特許第6169283号(P6169283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169283モルホリン浴、及び層を化学的に析出させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169283
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】モルホリン浴、及び層を化学的に析出させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 20/08 20060101AFI20170713BHJP
   H01L 31/0749 20120101ALI20170713BHJP
【FI】
   C23C20/08
   H01L31/06 460
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-538718(P2016-538718)
(86)(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公表番号】特表2017-502173(P2017-502173A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】FR2015050350
(87)【国際公開番号】WO2015087022
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】504462489
【氏名又は名称】エレクトリシテ・ドゥ・フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】506128396
【氏名又は名称】サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク(セ.エン.エル.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ティボー・ヒルデブラント
(72)【発明者】
【氏名】ネガー・ナガビ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ローンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ナタナエル・シュナイダー
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−510310(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0084401(US,A1)
【文献】 特表2013−512306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属及び硫黄をベースとする層(104)を析出させるための化学浴であって、溶液(50)中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩(10)と、
− 硫黄前駆体(20)と
を含み、
モルホリン化合物(40)をさらに含むことを特徴とする化学浴。
【請求項2】
前記モルホリン化合物は、錯化剤として前記化学浴において作用するアミン基及びエーテル基を有している、請求項1に記載の化学浴。
【請求項3】
前記モルホリン化合物(40)が、化学式CNOである、請求項1または2に記載の化学浴。
【請求項4】
0.05mol/Lと1mol/Lの間の硫黄前駆体(20)の濃度に対して、0.001mol/Lと10mol/Lの間の濃度のモルホリンが前記化学浴に提供されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の化学浴。
【請求項5】
前記金属塩(10)を含む溶液が、0.01mol/Lと1mol/Lの間の濃度の硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、及び塩化亜鉛の中から選択される溶液である、請求項4に記載の化学浴。
【請求項6】
10mol/L未満の濃度で、アンモニア(30)溶液をさらに含む、請求項4又は5に記載の化学浴。
【請求項7】
アンモニア溶液を含まない、請求項1から5のいずれか一項に記載の化学浴。
【請求項8】
前記硫黄前駆体(20)を含む溶液が、チオ尿素CS(NHの溶液である、請求項1から7のいずれか一項に記載の化学浴。
【請求項9】
前記金属がIIB族の元素である、請求項1から8のいずれか一項に記載の化学浴。
【請求項10】
前記金属が亜鉛である、請求項9に記載の化学浴。
【請求項11】
