特許第6169495号(P6169495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169495妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169495
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20170713BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20170713BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170713BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20170713BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20170713BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20170713BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20170713BHJP
   C12N 15/02 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
   A61K39/395 NZNA
   C07K16/18
   C12P21/08
   C12M1/34 F
   C07K16/46
   A61K39/395 D
   A61P9/12
   G01N33/53 N
   !C12N15/00 C
【請求項の数】30
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2013-552737(P2013-552737)
(86)(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公表番号】特表2014-511375(P2014-511375A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】US2012024198
(87)【国際公開番号】WO2012109282
(87)【国際公開日】20120816
【審査請求日】2015年2月2日
(31)【優先権主張番号】61/440,169
(32)【優先日】2011年2月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513198917
【氏名又は名称】アガミン・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ポール・クシー
(72)【発明者】
【氏名】ウー・エス・ジョー
【審査官】 天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/076467(WO,A1)
【文献】 特表2006−511615(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/075475(WO,A1)
【文献】 特開平07−101999(JP,A)
【文献】 特表2010−528075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 9/12
C07K 16/18
C07K 16/46
C12M 1/34
C12P 21/08
G01N 33/53
C12N 15/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するための組成物であって、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する軽鎖CDRとを含む抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含み、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片はsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、組成物。
【請求項2】
前記重鎖は、配列番号30、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記軽鎖は、配列番号32、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗sFlt−1抗体は、sFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合する、請求項1〜のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記妊娠関連高血圧性障害は、子癇または子癇前症である、請求項1〜のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記妊娠関連高血圧性障害は、子癇前症である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象は、妊娠中のヒトまたは分娩後のヒトである、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記対象は、妊娠中のヒトである、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜のうちのいずれか1項に記載の組成物であって、
(a)前記対象から血液を取り出すことと、
(b)血液またはその構成成分中のsFlt−1のレベルを低下させるために、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が付着した固体支持体に前記血液またはその構成成分を通過させることと、
(c)前記血液またはその構成成分を前記対象の体に戻すことと、
を含む方法により対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するための、組成物。
【請求項10】
前記血液またはその構成成分は、血漿を含み、前記方法は、ある量の前記対象の血液を取り出すことと、前記血液を血漿と細胞成分とに分離することと、前記固体支持体に前記血漿を通過させることと、
を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含み、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、前記抗体:sFlt−1の比率が50であるとき、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、ヒト血漿から少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%のsFlt−1を枯渇させ、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含み、前記抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、前記抗体:sFlt−1の比率が100であるとき、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、ヒト血漿から少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%のsFlt−1を枯渇させ、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含み、前記抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、前記抗体:sFlt−1の比率が250であるとき、前記抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、ヒト血漿から少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%のsFlt−1を枯渇させ、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
配列番号18、配列番号20、および配列番号22と少なくとも90%同一の配列を有する1つ以上の重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と少なくとも90%同一である1つ以上の軽鎖CDRと、を含む、抗sFlt−1抗体であって、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、抗sFlt−1抗体。
【請求項15】
配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する軽鎖CDRと、を含む、請求項14に記載の抗sFlt−1抗体。
【請求項16】
前記重鎖は、配列番号30、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項14または15に記載の抗sFlt−1抗体。
【請求項17】
前記軽鎖は、配列番号32、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項14または15に記載の抗sFlt−1抗体。
【請求項18】
前記抗sFlt−1抗体は、sFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合する、請求項1417のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項19】
以下を含むシステムであって、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、システム:
(a)抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片であって、前記抗体が固体支持体に付着され、前記抗体:sFlt−1のモル比が50であるとき、インビトロ分析において、ヒト血漿から少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%のsFlt−1を枯渇させる、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と、
(b)対象からの血液またはその構成成分を前記固体支持体に結合した前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片まで運んで、前記血液またはその構成成分を前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させ、それによって前記血液またはその構成成分からsFlt−1を除去するようにするための第1の手段と、
(c)前記血液またはその構成成分が前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触した後に、前記血液またはその構成成分を前記対象まで運ぶための第2の手段。
【請求項20】
請求項1417のいずれか1項に記載の抗sFlt−1抗体、またはsFlt−1との結合について請求項1417のいずれか1項に記載の抗sFlt−1抗体と競合する抗体を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
請求項19または20のいずれか1項に記載のシステムであって、 第1の手段は、
(i)対象の血液系に到達するための、前記対象の血管に挿入される、アクセスデバイスと、
(ii)前記アクセスデバイスを、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片に流体的に接続し、それによって、前記対象の血液またはその構成成分を前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片まで流れさせ、それと接触させる、導管システムと、を備える、システム。
【請求項22】
請求項19または20のいずれか1項に記載のシステムであって、前記第2の手段は、
(i)導管システムと、
(ii)戻しデバイスと、を備え、前記戻しデバイスは、前記対象の血管に挿入され、前記導管システムは、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片に接触している前記血液またはその構成成分を前記戻しデバイスに流体的に接続して、前記血液またはその構成成分の前記対象への戻しが可能となるようにさせる、システム。
【請求項23】
前記第1の手段は、前記対象の血液を血漿と細胞成分とに分離するためのデバイスを備える、請求項1922のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項24】
前記対象の血液を血漿と細胞成分とに分離するための前記デバイスは、遠心分離機またはアフェレシスデバイスである、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含、前記抗体が固体支持体に付着され、前記抗体:sFlt−1のモル比が50であるとき、前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、ヒト血漿から少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%のsFlt−1を枯渇させる、カラムであって、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片がsFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、カラム
【請求項26】
前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22と少なくとも90%同一の配列を有する1つ以上の重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と少なくとも90%同一である1つ以上の軽鎖CDRと、を含み、sFlt−1へのリガンド結合をブロックしない、請求項25に記載のカラム。
【請求項27】
前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する軽鎖CDRと、を含む、請求項26に記載のカラム。
【請求項28】
前記重鎖は、配列番号30、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項26または27に記載のカラム。
【請求項29】
前記軽鎖は、配列番号32、またはそれと少なくとも90%同一の配列を含む、請求項26または27に記載のカラム。
【請求項30】
前記抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、ヒトsFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合する、請求項25に記載のカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子癇前症および子癇等の妊娠関連高血圧性障害を治療するための方法、システム、デバイス、および装置に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年2月7日に出願された米国特許出願第61/440,169号に対する優先権を主張するものであり、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
子癇前症は、妊娠の5〜10%に影響を及ぼし、その結果、母体および胎児の高い罹患率ならびに死亡率をもたらす、高血圧、浮腫、およびタンパク尿の症候群である。子癇前症は、1年当たり世界中で少なくとも200,000人の妊産婦死亡の原因である。子癇前症の症状は、典型的には、妊娠第20週後に現れ、通常、血圧および尿を日常的に監視することによって検出される。しかしながら、これらの監視方法は、効果的な治療が利用可能な場合には、対象または発育中の胎児へのリスクを低減させることができる初期段階の子癇前症の診断には無効である。
【0004】
子癇前症の症状は、一般的に、以下のうちのいずれかを含む:(1)妊娠20週後の収縮期血圧(BP)140mmHg超および拡張期BP90mmHg超、(2)新たに発症したタンパク尿(尿検査時のディップスティックで1+、24時間蓄尿中のタンパク質300mg超、もしくはタンパク質/クレアチニン比0.3超のランダム尿)、または(3)分娩後12週までの高血圧およびタンパク尿の解消。子癇前症の症状は、腎障害および糸球体内皮症または糸球体肥大も含み得る。子癇の他の症状は、妊娠または最近の妊娠の影響に起因する以下の症状のうちのいずれかであり得る:発作、昏睡、血小板減少、肝浮腫、肺水腫、または脳浮腫。
