特許第6169077号(P6169077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169077低い酸素移動容量係数KLaを有する、発酵槽に適した糸状菌を用いるセルラーゼの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169077
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】低い酸素移動容量係数KLaを有する、発酵槽に適した糸状菌を用いるセルラーゼの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20170713BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20170713BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20170713BHJP
   C12M 1/06 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
   C12N9/42
   C12N1/14 B
   C12N1/00 B
   C12N1/00 D
   !C12M1/06
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-525474(P2014-525474)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公表番号】特表2014-521359(P2014-521359A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】FR2012000328
(87)【国際公開番号】WO2013026964
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】11/02556
(32)【優先日】2011年8月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(73)【特許権者】
【識別番号】507199997
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミク
(73)【特許権者】
【識別番号】514041030
【氏名又は名称】アグロ インダストリ ルシェルシュ エ デヴロップマン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ベン シャバン ファドヘル
(72)【発明者】
【氏名】ジュルディル エチエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】コーエン セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ショスピエ ベルナール
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−217916(JP,A)
【文献】 特表2010−536390(JP,A)
【文献】 米国特許第04762788(US,A)
【文献】 Appl. Biochem. Biotechnol.,2001年,vol.91-93,pp.627-642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/42
C12N 1/00−1/38
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気撹拌型バイオリアクター内において糸状菌に属する菌株を用いてセルラーゼを生産する方法であって、少なくとも以下の2つの工程:
・ バッチ相における少なくとも1種の炭素質生育基質の存在下での第1の生育工程であって、10〜60g/Lの範囲の炭素質生育基質の濃度で行われる、工程;
・ 流加相における少なくとも1種の誘導炭素質基質の存在下での生育および酵素生産のための第2の工程であって、毎時の細胞バイオマスの乾燥重量(グラム)当たり50〜140mgの範囲の炭素源の制限的な流れの存在下での工程
を含み、
バイオリアクターの酸素移動容量係数kaは、40〜180h−1の範囲である、方法。
【請求項2】
炭素質生育基質の濃度は、10〜20g/Lの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭素質生育基質の濃度は、12〜17g/Lの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
炭素源の流れは、毎時の細胞バイオマスの乾燥重量(グラム)当たり70〜100mgの範囲である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
