特許第6169503号(P6169503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169503
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】EGR弁制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 21/08 20060101AFI20170713BHJP
   F02M 26/00 20160101ALI20170713BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20170713BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   F02D21/08 301C
   F02M26/00 311
   F02M26/05
   F02D41/02 380E
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-19161(P2014-19161)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-145649(P2015-145649A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中野 平
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝治
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−280199(JP,A)
【文献】 特開平09−228899(JP,A)
【文献】 特開2012−136993(JP,A)
【文献】 特開2013−019389(JP,A)
【文献】 特開平10−089093(JP,A)
【文献】 特開2001−164967(JP,A)
【文献】 特開2004−036413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02D 41/02
F02M 26/00
F02M 26/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気量の目標値である目標空気量と前記吸入空気量の実測値である実吸入空気量との偏差から演算される比例項に基づいてEGR弁の開度をフィードバック制御するEGR弁制御装置であって、
エンジン回転速度、アクセル開度、及び、前記実吸入空気量を取得する取得部と、
前記エンジン回転速度と前記アクセル開度とに基づき前記目標空気量を演算する目標空気量演算部と、
前記エンジン回転速度と前記アクセル開度とに基づく燃料噴射量である基本噴射量と、前記実吸入空気量に対する黒煙限界の燃料噴射量である煙限界噴射量とのうちの小さい燃料噴射量を目標噴射量として選択する目標噴射量選択部と、
前記煙限界噴射量に対する前記目標噴射量の比率が大きいほど、前記EGR弁の閉弁方向への操作量が前記比例項に基づく操作量よりも大きくなるように、前記比例項を補正する補正値を前記比率に基づいて演算する補正値演算部と、を備える
EGR弁制御装置。
【請求項2】
前記補正値演算部は、前記比率が閾値よりも大きい場合に前記補正値を演算し、前記比率が前記閾値以下である場合には前記EGR弁の閉弁方向への操作量が前記比例項に基づく操作量に追従するように一定の値を出力する
請求項1記載のEGR弁制御装置。
【請求項3】
前記補正値演算部は、前記比率に正比例するように前記補正値を演算する
請求項2に記載のEGR弁制御装置。
【請求項4】
前記補正値演算部は、
前記閾値と前記比率毎の前記補正値とが前記エンジン回転速度毎に規定された補正データを用いて、前記エンジン回転速度及び前記比率に応じた前記補正値を演算し、
前記エンジン回転速度が大きいほど前記閾値が小さく、且つ、前記エンジン回転速度が大きいほど同じ値の前記比率に規定された前記補正値が大きい
請求項2または3に記載のEGR弁制御装置。
【請求項5】
前記補正値演算部は、前記比例項に加算される値を前記補正値として演算する
