特許第6169075号(P6169075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169075キノコ栽培用培養基材及び添加剤、並びに、ミネラルが増強されたキノコの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169075
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】キノコ栽培用培養基材及び添加剤、並びに、ミネラルが増強されたキノコの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/04 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   A01G1/04 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-521469(P2014-521469)
(86)(22)【出願日】2013年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2013066670
(87)【国際公開番号】WO2013191159
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2016年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-137472(P2012-137472)
(32)【優先日】2012年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-164283(P2012-164283)
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉松 大介
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−258388(JP,A)
【文献】 特開2001−120055(JP,A)
【文献】 特開平05−192035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース-1-リン酸(G1P)塩、リン酸化オリゴ糖(POs)塩、リン酸化デキストリン(PDX)塩及びクエン酸デキストリン(CDX)塩からなる群から選ばれ、前記塩がカルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、キノコ栽培用培養基材添加剤。
【請求項2】
グルコース-1-リン酸カルシウム(G1P-Ca)、リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)、リン酸化デキストリンカルシウム(PDX-Ca)、またはクエン酸デキストリンカルシウム(CDX-Ca)である、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
グルコース-1-リン酸カルシウム(G1P-Ca)又はリン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)である、請求項1又は2に記載の添加剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の添加剤を含むキノコ栽培用培養基材。
【請求項5】
グルコース-1-リン酸(G1P)塩、リン酸化オリゴ糖(POs)塩、リン酸化デキストリン(PDX)塩及びクエン酸デキストリン(CDX)塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の濃度が0.01重量%以上である、請求項4に記載の培養基材。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の培養基材を用いてキノコを栽培することを特徴とするミネラルが増強されたキノコの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培用培養基材添加剤、キノコ栽培用培養基材、ミネラルが増強されたキノコの製造方法、ミネラル豊富キノコ又はその加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこにミネラルを蓄積させる取り組みは行われてきたが、吸収効率が悪く、実用化レベルには至っていない。きのこにミネラルを蓄積させるために、特許文献1〜3、非特許文献1〜4は、カルシウム化合物を培養基材中に添加するなどの方法によりキノコのミネラル分を増大させることを試みている。
【0003】
特許文献1は、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムを培養基材に添加しているが、添加濃度が約9%程度と非常に高く、キノコの奇形や生育の遅れなどの問題がある。
【0004】
