(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態は、第2実施形態〜第6実施形態に共通する振れ止めの改修工法の概念を示すものである。この改修方法は、
図1(a)に示すように、鉄骨により構成される支持体2と、支持体2により支持される機器3と、を備える支持構造体1において、支持体2と機器3の間に設けられる振れ止め構造4に適用される。振れ止め構造4は、水平方向xの振れ止めを行う振れ止め構造4xと、鉛直方向yの振れ止めを行う振れ止め構造4yと、を備えている。支持構造体1は、水平方向x及び鉛直方向yに荷重fを受けて振動する。
【0014】
各々の振れ止め構造4は、メス要素4fとオス要素4mの2種類の構成部材を備えるが、
図1(b)に示すようにメス要素4fが強固な場合と、
図1(c)に示すようにオス要素4mが強固な場合とがあるが、いずれかに、本発明を適用することができる。つまり、この既存のメス要素4f又はオス要素4mであって、地震時の作用外力に対して弾性変形する要素を流用して、構造的な改修を行い、当該要素(構成部材)の弾塑性変形性能を向上させることで、さらにエネルギー吸収性能を向上させ、構造物全体系の耐震性能を向上させることで、振れ止めの改修を行う。
【0015】
既存のメス要素4f,オス要素4mに対して行なう構造的な改修の例としては、弾性変形が期待できる既存要素の一部を切削などにより部分的に除去する。そして、この除去した部分に、曲げ、せん断、軸変形などに対して安定した弾塑性挙動を呈し、安定したエネルギー吸収性能を有する追加部材を宛がう。追加部材6を宛がうに際しては、
図1(d)に示すように完全溶け込み溶接W、または、部分溶け込み溶接Wにより基部5に接合することができる。また、完全溶け込み溶接W、又は、部分溶け込み溶接Wによりベースプレート7に接合された、曲げ、せん断、軸変形などに対して安定した弾塑性挙動を呈し、安定したエネルギー吸収性能を有した新規部材をボルトBにより基部5に接合して設置することもできる。そうすることにより、接合部分が、短期すべり耐力を超えるすべり耐力を有するように、既存構造に対して設置することができる。以下で説明する第2実施形態〜第6実施形態においても、接合手段として、溶接又はボルト接合のいずれかを適用することができる。なお、以降では、溶接Wの図示を省略することがある。
【0016】
以上説明したように、第1実施形態によると、工事コストを低減しながら、構造全体系としての耐震性能を効率的に向上させることができる。
加えて、曲げ、せん断、軸変形などに対して安定した弾塑性挙動を呈し、安定したエネルギー吸収性能を有した追加部材をメス要素4f及びオス要素4mのいずれか一方に設置する一方で、他方の振れ止め構造については既存の状態でそのまま流用することで、工事コストを低減した上で、耐震性能を効率的に向上させることができる。
【0017】
以下では、第1実施形態から派生するより具体的な改修工法を説明するが、この工法は、せん断変形に対応する振れ止め構造に関する形態(第2実施形態,第3実施形態)、曲げ断変形に対応する振れ止め構造に関する形態(第4実施形態,第5実施形態)、軸変形に対応する振れ止め構造に関する形態(第6実施形態)に区分することができる。以下、順に説明する。
【0018】
[第2実施形態]
第2実施形態は、せん断変形が主体として生じる既存の振れ止め構造の一部を切削により除去し、除去した箇所に追加部材を宛がう改修工法である。第2実施形態は、既存の振れ止め構造の耐力が大きすぎて、変形が容易でない場合に適用される。
【0019】
第2実施形態は、
図2に示すように、H型鋼を用いた振れ止め要素10を例にして説明する。振れ止め要素10は、
図2(a)に示すように、ウェブ11の幅方向に荷重fを受けることで、ウェブ11にせん変形が生じる。なお、
図2(a)の下段が正面図、上段が平面図である。
振れ止め要素10は、
図2(a)に示すように、基部5に垂設するウェブ11と、ウェブ11の両端に設けられる一対のフランジ13a,13bと、ウェブ11のおもて面及びうら面の両面であって、一対のフランジ13a,13bの間に架け渡される補剛板14a,14bと、を備えている。補剛板14a,14bは、幅方向の一方の縁部がウェブ11と接合され、また、長手方向の両端が各々フランジ13a,13bと接合されている。
【0020】
第2実施形態の改修工法は、以上の既存の振れ止め要素10に対して、