請求項1〜4のいずれか一項に記載のEGR弁制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、EGR弁の開度を制御するEGR弁制御装置であって、ディーゼルエンジンに搭載されるEGR弁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジンには、排気ガスに含まれるNOxを低減させるべく、排気ガスの一部を吸気通路に導入する排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)装置が搭載されている(例えば、特許文献1を参照)。EGR装置は、排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路にEGR弁を備え、EGR弁の開度の制御によって吸気通路へのEGRガスの導入量を調整する。EGR弁の開度を制御するEGR弁制御装置は、例えば、エンジン回転速度及びアクセル開度に基づく吸入空気の目標値である目標空気量と、吸入空気の実測値である実吸入空気量との偏差に基づくフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−332879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ディーゼルエンジンでは、黒煙の発生しにくいときに吸入空気の導入量が多くなるとNOx量が多くなる一方で、黒煙の発生しやすいときにEGRガスの導入量が多くなると黒煙が発生しやすくなる。
【0005】
本開示の技術は、吸入空気の増加にともなうNOx量の増加とEGRガスの増加にともなう黒煙の発生とを抑えるEGR弁制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するEGR弁制御装置は、吸入空気量の目標値である目標空気量と前記吸入空気量の実測値である実吸入空気量との偏差から演算される比例項に基づいてEGR弁の開度をフィードバック制御するEGR弁制御装置であって、エンジン回転速度、アクセル開度、及び、前記実吸入空気量を取得する取得部と、前記エンジン回転速度と前記アクセル開度とに基づき前記目標空気量を演算する目標空気量演算部と、前記エンジン回転速度と前記アクセル開度とに基づく燃料噴射量である基本噴射量と、前記実吸入空気量に対する黒煙限界の燃料噴射量である煙限界噴射量とのうちの小さい燃料噴射量を目標噴射量として選択する目標噴射量選択部と、前記煙限界噴射量に対する前記目標噴射量の比率が大きいほど、前記EGR弁の閉弁方向への操作量が前記比例項に基づく操作量よりも大きくなるように、前記比例項を補正する補正値を前記比率に基づいて演算する補正値演算部と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、上記比率が大きいときほど目標噴射量が煙限界噴射量に近づくことから、当該比率が大きいほど黒煙が発生しやすい。そして、上記比率が大きいほど、すなわち黒煙が発生しやすいときほど、EGR弁の閉弁方向への操作量が大きくなるようにEGR弁の開度が補正され、目標空気量に対する実吸入空気量の追従性が高まる。その結果、黒煙の発生しにくいときにはEGRガスの導入を優先させ、黒煙の発生しやすいときには吸入空気の導入を優先させることができる。それゆえに、吸入空気の増加にともなうNOx量の増加と、EGRガスの増加にともなう黒煙の発生とを抑えることができる。
【0008】
上記EGR弁制御装置において、前記補正値演算部は、前記比率が閾値よりも大きい場合に前記補正値を演算し、前記比率が前記閾値以下である場合に前記EGR弁の閉弁方向への操作量が前記比例項に基づく操作量に追従するように一定の値を出力することが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、比率が閾値よりも大きいときにだけ比例項が補正されることから、比率が閾値以下のときには比例項が補正されることなくフィードバック制御が行われる。その結果、比例項の補正頻度を少なくすることができる。
【0010】
上記EGR弁制御装置において、前記補正値演算部は、前記比率に正比例する値を前記補正値として演算することが好ましい。
上記構成のように、比率が閾値よりも大きい範囲では比率の増加分に対し補正値の増加分が一定であるため、上述した効果を得るための演算に要する構成の簡素化が図られる。
【0011】
上記EGR弁制御装置において、前記補正値演算部は、前記閾値と前記比率毎の前記補正値とが前記エンジン回転速度毎に規定された補正データを用いて、前記エンジン回転速度及び前記比率に応じた前記補正値を演算し、前記エンジン回転速度が大きいほど前記閾値が小さく、且つ、前記エンジン回転速度が大きいほど同じ値の前記比率に規定された前記補正値が大きいことが好ましい。
【0012】
エンジンに供給可能な吸入空気はエンジン回転速度が大きいほど多くなることから、煙限界噴射量もエンジン回転速度が大きいほど多くなる傾向にある。そのため、たとえ比率が同じであったとしてもエンジン回転速度が大きいほど目標噴射量が多くなり、これにともない黒煙も発生しやすくなる。上記構成によれば、エンジン回転速度が大きいほど、閾値には小さい比率が設定されているとともに同じ比率に対して大きな補正値が設定されている。すなわち、エンジン回転速度と比率とに基づく黒煙の発生しやすさに応じて実吸入空気量の追従性が高められる。その結果、黒煙の発生をより確実に抑えることができる。
