(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位置調節機構は、前記板状部材を緯入れ方向に変位可能に構成されると共に、その位置調節範囲が前記水膜層の前記導入部側の端縁を前記緯糸が通過する前記板状部材の位置を含むように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の水噴射式織機用の緯糸保持装置。
前記スリット部及び前記導入部を形成する前記板状部材は、長手方向における前記導入部を形成する部分の少なくとも一部が、先端側に向けて幅寸法が小さくなる先細り形状であって、前記長手方向に延在する両側縁のうちの少なくとも反緯入れノズル側の側縁が前記スリット部を構成する部分の反緯入れノズル側の側縁に対し傾斜するように形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3に記載の水噴射式織機用の緯糸保持装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記のような水膜層を利用して緯糸を保持する緯糸保持装置においては、緯糸の種類等に応じて緯糸の保持力を調整する必要があり、従来では、この保持力の調整は、水膜層が形成されるスリット部の対向面の間隔を変更することにより行われている。詳しくは、以下の通り。
【0009】
例えば、伸縮性の大きい緯糸を緯入れする場合では、給糸カッタで切断された際の緯糸のスプリングバック時の反発力が大きいため、前記保持力を大きくする必要がある。但し、全ての緯糸に対し保持力を大きくすると、例えば、保持力が小さくても良い緯糸(伸縮性が小さい緯糸等)であってスリット部からの糸離れが悪い緯糸の場合には、次回の緯入れ時において緯入れ開始に先行して緯入れノズルから噴射される先行水によって緯糸の先端の状態が緯糸の飛走に適したものとならない場合があり、緯入れ時における緯糸の飛走に悪影響を及ぼす場合がある。
【0010】
従って、前記のような水膜層を利用して緯糸を保持する緯糸保持装置においては、緯入れされる緯糸の種類等に応じて保持力が調整される必要があり、従来において、この保持力の調整は、前記のようにスリット部を形成する対向面(一対の板状部材)の間隔を調整することにより行われる。すなわち、前記のような伸縮性の大きい緯糸に対しては、保持力を大きくすべく前記間隔を小さくし、糸離れが悪い緯糸に対しては、保持力を小さくすべく前記間隔を大きくするような調整が行われる。そして、この間隔(保持力)の調整は、一般的には、一対の板状部材(対向面)間に介装されて両対向面の間隔を画定する板状の間隔形成部材(シム等)の板厚等を変更することにより行われている。より具体的には、複数の間隔形成部材を予め用意しておき、間隔形成部材を厚さの異なる他の間隔形成部材に変更する、あるいは対向面間に介装される薄板状の間隔形成部材の枚数を変更することで、前記間隔(保持力)の調整が行われている。
【0011】
しかし、このような間隔形成部材の変更による対向面の間隔(保持力)の調整は、予め用意される間隔形成部材の板厚に依存した段階的なものとなるため、保持力の調整も段階的にしか行うことができない。このため、従来の緯糸保持装置においては、保持力の微調整が難しく、保持力を緯入れされる緯糸の種類に応じた適正なものに調整することが困難であった。
【0012】
そこで、本発明の課題は、水膜層による保持力を、緯入れされる緯糸の種類に応じた適正なものに容易に調整することができる水噴射式織機用の緯糸保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題の下に、本発明は、水噴射式織機の緯入れノズルと給糸カッタとの間に設けられる水噴射式織機用の緯糸保持装置であって、上下方向に離間して対向配置された一対の板状部材の対向面によって形成されたスリット部と前記一対の板状部材における前記対向面の間隔を拡開させることによって形成された導入部であって前記スリット部に連続すると共に前記スリット部よりも反織前側に配置される導入部とを備え、緯入れノズルに連なる緯糸を前記導入部によって前記スリット部へ導入すると共に前記スリット部内に形成される水膜層によって前記緯糸を保持する水噴射式織機用の緯糸保持装置において、前記緯糸の保持時において前記水膜層を通過する前記緯糸の前記水膜層内における経路長を変化させるように前記スリット部及び前記導入部を形成する前記板状部材を位置調節可能に支持する位置調節機構を備えることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明による水噴射式織機用の緯糸保持装置においては、前記位置調節機構が、前記板状部材を緯入れ方向に変位可能に構成されると共に、その位置調節範囲が前記水膜層の前記導入部側の端縁を前記緯糸が通過する前記板状部材の位置を含むように構成されているものであってもよい。但し、この構成の場合、位置調節機構おける板状部材の位置調節範囲が、水膜層の導入部側の端縁を緯糸が通過する板状部材の位置を含む必要がある。詳しくは、以下の通りである。
【0015】
先ず、水噴射式織機において、緯入れノズルが経糸方向に関し織前よりも経糸の送出し側に固定されているため、筬打ちされた緯糸の経路は、緯入れノズルと給糸カッタとの間に配置される緯糸保持装置における板状部材をその幅方向において斜めに横切るものとなっている。そして、緯糸は、水膜層を横切る部分において保持される。但し、緯糸保持装置においては、水膜層は、板状部材の長手方向に亘って形成される訳ではなく、前記対向面の間隔が拡開する導入部には形成されず、スリット部にのみ形成される。従って、スリット部の位置によっては、板状部材の幅に亘り緯糸が水膜層を横切る状態と、前記幅の一部(経糸列側)においてのみ緯糸が水膜層を横切る状態とが生じ得る。
【0016】
そのため、前記のように位置調節機構が板状部材の位置を緯入れ方向にのみ調節可能な構成では、位置調節機構における板状部材の調節範囲において、緯糸が常に板状部材の幅に亘って水膜層内を横切るものとした場合、すなわち、位置調節機構における位置調節範囲が水膜層における導入部側の端縁を緯糸が通過する板状部材の位置を含まないものとした場合、そのような調節範囲で板状部材の位置調節を行っても、水膜層内を通過する経路長は変更されず、緯糸の保持力を調節することができない。従って、位置調節機構による板状部材の位置調節が緯入れ方向においてのみ行われる場合は、その位置調節範囲が、水膜層の導入部側の端縁を緯糸が通過する板状部材の位置を含む必要がある。
【0017】
また、本発明による水噴射式織機用の緯糸保持装置においては、水噴射式織機が2以上の緯入れノズルを備える場合は、前記緯糸保持装置が、各緯入れノズルに対応して設けられた複数の前記スリット部を備えると共に、複数の前記スリット部のそれぞれが緯入れ方向に関し位置が異なる複数の位置であって前記緯入れノズルの数以下の位置のいずれかに配置され、且つ少なくとも2つの前記スリット部が緯入れ方向において位置が異なるように構成されているものであってもよい。
【0018】
さらに、本発明による水噴射式織機用の緯糸保持装置において、前記スリット部及び前記導入部を形成する前記板状部材が、長手方向における前記導入部を形成する部分の少なくとも一部が、先端側に向けて幅寸法が小さくなる先細り形状であって、前記長手方向に延在する両側縁のうちの少なくとも反緯入れノズル側の側縁に対し傾斜するように形成されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水噴射式織機用の緯糸保持装置装置によれば、上下方向に離間して対向配置された一対の板状部材の対向面によって形成されたスリット部を備える緯糸保持装置において、板状部材を位置調節可能に支持する位置調節機構を備え、その位置調節機構が、緯糸の保持時において前記スリット部に形成される水膜層を通過する緯糸の前記水膜層内における経路長を変化させるようにスリット部を形成する板状部材を位置調節可能に支持する構成としたので、板状部材の位置調節によって緯糸の保持力に直結する前記経路長が変更されるため、水膜層による緯糸の保持力の調整を、板状部材の位置調節によって行うことが可能となる。これにより、前記のような水膜層により緯糸を保持する緯糸保持装置において、スリット部(水膜層)を形成する対向面の間隔を変更することのみによって保持力を調整する場合と比べ、緯糸の保持力を緯入れされる緯糸の種類に応じた適正なものに調整することが容易に行えるものとなる。
【0020】
なお、前記した本発明による緯糸保持装置においては、位置調節機構が板状部材を上下方向の軸周りに回動可能に支持する構成とし、板状部材を前記軸周りに回動させて位置調節することにより、水膜層内を通過する緯糸の経路長を変更して、水膜層による緯糸の保持力の調整を行うことも可能である。ただし、この場合には、板状部材の回動量(回動角度)と水膜層内を通過する緯糸の経路長の変化量とが比例関係にならないため、予め、板状部材の回動量と緯糸の経路長の変化量との関係を把握しておく必要がある。
【0021】
これに対して、本発明による緯糸保持装置装置において、位置調節機構が板状部材を緯入れ方向に変位可能に支持する構成とし、板状部材の緯入れ方向の位置調節によって前記した水膜層内を通過する緯糸の経路長が変更される構成とすることにより、前記経路長を板状部材の変位に比例して変化させて緯糸の保持力を調整することが可能となるので、前記板状部材を軸周りに回動させて緯糸の保持力を調整する場合と比べて、調整がより容易に行えるものとなる。
【0022】
また、本発明による緯糸保持装置を備えた水噴射式織機において、その水噴射式織機が2以上の緯入れノズルを備える場合、緯糸保持装置は、各緯入れノズルに対応させて設けられた複数のスリット部を備える必要がある。何故なら、複数の緯入れノズルの緯糸を同じスリット部内に導いて水膜層で保持する構成とした場合、複数の緯糸が同じスリット部内で互いに絡んでしまい、その緯糸の次回の緯入れに支障が生じるためである。その上で、緯糸保持装置を、少なくとも2つのスリット部が緯入れ方向において位置が異なる構成とすることにより、緯入れ方向に位置を異ならせたスリット部(板状部材)をそれぞれ独立させて位置調節することが可能となる。これにより、2以上の緯糸の保持力の設定が可能となり、複数種類の緯糸を使用して製織を行う場合において、各スリット部による緯糸の保持力を、使用される緯糸の種類に応じてより適正なものに調整することが可能となる。
【0023】
さらに、本発明による緯糸保持装置において、板状部材を、長手方向における導入部を形成する部分の少なくとも一部が、先端側に向けて幅寸法が小さくなる先細り形状であって、長手方向に延在する両側縁のうちの少なくとも反緯入れノズル側の側縁がスリット部を形成する部分の反緯入れノズル側の側縁に対し傾斜するように形成することにより、筬打ち動作に伴う緯糸の張力の上昇を緩和することができる。より詳しくは、以下の通り。
