【課題を解決するための手段】
【0011】
上で説明した課題に対処するために、本発明は、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層を析出させるための化学浴を提供する。この浴は、溶液中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩と、
− 硫黄前駆体と
を含む。この浴は、モルホリン化合物をさらに含む。
【0012】
このようにして、硫黄と、周期表のIIB又はIIIA族の金属とを含む層の化学的析出のための浴は、浴の溶液混合物にモルホリン型非毒性有機添加剤を添加することによって最適化される。出願人は、モルホリンの添加は、反応促進剤の効果に匹敵する効果を、混合物に作り出すことを見出した。モルホリンは、アンモニアなどのような塩基性pHの溶液のように、その加水分解を促進することにより硫黄前駆体と相互作用するようである。このように、モルホリンの存在は、析出表面での硫黄及び金属ベースの合金の形成を加速することができる。モルホリンは、−NH基(アミン)の存在により提供されるアミン基及びエーテル基(−O−)の両方を有する有機化合物である。これらの二つの基の組み合わせは、それらの統合を錯体に促進する、金属塩のイオン、例えばZn
2+上で作用することができる。これらの錯体は、同一層において金属及び硫黄を析出することを可能にする反応に関与される。モルホリンはこのようにして錯化剤として浴において作用する。
【0013】
析出速度の上昇は、金属が、例えば亜鉛Zn又はインジウムInなどのような、IIIA又はIIB族に属する場合に、特に顕著であるように見える。
【0014】
析出速度を上げることに加えて、出願人は、モルホリンの添加により、大きな表面で、金属及び硫黄ベースの均質な層が得られることを見出した。このようにして、化学浴へのモルホリンの添加は、この添加剤を有さない浴を含むCBD析出に比べて、大きな表面積にわたって均質な析出を得ることを可能にしている。
【0015】
モルホリンの添加によって得られる別の有利な効果は、浴の試薬を予熱することなく析出を行うことができるという事実にある。事前の予熱ステップを省くことによって、工業的規模で、生産速度を上げることが可能である。しかしながら、試薬を予熱することもまた可能であり、これは、上で説明した浴が既存の生産ラインにおいて容易に準備されることを可能にする。
【0016】
化学的析出浴へのモルホリンの添加は、浴の反応混合物に塩基性pHを与えるさらなる利点を有している。8.5の酸性度定数pKaとともに、モルホリンはアンモニア溶液を含まない浴において考慮され得る。CBD析出浴において通常見出されるアンモニアは、化合物の加水分解を促進するために、反応混合物のpHを増大させる機能を有している。この同一の機能は、モルホリンによって有利的に満たされることができ、浴を用意するときに使用される試薬の量を減らす。
【0017】
これらの効果は、析出物を生じさせる表面とは無関係である。特に、上で説明した最適化された浴は、例えば、ガラス、金属基板、又は半導体上に、さらには、吸収体のような光起電力性を有する化合物上に、析出物を生じさせることができる。
【0018】
これらの効果は、様々な実験構成において観察されており、化学浴における試薬の濃度にかかわらず起こるように見える。しかしながら、反応混合物の化合物のうちの一つの変性閾値以下の温度が有利的に好まれる。
【0019】
有利な一実施形態によれば、モルホリン化合物は浴内で錯化剤として作用するアミン基及びエーテル基を有する。
【0020】
モルホリンのエーテル基及びアミン基は、浴内で使用されるモルホリン化合物における活性基である。これらの基は、上で説明したように、浴の他の試薬の金属イオンを有する錯体を形成することにより、同一層内に金属及び硫黄を析出することに寄与する。
【0021】
有利な一実施形態によれば、化合物は、化学式C
4H
9NOを有し得る。
【0022】
この化合物は、有利には、化学浴の他の試薬と混和性である溶液中に存在し得る。化学式C
4H
9NOのモルホリンの化合物は、特に明らかに見て取れるように、析出速度及び得られる層の均質性を最適化することが認められた。しかしながら、モルホリンの活性成分は、エーテル基及びアミン基を含む誘導分子の延長線(extensive line)においても見出される。他のモルホリンベースの化合物がそれ故予想され得る。
