特許第6169654号(P6169654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169654貯蔵安定性が改善された一液性の水処理剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169654
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】貯蔵安定性が改善された一液性の水処理剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/02 20060101AFI20170713BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20170713BHJP
   A01N 25/22 20060101ALI20170713BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20170713BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20170713BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20170713BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20170713BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20170713BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   A01N59/02 Z
   A01N59/08 Z
   A01N25/22
   A01P3/00
   A01P13/00
   A01N25/02
   C02F1/50 510E
   C02F1/50 520A
   C02F1/50 520K
   C02F1/50 531J
   C02F1/50 531L
   C02F1/50 532E
   C02F1/50 532J
   C02F1/50 540B
   C02F5/00 620B
   C02F5/00 620Z
   C02F5/10 610A
   C02F5/10 610Z
   C02F1/50 510D
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 532C
【請求項の数】1
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-148162(P2015-148162)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-25046(P2017-25046A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2015年7月27日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢一
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/135916(WO,A1)
【文献】 特開2012−130852(JP,A)
【文献】 特開2014−101251(JP,A)
【文献】 特開2014−176850(JP,A)
【文献】 特開2003−071464(JP,A)
【文献】 特開2009−154113(JP,A)
【文献】 特許第4524797(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C02F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸及び/又はスルファミン酸塩の反応により得られる結合臭素化合物と、(B)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩、及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーであって、
ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体に対する亜硫酸、水溶性亜硫酸塩、及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンの反応モル比が0.01〜0.1の範囲であって、
ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の組み合わせであり、共重合比がアクリル酸とメタクリル酸の合計量が45〜85重量%、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が15〜55重量%であるテロマー
を、有効成分として含み、組成物のpHを13以上とすることを特徴とする、水系における水処理剤組成物であって、下記式で示される該水処理剤組成物の420nmにおける吸光係数εが0.3〜0.6の範囲であり、かつ、(A)成分における次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸の配合比率が有効ハロゲン量(Cl換算)1モルに対してスルファミン酸が0.8〜3.0モルの範囲であり、(A)成分の結合臭素化合物は有効ハロゲン含量(Cl換算)として0.1〜15重量%、(B)成分は合計量として0.1〜15重量%(活性分換算)の範囲であり、かつ、該組成物中の(B)成分の合計量が結合臭素化合物の有効ハロゲン含量(Cl換算)に対して1/20〜10倍量(重量換算)範囲であって、該組成物のpHを13以上とするため、アルカリ金属水酸化物が加えられることを特徴とする、30℃以上の温度環境下で貯蔵可能な貯蔵安定性が改善された、水系におけるスケール抑制と腐食抑制を兼ねた、藻生育抑制のための水処理剤組成物。
ε=A/(C・x)
ここで A:水処理剤組成物の420nmにおける吸光度
C:水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量(Cl換算重量%)
x:光路長(cm)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却水系、冷温水系、集塵水系、紙パルプ工程水系、製鉄工程水系、金属加工工程水系等の各種用排水系、各種工程水系等における微生物に起因する諸障害を抑制し、併せて水と接触する熱交換器、配管、各種機器類の金属材料の腐食、スケール付着を同時に抑制することができる、貯蔵安定性が改善された一液の水処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、冷温水系、集塵水系、紙パルプ工程水系、製鉄工程水系、金属加工工程水系等の各種工程水中に生育する微生物は、系内で増殖してスライムやバイオファウリングと呼ばれる微生物性の付着物を形成し、熱交換器の伝熱効率低下、流路の閉塞及び嫌気性菌による微生物腐食などの微生物障害を引き起こす原因となる。
【0003】