【0013】
上記EGR弁制御装置において、前記補正値演算部は、前記比例項に加算される値を前記補正値として演算することが好ましい。
上記構成によれば、比例項に対する補正量を比例項の値に関係なく設定することが可能であるため、比例項の補正量に関する自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の技術におけるEGR弁制御装置を具体化した一実施形態の概略構成を、EGR弁制御装置が搭載されるエンジンとともに示す概略構成図。
図2】EGR弁制御装置の構成を示す機能ブロック図。
図3】補正データの一例を模式的に示すグラフ。
図4】開度制御処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図4を参照して、本開示におけるEGR弁制御装置を具体化した一実施形態について説明する。まず、EGR弁制御装置が搭載されるディーゼルエンジンの全体構成について、図1を参照して説明する。
【0016】
図1に示されるように、ディーゼルエンジン10(以下、単にエンジン10という。)のシリンダーブロック11には、一列に並んだ4つのシリンダー12が形成され、各シリンダー12には、インジェクター13から燃料が噴射される。シリンダーブロック11には、各シリンダー12に作動ガスを供給するインテークマニホールド14と、各シリンダー12からの排気ガスが流入するエキゾーストマニホールド15とが接続されている。
【0017】
インテークマニホールド14に取り付けられる吸気通路16の上流端には、図示されないエアクリーナーが取り付けられている。吸気通路16には、ターボチャージャー17のコンプレッサー18が取り付けられている。吸気通路16には、コンプレッサー18の下流側に、該コンプレッサー18によって圧縮された吸入空気を冷却するインタークーラー19が取り付けられている。
【0018】
一方、エキゾーストマニホールド15には、排気通路20が接続されている。排気通路20には、上述したコンプレッサー18に連結されるタービン21が取り付けられている。また、エキゾーストマニホールド15には、吸気通路16に接続されて排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路16に導入するEGR通路22が接続されている。
【0019】
EGR通路22には、EGR通路22を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラー23が取り付けられている。EGRクーラー23の下流側には、ステッピングモーターを備えてEGR通路22の流路断面積を変更可能なEGR弁24が取り付けられている。吸気通路16には、EGR弁24が開状態にあるときにEGR通路22を通じてEGRガスが導入される。EGR弁24の開度は、EGR弁制御装置である制御装置30によって制御される。シリンダー12には、EGRガスと吸入空気との混合気体である作動ガスが供給される。
【0020】
制御装置30は、エンジン10の運転状態に関する情報を取得する取得部として、各種センサーからの検出信号に基づいて各種情報を取得する。例えば、制御装置30には、吸気通路16におけるコンプレッサー18の上流側に取り付けられた吸入空気量センサー31から吸気通路16を流れる吸入空気の質量流量である実吸入空気量QAaが所定の制御周期で入力される。制御装置30には、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサー32からエンジン回転速度Neを示す検出信号が所定の制御周期で入力される。制御装置30には、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサー33からアクセル開度Accを示す検出信号が所定の制御周期で入力される。制御装置30には、EGR弁24の開度を検出する弁開度センサー34からEGR弁24の開度である弁開度VTaを示す検出信号が所定の制御周期で入力される。制御装置30は、各センサー31〜34からの検出信号に基づいて、実吸入空気量QAa、エンジン回転速度Ne、アクセル開度Acc、及び、弁開度VTaを取得する。そして、制御装置30は、取得した各種情報に基づいて、吸入空気量の目標値である目標空気量tQAを演算し、その目標空気量tQAと実吸入空気量QAaとの偏差ΔQAに基づくフィードバック制御によりEGR弁24の開度を制御する。
【0021】
図2図4を参照して、制御装置30の構成についてさらに詳しく説明する。
