(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス物品の前記本体内まで延在する圧縮応力の層をさらに含み、圧縮応力の前記層が、約60μmまでの層の深さDOLおよび圧縮の大きさC≧200MPaを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス物品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
赤外線反射能を有するガラス物品の実施形態をここで詳細に参照し、それらの例を添付の図面において示す。また、ガラス物品を形成する方法が説明される。可能な場合はいつでも、同じかまたは似た部品を指すために同じ参照符号が図面全体にわたって使用される。赤外線反射能を有するガラス物品の一実施形態が
図1に図解的に示される。ガラス物品は一般に、第1の表面、第2の表面、および第1の表面と第2の表面との間に延在する本体を含む。金属銀の複数の不連続な層が本体内に形成されて、不連続な層が、少なくとも1つの光学キャビティを本体内に形成するようにする。金属銀の各々の不連続な層は一般に、100nm≦T≦250nmであるような厚さTを有する。金属銀の各々の不連続な層は一般に、S≦500nmであるような間隔Sによって金属銀の隣接した層から離隔される。ガラス物品は、ガラス物品上に入射する800nm〜2500nmの波長を有する電磁線の少なくとも一部を反射し、ガラス物品上に入射する390nm〜750nmの波長を有する電磁線の少なくとも一部を透過する。ガラス物品およびガラス物品を形成する方法が、添付された図面を具体的に参照してここでより詳細に説明される。
【0013】
図1を参照すると、ガラス物品100の一実施形態の部分横断面が図解的に示される。ガラス物品100は一般に、第1の表面102と、第2の表面104と、第1の表面102から第2の表面104まで延在する本体101を含む。例えばガラス物品が1枚のガラスから形成される時などには本体101は、第1の表面102および第2の表面104と連続している。ガラス物品100は、様々な異なった形態を有してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス物品が商業用または住宅用建物に使用するための窓ガラスである時などには第1の表面102および第2の表面104が互いに平行であってもよい。あるいは、例えばガラス物品が自動車両、トラック等の窓、風防および屋根板に使用するための自動車両用透明板ガラスである時などにはガラス物品100は、その長さおよび/または幅の寸法に沿って或る程度の曲率を有してもよい。
【0014】
ガラス物品100は一般に、ここでより詳細に説明されるように、ガラス基材の横断面の金属銀の複数の不連続な層の形成を促進するために、イオン交換可能であるガラス組成物から形成される。イオン交換のために適したガラス組成物は一般に、例えば、カリウム、ルビジウム、および/またはセシウムイオンなどのより大きなアルカリイオン、またはさらに例えば銀などの非アルカリ金属イオンと交換され得るより小さなアルカリ金属イオン、典型的にNa
+またはLi
+イオンを含む。しかしながら、イオン交換のために適した任意のガラス組成物が、ここで説明されたガラス物品を形成するために使用可能であることは理解されるはずである。
【0015】
例えば、ここで説明されたガラス物品を形成するために使用可能な適したガラス組成物には、限定しないが、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸ガラス、アルカリホウケイ酸ガラス、またはイオン交換を促進するためにガラス網目に十分な量のイオンを有する任意のガラス組成物が含まれる。典型的なガラスには、限定しないが、本願と同一の譲受人に譲渡された米国特許出願公開第2010/0035038号明細書、同第2010/0028607号明細書、同第2010/0009154号明細書、同第2009/0020761号明細書および同第2009/0142568号明細書に開示されたガラスなどがある。
【0016】
ここで説明された実施形態において、ガラス物品はさらに、本体101内に形成される金属銀の複数の不連続な層106を含む。金属銀の不連続な層106が離隔されて、少なくとも1つの光学キャビティ108が金属銀の層の間に形成されるようにする。光学キャビティは、金属銀の隣接した層の間にまたは、代わりに、金属銀の1つまたは複数の中間層によって隔てられている金属銀の層の間に形成されてもよい。例えば、
