【文献】
J.Carbohydr.Chem.,1988年,Vol.7,No.3,pp.525-536,abstract,Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの水硬性材料と少なくとも1つのセルロースエーテルとを含む建築用組成物であって、前記少なくとも1つのセルロースエーテルのセルロース骨格のヒドロキシル基の少なくとも一部が、(S23/S26−0.2*MS)(式中、記号「*」は乗算演算子を表し、MSは、ヒドロキシアルコキシ基のモル置換であり、S23は、2−及び3−位における2つのヒドロキシル基のみが、それぞれメトキシ基によって置換されている無水グルコース単位のモル分率を表し、S26は、2−及び6−位における2つのヒドロキシル基のみが、それぞれメトキシ基によって置換されている無水グルコース単位のモル分率を表す)が0.38以下になるように、(i)メトキシ基、及び1〜3個の炭素原子を有する線状又は分岐状のヒドロキシアルコキシ基によって置換されているか、あるいは(ii)メトキシ基、1〜3個の炭素原子を有する線状又は分岐状のヒドロキシアルコキシ基、及び2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐状のアルコキシ基によって置換されている建築用組成物。
少なくとも1つの水硬性材料が、セメント質材料である及び/又は少なくとも1つのセルロースエーテルが、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の建築用組成物。
セルロースエーテルの1.5重量%水溶液が80℃で少なくとも50Paの貯蔵弾性率G’を有し、及び/又は大気圧における検出可能な沈殿温度を有さないか若しくは前記沈殿温度を3℃未満上回るゲル化温度を有し、前記沈殿温度が、logG’対標準(非対称)温度のプロットにおける、極小(同じ温度に外挿された第1の接線の値の半分未満である)へのG’の低下の変曲点に対応する温度よりも20℃低い温度から3℃低い温度までの温度間隔において温度上昇に伴うG’の安定した減少に適合する第1の接線と、存在する場合、前記変曲点を中心とする1℃の温度間隔において極小へのG’の減少に適合する第2の接線との交点に対応する温度として求められ、前記ゲル化温度が、G’/G’’=1である温度であり、1℃/分の加熱速度で10℃〜85℃にて2Hzの一定周波数及び0.5%の一定変形振幅で振動剪断流中にて動的レオメータを用いて測定したとき、セルロースエーテルの1.5重量%水溶液の貯蔵弾性率がG’であり、損失弾性率がG’’である、請求項1に記載の建築用組成物。
乾燥モルタル組成物、防水層用組成物、外断熱複合システム(ETICS)又は外断熱仕上げシステム(EIFS)等の断熱システム用ミネラルコーティング、セルフレべリング床モルタル組成物、補修モルタル、タイルグラウトモルタル、又はセメント系タイル接着剤である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の建築用組成物。
前記セルロースエーテルが、乾燥モルタル組成物、防水層用組成物、外断熱複合システム(ETICS)又は外断熱仕上げシステム(EIFS)等の断熱システム用ミネラルコーティング、セルフレべリング床モルタル組成物、補修モルタル、タイルグラウトモルタル、又はセメント系タイル接着剤の群から選択される水硬性建築用組成物で用いられる、請求項8に記載の使用。
【背景技術】
【0002】
メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、又はヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロースエーテルは、モルタル、グラウト、プラスター、スタッコ、接着剤、及び壁/天井調質剤等の建築用組成物の性能を改善するための添加剤として広く用いられている。
【0003】
建築用組成物用の添加剤としてのセルロースエーテルの性能は、セルロースエーテルの熱特性によって影響を受ける。メチルセルロース及びヒドロキシアルキルメチルセルロースは、熱可逆的にゲル化することが知られている。具体的には、このようなセルロースエーテルの水溶液をそのゲル化温度よりも高い温度に加熱すると、含水ゲルが形成される。このプロセスは可逆的であり、即ち、ゲル化温度よりも低い温度に冷却すると、ゲルは経時的に再び水溶液に戻る。中強度のゲルの形成は、水硬性の建築用組成物においてセルロースエーテル添加剤の水分保持能を促進し、前記組成物の達成可能な機械的強度を強化する可能性があると考えられる。建築用組成物における有効なゲル形成のためには、ゲル化温度は、水硬性組成物の硬化時に達する温度(一般的に、60〜70℃の範囲のピーク温度)よりも低くなければならないが、同時に、早期ゲル化を防ぐために、強烈な日光曝露の場合50℃程度であり得る自然曝露温度を十分に上回らなければならない。
【0004】
30重量%に相当するメトキシ置換度を有する従来のメチルセルロースは、所望のゲル形成要件を満たすことができ、例えば、1.5重量%水溶液中で52〜57℃のゲル化温度、及び1.5重量%水溶液中で動的弾性率G’として測定したとき、(2重量%水溶液中で測定した粘度)15mPa・sの粘度にて約200Pa〜40,000mPa・sの粘度にて約1,800Paのゲル強度を呈する 。しかし、従来のメチルセルロースは、周囲温度で適切に溶解せず、即ち、この目的のために水性媒体を通常10℃未満の温度に冷却する必要があり、これは、建築用組成物における用途にとって非常に不利である。
【0005】
国際公開第00/59947号には、29mPa・sの粘度にて569Pa〜17,000mPa・sの粘度にて5,445Pa(2重量%水溶液中で測定した粘度)の範囲の著しく高いゲル強度をもたらし、31〜54℃の範囲の低いゲル化温度を有するメチルセルロースが開示されている。これら従来にはない特性は、特徴的な多段階エーテル化プロセスによって生じる、「ブロッキー」置換と呼ばれる、セルロース鎖に沿ったメチル化部位の分布が従来のメチルセルロースよりも不均一になることによるものである。国際公開第00/59947号に記載されているメチルセルロースの非常に高いゲル強度は、食品及び医薬品産業における用途には有益であるが、水硬性建築用組成物において使用する場合は有益ではなく、その理由としては、このような硬質ゲルが水を強く捕捉して組成物中のセメント質相の水和が妨げられるというものが挙げられる。
【0006】
ヒドロキシアルコキシ置換基の導入により、より親水性の高いセルロースエーテルが得られ、これは、ヒドロキシアルコキシ置換基を有さないメチルセルロースよりも高温、例えば周囲温度でより容易に溶解する。しかし、ヒドロキシアルキルメチルセルロースは、一般的に、メチルセルロースに比べて得られるゲル強度が著しく低い。ゲル強度は、ヒドロキシアルコキシ基のモル置換が増加するにつれて減少する。例えば、N.Sarkarは、Journal of Applied Polymer Science,24(1979),pp.1073−1087において、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の熱ゲル化特性について論じている。この論文の
図9には、0.10のMS(ヒドロキシプロポキシ)を有するHPMCのゲル強度が、メチルセルロースのゲル強度のわずか約3分の1であるであることが図示されている。
【0007】
ヒドロキシアルキルメチルセルロースのゲル強度が低いという問題を解決するために、欧州特許出願公開第1 983 004 A1号(信越化学工業株式会社)には、メトキシ置換度が1.6〜1.9でありかつヒドロキシアルコキシ基のモル置換が0.05〜0.10の範囲であるヒドロキシアルキルメチルセルロースであって、更には置換されていないヒドロキシル基を有するヒドロキシアルコキシ基に対するヒドロキシル基が更にメチル化されているヒドロキシアルコキシ基のモル分率が0.4以上であるヒドロキシアルキルメチルセルロースが提案されている。このようなヒドロキシアルキルメチルセルロースは、20〜30℃で水溶性であり、従来のメチルセルロースと同等の熱可逆性ゲル強度を有する。
【0008】
しかし、MSが高いほど室温以上の温度でより優れた溶解特性が得られるので、ヒドロキシアルキル基のモル置換を0.05〜0.10程度の値に制限することによって、別の方法でヒドロキシアルキルメチルセルロースのゲル強度を上昇させることが望ましい。欧州特許出願公開第1 983 004 A1号に記載されているヒドロキシアルキルメチルセルロースの溶解度は、30〜50℃の範囲の温度で不十分であり、この温度は、建築用組成物において添加剤として塗布する際にセルロースエーテルの性能を低下させる温暖な気候の地域において容易に達し得る温度である。更に、より広い範囲でヒドロキシアルコキシ基のモル置換を制御することも、それぞれの用途にとって望ましいレベルにセルロースエーテルの湿潤特性及び表面活性を調整する観点から魅力的である。
【0009】
これらを考慮して、本発明は、10〜50℃の範囲の温度で適切な溶解特性を有し、かつ公知の同等のヒドロキシアルキルメチルセルロースよりも高いゲル強度を有する建築用組成物において添加剤として使用するために最適化されているセルロースエーテルを提供するという問題に取り組む。本発明は、建築用途のためのこのようなセルロースエーテルの使用及びこのようなセルロースエーテルを含む建築用組成物を塗布する方法を目的とし、具体的には、同レベル又はより低いレベルのセルロースエーテルで、少なくとも1つの性能パラメータ、特に、達成可能な接着強度及び/又は硬化特性に関して水硬性建築用組成物の塗布特性を改善することを目的とする。