【0005】
子癇前症は、軽度から致死的まで重症度が異なり得る。軽度型の子癇前症は、床上安静および頻繁に監視することによって治療することができる。中程度から重度の場合は入院を勧められ、発作を予防するための血圧薬または抗痙攣薬が処方される。状態が母体または胎児の生命を脅かすようになった場合、妊娠が中止され、胎児を早産させる。
【0006】
いくつかの要因が、胎児および胎盤の発育ならびに子癇前症に関連していると報告されている。それらは、血管内皮増殖因子(VEGF)、可溶性Flt−1受容体(sFlt−1)、および胎盤増殖因子(PlGF)を含む。VEGFは、内皮細胞特異的マイトジェン、血管新生誘導因子、および血管透過性の媒介物質である。VEGFはまた、糸球体毛細血管の修復に重要であることも示されている。VEGFは、米国特許第5,332,671号、米国特許第5,240,848号、および米国特許第5,194,596号、ならびにCharnock−Jones et al.,1993,Biol.Reproduction,48:1120−1128に開示されている。VEGFは、グリコシル化ホモ二量体として存在し、少なくとも4つの異なる代替スプライシングされたアイソフォームを含む。天然VEGFの生物活性は、血管内皮細胞または臍帯静脈内皮細胞の選択的増殖の促進、および血管新生の誘導を含む。VEGFは、いくつかのファミリーメンバーまたはアイソフォーム(例えば、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、VEGF−E、VEGF189、VEGF165、またはVEGF121)を含み、例えば、Tischer et al.,1991,J.Biol.Chem.266,11947−11954、Neufed et al.,1996,Cancer Metastasis 15:153−158、米国特許第6,447,768号、米国特許第5,219,739号、および米国特許第5,194,596号を参照されたい。Gille et al.,2001,J.Biol.Chem.276:3222−3230に記載されるKDR選択的VEGFおよびFlt選択的VEGF等のVEGFの突然変異型も知られている。VEGFの改良型は、LeCouter et al.,2003,Science 299:890−893に記載されている。
【0007】
VEGFは、多くの異なる組織から得られる内皮細胞中に差次的に発現される2つの相同性の膜貫通型チロシンキナーゼ受容体であるfms様チロシンキナーゼ(Flt−1)およびキナーゼドメイン受容体(KDR)にホモ二量体として結合する。GenBank受託番号AF063657は、ヒトFlt−1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を提供する。Flt−1は、胎盤の形成に寄与する栄養膜細胞によって高度に発現されるが、KDRは発現されない。PlGFは、同じく胎盤の発育に関与するVEGFファミリーのメンバーである。PlGFは、細胞栄養芽層およびシンシチウム栄養芽層によって発現され、内皮細胞の増殖、遊走、および活性化を誘導することができる。PlGFは、ホモ二量体としてFlt−1受容体に結合するが、KDR受容体には結合しない。PlGFおよびVEGFの両方が、胎盤の発育に非常に重要な分裂促進活性および血管形成に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願第61/440,169号
【特許文献2】米国特許第5,332,671号
【特許文献3】米国特許第5,240,848号
【特許文献4】米国特許第5,194,596号
【特許文献5】米国特許第6,447,768号
【特許文献6】米国特許第5,219,739号
【特許文献7】米国特許第5,194,596号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Charnock−Jones et al.,1993,Biol.Reproduction,48:1120−1128
【非特許文献2】Tischer et al.,1991,J.Biol.Chem.266,11947−11954
【非特許文献3】Neufed et al.,1996,Cancer Metastasis 15:153−158
【非特許文献4】Gille et al.,2001,J.Biol.Chem.276:3222−3230
【非特許文献5】LeCouter et al.,2003,Science 299:890−893
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
完全長Flt−1受容体の膜貫通および細胞質ドメインを欠損するsFlt−1が、ヒト臍帯静脈内皮細胞の培養培地において同定され、後に、胎盤組織においてsFlt−1のインビボでの発現が実証された。sFlt−1は、VEGFに高親和性で結合するが、内皮細胞の有糸分裂誘発を刺激しない。妊娠関連高血圧性障害(例えば、子癇前症もしくは子癇)に罹患しているかまたはそれを発症するリスクのある妊娠中の女性から採取された血清試料中に見られたsFlt−1レベルの上昇は、sFlt−1が、胎児および/または胎盤の適切な発育および血管形成に必要とされる機能的な増殖因子の栄養膜細胞および母体の内皮細胞に結合して枯渇させる「生理的シンク」としての役割を果たしていることを示唆するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、対象におけるsFlt−1に関連する障害を治療または予防するために、対象の血中sFlt−1レベルを低下させるのに十分な量でおよび十分な時間の間、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドを対象にエクスビボで提供することを含む、対象における妊娠関連高血圧性障害等のsFlt−1に関連する障害を治療または予防する方法を提供する。
【0012】
特定の実施形態において、本方法は、ある量の対象の血液を除去することと、対象の血液またはその構成成分中のsFlt−1を、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドに結合させ、それによって、対象の血液またはその構成成分中のsFlt−1の量を減少させるために、血液またはその構成成分(例えば、血漿)を、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドと接触させること(抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、固体支持体に結合している)と、血液またはその構成成分を対象に戻すこととを含む。
【0013】
本発明は、抗sFlt−1抗体およびそのsFlt−1結合断片を提供する。抗体は、前述のエクスビボ法において使用され、また対象に投与することもできる。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む。特定の実施形態において、sFlt−1抗体は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む。いくつかの実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号30および32、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む。
【0014】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む。いくつかのそのような実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号14および16、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、sFlt−1へのリガンド結合をブロックしない。sFlt−1リガンドは、PlGF、VEGF(それらのアイソフォームを含む)を含む。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、Flt−1中には存在しないsFlt−1中のエピトープに結合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1アイソフォームのカルボキシ末端からのアミノ酸を含むエピトープに結合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、ヒトsFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合する。
【0016】
抗体が、血液またはその構成成分からsFlt−1を枯渇させる能力は、必ずしも結合親和性に依存するわけではなく、抗体が結合するsFlt−1の領域による影響を受け得ることが観察される。本発明の特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。いくつかの実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号30および32、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む抗体との結合について競合する。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。いくつかの実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号14および16、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を有する抗体との結合について競合する。
【0018】
特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害は、子癇または子癇前症である。特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害は、子癇前症である。特定の実施形態において、sFlt−1関連障害は、腎疾患である。
【0019】
特定の実施形態において、血液またはその構成成分は血漿であり、方法は、ある量の対象の血液を除去することと、血漿を、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片と接触させる前に、血液を血漿と細胞成分とに分離することとを含む。
【0020】
特定の実施形態において、対象は、妊娠中のヒト、分娩後のヒト、またはヒト以外(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌ、またはネコ)である。特定の実施形態において、対象は、妊娠中のヒトまたは分娩後のヒトである。特定の実施形態において、対象は、妊娠中のヒトである。
【0021】
本発明は、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片またはsFlt−1リガンドと、血液を、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片と接触させ、それによって血液からsFlt−1を除去するために、対象からの血液を、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片またはsFlt−1リガンドまで運ぶための第1の手段と、血液が抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片と接触した後に、血液を対象まで運ぶための第2の手段とを備えるシステムを提供する。
【0022】
本発明の特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するために、血液よりもむしろ血漿が、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片またはsFlt−1リガンドと接触させられる。したがって、特定の実施形態において、第1の手段は、対象の血液を血漿と細胞成分とに分離するためのデバイスを含む。
【0023】
特定の実施形態において、第1の手段は、対象の血液系にアクセスするために対象の血管に挿入される、カテーテル、針、カニューレ等のアクセスデバイスと、アクセスデバイスを、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片に流体的に接続し、それによって対象の血液を抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片まで流れさせ、それらと接触させる、チューブ、パイプ、中空ファイバ等の導管システムと、任意選択的に、アクセスデバイスおよび導管システムを通して抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片まで対象からの血液を移動させるためのポンプ(例えば、蠕動ポンプ)等を備える。
【0024】
特定の実施形態において、第2の手段は、チューブ、パイプ、中空ファイバ等の導管システムと、カテーテル、針、カニューレ等の戻しデバイスとを備え、戻しデバイスは、対象の血管(例えば、静脈)に挿入され、導管システムは、血液または血漿の対象への戻しを可能にするように、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片またはsFlt−1リガンドと接触している血液または血漿を戻しデバイスに流体的に接続する。任意選択的に、第2の手段は、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片またはsFlt−1リガンドから導管システムを通して戻しデバイスまで血液または血漿を移動させるためのポンプ(例えば、蠕動ポンプ)等も備える。このポンプ等は、第1の手段の一部であるものと同じポンプ等であり得るか、または代替として、血液または血漿を対象まで運ぶための第2の手段のための原動力は、第2の手段に特有の別個のポンプ等であり得る。
【0025】
特定の実施形態において、対象の血液を血漿と細胞成分とに分離するためのデバイスは、遠心分離機またはアフェレシスデバイス、例えば、プラスマフェレシスデバイスである。
【0026】
特定の実施形態において、第1および/または第2の手段はまた、導管システムにおいて血液の圧力および/または流速を測定するための1つ以上のセンサを含み得る。
【0027】
本発明はまた、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドを含むカラムを提供し、カラムは、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する際に使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態の略図を示し、対象からの血液が血漿と細胞成分とに分離され、細胞成分が対象に戻され、抗sFlt−1抗体との接触がsFlt−1の血漿を枯渇させるように抗sFlt−1抗体が付着されたSEPHAROSE(登録商標)ビーズで充填したカラムまで血漿が運ばれ、sFlt−1の枯渇した血漿が対象に戻される。
図2】固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体およびVEGF121を含むsFlt−1結合構成成分の使用によるsFlt−1を含む溶液からのsFlt−1の枯渇(パネルA)と、ForteBio Octetによる精製されたモノクローナル抗体およびFlt−1の見かけのK測定(パネルB)を示す。
図3】固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはその抗sFlt−1抗原結合断片を含むカラムの一実施形態を示す。カラムは、円筒状の筐体1と、2つの接続キャップ2および3とを備え、キャップ2は、対象からの血液または血漿を、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片まで送達するための手段に接続され、キャップ3は、血液または血漿が、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1抗原結合断片と接触した後に、sFlt−1の枯渇した血液または血漿を対象に戻すための手段に接続されている。上方ディスク4は、キャップ2内に挿入された障壁であり、固体支持体5を入り口開口部から離して維持する。同様のディスクが下方キャップ3内に存在するが、図示されていない。固体支持体5は、この図においてビーズの形態で表されているが、いずれの便利な形状であってもよい。抗sFlt−1抗体は図示されていないが、固体支持体5に結合している。1、2、3、および4は、血液適合性の合成材料からできており、従来技術によって相互接続されている。
図4】流速が抗体AG10BによるsFlt−1の枯渇に与える影響を示す。
図5】線流速が抗体AG10BによるsFlt−1の枯渇に与える影響を示す。