図2(b)に示すように、ウェブ11の一部の矩形領域を表裏が貫通するように除去して空隙12を形成する。空隙12を設けることにより、ウェブ11の耐力を下げることができる。
第2実施形態の改修工法は、空隙12を覆うように追加鋼板(第1追加部材)17を宛がう。平面視した形状が矩形の追加鋼板17は、空隙12の開口面積よりも、接合代の分だけ表面積が大きく形成されている。追加鋼板17は、空隙12よりも外側の接合代の領域を溶接することにより、ウェブ11に接合される。
追加鋼板17は、
図2(b)の中段に示すように、ウェブ11のおもて面及びうら面の一方又は双方に設けることができるが、おもて面及びうら面の双方に設けると、せん断応力に対する偏心がなく、安定した性能を得やすくなる。
追加鋼板17は、大きなせん断変形に対しても安定したせん断座屈特性が発揮できるように厚さ等の諸元が定められる。追加鋼板17に使用する鋼材は、炭素鋼(SS400,SM490,SN400,SN490など)でもよく、また伸び性能に優れた低降伏点鋼(LY225など)でもよい。
【0021】
以上の第2実施形態の改修工法によると、
図2(c)の線図に示すように、安定した繰り返し変形性能が確保できるとともに、全体構造系としての耐震性を最適化するように狙った荷重で塑性化させることが可能となる。これに対して、改修前は、
図2(c)に示すように過大な荷重により座屈に到る。
また、第2実施形態の改修工法によると、振れ止め要素10の全体を取り換えるよりも、現場での施工工数が少なくてすむ。
【0022】
第2実施形態は、以下に示す変更を加えることができる。
図3(a)に示すように、既存の補剛板14a,14bの各々に平行に、つまり、荷重fの作用方向に沿って、ウェブ11のおもて面側とうら面側の両側に補剛板15a,15bを設けることができる。補剛板15a,15bは、追加鋼板17と隙間を空けて配置されており、各々の長手方向の両端が各々フランジ13a,13bと接合されている。なお、ここに示す例では、補剛板15a,15bは、各々間隔を空けて、2枚ずつ設けられている。また、補剛板15a,15bは、後述する座屈拘束効果を発揮するために、ウェブ11の両側に設けることを基本とする。
また、
図3(b)に示すように、一対のフランジ13a,13bに平行に、つまり、荷重fの作用方向に直交する方向に沿って、ウェブ11のおもて面側とうら面側の両側に補剛板16a,16bを設けることができる。補剛板16a,16bも、追加鋼板17と隙間を空けて配置されており、各々の長手方向の両端が各々基部5,補剛板14a,14bと接合されている。なお、ここに示す例では、補剛板16a,16bは、各々間隔を空けて、2枚ずつ設けられている。また、
図3(b)は、補剛板15a,15bをも備えているが、これを省いて補剛板16a,16bだけを設けることもできる。補剛板16a,16bもウェブ11の両側に設けることを基本とする。
【0023】
図3に示す補剛板15a,15b,16a,16bを設けることにより、追加鋼板17に大きなせん断変形が生じた際に発生するせん断座屈を拘束できるので、さらに安定した繰り返し変形性能を発揮させることが可能となる。
【0024】
第2実施形態において、追加鋼板17のウェブ11への接合、補剛板15a,15bのフランジ13a,13bへの接合は、溶接に限らず、
図3(c),(d)に示すように、ボルトBによって行ってもよい。
【0025】
また、以上で説明した空隙12の形態はあくまで一例であり、開口形状は矩形に限るものでなく、例えば円形、三角形、矩形を除く多角形、十字形、星形など、必要に応じて任意に設定することができる。また、空隙12のように大きな開口寸法とするのに代えて、複数の比較的小さな開口寸法の空隙を複数設けることもできる。さらに、第2実施形態では、ウェブ11の表裏を貫通する空隙12を例示したが、耐力を落とす調整ができるのであれば、空隙12に相当する部位の厚さを薄くする減肉加工を施してもよい。
また、以上で説明した追加鋼板17は、空隙12の開口の全域を覆っているが、これもあくまで一例であり、開口の一部が追加鋼板17から露出してもよい。
【0026】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る振れ止め要素20は、せん断変形が生じる既存の振れ止め構造の改修に関するものである。しかし、第2実施形態とは逆に、既存の振れ止め構造の耐力が小さすぎて、すぐに損傷してしまうおそれがある場合に、適切な荷重で、かつ変形性能に優れる振れ止め構造に改修することを目的とする。以下、