炭素源の流れは、毎時の細胞バイオマスの乾燥重量(グラム)当たり80〜90mgの範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
バイオリアクターの酸素移動容量係数kaは、40〜150h−1の範囲である、請
求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
炭素質生育基質は、ラクトース、グルコース、キシロース、セルロース系バイオマスの酵素加水分解物の単量体糖のエタノール発酵後に得られる残渣および/またはセルロース系バイオマスの前処理に由来する水溶性ペントースの粗抽出物から選択される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
誘導炭素質基質は、ラクトース、セロビオース、ソホロース、セルロース系バイオマスの酵素加水分解物の単量体糖のエタノール発酵後に得られる残渣および/またはセルロース系バイオマスの前処理に由来する水溶性ペントースの粗抽出物である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
バイオマスを生産するために選択された炭素質生育基質は、滅菌の前に発酵槽に導入される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
バイオマスを生産するために選択された炭素質生育基質は、別個に滅菌され、滅菌後のバイオリアクターに導入される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
流加段階の間に導入される誘導炭素質基質は、個別に滅菌された後に、前記リアクターに導入される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
用いられる菌株は、トリコデルマ・リーゼイの菌株である、請求項1〜11のいずれか
1つに記載の方法。
【請求項13】
用いられる菌株は、遺伝子の突然変異、選択または組み換えによって改変されたトリコデルマ・リーゼイの菌株である、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスの酵素加水分解に必要な糸状菌(filamentous fungus)、例えば、第二世代の方法として知られるバイオ燃料の生産方法、あるいは化学製品、製紙または繊維産業における他の方法において用いられる糸状菌を用いるセルラーゼの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第二世代バイオ燃料の生産のための経済的に実行可能な方法の開発が、現在「注目の話題」となっている。これらの燃料は、リグノセルロース系バイオマスから生産され、サトウキビ、トウモロコシ、小麦またはテンサイから生産される「第一世代」バイオ燃料と比較して、食料のための農地の使用との競合に関して問題がより少ない。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスは、3種の主要なフラクション:セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンによって構成される複雑な構造によって特徴付けられる。リグノセルロース系バイオマスをエタノールに転換するための従来の方法は多数の工程を含む。前処理により、セルロースは酵素、すなわちセルラーゼにアクセス可能となる。酵素加水分解工程は、セルロースをグルコースへと転換するために用いられ得、次いでグルコースは、発酵工程の間に、一般的に酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いてエタノールに転換される。最後に、蒸留工程により、発酵マスト(fermentation must)からエタノールを分離・回収することが可能となる。
【0004】
種々の技術−経済の研究により、セルラーゼのコストを低減させることが、リグノセルロース系物質から出発する生物学的エタノール生産方法においてキー・ポイントの一つであることが立証された。現在、工業用セルラーゼが、糸状菌であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)によって主に生産されているのは、その高いセルラーゼ分泌力のためである。工業的に適用されている戦略は、菌を所与の濃度にまで急速に生育させ、次いでセルラーゼの生産を誘導して、生産性と収率を最大化させることである。トリコデルマ・リーゼイは、完全に好気性であり、その生育により培地の粘度が大幅に上昇するに至り、これにより、その生存に必要である酸素の移動が困難となる。酸素移動は、Kaに関連し、Kaは、培地の単位容積当たりの酸素移動容量の係数として知られている。これは、係数K(全体のO交換係数(m/sまたはm/h)と、係数「a」(液相培養培地の単位体積当たりの比交換面積(specific exchange area)(m/m(培養培地))との積である。Kaは、撹拌と通気に比例する。菌生育段階の間に増加する生物学的酸素要求量を満たすために、酸素移動を増加させることが必要であり、これは一般的に、撹拌または通気流量を増やすことによって達成される。このことにより、プロセスのエネルギー消費が増大するに至り(撹拌のためのモータへの電力および通気のためのコンプレッサへの電力)、その結果、操作コストが増大する。撹拌および通気に関連するコストは、セルラーゼの生産方法の操作コストの最大で50%を表し得る。
