(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169623
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】アプレピタントの調製のための改良された製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 413/06 20060101AFI20170713BHJP
A61P 1/08 20060101ALN20170713BHJP
A61K 31/5377 20060101ALN20170713BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
C07D413/06
!A61P1/08
!A61K31/5377
!A61P43/00 111
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-558255(P2014-558255)
(86)(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公表番号】特表2015-508095(P2015-508095A)
(43)【公表日】2015年3月16日
(86)【国際出願番号】IB2013051440
(87)【国際公開番号】WO2013124823
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年2月16日
(31)【優先権主張番号】495/MUM/2012
(32)【優先日】2012年2月23日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】512098717
【氏名又は名称】ピラマル・エンタープライゼズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Piramal Enterprises Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】ラドカット,プラシャント
(72)【発明者】
【氏名】ワグ,ゲネシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジャグタップ,アシュトシュ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,ミタ
(72)【発明者】
【氏名】ハリハラン,シヴァラマクリシュナン
(72)【発明者】
【氏名】コウケカール,ミリンド
【審査官】
東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0109853(US,A1)
【文献】
特表2005−529881(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0004242(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/116081(WO,A1)
【文献】
Elati, Chandrashekar R. et al.,A convergent approach to the synthesis of aprepitant: A potent human NK-1 receptor antagonist,Tetrahedron Letters,2007年,48(45),8001-8004
【文献】
Brands, Karel M. J. et al.,Efficient Synthesis of NK1 Receptor Antagonist Aprepitant Using a Crystallization-Induced Diastereoselective Transformation,Journal of the American Chemical Society ,2003年,125(8),2129-2135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン(アプレピタント)
【化1】
の調製のための製造方法は、以下の工程を含む:
(a)
式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩を
【化2】
式IIIの2-(2-クロロ-1-イミノエチル)ヒドラジンカルボン酸メチルエステルと
【化3】
炭酸カルシウムおよびジメチルスルホキシドの存在下、縮合することにより、式IVの2-[2-[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]-1-イミノエチル]ヒドラジンカルボン酸メチルエステルを含んでいる反応混合物を得ること;
【化4】
(b)
90℃から110℃の範囲の低温でジメチルスルホキシドおよび極性プロトン溶媒の混合物中で前記反応混合物を加熱することにより、式IVの化合物を含む反応混合物を式Iの化合物にin-situ環化すること;
(c)式Iのアプレピタントを単離すること、
ここで、工程(a)および(b)は、反応混合物から中間体を単離することなく行われる。
【請求項2】