図6】滞留時間が抗体AG10BによるsFlt−1の枯渇に与える影響を示す。
図7】AG10Bの密度がsFlt−1の枯渇に与える影響を示す。
図8】様々なAG10B:sFlt−1比にわたる血漿からのsFlt−1の枯渇を示す。非特異的抗体ErbituxはsFlt−1を枯渇させず、AG10Bの効果が特異的であることが示唆される。
図9】様々なAG10B:sFlt−1比にわたる血清からのsFlt−1の枯渇を示す。
図10】sFlt−1の枯渇がカラム床体積による影響を受けないことを示す。
図11】ヘパリンの存在下における抗体AG10BによるsFlt−1の枯渇を示す。
図12】抗体AG10BとsFlt−1との結合がVEGF結合をブロックしないことを示す。
図13】セファロースビーズ上に固定化されたAG10Bが補体系を活性化させないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、対象の血中sFlt−1レベルを低下させるのに十分な量でおよび十分な時間の間、限定されないが、sFlt−1リガンドおよび結合タンパク質、抗sFlt−1抗体およびそのsFlt−1結合断片を含む抗sFlt−1結合物質を対象にエクスビボで提供することを含む、sFlt−1に関連する疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。一実施形態において、本発明は、対象の血中sFlt−1レベルを低下させるのに十分な量でおよび十分な時間の間、限定されないが、sFlt−1リガンドおよび結合タンパク質、抗sFlt−1抗体およびそのsFlt−1結合断片を含む抗sFlt−1結合物質を対象にエクスビボで提供し、それによって、対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防することを含む、妊娠関連高血圧性障害を有するかまたは発症するリスクがあり、したがって妊娠関連高血圧性障害の治療または予防を必要とする対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する方法を提供する。別の実施形態において、本発明は、早期分娩を治療する方法を提供する。sFlt−1レベルは、典型的には正常な妊娠の最後の数週間の間に上昇し、高血圧性障害を伴わない場合がある。したがって、本発明は、妊娠後期および分娩の非高血圧性sFlt−1関連障害を治療するため、またはそのような障害を回避するために予防的に使用される。別の実施形態において、本発明は、慢性腎疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0030】
「可溶性Flt−1(sFlt−1)」(sVEGF−R1としても知られる)は、GenBank受託番号AF063657によって定義されるタンパク質と同一または相同であるFlt−1受容体の可溶型を指し、sFlt−1の生物活性を有する。sFlt−1の生物活性は、任意の標準的な方法を使用して、例えば、VEGFへのsFlt−1の結合を測定することによって測定することができる。sFlt−1は、Flt−1受容体の膜貫通ドメインおよび細胞内チロシンキナーゼドメインを欠損している。sFlt−1は、VEGFおよびPlGFに高親和性で結合することができるが、増殖または血管新生を誘導することはできず、したがって、Flt−1受容体およびKDR受容体とは機能的に異なる。sFlt−1は、最初にヒト臍帯内皮細胞から精製され、後に、栄養膜細胞によってインビボで産生されることが示された。本明細書において使用される場合、sFlt−1は、あらゆるsFlt−1のファミリーメンバーまたはアイソフォームを含む。非限定的な例として、スプライス変異体として認識されるsFlt−1のアイソフォームが挙げられる。スプライス変異体は、共通の転写開始部位を有するが、Flt−1をコードする30個全部のスプライシングされたエキソンを含まない。あるアイソフォームは、最初に13個のエキソン、続いてイントロン13の一部およびポリ(A)シグナル配列を有するmRNAによってコードされ、最初の6つのIg様ドメインを含むが、7番目のIg様ドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞内ドメインは含まない(GenBank受託番号AF063657、Kendall et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:10705−9)。別のアイソフォームは、最初に14個のエキソン、続いて新しい代替スプライシングされた末端エキソン15、およびポリ(A)シグナル配列を有するmRNAによってコードされる。アイソフォームは、7番目の細胞外Ig様ドメインで切断される(GenBank受託番号AI188382、Thomas et al.,2007,FASEB J.21:3885−3895)。他のいくつかの代替スプライシングされたmRNAおよびそれらの翻訳産物も報告されるかまたは予測されている。これらのタンパク質の各々は、最初の翻訳終止コドンまでmRNAの代替スプライシングされた3’末端によってコードされるアミノ酸を含む固有のC末端配列を含む。また、sFlt−1は、Flt−1受容体の酵素的切断から生じる分解産物または断片を意味することもでき、そのような分解産物または断片がsFlt−1の生物活性を維持する。1つの例において、胎盤から放出される特異的メタロプロテイナーゼは、Flt−1受容体の細胞外ドメインを切断してFlt−1のN端部分を循環中に放出し得る。
【0031】
「エクスビボ」は、本明細書に開示される治療または予防の方法を対象の体の外で、すなわち体外で、実施することを指し、それによって、対象の血液または血液成分(例えば、血漿)が、対象の体外で抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させられる。
【0032】
「抗sFlt−1抗体」は、sFlt−1に結合することができる抗体を指す。抗sFlt−1抗体の「sFlt−1結合断片」は、sFlt−1に結合する能力を保持する抗sFlt−1抗体の一部を指す。
【0033】
「sFlt−1リガンド」は、sFlt−1に結合する増殖因子またはその誘導体を指す。自然発生型のsFlt−1リガンドは、限定されないが、血管内皮増殖因子(VEGF)および胎盤増殖因子(PlGF)を含む。VEGFは、好ましくはVEGF−AまたはVEGF−Bである。VEGFは、限定されないが、VEGF121、VEGF165、およびVEGF189を含むそのアイソフォームを含む。PlGFは、限定されないが、PlGF−1、PlGF−2、PlGF−3、およびPlGF−4を含むそのアイソフォームを含む。誘導体は、限定されないが、VEGFおよびPlGFの融合タンパク質、ならびにsFlt−1に結合するVEGFおよびPlGFの配列変異体を含む。
【0034】
「sFlt−1結合物質」は、抗体、抗体断片、リガンド、およびsFlt−1に選択的に結合するあらゆる他の結合分子(例えば、天然または合成のタンパク質、ポリペプチド、およびポリマー)を含む。
【0035】
本発明の抗体は、患者からの血液または血漿中のsFlt−1を効率的に枯渇させるのに効果的である。sFlt−1は、可溶性であり得るかまたは血流中に循環する微小粒子であり得る。本発明によれば、組織に結合したsFlt−1を放出するため、対象にヘパリンを投与することができ、sFlt−1のエクスビボでの枯渇を促進し、対象内に残された非循環sFlt−1のプールを最小限に抑える。
【0036】
抗体配列の非限定的な例を提供する。本発明は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む、単離されたsFlt−1抗体(そのsFlt−1結合断片を含む)を提供する。また、本発明は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22と実質的に同一である1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と実質的に同一である1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含むsFlt−1抗体を提供する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号30および32、またはそれと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む。
【0037】
本発明は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む単離されたsFlt−1抗体、ならびに配列番号2、配列番号4、および配列番号6と実質的に同一である1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12と実質的に同一である1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含むsFlt−1抗体をさらに提供する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号14および16、またはそれと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む。
【0038】
「同一性」は、2つの配列の最適な整列のために導入される必要があるギャップの数およびギャップの長さを考慮に入れた、2つのアミノ酸または核酸配列によって共有される同一の位置の数またはパーセンテージを指す。「実質的に同一である」とは、保存的アミノ酸置換、例えば、1つのアミノ酸の同じクラスの別のアミノ酸への置換(例えば、バリンをグリシンに、アルギニンをリジンに等)によってのみ、またはタンパク質の機能を破壊しないアミノ酸配列の位置における1つ以上の非保存的置換、欠失、もしくは挿入によってのみ異なるアミノ酸配列を意味する。好ましくは、アミノ酸配列は、別のアミノ酸配列に、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは少なくとも約90%類似する。配列類似性を決定するための方法およびコンピュータプログラムは公に入手可能であり、限定されないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux et al.,Nucleic Acids Research 12:387,1984)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)、およびALIGNプログラム(バージョン2.0)を含む。周知のSmith Watermanアルゴリズムも類似性を決定するために使用することができる。BLASTプログラムは、NCBIおよび他の供給源から公に入手可能である(BLAST Manual,Altschul,et al.,NCBI NLM NIH,Bethesda,Md.20894;BLAST 2.0(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/))。配列を比較する際に、これらの方法によって種々の置換、欠失、および他の修飾が説明される。保存的置換は、典型的には、以下の群の中での置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0039】
抗体が血液またはその構成成分からsFlt−1を枯渇させる能力は、必ずしも結合親和性に依存するわけではなく、抗体が結合するsFlt−1のドメインまたはエピトープ等の特定の他の特徴にも依存し得ることが本明細書において観察される。本発明の特定の実施形態において、本発明の抗sFlt−1抗体またはsFlt−1結合断片は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、配列番号18、配列番号20、および配列番号22と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号24、配列番号26、および配列番号28と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。いくつかのそのような実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号30および32、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む抗体との結合について競合する。
【0040】
本発明の特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、配列番号2、配列番号4、および配列番号6と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの重鎖CDRと、配列番号8、配列番号10、および配列番号12と実質的に同じ配列を有する1つ、2つ、または3つの軽鎖CDRとを含む抗体との結合について競合する。いくつかのそのような実施形態において、抗sFlt−1抗体またはその結合断片は、配列番号14および16、またはそれと少なくとも85%もしくは少なくとも90%同一の配列から選択されるアミノ酸配列を含む少なくとも1つの可変領域を含む抗体との結合について競合する。
【0041】
次の表1は、本明細書に開示される抗sFlt−1抗体「101」および「102」の可変ドメインおよびCDRのヌクレオチドおよびアミノ酸配列に対応する配列番号を列挙する。
【0042】
【表1】
【0043】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、本明細書において101、102、またはAG10A〜Dと称される抗体のうちの1つ以上によって結合されるヒトsFlt−1上のエピトープに結合する。各々の抗体が、他方の抗体と抗原との結合を競合的に阻害する(ブロックする)場合、2つの抗体は競合する(すなわち、同じまたは重複するエピトープに結合する)。つまり、競合結合アッセイにおいて測定した場合に、1x、5x、10x、20x、または100x過剰な一方の抗体が、他方の結合を少なくとも50%、好ましくは、75%、90%、またはさらには99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.50:1495,1990を参照)。一方の抗体が、別の抗体と同じかまたは重複するエピトープに結合するかどうかを決定するさらなる方法は、当該技術分野において周知である。
【0044】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、ヒトsFlt−1に結合するが、ヒトFlt−1には結合しない。特定の実施形態において、sFlt−1に結合する抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、Flt−1の細胞外ドメインを認識する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、Flt−1中には存在しないsFlt−1中のエピトープを認識する。特定の実施形態において、そのようなFlt−1中には存在しないエピトープは、sFlt−1のカルボキシ末端からのアミノ酸を含む。特定の実施形態において、そのようなFlt−1中には存在しないエピトープは、sFlt−1の不連続エピトープまたは立体構造エピトープである。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、Flt−1のリガンド結合部位に結合する。
【0045】
本発明によると、特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1−結合断片は、対象への投与に特に好適である。例えば、抗体は、対象の免疫原性および/または過敏症を最小限に抑えるように修飾することができる。そのような修飾は、対象のエクスビボでの治療に使用されるカラムまたは他の固体支持体から抗体が浸出した場合、さらなる安全要因を提供することができる。さらに、特定の実施形態において、sFlt−1抗体またはそのsFlt−1−結合断片は、子癇または子癇前症を治療するためにインビボで投与することができる。したがって、エクスビボおよびインビボの両方の治療のために、本発明に従って使用される抗体は、キメラまたはヒト化抗体、および抗sFlt−1抗体の抗原結合断片を含む。キメラ抗体10A(V:配列番号35、V:配列番号36)は、抗体102の可変領域およびヒトIgG1の定常領域を含む。抗体はまた、他の効果を最小限に抑えるかまたは排除するように修飾することができる。例えば、本明細書に提供されるキメラ抗体10B(V:配列番号37、V:配列番号36)の定常領域は、グリコシル化を防止する突然変異N298Qを含む。この突然変異を含む抗体は、補体活性化およびFcとの結合等のエフェクター機能が欠如している。キメラ抗体AG10C(V:配列番号38、V:配列番号36)は、抗体の新生児Fc受容体(FcRn)との結合を妨害する突然変異I254Aを含む。FcRn受容体は、胎児への胎盤全体にわたる母体のIgGの輸送を促進する。したがって、AG10Cは、治療対象においてsFlt−1に結合するだろうが、成長中の胎児には輸送されない。本発明の一実施形態において、エクスビボまたはインビボ投与のための抗体は、両方の突然変異(例えば、キメラ抗体AG10D、V:配列番号39、V:配列番号36)を含む。