図2に示されるように、制御装置30は、中央処理装置(CPU)、不揮発性メモリー(ROM)、及び揮発性メモリー(RAM)を有するマイクロコンピューターを中心に構成されている。制御装置30の制御部35は、各種演算を行なう演算部36と、各種制御プログラムや各種データが格納される記憶部37と、を備えている。また、制御装置30は、インジェクター13を駆動するインジェクター駆動部38と、EGR弁24を駆動する弁駆動部39と、を備えている。制御部35は、記憶部37に格納された各種制御プログラムや各種データに基づいてEGR弁24の開度を制御する開度制御処理を実行する。
【0022】
演算部36は、煙限界噴射量QFsmを演算する煙限界噴射量演算部40を備えている。煙限界噴射量QFsmは、実吸入空気量QAa毎に設定された黒煙限界の燃料噴射量であって、当該煙限界噴射量QFsmの燃料と実吸入空気量QAaの空気との混合気を燃焼させた場合に、黒煙の発生が抑えられる、あるいは、黒煙の発生量が許容範囲に収まる燃料噴射量である。煙限界噴射量演算部40は、実吸入空気量QAaに基づいて当該実吸入空気量QAaに応じた煙限界噴射量QFsmを演算する。
【0023】
演算部36は、基本噴射量QFstを演算する基本噴射量演算部41を備えている。基本噴射量演算部41は、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accとに基づいて基本噴射量QFstを演算する。
【0024】
演算部36は、燃料噴射量の目標値である目標噴射量tQFを演算する目標噴射量選択部42を備えている。目標噴射量選択部42は、煙限界噴射量QFsm及び基本噴射量QFstのうちで少ない方の噴射量を目標噴射量tQFとして選択する。すなわち、目標噴射量選択部42は、煙限界噴射量QFsmよりも基本噴射量QFstが大きければ煙限界噴射量QFsmを目標噴射量tQFとして選択し、煙限界噴射量QFsmよりも基本噴射量QFstが小さければ基本噴射量QFstを目標噴射量tQFとして選択する。
【0025】
なお、制御部35は、目標噴射量選択部42の演算結果である目標噴射量tQFをインジェクター駆動部38に出力する。インジェクター駆動部38は、目標噴射量tQFの分だけの燃料をインジェクター13から噴射させるための駆動信号を生成し、その生成した駆動信号をインジェクター13に出力する。
【0026】
演算部36は、EGR弁24の基本開度VTstを演算する基本開度演算部43を備えている。基本開度演算部43は、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accとに基づいてEGR弁24の基本開度VTstを演算する。
【0027】
演算部36は、実吸入空気量QAaの目標値である目標空気量tQAを演算する目標空気量演算部44を備えている。目標空気量演算部44は、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accに基づいて目標空気量tQAを演算する。
【0028】
演算部36は、フィードバック制御の比例動作に用いる比例項Pを演算する比例項演算部45を備えている。比例項演算部45は、目標空気量tQAと実吸入空気量QAaとの偏差ΔQAを演算し、その偏差ΔQAに対して予め定めた比例ゲインKpを乗算することにより比例項P(=Kp×ΔQA)を演算する。
【0029】
こうした偏差ΔQAに基づくフィードバック制御では、EGR弁24の操作量は比例項Pに大きく依存する。そのため、比例ゲインKpを大きくすれば目標空気量tQAに対して実吸入空気量QAaが追従しやすくなり、反対に、比例ゲインKpを小さくすれば目標空気量tQAに対して実吸入空気量QAaが追従しにくくなる。以下では、目標空気量tQAに対して実吸入空気量QAaが追従しやすいことを追従性が高いと表現し、反対に、目標空気量tQAに対して実吸入空気量QAaが追従しにくいことを追従性が低いと表現する。なお、詳しくは後述するが、本実施形態では、比例ゲインKpには追従性の低い値の比例ゲインが設定されている。
【0030】
演算部36は、フィードバック制御の積分動作に用いる積分項Iを演算する積分項演算部46を備えている。積分項演算部46は、目標空気量tQAと実吸入空気量QAaとの偏差ΔQAを演算し、その演算した偏差ΔQAの積分値に対して予め定めた積分ゲインKiを乗算することにより積分項Iを演算する。
【0031】
演算部36は、上記比例項Pを補正する補正値Cを演算する補正値演算部47を備えている。補正値演算部47は、煙限界噴射量QFsm、目標噴射量tQF、エンジン回転速度Ne、及び、記憶部37に格納された補正データ48に基づいて補正値Cを演算する。
【0032】
