【文献】
Nature Biotechnol. (2005) Vol.23, No.12, pp.1534-1541
【文献】
Nature Biotechnol. (2006) Vol.24, No.11, pp.1392-1401
【文献】
FEBS Lett. (2004) Vol.571, pp.237-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細胞集団のうち、80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団を生成する方法であって、アクチビンA及びWntリガンドを含み、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地中で、多能性幹細胞集団を、細胞集団のうち80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと分化させる工程と、を含む、方法。
細胞集団のうち、80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団を生成する方法であって、GDF−8と14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンとを含み、かつグルコース濃度が10.5mMを超えない培地中で、多能性幹細胞集団を、細胞集団のうち80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと分化させる工程を含む、前記方法。
多能性幹細胞がGDF−8と14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンで補充された培地中で分化される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0003】
I型糖尿病の細胞補充療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法として、例えば、胚性幹細胞などの多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成するものがある。
【0004】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにて、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞のグループを生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓等の組織は、内胚葉から中間段階を経て発達する。このプロセスにおける中間段階は、胚体内胚葉の形成である。胚体内胚葉細胞はHNF3 β、GATA4、MIXL1、CXCR4及びSOX17などの多数のマーカーを発現する。
【0005】
膵臓の形成は、胚体内胚葉の膵臓内胚葉への分化により生じる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX1を発現する。PDX1が存在しない場合、膵臓の発達は、腹側芽及び背側芽の形成より先に進行しない。したがって、PDX1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程を運命づける。成熟した膵臓は、他の細胞型の中でも、外分泌組織及び内分泌組織を含む。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0006】
島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞から誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389、2001年)は、マウスの胚幹細胞の、膵島と同様のインスリン分泌構造への分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157、2000年)は、ストレプトゾトシン糖尿病のマウスにおいて、マウスの胚幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が糖血症を正常化することを報告している。
【0007】
一例において、ホリ(Hori)ら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生成されたことを開示している。
【0008】
他の例では、Blyszczukら(PNAS 100:998、2003年)が、Pax4を構成的に発現するマウス胚幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0009】
Micallefらは、レチノイン酸は、胚幹細胞のPDX1陽性膵臓内胚葉形成に関する予定運命を制御できることを報告している。レチノイン酸は、胚における原腸形成の終了時に相当する期間中に、胚性幹細胞分化の4日目に培養液に添加すると、Pdx1発現の誘導に最も効果的である(Diabetes 54:301、2005年)。
【0010】
Miyazakiらは、Pdx1を過剰発現するマウス胚幹細胞株を報告している。この結果は、外因性のPdx1発現が、得られた分化細胞内でインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、p48、Pax6、及びHnf6遺伝子の発現を明らかに増加させたことを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0011】
Skoudyらは、マウス胚性幹細胞内で、アクチビンA(TGF−βスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(Pdx1、インスリン及びグルカゴン)の発現を上方制御することを報告している。最大の効果はアクチビンAを1nM用いた場合に観察された。Skoudyらはまた、インスリン及びPdx1のmRNA発現レベルはレチノイン酸による影響を受けなかった一方で、Pdx1の転写レベルは3nMのFGF7による処理により増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0012】
Shirakiらは、胚幹細胞のPDX1陽性細胞への分化を特異的に高める増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGF−β2によってPDX1陽性細胞がより高い比率で再現性よく得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16)。
【0013】
Gordonらは、血清の非存在下、かつアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚性幹細胞からの短尾奇形[陽性]/HNF3β[陽性]内胚葉細胞への誘導を示した(米国特許第2006/0003446(A1)号)。
【0014】
Gordonら(PNAS、103巻、16806頁、2006年)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンシグナル伝達は、前側の原始線条の生成の際に同時に必要である」と述べている。
【0015】
しかしながら、胚幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒト等のより高等な哺乳動物内の発達プログラムを正確に模倣しない恐れがある。
【0016】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚幹細胞を単離した(Science 282:114、1998年)。これと同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児生殖腺組織から、ヒト胚生生殖(hEG)細胞株を誘導した(Shamblottら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。単に白血病抑制因子(LIF)と共に培養すれば分化が阻止され得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号;国際公開第01/51616号)。
【0017】
ダムールら(D’Amour)は、高濃度のアクチビン及び低濃度の血清の存在下で、ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉の濃縮化された培養物が調製されたことを述べている(Nature Biotechnology 2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓皮膜下で移植することにより、いくつかの内胚葉性器官の特徴を有する、より成熟した細胞への分化が見られた。ヒト胚幹細胞由来の胚体内胚葉細胞は、FGF−10の添加後、PDX1陽性細胞に更に分化し得る(米国特許出願公開第2005/0266554A1号)。