溶液(50)中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩(10)と、
− 硫黄前駆体(20)と
を含む化学浴において、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層(104)を化学的に析出させるための方法であって、
モルホリン化合物(40)が前記化学浴にさらに提供されることを特徴とする前記方法。
【請求項12】
前記層(104)が金属硫化物をベースとする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記層(104)が金属オキシ硫化物をベースとする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
析出の間の前記化学浴の温度が40℃と100℃の間である、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
金属及び硫黄をベースとする前記層(104)が、光起電力特性を有する層の上に析出され、光起電力特性を有する前記層が、薄膜ソーラーセルの吸収体を形成している、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記吸収体が、Cu(In,Ga)(S,Se)、Cu(Zn,Sn)(S,Se)、及びそれらの誘導体の中のカルコパイライト型化合物をベースとする、請求項15に記載の析出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄及び金属をベースとする層の析出のための化学的析出浴の分野に関する。それは、また、金属及び硫黄をベースとする層を化学的に析出させるための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
化学浴析出(CBD)法は、例えば薄層(「薄膜」)として合金を製造するために、産業界において一般的に用いられている。これらの方法は、60×30cmを超える大きな面積を被覆するための、大きなスケールの析出に特に適している。さらに、この技術は、その低コスト及びその技術的単純さに起因して、産業界において広く用いられる。
【0003】
このように、化学浴析出は、感光性デバイスの特定の薄層の製造において考慮され得る。より詳細には、いくつかの感光性デバイスにおける吸収体層は、通常、金属及び硫黄を含む合金からなる、いわゆる「バッファ」層によって被覆される。通常、このバッファ層は、硫黄カドミウムCdSの合金からなる。
【0004】
カドミウムの毒性は、硫化亜鉛ZnS及びその誘導体などのようなバッファ層に対する代替材料を求めるように我々を促す。しかしながら、如何なる表面上での、特に光吸収体のような他の薄層上での、これらの合金の析出速度は最適ではない。産業界の要求を満たす化学的析出を得るには、15分、又は1時間さえ超える、長いと見なされる時間を伴い得る。このような析出時間の長期化は、製造コストを増やし、デバイスの製造の全連鎖に不利益をもたらす。
【0005】
この理由で、CBDによって、少なくとも硫黄及び金属をベースとする層の析出を達成するための技術的手段を見出すために、特別な注意が払われている。
【0006】
そのような層の析出時間を短縮するために、化学浴における試薬の濃度若しくは温度のいずれかを上げること、又は試薬を予熱することが知られている。しかしながら、これらの3つの手段は、材料及びエネルギーの消費の増大を引き起こすという不都合を有する。それらは、また、析出表面を損傷する恐れもあり得る、又は、追加のコストを招くタイプの、生産の連鎖におけるさらなるステップを伴い得る。
【0007】
析出速度を加速させるための別の解決策は、化学浴に特別な硫黄前駆体を用いることである。通常、金属及び硫黄の層を析出させるための化学浴は、硫黄前駆体としてチオ尿素溶液を利用する。特許文献1(US2013/0084401)は、チオ尿素をチオアセトアミドによって置き換えることを提案する。しかしながら、この代替案は、チオアセトアミドが強い毒性の化合物であり、それ故、工業用途にあまり適していないという不都合を有する。
【0008】
特許文献2(DE102009015063A1)において提案されている別の代替案は、硫黄及び金属をベースとする薄層の析出のために用意される化学浴に、過酸化水素Hを添加することにある。この解決策は、H添加剤の腐食性を考えると、析出表面が脆弱であるところ、工業的用途に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2013/0084401