図4及び
図5を参照して、第3実施形態を説明する。
【0027】
振れ止め要素20は、ウェブ11に空隙12を設けないところを除けば、振れ止め要素10と基本的には同じ構成を備えている。したがって、振れ止め要素10と同じ構成については
図2及び
図3と同じ符号を付けるとともに、以下では、振れ止め要素10との相違点を中心に説明する。
【0028】
振れ止め要素20は、既存の状態として、
図4(a)に示すように、ウェブ11と、一対のフランジ13a,13bと、ウェブ11のおもて面及びうら面に設けられる補剛板14a,14bと、を備えている。
【0029】
第3実施形態の改修工法は、以上の既存の振れ止め要素20に対して、
図4(b),(c)に示すように、追加鋼板(第2追加部材)17を宛がう。追加鋼板17は、ウェブ11のおもて面及びうら面の一方又は双方に設けることができるが、おもて面及びうら面の双方に設けると、せん断応力に対する偏心がなく、安定した性能を得やすくなる。
図4(b),(c)は、おもて面及びうら面の双方に追加鋼板17を設けている。また、追加鋼板17は、
図4(b)に示す溶接によってウェブ11に接合してもよく、また、
図4(c)に示すボルトBによってウェブ11に接合してもよい。
追加鋼板17の厚さ等の諸元、追加鋼板17に使用する鋼材は、第2実施形態と同様の指針に基づいて定めることができる。
【0030】
以上の第3実施形態の改修工法によると、振れ止め要素20の荷重、剛性を増加させるとともに、
図4(d)に示すように、安定した繰り返し変形性能が確保でき、全体構造系としての耐震性を最適化するように狙った荷重で塑性化させることが可能となる。
また、第3実施形態の改修工法によると、振れ止め要素20を取り換えるよりも、現場での施工工数が少なくて済む。
【0031】
第3実施形態は、以下に示す変更を加えることができる。
第3実施形態は、追加鋼板17をウェブ11に接触させて設ける以外に、
図5(a),(b)に示すように、ウェブ11と隙間を空けて設けることもできる。この追加鋼板17によっても、
図4に示したのと同じ効果を享受することができるのに加えて、せん断変形するウェブ11に直接、溶接、孔開け加工を施さないため、地震時の繰り返しを想定した場合の疲労性能が向上することが期待できる。
追加鋼板17をウェブ11と隙間を空けて設ける場合には、追加鋼板17の両端をフランジ13a,13bに接合することになるので、
図5(a),(b)に示すように、追加鋼板17はフランジ13aとフランジ13bの間隔に相当する長さを有することになる。
追加鋼板17とフランジ13a,13bの接合は、
図5(a)に示す溶接によってもよいし、
図5(b)に示すボルトBによってもよい。
なお、
図5(a),(b)は、ウェブ11のおもて面側及びうら面側の両方に設けた例を示しているが、いずれか一方の面側にだけ設けることもできる。
【0032】
次に、第3実施形態は、
図5(c),(d)に示すように、追加鋼板17を、一対のフランジ13a,13bと、補剛板15a,15bと、基部5との間に囲まれる全領域に亘って宛がうことができる。この追加鋼板17によっても、
図5(a),(b)に示したのと同じ効果を享受することができるのに加えて、四辺支持条件となるため、大変形時のせん断変形性状が安定する効果が期待できる。
図5(c),(d)に示す例においても、追加鋼板17とフランジ13a,13bの接合は、溶接によっても、また、ボルトBによってもよい。また、追加鋼板17は、ウェブ11のおもて面側及びうら面側の一方の又は両方に設けることもできる。さらに、第2実施形態にて用いた補剛板15a,15bを設けてもよい。
【0033】
[第4実施形態]
第4実施形態は、曲げ変形が主体として生じる既存の振れ止め構造において、曲げ変形に伴い局部座屈を生じ得る部位に、局部座屈を拘束する部材を追加して設ける改修工法に関する。以下、
図6及び
図7を参照して、第4実施形態を説明する。
【0034】
第4実施形態は、
図6に示すように、H型鋼を用いた振れ止め要素30を例にして説明する。振れ止め要素30は、
図6(a),(b)に示すように、ウェブ31の幅方向の荷重fを受けることで、一対のフランジ33a,33bの基部5との接合部分の近傍(以下、根元という)に局部座屈に到る曲げ変形が生じ得る。