【0005】
酵素生産のコストを低減させる一つの方法は、従って、セルロースの生産性を維持しながら要求されるKaを最小限にするように方法の操作を改変することによって操作コストを低減させることである。このことはまた、200h−1超のKa値では困難となる、工業用発酵槽(fermenter)の寸法(典型的には100〜1000m)に関し、スケールアップが単純化させられ得ることを意味する。
【0006】
酵素的トリコデルマ・リーゼイ複合体の酵素は、3つの主な活性タイプ:エンドグルカナーゼと、エキソグルカナーゼと、セロビアーゼまたはベータ−グルコシダーゼとを含む。リグノセルロース系材料の加水分解に必須である機能または活性を有する他のタンパク質も、トリコデルマ・リーゼイによって生産され、例えばキシラナーゼである。誘導基質の存在は、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の発現に必須である。
【0007】
種々の炭素源によるセルラーゼ遺伝子の制御が詳細に研究された。それらは、セルロース、その加水分解生成物(例えば、セロビオース)または所定のオリゴ糖、例えば、ラクトースまたはソホロースの存在下に誘導された(非特許文献1)。
【0008】
従来の突然変異遺伝子技術により、セルラーゼを過剰生産するトリコデルマ・リーゼイの菌株、例えば、菌株MCG77(Gallo‐特許文献1)、MCG80(非特許文献2)、RUT C30(非特許文献3)およびCL847(非特許文献4)の選択が可能となった。
【0009】
良好な酵素生産性を得るために、セルラーゼの生産のための工業的プロセス、例えば特許文献2に記載された方法は、以下の2つの工程において行われる:
・ 「バッチ」様式での生育工程:トリコデルマ・リーゼイの生育のために急速に吸収され得る炭素の源を供給することが必要である;ついで、
・ 「流加(fed batch)」生産工程:これは、セルラーゼの発現および培養培地への分泌を可能とする誘導基質、例えば、ラクトースを用いる;このような可溶性の炭素質基質を連続的に供給することにより、培養物中の残留濃度を制限し、これにより糖の量を最適化させることは、高い酵素生産性を得ることができることを意味する;引用特許で適用された炭素質源の最適な流れは、35〜45mg(糖)・g(細胞乾燥重量)−1・h−1の範囲である
この手順は、微生物の酸素要求量を満たすために高いエネルギー出力を必要とするという不利な点を抱えている。生育段階の終わりに、酸素要求量は非常に高い。実際、基質の全てが過剰に利用可能である場合、生育は、その菌株の最大生育速度に近い生育速度で起こる。生物学的酸素要求量(バイオマスの生育速度および濃度の関数である)は増加するだろう。培養物は、溶存酸素の濃度を一定の値に制御するので、酸素移動速度(oxygen transfer rate:OTR)は、酸素消費速度(rate of oxygen consumption:ROC)(あるいは生物学的酸素要求量)と等しくなければならない。
【0010】
a*(O−O2L)=(μ*X)/RX/O2
(式中:
:飽和酸素濃度
2L:液相中の酸素濃度
μ:微生物の生育の速度(h−1
X/O2:消費された酸素に対する細胞バイオマスの収率
X=細胞バイオマス(乾燥重量)の濃度
従って、このタイプの方法は、この要求量を満たすために非常に高いkaを必要とする。これは、一般的に、撹拌(または通気)を増加させることにより達成されるが、これにより電気エネルギーが消費される。
【0011】
aが半減するならば、同じ生育速度で得ることが可能である最大バイオマスも半減する。より低い生育速度で同量のバイオマスを得ることが可能であるが、これには、より多くの時間を必要とし、従って、分泌される酵素の最終の生産性の低下が引き起こされる。
【0012】
本発明は、酵素の生産性を低減させることなく、生物学的酸素要求量をより良好に制御するために用いられ得る。このことは、炭素質基質に関して制限された条件下で、トリコデルマ・リーゼイ等の糸状菌の生理学的特徴を利用することによって可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4275167号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第2881753号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】IImenら著、「Appl Environ Microbiol」、1997年、第63巻、p.1298−1306
