特許第6169079号(P6169079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169079
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】徐放のための活性剤の製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20170713BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20170713BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20170713BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20170713BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170713BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20170713BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170713BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170713BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   A61K47/64
   A61K38/22
   A61K38/28
   A61K38/43
   A61K47/02
   A61K47/18
   A61K9/08
   A61P3/10
   A61P7/04
【請求項の数】27
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-527329(P2014-527329)
(86)(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公表番号】特表2014-524480(P2014-524480A)
(43)【公表日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】US2012052304
(87)【国際公開番号】WO2013028989
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年8月24日
(31)【優先権主張番号】61/526,940
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/551,506
(32)【優先日】2011年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509066019
【氏名又は名称】フェーズバイオ ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド,スーザン
(72)【発明者】
【氏名】プライアー,クリストファー
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525946(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/158704(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/080578(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/020091(WO,A1)
【文献】 特表2010−502734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00 − 47/69
A61K 9/08 − 9/133
A61K 38/00 − 38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐放医薬製剤であって、
全身投与のための治療薬であって、タンパク質である活性剤と、配列番号:1−12のいずれかの繰り返し単位を少なくとも1つ含むアミノ酸配列とを含む治療薬を含み、
前記製剤が、20mM〜100mMの範囲で存在する塩化ナトリウムと、5mM50mMの範囲で存在するヒスチジンと、0.5mg/mL200mg/mLの範囲で存在する前記治療薬とを含み、投与されると注射部位からゆっくりと吸収され、1ヶ月に1回8回投与される、医薬製剤。
【請求項2】
前記アミノ酸配列は[VPGXG]120を含み、各XはV、G、およびAから選択され、V:G:Aの比は5:3:2であり得る、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記タンパク質活性剤は、30秒10時間、または30秒1時間の範囲の循環半減期を有する、請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記活性剤はVPAC2選択的アゴニストまたはその誘導体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記治療薬は5mg/mL125mg/mLの範囲で含まれている、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記治療薬は10mg/mL50mg/mL、または15mg/mL30mg/mLの範囲で含まれている、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記製剤は1週間に1回、1週間に2回、または1ヶ月に1〜5回の投与のためのプレドーズペンまたはシリンジの形態でパッケージされる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
徐放医薬製剤であって、
タンパク質である活性剤と、[VPGXG]90を含むアミノ酸配列であって、各XはV、G、およびAから選択されるアミノ酸配列とを含む治療薬を含み、
前記製剤が、20mM〜100mMの範囲で存在する塩化ナトリウムと、5mM50mMの範囲で存在するヒスチジンと、0.5mg/mL200mg/mLの範囲で存在する前記治療薬とを含み、投与されると注射部位からゆっくりと吸収され、1ヶ月に1回8回投与される、医薬製剤。
【請求項9】
前記アミノ酸配列は[VPGXG]120を含み、各XはV、G、およびAから選択される、請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
