特許第6169430号(P6169430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169430
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】高周波用電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/30 20060101AFI20170713BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01B7/30
   H01B13/00 511Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-151247(P2013-151247)
(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公開番号】特開2015-22948(P2015-22948A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−124129(JP,A)
【文献】 実開平03−103511(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/30
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の樹脂からなる線材の外周側に金属層を被覆した複数本の素線圧縮されてな、前記複数の素線が圧縮されない場合と比較して素線間の隙間が減少した導体と、
前記導体上に設けられるシースと、を備え、
前記導体の各素線は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている
ことを特徴とする高周波電線。
【請求項2】
絶縁性の樹脂からなる線材の外周側に金属層を被覆して素線とする第1工程と、
前記第1工程にて得られた複数本の素線を集束及びシース加工することにより当該複数本の素線を一括して圧縮する第2工程と、を備え、
前記第2工程では、各素線の変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮する
ことを特徴とする高周波用電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波信号を伝送するリッツ線が知られている。このリッツ線は、金属導体に絶縁層をコーティングした素線を複数本撚り合わせて導体としている。一般に高周波信号の伝送時には表皮効果により、導体の表面付近にしか高周波信号が流れないことが知られている。リッツ線では、複数本の素線から導体を構成するため、各素線の金属導体の表面に高周波信号が流れることとなり、表皮効果による高周波抵抗の増大を抑えることができる。
【0003】
このようなリッツ線は、例えば素線の最小径が50μm程度とされているが、高周波伝送時の表皮深さが50μm未満である場合には、金属導体の表面側を除いた中央側の金属には電流が流れない無駄部となってしまう。
【0004】
そこで、素線に代えて、円筒形状となる金属パイプ線材を用いた高周波用電線が提案されている。この電線では、金属パイプ線材を用いているため、上記無駄部に該当する箇所が中空となり、線材コストを抑えることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−124129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の高周波用電線は、金属パイプ線材を用いている関係上、細径化が困難となってしまう。すなわち、50μmの素線と同等に高周波信号を伝送しようとした場合、金属パイプ線材は、50μmの中空部の外側に10μm程度の金属部が形成されることとなる。よって、金属パイプ線材の直径が70μmとなり、高周波用電線の細径化について障害となってしまう。
【0007】
さらに、素線や金属パイプ線材は外周円形となっていることから、撚り合わせたとしても隙間が発生してしまい、シース材の摩耗特性を考慮した場合、高周波用電線の仕上り外径が限定されてしまう。
【0008】
このような問題に対して、上記素線を撚り合わせて導体としている場合には、複数本の素線からなる導体を圧縮することにより隙間をなくし、高周波用電線の細径化を図っていた。しかし、金属パイプ線材を用いた場合には、圧縮することにより中空部が塞がってしまうため、同様の対策をとることができない。
【0009】
以上のように、従来では、表皮効果による高周波抵抗の増大及びコストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることが困難となっている。
【0010】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、表皮効果による高周波抵抗の増大及びコストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることが可能な高周波用電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高周波用電線は、絶縁性の樹脂からなる線材の外周側に金属層を被覆した複数本の素線を圧縮してなり、前記複数の素線を圧縮しない場合と比較して素線間の隙間が減少した導体と、前記導体上に設けられるシースと、を備え、前記導体の各素線は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の高周波用電線の製造方法は、絶縁性の樹脂からなる線材の外周側に金属層を被覆して素線とする第1工程と、前記第1工程にて得られた複数本の素線を集束及びシース加工することにより当該複数本の素線を一括して圧縮する第2工程と、を備え、前記第2工程では、各素線の変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮することを特徴とする。
【0013】
これらの高周波用電線によれば、複数本の素線から導体を構成しているため、各素線の表面側を高周波信号が伝送されることとなり、表皮効果による高周波抵抗の増大を抑えることができる。また、絶縁性の樹脂からなる線材の外周側に金属層を被覆した素線を用いているため、高周波信号の伝送時において電流が流れない無駄部を樹脂で構成することとなり、線材コストを抑えることができる。また、このような素線を用いていることから、複数の素線により構成される導体を圧縮することができ、電線外径の細径化を図ることができる。従って、表皮効果による高周波抵抗の増大及びコストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることができる。
【0014】
なお、導体の各素線は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている。これは、変形率が20%を超えてしまうと、樹脂の変形に金属層が追従できずに金属層が割れてしまい、高周波抵抗が増大してしまう可能性が高まるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表皮効果による高周波抵抗の増大及びコストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることが可能な高周波用電線及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る高周波用電線の一例を示す断面図である。
図2図1に示した素線を示す断面図である。
図3】素線の変形率を説明する図であり、(a)は変形前の状態を示し、(b)は変形後の状態を示している。
図4】金属パイプ線材及びそれを用いた高周波用電線を示す断面図であって、(a)は高周波用電線を示し、(b)は金属パイプ線材及び金属線材を示している。
図5】本実施形態に係る高周波用電線における周波数と抵抗との関係を示すグラフである。
図6】本実施形態に係る高周波用電線における細径化効果を示す図であって、(a)は細径化効果を示すグラフであり、(b)は導体仕上外径を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図1は、本発明の実施形態に係る高周波用電線の一例を示す断面図である。
【0018】
本実施形態に係る高周波用電線1は、図1に示すように、導体10と、導体10上に被覆された絶縁性のシース20とを備えてなるものである。導体10は、複数本の素線11を圧縮してなるものである。図2は、図1に示した素線を示す断面図である。図2に示すように、素線11は、絶縁性の樹脂からなる線材11aの外周側に金属層11bを被覆したものである。ここで、線材11aには、例えばポリアリレート繊維が用いられ、金属層11bには銅が用いられる。
【0019】
本実施形態に係る高周波用電線1は、このような素線11を圧縮することにより、素線11間の隙間を無くし、細径化を図るようになっている。圧縮は、複数本の素線11の集束時であってもよいし、シース加工時であってもよい。
【0020】
さらに、本実施形態に係る高周波用電線1において、導体10の各素線11は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている。
【0021】
図3は、素線11の変形率を説明する図であり、(a)は変形前の状態を示し、(b)は変形後の状態を示している。図3(a)に示すように、変形前において素線11は、断面がほぼ真円となっており、その直径がaであるとする。一方、圧縮により素線11が変形して例えば断面が楕円形となったとし、その長径がbであるとする。このような場合、変形率は、(b−a)/a×100となる。従って、例えば長径b=1.1aである場合、変形率は10%となる。
【0022】
なお、素線11を圧縮した場合、図3(b)に示すように、断面が楕円形になるとは限らず、種々の形状となり得る。このため、上記では、変形率の算出にあたり長径bを採用したが、圧縮後の形状によって採用する長さbが異なってくる。例えば、圧縮後に素線11が多角形や他の円形又はそれらが混合された形状になった場合、多角形等の内側を結ぶ線分のうち最も長い線分が長さbとして採用される。
【0023】
図4は、金属パイプ線材及びそれを用いた高周波用電線を示す断面図であって、(a)は高周波用電線を示し、(b)は金属パイプ線材及び金属線材を示している。図4(a)に示すように金属パイプ線材111を用いた高周波用電線100において、金属パイプ線材111は断面外径が円形であることから、それぞれを敷き詰めた場合に隙間Sが発生してしまう。そこで、複数本の金属パイプ線材111からなる導体110を圧縮することにより隙間Sをなくし、高周波用電線100の細径化を図ろうとした場合、圧縮することにより金属パイプ線材111の中空部111aが塞がってしまう。
【0024】
さらに、図4(b)に示すように、例えば金属線材211が直径50μmである場合、これと同等に高周波信号を伝送しようとしたとき、金属パイプ線材111は、50μmの中空部111aの外側に10μm程度の金属部111bが形成されることとなる。よって、金属パイプ線材111の直径が70μmとなり、高周波用電線の細径化について障害となってしまう。
【0025】
しかし、本実施形態に係る高周波用電線1において、導体10の各素線11は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている。このため、コストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることが可能となっている。
【0026】
