(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
式(I)の少なくとも1種の化合物が、式(I)に含まれるアニリンスルホン酸並びに3,4−ジヒドロキシ安息香酸からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
有機アニオンを有する少なくとも1種の該合成層状複水酸化物(B)を、直接共沈又はアニオン交換反応により製造する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
有機アニオンを有する少なくとも1種の該合成層状複水酸化物(B)の割合が、該防食プライマー剤の全量を基準として、5〜15質量%である、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーとしての有機ポリマーと、有機アニオンを有する合成層状複水酸化物とを含有する防食プライマー剤を直接、金属素地上へ塗付し、引き続き、塗付された防食プライマー剤から、ポリマー塗膜を形成させることによる、防食コーティングの製造方法に関する。更に、本発明は、前記の方法によりコーティングされた、コーティングされた金属素地に関する。同様に、本発明は、金属素地の耐食性を改善するための、該防食プライマー剤の使用に関する。
【0002】
技術水準
金属材料の腐食は、今日でも依然として満足のいく解決がなされていない問題である。該腐食、すなわち、金属材料と、その周囲雰囲気、特に酸素及び水との、通例、電気化学な反応により、該材料の有意な変化となる。腐食損傷は、金属部品の機能の妨害及び最終的に該部品の修理又は交換の必要性をまねく。該腐食もしくは腐食からの保護の対応する経済的な意味は、それに応じて高い関連性がある。
【0003】
それに応じて、該防食には、金属工業(例えば機械製造及び装備、自動車産業(車両組立)、航空宇宙産業、造船産業、電気産業、精密機械産業)の殆ど全ての分野において、しかし特に自動車産業及び航空産業の分野において、高い重要性が認められうる。最後に挙げた分野においてまさに、部品として主に金属素地が使用され、これらは一部には極端な大気条件にさらされている。
【0004】
典型的には、金属素地は、車両塗装及び航空産業の範囲内で、費用のかかる多層コーティング法にかけられる。このことは、車両組立産業及び航空産業の高い要求、例えば良好な防食を満たすことができるために必要である。
【0005】
通常、まず最初に、該金属素地の前処理の範囲内で、防食化成コーティングの構成(Aufbau)が行われる。その際に、例えば、鋼素地のリン酸処理又はアルミニウム素地もしくはアルミニウム合金、例えば特殊なアルミニウム銅合金、例えばAA2024-T3合金のクロメート処理を挙げることができる。後者は、それらの極めて良好な加工性、その低い密度及び同時に物理的応力に対して抵抗力のある性質に基づき、航空産業の分野において主に使用される。しかしながら、同時に、該材料は、有害な糸さび(“Filiform Corrosion”)を形成する傾向があり、この場合に―しばしば該素地コーティングの物理的損傷及び同時に高い大気湿分により―該腐食が糸状に該素地のコーティングの下を伝播し、その際に該金属素地の糸状腐食損傷を引き起こす。相応して重要であるのは、良好な防食である。
【0006】
該前処理及び対応する化成皮膜の構成後に、原則的に、防食プライマー層の製造が行われる。これは、有機ポリマーマトリックスをベースとし、そのうえ、更に以下に記載される防食顔料を含有してよい。自動車産業の範囲内で、それは通例、電着塗装、特にカソード電着塗装(KTL)である。航空機産業において、たいてい特殊なエポキシ樹脂系プライマーが使用される。自動車塗装の分野において、次いで通例、サーフェーサー塗膜の製造が続き、これは例えば、該素地のなお存在しているむらを埋め、かつストーンチッピング損傷に対して該KTLを保護するものである。最後の工程において、最後にトップコート塗装が続き、これは特に自動車塗装の場合に、別個に塗付される2つの層、すなわちベースコート層及びクリヤコート層からなる。
【0007】
金属素地の、防食の効果的で今日でも依然として重要な形態は、クロム酸塩の使用である。例えば、クロム酸塩は、金属素地の表面前処理の範囲内での化成皮膜の構成の際に使用される(クロメート処理)。同様にしばしば、クロム酸塩は、いわゆる防食顔料として直接、有機ポリマー樹脂をベースとする防食プライマー剤において使用される。これらのプライマー剤は、すなわち、コーティング物質もしくは塗料であり、これらは、公知の塗料成分、例えばバインダーとしての有機樹脂に加え、付加的にクロム酸の塩の形態の特定のクロム酸塩(例えばクロム酸バリウム、クロム酸亜鉛、クロム酸ストロンチウム)を含有する。
【0008】
例えば化成皮膜の構成の範囲内で該金属表面(例えばアルミニウム)のエッチング、次いで続くクロム酸塩の3価クロムへの部分的な還元並びに不動態化層としての難溶性の混合アルミニウム(III)/クロム(III)/クロム(VI)酸化物水和物の構成による、クロム酸塩の防食効果は、久しい以前から知られている。
【0009】
しかしながら、問題であるのは、該クロム酸塩の高毒性かつ発がん性の作用及びそれに付随しているヒト及び環境の負荷である。適切な防食を同時に維持しながら車両産業におけるクロム酸塩の回避は、ゆえに久しい以前から相応する工業分野において志向される。
【0010】
適切な防食を同時に維持しながらクロム酸塩を回避する考えられる試みは、例えば、多様な遷移金属のオキソアニオン(もしくはそれらの塩)、例えばMoO
42-、MnO
4-及びVO
3-の使用である。ランタノイドカチオン又は異なる有機種、例えばベンゾトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、キノリン誘導体又はホスファート誘導体の使用も知られている。その基礎となる作用機構は、複雑であり、今日でもまだ完全に理解されていない。これらは、腐食する金属表面上で不動態化する酸化物/水酸化物層の形成から、特定の金属カチオン(例えばCu(II))の錯化及びそれに付随している特殊な腐食の種類(例えばアルミニウム銅合金の糸さび)の抑制までに達している。
【0011】
更なる試みは、いわゆるナノコンテナ材料及び/又は層状構造材料、例えば有機シクロデキストリン又は無機材料、例えばゼオライト、アルミナナノチューブ及びスメクタイトの使用にある。ハイドロタルサイト成分もしくは層状複水酸化物材料も使用される。後者は、一般的な技術文献において、たいてい、決まった英語の概念“layered double hydroxide”もしくは対応する省略形“LDH”で呼ばれる。これらは、文献においてしばしば、理想化された一般式[M2
2+(1-x)M3
3+x(OH)
2]
x+[A
y-(x/y)・nH
2O]又は類似の実験式により記載される。ここで、M2は2価の金属カチオンを表し、M3は3価の金属カチオンを表し、かつAは原子価xのアニオンを表す。天然産LDHは、この際に通例、無機アニオン、例えば炭酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、水酸化物イオン、及び/又は臭化物イオンである。更なる多様な無機並びに有機のアニオンも、特に、更に以下に記載される合成LDH中に存在していてよい。そのうえ、前記の一般式中で、存在している結晶水が顧慮される。該ハイドロタルサイトの場合に、2価カチオンとしてMg
2+、3価カチオンとしてAl
3+及びアニオンとして炭酸イオンが存在しており、その際に後者は、水酸化物イオン又は他の無機アニオン及び有機アニオンによっても少なくとも部分的に置換されていてよい。これは特に合成ハイドロタルサイトに当てはまる。該ハイドロタルサイトは、すなわち、一般的にLDHとして公知の層状構造の特殊な形態と呼ぶことができる。該ハイドロタルサイトもしくはLDHは、ブルーサイト(Mg(OH)