また、水中にはカルシウムやマグネシウムの炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩等の塩類が含まれており、水系内で濃縮されたり、pHが高くなったり、温度が高くなったときに析出し、装置表面に付着し、熱交換器の伝熱障害や配管類の閉塞等のスケール障害を引き起こす原因となる。その他、水に混入してくる土砂、粘土質、有機質等の懸濁粒子は、系内の流速の遅い部分に堆積する。金属表面にスケールが形成したり、堆積物があると、部分的に溶存酸素に濃度差が生じ腐食を引き起こす原因となる。このように水を使用する系では微生物障害、スケール障害、腐食障害は普遍的な問題であり、各種の殺菌剤、スケール防止剤、腐食防止剤、分散剤などを用いて対処している。
【0004】
微生物障害の対策としては、塩素系殺菌剤、臭素系殺菌剤、過酸化水素類などの酸化作用を有する酸化性殺菌剤や、第4級アンモニウム塩類、グルタルアルデヒド、3−イソチアゾロン類、有機臭素化合物類、ヒドラジン類等の非酸化性殺菌剤が使用されている。このうち次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンを生成する塩素系殺菌剤は、殺菌効果が優れ、かつ、環境中で速やかに分解して無害な塩素イオンとなることから、安全性が高く、飲料水やプールの殺菌などに広く使用されている。
スケール障害の対策としては、ホスホン酸類や、カルボン酸又はスルホン酸基を含む不飽和単量体を構成成分とする重合体の使用が知られており、さらにホスフィン酸基を有するモノエチレン性不飽和カルボン酸重合体などを用いる提案(特公平6−47113号公報など)もある。
腐食障害の対策としては、ホスホン酸類、アクリル酸重合体及びアクリル酸を含む共重合体、マレイン酸重合体及びマレイン酸を含む共重合体、その他、各種のアゾール化合物、重合リン酸塩、オルトリン酸塩、モリブデン酸塩等が使用されてきた。
【0005】
このように微生物障害、スケール障害、腐食障害などを抑制するために、水処理剤として複数の薬品の投入が必要であり、注入装置も複数必要となり、また薬品の注入量をそれぞれ別個に管理する必要があるなど、管理・取り扱いが煩雑であった。このため一液の組成物とする試みが行われてきた。例えば、第4級アンモニウム塩類、グルタルアルデヒド、3−イソチアゾロン類、有機臭素化合物類、ヒドラジン類等の非酸化性殺菌剤と、スケール防止剤、分散剤等とは相溶性が比較的良好で、かつ、安定であることからこれらの化合物を配合した複合剤が提案されている。例えば、ヒドラジンとホスホン酸及び/又はカルボン酸系低分子量ポリマーとアゾール化合物を有効成分として配合した開放用水系障害防止剤(特許文献1参照)、アクリル酸及び/又はマレイン酸を含む重合体とグルタルアルデヒドを有効成分として含む多目的多機能水処理剤(特許文献2参照)などがある。
【0006】
しかしながら、非酸化性殺菌剤は、酸化性殺菌剤と比較して殺菌効果が劣っており、また比較的難分解性であることから環境への影響が問題となっていた。一方、酸化性殺菌剤の塩素系殺菌剤をスケール防止剤や分散剤と混合すると、スケール防止剤や分散剤を酸化分解し、有効塩素が減少するので、特に高濃度の次亜塩素酸塩を含有する一液性組成物は貯蔵安定性を維持できなかった。
【0007】
この問題を解決するため、例えば、(1)塩素、次亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸アルカリ金属塩及び塩素酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩素系酸化剤、(2)スルファミン酸化合物及び(3)ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸との共重合物、マレイン酸とイソブチレンとの共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記ポリマーのアルカリ金属塩及び前記ポリマーのアルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であり、かつ500〜50,000の重量平均分子量を有するアニオン性ポリマーを含有することを特徴とするスライム防止用組成物が開示されている(特許文献3参照)。あるいは、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を有する共重合体と、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸又は1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸から選択されるホスホン酸化合物と、次亜塩素酸塩、スルファミン酸化合物からなるスライム抑制剤を含有する水処理剤が開示されている(特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、塩素系酸化剤とスルファミン酸と前記重合体あるいはホスホン酸を含む組成物では、塩素系酸化剤とスルファミン酸が反応して生成するN−クロロスルファミン酸等の結合塩素化合物の酸化力が弱く、殺菌効果が不十分であった。
【0009】
一方、酸化性殺菌剤の次亜臭素酸とスルファミン酸が反応して生成する結合臭素化合物は、酸化力が強く殺菌効果が高いが、酸化力が強すぎて重合体やホスホン酸と組成物中で反応して分解しやすいため、安定な一液の組成物とすることができなかった。例えば、臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物を含み、これにスルファミン酸化合物と(メタ)アクリル酸またはマレイン酸の単量体単位を含む重合体とを含んで、pH13以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物が開示されており(特許文献5参照)、該特許文献では25℃で2週間程度の短期間の貯蔵安定性は確認されている。しかし、実際の使用環境を考慮すると、気温が30℃を超える夏季に1箇月間以上貯蔵可能な、より安定性の優れた水処理剤組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平1−60553号公報
【特許文献2】特開昭63−194799号公報
【特許文献3】特許第4524797号公報
【特許文献4】特許第5045618号公報
【特許文献5】特開2015-44764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、各種製造業の工程水系、冷却水系、及び洗浄水等の各種用排水系における微生物障害、スケール障害及び腐食障害を抑制する一液の水処理剤組成物であって、30℃以上の温度環境下においても配合された結合臭素化合物の分解が少なく、1箇月間以上貯蔵可能な、貯蔵安定性が改善された水処理剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、(A)次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸及び/又はスルファミン酸塩の反応により得られる結合臭素化合物と、(B)(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマー、(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物、及び(3)ヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物からなる群から選択される1種以上を、有効成分として配合することにより、30℃を超える高温でも1箇月間以上にわたって安定な水処理剤組成物が得られること、また、この水処理剤組成物は、スケールとスライムが複合した付着物の形成を抑制し、更に、金属面での腐食進行を抑制することができ、よって本発明の課題を同時に解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、請求項1に係る発明は、(A)次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸及び/又はスルファミン酸塩の反応により得られる結合臭素化合物と、