【非特許文献2】Allen, A. L.、Andreotti, R. E.著、「Biotechnol- Bioengi」、1982年、第12巻、p.451−459
【非特許文献3】Montenecourt, B. S.、Eveleigh, D. E.著、「Appl Environ Microbiol」、1977年、第34巻、p.777−782
【非特許文献4】Durandら著、「Proc Colloque SFM 「Genetique des microorganismes industriels[Genetics of industrial microorganisms:工業的微生物の遺伝学]」、パリ、H. HESLOT出版、1984年、p.39−50
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要約)
本発明は、酵素生産性性能を維持するために用いられ得る糸状菌によるセルラーゼの生産であって、低い酸素移動容量係数(volumetric oxygen transfer coefficient)kaを有するバイオリアクターを用いることによる生産に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、トリコデルマ・リーゼイの別の菌株で得られたTolanおよびFoodyによる論文(1999年)において挙げられた実験値を用いた、モデルによってシミュレートされた値の比較を表す。
図2図2は、実施例1に対応する、バイオマス濃度、プロテイン濃度およびkaの変化を表す。
図3図3は、実施例2に対応する、状態変数の経時変化を表す。
図4図4は、実施例3に対応する、状態変数の経時変化を表す。
図5図5は、実施例3に対応する、kaの経時変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、通気撹拌型バイオリアクター内において糸状菌株を用いてセルラーゼを生産する方法であって、少なくとも以下の2つの工程:
・ バッチ相における、少なくとも1種の炭素質生育基質の存在下での生育の第1の工程であって、炭素質生育基質の濃度が10〜80g/Lの範囲である、工程;
・ 流加相における、少なくとも1種の誘導炭素質基質(inducer carbonaceous substrate)の存在下での生育および生産の第2の工程であって、毎時の細胞の重量(g)当たり50〜140mgの範囲の炭素源の制限的な流れの存在下での工程
を含む、方法に関する。
【0018】
好ましくは、炭素質生育基質の濃度は、10〜20g/Lの範囲である。より好ましくは、それは、12〜17g/Lの範囲である。
【0019】
生育段階の間に、炭素質基質の濃度は、生育が最大生育速度で起こるようになされる。
【0020】
好ましくは、流加段階において用いられる誘導炭素質基質の濃度は、毎時の細胞の重量(g)当たり70〜100mgの範囲である。より一層好ましくは、それは、毎時の細胞の重量(g)当たり80〜90mgの範囲である。
【0021】
本発明において用いられるバイオリアクターは、それ故に、40〜180h−1の範囲の酸素移動容量係数kaを有し得、好ましくは40〜150h−1の範囲である。
【0022】
第2の工程は、最大菌株消費容量未満である流れを有する制限的な誘導炭素質基質の条件下に行われる。
【0023】
炭素質生育基質は、好ましくは、ラクトース、グルコース、キシロース、セルロース系バイオマスの酵素加水分解物の単量体糖のエタノール発酵後に得られる残渣および/またはセルロース系バイオマスの前処理に由来する水溶性ペントースの粗抽出物から選択される。
【0024】
誘導炭素質基質は、好ましくは、ラクトース、セロビオース、ソホロース、セルロース系バイオマスの酵素加水分解物の単量体糖のエタノール発酵後に得られる残渣および/またはセルロース系バイオマスの前処理に由来する水溶性ペントースの粗抽出物から選択される。
【0025】
上記の誘導生育基質は、単独であるいは混合物として用いられてよい。
【0026】
その性質に応じて、バイオマスを生産するために選択される炭素質生育基質は、滅菌前に発酵槽に導入されるか、あるいは、それは、別個に滅菌され、滅菌後のバイオリアクターに導入される。
【0027】
流加段階の間に導入される誘導炭素質基質は、バイオリアクターに導入される前に独立的に滅菌される。
【0028】
好ましくは、誘導的炭素源がラクトースである場合、水溶液が、200〜250g/Lの濃度で調製される。
【0029】