特許文献2は、貝化石をカルシウム源として使用しているが、キノコ中のカルシウム含量の増加はわずかである。
【0005】
特許文献3は貝化石粉末を培養基材に添加しているが、本明細書の実施例に示されるように、貝化石粉末の添加ではカルシウムの含量を十分に増大させることはできない。
【0006】
非特許文献1,2は、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムなどの無機カルシウム塩を使用しているが、このような無機カルシウム塩はキノコ中のカルシウム含量の増加につながらないか、含量が増加した場合にもキノコに奇形が発生するため、実質的に使用できないものである。
【0007】
非特許文献3,4記載されるかき殻粉末を使用する場合、カルシウム含量の増加はわずかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2-119720
【特許文献2】特開2005-73603
【特許文献3】特許第3263689号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Food Science Vol.68, No.1, p76-79 (2003)
【非特許文献2】日本食生活学会誌 Vol.10, No.2, p27-29 (1999)
【非特許文献3】石川県農林水産研究成果集報 No.7, 14頁 (2005)
【非特許文献4】徳島県立農林水産総合技術センター森林林業研究所研究報告 No.3, p11-14 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ミネラル豊富きのこおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のキノコ栽培用培養基材添加剤、キノコ栽培用培養基材、キノコの製造方法、ミネラル豊富キノコを提供するものである。
項1. (1)糖部分、(2)酸部分及び(3)ミネラル部分を有する化合物からなる、キノコ栽培用培養基材添加剤。
項2. (1)糖部分、(2)酸部分及び(3)ミネラル部分を有する化合物からなり、ミネラル部分がカルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、キノコ栽培用培養基材添加剤。
項3. 前記酸部分は、ミネラル部分との塩と、酸部分のナトリウム塩及び/又はカリウム塩を含む、項1又は2に記載のキノコ栽培用培養基材添加剤。
項4. グルコース-1-リン酸(G1P)塩、グルコース-6-リン酸(G6P)塩、リン酸化オリゴ糖(POs)塩、リン酸化デキストリン(PDX)塩、リン酸化プルラン塩、グルコン酸塩、クエン酸デキストリン(CDX)塩及びラクトビオン酸塩からなる群から選ばれ、前記塩がカルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、キノコ栽培用培養基材添加剤。
項5. グルコース-1-リン酸カルシウム(G1P-Ca)、グルコース-6-リン酸カルシウム(G6P-Ca)、リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)、リン酸化デキストリンカルシウム(PDX-Ca)、リン酸化プルラン、グルコン酸カルシウム、クエン酸デキストリンカルシウム(CDX-Ca)またはラクトビオン酸カルシウムである、項4に記載の添加剤。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の添加剤を含むキノコ栽培用培養基材。
項7. グルコース-1-リン酸(G1P)塩、グルコース-6-リン酸(G6P)塩、リン酸化オリゴ糖(POs)塩、リン酸化デキストリン(PDX)塩、リン酸化プルラン塩、グルコン酸塩、クエン酸デキストリン(CDX)塩及びラクトビオン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の濃度が0.01重量%以上である、項6に記載の培養基材。
項8. 項6又は7に記載の培養基材を用いてキノコを栽培することを特徴とするミネラルが増強されたキノコの製造方法。
項9. カルシウム、マグネシウム、鉄及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種のミネラル分の含有量が、五訂増補日本食品標準成分表に記載されているキノコのミネラル分を超えている、ミネラル豊富キノコ又はその加工品。
項10. キノコがナメコ、ブナシメジ、シイタケ、エノキダケ、エリンギ、マイタケ、ヤマブシタケからなる群から選ばれる、項1〜5のいずれかに記載の添加剤、項6〜7のいずれかに記載の培養基材、項8に記載のキノコの製造方法、項8〜9のいずれかに記載のキノコ又はその加工品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ミネラル分が増強されたきのこを得ることができる。本発明により得られたきのこはすべて正常体であった。本発明で言う正常体とは、奇形のない状態を言う。培養基材に無機のミネラル塩のようなミネラル分を多量に添加すると、キノコのミネラル分がほとんど増えないだけでなく、キノコに奇形が生じて商品価値が下がり、収量が低下することが多い。