【0010】
驚くべきことに、10〜50℃の範囲の温度における適切な溶解特性に加えて、公知の同等のヒドロキシアルキルメチルセルロースよりも高いゲル強度をもたらすヒドロキシアルキルメチルセルロースが見出され、これは、建築用組成物のための添加剤として有用である。本発明にかかるヒドロキシアルキルメチルセルロースは、下記に定義する通り、(S
23/S
26−0.2*MS)が0.38以下であることを特徴とする、無水グルコース単位の2−、3−、及び6−位におけるメトキシ置換基の従来にはない分布を有する。
【0011】
本発明者らは、(S
23/S
26−0.2*MS)が0.38以下であるこのようなヒドロキシアルキルメチルセルロースを含む水硬性建築用組成物が、同等のヒドロキシアルキルメチルセルロースを同量含む水硬性建築用組成物に比べて、熱貯蔵条件後の接着強度がより高く及び/又は硬化特性がより改善されることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる建築用組成物中に存在する少なくとも1つのセルロースエーテル、このような建築用組成物を塗布する方法、又は本発明にかかる使用において使用される方法は、それぞれ、無水グルコース単位における炭素原子の番号付けを示す以下の式によって非置換セルロースが表される、本発明の状況において無水グルコースと呼ばれる、β−1,4グリコシド結合D−グルコピラノース反復単位を有するセルロース骨格を有する。
【0017】
【化1】
無水グルコース単位における炭素原子の番号付けは、それぞれの炭素原子に共有結合している置換基の位置を示すために行われる。本発明のセルロースエーテルでは、無水グルコース単位の2−、3−、及び6−位におけるセルロース骨格のヒドロキシル基の少なくとも一部が、メトキシ基及びヒドロキシアルコキシ基、並びに任意でメトキシ基とは異なるアルコキシ基によって置換されている。
【0018】
本発明のセルロースエーテルにおけるヒドロキシアルコキシ基は、独立して、互いに同じであっても異なっていてもよい。これらは、典型的に、限定されるものではないが、それぞれ、ヒドロキシメトキシ、ヒドロキシエトキシ、及び/又はヒドロキシプロポキシ等の1〜3個の炭素原子を有する線状又は分岐状のヒドロキシアルコキシ基から選択される。ヒドロキシエトキシ及び/又はヒドロキシプロポキシ基が好ましい。典型的に、本発明にかかるセルロースエーテル中には1種又は2種のヒドロキシアルコキシ基が存在する。好ましくは、1種のヒドロキシアルコキシ基が存在する。
【0019】
メトキシ基及びヒドロキシアルコキシ基による置換に加えて、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルのセルロース骨格のヒドロキシル基の一部は、メトキシ基とは異なるアルコキシ基によって置換されてもよい。任意で存在するメトキシ基とは異なるアルコキシ基は、独立して、互いに同じであっても異なっていてもよい。これらは、典型的に、それぞれ独立して、エトキシ及び/又はプロポキシ基等の2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐状のアルコキシ基から選択され、用語「プロポキシ」は、n−プロポキシ及びイソプロポキシ基を含む。エトキシ基が好ましい。存在する場合、典型的に2種以下、好ましくは1種のみの、メトキシ基とは異なる任意のアルコキシ置換基が、本発明のセルロースエーテル中に存在する。
【0020】
したがって、本発明にかかる好ましい二元(2つの異なる置換基、例えば、メトキシ及びヒドロキシエチルを有する混合セルロースエーテル)セルロースエーテルは、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、特に、ヒドロキシ−C
1−3−アルキルメチルセルロースである。特に好ましい実施形態では、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルは、ヒドロキシエチルメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである。三元セルロースエーテルの例としては、エチルヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルメチルセルロース、及び/又はヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
【0021】
ヒドロキシアルコキシ基による無水グルコース単位の2−、3−、及び6−位におけるヒドロキシル基の置換度は、ヒドロキシアルコキシ基のモル置換(MS)によって表される。MSは、セルロースエーテルにおける無水グルコース単位当たりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数である。ヒドロキシアルキル化反応中、セルロース骨格に結合しているヒドロキシアルコキシ基のヒドロキシル基は、アルキル化剤、例えば、メチル化剤及び/又はヒドロキシアルキル化剤等によって更にエーテル化され得ると理解されたい。無水グルコース単位の同じ炭素原子位置に関する複数の後続のヒドロキシアルキル化エーテル化反応から側鎖が得られ、ここで、前記複数のヒドロキシアルコキシ基は、エーテル結合によって互いに共有結合しており、各側鎖は、全体としてセルロース骨格に対するヒドロキシアルコキシ置換基を形成する。したがって、用語「ヒドロキシアルコキシ基」は、MSの状況において、ヒドロキシアルコキシ置換基の構成ユニットとしてのヒドロキシアルコキシ基を指し、これは、上記に概説した通り単一のヒドロキシアルコキシ基又は側鎖を含み、2以上のヒドロキシアルコキシ基は、エーテル結合によって互いに共有結合していると解釈しなければならない。この定義において、ヒドロキシアルコキシ置換基の末端ヒドロキシル基が、更にアルキル化、例えばメチル化されるかどうかは重要ではなく;アルキル化及び非アルキル化ヒドロキシアルコキシ置換基の両方がMSの決定のために含まれる。本発明にかかるセルロースエーテルは、好ましくは、0.11〜1.00の範囲、より好ましくは0.12〜0.80の範囲、更により好ましくは0.13〜0.60の範囲、最も好ましくは0.14〜0.50の範囲のヒドロキシアルコキシ基のモル置換を有する。
【0022】
無水グルコース単位当たりの、メトキシ基によって置換されているヒドロキシル基の平均数は、メトキシ基の置換度(DS)として指定される。セルロース骨格の無水グルコース単位の2−、3−、及び6−位における全てのヒドロキシル基がメトキシ基によって置換される場合、DSは、例えば、3.0である。上記DSの定義において、用語「メトキシ基によって置換されるヒドロキシル基」は、本発明において、セルロース骨格の炭素原子に直接結合しているメチル化ヒドロキシル基だけではなく、セルロース骨格に結合しているヒドロキシアルコキシ置換基のメチル化ヒドロキシル基も含むと解釈されるものとする。本発明にかかるセルロースエーテルは、好ましくは、1.2〜2.2の範囲、より好ましくは1.25〜2.10の範囲、最も好ましくは1.40〜2.00の範囲のDSを有する。
【0023】
メトキシ基の置換度及びヒドロキシアルコキシ基のモル置換は、ヨウ化水素によるセルロースエーテルのZeisel開裂、及びそれに続く定量ガスクロマトグラフィー分析によって求めることができる(G.Bartelmus and R.Ketterer,Z.Anal. Chem.,286(1977)161−190)。
【0024】
本発明のセルロースエーテルの本質的な特徴は、無水グルコース単位におけるメトキシ置換基の独特な分布であり、これは、[S
23/S
26−0.2*MS]が0.38以下、好ましくは0.36以下、より好ましくは0.35以下、更により好ましくは0.34以下、最も好ましくは0.33以下であることを特徴とする。[S
23/S
26−0.2*MS]は、同時に、典型的には0.07以上、より典型的には0.10以上、最も典型的には0.13以上である。本明細書で使用するとき、記号「*」は、乗算演算子を表す。S
23は、無水グルコース単位の2−及び3−位における2つのヒドロキシル基のみがそれぞれメトキシ基によって置換されており、一方、無水グルコース単位の6−位におけるヒドロキシル基はメトキシ基によって置換されていない無水グルコース単位のモル分率を表す。例えば、無水グルコース単位の6−位におけるヒドロキシル基は、すなわち非置換ヒドロキシル基、若しくはヒドロキシアルコキシ置換基によって置換されているヒドロキシル基、メチル化ヒドロキシアルコキシ置換基、アルキル化ヒドロキシアルコキシ置換基、又はメトキシ基とは異なるアルコキシ基であってよい。S
26は、無水グルコース単位の2−及び6−位における2つのヒドロキシル基のみが、それぞれメトキシ基によって置換されており、一方、無水グルコース単位の3−位におけるヒドロキシル基はメトキシ基によって置換されていない無水グルコース単位のモル分率を表す。例えば、無水グルコース単位の3−位におけるヒドロキシル基は、すなわち、非置換ヒドロキシル基、若しくはヒドロキシアルコキシ置換基によって置換されているヒドロキシル基、メチル化ヒドロキシアルコキシ置換基、アルキル化ヒドロキシアルコキシ置換基、又はメトキシ基とは異なるアルコキシ基であってよい。