【0018】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「我々はヒト胚性幹(hES)細胞を、膵臓ホルモンインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンを合成できる内分泌細胞へと変換させる分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を通して細胞を指向させることにより、インビボでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0019】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387(A1)号)。この場合、分化経路は3つの段階に分割された。ヒト胚性幹細胞は、まず始めに酪酸ナトリウム並びにアクチビンAを組み合わせて処理することで内胚葉へと分化された。次いで、ノギンなどのTGF−βアンタゴニストとEGF又はベータセルリンを組み合わせて用い、細胞を培養し、PDX1陽性細胞を生成した。最終分化は、ニコチンアミドにより誘導した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
開示を分かりやすくするため、限定を目的とすることなく、「発明を実施するための形態」を、本発明の特定の特徴、実施形態、又は用途を説明又は例示する下記の小項目に分割する。
【0025】
定義
幹細胞は、単独の細胞レベルで自己複製し、分化して後代細胞を生成するという、これらの両方の能力で定義される未分化細胞であり、後代細胞には、自己複製前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞が含まれる。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞へと分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉層の組織を生じ、胚盤胞への注入後、すべてではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0026】
幹細胞は、発生能によって、(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系の小集合を生じるが、すべて特定の組織、器官、又は生理学的システム内で生じる能力を意味する複能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む後代を産生できる)、(4)複能性幹細胞と比較して、より限定された細胞系統の小集合を生じる能力を意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系(例えば、精子形成幹細胞)を生じる能力を意味する単能性に分類される。
【0027】
分化は、専門化されていない(「中立の」)又は比較的専門化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの専門化された細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化細胞又は分化誘導した細胞は、細胞系内でより専門化された(「分化決定された」)状況を示す細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系統内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用される場合、細胞系統は、細胞の遺伝、即ちその細胞がどの細胞に由来するか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系とは、発生及び分化の遺伝スキーム内にその細胞を位置付けるものである。系統特異的マーカーとは、対象とする系統の細胞の表現型と特異的に関連した特徴を指し、分化決定されていない細胞の、対象とする系統への分化を評価するために使用することができる。
【0028】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」又は「ステージ1細胞」又は「ステージ1」とは、以下のマーカー、すなわち、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、FGF4、CD48、eomesodermin(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、又はOTX2のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞が挙げられる。
【0029】
本明細書で使用するとき、「膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー、すなわち、PDX1、NKX6.1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HNF4 α、SOX9、HB9、又はPROX1のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカー、すなわち、HNF3 β、GATA4、SOX17、Cerberus、OTX2、goosecoid、C−Kit、CD99、及びMIXL1を発現する。
【0031】
本明細書で使用するとき「マーカー」とは、対象とする細胞で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。この文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーのレベルの増大及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。マーカー核酸又はポリペプチドの検出限界は、他の細胞と比較して対象とする細胞において充分に高いか又は低いことから、当該技術分野において知られる各種方法のいずれを用いても対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することが可能である。
【0032】
本明細書で使用するとき、「膵臓内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」又は「膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のホルモン、すなわち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指す。
【0033】
多能性幹細胞の単離、増殖及び培養
多能性幹細胞の特徴付け
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現する(Thomsonら、Science 282:1145,1998)。インビトロで多能性幹細胞を分化させると、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現が減少し(存在する場合)、SSEA−1の発現が上昇する。未分化の多能性幹細胞は、典型的には、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories(Burlingame Calif.))によって記載されるようにVectorRedを基質として現像することによって検出することができる、アルカリホスファターゼ活性を有しする。未分化の多能性幹細胞はまた、RT−PCRにより検出されるように、一般にOCT4及びTERTも発現する。
【0034】
増殖させた多能性幹細胞の別の望ましい表現型は、3つの胚葉のすべて、すなわち、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化する能力である。多能性幹細胞の多能性は、例えば細胞を重症複合型免疫不全症(SCID)マウスに注入し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、形成された奇形腫を固定した後、それらを3つの胚葉由来の細胞型の痕跡に関して組織学的に検査することにより確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成し、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0035】
増殖させた多能性幹細胞株は、標準的なGバンド法を使用し、対応する霊長類種の発表されている核型と比較することで、核型を決定することができる。細胞は「正常な核型」を有することが望ましく、「正常な核型」とは、細胞が正倍数体であり、ヒト染色体がすべて揃っておりかつ目立った変化のないことを意味する。
【0036】
