特許第6169648号(P6169648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169648鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび鋼の連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169648
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20170713BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20170713BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20170713BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
   B22D11/00 A
   B22D11/20 A
   C22C38/00 301Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-129699(P2015-129699)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-13082(P2017-13082A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正典
(72)【発明者】
【氏名】片山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】石割 正敏
(72)【発明者】
【氏名】重歳 恭寛
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−030062(JP,A)
【文献】 特許第3399378(JP,B2)
【文献】 特開2007−290004(JP,A)
【文献】 特許第3876917(JP,B2)
【文献】 特許第3463567(JP,B2)
【文献】 特許第3427804(JP,B2)
【文献】 米国特許第03899324(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/20
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO、SiO、Al及びフッ素化合物を基本成分とする鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の酸化物換算量として、モールドパウダーのCaO’を以下の式(a)で定義した時、CaO’/SiO質量比が0.9以上1.10未満の範囲内にあり、以下の式(b)で表わされるCaF値が15〜25質量%の範囲内とし、Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が0.5質量%以下であり、Liの酸化物換算での含有量が5〜10質量%の範囲内にあり、Al含有量が、6質量%以下(ゼロを含まず)の範囲内にあり、かつモールドパウダーの結晶化温度が1100〜1200℃の範囲内にあることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー:
CaO’=CaOtot−F×(56/38)・・・(a)
CaF値=F×(78/38)・・・(b)
ここで、CaOtot:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ 中の全Ca量のCaO換算量(質量%)
F:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の全F 量(質量%)
【請求項2】
モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のMgO含有量が、6質量%以下である、請求項1記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項3】
請求項1または2記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用い、C量が0.06〜0.25質量%の中炭素鋼の鋳片を、鋳造速度1.4m/分以上で連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造操作において、水冷モールド内の溶鋼表面に添加されるモールドパウダー及びそれを利用した鋼の連続鋳造方法に関し、特に、鋳込み中に鋳片割れを起こし易い亜包晶中炭鋼の鋳込みの際に鋳片割れの起こり難い鋼の連続鋳造用モールドパウダー及びそれを利用した鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造においてモールドパウダーは、水冷モールド(以下、「モールド」という)内の溶鋼表面に添加されて溶融し、以下に示す役割を果たしながら消費される。(1)モールドと凝固シェルの潤滑;(2)凝固シェルの冷却速度のコントロール;(3)溶鋼から浮上する介在物の溶解及び吸収;(4)溶鋼の保温;(5)溶鋼の再酸化防止。上記5つがモールドパウダーの主要な役割である。
【0003】