前記工程(b)において、前記反応混合物を加熱する前に、極性プロトン溶媒が、前記反応混合物に加えられる、請求項1の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)において、前記式Iの化合物は、水を使用して単離される、請求項1の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)において、前記式Iの化合物を単離するために酸の使用をさらに含む、請求項3の製造方法。
【請求項5】
前記式Iの単離された化合物がトルエンで処理されることにより、99.5%以上の純度を有する前記式Iの化合物を生成する、請求項1、3または4の製造方法。
【請求項6】
前記極性プロトン溶媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールまたは2-ブタノールから選択される、請求項1または2の製造方法。
【請求項7】
前記極性プロトン溶媒は、水である、請求項6の製造方法。
【請求項8】
前記酸は、塩酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸または硫酸から選択される、請求項4の製造方法。
【請求項9】
前記酸は、酢酸である、請求項8の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン(アプレピタント)の調製のための製造方法に関する。特に、本発明は、アプレピタントの調製のためのin-situ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アプレピタントは、化学的に5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オンとして知られ、構造的には式Iにより以下に示される。
【化1】
アプレピタントは、薬物のサブスタンスP拮抗薬クラスに属する制吐化合物である。アプレピタントは、NK1受容体により発せられたシグナルを遮断し、それゆえに、NK1拮抗薬としても分類される。NK1は、Gタンパク質共役受容体であり、中枢神経系および末梢神経系に位置している。この受容体は、サブスタンスP(SP)として知られている支配的なリガンドを有する。SPは、11個のアミノ酸から構成される神経ペプチドであり、それは、脳からのインパルスやメッセージを送信および受信する。それが脳の嘔吐中枢に高濃度で見出され、活性化されると、嘔吐逆流が起こる結果になる。アプレピタントは、脳神経細胞における受容体上にSPが到達するのを阻害することにより、細胞毒性化学療法薬および術後の吐き気・嘔吐によって誘発される急性および遅発性嘔吐の両方を阻害することが見られている。アプレピタントは、ブランド名Emend(登録商標)でメルク社によって製造されている。
【0003】
式Iのアプレピタントの調製方法は、先行技術文献に開示されている。一般に、製造方法は、式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン、または、その塩と、式IIIの2-(2-クロロ-1-イミノエチル)ヒドラジンカルボン酸メチルエステルとの縮合により、式IVの2-[2-[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]-1-イミノエチル]ヒドラジンカルボン酸メチルエステルを得て、その後、環化されて、アプレピタントを得ることを含む。従来技術に開示されているアプレピタントの調製のための一般的な製造方法は、概略的に以下に示される:
【化2】
ここで、式IIにおいて、Xは、H、または、塩酸塩、シュウ酸塩、カンファースルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸などのような薬学的に許容される塩である。
【0004】
先行技術文献に開示されている式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン、または、その塩からの式Iのアプレピタントの調製のための製造方法は、いくつかの不都合がある。主に、製造方法は、式IIの化合物の式IIIの2-(2-クロロ-1-イミノエチル)ヒドラジンカルボン酸メチルエステルとの縮合のために大量の有機溶媒を使用して、式IVの2-[2-[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]-1-イミノエチル]ヒドラジンカルボン酸メチルエステルを得る。それは、抽出、蒸発、結晶化等のような単離工程を用いて、固体、発泡体、粘性液体、または、液体としての反応混合物から単離される。さらに、アプレピタントを生成するために、式IVの単離された化合物は、高温で有機溶媒の存在下で環化される。その上、反応混合物からの式IVの化合物の単離は、収率の損失になり、それは、結果的に、式IIの化合物からアプレピタントの調製における全収率の損失になる。
【0005】