多能性幹細胞の供給源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではないが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば胚盤胞など)、胚性組織又は胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の樹立株が含まれる。非限定的な例としては、例えばヒト胚性幹細胞株H1、H7及びH9(WiCell)などのヒト胚性幹細胞又はヒト胚生殖細胞の樹立株が挙げられる。更に、こうした細胞の初期の株化又は安定化の際に本開示の組成物を使用することも考えられるが、その場合は、供給源となる細胞は供給源の組織から直接採取される1次多能性細胞である。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen,Athens,GA)などの変異型ヒト胚幹細胞株も好適である。
【0037】
一実施形態では、ヒト胚性幹細胞は、Thomsonらに開示される方法の通りに調製される(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133 ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0038】
多能性幹細胞の培養
一実施形態において、多能性幹細胞は、フィーダー細胞の層上で培養され、このフィーダー細胞は、多能性幹細胞を様々な方法で支持する。代替的に、多能性幹細胞は、基本的にフィーダー細胞が存在しないにも関わらず、ほぼ分化を受けないで多能性幹細胞の増殖を支持する培養液システム中で培養される。多能性幹細胞を分化させずに無フィーダー培養液中で増殖させる際には、以前に他の細胞種を予め培養しておいて馴化させた培地を使用することでこの操作が支持される。代替的に、多能性幹細胞を無フィーダー培養液中で分化させずに増殖させる際は、合成培地を使用することでこの操作が支持される。
【0039】
一実施形態において、多能性幹細胞は、Reubinoffら(Nature Biotechnology 18:399〜404(2000))に開示されている方法に従って、マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞層上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Thompsonらに開示されている方法に従ってマウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞層上で培養されてもよい(Science 6 November 1998:Vol.282.no.5391,pp.1145〜1147)。あるいは、多能性幹細胞は、Richardsら(Stem Cells 21:546〜556,2003)に開示されているフィーダー細胞層の任意の1つの上で培養されてもよい。
【0040】
一実施形態では、多能性幹細胞は、Wangら(Stem Cells 23:1221〜1227,2005)に開示されている方法に従って、ヒトフィーダー細胞層の上で培養されてもよい。代替実施形態では、多能性幹細胞は、Stojkovicら(Stem Cells 2005 23:306〜314,2005)に開示されているヒトフィーダー細胞層の上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Miyamotoら(Stem Cells 22:433〜440,2004)に開示されているヒトフィーダー細胞層の上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Amitら(Biol.Reprod 68:2150〜2156,2003)に開示されるヒトフィーダー細胞層上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Inzunzaら(Stem Cells 23:544〜549,2005)に開示されているヒトフィーダー細胞層の上で培養されてもよい。
【0041】
一実施形態では、多能性幹細胞は、米国特許出願公開第2002/0072117号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許第6642048号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005014799に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2007/0010011号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0233446号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許第6800480号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005065354号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。
【0042】
一実施形態では、多能性幹細胞は、国際公開第2005065354号に開示される培養培地中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005086845号に開示される培養培地中で培養されてもよい。
【0043】
一実施形態では、多能性幹細胞は、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)に開示される方法に従って培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0148070号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0244962号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005086845号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。
【0044】
多能性幹細胞は、好適な培養基質上に播くことができる。一実施形態において、好適な培養基質は、例えば基底膜から誘導されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るもの等の細胞外マトリクス成分である。一実施形態において、好適な培養基材はMATRIGEL(登録商標)(Becton Dickenson)である。MATRIGEL(登録商標)は、Engelbreth−Holm Swarm腫瘍細胞由来の可溶性製剤であり、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0045】
他の細胞外マトリクス成分及び成分混合物は代替物として好適である。増殖させる細胞型に応じて、これは、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を、単独で又は様々な組み合わせで含み得る。
【0046】
多能性幹細胞は、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下、基質上に好適な希釈率にて播かれてもよい。これらの特徴のすべては、播種分布に細心の注意を払うことで利益を得られるものであり、当業者は容易に決定することができる。
【0047】
好適な培地は、以下の成分、すなわち例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco # 11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco #10829−018;ハムF12/50% DMEM基本培地;200mM L−グルタミン、Gibco # 15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco # 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma # M7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco # 13256−029等から調製することもできる。
【0048】
多能性幹細胞からの胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