【0025】
セルロースエーテルにおけるエーテル置換基の定量的測定は、一般的に知られており、例えば、Bengt Lindberg,Ulf Lindquist及びOlle StenbergによるCarbohydrate Research,176(1988)137−144,Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam,Distribution of substituents in o−ethyl−o−(2−hydroxyethyl)celluloseに記載されている。比S
23/S
26を求める方法は、更に、実験の項に詳細に例示されている。
【0026】
本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルの粘度は、特に限定されない。しかし、少なくとも1つのセルロースエーテルは、円錐平板形状を有するHaake RS600レオメータ(CP−60/2℃)を用いて20℃及び2.55s
−1の剪断速度でセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定したとき、150mPa・s超、好ましくは500〜200,000mPa・s、より好ましくは500〜100,000mPa・s、最も好ましくは1,000〜60,000mPa・sの粘度を有することが好ましい。
【0027】
驚くべきことに、[S
23/S
26−0.2*MS]が0.38以下であることを特徴とする上記セルロースエーテルは、従来にはない温度依存性沈殿及び/又はゲル化特性を有し得ることが見出された。これら特性は、動的流体測定によって分析することができ、ここで、貯蔵弾性率G’は、分析したセルロースエーテルの溶液の動的弾性を表し、損失弾性率G’’は、測定される溶液の粘性を表す。G’及びG’’は、例えば、1℃/分の加熱速度で10℃〜85℃にて2Hzの一定周波数及び0.5%の一定変形振幅で振動剪断流モードのCup&Bob set−up(CC−27)及びペルチェ温度制御システムを備えるAnton Paar Physica MCR 501レオメータ(Ostfildern,Germany)を用いて、大気圧下でそれぞれのセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定してよい。
【0028】
分析したセルロースエーテルの温度依存性沈殿及び/又はゲル化特性は、logG’及びlogG’’対標準(非対称)温度のプロットに由来し得る。低温レジームにおける非ゲル化及び非沈殿状態では、G’’は、G’よりも大きく、G’及びG’’は、典型的に、温度上昇とともに一定速度で減少する。沈殿が生じたとき、貯蔵弾性率は、
図1に例示する通り、logG’対標準(非対称)温度のプロットにおいて極小への顕著な低下を示す。このような場合、沈殿温度は、
図1に示す通り、logG’対標準(非対称)温度のプロットにおける2本の接線の交点に対応する温度として求められる。第1の接線は、極小へのG’の低下の変曲点に対応する温度よりも20℃低い温度から3℃低い温度までの温度間隔において、温度上昇に伴うG’の安定した減少に適合する。第2の接線は、前記変曲点を中心とする1℃の温度間隔において極小へのG’の減少に適合する。本発明において、G’の極小への低下は、極小が明白である場合、即ち、同じ温度に外挿された第1の接線の値の半分未満である場合、沈殿温度の測定のみを考慮する。このような明白な極小が標準(非対称)温度に対するlogG’のプロットに存在しない場合、沈殿温度は、検出不可能であるとみなされる。ゲル化すると、G’が著しく増加してG’’よりも大きくなる。
【0029】
ゲル化温度は、G’/G’’=1である温度として求められる。
【0030】
本発明にかかるセルロースエーテルは、大気圧下でそれぞれのセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定したとき、典型的に、検出可能な沈殿温度を有さないか、又は沈殿温度よりも3℃未満、好ましくは2.5℃未満、より好ましくは2℃未満高いゲル化温度を有することが見出された。ゲル化温度は、典型的に、50〜70℃の範囲である。
【0031】
更に、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルは、驚くべきことに高いゲル強度を有し得ることが見出された。ゲル強度は、セルロースエーテルの水溶液がG’/G’’が1以上であることを特徴とする温度、即ち、ゲルを形成するときの温度における貯蔵弾性率G’として測定される。本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルは、80℃のセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定したとき、典型的には少なくとも50Pa、好ましくは少なくとも75Pa、より好ましくは少なくとも100Paであり、かつ典型的には1000Pa未満、より好ましくは750Pa未満、更により好ましくは600Pa未満、最も好ましくは350Pa未満の貯蔵弾性率G’を有する。引用した最小値と最大値との間の全ての範囲が含まれる。80℃のセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定したときのG’は、好ましくは、50〜1000Paの範囲、より好ましくは100〜750Paの範囲、更により好ましくは100〜350Paの範囲である。このようなゲル強度は、0.11〜0.30の比較的低いMSを有する本発明にかかるセルロースエーテルについて達成され得るだけではなく、上に定義した通り、20℃及び2.55s
−1の剪断速度でセルロースエーテルの1.5重量%水溶液について測定したとき、特に150mPa・s超の粘度の場合、ヒドロキシアルコキシ基のモル置換が、0.30、1.00以下、又は0.80以下、又は0.60以下の範囲であるときにも達成され得る。しかし、より低い製造コストのために、0.11〜0.30の範囲のMSを有するセルロースエーテルが好ましい。したがって、本発明にかかるセルロースエーテルは、同等の置換の種類及びレベル並びに粘度を有する先行技術から公知である任意のヒドロキシアルキルメチルセルロースのゲル強度よりも著しく高いゲル強度を得ることができる。
【0032】
上記本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルは、
i.第1の量のアルカリ化剤でセルロースパルプを処理すること、及び
ii.前記セルロースパルプに少なくとも1つのメチル化剤を添加することを含む第1の段階と、
続いて、75℃以上の反応温度に反応混合物を加熱することと、次いで、
i.1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.04モル当量未満のアルカリ化剤という速度で、更なる量のアルカリ化剤を前記反応混合物に添加すること、及び各個別の更なる段階について任意で、
ii.更なる量の少なくとも1つのメチル化剤を前記反応混合物に添加することを含む少なくとも1つの更なる段階とを含み、
第1の段階におけるアルカリ化剤の添加前、添加後、又は添加と同時に、少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤及び任意でメチル化剤とは異なる少なくとも1つのアルキル化剤をセルロースパルプに添加するか、又はセルロースパルプのエーテル化が進行しているときに、部分的に反応しているセルロースパルプに添加する、多段階エーテル化プロセスによって得ることができる。
【0033】
本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルを調製するためのセルロース原材料は、典型的に、木綿又は木材、好ましくは木材パルプから得られるセルロースパルプである。それは、典型的に、粉末又はチップの形態で提供される。
【0034】
上記プロセスでは、セルロースパルプ、又はセルロースパルプのヒドロキシアルキルメチルセルロースへの反応が進行しているとき、部分的に反応しているセルロースパルプは、2以上の段階で、好ましくは2又は3段階で、1以上の反応器内にてアルカリ化剤でアルカリ化される。アルカリ化剤は、水溶液として使用される、アルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム、苛性ソーダ、若しくは石灰等の任意の強塩基、又は1超のこのような強塩基の混合物であってよい。通常、アルカリ金属水酸化物の水溶液の総重量に基づいて、好ましくは30〜70パーセント、より好ましくは35〜60パーセント、最も好ましくは48〜52パーセントのアルカリ金属水酸化物含量を有するアルカリ金属水酸化物の水溶液が使用される。
【0035】
プロセスの第1の段階では、セルロースパルプは、第1の量、典型的にはセルロース中の無水グルコース単位1モル当たり1.2〜2.0モル当量の第1の量のアルカリ化剤で処理される。処理は、浴若しくは撹拌槽中に浸漬する又は噴霧する等の当該技術分野において任意の公知の方法によって実施することができる。パルプ中のアルカリ化剤の均一な膨潤及び分布は、混合及び撹拌によって達成され得る。第1の段階において、アルカリ化剤の水溶液のセルロースパルプへの添加速度は、重要ではない。何回か、例えば、2〜4回に分けて、又は連続して添加してよい。通常15〜60分間続く第1の段階のアルキル化中、温度は、典型的に、45℃以下で維持される。