(B)(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩、及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマー、(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とマレイン酸の反応物、及び/又は、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸とマレイン酸の反応物である次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物、及び(3)亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とアクリル酸の反応により得られるポリ(2−カルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ポリ(1−カルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とマレイン酸の反応により得られるポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とアクリル酸とマレイン酸の反応により得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、及びポリ(1−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩からなる群から選択されるヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物
からなる群から選択される1種以上とを、
有効成分として含み、組成物のpHを13以上とすることを特徴とする、水系における水処理剤組成物であって、下記式で示される該水処理剤組成物の420nmにおける吸光係数εが0.3〜0.6の範囲であり、かつ、(A)成分における次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸の配合比率が有効ハロゲン量(Cl換算)1モルに対してスルファミン酸が0.8〜3.0モルの範囲であり、(A)成分の結合臭素化合物は有効ハロゲン含量(Cl換算)として0.1〜15重量%、(B)成分は合計量として0.1〜15重量%(活性分換算)の範囲であり、かつ、該組成物中の(B)成分の合計量が結合臭素化合物の有効ハロゲン含量(Cl換算)に対して1/20〜10倍量(重量換算)範囲であって、該組成物のpHを13以上とするため、アルカリ金属水酸化物が加えられることを特徴とする、水系における水処理剤組成物である
式:ε=A/(C・x)
ここで A:水処理剤組成物の420nmにおける吸光度
C:水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量(Cl換算重量%)
x:光路長(cm)
【発明の効果】
【0014】
本発明の水処理剤組成物は、従来の薬剤と異なり、配合された殺菌剤成分の高温安定性が優れているため、気温の高い夏季においても性能低下することなく安心して使用できる。従って、本発明の水処理剤組成物を各種水系に適用することによって、スライムやスケールの付着物障害及び金属腐食障害を年間を通じて安定的かつ効果的に抑制できるため、各種水系における伝熱管の付着物量を低減して伝熱効率の低下を防ぐことができ、その結果、多大な省エネルギーに寄与する。また、該障害に起因する工場操業の休止回数が少なくなり、また休止期間も短縮でき、その結果、長期間の運転が可能となるため、生産性が向上し、操業休止とメインテナンスに要する費用も削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩及び次亜臭素酸塩+スルファミン酸ナトリウムの吸収スペクトルを示す図である。
図2】実施例の開放式循環冷却水系評価試験に使用した試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水処理剤組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分を有効成分として含むことを特徴とするが、(A)成分は高い効果を有する酸化性殺菌剤であり、(B)成分は(A)成分の高温における貯蔵安定性を改善するとともにスケール抑制効果及び金属腐食抑制効果を有するため、本発明の水処理剤組成物は、微生物障害、スケール障害及び腐食障害を抑制できる貯蔵安定性が改善された一液の水処理剤組成物である。
【0017】
本発明の(A)成分における次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩は公知の方法により製造することができ、例えば、臭素を水に溶解する方法、臭化水素あるいは臭化物の水溶液を電気分解する方法、臭化物と塩素・次亜塩素酸塩・過硫酸塩・オゾン等の酸化剤を反応させる等の方法により得ることができる。次亜臭素酸塩の形態は、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩等が使用できるが、本発明の水処理剤組成物は組成物のpHを13以上とするため、強アルカリ性でも溶解度が高いナトリウムやカリウムのアルカリ金属塩が好ましい。また、本発明の(A)成分におけるスルファミン酸塩は、次亜臭素酸塩と同じ形態の塩が使用できる。
【0018】
臭化物と次亜塩素酸塩を反応させて次亜臭素酸塩を生成し、これにスルファミン酸塩を反応させて結合臭素化合物を製造する方法として、例えば、特表平11−506139号公報には、約5〜70%のアルカリ又はアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩水溶液を臭化物イオン源と混合する段階と;臭化物イオン源と次亜塩素酸塩を反応させて、0.5〜70重量%のアルカリ又はアルカリ土類金属の次亜臭素酸塩水溶液を形成する段階と;該溶液にアルカリ金属のスルファミン酸塩水溶液を次亜臭素酸塩に対するモル比が0.5〜7となる量で添加する段階からなる製造方法が開示されている。
【0019】