生成物としてのアプレピタントである5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン、および、薬学的に許容される塩は、米国特許第5719147号に開示されている(以下、US’147特許と呼ぶ)。US’147特許に記載されたアプレピタントの調製のための製造方法は、(a)N,N-ジイソプロピルエチルアミンを塩基として使用して、溶媒としてアセトニトリルの存在下で、室温で20時間、式IIIの化合物ととともに、2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン(以下、「式IIの化合物の遊離塩基」とも呼ぶ)の反応、得られたその反応混合物は、メチレンクロライドと水との間で分離され、分離された有機層は、硫酸マグネシウム上で乾燥され、真空中で濃縮され、結果として生じる反応混合物をフラッシュクロマトグラフィを通過させて、泡状物としての式IVの化合物を得る;(b)式IVの化合物のキシレン溶液は、2時間還流温度で加熱され、その後、結果として生じる反応混合物は、フラッシュクロマトグラフィを通過されて、アプレピタントの79%の収率が得られる、工程を備えている。US’147特許に開示された製造方法は、抽出および蒸発法を用いた反応混合物からの式IVの化合物の単離を必要とする。また、その製造方法は、式IVの化合物およびアプレピタントを得るためにフラッシュクロマトグラフィを使用する。その製造方法の工程(a)は、N,N-ジイソプロピルエチルアミンのような有機塩基と、有機溶媒、すなわちアセトニトリルの約17容量との使用を含んでいる。したがって、アセトニトリルのような高価な有機溶媒のそのような大量の使用、および、フラッシュクロマトグラフィ技術の使用を含んでいる式IVの化合物の単離は、その製造方法を高価で、長く、面倒で、かつ、産業的に利用不能にする。
【0006】
PCT出願公開第2009/116081号(以下、WO’081特許出願と呼ぶ)は、(a)式IIの化合物の遊離塩基をメタノール中でシュウ酸とともに処理して、式IIの化合物のシュウ酸塩を沈殿させること;(b)結果として生じる式IIの化合物のシュウ酸塩を10%水酸化ナトリウム溶液で処理することによりその遊離塩基に転換して、その後、ジメチルスルホキシドの存在下で炭酸カリウムを用いて式IIIの化合物と反応させて、式IVの固体化合物を得ること;(c)キシレンおよびN,N-ジイソプロピルエチルアミン中で4〜6時間、式IVの化合物を含んでいる溶液を還流させて、未精製のアプレピタントを得ること;(d)未精製のアプレピタントを精製して、精製されたアプレピタントを得ること;の工程を備える式Iの調製のための製造方法を開示している。WO’081特許出願に開示された製造方法は、実際長い製造方法である。なぜなら、当該製造方法は、まず式IIの化合物の遊離塩基をそのシュウ酸塩に変換することと、その後、シュウ酸塩を式IIの化合物の遊離塩基に戻すこととを含む製造方法だからである。また、その製造方法は、ステップ(a)における有機溶媒の5容量とステップ(c)における有機溶媒の約9容量との使用を必要とする。したがって、長いだけでなく、有機溶媒の大量の使用を含むアプレピタントの調製のためのそのような製造方法は、それによって製造方法を産業的に不都合にする。
【0007】
PCT出願公開第2009/001203号は、(a)(R)(-)-カンファースルホン酸とともにメチル三級ブチルエステルおよびヘプタン中で式IIの化合物の遊離塩基の溶液を処理して、式IIの化合物のカンファースルホン酸を生成すること;(b)炭酸カリウム、ジメチルホルムアミドおよびジメチルホルムアミド中のN-メチルカルボキシ-2-クロロアセトアミドラゾンの溶液の存在下で、結果として生じる塩を式IIIの化合物と反応させ、反応が完了するまで撹拌する。反応の完了後、水とメチル三級ブチルエステルとを反応混合物に充填し、有機層を分離すること;(c)有機層を濃縮して、式IVの未精製の化合物を得ること;(d)還流するために135℃から140℃の温度で加熱することにより結果として生じる式IVの化合物をキシレン中で溶解することが進められて、その結果、未精製のアプレピタントを得ること;(e)さらに、未精製のアプレピタントを精製して純粋なアプレピタントを得ること、の工程を備える式Iのアプレピタントの調製のための製造方法を開示している。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0004242号明細書(以下、US’242特許出願と呼ぶ)には、式IVの化合物を含む反応混合物を得るための、20℃から23℃の温度でジメチルスルホキシドの存在下で、粉末状の炭酸カリウムを用いて、式IIIの化合物と式IIの化合物の4-メチルベンゼンスルホン酸塩との反応と、得られた反応混合物は水で急冷されてトルエンで抽出されることとが開示されている。抽出されたトルエン層は、その後、水で洗浄され、大気圧下でトルエン層を最大限まで濃縮して、粘性液体残渣を得た。その後、135℃から137℃の温度で2時間加熱されて、固体残渣を得た。固体残渣は、さらなる精製においてアプレピタントを生成した。式IVの混合物からアプレピタントの調製を記述しているUS’242特許出願は、式IVの化合物の環化が溶媒の非存在下で行われたことを報告している。しかしながら、当該特許出願において記載された製造方法は、上述したように実際には、アプレピタントを得るために135℃から137℃の温度で式IVの化合物を含む粘性液体の加熱を記述する。式IVの化合物の環化のために使用された粘性の液体は、大気圧下でトルエン層の濃縮によって得られ、それは、粘性液体中のトルエンの存在を示している。さらに、式IVの化合物の環化は、135℃から137℃の温度で行われ、それは、その反応がトルエンの沸点が110.6℃である時の圧力下で行われたということを示している。