【特許文献2】DE102009015063A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの理由で、本発明者らは、少なくとも硫黄及び金属を含む層の、化学浴における析出速度を増すための、広い範囲の工業的用途に適合する手段を追及する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上で説明した課題に対処するために、本発明は、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層を析出させるための化学浴を提供する。この浴は、溶液中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩と、
− 硫黄前駆体と
を含む。この浴は、モルホリン化合物をさらに含む。
【0012】
このようにして、硫黄と、周期表のIIB又はIIIA族の金属とを含む層の化学的析出のための浴は、浴の溶液混合物にモルホリン型非毒性有機添加剤を添加することによって最適化される。出願人は、モルホリンの添加は、反応促進剤の効果に匹敵する効果を、混合物に作り出すことを見出した。モルホリンは、アンモニアなどのような塩基性pHの溶液のように、その加水分解を促進することにより硫黄前駆体と相互作用するようである。このように、モルホリンの存在は、析出表面での硫黄及び金属ベースの合金の形成を加速することができる。モルホリンは、−NH基(アミン)の存在により提供されるアミン基及びエーテル基(−O−)の両方を有する有機化合物である。これらの二つの基の組み合わせは、それらの統合を錯体に促進する、金属塩のイオン、例えばZn2+上で作用することができる。これらの錯体は、同一層において金属及び硫黄を析出することを可能にする反応に関与される。モルホリンはこのようにして錯化剤として浴において作用する。
【0013】
析出速度の上昇は、金属が、例えば亜鉛Zn又はインジウムInなどのような、IIIA又はIIB族に属する場合に、特に顕著であるように見える。
【0014】
析出速度を上げることに加えて、出願人は、モルホリンの添加により、大きな表面で、金属及び硫黄ベースの均質な層が得られることを見出した。このようにして、化学浴へのモルホリンの添加は、この添加剤を有さない浴を含むCBD析出に比べて、大きな表面積にわたって均質な析出を得ることを可能にしている。
【0015】
モルホリンの添加によって得られる別の有利な効果は、浴の試薬を予熱することなく析出を行うことができるという事実にある。事前の予熱ステップを省くことによって、工業的規模で、生産速度を上げることが可能である。しかしながら、試薬を予熱することもまた可能であり、これは、上で説明した浴が既存の生産ラインにおいて容易に準備されることを可能にする。
【0016】
化学的析出浴へのモルホリンの添加は、浴の反応混合物に塩基性pHを与えるさらなる利点を有している。8.5の酸性度定数pKaとともに、モルホリンはアンモニア溶液を含まない浴において考慮され得る。CBD析出浴において通常見出されるアンモニアは、化合物の加水分解を促進するために、反応混合物のpHを増大させる機能を有している。この同一の機能は、モルホリンによって有利的に満たされることができ、浴を用意するときに使用される試薬の量を減らす。
【0017】
これらの効果は、析出物を生じさせる表面とは無関係である。特に、上で説明した最適化された浴は、例えば、ガラス、金属基板、又は半導体上に、さらには、吸収体のような光起電力性を有する化合物上に、析出物を生じさせることができる。
【0018】
これらの効果は、様々な実験構成において観察されており、化学浴における試薬の濃度にかかわらず起こるように見える。しかしながら、反応混合物の化合物のうちの一つの変性閾値以下の温度が有利的に好まれる。
【0019】
有利な一実施形態によれば、モルホリン化合物は浴内で錯化剤として作用するアミン基及びエーテル基を有する。
【0020】
モルホリンのエーテル基及びアミン基は、浴内で使用されるモルホリン化合物における活性基である。これらの基は、上で説明したように、浴の他の試薬の金属イオンを有する錯体を形成することにより、同一層内に金属及び硫黄を析出することに寄与する。
【0021】
有利な一実施形態によれば、化合物は、化学式CNOを有し得る。
【0022】
この化合物は、有利には、化学浴の他の試薬と混和性である溶液中に存在し得る。化学式CNOのモルホリンの化合物は、特に明らかに見て取れるように、析出速度及び得られる層の均質性を最適化することが認められた。しかしながら、モルホリンの活性成分は、エーテル基及びアミン基を含む誘導分子の延長線(extensive line)においても見出される。他のモルホリンベースの化合物がそれ故予想され得る。
【0023】
