特許第6169405号(P6169405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169405二段過給システムの油漏れ防止方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169405
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】二段過給システムの油漏れ防止方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/00 20060101AFI20170713BHJP
   F02B 37/013 20060101ALI20170713BHJP
   F02B 37/12 20060101ALI20170713BHJP
   F02B 39/14 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   F02B37/00 500B
   F02B37/013
   F02B37/12 303H
   F02B39/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-95414(P2013-95414)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214732(P2014-214732A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】目黒 陽
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−190052(JP,A)
【文献】 特開2012−067614(JP,A)
【文献】 特開2009−270470(JP,A)
【文献】 特開昭63−186929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 37/013
F02B 37/12
F02B 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムの油漏れ防止方法であって、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部を抜き出して高圧段コンプレッサの入側へ戻すリサーキュレーションラインを装備し、該リサーキュレーションラインを常時閉として加速時に前記低圧段コンプレッサの出口圧力が入口圧力以下となった時にのみ開とすることを特徴とする二段過給システムの油漏れ防止方法。
【請求項2】
エンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムの油漏れ防止装置であって、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部を抜き出して高圧段コンプレッサの入側へ戻すリサーキュレーションラインと、該リサーキュレーションラインの途中に装備されて加速時に前記低圧段コンプレッサの出口圧力が入口圧力以下となった時にのみ開となる常時閉のリサーキュレーションバルブとを備えたことを特徴とする二段過給システムの油漏れ防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧段ターボチャージャと低圧段ターボチャージャとから成る二段過給システムの油漏れ防止方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低速軽負荷域での燃費向上、トルクアップや高EGR率の実現のために、ターボチャージャを二段で備えた過給システムが提案されており、この種の二段過給システムにおいては、図3に示す如く、エンジンEの排気マニホールド1から送出される排気Gにより高圧段タービン2を作動させ且つ高圧段コンプレッサ3で圧縮した吸気Aをインタークーラ4を介しエンジンEの吸気マニホールド5へ送給する高圧段ターボチャージャ6と、該高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン2から送出される排気Gにより低圧段タービン7を作動させ且つ低圧段コンプレッサ8で圧縮した吸気Aを前記高圧段コンプレッサ3へ送給する低圧段ターボチャージャ9とが備えられている。
【0003】
尚、図3中10は排気系路から抜き出した排気Gの一部を吸気系路に再循環するEGRパイプ、11は該EGRパイプ10を適宜に開閉するEGRバルブ、12は再循環される排気Gを冷却するためのEGRクーラを夫々示している。
【0004】
而して、斯かる二段過給システムにおいては、エンジンEが稼動状態である時に、排気マニホールド1から送出される排気Gが、高圧段タービン2へ流入して高圧段コンプレッサ3を駆動した後、低圧段タービン7へ流入して低圧段コンプレッサ8を駆動し、該低圧段コンプレッサ8に流入して圧縮された吸気Aは、高圧段コンプレッサ3に送給されて該高圧段コンプレッサ3で再び圧縮され、インタークーラ4を介してエンジンEの吸気マニホールド5へ送給されるので、エンジンEの各シリンダSへの吸気Aの送給量を増加して1サイクル当たりの燃料噴射量を多くすることが可能となり、これによりエンジンEの出力を高めることが可能となる。
【0005】
尚、前述の如き二段過給システムと関連する一般的技術水準を示すものとしては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−71179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、斯かる従来の二段過給システムにおいては、信号待ちの停車状態から急発進する場合等の如き変化率の大きな加速を行う際に、エンジンEの排気マニホールド1からの排気Gが最初に導入される高圧段タービン2が低圧段タービン7より先に回転することになり、これにより低圧段コンプレッサ8が高圧段コンプレッサ3より遅れて回転する結果、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間が瞬間的に負圧となって、低圧段ターボチャージャ9の軸受から潤滑油が吸い出されてしまう問題があり、このような潤滑油の吸い出しが長期間に亘り繰り返されることでエンジンEの潤滑油の消費量が多くなったり、低圧段コンプレッサ8及び高圧段コンプレッサ3(吸気系路の上流側での潤滑油の漏出が下流側のコンプレッサにも影響するため)の翼車にコーキングが生じて性能や信頼性の低下を招いたりする虞れがあった。