【0009】
米国特許第7847095号(以下、US’095特許と呼ぶ)は、式IIIの化合物とともに式IIの化合物の塩酸塩を、溶媒としてのジメチルスルホキシドとトルエンとの存在下で炭酸カリウムを用いて15℃で反応させることと、式IVの化合物を含んでいる得られた反応混合物は、その後、トルエンと水との間で分離され、有機層は40℃で分離されることとを含む式Iのアプレピタントの調製ための製造方法を開示している。その後、有機層は、40℃の水で洗浄され、大気圧下で部分的に濃縮されて、式IVの化合物を含む反応混合物を与えた。結果として生じる反応混合物は、その後、140℃で3時間加熱され、その後室温に冷却されてもよい。得られた固体は、ろ過および乾燥されて、生成物としてのアプレピタントを得た。結果として生じる生成物(アプレピタント)は、さらにメタノールに溶解されて、ダルコで処理されることにより、85%の全収率で純粋なアプレピタントを得た。US’095特許に開示された製造方法は、アプレピタントの調製のための2つの工程の製造方法を含み、その製造方法は、式IVの化合物の環化の前に式IVの化合物を含む反応混合物の濃縮を含んでいる。また、その製造方法は、反応混合物から式IVの化合物を単離するために抽出および蒸発を含む単離工程を含んでおり、それは、その後、環化の次工程のために使用された。さらに、その製造方法は、環化工程のために140℃のような高温で反応を行うことを含んでおり、それは、その製造方法を産業的に不都合にする。
【0010】
式Iのアプレピタントの製造方法は、生成物の調製のために、費用対効果が高く、単純で、かつ、効率的な製造方法を提供することにより、特に産業適用性の観点に関し、改善されることができ、また、そのことは良好な収率および純度において当該生成物を得る結果となる。引用した先行技術文献に開示されているアプレピタントの調製のための製造方法は、ほとんど、縮合および環化を含む式IIの化合物からアプレピタントの調製のための2つの工程の製造方法を提示しており、そこで、式IVの化合物は、縮合反応後、反応混合物から単離される。また、その製造方法は、アプレピタントを得るために高い反応温度および大量の有機溶媒も含む。したがって、大量の有機溶媒の使用と高温を回避した式IIの化合物からのアプレピタントの調製のための改良された製造方法を開発する必要があり、それは、費用対効果が高く、単純で、かつ、産業的に適用可能である。
【0011】
本発明の発明者らは、いま、式Iのアプレピタントが、改良された製造方法によって式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩から良好な収率および純度において得られたことを見出し、その製造方法は、抽出、蒸発および環化等のようなあらゆる単離工程を使用して式IVの化合物の単離を行うことを回避する、アプレピタントのin-situ調製を含んでいる。また、その製造方法は、アプレピタントを得るための式IIIの化合物と式IIの化合物との縮合のために大量の有機溶媒の使用と、式IVの化合物の環化のために必要とされる高温とを回避している。したがって、本発明は、アプレピタントの調製のための単純で、費用対効果が高く、かつ、産業的に適用可能な製造方法を提供し、それは、急性および遅延化学療法に伴う悪心および嘔吐の治療、および、術後の悪心および嘔吐の予防のために使用される。
[発明の目的]
【0012】
本発明の目的は、式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩から式Iの5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン(アプレピタント)の調製のための改良された製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、アプレピタントを生成するために式IVの化合物がin-situ環化される式Iのアプレピタントの調製のための製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、90℃から110℃の低温で反応溶媒としてジメチルスルホキシドと極性プロトン溶媒との混合物を使用した式IVの化合物のin-situ環化のための製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、75%以上の収率および99.5%以上の純度を有するアプレピタントの調製のための製造方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、アプレピタントの調製のための製造方法を提供することであり、それは、単純で、効果的で、費用対効果が高く、かつ、産業的に有用である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の局面によれば、
(a)炭酸カルシウムおよびジメチルスルホキシドの存在下、式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩を式IIIの2-(2-クロロ-1-イミノエチル)ヒドラジンカルボン酸メチルエステルと縮合して、式IVの化合物を含んでいる反応混合物を得ること;