V、G、およびAは5:3:2の比である、請求項8または9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記タンパク質活性剤は30秒10時間、または30秒1時間の範囲の循環半減期を有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記活性剤はVPAC2選択的アゴニストまたはその誘導体である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記治療薬は5mg/mL125mg/mLの範囲で含まれている、請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記治療薬は10mgmL50mg/mLの範囲、または15mg/mL30mg/mLの範囲で含まれている、請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項15】
前記製剤は1週間に1回、1週間に2回、または1ヶ月に1〜5回の投与のためのプレドーズペンまたはシリンジの形態でパッケージされる、請求項8〜14のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
治療の必要な対象に、活性剤を徐放的に送達させるための医薬製剤の投与に使用され、1ヶ月に回投与される、請求項8〜15のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
前記活性剤はVIPまたはその類似体である、請求項1または16に記載の医薬製剤。
【請求項18】
前記製剤は毎週投与される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項19】
前記製剤は皮下または筋肉内に投与される、請求項1〜18のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項20】
前記投与部位は病的部位ではない、請求項1〜19のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項21】
前記塩化ナトリウムは、75mM150mMの濃度で含まれている、請求項1または8に記載の医薬製剤。
【請求項22】
前記塩化ナトリウムは、100mM150mMの濃度で含まれている、請求項21に記載の医薬製剤。
【請求項23】
前記塩化ナトリウムは、110mMの濃度で含まれている、請求項22に記載の医薬製剤。
【請求項24】
ナトリウムが75mMの濃度で含まれている、請求項23に記載の医薬製剤。
【請求項25】
ヒスチジンが10mM〜40mMの濃度で含まれている、請求項1又は8に記載の医薬製剤。
【請求項26】
ヒスチジンが20mMの濃度で含まれている、請求項25に記載の医薬製剤。
【請求項27】
塩化ナトリウムが75mMの濃度で含まれており、ヒスチジンが20nMの濃度で含まれている、請求項1又は8に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2011年8月24に出願された米国仮特許出願第61/526,940号および2011年10月26日に出願された米国仮特許出願第61/551,506号(その各々はその全体が本明細書で参照により組み込まれる)に対し優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は徐放のための医薬製剤、および徐放製剤を用いた治療レジメンを送達するための方法に関する。
【0003】
電子的に提出されたテキストファイルの説明
これに添えて電子的に提出されたテキストファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる:配列表のコンピュータ可読フォーマットコピー(ファイル名:PHAS_024_02WO_SeqList_ST25.txt、記録日:2012年8月14日、ファイルサイズ3キロバイト)。
【背景技術】
【0004】
ペプチドおよび小分子薬の有効性は、そのような薬物の循環における半減期、ならびに実質的に一定の血漿レベルを得るのが困難なことによりしばしば制限される。例えば、インクレチンGLP−1は、循環におけるその短い半減期に反撃するために比較的高い用量で投与されなければならず、これらの高い用量は、とりわけ悪心と関係する。Murphy and Bloom、Nonpeptidic glucagon −like peptide 1 receptor agonists: A magic bullet for diabetes? PNAS 104 (3):689−690 (2007)。さらに、ペプチド薬血管作用性小腸ペプチド(VIP)は、いくつかの推定では、1分未満の半減期を示し、これによりこの薬剤は、薬学的用途で実際的でないものになっている。Domschke et al、Vasoactive intestinal peptide in man: pharmacokinetics, metabolic and circulatory effects. Gui 19: 1049−1053 (1978); Henning and Sawmiller, Vasoactive intestinal peptide: cardiovascular effects, Cardiovascular Research 49:27−37 (2001)。ペプチド薬物の短い血漿半減期は、しばしば、速い腎臓クリアランスならびに体循環中の酵素分解による。
【0005】
ペプチドおよび小分子薬の薬物動態を改善するための戦略は大きな需要がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は徐放のための医薬製剤、および徐放製剤を用いた治療レジメンを送達するための方法を提供する。よって、本発明はペプチドおよび小分子薬の改善された薬物動態を提供する。
【0007】
1つの態様では、本発明は徐放医薬製剤を提供する。製剤は全身投与のための治療薬を含み、ここで、治療薬は活性剤および対象の体温で可逆マトリクスを形成することができるアミノ酸配列を含む。可逆マトリクスは、水素結合(例えば、分子内および/または分子間水素結合)により、ならびに疎水性寄与により形成される。製剤はさらに、投与されるとマトリクスの形成を誘導する、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および/または希釈剤を含む。マトリクスは、注射部位からの循環への遅い吸収を提供する。徐放、または注射部位からの遅い吸収は、濃度が注射部位で消散するので、マトリクスの遅い反転による。製品が循環内に移動した時点で、製剤は、長い半減期および改善された安定性を与える。よって、遅い吸収および長い半減期の独特の組み合わせが達成され、トラフ比に対する浅いピークおよび/または長いTmaxを有する所望のPKプロファイルが得られる。
【0008】