【0023】
一実施形態によれば、0.05mol/Lと1mol/Lの間の濃度の硫黄化合物に対して、0.001mol/Lと10mol/Lの間の濃度のモルホリンが、浴に提供され得る。
【0024】
浴におけるこのような反応混合物は、使用される試薬の量と析出の速さの妥協に対応する。添加剤及び硫黄化合物の量を少なく保つことによって、工業的規模での生産の間にかなりの節減を達成することが可能である。これは、試薬の無駄が少ないことに起因している。
【0025】
有利には、金属塩を含む溶液は、0.01mol/Lと1mol/Lの間の濃度の硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、及び塩化亜鉛の中から選択される溶液であり得る。
【0026】
金属塩は、周期表のIIB及びIIIA族の他の金属を含み得る。しかしながら、浴における亜鉛金属塩は、析出時間を特に顕著に減少させた。モルホリンなしで、亜鉛金属塩を用いる浴におけるCBD析出に比較して、本発明は、最大で4倍ほど高い析出速度を達成する。
【0027】
金属塩の0.01mol/Lと1mol/Lの間の濃度は、層を析出させるために使用される原材料の量を減らすことを可能にする。
【0028】
一実施形態によれば、浴は、10mol/L未満の濃度で、アンモニア溶液をさらに含み得る。
【0029】
アンモニア溶液の使用は、硫黄前駆体の加水分解を開始するために化学浴に塩基性pHを与え、それによってそれが金属塩と反応する。
【0030】
一実施形態によれば、浴は、いかなるアンモニア溶液を含まなくてよい。
【0031】
溶液中のモルホリンの自然の塩基特性を考えると、化学浴にアンモニアを添加しないことが可能である。この方法において、本発明は、浴を用意するときに使用される試薬の量を減らすことを可能にしている。アンモニアの酸性度定数より0.75ほど低い8.5の酸性度定数pKaにもかかわらず、モルホリンはアンモニアの効果的な代替であることがわかる。
【0032】
一実施形態によれば、硫黄化合物を含む溶液は、チオ尿素CS(NH
2)
2の溶液であり得る。
【0033】
チオ尿素は、硫化物を含む層の析出に特に適した硫黄前駆体である。それは、例えば、感光性デバイス産業において、一般的に用いられている。
【0034】
チオ尿素は、モルホリン及び金属塩の存在下における特に速い析出を可能にする。このようにして、チオ尿素が使用された場合に得られる析出速度は、20nmの厚さの、金属硫化物又はオキシ硫化物の層に対して、5分未満であり得る。
【0035】
より詳細には、前記金属は、IIB族の元素であり得る。
【0036】
IIB族の金属は、感光性デバイス産業にとって特に興味深いものである。これらのデバイスにおいて、カドミウム又は亜鉛などのような金属が、感光性セルの吸収体と前面電気コンタクトとの間のバッファ層に存在し得る。それ故、IIB族の元素は、バッファ層の作成を意図した化学浴に特に適している。
【0037】
特定の一実施形態において、前記金属は亜鉛であり得る。
【0038】
CBDによる硫化又はオキシ硫化亜鉛の層の析出は、その光学的性質及び無毒性に起因して、例えば感光性デバイス産業において興味深い。そのような合金からなる層は、CdSのバッファ層に対する効果的で無毒性の代替であり、同時に、500nm未満の波長の放射をより多く透過させる。
【0039】
硫化又はオキシ硫化亜鉛の層は、CdS層より大きなエネルギーバンドギャップを有し、それ故、500nm未満の波長の光を、CdS層より多く透過させる。加えて、硫化又はオキシ硫化亜鉛の層は、感光性デバイスの前面電気コンタクトを形成するためにしばしば使用される酸化亜鉛ZnOの層の光透過特性と同等の光透過特性を有する。
【0040】
本発明は、また、溶液中に、
− 周期表のIIB及びIIIA族の少なくとも1種の元素の中から選択される金属を含む金属塩と、
− 硫黄前駆体と
を含む浴において、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層を、化学的に析出させるための方法にも関する。
【0041】
さらに、前記浴には、モルホリン化合物が含まれる。
【0042】