【0036】
更に、塩化メチル及び/又は硫酸ジメチル等の少なくとも1つのメチル化剤を、第1の量のアルカリ化剤の前、後、又は同時に、好ましくはアルカリ化剤の添加前に、プロセスの第1の段階の間にセルロースパルプに添加する。第1の段階でのみ添加する場合、少なくとも1つのメチル化剤は、典型的に、無水グルコース単位1モル当たりメチル化剤3.5〜5.3モルの量で添加されるが、任意の事象において、第1の段階で添加されるアルカリ化剤に比べて少なくとも等モル当量で添加される。第1の段階で用いられる少なくとも1つのメチル化剤は、任意の従来の懸濁化剤と予め混合してもよい。この場合、懸濁化剤及び少なくとも1つのメチル化剤の総重量に基づいて、20〜50重量%、より好ましくは30〜50重量%の懸濁化剤を含む混合物が好ましく用いられる。
【0037】
セルロースが第1の量のアルカリ化剤で処理され、好ましくは45℃以下の温度でも実施される少なくとも1つのメチル化剤及び第1の段階の可能性のある更なる成分の添加が完了したら、反応混合物を、典型的には30〜80分以内に、少なくとも75℃、好ましくは80〜100℃の範囲、より好ましくは80〜90℃の範囲の反応温度に加熱する。通常、反応は、次いで、10〜30分間この反応温度で進行させる。
【0038】
続いて、プロセスは、反応混合物への更なる量のアルカリ化剤の添加、及び各個別の更なる段階について任意で、更なる量の少なくとも1つのメチル化剤の添加を含む少なくとも1つの更なる段階を含む。少なくとも1つの更なる段階において水溶液として合計で添加される更なるアルカリ化剤の総量は、典型的に、無水グルコース単位1モル当たり1.0〜2.9モル当量のアルキル化剤の範囲である。好ましくは、第1の段階で添加されるアルカリ化剤の量と少なくとも1つの更なる段階において合計で添加されるアルキル化剤の量とのモル当量比は、0.6:1〜1.2:1である。少なくとも1つの更なる段階ではアルカリ化剤をゆっくりと、即ち、1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.04モル当量未満、好ましくは0.035モル当量未満、より好ましくは0.03モル当量未満のアルカリ化剤の速度で反応混合物に添加することが重要である。
【0039】
典型的に、少なくとも1つのメチル化剤は、無水グルコース単位1モル当たり2〜5.3モルの範囲の総量で用いられる。少なくとも1つのメチル化剤が、第1の段階だけではなく少なくとも1つの更なる後続段階、好ましくは1つの更なる段階でも添加される場合、典型的に、第1の段階では無水グルコース単位1モル当たりメチル化剤2.0〜2.5モルの量で、少なくとも1つの更なる段階では無水グルコース単位1モル当たりメチル化剤1.5〜3.4モルの総量で添加される。第1の段階で添加される少なくとも1つのメチル化剤の量と少なくとも1つの更なる段階において合計で添加される少なくとも1つのメチル化剤の量とのモル当量比は、好ましくは、0.68:1〜1.33:1である。しかし、任意の場合、少なくとも1つのメチル化剤が第1の段階のみで用いられるか、少なくとも1つの更なる後続工程でも用いられるかにかかわらず、一般的に、ある量の少なくとも1つのメチル化剤が反応混合物に添加される各段階に関して、及びプロセスで用いられる少なくとも1つのメチル化剤及びアルカリ化剤の総当量に関して、アルカリ化剤と比べて少なくとも等モル当量で用いられる。少なくとも1つのメチル化剤の種類及び添加速度は、特に限定されないが、好ましくは、少なくとも1つのメチル化剤は、連続的に、及び/又は1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.25〜0.5モル当量のメチル化剤の範囲の速度で添加される。セルロースが、アルカリ化剤と比べて少なくとも等モル当量の少なくとも1つのメチル化剤と連続的に接触するように、その段階の更なる量のアルカリ化剤の添加前又は添加中に、少なくとも1つの更なる段階(本明細書で使用するとき)のそれぞれにおいて少なくとも1つのメチル化剤を反応混合物に添加することが好ましい。
【0040】
アルカリ化剤及び/又は少なくとも1つのメチル化剤は、典型的に50℃、好ましくは55℃、より好ましくは65℃と100℃、好ましくは90℃、より好ましくは85℃との間の範囲の温度で少なくとも1つの更なる段階の間に反応混合物に添加される。反応混合物の温度は、加熱及び/又は冷却によって各段階前、中、又は後に調整してよい。各更なる段階後、反応混合物を、反応が進行する期間にわたって反応温度で維持してよい。
【0041】
添加される少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤は、任意の一般的なヒドロキシアルキル化剤から選択してよく、前記ヒドロキシアルキル化剤は、上記本発明にかかるセルロースエーテルに好適であると指定されるセルロースヒドロキシアルコキシ置換基のヒドロキシル基とのエーテル化反応によって導入する。例えば、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド等のエポキシドをヒドロキシアルキル化剤として用いて、ヒドロキシエトキシ及び/又はヒドロキシプロポキシ置換基をセルロースエーテルに導入することができる。単一又は1種超のヒドロキシアルキル化剤を用いてよく、好ましくはヒドロキシアルキル化剤を1つだけ用いてよい。少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤は、典型的に、無水グルコース単位1モル当たりに、少なくとも1つのヒドロキシアルキル化剤を0.2〜2.0モルの量で添加される。それは、反応混合物を75℃以上の温度、即ち、20℃〜75℃の範囲の温度に加熱する前に添加することが有利である。
【0042】
任意で使用されるメチル化剤とは異なる少なくとも1つのアルキル化剤は、任意の公知のアルキル化剤から選択してよく、上記アルキル化剤は、上記本発明にかかるセルロースエーテルに好適であると指定されるメトキシ基とは異なるセルロースアルコキシ置換基のヒドロキシル基とのエーテル化反応によって導入する。非限定的な例としては、塩化エチル、臭化エチル、又はヨウ化エチル、硫酸ジエチル及び/又は塩化プロピルが挙げられる。典型的に、メチル化剤とは異なる少なくとも1つのアルキル化剤は、無水グルコース単位1モル当たりに、メチル化剤とは異なる少なくとも1つのアルキル化剤を0.5〜6モルの範囲の量で添加される。それは、反応混合物を75℃以上の温度、即ち、20℃〜75℃の範囲の温度に加熱する前に添加することが有利である。
【0043】
必要に応じて、ジメチルエーテル等の不活性有機溶媒を、希釈剤及び冷却剤として反応混合物に更に添加してよい。任意で、反応器のヘッドスペースを排気及び/又は窒素等の不活性ガスで吹き込みして、酸素により触媒される、アルカリセルロースの解重合を制御してよい。
【0044】
上記多段階エーテル化の完了後、得られるセルロースエーテルは、典型的に、更に精製、乾燥、及び/又は粉砕される。通常、セルロースエーテルは、塩及び他の反応副生成物を除去するために洗浄される。エーテル化反応の副生成物として形成される塩が可溶性である任意の溶媒を使用してよいが、通常、水が用いられる。セルロースエーテルは、反応器内で洗浄してよいが、好ましくは、反応器の下流に位置する別個の洗浄器内で洗浄される。洗浄前又は後に、セルロースエーテルは、残留揮発性有機化合物の含量を低減するために、例えば、蒸気に曝露することによって揮散させてよい。
【0045】
セルロースエーテルは、水分及び他の揮発性化合物が、セルロースエーテル、水、及び他の揮発性化合物の重量の合計に基づいて、好ましくは0.5〜10.0重量%、より好ましくは0.8〜5.0重量%になるように乾燥させて、水分及び他の揮発性化合物の含量を低減させてよい。乾燥は、トレー乾燥機、流動床乾燥機、フラッシュ乾燥機、撹拌乾燥機、又はチューブ乾燥機等の従来の乾燥機を用いて実施してよい。水分及び他の揮発性化合物の含量を減少させることにより、セルロースエーテルを粒子形態に粉砕することができる。
【0046】
乾燥したセルロースエーテルは、ボールミル、衝撃粉砕機、ナイフグラインダー、又はエアスウェプトインパクトミル等の当該技術分野において公知の任意の好適な手段によって所望の大きさの粒子に粉砕してよい。必要に応じて、乾燥及び粉砕を同時に実施してもよい。
【0047】
多段階エーテル化プロセスによって得ることができるセルロースエーテルは、10〜50℃の範囲の温度における優れた溶解特性に加えて、極めて高いゲル強度、比較的低いゲル化温度(50〜70℃の範囲であり得る)を有し得る。このことから、上記セルロースエーテルは、本発明にかかる建設用途に、及び本発明にかかる建築用組成物の添加剤として使用するのに非常に魅力的である。
【0048】