【0008】
更に補足して説明すれば、図4にグラフで示す通り、アクセルを踏み込んでアクセル開度を急激に上げると、これに追従してエンジンEの回転数が上昇する結果、エンジン駆動によるオイルポンプの回転数も上がり、潤滑油の給油圧も直ぐに追従して上昇してくるが、低圧段コンプレッサ8によるブースト圧の上昇はターボラグにより少し遅れて上昇してくるため、高圧段コンプレッサ3の先行回転により低圧段コンプレッサ8側のブースト圧が負圧となった時点で既に給油圧は十分に高くなっており、低圧段ターボチャージャ9の軸受から低圧段コンプレッサ8側へ吸い出され易い条件が整ってしまうことになる。
【0009】
尚、低圧段コンプレッサ8の軸受には、該軸受から低圧段コンプレッサ8側への潤滑油の漏出を防止するシールリング(図示せず)が備えられているが、この種のシールリングは、通常の過給運転時における低圧段コンプレッサ8側からの正圧の作用によりシール機能を発揮するようになっているため、低圧段コンプレッサ8側のハウジング内が負圧になると、シールリングの機能が低下してしまう虞れがあった。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間が加速時に負圧となることによるターボチャージャの軸受からの潤滑油の吸い出しを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、エンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムの油漏れ防止方法であって、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部を抜き出して高圧段コンプレッサの入側へ戻すリサーキュレーションラインを装備し、該リサーキュレーションラインを常時閉として加速時に前記低圧段コンプレッサの出口圧力が入口圧力以下となった時にのみ開とすることを特徴とするものである。
【0012】
而して、このようにすれば、信号待ちの停車状態から急発進する場合等の如き変化率の大きな加速が行われた際に、エンジンの排気マニホールドからの排気が最初に導入される高圧段タービンが低圧段タービンより先に回転し、これにより低圧段コンプレッサが高圧段コンプレッサより遅れて回転することで、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間の圧力が低下しても、ほぼ大気圧相当と看做せる低圧段コンプレッサの入口圧力以下まで出口圧力が低下した時にリサーキュレーションラインが開となり、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部がリサーキュレーションラインを介し抜き出されて高圧段コンプレッサの入側へ戻されるので、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間が負圧となることが回避される。
【0013】
この結果、低圧段ターボチャージャの軸受から潤滑油が吸い出されることが防止され、このような潤滑油の吸い出しが長期間に亘り繰り返されることでエンジンの潤滑油の消費量が多くなったり、低圧段コンプレッサ及び高圧段コンプレッサの翼車にコーキングが生じて性能や信頼性の低下を招いたりする虞れが解消される。
【0014】
尚、通常の過給運転時にあっては、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間が正圧となるため、リサーキュレーションラインが閉じてブースト圧が確実に保持されることになり、圧力抜け等による過給効率の低下が起こる心配はない。
【0015】
また、本発明の方法を具体的に実施するにあたっては、エンジンから送出される排気によって高圧段タービンを作動させ且つ高圧段コンプレッサで圧縮した吸気をエンジンへ送給する高圧段ターボチャージャと、該高圧段ターボチャージャの高圧段タービンから送出される排気によって低圧段タービンを作動させ且つ低圧段コンプレッサで圧縮した吸気を前記高圧段コンプレッサへ送給する低圧段ターボチャージャとを備えた二段過給システムの油漏れ防止装置に関し、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部を抜き出して高圧段コンプレッサの入側へ戻すリサーキュレーションラインと、該リサーキュレーションラインの途中に装備されて加速時に前記低圧段コンプレッサの出口圧力が入口圧力以下に時にのみ開となる常時閉のリサーキュレーションバルブとを備えれば良い。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明の二段過給システムの油漏れ防止方法及び装置によれば、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間の圧力が加速時に低下しても、リサーキュレーションラインが開となり、高圧段コンプレッサの出側から吸気の一部がリサーキュレーションラインを介し抜き出されて高圧段コンプレッサの入側へ戻され、低圧段コンプレッサの出口から高圧段コンプレッサの入口までの間が負圧となることを確実に回避できるので、低圧段ターボチャージャの軸受から潤滑油が吸い出されることを防止でき、このような潤滑油の吸い出しが長期間に亘り繰り返されることを要因として、エンジンの潤滑油の消費量が多くなったり、低圧段コンプレッサ及び高圧段コンプレッサの翼車にコーキングが生じて性能や信頼性の低下を招いたりする虞れを解消することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