補正値演算部47は、煙限界噴射量QFsmに対する目標噴射量tQFの比率R(=tQF/QFsm)を演算する。比率Rは、1に近いほど目標噴射量tQFが煙限界噴射量QFsmに近い値であること、すなわち黒煙が発生しやすいことを示す。補正値演算部47は、記憶部37に格納した補正データ48から上記比率Rとエンジン回転速度Neとに応じた値を選択することにより補正値Cを演算する。
【0033】
図3に示されるように、補正データ48には、予め行ったシミュレーションや実験結果に基づいて、比率Rに応じた補正値Cがエンジン回転速度Ne毎に規定されている。補正データ48には、エンジン回転速度Ne毎に比率Rの閾値Rthが設定されている。この閾値Rthには、エンジン回転速度Neが大きくなるほど低い比率Rが設定されている。そして、閾値Rth以下の範囲には、比率Rに対して一定である値が補正値Cとして規定され、閾値Rthよりも大きい範囲には、閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正する補正値Cが規定されている。すなわち、制御装置30は、比率Rが閾値Rth以下のときには比率Rに基づく比例項Pの補正を実行せず、比率Rが閾値Rthよりも大きいときに比率Rに基づく比例項Pの補正を実行する。後述するように、本実施形態では、比例項Pの補正が補正値Cの加算により行われる。そのため、閾値Rth以下の範囲には、補正値Cとして「0」が規定されている。
【0034】
また、補正データ48には、比率Rが同じであれば、エンジン回転速度Neが大きいほど、閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正する補正値Cが規定されている。補正データ48には、エンジン回転速度Neが同じであれば、比率Rが大きくなるほど、閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正する補正値Cが規定されている。つまり、補正データ48には、エンジン回転速度Neが大きく、且つ、比率Rが大きいほど、閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正する補正値C、すなわち目標空気量tQAに対する実吸入空気量QAaの追従性を高める補正値Cが規定されている。すなわち、補正データ48には、エンジン回転速度Ne毎に、閾値Rthと比例項Pをそのまま用いる補正値Cとで規定される点を原点として比率Rに正比例するような補正値Cが規定されている。
【0035】
例えば、Ne=2000rpmに対応する補正値Cは、閾値Rthに比率R1が設定され、比率R1以下の範囲には補正値C=0が設定されている。また、比率R1より大きい範囲には、比率R=1に対応する補正値C1を最大値として単調増加する補正値Cが設定されている。同様に、Ne=1500rpmに対応する補正値Cは、閾値Rthに比率R2(>R1)が設定され、比率R2より大きい範囲には、補正値C2(<C1)を最大値として単調増加する補正値Cが設定されている。また、Ne=1000rpmに対応する補正値Cは、閾値Rthに比率R3(>R2)が設定され、比率R3より大きい範囲には、補正値C3(<C2)を最大値として単調増加する補正値Cが設定されている。
【0036】
演算部36は、EGR弁24の開度の目標値である目標開度tVTを演算する目標開度演算部49を備える。目標開度演算部49は、上記各演算部の演算結果である基本開度VTst、比例項P、積分項I、及び補正値Cを加算することにより目標開度tVTを演算する。すなわち、目標開度演算部49は、以下のようにして目標開度tVTを演算する。
目標開度tVT=基本開度VTst+比例項P+補正値C+積分項I
【0037】
演算部36は、EGR弁24の開度を現在の開度である弁開度VTaから目標開度tVTに変更するために必要な開度である指示開度VTcomを演算する指示開度演算部50を備えている。指示開度演算部50は、目標開度tVTと弁開度VTaとの差分に基づいて指示開度VTcomを演算する。
【0038】
そして、制御部35は、指示開度演算部50の演算結果である指示開度VTcomを示す制御信号を弁駆動部39に出力する。弁駆動部39は、EGR弁24の開度が目標開度tVTになるように指示開度VTcomの分だけEGR弁24の開度を変更するための駆動信号を生成し、その生成した駆動信号をEGR弁24に出力する。
【0039】
図4を参照して、制御装置30が実行する開度制御処理の処理手順の一例について説明する。なお、開度制御処理は、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
図4に示されるように、最初のステップS11において、制御装置30は、各種情報、すなわちエンジン回転速度Ne、実吸入空気量QAa、アクセル開度Acc、及び、弁開度VTaを取得する。
