特許第6168954号(P6168954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168954
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】車両における弾性材介設構造
(51)【国際特許分類】
   B60G 7/02 20060101AFI20170713BHJP
   B60G 9/04 20060101ALI20170713BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   B60G7/02
   B60G9/04
   F16F1/38 S
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-203720(P2013-203720)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-67155(P2015-67155A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酒井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】辻 賢作
(72)【発明者】
【氏名】多鹿 俊介
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−138949(JP,A)
【文献】 特開2003−227546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
F16F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の一部分に連結される筒状支持体と、この筒状支持体に圧入される外筒体と、車体の他部分に連結されると共に上記外筒体内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体に内嵌される内筒体と、上記外、内筒体の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材とを備えた車両における弾性材介設構造において、
上記外筒体の一部分に脆弱部を形成し、この脆弱部と対向する上記筒状支持体の部分に、この筒状支持体の外部から上記脆弱部に外力を付与可能にさせるための貫通孔を形成したことを特徴とする車両における弾性材介設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションアームなど車体の一部分と、車体の骨格部材など車体の他部分との間に弾性材を介設し、この弾性材により上記車体の一部分と他部分との間における振動や衝撃力の伝達を抑制できるようにした車両における弾性材介設構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両における弾性材介設構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両における弾性材介設構造は、車体の一部分である車両懸架用サスペンションアームに連結される筒状支持体と、この筒状支持体に圧入される外筒体と、車体の他部分である車体の骨格部材にブラケットを介し連結されると共に上記外筒体内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体に内嵌される内筒体と、上記外、内筒体の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材とを備えている。
【0003】
ここで、上記したように弾性材は外、内筒体の間の空間を埋めるようこの空間に設けられるが、この場合、通常、上記弾性材は上記外筒体の内周面と内筒体の外周面とに加硫接着させられ、これにより、上記外、内筒体と弾性体とは互いに一体的な組み合わせ体とされる。そして、上記筒状支持体への組み合わせ体の取り付けは、この組み合わせ体の外筒体を上記筒状支持体に圧入させて、この筒状支持体に上記組み合わせ体を内嵌させることにより達成される。
【0004】
上記車両の走行時には、通常、その走行面から車輪およびサスペンションアームを介し車体の骨格部材がわに振動や衝撃力が伝達されようとする。この場合、上記振動や衝撃力は、上記弾性材が弾性変形を繰り返すことにより緩和される。これにより、車両の操安性や車両への乗り心地が良好に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−208229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両が、砂利道など凹凸が多い走行面を走行する機会が多い場合には、上記弾性材には大きい振動や衝撃力がより長い時間、繰り返し与えられることとなる。よって、この繰り返し荷重に因り上記弾性材は短期間で損耗しがちとなる。
【0007】
そして、弾性材が損耗したときには、これを新しいものに交換することが考えられるが、この場合、まず、損耗した弾性材を含む組み合わせ体を筒状支持体から取り外し、次に、新しい組み合わせ体の外筒体を上記筒状支持体に圧入させて、上記交換を行うこととされる。
【0008】
しかしながら、前記したように、筒状支持体への上記組み合わせ体の取り付けは、この組み合わせ体の外筒体を上記筒状支持体に圧入することにより強固になされたものである。このため、上記筒状支持体から上記組み合わせ体を取り外す作業は、通常、次のように担持治具と押し治具とによる一組の治具を用いて行われる。
【0009】
即ち、上記筒状支持体とこの筒状支持体に内嵌された組み合わせ体とのそれぞれ軸方向での一端部のうち、上記筒状支持体の一端部の端面のみと全体的に当接し、この端面からの負荷を担持可能とする上記担持治具が設定される。そして、この担持治具に担持された上記筒状支持体の他端部がわから上記組み合わせ体の外筒体に上記押し治具により負荷を与え、上記筒状支持体の一端部がわに向けて上記組み合わせ体を押動させる。すると、この組み合わせ体は、上記筒状支持体に対しその一端部がわに向けて相対移動し、この筒状支持体から取り外される。
【0010】