本発明の方法は、バイオリアクターを用いて、2.5倍小さい、すなわち、250h−1ではなく100h−1のKaの酸素移動容量で、類似のセルラーゼ生産性を得るために用いられ得る。Kaと通気撹拌型バイオリアクター、例えば、NREL報告書「Lignocellulosic to ethanol process design and economics utilizing co-current dilute acid prehydrolysis and enzymatic hydrolysis, current and futuristic scenarios」(R Wooleyら、NREL/TP-580-26157(1999), enzyme production sectionにおいて示されるものにおいて消散させられる電力とを関連付ける相関は、以下の通りである:
a=0.026*(P/V)0.4*V0.5
(式中:
P/V:散逸電力(W/m
:気体の表面速度(m/s)
である。)
従って、この相関によると、100h−1のKaについての消散電力(P/V)は、Kaが250h−1である場合に必要な消散電力より約10倍小さい。
【0030】
本発明による方法の利点は、方法の工業スケールへのスケールアップの単純化(典型的に100から1000mへの)および操作コストの低減が可能となることである。
【0031】
本方法は単純であり、強固であり、かつ炭素質基質により制限条件下で菌の生理学的特性を利用する。
【0032】
従来の方法と比較して、操作モードの適合は、一方では、「バッチ」モードプロセスの第1の段階の間に生育基質の初期濃度を低減させて、この段階の終わりに最大生物学的酸素要求量を低減させることによってなされ、他方では、「流加」段階の間に炭素質基質の流れを増大させて、この段階の始まりの間に、低減した生育速度で、酵素と同時に細胞バイオマスを生産し続けることによってなされる。菌の生理学的特性を利用して、流加の流量およびバイオマスの所望濃度が決定される。
【0033】
このことは、より少ない酸素移動容量をバイオリアクターに要求しながら、最終的な生産性能が維持され得ることを意味する。
【0034】
本方法において用いられる菌株は、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属またはスエヒロタケ(Schizophyllum)属に属する糸状菌の菌株である。
【0035】
好ましくは、用いられる菌株は、トリコデルマ・リーゼイ種に属する菌株である。
【0036】
用いられる工業的な菌株は、トリコデルマ・リーゼイ種に属し、これは、突然変異−選択プロセスによってセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を改良するように改変されてもよく、例えば、菌株IFP CL847等である;遺伝子組み換え技術によって改良された菌株が用いられてもよい。これらの菌株は、通気撹拌型発酵槽内で、それらの生育および酵素生成に適合する条件下で培養される。トリコデルマで用いられる方法と同様の方法を用いて酵素を生じさせる他の微生物菌株が用いられてよい。
【0037】
好ましくは、用いられる菌株は、遺伝子突然変異、選択または組み換えによって改変されたトリコデルマ・リーゼイの菌株である。
【0038】
例として、菌株は、CL847、RutC30、MCG77、またはMCG80の菌株である。
【0039】
時間(h)当たりかつバイオマスの重量(g)当たり糖約140mg超の誘導炭素質基質(qs)の流れは、培地中に糖の蓄積を引き起こし、トリコデルマ・リーゼイの生理学的な挙動を改変し、これにより、タンパク質生産の特定の速度(qp)が低下するに至る(異化代謝抑制現象)。この流れを、時間当たりかつバイオマスの重量(g)当たり糖50〜140mgの範囲の値に制限することによって、制限条件下の場合に、菌株は、同時に、バイオマスおよび酵素を生じさせ、酵素のみを作る平衡状態に向かう傾向にある。
【0040】
モデルは、これらの観察をもとに構築され、0.018h−1の希釈度で、炭素質基質の種々の初期濃度について連続的に行われるバイオマスおよび酵素の生産をシミュレートするように適用された。その条件は、TolanおよびFoodyによる論文(“Cellulase from submerged fermentation”, (1999), Adv in biochemical engineering biotechnology, Vol 65, p42-67)において記載された研究に相当する。上記論文は、Nicholsonらによる論文(1989)(Proceedings of the 7th Canadian bioenergy seminar, Energy Mines, and Resources)を引用し、バイオマスおよびタンパク質の濃度についての実験結果を提供する。本発明者らは、CL847菌株について同定された速度論的パラメータ(kinetic parameters)を保持したが、上記著者は異なる菌株を用いていた。結果は図1に報告され、モデルと実験との間の非常に良好な合致を証明する。
【0041】
このことはまた、このモデルが、CL847菌株と同じ生理学的挙動を有するトリコデルマ・リーゼイの他の菌株にも有効であることを証明する。
【0042】