本発明の結合臭素化合物を製造する別の方法は、臭化物とスルファミン酸を混合後、酸化剤を添加することにより、次亜臭素酸塩の生成とスルファミン酸塩との反応を同時に行わせて、結合臭素化合物を製造する方法であり、例えば特許第4749544号公報では、アルカリまたはアルカリ土類金属臭化物とスルファミン酸等のハロゲン安定化剤とを含む溶液を与えるステップ、pHを4〜8に調節するステップ、オゾン、過酢酸、過酸化水素および酸化性の臭素化合物から選ばれた酸化剤を添加して、次亜臭素酸塩とスルファミン酸塩の反応による結合臭素化合物を生成する方法が開示されている。
【0020】
また、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含み、前記臭素の添加率が水処理剤組成物全体の量に対して25重量%以下である次亜臭素酸塩とスルファミン酸塩の反応による結合臭素化合物の製造方法が特開2014−101251号公報に開示されている。
【0021】
本発明の結合臭素化合物を製造する方法は、ここに示した方法に限定されないが、製造時の安全性、環境への影響、原料の入手し易さ等を考慮して、臭化物イオン源となる化合物と次亜塩素酸塩を反応させて次亜臭素酸塩水溶液を生成させた後、スルファミン酸塩を添加する方法が好ましい。ここで次亜塩素酸塩は、好ましくはアルカリ金属の次亜塩素酸塩であり、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウムからなる群より選択される。臭化物イオン源となる化合物は、好ましくはアルカリ金属の臭化物あるいは臭化水素酸であり、アルカリ金属の臭化物は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムからなる群より選択される。
【0022】
臭化物イオン源となる化合物と次亜塩素酸塩の好ましい反応比は、Cl換算で1モルの次亜塩素酸塩に対して0.5〜1.5モルの臭化物イオンである。このモル比が0.5未満では十分な量の次亜臭素酸塩が生成せず、その結果、十分な量の結合臭素化合物が生成しないため微生物抑制効果が劣り、また、モル比が1.5を超えても次亜臭素酸塩の生成に寄与せずコストや資源の無駄であるため、いずれも好ましくない。
【0023】
本発明の(A)成分における次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸の好ましい配合比率は、次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩を結合臭素化合物に変換させる十分な量であるが、具体的には有効ハロゲン量(Cl換算)1モルに対してスルファミン酸0.8〜3.0モルの範囲である。このモル比が0.8未満では十分な量の結合臭素化合物が生成しないため微生物抑制効果が劣り、また、モル比が3.0を超えても結合臭素化合物の生成に寄与せずコストや資源の無駄であるため、いずれも好ましくない。
【0024】
本発明の(A)成分の結合臭素化合物は、N−ブロモスルファミン酸が主成分であるが、該結合臭素化合物生成反応において副生する結合塩素化合物のN−クロロスルファミン酸を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーは、テロマリゼーションあるいはテロメル化とよばれる反応を用いることにより製造することができ、例えば、適当な開始剤、酸素、紫外線等のもとで亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体を含む水溶液を不活性ガスの存在下で加熱することにより製造することができる。その反応メカニズムは、反応の開始段階においては、開始剤や紫外線等の作用によりテロゲンラジカルが生成し、次いでテロゲンラジカルに不飽和単量体が結合したポリマーラジカルが生成する。次いで、ポリマーラジカルへの新たな不飽和単量体のラジカル付加反応(テロマーの成長反応)あるいはポリマーラジカルからテロゲンへラジカルが移動する連鎖移動反応(テロマーの成長停止反応)が起こるが、ここで生成したテロゲンラジカルは再び上記の反応を繰り返す。ここで製造されたテロマーは、テロマー末端のテロゲン残基に1個以上の不飽和単量体が付加した化合物である。不飽和単量体に対するテロゲンの濃度比が高いほど、テロゲンに付加する不飽和単量体の分子数が少なくなることから、テロゲンは分子量調節剤として作用する。
【0026】
本発明者は、亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンを用いて製造したテロマーは、テロゲンを用いないで製造した付加重合物や本発明に含まれないテロゲン(例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物、イソプロピルアルコール等の2級アルコ−ル類、トルエン、キシレン等の芳香族化合物等)を用いて製造したテロマーと比較して、結合臭素化合物と混合したときの貯蔵安定性が著しく優れていることを見出した。
【0027】
本発明のテロマーの製造に用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体は、好ましくはモノエチレン性不飽和カルボン酸単独あるいはモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能な他のヒドロキシル基を有さないモノエチレン性不飽和単量体との組み合わせである。ここでモノエチレン性不飽和カルボン酸は、好ましくは、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸等である。一方、モノエチレン性不飽和カルボン酸としてイタコン酸を用いたテロマーでは、水処理剤組成物の貯蔵安定性が劣るため好ましくない。
【0028】
モノエチレン性不飽和カルボン酸の一部をこれらモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なヒドロキシル基を有さないモノエチレン性不飽和単量体と置き換えてもよい。モノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なヒドロキシル基を有さないモノエチレン性不飽和単量体の例として、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル類、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル類、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸等のモノエチレン性不飽和スルホン酸類ならびにその水溶性塩、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸等のモノエチレン性不飽和ホスホン酸類ならびにそれらの水溶性塩、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレートエステル類、アルキル(メタ)アリルエーテル類等が挙げられる。またモノエチレン性不飽和カルボン酸やモノエチレン性不飽和スルホン酸の水溶性塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が一般的である。尚、不飽和単量体におけるモノエチレン性不飽和カルボン酸の比率は、40〜100重量%であることが好ましく、この比率が40重量%未満では十分なスケール抑制効果を示さない場合がある。