カーボン(C)含有量が0.06〜0.16質量%の亜包晶中炭素鋼では、その凝固過程でδ相からγ相への包晶変態を伴う凝固収縮が大きく、鋳片割れが発生し易い。鋳片割れを防止するため、(2)の働きによって凝固シェルからモールドへの抜熱を制御し、均一な凝固シェルを形成する必要がある。具体的にはモールド内の凝固シェルを緩やかに冷却すること(以下、「緩冷却」という)で凝固シェルの厚みを均一にすることが有効である。
【0004】
一方、最近は生産性向上のため鋳造速度が1.6m/分を超えるような高速鋳造が指向されるようになってきた。高速鋳造においては、モールド内への溶鋼の供給量が増えることで熱流量が増大するため、鋳造に必要な十分な厚さの凝固シェルを得るためには、冷却速度もそれに伴って速くなる。冷却速度が速くなると、凝固シェルの発達が不安定になり易くなる。そのため高速鋳造では、鋳造速度が遅い鋳造よりも均一な凝固シェルの形成が困難であり、鋳片割れが発生し易くなる。モールドパウダーによる凝固シェルの緩冷却効果は、溶融したモールドパウダー(以下、「パウダースラグ」という)がモールドと凝固シェルの間隙に流れ込み、モールド壁で冷却され、凝固することで形成したスラグフィルム中の結晶による伝熱抵抗の増大によってもたらされる。
【0005】
ところで、前記スラグフィルム中に析出する一般的な結晶種はカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)である。カスピダインの析出を促進し、結晶の緩冷却効果による鋳片縦割れ抑制を目的とした高塩基度モールドパウダーについて、例えば、特許文献1には、CaO、SiO及びフッ素化合物を基本成分とし、下記の(X)式で表されるCaO’の重量%と、SiOの重量%との比CaO’/SiOが1.1〜2.8であり、下記(Y)式で表されるCaF含有率が、下記条件(A)または条件(B)のいずれかを満足し、さらにNaOを0〜25重量%、Cを0〜10重量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー:
(A)CaO’/SiOが1.1以上、1.9以下のときCaF含有率が15〜60重量%
(B)CaO’/SiOが1.9を超えて2.8以下のときCaF含有率が5〜60重量%
ここで、CaO’=T.CaO−F×(56/38)・・・(X)
CaF=F×(78/38)・・・(Y)
が開示されている。特許文献1では、中炭素鋼の鋳片縦割れの対策に関して、スラグフィルム中におけるカスピダインの晶出を促進し、多量のカスピダイン結晶の析出により鋳片緩冷却効果が得られるとしている。そのため、モールドパウダー中のF成分はすべてCaFとして存在するものと仮定し、CaFのCaを除いた残りのCa分をCaOに換算してCaO’と定義し、CaO’のSiOに対する質量%の比CaO’/SiOを高くし、加えてCaFの質量%を調整しようとするものである。
【0006】
また、特許文献2には、CaO、SiO及びフッ素化合物を基本成分とし、0〜10質量%のZrOを含み、かつ下記(a)、(b)及び(c)式を満足することを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー:
1.1≦f(1)≦1.7 ・・(a)
0.18≦f(2)≦0.3 ・・(b)
0.10≦f(3)≦0.20 ・・(c)
f(1)=(CaO)/(SiO (イ)
f(2)=(CaF/((CaO)+(SiO+(CaF) (ロ)
f(3)=(アルカリ金属の弗化物)/((CaO)+(SiO+(アルカリ金 属の弗化物))(ハ)
(CaO)=(WCaO−(CaF×0.718 (A)
(SiO=WSiO2 (B)
(アルカリ金属の弗化物)=WLi2O×1.74+WNa2O×1.35+WK2O
×1.23 (D)
ここで、WCaO、WSiO2、W、WLi2O、WNa2O、WK2O:モールドパウダー中のCaO、SiO、F、LiO、NaO及びKOの含有率(質量%)
が開示されている。特許文献2は、特許文献1の改良に関するもので、カスピダイン結晶の析出を促進するために、モールドパウダー中のF成分はすべてCaF、LiF、NaF、KFとして存在するものと仮定し、CaFのCaを除いた残りのCa分をCaOに換算して(CaO)と定義し、(CaO)のSiOに対する質量%の比(CaO)/SiOを高くし、加えてCaFの質量%及びLiF、NaF、KFの質量%の和で定義されるアルカリ金属のフッ化物の質量%を調整するものである。
【0007】
更に、特許文献3には、CaO、SiO及びフッ素化合物を基本成分とし、下記(A)式で表される(CaO)(重量%)と、SiO含有率(重量%)との比(CaO)/SiOが1.1〜1.9であり、更に、下記(B)式で表されるCaFを15〜60重量%含み、かつNaOを0〜15重量%、MgOを1〜20重量%を含有し、残部がAlを含む不可避的不純物からなることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダ:
ここで、(CaO)=T.CaO−F×(56/38) (A)
CaF=F×(78/38) (B)
T.CaO:パウダ中の全Ca含有率のCa換算量(重量%)
F:パウダ中の全F含有率(重量%)