【0013】
さらに、本発明によるきのこは味質も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
キノコのミネラル分を増大させるキノコ栽培用培養基材添加剤として、(1)糖部分、(2)酸部分及び(3)ミネラル部分の3つの部分を有する添加剤が利用できる。(1)糖部分としては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースなどの単糖、これら単糖の少なくとも1種を含む二糖(スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロースなど)、オリゴ糖或いは多糖(例えば澱粉、デキストリン、プルラン)が挙げられる。(2)酸部分は、糖の骨格と共有結合したカルボン酸(COOH)、リン酸、スルホン酸、硫酸が挙げられる。糖部分と酸部分は、糖の骨格の炭素原子と酸部分の原子(COOHのC,リン酸のP,スルホン酸のS)が共有結合で連結されてもよく、リン酸、硫酸の場合には、糖の骨格の炭素原子とエステル結合で結合してもよい。糖部分と酸部分が一体となった化合物としては、グルコン酸、ラクトビオン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などが挙げられる。糖部分と酸部分がエステル結合した化合物としては、グルコース−1−リン酸、グルコース−6−リン酸、リン酸化オリゴ糖、リン酸化デキストリン、リン酸化プルラン、クエン酸オリゴ糖、クエン酸デキストリン、グルコン酸オリゴ糖、グルコン酸デキストリンなどが挙げられ、グルコース−1−リン酸、リン酸化オリゴ糖、リン酸化デキストリン、クエン酸デキストリンが好ましい。ここで言うオリゴ糖は単糖が2〜8個結合したものであり、デキストリンは単糖が9個以上、分子量が1,000,000迄のものとする。好ましくは、リン酸化オリゴ糖は江崎グリコ社製のPOs-Caを用い、デキストリンは松谷化学工業社製TK16(平均分子量1,000)と有機酸を乾式焙焼法によって脱水縮合させたものを電気透析装置ないしイオン交換樹脂でミネラルを結合させたものを用いる。酸部分の糖部分への結合頻度は、1〜20個の単糖につき1個であり、好ましくは3〜9個の単糖につき1個である。
【0015】
ミネラル部分は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、銅イオン、バナジウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン及びモリブデンイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらのイオンは酸部分と塩を形成する。
【0016】
具体的には、グルコース-1-リン酸(G1P)塩、グルコース-6-リン酸(G6P)塩、リン酸化オリゴ糖(POs)塩、リン酸化デキストリン(PDX)塩、リン酸化プルラン塩、グルコン酸塩、クエン酸デキストリン(CDX)塩及びラクトビオン酸塩からなる群から選ばれ、前記塩がカルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩及び亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が添加剤として好ましく使用できる。本発明の添加剤は、ミネラル部分が単一の塩であってもよく、2以上のミネラルを含む複合塩であってもよく、或いは、2種類以上の添加剤を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明の好ましい添加剤を以下に示す:
・グルコース-1-リン酸カルシウム(G1P-Ca)
・グルコース-1-リン酸マグネシウム(G1P-Mg)
・グルコース-1-リン酸亜鉛(G1P-Zn)
・グルコース-1-リン酸鉄(G1P-Fe)
・グルコース-6-リン酸カルシウム(G6P-Ca)
・グルコース-6-リン酸マグネシウム(G6P-Mg)
・グルコース-6-リン酸亜鉛(G6P-Zn)
・グルコース-6-リン酸鉄(G6P-Fe)
・リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)
・リン酸化オリゴ糖マグネシウム(POs-Mg)
・リン酸化オリゴ糖鉄(POs-Fe)
・リン酸化オリゴ糖亜鉛(POs-Zn)
・リン酸化デキストリンカルシウム(PDX-Ca)
・リン酸化デキストリンマグネシウム(PDX-Mg)
・リン酸化デキストリン鉄(PDX-Fe)
・リン酸化デキストリン亜鉛(PDX-Zn)
・グルコン酸カルシウム
・グルコン酸マグネシウム
・グルコン酸鉄
・グルコン酸亜鉛
・クエン酸デキストリンカルシウム(CDX-Ca)
・クエン酸デキストリンマグネシウム(CDX-Mg)