一実施形態によれば、0.05mol/Lと1mol/Lの間の濃度の硫黄化合物に対して、0.001mol/Lと10mol/Lの間の濃度のモルホリンが、浴に提供され得る。
【0024】
浴におけるこのような反応混合物は、使用される試薬の量と析出の速さの妥協に対応する。添加剤及び硫黄化合物の量を少なく保つことによって、工業的規模での生産の間にかなりの節減を達成することが可能である。これは、試薬の無駄が少ないことに起因している。
【0025】
有利には、金属塩を含む溶液は、0.01mol/Lと1mol/Lの間の濃度の硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、及び塩化亜鉛の中から選択される溶液であり得る。
【0026】
金属塩は、周期表のIIB及びIIIA族の他の金属を含み得る。しかしながら、浴における亜鉛金属塩は、析出時間を特に顕著に減少させた。モルホリンなしで、亜鉛金属塩を用いる浴におけるCBD析出に比較して、本発明は、最大で4倍ほど高い析出速度を達成する。
【0027】
金属塩の0.01mol/Lと1mol/Lの間の濃度は、層を析出させるために使用される原材料の量を減らすことを可能にする。
【0028】
一実施形態によれば、浴は、10mol/L未満の濃度で、アンモニア溶液をさらに含み得る。
【0029】
アンモニア溶液の使用は、硫黄前駆体の加水分解を開始するために化学浴に塩基性pHを与え、それによってそれが金属塩と反応する。
【0030】
一実施形態によれば、浴は、いかなるアンモニア溶液を含まなくてよい。
【0031】
溶液中のモルホリンの自然の塩基特性を考えると、化学浴にアンモニアを添加しないことが可能である。この方法において、本発明は、浴を用意するときに使用される試薬の量を減らすことを可能にしている。アンモニアの酸性度定数より0.75ほど低い8.5の酸性度定数pKaにもかかわらず、モルホリンはアンモニアの効果的な代替であることがわかる。
【0032】
一実施形態によれば、硫黄化合物を含む溶液は、チオ尿素CS(NHの溶液であり得る。
【0033】
チオ尿素は、硫化物を含む層の析出に特に適した硫黄前駆体である。それは、例えば、感光性デバイス産業において、一般的に用いられている。
【0034】
チオ尿素は、モルホリン及び金属塩の存在下における特に速い析出を可能にする。このようにして、チオ尿素が使用された場合に得られる析出速度は、20nmの厚さの、金属硫化物又はオキシ硫化物の層に対して、5分未満であり得る。
【0035】
より詳細には、前記金属は、IIB族の元素であり得る。
【0036】
IIB族の金属は、感光性デバイス産業にとって特に興味深いものである。これらのデバイスにおいて、カドミウム又は亜鉛などのような金属が、感光性セルの吸収体と前面電気コンタクトとの間のバッファ層に存在し得る。それ故、IIB族の元素は、バッファ層の作成を意図した化学浴に特に適している。
【0037】
特定の一実施形態において、前記金属は亜鉛であり得る。
【0038】
CBDによる硫化又はオキシ硫化亜鉛の層の析出は、その光学的性質及び無毒性に起因して、例えば感光性デバイス産業において興味深い。そのような合金からなる層は、CdSのバッファ層に対する効果的で無毒性の代替であり、同時に、500nm未満の波長の放射をより多く透過させる。
【0039】
硫化又はオキシ硫化亜鉛の層は、CdS層より大きなエネルギーバンドギャップを有し、それ故、500nm未満の波長の光を、CdS層より多く透過させる。加えて、硫化又はオキシ硫化亜鉛の層は、感光性デバイスの前面電気コンタクトを形成するためにしばしば使用される酸化亜鉛ZnOの層の光透過特性と同等の光透過特性を有する。
【0040】
本発明は、また、溶液中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩と、
− 硫黄前駆体と
を含む浴において、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層を、化学的に析出させるための方法にも関する。
【0041】
さらに、前記浴には、モルホリン化合物が含まれる。
【0042】
化学浴へのモルホリンの添加を用いる、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層の、CBD析出は、上で説明したいくつかの利点をもたらす。浴へのモルホリンの添加は、析出速度を増大させ、より均質な層の実現を可能にし、化学浴の試薬を予熱する先のステップを省略する可能性に起因して、準備時間を節減することができる。
【0043】
特定の一実施形態において、層は、金属硫化物をベースとし得る。
【0044】
金属硫化物、例えばZnSは、感光性デバイスにおける用途に特に適した合金であり得る。例えば、それは、感光性デバイスの吸収体上のバッファ層として使用され得る。