2)に類似の層状構造を有し、その際にそれぞれ、部分的に存在している3価の金属カチオンに基づき正に帯電した2つの金属水酸化物層の間に、インターカレートされたアニオンの負に帯電した層があり、この層は通例、付加的に結晶水を含有する。すなわち、対応するイオン性の相互作用により層状構造を形成する、交互に正及び負に帯電した層である。該LDH層状構造は、上記で示された式において、相応して入れられたかっこにより考慮される。
【0012】
隣接した2つの金属水酸化物層の間に、多様な薬剤、例えば前記の防食剤を、非共有結合性、イオン性及び/又は極性の相互作用によりインターカレートすることができる。こうして、該ハイドロタルサイトもしくはLDHの場合に、アニオン型の防食剤が、該アニオン性層中へインターカレートされる。これらは直接、ポリマーバインダーをベースとする対応するコーティング剤(例えばプライマー剤)中へ配合され、それゆえ防食に寄与する。その際に、これらが防食化成皮膜を支える。該化成皮膜を完全に置き換えることも試みられ、その際に次いで、対応するプライマーは直接、該金属上へ塗付される。このようにして、該コーティング法は、あまり費用がかからず、ひいてはより安上がりになる。
【0013】
WO 03/102085には、交換可能なアニオンを有する合成ハイドロタルサイト成分もしくは層状複水酸化物(LDH)及びそれらの、アルミニウム表面の防食を改善するためのコーティング剤における使用が記載されている。該層状複水酸化物は、その際に、既に更に前記の理想化された一般式[M2
2+(1-x)M3
3+x(OH)
2]
x+[A
x-・nH
2O]により記載される。金属カチオンとして、該ハイドロタルサイトカチオンであるマグネシウム(II)及びアルミニウム(III)が好ましい。アニオンとして、例えば硝酸イオン、炭酸イオン又はモリブデン酸イオンが、しかし含クロムアニオンであるクロム酸イオン及び二クロム酸イオンも、記載され、その際に有毒で発がん性のクロム酸イオンが、最良の防食を有する。
【0014】
更なるハイドロタルサイト成分もしくはLDH並びにそれらの、有機ポリマーバインダーをベースとするコーティング剤における防食剤としての使用は、例えばEP 0282619 A1、WO 2005/003408 A2又はECS Transactions, 24 (1) 67-76 (2010)に記載されている。その際に、既に記載された無機アニオンに加え、例えば、有機アニオン、例えばサリチル酸イオン、シュウ酸イオン、DMTD(2,4−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)及びその誘導体、EDTAから得ることができるアニオン又はベンゾトリアゾラートも使用される。
【0015】
前記の試みにもかかわらず、該腐食の問題は、今日まで満足のいく解決はできていなかった。このことは、適した防食を保証するために、今日まで依然として含クロム化合物が防食剤として大規模に使用しなければならないという結果になる。
【0016】
WO 2009/062621 A1には、同様に、自動車塗装の範囲内での耐ストーンチッピング性のOEM層複合体の製造用のコーティング剤におけるLDHの使用が記載されている。周知のように、そのようなOEM層複合体は、防食塗装(特にKTL)、サーフェーサー層、ベースコート層及び最後にクリヤコート層からなる。該LDHは、該サーフェーサー層中で使用される。該サーフェーサー層は、その際に、高い耐ストーンチッピング性に加え、その下にあるKTL及びその上にあるベースコート層への良好な付着及びそのうえ良好なサーフェーサー特性(該素地の構造の被覆)を有するとされる。腐食抑制剤としてのLDH成分の使用は記載されていない。該素地上への直接、LDH成分を含有するコーティング剤の適用も、記載されていない。有機アニオンとして、例えばm−又はp−アミノベンゼンスルホン酸イオン、m−又はp−ヒドロキシベンゼンスルホン酸イオン、m−又はp−アミノ安息香酸イオン及び/又はm−又はp−ヒドロキシ安息香酸イオンが使用される。
【0017】
本発明の課題
含クロム防食剤を回避すると同時に、適している防食効果を有する金属素地のコーティングを製造する多数の試みにもかかわらず、基礎となる問題点は、今日まで満足のいく解決はなされない。これは、該含クロム防食剤には、依然として、金属素地の防食コーティングの構成のために決定的な役割があるという結果になる。なお一層のこと難しいこととして、例えば、対応する化成皮膜を放棄し、かつ対応するプライマーを直接該金属素地上へ塗付し、それにより、該コーティングプロセスをより安上がりにかつより時間を節約するようにすることが試みられる場合に、適した防食にすることである。
【0018】
本発明の課題は、それに応じて、金属素地の良好な防食を保証し、かつその際に含クロム防食剤を放棄することができることであった。更に、基礎となるコーティングプロセスはできるだけ単純であるべきである。例えば、生じるコーティングは、異なる個々の層のできるだけ少ない数に基づくべきである。そのうえ、対応する化成皮膜を放棄することができ、それにもかかわらず、優れた防食を得ることが可能であるべきである。このようにして、自動車産業(車両組立)及び航空産業の該防食に関して要求の大きい分野において、該利点、すなわち良好な防食を、経済的に有利なコーティングプロセスと組み合わせることが特に可能であるべきである。
【0019】
本発明による解決手段
本発明によれば、前記課題は、
(1)(A)バインダーとしての少なくとも1種の有機ポリマーと、
(B)有機アニオンを有する少なくとも1種の合成層状複水酸化物と
を含有する防食プライマー剤を直接、金属素地上へ塗付し、かつ
(2)段階(1)において塗付された防食プライマー剤から、ポリマー塗膜を形成させる
ことによる、防食コーティングの製造方法により解決することができ、
その際に、該方法は、
少なくとも1種の該合成層状複水酸化物(B)が、次の式(I):
【化1】
[式中、
R
1=COO
-、SO
3-;
R
2/R
3=NH
2、OH、H]で示される少なくとも1種の有機アニオンを含むことにより特徴付けられている。
【0020】
本発明の対象は、そのうえ、前記の方法によりコーティングされた、コーティングされた金属素地である。
【0021】
同様に、本発明は、金属素地の耐食性を改善するための、該防食プライマー剤、ひいてはその中に含まれる有機アニオンを有する該合成LDHの使用に関する。
【0022】
本発明による方法により、金属素地の優れた防食が保証され、その際にそのうえ、含クロム防食剤を放棄することができる。同時に、化成皮膜を放棄し、それにもかかわらず、優れた防食を得ることが可能である。良好な防食の利点は、すなわち、経済的に有利なコーティングプロセスと組み合わされる。本方法は、それゆえ、自動車産業(車両組立)及び航空産業の該防食に関して要求の大きい分野において応用可能である。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明による方法において使用されうる防食プライマー剤は、更に以下に記載されるような少なくとも1種の有機ポリマー(A)をバインダーとして含有する。周知のように、バインダーとは、塗膜形成の要因となる、コーティング物質中の有機化合物のことを呼ぶ。これらは、該コーティング物質の顔料及びフィラー以外の不揮発分である。該防食プライマー剤から、すなわち、素地上への適用後に、ポリマー塗膜が形成されるので、形成されたコーティング層は、有機ポリマーマトリックスをベースとする。
【0024】
本発明による方法において使用されうる防食プライマー剤は、例えば物理硬化可能、熱硬化可能又は化学線により硬化可能である。このためには、これはそうすると、例えば物理硬化可能、熱硬化可能又は化学線で硬化可能である、更に以下に記載されるような少なくとも1種の有機ポリマー(A)をバインダーとして含有する。好ましくは、該防食プライマー剤は、物理硬化可能又は熱硬化可能である。該防食プライマー剤は、例えば熱硬化可能である場合には、自己架橋性及び/又は外部架橋性であってよい。好ましくは、これは外部架橋性である。使用されうる防食プライマー剤は、熱硬化可能及び化学線により硬化可能であってもよい。このことは、例えば、有機ポリマー(A)が、熱硬化可能並びに化学線により硬化可能であることを意味する。そうするともちろん、双方の硬化法の同時の又は連続した使用、すなわちデュアルキュア硬化も、可能である。