(b)
90℃から110℃の範囲の低温でジメチルスルホキシドおよび極性プロトン溶媒の混合物中で前記反応混合物を加熱することにより、工程(a)で得られた式IVの化合物を含む反応混合物を式Iの化合物にin-situ環化すること;
(c)式Iのアプレピタントを単離すること、
ここで、工程(a)および(b)は、反応混合物から中間体を単離することなく行われる、工程を備えている、式Iの5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン(アプレピタント)の調製のための改良された製造方法が提供される。
【0018】
本発明の製造方法は、以下のスキームに示されている。
【化3】
【0019】
本発明の別の局面によれば、式Iのアプレピタントの製造方法は、アプレピタントを生成するために式IVの化合物のin-situ環化を含んでおり、これにより、抽出、蒸発、結晶化などのようなあらゆる単離工程を使用した固体、発泡体、粘性液体、液体などの形態における式IVの化合物の単離を回避する。
【0020】
本発明の別の局面によれば、式Iのアプレピタントの調製のための製造方法は、反応混合物からの式IVの化合物の単離を回避する。さらに、その製造方法は、固体、発泡体、粘性液体、液体などの形態において式IVの化合物を単離するために、抽出、蒸発、結晶化などを含んでいるあらゆる単離工程の使用を回避する。
【0021】
本発明の別の局面によれば、式Iのアプレピタントは、75%以上の収率、および、99.5%以上の純度で調製される。
【0022】
本発明の別の局面によれば、本発明の製造方法は、主に、反応混合物からの式IVの化合物の単離を含む先行技術文献において開示された製造方法に関連する不都合を打開する。この単離のプロセスは、固体、発泡体、粘性液体、液体などの形態において式IVの化合物を生成するために、反応混合物の抽出、蒸発、結晶化を含んでいる。また、本発明の製造方法は、大量の有機溶媒の使用および高い反応温度の使用を回避しており、これは、その製造方法を産業的に有用にする。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、式Iの5-[[(2R,3S)-2-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(4-フルオロフェニル)-4-モルフォニリル]メチル]-1,2-ジヒドロ-3H-1,2,4-トリアゾール-3-オン(アプレピタント)の調製のための製造方法に関し、
【化4】
以下の工程を含む:
(a)式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩を
【化5】
式IIIの2-(2-クロロ-1-イミノエチル)ヒドラジンカルボン酸メチルエステルと
【化6】
炭酸カルシウムおよびジメチルスルホキシドの存在下、縮合することにより、式IVの化合物を含んでいる反応混合物を得ること;
【化7】
(b)低温でジメチルスルホキシドおよび極性プロトン溶媒の混合物中で結果として生じる反応混合物を加熱することにより、式IVの化合物を含む反応混合物を式Iの化合物にin-situ環化すること;
(c)式Iのアプレピタントを単離すること、
ここで、工程(a)および(b)は、反応混合物から中間体を単離することなく行われる。
【0024】
本発明の一実施形態において、工程(a)において、式IIの化合物は、10℃から30℃の温度で4〜5時間、塩基としての炭酸カリウムおよび溶媒としてジメチルスルホキシドの存在下で式IIIの化合物とともに反応されて、式IVの化合物を含む反応混合物が得られる。
【0025】
本発明の一実施形態において、工程(b)において、式IVの化合物をin-situ環化するために、式IVの化合物を含んでいる得られた反応混合物は、その後、極性プロトン溶媒とともに処理され、結果として生じる反応混合物は、低温で加熱されて、所望の式Iの化合物が得られる。
【0026】
本発明によれば、「低温」という用語は、90℃から110℃の濃度を意味し、これは、式Iのアプレピタントを生成するために式IVの化合物の環化のための先行技術文献で使用された温度よりも低い。
【0027】
本発明の一実施形態では、工程(b)において、極性プロトン溶媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールまたは2-ブタノールから選択される。
【0028】
本発明の一実施形態では、工程(b)において、式IVの化合物の環化のために使用される極性プロトン溶媒は、水である。
【0029】
本発明の一実施形態では、水は、10℃から30℃の温度で、式IVの化合物を含む反応混合物に加えられる。
【0030】
本発明の一実施形態では、極性プロトン溶媒は、式IVの化合物を含む反応混合物に加えられ、90℃から110℃のような低温で6〜10時間加熱されることによって、式IVの化合物が環化されて、式Iの化合物が得られる。
【0031】
本発明の一実施形態では、式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩からの式Iのアプレピタントの調製のための製造方法は、in-situ、すなわち、いずれの段階でいかなる中間体の単離なしに行われる。本発明の製造方法は、式IVの化合物のin-situ環化を含み、そこで、縮合反応後得られた式IVの化合物を含む反応混合物は、抽出、蒸発、結晶化等のようなこれ以上の単離工程なしに、アプレピタントを生成するために環化されて、固体、発泡体、粘性液体、液体などの形態において式IVの化合物が単離される。