【0046】
sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1の活性を中和するために使用され、1つの考えられる機構は、VEGFまたはPlGF等の増殖因子のためのsFlt−1上の結合部位の直接的なブロッキングによるものである。しかしながら、他の機構もまた考えられる。例えば、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、VEGFまたはPlGFとsFlt−1との結合がブロックされないように、sFlt−1上の部位に結合することができる。いずれの場合においても、sFlt−1は、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片によって捕捉されることによって血液または血漿から除去され、もはや血液または血漿中のVEGFまたはPlGF等の遊離増殖因子に結合するために利用することができず、よってそれらの濃度を低下させる。さらに、固体支持体に結合した抗体またはその結合断片によって捕捉されると、sFlt−1は、もはや膜に結合したFlt−1またはKDRとのヘテロ二量体を形成するために利用することができない。
【0047】
本発明の抗sFlt−1抗体は、Flt−1の1つ以上の細胞外Ig様ドメインに結合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合し、リガンド結合をブロックする。Flt−1のドメインの構造について記述されている。(例えば、Davis−Smyth et al.,1996,EMBO Journal,15(18):4919−27を参照)。例えば、1番目のIg様ドメインは、Pro32の辺りからIle128の辺りに及ぶ。2番目のIg様ドメインは、Pro134の辺りからThr226の辺りに及ぶ。3番目のIg様ドメインは、Val232の辺りからLys331の辺りに及ぶ。受容体二量体の形成のために重要であると考えられる4番目のIg様ドメインは、Phe333の辺りからPro428の辺りに及ぶ。5番目のIg様ドメインは、Tyr431の辺りからThr553の辺りに及ぶ。6番目のIg様ドメインは、Gly558の辺りからArg656の辺りに及ぶ。7番目のIg様ドメインは、Tyr662の辺りからThr751の辺りに及ぶ。
【0048】
そのような抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドが本明細書に開示されるエクスビボ法において用いられる場合、それはsFlt−1リガンドによって結合されないsFlt−1分子に結合し、血液または血漿からそれらのsFlt−1分子を除去する。他の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1のドメイン1〜3のうちの1つ以上に結合し、リガンド結合をブロックしない。特定の他の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1に結合し、結合されたリガンドが置換される。よって、特定の実施形態において、sFlt−1リガンドを大きく減少させることなく、対象におけるsFlt−1の量が減少される。
【0049】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、二量体化を防止するようにsFlt−1に結合する。安定した受容体−リガンド複合体が受容体二量体に結合したリガンド二量体を含むように、Flt−1リガンドとFlt−1との結合は協同的であると考えられる。したがって、受容体二量体化をブロックすることは、受容体−リガンドの相互作用を不安定化させる。本明細書に開示されるエクスビボ法において二量体化をブロックする抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドが用いられる場合、そのような抗体または結合断片は、sFlt−1に結合し、循環するsFlt−1の量を減少させる。よって、sFlt−1リガンドを大きく減少させることなく、対象におけるsFlt−1の量が減少される。結合したsFlt−1の二量体化がブロックされるため、リガンドを含む任意のsFlt−1単量体の安定性が低下する。よって、対象におけるsFlt−1リガンドのいかなる減少も不十分であり得る。
【0050】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1に結合するが、リガンド結合またはsFlt−1の二量体化を実質的にはブロックまたは阻害しない。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、sFlt−1の全てのアイソフォームに存在するエピトープに結合する。
【0051】
一実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン1に結合する。別の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン2に結合する。別の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン3に結合する。さらに別の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン1〜2に結合する。別の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン2〜3に結合する。さらに別の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドは、sFlt−1のIg様ドメイン1および3に結合する。
【0052】
本発明の方法およびシステムにおいて使用するのに好適な抗sFlt−1抗体(例えば、101、102、AG10A〜D)が本明細書において開示される。これらの抗sFlt−1抗体に基づいて、本発明の方法およびシステムにおいて使用するのにさらなる抗sFlt−1抗体を設計および生成すること、例えば、本明細書に開示される抗sFlt−1抗体の可変領域配列および/またはCDRを含むさらなる抗sFlt−1抗体を設計および生成することは、当業者にとって日常的な事柄であろう。さらに、本明細書に開示される抗sFlt−1抗体の可変領域配列および/またはCDRに対して、アミノ酸においてある特定のレベルの同一性を有する可変領域配列またはCDRを含むさらなる抗sFlt−1抗体を設計することも日常的な事柄であろう。
【0053】
さらなる抗sFlt−1抗体を設計および生成する際に、当業者は、抗体の特定の周知の特徴によって誘導されるかもしれない。典型的な自然発生型抗体の構造は周知であり、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖を含み、各軽鎖は、鎖間ジスフィルド結合によって重鎖に共有結合的に結合している。2つの重鎖は、さらなるジスフィルド結合によって互いに結合している。個々の重鎖および軽鎖は、同様のサイズ(110〜125個のアミノ酸)および構造を有するが機能の異なるドメイン内に折り畳むことができる。軽鎖は、1つの可変ドメイン(V)および/または1つの定常ドメイン(C)を含むことができる。重鎖も同様に、抗体のクラスまたはアイソタイプに応じて1つの可変ドメイン(V)および/または3つもしくは4つの定常ドメイン(C1、C2、C3、およびC4)を含むことができる。ヒトにおいて、アイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGは、サブクラスまたはサブタイプ(IgA1−2およびIgG1−4)にさらに細分化される。
【0054】
それらの名前から分かるように、可変ドメインは、抗体ごとに著しいアミノ酸配列の可変性を示す。この可変性は、通常、抗原結合部位の位置で最大となる。超可変領域または相補性決定領域(CDR)と称される3つの領域は、フレームワーク可変領域と称される可変性のより低い領域によって支持されるVおよびVの各々に見出される。
【0055】
抗体分子の特定の部分を個別に検討することが都合がよいことが分かっている。VおよびVドメインからなる抗体の部分は、Fv(可変断片)と表され、抗原結合部位を構成する。1つのポリペプチド鎖上にVドメインおよびVドメインを含む抗体断片は、一本鎖Fv(scFv)と称され、通常、可動性リンカーによって結合された一方のドメインのN末端および他方のドメインのC末端を含む(例えば、米国特許第4,946,778号および国際公開第88/09344号を参照)。
【0056】
本明細書に開示される特定の実施形態の場合、scFv断片は全長抗体の定常ドメインのいくらかまたは全てを欠損しているため、scFv断片を用いることが有利であるかもしれない。したがって、それらは、全長抗体の使用に関連する副作用のうちのいくつかを克服することができる。例えば、scFv断片は、重鎖定常領域と他の生体分子との間の特定の望ましくない相互作用を示さない傾向がある。
【0057】
特定の実施形態において、固体支持体には多価一本鎖抗体を付着させることができ、それぞれの一本鎖が第1のペプチドリンカーによって共有結合的に結合された1つのVおよび1つのVドメインを有する複数の一本鎖抗体が、少なくとも1つ以上の第2のペプチドリンカーによって共有結合的に結合されて多価一本鎖抗体を形成する。多価一本鎖抗体のそれぞれの鎖は、可変軽鎖断片および可変重鎖断片を含み、第2のペプチドリンカーによって少なくとも1つの他の鎖に結合される。第2のペプチドリンカーは、好ましくは、少なくとも15個〜100個未満のアミノ酸残基からなる。
【0058】
特定の実施形態において、固体支持体には二重特異性抗体を付着させることができ、2つの一本鎖抗体が合わさって二重特異性抗体を形成する。二重特異性抗体は、2つの鎖および2つの結合部位を有し、それぞれがsFlt−1に特異的である。二重特異性抗体のそれぞれの鎖は、Vドメインに接続されたVドメインを含む。ドメインは、同じ鎖上のドメイン間の対形成を防止するのに十分短いリンカーによって接続され、したがって、異なる鎖上の相補性ドメイン間の対形成を促進して2つの抗原−結合部位を再形成する。
【0059】
特定の実施形態において、固体支持体には三重特異性抗体を付着させることができ、3つの一本鎖抗体が合わさって三重特異性抗体を形成する。三重特異性抗体では、VまたはVドメインのアミノ酸末端が、VまたはVドメインのカルボキシ末端に直接、すなわち、いずれのリンカー配列も使用せずに融合される。三重特異性抗体は、頭‐尾様式で環状に配置されたポリペプチドを含む3つのFv頭部を有する。
【0060】
特定の実施形態において、固体支持体にはFab断片を付着させることができる。Fab断片は、V、C、V、およびC1ドメインからなる抗体の断片である。パパイン消化に続いて単純に産生されるものはFabと称され、重鎖ヒンジ領域が欠損している。ペプシン消化後に、重鎖ヒンジを保持する種々のFabが産生される。鎖間ジスフィルド結合が損なわれていないこれらの二価断片はF(ab’)と称され、一方、一価Fab’は、ジスフィルド結合が保持されない場合に生じる。
【0061】
よって、本明細書に開示される方法およびシステムにおいて使用するための抗sFlt−1抗体およびそのsFlt−1結合断片は、限定されないが、sFlt−1に結合する、自然発生型抗体、(Fab’)等の二価断片、Fab等の一価断片、一本鎖抗体、一本鎖Fv(scFv)、単一ドメイン抗体、多価一本鎖抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体等を含む。
【0062】
特定の実施形態において、抗体またはその断片の特異性は、親和性および/または結合活性に基づいて決定することができる。抗原と抗原の解離(K)の平衡定数によって表される親和性は、抗原決定基と抗体−結合部位との間の結合強度の尺度である。結合活性は、抗体とその抗原との間の結合の強度の尺度である。結合活性は、エピトープと抗体上のその抗原結合部位との間の親和性と、特定のエピトープの抗原結合部位の数を意味する抗体の価数との両方に関連する。抗体は、典型的には、10−5〜10−11リットル/モルの解離定数(K)で結合する。通常、10−4リットル/モルよりも大きないずれのKも、非特異的結合を示唆すると考えられる。Kの値が低いほど、抗原決定基と抗体結合部位との間の結合強度が強い。
【0063】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはsFlt−1結合断片は、約10−5〜10−11リットル/モル、約10−6〜10−10リットル/モル、または約10−7〜10−9リットル/モルの解離定数(K)でsFlt−1に結合する。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはsFlt−1結合断片は、少なくとも約10−5リットル/モル、少なくとも10−6リットル/モル、少なくとも10−7リットル/モル、少なくとも10−8リットル/モル、少なくとも10−9リットル/モル、少なくとも10−10リットル/モル、または少なくとも10−11リットル/モルの解離定数(K)でsFlt−1に結合する。特定の実施形態において、Kは、10−9リットル/モル〜10−10リットル/モルである。特定の実施形態において、Kは、10−10リットル/モル〜10−11リットル/モルである。
【0064】
本明細書に開示される方法およびシステムにおいて使用するのに好適な抗sFlt−1抗体は、直接突然変異、親和性成熟の方法、ファージディスプレイ、または鎖シャッフリングによって結合特性が向上されたものをさらに含む。親和性および特異性は、CDRを突然変異させ、所望の特徴を有する抗原結合部位についてスクリーニングすることによって修飾または向上させることができる(例えば、Yang et al.,J.Mol.Biol.,254:392−403(1995)を参照)。CDRは、様々な方法で突然変異させることができる。1つの方法は、さもなければ同一の抗原結合部位の集団において、特定の位置で20個全てのアミノ酸が見出されるように、個々の残基または残基の組み合わせを無作為化することである。代替として、エラープローンPCR法によって様々なCDR残基に突然変異を誘導することができる(例えば、Hawkins et al.,J.Mol.Biol.,226:889−896(1992)を参照)。例えば、重鎖および軽鎖可変領域の遺伝子を含むファージディスプレイベクターは、大腸菌の突然変異誘発株において増殖させることができる(例えば、Low et al.,J.Mol.Biol.,250:359−368(1996)を参照)。これらの突然変異誘発の方法は、当業者に既知の多くの方法を例示するものである。
【0065】
抗sFlt−1抗体は、標準的なハイブリドーマ技術によって(例えば、参照により、本明細書に組み込まれるHarlow&Lane,ed.,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,211−213(1998))、またはヒト免疫グロブリンγ重鎖およびκ軽鎖を生成するトランスジェニックマウスを使用することによって(例えば、Medarex、San Jose,Calif.から調達したKMマウス)得ることができる。当該技術分野で既知の特定のマウスにおいて、ヒト抗体を生成するゲノムのかなりの部分がマウスのゲノムに挿入され、マウスの内因性マウス抗体の生成を不足させる。そのようなマウスは、任意選択的に、好適なアジュバント、例えば、完全または不完全フロインドアジュバント中、sFlt−1(例えば、ヒトsFlt−1)の一部または全てを用いて免疫することができる。
【0066】
本明細書に開示される方法およびシステムにおいて使用するのに好適な抗体の調製方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第6,054,297号、米国特許第5,821,337号、米国特許第6,365,157号、および米国特許第6,165,464号、米国特許出願公開第2006/0067937号、国際公開第06/034507号に記載される(これらは、参照により、本明細書に組み込まれる)。
【0067】
本明細書に開示される方法およびシステムにおいて使用するのに好適な抗sFlt−1抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化もしくはキメラ抗体、Fv断片、一本鎖Fv断片、Fab断片、またはF(ab’)断片を含み得る。特定の実施形態において、抗体は、マウスモノクローナル抗体である。抗sFlt−1抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、分泌型IgA、IgD、およびIgE等の様々な抗体アイソタイプを含み得る。