振れ止め要素30は、
図6(a)に示すように、基部5に垂設するウェブ31と、ウェブ31の両端に設けられる一対のフランジ33a,33bと、ウェブ11のおもて面及びうら面の両面であって、一対のフランジ33a,33bの間に架け渡される補剛板34a,34bと、を備えている。補剛板34a,34bは、幅方向の一方の縁部がウェブ31と接合され、また、長手方向の両端が各々フランジ33a,33bと接合されている。補剛板34a,34bは、この例では、所定の間隔を空けて、各々3枚設けられている。
【0035】
第4実施形態の改修工法は、以上の既存の振れ止め要素30に対して、
図7(a)に示すように、拘束部材37をフランジ33a,33bの根元に設ける。拘束部材37は、フランジ33a,33bの各々のおもて面側及びうら面側に設けられるが、ウェブ31に対応する部分を避けて設けられる。
【0036】
拘束部材37は、
図7(b),(c)に示すように、溶接Wにより基部5に接合することができるし、
図7(d),(e)に示すように、ボルトBにより基部5に接合することができる。また、拘束部材37は、
図7(b),
図7(d)に示すように、肉厚の鋼材により構成することができるし、
図7(c),
図7(e)に示すように、リブ37aを含んで構成することもできる。
【0037】
以上の第4実施形態の改修工法によると、フランジ33a,33bに作用する曲げ圧縮力に対して局部座屈を拘束するため、
図6(c)に示すように、フランジ33a,33bの降伏荷重で塑性化する安定した特性とすることができる。
なお、曲げ変形とせん断変形がともに同等に生じる振れ止め構造の場合には、第3実施形態、第4実施形態に示したせん断変形に対応する改修を合わせて行なうことがきることは言うまでもない。以下説明する第5実施形態、第6実施形態も同様である。
【0038】
[第5実施形態]
第5実施形態は、曲げ変形が主体として生ずる既存の振れ止め構造において、曲げ変形に伴い塑性化する部位を限定するように、部分的に削除し、削除した部位で曲げ変形に伴う塑性化を生じさせる改修工法に関する。以下、
図8を参照して、第5実施形態を説明する。
【0039】
第5実施形態は、第4実施形態と同様に、H型鋼を用いた振れ止め要素40を例にして説明する。したがって、振れ止め要素30と同じ構成については
図6及び
図7と同じ符号を付けるとともに、以下では、振れ止め要素30との相違点を中心に説明する。
【0040】
第5実施形態の改修工法は、
図8(a)〜(d)に示すように、既存の振れ止め要素40のフランジ33a,33bの一部を切削して切除部分36を形成する。ここでは、下から一番目の補剛板34a,34bと下から二番目の補剛板34a,34bの間における、フランジ33a,33bの幅方向の両端縁を除去した例を示している。
【0041】
次に、
図8(e)を参照して、第5実施形態の作用及び効果について説明する。
塑性化する際の水平力は、塑性化する部位の曲げモーメントで設定できる。部材の基部で塑性化させる場合には、基部断面の曲げ耐力/高さ(基部から荷重作用点までの距離)で塑性化する水平荷重が決まる。したがって、水平耐力を低減させたい場合には、荷重作用点までの距離を大きくするか、又は、曲げ耐力を低下させればよい。本実施形態は、後者を採用する。
基部断面を部分的に切削すれば、水平耐力を小さくできる。また、部材の中間部分を断面切削して、その部位の曲げ耐力/高さ(対象部位から荷重作用点までの距離)にて水平耐力を算定し、それが基部の曲げ耐力/高さよりも小さければ、中間部分で塑性化させることができる。
以上を前提にして
図8(e)を参照する。改修前には、断面耐力分布(YD)とモーメント分布(MD)を比較すれば判るように、振れ止め要素40の基部5との接合部分において、モーメントが耐力を上回っている。したがって、改修前には、この接合部分で塑性化が起こる。一方で、改修後には、切除部分36を設けているので、当該部分はモーメントが耐力を上回り、この中間部分で塑性化させることができる。
【0042】
振れ止め要素40において中間部分で塑性化させるメリットは、以下の通りである。振れ止め要素40は基部5と溶接により接合されており、この場合、地震時に繰り返し変形を受けると溶接による接合部分から疲労亀裂が生じることになるため、振れ止め要素40の繰り返し変形性能が悪くなる可能性がある。一方で、中間部分で塑性化させる場合には、そこには溶接部がないため、亀裂が発生する可能性が少なく、振れ止め要素40の繰り返し変形性能を向上できる。