【0024】
一般に、水噴射式織機においては、筬打ち後の緯糸の給糸カッタによる切断を安定して行わせるために、給糸カッタに並設されるキャッチプレートが設けられている。そして、緯入れされた緯糸は、筬打ち動作に伴ってそのキャッチプレートの切欠部(カッタフック)に導かれ、そのキャッチプレートの切欠部により、緯入れノズルと織前との間の経路が給糸カッタによる切断位置を通過するように規制されている。そして、緯入れノズルとキャッチプレートとの間に設けられる緯糸保持装置は、スリット部によって上下方向の位置が規制されて織前へ導かれる緯糸の前記切欠部との係合が維持されるように、スリット部が上下方向に関しカッタフック(の上端)よりも下方に位置するように配置される。
【0025】
このため、緯入れノズルと織前との間の緯糸は、筬打ち動作に伴って緯糸保持装置において導入部を介してスリット部へ導かれる過程で、導入部によって下方へ向けて案内され、板状部材の幅方向における両側縁で上下方向に屈曲されると共に、その屈曲の度合いは、スリット部へ近づくにつれて大きくなる。従って、上記過程においては、緯糸の張力が上昇する傾向がある。
【0026】
ここで、板状部材が、導入部における前記両側縁が平行な形状(幅寸法が一定の形状)である場合、板状部材の側縁によって屈曲される緯糸の経路が、筬打ち動作の初期においても上下方向に屈曲の度合いの大きい経路となる。このため、筬打ち動作における比較的初期の時点から緯入れノズルと織端との間における緯糸の経路長が増加し、それに伴って緯糸張力も比較的初期の時点から上昇する傾向となる場合がある。
【0027】
これに対し、板状部材を、長手方向における導入部を形成する部分の少なくとも一部が前記両側縁のうちの少なくとも反緯入れノズル側の側縁がスリット部を形成する部分の反緯入れノズル側の側縁に対し傾斜する先細り形状に形成することにより、板状部材における先細り形状に形成された部分を含む先端側の部分において、反緯入れノズル側(織端側)の側縁から織端までの距離を、導入部の幅が長手方向の全体に亘ってスリット部と同じ幅である場合と比べて拡大させることができ、織端側の側縁によって屈曲される緯糸の経路の上下方向の屈曲をより小さくすることができる。それにより、筬打ち動作に伴う緯入れノズルと織端との間における緯糸の経路長の増加をより緩やかなものとすることができ、導入部で案内される過程における緯糸張力の上昇の度合いがより緩和される。その結果として、緯糸の張力上昇に起因する製織や織布への影響をより少なくして織布の品質を向上させることができる。
【0028】
なお、前記先細り形状について、前記両側縁のうちの緯入れノズル側の側縁が傾斜する先細り形状に形成することでも、緯糸張力の上昇の度合いを緩和することは可能である。ただし、前記先細り形状は、反緯入れノズル側の側縁が傾斜する先細り形状に形成した場合の方が、緯入れノズル側の側縁が傾斜する先細り形状に形成した場合に比べて、緯糸張力の上昇度合いの緩和に対する効果が大きいものとなる。詳しくは、以下の通り。
【0029】
前記のように、水噴射式織機において、緯入れノズルが経糸方向に関し織前よりも経糸の送出し側に固定されているため、筬打ち動作によって織前へと運ばれる緯糸の経路は、緯入れノズルと給糸カッタとの間において板状部材をその幅方向に斜めに横切るものとなっており、緯糸が板状部材と交差する位置は、前記両側縁のうち反緯入れノズル側の側縁の方が緯入れノズル側の側縁よりも経糸方向の織前側の位置となる。また、緯糸は板状部材の幅方向における両側縁で上下方向に屈曲され、その屈曲の度合いは、スリット部へ近づくにつれて大きくなり、スリット部に達した時点で最も大きい屈曲状態となる。
【0030】
このことから、緯糸は、反緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分の方が、緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分に比べて、より早い時点にスリット部内へと達することになる。言い換えれば、緯糸は、反緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分の方が、緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分に比べて、筬打ち動作の開始時点からより短い経過時間で経糸方向のスリット部内へと変位し、最も大きく屈曲された状態となる。従って、単位時間当たりの屈曲量の変化は、反緯入れノスル側の側縁で屈曲される部分の方が、緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分よりも大きい。また、筬打ち時点における緯入れノズルと給糸カッタとの間の経路が、前記したようなスリット部における水膜層の導入部側の端縁を通過する場合には、緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分がスリット部まで至らず、最も屈曲された状態の屈曲量自体が小さく、この場合は単位時間当たりの屈曲量の変化がさらに小さいものとなる。
【0031】
このように、緯糸の屈曲の変化度合いは、反緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分の方が、緯入れノズル側の側縁で屈曲される部分の方よりも非常に大きいため、緯糸張力の上昇度合いについては、板状部材の反緯入れノズル側の側縁での緯糸の屈曲による影響の方が大きいと言える。そこで、前記先細り形状については、反緯入れノズル側の側縁が傾斜する先細り形状とした方が、緯糸張力の上昇度合いの緩和に対する効果がより大きいものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の緯糸屈曲装置の一実施例について、
図1〜
図4に基づいて説明する。なお、以下の説明では、経糸の延在方向を経糸方向とする。
【0034】
図1は、本発明の緯糸保持装置1が設けられた水噴射式織機の部分平面図である。本実施例では、4つの緯入れノズルを備えた水噴射式織機に対して緯糸保持装置1が設けられている。すなわち、本実施例の水噴射式織機は、4つの給糸体(図示略)から供給される各緯糸8を緯入れするために各緯糸8に対応する緯入れノズルを備えると共に、緯入れされた緯糸8を織前近傍で切断する給糸カッタ22を備えており、緯入れ方向における各緯入れノズルと給糸カッタ22との間の位置に本発明の緯糸保持装置1が設けられている。
【0035】
各緯入れノズルは、経糸方向に関し織前25よりも経糸28の送出側の位置で織機フレーム20に対して固定されている。また、緯入れノズルは、経糸方向に関し互いに接近して並列された配置となっており、図示の例では、経糸方向の織前側から順に、第1〜第4の緯入れノズルが配置されている。また、緯入れノズルは、上下方向に関しいずれもワープライン29と同じ高さ位置に配置されている。
【0036】
給糸カッタ22は、緯入れ方向に関し織端26よりも緯入れノズル側の位置で、経糸方向に関し織前近傍に設けられている。また、本実施例では、給糸カッタ22は、上下方向に関しその切断位置がワープライン29よりも下方となるように配置されている。
【0037】
次に、
図2〜
図4を参照して、本発明による緯糸保持装置1の具体例を説明する。なお、本実施例では、緯糸保持装置1は、緯入れ方向に関し位置を異ならせて併設された第1、第2の緯糸保持構造と、前記2つの緯糸保持構造に共通の支持装置11とで構成されているものとする。そして、各緯糸保持構造は、4つの緯入れノズルによって緯入れされる各緯糸8のうちの2本ずつをそれぞれ保持する構成となっている。すなわち、各緯糸保持構造はそれぞれ2つのスリット部を有している。従って、本実施例の緯糸保持装置1では、4本の緯糸8(4つの緯入れノズル)に対し2つで1組のスリット部を2組有し、各組のスリット部が緯入れ方向に関し位置を異ならせて2位置に配置される構成となっている。なお、各緯糸保持構造の構成については、詳しくは、以下の通りである。
【0038】
第1の緯糸保持構造10aは、緯入れ方向における同じ位置で上下方向に間隔をおいて設けられた第1、第2、第3の板状部材と、各板状部材の上下方向の間隔を規定すべくそれぞれの板状部材の間に介装されるシム9と、各板状部材を支持する第1のベース部材15aとを有している。
【0039】
各板状部材は、基本的には同じ形状(構造)を有しており、平板状の平面部と、平面部の長手方向に連続する傾斜部であって平面部の板厚方向の一方側へ向けて屈曲された傾斜部とを有している。また、各板状部材の平面部には、各板状部材を第1のベース部材15aに取り付けるための取付孔が形成されている。
【0040】
より詳しくは、本実施例における各板状部材は、一枚の板材を屈曲させて形成されたものであり、主体である平板状の平面部と、前記屈曲により長手方向における平面部の一端側に連続して板厚方向の一方側へ傾斜する傾斜部とを有する。なお、
図3に示すように、前記屈曲の部分(屈曲部)は、円弧状の屈曲形状を有しており、この円弧状の屈曲部と前記一方側へ傾斜する傾斜面とにより傾斜部が形成されているものとする。従って、平面部における傾斜部側の端縁は、前記円弧状の屈曲部の反傾斜面側の端縁で画定される。
【0041】
また、各板状部材の平面部は、平面視において長手方向に延在する両側縁が平行な形状に形成されている。一方、傾斜部は、本実施例では、その幅寸法が長手方向の先端側へ向けて次第に小さくなる先細り形状に形成されている。より詳しくは、本実施例における各板状部材の傾斜部の前記傾斜面は、幅方向における一方の側縁については、長手方向に関し平面部の対応する側縁に連続し、その平面部の側縁と同方向に延在しているのに対し、他方の側縁については、傾斜面の長手方向における先端側の端縁の幅寸法が屈曲部側の端縁の寸法(=平面部の幅寸法)より小さく形成されており、その両端縁を直線的に結ぶ形状となっている。従って、各板状部材における傾斜部は、その傾斜面において、前記他方の端縁が傾斜し、先端側へ向けて幅寸法が次第に小さくなる先細り形状となっている。
【0042】
第1のベース部材15aは、各板状部材と同じ幅寸法を有するブロック状の部材であり、緯入れ方向における給糸カッタ22と緯入れノズルとの間に配置されて、支持装置11によって固定支持されている。また、第1のベース部材15aは、経糸方向に関しては、その中央部が織前付近に位置するように配置される。さらに、この第1のベース部材15aには、支持装置11に支持された状態で、前記中央部において上下方向に貫通する貫通孔が形成されている。そして、各板状部材は、平面部に形成された取付孔にネジ部材18aが挿通され、そのネジ部材18aが第1のベース部材15aの貫通孔に挿通されてネジ部材18aの先端側に形成された雄ネジ部にナット19aが螺合されることにより、第1のベース部材15aに対し締付け固定される。従って、各板状部材は、経糸方向に関し織前付近の位置で、ネジ部材18aによって第1のベース部材15aに支持されている。