なお、従来、上記組み合わせ体には、この組み合わせ体の一端部に鍔部を有したものがあり、この場合、上記筒状支持体に内嵌された組み合わせ体は、その鍔部が上記筒状支持体の上記一端部の端面に当接することとされる。そして、この構成において、上記筒状支持体から組み合わせ体を取り外す作業をする場合には、まず、上記鍔部をグラインダーなどにより削り落とし、その後、前記した担持治具と押し治具とによる一組の治具を用いて、前記と同様の作業をすることとされる。
【0011】
よって、上記筒状支持体から組み合わせ体を取り外す従来の作業では、上記した一組の治具を要する分、極めて煩雑になりがちであり、この結果、上記車両における弾性材介設構造において、弾性材を交換することによる修復作業は煩雑かつ長時間を要する、という不都合が生じがちである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両における弾性材介設構造において、弾性材を新しいものなど別途のものと交換するための修復作業が容易かつ迅速にできるようにすることである。
【0013】
請求項1の発明は、車体2の一部分に連結される筒状支持体16と、この筒状支持体16に圧入される外筒体17と、車体2の他部分に連結されると共に上記外筒体17内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体17に内嵌される内筒体20と、上記外、内筒体17,20の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材21とを備えた車両における弾性材介設構造において、
上記外筒体17の一部分に脆弱部26を形成し、この脆弱部26と対向する上記筒状支持体16の部分に、この筒状支持体16の外部から上記脆弱部26に外力を付与可能にさせるための貫通孔27を形成したことを特徴とする車両における弾性材介設構造である。
【0014】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明による効果は、次の如くである。
【0016】
請求項1の発明は、車体の一部分に連結される筒状支持体と、この筒状支持体に圧入される外筒体と、車体の他部分に連結されると共に上記外筒体内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体に内嵌される内筒体と、上記外、内筒体の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材とを備えた車両における弾性材介設構造において、
上記外筒体の一部分に脆弱部を形成し、この脆弱部と対向する上記筒状支持体の部分に、この筒状支持体の外部から上記脆弱部に外力を付与可能にさせるための貫通孔を形成している。
【0017】
このため、例えば、上記筒状支持体に対し外、内筒体と共に内嵌されている弾性材が損耗した場合に、この弾性材を新しいものなど別途のものと交換して上記弾性材介設構造を修復しようとする場合には、まず、上記貫通孔を通して上記外筒体の脆弱部に外力を付与する。そして、この外力により上記外筒体の脆弱部を変形させて上記外筒体の径寸法を少し縮小させてやれば、上記筒状支持体からの外、内筒体および弾性材の取り外しができる。そして、次に、上記筒状支持体に対し外、内筒体と共に別途の弾性材を内嵌させれば、上記筒状支持体に対する弾性材の交換作業が終る。
【0018】
ここで、上記したように、貫通孔を通し上記外筒体の脆弱部に外力を付与したとき、上記脆弱部の変形は容易になされて上記外筒体の径寸法は直ちに縮小可能とされる。よって、その分、車両における弾性材介設構造において、弾性材を新しいものなど別途のものと交換するための修復作業は容易かつ迅速にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車両のサスペンションの部分平面図である。
図2図1のII−II線矢視拡大断面図である。
図3】(a)は、図1で示したものの部分斜視図である。(b)は、(a)で示したものの斜視展開図である。
図4】(a)は、図2に相当する図で、作用説明図である。(b)は、(a)で示したものの斜視展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両における弾性材介設構造に関し、車両における弾性材介設構造において、弾性材を新しいものなど別途のものと交換するための修復作業が容易かつ迅速にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0021】
即ち、車両における弾性材介設構造は、車体の一部分に連結される筒状支持体と、この筒状支持体に圧入される外筒体と、車体の他部分に連結されると共に上記外筒体内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体に内嵌される内筒体と、上記外、内筒体の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材とを備える。
【0022】
上記外筒体の一部分に脆弱部が形成される。この脆弱部と対向する上記筒状支持体の部分に、この筒状支持体の外部から上記脆弱部に外力を付与可能にさせるための貫通孔が形成される。
【実施例】
【0023】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0024】
図1〜3において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0025】
車両1は、車体2と、この車体2後部の骨格部材3にリヤサスペンション4を介し懸架される後車輪5とを備え、この後車輪5により車体2の後部が走行面上に支持される。
【0026】
上記サスペンション4は、車体2の左右各側部において、車体2の前後方向に延びるサスペンションアーム9と、これら左右サスペンションアーム9同士を結合するクロスメンバ10と、車体2の幅方向に延びる枢支軸心11回りに上記サスペンションアーム9の後部が上下揺動するようその前端部を上記骨格部材3に枢支する枢支具12と、上記サスペンションアーム9の後端部に突設され、上記後車輪5を支持する車軸13とを備えている。
【0027】