ある一定の実施形態では、アミノ酸配列はエラスチン様タンパク質(ELP)配列である。ELP配列は、エラスチンタンパク質に関連する、またはその模倣物である構造ペプチド単位または配列を含むまたはから構成される。アミノ酸配列は選択された製剤により可視および可逆の逆相転移を示し得る。すなわち、アミノ酸配列は転移温度(Tt)より下では構造的に乱され、製剤中で高可溶性となり得るが、製剤の温度がTtを超えて上昇すると、鋭い(2−3℃範囲)無秩序−秩序相転移を示し得る。温度に加えて、アミノ酸ポリマの長さ、アミノ酸組成、イオン強度、pH、圧力、選択した溶媒、有機溶質の存在、温度、およびタンパク質濃度もまた、転移特性に影響する可能性があり、これらは、所望の吸収プロファイルに対し調整され得る。マトリクスを形成するアミノ酸配列のための他の例示的な配列または構造は本明細書で開示される。
【0009】
様々な実施形態では、全身投与のための活性剤はタンパク質またはペプチドであり、これは短い循環半減期、例えば約30秒〜約1時間、〜約2時間、または〜約5時間を有し得る。いくつかの実施形態では、タンパク質またはペプチドは30秒〜約10時間の循環半減期を有する。治療薬は、タンパク質活性剤と、マトリクスを形成することができるアミノ酸配列の間の組換え融合タンパク質とすることができる。例示的なペプチド活性剤としては、GLP−1受容体アゴニスト(例えば、GLP−1またはその誘導体)、グルカゴン受容体アゴニスト(例えば、グルカゴン、オキシントモジュリンまたはその誘導体)、VPAC2選択的アゴニスト(例えば、血管作用性小腸ペプチド(VIP)またはその誘導体)、GIP受容体アゴニスト(例えばグルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)またはその誘導体)、あるいはインスリンまたはその誘導体が挙げられる。また、タンパク質活性剤は凝固因子、例えば第VII因子、第VIII因子、または第IX因子である。本発明による送達のための他のタンパク質および小分子薬は本明細書で開示される。注射部位からの遅い吸収を提供することにより、腎臓クリアランスおよび分解を制御することができ、よって所望のPKプロファイルが達成される。
【0010】
別の態様では、本発明は、活性剤の徐放レジメンを送達するための方法を提供する。方法は、本明細書で記載される製剤を、治療の必要な対象に投与することを含み、ここで、製剤は1ヶ月に約1〜約8回投与される。いくつかの実施形態では、製剤はだいたい毎週投与され、ならびに、皮下または筋肉内に(例えば)投与され得る。いくつかの実施形態では、投与部位は病的部位ではなく、すなわち、治療薬は対象とする作用部位に直接投与されない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】37℃以上までの温度変化により誘導されるELP1タンパク質の相転移(濁度の増加により図示される)を示す。この特性は注射部位からの遅い吸収を提供する。
図2】25℃以上までの温度変化により誘導されるELP4タンパク質の相転移(濁度の増加により図示される)を示す。この特性はデポー様送達を提供する。
図3】理論に縛られること望まないが、観察される転移に対する可能性のあるメカニズムを示し、ここで、水殻はある一定の条件下で排除され、水素結合の形成が可能になる。
図4】37℃、約0.01mg/ml未満のタンパク質濃度でのELP4シリーズ転移を示し、例えば、注射部位で低タンパク質濃度の徐放製剤が可能になる。
図5】37℃直下、約10mg/ml以上の比較的高いタンパク質濃度でのELP1シリーズ転移を示し、比較的高い量の活性剤を有する徐放製剤が可能になる。
図6】0.3、0.6、0.9および1.35mg/kgの2型糖尿病を有する成人対象へのSC投与後の、Glp−l/ELPl−120(本明細書ではPB1023またはGlymeraとも呼ばれる)に対する薬物動態パラメータの概要を示す。
図7】第0日に0.3、0.6、0.9および1.35mg/kgの2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後の、Glp−l/ELPl−120(本明細書でPB1023またはGlymeraとも呼ばれる)の平均血清濃度を示す(片対数軸)。
図8】2型糖尿病:Glymeraプログラム概観薬物動態クロスオーバー研究を示す。90mgの、50mg/mLおよび100mg/mL製剤としての2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後のGlymeraの平均血清濃度を示す(片対数軸)。
図9】90mgの50mg/mLおよび100mg/mL製剤としての2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後のGlymeraに対する薬物動態パラメータの概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は徐放のための医薬製剤、および徐放製剤を用いた治療レジメンを送達するための方法を提供する。よって、本発明はペプチドおよび小分子薬の改善された薬物動態、例えば低いピーク対トラフ比、および/または長いTmaxを有する比較的平坦なPKプロファイルを提供する。PKプロファイルは、比較的希な投与スケジュール、例えば、いくつかの実施形態では1ヶ月に1〜8回の注射で維持することができる。
【0013】
1つの態様では、本発明は徐放医薬製剤を提供する。製剤は全身投与のための治療薬を含み、ここで、治療薬は活性剤および対象の体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列を含む。可逆マトリクスは水素結合(例えば、分子内および/または分子間水素結合)により、ならびに疎水性寄与により形成される。製剤はさらに、投与されるとマトリクスの形成を誘導する、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および/または希釈剤を含む。マトリクスは注射部位から循環への遅い吸収を提供し、理論に縛られないが、この遅い吸収は、タンパク質濃度が注射部位で減少につれ、マトリクスの遅い反転による。遅い吸収プロファイルは、平坦なPKプロファイル、ならびに好都合で快適な投与レジメンを提供する。例えば、様々な実施形態では、日にちの経過に伴う(例えば、2〜約60日、または約4〜約30日)活性剤の血漿濃度は、10倍超で、または約5倍超で、または約3倍超で変化しない。一般に、この平坦なPKプロファイルは、製剤の複数の(実質的に等間隔)投与、例えば少なくとも2、少なくとも約5、または少なくとも約10投与にわたって見られる。いくつかの実施形態では、遅い吸収は、約5時間超、約10時間超、約20時間超、約30時間超、または約50時間超のTmax(最高血漿濃度到達時間)により表される。
【0014】
徐放、または注射部位からの遅い吸収は、対象の体温で水素結合マトリクスを形成することができるアミノ酸配列、ならびに製剤の構成成分により制御される。
【0015】
いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は、タンパク質骨格基および/または側鎖基を介して水素結合を形成する、およびマトリクス形成に疎水性相互作用を与え得る構造単位を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸側鎖は、水素結合供与基を含まず、水素結合は実質的にタンパク質骨格を介して形成される。例示的なアミノ酸としては、プロリン、アラニン、バリン、グリシン、およびイソロイシン、ならびに同様のアミノ酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、構造単位は実質的に繰り返し構造単位であり、そのため、実質的に繰り返し構造モチーフ、および実質的に繰り返し水素結合能力を生成させる。これらのおよび他の実施形態では、アミノ酸配列は少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも40%、または少なくとも50%のプロリンを含み、これらは実質的に繰り返しパターンで配置され得る。この状況では、実質的に繰り返しパターンは、アミノ酸配列の少なくとも50%または少なくとも75%のプロリン残基が限定できる構造単位の一部であることを意味する。さらに他の実施形態では、アミノ酸配列は水素結合供与側鎖を有するアミノ酸、例えばセリン、スレオニン、および/またはチロシンを含む。いくつかの実施形態では、繰り返し配列は、1〜約4つのプロリン残基を含むことができ、残りの残基は独立して非極性残基、例えばグリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、およびバリンから選択される。非極性または疎水性残基は疎水性相互作用をマトリクスの形成に与え得る。
【0016】
アミノ酸配列は貯蔵温度よりも高い温度で注射されると「ゲル様」状態を形成し得る。例示的な配列は繰り返しペプチド単位を有し、および/または、より低い温度では比較的非構造化され、より高い温度では、水素結合された、構造化状態を達成し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列は、4〜10のアミノ酸の繰り返し単位を有するペプチドである。繰り返し単位はマトリクスの形成において1、2、または3つの水素結合を形成し得る。ある一定の実施形態では、体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列は絹、エラスチン、コラーゲン、またはケラチンのアミノ酸配列、またはその模倣物、あるいは米国特許6,355,776号(本明細書で参照により組み込まれる)において開示されるアミノ酸配列である。
【0018】
ある一定の実施形態では、アミノ酸配列はエラスチン様タンパク質(ELP)配列である。ELP配列は、エラスチンタンパク質に関連する、またはその模倣物である構造ペプチド単位または配列を含むまたはから構成される。ELP配列は、3〜約20のアミノ酸、またはいくつかの実施形態では、4〜10のアミノ酸、例えば4、5または6のアミノ酸の構造単位から構成される。個々の構造単位の長さは変動してもよく、または均一でもよい。例示的な構造単位としては、配列番号:1−12(下記)により規定される単位が挙げられ、これらはタンデム−繰り返し単位を含む繰り返し構造単位として使用され得、またはいくつかの組み合わせで使用され得る。よって、ELPは、下記で規定されるように、配列番号:1−12から選択される構造単位(複数可)を含む、またはから本質的に構成され得る。
【0019】
構造単位がELP単位である実施形態を含む、いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は約10〜約500の構造単位、または、ある一定の実施形態では約50〜約200構造単位、またはある一定の実施形態では、約80〜約200の構造単位、または約80〜約150の構造単位、例えば配列番号:1−12により規定される単位の1つまたは組み合わせを含む、またはから本質的に構成される。よって、構造単位は集合的に、約50〜約2000のアミノ酸残基、または約100〜約800のアミノ酸残基、または約200〜約700のアミノ酸残基、または約400〜約600のアミノ酸残基の長さを有し得る。
【0020】
アミノ酸配列は選択された製剤により可視および可逆の逆相転移を示し得る。すなわち、アミノ酸配列は、転移温度(Tt)より下では構造的に乱され、製剤中で高可溶性となり得るが、製剤の温度がTtを超えて上昇すると、鋭い(2−3℃範囲)無秩序−秩序相転移を示し得る.温度に加えて、アミノ酸ポリマの長さ、アミノ酸組成、イオン強度、pH、圧力、温度、選択した溶媒、有機溶質の存在、およびタンパク質濃度もまた、転移特性に影響する可能性があり、これらは、所望の吸収プロファイルに対し製剤において調整され得る。吸収プロファイルは、時間経過に伴う活性剤の血漿濃度または活性を決定することにより容易に試験することができる。
【0021】
ある一定の実施形態では、ELP構成成分(複数可)は構造単位、例えば、限定はされないが、下記から形成され得る:
(a)テトラペプチドVal−Pro−Gly−Gly、またはVPGG(配列番号:1);
(b)テトラペプチドIle−Pro−Gly−Gly、またはIPGG(配列番号:2);
(c)ペンタペプチドVal−Pro−Gly−X−Gly(配列番号:3)、またはVPGXG、ここで、Xは任意の天然または非天然アミノ酸残基であり、Xは任意でポリマまたはオリゴマリピート間で変動する;
(d)ペンタペプチドAla−Val−Gly−Val−Pro、またはAVGVP(配列番号:4);
(e)ペンタペプチドIle−Pro−Gly−X−Gly、またはIPGXG(配列番号:5)、ここで、Xは任意の天然または非天然アミノ酸残基であり、Xは任意でポリマまたはオリゴマリピート間で変動する;
(e)ペンタペプチドIle−Pro−Gly−Val−Gly、またはIPGVG(配列番号:6);
(f)ペンタペプチドLeu−Pro−Gly−X−Gly、またはLPGXG(配列番号:7)、ここでXは任意の天然または非天然アミノ酸残基であり、Xは任意でポリマまたはオリゴマリピート間で変動する;
(g)ペンタペプチドLeu−Pro−Gly−Val−Gly、またはLPGVG(配列番号:8);
(h)ヘキサペプチドVal−Ala−Pro−Gly−Val−Gly、またはVAPGVG(配列番号:9);
(i)オクタペプチドGly−Val−Gly−Val−Pro−Gly−Val−Gly、またはGVGVPGVG(配列番号:10);
(j)ノナペプチドVal−Pro−Gly−Phe−Gly−Val−Gly−Ala−Gly、またはVPGFGVGAG(配列番号:11);および
(k)ノナペプチドVal−Pro−Gly−Val−Gly−Val−Pro−Gly−Gly、またはVPGVGVPGG(配列番号:12)。
【0022】
