:三菱化学社製、ノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:180g/eq、一分子あたりのエポキシ基数:3個以上)
AER4152:旭化成イーマテリアルズ社製、オキサゾリドン骨格を有するイソシアネート変性エポキシ樹脂(分子中に、ビフェニル、ジフェニルメタン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、ビスフェノールAC、ビスフェノールS、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラックよりなる群から選択される少なくとも1種の構造を含む。数平均分子量;1000〜3000)
ビニレック(登録商標)E:JNC社製、ポリビニルホルマール
DICY7:三菱化学社製、ジシアンジアミド
DCMU−99:保土ヶ谷化学工業社製、尿素誘導体(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素)
炭素繊維:東レ社製炭素繊維、トレカ(登録商標)T800SC(引張弾性率30tf/mm(294GPa))
【0096】
表1から、繊維強化エポキシ樹脂材料を構成するエポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂と、オキサゾリドン骨格を有するエポキシ樹脂とを含有し、エポキシ樹脂組成物の硬化物がメチルエチルケトンでの膨潤率が20質量%〜44質量%である場合、そのプリプレグの取扱性に優れることがわかる。また、これらの繊維強化エポキシ樹脂材料を用いた管状体は、3点曲げ強度、繊維方向90度曲げ強度が高いことが分かる。よって、これらの管状体からなるゴルフクラブシャフトは強度に優れることが予想される。
【符号の説明】
【0097】
1〜8:プリプレグ、10:チャック、12:エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる試験片、17:繊維強化エポキシ樹脂材料、18:管状体、20:支点、21:圧子、22:支点間の中点
図1
図2
図3
図4
図5