【0040】
次のステップS12において、制御装置30は、実吸入空気量QAaに応じた煙限界噴射量QFsmを演算するとともに、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accとに基づいて基本噴射量QFst及び目標空気量tQAを演算する。
【0041】
次のステップS13において、制御装置30は、煙限界噴射量QFsmと基本噴射量QFstとのうちで小さい燃料噴射量を目標噴射量tQFとして演算する。
次のステップS14において、制御装置30は、エンジン回転速度Neとアクセル開度Accとに基づいてEGR弁24の基本開度VTstを演算するとともに、目標空気量tQAと実吸入空気量QAaとの偏差ΔQAに基づいて比例項P及び積分項Iを演算する。また、制御装置30は、煙限界噴射量QFsmに対する目標噴射量tQFの比率R、エンジン回転速度Ne、及び、補正データ48に基づいて補正値Cを演算する。
【0042】
次のステップS15において、制御装置30は、基本開度VTst、比例項P、補正値C、及び、積分項Iを加算することによって目標開度tVTを演算し、目標開度tVTと弁開度VTaとに基づく指示開度VTcomを演算する。そして、制御装置30は、指示開度VTcomに応じた駆動信号をEGR弁24に供給することでEGR弁24を駆動する(ステップS16)。これにより、EGR弁24が目標開度tVTに制御された状態でインジェクター13から目標噴射量tQFだけの燃料が噴射される。
【0043】
次に、上述した制御装置30の作用について説明する。
上記構成の制御装置30では、比例ゲインKpに、目標空気量tQAに対する実吸入空気量QAaの追従性の低い比例ゲインが設定されている。そして、制御装置30は、エンジン回転速度Neと比率Rとに基づいて、黒煙の発生しにくいときには上記追従性を低い状態に維持し、黒煙の発生しやすいときにはEGR弁24の閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正値Cで補正することで追従性を高くする。
【0044】
こうした構成によれば、エンジン10の運転状態が黒煙の発生しにくい定常状態や加速の緩やかな緩加速状態である場合にはEGRガスの導入が優先され、エンジン10の運転状態が黒煙の発生しやすい急加速状態である場合には吸入空気の導入が優先される。そして、急加速状態では、実吸入空気量QAaの追従性が高まることで目標噴射量tQFの増加率も高まることから、黒煙の発生を抑えつつエンジン10の加速性が高められる。
【0045】
また、シリンダー12に供給可能な吸入空気はエンジン回転速度Neが大きいほど増加するため、煙限界噴射量QFsmもエンジン回転速度Neが大きいほど増加する傾向にある。そのため、比率Rが同じであってもエンジン回転速度Neが大きいほど黒煙が発生しやすくなる。この点、上記構成によれば、補正データ48には、同じ比率Rに対し、エンジン回転速度Neが大きいほど閉弁方向への操作量が大きくなるように比例項Pを補正する補正値Cが規定されている。そのため、たとえ比率Rが同じであっても黒煙が発生しやすいエンジン回転速度Neであるときほど追従性が高められることから、黒煙の発生がより確実に抑えられる。
【0046】
ここで、制御装置30は、黒煙の発生しやすいときの追従性を黒煙の発生しにくいときよりも高めるうえでは、比例ゲインKpに追従性の高い比例ゲインが設定され、黒煙が発生しにくいときに比例項Pに基づく操作量が小さくなるように比例項Pを補正値Cで補正してもよい。しかしながら、こうした方法では、定常状態や緩加速状態といった黒煙の発生しにくい状態は急加速状態といった黒煙の発生しやすい状態よりも頻度が高いため、比例項Pの補正頻度が多くなる。また、これに加えて、何らかの原因によって比例項Pの補正を行わなくなったときには、実吸入空気量QAaの追従性が高い状態が維持されることで頻度の高い定常状態や緩加速状態における実吸入空気量QAaが多くなってNOx量が増加してしまう。この点、上記構成によれば、比例項Pの補正頻度が低減されることで補正値Cの選定に要する労力が軽減されるとともに、比例項Pの補正が行われなくなったとしても定常状態や緩加速状態にNOx量が増加することもない。
【0047】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)黒煙の発生しにくいときにはEGRガスの導入が優先され、黒煙の発生しやすいときには吸入空気の導入が優先される。それゆえに、吸入空気の増加にともなうNOx量の増加と、EGRガスの増加にともなう黒煙の発生とを抑えることができる。
【0048】
(2)黒煙の発生を抑えつつ、急加速状態における加速性を高めることができる。