バッチ段階の間の炭素質生育基質の濃度は、従来技術の開示(FR 2 881 753)と比べてより低く、これにより、100h−1のkaを有するバイオリアクターについてのこの段階の終わりにおける最大の生物学的酸素要求量(μmax)が低減させられる。炭素質基質の流れは、「流加」段階の間に、時間(h)当たりかつバイオマスの重量(g)当たりの誘導炭素質基質35〜45mgの範囲の流れを推奨する特許FR 2 881 753と比べて増大させられた。このことは、バイオマスが、低減した生育速度ではあったが、この段階の開始の間に酵素と同時に継続して生産され得たことを意味し、このことは、生物学的酸素要求量が制御され得たことを意味する。流加段階の間の炭素源の流れは、それ故に、流加段階の開始時に、毎時のバイオマスの重量(g)当たり糖50mg超の値に増大させられた。生育が、酵素生成と同時に継続し、かつ、安定化したのは、炭素源の流れが、菌株にとっての最適値に近い時であった。
【0043】
(実施例)
以下の実施例において、実施例1は、250h−1のkaを有するバイオリアクターによる特許FR 2 881 753の基準条件を用いる培養を提示する。実施例2は、実施例1と同じ条件下で行われるが、100h−1のkaを有する発酵槽を用いる実験を提示する。この実施例は、炭素質基質の蓄積で終了し、バイオマス生産は高く、酵素生産は低かった。実施例3は、本発明の方法を実施したものであった。それは、100h−1のkaを有するバイオリアクターを用いて、実施例1の生産性に近い生産性を得るために用いられた。
【0044】
(実施例1:グルコースによる酵素の生産)
セルロースの生産が、機械的に撹拌された発酵槽内で行われた。無機培地は、以下の組成を有していた:KOH 1.66g/L、85%HPO 2mL/L、(NHSO 2.8g/L、MgSO・7HO 0.6g/L、CaCl 0.6g/L、MnSO 3.2mg/L、ZnSO・7HO 2.8mg/L、CoCl 104.0mg/L、FeSO・7HO 10mg/L、コーンスティープ(Corn Steep) 1.2g/L、消泡剤 0.5mL/L。
【0045】
無機培地を含む発酵槽が、120℃で20分間にわたり滅菌され、炭素源は、120℃で20分間にわたり滅菌されたグルコースの溶液であり、次いで、殺菌した様式で、30g/Lの最終濃度を生じさせるように発酵槽に加えられた。発酵槽は、10%(v/v)まで、トリコデルマ・リーゼイCL847菌株の液体前培養物を播種された。前培養物のための無機培地は、pHを緩衝するために5g/Lのフタル酸カリウムを添加したこと以外は、発酵槽のものと同じであった。前培養の間の菌の生育は、炭素質基質としてグルコースを30g/Lの濃度で用いて行われた。接種菌の生育は2〜3日間続き、28℃で攪拌型インキュベータにおいて大気圧で行われた。グルコースの残留濃度が15g/L未満であったならば、発酵槽への移動が行われた。
【0046】
バイオリアクター内で行われた実験は、以下の2つの段階を含んでいた:
・ グルコース炭素質基質(初期濃度=30g/L)による生育の段階;温度27℃およびpH4.8(5.5Mアンモニア性溶液を用いて設定される)で行われる;通気は、0.5vvmにされ、攪拌は、O圧(溶存酸素の圧力)に応じて200〜800rpmの間に増大させられ、O圧力は、30%に設定された;
・ 酵素生成段階;30時間後に、250g/Lのラクトース溶液が、250時間にわたり、毎時の細胞の重量(g)当たり35mgの流量で連続的に注入された;温度は、25℃に降下させられ、pHは4にされて、培養は終了した;pHは、5.5Mのアンモニア性溶液を加えることによって設定され、これは、排出されるタンパク質の合成に必要な窒素を提供した;溶存酸素の量は、攪拌作用によって30%超に維持された。
【0047】
酵素生成後、ろ過または遠心分離による菌糸体の分離の後にBSA(「Bovine serum albumin」:ウシ血清アルブミン)により行われる較正に基づくローリー(Lowry)法を用いた細胞外タンパク質のアッセイを行った。測定されたセルロース分解活性
− ろ紙活性またはFP(これは、FPU(filter paper units)で表される);これは、エンドグルカナーゼおよびエンドグルカナーゼの酵素的プールの全体的な活性をアッセイするために用いられ得た;
− 特定の活性についてのβ−グルコシダーゼおよびキシラナーゼの活性;
は以下の通りであった。
【0048】
FP活性は、ワットマンNo.1紙により(IUPACバイオテクノロジー委員会によって推奨される手順)、50g/Lの初期濃度で測定された;60分内で2g/L当量のグルコース(比色アッセイ)を遊離させた、分析されるべき酵素溶液の試験サンプルが測定された。ろ紙活性の原理は、DNS(dinitrosalicylic acid:ジニトロサリチル酸)アッセイによって、ワットマンNo.1紙から得られた還元糖の量を測定することにある。
【0049】