が開示されている。特許文献3もまた特許文献1の改良に関するもので、カスピダイン結晶の析出を促進するために、モールドパウダー中のF成分は、全てCaFとして存在するものと仮定し、CaFのCaを除いた残りのCa分をCaOに換算して(CaO)と定義し、(CaO)のSiOに対する質量%の比(CaO)/SiOを高くし、加えてCaFの質量%を調整するものである。また、モールドパウダーの溶融状態における粘度、結晶化温度の調整のために、NaO及びMgOの添加量を調整するものである。
【0008】
また、特許文献4には、C量が0.08〜0.25質量%の中炭素鋼の鋳片を、CaO/SiO質量比を1.5〜2.5とし、NaOを2質量%未満、LiOを1質量%以上、結晶化温度1100℃未満に調整したモールドパウダーを用いて、鋳造速度1.6m/分以上で連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法;前記モールドパウダーは、1〜18質量%のCを含むことを特徴とする鋼の連続鋳造方法;C量が0.08〜0.25質量%の中炭素鋼の鋳片を、CaO/SiO質量比を1.5〜2.5とし、NaOを2質量%未満、LiOを1質量%以上、Cを10〜18質量%に調整したモールドパウダーを用いて、鋳造速度1.6m/分以上で連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法が開示されている。特許文献4では、カスピダイン結晶の析出を促進するために、パウダー中Caを全てCaOに換算した値と、パウダー中SiOとの質量比であるCaO/SiOを高くし、かつパウダーの結晶化温度を比較的低位に調整することでモールド内鋳片の潤滑性を確保するためパウダーの結晶化温度を1100℃未満とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3463567号明細書
【特許文献2】特許第3427804号明細書
【特許文献3】特許第3399378号明細書
【特許文献4】特許第3876917号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記モールドパウダーを用いることで亜包晶鋼を含む中炭素鋼の鋳片縦割れ発生率をある程度低減することができるが、近年の高速鋳造を指向した中炭素鋼の連続鋳造においては、鋳片品質に対する要求の厳格化を背景に更なる鋳片割れの抑制が求められており、上記モールドパウダーでは十分な鋳片縦割れの低減に至っていないのが現状である。
また、高速鋳造においては鋳片とモールド間の潤滑性が不足し易いため、拘束性ブレークアウトやブレークアウト予知といった操業上の不具合が生じ易い。鋳片の潤滑性の確保のためには、パウダースラグの粘度が適正であることが必要である。一般的にパウダースラグの粘度が過度に高いと鋳片とモールド間に供給されるパウダースラグが少なくなるため、鋳片とモールド間の潤滑性が不足する。上記モールドパウダーを用いて亜包晶鋼を含む中炭素鋼を高速で鋳造した場合、鋳片縦割れと、鋳片とモールド間の潤滑性を十分に両立できないのが現状である。
【0011】
本発明の目的は、鋳片割れの発生し易い中炭素鋼の高速鋳造において、鋳片割れと、拘束性ブレークアウトやブレークアウト予知といった操業上の不具合を回避することができる鋼の連続鋳造用モールドパウダー及びそれを利用した鋼の連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
モールドパウダーにより、モールド内で高い緩冷却効果を発揮させるためには、十分なカスピダイン結晶の析出が不可欠である。カスピダインは、CaOと、SiOと、CaFとが、モル比でCaO:SiO:CaF=3:2:1の割合で結合した化合物であり、従来の中炭素鋼用モールドパウダーにおいては、この化学組成に近くなるような設計が指向されてきた。
しかし、モールドパウダーは、カスピダインの成分であるCaO、SiO、CaFの他に、Al、MgO、LiO、NaO、KOなど多くの成分を含有しており、カスピダインの析出過程は、CaO、SiO、CaF以外の成分の影響を受けると考えられる。そこで、(1)カスピダイン結晶析出量に対するアルカリ金属元素の影響及び(2)カスピダイン結晶の析出を促進する最適CaO/SiO質量比を調査することで、カスピダインの析出を促進できる手法を検討した。
【0013】
(1)カスピダイン結晶析出量に対するアルカリ金属元素の影響
一般的に、パウダースラグの粘度や結晶化温度の調整には、Al、MgO、LiO、NaO、KOなどの成分が用いられるが、Alはパウダースラグの粘度を上昇させる作用があり、カスピダイン結晶の凝固時の原子の再配列を阻害する。また、MgOは、パウダースラグの粘度や結晶化温度の調整能力が小さく、多量に用いるとカスピダインの成分が希釈されることで、結果的にカスピダイン結晶の析出を阻害する働きがあるため、パウダースラグの粘度や結晶化温度の調整には好ましくない。これに対し、アルカリ金属元素であるLi、Na、Kは、パウダースラグの粘度や結晶化温度の調整能力が少量の添加量でも高いため、パウダースラグの粘度や結晶化温度の調整にはLi、Na、Kなどのアルカリ金属元素が主に用いられる。
【0014】
一方、これらのアルカリ金属元素は、パウダースラグ中のSiOネットワーク中にガラス修飾剤として組み込まれ、カスピダインの析出過程および析出量に影響を与えると考えられる。そこで、モールドパウダーに添加されるアルカリ金属元素であるLi、Na、Kについて、カスピダイン結晶の析出に対して最も有利な元素を選択的に使用することで、モールドパウダーの粘度や結晶化温度を調整しつつ、カスピダイン結晶の十分な析出量を確保できると考え、以下の実験を行った:
モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のアルカリ金属元素を酸化物として換算したLiO、NaO、KOを、それぞれ2質量%ずつ、合計6質量%のアルカリ金属酸化物を含む従来の中炭素鋼用モールドパウダーについて、合計6質量%のアルカリ金属酸化物をLiOのみ、NaOのみ、またはKOのみとしたモールドパウダーのサンプルを作製した。次に、これらのサンプルの溶融状態のパウダースラグを、水冷した鋳型内で急冷却して凝固スラグを得た。得られた凝固スラグのXRDパターンから、カスピダインの第一強線のピーク強度を読み取った。更に、従来の中炭素鋼用モールドパウダー(後述の比較品1)のカスピダインの第一強線のピーク強度を結晶析出指数=100として定義し、アルカリ金属酸化物を添加した各サンプルの結晶析出指数を算出することでカスピダイン結晶の析出量の比較を行った。図1は、各サンプルの結晶析出指数を示したものである。アルカリ金属酸化物としてLiOのみを用いたサンプルのカスピダインの析出量が最も多くなることが解る。
【0015】
(2)カスピダイン結晶析出量に対するモールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のCaF量の影響
次に、カスピダイン結晶析出量に対するCaF量の最適値について検討した。ここで、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のFは、全量CaFとして存在していると仮定し、CaFに含まれるCaを除いた残りのCa分を酸化物換算した値をCaO’とした時、CaO’は式(a)で定義される。モールドパウダーのCaO’/SiO質量比を従来の中炭素鋼用モールドパウダーと同等の1.40とし、モールドパウダーの凝固温度や結晶化温度の調整するためのアルカリ金属元素としてLiのみを用い、酸化物換算としてLiOを6質量%含むモールドパウダーについて、モールドパウダー中のCaFの質量%のみを変化させたときのカスピダイン結晶析出量を調査した。
CaO’=CaOtot−F×(56/38) ・・・(a)
ここで、CaOtot:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ 中の全Ca量のCaO換算量(質量%)
F:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の全F 量(質量%)
【0016】
図2は、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のCaF量と、モールドパウダーのカスピダイン結晶析出量指数の関係を示したものである。なお、図1と同様に、LiO含量2質量%、NaO含量2質量%、KO含量2質量%の中炭素鋼用モールドパウダーのカスピダイン結晶析出指数を100とした時の指数として表記した。実験の結果、カスピダイン結晶析出指数は、パウダー中CaF量が約15質量%を超えると、カスピダイン結晶析出量はほぼ安定して大きく変化しないことが解る。
【0017】
(3)カスピダイン結晶の析出を促進する最適CaO’/SiO質量比の探索
次に、カスピダイン結晶析出量が最も多くなるCaO’/SiO質量比を検討した。上記(1)及び(2)の実験結果から、モールドパウダーの凝固温度や結晶化温度の調整のためのアルカリ金属元素としてLiのみを用い、酸化物換算としてLiOを6質量%含み、かつモールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のCaF量を20質量%としたモールドパウダーについて、CaO’/SiO質量比のみを変化させ、カスピダイン結晶析出量を調査した。図3は、CaO’/SiO質量比と、モールドパウダーのカスピダイン結晶析出量指数の関係を示したものである。なお、図1と同様に、LiO含量2質量%、NaO含量2質量%、KO含量2質量%の中炭素鋼用モールドパウダーの結晶析出指数を100とした時の指数として表記した。実験の結果、試作したモールドパウダーにおいて、CaO’/SiO質量比0.9〜1.1の範囲で、結晶析出指数が高くなることが解った。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、CaO、SiO、Al及びフッ素化合物を基本成分とする鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の酸化物換算量として、モールドパウダーのCaO’を以下の式(a)で定義した時、CaO’/SiO質量比が0.9以上1.10未満の範囲内にあり、以下の式(b)で表わされるCaF値が15〜25質量%の範囲内とし、Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が0.5質量%以下であり、Liの酸化物換算での含有量が5〜10質量%の範囲内にあり、Al含有量が、6質量%以下(ゼロを含まず)の範囲内にあり、かつモールドパウダーの結晶化温度が1100〜1200℃の範囲内にあることを特徴とするものである:
CaO’=CaOtot−F×(56/38)・・・(a)
CaF値=F×(78/38)・・・(b)
ここで、CaOtot:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ 中の全Ca量のCaO換算量(質量%)
F:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の全F 量(質量%)
【0019】
また、本発明の鋼の連続鋳造方法は、上記鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用い、C量が0.06〜0.25質量%の中炭素鋼の鋳片を、鋳造速度1.4m/分以上で連続鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーと、それを用いた連続鋳造方法により、中炭素鋼、特に、中炭亜包晶鋼の高速鋳造においても鋳片割れを抑制し、かつ鋳片潤滑性を確保して拘束性ブレークアウトやブレークアウト予知などの操業上の不具合を回避できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】カスピダイン結晶析出量に対するアルカリ金属元素の影響を示すグラフ
図2】カスピダイン結晶析出量に対するモールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のCaF量の影響を示すグラフ
図3】カスピダイン結晶の析出を促進するCaO’/SiO質量比を検討したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書においては、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダー(以下、「モールドパウダー」という)の組成をモールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の各成分の割合(質量%)として規定している。ここで、「モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の組成」は、モールドパウダーを大気雰囲気中で1300℃に加熱してパウダースラグ(モールドパウダーを溶融状態とし)を得、このパウダースラグを冷却して粉砕し、蛍光X線元素分析法により測定したものである。
【0023】
本発明のモールドパウダーは、CaO、SiO、Al及びフッ素化合物を基本成分とするモールドパウダーであって、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の酸化物換算量として、CaO’を以下の式(a)で定義した時、CaO’/SiO質量比が0.9以上1.10未満の範囲内にあり、以下の式(b)で表わされるCaF値を15〜25質量%の範囲内とし、Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が0.5質量%以下であり、Liの酸化物換算での含有量が5〜10質量%の範囲内にあり、かつモールドパウダーの結晶化温度が1100〜1200℃の範囲内にあることを特徴とするものである:
CaO’=CaOtot−F×(56/38) ・・・(a)
CaF値=F×(78/38) ・・・(b)
ここで、CaOtot:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ 中の全Ca量のCaO換算量(質量%)
F:モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中の全F 量(質量%)
【0024】
本発明のモールドパウダーにおいて、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のCaO’/SiO質量比は、0.9以上1.10未満の範囲内であり、好ましくは0.95〜1.05の範囲内である。CaO’/SiO質量比が0.9未満または1.10以上であると、カスピダインの生成が不十分となるため好ましくない。
【0025】
次に、本発明のモールドパウダーにおいて、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のFの全量がCaFとして存在していると仮定した場合、CaF値は上記式(b)で表すことができ、CaF値は15〜25質量%の範囲内にあり、好ましくは17〜23質量%の範囲内にある。CaF値が15質量%未満であると、カスピダインの生成が不十分となるため好ましくない。また、CaF値が25質量%を超えると、スラグフィルム中にカスピダインの他にCaFが析出し、鋳片の冷却が不均一となるため好ましくない。
【0026】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のNa、Kの酸化物換算での含有量の合計は0.5質量%以下(ゼロを含む)であり、好ましくは0.3質量%以下(ゼロを含む)であり、ゼロであることがより好ましい。Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が0.5質量%を超えると、カスピダインの生成が不十分となるため好ましくない。
【0027】
