(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169035
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】燃料電池車の排気音の消音構造
(51)【国際特許分類】
F01N 1/02 20060101AFI20170713BHJP
F01N 1/04 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
F01N1/02 E
F01N1/02 G
F01N1/04 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-87920(P2014-87920)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206314(P2015-206314A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083091
【弁理士】
【氏名又は名称】田渕 経雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141416
【弁理士】
【氏名又は名称】田渕 智雄
(72)【発明者】
【氏名】水谷 智
【審査官】
菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−200369(JP,A)
【文献】
特開2010−267556(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1548701(EP,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102008005446(DE,A1)
【文献】
特開2005−220897(JP,A)
【文献】
米国特許第3955643(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第4327562(DE,A1)
【文献】
仏国特許発明第1085907(FR,A)
【文献】
仏国特許発明第817517(FR,A)
【文献】
実開昭60−194117(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00 − 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池自動車の排気音を低減させるための消音構造であって、
排気管流路の直線状に延びる直線部の排気ガス流れ方向の一部に、該直線部の下端よりも上側でかつ外周側に拡張する拡張室を設け、該拡張室は、多数の透孔を形成した仕切板によって内周側の共鳴室と外周側の吸音室との2つの領域に区分けされており、
前記共鳴室は、該共鳴室の内部空間を複数に仕切る仕切り部材が配設され、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器を形成しており、
前記吸音室には、吸音材が充填されており、
前記共鳴室に形成された前記共鳴型消音器の開口部分は、前記排気管流路の前記直線部の径よりも外周側に位置しており、
前記拡張室よりも排気ガス流れ方向下流側にある排気管下流側部分と、前記拡張室を構成する拡張室構成壁と、の接続R部の外周側端は、前記開口部分より外周側に位置している、燃料電池車の排気音の消音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池自動車の排気音を低減させるための消音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を搭載した内燃機関式自動車の排気音を低減させる消音器の一種として、吸音型の消音器がある。吸音型消音器は、多数の透孔が穿設された排気管の所定の部位に外挿固定される外筒部材を有し、この外筒部材と排気管との間にグラスウール等の吸音材が充填された構造である。
また、近年、次世代の自動車として期待されている燃料電池を駆動源として利用した自動車(燃料電池自動車)にも、吸音型の消音器が適用されている。しかしながら、内燃機関式自動車では生じなかった問題が引き起こされる。
【0003】
燃料電池自動車では、発電の際に生じる水蒸気が、排気ガスとして、排気管を通じて排出されるが、この水蒸気の一部が、結露によって消音器内に貯留される。そのため、グラスウール等の吸音材が含水し、消音性能が著しく低下する。
【0004】
この問題を解決するために、以下のような手段が提供されている。
(a)特開2004−156555号公報(吸音材の含水抑制)
吸音材を所定の嵩密度に調整、あるいは撥水処理を施すことで、水はけをよくするとともに、吸音材内部を透水した水を消音器筐体に設けた排水孔から消音器外に排水するようにした構成。
(b)特開2002−206413号公報(吸音材の含水抑制)
消音器の内部空間を、仕切板によって、吸音材を充填した上側の吸音室と、下側の膨張室とに区画し、吸音室に排気ガス入口と、膨張室にガス出口を設け、仕切板には、上側の吸音室と下側の膨張室とを連通させる連通孔を設けた構成。
(c)特開2006−200369号公報(吸音材を使用しない)
排気管の外周上に、互いに異なる共振周波数を有する複数のサイドブランチを設けた構成。
【0005】
しかし、上記公報開示の消音構造には、つぎの問題点がある。
(a)特開2004−156555号公報(吸音材の含水抑制)
消音器は、排気管の所定の位置(多くは車両床下)に設けられる。そのため、排気ガス出口と異なり目視できない位置から水(液体)が垂れ流れることになり、使用者が車両故障を連想し不安を感じるおそれがある。
(b)特開2002−206413号公報(吸音材の含水抑制)