β−グルコシダーゼ活性を測定するために用いられた基質は、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド(p-nitrophenyl-β-D-glucopyranoside:PNPG)であった。それは、β−グルコシダーゼによって切断され、これは、p−ニトロフェノールを遊離させた。
【0050】
1のβ−グルコシダーゼ活性単位は、分当たりにPNPGから1μmolのp−ニトロフェノールを生じさせるために必要な酵素の量として定義され、IU/mLで表される。
【0051】
キシラーゼ活性をアッセイする原理は、DNSアッセイによって、加水分解されたキシラン溶液から得られた還元糖の量を測定することにある。このアッセイ方法は、糖、主としてキシロースの還元特性を用いる。キシラーゼ活性は、IU/mLで表され、分当たりに1μmolのキシロースを生じさせるために必要な酵素の量に相当する。
【0052】
比活性(specific activity)は、IU/mLで表される活性を、タンパク質の濃度で除算することによって得られる。それらは、IU/mgで表される。
【0053】
a値は、炭素および酸化還元の平衡を確認した後に、ガスの平衡から測定された。
【0054】
実施例1の最終マストについての分析的定量は、以下の結果を生じさせた:
細胞バイオマス(g/L)=15.5
タンパク質(g/L)=50.1
生産性=0.20g/L/h
FPU=29.1IU/mL
キシラナーゼの比活性(Specific xylanase)=8.2IU/mg
β−グルコシダーゼの比活性=1.0IU/mg
図2は、バイオマス、タンパク質の濃度およびKaにおける経時変化を表している。細胞バイオマスが実験の最初の50時間の間に15g/Lまで増大したことおよびKaが240h−1であったことが理解され得るだろう。タンパク質の濃度は、最初の50時間の間にわずかに増加し、次いで、バイオマスの濃度が安定した時点から大幅に増加した。それは、培養が完了した時に50g/Lに達した。
【0055】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同一の条件下に実施されたが、用いられた発酵槽の最大Kaは100h−1であり、その初期容積は750mLであった。発酵により、細胞バイオマスの高い生産(45g/L)および低いタンパク質生産(19g/L)がもたらされた(図3参照)。
【0056】
これは、実験を通して高い残留濃度の炭素質基質(ラクトース、グルコース)が存在することよるものであった。これによりセルロース生成が再開し、これは、実際に、誘導炭素質基質についての制限条件下に誘導された。グルコースが消費されなかったのは、バイオリアクターの酸素移動容量が2.5倍少なく、これが、O消費の速度に比例する炭素質基質消費の速度を低減させたからである。
【0057】
実際、酸素移動速度は、以下のように表される:
OTR=Ka(O−O2L
(式中、
:飽和酸素濃度
2L:液相中の酸素濃度
である)。
【0058】
酸素消費の速度は、それ故に、2.5倍小さかったOTRによって制限された。
【0059】
最終マストについての分析的定量は、以下の結果を生じさせた:
細胞バイオマス(g/L)=45
タンパク質(g/L)=19
FPU=10.1IU/mL
キシラナーゼの比活性=8.5IU/mg
β−グルコシダーゼの比活性=1.2IU/mg
(実施例3:本発明に合致する)
100h−1のkaを有するバイオリアクターが用いられたが、生産方法は、本発明に合致するように改変された。
【0060】
初期グルコース濃度は、それ故に、15g/Lに低減させられ、その結果、二原子酸素消費の最大生物学的速度は、用いられた発酵槽と適合していた。グルコースに対する細胞バイオマス生産の収率は、これが過剰に存在していた時に0.5g/gであった。このことは、この量のグルコースについての最大二原子酸素消費速度が0.5g/L/hであったことを意味する(最大生育速度が0.08h−1であり、二原子酸素のバイオマスへの転化収率が1.2g/gである)。
【0061】
流加段階は、24時間後に、毎時のバイオマスの重量(g)当たり基質89mgの流れ(250g/Lのラクトース溶液)により着手された。生育段階は、タンパク質生成と同時に起こった。タンパク質生成は、実験の240時間後に51.7g/Lに達した(図4)。最終のタンパク質生産性は、それ故に、低減した移動容量を有する発酵槽の使用にも拘わらず維持された。それは、0.21g/L/hであった(実施例1の場合には、それは、0.20g/L/hであった)。
【0062】
図5は、実験中のkaにおける変化を例証する;それは、100h−1未満にとどまっていた。
【0063】
最終マストについての分析的定量は、以下の結果を与えた:
細胞バイオマス(g/L)=18.9
タンパク質(g/L)=51.7
生産性=0.21g/L/h
FPU=30.1IU/mL
キシラナーゼの比活性=9.5IU/mg
β−グルコシダーゼの比活性=1.12IU/mg
図1
図2
図3
図4
図5