【0032】
本発明の一実施形態において、式IIの化合物と式IIIの化合物とは、炭酸カリウムおよびジメチルスルホキシドの存在下で縮合して、式IVの化合物を含む反応混合物が生成された。
【0033】
水のような極性プロトン溶媒は、その後反応混合物に充填され、そして、結果として生じる反応混合物は、式IVの化合物を環化するために90℃から110℃の低温で加熱されて、所望の式Iのアプレピタントが得られた。
【0034】
本発明の一実施形態において、結果として生じる式Iのアプレピタントは、溶媒としての水を使用して反応混合物から単離され、そこで、水がアプレピタントを含む反応混合物に加えられる。
【0035】
本発明の一実施形態では、水で処理された後に得られた、式Iの化合物を含む反応混合物は、反応混合物に酸を加えることにより反応混合物から単離される。
【0036】
その反応のために使用される酸は、塩酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸または硫酸から選択される。その反応のために用いられる酸は、酢酸である。得られた反応混合物は、65℃から90℃の温度で30分間加熱され、その後、20℃から30℃の温度に冷却されて、式Iの化合物を沈殿させた。
【0037】
本発明の一実施形態において、式Iの単離された化合物Iは、75℃から95℃の温度でトルエンでさらに処理されて、99.5%以上の純度を有する実質的に純粋な式Iのアプレピタントが得られる。
【0038】
本発明の一実施形態において、得られた式Iのアプレピタントは、40℃から70℃の温度でメタノールの存在下で、任意に活性炭を用いて精製されることにより、純粋な式Iのアプレピタントが得られる。
【0039】
本発明によれば、開始物質である式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩と、炭酸カリウムと、ジメチルスルホキシドとが、反応フラスコに充填され、10℃から30℃の温度に冷却される。その後、式IIIの化合物が反応フラスコに充填され、10℃から30℃の温度で4〜5時間撹拌されて、式IVの化合物を含む反応混合物が得られる。その後、水のような極性プロトン溶媒を反応混合物に充填して、結果として生じる反応混合物を90℃から110℃の低温で6〜10時間加熱して、式Iの化合物が得られた。結果として生じる反応混合物は、水を反応混合物に加えることにより反応混合物から単離される;その後、反応混合物のpHが6から7であるこの段階において、酢酸のような酸を反応混合物に加える。結果として生じる反応混合物は、その後、65℃から90℃の温度で30分加熱され、それから、20℃から30℃の温度に冷却されて、生成物である式Iのアプレピタントが沈殿する。その後、トルエンが結果として生じる式Iの化合物に充填され、反応混合物は、75℃から95℃の温度で1時間加熱され、その後、20℃から35℃の温度に冷却されて、式Iの化合物が沈殿する。沈殿物をろ過し、トルエンで洗浄し、真空下で乾燥する。
【0040】
生成物である式Iのアプレピタントは、必要に応じてアプレピタントおよびメタノールを反応フラスコに充填し、反応混合物を40℃から70℃の温度に1時間加熱することにより精製され得る。その後、活性炭が反応混合物に加えられ、加熱が40℃から70℃の温度で1時間継続される。その後、反応混合物は、ろ過され、メタノールで洗浄される。その後、得られたろ液は、冷却され、ろ液に水が滴下された。ろ液は、さらに冷却されて、アプレピタントが得られる。その後、得られたアプレピタントは、ろ過され、真空下で乾燥される。
【0041】
製造方法の開始物質である式IIの2-(R)-[(1R)-1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-3-(S)-(4-フルオロフェニル)モルホリン塩酸塩は、既知の化合物であり、その技術分野において知られた以下の製造方法により当業者によって調製されることが可能である。例えば、式IIの化合物は、米国特許第6600040号に開示された製造方法に従うことにより調製されることが可能である。その製造方法は、テトラヒドロフランの存在下、(2R,2αR)-4-ベンジル-2-[1-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]-1,4-オキサジン-3-オンと4-フルオロフェニルマグネシウムブロミドとの反応を含み、結果として生じる反応混合物は、水素圧下5psiのメタノール中の4-トルエンスルホン酸一水和物および5%Pd/C触媒とともに処理されて、反応混合物が得られた。結果として生じる反応混合物は、さらなる単離工程と、その後の濃塩酸での処理とにより、式IIの化合物を生成する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態の実施を十分に説明する以下の実施例は、説明の目的のためにあることが意図されているだけであり、とにかく本発明の範囲を限定するために考えられるべきではない。