次に、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のLiの酸化物換算としての含有量は、5〜10質量%の範囲内にあり、好ましくは6.0〜9.0質量%の範囲内である。Liの酸化物換算としての含有量が5.0質量%未満であると、パウダースラグの粘度が高くなり、鋳片とモールド間に存在するパウダースラグが不十分となるため好ましくない。また、Liの酸化物換算としての含有量が10質量%を超えると、カスピダインの生成が不十分となるため好ましくない。
【0028】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、結晶化温度が1100〜1200℃の範囲内にあり、好ましくは1120〜1150℃の範囲内にある。なお、本明細書に記載する「結晶化温度」は、1300℃で溶融状態の120gのパウダースラグを4℃/分の速度で降温しながら温度を記録し、結晶化に伴うパウダースラグの発熱開始温度を結晶化温度としたものである。結晶化温度が1100〜1200℃の範囲内にあると、カスピダインの析出量が十分に多く、かつ10mmφの白金球引き上げ法により測定した1300℃におけるパウダースラグ粘度が鋳片潤滑のために適正な範囲となる。モールドパウダーの結晶化温度が1100℃未満であると、カスピダインの生成が不十分となるため好ましくない。また、モールドパウダーの結晶化温度が1200℃を超えると、鋳片とモールド間の潤滑性が不足するため好ましくない。
【0029】
本発明のモールドパウダーにおいて、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のAl含有量は6質量%以下(ゼロを含まず)、好ましくは4質量%以下(ゼロを含まず)の範囲内である。Al含有量が6質量%を超えると、パウダースラグの粘度が上昇し、カスピダイン結晶の凝固時の原子の再配列を阻害することがあるために好ましくない。
【0030】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグ中のMgOの含有量は、6質量%以下、好ましくは4質量%以下である。MgO含有量が6質量%を超えると、カスピダインの成分が希釈されることで、結果的にカスピダイン結晶の析出を阻害する働きがあるために好ましくない。
【0031】
本発明のモールドパウダーは、モールドパウダーを1300℃に加熱して得られたパウダースラグにおいて上記組成を有するものであるが、上記成分の合計が必ずしも100質量%となるものではない。これは、パウダースラグ中の金属元素を全て酸化物として換算し、かつFの量を別個に表示したことによるものである。例えば、パウダースラグ中に存在するCa2FはCaO+2Fとして扱われるため、見掛け上O(酸素)が加わることで成分の合計が100質量%よりも多くなる。
【0032】
なお、本発明のモールドパウダーには、溶融速度の調整のために炭素原料を必要に応じて添加してもよい。炭素原料としてはグラファイト、黒鉛などを用いることができる。
【0033】
上述のように組成を有する本発明のモールドパウダーは、慣用の原料を用いて製造することができ、例えば、CaO原料としてはセメント、石灰石、生石灰等を、SiO原料としては珪砂、珪藻土等を、CaF原料として蛍石等を、LiO原料としては炭酸リチウム等を、NaO原料として炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、氷晶石等を、K原料としては炭酸カリウム等を、Al原料としてはアルミナ粉、炭酸アルミニウム等を、MgO原料としてはMgOクリンカー、炭酸マグネシウム等をそれぞれ用いることができる。
【0034】
なお、本発明のモールドパウダーの形状は特に限定されるものではなく、例えば粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒など様々な形状とすることができる。
【0035】
本発明のモールドパウダーは、C量が0.06〜0.25質量%の中炭素鋼の鋳片を、鋳造速度1.4m/分以上で連続鋳造する場合に好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明品の鋼の連続鋳造法用モールドパウダーを更に説明する。
以下の表1及び2に記載する組成で本発明品及び比較品のモールドパウダーを作製した。なお、モールドパウダーは粉末形状とした。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
次に、本発明品及び比較品のカスピダイン結晶析出指数、結晶化温度並びに粘度を測定した:
「カスピダイン結晶析出指数」は、上記「(1)カスピダイン結晶析出量に対するアルカリ金属元素の影響」の欄に準じて測定したもので、比較品1のカスピダイン結晶析出指数を100とした時の指数として表示したものである;
「結晶化温度(℃)」は、加熱には電気炉を用い、本発明品または比較品のモールドパウダーを白金製るつぼに装填し、るつぼごと1300℃の炉内に挿入し、モールドパウダーが溶融した後、熱電対をパウダースラグ中に挿入し、パウダースラグの温度が安定するまで10分間待機した後、パウダースラグの温度を測定しながら電気炉温度を4℃/分の速度で降温し、パウダースラグの結晶化に伴う発熱開始温度を結晶化温度として測定したものである;