【0068】
「キメラ抗体」は、別のタンパク質の少なくとも一部(典型的には、免疫グロブリン定常ドメイン)に結合した抗体分子の少なくとも抗原結合部分を含むポリペプチドを指す。
【0069】
「ヒト化抗体」は、実質的にヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有するフレームワーク領域(FR)と、実質的に非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)(「インポート」配列)とを含む抗体を指す。一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。ヒト化抗体は、通常、少なくとも1つの、そして典型的には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)、Fabc、Fv)の全てを実質的に含み、全てまたは実質的に全てのCDR領域は、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、全てまたは実質的に全てのFR領域は、ヒト免疫グロブリンまたはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部を含むことが最適である。「相補性決定領域(CDR)」とは、免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の各々の中の可変領域中の3つの超可変配列を意味する。「フレームワーク領域(FR)」とは、免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の3つの超可変配列(CDR)のいずれかの側に位置するアミノ酸の配列を意味する。ヒト化抗体のFRおよびCDR領域は、親配列に正確に対応する必要はなく、例えば、インポートCDRまたはヒトまたはコンセンサスヒトFRは、その部位のCDRまたはFR残基がコンセンサス配列またはインポート配列のどちらにも対応しないように、少なくとも1つの残基の置換、挿入、または欠失によって突然変異誘発させることができる。しかしながら、そのような突然変異は、広範囲には及ばない。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも75%、好ましくは90%、最も好ましくは少なくとも95%が、親のFR配列およびCDR配列の残基に対応する。
【0070】
抗sFlt−1抗体は、抗sFlt−1抗体を発現するハイブリドーマから直接得ることができるか、またはクローン化して、好適な宿主細胞(例えば、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞)中に組み換えることによって発現させることができる。好適な宿主細胞は、植物細胞、哺乳類細胞、および大腸菌および酵母等の微生物を含む。代替として、抗sFlt−1抗体は、トランスジェニック非ヒト動物または植物、例えば、トランスジェニックマウスにおいて組み換えることによって生成することもできる。
【0071】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、固体支持体に付着する前または後に修飾され得る。可能な修飾は、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、保護基またはブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、または細胞リガンドまたは他のタンパク質との結合を含む。特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は、1つ以上の非古典的アミノ酸を含み得る。
【0072】
抗sFlt−1抗体またはその抗原結合断片は、sFlt−1関連障害のエクスビボでの治療に好適である。好適とは、抗体が、有効な量で有効な時間の間使用されたときに、対象の血液または血漿中のsFlt−1濃度を効果的に低下させることを意味する。例えば、50ml/分の流速を用いると、100分で5リットルの血漿(約2.5(倍)のヒトの血液量)が生成される。本明細書に例示されるように、あるアッセイにおいて、1mlカラムに適用した1ml/分の流速を用いたところ、抗体AG10Bは、試験液からsFlt−1の94%を枯渇させた。これは、50mlカラムを使用した場合の50ml/分の流速に相当する(また、滞留時間1分に相当する)。別のアッセイは、固体支持体上のAG10Bの濃度を0.8mg/mlのビーズから0.4mg/mlビーズに減少させたときに、試験試料中のsFlt−1の枯渇がわずかに減少されたのみであったことを示している。
【0073】
研究目的で、抗sFlt−1抗体が結合した0.1〜50mLのセファロースビーズを含む種々の寸法のカラムを、緩衝液または動物血清またはヒト血漿中に添加した組換えsFlt−1、あるいは子癇前症患者の羊水または血漿中の天然sFlt−1を枯渇させる能力について検査する。sFlt−1枯渇実験は、流速0.05〜50mL/分、線流速10〜300cm/時間、および滞留時間0.25〜5分で、ビーズ1mL辺り0.025〜20mgの抗体(ビーズ1個当たり6500万〜520億個の抗体分子)で抗sFlt−1抗体が結合したセファロースビーズを含むカラムを用いて行われる。これらのsFlt−1枯渇実験では、カラム床体積の1〜400倍の、sFlt−1を含む緩衝液、血清、または血漿が、5:1〜5,000:1(w/w)の抗sFlt−1抗体:sFlt−1比、または1.25:1〜1,250:1のモル比でカラムに適用される。これらの様々な条件下で、抗sFlt−1抗体が結合したセファロースビーズを含むカラムは、緩衝液、血清、または血漿中のsFlt−1を50〜100%枯渇させる。
【0074】
臨床治療の場合、抗sFlt−1抗体が結合した25〜750mLのセファロースビーズを含む種々の寸法のカラムを使用して、子癇前症を含む高い血中sFlt−1レベルに関連する疾患に罹患している患者の血漿由来のVEGFまたはPlGFのアイソフォーム等の単独のまたはリガンドと複合させた種々のアイソフォームの天然sFlt−1を枯渇させる。臨床治療に使用されるカラムは、流速10〜100ml/分、線流速30〜180cm/時間、および滞留時間0.5〜3分で、ビーズ1ml辺り0.1〜5mgの抗体(ビーズ50ml当たり5〜100mg、ビーズ1個当たり2億6000万〜52億個の抗体分子)で抗sFlt−1抗体が結合したセファロースビーズを含む。平均体重の患者は、体内を循環する約8リットルの血液(約4リットルの血漿)を有する。種々の形態の0.08〜0.48mgの天然sFlt−1(血漿中のsFlt−1レベル40ng/mlの患者の場合)を含む、カラム床体積の血漿の40〜240倍(50mlカラムの場合)に相当する体内の総血漿体積の約0.5〜3倍(2〜12リットルの血漿)が、50:1〜2,000:1(w/w)の抗sFlt−1抗体:sFlt−1比、または12.5:1〜500:1のモル比で抗sFlt−1抗体が結合したビーズを含むカラムに適用される。これらの様々な条件下で、抗sFlt−1抗体が結合したセファロースビーズを含むカラムは、高い血中sFlt−1レベルを有する患者の血漿からsFlt−1の50〜100%を枯渇させることができる。
【0075】
よって、本発明は、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を対象にエクスビボで提供することを含む、対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する方法を提供し、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、抗体:sFlt−1のモル比が500であるとき、抗sFlt−1抗またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または70%〜80%、または80%〜90%、または90%〜95%、または95%〜99%のsFlt−1をヒト血漿から枯渇させる。別の実施形態において、本発明は、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を対象にエクスビボで提供することを含む、対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する方法を提供し、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、抗体:sFlt−1比が250であるとき、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または70%〜80%、または80%〜90%、または90%〜95%、または95%〜99%のsFlt−1をヒト血漿から枯渇させる。別の実施形態において、本発明は、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を対象にエクスビボで提供することを含む、対象における妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する方法を提供し、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、抗体:sFlt−1モル比が100であるとき、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、インビトロ分析において、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または70%〜80%、または80%〜90%、または90%〜95%、または95%〜99%のsFlt−1をヒト血漿から枯渇させる。さらに他の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が固体支持体に付着され、抗体:sFlt−1のモル比が50、25、または12.5であるとき、インビトロ分析において、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも99%、または70%〜80%、または80%〜90%、または90%〜95%、または95%〜99%のsFlt−1が、ヒト血漿から枯渇する。抗sFlt−1抗体およびそのsFlt−1結合断片は、Flt−1Ig様ドメイン1〜3に種々の組み合わせで結合するもの、ならびに、単独で、または組み合わせて、またはIg様ドメイン2および/もしくは3と組み合わせてIg様ドメイン4、5、6、または7に結合する抗体も含む。
【0076】
分析方法に従って、ヒト血清にsFlt−1が添加される。本明細書に例示されるように、ドメイン1〜3からなるsFlt−1タンパク質を使用した。他のドメインまたはドメインの組み合わせに対するsFlt−1抗体が検査される場合、関連するドメインを含むsFlt−1分子が使用される。sFlt−1分子の比限定的な例は、sFlt−1のドメイン1〜3、ドメイン1〜4、ドメイン1〜5、ドメイン1〜6、ドメイン1〜7、ドメイン2〜3、ドメイン2〜4、ドメイン2〜5、ドメイン2〜6、またはドメイン2〜7を含む(sFlt−1の種々のドメインの発現を示すことに関しては、例えば、Barleon et al.,1997,J Biol.Chem.272:10382−88を参照)。特定の実施形態において、分析は、sFlt−1を添加した血漿中に混合した、セファロースビーズに結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を使用して行われる。特定の実施形態において、0.25、0.5、1、1.5、2、2.5、3、4、または5分の臨床カラム上の滞留時間を再現した期間にわたって分析が行われる。そのような分析は、カラム内のビーズに結合した抗sFlt−1抗体またはsFlt−1結合断片の溶液と、所望の滞留時間を実現するための流速で適用されるsFlt−1を添加した血漿を使用して行うことができる。代替として、羊水、血清(例えば、ウマ血清)、または緩衝液(例えば、PBS)に添加したsFlt−1を使用して分析を行うこともできるが、血漿、特にヒト血漿が好ましい。分析は、種々の密度でカラム支持体(例えば、セファロースビーズ)に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片、および種々の濃度で血漿中に添加されたsFlt−1を使用して分析を行うことができる。抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、0.025、0.050、0.1、0.25、0.5、1、または2mg/ビーズの量でセファロースビーズに結合させることができる。流速は、0.05、0.1、0.25、0.5、1、2.5、5、10、25、50、または100ml/分であってもよく、線流速は、10、20、30、50、100、150、180、240、または300cm/時間であってもよい。
【0077】
本発明の抗体は、患者からの血液または血漿中のsFlt−1を効率的に枯渇させるのに効果的である。sFlt−1は、可溶性であり得るおよび/または血流中に循環する微小粒子であり得る。特定の実施形態において、本発明の抗体が固体支持体(例えば、セファロースビーズ)に付着され、抗体:sFlt−1比が50になるようにsFlt−1を含む溶液と接触させられると、sFlt−1抗体は、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%のsFlt−1を枯渇させる(それらに結合する)。特定の実施形態において、sFlt−1抗体は、70%〜80%、80%〜90%の、または90%〜95%、95〜99%ののsFlt−1を枯渇させる。溶液は、血液、血漿、血清、または緩衝液であってもよい。特定の実施形態において、本発明の抗体が固体支持体(例えば、セファロースビーズ)に付着され、抗体:sFlt−1比が100になるようにsFlt−1を含む溶液と接触させられると、sFlt−1抗体は、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%のsFlt−1を枯渇させる。特定の実施形態において、sFlt−1抗体は、70%〜80%、または80%〜90%、または90%〜95%、または95〜99%ののsFlt−1を枯渇させる。特定の実施形態において、本発明の抗体は、固体支持体(例えば、セファロースビーズ)に付着され、抗体:sFlt−1比が250になるようにsFlt−1を含む溶液と接触させられると、sFlt−1抗体は、少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%のsFlt−1を枯渇させる。特定の実施形態において、sFlt−1抗体は、70%〜80%、80%〜90%の、または90%〜95%、95〜99%ののsFlt−1を枯渇させる。
【0078】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体またはsFlt−1結合断片は、好適な条件下において、sFlt−1を含む対象の血液または血漿中のsFlt−1の濃度を、約50ng/ml未満、約40ng/ml未満、約25ng/ml未満、約10ng/ml未満、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1ng/ml未満、約0.75ng/ml未満、または約0.5ng/mlまで低下させることができる。
【0079】
特定の実施形態において、例えば、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を使用して、固体支持体に固定化することによってsFlt−1分子が血漿から除去される。sFlt−1が固体支持体に固定化されると、sFlt−1が溶液中に遊離している場合と比較してリガンド結合には不利である。したがって、対象におけるsFlt−1レベルが低下し、循環するsFlt−1リガンドのいずれの減少も不十分であり得る。
【0080】
特定の実施形態において、抗sFlt−1抗体は固体支持体に結合し、固体支持体には抗エンドグリン抗体またはそのエンドグリン結合断片は結合していない。本明細書に開示される方法の特定の実施形態において、方法は、対象の血液中のエンドグリンの量を実質的に減少させない。本明細書に開示されるシステムの特定の実施形態において、システムは、対象の血液からエンドグリンを大幅に除去することはできない。
【0081】
特定の実施形態において、本発明の方法は、
(a)対象から血液を除去することと、
(b)血液またはその構成成分中のsFlt−1のレベルを低下させるために、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドが付着した固体支持体に血液またはその構成成分を通過させることと、
(c)血液またはその構成成分を対象の体に戻すこととを含む。
【0082】