【0025】
本発明の範囲内で、“物理硬化可能”もしくは概念“物理硬化”は、ポリマー溶液又はポリマー分散液からの溶剤の放出による塗膜の形成を意味する。
【0026】
本発明の範囲内で、“熱硬化可能”もしくは概念“熱硬化”は、反応性官能基の化学反応により開始される、塗料層の架橋(コーティング膜の形成)を意味し、その際にこの化学反応のエネルギー活性化は、熱エネルギーにより可能である。その際に、互いに相補的である異なる官能基が互いに反応しうる(相補的な官能基)及び/又は該塗膜形成が、自己反応性基、すなわちそれらの種類の基と互いに反応する官能基の反応に基づく。適した相補的な反応性官能基及び自己反応性官能基の例は、例えば独国特許出願公開明細書DE 199 30 665 A1、7頁28行〜9頁24行から、知られている。
【0027】
この架橋は、自己架橋及び/又は外部架橋であってよい。例えば該相補的な反応性官能基が、バインダーとして使用される有機ポリマー(A)中に既に存在している場合には、自己架橋が存在する。外部架橋は、例えば、特定の官能基を有する有機ポリマー(A)が、更に以下に記載されるような架橋剤と反応する際に存在し、その際にそうすると該架橋剤は、使用される有機ポリマー(A)中に存在している反応性官能基に対して相補的である反応性官能基を含有する。
【0028】
また、バインダーとしての有機ポリマー(A)が、自己架橋性並びに外部架橋性の官能基を有し、かつ更に架橋剤と組み合わされることも可能である。
【0029】
本発明の範囲内で、“化学線により硬化可能”もしくは概念“化学線による硬化”は、該硬化が、化学線、すなわち電磁放射線、例えば近赤外線(NIR)及び紫外線、特に紫外線、並びに粒子線、例えば硬化のための電子線の使用下に可能であるという事実であると理解されうる。紫外線による該硬化は、通常、ラジカル光開始剤又はカチオン光開始剤により開始される。典型的な化学線により硬化可能な官能基は、炭素−炭素二重結合であり、その際に、この場合に通例、ラジカル光開始剤が使用される。エポキシ基含有系も、化学線により硬化することができ、その際にそうすると該硬化は通例、カチオン光開始剤により開始され、こうして活性化されたエポキシ基は、エポキシ基含有系のための典型的な、更に以下にも記載される架橋剤と、反応することができる。該化学線による硬化は、すなわち、同様に化学架橋を基礎としており、その際にこの化学反応のエネルギー活性化が化学線により引き起こされる。
【0030】
本発明による方法の範囲内で使用されうる防食プライマー剤の第一成分は、バインダーとしての少なくとも1種の有機ポリマー(A)である。周知のように、有機ポリマーは、異なる大きさの分子の混合物であり、その際にこれらの分子は、同じか又は異なる有機モノマー単位の配列により(有機モノマーの反応された形態として)区別される。特定の有機モノマーに、とびとびの分子質量が割り当てられうるのに対し、ポリマーは、すなわち常に、それらの分子質量が相違する分子の混合物である。ゆえに、ポリマーは、とびとびの分子質量により記載することができるのではなくて、ポリマーには、周知のように、常に平均分子質量、すなわち、数平均分子質量(M
n)及び質量平均分子質量(M
w)が割り当てられる。周知のように、前記の性質は、定義に従い、常に関係M
w>M
nをもたらさなければならないか、もしくは多分散性(M
w/M
n)は常に1よりも大きい。すなわち、例えば、それ自体として知られた重付加樹脂、重縮合樹脂及び/又は重合樹脂である。例示的に、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリエーテル樹脂が挙げられる。該ポリマーは、例えば、相補的な及び/又は自己反応性の架橋のための前記の官能基を有してよい。
【0031】
該防食プライマー剤中のバインダーとしての少なくとも1種の有機ポリマー(A)の割合は、該防食プライマー剤の固形分を基準としてそれぞれ、好ましくは20〜90質量%、特に好ましくは30〜70質量%及び殊に好ましくは40〜60質量%である。
【0032】
該固形分の測定のためには、本発明の範囲内で、それぞれの成分、例えば対応する溶剤中のポリマーの分散液又は全ての防食プライマー剤の1gの量を125℃で1h加熱し、室温に冷却し、次いで再秤量する。
【0033】
熱硬化可能な、外部架橋性の防食プライマー剤の場合に、バインダーとしての前記のポリマー(A)に加え、通例、付加的に、少なくとも1種の架橋剤が使用される。該架橋剤は、例えば、当業者に知られた、更に以下に記載されるポリアミン又はブロックされた及び/又は遊離のポリイソシアナート、例えばヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、それらのイソシアヌラート三量体、並びに部分的又は完全にアルキル化されたメラミン樹脂でもある。
【0034】
バインダーとしての適した有機ポリマー(A)及び場合により架橋剤の選択及び組合せは、製造されうるコーティング系の所望の及び/又は必要な性質に応じて行われる。更なる選択基準は、所望の及び/又は必要な硬化条件、特にその硬化温度である。そのような選択をどのように行うかは、当該分野の当業者に知られており、かつこの当業者により対応して適合させることができる。しかしながら、有機ポリマー(A)としてアニオン性に安定化されたポリマーが使用されない場合が有利である。アニオン性に安定化されたポリマーは、周知のように、中和剤によりアニオンへ変換することができるアニオン性基及び/又は官能基で変性されており(例えばカルボキシラート基及び/又はカルボン酸基)、かつそれにより水中に分散することができるポリマーである。そのようなポリマーは次いで、水性組成物、例えば水性コーティング組成物において、使用することができる。本発明の範囲内で、そのようなアニオン性に安定化されたポリマー(A)の使用は不利でありうることが分かっている、それというのも、これにより、更に以下に記載されるLDH中に存在する有機アニオンの、該ポリマー分子に対する部分的な交換が場合により行なわれうるからである。好ましくは、本発明による防食プライマー剤はすなわち、アニオン性に安定化されたポリマー不含である。
【0035】
その際に、それ自体として知られた一成分(1K)系及び多成分系、特に二成分(2K)系が可能である。
【0036】
一成分(1K)系において、架橋されうる成分、例えばバインダーとしての有機ポリマー(A)及び該架橋剤は、同時に、すなわち一成分中に存在する。この前提条件は、架橋されうる成分が、より高い温度で及び/又は化学線の照射の際に初めて、互いに架橋することである。
【0037】
二成分(2K)系において、架橋されうる成分、例えばバインダーとしての有機ポリマー(A)及び該架橋剤は互いに別個に、少なくとも二成分中に存在し、これらが該適用の直前に初めて合一される。この形態は、架橋されうる成分が既に室温で互いに反応する場合に選択される。好ましくは(2K)系である。
【0038】
好ましくは、該防食プライマー剤は、少なくとも1種のポリビニルブチラール樹脂及び/又はエポキシ樹脂を有機ポリマー(A)として含有し、極めて特に好ましくは、少なくとも1種のエポキシ樹脂である。
【0039】
ポリビニルブチラールもしくはポリビニルブチラール樹脂とは、周知のように、ポリビニルアルコールからブタナールでのアセタール化により製造されるポリマーのことを呼ぶ。これらはそれに応じて、ポリビニルアセタールの群に属する。該ポリビニルブチラールの製造に必要とされるポリビニルアルコールは、酢酸ビニルのポリ酢酸ビニルへのラジカル重合及び引き続きアルカリけん化により製造される。次いで該ポリビニルブチラールの実際の製造は通例、酸性触媒の存在下での該ポリビニルアルコールとブタナールとの反応により行われる。その際に、統計学的もしくは立体的な理由から最大で約80%の官能化が達成可能である。前記のように、該ポリビニルブチラールの製造に使用されうるポリビニルアルコールは原則的に、ポリ酢酸ビニルのけん化により製造され、かつこの場合にも完全な転化は期待できないので、該ポリビニルブチラールは通例、少なくとも僅かな割合のアセチル基(少なくとも約2%)を含有する。該ポリビニルブチラールは、好ましくは、有機溶剤、例えばアルコール、エーテル、エステル、ケトン又は塩素化炭化水素もしくはこれらの混合物中の溶液もしくは分散液として、本発明による防食プライマー剤において使用される。該樹脂は、例えば、物理硬化性の防食プライマー剤において単独バインダーとして使用されてよく、又は例えばフェノール樹脂又はアミノ樹脂との組合せで使用されてよい。該ポリビニルブチラールの特有値は、例えば、アセタール基の割合(もしくは遊離の未反応ヒドロキシル基の残部割合)又はポリマー中の(けん化されていない)アセチル基の割合である。