「粘度(ポイズ)」は、白金球引き上げ法により、1300℃で溶融状態の120gのパウダースラグ中に吊り下げた10mmφの白金球を0.85cm/秒の速さで引き上げることにより測定したものである。
得られた結果を表に併記する。
【0041】
次に、本発明品及び比較品のモールドパウダーを用いて、C量が0.14質量%の中炭素鋼を、厚さ220mm、幅2100mmのモールドを用い、定常域における1.6m/分の鋳造速度で連続鋳造して評価した。
【0042】
(評価方法)
「鋳片縦割れ評価」は、鋳片表面に縦割れが見られないか、製品品質上そのまま圧延して問題が無いような軽度の縦割れしか発生していない場合を−、鋳片表面に製品品質上問題となるような縦割れが発生しており、かつ縦割れの発生している鋳片が、長さ方向に対して鋳片全体の5%以下の場合を+、鋳片表面に製品品質上問題となるような縦割れが発生しており、かつ縦割れの発生している鋳片が、長さ方向に対して鋳片全体の5%を超える場合を++として表示した;
「BO(ブレークアウト)予知発生回数」は、取鍋一基分の溶鋼を連続鋳造した際のBO予知発生回数が0の場合を−、同じくBO予知発生回数が1回の場合を+、BO予知発生回数が2回以上の場合を++として表示した;
「総合評価」は、鋳片縦割れ評価およびBO予知発生回数における”+”の数が0の場合を◎、鋳片縦割れ評価およびBO予知発生回数における”+”の数が1の場合を○、鋳片縦割れ評価およびBO予知発生回数における”+”の数が3の場合を△、鋳片縦割れ評価およびBO予知発生回数における”+”の数が3以上の場合を×として評価した。総合評価が△、×の鋳造では、操業面または鋳片の製品品質上問題となるが、総合評価が○、◎の場合は操業面または鋳片の製品品質上問題ないと判断した。
【0043】
表1に示す本発明品のモールドパウダーは、いずれも鋳片縦割れ、BO予知発生回数ともに低位であり、安定した連続鋳造を行うことができ、得られた鋳片の品質も良好であった。
表2において、比較品1は、特許文献1の範囲内の組成を持つモールドパウダーであり、CaO’/SiO質量比が本発明で規定する値よりも低く、Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が本発明で規定する値よりも低く、Liの酸化物換算としての含有量が本発明で規定する値よりも高く、結晶化温度が本発明で規定する値よりも高く、鋳片縦割れの発生が確認された。これは、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。
また、比較品2および3は、いずれもCaO’/SiO質量比が本発明で規定する値よりも低く、鋳片縦割れが発生し、かつBO予知発生も確認された。鋳片縦割れの発生は、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。また、CaO’/SiO質量比が低い場合には、パウダースラグ中のSiOネットワークが大きくなり、パウダースラグの粘度が高くなるため、鋳片潤滑性が不足し、BO予知発生につながったものと考えられる。
更に、比較品4および5CaO’/SiO質量比が本発明で規定する値よりも高く、鋳片縦割が多く確認された。これは、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。
また、比較品6は、CaF値が本発明で規定する値よりも低く、鋳片縦割れが多く発生し、かつBO予知の発生も確認された。鋳片縦割れの発生は、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。また、CaF値が低い場合、パウダースラグ中のSiOが相対的に高くなるため、パウダースラグの粘度が増加し、鋳片潤滑性が不足していたことがBO予知発生につながったものと考えられる。
更に、比較品7は、CaF値が本発明で規定する値よりも高く、鋳片縦割れが多く発生した。鋳造後、モールド下方に堆積したスラグフィルムについてXRDを行ったところ、本発明品については、カスピダイン結晶のみが同定されたが、比較品6ではカスピダイン結晶の他にCaF結晶が確認された。このことから、CaF値が本発明で規定する値よりも高い場合には、スラグフィルム中にカスピダイン結晶の他にCaFが生成するために鋳片の冷却が不均一となり、鋳片縦割れが発生するものと考えられる。
また、比較品8および9は、Na、Kの酸化物換算での含有量の合計が本発明で規定する値より高く、鋳片縦割れが多く確認された。これは、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。
更に、比較品10および11は、Liの酸化物換算としての含有量が本発明で規定する値よりも低く、いずれも鋳片縦割れが発生し、かつBO予知の発生も確認された。鋳片縦割れの発生は、スラグフィルム中のカスピダイン析出量が過多となり、鋳片とモールド間に存在するパウダースラグが不十分となったため、鋳片の冷却が不均一となり、鋳片縦割れが発生したものと考えられる。また、BO予知発生は、鋳片とモールド間に存在するパウダースラグが不十分であったため、鋳片潤滑性が不足していたことが原因と考えられる。
また、比較品12は、Liの酸化物換算としての含有量が本発明で規定する値よりも高く、鋳片縦割れが多く確認された。これは、カスピダイン結晶の析出量が少なく、鋳片緩冷却が十分でなかったためと考えられる。
図1
図2
図3