用語「建築用組成物」は、建設用途で用いられるセメント(ポルトランド、アルミナ、トラス、スラグ、マグネシア、又はリン酸セメント)、焼き石こう、及び水ガラス等の任意の化学組成物を意味し、即ち、これらは、地面に固定されている建造物及び/又は他の建設構造物を形成するか、又は組み立てる、設置する、備え付ける、及び/若しくは維持するために用いられる構造的建設要素を形成する、設置する、保護する、装飾する、修復する、彩色する、封止する、コーティングする、又は結合させるために用いられる。構造的建設要素は、個々の固体成分であり、これは、壁、屋根、天井、床、柱、鋼梁、木梁、れんが、タイル、又は断熱板等の地面に固定されている建造物及び/又は他の建設構造物(例えば、橋)の構造を画定するのに寄与する。本発明の建築用組成物は、水硬し、例えば、モルタル、コンクリート、グラウト、プラスター、スタッコ、接着剤、壁/天井調質剤、下塗り、又は封止スラリーであってよい。好ましくは、本発明にかかる水硬性建築用組成物は、乾燥モルタル組成物、防水層用組成物、外断熱複合システム(ETICS)又は外断熱仕上げシステム(EIFS)等の断熱システム用ミネラルコーティング、セルフレべリング床モルタル組成物、補修モルタル、タイルグラウトモルタル、又はセメント系タイル接着剤(CBTA)である。より好ましくは、セメント系タイル接着剤である。
【0049】
本発明の建築用組成物は、上記の通り少なくとも1つのセルロースエーテルを含む。セルロースエーテルは、建築用組成物の総乾燥重量に基づいて、0.05〜15重量%、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜1.0重量%の量で存在してよい。
【0050】
更に、本発明の方法で用いられる建築用組成物は、少なくとも1つの水硬性材料を含む。用語「水硬性材料」とは、建設分野で用いられる材料であって、典型的には微粉砕されており、適切な量の水を添加した際に、水の存在下に加えて空気中の水和によって固化し得る結合ペースト又はスラリーを形成する材料を意味する。典型的に、少なくとも1つの水硬性材料は、セメント質材料である。好ましくは、ポルトランドセメント、シリカセメント、アルミナセメント、及び/又はフライアッシュセメント等のセメントである。より好ましくは、少なくとも1つの水硬性材料は、ポルトランドセメント、特にCEM I、II、III、IV、及び/若しくはV型のポルトランドセメント、並びに/又はアルミナセメントである。建築用組成物は、建築用組成物の総乾燥重量に基づいて、5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、同時に70重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下の少なくとも1つの無機材料を含んでよい。
【0051】
本発明にかかる建築用組成物は、上記少なくとも1つのセルロースエーテル及び少なくとも1つの水硬性材料に加えて、任意で、少なくとも1つの充填剤及び/又は更なる添加剤を含んでよい。
【0052】
一般的に好適な充填剤は、5mm以下の寸法を有する無機粒子である。存在する場合、少なくとも1つの充填剤は、好ましくは、ケイ砂、石灰岩、白亜、大理石、粘土、アルミナ、タルク、バライト、中空微小球体、ガラス、及びアルミナシリケート、例えば、膨張粘土、膨張ガラス、並びに発泡体、軽石、及び噴石等の天然鉱物に基づく多孔質充填剤、並びにバルキングバーミキュライトの群から選択される。建築用組成物は、建築用組成物の総乾燥重量に基づいて、1重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、同時に70重量%以下、より好ましくは65重量%以下の少なくとも1つの充填剤を含んでよい。
【0053】
任意の更なる添加剤は、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルとは異なり、加速剤、遅延剤、再分散性粉末(RDP)、合成及び/又は天然ポリマー、分散剤、界面活性剤、色素、減水剤、消泡剤、空気連行剤、腐食防止剤、及び/又は高分子高性能減水剤等の先行技術の建築用組成物で用いられる任意の従来の添加剤であってよい。本発明の建築用組成物は、建築用組成物の総乾燥重量に基づいて、合計で0.001重量%〜5重量%のこれら添加剤を含んでよい。
【0054】
加速剤として、水硬性材料の水和を加速することができる任意の材料を用いてよい。好適な加速剤は、例えば、金属の塩化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、炭酸塩等の無機塩(金属は、例えば、ナトリウム又はカルシウムである)、水ガラス、アルミナ、ギ酸カルシウム及び酢酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩である。
【0055】
必要に応じて、硬化プロセスを遅延させるために1以上の遅延剤を添加してよい。遅延剤の例は、クエン酸若しくはグルコン酸等のヒドロキシカルボン酸、並びにこれらの無機塩、グルコース、フルクトース、若しくはサッカロース等の糖類、オリゴ糖、又はホウ酸を含む。
【0056】
再分散性粉末は、一般的に、保護コロイド及び/又は固化防止剤等の様々な添加剤の存在下で乳化重合させ、次いで、噴霧乾燥することによって調製される。RDPは、好ましくは、スチレン、ブタジエン、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、及びアクリレートの群から選択される少なくとも1つのモノマーの重合又は共重合によって得られるホモポリマー、コポリマー、又はターポリマーから作製される。例としては、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルコポリマー、及びスチレン/アクリルコポリマー等のビニルエステル−エチレンコポリマーが挙げられる。RDPは、水等の溶媒中でポリマー粒子の粉末又は分散体として建築用組成物に添加してよい。
【0057】
本発明にかかるセルロースエーテルは、唯一の増粘剤として用いてよいが、建築用組成物のレオロジーを制御するために更なる増粘剤として1以上の合成及び/又は天然ポリマーを用いることもできる。好適な合成ポリマーの例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、及びラウリル酸ビニルのコポリマー、並びにアクリレートが挙げられ、ポリアクリルアミドが好ましい。天然ポリマーとして、例えば、ペクチン、ゼラチン、カゼイン、グアーガム、デンプン誘導体、及び/又は先行技術において公知のセルロース誘導体(デンプンエーテルが好ましい)を本発明の建築用組成物において用いてよい。本発明の建築用組成物に添加する場合、本発明にかかるセルロースエーテルの重量に基づいて、合成ポリマー増粘剤の量は、0.01〜10重量%であってよく、及び/又は天然ポリマー増粘剤の量は、10重量%〜50重量%であってよい。
【0058】
驚くべきことに、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルを含む水硬性建築用組成物は、EN 1348(Technical Committee CEN/TC 67「Ceramic tiles」(11/2007))に準拠して、熱貯蔵条件後の接着強度が著しく高く、硬化がより早く、より穏やかに始まり、かつ従来の同等のヒドロキシアルキルメチルセルロースを含む類似の建築用組成物の場合よりも短い時間で達成されることが見出された。他の貯蔵条件下での接着強度、加工性、異なる基板材料との整合性、滑り抵抗性、風乾時間、修正時間、及び可使時間等の建築用組成物の他の塗布特性も同様に改善され得るか、又は少なくとも著しく損なわることはない。したがって、本発明にかかる少なくとも1つのセルロースエーテルは、水硬性建築用組成物、好ましくは、乾燥モルタル組成物、防水層用組成物、外断熱複合システム(ETICS)又は外断熱仕上げシステム(EIFS)等の断熱システム用ミネラルコーティング、セルフレべリング床モルタル組成物、補修モルタル、タイルグラウトモルタル、又はセメント系タイル接着剤(CBTA)の群から選択される水硬性建築用組成物で用いてよい。より好ましくは、セメント系タイル接着剤において用いられる。この使用は、特に、水硬性建築用組成物の熱貯蔵条件後の接着強度及び/又は硬化特性を少なくとも改善するためのものであってよい。したがって、本発明にかかるセルロースエーテルは、その塗布特性を損なうことなく、建築用組成物の製剤においてより低いレベルでコスト効率の高いセルロースエーテル添加剤を使用できることによって、建築用組成物の性能を向上させる及び/又はコストを抑えることを目的とする。
【0059】
本発明の少なくとも1つのセルロースエーテルは、例えば、EN 1346(Technical Committee CEN/TC 67「Ceramic tiles」(11/2007))又はEN 1348(Technical Committee CEN/TC 67「Ceramic tiles」(11/2007))に記載されている方法等の従来の方法に従って、本発明にかかる建築用組成物に配合することができる。例えば、本発明の建築用組成物は、上記のように、少なくとも1つの水硬性材料及び用いられる場合、任意の他の任意成分と少なくとも1つのセルロースエーテルとを十分混合することによって調製することができる。好ましくは、全ての固体成分を混合することによって均質な乾燥ブレンドが調製される。この場合、ポリマー分散体等の任意の液体成分、及びもし添加する場合適切な量の水は、建築用組成物の塗布直前に乾燥ブレンドに添加し、十分に混合する。添加される水の量は、それぞれの塗布について建築用組成物の所望の稠度が得られるように一般的に調整される。典型的に、水は、得られる湿潤混合物100重量部当たり、10〜40重量部の量で添加される。