【0040】
本発明の範囲内で、最後に、当業者にそれ自体として知られた全てのポリビニルブチラールを使用することができる。しかしながら、好ましくは、20〜60%のアセタール化度を有する、特に好ましくは、30〜45%のアセタール化度を有するポリビニルブチラールが使用される(例えばロシア国家標準規格:GOST 9439 RUにより測定)。そのようなポリビニルブチラールは、例えば、Kuraray社の商標名Mowitalで、Wacker社の商標名Pioloformで又はButvar社の商標名Butvarで得ることができる。
【0041】
本発明による防食プライマー剤中での有機ポリマー(A)としての同様に好ましいエポキシ樹脂は、基本分子中に1個よりも多いエポキシ基を有する、それ自体として知られた重縮合樹脂である。好ましくは、それらは、ビスフェノールA又はビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合により製造されるエポキシ樹脂である。これらの化合物は、該鎖に沿ってヒドロキシ基及び末端部にエポキシ基を有する。該エポキシ樹脂の鎖長に応じて、該エポキシ基もしくは該ヒドロキシ基を介して架橋する能力が変わる。鎖長もしくはモル質量が増加するにつれて、該エポキシ基を介して架橋する能力は低下するのに対して、該ヒドロキシ基を介して架橋する能力は、鎖長が成長するにつれて増加する。本発明の範囲内で、最終的に、当業者にそれ自体として知られた全てのエポキシ樹脂、例えば有機溶剤又は水中の溶液もしくは分散液として得ることができる、更に以下に挙げられ、かつ商業的に入手可能なエポキシ樹脂を使用してよい。しかしながら、既に前記の理由から、アニオン性に安定化されたエポキシ樹脂を使用しないことが有利である。
【0042】
本発明の範囲内で好ましくは使用されうるエポキシ樹脂は、好ましくは、樹脂1kgあたりエポキシ基800〜7000ミリモル(ミリモル/kg)、特に好ましくは3500〜6000ミリモル/kgのエポキシ基含量を有する。樹脂1kgあたりのエポキシ基の含量は、その際に、本発明の範囲内で、DIN EN ISO 3001により測定される。
【0043】
そのようなエポキシ樹脂は、例えば有機溶剤又は水中の溶液もしくは分散液として、例えばCytec社の商標名Beckopoxで又はMomentive社の商標名Epikoteで得ることができる。
【0044】
該エポキシ樹脂は通例、単独で塗膜形成特性を有さないので、それらの使用の場合に、付加的に対応するエポキシ樹脂架橋剤が使用される。特に好ましくは、本発明の範囲内で、既に前記のポリアミンが、架橋剤もしくはエポキシ樹脂架橋剤として使用される。“ポリアミン”は、周知のように、2個以上のアミノ基を有する有機化合物、例えばジアミン又はトリアミンの総称である。該アミノ基に加え、該化合物は、次いで例えば脂肪族又は芳香族の基本骨格を有する、すなわちこれらは、例えばアミノ基及び脂肪族基からもしくはアミノ基及び芳香族基からなる(脂肪族又は芳香族のポリアミン)。もちろん、該ポリアミンは、脂肪族及び芳香族の単位並びに場合により更なる官能基も有してよい。脂肪族ポリアミンの例は、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、3,3,5−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2−シクロヘキシルジアミン及びイソホロンジアミンである。芳香族アミンの例は、メチレンジアニリン及び4,4′−ジアミノジフェニルスルホンである。同様に、“ポリアミン”という上位概念には、例えば、前記のような脂肪族又は芳香族のポリアミンから(いわゆるベースポリアミンとして)、そのアミノ基の少なくとも一部と、更なる有機化合物との反応により製造される有機化合物が含まれるので、それにより多様な性質、例えば該化合物の反応性及び/又は溶解度に影響を及ぼす及び/又は対応するコーティング組成物から製造されるコーティングの性質(例えば表面硬さ)にも影響を与える。そのような化合物は、すなわち付加物であり、かつこれらが依然として少なくとも2個のアミノ基を有する場合には、ポリアミン付加物又は変性ポリアミンと呼ばれうる。これらは、もちろん、前記のポリアミンよりも高い分子量も有するので、それらの健康を損なう作用が低下されている。しばしば、そのようなポリアミン付加物は、脂肪族及び/又は芳香族のポリアミンと、ポリエポキシド、例えば前記のエポキシ樹脂又はとびとびの二官能性化合物、例えばビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの反応生成物であり、その際に次いで、該エポキシ基と比較して化学量論的に過剰量のアミノ基が使用される。これらの付加物は次いで、該エポキシ樹脂の硬化のために、実際のコーティング組成物において使用される。公知の例は、ベースポリアミンとしての3,3,5−トリメチルヘキサメチレンジアミンとエポキシ樹脂としてのビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルとの反応生成物である。同様に該“ポリアミン”という上位概念には、例えば、それ自体として知られたポリアミノアミド、すなわち、例えばベースポリアミンとしての前記のようなポリアミン及びポリカルボン酸、特にジカルボン酸の縮合により製造されるポリマーが含まれる。
【0045】
本発明の範囲内で好ましくは使用されうる、架橋剤としてのポリアミンは、活性水素1モルあたりのポリアミン15〜330g、特に好ましくは35〜330g/モル、極めて特に好ましくは150〜250g/モルの活性H当量(活性水素(N−H基)1モルあたりのポリアミンの質量、すなわち第一級及び第二級のアミノ基の水素)を有する(ASTM D2073による第一級及び第二級のアミン基の測定を通じて測定)。
【0046】
エポキシ樹脂の反応相手もしくは架橋剤としての、そのようなポリアミンもしくはポリアミン付加物又はポリアミノアミドも、例えばCytec社の商標名Beckopoxで又はCardolite社の商標名Cardolite(例えばCardolite NC-562)でも得ることができる。
【0047】
極めて特に好ましくは、本発明の範囲内で、有機樹脂(A)としての少なくとも1種のエポキシ樹脂は、架橋剤としての少なくとも1種のポリアミンとの組合せで使用される。
【0048】
その際に、該防食プライマー剤中の該ポリアミンの割合は好ましくは、少なくとも1種のポリアミンの相補的な反応性官能基(すなわち第一級及び第二級のアミノ基からの架橋可能なN−H基)対少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)のエポキシ基の比が、0.4〜1.4、特に好ましくは0.6〜1.0、極めて特に好ましくは0.7〜0.9であるように選択される(エポキシ基含量及び活性H当量の測定は上記参照)。
【0049】
本発明による防食プライマー剤は、そのうえ、有機アニオンを有する少なくとも1種の合成層状複水酸化物(B)を含有する。各LDHは、次の式(I):
【化2】
[式中、
R
1=COO
-、SO
3-;
R
2/R
3=NH
2、OH、H]で示される少なくとも1種類の有機アニオンを含有する。
【0050】
本発明によれば、R
2=R
3=Hが排除されている場合が好ましい。その結果、R
1/R
2/R
3の特に好ましい組合せは、すなわちCOO
-/NH
2/NH
2、COO
-/NH
2/OH、COO
-/NH
2/H、COO
-/OH/NH
2、COO
-/OH/OH、COO
-/OH/H、COO