(3)黒煙の発生しやすいときに比例項Pの補正が行われることで、比例項Pの補正頻度が抑えられる。
【0049】
(4)また、比例項Pの補正が行われなくなったとしても、黒煙の発生しにくいときにNOxが増加することもない。
(5)比率Rが大きいほど補正値Cが大きいことから、黒煙が発生しやすいときほど吸入空気の導入が優先される。
【0050】
(6)同じ比率Rであってもエンジン回転速度Neが大きいほど閉弁方向への操作量が大きくなる補正値Cが設定されることで、黒煙の発生をより確実に抑えることができる。
(7)例えば、比例項Pに対する補正を比例項Pに対する補正値Cの乗算で行う場合、比例項Pの補正量は補正前の比例項Pの大きさに依存する。この点、制御装置30では、比例項Pに対する補正を補正値Cの加算により行っていることから、比例項Pと当該比例項Pに対する補正量とを独立して設定することが可能である。すなわち、比例項Pの大きさに関わらず、比例項Pの補正量を設定することが可能である。その結果、比例項Pの補正量に関する自由度が向上する。
【0051】
なお、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記実施形態において、閾値Rthは、エンジン回転速度Neに関わらず一定の値であってもよい。こうした構成において閾値Rthに設定される比率Rは、エンジン回転速度Neの大きい場合に設定される閾値Rthを基準に設定されることが好ましい。
【0052】
・上記実施形態において、補正値Cは、エンジン回転速度Neに関わらず、同じ比率Rに対して同じ値が設定されてもよい。すなわち、比率Rの各々に対して1つの補正値Cが一義的に設定されてもよい。
【0053】
・上記実施形態において、閾値Rthが設定されることなく、全ての比率Rにおいて比例項Pの補正が行われてもよい。こうした構成においては、比率Rが小さくなるほど比例項Pが小さくなるような補正値Cが設定されることが好ましい。
【0054】
・上記実施形態において、閾値Rthよりも大きな比率Rに対応付けられる補正値Cは一定の値であってもよい。この際、エンジン回転速度Ne毎に補正値Cが設定される場合には、エンジン回転速度Neが大きいほど大きな補正値Cであることが好ましい。
【0055】
・上記実施形態において、補正値Cによる比例項Pの補正は、EGR弁24の閉弁方向の操作量が大きくなるように比例項Pの値を変化させる補正がなされればよく、比例項Pに対する補正値Cの加算に限らず、例えば比例項Pに対する補正値Cの乗算によって行われてもよい。なお、比例項Pの補正が比例項Pに対する補正値Cの乗算で行われる場合、閾値Rth以下の範囲には、補正値Cとして「1」が規定されることとなる。
【0056】
・また、閾値Rth以下の範囲では、補正値Cとして一定の値が規定されていればよく、EGR弁24の操作量を比例項Pに基づく操作量と同様に変化させる補正値Cが規定されていてもよい。
【0057】
・制御装置30は、比例ゲインKpに追従性の高い比例ゲインが設定され、比率Rが低いときに比例項Pを小さくする補正が行われる構成であってもよい。こうした構成においては、黒煙の発生しやすいときには追従性が高い状態が維持され、黒煙の発生しにくいときには追従性が低くなる。この際、上記実施形態と同様、補正が行われる範囲を規定する閾値Rthが設けられてもよいし、エンジン回転速度Ne毎に補正値Cが設定されてもよい。また、比率Rが小さいほど比例項Pが小さくなるように補正されることが好ましい。
【0058】
・上記実施形態において、例えば比率Rが0.95以上といった黒煙の非常に発生しやすい範囲には、目標空気量tQAを実吸入空気量QAaが超えてしまう目標開度tVTが演算される補正値Cが設定されてもよい。こうした構成によれば、黒煙の非常に発生しやすいときであっても高い確率の下で黒煙の発生が抑えられる。
【符号の説明】
【0059】
10…ディーゼルエンジン、11…シリンダーブロック、12…シリンダー、13…インジェクター、14…インテークマニホールド、15…エキゾーストマニホールド、16…吸気通路、17…ターボチャージャー、18…コンプレッサー、19…インタークーラー、20…排気通路、21…タービン、22…EGR通路、23…EGRクーラー、24…EGR弁、30…制御装置、31…吸入空気量センサー、32…回転速度センサー、33…アクセル開度センサー、34…弁開度センサー、35…制御部、36…演算部、37…記憶部、38…インジェクター駆動部、39…弁駆動部、40…煙限界噴射量演算部、41…基本噴射量演算部、42…目標噴射量選択部、43…基本開度演算部、44…目標空気量演算部、45…比例項演算部、46…積分項演算部、47…補正値演算部、48…補正データ、49…目標開度演算部、50…指示開度演算部。
図1
図2
図3
図4