【0043】
なお、各板状部材の平面部に形成される取付孔は、幅方向に関し平面部の中央であって、長手方向に関し平面部の反傾斜部側の端縁から同じ距離の位置に形成されている。従って、各板状部材は、前記のように第1のベース部材15aに締付け固定された状態において、幅方向に関し位置が一致した状態(上下方向において重なった状態)になると共に、長手方向の向き及び平面部に対する傾斜部の位置を揃えた状態において、長手方向に関し平面部の反傾斜部側の端縁が揃った状態となる。そして、各板状部材は、第1のベース部材15aが緯入れ方向に関し前記位置に配置された状態において、傾斜部が平面部に対し反織前側に位置する向きで、長手方向を経糸方向に一致させた状態で配置される。
【0044】
また、各板状部材は、いずれも傾斜部が上方へ向けて延びるかたちで第1のベース部材15aに支持されている。そして、その状態において、各板状部材は、傾斜部における傾斜面の前記一方の側縁が緯入れノズル側に位置し、他方の側縁が反緯入れノズル側に位置するものとなっている。すなわち、本実施例における第1の緯糸保持構造10aでは、各板状部材は、前記配置において、傾斜部における反緯入れノズル側の側縁が平面部の側縁に対し傾斜する構成となっている。
【0045】
なお、第1〜第3の板状部材の上下方向の配置については、第1の板状部材2aが最も上に配置され、続いて第2の板状部材2bが配置され、第3の板状部材2cが最も下に配置されるものとする。その上で、各板状部材は、上下方向に関し、平面部が所定の間隔を空けて設けられるものとなっている。但し、ここで言う所定の間隔とは、上下方向に離間する平面部の対向面間に水膜層が形成可能なものである。そして、その平面部の間隔を規定するために、それぞれの平面部間に、前記間隔に相当する板厚を有する円形薄板状のシム9が介装されている。なお、このシム9は、各板状部材の平面部に形成された取付孔よりも大径であって、その取付孔と中心が一致する位置に設けられている。そのため、このシム9にも取付孔が形成されており、各シム9は、その取付孔に前記のネジ部材18aが挿通され、各板状部材と共に締付け固定されている。
【0046】
そして、このようにシム9を用いて上下方向に前記所定の間隔を空けて各板状部材が配置されることにより、上下方向に隣接する板状部材の平面部間に、その平面部の対向面によってスリット部が形成される。すなわち、第1の緯糸保持構造10aにおいては、第1の板状部材2aの平面部3aと第2の板状部材2bの平面部3bとで1つのスリット部(以下、「第1のスリット部4a」と言う。)が形成されると共に、第2の板状部材2bの平面部3bと第3の板状部材2cの平面部3cとでもう1つのスリット部(以下、「第2のスリット部4b」と言う。)が形成され、この2つのスリット部が緯入れ方向に関し同じ位置で、上下方向に関し位置を異ならせて設けられる構成となっている。そして、この2つのスリット部のうち、第1のスリット部4aが最も織前側に位置する緯入れノズル(以下、「第1の緯入れノズル21a」と言う。)に対応し、第2のスリット部4bが織前側から2番目に位置する緯入れノズル(以下、「第2の緯入れノズル21b」と言う。)に対応するものとなる。
【0047】
なお、前記のように、本実施例では、給糸カッタ22は、上下方向に関しその切断位置がワープライン29よりも下方となるように配置されており、これに伴い、第1の緯糸保持構造10aにおいては、
図3に示すように、各スリット部がワープライン29よりも下方に位置する、言い換えれば、最も上に位置する第1の板状部材2aの平面部3aがワープライン29よりも下方に位置するように構成されている。そのために、各板状部材を支持する第1のベース部材15aは、その上下方向における厚さ寸法が、前記配置を実現するような大きさに設定されている。
【0048】
また、前記のように、上下方向に隣接する一対の板状部材の平面部によってスリット部が形成されるものであり、第1のスリット部4aが第1の緯入れノズル21aに対応し、第2のスリット部4bが第2の緯入れノズル21bに対応する。そこで、第1、第2の板状部材は、自身が上側の板状部材となるスリット部へ対応する緯入れノズルによって緯入れされた緯糸8を導入するために、図示のようにその傾斜部の先端が緯入れノズルの中心の高さ位置(ワープライン29の位置)よりも上方に位置すると共に、第1の板状部材2aと第2の板状部材2bとで傾斜部の経糸方向の位置が異なるように形成されている。
【0049】
具体的には、第1の板状部材2aは、第1のスリット部4aを形成する一対の板状部材の上側の板状部材であり、その傾斜部3a’(傾斜面)が経糸方向に関し第1の緯入れノズル21aよりも織前側の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。また、第2の板状部材2bは、第2のスリット部4bを形成する一対の板状部材の上側の板状部材であり、その傾斜部3b’(傾斜面)が経糸方向に関し第1の緯入れノズル21aと第2の緯入れノズル21bとの間の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。なお、本実施例では、第2のスリット部4bを形成する一対の板状部材の下側の板状部材となる第3の板状部材2cも、前述のように前記第1、第2の板状部材と同様の形状を有しており、その傾斜部3c’(傾斜面)が経糸方向に関し第2の緯入れノズル21bと織前25から3番目(反織前側から2番目)に位置する第3の緯入れノズル21cとの間の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。
【0050】
このように、第1〜第3の板状部材は、基本的には同じ形状(構造)を有するものであるが、長手方向(経糸方向)に関し、第1のベース部材15aに対する前述のような取付状態、すなわち、平面部における反傾斜部側の端縁を揃えた状態において、傾斜部の前記位置における配置を実現するものとなっており、そのために、各板状部材は、平面部の長手方向の寸法(長さ寸法)がそれぞれ異なるように形成されいる。具体的には、図示のように、第1の板状部材2aにおける平面部3aの長さ寸法が最も小さく、第3の板状部材2cにおける平面部3cの長さ寸法が最も大きいものとなっている。
【0051】
また、前記のように各板状部材の長さ寸法が異なることに伴い、上下方向に隣接する一対の板状部材は、その対向面が上側の板状部材における平面部の範囲においてのみ前記した所定の間隔で対向し、それよりも反織前側においては、互いの対向面の間隔が反織前側へ向けて次第に拡開するものとなっている。すなわち、上下方向に隣接する一対の板状部材における互いに対向する上側の板状部材の下面と下側の板状部材の上面とは、上側の板状部材における平面部の下面と下側の板状部材における平面部の上面のうちの上側の板状部材の平面部に対向する部分とが前記所定の間隔で対向してスリット部を形成するものとなっており、上側の板状部材における傾斜部の下面とそれに対向する下側の板状部材における上面の部分については、互いの間隔をスリット部の間隔から反織前側へ向けて上下に拡開させるものとなっている。そして、この上下方向に隣接する一対の板状部材における対向面の間隔を拡開させた部分を含むスリット部よりも反織前側の部分が、各スリット部の反織前側に連続する導入部となる。
【0052】
従って、第1の緯糸保持構造10aにおいては、第1、第2の板状部材の対向面、すなわち、第1の板状部材2aの下面と第2の板状部材2bの上面との間において、前記の第1のスリット部4aが形成されると共に、その第1のスリット部4aよりも反織前側に第1のスリット部4aに連続する導入部(以下、「第1の導入部5a」と言う。)が形成されている。同様に、第2、第3の板状部材の対向面間、すなわち、第2の板状部材2bの下面と第3の板状部材2cの上面との間において、前記の第2のスリット部4bが形成されると共に、その第2のスリット部4bよりも反織前側に第2のスリット部4bに連続する導入部(以下、「第2の導入部5b」と言う。)が形成されている。そして、この2つの導入部のうち、第1の導入部5aが、第1の緯入れノズル21aによって緯入れされた緯糸8を第1のスリット部4aへ導入する部分として機能し、第2の導入部5bが、第2の緯入れノズル21bによって緯入れされた緯糸8を第2のスリット部4bへ導入する部分として機能する。
【0053】
第2の緯糸保持構造10bは、緯入れ方向における同じ位置で上下方向に間隔をおいて設けられた第4、第5、第6の板状部材と、各板状部材の上下方向の間隔を規定すべくそれぞれの板状部材の間に介装されるシム9と、各板状部材を支持する第2のベース部材15bとを有している。なお、第2の緯糸保持構造10bの構成は、基本的には第1の緯糸保持構造10aと同じ構造であり、前述の第1の緯糸保持構造10aに関する説明の第1、第2、第3の板状部材を第4、第5、第6の板状部材に、第1のベース部材15aを第2のベース部材15bにそれぞれ置き換えた構造であるといえる。従って、第2の緯糸保持構造10bにおいては、第4、第5の板状部材の対向面間にスリット部(第3のスリット部4c)及びそのスリット部に連続する導入部(第3の導入部5c)が形成され、第5、第6の板状部材の対向面間にもスリット部(第4のスリット部4d)及びそのスリット部に連続する導入部(第4の導入部5d)が形成されるものとなっている。ただし、第2の緯糸保持構造10bは、以下の点で第1の緯糸保持構造10aと異なる。
【0054】
先ず、緯入れ方向に関し、第2の緯糸保持構造10bは、第1の緯糸保持構造10aとは異なる位置であって、給糸カッタ22と第1の保持構造との間に配置されている。従って、各板状部材を支持する第2のベース部材15bは、緯入れ方向に関し第1のベース部材15aよりも給糸カッタ側で支持装置11によって固定支持されいている。
【0055】
また、上下方向の配置に関し、第2の緯糸保持構造10bにおいては、
図4に示すように、各スリット部が第1の緯糸保持構造10aの各スリット部よりも下方に位置するように構成されており、図示の例では、第4の板状部材2dの平面部3dが第3の板状部材2cの平面部3cと同じ高さ位置に位置する構成となっている。そのために、各板状部材を支持する第2のベース部材15bは、その上下方向における厚さ寸法が、前記配置を実現するような大きさに設定されており、より具体的には、第1のベース部材15aの板厚よりも小さい厚さ寸法に設定されている。
【0056】