配列番号:l−12により規定されるそのような構造単位は、構造繰り返し単位を形成することができ、または組み合わせて使用されELPを形成し得る。いくつかの実施形態では、ELP構成成分は、配列番号:1−12から選択される構造単位の1つまたは組み合わせ(例えば、2、3または4)から完全に(またはほぼ完全に)形成される。他の実施形態では、ELP構成成分の少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも90%は、配列番号:1−12から選択される構造単位の1つまたは組み合わせから形成され、それらは繰り返し単位として存在し得る。
【0023】
ある一定の実施形態では、ELPはVal−Pro−Gly−X−Gly(配列番号:3)の繰り返し単位、例えばタンデム繰り返し単位を含み、ここで、Xは上記で規定される通りであり、全ELP構成成分(VPGXG(配列番号:3)以外の構造単位を含み得る)に対するVal−Pro−Gly−X−Gly(配列番号:3)単位のパーセンテージは、ELPの約50%超、または約75%超、または約85%超、または約95%超である。ELPは、配列番号:3の5〜15構造単位(例えば約10構造単位)のモチーフを含むことができ、ゲスト残基Xは、モチーフ内の少なくとも2つまたは少なくとも3つの単位間で変動する。ゲスト残基は独立して、例えば非極性または疎水性残基、例えばアミノ酸V、I、L、A、G、およびWから選択され得る(かつ、所望の逆相転移特性を保持するように選択され得る)。
【0024】
いくつかの実施形態では、ELPはβターン構造を形成し得る。βターン構造を生成するのに好適な例示的なペプチド配列は、国際特許出願PCT/US96/05186号(その全体が本明細書で参照により組み込まれる)において記載される。例えば、配列VPGXG(配列番号:3)中の、第4残基(X)はβターンの形成を排除せずに変更することができる。
【0025】
例示的なELPの構造は、表示法ELPk[XiYj−n]を用いて記載することができ、ここで、kは特定のELP繰り返し単位を指定し、角括弧で囲まれた大文字は、一文字アミノ酸コードであり、それらの対応する添字は、構造単位内の各ゲスト残基Xの相対比を指定し(適切な場合)、nは構造リピートの数で表されるELPの全長を示す。例えば、ELP1[V5A2G3−10]は、ペンタペプチドVPGXG(配列番号:3)の10の繰り返し単位を含むELP構成成分を指定し、ここで、Xは約5:2:3の相対比のバリン、アラニン、およびグリシンであり;ELP1[K1V2F1−4]はペンタペプチドVPGXG(配列番号:3)の4の繰り返し単位を含むELP構成成分を指定し、ここで、Xは約1:2:1の相対比のリジン、バリン、およびフェニルアラニンであり;ELP1[K1V7F1−9]は、ペンタペプチドVPGXG(配列番号:3)の9の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し、ここで、Xは約1:7:1の相対比のリジン、バリン、およびフェニルアラニンであり;ELP1[V−5]は、ペンタペプチドVPGXG(配列番号:3)の5の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し、ここでXはバリンであり;ELP1[V−20]は、ペンタペプチドVPGXG(配列番号:3)の20の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し、ここで、Xはバリンであり;ELP2[5]は、ペンタペプチドAVGVP(配列番号:4)の5の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し;ELP3[V−5]は、ペンタペプチドIPGXG(配列番号:5)の5の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し、ここでXはバリンであり;ELP4[V−5]は、ペンタペプチドLPGXG(配列番号:7)の5の繰り返し単位を含むポリペプチドを指定し、Xはバリンである。
【0026】
ELPに関しては、Ttはゲスト残基の疎水性の関数である。よって、ゲスト残基(複数可)のアイデンティティおよびそれらのモル分率(複数可)を変動させることにより、広い範囲にわたって逆転移を示すELPを合成することができる。よって、あるELP長でのTtは、より大きな分率の疎水性ゲスト残基をELP配列に組み込むことにより減少させることができる。好適な疎水性ゲスト残基の例としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが挙げられる。チロシンは中程度に疎水性であり、これもまた使用され得る。反対に、Ttは、下記から選択されるものなどの残基を組み込むことにより増加させることができる:グルタミン酸、システイン、リジン、アスパラギン酸、アラニン、アスパラギン、セリン、スレオニン、グリシン、アルギニン、およびグルタミン。
【0027】
100,000を超える分子量を有するポリペプチドでは、PCT/US96/05186号(その全体が本明細書で参照により組み込まれる)に開示される疎水性スケールは、特定のELP配列の近似Ttを予想するための1つの手段を提供する。100,000未満の分子量を有するポリペプチドでは、Ttは下記二次関数により予想または決定することができる:Tt=M0+M1X+M2X2、ここでXは、融合タンパク質のMWであり、M0=116.21;M1=−1.7499;M2−0.010349である。
【0028】
いくつかの実施形態では、ELPは製剤条件で約10〜約37℃、例えば約20〜約37℃、または約25〜約37℃の範囲のTtを提供するように選択または設計される。いくつかの実施形態では、生理的条件(例えば、0.9%生理食塩水)での転移温度は、わずかにより低い末梢温度を考慮して約34〜36℃である。
【0029】
ある一定の実施形態では、体温で水素結合マトリクスを形成することができるアミノ酸配列は[VPGXG]90を含み、ここで、各Xは、V、G、およびAから選択され、V:G:Aの比は約5:3:2とすることができる。例えば、体温で水素結合マトリクスを形成することができるアミノ酸配列は[VPGXG]120を含むことができ、ここで、各XはV、G、およびAから選択され、V:G:Aの比は約5:3:2とすることができる。ここで示されるように、このELPの120の構造単位は、約5〜15mg/ml(例えば、約10mg/ml)のタンパク質により、約37℃の転移温度を提供することができる。約50〜約100mg/mLの濃度では、相転移温度は約35.5℃(体温直下)であり、末梢体温をちょうど37℃未満とすることが可能である。
【0030】
また、体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列は[VPGVG]90、または[VPGVG]120を含む。本明細書で示されるように、このELPの120の構造単位は、約0,005〜約0.05mg/ml(例えば、約0.01mg/ml)のタンパク質により、約37℃の転移温度を提供することができる。