【0045】
別の実施形態において、層は、金属オキシ硫化物をベースとし得る。
【0046】
金属オキシ硫化物、例えば、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)、又はIn(S,O)、In(S,O,OH)(ここで、0<x<2、及び、0<y<3)は、感光性デバイス産業の要求に特に適した光学的性質を有することができる。それらは、また、感光層上のバッファ層としての使用にも適切であり得る。
【0047】
有利には、析出の間の浴の温度は、40℃と100℃の間であり得る。
【0048】
100℃未満の、特に70℃未満の析出温度は、析出時間の増加によって不利益をもたらされることなく、低い融点を有する合金を含むデバイスへの損傷がより少ない作業環境を可能にする。加えて、反応媒体の温度を下げることにより、CBD析出浴のより少ない加熱に起因して、エネルギーを節減することが可能である。これらの節減は、浴の大きさと共に増加し、工業的規模では数平方メートルに達し得る。
【0049】
一実施形態によれば、金属及び硫黄をベースとする層は、光起電力特性を有する層の上に析出されてもよく、光起電力特性を有する前記層は、薄膜ソーラーセルの吸収体を形成する。
【0050】
この様に、金属及び硫黄をベースとする層は、薄膜光起電力セルの吸収体上に析出されて、吸収体を前面電気コンタクトに連結する、バッファ層を示すことができる。感光性セルの吸収体とバッファ層との間の境界の品質は、得られるデバイスにおいて高い変換効率を達成するのに極めて重要である。上で説明した化学的析出法を吸収体上のバッファ層の析出へ応用することは、10分未満で、吸収体自体への損傷なしに析出され、モルホリンを含まない浴で析出されたバッファ層の半分の多さの欠陥を有する、均質な層を生じる。
【0051】
方法を実施することによって得られるバッファ層の品質に起因して、得られる光起電力デバイスは、14%を超える変換効率を有することができる。
【0052】
光起電力セル吸収体上のバッファ層の析出のための化学浴への添加剤としてモルホリンを用いることは、直観でわかるものではないことが注目されるべきである。実際、モルホリンはゴム産業において、または薬及び農薬の合成のために一般的に使用される。
【0053】
吸収体は、Cu(In,Ga)(S,Se)、Cu(Zn,Sn)(S,Se)、及びそれらの誘導体の中のカルコパイライト型化合物をベースとし得る。
【0054】
これらの化合物には、例えば、Cu(In,Ga)Se、CuInSe、CuInS、CuGaSe、Cu(Zn,Sn)S、及びCu(Zn,Sn)Seが含まれ得る。これらの吸収体が亜鉛及びスズを含む場合、これらの化合物は、CZTSと呼ばれることがある。
【0055】
上で挙げられたソーラーセル吸収体は、20%を超え得る変換効率を有する、CIGS及びCZTS薄膜セル及びそれらの誘導体の吸収体に相当する。これらの吸収体上にバッファ層を析出させるための上で説明した方法の利用は、これがもたらす性能の向上を考えれば、特に有利である。例えば、カルコパイライト型化合物をベースとする吸収体上に、ZnS、Zn(S,O)、又はZn(S,O,OH)のバッファ層を、このようにして析出させることによって、14%を超える変換効率、並びに、他の析出方法によって得られるデバイスで観察されるものより大きい、最終デバイスの開路(open circuit)電圧及び短絡電流を得ることが可能である。
【0056】
本発明の方法は、例示の目的で記載されるが、決して限定ではない、いくつかの例示的実施形態の以下の説明を読むことによって、また添付図を見ることにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】金属及び硫黄の層の析出を受ける試料の概略図である。
図2】化学浴を準備するための手順の概略図である。
図3】3つの様々な方法によって異なる層厚を得るための、測定された析出時間を比較したグラフである。
図4】感光性デバイスの概略図である。
図5】受光波長の関数として、異なる材料からなる2つの層の量子効率を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
明確にするために、これらの図面に示される様々な要素の寸法は、それらの実際の寸法には必ずしも比例していない。図面において、同じ参照符号は、同じ要素に対応している。
【0059】
本発明は、改善された化学的析出浴、及び改善されたCBD析出方法に関連している。この改善は、特に、析出速度を顕著に上げることを目指す。例えば向上した析出の品質などのような他の有利な効果も本発明との関連において得られた。
【0060】