-/H/NH
2、COO
-/H/OH、SO
3-/NH
2/NH
2、SO
3-/NH
2/OH、SO
3-/NH
2/H、SO
3-/OH/NH
2、SO
3-/OH/OH、SO
3-/OH/H、SO
3-/H/NH
2、SO
3-/H/OHである。これらの組合せの基礎となる有機アニオンは、該防食プライマー剤の極めて特に良好な耐食性をもたらす。式(I)のアニオンの中では、特に、それにより含まれるアニリンスルホン酸イオン、すなわちp−アニリンスルホン酸イオン及びm−アニリンスルホン酸イオン、並びに3,4−ジヒドロキシ安息香酸イオンが、好ましい。極めて特に好ましくは、m−アニリンスルホン酸イオンである。本発明の更なる実施態様において、極めて特に好ましくは3,4−ジヒドロキシ安息香酸イオンが使用される。
【0051】
式(I)の有機アニオンは、すなわち特に、対応する酸のカルボキシ基又はスルホン酸基の脱プロトン化により得ることができる。そのような脱プロトン化は、本発明の範囲内で、好ましくはそれぞれの化合物の水溶液又は水性懸濁液のpH値の増加により、行われる。特に、該脱プロトン化は、更に以下に記載されるLDH(B)の製造の範囲内で実施される。
【0052】
式(I)の化合物もしくは対応するそれぞれの酸は、アミノ基を有してもよい。これらのアミノ基は、周知のように、塩基的に、すなわちプロトン受容体として反応することができ、ひいてはカチオンの特徴を引き起こしうる。それぞれ存在しているカルボキシ基又はスルホン酸基及び場合により存在している(複数の)アミノ基により、pH値に応じて、例えば双性イオンの特徴も生じうる。これに関連しても、それぞれの酸を完全に式(I)のアニオンへ変換するために、すなわち該pH値の増加が必要でありうる。しかしながら、その際に、(複数の)該アミノ基の塩基の強さが、該フェニル基本骨格及びそれと結び付いた(複数の)該アミノ基の窒素上での自由電子対の非局在化により、脂肪族アミンと比較して低下されていることが顧慮されるべきである。例示的に、純アニリン(9.4)及びアミノエタン(3.4)のpK
b値が指摘される。このことは、場合により存在しているアミノ基が、既に中性又は弱アルカリ性の範囲内で完全に脱プロトン化されており、それにより、純粋にアニオン分子の特徴が引き起こされうることを意味する。
【0053】
LDHは、次の一般式(II)により、記載することができる:
[M
2+(1-x)M
3+x(OH)
2][A
y-(x/y)]・nH
2O (II)
その際にM
2+は、2価の金属カチオンを表し、M
3+は、3価の金属カチオンを表し、かつA
y-は、平均原子価yのアニオンを表す。平均原子価は、本発明の範囲内で、場合により異なるインターカレートされたアニオンの原子価の平均値であると理解されうる。当業者に容易にわかるように、それらの原子価が異なる、異なるアニオン(例えば炭酸イオン、硝酸イオン、EDTAから得ることができるアニオン等)が、アニオンの全量でのそのそれぞれの割合(荷重係数)に応じて、それぞれ個々の平均原子価に寄与してよい。xについては、0.05〜0.5の値が知られているのに対し、結晶水の割合はn=0〜10の値で極めて異なっていてよい。その際に、2価及び3価の金属カチオン並びに水酸化物イオンが、稜部で結合した八面体の規則的な配置で、正に帯電した金属水酸化物層中に存在し(式(II)における一番目のかっこの表現)並びにインターカレートされたアニオンが、それぞれの負に帯電した中間層中に存在し(式(II)における二番目のかっこの表現)、その際に付加的に結晶水が含まれていてよい。
【0054】
本発明の範囲内で有利に使用されうるLDHは、式(II):
[M
2+(1-x)M
3+x(OH)
2][A
y-(x/y)]・nH
2O (II)
により記載され、その際に
2価の金属カチオンM
2+は、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、Cd
2+、Pb
2+、Sr
2+及びそれらの混合物、好ましくはZn
2+、Mg
2+、Ca
2+及びそれらの混合物からなる群から選択され、極めて特に好ましくはZn
2+及び/又はMg
2+、特にZn
2+であり、
3価の金属カチオンM
3+は、Al
3+、Bi
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+、Ni
3+、Co
3+、Mn
3+、V
3+、Ce
3+、La
3+及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはAl
3+、Bi
3+及び/又はFe
3+、特にAl
3+であり、
アニオンA
y-は少なくとも部分的に、次の式(I):
【化3】
[式中、
R
1=COO
-、SO
3-、
R
2/R
3=NH
2、OH、H、その際に特にR
2=R
3=Hが排除されている]で示される少なくとも1種の有機アニオンを含み、
xは、0.05〜0.5、特に0.15〜0.4、極めて特に好ましくは0.25〜0.35の値を取り、かつ
nは、0〜10の値を取る。
【0055】
LDHの製造は、それ自体として知られた方法により、例えばE. Kanezaki, Preparation of Layered Double Hydroxides in Interface Science and Technology, Vol. 1, Chapter 12, Page 345 ff. - Elsevier, 2004, ISBN 0-12-088439-9に記載されているように、行ってよい。LDHの合成についての更なる情報は、例えばD.G. Evans et. al., “Preparation of Layered Double Hydroxides”, Struct Bond (2006) 119, pages 89-119 [DOI 10.1007/430_006, Springer Berlin Heidelberg 2005]に記載されている。
【0056】
原則的に、LDHの製造は、該金属カチオンの無機塩の混合物から、2価及び3価の金属カチオンの必要な及び/又は所望の比(化学量論)を遵守しながら、水相中で、定義され、一定に保持された塩基性pH値で行うことができる。該合成が二酸化炭素の存在下で、例えば大気条件下で及び/又はカーボネートの添加により、行われる場合には、該LDHは通例、炭酸イオンをインターカレートされたアニオンとして含有する。この理由は、該炭酸イオンが、該LDHの層状構造へのインターカレーションに高い親和力を有することである。二酸化炭素及び炭酸イオンの遮断下で(例えば窒素又はアルゴンの保護ガス雰囲気、炭酸イオンを含有しない塩)、操作される場合には、該LDHは、該金属塩の無機アニオン、例えば塩化物イオンを、インターカレートされたアニオンとして含有する。
【0057】
該合成は、二酸化炭素(保護ガス雰囲気)もしくは炭酸イオンの遮断下にかつ例えば有機アニオン又はそれらの、アニオンとして該金属塩中に存在していない酸性前駆物質の存在下で実施することもできる。その際に、通例、対応する有機アニオンをインターカレートした混合水酸化物が得られる。
【0058】
前記の方法、いわゆる直接共沈法(direct coprecipitation method)により、すなわち一工程合成において、所望のLDHが得られる。
【0059】
本発明の範囲内で、該直接共沈法の使用が特に有利であるとみなされうることがわかっている。その際に、保護ガス雰囲気下で、該金属塩を、本発明によりインターカレートされうる式(I)の有機アニオンの装入された塩基性水溶液に滴加し、その際に塩基、例えばカセイソーダ液の制御された添加により、該pH値を一定に保持する場合が有利である。制御され、かつ効率的な結晶化を達成するために、該金属塩溶液は有利にゆっくりと、すなわち、滴加されうる及び装入されうる溶液の濃度及び量に応じて、約1〜10時間、特に2〜5時間かけて、滴加される。完全な滴加後に、次いで有利には、できるだけ完全な転化を保証するために、約1時間から10日間まで、特に2〜24時間の該懸濁液の熟成もしくは更なる撹拌が行われる。該LDHは、次いで、遠心分離及び水で何度も洗浄した後にスラリーの形態で得られ、かつそれ自体、水系の防食プライマー剤において使用することができる。例えば20℃〜40℃の温度での、対応する乾燥後に、該LDHは、粉末として得られ、次いで溶剤系の防食プライマー剤において使用することができる。