【0031】
エラスチン様ペプチド(ELP)タンパク質ポリマおよび組換え融合タンパク質は、米国特許公開番号第2010/0022455号(本明細書で参照により組み込まれる)において記載されるように調製することができる。
【0032】
他の実施形態では、体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列はランダムコイルまたは非球状拡張構造を含み得る。例えば、体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列は、米国特許公開番号第2008/0286808号、WIPO特許公開番号第2008/155134号、および米国特許公開番号第2011/0123487号(その各々は本明細書で参照により組み込まれる)において開示されるアミノ酸配列を含み得る。
【0033】
例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は、少なくとも40のアミノ酸の非構造化組換えポリマを含む。例えば、非構造化ポリマは、非構造化ポリマに含まれるグリシン(G)、アスパラギン酸(D)、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)およびプロリン(P)残基の合計が、総アミノ酸の約80%超を構成する場合に規定され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも50%のアミノ酸は、Chou−Fasmanアルゴリズムにより決定されるように二次構造を欠いている。非構造化ポリマは約100、150、200以上を超える近接したアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列はランダムコイルドメインを形成する。特に、「ランダムコイル高次構造」を有するまたは形成するポリペプチドまたはアミノ酸ポリマは、実質的に規定される二次および三次構造を欠く。
【0034】
様々な実施形態では、意図される対象はヒトであり、体温は約37℃であり、よって治療薬は、この温度で徐放を提供するように設計される。水素結合および/または疎水性相互作用の反転による循環への緩徐放出は、体温が一定のままであっても、製品が注射部位で拡散するので、濃度の降下により駆動される。他の実施形態では、対象は非ヒト哺乳類であり、治療薬は、哺乳類の体温で徐放を示すように設計され、それはいくつかの実施形態では、例えば、ある一定の飼いならされたペット(例えば、イヌまたはネコ)あるいは家畜(例えば、雌ウシ、ウマ、ヒツジ、またはブタ)では約30〜約40℃であり得る。一般に、Ttは、製剤の貯蔵条件(10〜約25℃、または15〜22℃であり得る)よりも高く、そのため、治療薬は注射のための溶液中にとどまったままである。
【0035】
治療薬は、一般に「全身送達」のためのものであり、薬剤は病的部位または作用部位に局所的に送達されないことを意味する。その代わりに、薬剤は注射部位から血流中に吸収され、そこで、薬剤は全身的に作用し、作用部位に循環を介して輸送される。
【0036】
様々な実施形態では、活性剤はタンパク質またはペプチドであり、それらは短い循環半減期、例えば約30秒〜約1時間を有し得る。治療薬はタンパク質活性剤と対象の体温で水素結合マトリクスを形成することができるアミノ酸配列の間の組換え融合タンパク質としてもよい。例示的なペプチド活性剤としては、GIP受容体アゴニスト、例えばグルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)またはその誘導体が挙げられる。さらに例示的なペプチド活性剤としては、GLP1受容体アゴニスト、例えばGLP−1またはその誘導体(GLP1 7−36またはGLP1 7−37を含む)、あるいはエキセンディンまたはその誘導体が挙げられる。他の実施形態では、タンパク質またはペプチド薬はグルカゴン受容体アゴニスト(グルカゴン、オキシントモジュリンまたはその誘導体を含む)である。いくつかの実施形態では、GLP−1受容体アゴニストは、US2011/0257092号(その全体が本明細書で参照により組み込まれる)において記載されるアミノ酸配列を有するデュアルアゴニストである。他のデュアルまたはマルチ受容体アゴニストはUS2011/016602号およびUS2010/00190701号(その各々は、特にその中で記載されるGLP−1受容体コアゴニストの構造および配列に関して、本明細書で参照により組み込まれる)に記載される。GLP−1受容体コアゴニストの追加の記載は、Pocai A et al., Glucagon−Like Peptide 1/Glucagon Receptor Dual Agonism Reverses Obesity in Mice, Diabetes 58:2258−2266 (2009)およびPatterson JT, et al., Functional association of the N−terminal residues with the central region in glucagon−related peptides, J. Pept. Sci. 17:659−666 (2011)(その各々は本明細書でその全体が参照により組み込まれる)において見出され得る。別の実施形態では、本発明は、GLP1受容体アゴニスト、グルカゴン受容体アゴニスト、およびGIP受容体アゴニストの任意の2つの共製剤を提供する。他の実施形態では、タンパク質またはペプチド薬はVPAC2選択的アゴニスト、例えば血管作用性小腸ペプチド(VIP)またはその誘導体である。また、タンパク質活性剤は凝固因子、例えば第VII因子、第VITI因子、または第IX因子であり、あるいは他の実施形態ではインスリン(例えば、米国仮特許出願第61/563,985号(本明細書で参照により組み込まれる)に記載されるように、単鎖インスリンまたはA鎖もしくはB鎖融合タンパク質)またはモノクローナル抗体もしくは単鎖抗体である。また、活性剤は米国特許公開番号第2011/0123487号(本明細書で参照により組み込まれる)に記載される通りである。本発明による例示的な治療薬としては、GLP−1(A8G,7−37)ELP1−120(本明細書ではPB1023と呼ばれる)またはGLP−1(A8G,7−37)ELP4−120(PB1046)が挙げられる。注射部位からの遅い吸収を提供することにより、腎臓クリアランスおよび分解を制御することができ、よって所望のPKプロファイルが達成される。
【0037】
様々な実施形態では、本発明は、患者において実質的な食欲抑制を誘導しないものおよび/または患者において実質的な悪心を誘導しないもの、例えばPCTUS12/44383号(本明細書で参照により組み込まれる)に記載されるものなどの用量および/またはレジメンを含む。