すなわち、絶縁性の樹脂からなる線材11aの外周側に金属層11bを被覆した素線11を用いているため、高周波信号の伝送時において電流が流れない無駄部を樹脂で構成することとなり、線材コストを抑えることができる。また、このような素線を用いていることから、複数の素線11により構成される導体10を圧縮することができ、電線外径の細径化を図ることができる。
【0027】
ここで、導体10の各素線11は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている。これは、変形率が20%を超えてしまうと、樹脂の変形に金属層11bが追従できずに金属層11bが割れてしまう可能性が高まるからである。
【0028】
図5は、本実施形態に係る高周波用電線1における周波数と抵抗との関係を示すグラフである。なお、図5において縦軸はAC抵抗/DC抵抗の比を示し、横軸は周波数を示している。また、図5は、ポリアリレート繊維(繊維径22μm)からなる線材11a上に、約1.5μmの銅を金属層11bとして被覆した素線11を80本束ね、素線11の変形率を10%とした高周波用電線1を使用した実験結果を示している。
【0029】
図5に示すように、約17kHz、約35kHz、及び約65kHzにおいて、AC抵抗/DC抵抗の比は約1となっている。同様に、約130kHz、約250kHz、約450kHz、及び約780kHzにおいても、AC抵抗/DC抵抗の比は約1となっている。すなわち、高周波信号伝送時における表皮効果が発生しても、DC抵抗と比較してAC抵抗は高まっておらず、高周波信号伝送時において伝送ロスが発生していないといえる。
【0030】
図6は、本実施形態に係る高周波用電線1における細径化効果を示す図であって、(a)は細径化効果を示すグラフであり、(b)は導体仕上外径を示している。なお、図6(a)において縦軸は導体10の仕上外径を示し、横軸は素線11の変形率を示している。また、図6は、ポリアリレート繊維(繊維径22μm)からなる線材11a上に、約1.5μmの銅を金属層11bとして被覆した素線11を80本束ねて導体10とした高周波用電線1について素線11の変形率を変化させた場合の実験結果を示している。
【0031】
図6(a)に示すように、素線11の変形率が0%である場合、導体10の仕上外径は、0.35mmであった。なお、図6(b)に示すように、導体10の外周同士を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さが仕上外径となる。
【0032】
また、素線11の変形率が5%である場合、導体10の仕上外径は、0.32mmであり、素線11の変形率が10%である場合、導体10の仕上外径は、0.30mmであった。さらに、素線11の変形率が15%である場合、導体10の仕上外径は、0.29mmであり、素線11の変形率が20%である場合、導体10の仕上外径は、0.28mmであった。
【0033】
なお、変形率が20%を超えると、線材11aの変形に金属槽11bが追従できず、金属槽11bに割れが確認された。
【0034】
このように、素線11の変形率が高まっていくと、導体10の仕上外径が小さくなり、高周波用電線1自体の仕上外径についても小さくすることができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る高周波用電線1の製造方法について説明する。まず、本実施形態に係る高周波用電線1を製造するにあたっては、素線11を形成する。すなわち、ポリアリレート繊維等の繊維又はその他の絶縁体からなる線材11aを用意し、その外周側に金属層11bを形成する。この際、作業者は、線材11aを金属メッキ槽に浸すことにより、金属槽11bを線材11a上に形成する(第1工程)。
【0036】
次に、作業者は、得られた複数本の素線11を撚り線加工等を施して集束することにより圧縮する(第2工程)。その後、圧縮により得られた導体10に対してシース加工を施して圧縮する(第2工程)。これにより、高周波用電線1が製造される。
【0037】
ここで、本実施形態において上記の工程では、各素線11が変形率0%を超え20%以下となるように圧縮される。すなわち、集束及びシース加工を施した結果、各素線11の変形率が0%を超え20%以下となるようにされる。これにより、高周波用電線1の細径化を図ることとなる。
【0038】
このようにして、本実施形態に係る高周波用電線1及びその製造方法によれば、複数本の素線11から導体10を構成しているため、各素線11の表面側を高周波信号が伝送されることとなり、表皮効果による高周波抵抗の増大を抑えることができる。また、絶縁性の樹脂からなる線材11aの外周側に金属層11bを被覆した素線11を用いているため、高周波信号の伝送時において電流が流れない無駄部を樹脂で構成することとなり、線材コストを抑えることができる。また、このような素線11を用いていることから、複数の素線11により構成される導体10を圧縮することができ、電線外径の細径化を図ることができる。従って、表皮効果による高周波抵抗の増大及びコストを抑えつつ、電線外径の細径化を図ることができる。
【0039】
なお、導体の各素線は、変形率が0%を超え20%以下となるように圧縮されている。これは、変形率が20%を超えてしまうと、樹脂の変形に金属層が追従できずに金属層11bが割れてしまい、高周波抵抗が増大してしまう可能性が高まるからである。
【0040】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。例えば、本実施形態において線材11aは、ポリアリレート繊維に限らず、アラミド繊維、及びPBO繊維などであってもよいし、他の絶縁体であってもよい。
【0041】
また、上記実施形態において金属層11bは、銅に限らず、銅合金であってもよいし、アルミ、錫又はこれらの合金であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…高周波用電線
10…導体
11…素線
11a…線材
11b…金属槽
20…シース
図1
図2
図3
図4
図5
図6