特定の実施形態において、血液は血漿と細胞成分とに分離され、血漿のみが抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させられ、細胞成分は、そのような接触なしに対象に戻されるか、または特定の実施形態において、対象に戻されるのではなく廃棄される。
【0083】
したがって、特定の実施形態において、本方法は、ある量の対象の血液を除去することと、血液を血漿と細胞成分とに分離することと、血漿中のsFlt−1を抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片に結合させ、それによって対象の血漿中のsFlt−1の量を減少させるために、血漿を抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させることと、血漿を対象に戻すことと、任意選択的に、細胞成分を対象に戻すこととを含む。
【0084】
上記実施形態を実施する場合、細胞成分は任意の時点で対象に戻すことができる。すなわち、細胞成分は、血漿が抗sFlt−1抗体もしくはそのsFlt−1結合断片と接触させられる前に対象に戻されてもよいか、または細胞成分は、血漿が抗sFlt−1抗体もしくはそのsFlt−1結合断片と接触させられた後に対象に戻されてもよい。特定の実施形態において、細胞成分は、血漿が抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触された後に血漿と合わされてもよく、合わされた細胞成分および血漿は、同じ導管システムおよび/または同じ戻しデバイスを通して同時に対象に戻される。
【0085】
特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害は子癇または子癇前症である。特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害は子癇である。特定の実施形態において、障害は慢性腎疾患である。
【0086】
特定の実施形態において、患者は、妊娠中のヒト、分娩後のヒト、または妊娠中もしくは分娩後の非ヒト(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌ、またはネコ)である。特定の実施形態において、対象は、妊娠中のヒトまたは分娩後のヒトである。特定の実施形態において、対象は妊娠中のヒトである。
【0087】
任意選択的に、本明細書に開示される方法は、標準的な子癇前症または子癇の治療を用いて治療中の対象に対して実施することができる。そのような標準的な治療は、当業者に既知であり、米国特許出願公開第2004/0126828号、米国特許出願公開第2005/0025762号、米国特許出願公開第2005/0170444号、および米国特許出願公開第2006/0067937号、ならびに国際公開第2004/008946号、国際公開第2005/077007号、および国際公開第06/034507号に記載される方法を含む。
【0088】
本明細書に開示される方法は、sFlt−1結合物質の組み合わせを使用して実施することができる。例えば、抗sFlt−1抗体、そのsFlt−1結合断片、およびsFlt−1リガンドのうちの2つ以上が使用されてもよい。
【0089】
本明細書に開示される方法は、慢性高血圧症薬を用いて治療中の対象に対して実施することができる。妊娠中の高血圧症を治療するために使用される薬物は、メチルドパ、ヒドララジン塩酸塩、またはラベタロールを含む。
【0090】
特定の実施形態において、本発明の方法は、対象に降圧薬化合物を投与するステップをさらに含むことができる。そのような投与は、従来の方法、例えば、降圧薬化合物を含む経口剤形を投与することによるものであってもよい。
【0091】
特定の実施形態において、本発明の方法は、限定されないが、VEGFRリガンドを含む増殖因子またはサイトカインを対象に投与することをさらに含むことができる。一実施形態において、増殖因子はVEGFである。別の実施形態において、増殖因子はPlGFである。
【0092】
本明細書に開示される方法は、子癇前症または子癇の治療または予防のために妊娠中に、あるいは分娩後の子癇前症または子癇を治療するために妊娠後に実施することができる。
【0093】
「治療」とは、治療目的で、本明細書に開示されるエクスビボ法を実施することを指す。「治療する」こと、または「治療」のために使用することは、既に妊娠関連高血圧性障害を有するかまたはそれに罹患していると診断された対象に、その対象の状態を改善するために治療薬を投与することを指す。例えば、本明細書に記載されるように、本明細書に記載される特徴的な症状のうちのいずれかの同定に基づいて、または対象の血液中のsFlt−1の濃度の測定に基づいて、対象が子癇前症または子癇を有するかまたはそれに罹患していると診断することができる。
【0094】
「予防する」とは、まだ病気ではないが、妊娠関連高血圧性障害を発症しやすいか、またはさもなければ発症するリスクのある対象、例えば、子癇前症または子癇を発症するリスクがあると判断される対象の予防的処置を意味する。
【0095】
「妊娠関連高血圧性障害」は、血圧の上昇と関連するかまたはそれによって特徴付けられる妊娠中の任意の状態または疾患を指す。これらの状態および疾患の中に含まれるのは、子癇前症(早期子癇前症、重度子癇前症を含む)、子癇、妊娠高血圧、HELLP症候群(溶血、肝酵素の上昇、血小板減少)、胎盤剥離、妊娠中の慢性高血圧症、子宮内胎児発育遅延を伴う妊娠、および胎内発育遅延(SGA)児を伴う妊娠である。
【0096】
「子癇前症」とは、タンパク尿もしくは浮腫、または両方を伴う高血圧、腎糸球体不全、脳浮腫、肝浮腫、あるいは妊娠または最近の妊娠の影響による血液凝固異常によって特徴付けられる多系統障害を指す。早期、軽度、中程度、および重度子癇前症等の全ての形態の子癇前症が、この定義に含まれる。子癇前症は、通常、妊娠20週後に起こる。子癇前症は、通常、以下の症状のうちのいくつかの組み合わせとして定義される:(1)妊娠20週後の収縮期血圧(BP)140mmHg超および拡張期BP90mmHg超(通常、4〜168時間空けて2回測定される)、(2)新たに発症したタンパク尿(尿検査時のディップスティックで1+、24時間蓄尿中のタンパク質300mg超、またはタンパク質/クレアチニン比0.3超のランダム尿試料が1つ)、ならびに(3)分娩後12週までの高血圧およびタンパク尿の解消。重度子癇前症は、通常、(1)拡張期BP110mmHg超(通常、4〜168時間空けて2回測定される)、または(2)24時間畜尿中のタンパク質が3.5グラム以上の測定値、もしくはディップスティックでタンパク質が少なくとも3+の2つのランダム尿標本によって特徴付けられるタンパク尿として定義される。子癇前症では、高血圧およびタンパク尿は、通常、互いに7日以内に起こる。重度子癇前症では、重度の高血圧、重度のタンパク尿、およびHELLP症候群(溶血、肝酵素の上昇、血小板減少)、または子癇が、同時に起こり得るか、または1度に1つの症状のみが起こり得る。HELLP症候群は、血小板減少症(100,000細胞/μl未満)、LDHの増加(600IU/L超)、およびASTの増加(70IU/L超)の兆候によって特徴付けられる。時に、重度子癇前症は、発作の発生につながる可能性がある。この重症型の症状を「子癇」という。子癇はまた、例えば、肝臓(例えば、肝細胞障害、門脈周囲の壊死)ならびに中枢神経系(例えば、脳浮腫および脳出血)等の、いくつかの臓器または組織の機能不全または損傷を含むこともできる。発作の病因は、脳浮腫および腎臓の微小血管の局所痙攣の発症に対して2次性であると考えられる。
【0097】
「対象」は、限定されないが、ヒト、またはヒト以外の哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌ、もしくはネコを含む哺乳動物である。
【0098】
子癇前症または子癇等の妊娠関連高血圧性障害を「発症するリスクがある」とは、現在は妊娠関連高血圧性障害を有していないが、妊娠関連高血圧性障害を発症する確率が平均よりも高い対象を指す。そのようなリスクのある対象は、約3ng/ml超、約4ng/ml超、約5ng/ml超、約6ng/ml超、約7ng/ml超、約8ng/ml超、約9ng/ml超、約10ng/ml超、約15ng/ml超、約20ng/ml超、約25ng/ml超、約30ng/ml超、約40ng/ml超、または約45ng/ml超の血中sFlt−1濃度を有するが、子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害の他の徴候を示さない妊娠中の女性を含む。
【0099】
本明細書に記載される方法を実施することができる妊娠の段階は、対象の総体的な健康および子癇前症の症状の重症度を含む種々の臨床的要因に依存する。一般に、一旦、子癇前症または子癇前症の素因が検出されてから本方法を用いることができる。治療は、1〜100日、より好ましくは1〜60日、1〜10日、または1〜5日、最も好ましくは1〜20日の範囲の期間の間継続することができる。
【0100】
特定の実施形態において、本方法は、妊娠14週目、妊娠16週目、妊娠18週目、妊娠20週目、妊娠22週目、妊娠24週目、妊娠26週目、妊娠28週目、妊娠30週目、妊娠32週目、妊娠34週目、または妊娠36週目以降に対象に対して実行される。特定の実施形態において、本方法は、妊娠14週目〜16週目、妊娠16週目〜18週目、妊娠18〜20週目、妊娠20〜22週目、妊娠22〜24週目、妊娠24〜26週目、妊娠26〜28週目、妊娠28〜30週目、妊娠30〜32週目、妊娠32〜34週目、または妊娠34〜36週目に対象に対して実行される。
【0101】
特定の実施形態において、対象の血液または血漿は、sFlt−1を所望のレベルまで低下させるために必要な程度のみ抗sFlt−1抗体またはリガンドと接触させられる。所望のレベルは、例えば、正常な妊娠に特徴的なsFlt−1のレベルであり得る。正常な妊娠において、sFlt−1の血清濃度は、8〜12週から16〜20週に低下し、26〜30週で徐々に上昇し、35〜39週で急上昇し、分娩後に正常レベルに戻ることが観察されている。したがって、一実施形態において、所望のレベルは、対象の妊娠の段階の正常レベルである。別の実施形態において、レベルは、対象の妊娠の段階の正常レベルよりも高いかまたは低い。当業者は、例えば、エクスビボ手技が行われる患者および頻度に応じて、所望のレベルを決定することができるであろう。
【0102】
所望のsFlt−1レベルは、例えば、対象が治療を受ける期間の長さ(すなわち、特定の流速で処理される血液または血漿の体積)、固定化した抗体もしくはリガンド上の流速、および/またはsFlt−1に結合する抗体もしくはリガンドを担持する固体支持体の結合能を制御することによって達成することができる。一実施形態において、治療時のsFlt−1レベルを測定するために診断薬が使用される。別の実施形態において、治療薬は、リアルタイムでのsFlt−1レベルの測定値を提供し、所望のsFlt−1レベルに達すると治療が中止される。別の実施形態において、期間、流速、および/または能力は、手技の開始時に対象において診断されるsFlt−1レベルおよび達成することが所望されるsFlt−1レベルに基づいてあらかじめ決められる。
【0103】
特定の実施形態において、本方法は、対象に本方法が実施される前の対象における血中sFlt−1レベルと比較して10%〜90%、20%〜80%、または30%〜50%対象の血中sFlt−1レベルを低下させる。特定の実施形態において、本方法は、対象に本方法が実施される前の対象における血中sFlt−1レベルと比較して10%〜20%、20%〜30%、30%〜40%、40%〜50%、50%〜60%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、または90%〜100%対象の血中sFlt−1レベルを低下させる。
【0104】
固体支持体に付着した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、子癇前症または子癇に罹患しているかまたはそれを発症するリスクのある対象の体液からsFlt−1を除去するために使用することができる。特定の実施形態において、固体支持体に付着した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、血液または血漿からsFlt−1を除去するために使用される。特定の実施形態において、固体支持体に付着した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片は、当該技術分野で既知の体外免疫吸着剤デバイスにおいて使用される。血液または血漿は、付着させた支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片に暴露され、(遊離しているかまたは他の血中タンパク質との複合体として)循環するsFlt−1の部分的なまたは完全な除去をもたらし、続いて血液または血漿が対象の体に戻される。本明細書に開示される方法は、血液または血漿を抗sFlt−1抗体に接触させる前に介在する細胞除去ステップ、例えば、遠心分離ステップを含むかまたは含まない、連続フロー構成において実行され得る。
【0105】
本明細書に記載される方法において使用するための固体支持体は、好ましくは、無毒性であるべきであり、血液または血液成分に暴露されたときに安定であるべきである。固体支持体は、当該技術分野で周知であるものの中から選択することができる。例えば、任意の好適な多孔質材料が固体支持体として使用され得る。好適な固体支持体の例として、例えば、炭水化物に基づく材料、例えば、種々の種類のSEPHAROSE(登録商標)(架橋されたビーズ形態のアガロース)、例えば、SEPHAROSE 4B(登録商標)、4FF(登録商標)、CL−4B(登録商標)、およびCL−6Bが挙げられる。
【0106】
固体支持体は、有機分子、無機分子、または有機分子と無機分子との組み合わせからなってもよく、1つ以上の官能基、例えば、活性化剤との共有結合を形成するのに好適なヒドロキシ基からなってもよい。固体支持体は、親水性化合物、疎水性化合物、またはそれらの任意の組み合わせからなってもよい。固体支持体は、ポリマーまたはコポリマーからなってもよい。
【0107】
固体支持体において使用するための好適な材料の例として、限定されないが、アガロース、セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、多糖類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、フッ化ポリビニリデン、ポリプロピレン、フルオロカーボン、例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))、ポリエチレン、ガラス、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(アゾラクトン)、ポリスチレン、セラミック、およびナイロンが挙げられる。
【0108】
固体支持体はいずれか特定の形状である必要はない。例えば、固体支持体は、ビーズ、膜、ゲル、カラム、チップ、プレート、チューブ、シート、繊維、または中空ファイバの形態であり得る。固体支持体はまた、その中を血液または血漿が通るチューブ、パイプ、または中空ファイバの1つ以上の長さの内部のコーティングの形態であってもよい。そのような実施形態において、チューブ、パイプ、または中空ファイバは、該チューブ、パイプ、または中空ファイバを通る血液または血漿によって接触される固体支持体の量を最大化するために、好ましくはコイル状であるか、またはさもなければ屈曲もしくは湾曲している。
【0109】
抗体およびリガンドを固体支持体に付着させる方法は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載される方法において使用される抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を固体支持体に付着させるために使用することができる。そのような方法は、限定されないが、臭化シアン、1,1’−カルボニルイミダゾール(CDI)、またはトリエチルアミンの使用を含む。
【0110】
一般に、固体支持体をアルデヒド、エポキシド、シアン、活性化カルボン酸等の活性化剤と接触させることにより、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片の付着のために固体支持体を活性化することができる。
【0111】