【0038】
他の実施形態では、治療薬は活性剤と対象の体温でマトリクスを形成することができるアミノ酸配列の間の化学複合体である。例えば、活性剤は化学療法薬、例えば下記から選択される化学療法薬とすることができる:メトトレキサート、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、フルオロウラシル、ベラパミル、シクロホスファミド、シトシンアラビノシド、アミノプテリン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、デモコルチン(democolcine)、エトポシド、ミトラマイシン、クロランブシル、メルファラン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、タモキシフェン、パクリタキセル、ビンブラスチン、カンプトテシン、アクチノマイシンD、シタラビン、およびコンブレスタチン。また、薬剤は、免疫原性分子、または免疫調節物質、あるいは抗炎症薬、例えば米国特許公開番号第2009/0004104号(その全体が本明細書で参照により組み込まれる)に記載される薬剤であってもよい。また、薬剤は、オピオイド分子、例えば、例として、米国仮特許出願第61/597,898号(本明細書で参照により組み込まれる)に記載されるようなオキシコドン、モルヒネ、またはコデインであってもよい。化学複合体は切断可能なリンカーを介してもよく、それについては多くの型が当技術分野で知られている。米国特許第6,328,996号(その全体が本明細書で参照により組み込まれる)を参照されたい。
【0039】
製剤は投与されるとマトリクスの形成を誘導する、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および/または希釈剤を含む。例えば、そのような賦形剤としては塩、および水素結合を安定化するように作用し得る他の賦形剤が挙げられる。例示的な塩としてはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、カリウム、およびカルシウムが挙げられる。対イオンとしては、塩化物およびリン酸が挙げられる。例示的な塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、およびリン酸カリウムが挙げられる。
【0040】
製剤中のタンパク質濃度は、賦形剤と共に、投与温度でマトリクスの形成を駆動するように調整される。例えば、タンパク質濃度が高いほど、マトリクスの形成の駆動を助け、このために必要とされるタンパク質濃度は、使用されるELPシリーズによって変動する。例えば、ELP1−120、または匹敵する転移温度を有するアミノ酸配列を使用する実施形態では、タンパク質は約1mg/mL〜約200mg/mLの範囲で存在し、または約5mg/mL〜約125mg/mLの範囲で存在する。治療薬は、約10mg/mL〜約50mg/mL、または約15mg/mL〜約30mg/mLの範囲で存在することができる。ELP4−120、または匹敵する転移温度を有するアミノ酸配列を使用する実施形態では、タンパク質は約0.005mg/mL〜約10mg/mLの範囲で存在し、または約0.01mg/mL〜約5mg/mLの範囲で存在する。
【0041】
治療薬は体温(例えば、37℃、またはいくつかの実施形態では34〜36℃)でのマトリクスの形成を駆動するのに十分な、pH、イオン強度で、および一般に賦形剤と共に製剤化される。治療薬は一般に、貯蔵条件でマトリクスを形成しないように調製される。貯蔵条件は一般に製剤の転移温度未満、例えば約32℃未満、または約30℃未満、約27℃未満、または約25℃未満、または約20℃未満、または約15℃未満である。例えば、製剤は、血液と等張であり、または生理的条件を模倣するイオン強度を有し得る。例えば、製剤は少なくとも25mM塩化ナトリウム、または少なくとも30mM塩化ナトリウム、または少なくとも40mM塩化ナトリウム、または少なくとも50mM塩化ナトリウム、または少なくとも75mM塩化ナトリウム、または少なくとも100mM塩化ナトリウム、または少なくとも150mM塩化ナトリウムのイオン強度を有し得る。ある一定の実施形態では、製剤は、0.9%生理食塩水未満のイオン強度を有する。いくつかの実施形態では、製剤は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸水素二ナトリウムのうちの2つ以上を含む。液体製剤は、表4、表5、または表6で列挙される構成成分を含むことができ、冷蔵または室温で貯蔵することができる。
【0042】
製剤は、1週間に1回、1週間に2回、または1ヶ月に1〜8回の投与のためのプレドーズペンまたはシリンジの形態でパッケージすることができ、または従来のバイアルなどに充填することができる。
【0043】
例示的な実施形態では、本発明は治療薬を含む徐放医薬製剤を提供し、治療薬(例えば、ペプチドまたはタンパク質治療薬)は、活性剤および[VPGXG]90、または[VPGXG]120を含むアミノ酸配列を含み、各XはV、G、およびAから選択される。V、G、およびAは、約5:3:2の比で存在し得る。また、アミノ酸配列は[VPGVG]90または[VPGVG]120を含む。製剤はさらに、ヒト対象に投与されると、水性形態から可逆マトリクスを形成するための、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および/または希釈剤を含む。活性剤はある一定の実施形態では、GLP−1またはその誘導体(例えば、GLP−1、A8G,7−37)、あるいは血管作用性小腸ペプチド(VIP)またはその誘導体(例えば、メチオニンなどのN末端部分を有する)、あるいはオキシントモジュリンまたはその誘導体、あるいはインスリンまたはその誘導体である。GLP−1およびその誘導体は米国特許公開番号第2011/0123487号(本明細書で参照により組み込まれる)において開示される。VIPおよびその誘導体は米国特許公開番号第2011/0178017号(本明細書で参照により組み込まれる)において開示される。インスリンおよびその誘導体は米国仮特許出願第61/563,985号(本明細書で参照により組み込まれる)において記載される。
【0044】
これらの実施形態では、治療薬は約0.5mg/mL〜約200mg/mLの範囲で存在することができ、または約5mg/mL〜約125mg/mLの範囲で存在する。治療薬は、約10mg/mL〜約50mg/mLの範囲、または約15mg/mL〜約30mg/mLの範囲で存在する。製剤は少なくとも25mM塩化ナトリウム、または少なくとも30mM塩化ナトリウム、または少なくとも40mM塩化ナトリウム、または少なくとも50mM塩化ナトリウム、または少なくとも75mM塩化ナトリウム、または少なくとも100mM塩化ナトリウムのイオン強度を有し得る。製剤は、約0.9%生理食塩水未満のイオン強度を有し得る。製剤は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸水素二ナトリウムのうちの2つ以上を含む。製剤は表4、表5、または表6に列挙される構成成分を含み得る。