例として下で与えられる実施形態において、光起電力セル吸収体上のバッファ層の、CBDによる析出という特定の場合が説明される。しかしながら、本発明はまた、下でさらに再述されるように、他の任意のタイプの表面での析出にも適用できる。
【0061】
少なくとも硫黄及び金属を含む薄層を析出することに関連して、図1は、基板101、裏面金属コンタクト102、及び吸収体層103を備える、初期試料100の例を示す。したがって、示されている初期試料100は、薄膜感光性デバイスの未完成部分を示す。例として、放射を電流に変換することを意図する吸収体103は、Cu(In,Ga)(S,Se)、Cu(Zn,Sn)(S,Se)、及びそれらの誘導体の中の化合物の1つのような、カルコパイライト型化合物であり得る。これらの誘導体は、より一般的にはCIGS及びCZTSと呼ばれる、例えば、Cu(In,Ga)Se、CuInSe、CuInS、CuGaSe、Cu(Zn,Sn)S、又は、Cu(Zn,Sn)Seを含み得る。
【0062】
この感光性デバイスの製造を完成するために、本発明は、図2に概略的に示された、化学浴のためのチャンバ200を提案する。CBD析出のためのほとんどの化学浴と同じく、チャンバ200は、カバー220によって閉じることができる。このチャンバ200は、選ばれた濃度の試薬の混合物からなる溶液50を含む。試料100は、この溶液50中にある。この反応媒体を加熱するための手段が備えられ得る。図2において、そのような手段は、反応媒体を含むチャンバを取り囲む水浴210によって示されている。モータ230もまた、溶液50を撹拌する撹拌機構を駆動するために使用され得る。
【0063】
図2は、また、反応混合物50をなす溶液を得るためのステップの要約も示す。
【0064】
図2に示された例において、化学浴は、光起電力デバイスのバッファ層の析出のために構成されている。この理由で、それは、硫酸亜鉛ZnSOであるとして示された、金属塩を含む第1の水溶液10から調製される。硫黄前駆体を含む第2の水溶液20もまた準備される。この第2の溶液は、化学式CS(NHのチオ尿素であるとして示されている。反応混合物に塩基性pHをもたせるための、アンモニア30もまた任意に準備され得る。アンモニアの存在に起因した塩基性となる媒体は、前駆体と金属塩の反応を促進する。最後に、モルホリン系有機添加剤を含む第4の水溶液40が準備される。この第4の溶液40は、化学式CNOのモルホリンを含むとして示されている。
【0065】
下で記載されるように、最初の3つの溶液に対する代替が想定できる。
【0066】
次いで、これらの4つの溶液10、20、30、40は、反応混合物50を生成するために混合される。反応混合物50は、試料100が浸漬されている溶液である。
【0067】
有利には、モルホリンの添加は、吸収体上にZnSの析出を達成するのに要する時間を、かなり短縮する。節約される時間を例示するために、図3のグラフは、3つの異なる条件下に測定された、CBDによる薄層の析出速度を比較している。
【0068】
析出したZnS層は、酸素を含み、Zn(S,O)又はZn(S,O,OH)型の層を形成し得る。以下では、「ZnS層」が、純粋なZnSの層、及びZn(S,O)又はZn(S,O,OH)の層を参照するために用いられる。
【0069】
曲線301は、反応混合物50が従来の構成である場合に、様々な厚さのZnS層を析出させるのに要する時間を示す。「従来の」は、0.65mol/Lのチオ尿素濃度、0.15mol/LのZnSO濃度、及び2mol/Lのアンモニア濃度を意味すると理解される。前記試薬は、全て、80℃の温度に予熱され、その後、80℃の同じ温度にしたチャンバに入れられた。
【0070】
曲線302は、反応混合物50が、特に有利な実施形態に対応する、実験室で試験された構成を備える場合に、様々な厚さのZnS層を析出させるのに要する時間を示す。それは、0.4mol/Lのチオ尿素濃度、0.1mol/LのZnSO濃度、及び2mol/Lのアンモニア濃度によって特徴づけられる。試薬の予熱は行われず、析出温度は70℃である。
【0071】
曲線303は、反応混合物50が、曲線302に関連するものと同じ特徴を備えるが、2.2mol/Lの濃度のモルホリンを添加した場合に、様々な厚さのZnS層を析出させるのに要する時間を示す。以下の表1は、上で説明した3つの構成を要約している。
【0072】
【表1】
【0073】
図3の3つの曲線301、302、及び303の推移から、化学浴へのCNOの添加が、ZnS層の析出速度を顕著に増加させることが明らかである。特に、20nmの厚さの層を得るために、本発明により最適化された浴は、析出時間を、従来技術に比べて2.5分の1に、有機添加剤なしで同じ条件下に実施された析出に比べて、5分の1未満にする。
【0074】