本発明は、多能性幹細胞集団からの、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団の生成方法を提供する。一実施形態では、本発明は、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵内分泌系マーカーを発現する細胞へと更に分化させる方法を提供する。一実施形態では、この操作は、段階的分化プロトコルを用いて実施される。このプロトコルでは、まず始めに、多能性幹細胞集団は胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化される。次に、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化される。次に、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化される。
【0049】
本発明は、80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を提供する。この細胞集団は更に処理されて、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を生成してもよい。この膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は更に処理されて、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を生成してもよい。
【0050】
分化の効率は、処理した細胞集団を、所望の細胞型に特徴的なマーカーを発現する細胞によって発現されるタンパク質マーカーを特異的に認識する作用剤(例えば、抗体など)に暴露することにより測定することができる。
【0051】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当技術分野にて標準的である。この方法としては、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、インサイツハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、eds.2001 supplement)を参照されたい)、並びにイムノアッセイ、例えば、免疫組織化学的分析、ウェスタンブロッティング、及びインタクトな細胞で利用できるマーカーについてのフローサイトメトリー分析(FACS)(例えば、Harlow及びLane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)参照)が挙げられる。
【0052】
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同定されている。多能性幹細胞のマーカーとして、例えば、以下のもの、すなわち、ABCG2、cripto、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、Tra 1−81の1つ以上の発現が挙げられる。
【0053】
多能性幹細胞を本発明の方法で処理した後、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞により発現される、例えばCXCR4等のタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(例えば、抗体等)に暴露することにより、分化した細胞を精製することができる。
【0054】
本発明で用いるのに好適な多能性幹細胞としては、例えば、ヒト胚性幹細胞株H9(NIHコード:WA09)、ヒト胚性幹細胞株H1(NIHコード:WA01)、ヒト胚性幹細胞株H7(NIHコード:WA07)、及びヒト胚性幹細胞株SA002(Cellartis,Sweden)が挙げられる。多能性細胞に特徴的な以下のマーカー、すなわち、ABCG2、cripto、CD9、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、及びTra 1−81のうちの少なくとも1つを発現する細胞も本発明で用いるのに好適である。
【0055】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4、CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、c−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞は本発明での使用に好適である。本発明の一態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0056】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、NKX6.1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HNF4 α、SOX9、HB9、及びPROX1からなる群から選択される。膵臓内胚葉系に特徴的なこれらのマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞が本発明における使用に適している。本発明の一態様では、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0057】
膵内分泌系に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、NGN3、及びPTF−1 αからなる群から選択される。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することができる。本発明で使用するに好適なものは、膵内分泌系の特徴を示すマーカーを少なくとも1つ発現する細胞である。本発明の一態様において、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵内分泌細胞である。膵内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってもよい。
【0058】
本発明の一態様では、膵内分泌細胞は、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、PDX1と、以下の転写因子、すなわち、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現する。本発明の一態様では、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0059】
多能性幹細胞からの胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
本発明の一態様では、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で多能性幹細胞を培養することで、多能性幹細胞集団は胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化されてもよい。一実施形態では、多能性幹細胞集団の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団への分化は、多能性幹細胞をアクチビンA及びWntリガンドにより活性化処理することで実施される。
【0060】
別の実施形態では、多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団への分化は、GDF−8と、次の:アニリン−ピリジノトリアジン、環状アニリン−ピリジノトリアジン、N−{[1−(フェニルメチル)アゼパン−4−イル]メチル}−2−ピリジン−3−イルアセトアミド、4−{[4−(4−{[2−(ピリジン−2−イルアミノ)エチル]アミノ}−1,3,5−トリアジン−2−イル)ピリジン−2−イル]オキシ}ブタン−1−オール、3−({3−[4−({2−[メチル(ピリジン−2−イル)アミノ]エチル}アミノ)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ピリジン−2−イル}アミノ)プロパン1−オール、N〜4〜−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−N−2〜−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]ピリド[2,3−d]ピリミジン−2,4−ジアミン、1−メチル−N−[(4−ピリジン−3−イル−2−{[3−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−1,3−チアゾール−5−イル)メチル]ピペリジン−4−カルボキサミド、1,1−ジメチルエチル{2−[4−({5−[3−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル]−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル}アミノ)フェニル]エチル}カルバマート、1,1−ジメチルエチル{[3−({5−[5−(3−ヒドロキシプロピル)−2−(メチルオキシ)フェニル]−1,3−オキサゾール−2−イル}アミノ)フェニル]メチル}カルバマート、1−({5−[6−({4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)スルホニル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−イル]チオフェン−2−イル}メチル)ピペリジン−4−オール、1−({4−[6−({4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)スルホニル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−イル]チオフェン−2−イル}メチル)ピペリジン−4−カルボキサミド、及び2−{[4−(1−メチルエチル)フェニル]アミノ}−N−(2−チオフェン−2−イルエチル)−7,8−ジヒドロピリド[4,3−d]ピリミジン−6(5H)−カルボキサミドからなる群から選択される少なくとも1つの他の因子とで多能性幹細胞を処理することで実施される。