図1に図解的に示されるガラス物品100の実施形態において、金属銀の3つの不連続な層106がガラス物品の本体101内に形成されて、2つの光学キャビティが金属銀の隣接した層の間に形成されるようにする。あるいは、金属銀の第2の層が光学キャビティ内に配置されて、単一の光学キャビティが金属銀の第1および第3の層の間に形成されてもよい。さらに、ガラス物品100が、金属銀の3つ未満の層(すなわち、2層)または金属銀の3つより多い層を有するように形成されてもよいことは理解されるはずである。それ故、ガラス物品100内に形成された光学キャビティの数が1つ以上であってもよいことは理解されるはずである。さらなる例として、
図2は、ガラス物品100の第1の表面102の下に形成された金属銀の複数の不連続な層106を有するガラス物品、具体的にはガラス基材の典型的な一実施形態のSEM顕微鏡写真である。
【0017】
光学キャビティ108は、ガラス物品上に入射する電磁線の特定の波長の高い正反射を生じるファブリー・ペロー共振器として機能する。特に、ガラス基材上に入射する電磁線の特定の波長の反射の予め決められた量(すなわち、百分率)が、金属銀の層の間の間隔Sを調節することによって得られる。ここで説明された実施形態において、ガラス物品が、ガラス物品上に入射する800nm〜2500nmの波長を有する電磁線(すなわち、近赤外スペクトルの電磁線)の少なくとも一部を反射し、ガラス物品上に入射する390nm〜750nmの波長を有する電磁線(すなわち、可視スペクトルの電磁線)の少なくとも一部を透過する。例えば、いくつかの実施形態において、ガラス物品は、電磁スペクトルの可視部分の電磁線の或る波長をガラス物品を通って透過させる一方で、ガラス物品上に入射する近赤外スペクトルの800nm〜2500nmの波長範囲内の電磁線の特定の波長について25%≦R
IR≦50%またはさらに25%≦R
IR≦35%であるような赤外線反射率R
IRを有する。ガラス物品の反射率R
IRは一般に、2000nmより大きい入射電磁線の波長について10%以上である。いくつかの実施形態において、ガラス物品は、ガラス物品上に入射する可視スペクトルの390nm〜750nmの波長範囲内の電磁線の特定の波長について10%≦T
V≦40%であるような可視透過率T
Vを有する。いくつかの他の実施形態において、ガラス物品は、ガラス物品の第1の表面上に入射する可視スペクトルの390nm〜750nmの波長範囲内の電磁線の特定の波長について10%≦T
V≦20%であるような可視透過率T
Vを有する。例えば、T
vは、500nm〜600nmの電磁線の波長についておよび/または600nm〜700nmの電磁線の波長について10%≦T
V≦15%であるようなT
vであってもよい。
【0018】
ガラス物品100の反射率および透過率の性質は、本体101内の金属銀の複数の不連続な層の厚さTおよび間隔Sによって促進される。一般的には、金属銀の不連続な層の厚さTは約300nm未満である。例えば、ここで説明されるいくつかの実施形態において、金属銀の複数の不連続な層の各々の不連続な層106は一般に、約100nm〜約250nm(すなわち、100nm≦T≦250nm)の範囲の厚さTを有する。他の実施形態において複数の不連続な層の各々の不連続な層106の厚さTは、50nm≦T≦75nmであるような厚さである。金属銀の隣接した層の間の間隔Sは一般に、500nm以下(すなわち、S≦500nm)である。いくつかの実施形態において、隣接した層の間の間隔Sは、400nm以下(すなわち、S≦400nm)であってもよい。いくつかの他の実施形態において、間隔Sは100nmしかなくてもよい。
【0019】
金属銀の複数の不連続な層は一般に、ガラス物品100の第1の表面102から離隔されて、各々の不連続な層106は、ガラス物品100の表面上ではなくガラス物品100の本体101内に含有されるようになっている。具体的には、複数の不連続な層の第1の層(すなわち、ガラス物品の第1の表面102に最も近い不連続な層)は、5μm以下である距離Dによって第1の表面102から離隔され、各々の後続の不連続な層は間隔Sによって互いに離隔される。ガラス本体の表面上ではなく本体101内に不連続な層106を形成することによって、不連続な層106が損傷されおよび/またはガラス基材から取り除かれるのを防ぎ、それによってより頑丈なガラス物品を提供する。さらに、不連続な層をガラス基材内に形成することによって、隣接した層を互いに離隔するのを促進して、光学キャビティが層間に形成されるようにし、そして次に、それはガラス物品の反射および透過特性を促進する。