【0029】
ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体に対する亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンの好ましい反応モル比は通常0.01〜0.1の範囲であるが、好ましい反応モル比は腐食抑制とスケール抑制のためのテロマーの最適な分子量を得るために必要な量であり、その最適モル比はヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の種類によって変化する。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレートエステル類等のラジカル反応性の高いモノマーではテロゲンの必要量は比較的高いが、マレイン酸、フマル酸、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル類、(メタ)アリルスルホン酸等のラジカル反応性の低いモノマーではテロゲンの必要量は比較的低い。
【0030】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーの分子量は、好ましくは500〜40000の範囲である。分子量が40000を超えると(A)成分である結合臭素化合物の貯蔵安定性の改善効果が低下し、また分子量が500未満ではスケール抑制効果が小さくなりいずれも好ましくないことがある。尚、この分子量の測定は、例えばゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーの手法により分子量既知のポリエチレングリコールを標準物質として測定され、市販の分子量計算用コンピュータソフトウェアを用いて分子量を計算することができる。
【0031】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーの製造に用いる開始剤は、ラジカル開始剤として知られている化合物が使用できるが、例えば過酸化水素、過硫酸塩等の無機過酸化物、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルヒドロパーオキシド等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ならびにその二塩酸塩や二硫酸塩、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n等の水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0032】
例えば、適当な重合開始剤、酸素、紫外線等のもとで、テロゲンとして亜硫酸や水溶性亜硫酸塩を用い、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体としてアクリル酸を用いたテロマーの構造は、下記反応式(1)で示される、末端にスルホン酸基を有するアクリル酸のテロマーとなる。このとき、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体に対して亜硫酸や水溶性亜硫酸塩の反応比率を変えることによりテロマーの重合度を変えることができ、例えば亜硫酸塩の比率を増加させるとテロマーの分子量が低くなる。
【0033】
【化1】
【0034】
本発明の(B)成分のテロマーの製造時に使われる水溶性亜硫酸塩は、水に溶解して亜硫酸イオンや亜硫酸水素イオンを生成するものであれば何でもよく、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸二ナトリウム(ピロ亜硫酸塩ナトリウム)、亜硫酸等が挙げられる。工業的に重亜硫酸ナトリウムとして市販されているものも使用できるが、これは二亜硫酸二ナトリウムが主成分である。
【0035】
テロゲンとして亜硫酸や水溶性亜硫酸塩を用いたテロマーは公知の方法で製造でき、例えば亜硫酸水素ナトリウムとアクリル酸を含む水溶液に、窒素ガス通気下に過硫酸ナトリウム水溶液を滴下して重合を進める方法(特公昭47−11487号公報参照)、無水マレイン酸の水溶液をpH2.5〜6.5に調整してから重亜硫酸塩を加えて、空気を吹き込んで重合を進める方法(特開昭63−236600号公報参照)、沸騰下の水中にアクリル酸と過硫酸塩水溶液と重亜硫酸塩水溶液をそれぞれ別個に滴下して重合を進める方法(特開平11−315115号公報参照)などがある。
【0036】
また、テロゲンとしてアミンチオールを用い、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体と反応させて得られるテロマーは、例えば特許第4095691号公報ならびに特開2008−224663号公報に記載された方法により製造することができ、具体的には、水を入れ窒素等の不活性ガスの通気下で加熱した反応容器中に1種以上のモノエチレン性不飽和モノマーと開始剤ならびに連鎖移動剤としてアミンチオールをそれぞれ別個に供給することにより製造できる。テロゲンとして用いられるアミンチオールは分子中に1個以上のアミノ基と1個以上のチオール基を有する化合物であり、例えば、システイン、アミノエタンチオール、グルタチオン、N−アシルシステイン、N−ブチルアミノエタンチオール、N,N−ジエチルアミノエタンチオールまたはそれらの塩等が挙げられる。
【0037】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーの製造に用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の好ましい例は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の組み合わせ、アクリル酸及び/又はメタクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−置換(メタ)アクリルアミドの組み合わせである。ここで、N−置換(メタ)アクリルアミドの好ましい例として、N,N’−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−tert−ブチルアクリルアミド等が挙げられる。また、前記のヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の好ましい例として挙げた組み合わせにおける好ましい共重合比は、アクリル酸とメタクリル酸の合計量が45〜85重量%、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が15〜55重量%、N−置換アクリルアミドが0〜30重量%である。
【0038】