【0060】
その際に、本発明の範囲内で、有利には、3価の金属カチオンの計量供給される量は、有機アニオン/M
3+の比が、1:1〜10:1、特に有利に1:1〜5:1で生じるように選択される。
【0061】
該LDHの製造の際のpH値は、有利に7〜12で選択され、その際に全合成中に一定に保持される。所望の組成(例えば金属カチオンM
2+/M
3+及び/又は有機アニオンもしくはこれらの成分の製造のためのそれぞれの出発物質の選択)に応じて、通例、当業者により単純な方法で適合させることができる、最適なpH値が得られる。例示的に、それぞれの有機アニオンの塩基性度もしくは相応する酸の酸性度が指摘される。金属カチオンとしてZn
2+及びAl
3+及び有機アニオンとしてm−アニリンスルホン酸イオンを含む極めて特に好ましいLHDについては、そのpH値は、特に8〜11、極めて特に好ましくは8.5〜9.5を選択することができ、もちろん同様に全合成中に一定に保持することができる。
【0062】
同様に有利に使用されるのは、本発明の範囲内で、いわゆるアニオン交換反応法(anionic exchange reaction method)である。この場合に、インターカレートされたアニオンを交換することができる、該LDHの性質が利用される。該LDHのカチオン性の混合金属水酸化物層の層状構造は、その際に得られたままである。まず最初に、炭酸イオンと比較して良好に交換可能なアニオン、例えば塩化物イオン又は硝酸イオンを含有する、既に製造されたLDH、例えば保護ガス雰囲気下で該共沈法により製造されたLDHは、アルカリ性水溶液中に保護ガス雰囲気下で懸濁される。引き続き、この懸濁液又はスラリーは、保護ガス雰囲気下でインターカレートされうる式(I)の有機アニオンのアルカリ性水溶液に添加され、かつ特定の時間、例えば1時間〜10日、特に1〜5日にわたって、撹拌される。該LDHは次いで、そしてまた遠心分離及び水で何度も洗浄した後にスラリーの形態で得られ、かつそれ自体、水系の防食プライマー剤において使用することができる。例えば20℃〜40℃の温度での、対応する乾燥後に、該LDHが粉末として得られ、次いで溶剤系の防食プライマー剤において使用することができる。
【0063】
該アニオン交換反応法の範囲内でも、インターカレートされうるアニオンの量を、有機アニオン/M
3+の比が、1:1〜10:1、特に有利に1:1〜5:1であるように選択することが有利である。
【0064】
該イオン交換溶液のpH値は、例えば該アニオンの共役酸の酸性度及びLDHの出発段階の安定性に応じて、そしてまた有利に7〜12である。金属カチオンとしてZn
2+及びAl
3+及び有機アニオンとしてm−アニリンスルホン酸イオンを含む極めて特に好ましいLHDについては、そのpH値は、該交換反応法の場合にも、特に8〜11、極めて特に好ましくは8.5〜9.5を選択することができ、もちろん同様に全合成中に一定に保持することができる。
【0065】
前記の全ての反応工程は、―他に示されない限り―本発明の範囲内で、有利に10℃〜80℃、特に室温、すなわち約15〜25℃で行われる。
【0066】
同様に可能であるのは、いわゆる再構成法による、有機アニオンを有するLDHの合成である。その際に、例えば既に存在している粉末形態のLDHが、数百℃に数時間にわたって加熱される(例えば450℃に3時間)。該LDH構造はつぶれ、かつ揮発性の及び/又は熱分解可能なインターカレートされたアニオン並びに該結晶水は、逃出しうる。極端な該処理により、例えば該炭酸イオンが分解し、その際に二酸化炭素及び水が逃出する。金属酸化物の無定形混合物が残っている。保護ガス雰囲気下でのインターカレートされうるアニオンの水溶液の添加により、該LDH構造が再び製造され、かつ所望のLDHを生じる。特に、この方法は、合成及び貯蔵に制約されてしばしば、極めて親和性の、良好にインターカレートする炭酸イオンを含有する、商業的に入手可能なLDHの使用の際に使用される。
【0067】
しかしながら、本発明の範囲内で、該LDHを、直接共沈法及び/又はアニオン交換反応法により、極めて特に好ましくは直接共沈法により、製造することが有利である。その際に、特にそれぞれの金属カチオンの硝酸塩及び/又は塩化物塩が使用される。これらの無機アニオンは、炭酸イオンと比較して良好に交換することができ、それゆえ、高い割合の所望の有機アニオンを有するLDHの製造を可能にする。特に、該再構成法のように、極端な熱処理が、それによりLDHに親和性の炭酸イオンを追い出すために、行われる必要はない。更に、本発明による好ましい方法の場合に、該LDH構造の制御された形成が、該金属塩溶液のゆっくりとかつ制御可能な添加により可能になるか(直接共沈法)もしくは該LDH構造が該合成中に得られたままである(アニオン交換反応法)ということが付け加わる。これらの利点のいずれも、該再構成法の場合には与えられていないので、こうして製造されるLDHは、それらの結晶構造中にしばしば欠陥を有し、該方法はMg
2+/Al
3+系の場合にのみ適している結果をもたらす、それというのも、この系のみが、与えられた条件下で、このために必要な熱力学的な自己再組織化する能力を有するからである。
【0068】
本発明の範囲内で製造されるLDHは、式(I)の有機アニオンに加え、合成及び貯蔵に制約されて、特定の量の無機アニオン、例えば炭酸イオン、塩化物イオン及び/又は水酸化物イオンを含有してよい。しかし、好ましくは、式(I)の有機アニオンは、これらのアニオンにより、3価の金属カチオンにより発生される、該金属水酸化物層の正の層電荷の60%超が補償されるような割合で存在している(60%超の電荷補償度)。極めて特に好ましくは、該電荷補償度は、70%超、特に80%超である。該電荷補償度の測定は、本発明の範囲内で、当業者にそれ自体としてよく知られた定量的なエレメント分析もしくは元素分析による測定技術に基づき行われる。こうして、該LDH層の金属原子並びにより重いヘテロ原子、例えば特に硫黄(リンも可能である)が、ICP−OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)によるエレメント分析(Elementanalyse)を通じて定量的に測定されうるのに対し、それらの有機アニオンが元素C/H/N/Oのみを含むLDH試料のための元素分析(Elementaranalyse)は、これらのアニオンの含量の定量的な測定を可能にする。該ICP−OESのために、前記のように製造されたLDH試料は、洗浄及び乾燥後に、無機酸、例えば硝酸と混合され、それにより崩壊するのに対し、該元素分析は、一般的に知られた燃焼方法により、引き続き酸化生成物もしくは還元生成物のガスクロマトグラフィーによる分離及び定量測定(WLD)を伴い、実施される。該金属原子並びに該有機アニオンのより重いヘテロ原子(特に硫黄)(すなわち特異的な、アニオン中に結合された重いヘテロ原子、特に該アニリンスルホン酸イオンの場合のような硫黄)のエレメント分析により測定された含量から、3価の金属カチオン、特にAl
3+、並びにそれぞれの有機アニオンの量が決定され、かつこれらの量の比を通じて、対応する原子量もしくは分子量を考慮して、該電荷補償度が求められる。100%の理論上の最大値はその際に、式(I)の有機アニオンの負の電荷当量に対する3価の金属カチオンの正の電荷当量の、1の当量比に相当する。
【0069】
それらの有機アニオンが、特異的な、該ICP−OESを通じて測定可能なヘテロ原子を含有しないLDH相の場合に、原子C、H、N及びOの元素分析により測定される含量は、それぞれの有機アニオンの公知の実験式並びに物理吸着された水の含量(熱による質量損失分析、TGAの150℃までの質量損失から求める)を考慮しながら、該LDH試料中のこれらのアニオンの含量の計算を可能にする。
【0070】
対応する有機アニオンの好ましい電荷補償度は特に、好ましい製造方法、すなわち該直接共沈法及び該アニオン交換反応法の使用により、前記の好ましい条件下で(例えばpH値又は有機アニオン対3価の金属カチオンの比)、達成されうる。