[実施例]
【0043】
実施例1:
1Lの丸底フラスコに式IIの化合物(40g)、ジメチルスルホキシド(100ml)および炭酸カリウム(35g)を充填し、反応混合物を20℃から30℃の温度で15分間を撹拌した。その後、反応混合物は、10℃から30℃の温度に冷却される。その後、反応混合物に式IIIの化合物(14.9g)を充填し、10℃から30℃の温度で4〜5時間反応混合物を撹拌した。その後、水(195ml)を反応混合物に充填し、90℃から110℃の温度に加熱し、6〜10時間保持し、その後、得られた反応混合物に水を加え、90℃から95℃の温度で15分間撹拌した。その後、反応混合物は、40℃から45℃の温度に冷却され、その後、水(〜41ml)における50%酢酸溶液を反応混合物に加え、15分間撹拌した、この段階で反応混合物のpHは6から7である。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら65℃から90℃の温度に加熱され、その後、20℃から30℃の温度に冷却され、1時間撹拌しながら保持されて固体が得られる。その後、得られた固体をろ過し、水で洗浄し、吸気乾燥して固体が得られる。その後、固体にトルエン(280ml)を加え、反応混合物を75℃から95℃の温度で1時間加熱した。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら20℃から35℃の温度に冷却されて、固体が生成される。得られた固体を真空下でろ過し、トルエンで洗浄し、吸気乾燥して、アプレピタントを得る。収率79%および純度99.8%。
【0044】
実施例2:
1Lの丸底フラスコに、式IIの化合物(13.5Kg)、ジメチルスルホキシド(34L)および炭酸カリウム(11.9kg)を充填し、反応混合物を20℃から30℃の温度で15分間撹拌した。その後、反応混合物は、10℃から30℃の温度に冷却される。その後、反応混合物に式IIIの化合物(5kg)を充填し、10℃から30℃の温度で4〜5時間反応混合物を撹拌した。その後、水(68L)を反応混合物に充填し、90℃から110℃の温度に加熱し、6〜10時間保持し、その後、得られた反応混合物に水を加え、90℃から95℃の温度で15分間撹拌した。その後、反応混合物は、40℃から45℃の温度に冷却され、その後、水(〜12.5L)における50%酢酸溶液を反応混合物に加え、15分間撹拌した、この段階で反応混合物のpHは6から7である。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら65℃から90℃の温度に加熱され、その後、20℃から30℃の温度に冷却され、1時間撹拌しながら保持されて固体が得られる。その後、得られた固体をろ過し、水で洗浄し、吸気乾燥して固体が得られる。その後、固体にトルエン(95L)を加え、反応混合物を75℃から95℃の温度で1時間加熱した。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら20℃から35℃の温度に冷却されて、固体が生成される。得られた固体を真空下でろ過し、トルエンで洗浄し、吸気乾燥して、アプレピタントを得る。収率76%および純度99.7%。
【0045】
実施例3:
1Lの丸底フラスコに式IIの化合物(50g)、ジメチルスルホキシド(125ml)および炭酸カリウム(43.87g)を充填し、反応混合物を20℃から30℃の温度で15分間撹拌した。その後、反応混合物は、10℃から30℃の温度に冷却される。その後、反応混合物に式IIIの化合物(18.35g)を充填し、10℃から30℃の温度で4〜5時間反応混合物を撹拌した。その後、水(250ml)を反応混合物に充填し、90℃から110℃の温度に加熱し、6〜10時間保持した。その後、得られた反応混合物に水を加え、90℃から95℃の温度で15分間撹拌した。その後、反応混合物は、40℃から45℃の温度に冷却され、その後、水(〜53ml)における50%酢酸溶液を反応混合物に加え、15分間撹拌した、この段階で反応混合物のpHは6から7である。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら65℃から90℃の温度に加熱され、その後、20℃から30℃の温度に冷却され、1時間撹拌しながら保持されて固体が得られる。その後、得られた固体をろ過し、水で洗浄し、吸気乾燥して固体が得られる。その後、固体にトルエン(350ml)を加え、反応混合物を75℃から95℃の温度で1時間加熱した。その後、反応混合物は、30分間撹拌しながら20℃から35℃の温度に冷却されて、固体が生成される。得られた固体を真空下でろ過し、トルエンで洗浄し、吸気乾燥して、アプレピタントを得る。収率79%および純度99.5%。
【0046】
アプレピタントにメタノール(500ml)を充填し、40℃から70℃の温度で加熱し、1時間撹拌した。その後、活性炭(2.5g)を充填し、1時間撹拌しながら40℃から70℃の温度で加熱した。hyflow bedを通して活性炭をろ過し、メタノールで洗浄する。その後、得られたろ液は冷却され、ろ液に水が滴下された。ろ液は、さらに、冷却して、固体を沈殿させた。得られた固体を真空下でろ過し、メタノール水溶液で洗浄する。真空下で固体を乾燥して、アプレピタントを得る。
【表1】