そして、第2の緯糸保持構造10bにおいては、第3のスリット部4cが第3の緯入れノズル21cに対応し、第4のスリット部4dが最も反織前側の第4の緯入れノズル21dに対応するものとなっている。従って、第4の板状部材2dは、その傾斜部3d’(傾斜面)が経糸方向に関し第2の緯入れノズル21bと第3の緯入れノズル21cとの間の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。また、第5の板状部材2eは、その傾斜部3e’が経糸方向に関し第3の緯入れノズル21cと第4の緯入れノズル21dとの間の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。さらに、第1の緯糸保持構造10aと同様に、第6の板状部材2fも前記第4、第5の板状部材と同様の形状を有しており、その傾斜部3f’が経糸方向に関し第4の緯入れノズル21dよりも反織前側の位置でワープライン29よりも上方まで延在するように形成されている。そのため、第2の緯糸保持構造10bでは、各板状部材における平面部の前記長さ寸法は、第4、第5、第6の板状部材の順に大きく形成されたものとなっている。
【0057】
そして、第2の緯糸保持構造10bにおいては、第3の緯入れノズル21cによって緯入れされた緯糸8が第3の導入部5cを経て第3のスリット部4cへと導入され、第4の緯入れノズル21dによって緯入れされる緯糸8が第4の導入部5dを経て第4のスリット部4dへと導入される。
【0058】
前述のように、本実施例では、第1の緯糸保持構造10aにおいて、2つのスリット部のうち織前側の緯入れノズル(第1の緯入れノズル21a)に対応する第1のスリット部4aが、反織前側の緯入れノズル(第2の緯入れノズル21b)に対応する第2のスリット部4bよりも上に設けられる構成となっている。また、第2の緯糸保持構造10bにおいても、第1の緯糸保持構造10aと同様に、2つのスリット部のうち織前側の緯入れノズル(第3の緯入れノズル21c)に対応するスリット部(第3のスリット部4c)が、反織前側の緯入れノズル(第4の緯入れノズル21d)に対応するスリット部(第4のスリット部4d)よりも上に設けられている。さらに、第2の緯糸保持構造10bの各スリット部は、第1の緯糸保持構造10aの各スリット部よりも反織前側の緯入れノズルに対応するものであり、この第2の緯糸保持構造10bの各スリット部が、第1の緯糸保持構造10aの各スリット部よりも下に設けられる構成となっている。このように、緯糸保持装置1における各スリット部は、対応する緯入れノズルが織前側に位置するものの方が反織前側に位置するものよりも上の位置に設けられる構成となっている。
【0059】
前述のように、第1、第2の緯糸保持構造における第1、第2のベース部材15bは、支持装置11によって固定支持されている。この支持装置11は、本実施例では、第1、第2の緯糸保持構造(第1、第2のベース部材)を支持する共通の支持部材12と、支持部材12を織機フレーム20に対し連結する連結部材16とで構成されている。
【0060】
連結部材16は、本実施例では、図示のように棒状の部材であり、その両端部に、長手方向の両端面に開口する雌ネジ孔を有している。そして、連結部材16は、経糸方向における織前付近において、その長手方向を緯入れ方向と平行にして配置され、その一方の端部において雌ネジ孔に螺挿されるボルト等によって織機フレーム20に対し固定されている。
【0061】
支持部材12は、板状の取付部12aと、取付部12aの一方の端部から取付部12aに対し直交するかたちで取付部12aの板厚方向に延在する支持部12bとを一体形成して成るL字形の板部材である。また、この支持部材12における取付部12aには、その他方の端部において板厚方向に貫通する取付孔14aが形成されいている。そして、支持部材12は、取付部12aに形成された取付孔14aに挿通された取付ボルト17が連結部材16の他方の端部における雌ネジ孔に螺挿されることで、連結部材16に対し締付け固定されて支持された状態となる。なお、支持部材12は、その取付部12aが連結部材16に対し鉛直方向下方へ向けて延在するように取り付けられる。従って、その状態においては、支持部材12における支持部12bは、経糸方向における織前付近において、板厚方向を鉛直方向とし、緯入れ方向と平行に反緯入れノズル側(給糸カッタ側)へ延在する状態となる。
【0062】
なお、支持部材12は、前述した第1,第2の緯糸保持構造の上下方向に関する配置を実現できるものとなっている。すなわち、支持部材12は、前記のような連結部材16に対する取付状態において、支持部12bの高さ位置が、その支持部12bに載置される第1の緯糸保持構造10aにおける第1の板状部材2aがワープライン29よりも下方に位置するものとなっている。そのために、支持部材12における取付部12aの長手方向の寸法は、支持部12bが上記のような高さ位置に配置されるように設定される。
【0063】
また、支持部材12における支持部12bには、第1、第2の緯糸保持構造における第1、第2のベース部材を固定するための固定孔14bが形成されている。この固定孔14bは、支持部材12の長手方向に長い長孔として形成されていて、第1、第2のベース部材に共通となっている。そして、各緯糸保持構造は、この固定孔14bに挿通された固定手段によって支持部12bの上面に固定される。
【0064】
なお、本実施例では、各緯糸保持構造における板状部材をベース部材に対し締付け固定するための前記ネジ部材が、各ベース部材を支持部12bに対して固定支持するための固定手段としても兼用されている。このため、各緯糸保持構造のネジ部材は、その軸部において緯糸保持構造の各構成及び支持部材12の支持部12bを貫通してそれらを締付け固定できる長さ寸法を有している。それにより、各緯糸保持構造は、ベース部材において支持部材12の支持部12bに載置された状態で前記ネジ部材が支持部12bの固定孔14bに挿通されると共に、ネジ部材の先端に螺合される前記ナットを締付けられることにより、支持部12bに対して締付け固定される。
【0065】
そして、各ベース部材(各緯糸保持構造)が、緯入れ方向に延在する固定孔14b(長孔)の延在範囲において、互いに異なる位置に配置されることにより、本実施例における緯糸保持装置1においては、第1の緯糸保持構造10aのスリット部(第1、第2のスリット部)の組と第2緯糸保持構造のスリット部(第3、第4のスリット部)の組とが、緯入れ方向に関し異なる2位置に配置された状態となっている。但し、本実施例では、前述のように、緯入れ方向に関し第2のベース部材15b(第2の緯糸保持構造10b)が第1のベース部材15a(第1の緯糸保持構造10a)よりも給糸カッタ側(反緯入れノズル側)に配置されており、これに伴い、第3、第4のスリット部の組が、第1、第2のスリット部の組よりも緯入れ方向の給糸カッタ側に配置されている。
【0066】
また、前述のように本実施例では、各緯糸保持構造を支持する支持部材12の支持部12bに形成された各ベース部材を固定するための固定孔14bは、支持部材12の支持部12bの延在方向(緯入れ方向)に長い長孔として形成されている。従って、各緯糸保持構造を支持部材12に対し締付け固定するための各固定手段(ネジ部材、ナット)の締結状態を緩めることにより、各ベース部材(緯糸保持構造)がその固定孔14bの長手方向に沿って変位可能となり、各緯糸保持構造の取付位置が緯入れ方向に変更(調整)可能となる。従って、本実施例においては、支持部材12における支持部12bに形成された固定孔14b(長孔)と緯糸保持構造を支持部12bに対し固定するためのネジ部材等から成る固定手段との組み合わせが、各緯糸保持構造のスリット部及び導入部を形成する各板状部材の位置を緯糸保持構造毎に調節可能とする位置調節機構として機能している。そして、本実施例では、その位置調節機構による各板状部材の位置調節の方向は、支持部12bの延在方向である緯入れ方向となっている。
【0067】
ところで、各緯糸8における緯入れノズルと給糸側の織端26との間の部分(以下、「部分緯糸」と言う。)の筬打ち時の経路(以下、「部分経路」と言う。)は、前述のように各緯入れノズルが経糸方向に関し織前25よりも経糸28の送出側に固定されているため、各緯入れノズルと給糸カッタ22の切断位置(及び織前25)との間を斜めに横切る経路となっている。従って、各緯糸8の部分経路は、緯入れノズルと給糸カッタ22との間に配置された各緯糸保持構造における板状部材を幅方向に斜めに横切るものとなる。
【0068】
その上で、各緯糸保持構造は、各緯糸8の部分経路がその緯糸8を緯入れする緯入れノズルに対応するスリット部(以下、「対応スリット部」とも言う。)における導入部側端縁の反緯入れノズル側端と緯入れノズル側端との間の所定の位置を通過する位置となるように、その初期配置が設定されているものとする。
【0069】
詳しくは、前述のように、各緯糸保持構造においては、上下方向に隣接する一対の板状部材の上側の板状部材における平面部の下面と下側の板状部材における平面部の上面のうちの上側の板状部材の平面部に対向する部分とでスリット部が形成されるものであり、上側の板状部材における平面部の傾斜部側端縁の位置がそのスリット部の傾斜部側端縁の位置となっている。また、各板状部材における傾斜部については、その板状部材によって形成されるスリット部が対応する緯入れノズルとの関係で、その経糸方向の位置が前述のように設定されている。従って、経糸方向における傾斜部のそのような配置に伴い、各板状部材における平面部の経糸方向における傾斜部側端縁の位置が定まるものとなっている。一方、各緯糸8の部分経路(筬打ち時における緯入れノズルと給糸側の織端26との間の各緯糸8の経路)は、各緯入れノズルの位置及び給糸側の織端26の位置が固定であるため、一定の経路となっている。
【0070】
そこで、各緯糸保持構造は、各板状部材における平面部の傾斜部側端縁の経糸方向における位置が前記のようにして定められた上で、その初期配置において、各緯糸8の部分経路が、対応スリット部を形成する上側の板状部材における平面部の傾斜部側端縁の前記所定の位置を横切る位置となるように、その緯入れ方向の位置が設定されている。なお、スリット部における導入部側端縁は、前記のような緯入れノズルに対する傾斜部およびスリット部の経糸方向の配置により、必然的に、スリット部の対応する緯入れノズルに対する経糸方向の織前側の位置となっている。
【0071】
また、初期配置における前記所定の位置については、例えば、想定される各緯糸保持構造の位置調節範囲において緯糸8の部分経路が通過する対応スリット部の導入部側端縁における位置の範囲の中間の位置とする。すなわち、各緯糸保持構造の前記の位置調節範囲内において、各緯糸保持構造の位置が最も反緯入れノズル側に設定された状態で緯糸8の部分経路が通過する対応スリット部の導入部側端縁の位置と、各緯糸保持構造の位置が最も緯入れノズル側に設定された状態で緯糸8の部分経路が通過する対応スリット部の導入部側端縁の位置との中間の位置を緯糸8の部分経路が通過する位置を、前記所定の位置として設定する。そして、前記の位置調節範囲について、本実施例では、各緯糸8の部分経路が、対応スリット部の導入部側端縁における最も緯入れノズル側の位置を通過する位置と、対応スリット部の導入部側端縁における中央位置を通過する位置との間の範囲として設定されているものとする。