使用に好適な因子の例は、米国特許出願公開第12/494,789号に見ることができる。一実施形態では、少なくとも1つの他の因子は14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンである。
【0061】
多能性幹細胞集団は、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で約1日〜約7日間にわたって培養することができる。あるいは、多能性幹細胞集団は、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で約1日〜約6日間にわたって培養することができる。あるいは、多能性幹細胞集団は、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で約1日〜約5日間にわたって培養することができる。あるいは、多能性幹細胞集団は、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で約1日〜約4日間にわたって培養することができる。あるいは、多能性幹細胞集団は、グルコース濃度が10.5mMを超えない培地で約4日間にわたって培養することができる。
【0062】
一実施形態では、GDF−8は約5ng/mL〜約500ng/mLの濃度で使用される。別の実施形態では、GDF−8は約5ng/mL〜約50ng/mLの濃度で使用される。別の実施形態では、GDF−8は約5ng/mL〜約25ng/mLの濃度で使用される。別の実施形態では、GDF−8は約25ng/mLの濃度で使用される。
【0063】
アクチビン−Aは、約1pg/mL〜約100μg/mLの濃度で使用されてもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0064】
Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。一実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0065】
Wntリガンドは、約1ng/mL〜約1000ng/mLの濃度で使用されてもよい。代替実施形態では、Wntリガンドは、約10ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。一実施形態では、Wntリガンドの濃度は約20ng/mLである。
【0066】
膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
一実施形態では、本発明の方法により生成された胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、当該技術分野の任意の方法により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化する。
【0067】
例えば、本発明の方法に従って得られた胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示される方法に従って処理することで、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0068】
例えば、本発明の方法に従って得られた胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第11/736,908号に開示される方法に従って処理することで、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0069】
膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
一実施形態において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、当技術分野における任意の方法により、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化する。
【0070】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0071】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0072】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第11/736,908号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0073】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第11/779,311号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0074】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許第60/953,178号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0075】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許第60/990,529号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0076】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
ヒト多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化における培地及び播種プロトコルの役割
継代数41のヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p41)をTrypLE(カタログ番号12604−013(Invitrogen、CA))により剥離させ、MATRIGEL(登録商標)コーティングしたディッシュ(1:30希釈)で、20ng/mLのFGF2(カタログ番号100−18B(PeproTech、NJ))及び10μMのY−27632(Rhoキナーゼ阻害剤、カタログ番号Y0503(Sigma、MO))を添加したMEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)に、個別の細胞として密度100,000個/cm
2で播種した。
【0078】
並行して、継代数41のヒト胚性幹細胞株H1の細胞を、Dispase(カタログ番号17105−041,Invitrogen,CA)により剥離させ、細胞コロニーとして、継代比1:3で、MATRIGEL(登録商標)コーティングしたディッシュ(1:30希釈)内の20ng/mlのFGF2を添加したMEF−CMに播種した。単細胞に分散させた状態での細胞培養及びコロニー状態での培養のいずれについても、播種後24時間及び48時間で、培地を20ng/mlのFGF2を添加した新鮮なMEF−CM培地と交換した。
【0079】
播種後72時間で、次の通りに培養物を胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させた:
a.追加で0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)を含有させ、2%脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加えて20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)で1日、次に追加で0.0025g/mlの重炭酸ナトリウムと2%のBSA、Glutamaxと100ng/mlのアクチビンAを添加したMCDB−131で3日間培養した(条件1)、又は