【0020】
いくつかの実施形態において、ガラス物品100はさらに、ガラス物品100の本体内まで延在する圧縮応力の層をさらに備えてもよい。圧縮応力の層は、層の深さ(DOL)までガラス物品の本体内まで延在する。ここで説明される実施形態において、層の深さは約60μmまでまたはそれ以上であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において層の深さは65μm超またはさらに70μm超であってもよい。圧縮応力の層は一般に、200MPa以上である圧縮の大きさCを有する。例えば、いくつかの実施形態において圧縮応力の層の圧縮の大きさは、約250MPa以上またはさらに約300MPa以上であってもよい。圧縮応力の層の圧縮の大きさは、650MPaまたはさらに900MPaであってもよい。したがって、いくつかの実施形態において、圧縮応力の層の大きさは約200MPa〜約900MPaの範囲であってもよいことは理解されるはずである。圧縮応力の層は一般に、ガラス物品の強度を増加させ、ガラス物品が破局的壊損を伴わずにより大きな程度の表面損傷、例えば引っ掻き、摩耗等に耐えることを可能にする。
【0021】
ガラス物品100は60μmの層の深さおよび200MPa超の大きさを有する圧縮応力の層を有するとここで説明されるが、圧縮応力の層は60μm未満の層の深さおよび200MPa未満の圧縮の大きさを有してもよいことは理解されるはずである。さらに、いくつかの実施形態において、ガラス物品100は、例えばガラス物品が強化された強度を有することを必要としない適用において利用される時などには、圧縮応力の層なしに形成されることは理解されるはずである。
【0022】
ガラス物品100が圧縮応力の層を備えるとき、圧縮応力の層は、金属銀の複数の不連続な層を形成する前にガラス物品100内に形成されてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、例えばガラス物品が、圧縮応力の層を有する市販のガラス基材から製造される時などには、金属銀の複数の不連続な層が、その受入れたままの状態で圧縮応力をかけられるガラス物品内に形成されてもよい。このようなガラス物品の例には、Corning,Inc.製のGorilla(登録商標)ガラスなどがある。
【0023】
しかしながら、他の実施形態において、ガラス物品100は最初に、その受入れたままの状態において圧縮応力の層を有さなくてもよい。これらの実施形態において、金属銀の複数の不連続な層が本体101内に形成される前に圧縮応力の層がガラス物品100の本体101に導入されてもよい。いくつかの実施形態において、圧縮応力の層は、熱調質によってガラス物品100の本体内に誘導されてもよい。他の実施形態において、例えばガラス物品がイオン交換処理にかけられる時などには、圧縮応力の層は化学調質によってガラス物品内に誘導されてもよい。
【0024】
例えば、ガラス物品100は、上述のように、イオン交換に適しているガラス組成物から形成されてもよい。一実施形態において、圧縮応力の層は、ガラス基材をアルカリ金属塩などの溶融塩の槽内に置くことによってガラス基材内に誘導される。この実施形態において、溶融塩内の比較的大きいアルカリイオンは、ガラス物品内の比較的小さなナトリウムおよび/またはリチウムイオンと交換される。より大きいイオンをより小さなイオンと交換することによって、物品のガラス網目内に圧縮応力を誘起する。
【0025】
一実施形態において、イオン交換のために使用される溶融塩槽がKNO
3を含有する。KNO
3のカリウムイオンがガラス物品内のより小さなナトリウムイオンと交換され、それによってガラス物品を圧縮強化する。塩槽の温度は約250℃〜約500℃の範囲であってもよい。いくつかの実施形態において、塩槽の温度は約300℃〜約450℃の範囲であってもよい。所望の深さおよび圧縮の大きさを達成するために、ガラス物品100を溶融塩槽内に約4時間〜約11時間保持してもよい。いくつかの他の実施形態において保持時間は、所望の深さおよび圧縮の大きさを達成するために約4時間〜約7時間であってもよい。