【0072】
具体的には、第1の緯糸保持構造10aにおいては、第1の緯入れノズル21aによって緯入れされる緯糸8の部分経路が、その第1の緯入れノズル21aに対応する第1のスリット部4aにおける導入部側端縁7a(=第1の板状部材2aの平面部3aにおける傾斜部側端縁)の前記所定の位置(前記中間の位置)を横切ると共に、第2の緯入れノズル21bによって緯入れされる緯糸8の前記部分経路が、その第2の緯入れノズル21bに対応する第2のスリット部4bにおける導入部側端縁7b(=第2の板状部材2bの平面部3bにおける傾斜部側端縁)の前記所定の位置(前記中間の位置)を横切るように、支持部12b(固定孔14b)に対する第1のベース部材15aの緯入れ方向の取付位置が設定される。同様に、第2の緯糸保持構造10bにおいても、第3の緯入れノズル21cによって緯入れされる緯糸8の部分経路が、その第3の緯入れノズル21cに対応する第3のスリット部4cにおける導入部側端縁7c(=第4の板状部材2dの平面部3dにおける傾斜部側端縁)の前記所定の位置(前記中間の位置)を横切ると共に、第4の緯入れノズル21dによって緯入れされる緯糸8の部分経路が、その第4の緯入れノズル21dに対応する第4のスリット部4dにおける導入部側端縁7d(=第5の板状部材2eの平面部3eにおける傾斜部側端縁)の前記所定の位置(前記中間の位置)を横切るように、支持部材12に対する第2のベース部材15bの緯入れ方向の取付位置が設定されている。
【0073】
なお、前述のように、各緯糸8の部分経路は、緯入れノズルと給糸カッタ22との間に配置された各緯糸保持構造における板状部材を幅方向に斜めに横切るものとなっている。このため、第1の緯糸保持構造10a及び第2の緯糸保持構造10bは、緯糸8の部分経路が対応スリット部の導入部得側端縁における緯入れノズル側端を通過する位置において、対応スリット部内における緯糸8の部分経路の経路長が最も長くなった状態となり、その状態において、緯糸8を保持する対応スリット部における緯糸8の保持力が最大となる。
【0074】
そこで、本実施例では、第2の緯糸保持構造10bについては、緯入れ方向に関し、給糸側の織端26及び給糸カッタ22との位置関係において、緯糸8の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における緯入れノスル側端の位置(又は経糸方向に関し前記導入部側端縁よりも織前側で対応スリット部の緯入れノズル側側縁)を通過する状態で、給糸側の織端26及び給糸カッタ22よりも緯入れノズル側に配置される(給糸側の織端26及び給糸カッタ22に対し緯入れノズル側へ離間した位置に配置される)構成となっている。
【0075】
また、第1の緯糸保持構造10aについては、第2の緯糸保持構造10bが前記の位置調節範囲における最も緯入れノズル側の位置まで位置調節された状態、すなわち、緯糸8の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における前記中央位置を通過する緯入れ方向の位置に第2の緯糸保持構造10bが配置された状態において、第2の緯糸保持構造10bに対する緯入れノズル側の位置で、その位置調節範囲において第2の緯糸保持構造10bと重複しないような配置が可能な構成となっている。すなわち、第1の緯糸保持構造10aは、第2の緯糸保持構造10bが上記のように配置された状態において、緯入れ方向において第2の緯糸保持構造10bと重複せずに緯糸8の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における緯入れノズル側端の位置を通過する位置に配置が可能な構成となっている。その上で、固定孔14bの緯入れノズル側への延在長さは、少なくとも第1の緯糸保持構造10aの前記配置を可能とする位置から第1の緯糸保持構造10aを前記の位置調節範囲における最も緯入れノズル側の位置に配置可能となる緯入れ方向の位置まで、すなわち、第1の緯糸保持構造10aを緯糸8の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における中央位置を通過する位置に配置可能となる緯入れ方向の位置まで延在する長さに設定されているものとする。
【0076】
以上のように構成することにより、第1、第2の緯糸保持構造は、前記初期配置の位置から緯入れ方向の両側に位置調節可能となっており、各緯糸保持構造を前記の位置調節範囲内で位置調節する限りにおいて緯入れ方向の位置を重複させることなく独立して位置調節可能となっている。
【0077】
各緯糸保持構造は、緯入れノズルによって噴射される噴射水を浴びることにより、上下方向に隣接する一対の板状部材の間に緯糸8を保持するための水膜層が形成されるものである。但し、水膜層は、前記一対の板状部材における対向面の間隔を拡開された導入部には形成されず、対向面の間隔を水膜層を形成可能な所定の間隔に形成されたスリット部内にのみ形成される。一方、前述のように、上下方向に隣接する一対の板状部材は、上側の板状部材における平面部の範囲において、前記所定の間隔で両者が対向するものとなっている。従って、本実施例では、水膜層の導入部側端縁は、水膜層の形成されるスリット部の導入部側端縁(=スリット部を形成する上側の板状部材の平面部における導入部側端縁)と一致している。それにより、各緯糸保持構造の前記初期配置において、各緯糸8の部分経路は、対応スリット部内に形成された水膜層の導入部側端縁における前記中間の位置を通過するものとなっている。そして、各水膜層内を通過する緯糸8の水膜層内における経路長さは、前記部分経路における水膜層の導入部側端縁との交差位置から水膜層の反緯入れノズル側側縁との交差位置までの長さとなる。
【0078】
なお、本実施例では、各ベース部材は、支持装置11(支持部材12)に対する向きを規定するための突起部を有している。この突起部は、各ベース部材における下面の反織前側となる端部において、その下面から突出するかたちで幅方向に亘って延在するように形成されている。その上で、各ベース部材は、突起部を支持部材12の反織前側の端面に当接させることにより、支持部材12に対する向きを規定されるものとなっている。そして、各ベース部材は、支持部材12(支持部材12の反織前側端面)が緯入れ方向に延在することから、支持部材12に取り付けられた状態においてその幅方向が緯入れ方向と一致するものとなる。
【0079】
また、前述のように、各緯糸保持構造において、各ベース部材は、板状部材と同じ幅寸法を有している。そこで、各板状部材をベース部材に取り付けるにあたり、ベース部材の幅方向における両端縁(幅方向と直交する方向に平行な両側縁)と板状部材の両側縁とを一致させた状態で固定することにより、前述のような支持部材12に対するベース部材の取付状態において、各緯糸保持構造における各板状部材は、その長手方向が経糸方向に一致した状態となる。
【0080】
さらに、本実施例では、水噴射式織機は、筬打ち後の各緯糸8の給糸カッタ22による切断を安定して行わせるための構成として、各緯糸8の部分経路を給糸カッタ22の切断位置を通過する経路に規制するためのキャッチプレート23を有している。
【0081】
このキャッチプレート23は、板状の部材で形成されており、給糸カッタ22の緯入れノズル側において、側面を給糸カッタ22に対向させると共に経糸方向に延在するようにして給糸カッタ22に併設されている。また、キャッチプレート23は、その先端側の部分(以下、「先端側部分24」という。)において、各緯糸8の部分経路を給糸カッタ22の切断位置を通過する経路に維持するためのフック部24aと、筬打ち動作に伴って織前25へと運ばれる各緯糸8を前記フック部24aへと案内するための案内部24bとを有している。
【0082】
そして、キャッチプレート23は、経糸方向に関しフック部24aの位置が給糸カッタ22の切断位置に対応した位置に、より詳しくは、織前25の給糸側端と給糸カッタ22の切断位置とを結ぶ直線の延長線上にフック部24aが位置するように配置されている。また、キャッチプレート23は、上下方向に関し、フック部24aが給糸カッタ22の切断位置と同じ高さ位置となるように配置されている。但し、前記のように、給糸カッタ22は、その切断位置がワープライン29よりも下方となるように配置されている。従って、キャッチプレート23も、そのフック部24aがワープライン29の下方に位置するように配置されている。
【0083】
そのため、各緯糸8の部分経路は、上下方向に関しては、ワープライン29と同じ高さ位置に位置する緯入れノズルと織端26との間において、このキャッチプレート23の位置で押し下げられた状態となっている。その上で、各緯糸8の緯入れノズルと給糸側の織端26との間の経路は、緯入れノズルとキャッチプレート23との間で緯糸保持構造における対応スリット部に導入されるものであり、対応スリット部によっても上下方向の位置が規制されている。その場合において、各緯糸保持構造におけるスリット部、特に最も上側に位置する第1の緯糸保持構造10aにおける第1のスリット部4aに導入される部分緯糸8の全体がキャッチプレート23よりも上方に位置すると、第1のスリット部4aに導入される緯糸8の部分経路の全体がキャッチプレート23よりも上方に位置するものとなり、その緯糸8をフック部24aに導入することができず、その緯糸8の部分経路をフック部24aによって前記切断位置を通過するように規制できないものとなる。
【0084】
そこで、前記のようなキャッチプレート23を備える水噴射式織機への適用例である本実施例では、前記のように各スリット部がワープライン29よりも下方に位置するように各緯糸保持構造が設けられるものであり、特に、最も上側に位置する第1のスリット部4aを備える第1の緯糸保持構造10aについては、その第1のスリット部4aの高さ位置がキャッチプレート23(フック部24a)の上端の位置に応じて設定され、それに応じて第1のベース部材15aの厚さ寸法が設定されるものとなっている。
【0085】
以上のような本発明による緯糸保持装置1を備えた水噴射式織機によれば、緯入れ後、筬打ち動作に伴って織前側へ運ばれる緯糸8は、その緯糸8における部分緯糸が、その緯糸8を緯入れする緯入れノズルに対応するスリット部を形成する一対の板状部材間において、その一対の板状部材で形成される導入部で上側の板状部材に案内されつつ、対応スリット部へ導入される。そして、それに伴い、緯入れされた緯糸8は、その部分経路において対応スリット部内に形成された水膜層に保持された状態となる。それにより、緯糸8が給糸カッタ22によって切断される際の、緯糸8の部分経路における張力の反発(スプリングバック)に起因するノズル抜けが防止される。