【0060】
建築用組成物を少なくとも1つの構造的組成物要素に塗布する本発明にかかる方法では、上記の本発明にかかる任意の建築用組成物を使用してよい。このような建築用組成物は、上に説明した通り提供してよい。構造的組成物要素と建築用組成物とを接触させる工程は、塗布の種類に応じて、当該技術分野において公知の様々な方法によって実施することができる。例えば、限定するものではないが、建築用組成物は、こて、スパチュラ、ブラシ、ローラー、ナイフ塗布器を用いて、又は注ぐ、浸漬する等によって、手動で若しくは自動で構造的組成物要素と接触させてもよい。タイルを敷きつめるという特定の場合、建築用組成物は、典型的に、タイルの1つの主側面並びに/又はタイルを敷きつめる床及び/若しくは壁に、例えば、こてを用いて塗布される。建築用組成物を硬化させる後続工程は、少なくとも1つの構造的組成物要素を用いて、目的とする最終的な空間配置に建築用組成物を固める及び/又は強化するのに十分な時間を提供することを含む。典型的に、硬化は、数時間の時間枠において達成される。
【0061】
本発明の幾つかの実施形態を以下の実施例に詳細に記載する。特に明示的に指定しない限り、全ての百分率は重量による。「EN」は、欧州規格を意味し、接頭語として試験方法の試験方法番号を指定する。試験方法は、特に明記しない限り、この文書の優先日の最新の試験方法である。
【実施例】
【0062】
実施例1
本発明のヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)を以下の手順に従って生成した。微粉砕した木材セルロースパルプをジャケット付撹拌反応器にロードした。反応器を排気し、窒素を吹き込みして酸素を除去し、次いで、再度排気した。2つの後続工程において反応を実施した。第1の段階では、セルロース中無水グルコース単位1モル当たり5.8モルのジメチルエーテルと2.3モルの塩化メチルとをセルロースに噴霧し、温度を40℃に調整した。この添加後、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、40℃で、20分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.8モルの量で添加した。混合物を40℃で5分間撹拌した後、無水グルコース単位1モル当たり0.3モルのエチレンオキシドを、8分間かけて反応器に添加した。次いで、反応器の内容物を60分間以内に80℃まで加熱した。80℃に達した後、第1の段階の反応を80℃で25分間進行させた。
【0063】
第1の段階の反応から得られた反応混合物に80℃で5分間かけて無水グルコース単位1モル当たり塩化メチル2.5モル当量の量で塩化メチルを添加することによって、反応の第2の段階を開始させた。次いで、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、60分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.8モルの量で80℃にて添加した。添加速度は、1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.03モルの水酸化ナトリウムであった。第2の段階の水酸化ナトリウムの添加が完了した後、反応器の内容物を更に90分間80℃の温度で維持した。
【0064】
次いで、反応器を通気し、50℃に冷却した。反応器の内容物を除去し、温水を収容しているタンクに移した。次いで、粗HEMCをギ酸で中和し、AgNO
3凝集試験によって評価したときに塩化物がなくなるまで温水で洗浄した。次いで、精製HEMCを室温まで冷却し、エアスウェプト乾燥機において55℃で乾燥させ、次いで、0.3mmの篩を用いてAlpine UPZミルで粉砕した。
【0065】
実施例2
第1の段階において反応混合物に添加するNaOHの量を無水グルコース単位1モル当たり1.6モルの水酸化ナトリウムにしたことを除いて、実施例1に記載の通り本発明の別のHEMCを調製した。
【0066】
実施例3
第1の段階において反応混合物に添加する水酸化ナトリウムの量を無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.6モルにし、反応混合物に添加するエチレンオキシドの量を無水グルコース単位1モル当たりエチレンオキシド0.42モルにしたことを除いて、実施例1に記載の通り本発明にかかる別のHEMCを調製した。
【0067】
実施例4
第1の段階において反応混合物に添加する水酸化ナトリウムの量を無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.4モルにし、第2の段階において反応混合物に添加する水酸化ナトリウムの量を無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム2.0モルにし、反応混合物に添加するエチレンオキシドの量を無水グルコース単位1モル当たりエチレンオキシド0.42モルにしたことを除いて、実施例1に記載の通り本発明にかかる別のHEMCを調製した。
【0068】
実施例5
以下の手順に従って本発明のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を生成した。微粉砕した木材セルロースパルプをジャケット付撹拌反応器にロードした。反応器を排気し、窒素を吹き込みして酸素を除去し、次いで、再度排気した。2つの後続工程において反応を実施した。第1の段階では、セルロースパルプに、無水グルコース単位1モル当たり1.8モルの量の50重量%水酸化ナトリウムを、40℃で5分間かけて添加した。混合物を40℃で30分間撹拌した後、無水グルコース単位1モル当たり1.5モルのジメチルエーテルと2.3モルの塩化メチルとを、40℃でセルロースに噴霧した。この添加後、無水グルコース単位1モル当たり0.4モルのプロピレンオキシドを5分間以内に反応器に添加した。次いで、反応器の内容物を60分間以内に80℃まで加熱した。80℃に達した後、第1の段階の反応をこの温度で5分間進行させた。次いで、反応器の内容物を20分間以内に55℃まで冷却した。
【0069】
第1の段階の反応から得られた反応混合物に、55℃で5分間かけて無水グルコース単位1モル当たり塩化メチル2.3モル当量の量で塩化メチルを添加することによって、反応の第2の段階を開始させた。次いで、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、90分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム2.6モルの量で55℃にて添加した。添加速度は、1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.03モルの水酸化ナトリウムであった。第2の段階の水酸化ナトリウムの添加が完了した後、反応器の内容物を20分間で80℃まで加熱し、90分間この温度で維持した。
【0070】
得られたセルロースエーテルの後続の精製、洗浄、及び乾燥工程は、実施例1〜4に記載の通り実施した。
【0071】
比較のために、先行技術のプロセスに従って以下のヒドロキシエチルメチルセルロースを調製した。
【0072】
比較例A
微粉砕した木材セルロースパルプをジャケット付撹拌反応器にロードした。反応器を排気し、窒素を吹き込みして酸素を除去し、次いで、再度排気した。2つの後続工程において反応を実施した。第1の段階では、セルロース中無水グルコース単位1モル当たり5.8モルのジメチルエーテルと2.74モルの塩化メチルとをセルロースに噴霧し、温度を65℃に調整した。この添加後、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、18分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム2.28モルの量で添加した。水酸化ナトリウム溶液を添加しながら、反応混合物を46℃に冷却した。混合物を46℃で2分間撹拌した後、無水グルコース単位1モル当たり0.3モルのエチレンオキシドを、8分間かけて反応器に添加した。次いで、反応器の内容物を70分間以内に70℃まで加熱した。
【0073】
第1の段階の反応から得られた反応混合物に、70℃で5分間かけて無水グルコース単位1モル当たり塩化メチル1.86モル当量の量で塩化メチルを添加することによって、反応の第2の段階を開始させた。次いで、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、30分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.1モルの量で70℃にて添加した。添加速度は、1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.036モルの水酸化ナトリウムであった。水酸化ナトリウム溶液の第2の段階の添加が完了した後、反応器の内容物を20分以内に70℃〜80℃の温度に加熱し、次いで、更に50分間80℃で維持した。
【0074】
得られたセルロースエーテルの後続の精製、洗浄、及び乾燥工程は、実施例1〜4に記載の通り実施した。
【0075】
比較例B