b.2%脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)及び100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加えて20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したRPMI−1640(カタログ番号22400−105,Invitrogen,CA)で1日間、次に2%のBSA及び100ng/mlのアクチビンAを添加したRPMI−1640培地で、更に3日間、毎日同様の培地で培地交換して培養した(条件2)。
【0080】
4日目にFACS解析に備えて試料を回収した。
図1では、CXCR4及びCD9発現に関してのフローサイトメトリー結果を、Y軸はCXCR4発現をプロットしX軸はCD9発現をプロットする分散プロット形式で示す。CXCR4、CD9、及びCD99(他の分化マーカー)を発現する細胞の割合を表1に要約する。細胞表面マーカーCXCR4及びCD99の発現の増加により測定される分化は、MCDB−131培地を使用した場合に改善され、CXCR4及びCD99の発現は、コロニー形態で培養する形式から単細胞を培養する形式へと変化させた場合に更に上昇した。更に、これらのデータは、フローサイトメトリーにより測定されたCD9の発現低下と相関した。CD9は未分化の細胞に関する細胞マーカーである。
【0081】
興味深いことに、
図1において、クラスタ又はコロニー形式の形態のいずれかでMCDB−131を使用した場合、どちらのマーカーも陰性(CXCR4
−/CD9
−)である細胞はより少なくなることが示された。すなわち、MCDB−131培地で処理した培養物中には、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現していない細胞は、より少なかったことが示された。総じて、これらのデータは、H1ヒト胚性幹細胞は、RPMI−1640培地よりもMCDB−131培地の存在下でより効率的に分化し、かつMCDB−131の分化は、細胞をコロニー形式で播種及び培養するよりも、単細胞として播種及び培養することでより改善され得ることを意味する。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例2)
ヒト多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化におけるグルコースの役割
グルコースは可溶性のヘキソース糖であり、Ames’培地;イーグル基本培地(BME);Fitton−Jackson変法BGJb培地;Click’s培地;CMRL−1066培地;ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM);DMEM/HamF−12栄養培地(50:50);Coon’s変法F−12培地;Fischer’s培地;H−Y培地(Hybri−Max(登録商標));Iscove’s改変ダルベッコ培地(IMDM);McCoy’s 5A改変培地;MCDB培地;培地199;イーグル最少培地(EMEM);NCTC培地;HamF−10栄養培地;HamF−12栄養培地;Kaighn変法HamF−12栄養培地(F12K);RPMI−1640;無血清/無タンパク質ハイブリドーマ培地;Waymouth培地MB;Williams培地E並びに各種専用培地など、ほとんどすべての細胞培養培地に添加される。http://www.sigmaaldrich.com/life−science/cell−culture/learning−center/media−expert/glucose.htmlを参照されたい。
【0084】
細胞培養培地に含まれるグルコース濃度は異なる。MCDB系の培地では、グルコースは3.9〜10mMの範囲の濃度で含有され、ほとんどの培地は1g/L(5.5mM)〜10g/L(55mM)の範囲の濃度でグルコースを含有するのに対し、RPMI−1640はグルコースを11mM含有する。10mMのグルコース濃度は、細胞培養系では、糖尿病条件と類似する。in vivoの細胞及び分子に影響を及ぼすものと同様の工程がin vitroにおいても生じ得ることから、この濃度の類似性は重要である。本質的に糖尿病性のものである条件下で細胞を増殖させると、細胞及び細胞産物は糖化及び糖酸化(glyoxidation)過程により変更を受け、グルコースに介在される酸化及びカルボニルストレスにより損傷を受ける恐れがある。http://www.sigmaaldrich.com/life−science/cell−culture/learning−center/media−expert/glucose.htmlを参照されたい。
【0085】
現在、胚性内胚葉の生成に使用されている培地としては、例えば25mMのグルコースを含有しているIscove’s改変ダルベッコ培地(IMDM)(Kuboら;April 1,2004,Development 131,1651〜1662)、11mMのグルコースを含有しているRPMI(D’Amourら、Nat Biotechnol.2005 Dec;23(12):1534〜41)又は17.5mMのグルコースを含有しているDMEM−F12が挙げられる。これらの各培地のグルコース濃度は糖尿病性の条件と同様10mMを超える。これらを踏まえ、我々は、高グルコース培養培地により細胞に生じ得るストレスを減少させるために、ヒト胚性幹細胞を胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させる際にグルコース濃度を10mMよりも低くすることを試みた。グルコース濃度が10mMよりも低い培地としては、例えば、基本的にグルコース濃度が5.5mMであるMCDB−131が挙げられる。
【0086】
継代数41のヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p41)をTrypLE(カタログ番号12604−013,Invitrogen,CA)により剥離させ、MATRIGEL(登録商標)コーティングしたディッシュ(1:30希釈)で、20ng/mLのFGF2(カタログ番号100−18B(PeproTec
h,NJ))及び10μMのY−27632(Rhoキナーゼ阻害剤、カタログ番号Y0503(Sigma、MO))を添加したMEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)に、個別の細胞として密度100,000個/cm
2で播種した。播種後24時間及び48時間の時点で、培地を20ng/mlのFGF2を含有させた新鮮なMEF−CMと交換した。72時間後、次の通りに培養物を胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させた。
【0087】
a.2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mLのアクチビンA(R&D Systems,MN)と20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−
002,R&D Systems,MN)と、0、5、10、15、20、又は25mMのいずれかの濃度のグルコース(カタログ番号G8769,Sigma,MO)を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)培地で1日培養し、次に
b.2%のBSAと重炭酸ナトリウムとGlutamaxと100ng/mLのアクチビンAと、0、5、10、15、20、又は25mMのいずれかの濃度のグルコースを添加したMCDB−131培地で更に3日間培養した。
【0088】
4日目に、FACS解析、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析、並びにViaCount(登録商標)(Guava(登録商標),Millipore,Billerica,MA)による細胞計数のために、試料を回収した。実施例1で得られた結果と同じく、多能性幹細胞から胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させた細胞は、胚体内胚葉系に関連するマーカーを強く発現していた(
図2A)。培地に添加されるグルコース濃度が0、5、10、15、20、又は25mM(それぞれ最終濃度:5.5、10.5、15.5、20.5、25.5,又は30.5mM)である場合、
図2Bに示す通り、更に10mMのグルコース(最終グルコース濃度15.5mM)で処理した試料において、細胞数の最も穏やかな増加が観察された。
図2Aに示す通り、更に5mMグルコース(最終グルコース濃度10.5mM)を添加した場合、細胞ではCXCR4発現の中程度の増加が観察された。しかしながら、細胞数及びCXCR4の増加は、合計細胞生存率の低下により相殺された(
図2B)。
【0089】