加えて、本出願人の化学浴における析出条件は、材料節減及びエネルギー節減において、より効率的であることが注目されるべきである。これは、より低い試薬濃度、より低い析出温度、及び試薬の予熱がないことの結果である。
【0075】
上で説明した実施例は、有利には、図4に示される完成した光起電力デバイスを結果として生成できる。
【0076】
図4は、図1のものと同じ構造要素を備える薄膜ソーラーセルを概略的に示す。示されたデバイス400は、上で説明したように、CBDによって吸収体上に析出されたバッファ層104を、さらに備える。バッファ層104上にわたって、例えば真性酸化亜鉛又はZnMgOの、第1ウインドウ層105が、反応性スパッタリング、化学気相堆積、電着、CBD析出、又はILGAR(登録商標)析出などの周知の技術によって堆積され得る。次いで、前面電気コンタクト106が堆積され得る。例えば、それは、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛ZnOの層であり得る。
【0077】
バッファ層を析出させるための、上で説明した化学浴の使用に固有の他の利点は、得られる光起電力デバイスの性能に現れる。
【0078】
表2は、カルコパイライト型CIGS吸収体を備える、図4のソーラーセルのようなソーラーセルの技術的特徴を比較している。第1のセルは、図3の曲線301に関連して上で説明した、従来の析出条件下で得られたZnSバッファ層を備える。第2のセルは、図3の曲線303に関連して説明したものと同じ条件下で、本発明の浴を含むCBD析出プロセスによって得られたZnSバッファ層を備える。第3のセルは、従来の析出条件下でCBDによって得られたCdSバッファ層を備える。
【0079】
【表2】
【0080】
表2の各セルは、5×5cmの表面積、及び20nmの厚さのバッファ層を有する。
【0081】
表2の列は、3つのソーラーセルの各々に対する4つのパラメータを示す。第1列は、ソーラーセルの変換効率を示す。第2列は、各セルの形状因子を示し、バッファ層と吸収体との間の境界の品質の目安を与える。第3列は、開路電圧Vocを示す。この電圧が高いほど、セルの電気的性質は良好である。第4列は、短絡電流Jscを示す。この電流が大きいほど、セルの電気的性質は良好である。
【0082】
表2の各セル、及び各パラメータに対して、対応する値の標準偏差が示されている。この情報は、セルの均質性の評価を与える。セルの内でパラメータがより大きく変動するほど、関連する標準偏差はより大きい。このような不安定性は、セルにおける構造欠陥を示しており、比較される3つのセルの間で実質的な相違を示す唯一の層であるバッファ層において、なおさらそうである。
【0083】
表2の値から、本発明に関連して開発されたCBD析出方法によって形成されたZnSバッファ層を有するセルが、他のセルより優れた均質性を有することが明らかである。特に、それは、従来のCBD析出によって形成されたZnS層を有するセルより高い均質性を有する。
【0084】
さらに、本発明の方法によって製造されたセルは、他のセルの変換効率より大きな変換効率、さらには改善した電気的性質を有する。
【0085】
本発明の方法によって得られたセルの形状因子は、CdSバッファ層を有するセルの形状因子と同等である。それにもかかわらず、モルホリンの添加によるCBD析出によって作られたセルの全体の均質性は、より良好である。したがって、モルホリンの添加を用いる析出方法は、大きな表面積の感光性セルの作成に、又は、より一般的には、工業的背景において金属及び硫黄を含む層の作成に、よく適し得る。
【0086】
電子顕微鏡による観察は、本発明の方法を実施することによって得られた析出の構造的品質に関するこれらの観察を裏付けた。
【0087】
開発された化学浴、及びバッファ層を生成するためにそれを用いる方法は、適合した析出条件下で、例えばカドミウムを含まない、無毒性材料のバッファ層を得ることを可能にする。
【0088】
硫化及びオキシ硫化亜鉛のバッファ層の改善した電気的及び光学的性質は、CdSバッファ層のものと比較して、層の量子効率を計算することによって分析された。
【0089】
図5は、曲線502によって示されるZnSバッファ層での300nmと1000nmの間の量子効率を、曲線501によって示されるCdSバッファ層でのものと比較するグラフである。量子効率は、感光性デバイスによって作成された電子の量と、受け取られた光子の量との間の比を示すパラメータである。
【0090】
図5において、ZnSバッファ層は、500nm未満の波長でのより良好な光の変換が可能であることが明らかである。電流におけるこの向上は、CdSに比べて、これらの波長でのZnSにおけるより大きな光透過率によって説明できる。この光学的性質は、それ自体、CdSより大きなエネルギーバンドギャップを有する材料のバンド構造の結果である。