排気ガスは、上側の室から下側の室を通り排出されるため、消音器がない排気管に対して圧力損失が増加し、発電効率の悪化につながるおそれがある。
(c)特開2006−200369号公報(吸音材を使用しない)
含水していない吸音材(乾燥状態)を用いる場合に比べて同容積では消音効果が低い。加えて、高速・高出力時において排気管を流れるガス流速が速くなると、消音器内部で気流による騒音(空力騒音)が発生し消音性能が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−156555号公報
【特許文献2】特開2002−206413号公報
【特許文献3】特開2006−200369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排気ガスに水蒸気が含まれる環境下において、従来技術の欠点を排除しつつ、効果的に消音性能を向上させることができる、燃料電池車の排気音の消音構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 燃料電池自動車の排気音を低減させるための消音構造であって、
排気管流路の直線状に延びる直線部の排気ガス流れ方向の一部に、該直線部の下端よりも上側でかつ外周側に拡張する拡張室を設け、該拡張室は、多数の透孔を形成した仕切板によって内周側の共鳴室と外周側の吸音室との2つの領域に区分けされており、
前記共鳴室は、該共鳴室の内部空間を複数に仕切る仕切り部材が配設され、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器を形成しており、
前記吸音室には、吸音材が充填されており、
前記共鳴室に形成された前記共鳴型消音器の開口部分は、前記排気管流路の前記直線部の径よりも外周側に位置しており、
前記拡張室よりも排気ガス流れ方向下流側にある排気管下流側部分と、前記拡張室を構成する拡張室構成壁と、の接続R部の外周側端は、前記開口部分より外周側に位置している、燃料電池車の排気音の消音構造。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)の燃料電池車の排気音の消音構造によれば、つぎの効果を得ることができる。
(i)拡張室が、排気管流路の直線部の下端よりも上側でかつ外周側に拡張して設けられており、多数の透孔を形成した仕切板によって内周側の共鳴室と外周側の吸音室との2つの領域に区分けされており、吸音室には吸音材が充填されている。そのため、吸音材に付着した水分は、透孔を通じて共鳴室、排気管流路に落下して、ガスとともに消音器外に排出され、排気ガス出口から排気管外に排出される。そのため、目視可能な位置から水(液体)が垂れ流れることになり、従来技術(a)に比べて使用者が不安を感じることを抑制できる。
(ii)拡張室が排気管流路の直線状に延びる直線部の排気ガス流れ方向の一部に設けられているため、拡張室への排気ガス入口と拡張室からの排気ガス出口とが対向しており、従来技術(b)に比べて圧力損失の増加を抑制できる。
(iii)吸音室には吸音材が充填されているため、従来技術(c)に比べて消音効果が高い。
(iv)共鳴型消音器の開口部分が、排気管流路の直線部の径よりも外周側に位置しているため、排気ガスが仕切り部材に衝突する度合いが小さく、気流音の発生が抑制される。
(v)排気管下流側部分と、拡張室を構成する拡張室構成壁と、の接続R部の外周側端が、共鳴型消音器の開口部分より外周側に位置しているため、拡張室で外周側に広がったガス流れの一部が拡張室より下流側の排気管流路に流れる際に接続R部(コーナー部のR)で整流されるため、従来技術(c)に比べて気流音の発生を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明実施例1の燃料電池車の排気音の消音構造の、斜視図である。
【
図4】本発明実施例2の燃料電池車の排気音の消音構造の、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明実施例の燃料電池車の排気音の消音構造(以下、単に消音構造ともいう)を、
図1〜6を参照して、説明する。なお、図中UPは、上方を示している。
図1〜
図3は、本発明実施例1の消音構造を示しており、
図4〜
図6は、本発明実施例2の消音構造を示している。
本発明全実施例にわたって共通する部分には、本発明全実施例にわたって同じ符号を付してある。
まず、本発明全実施例にわたって共通する部分を説明する。
【0012】
本発明実施例の消音構造1は、燃料電池自動車の排気音を低減させるために設けられる。本発明実施例の消音構造1では、
図1に示すように、排気管3の内部流路である排気管流路5の排気ガス流れ方向Fの一部に、拡張室7が設けられている。消音構造1は、この拡張室7を消音のためのスペースとして利用している。
【0013】
排気管流路5は同一横断面積で水平かつ直線状に延びる直線部5aを有している。拡張室7は、直線部5aの排気ガス流れ方向Fの一部に設けられている。拡張室7は、
図3に示すように、直線部5aの下端5a1よりも該下端5a1を含んで上側かつ外周側に拡張している。なお、図示例では、拡張室7が直線部5aの上下方向中央よりも該中央を含んで上側かつ外周側に拡張する場合を示している。拡張室7は、拡張室構成壁9にて構成されている。拡張室7は、拡張室構成壁9の内部空間である。
【0014】
拡張室構成壁9は、
図1に示すように、外周の円弧状壁9aと、円弧状壁9aの下端から排気管3まで延びる底壁9bと、円弧状壁9aの排気ガス流れ方向Fの上流側端から排気管3まで延びる前壁9cと、円弧状壁9aの排気ガス流れ方向Fの下流側端から排気管3まで延びる後壁9dと、を備える。