【0071】
ハイドロタルサイト成分(B)は、本発明により使用されうる防食プライマー剤の全量を基準としてそれぞれ、好ましくは0.1〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%、極めて特に好ましくは5〜15質量%の割合で及び殊に7.5〜12.5質量%で、使用される。
【0072】
本発明により使用されうる防食プライマー剤は通例、そのうえ、少なくとも1種の有機溶剤及び/又は水を含有する。本発明による防食プライマー剤の架橋を阻害しない及び/又は本発明による防食プライマー剤のその他の成分と化学反応をしない有機溶剤が使用される。ゆえに、当業者は、適した溶剤を、それらの公知の溶解能及びそれらの反応性に基づき容易に選択することができる。そのような溶剤の例は、脂肪族及び/又は芳香族の炭化水素、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、Solvesso 100、又はHydrosol(R)(ARAL社)、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン又はメチルアミルケトン、エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルグリコールアセタート、酢酸ペンチル又はエチルエトキシプロピオナート、エーテル、アルコール、塩素化炭化水素又は前記の溶剤の混合物である。
【0073】
更にまた、本発明により使用されうる防食プライマー剤は、更に少なくとも1種の添加剤を含有してよい。この種の添加剤の例は、残留物不含又は本質的に残留物不含で熱分解可能な塩、反応性希釈剤、顔料、フィラー、分子分散性の可溶性染料、ナノ粒子、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ剤、重合防止剤、ラジカル重合用の開始剤、接着促進剤(Haftvermittler)、流れ調整剤(Verlaufsmittel)、塗膜形成助剤、増粘剤、たれ調整剤(SCAs)、防炎加工剤、腐食抑制剤、ワックス、殺生物剤及びつや消し剤である。これらは常用かつ公知の量で使用される。
【0074】
本発明により使用されうる防食プライマー剤の固形分は、個々の場合の必要条件に応じて変動しうる。まず第一に、該固形分は、該適用に必要な粘度に依存しているので、当業者により彼の一般的な専門知識に基づいて、場合により、方向を決めるより少ない実験の助けを借りて、調節することができる。
【0075】
好ましくは、該防食プライマー剤の固形分は、20〜90質量%、特に好ましくは30〜80質量%及び殊に好ましくは40〜60質量%である。
【0076】
本発明により使用されうる防食プライマー剤の製造は、コーティング剤の製造に常用かつ公知の混合法及び混合装置を使用して、行うことができる。
【0077】
本発明により使用されうる防食プライマー剤は、本発明による方法の範囲内で直接、金属素地上へ適用される。直接、適用することは、該防食プライマー剤の適用前に、有機ポリマーマトリックスの形成をすることができる他のコーティング剤又は化成コーティング剤が適用されないことを意味する。該防食プライマー剤は、すなわち、最初に適用されるコーティング剤である。
【0078】
金属素地上への本発明により使用されうる防食プライマー剤の適用は、車両産業及び航空産業の範囲内で常用の、例えば5〜400μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmの範囲内の、層厚(未乾燥塗膜の層厚)で行うことができる。その際に例えば、公知の方法、例えば吹付け塗、ナイフ塗、はけ塗、流し塗、浸し塗、含浸、トリクリング(Traeufeln)又はローラーコーティングが使用される。好ましくは、吹付け法又はナイフ塗法が使用される。
【0079】
本発明により使用されうる防食プライマー剤の適用後に、それからポリマー塗膜が形成される。塗付された防食プライマー剤は、すなわち、公知の方法により硬化される。好ましくは、物理硬化又は熱硬化される、それというのも、本発明の範囲内で、物理硬化及び熱硬化する系が好ましいからである。極めて特に好ましくは、該熱硬化は、外部架橋性の2K系である。
【0080】
該物理硬化は、好ましくは5〜160℃、特に10〜100℃及び極めて特に好ましくは20℃〜60℃の温度で行われる。必要とされる期間はその際に、使用されるコーティング系及び該硬化温度に著しく依存している。該物理硬化可能な防食プライマー剤の中では、前記の温度で、2時間以内に、不粘着性で、ひいては上塗り可能なコーティングが得られるものが好ましい。
【0081】
該熱硬化は、好ましくは10〜200℃、特に10〜100℃、極めて特に好ましくは10〜50℃の温度で行われる。これらの好ましい、むしろ低い硬化温度は、好ましい二成分系、特にエポキシ樹脂/ポリアミン系が、周知のように、低い硬化温度が必要であるに過ぎないという事情からもたらされる。該熱硬化の期間は、個々の場合に応じて、著しく変動しうるものであり、かつ例えば、5分間〜5日間、特に1時間〜2日間である。
【0082】
該硬化は、個々の場合及び使用されるバインダー/架橋剤系に応じて、場合によりフラッシュオフが、例えば室温(約15〜25℃)で、例えば1〜60分間、及び/又は乾燥が、例えば30〜80℃の少し高められた温度で例えば1〜60分間、先立って行われてよい。フラッシュオフ及び乾燥は、本発明の範囲内で、有機溶剤及び/又は水の蒸発であり、それにより、該塗料が乾燥するが、しかしなお硬化されないか、もしくはなお完全に架橋された塗膜が形成されないと理解されうる。
【0083】
該硬化により、次いで、本発明によりコーティングされた金属素地が得られ、これは同様に本発明の対象である。
【0084】
該防食剤の硬化後に、ポリマーマトリックスをベースとするコーティング層の形成をすることができる、なお常用かつ公知の更なるコーティング剤を、常用かつ公知の方法により適用することができる。それぞれの個々の層の関連する層厚(未乾燥塗膜の層厚)は、通常の範囲内、例えば5〜400μm、特に20〜200μmである。該適用後に、次いで、同様に公知かつ常用の方法による該コーティングの硬化が続く。該個々のコーティングは、連続して、該個々の層がそれぞれ完全に硬化することなく、塗付され、次いで最終的な共通の硬化において硬化されるようにして製造することもできる(ウェット・オン・ウェット法)。もちろん、該層のそれぞれ個々の完全硬化も可能である。
【0085】
自動車工業の範囲内で、更なるコーティング層は、周知のように、常用のサーフェーサー層、ベースコート層及びクリヤコート層であってよい。航空産業の範囲内で、典型的な単層トップコート塗装、例えば(2K)ポリウレタン系をベースとするもの、であってよい。
【0086】
もちろん、場合により更なるコーティング剤の適用は、該防食剤の完全な硬化前にも行ってよい。すなわち、該防食剤は、前もって単にフラッシュオフ及び/又は乾燥される(ウェット・オン・ウェット法)。
【0087】
金属素地として、最後に、例えば金属工業(例えば機械製造及び装備、自動車産業(車両組立)、航空宇宙産業、造船産業、電気産業、精密機械産業)の範囲内で使用される、全ての金属素地が考慮に値する。有利に、アルミニウム、アルミニウム合金、例えば特にアルミニウム銅合金、極めて特に好ましくはAA2024-T3合金、並びに普通鋼及び合金鋼が使用される。
【0088】
以下に、本発明は、実施例に基づいて説明される。
【0089】
実施例
A)LDHの製造
亜鉛/アルミニウムをベースとする異なるLDHを、直接共沈法により製造した。本発明により使用されうるLDHを得るために、m−アニリンスルホン酸及び3,4−ジヒドロキシ安息香酸を使用した。比較のために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)から得ることができる公知のエチレンジアミン四酢酸イオンを使用した(例えばECS Transactions, 24 (1) 67-76 (2010)参照)。その正確な製造は、m−アニリンスルホン酸(m−アニリンスルホン酸イオン)のための次のプロトコルに基づき、示される。