【0043】
第5実施形態は、以下に示す変更を加えることができる。
つまり、第5実施形態は、
図9に示すように、フランジ33a,33bの切除部分36の周りに、座屈拘束部材38を設けることができる。この座屈拘束部材38は、切除部分36を除くフランジ33a,33bの幅と厚さの比率(幅厚比)が大きいために局部座屈が発生するおそれがある場合に有効である。
【0044】
座屈拘束部材38は、フランジ33a,33bの各々のおもて面側及びうら面側に設けられるパネル38a,38bと、パネル38a,38bの幅方向の両端部分に挟まれるスペーサ38c,38dと、がボルトBにより接合されている。
【0045】
座屈拘束部材38を設ける場合も、水平耐力の設定は上述と同じであるが、切削した断面のフランジ33a,33bの幅厚比が大きくなると、フランジ33a,33bに局部座屈が発生するおそれがある。そこで、切除部分36の周りに隙間をあけて座屈拘束部材38を設置することによって、フランジ33a,33bの局部座屈変形を拘束することが好ましい。
また、仮に改修後の振れ止め要素40において、設計的には局部座屈が発生しないと想定される場合でも、初期不整、残留応力などの影響で、万一、局部座屈が生じた場合でも座屈拘束して安定した繰り返し変形性能を確保できるので、より信頼性を向上できる。
【0046】
[第6実施形態]
第6実施形態は、軸変形が主体として生ずる既存の振れ止め要素50において、圧縮力により座屈するおそれのある部材に対して、座屈拘束するとともに、振れ止め要素50の面外変形を抑制する改修工法に関する。
【0047】
振れ止め要素50は、
図10(a)に示すように、基部5から立設される柱51と、柱51と基部5の間に掛け渡されるブレース53a,53bと、を備える。ブレース53a,53bは、柱51を中心に線対称の位置に配置される。柱51と基部5の接合、柱51とブレース53a,53bの接合などは、溶接によって行われている。
【0048】
第6実施形態の改修工法は、以上の既存の振れ止め要素50に対して、
図10(b)に示すように、ブレース53a,53bの周囲を覆う座屈拘束部材55a,55bを設ける。ブレース53aと座屈拘束部材55aの間、ブレース53bと座屈拘束部材55bの間には、ブレース53a,53bの所定の変形を許容する隙間が設けられている。そうすることにより、ブレース53a,53bは、安定した圧縮変形性能を保有することになる。
【0049】
一方で、振れ止め要素50は、柱51には、上端部及び下端部の一方又は双方に塑性ヒンジが発生して、単なるトラス平面を構成するための部材となり、水平耐力はほとんど負担しなくなるおそれがある。
この状態で水平方向に荷重が作用すると、トラス構造の面外方向にトラス構造が倒れる向きの変形が発生することになる。そこで本実施形態の改修工法は、この面外方向の不安定な変形を抑制し、トラス構造面を保持するための面外拘束部材57a,57bを設けることで、トラス構造全体としての安定した変形性能を確保することができる。
第6実施形態は、
図10(c),(d)に示すように、ブレース53が一方の側だけに設けられる場合にも適用可能である。
【0050】
第6実施形態の改修工法によれば、ブレース53a,53bの座屈を拘束することで圧縮力に対して安定した変形性能が確保できるとともに、トラス構造としての不安定な変形も抑制可能となる。
なお、第6実施形態のトラス構造において、柱51に生じる変形がせん断変形を主体とする場合には、第2実施形態、第3実施形態の改修工法を併用してもよいし、曲げ変形を主体とする場合には、第4実施形態、第5実施形態の改修工法を併用してもよい。その場合には、ブレース53a,53bの安定性のみでなく、柱51の安定性を向上させることができる。
【0051】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、振れ止め構造は、必ずオス要素4mとメス要素4fの対で構成される。したがって、以上で説明した振れ止め要素10,20,30,40,50は、オス側の構造として用いられる場合もあるし、メス側の構造として用いられる場合もある。オス側及びメス側の両方の構造に適用することもできる。
また、以上では、既存の振れ止め構造を改修することを前提に説明したが、同様の工法を新設の振れ止め構造に対して適用しても問題ないことはいうまでもない。