本発明の(B)成分の(1)のテロマーの内、亜硫酸や水溶性亜硫酸塩をテロゲンとし、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体としてアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を用いた反応で得られるテロマーは、ダウケミカル社よりAcumer2000の商品名で、あるいはSNF社よりFlosperse3018CS、3018CSA50、3024CSA50、3037CSA50、9018CSA50、9037CSA50等の商品名でそれぞれ市販されている。亜硫酸や水溶性亜硫酸塩をテロゲンとし、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体としてアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−tert−ブチルアクリルアミドを用いた反応で得られるテロマーは、ダウケミカル社よりAcumer3100なる商品名で、あるいはSNF社よりFlosperse3225Dなる商品名でそれぞれ市販されている。
【0039】
また、本発明の(B)成分の(1)のテロマーの内、アミンチオールをテロゲンとし、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体としてアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を用いた反応で得られるテロマーは、ダウケミカル社よりOptidose2000の商品名で、また、アミンチオールをテロゲンとし、ヒドロキシル基を有さない不飽和単量体としてアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−tert−ブチルアクリルアミドを用いた反応で得られるテロマーは、ダウケミカル社よりOptidose3100の商品名でそれぞれ市販されている。
【0040】
本発明の(B)成分の(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物は公知の方法により製造でき、例えば、次亜リン酸塩の水溶液に重合開始剤の存在下で不飽和単量体の水溶液を滴下して重合させることにより得ることができる(特開昭55−11092号公報、特開昭63−114986号公報、特公平6−47713号公報参照)。
【0041】
ここで用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体は、好ましくはモノエチレン性不飽和カルボン酸単独あるいはモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との組み合わせである。ここで、モノエチレン性不飽和カルボン酸や共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体は、前述の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーにおいて用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体と同じものを用いることができる。
【0042】
ここで次亜リン酸及び水溶性次亜リン酸塩はテロゲンと見做すことができるが、次亜リン酸はテロゲンとして作用する活性水素を2個有しており、リン原子の両端に不飽和単量体が付加できる点で活性水素が1個のみの他のテロゲンとは異なる。すなわち、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物の化学構造は、例えば次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸の反応により得られる化合物では下記一般式(2)で示されるビス−ポリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ビス−ポリ(1−カルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩であり、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とマレイン酸の反応により得られる化合物は下記一般式(3)で示されるビス−ポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩である。
【0043】
【化2】
(ここでMはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子を表わし、mは1〜30、nは1〜30の整数である)
【0044】
【化3】
(ここでMはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子を表わし、mは1〜30、nは1〜30の整数である)
【0045】
本発明の(B)成分の(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物の好ましい例は、前記の、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸の反応物、及び、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とマレイン酸の反応物の他に、ポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ビス−ポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ポリ(1−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ビス−ポリ(1−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸あるいはそのアルカリ金属塩等の次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸とマレイン酸の反応物、あるいは次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の反応物等が挙げられる。また、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物は、BWA社よりBelclene500あるいはBelsperse164なる商品名で、次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との反応物はBWA社よりBelclene400なる商品名でそれぞれ市販されている。
【0046】
本発明の(B)成分の(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物の分子量は、好ましくは200〜20000の範囲である。分子量が20000を超えると結合臭素化合物の安定性を向上する効果が低下し、また分子量が200未満ではスケール防止効果が小さくなり、いずれも好ましくないことがある。
【0047】