【0091】
本発明は、例として上で説明した実施形態に限定されず、他の変形形態にも及ぶ。実際に、上で説明した浴、並びに金属及び硫黄を含む薄層を作成するためにこの浴を用いる方法は、上で説明した析出速度及び得られた層の品質の増加からの利益を全て得る様々な構成で実施できる。
【0092】
それ故に、反応混合物50の様々な成分の濃度は調節可能である。経済性のために、試薬の濃度を低下させることが好ましい。しかしながら、低下した濃度は、所定の厚さの薄層を作成するのに要する時間を増大させる傾向がある。上で説明した実施例は、濃度と反応速度の妥協に対応する。異なる要求に応じるために、他の濃度及び他の温度を用いることが可能である。例えば、所定の厚さの薄層を、一定時間の制約内で、析出させるために、濃度及び温度を調節することは、興味深いことであり得る。実際に、通常は増加する析出速度に起因して、妥当な時間内に、例えば1時間未満で、150nmを超える厚さの層を達成するために、添加剤としてモルホリンを用いるCBD析出を使用することが可能である。
【0093】
析出速度を増すことによって、低温での反応混合物を得ることが可能である。約70℃の温度を通常は伴う従来の析出技術に比べて、本発明は、温度が60℃未満である、例えば40℃まで下げた場合でさえ、15分未満で析出物を得ることを可能にする。
【0094】
析出速度と試薬の濃度の妥協は、0.01mol/Lと1mol/Lの間の金属塩濃度、0.05mol/Lと1mol/Lの間の硫黄前駆体濃度、0.001mol/Lと10mol/Lの間のモルホリン濃度、及び0.1mol/Lと10mol/Lの間のアンモニア濃度に対して、満足のいくものであると考えられる。
【0095】
しかしながら、浴及びそれを用いる方法は、アンモニアの添加なしで、想定され得る。例えば、塩基性pHの別の化合物、又は7を超えるpKaの化合物に置き換えること、またはそれを浴から取り除くことが可能である。この試薬を取り除くことにより、析出の速度または質に悪影響を及ぼすことなく、CBD析出工程の費用はまして実施するよりも低い。
【0096】
最小でも、化学浴の反応混合物は、モルホリン、硫黄前駆体及び金属塩だけを含み得る。これらの塩基性化合物をこえて、反応混合物の合成物は上で詳しく述べたものと異なり得る。
【0097】
特に、より短い、またはより長い官能基を含む他のモルホリン系化合物を用いることが可能である。有利的に、この化合物は硫黄前駆体の加水分解を確かにするために溶液に塩基性pHを与える。
【0098】
チオ尿素もまた、好ましくは同等の化学的性質を有する、他の硫黄前駆体によって置き換えられてもよい。
【0099】
硫酸亜鉛以外で、金属塩は、上で説明したものと同じ応用で、塩化又は酢酸亜鉛によって置き換えられてもよい。例えば式Zn[CHCOOH]の酢酸亜鉛は、無水であっても、又は、水和していてもよい。インジウム系又はカドミウム系の塩もまた、感光性デバイスにバッファ層を作成する場合の金属塩として適切であり得る。
【0100】
さらに、硫黄及び亜鉛の層の析出が水性媒体中で行われる場合、酸素が析出層に組み入れられて、Zn(S,O)又はZn(S,O,OH)型のオキシ硫化亜鉛を形成し得る。同様に、インジウムのような別の金属元素を含む層に酸素を組み入れて、In(S,O)又はIn(S,O,OH)型のオキシ硫化インジウムを形成することが可能である。しかしながら、周期表のIIB及びIIIA族の他の元素もまた、亜鉛、インジウム、又はカドミウムの化学的性質に似たそれらの化学的性質に起因して、前記金属として考えられ得る。
【0101】
上で述べられたように、感光性セル吸収体上のバッファ層の析出以外の状況で、上で説明した方法を適用することが可能である。実際に、本発明は、また、ガラス、半導体基板、及び金属のような他の析出表面でも、成功裏に試験された。
【0102】
より一般的には、上で説明した本発明は、硫黄及び金属を含む薄層の析出のための化学浴を最適化する。この最適化は、析出速度を増加し、同時に、得られる層の構造的品質を改善し、また材料及びエネルギーを節減する。加えて、本発明は、CBD化学的析出のための既存の化学浴に適合しているという利点を有し、大きな表面積への工業的規模のCBD析出に有利な溶液を提供する。
【符号の説明】
【0103】
100 (初期)試料
101 基板
102 裏面金属接点
103 吸収体層
104 バッファ層
105 第1窓層
106 前面電気接点
10 金属塩を含む第1の水溶液
20 硫黄前駆体を含む第2の水溶液
30 アンモニア
40 過硫酸塩系無機添加剤を含む第4の水溶液
50 溶液(反応混合物)
200 チャンバ
210 水浴
220 カバー
230 モータ
400 デバイス
図1
図2
図3
図4
図5