【0026】
あるいは、圧縮応力の層は、銀がガラス物品に導入されるのと同時にではあるが銀の複数の不連続な層がガラス物品の本体内に形成される前にガラス基材に導入されてもよい。
【0027】
金属銀の複数の不連続な層は、還元雰囲気中で行なわれる熱処理と共にイオン交換処理を利用してガラス物品100の本体101内に形成される。一実施形態において、銀イオンは、ガラス物品を、銀イオンを含有する溶融塩槽内に置いて塩槽内の銀イオンとガラス物品内のイオン、例えばナトリウムおよび/またはリチウムイオンとの交換を促進することによってガラス基材に導入される。別の実施形態において、銀イオンは、銀を含有するコーティングをガラス物品の表面に適用し、コーティングを有するガラス物品を加熱してコーティング内の銀イオンとガラス物品内のイオン、例えばナトリウムおよび/またはリチウムイオンとの交換を促進することによってガラス物品に導入される。コーティングは、銀または銀化合物を含むペーストであってもよい。あるいは、コーティングは、スパッタリング、真空蒸着または同様な技術によってガラス物品上に堆積される銀または銀化合物を含む薄膜であってもよい。
【0028】
より具体的には、一実施形態において、銀イオンは、溶融塩の槽内で行なわれるイオン交換プロセスによってガラス基材に導入される。塩槽は一般に、アルカリ塩の他に例えばAgNO
3、AgCl等の銀塩を含有する。例えば、一実施形態において溶融塩槽は、例えばAgNO
3等の銀塩約0.05重量%〜約5重量%と、MNO
3(Mが例えば、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、および/またはセシウムイオンなどのアルカリ金属イオンである)約95重量%〜約99.5重量%とを含む。ここで説明された実施形態において、Mはカリウムまたはナトリウムのどちらかである。しかしながら、他のアルカリ金属イオンが、銀を含有する塩槽内で使用されてもよいことは理解されるはずである。
【0029】
銀イオンを含む塩槽への暴露前にガラス物品が圧縮応力の層を含む実施形態において、銀を含有する塩槽内のアルカリ金属イオンはカリウムである。しかしながら、銀イオンを含む塩槽への暴露前にガラス物品が圧縮応力の層を含まない実施形態において、銀を含有する塩槽内のアルカリ金属イオンはナトリウムまたはカリウムのどちらであってもよい。この実施形態において、銀イオンをガラス物品に導入することに加えて、ガラス内のナトリウムイオンを塩槽内のカリウムイオンと交換することによってガラス物品内に圧縮応力の層を形成することが望ましいとき、カリウムがアルカリ金属イオンとして利用されてもよい。
【0030】
銀イオンを含有する塩槽は、イオン交換プロセスを促進するために約300℃〜約500℃の浴温に維持される。いくつかの実施形態において、浴温は、イオン交換プロセスを促進するために約300℃〜約450℃以下であってもよい。ガラス物品は、ガラス基材の本体内の銀イオンの所望の濃度を達成するために約5分以上で且つ1時間以下のイオン交換時間Pの間、銀イオンを含有する塩槽内に保持される。いくつかの実施形態においてイオン交換時間Pは0.5時間以下またはさらに0.25時間以下であってもよい。銀イオンを含有する塩槽の温度およびイオン交換時間Pを調節して銀イオンの所望の濃度を得てもよい。イオン交換プロセスの後、ガラス物品は、実質的に透明であるかまたはガラス基材内に銀イオンが存在する結果としてわずかに黄色味を帯びている場合がある。
【0031】
銀イオンをガラス物品に導入した後、ガラス物品を槽から取り出し、流動水素ガスなどの還元雰囲気中に置くと共に同時に加熱してガラス物品の本体内において金属銀の沈殿および成長を促進し、それはその後、
図1および2に示されるように、金属銀の複数の不連続な層をガラス基材内に生じさせる。銀イオンを含有する塩槽内でのイオン交換時間と、還元雰囲気中での処理時間との組合せが、ガラス基材内に形成される層数を決定する。
【0032】
例えば、ガラス基材は、水素ガスが流れている管状炉内に置かれてもよい。次に、ガラス基材を約250℃〜約600℃である還元温度に加熱して5分以上で且つ約50時間以下の処理時間Qの間この温度に保持する。ガラス物品が圧縮応力の層を備える実施形態において、還元温度は、圧縮応力の緩和を最小にするために約300℃以下である。
【0033】