本発明の(B)成分の(3)ヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物の具体例として、特公昭53−12913号公報、特公昭54−38086号公報に記載されている2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノ−3−メチルブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノ−ペンタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、あるいは特公昭54−9593号公報に記載されている1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、1,1−ジホスホノプロパン−2,3−ジカルボン酸、2−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、2,2−ジホスホノプロパン−3,4−ジカルボン酸が挙げられる。ここで、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノ−3−メチルブタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノ−ペンタン−1,2,4−トリカルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸は、ホスホノコハク酸テトラアルキルエステルを塩基性触媒の存在下でアクリル酸メチルエステル、クロトン酸エチルエステル、メタクリル酸メチルエステル、マレイン酸ジメチルエステルをそれぞれ反応させて得られたエステルを加水分解することによって製造することができる。2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸は、BAYER社よりBayhibit−AMなる商品名で、あるいはBWA社よりBelclene650なる商品名でそれぞれ市販されている。
【0048】
また、1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸はアルコラートの存在下でマレイン酸エステルとホスホノ酢酸エステルを反応させて得られたエステルを加水分解することによって製造でき、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸は、ナトリウムアルコラートの存在下でジメチル亜リン酸と1−ブテン−2,3,4−トリカルボン酸エステルを反応させて得られたエステルを加水分解することによって製造でき、1,1−ジホスホノプロパン−2,3−ジカルボン酸は、ナトリウムアルコラートの存在下でメチレンジホスホン酸アルキルエステルとマレイン酸アルキルエステルを反応させて得られたエステルを加水分解することによって製造でき、2−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸は、アルコラートの存在下でα−ジエチルホスホノプロピオン酸メチルエステルとマレイン酸ジエチルエステルを反応させて得られたエステルを加水分解することによって製造でき、2,2−ジホスホノプロパン−3,4−ジカルボン酸は、ナトリウムアルコラートの存在下でマレイン酸エステルとエタン−1,1−ジホスホン酸エステルを反応させて得られたエステルを加水分解することによってそれぞれ製造することができる。
【0049】
本発明の(B)成分の(3)ヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物の最も好ましい例は、下記一般式(4)で示される有機ホスホン酸化合物である。
【化4】
(ここでR、Rはそれぞれ独立に水素またはCOOMであるが、RとRが同時に水素となることはなく、R、Rはそれぞれ独立に水素またはメチル基であり、M、M、Mはそれぞれ独立に水素またはアルカリ金属であり、mは1〜4の整数である。)
【0050】
上記一般式(4)の有機ホスホン酸化合物は、例えば、亜リン酸、亜リン酸塩又は亜リン酸エステルとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体を、不活性ガスを通気しながらラジカル開始剤の存在下で加熱して反応させることにより製造することができる。ここで亜リン酸エステルは、例えばジメチルハイドロゲンホスファイト、ジエチルハイドロゲンホスファイト等のジアルキルハイドロゲンホスファイト類が用いられる。ここで用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体は、好ましくはモノエチレン性不飽和カルボン酸単独あるいはモノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との組み合わせである。ここでモノエチレン性不飽和カルボン酸や共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体は、前述の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーにおいて用いられるヒドロキシル基を有さない不飽和単量体と同じものを用いることができる。
【0051】
上記の一般式(4)で示される有機ホスホン酸化合物は、公知の方法により製造でき、例えば、重合開始剤の存在下に、亜リン酸塩の水溶液にモノエチレン性不飽和カルボン酸の水溶液を滴下して重合させる方法(特公平4−334392号公報参照)、あるいは、ジアルキルハイドロゲンホスファイトとモノエチレン性不飽和カルボン酸またはそのアルキルエステルとを重合させた後、酸で加水分解する方法(特開平2−134389号公報参照)により製造することができる。
【0052】
上記一般式(4)で示される有機ホスホン酸化合物を具体的に挙げると、亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とアクリル酸の反応により得られるポリ(2−カルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ポリ(1−カルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とマレイン酸の反応により得られるポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩があり、その他に亜リン酸及び/又は亜リン酸塩とアクリル酸とマレイン酸の反応により得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩、ポリ(1−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸あるいはそのアルカリ金属塩等が挙げられる。上記一般式(4)で示される有機ホスホン酸化合物の最も好ましい例は、亜リン酸塩とマレイン酸との反応で得られる有機ホスホン酸化合物であり、該化合物は、例えば、SOLVAY社よりBriCorr288なる商品名で市販されている。
【0053】
本発明の水処理剤組成物における(B)成分の好ましい例は、(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとアクリル酸ならびに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との反応で得られるテロマーと(3)亜リン酸塩とマレイン酸との反応で得られる有機ホスホン酸化合物の組み合わせ、あるいは(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の反応で得られる有機ホスフィン酸化合物と(3)亜リン酸塩とマレイン酸との反応で得られる有機ホスホン酸化合物の組み合わせである。