【0086】
なお、各緯糸保持構造(スリット部)による緯糸8の保持力は、水膜層内における緯糸8の経路長に応じたものとなる。また、前述のように、本実施例における緯糸保持装置1では、各緯糸8の部分経路は、前記初期配置において、自身が導入される対応スリット部内の水膜層における導入部側端縁の前記所定の位置(前記中間の位置)を通過するものとなっている。言い換えれば、各緯糸保持構造は、各スリット部の位置が、そのスリット部に対応する緯入れノズルによって緯入れされた緯糸8の筬打ち後の部分経路がそのスリット部(水膜層)の導入部側端縁における前記中間の位置を通過する位置となるように、その初期配置が設定されている。
【0087】
その上で、本実施例における緯糸保持装置1では、前述のように、各緯糸保持構造が、前記初期配置の位置から前記所望の位置調節範囲内で独立して緯入れ方向へ位置調節可能な構成となっている。そして、その構成によれば、各緯糸保持構造の位置を、前記初期配置の位置から緯入れ方向に調整することによって、緯糸8の部分経路が対応スリット部(水膜層)の導入部側端縁を通過する位置を緯入れ方向に変位させることができ、それに伴って対応スリット部内の水膜層を通過する緯糸8の水膜層内における経路長を変更することができる。従って、その構成によれば、各緯糸保持構造に対し機械的な変更(シム9の変更等)を加えることなく、スリット部における水膜層での緯糸8を保持する保持力を調整することができる。
【0088】
特に、本実施例の緯糸保持装置1では、前述のように、位置調節機構による各緯糸保持構造の位置調節方向が緯入れ方向となっており、その位置調節に伴う水膜層内における緯糸8の経路長の変化が各緯糸保持構造の変位量に比例するものとなっているので、保持力の調整をより容易に行える構成となっている。
【0089】
さらに、本実施例では、前提となる水噴射式織機が4つの緯入れノズルを備える多色緯入れ織機の場合において、前述のように、緯糸保持装置1は、緯入れ方向に位置を異ならせて配置されてそれぞれが独立して前記のような位置調節が可能な第1、第2の2つの緯糸保持構造であって、それぞれが2つずつのスリット部を有する第1、第2の緯糸保持構造を有し、各スリット部をいずれかの緯入れノズルに対応させる構成としている。具体的には、第1の緯糸保持構造10aにおける第1のスリット部4aが第1の緯入れノズル21aに対応し、第2のスリット部4bが第2の緯入れノズル21bに対応している。また、第2の緯糸保持構造10bにおける第3のスリット部4cが第3の緯入れノズル21cに対応し、第4のスリット部4dが第4の緯入れノズル21dに対応している。そして、その上で、各緯糸保持構造が独立して位置調節可能な構成となっている。
【0090】
このような構成によれば、第1、第2の緯入れノズルによって緯入れされた各緯糸8に対する保持力と、第3、第4の緯入れノズルによって緯入れされた各緯糸8に対する保持力とを独立して調整することが可能であるため、緯糸保持構造の位置調節によって緯糸8の保持力を調整するものにおいて、単一の緯糸保持構造が各緯入れノズルに対応する複数(本実施例の場合は4つ)のスリット部を備える場合と比べ、各緯糸8の保持力をより適正なものとすることができる。
【0091】
ところで、本実施例の場合、第1の緯入れノズル21aによって緯入れされた緯糸8及び第2の緯入れノズル21bによって緯入れされた緯糸8に対する保持力については、同時に同程度調整されるものとなっている。また、同様に、第3の緯入れノズル21cによって緯入れされた緯糸8及び第4の緯入れノズル21dによって緯入れされた緯糸8に対する保持力についても、同時に同程度調整されるものとなっている。なお、水噴射式織機においては、本実施例のように4本の緯入れノズルによって例えば4種類の緯糸8を緯入れする場合、緯糸8の飛び易さや経糸28の開口量等を考慮し、性質の近い緯糸8が隣接する緯入れノズルで緯入れされるように仕掛けられるのが一般的である。従って、本実施例のように隣接する緯入れノズル(第1の緯入れノズル21aと第2の緯入れノズル21b、第3の緯入れノズル21cと第4の緯入れノズル21d)によって緯入れされる2本の緯糸8が同じ緯糸保持構造の対応スリット部に導入される構成であって、その2本の緯糸8の種類が異なる場合でも、保持力の調整については問題が無いと言える。
【0092】
このように、本実施例においては、3以上の緯入れノズルを備える水噴射式織機において、緯入れノズルの数より少ない数の複数のスリット部が緯入れ方向に関し同じ位置に配置されており、且つ残りのスリット部が緯入れ方向に関し他の位置に配置されているものであってもよい。
【0093】
さらに、本実施例では、各板状部材が、長手方向における導入部を形成する部分が先端側に向けて幅寸法が小さくなる先細り形状であって導入部の幅方向の両側縁のうち反緯入れノズル側の側縁がスリット部の側縁に対し傾斜する先細り形状に形成されているので、導入部の幅が長手方向の全体に亘ってスリット部と同じ幅である場合と比べて、板状部材の幅方向の両側縁のうち反緯入れノズル側の側縁によって屈曲される部分緯糸の上下方向の屈曲をより小さくすることができる。それにより、筬打ち動作に伴う緯入れノズルと給糸側の織端26との間の緯糸8の経路長の増加をより緩やかなものとすることができ、導入部で案内される過程における緯糸張力の上昇の度合いがより緩和されるので、その結果として、緯糸8の張力上昇に起因する製織や織布への影響をより少なくして織布の品質を向上させることができる。
【0094】
詳しくは、前述のように本実施例では、給糸カッタ22の緯入れノズル側にキャッチプレート23が設けられており、そのキャッチプレート23に合わせて各スリット部の高さ位置がワープライン29よりも下方の位置に設定されている。一方で、緯入れノズルは前述のようにワープライン29と同じ高さ位置に配置されており、また、当然ながら織前25もワープライン29と同じ高さ位置に位置する。このため、緯糸8における部分緯糸は、織機の筬打ち動作に伴って導入部を介してスリット部へと導かれる過程で、上下方向に関し、スリット部を形成するために上下方向に隣接する一対の板状部材によって下方へ押し下げられ、その上側の板状部材の両側縁によって上方に屈曲された状態となる。そして、この部分緯糸の屈曲される度合いは、導入部において案内される過程でスリット部に近づくにつれて大きくなり、それに伴って、部分緯糸の経路長が変化して緯糸8の張力が上昇する。
【0095】
さらに、筬打ち動作によって織前25へ運ばれる緯糸8の部分緯糸は、板状部材をその幅方向において斜めに横切る経路となるため、緯糸8が板状部材と交差する位置は、前記上側の板状部材の両側縁のうちの反緯入れノズル側の側縁の方が緯入れノズル側の側縁よりも織前側の位置となり、緯糸8は板状部材の反緯入れノズル側の側縁においてより早い時点にスリット部内へと達することになる。従って、部分緯糸の単位時間あたりの屈曲量の変化は、反緯入れノズル側の側縁の方が緯入れノズル側の側縁よりも非常に大きいものとなっている。
【0096】
このため、部分緯糸の屈曲は、緯糸8がスリット部内まで導入される反緯入れノズル側の側縁の方が緯入れノズル側の側縁に比べてさらに大きいものとなる。これに伴い、筬打ち動作の過程における緯入れされてからの単位時間あたりの部分緯糸の屈曲量の変化も、反緯入れノズル側の側縁の方が緯入れノズル側の側縁よりも大きくなるので、それに応じて、筬打ち動作に伴う緯糸8の経路長の増加及びそれに伴う緯糸張力の上昇度合いもさらに大きいものとなる。
【0097】
これに対し、本実施例では、各板状部材における導入部を前述のように先細り形状とし、且つその先細り形状を、導入部の幅方向における両側縁のうち反緯入れノズル側の側縁をスリット部の側縁に対し傾斜させることで構成されるものとしてあるため、緯糸8における部分緯糸が導入部を介してスリット部に至る過程における張力の上昇度合いを緩和することができる。従って、そのような板状部材によれば、緯糸8の張力上昇に起因する製織や織布への影響をより少なくすることができる。
【0098】
以上では、本発明の緯糸保持装置の一実施例について説明したが、本発明による緯糸保持装置は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の変形が可能である。以下に、他の実施例(変形例)について説明する。
【0099】
前記実施例では、板状部材は、その傾斜部において、先端側(反織前側)へ向けて幅方向が次第に小さくなる先細り形状を有し、その先細り形状が、傾斜部における傾斜面の反緯入れノズル側の側縁を平面部の側縁に対し傾斜させることで形成されるものとしたが、板状部材の形状についてはそのようなものに限らず、前記実施例と同様に先細り形状とする場合であっても、その先細り形状が、傾斜部における傾斜面の緯入れノズル側の側縁を平面部の側縁に対し傾斜させることによって形成されるものであってもよい。この場合においても、織機の筬打ちの過程で板状部材の緯入れノズル側の側縁における緯糸の屈曲度合いを軽減して緯糸の張力上昇の度合いを緩和することができる。また、傾斜部における傾斜面の両側縁を平面部の側縁に対し傾斜させて板状部材が先細り形状を有するものとしてもよい。さらに、板状部材の前記先細り形状について、前記では、傾斜部における傾斜面の側縁をその長手方向の全体に亘って前記のように傾斜させることで形成されるものとしているが、これに限らず、傾斜面の側縁をその長手方向における一部において前記のように傾斜させることで形成されるものとしてもよい。
【0100】
また、板状部材は、傾斜部における傾斜面を前記先細り形状に形成されるものに限らず、織機の筬打ちの過程で導入部によって屈曲される部分緯糸における緯糸張力の上昇度合いを許容できる場合には、板状部材の両側縁が長手方向の全体に亘って平行な形状に形成されるものであってもよい。
【0101】
また、前記実施例では、緯糸保持構造の各板状部材は、その傾斜部における傾斜面が上方へ向けて延びるかたちで設けられる構成となっているが、各板状部材のうちの傾斜部の下面で緯糸を案内しない板状部材については、上方へ向けて延びる傾斜部を備えている必要はない。具体的には、各緯糸保持構造における最も下側に配置される板状部材については、その傾斜部の下面で部分緯糸を案内しないことから、傾斜部が下方へ向けて延びるかたちで構成されるものであってもよい。また、この場合、その下方へ向けて延びる傾斜部の経糸方向の位置については、対応する緯入れノズルの位置に応じた位置とする必要もないことから、他の部分緯糸の案内に支障が生じない範囲において、その経糸方向の位置を前記実施例の傾斜部とは異なる位置としてもよい。また、前記最も下側に配置される板状部材は、傾斜部を備えず、長手方向の全体に亘って平板状に形成されたものであってもよい。
【0102】