抗体を固体支持体に付着させる方法は、当該技術分野で周知である。例えば、Hermanson et al.1992,Immobilized Affinity Ligand Techniques,Academic Press、米国特許第5,874,165号、米国特許第3,932,557号、米国特許第4,772,635号、米国特許第4,210,723号、米国特許第5,250,6123号、欧州特許出願第EP 1 352 957 A1号、および国際公開第2004/074471号を参照されたい。典型的には、固体支持体は、エポキシド(例えば、エピクロロヒドリンの使用による)、シアン(例えば、臭化シアン(CNBr))、N,N−炭酸ジスクシンイミジル(DSC)、アルデヒド、または活性化カルボン酸(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、またはカルボニルイミダゾール(CDI)活性化エステル)等の反応性官能基で活性化される。活性化基は、CNBrの場合に一般的であるように、固体支持体に直接的に付着させることができるか、または活性化基は、典型的には、酸素および/または窒素原子で任意選択的に置換された炭素の直鎖であるリンカーまたはスペーサー分子の一部であってもよい。そのようなリンカーの典型的な例は、リンカーのブタンジオールジグリシジルエステル(一般的なエポキシドカップリング剤)に見られる炭素と酸素の10員鎖である。活性化された固体支持体は、次いで、カップリング条件下で抗体と接触させられる。
【0112】
他のリンカーは、1〜30個の炭素原子を含む分岐鎖、非分岐鎖、または環状炭素鎖を含み得る。特定の実施形態において、リンカーは、30個以上の炭素原子からなり得る。リンカーは、窒素、酸素、または硫黄等の少なくとも1つのヘテロ原子を含み得る。
【0113】
市販品AFFI−GEL 15(登録商標)(BioRad、Hercules,Calif.)がリンカーの介在によるカップリングに使用されてもよい。AFFI−GEL 15(登録商標)は、正電荷を帯びた二級アミンを含むリンカーアームの一部としてNHS活性化カルボン酸で誘導体化されたアガロース支持体である。電荷を帯びた別のリンカーは、米国特許第5,260,373号に開示される。アルギニンからなるより短いリンカーが、アガロース支持体へのカップリングを促進するために使用されてもよい。アルギニンリンカーは、NHSで活性化され、正電荷を帯びる。
【0114】
抗sFlt−1抗体、その結合断片、ならびにsFlt−1特異的ポリペプチドおよびリガンドは、より均一な配向および効率的なsFlt−1結合を提供するような様式で固体支持体に共有結合的に結合することができる。大半の方法は、所定の位置で固有の化学基を用いてタンパク質を修飾し、その基を固体支持体上の相補基と反応させることを伴う。別の実施形態において、抗sFlt−1抗体、抗体断片、およびリガンドは、固体支持体に結合させることができるN末端またはC末端リンカーを用いて生成される。特定の実施形態において、ポリペプチドおよびリガンドは、固体支持体上で直接合成される。
【0115】
本明細書に開示される方法に従う治療の有効性を判定するために、当該技術分野で既知の診断方法を使用して治療中に対象の子癇前症または子癇を監視することができる。好適な診断方法は、例えば、米国特許第7,335,362号、米国特許第7,435,419号、および米国特許第7,407,659号に開示される。
【0116】
特定の実施形態において、本明細書に開示される方法を使用した治療または予防に好適な対象を特定するために、対象の血液中のsFlt−1の濃度を測定および/または監視する診断方法が用いられる。特定の実施形態において、診断方法は、子癇前症または子癇等の妊娠関連高血圧性障害を発症するリスクのある対象を特定するために用いられ、対象は、約5ng/ml超、約6ng/ml超、約7ng/ml超、約8ng/ml超、約9ng/ml超、約10ng/ml超、約15ng/ml超、約20ng/ml超、約25ng/ml超、約30ng/ml超、約40ng/ml超、または約45ng/ml超の血中sFlt−1濃度を有するが、子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害の他の徴候を示さない妊娠中の女性である。
【0117】
したがって、本発明は、妊娠関連高血圧性障害を有するかまたは発症するリスクのある対象を特定し、次いで、そのように特定された対象に対して本明細書に開示されるエクスビボ法を実vし、それによって妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する方法を提供する。特定の実施形態において、妊娠中のヒトは、妊娠中期の間の対象の血液中のsFlt−1濃度が、約3.5ng/ml超、約4ng/ml超、約5ng/ml超、約7.5ng/ml超、約10ng/ml超、約20ng/ml超、約30ng/ml超、約40ng/ml超、または約50ng/ml超であると測定された場合に、本明細書に開示される方法による治療または予防に好適な対象として特定される。
【0118】
対象の血中sFlt−1レベルが測定されるおよび/または監視される特定の実施形態において、本明細書に記載される方法は、対象の血液中のsFlt−1濃度が、約50ng/ml未満、約45ng/ml未満、約40ng/ml未満、約35ng/ml未満、約30ng/ml未満、約25ng/ml未満、約20ng/ml未満、約15ng/ml未満、約10ng/ml未満、約7.5ng/ml未満、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1.5ng/ml未満、または約1ng/ml未満になるまで用いることができる。
【0119】
特定の実施形態において、本明細書に開示される方法は、妊娠関連高血圧性障害の症状に改善が検出されるまで用いることができる。特定の実施形態において、妊娠関連高血圧性障害は子癇前症であり、改善とは、140mmHg未満(収縮期)および/または90mmHg未満(拡張期)の値まで血圧が低下することである。
【0120】
本発明は、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含むカラム等の筐体またはチャンバを提供し、該筐体またはチャンバは、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する際に使用するのに好適である。
【0121】
特定の実施形態において、筐体またはチャンバはカラムである。「カラム」は、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片またはsFlt−1リガンドが、付着することができるかまたは付着された固体支持体を含む、略円筒状の容器、チャンバ、または筐体を指す。
【0122】
特定の実施形態において、カラムは、約5ml〜2000ml、約10ml〜約1000ml、約50ml〜約500ml、または約200ml〜約400mlの体積の、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む。特定の実施形態において、カラムは、約5ml、約10ml、約25ml、約50ml、約100ml、約200ml、約300ml、約500ml、約750ml、約1000ml、約1500ml、または約2000mlの体積の、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む。特定の実施形態において、カラムは、1つ以上の抗凝血性物質、例えば、ヘパリンを含む。特定の実施形態において、カラム内部の細菌、マイコプラズマ、および/またはウイルスの量を減少させることが企図される様式でカラム内部が処理されている。特定の実施形態において、カラム内部は滅菌される。
【0123】
特定の実施形態において、カラムは、ヒト血液または血漿から少なくとも10μg、少なくとも25μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも150μg、少なくとも200μg、少なくとも300μg、少なくとも400μg、少なくとも500μg、少なくとも600μg、少なくとも700μg、少なくとも800μg、少なくとも900μg、少なくとも1000μg、少なくとも1500μg、または少なくとも2000μgのsFlt−1を除去するために十分な、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む。特定の実施形態において、カラムは、ヒト血液または血漿から少なくとも10μg〜2000μg、少なくとも20μg〜1000μg、少なくとも50μg〜500μg、または少なくとも100μg〜200μgのsFlt−1を除去するために十分な、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む。
【0124】
本発明は、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するためのデバイスを作製する方法であって、
(a)固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を生成するために、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を固体支持体に付着させることと、
(b)固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む筐体またはチャンバを生成するために、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片をカラム等の筐体またはチャンバ内に導入することと、
(c)固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む筐体またはチャンバを、対象からの血液または血漿を固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはその抗sFlt−1抗原結合断片まで運ぶための手段に流体的に接続することと、
(d)固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む筐体またはチャンバを、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片からの血液または血漿を対象まで運ぶための手段に流体的に接続することと、を含み、該手段は、対象からの血液または血漿を固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはその抗sFlt−1抗原結合断片に接触させ、それによって血液または血漿からsFlt−1を除去することができるように筐体またはチャンバに接続される、方法を提供する。
【0125】
本発明は、透析またはアフェレシスデバイスまたはシステムが、患者からの血液または血漿と固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはその抗sFlt−1抗原結合断片との接触を提供し、それによって血液または血漿からsFlt−1を除去してsFlt−1の枯渇した血液または血漿を生成することができるように、透析またはアフェレシスデバイスまたはシステムに、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含むカラム等の筐体またはチャンバを提供するように透析またはアフェレシスデバイスまたはシステムを改良することを含む、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するためのデバイスを作製する方法を提供する。
【0126】
特定の実施形態において、本発明は、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するエクスビボ法において使用するのに好適な抗sFlt−1抗体を同定する方法であって、
(a)sFlt−1に結合する抗体を得ることと、
(b)結合した抗sFlt−1抗体を含む固体支持体を生成するために、sFlt−1に結合する抗体を固体支持体に付着させることと、
(c)結合した抗sFlt−1抗体を含む固体支持体が、対象由来の流体試料中のsFlt−1に結合し、それによって流体試料からsFlt−1を除去することができるかどうかを判定することと、を含み、
結合した抗sFlt−1抗体を含む固体支持体が対象由来の流体試料中のsFlt−1に結合し、それによって流体試料からsFlt−1を除去できる場合、ステップ(a)の抗体は、子癇または子癇前症等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防するエクスビボ法において使用するのに好適な抗sFlt−1抗体として同定される、方法を提供する。
【0127】
特定の実施形態において、対象は哺乳動物である。特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0128】
特定の実施形態において、流体試料は、血液、血漿、羊水、または尿である。
【0129】
改良された透析またはアフェレシスシステムは、本明細書に開示される方法を実施するために使用することができ、改良された透析またはアフェレシスシステムは、血液が、除去され、結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む固体支持体を通過させられ、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片によって血液からsFlt−1が除去された後に対象の体に戻される手段を提供する。いくつかの実施形態において、アフェレシスシステムは、プラスマフェレシスシステムであり、血液ではなく血漿が、結合した抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片を含む固体支持体を通過させられ、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片によって血漿からsFlt−1が除去された後に対象の体に戻される。
【0130】
特定の実施形態において、本明細書に開示される方法は、全血または血漿等の体液の除去および体外治療を可能にする当該技術分野で既知のデバイスの改良版を使用して実行することができる。そのようなデバイスの1つは、透析機である。透析機は日常的に使用されており、流速を制御する方法、気泡を除去する方法、ならびに透析の間に適切な電解質バランス、血糖、酸素負荷、温度、無菌性、および他の重要な要因を維持する方法は、当該技術分野において周知であり、また確立されている。特定の実施形態において、本明細書に開示される方法は、既存の透析システムを使用して実行されてもよく、その場合、ダイアライザーが、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が付着した固体支持体を含むカラム等の筐体またはチャンバによって置き換えられる。筐体またはチャンバを通って血液が流れると、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片が血液からsFlt−1を除去し、それによって血液中のsFlt−1濃度を低下させ、子癇前症または子癇等の妊娠関連高血圧性障害を治療または予防する。
【0131】
本明細書に記載される方法を実施するために使用することができる別の周知のデバイスは、アフェレシスシステム、例えば、プラスマフェレシスシステムである。プラスマフェレシスは、血液の特定の細胞成分の体外操作および除去を伴い、その後、所望の臨床効果を誘発するために血液が対象に再注入される。プラスマフェレシスの間、最初に、針またはカテーテル等のアクセスデバイスを介して体から血液が取り出される。次いで、細胞分離装置によって血液から血漿が除去される。血液細胞から血漿を分離するためには一般的に3つの手段が使用される:(1)不連続フロー遠心分離:典型的には1度に300mlの体積の血液が除去され、血液細胞から血漿を分離するために遠心分離される、(2)連続フロー遠心分離:連続的に回転させて血漿を取り出すために遠心分離が使用される、(3)血漿濾過:標準的な血液透析機器を使用して血漿が濾過される。
【0132】
本明細書に開示される方法において使用するための改良に好適なアフェレシスデバイスは、例えば、米国特許第5,098,372号、米国特許第5,112,298号、および米国特許第6,319,471号に記載される。他の好適なデバイスは、PlasmaSelect(Munich,Germany)のLIFE−18(登録商標)血漿療法デバイス、B.Braun(Melsungen,Germany)のDiapact(登録商標)CRRT、1201 Oak Street,Lakewood,Co.80215所在のCobe BCT,Incorporatedの製品であるCOBE SPECTRA(登録商標)、およびGambro BCT,Inc.のELUTRA(登録商標)Cell Separation Systemを含む。
【0133】
本明細書に開示されるシステムの特定の実施形態において、対象の血液系に到達するためのアクセスデバイスおよび/または対象に血液、血漿、または血液の細胞成分を戻すための戻しデバイスは、例えば、Fresenius Medical Care(Bad Homburg,Germany)によって販売される単一ルーメンカテーテルまたは二重ルーメンカテーテル等の単一ルーメンカテーテルまたは二重ルーメンカテーテルである。そのようなカテーテルは、ポリウレタンが体温まで加熱すると血管の輪郭に適合する感熱性ポリウレタンでできていてもよい。