円弧状壁9aと底壁9bとの接続部、円弧状壁9aと前後壁9c、9dとの接続部、底壁9bと前後壁9c、9dとの接続部、底壁9bと排気管3との接続部、前後壁9c、9dと排気管3との接続部は、いずれも、R形状(ラウンド形状、湾曲形状)の接続R部(コーナー部のR)10とされている。
【0015】
拡張室7は、
図3に示すように、多数の透孔11aを形成した仕切板11によって、内周側の共鳴室13と、外周側の吸音室15と、の2つの領域に区分けされている。仕切板11は、円弧状壁9aを一回り小さくした形状(相似形)と略同じ形状である。共鳴室13の容積は、吸音室15の容積より大または小であってもよく、吸音室15の容積と同じであってもよい。なお、図示例では、共鳴室13の容積が吸音室15の容積より大である場合を示している。
【0016】
共鳴室13には、
図2に示すように、共鳴室13の内部空間を排気ガス流れ方向Fに複数(たとえば5個)に仕切る仕切り部材17が配設され、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器19を形成している。仕切り部材17は、拡張室構成壁9の前後壁9c、9dの相似形と略同じ形状である。複数の共鳴型消音器19のそれぞれの開口部分19a(仕切り部材17の内周端)は、
図2、
図3に示すように、排気管流路5の直線部5aの径よりも外周側に位置している。
吸音室15には、吸音材15aが充填されている。吸音材は、たとえばグラスウールである。
【0017】
図2に示すように、排気管3のうち拡張室7よりも排気ガス流れ方向Fの下流側にある排気管下流側部分3aと、拡張室構成壁9の後壁9dと、の接続R部10(10a)の外周側端10a1は、共鳴型消音器19の開口部分19a(仕切り部材17の内周端)より外周側に位置している。
【0018】
つぎに、本発明全実施例にわたって共通する部分の作用、効果を説明する。
拡張室7が、排気管流路5の直線部5aの下端5a1よりも上側でかつ外周側に拡張して設けられており、多数の透孔11aを形成した仕切板11によって内周側の共鳴室13と外周側の吸音室15との2つの領域に区分けされている。また、吸音室15には吸音材15aが充填されているため、吸音材15aに付着した水分は、透孔11aを通じて共鳴室13、排気管流路5に落下して、ガスとともに消音器(拡張室7)外に排出され、排気ガス出口から排気管3の外に排出される。そのため、目視可能な位置から水(液体)が垂れ流れることになり、従来技術(a)に比べて使用者が不安を感じることを抑制できる。
【0019】
拡張室7が排気管流路5の直線状に延びる直線部5aの排気ガス流れ方向Fの一部に設けられているため、拡張室7への排気ガス入口と拡張室7からの排気ガス出口とが対向しており、従来技術(b)に比べて圧力損失の増加を抑制できる。
【0020】
吸音室15には吸音材15aが充填されているため、従来技術(c)に比べて消音効果が高い。
【0021】
共鳴型消音器19の開口部分19aが、排気管流路5の直線部5aの径よりも外周側に位置しているため、排気ガスが仕切り部材17に衝突する度合いが小さく、気流音の発生が抑制される。
【0022】
排気管下流側部分3aと、拡張室7を構成する拡張室構成壁9と、の接続R部10(10a)の外周側端10a1が、共鳴型消音器19の開口部分19aより外周側に位置しているため、拡張室7で外周側に広がったガス流れの一部が拡張室7より下流側の排気管流路5aに流れる際に接続R部10(10a)で整流されるため、従来技術(c)に比べて気流音の発生を効果的に抑制できる。
【0023】
つぎに、本発明各実施例に特有な部分を説明する。
〔実施例1〕(
図1〜
図3)
本発明実施例1では、以下のようになっている。
仕切り部材17の内周端は自由端となっている。共鳴型消音器19がサイドブランチタイプである。
【0024】
共鳴室13は、互いに隣り合う仕切り部材17の間隔を変えること、拡張室構成壁9の円弧状壁9aを排気ガス流れ方向Fの下流側または上流側にいくにしたがって径が大となるテーパ状にすること、の少なくともいずれか一方により、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器19を形成している。なお、図示例では、共鳴室13が、拡張室構成壁9の円弧状壁9aを排気ガス流れ方向Fの下流側にいくにしたがって径が大となるテーパ状にすることのみにより、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器19を形成する場合を示している。
【0025】
〔実施例2〕(
図4〜
図6)
本発明実施例2では、以下のようになっている。
複数の仕切り部材17の内周端同士は、仕切り板11と相似形で多数の透孔21aが形成された第2の仕切板21によって連結されている。第2の仕切り板21は、第2の仕切板21より内周側の領域と外周側の領域とに分ける。
共鳴型消音器19が多孔タイプ(ヘルムホルツタイプ)である。
【0026】
共鳴室13は、互いに隣り合う仕切り部材17の間隔を変えること、拡張室構成壁9の円弧状壁9aを排気ガス流れ方向Fの下流側または上流側にいくにしたがって径が大となるテーパ状にすること、第2の仕切り部材21の透孔21aの孔径を変えること、第2の仕切り部材21の板厚を変えること、の少なくともいずれか一つにより、異なる共振周波数を有する複数の共鳴型消音器19を形成している。
【符号の説明】
【0027】
1 消音構造
3 排気管
3a 排気管下流側部分
5 排気管流路
5a 直線部
5a1 直線部の下端
7 拡張室
9 拡張室構成壁
9a 円弧状壁
9b 底壁
9c 前壁
9d 後壁
10、10a 接続R部
10a1 外周側端
11 仕切板
11a 透孔
13 共鳴室
15 吸音室
15a 吸音材
17 仕切り部材
19 共鳴型消音器
19a 共鳴型消音器の開口部分
21 第2の仕切板
21a 透孔
F 排気ガス流れ方向