前記実施例では、緯糸保持装置における全ての板状部材が同じ幅寸法を有し、各緯糸保持構造においては、その板状部材の側縁が幅方向の位置を揃えた状態で設けられることにより、各緯糸保持構造が同じ幅寸法の複数のスリット部であって他の緯糸保持構造のスリット部と同じ幅寸法のスリット部を備える構成となっているが、本発明による緯糸保持装置における板状部材及びスリット部の幅寸法については、例えば、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備える場合において、いずれかの緯糸保持構造が、他の緯糸保持構造における板状部材とは幅寸法が異なる板状部材でスリット部が形成されるものであったり、他の緯糸保持構造とは幅寸法が異なるスリット部を有するものであってもよい。なお、スリット部の幅寸法については、上下方向に隣接する一対の板状部材の幅方向における重複範囲に一致するものであるため、例えば、2つのスリット部について、各スリット部を形成する板状部材の幅寸法が同じであっても、各板状部材の幅方向の配置によってスリット部の幅寸法は異なるものとなる。
【0103】
また、緯糸保持構造が複数のスリット部を備える場合において、その緯糸保持構造内における各スリット部の幅寸法についても、それぞれの幅寸法が同じであるものに限らず、緯糸保持構造内において、いずれかのスリット部が他のスリット部と幅寸法が異なるように緯糸保持構造が構成されるものであってもよい。例えば、前記実施例のように3つの板状部材を上下に配置して2つのスリット部を形成する構成において、最も上側に配置される板状部材と最も下側に配置される板状部材とのうちのいずれか一方を中間の板状部材よりも幅寸法が小さいものとして、2つのスリット部の幅寸法が異なる構成としてもよい。なお、この構成において、中間の板状部材よりも幅寸法が小さいものとした板状部材については、両側縁の一方を中間の板状部材の側縁に揃えて配置されるものであってもよいし、両側縁が中間の板状部材の側縁と揃わない位置に配置されるものであってもよい。また、板状部材が全て同じ幅寸法を有するものとした上で、最も上側に配置される板状部材と最も下側に配置される板状部材とのうちのいずれか一方を、中間の板状部材に対し幅方向の位置を揃えない状態で配置することで、2つのスリット部の幅寸法を異ならせるものとしてもよい。
【0104】
さらに、緯糸保持構造が複数のスリット部を備える場合において、各スリット部が幅方向において位置が重複しないように設けられる構成としてもよい。具体的には、例えば、前記実施例のように3つの板状部材を上下に配置して2つのスリット部を形成する構成において、最も上側に配置される板状部材及び最も下側に配置される板状部材の幅寸法を中間の板状部材の幅寸法の半分以下とし、幅方向に関し上側の板状部材を中間の板状部材の他方の側縁に揃えて配置することにより、3つの板状部材によって形成される2つのスリット部が幅方向に関し互いに重複しない構成としてもよい。
【0105】
前記実施例では、緯糸保持装置が第1、第2の2つの緯糸保持構造を備えると共に、各緯糸保持構造が2つずつのスリット部を備えることにより、緯入れ方向に関し位置が異なる2位置に同じ数のスリット部を配置する構成としているが、本発明では、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備える場合であって、水噴射式織機に備えられる緯入れノズルの数(緯入れされる緯糸の数)が偶数の場合において、各緯糸保持構造に備えられるスリット部の数は同じである必要はなく、緯糸保持構造毎にスリット部の数が異なるものであってもよい。また、緯糸保持構造の数についても、前記実施例のような2つに限らず、3以上であって緯入れノズルの数以下であってもよい。
【0106】
例えば、前記実施例の多色の水噴射式織機の場合で言うと、緯糸保持装置が前記実施例と同様に2つの緯糸保持構造を備える場合において、一方の緯糸保持構造が1つのスリット部を有し、他方のスリット部が3つのスリット部を有するものとしてもよい。なお、この緯糸保持構造におけるスリット部の数については、緯糸の性質等を考慮して設定すればよい。すなわち、4種類の緯糸を緯入れする場合について言えば、その4種類の緯糸のうちの1つが他の緯糸とは性質が大きく異なり、そのためにその1つの緯糸については他の緯糸とは別に単独で保持力の調整が行われる方が好ましい場合には、各緯糸保持構造におけるスリット部の数を前記のように設定すればよい。
【0107】
また、例えば、前記実施例の多色の水噴射式織機において、緯糸保持装置が緯入れ方向に位置を異ならせて配置される3つの緯糸保持構造を備えるものとしてもよく、この場合は、必然的に1つの緯糸保持構造については、他の緯糸保持構造とは異なる数(2つ)のスリット部を備えるものとなる。また、本発明においては、前提となる水噴射式織機については、多色であっても前記実施例のように4つ(偶数)の緯入れノズルを備えるものに限定されないため、例えば、水噴射式織機が3以上の奇数個の緯入れノズルを備え、緯糸保持構造の数が緯入れノズルの数よりも少ない場合には、必然的に一つの緯糸保持構造については、他の緯糸保持構造とは異なる数のスリット部を備えるものとなる。
【0108】
さらに、本発明の緯糸保持装置は、緯入れノズルよりも少ない数の緯糸保持構造を備える、すなわち、緯入れ方向に関し緯入れノズルの数より少ない複数の異なる位置にスリット部を配置するものに限らず、
図5に示すように、緯入れノズルと同じ数の緯糸保持構造を備え、緯入れ方向に関し緯入れノズルと同じ数の異なる位置のそれぞれにスリット部を配置するものであってもよい。なお、この場合、当然ながら各緯糸保持構造は、スリット部を1つ備えるものとなる。
【0109】
このように、本発明においては、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備える場合であっても、その緯糸保持構造の数については緯入れノズルの数以下であればよく、緯入れノズルの数及び緯入れされる各緯糸の性質等を考慮し、適宜に設定すればよい。また、各緯糸保持構造が備えるスリット部の数についても、緯糸保持構造の数及び各緯糸の性質等を考慮し、適宜に設定すればよい。但し、本発明においては、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備えるものに限らず、緯入れノズルの数と同じ数のスリット部を有する1つの緯糸保持構造のみを備えるものであってもよい。
【0110】
前記実施例では、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備える場合において、複数の緯糸保持構造が単一の支持装置によって支持される構成となっているが、支持装置については単一として各緯糸保持構造に共通とするものに限らず、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造のそれぞれに対応する複数の支持装置を備え、各支持装置が対応する緯糸保持構造を支持する構成としてもよい。
【0111】
また、前記のような複数の支持装置については、緯糸保持装置が3以上の緯糸保持構造を備える場合に、複数の緯糸保持構造の数よりも少ない複数の支持装置を設けるものとしてもよい。すなわち、例えば、緯糸保持装置が3つの緯糸保持構造を備える場合において、2つの支持装置を備えるものとし、一方の支持装置に2つの緯糸保持構造が支持され、他方の支持装置に残りの1つの緯糸保持構造が支持されるものとしてもよい。
【0112】
さらに、前記のように緯糸保持装置が複数の支持装置を備える構成の場合において、各支持装置による対応する緯糸保持構造(ベース部材(板状部材))の支持位置については、前記実施例(支持装置が共通の場合)と同様に、経糸方向における同じ位置であってもよいが、支持装置毎に経糸方向における位置が異なるように、各支持装置が構成されたものとしてもよい。この場合、例えば、支持装置における支持部の経糸方向における位置が異なるように各支持装置が構成されるものとしてもよいし、支持部が緯入れ方向に並設される構成とした上で、その支持部上における前記支持位置が経糸方向において異なるように各支持装置が構成されるものとしてもよい。
【0113】
なお、前記のように各緯糸保持構造の前記支持位置を経糸方向において位置を異ならせる構成については、緯糸保持装置が複数の支持装置を備える場合に限らず、前記実施例のように支持装置が各緯糸保持構造に共通の場合についても、そのような構成としてもよい。例えば、前記実施例の構成の場合で言えば、支持装置における支持部に対し経糸方向において位置が異なる2つの固定孔を形成し、その一方によって第1の緯糸保持構造が支持され、他方によって第2の緯糸保持構造が支持される構成としてもよい。
【0114】
また、前記実施例では、第1の緯糸保持構造における最も下の板状部材(第3の板状部材)と第2の緯糸保持構造における最も上の板状部材(第4の板状部材)とが上下方向に重複する高さ位置に設けられており、言い換えれば、緯糸保持装置が複数の緯糸保持構造を備える場合において、緯糸保持構造に含まれる複数の板状部材のうちの一部が他の緯糸保持構造の板状部材と上下方向に関し位置が重複するように各緯糸保持構造における板状部材の高さ位置が設定されているが、各緯糸保持構造における板状部材の高さ位置についてはそのようなものに限らず、板状部材の高さ位置が他の緯糸保持構造における板状部材と上下方向において位置が重複しないものとなるように各緯糸保持構造が構成されるものとしてもよい。この場合、例えば、各緯糸保持構造のベース部材の高さ寸法を、他の緯糸保持構造のベース部材の高さ寸法との関係で各緯糸保持構造における板状部材が上下方向において互いに重複しない高さ位置となるように、その高さ寸法が設定されるものとしてもよい。また、前記のような緯糸保持装置が複数の支持装置を備える場合には、各支持装置の支持部の高さ位置を異ならせて各緯糸保持構造における板状部材が上下方向において互いに重複しない高さ位置となるようにしてもよい。
【0115】
その上で、前記のように各緯糸保持構造の前記支持位置を経糸方向において異なる位置に設定すると共に、支持位置が織前側に設定される緯糸保持構造の方が支持位置を反織前側に設定される緯糸保持構造よりも板状部材の高さ位置が上方の位置となるように設定し、さらに、各緯糸保持構造のベース部材を経糸方向に関し位置が重複しない大きさに設定することにより、各緯糸保持構造が他の緯糸保持構造の位置に関係無く緯入れ方向に位置調節可能となり、他の緯糸保持構造の位置に影響を受けることなく緯糸の保持力を調整することができるものとなる。従って、この構成の場合は、各緯糸保持構造を緯入れ方向に関し同じ位置に配置することも可能である。
【0116】
また、緯糸保持構造を支持部材に固定するための固定手段について、前記実施例では、各緯糸保持構造の板状部材をベース部材に対し固定するためのネジ部材を前記固定手段としても兼用しているが、これに限らず、板状部材をベース部材に固定するための構成と前記固定手段とは独立したものであってもよい。