図2】本形態例の低圧段側のブースト圧と給油圧との関係を示すグラフである。
図3】従来例を示す概略図である。
図4】従来例の低圧段側のブースト圧と給油圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0020】
本形態例においては、前述した図3の従来例の場合と同様に、エンジンの排気マニホールド1から送出される排気Gにより高圧段タービン2を作動させ且つ高圧段コンプレッサ3で圧縮した吸気Aをインタークーラ4を介し図示しないエンジンの吸気マニホールドへ送給する高圧段ターボチャージャ6と、該高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン2から送出される排気Gにより低圧段タービン7を作動させ且つ低圧段コンプレッサ8で圧縮した吸気Aを前記高圧段コンプレッサ3へ送給する低圧段ターボチャージャ9とにより二段過給システムが構成されているが、高圧段コンプレッサ3の出側から吸気Aの一部を抜き出して高圧段コンプレッサ3の入側へ戻すリサーキュレーションライン13を付設し、該リサーキュレーションライン13の途中に前記低圧段コンプレッサ8の出口圧力が入口圧力以下となった時にのみ開となる常時閉のリサーキュレーションバルブ14を備えた点を特徴としている。
【0021】
ここで、前記リサーキュレーションバルブ14の開閉操作は、制御装置15からの制御信号15aにより制御されるようになっており、一方、この制御装置15には、低圧段コンプレッサ8の入口圧力を検出する圧力センサ16と、低圧段コンプレッサ8の出口圧力を検出する圧力センサ17とからの検出信号16a,17aが夫々入力されるようになっていて、これらの検出信号16a,17aに基づき低圧段コンプレッサ8の出口圧力が入口圧力以下となった時に前記リサーキュレーションバルブ14が制御信号15aにより開操作され、これ以外の低圧段コンプレッサ8の出口圧力が入口圧力より高い条件下では、前記リサーキュレーションバルブ14が閉状態のまま保持されるようになっている。
【0022】
而して、このようにすれば、信号待ちの停車状態から急発進する場合等の如き変化率の大きな加速が行われた際に、エンジンEの排気マニホールド1からの排気Gが最初に導入される高圧段タービン2が低圧段タービン7より先に回転し、これにより低圧段コンプレッサ8が高圧段コンプレッサ3より遅れて回転することで、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間の圧力が低下しても、ほぼ大気圧相当と看做せる低圧段コンプレッサ8の入口圧力以下まで出口圧力が低下した時に、リサーキュレーションバルブ14が制御装置15からの制御信号15aにより開操作されてリサーキュレーションライン13が開通し、高圧段コンプレッサ3の出側から吸気Aの一部がリサーキュレーションライン13を介し抜き出されて高圧段コンプレッサ3の入側へ戻されるので、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間が負圧となることが回避される。
【0023】
即ち、図2にグラフで示す如く、アクセルが踏み込まれてアクセル開度が急激に上げられても、これに追従するエンジンEの回転数や給油圧の上昇に遅れて上昇する低圧段コンプレッサ8によるブースト圧が加速直後に負圧に落ち込むことがなくなる。
【0024】
この結果、低圧段ターボチャージャ9の軸受から潤滑油が吸い出されることが防止され、このような潤滑油の吸い出しが長期間に亘り繰り返されることでエンジンEの潤滑油の消費量が多くなったり、低圧段コンプレッサ8及び高圧段コンプレッサ3の翼車にコーキングが生じて性能や信頼性の低下を招いたりする虞れが解消される。
【0025】
尚、通常の過給運転時にあっては、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間が正圧となるため、リサーキュレーションバルブ14が閉じてリサーキュレーションライン13が不通となり、これによりブースト圧が確実に保持されて圧力抜け等による過給効率の低下が起こらなくなる。
【0026】
従って、上記形態例によれば、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間の圧力が加速時に低下しても、リサーキュレーションバルブ14が閉じてリサーキュレーションライン13が不通となり、高圧段コンプレッサ3の出側から吸気Aの一部がリサーキュレーションライン13を介し抜き出されて高圧段コンプレッサ3の入側へ戻され、低圧段コンプレッサ8の出口から高圧段コンプレッサ3の入口までの間が負圧となることを確実に回避できるので、低圧段ターボチャージャ9の軸受から潤滑油が吸い出されることを防止でき、このような潤滑油の吸い出しが長期間に亘り繰り返されることを要因として、エンジンEの潤滑油の消費量が多くなったり、低圧段コンプレッサ8及び高圧段コンプレッサ3の翼車にコーキングが生じて性能や信頼性の低下を招いたりする虞れを解消することができる。
【0027】
尚、本発明の二段過給システムの油漏れ防止方法及び装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、この形態例に関する具体的な説明の中では、低圧段コンプレッサの入口圧力と出口圧力とを圧力センサにより夫々実測してリサーキュレーションバルブを制御装置で制御する場合を例示しているが、低圧段コンプレッサの入口圧力と出口圧力との圧力関係を利用して機械的に自ら開閉作動するようにしたリサーキュレーションバルブを採用しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
2 高圧段タービン
3 高圧段コンプレッサ
6 高圧段ターボチャージャ
7 低圧段タービン
8 低圧段コンプレッサ
9 低圧段ターボチャージャ
13 リサーキュレーションライン
14 リサーキュレーションバルブ
A 吸気
E エンジン
図1
図2
図3
図4