反応混合物に添加するエチレンオキシドの量を無水グルコース単位1モル当たりエチレンオキシド0.45モルにしたことを除いて、比較例Aについて記載のプロセスに従って調製した。
【0076】
比較例C
第1の段階に関して実施例3に記載の通り調製を実施した。第1の段階の反応を25分間80℃で進行させた後、反応器を60℃に冷却した。次いで、第1の段階の反応から得られた反応混合物に60℃で5分間かけて無水グルコース単位1モル当たり塩化メチル2.5モル当量の量で塩化メチルを添加することによって、反応の第2の段階を開始させた。次いで、水酸化ナトリウムの50重量%水溶液を、90分間かけて無水グルコース単位1モル当たり水酸化ナトリウム1.8モルの量で60℃にて添加した。添加速度は、1分間当たり無水グルコース単位1モル当たり0.02モルの水酸化ナトリウムであった。第2の段階の添加が完了した後、反応器の内容物を20分以内に80℃に加熱し、次いで、70分間80℃で維持した。反応後の更なる処理は、実施例1〜5及び比較例A及びBに記載の通りであった。
【0077】
比較例D
The Dow Chemical Companyから市販されているヒドロキシプロピスメチルセルロースであるMethocel 228を比較目的のために用いた。
【0078】
実施例及び比較例の調製したセルロースエーテルを以下の通り分析した。
【0079】
セルロースエーテル溶液の調製
調製したセルロースエーテルの均質な1.5重量%水溶液を以下の通り得た:3gのそれぞれのセルロースエーテル(セルロースエーテル粉末の含水量を考慮して)を、700rpmに設定したオーバーヘッドラボラトリスターラを用いて70℃の水197gに10分間懸濁した。次いで、溶液を2℃に冷却し、この温度で5時間保持して、溶解プロセスを完了した。これら5時間の間、溶液を500〜1000rpmで攪拌し、蒸発により喪失した水を補充した。次いで、溶液を一晩冷蔵庫で保存した。更なる分析の前に、冷溶液を100rpmで15分間攪拌した。
【0080】
粘度測定
このように得られた1.5重量%セルロースエーテル水溶液の粘度を、20℃及び2.55s
−1の剪断速度で、円錐平板形状(CP−60/2℃)を有するHaake RS600レオメータ(Thermo Fischer Scientific,Karlsruhe,Germany)で測定した。
【0081】
DS(メトキシ)及びMS(ヒドロキシアルコキシ)の決定
調製したセルロースエーテルのメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシアルコキシ基のモル置換(MS)を、G.Bartelmus and R.Ketterer,Z.Anal. Chem.286(1977),161−190に記載の方法に従って、ヨウ化水素によるZeisel開裂及びそれに続くガスクロマトグラフィーによって測定した。
【0082】
S23/S26の決定
調製したヒドロキシアルキルメチルセルロースについて、以下の通りS
23/S
26を決定した:10〜12mgのセルロースエーテルを、撹拌下で90℃の乾燥分析等級ジメチルスルホキシド(DMSO)(Merck,Darmstadt,Germany、0.3mm分子篩ビーズ上で保存)4.0mLに溶解させ、次いで、再度室温まで冷却した。溶液を一晩室温で撹拌し、確実に完全に溶解させた。セルロースエーテルの溶解を含む反応全体は、乾燥窒素雰囲気を用いて実施した。溶解後、溶解したセルロースエーテルを22mLのスクリューキャップバイアルに移した。粉末状水酸化ナトリウム(新たにすりつぶした、分析等級、Merck,Darmstadt,Germany)及びヨウ化エチル(合成用、銀で安定化、Merck−Schuchardt,Hohenbrunn,Germany)を、無水グルコース単位のヒドロキシル基を参照して、30倍のモル当量過剰の試薬水酸化ナトリウム及びヨウ化エチルで添加し、溶液を周囲温度で3日間暗条件下で窒素下にて激しく撹拌した。これら試薬の最初の添加に比べて3倍の量の試薬水酸化ナトリウム及びヨウ化エチルを添加し、更に室温で2日間更に撹拌することにより過エチル化を繰り返した。反応過程中確実に良好に混合するために、反応混合物を1.5mL以下のDMSOで希釈した。次いで、5重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液5mLを反応混合物に注ぎ入れ、次いで、得られた溶液を4mLのジクロロメタンで3回抽出した。合わせた抽出物を2mLの水で3回洗浄し、次いで、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、穏やかな窒素流中で溶媒を除去し、更なるサンプル調製まで過エチル化サンプルを4℃で保存した。
【0083】
約5mgの過エチル化サンプルを、100℃で撹拌しながら、90%水性ギ酸1mLを用いて、2mLのスクリューキャップバイアル内で窒素下にて1時間加水分解した。35〜40℃の窒素流中で酸を除去し、撹拌下で不活性窒素雰囲気中にて120℃で3時間2Mの水性トリフルオロ酢酸1mLを用いて加水分解を繰り返した。完了後、共蒸留のためにトルエン1mLを用いて周囲温度で窒素流中にて酸を除去し、乾燥させた。
【0084】
撹拌下で室温にて3時間かけて2Nアンモニア水溶液(新たに調製)中0.5Mボロ重水素化ナトリウム0.5mLを用いて加水分解残渣を還元した。200μLの濃酢酸を滴下することによって過剰の試薬を分解した。得られた溶液を35〜40℃の窒素流中で蒸発乾固させ、次いで、室温で15分間真空乾燥させた。粘性残渣をメタノール中15%酢酸0.5mLに溶解させ、室温で蒸発乾固させた。これを5回行い、純メタノールで4回繰り返した。最後の蒸発後、サンプルを室温で一晩真空乾燥させた。
【0085】
還元残渣を90℃で3時間、無水酢酸600μL及びピリジン150μLでアセチル化した。冷却後、サンプルバイアルにトルエンを充填し、室温で窒素流中で蒸発乾固させた。残渣を4mLのジクロロメタンに溶解させ、2mLの水に注ぎ、2mLのジクロロメタンで抽出した。抽出を3回繰り返した。合わせた抽出物を4mLの水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。次いで、乾燥したジクロロメタン抽出物をGC分析に送った。
【0086】
Hewlett Packard 5890A及び5890AシリーズIIガスクロマトグラフ(Gerstel GmbH&Co.KG,Mulheim(Ruhr))(J&WキャピラリーカラムDB5(30m、内径0.25mm、0.25μmのフェーズ層厚さ、1.5バールのヘリウムキャリアガスで動作する)を用いてガス−液体(GLC)クロマトグラフィー分析を実施した。ガスクロマトグラフは、60℃で1分間保持、20℃/分の速度で200℃まで加熱、4℃/分の速度で更に250℃まで加熱、20℃/分の速度で更に310℃まで加熱、更に10分間その温度で保持という温度プロファイルでプログラム化されていた。注入器温度は280℃に設定し、水素炎イオン化検出器(FID)の温度は、300℃に設定した。サンプル1μLを0.5分のバルブ時間でスプリットレスモードで注入した。データを取得し、LabSystems Atlasワークステーションで処理した。
【0087】
FID検出を用いたGLCによって測定したピーク面積から定量的にモノマー組成データを得た。表1に示す修正ECN増分を用いたことを除いて有効炭素数(ECN)の概念に従ってモノマーのモル応答を計算した。有効炭素数の概念は、Ackman(R.G.Ackman,J.Gas Chromatogr.,2(1964)173−179 及びR.F.Addison,R.G.Ackman,J.Gas Chromatogr.,6(1968)135−138)に記載されており、Sweet et.al(D.P.Sweet,R.H.Shapiro,P.Albersheim,Carbohyd.Res.,40(1975)217−225)による部分的にアルキル化された酢酸アルジトールの定量分析に適用された。
【表1】
【0088】
モノマーの様々なモル応答を補正するために、ピーク面積にモル応答係数(MRF
モノマー)を乗じたが、この係数は、2,3,6−Meモノマー、即ち、無水グルコース単位の2−、3−、及び6−位におけるヒドロキシル基がメトキシ基によって置換されている無水グルコース単位に対応するモノマー単位に対する応答として定義される:
【数1】
【0089】
2,3,6−Meモノマーは、S
23/S
26の決定において分析した全てのサンプル中に存在していたので、レファレンスとして選択した。
【0090】
各モノマーのモル分率、及びそれによって、異なる置換を有する各対応する無水グルコース単位を、それぞれの補正されたピーク面積を補正されたピーク面積の合計で除することによって計算した。次いで、S
23及びS
26を、以下の等式に従って計算した:
【数2】
及び
【数3】
式中、S
23は、無水グルコース単位のモル分率の合計であり、
a)無水グルコース単位の2−及び3−位における2つのヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、6−位におけるヒドロキシル基は、置換されていない(23−Me)
b)無水グルコース単位の2−及び3−位における2つのヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、6−位におけるヒドロキシル基は、メチル化ヒドロキシアルコキシ基によって(=23−Me−6−HAMe)又は2つのヒドロキシアルコキシ基を含むメチル化側鎖によって(23−Me−6−HAHAMe)置換されている