【0045】
例えば、所望の安定性を達成するための他の製剤構成成分もまた使用され得る。そのような構成成分としては、1つ以上のアミノ酸または糖アルコール(例えば、マンニトール)、保存剤、および緩衝剤が挙げられ、そのような成分は当技術分野でよく知られている。
【0046】
別の態様では、本発明は、活性剤の徐放レジメンを送達するための方法を提供する。方法は、本明細書で記載される製剤を、治療の必要な対象に投与することを含み、ここで、製剤は1ヶ月に約1〜約8回投与される。例えば、活性剤はGLP−1またはその類似体であってもよく、米国特許出願第13/534,836号(本明細書で参照により組み込まれる)において記載される方法で投与される。例えば、治療薬は、ELP1(例えば、約90〜約150のELP単位を有する)に融合されたGLP−1 7−36または7−37(代わりに8位にGlyを有する)であってもよい。GLP−1融合物は、例えば、治療の必要な患者に投与することにより、糖尿病(1または2型)、代謝疾患、または肥満の治療のために使用され得る。また、活性剤はVIPまたはその類似体であり、米国特許公開番号第2011/0178017(本明細書で参照により組み込まれる)において記載される方法で投与される。VIPは、受容体結合プロファイルを変化させるために、N末端に追加の部分、例えばメチオニンを有することができ、これもまた、米国特許公開番号第2011/0178017号(その記載は本明細書で参照により組み込まれる)に記載される。VIPはELP1(約90〜約150のELP単位を有する)に融合され得る。VIP活性剤は、制御されないまたは抵抗性高血圧症、あるいは肺動脈高血圧症(PAH)、および慢性閉塞性肺疾患(COPD)、などから選択される状態を治療する方法において用途が見出される。
【0047】
いくつかの実施形態では、製剤はだいたい毎週投与され、皮下または筋肉内に投与され得る。いくつかの実施形態では、投与部位は、病的部位ではなく、例えば、対象とする作用部位ではない。
【0048】
様々な実施形態では、活性剤の血漿濃度は、製剤の複数の投与、例えば少なくとも2、少なくとも約5、または少なくとも約10回投与の経過にわたって、10倍超で、または約5倍、または約3倍で変化しない。投与は実質的に等間隔、例えば、例として、約毎日、または1週間に約1回、または1ヶ月に1〜約5回とされる。
【0049】
ある一定の実施形態では、対象はヒトであるが、他の実施形態では、非ヒト哺乳類、例えば、飼いならされたペット(例えば、イヌまたはネコ)、あるいは家畜または農場動物(例えば、ウマ、雌ウシ、ヒツジ、またはブタ)であってもよい。
【実施例】
【0050】
ある一定のアミノ酸配列により示される相転移特性を図1(ELP1)および図2(ELP4)に示す。相転移は濁度の増加として観察することができる。図3は、理論に縛られること望まないが、ある濃度に対する相転移温度を超える温度での、水殻の排除および水素結合の形成により駆動される相転移のための可能性のあるメカニズムを示す。
【0051】
図4は37℃、約0.01mg/mL未満のタンパク質濃度でのELP4シリーズ(約120構造単位)転移を示し、低タンパク質濃度の徐放製剤が可能になる。より高い濃度では、徐放は十分に遅く、デポー様製剤が提供される。図5は約10mg/mL〜約100mg/mL、またはそれ以上の比較的高いタンパク質濃度での35〜37℃の間のELP1シリーズ転移を示し、比較的高い量の活性剤を有する徐放製剤が可能になる。
【0052】
様々な製剤をPB1023(GLP−1、A8G,7−37、ELP1−120)およびPB1046(GLP−1、A8G,7−37、ELP4−120)に対し、様々なタンパク質濃度およびイオン強度で調製した。37℃水浴により誘導される転移を試験した。
【0053】
表1は、タンパク質濃度およびイオン強度により変動させた、PB1023およびPB1046の製剤に対する相転移の決定を示す。示されるように、少なくとも50mg/mLのPB1023の、少なくとも、10mM Hisおよび55mM NaClのイオン強度を有する製剤は、37℃で転移した(35.5℃の近似転移温度を有する)。25mg/mLのPB1023および約通常生理食塩水のイオン強度の製剤もまた、37℃で転移した。1mg/mLと低いPB1046の、通常生理食塩水と同様のイオン強度を有する製剤は37℃で転移した。
【0054】
表2に示されるように、通常生理食塩水、DPBS、または1xリン酸緩衝生理食塩水のいずれか中の25mg/mlのPB1023の製剤は、所望の転移特性を生成させるのに十分であった。水だけでは、所望の転移特性を支持しなかった。
【0055】
表3に示されるように、25mg/mlのPB1023の製剤は、37℃で転移し、50mM NaClに等しいイオン強度を有する。
【0056】
表4、表5、および表6は、本発明のある一定の実施形態によるいくつかの緩衝製剤を示す。
【0057】
図6はGLP−1/ELPl−120(本明細書ではPB1G23またはGlymeraとも呼ばれる)の、2型糖尿病を有する成人対象への0.3、0.6、0.9および1.35mg/kgのSC投与後の薬物動態パラメータの概要を示す。
【0058】
図7は、第0日に0.3、0.6、0.9および1.35mg/kgの2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後の、GLP−1/ELP1−120(本明細書ではPB1023またはGlymeraとも呼ばれる)の平均血清濃度を示す(片対数軸)。
【0059】
図8は2型糖尿病:Glymeraプログラム概観薬物動態クロスオーバー研究を示す。90mgの、50mg/mLおよび100mg/mL製剤としての2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後のGlymeraの平均血清濃度を示す(片対数軸)。50mg/mLおよび100mg/mLに対する平均血清分布に対する時間経過は、100mg/mL用量が血流に、50mg/mL用量よりも遅く入る(すなわち、100mg/mLデータセットはより遅い上昇速度を有する)ことを除き、全体としてほぼ等価であることに注意すべきである。
【0060】
図9は、90mgの50mg/mLおよび100mg/mL製剤としての2型糖尿病を有する成人対象へのs.c.投与後のELP1−120(本明細書ではPB1023またはGlymeraとも呼ばれる)に対する薬物動態パラメータの概要を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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