【0134】
本明細書に開示される方法の特定の実施形態において、対象から血液を除去することは、血液から少なくとも約650ミリリットルの血漿を得るのに十分な量の血液を対象から除去することを含む。特定の実施形態において、対象から血液を除去することは、少なくとも2リットルの血液を対象から除去することを含む。特定の実施形態において、対象から血液を除去することは、実質的に全ての対象の血液量が、少なくとも1回、少なくとも2回、または少なくとも3回、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させられるまで、対象から連続的に血液を除去することを含む。特定の実施形態において、対象から血液を除去することは、対象の全血液量の約2/3、約1/2、約1/4、約1/5、または約1/10が、抗sFlt−1抗体またはそのsFlt−1結合断片と接触させられるまで、対象から連続的に血液を除去することを含む。特定の実施形態において、対象から血液を除去することは、対象の血液中のsFlt−1濃度が事前に選択された濃度に達するまで対象から連続的に血液を除去することを含む。特定の実施形態において、事前に選択された濃度は、約50ng/ml未満、約40ng/ml未満、約25ng/ml未満、約10ng/ml未満、約5ng/ml未満、約4ng/ml未満、約3ng/ml未満、約2ng/ml未満、約1ng/ml未満、約0.75ng/ml未満、または約0.5ng/ml未満である。特定の実施形態において、事前に選択された濃度は、約40〜50ng/ml、約30〜40ng/ml、約20〜30ng/ml、約10〜20ng/ml、約5〜10ng/ml、約5〜8ng/ml、約3〜7ng/ml、約1〜5ng/ml、約1〜3ng/ml、約0.75〜2ng/ml、または約0.5〜1ng/mlである。
【0135】
血液または血漿中のsFlt−1の濃度は、連続的にまたは所定の間隔で自動的に測定することができる。例えば、対象由来の血漿試料は、sFlt−1またはsFlt−1を含む粒子に結合する標識化試薬と反応させることができ、sFlt−1の量が測定できる。代替として、sFlt−1(sFlt−1を含む粒子を含む)に特異的に結合するリンカー試薬を含むセンサが、結合したsFlt−1の量を連続的に検出するために使用されてもよい。血液濾過の手順は、対象からの血液または血漿中で検出されるsFlt−1の濃度が所定値を下回ったときに終了する。
【実施例】
【0136】
実施例1
抗sFlt−1抗体またはリガンドが結合した固体支持体を含むカラムデバイスを使用したヒト羊水からのsFlt−1の除去
実験条件は、臨床設定における使用に近いものとなるように設計したが、それよりも小規模である。約40ng/mlの高いsFlt−1レベルを有するヒト子癇前症患者から羊水を得た。
【0137】
ヒト第VIII因子に対するポリクローナル抗体を使用した対照カラム1本を除いて、使用した抗体は全てsFlt−1に結合するマウスモノクローナル抗体であった。アミノ酸Ser27〜Ile328を含むヒトsFlt−1タンパク質(Ig様ドメイン1〜3)でマウスを免疫することにより、抗sFlt−1モノクローナル抗体を作製した。このタンパク質はまた、カルボキシ末端にポリ‐ヒスチジン親和性タグを有していた。sFlt−1に結合した12個の抗体を選択し、sFlt−1に対する結合親和性について検査した。
【0138】
抗sFlt−1抗体を固相(アガロースビーズ)に付着させることにより、生体液からsFlt−1タンパク質を除去するためのデバイスを作製した。アガロースビーズを臭化シアンで化学処理してビーズ上に反応性化学基を作製した。次いで、これらの活性化ビーズを抗体と混合し、該抗体をビーズに共有結合的に付着させた。
【0139】
次いで、スクリーン/フリットを底に含む1mlカラムに、抗体の付着したビーズを注入し、カラム内にビーズを保持するが、流体または溶液はカラムを通過させる、。ビーズに付着した抗sFlt−1抗体を含む得られたデバイスに、子癇前症患者からの羊水をデバイスの上部に加え、デバイスを通ってカラムから流れ出た溶液を回収した。デバイスを通過させる前および後の羊水中のsFlt−1の量を測定し、枯渇したsFlt−1の割合(%)を計算した。
【0140】
さらなる詳細は以下の通りである:
【0141】
(1)抗sFlt−1抗体に結合した0.1mlのアガロースビーズを1mlカラムに加えた。
【0142】
(2)500μgの抗体をアガロースビーズに結合させた。
【0143】
(3)4mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)でカラムを洗浄した。
【0144】
(4)子癇前症患者からの羊水1ml(約40ngのsFlt−1タンパク質を含む)をカラムの上部に加えた。
【0145】
(5)約1ml/15分の流速でカラム上に羊水を流した(21〜24℃)。
【0146】
(6)羊水を回収し、再度、デバイスに2回適用し、合計で3回カラムを通過させた。
【0147】
(7)3回目にカラムを通過させた後、フロースルー液を回収し、sFlt−1の濃度を検査した。
【0148】
(8)4mlの緩衝液でデバイスを洗浄し、ビーズ/カラムに非特異的に結合したあらゆる材料を除去した。次いで、0.5mlの0.5M酢酸(pH3.0)をデバイスに加え、結合したsFlt−1をデバイスから分離した。溶出液の画分を回収し、sFlt−1の濃度を測定して何らかの変化があったかどうかを判定した。
【0149】
sFlt−1に対する親和性および羊水から除去されたsFlt−1の割合(%)を含む例示的な抗体についての結果を下の表2に示す。
【0150】
【表2】
【0151】
VEGF121を用いて同様の方法を使用した。細菌中にVEGF121を発現させ、カラムクロマトグラフィーにより精製し、臭化シアンで活性化したアガロースビーズに結合させた。その他の点においては、アガロースビーズに結合したVEGF121を含むカラムに羊水を適用するための手順は、抗体の場合と実質的に同じであった。
【0152】
抗sFlt−1抗体およびVEGF121についての結果を図2に示す。
【0153】
この結果は、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体およびsFlt−1リガンドが、子癇前症患者の羊水からsFlt−1を特異的に除去することができたことを示す。抗体またはリガンドが付着していない、マトリクス/ビーズのみを含む対照カラムデバイスは、羊水からsFlt−1タンパク質を除去しなかった。血液凝固因子VIIIに結合する抗体を含む対照カラムデバイスも、sFlt−1を除去しなかった。しかしながら、sFlt−1に結合する抗体またはリガンドがカラム内に使用されたときに、フロースルー羊水のsFlt−1タンパク質レベルが87%まで低下した。個々の抗体がsFlt−1を除去する際にどれくらい効果的であるかにおいて有意な変動が観察された(11〜87%)。精製モノクローナル抗体とsFlt1との間の結合の見かけのKdを表面プラズモン共鳴法(SPR)により測定した(図2B)。抗体を固相に固定化し、sFlt−1(ドメイン1〜3)は液相中にあった。抗体親和性(動力学的な結合実験にて測定)(図2B)とデバイスの有効性(図2A)との間に直接的な相関関係は認められなかった。また、オン速度またはオフ速度とデバイスの有効性との間にも相関関係は認められなかった。これらの結果は、子癇前症を含む妊娠関連高血圧性障害を治療するために、固体支持体に結合した抗sFlt−1抗体を含むデバイスを使用することができることを示す。
【0154】
実施例2
キメラ化
マウス可変領域およびヒトIgG1定常領域を有するキメラモノクローナル抗体を生成した。キメラ抗体のいくつかの変種を生成した。抗体AG10A(V:配列番号35、V:配列番号36)は、抗体102の重鎖および軽鎖可変ドメインとヒトIgG1定常領域とからなる。抗体AG10B(V:配列番号37、V:配列番号36)には、定常領域のグリコシル化部位を除去する突然変異(N298Q)が組み込まれている。抗体AG10C(V:配列番号38、V:配列番号36)にはFcRnとの結合を妨害する突然変異(I254A)が組み込まれている。抗体AG10D(V:配列番号39、V:配列番号36)には上述の突然変異が両方とも組み込まれている。
【0155】
実施例3
固定化された抗体AG10Bの特徴
抗体AG10BのsFlt−1枯渇特性に関する種々の検査を行った。
【0156】
流速―40ng/mLのsFlt1(インプット)を添加した40床体積のウマ血清を、AG10Bモノクローナル抗体(0.8mg)に結合した充填セファロースビーズ1mLを含むカラムに適用し、フロースルー画分(FT)を回収した。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用して、インプット中のsFlt1およびFT画分の濃度を測定した。式、sFlt1の枯渇の割合(%)=[(sFlt1インプット−sFlt1FT)/sFlt1インプット]を用いてsFlt1の枯渇の割合(%)を計算した。流速によるsFlt−1の枯渇の変動を表3および図4に示す。
【0157】
【表3】
【0158】
線流速―40ng/mLのsFlt1(インプット)を添加した40床体積のウマ血清を、AG10Bモノクローナル抗体(0.8mg)に結合したセファロースビーズ1mLを含むカラムに適用し、フロースルー画分(FT)を回収した。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用して、インプット中のsFlt1およびFT画分の濃度を測定した。式、sFlt1の枯渇の割合(%)=[(sFlt1インプット−sFlt1FT)/sFlt1インプット]を用いてsFlt1の枯渇の割合(%)を計算した。線流速によるsFlt−1の枯渇の変動を表4および図5に示す。
【0159】
【表4】
【0160】
滞留時間―40ng/mLのsFlt1(インプット)を添加した40床体積のウマ血清を、AG10Bモノクローナル抗体(0.8mg)に結合したセファロースビーズ1mLを含むカラムに適用し、フロースルー画分(FT)を回収した。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用して、インプット中のsFlt1およびFT画分の濃度を測定した。式、sFlt1の枯渇の割合(%)=[(sFlt1インプット−sFlt1FT)/sFlt1インプット]を用いてsFlt1の枯渇の割合(%)を計算した。カラム滞留時間によるsFlt−1の枯渇の変動を表5および図6に示す。
【0161】
【表5】
【0162】
モノクローナルAb密度―組換えsFlt1を添加したウマ血清を、種々の量のAG10Bに結合さたセファロースビーズ(約1.5×10ビーズ/ml)を含む1-mLカラム上に流速0.5mL/分(滞留時間2分)で適用した。
【0163】
1ml当たり0.8mgのAb(約3.2×1015個の分子)の場合、これはビーズ1個当たり約2.1×10個の分子に相当する。同様に、0.4mgのAb(1.6×1015個の分子)では、1ビーズ当たり約1.05×10個の分子が存在する。ビーズの表面積が2.5×10−4cmであると仮定すると、ビーズ1mL当たり0.8mgのAbは、ビーズ表面積1cm(細孔を含まない)当たり約8.4×E12個のAb分子に相当する。sFlt1の枯渇量をsFlt1インプット合計で除すことによりsFlt1の枯渇の割合(%)を測定した。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用してsFlt1の濃度を測定した。MAb密度によるsFlt−1の枯渇の変動を表6および図7に示す。
【0164】
【表6】
【0165】
血漿および血清からのsFlt−1の枯渇
組換えsFlt1を添加した正常なヒト血漿を、AG10BまたはErbituxに結合したセファロースビーズを含有する0.1mLカラム上に適用した。広範囲のAb:リガンド比について枯渇の割合(%)を測定した。AG10B:sFlt1比が200:1未満のときにカラム能力の低下が生じる(図8)。滞留時間および流速が変数になるように重力によりカラム操作を行った。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)によりsFlt1の量を測定した。
【0166】
組換えsFlt1を添加したウマ血清を、AG10Bに結合したセファロースビーズを含む1-mLカラム上に適用した。様々な範囲のMAb:リガンド比について枯渇の割合(%)を測定した。AG10B:sFlt1比が25:1未満のときにカラム能力の低下が生じる(図9)。滞留時間1分で1mL/分のカラム操作を行った。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)によりsFlt1の量を測定した。
【0167】
AG10BによるsFlt−1の枯渇は、カラムサイズによって変動しない。40床体積の40ng/mLのsFlt1を添加したウマ血清を、AG10Bモノクローナル抗体(それぞれ、0.8mgまたは40mg)に結合したセファロースビーズを含む1-mLまたは50-mLカラムのいずれかに滞留時間2分で適用し、フロースルー画分(FT)を回収した。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用して、インプット中のsFlt1およびFT画分の濃度を測定した。式、sFlt1の枯渇の割合(%)=[(sFlt1インプット−sFlt1FT)/sFlt1インプット]を用いてsFlt1の枯渇の割合(%)を計算した。図10は、1mLおよび50mL両方のデバイスカラムが血清中のsFlt1タンパク質のほぼ全てを枯渇させることができることを示す。
【0168】
ヘパリンは、AG10BによるsFlt−1の枯渇に干渉しない。0.45Uのヘパリンを含むかまたは含まない組換えsFlt1を含むウマ血清を、AG10Bに結合したセファロースビーズを含む0.1-mLカラム上に適用した。AG10Bを含むカラムに流通させる前(負荷)および後(FT)に、sFlt1レベルについて試料をアッセイした。R&D Flt−1 DuoSetキット(DY321)を使用してsFlt1レベルをアッセイした(表7、図11)。
【0169】
【表7】
【0170】
sFlt−1に結合したAG10Bは、sFlt−1とVEGFとの結合をブロックしない。図12に示すように、sFlt1またはVEGFのいずれかでELISAプレートを被覆した。洗浄後、sFlt−1で被覆されたウェルにはPBSを加え、VEGFで被覆されたウェルにはPBSまたはsFlt1のいずれかを加えた。洗浄後、sFlt−1に結合した固定化VEGFを含むウェルにはAG10Bまたは18F1(sFlt1−VEGF相互作用をブロックする抗体)を加え、PBSで被覆されたウェルには、AG10Bと事前に複合体化したsFlt1、または18F1と事前に複合体化したsFlt1を加えた。図12に示されるように、AG10Bは、sFlt1およびsFlt1/VEGF複合体に結合する。事前に複合体化したsFlt1/AG10BもVEGFに結合する。対照的に、ブロッキング抗体である18F1はsFlt1/VEGF複合体に結合しない。同様に、18F1のsFlt1への添加は、VEGFおよびsFlt1の相互作用を防止する。
【0171】
補体活性化―ビーズに結合されたAG10Bは、ビーズ単独の場合と同じ程度にしか補体を活性しない(図13)。精製モノクローナル抗体AG10Bに結合したセファロースビーズを含む0.1-mLカラム、または抗体を含まない陰性対照カラム(PBS(pH7.4)、ビーズ)に、精製sFlt1を添加したヒト血漿を適用した。試料を37℃まで加熱し、製造者の指示に従ってQuidel MicroVue C3a Plus EIAキットを使用して、補体活性化産物C3aについてアッセイした。キット内に提供されるC3a標準物質を使用して、血漿画分中のC3a濃度を測定するために使用される標準曲線を作成した。
【0172】
AG10Bは、sFlt−1のd1〜d3ドメインのエピトープに結合する。表8は、AG10Bが、PE患者の羊水(AF)中に存在する天然sFlt1の形態、およびsFlt1の2つの組換え形態(d1〜d3ドメインまたは完全長)のエピトープに結合することを示す。sFlt1上の結合部位についてVEGFと競合するブロッキング抗体18F1は、VEGFの存在下においてsFlt1(d1−d3)に効率的に結合することができない。508抗体はsFlt1(d1〜d3)に結合することはできないが、AF中の天然sFlt1アイソフォームに結合することができることから、sFlt1上の結合エピトープがd1〜d3ドメインの外部に位置する可能性が示唆される。陰性対照抗体Ebxは、sFlt1の天然形態または組換え形態に結合することはできない。
【0173】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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