【0117】
その上で、位置調節機構について、前記実施例では、支持装置(支持部)に形成される緯糸保持構造を固定するための固定孔を位置調節方向(緯入れ方向)に長い長孔とし、その長孔の範囲で前記支持位置を変更するものとしたが、これに代えて、固定手段におけるネジ部材を挿通するためのベース部材の貫通孔を長孔とし、そのベース部材を貫通孔(長孔)が緯入れ方向と平行に延在するように配置することにより、その貫通孔の範囲内で緯糸保持構造が支持装置(支持部)の固定位置に挿入されるネジ部材に対し緯入れ方向に位置調節可能となる構成としてもよい。
【0118】
また、位置調節機構については、前記実施例のような長孔を用いるものに限らず、例えば、支持装置が緯糸保持構造を支持する支持面(前記実施例における支持部の上面)に緯入れ方向に延在する突起部を設けると共に、緯糸保持構造におけるベース部材の下面に前記突起部に対応する形状の溝部を形成し、緯糸保持構造(ベース部)が前記溝部を前記突起部に嵌め合わされた状態で支持装置に支持されることで、緯糸保持構造が緯入れ方向に位置調節可能となるように構成してもよい。なお、緯糸保持構造の前記支持面上での位置決め(固定)については、例えば、ベース部材を支持部に対し固定する押しネジ等をベース部材における前記溝部の経糸方向の一方側に固定手段として設け、この押しネジと前記溝部とで突起部を経糸方向に挟持してベース部材を所定の位置で位置決めするようにしてもよい。
【0119】
また、前記実施例では、各緯糸保持構造の位置調節範囲について、緯糸の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における緯入れノズル側端を通過する位置と前記中央位置を通過する位置とに亘る範囲として設定されている。この場合、各緯糸保持構造は、緯入れ方向に関し前記範囲でのみ変位可能に構成されていればよいが、それに限らず、例えば、各緯糸保持構造が、緯糸の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における緯入れノズル側端を通過する位置と反緯入れノズル側端を通過する位置とに亘る全範囲で変位可能に構成されるものであってもよい。そして、そのような構成において、緯糸保持構造の位置調節範囲が、前記全範囲内で任意の範囲に設定されるものであってもよい。但し、緯糸の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁における反緯入れノズル側端を通過する位置ではスリット部による緯糸の保持力がゼロとなるため、位置調節範囲を設定するにあたっては、その位置を含まないように設定する必要がある。
【0120】
(緯糸保持構造内で「範囲」が異なる 通過する位置と併せて説明)
また、前記実施例では、各緯糸保持構造は、2つのスリット部を備える構成において、各緯糸の部分経路が対応スリット部の導入部側端縁において緯入れ方向に関し同じ位置を通過するように各スリット部が形成される構成となっているが、緯糸保持構造におけるスリット部がそのように形成されるものに限らず、緯糸保持構造が複数のスリット部を備える場合において、スリット部の導入部側端縁における対応する緯糸の部分経路の通過する位置が、スリット部毎に(あるいは、ある特定のスリット部と他のスリット部とで)異なるように、各スリット部が形成されるものとしてもよい。
【0121】
なお、1つの緯糸保持構造に含まれる複数のスリット部については、その緯糸保持構造の位置調節によって同じ量だけ緯入れ方向に位置調節されるが、前記のようにスリット部の導入部側端縁を対応する緯糸の部分経路が通過する位置をスリット部によって異なる構成とすることにより、緯入れ方向における位置調節範囲の位置がスリット部によって異なるものとなる。すなわち、緯糸保持構造が複数のスリット部を備える場合において、各スリット部の位置調節範囲の緯入れ方向における位置は、前記実施例のように全て同じ位置であるものには限らず、スリット部毎に(あるいは、ある特定のスリット部と他のスリット部とで)異なるように、その位置が設定されるものとしてもよい。
【0122】
また、緯糸保持構造が同じ幅寸法の複数のスリット部を備え、スリット部の位置が緯入れ方向において他のスリット部の位置と大きく異なる構成(例えば、極端な例として、前述のような複数のスリット部が幅方向において位置が重複しないように設けられる構成)の場合には、スリット部の導入部側端縁における対応する緯糸の部分経路が通過する位置はスリット部毎に異なる位置となる。このような場合において、スリット部の導入部側端縁における対応する緯糸の部分経路の通過する位置について、そのスリット部内における緯入れ方向の位置(例えば、そのスリット部内における緯入れノズル側端縁との相対位置)が他のスリット部と同じになるように構成してもよいし、他のスリット部と異なるように構成してもよい。
【0123】
前記実施例では、前提となる水噴射式織機が複数の緯入れノズルを備える多色の水噴射式織機であり、緯糸保持装置が複数の緯入れノズルに対応した複数のスリット部を備える構成としているが、本発明においては、前提となる水噴射式織機は、緯入れノズルを1つのみ備える一色の水噴射式織機であってもよく、この場合には、緯糸保持装置は、1つの緯入れノズルに対応する1つのスリット部のみを有するものとなる。
【0124】
また、前記実施例では、緯糸保持装置における緯糸保持構造が複数の緯入れノズルに対応した複数のスリット部を備える構成(多色の水噴射式織機)において、各スリット部に連続する導入部を形成する板状部材の傾斜部が、経糸方向に関し対応する緯入れノズルの両側で上方へ向けて延在するように緯糸保持構造が設けられているが、緯糸保持装置が1つの緯入れノズルに対応する1つのスリット部のみを有する場合(1色の水噴射式織機)においては、経糸方向に関し導入部が緯入れノズルに対し織前側に離間した位置となるように緯糸保持構造(緯糸保持装置)が設けられるものであってもよい。すなわち、緯入れされた緯糸が筬打ち動作によって織前へと運ばれる過程の途中で、緯糸の部分経路が導入部にもたらされるように緯糸保持構造(緯糸保持装置)が設けられるものであってもよい。
【0125】
なお、スリット部を形成する上下一対の板状部材のうちの上側の板状部材における傾斜部は、対応する緯入れノズルによって緯入れされた緯糸をスリット部内へ導入(案内)するために、ワープラインよりも上方まで延在している必要がある。従って、前記実施例のように緯糸保持構造が複数の緯入れノズルに対応した複数のスリット部を備える多色の水噴射式織機の場合には、上側のスリット部を形成する一対の板状部材の上側の板状部材の傾斜部よりも反織前側に、下側のスリット部を形成する一対の板状部材の上側の板状部材における傾斜部が、ワープラインよりも上方まで延在するかたちで存在する。そのため、上側のスリット部に連続する導入部内へ筬打ち過程の途中で緯糸の部分経路がもたらされる構成とすることはできない。従って、前記実施例のような多色の水噴射式織機における緯糸保持装置では、経糸方向に関し導入部が対応する緯入れノズルから離間した位置となるように緯糸保持構造を設けることはできない。
【0126】
これに対し、一色の水噴射式織機の場合においては、緯糸保持装置が1つの緯入れノズルに対応する1つのスリット部のみを有し、スリット部を形成する一対の板状部材の上側の板状部材の傾斜部よりも反織前側に、他のスリット部を形成する板状部材の傾斜部が存在しないため、緯入れされた緯糸が筬打ち動作によって織前へと運ばれる過程で、緯糸の部分経路が導入部にもたらされるように緯糸保持構造を構成することが可能である。但し、この構成の場合、スリット部を形成する一対の板状部材の下側の板状部材については、その傾斜部が、筬打ち動作によって織前へと運ばれる緯糸の部分経路と干渉しないように、その先端がワープラインの下方に位置する構成とすることが必要である。
【0127】
そして、前記実施例では、緯糸保持装置は、緯糸保持構造が緯入れ方向にのみ位置調節可能な構成となっているが、前述のような一色の水噴射式織機において導入部が緯入れノズルに対し織前側に離間した位置となるように緯糸保持構造(緯糸保持装置)が設けられる場合には、緯糸保持構造を経糸方向に位置調節可能な構成とすることも可能である。
【0128】
そして、その場合、例えば、緯糸保持構造が経糸方向にのみ位置調節可能な構成とし、緯糸保持構造の経糸方向の位置を調節することにより、スリット部内(水膜層内)を通過する緯糸の経路長を変更する(緯糸の保持力を調整する)ものとしてもよい。また、緯糸保持構造を経糸方向及び緯糸方向の両方で位置調節可能な構成とし、例えば、緯糸保持構造が緯入れ方向における所定の位置に配置された状態において、緯糸保持構造の位置を経糸方向に調節し、上記配置状態における緯糸の部分経路がスリット部の導入部側端縁を通過する位置を設定し、その上で、緯糸の保持力の調整については緯糸保持構造の緯入れ方向の位置の調節によって行うものとしてもよい。なお、このような緯糸保持構造の経糸方向の位置の調節による緯糸の部分経路がスリット部の導入部側端縁を通過する位置の設定については、その位置を前述の初期配置とすることで、それによって位置調節範囲が設定されるものとなる。
【0129】
さらに、前述のような一色の水噴射式織機において導入部が緯入れノズルに対し織前側に離間した位置となるように緯糸保持構造が設けられる場合には、緯糸保持構造を軸線周りの回動方向に位置調節可能な構成とし、その回動方向の位置調節によってスリット部内(水膜層内)を通過する緯糸の経路長を変更する(緯糸の保持力を調整する)構成とすることも可能である。すなわち、例えば、前記実施例における初期配置の状態から、板状部材(スリット部)をスリット部の導入部側端縁よりも反導入部側に設定された上下方向の軸線を中心として回動させてもスリット部内(水膜層内)を通過する緯糸の経路長が変化するため、そのような回動によって緯糸の保持力を調整するものとしてもよい。
【0130】
具体的には、前記回動中心となる軸線としては、例えば、前記実施例における固定部材としてのネジ部材の軸心が考えられる。すなわち、前記実施例の構成では、板状部材がその平面部における両側縁をベース部材の幅方向の両側縁に一致させた状態でベース部材に対し固定され、板状部材の長手方向の向きを経糸方向に一致させた状態で用いられるものとして説明したが、前記実施例の構成においても、ネジ部材による締結を緩めることにより、板状部材をベース部材に対しネジ部材の軸部の周りに回動させることができ、且つ、その回動させた状態(長手方向の向きを経糸方向に対し傾斜させた状態)でネジ部材を再び締結することにより、その回動させた状態を維持することができる。そして、板状部材をそのように回動させることでスリット部内(水膜層内)を通過する緯糸の経路長を変化させることができるため、その回動によって緯糸の保持力を調整することが考えられる。