・クエン酸デキストリン鉄(CDX-Fe)
・クエン酸デキストリン亜鉛(CDX-Zn)
・ラクトビオン酸カルシウム
・ラクトビオン酸マグネシウム
・ラクトビオン酸鉄
・ラクトビオン酸亜鉛
・リン酸化プルランカルシウム
・リン酸化プルランマグネシウム
・リン酸化プルラン鉄
・リン酸化プルラン亜鉛
【0018】
本発明の添加剤は、糖部分が酸部分とエステル結合により結合しているか、あるいはグルコン酸のように糖と酸が一体化しているので、従来使用されていたカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄などのミネラル分と有機酸又は無機酸の塩と異なり、糖部分の存在によりキノコ類の生育に悪影響を与えることがなく、かつ、キノコのミネラル含量を著しく向上させることができる。
【0019】
さらに、キノコの生育促進、収量増加、収穫後のキノコの賞味期限延長、キノコのレトルトや缶詰、瓶詰、塩蔵、乾物などの加工などによる食味低下を抑制することができる。
【0020】
本発明の培養基材は、通常のキノコ用の培養基材(液体培地を含む)に、上記の添加剤を添加したものである。通常の培養基材の成分としては、特に限定されないが、例えばオガクズ、チップ、わら、ふすま、米ぬか、コーン粉末、豆がら、おからなどが挙げられる。
【0021】
培養基材中の本発明添加剤の配合割合は、0.01重量%以上であり、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0022】
キノコは、本発明の添加剤を含む培養基材を用いて製造することができる。具体的には、滅菌された本発明の培養基材を収容した容器において、キノコの菌種を植菌し、5〜25℃で20〜120日間培養することによりキノコを収穫することができる。
【0023】
本発明で得られるキノコは、従来のキノコよりもミネラル分が豊富である。従来のキノコのミネラル分は、五訂増補日本食品標準成分表に記載されたものであり、具体的には以下の表1に記載されるものである。
【0024】
【表1】
【0025】
本発明のミネラル豊富キノコは、上記表1の五訂増補日本食品標準成分表に記載された成分の1.1倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、100倍以上、150倍以上、200倍以上である。ミネラル分は培地基材の添加量に応じて適宜変更できる。
【0026】
本発明のミネラル豊富キノコは、ミネラル分が豊富であるだけでなく、ビタミンD含量も豊富なことから生体への吸収率が高く、ミネラル源としてより好ましいものである。
【0027】
各ミネラル分の好ましい含有量は以下のようなものである。
Ca:1.1〜200倍、好ましくは3〜80倍、
Mg:1.1〜200倍、好ましくは2〜80倍、
Fe:1.1〜200倍、好ましくは2〜80倍、
Zn:1.1〜200倍、好ましくは2〜80倍。
【0028】
さらに、ミネラルとビタミンDの豊富なキノコを乾燥後、粉末化することで、好適なカルシウム供給のためのサプリメントを作成することができる。粉末のままでもよいが、カプセル化、タブレット化、チュアブル化などの加工を行っても良い。また、粉末化することで、カレー、シチュー、丼、おにぎり、ラーメン、ふりかけ、お茶づけ、ウインナー、ソーセージなどの食品、チョコレート、スナック、ビスケット、キャンデー、ガムなどの菓子、アイスクリーム、ヨーグルト、プリン、ゼリー等への配合利用も可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1 様々なカルシウム剤を用いたヒラタケ栽培試験
1)材料
カルシウム剤
・グルコース-1-リン酸カルシウム(G1P-Ca)
・リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)
・リン酸化デキストリンカルシウム(PDX-Ca)
・クエン酸デキストリンカルシウム(CDX-Ca)
・リン酸一水素カルシウム
・クエン酸カルシウム
・炭酸カルシウム培地基材(20 g/培地)
・ブナオガクズ 5.5 g
・小麦フスマ 1.5 g
・水 13.0 g(含水率65%)
2)ヒラタケ子実体へのカルシウム蓄積効果
(方法)ヒラタケ栽培培地に1)に記したカルシウム剤を培地1本(20 g)あたりカルシウム量として17.5 mgとなるように添加し、ヒラタケ子実体を発生させた。グルコース-1-リン酸カルシウムにおいては17.5 mg以外に、1、3、5、10 mg添加した試験区を設けた。得られた子実体を乾燥させた後、子実体に含まれるカルシウム量をICP-MSで測定した。