上記枢支具12は、本発明にいう車両1における弾性材介設構造に相当するもので、上記枢支軸心11上に位置し、車体2の一部である上記サスペンションアーム9の前端部に連結される筒状支持体16と、上記枢支軸心11上で上記筒状支持体16に圧入される外筒体17と、上記枢支軸心11上に位置し、車体2の他部分である上記骨格部材3にブラケット18および締結具19により連結されると共に上記外筒体17内を相対的に遊動可能なようにこの外筒体17に内嵌される内筒体20と、上記外、内筒体17,20の間の空間を埋めるようこの空間に設けられる弾性材21とを備えている。
【0028】
上記筒状支持体16、外筒体17、および内筒体20は、いずれも金属製の円筒体である。また、上記筒状支持体16は、その外面が上記サスペンションアーム9の前端部に溶接されることにより、この前端部に連結される。また、上記弾性材21は、上記外筒体17の内周面と内筒体20の外周面とに加硫接着させられて上記外、内筒体17,20の間の空間に設けられるが、この空間に圧入により取り付けられるものであってもよい。このため、上記外、内筒体17,20と弾性材21とは互いに一体的な組み合わせ体22とされる。そして、上記筒状支持体16への組み合わせ体22の取り付けは、この組み合わせ体22の外筒体17が上記筒状支持体16に圧入されることにより達成される。
【0029】
上記外筒体17の周方向の一部分に脆弱部26が形成される。この脆弱部26は、上記外筒体17の周方向の一部分を軸方向の全体にわたり切断したような切断部とされる。具体的には、上記外筒体17の形成に際し、平坦な板材を円筒状となるよう屈曲させ、この円筒状板材の周方向における各端縁部の端面同士を突き合わせたとき、これら両突き合わせ面の間が上記切断部に相当する。
【0030】
上記外筒体17の厚さ方向で、上記脆弱部26と対向する上記筒状支持体16の部分に、この筒状支持体16の外部から上記脆弱部26に外力を付与可能とさせるための貫通孔27が形成される。この貫通孔27は雌ねじ孔とされ、この貫通孔27に螺合可能な押しボルト28が設けられる。なお、上記貫通孔27はねじ無しの孔であってもよく、この場合、この孔の形状は長円形状であってもよい。また、上記貫通孔27は、上記脆弱部26に沿うよう上記筒状支持体16の軸方向に複数設けてもよい。
【0031】
図4(a)において、例えば、上記筒状支持体16に内嵌されている上記組み合わせ体22の弾性材21が損耗した場合であって、この弾性材21を新しいものなど別途のものと交換して上記枢支具12を修復しようとする場合には、まず、上記貫通孔27に押しボルト28を螺合し、次に、上記弾性材21からの弾性力に対抗しながら上記押しボルト28を捻回して、この押しボルト28から上記外筒体17の脆弱部26に押圧力(外力)を付与する。そして、上記押しボルト28からの押圧力により上記外筒体17の脆弱部26を変形させて上記外筒体17の径寸法を少し縮小させる。
【0032】
そこで、図4(b)で示すように、上記押しボルト28を弛緩するよう捻回し、次に、上記組み合わせ体22をペンチで引張するなどして、この組み合わせ体22に対し、その軸方向に向かう外力を与える、すると、この組み合わせ体22は、その外筒体17の径寸法が縮小させられた分、上記筒状支持体16に対し容易に軸方向に相対移動することから、この筒状支持体16からの上記組み合わせ体22の取り外しは容易にできる。
【0033】
そして、その後、図3(a)で示すように、上記筒状支持体16に対し、別途の弾性材21を含む組み合わせ体22を、その外筒体17の圧入により内嵌させれば、上記筒状支持体16に対する弾性材21の交換作業が終る。
【0034】
ここで、上記したように、貫通孔27を通し上記外筒体17の脆弱部26に押しボルト28から押圧力を付与したとき、上記脆弱部26の変形は容易になされて上記外筒体17の径寸法は直ちに縮小可能とされる。そして、その後、前記従来の技術で示したような一組の治具を不要として、上記筒状支持体16からの組み合わせ体22の取り外しが容易にできる。よって、その分、車両における上記枢支具12において、弾性材21を新しいものなど別途のものと交換するための修復作業は容易かつ迅速にできる。
【0035】
なお、上記枢支具12の構造は、車体2に対し前車輪を懸架するフロントサスペンションのロアアームや、車体2に対し車両1の走行駆動用のエンジンを含むパワーユニットを支持するためのユニットマウントなどに適用することができる。
【0036】
また、上記脆弱部26は、上記外筒体17の周方向の一部分の内周面および/もしくは外周面に、その軸方向に断続的に形成される凹部(薄肉部)であってもよく、上記軸方向に連続的に形成される溝部(薄肉部)であってもよく、更に、上記軸方向の中途部分に部分的に形成され、この軸方向に長く延びる切断部(スリット含む)であってもよい。
【0037】
更に、上記外筒体17の周方向で互いに少し離れた2つの部分に、それぞれ上記した凹部、溝部、および軸方向の中途部分に部分的に形成される切断部のうち、少なくともいずれか一つを形成し、上記した外筒体17の周方向で互いに少し離れた2つの部分の間の他部分を上記脆弱部26としてもよい。
【0038】
また、上記脆弱部26は、上記外筒体17の軸方向の中途部分に、その周方向に延びるように形成される上記凹部、溝部、および切断部のうち、少なくともいずれか一つであってもよく、この場合、上記切断部は、上記周方向に部分的に形成される。
【0039】
更に、上記外筒体17の軸方向で互いに少し離れた2つの部分に、それぞれ上記した凹部、溝部、および周方向に部分的に形成される切断部を形成し、上記した外筒体17の軸方向で互いに少し離れた2つの部分の間の他部分を上記脆弱部26としてもよい。
【0040】
また、上記筒状支持体16の外部から、上記貫通孔27を通し上記脆弱部26に外力を付与する場合、上記貫通孔27に棒状材を差し込み、この棒状材を介しハンマーの打撃力を上記脆弱部26にに付与するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 車両
2 車体
3 骨格部材
4 サスペンション
5 後車輪
9 サスペンションアーム
11 枢支軸心
12 枢支具
16 筒状支持体
17 外筒体
20 内筒体
21 弾性材
22 組み合わせ体
26 脆弱部
27 貫通孔
28 押しボルト
図1
図2
図3
図4