理論に縛られることを望まないが、チューリング不安定性の定理を利用して、還元処理の間のガラス基材内においての金属銀の複数の不連続な層の形成をモデル化してもよいと考えられる。チューリング不安定性の定理は、微分方程式Y=DXおよびY=D’Xの線形系の安定な性質を知ることが系Y=(D+D’)Xの安定性を決めることを必ずしも可能にしないことを示唆する。処理の間のガラス基材内においての金属銀の複数の不連続な層の形成に関して、2つの安定な線形微分方程式は、ガラス物品の本体内においての金属銀の核形成と、金属銀の、金属銀の複数の不連続な層への成長とに相当する。
【0034】
イオン交換プロセスはガラス板の表面の上で均一に行なわれ、表面積は端縁と比べて大きいので、平面のガラス表面に垂直な距離であるxを用いて水素の拡散と後続の反応を概算することができる。銀イオンと還元雰囲気との間の相互作用と、後続の金属銀の層の形成とを表わす一連の動力学方程式を、ガラス物品内の銀イオンの濃度A、ガラス物品内の無電荷銀原子の濃度S、およびガラス物品内の水素分子の濃度Hを用いて表わすことができる。水素と銀イオンとの反応は、無電荷銀原子(Ag
0)をもたらす。これは、核形成反応−銀イオンと水素との相互反応から銀が核を形成すると考えられる。この核形成プロセスは、銀イオンと水素との濃度の積、AHのしきい値を必要とし、それはK
Sと称されてもよい。このしきい反応は、ヘビサイド階段関数によって近似値を求めることができる。さらに、銀金属の成長は、銀金属濃度および銀イオンおよび水素の濃度、AHSに比例すると推定される。
【0035】
A、H、およびSの各々の濃度は、水素による還元によって銀イオンの銀金属への変換を決定する反応項を有する拡散方程式に従う。銀金属の拡散は、以下の式においてD
S≒0となり、小さいと推定される。
【0037】
これらの式においてD
Aが銀イオンの拡散係数であり、D
Hが水素の拡散係数であり、D
Sが銀金属の拡散係数であり、H()がヘビサイド階段関数であり、k
1が核形成反応速度であり、k
2が銀生長速度である。
【0038】
以下のように、時間は水素の拡散および試料の長さによって正規化され得るが、他方、空間座標は試長によって正規化され得る。
【0040】
同様に、A、H、およびSの濃度は、以下のように初期濃度に正規化され得る。
【0042】
速度定数は同様に以下のように正規化され得る。
【0044】
上式中、A
00=A(x=0,t=0)およびH
00=H(x=0,t=0)である。これらの正規化は、一組の無次元式を導く。
【0046】
銀イオンの初期濃度は、ガラス物品中13重量%の初期ナトリウム濃度のパーセントを仮定することによってx=0,t=0において推定され得る。表面においての全てのナトリウムが銀によって置換される場合、ガラス物品の表面は、ナトリウムの初期モル密度と同じ銀のモル密度を有する。具体的には、
【0048】
初期水素濃度は、以下のように、400℃の温度において1気圧のH
2に基づいている。
【0050】
これは、ガラス中の銀イオンの、表面においての水素分子に対する比780:1をもたらす。したがって、パラメーターσ≒1/780=1.3×10
−3。
【0051】
ガラス中の銀イオンの拡散係数から、400℃においての銀イオンの分散係数は、ほぼ3.65×10
−10cm
2/秒であると推定され得る。ガラス中の水素の拡散は次式に従う。
【0053】
したがって、400℃においてD
Hは2.36×10
−7cm
2/秒である。それで、Dの比=D
A/D
H=1.55×10
−3である。前述のモデルに基づいて、ガラス物品内の銀の濃度と水素の濃度との間の特定の関係が、金属銀の層の成長を開始および維持するために満たされなければならない。具体的には、以下の表1は、複数の銀層の形成および成長を可能にする様々なパラメーターのいくつかのために適した値を含む。特に、σ、γおよびC
thの間の相互関係がガラス内において金属銀の不連続な層の沈殿および成長をもたらす不安定性の始まりを決めることは理解されるはずである。さらに、複数の銀層の生長速度は、核形成速度よりもずっと大きいのがよい(すなわち、γ>>1)。さらに銀のしきい濃度C
thは、ゼロより大きくなくてはならない。
【0055】