(結果)グルコース-1-リン酸カルシウムをカルシウム量として17.5 mg添加した培地から得られた子実体に最もカルシウムが蓄積されており、その量は子実体乾燥粉末1 gあたり5906 μgであった。これは無添加区(68 μg)と比較して、87倍であった。グルコース-1-リン酸カルシウムを添加した試験区では濃度依存的に子実体にカルシウムが蓄積された(1 mg試験区:181 μg、2.7倍、3 mg試験区:657 μg、9.7倍、5 mg試験区:2077 μg、30.7倍、10 mg試験区:5077 μg、74.9倍)。また、リン酸化オリゴ糖カルシウムを添加した試験区では、子実体乾燥粉末1 gあたり350 μgであり、無添加区と比較して5.2倍であった。さらに、リン酸化デキストリンカルシウムを添加した試験区では、子実体乾燥粉末1 gあたり166 μgであり、無添加区と比較して、2.5倍であった。リン酸の代わりにクエン酸をデキストリンにエステル結合させたクエン酸デキストリンカルシウムを添加した試験区では、子実体乾燥粉末1 gあたり246 μgであり、無添加区と比較して、3.6倍であった。その一方で、糖に結合していないリン酸一水素カルシウムやクエン酸カルシウム、研究例の多い炭酸カルシウムでは子実体へのカルシウムの蓄積はほとんど見られなかった。以上の結果から、酸性糖にカルシウムを配位させたカルシウム剤をヒラタケ栽培培地に添加すると、ヒラタケ子実体の収量が増え、かつ、高効率的にカルシウムを蓄積させることができ、高カルシウム含有ヒラタケを作出できることが明らかとなった。また、得られた子実体はいずれも正常個体であり、奇形は見られなかった。
【0030】
実施例2 リン酸化オリゴ糖カルシウムを用いたエノキタケ栽培試験
1)材料
カルシウム剤
・リン酸化オリゴ糖カルシウム(POs-Ca)
・培地基材(350 g/培地)
・ブナオガクズ:小麦フスマ=5:1(容積比)
・水(含水率65%になるよう調整)
2)エノキタケ子実体へのカルシウム蓄積効果
(方法)ヒラタケ栽培培地に1)に記したカルシウム剤を培地1本(350 g)あたり11.8 gとなるように添加し、エノキタケ子実体を発生させた。得られた子実体を乾燥させた後、子実体に含まれるカルシウム量をICP-MSで測定した。
(結果)無添加区から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれるカルシウム量は58 μgであったのに対し、POs-Caを添加した培地から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれるカルシウム量は237 μgであり、無添加区と比較して4.1倍になった。このように、ヒラタケ(ヒラタケ科)とは科の異なるエノキタケ(キシメジ科)においてもカルシウムの蓄積効果が認められた。また、得られた子実体はいずれも正常個体であり、奇形は見られなかった。
【0031】
実施例3 クエン酸デキストリン鉄を用いたヒラタケ栽培試験
1)鉄剤
・クエン酸デキストリン鉄(CDX-Fe)
・クエン酸鉄(III)
・硫酸第一鉄
・培地基材(20 g/培地)
・ブナオガクズ 5.5 g
・小麦フスマ 1.5 g
・水 13.0 g(含水率65%)
2)ヒラタケ子実体への鉄蓄積効果
(方法)ヒラタケ栽培培地に1)に記した各鉄剤を培地1本(20 g)あたり鉄量として19.3 mgとなるように添加し、ヒラタケ子実体を発生させた。得られた子実体を乾燥させた後、子実体に含まれる鉄量をICP-MSで測定した。
(結果)無添加区から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれる鉄量は68 μgであったのに対し、CDX-Feを添加した培地から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれる鉄量は149 μgであり、無添加区と比較して2.2倍になった。クエン酸鉄(III)を添加した培地から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれる鉄量は73 μgであり、無添加区として1.1倍であった。硫酸第一鉄においても、培地から得られた子実体乾燥粉末1 gに含まれる鉄量は70 μgであり、無添加区として1.0倍であった。このように、カルシウム以外の金属である鉄においても蓄積効果が認められた。また、得られた子実体はいずれも正常個体であり、奇形は見られなかった。
【0032】
実施例4 リン酸化オリゴ糖カルシウム添加培地から得られたヒラタケの官能評価
(方法)リン酸化糖カルシウム(POs-Ca)を10 %添加した培地から得られたヒラタケ子実体(ハ)と無添加培地から得られた子実体(ホ)をホイル焼き(味付けは塩のみ)にしたものを官能評価に供した(単盲検法)。
問1:ハとホを比較して、おいしいのはどちらですか?
(ハがおいしい)5・・・4・・・3・・・2・・・1(ホがおいしい)
問2:ハとホを比較して、食感が良いのはどちらですか?
(ハが良い)5・・・4・・・3・・・2・・・1(ホが良い)
(結果)4人の熟練した官能評価員の点数の平均から、POs-Caを添加した培地から得られた子実体の方がおいしさおよび食感が良いと評価された。
【0033】
【表2】
【0034】
具体的には、本発明のヒラタケ(ハ)は、歯ごたえがよく、ぷりっとした食感を有するなどの食感の評価項目において評価が高かった。