c)無水グルコース単位の2−及び3−位における2つのヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、6−位におけるヒドロキシル基は、ヒドロキシアルコキシ基によって(=23−Me−6−HA)又は2つのヒドロキシアルコキシ基を含む側鎖によって(=23−Me−6−HAHA)置換されている
そして、式中、S
26は、無水グルコース単位のモル分率の合計であり、
a)無水グルコース単位の2−及び6−位における2つのヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、3−位におけるヒドロキシル基は、置換されていない(26−Me)
b)無水グルコース単位の2−及び6−位における2つのヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、3−位におけるヒドロキシル基は、メチル化ヒドロキシアルコキシ基によって(=26−Me−3−HAMe)又は2つのヒドロキシアルコキシ基を含むメチル化側鎖によって(26−Me−3−HAHAMe)置換されている
c)無水グルコース単位の2−及び6−位におけるヒドロキシル基は、それぞれ、メトキシ基によって置換されており、3−位におけるヒドロキシル基は、ヒドロキシアルコキシ基によって(=26−Me−3−HA)又は2つのヒドロキシアルコキシ基を含む側鎖によって(=26−Me−3−HAHA)置換されている。
【0091】
2超のヒドロキシアルコキシ基を含む側鎖を有する無水グルコース単位の貢献は、ごくわずかであった、即ち、GLC−FID分析の検出限界を下回っていた。
【0092】
温度依存性沈殿及び/又はゲル化特性の決定
調製したセルロースエーテルの温度依存性沈殿及び/又はゲル化特性を特性評価するために、上記の通り調製した各セルロースエーテルの1.5重量%水溶液を、Cup&Bob set−up(CC−27)を備えるAnton Paar Physica MCR 501レオメータ(Ostfildern,Germany)及び振動剪断流において動作するペルチェ温度制御システムを用いて分析した。1分間当たり4データ点のデータ収集速度で、1℃/分の加熱速度で10℃〜85℃にて2Hzの一定周波数及び0.5%の一定ひずみ(変形振幅)で測定を実施した。振動測定から、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を得た。
【0093】
標準(非対称)摂氏温度に対するlogG’及びlogG’’のプロットから、セルロースエーテルの温度依存性沈殿及びゲル化特性を得た。沈殿温度は、G’の極小への顕著な低下がそれぞれのプロット内で観察されると仮定して、
図1に示すようなlogG’対標準(非対称)温度のプロットにおける2本の接線の交点に対応する温度として決定した。第1の接線は、G’の極小への顕著な低下の変曲点よりも20℃低い温度からG’の極小への顕著な低下の変曲点に相当する温度よりも3℃低い温度までの温度間隔において温度上昇に伴うG’の安定した減少に適合していた。第2の接線は、急なG’の減少の変曲点を中心とする1℃の温度間隔における極小へのG’の減少に適合していた。本発明にかかるセルロースエーテルの一部は、logG’対標準(非対称)温度のプロットにおいてG’の極小への顕著な低下を示さなかった。これらの場合、沈殿温度は求められず、検出不可能であるとみなされた。G’の極小への低下は、顕著であるとみなされた、即ち、極小が同じ温度に外挿した第1の接線の値の半分未満である場合、沈殿温度の決定が可能であった。ゲル化温度は、G’/G’’=1である温度として求められた。本発明の幾つかのセルロースエーテルは、G’とG’’との交差点を2つ示した。このよう場合、ゲル化温度は、1℃低い温度においてG’’がG’よりも大きいG’/G’’=1である温度として求められた。ゲル強度は、G’/G’’>1が80℃のこの温度を下回る、即ち、ゲルが形成された80℃の温度におけるセルロースエーテルの1.5重量%水溶液の貯蔵弾性率G’として求められた。
【0094】
実施例1〜5及び比較例A〜Dのヒドロキシアルキルメチルセルロースの求められた置換パラメータ及び物性を以下の表2に列挙する。
【0095】
表2の結果は、[S
23/S
26−0.2*MS]が0.38以下である本発明にかかるセルロースエーテル(実施例1〜5)が、[S
23/S
26−0.2*MS]が0.38超であることを特徴とする、同等のDS、MS、及び粘度を有する従来のヒドロキシアルキルメチルセルロース(比較例A〜D)よりも著しく高いゲル強度G’及び低いゲル化温度を有することを明らかに示す。
【0096】
同等のDS及びMSを有するHEMC(即ち、一方は実施例1〜2及び比較例1であり、他方は、実施例3〜4及び比較例B〜Cである)の中で、ゲル化温度の安定した減少及び[S
23/S
26−0.2*MS]の値の減少に伴うゲル強度G’の安定した増加が観察される。
【0097】
更に、実施例1〜5では沈殿温度が検出不可能であったが、従来のHEMC(比較例A〜C)及びHPMC(比較例D)は、それぞれ、それぞれのゲル化温度よりも3℃以上低い沈殿温度を示す。
【表2】
【0098】
CBTA組成物の調製(実施例6〜10、比較例E〜H)
CEM I型52,5Rの通常のポルトランドセメント(Milke,Germany)、Quarzsand F 32型及びQuarzsand F 36型のケイ砂(Quarzwerke Frechen,Germany)、結合助剤としての再分散性粉末DLP 2000(DWC,Germany)、加速剤としてのギ酸カルシウム(calcium formiate)Mebofix 50(Lanxess,Germany)、及び実施例1〜5又は比較例A〜Dから選択される1つのセルロースエーテルを、均質な乾燥混合物が得られるまで、表3に記載する成分の重量パーセントに相当する量で混合した。次いで、重量に基づいて水対固体が0.205の固定比になる量で、水を乾燥混合物に添加した。均質な湿潤混合物が得られるまで再度混合し、次いで、特に明記しない限り、以下の塗布試験で直接用いた。
【0099】
セメント、ケイ砂、RDP、ギ酸カルシウム、及びセルロースエーテルの含量に関する表3における百分率(%)は、水硬性組成物の総乾燥重量に基づく重量による。単一のセルロースエーテル(実施例1〜5、比較例A〜D)に関する百分率(%)は、製剤中のセルロースエーテル成分の総重量に基づく、製剤中のセルロースエーテル成分の組成を示す(総乾燥製剤の0.40重量%に相当する)。
【0100】
塗布試験
上記の通り調製したセメント系タイル接着剤組成物を、EN 1348(Technical Committee CEN/TC 67「Ceramic tiles」(11/2007))に準拠して熱貯蔵条件後の接着強度について試験した。
【0101】
セメント系タイル接着剤組成物の硬化時間は、Dettki AVM−14−PNS貫入試験機(Dettki Messautomatisierung,Epfendorf,Germany)を用いてVicat針試験によって求めた。この目的のために、82gの水を混合ボウルに入れ、表3に記載のそれぞれのCBTA組成物の乾燥成分の均質な混合物400gを添加し、メカニカルミキサーにおいて30秒間混合した。次いで、混合ボウルの混合ゾーンの外側の壁及び周縁に接着している材料をスパチュラで掻き取り、60秒間以内に混合ゾーンに再度添加した。その後、60秒間機械的混合を再開し、次いで、更に15秒間混合した。次いで、気泡が入らないように注意しながら、また、平滑な平面が形成されるようにスパチュラで過剰な材料を除去しながら、得られた混合物を、内径93mm及び深さ38mmのポリスチレンカップに充填した。次いで、スキンの形成を抑制し、試験針に対する接着剤の接着を防ぐためにサンプル表面をパラフィンオイルで被覆した。次いで、Dettki AVM−14−PNS貫入試験機の適切なホルダにサンプルを入れ、DIN EN 196−3:1994のセクション6.1及び6.2に記載の通り試験針を用いて時間の関数として自動的に貫入深さを測定した。測定した貫入深さを時間に対してプロットするが、ここでは、混合を開始したときの時間をゼロとみなす。直線補間によって、36mmの貫入深さに達するのにかかる時間(分)として初期硬化時間を求める。同様に、2mmの貫入深さに達するのにかかる時間(分)として最終硬化時間を求める。初期硬化時間と最終硬化時間との差が、合計硬化時間である。
【0102】
実施例6〜10及び比較例E〜HのCBTAの熱貯蔵条件後の接着強度及び硬化特性の得られた結果を表3に示す。
【0103】
表3は、同等の、即ち、同等のDS及びMSを有する同種の(それぞれ、HEMC又はHPMC)ヒドロキシアルキルメチルセルロースを含む製剤(第1に、実施例6〜7及び比較例E、第2に、実施例8〜9及び比較例F〜G、第3に、実施例10及び比較例H)の中でも、本発明にかかるセルロースエーテルを含有する製剤は、先行技術にかかるセルロースエーテルを含有する製剤に比べて、熱貯蔵条件後の接着強度が著しく高く、硬化がより早く、より穏やかに始まり、かつ短い合計時間で行われることを示す。したがって、本発明にかかるセルロースエーテルを、添加剤として使用した場合、改善された性能を有する水硬性組成物が得られる。
【表3】