【0090】
m−アニリンスルホン酸(m−アニリンスルホン酸イオン)の0.21モル濃度のアルカリ性水溶液(pH=9)に、ZnCl
2・6H
2O(0.52モル濃度)及びAlCl
3・6H
2O(0.26モル濃度)の水性混合物を、室温で窒素雰囲気下及び常に撹拌しながら、3時間にわたって一定の計量供給速度で添加し、その際にカチオンの計量供給される量は、2:1の該アニリンスルホン酸イオン対3価Alカチオンのモル比が生じるように選択される。その際に、該pH値は、3モル濃度のNaOH溶液の添加により、pH=9で一定に保持される。該金属塩の水性混合物の添加後に、生じる懸濁液を、室温で3時間撹拌するかもしくは熟成する。生じる沈殿を、遠心分離により単離し、脱イオン水で4回洗浄する。その白色反応生成物の生じるスラリーは、30℃で24h、真空中で乾燥され、次いで白色粉末として得られる。該LDH(m−アニリンスルホン酸イオン:Zn
2Al(OH)
6(m−アニリンスルホン酸イオン)による100%の電荷補償度の理論上の最大値での理論的な実験式)は、84%の電荷補償度を有する(ICP−OESを通じて定量的にエレメント分析により測定)。
【0091】
3,4−ジヒドロキシ安息香酸イオンを含有するLDHの合成は、m−アニリンスルホン酸イオンを有するLDHの合成に類似して実施したのに対し、EDTAを有するLDHについては、該有機種の完全な脱プロトン化の保証のために10.5のpH値を選択した。そのうえ、5:1のエチレンジアミン四酢酸イオン対3価のAlカチオンのモル比が、最良の結果を与えることが見出された(元素分析により測定されたC(8.4%)、N(1.9%)及びH(3.6%)の含量は、理論組成Zn
2Al(OH)
6[EDTA]
0.25・2H
2Oの8.2%、1.9%及び3.5%の計算値に大体において相当する)。
【0092】
B)防食プライマー剤の製造
LDH−(A)(m−アニリンスルホン酸イオン)及びLDH−(B)(3,4−ジヒドロキシ安息香酸イオン)並びにLDH−(比較)(EDTA)を含有する防食プライマー剤を製造した。LDHの割合はそれぞれ、該全組成を基準として10質量%であり、かつ該塗料の完成前に、該ポリマー成分(第1表参照)中へ配合した。同様に、参考コーティング剤を、D)のもとで挙げられた該耐食性の測定のために製造した。この参考コーティング剤において、LDHの使用を放棄した。該防食プライマー剤は、エポキシ樹脂/ポリアミン系(2K)コーティング剤であった。該防食プライマー剤のポリマー成分及び架橋成分の成分及びそれらの量は、第1及び2表に示されている。該成分を、3:1(ポリマー成分:架橋成分)の比で、素地への適用直前に混合した。
【0093】
第1表:ポリマー成分の組成
【表1】
1 Momentiveの市販のエポキシ樹脂、エポキシ基含量(固体樹脂を基準として)=4000ミリモル/kg、固形分=キシレン中80%、
2 Cytecの市販のエポキシ樹脂、固形分=キシレン中60%。
【0094】
第2表:架橋成分の組成
【表2】
1 Cardoliteの市販のエポキシ樹脂架橋剤(ポリアミン)、活性H当量174g/モル、固形分65%、
2 市販のエポキシ樹脂架橋剤(ポリアミンもしくはポリアミノアミド)、活性H当量230g/モル、
3 トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの市販名、エポキシ樹脂架橋剤(ポリアミン)用の通常の活性剤、
4 Momentiveの無溶剤の市販のエポキシ樹脂、エポキシ基含量5300ミリモル/kg。
【0095】
C)コーティングされた素地の製造
AA2024-T3合金(アルミニウム銅合金)製の素地プレートを、製造した防食プライマー剤でコーティングした。
【0096】
そのために、該素地プレートを、まず最初にイソプロパノールで汚れを取り、乾燥器中で60℃で乾燥させた。次いで、該プレートを、4モル濃度のNaOH溶液中に3分間浸漬することによりエッチングし、引き続き水で洗浄した。水/硝酸(70%濃度)(2:1、(v/v))の混合物中での該プレートの2分間続く浸漬、水での再度のすすぎ及び乾燥器中での60℃での該プレートの最終的な乾燥が続いた。
【0097】
こうして準備された素地プレート上へ、LDH−(A)、LDH−(B)、LDH−(比較)を含有する防食プライマー剤並びに該参考コーティング剤をそれぞれ、50μmバーコータ(Spiralrakel)を用いて塗付し、引き続き25℃で24h硬化させた。引き続き、従来の二成分ポリウレタントップコートを、175μmバーコータを用いて塗付し、次いで25℃で24h硬化させた。こうして製造されたコーティングされた金属素地を25℃で7日間貯蔵し、引き続きD)のもとで記載されたように、調べた。
【0098】
D)コーティングされた金属素地の耐食性の試験
コーティングされた金属素地の耐食性もしくは腐食抑制効率の試験を、直流分極測定(DC分極)を用いて行った。周知のように、材料、通例金属表面と、その周囲との間の電気化学的反応が腐食プロセスの基礎となっており、その際に該金属が酸化し、対応して金属カチオンが該固体材料から出て、すなわち腐食密度が流れる。該直流分極測定は、それ自体として知られた電気化学的測定方法であり、これは例えば“Progress in Organic Coatings, 61 (2008) 283-290”に記載されている。その際に、系の電流応答が電位変動について、一定のスキャン速度で測定される。生じる測定データから、次いで該腐食電流を導き出すことができる。
【0099】
腐食抑制効率I.E.は、式
I.E.(%)=((i
0−i
LDH)/(i
0))・100%
に基づいて決定され、その際に、該パラメーターは、該参考試料(i
0、参考コーティング剤(LDHなし)でコーティングされた素地)もしくはそれぞれのLDH試料(i
LDH、LDH−(A)、LDH−(B)又はLDH−(比較)を含有する防食プライマー剤でコーティングされた素地)の腐食電流もしくは腐食電流密度(単位は例えば平方センチメートルあたりのアンペア)である。パラメーターI.E.(%)は、それに応じて、それぞれ、該参考コーティング系の耐食性だけ校正されており;参考試料と比べた耐食性もしくは腐食抑制効率の改善が示される。
【0100】
該腐食電流密度が低ければ低いほど、ますます良好に、該素地は遮へいされているか、もしくは該腐食から保護されている。このことは、i
LDHについて低い値及びそれゆえ良好な腐食抑制効率の場合に、パラメーターI.E.は、高い値を取ることを意味する。該参考試料(その場合に定義に従いi
0=i
LDHが当てはまらなければならない)については、パラメーターI.E.は定義に従い、0%の値を取る。
【0101】
該測定を、BioLogicのVSPマルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタットを用いて、同様にBioLogicからの対応するユーザーソフトウェアEC-Lab V9.95を使用して実施した。該測定用の電解質溶液として、0.5M NaCl溶液を使用し;全ての測定を25℃で実施した。電極として、それぞれのコーティングされた金属素地の金属に加え、カロメル電極を(対電極として)利用した。該測定直前に、コーティングされた金属素地を、ナイフ(切断幅1mm)で切り込みを入れた。その際にまず最初に、2cmの長さを有する平行な2本の切り込みを入れ、次いでもう一度、最初の双方の切り込みに対して十字状に、平行な2つの切り込みを入れた。こうして、該電解質にさらされた表面積は、約1.6±0.2cm
2である)。
【0102】
第3表は、対応する測定結果を、調べた系の平均値として示す。
【0103】
第3表:
【表3】
【0104】
該データは、本発明による方法により製造された防食コーティングもしくは本発明によるコーティングされた金属素地の腐食抑制効率が、LDHを含有しないコーティング(I.E.=0)と比較して明らかに改善されていることを証明する。そのうえ、公知のEDTA−LDHを含有するコーティング系と比較して、概ね3倍改善されている、腐食抑制効率が得られる。