いくつかの実施形態において、ガラス基材の本体内に金属銀の複数の不連続な層を形成した後、ガラス物品を酸性溶液中でエッチングしてガラス物品の反射率特性を調節して、それによってガラス物品上に入射する電磁線の特定の波長について所望の反射率および/または透過率を得てもよい。エッチングプロセスは、ガラス物品からガラスならびにガラス物品内に形成された金属銀の不連続な層を選択的に除去する。したがって、酸性溶液の濃度および/または酸性溶液がガラス物品に適用される時間を制御することによって、ガラス物品の反射率および/または透過率の性質を制御することができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、ガラスおよび金属銀の層を選択的に除去するために使用される酸性溶液は、フッ化水素酸(HF)および硫酸(H
2SO
4)の溶液を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態において、酸性溶液は、5重量%のHFおよび3重量%のH
2SO
4を含んでもよい。これらの実施形態において、エッチング時間は、約0.1分〜約5分であってもよい。しかしながら、エッチング時間は、ガラス物品の所望の反射率/透過率の性質およびガラス物品内に金属銀の複数の不連続な層を形成するための初期処理条件に応じてより短くてもより長くてもよいことは理解されるはずである。さらにまた、HFおよびH
2SO
4を含む酸性溶液は、ガラスおよび不連続な金属銀の層をガラス物品から選択的に除去するために使用されてもよい酸性溶液の典型的な一実施形態であり、他の適した溶液および/またはエッチング剤を使用して同じ効果に達してもよいことは理解されるはずである。
【実施例】
【0057】
本明細書において説明された実施形態は、以下の実施例によってさらに明らかにされる。
【0058】
実施例1
コーニング社(Corning Incorporated)から市販されているコーニング(Corning)ガラスコード2317イオン交換性アルカリアルミノケイ酸ガラスから形成された4つのガラス板(試料A、B、CおよびD)を、5分間410℃の温度において5重量%のAgNO
3および95重量%のNaNO
3を含む溶融塩槽内でイオン交換して、銀イオンを試料に導入した。AgNO
3/NaNO
3槽内に浸漬する前に試料のどれもイオン交換されなかった。その後、試料を400℃の温度の流動水素ガス内で処理して、金属銀の複数の不連続な層を各々の試料内に形成するのを促進した。試料Aを10分間処理し、試料Bを15分間処理し、試料Cを25分間処理し、試料Dを60分間処理した。次に、各々の試料の横断面のSEM画像を走査電子顕微鏡で写して、金属銀の不連続な層の形成を水素処理時間の関数として記録した。
【0059】
図3A〜3Dは、それぞれ試料A〜Dの横断面によるSEM顕微鏡写真である。
図3A〜3Dによって示されるように、水素処理時間を増加させることによって付加的な不連続な金属銀の層がガラス物品内に形成され、そして次に、以下の実施例2において説明されるように、それがガラス物品の反射率および透過率の特性を変化させる。
【0060】
実施例2
3つのガラス板(試料AA、BB、CC)を、5重量%のAgNO
3および95重量%のNaNO
3を含む溶融塩槽内でイオン交換して、銀イオンをガラス板に導入する。槽の温度は410℃であった。試料AAは、コーニング社(Corning Incorporated)から市販されているGorilla(登録商標)ガラス、アルカリアルミノケイ酸ガラスから形成された。試料BBおよびCCはコーニング(Corning)ガラスコード2317から形成された。AgNO
3/NaNO
3槽内に浸漬する前に試料のどれもイオン交換されなかった。各々の試料をAgNO
3/NaNO
3槽内で5分間イオン交換した。その後、試料を400℃の温度の流動水素ガス内で処理して、金属銀の複数の不連続な層を各々の試料内に形成するのを促進した。試料AAを水素ガス処理に5時間供した。試料BBおよびCCをそれぞれ水素ガス処理に10分間および15分間供した。
【0061】
その後、各々の試料上に入射する電磁線の異なった波長について各々の試料の反射率を測定した。
図4は、各々の試料上に入射する電磁線の波長の関数としてy軸上に反射率(%)をグラフで示す。
図4に示されるように、各々の試料の反射率は、各々の試料がかけられる加工条件に依存しており、試料CCは、800nm〜1000nmの赤外線波長について35%より大きいピーク反射率を有し、試料BBは、約1200nm〜1600nmの赤外線波長について35%より大きいピーク反射率を有し、試料AAは、約2200nmより大きい赤外線波長において約20%より大きいピーク反射率を有する。