基本濃度のグルコース(5.5mM)では、培養物中のほとんどすべての細胞がSOX17陽性であり、細胞は培養皿中に均一に分散していた(
図3A及びB)。グルコース濃度を増加させると、細胞は、SOX17の高発現を維持しつつもクラスタを形成するようになったことが観察された。これらのクラスタを形成している細胞は、基本濃度のグルコースで培養した細胞集団と比べ、培養皿表面に不均一に分散していた。この影響は、クラスタを形成した細胞において、未分化細胞の細胞マーカーCD9及びOCT4、並びに胚体外外胚葉の細胞マーカーSOX7の発現が僅かに上昇し、かつホメオボックスHB9(HLXB9)としても公知である膵臓ホメオボックス1(MNX1)の遺伝子発現が減少したことと相関した(
図4)。
【0090】
5.5mM(低)又は25mM(高)のいずれかの濃度でグルコースを含有させたDMEM(カタログ番号10567−014及び21063−029,Invitrogen,CA)で分化させた培養物においても、グルコース濃度に相関して同様の影響が観察された。上記のように、対照については、細胞は単細胞として播種し、MEF馴化培地で3日間培養し、5.5mM若しくは25mMのグルコースを添加したMCDB−131培地、又は2%の脂肪酸不含BSAと100ng/mlのアクチビンAと20ng/mlのWNT−3aとを添加した高若しくは低グルコースDMEM培地で1日分化させ、続いて2%脂肪酸不含BSAと100ng/mlのアクチビンAを添加した日用培養培地と交換して更に3日間培養した。
【0091】
MCDB−131培地により得られた結果、すなわち、グルコース濃度を上昇させることで、低濃度のグルコースで培養した場合と比較して胚胎内胚葉形成が阻害されるという結果と同様、DMEM中のグルコース濃度を上昇させた場合にhES細胞の分化が低下することが観察された。胚体内胚葉への分化後のフローサイトメトリーによると、5.5mMグルコースを含有している培地では細胞の88.6%はCXCR4陽性であったのに対し、25mMグルコースを含有している培地ではCXCR4陽性細胞は80%であった。加えて、qRT−PCR(SOX17)により測定したところ、高グルコースの細胞供給培地では、低グルコースの細胞供給培地と比べ、胚体内胚葉への分化マーカーが減少した一方で、未分化の細胞(OCT4)又は別の分化運命(CDX2)に関するマーカーが増加していた(
図5)。この影響は、4日間の分化工程において分化を開始して48時間後に培地pHが低下したと我々が指摘する培地pHの変化に少なくとも部分的に起因した。更に、胚体内胚葉生成の開始及び終了時の培養培地のpHが高くなる程(8.1>pH>7.6)(
図6)、より完全に胚体内胚葉へと変換された。
【0092】
要約すると、我々の示す結果により、細胞の80%超が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を生成するにあたり、基本濃度のグルコース(5.5mM)を分化培地に含有させれば十分であることが示される。分化培地に含まれるグルコース濃度を10.5mMに増加させた場合、この濃度は同様の集団を生成するのに十分な濃度であったものの、グルコース濃度が10.5mMを超えると、多能性/未分化度を示すCD9若しくはOCT4などのマーカーの発現が増加する、又は別の分化運命/胚体外外胚葉に関連付け得られるSOX7若しくはCDX2などのマーカーの発現が増加する恐れがある。
【0093】
(実施例3)
ヒト多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化におけるpH調整の役割
継代数46のヒト胚性幹(hES)細胞株H1の細胞(p46)を、Dispase(カタログ番号17105−041,Invitrogen,CA)により剥離させ、細胞コロニーとして、MATRIGEL(1:30希釈)コーティングしたディッシュ内の、20ng/mlのFGF2を添加したMEF−CMに継代比1:3で播種した。次の通りに胚体内胚葉(DE)への分化を開始するまで、毎日この培地を20ng/mlのFGF2を添加した新鮮なMEF−CMと交換した:
a.2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加えて20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)培地で1日培養し、続いて2%のBSAとGlutamaxと100ng/mlのアクチビンAを添加したMCDB−131で更に3日間、毎日同様の培地で培地交換して処理した;又は
b.更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)を含有させ、2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加え20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したMCDB131培地で1日間培養し、続いて更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウムを含有させ、2%のBSAとGlutamaxと100ng/mlのアクチビンAを添加したMCDB−131で更に3日間、毎日同様の培地で培地交換して処理した。
【0094】
4日目に、FACS解析、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析、並びにViaCount(登録商標)(Guava(登録商標),Millipore,Billerica,MA)による細胞計数のために、試料を回収した。実施例2で示す通り、我々は、分化培地のpHを比較的より酸性のもの(pH7.6未満)にすることで、分化指向性が低下しかつ他の分化指向性が増加することに起因して、CXCR4発現が低下し得ることに気づいた。
【0095】
この効果がpHによるものなのか試験するために、我々は公開濃度の1g/Lの重炭酸ナトリウムを含有させたMCDB−131基本培地で細胞を分化させ、並びに重炭酸塩濃度3.7g/LのDMEMで細胞を分化させた。細胞表面マーカーCXCR4の発現の増加とCD9の発現の低下により分化を測定したところ、緩衝剤を使用することで分化が改善されることが観察された。緩衝剤として3.7g/lの重炭酸ナトリウムを添加したMCDB−131培地で分化させた細胞では、重炭酸ナトリウムを基本濃度(1g/l)で含有させたMCDB−131で分化させた細胞と比較して、有意にCXCR4の発現レベルが高くかつCD9の発現レベルは低かった(
図7A及びB)。これは、MCDB−131培地のpHが7.5であり、かつ2.7g/lの重炭酸ナトリウムを添加することでpHが7.6に上昇していたことに一部起因する。
【0096】
更に、分化の終了時には、pH指示薬のフェノールレッドを含有させた未分化培地で増殖させた培養物の培地では、有意に黄色みが増し、酸性が増していたのに対し、重炭酸ナトリウムを添加し緩衝化させた培地で培養させた培養物は赤色を保持していた。これらの結果により、培地のpHを7.6以上に上昇させることで多能性幹細胞から胚体内胚葉へのより効率的な分化が促進され、また、培地のpHを上昇させかつ安定させるには、重炭酸塩系の緩衝剤の代わりに、限定するものではないが、CO
2濃度を増加させたインキュベータ、並びにHEPES又はリン酸などのその他の可溶性緩衝系を使用することができることが示される。
【0097】
(実施例4)
ヒト多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化におけるRPMI−1640又はMCDB−131培地並びにTGF−βスーパーファミリーメンバーのアクチビンA及びGDF−8の役割
継代数47のヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p47)をTrypLE(カタログ番号12604−013,Invitrogen,CA)により剥離させ、単細胞として、MATRIGEL(登録商標)コーティングしたディッシュ(1:30希釈)内の、20ng/mLのFGF2(カタログ番号100−18B,PeproTech,NJ)及び3μMのH−1152,glycyl(Rhoキナーゼ阻害剤,カタログ番号555554,EMD chemicals,Gibbstown,NJ)を添加したMEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)に、密度100,000個/cm
2で播種した。
【0098】
播種後72時間で、次の通りに培養物を胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させた:
a.更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)を含有させ、2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加え20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)で1日間培養し、次に更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウムと2%のBSAとGlutamaxと100ng/mlのアクチビンAを添加したMCDB−131で3日間培養した。
【0099】
b.更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)を含有させ、2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)、1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのGDF−8(R&D Systems,MN)に加え2.5μMのGSK3B阻害剤14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンを添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)で1日間培養し、次に、更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウムと2%のBSAとGlutamaxと100ng/mlのGDF−8を添加したMCDB−131で3日間培養した。又は
c.更に0.0025g/mlの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187,Sigma,MO)を含有させ、2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と1XのGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079,Invitrogen,Ca)と100ng/mlのGDF−8(R&D Systems,MN)を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019,Invitrogen,CA)で4日間培養した。又は
d.2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と100ng/mlのアクチビンA(R&D Systems,MN)に加え20ng/mlのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002,R&D Systems,MN)を添加したRPMI−1640(カタログ番号22400−105,Invitrogen,CA)で1日間培養し、次に2%のBSAと100ng/mlのアクチビンAを添加したRPMI−1640培地で、更に3日間、毎日同様の培地で培地交換して処理した。
【0100】
e.2%の脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700,Proliant,IA)と100ng/mlのGDF−8(R&D Systems,MN)に加え2.5μMのGSK3B阻害剤14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンを添加したRPMI−1640(カタログ番号22400−105,Invitrogen,CA)で1日間培養し、次に2%のBSAと100ng/mlのGDF−8を添加したRPMI−1640培地で、更に3日間、毎日同様の培地で培地交換して処理した。
【0101】
4日目に、FACS解析並びにqRT−PCRに備えて試料を回収した。表2に、CXCR4、CD9、及びCD99(その他の分化マーカー)を発現する細胞の割合を要約した。細胞表面マーカーCXCR4の発現の増加により測定された分化は、RPMI−1640を使用した場合よりもMCDB−131培地を使用した場合の方が改善され、CXCR4の発現は、アクチビンA及びWnt3aを使用した場合よりも、GDF−8とGSK3Bを組み合わせて使用した場合に更に上昇した。MNX−1遺伝子についてのqRT−PCRにより、MCDB−131培地を使用した場合に、RPMI−1640よりも分化が改善され、また、GDF−8とGSK3B阻害剤と組み合わせて使用した場合に、アクチビンAとWnt3aを併用した場合よりも分化が改善されるという同様の結果が観察された(
図8)。更に、これらのデータは、フローサイトメトリーによって測定された、未分化の細胞に関する細胞マーカーのCD9発現の低下(表2)、又はqRT−PCRにより測定された、OCT4及びCD9の発現の低下(
図8)と相関した。これらのデータは、H1ヒト胚性幹細胞の分化は、RPMI−1640培地よりもMCDB−131培地の存在下でより効率的であり、かつMCDB−131での分化効率は、細胞をGDF−8とGSK3B阻害剤の存在下で分化させることで、アクチビンAとWnt3aを用い分化させた場合よりも更に改善できることを意味する。
【0102】
【表2】
【0103】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。
本発明は以下を提供する。
[1]
細胞集団のうち、80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している、細胞集団。
[2]
細胞集団のうち、80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団を生成する方法であって、
a.多能性幹細胞集団を培養する工程と、
b.グルコース濃度が10.5mMを超えない培地中で、多能性幹細胞集団を、細胞集団のうち80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと分化させる工程と、を含む、方法。
[3]
前記多能性幹細胞集団を、アクチビンAとWntリガンドを用い、細胞集団のうち80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと分化させる、請求項2に記載の方法。
[4]
前記多能性幹細胞集団を、GDF−8と、アニリン−ピリジノトリアジン、環状アニリン−ピリジノトリアジン、N−{[1−(フェニルメチル)アゼパン−4−イル]メチル}−2−ピリジン−3−イルアセトアミド、4−{[4−(4−{[2−(ピリジン−2−イルアミノ)エチル]アミノ}−1,3,5−トリアジン−2−イル)ピリジン−2−イル]オキシ}ブタン−1−オール、3−({3−[4−({2−[メチル(ピリジン−2−イル)アミノ]エチル}アミノ)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ピリジン−2−イル}アミノ)プロパン1−オール、N〜4〜−[2−(3−フルオロフェニル)エチル]−N〜2〜−[3−(4−メチルピペラジン−1−イル)プロピル]ピリド[2,3−d]ピリミジン−2,4−ジアミン、1−メチル−N−[(4−ピリジン−3−イル−2−{[3−(トリフルオロメチル)フェニル]アミノ}−1,3−チアゾール−5−イル)メチル]ピペリジン−4−カルボキサミド、1,1−ジメチルエチル{2−[4−({5−[3−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル]−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル}アミノ)フェニル]エチル}カルバマート、1,1−ジメチルエチル{[3−({5−[5−(3−ヒドロキシプロピル)−2−(メチルオキシ)フェニル]−1,3−オキサゾール−2−イル}アミノ)フェニル]メチル}カルバマート、1−({5−[6−({4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)スルホニル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−イル]チオフェン−2−イル}メチル)ピペリジン−4−オール、1−({4−[6−({4−[(4−メチルピペラジン−1−イル)スルホニル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−イル]チオフェン−2−イル}メチル)ピペリジン−4−カルボキサミド、並びに2−{[4−(1−メチルエチル)フェニル]アミノ}−N−(2−チオフェン−2−イルエチル)−7,8−ジヒドロピリド[4,3−d]ピリミジン−6(5H)−カルボキサミドからなる群から選択される少なくとも1つの他の因子と、を用い、細胞集団のうち80%超の細胞が胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと分化させる、請求項2に記載の方法。
[5]
前記少なくとも1つの他の因子が14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンである、請求項4に記載の方法。
[6]
グルコース濃度が5.5mMを超えない、請求項2に記載の方法。