化学浴へのモルホリンの添加を用いる、少なくとも金属及び硫黄をベースとする層の、CBD析出は、上で説明したいくつかの利点をもたらす。浴へのモルホリンの添加は、析出速度を増大させ、より均質な層の実現を可能にし、化学浴の試薬を予熱する先のステップを省略する可能性に起因して、準備時間を節減することができる。
【0043】
特定の一実施形態において、層は、金属硫化物をベースとし得る。
【0044】
金属硫化物、例えばZnSは、感光性デバイスにおける用途に特に適した合金であり得る。例えば、それは、感光性デバイスの吸収体上のバッファ層として使用され得る。
【0045】
別の実施形態において、層は、金属オキシ硫化物をベースとし得る。
【0046】
金属オキシ硫化物、例えば、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)、又はIn
x(S,O)
y、In
x(S,O,OH)
y(ここで、0<x<2、及び、0<y<3)は、感光性デバイス産業の要求に特に適した光学的性質を有することができる。それらは、また、感光層上のバッファ層としての使用にも適切であり得る。
【0047】
有利には、析出の間の浴の温度は、40℃と100℃の間であり得る。
【0048】
100℃未満の、特に70℃未満の析出温度は、析出時間の増加によって不利益をもたらされることなく、低い融点を有する合金を含むデバイスへの損傷がより少ない作業環境を可能にする。加えて、反応媒体の温度を下げることにより、CBD析出浴のより少ない加熱に起因して、エネルギーを節減することが可能である。これらの節減は、浴の大きさと共に増加し、工業的規模では数平方メートルに達し得る。
【0049】
一実施形態によれば、金属及び硫黄をベースとする層は、光起電力特性を有する層の上に析出されてもよく、光起電力特性を有する前記層は、薄膜ソーラーセルの吸収体を形成する。
【0050】
この様に、金属及び硫黄をベースとする層は、薄膜光起電力セルの吸収体上に析出されて、吸収体を前面電気コンタクトに連結する、バッファ層を示すことができる。感光性セルの吸収体とバッファ層との間の境界の品質は、得られるデバイスにおいて高い変換効率を達成するのに極めて重要である。上で説明した化学的析出法を吸収体上のバッファ層の析出へ応用することは、10分未満で、吸収体自体への損傷なしに析出され、モルホリンを含まない浴で析出されたバッファ層の半分の多さの欠陥を有する、均質な層を生じる。
【0051】
方法を実施することによって得られるバッファ層の品質に起因して、得られる光起電力デバイスは、14%を超える変換効率を有することができる。
【0052】
光起電力セル吸収体上のバッファ層の析出のための化学浴への添加剤としてモルホリンを用いることは、直観でわかるものではないことが注目されるべきである。実際、モルホリンはゴム産業において、または薬及び農薬の合成のために一般的に使用される。
【0053】
吸収体は、Cu(In,Ga)(S,Se)
2、Cu
2(Zn,Sn)(S,Se)
4、及びそれらの誘導体の中のカルコパイライト型化合物をベースとし得る。
【0054】
これらの化合物には、例えば、Cu(In,Ga)Se
2、CuInSe
2、CuInS
2、CuGaSe
2、Cu
2(Zn,Sn)S
4、及びCu
2(Zn,Sn)Se
4が含まれ得る。これらの吸収体が亜鉛及びスズを含む場合、これらの化合物は、CZTSと呼ばれることがある。
【0055】
上で挙げられたソーラーセル吸収体は、20%を超え得る変換効率を有する、CIGS及びCZTS薄膜セル及びそれらの誘導体の吸収体に相当する。これらの吸収体上にバッファ層を析出させるための上で説明した方法の利用は、これがもたらす性能の向上を考えれば、特に有利である。例えば、カルコパイライト型化合物をベースとする吸収体上に、ZnS、Zn(S,O)、又はZn(S,O,OH)のバッファ層を、このようにして析出させることによって、14%を超える変換効率、並びに、他の析出方法によって得られるデバイスで観察されるものより大きい、最終デバイスの開路(open circuit)電圧及び短絡電流を得ることが可能である。
【0056】
本発明の方法は、例示の目的で記載されるが、決して限定ではない、いくつかの例示的実施形態の以下の説明を読むことによって、また添付図を見ることにより、よりよく理解されるであろう。