【0062】
実施例3
コーニング(Corning)ガラスコード2317から形成された2つのガラス板(試料AAA、BBB)を、5重量%のAgNO
3および95重量%のNaNO
3を含む溶融塩槽内で5分間イオン交換して、銀イオンを各々の試料に導入した。槽の温度は410℃であった。AgNO
3/NaNO
3槽内に浸漬する前に試料のどれもイオン交換されなかった。その後、試料を400℃の温度の流動水素ガス内で処理して、金属銀の複数の不連続な層を各々の試料内に形成するのを促進した。次に、試料AAAおよびBBBをそれぞれ水素ガス処理に10分間および15分間供した。
【0063】
その後、各々の試料上に入射する電磁線の異なった波長について各々の試料の透過率が測定された。
図5は、各々の試料上に入射する電磁線の波長(x軸)の関数としてy軸上に透過率(%)をグラフで示す。
図5に示されるように、各々の試料の透過率は、各々の試料がかけられる加工条件に依存しており、試料AAAは、約500nm〜900nmの可視波長において約15%より大きい反射率を有し、試料BBBは、約600nm〜900nmの可視波長において10%より大きい反射率を有する。したがって、
図5に含まれるデータに基づいて、可視波長についてのガラス物品の透過率は、水素処理時間が長くなると減少する。
【0064】
実施例4
コーニング(Corning)ガラスコード2317から形成された5つのガラス板(試料A’、B’、C’、D’E’、およびF’)を、5重量%のAgNO
3および95重量%のNaNO
3を含む溶融塩槽内で7時間410℃においてイオン交換して、銀イオンを各々の試料に導入した。AgNO
3/NaNO
3槽内に浸漬する前に試料のどれもイオン交換されなかった。その後、試料を400℃の温度の流動水素ガス内で5時間処理して、金属銀の複数の不連続な層を各々の試料内に形成するのを促進した。次に、各々の試料を、5重量%のHF酸および3重量%のH
2SO
4を含む酸性溶液内でエッチングして、ガラスおよび不連続な金属銀の層を各々の試料から選択的に除去した。試料A’を0.5分間エッチングし、試料B’を1.5分間エッチングし、試料C’を2分間エッチングし、試料D’を2.5分間エッチングし、試料E’を3.5分間エッチングし、試料F’を4.5分間エッチングした。次に、各々の試料の反射率を入射電磁線の様々な波長について測定した。
【0065】
図6は、基材上に入射する電磁線の波長(x軸)の関数として試料A’、C’、D’、E’およびF’の反射率(y軸)をグラフで示す。
図6に示されるように、試料の反射率は、酸によるエッチングの時間と関連しており、継続時間が長くなると一般に、ピーク反射率の大きさを減少させ、ピーク反射率をより短い波長にシフトする。
図7は、基材上に入射する電磁線の波長(x軸)の関数として試料B’の反射率(y軸)をグラフで示す。また、
図7は、同様な条件下でモデル化されたファブリー・ペロー共振器の反射率をグラフで示す。
図7に示されるように、試料B’の反射率の曲線は、モデル化されたファブリー・ペロー共振器の反射率と同様な反射率を有する。
【0066】
前述の内容に基づいて、金属銀の複数の不連続な層を含むここで説明されたガラス物品は、電磁線の可視波長の透過も可能にしたままで赤外線リフレクタとして利用され得ることはここで理解されるはずである。反射率特性をガラス基材に与える金属銀の複数の不連続な層がガラス物品の本体内に含有される。それ故、ここで説明されたガラス物品は、容易に損傷されおよび/または除去され得る表面コーティングを利用するリフレクタと比べて、より頑丈で且つ損傷に耐性がある。
【0067】
さらにまた、ここで説明されたリフレクタの反射率および透過率特性は、金属銀の複数の不連続な層の形成に関連した加工条件を制御することによって変えられてもよいことは理解されるはずである。また、ここで説明されたリフレクタの反射率および透過率特性は、形成後にエッチングを行なってガラスおよび不連続な金属銀の層を選択的に除去することによって変えられてもよいことは理解されるはずである。
【0068】
請求の範囲の主題の精神および範囲から逸脱することなく、ここで説明された実施形態に様々な改良および変更が実施できることは当業者には明らかであろう。従って、本明細書は、改良および変更が添付された請求の範囲およびそれらの同等物の範囲内にあるならばここで説明された様々な実施形態の改良および変型に及ぶものとする。