【0054】
本発明の水処理剤組成物中の(B)成分の合計量は、結合臭素化合物の有効ハロゲン含量(Cl換算)に対して好ましくは1/20〜10倍量(重量換算)、より好ましくは1/10〜5倍量(重量換算)の範囲である。(B)成分の合計量が有効ハロゲンに対し1/20倍量(重量換算)より少ないと結合臭素化合物の安定化には不充分な場合があり、10倍量(重量換算)より多いとそれ以上の安定化に寄与しないので経済的に不利になることがある。
【0055】
本発明の水処理剤組成物は水を溶媒とし、(A)成分と(B)成分の含有量は任意に選ばれるが、通常、(A)成分の結合臭素化合物は有効ハロゲン含量(Cl換算)として0.1〜15重量%、(B)成分は合計量として0.1〜15重量%(活性分換算)の範囲である。また、本発明の水処理剤組成物は、製品安定性のため組成物のpHを13以上とする。pH13未満では本発明の水処理剤組成物の貯蔵安定化効果が充分に発揮されない。本発明の水処理剤組成物のpHを13以上とするため、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が加えられる。
【0056】
本発明の水処理剤組成物は(A)成分と(B)成分を個別に調製した後、両成分を混合するが、(A)成分と(B)成分の配合順序に制限は無い。(A)成分と(B)成分を混合後、pHを13以上とすることによって本発明の水処理剤組成物を調製する。
【0057】
また、本発明者は、本発明の水処理用剤組成物において、下記式(5)で示される水処理剤組成物の420nmにおける吸光係数εが0.3〜0.6の範囲であることが好ましく、該吸光係数が0.3未満では十分な殺菌効果や殺藻効果を得ることができない場合があり、吸光係数が0.6以上では水処理剤組成物の高温貯蔵安定性が劣り長期間の保存ができないため、いずれも好ましくないことを見出した。
ε=A/(C・x) (5)
ここで A:水処理剤組成物の420nmにおける吸光度
C:水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量(Cl換算重量%)
x:光路長(cm)
【0058】
本発明の水処理剤組成物の420nmにおける吸光係数εを0.3〜0.6の範囲に調整するためには、本発明の水処理剤組成物の(A)成分における次亜臭素酸及び/又は次亜臭素酸塩とスルファミン酸の配合比率を有効ハロゲン量(Cl換算)1モルに対してスルファミン酸0.8〜3.0モルの範囲とし、該組成物中の(B)成分の合計量が結合臭素化合物の有効ハロゲン含量(Cl換算)に対して1/20〜10倍量(重量換算)範囲とし、該水処理剤組成物のpHが13以上とする。
【0059】
本発明の水処理剤組成物中には(A)成分と(B)成分以外に、本発明の効果が損なわれない範囲において他の種類の薬品を配合することができる。例えば、本発明の水処理剤組成物を金属材質として銅や銅合金が存在する水系に適用する場合は、銅や銅合金の腐食抑制を目的として該水処理剤組成物中にベンゾトリアゾール類を配合させることが好ましい。ベンゾトリアゾール類の例としてトリルトリアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、クロロ置換ベンゾトリアゾール、ブロモ置換ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。この他、正リン酸塩、重合リン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜鉛酸塩、アルミン酸塩等の結合臭素化合物と相溶可能な無機系腐食抑制剤や、各種の非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性性界面活性剤等の洗浄剤を配合することができる。
【0060】
本発明の水処理剤組成物を被処理水系に適用する場合、被処理水中のpHは特に限定されないが、通常はpH5〜10の範囲内である。本発明の水処理剤組成物の添加量や添加方法などは被処理水系の状況によって異なるが、通常、被処理水系の工程水や循環水に対して、(A)成分を有効ハロゲン(Cl換算)として0.1〜100mg/L、(B)成分を合計濃度(活性分換算)として0.1〜100mg/Lを連続的ないし断続的に添加する。この連続的な添加には、通常、薬注ポンプを使用する。また、本発明の水処理剤組成物を高濃度で一括添加することにより被処理水系内に存在するバイオフィルムや無機デポジットを剥離分散することもできる。また、本発明の水処理剤組成物の添加により被処理水系内での菌類や藻類の繁殖を抑制し、バイオフィルムの形成を抑制するとともに無機デポジットの付着を抑制することができる。
【0061】
本発明の水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量ならびに被処理水中の残留ハロゲン濃度はジエチル―p―フェニレンジアンモニウム(DPD)−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法、DPD比色法、ヨード滴定法等公知の方法(JIS K 0101−1991参照)により測定できる。
【0062】
本発明の水処理剤組成物の微生物障害の抑制に必要な被処理水中における添加濃度は、通常は有効ハロゲン濃度が所定の範囲内になるように管理されるが、被処理水中の酸化還元電位(ORP)が300〜600mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように本発明の水処理剤組成物の添加量を調整することもできる。維持すべきORPは、システム条件、生物汚染に対する許容度、問題となる微生物や水棲生物の種類などによって異なるが、300mV未満では本発明の殺菌剤成分濃度が低く十分な殺菌効果を得られない場合がある。また、本発明の水処理剤組成物は、過剰添加してもORPは600mV程度で飽和に達するため、ORPを過度に増加させて金属の腐食を増加させることがないため好適である。本発明の水処理剤組成物は、ORPの測定結果をもとに添加量を自動的に調整することができる。本発明の水処理剤組成物の自動添加システムの具体例として、水処理剤組成物の供給装置と制御部から構成され、制御部はORPの測定値と設定値を比較して水処理剤組成物の供給装置に出力を与えるものであり、例えば、被処理水の殺菌効果が維持されるORPの範囲を設定し、ORPの測定値が設定範囲値未満に低下した場合は水処理剤組成物の添加装置を作動させる。その結果、ORPが設定範囲内に達したならば、水処理剤組成物の添加装置を停止させることによって、被処理水のORPが維持される。
【0063】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマー、(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物、及び(3)ヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物の被処理水系中の濃度を測定する手段は、これらの化合物の濃度分析方法として公知な方法が利用できる。
【0064】
本発明の(B)成分の(1)亜硫酸、水溶性亜硫酸塩及びアミンチオールからなる群から選択されるテロゲンとヒドロキシル基を有さない不飽和単量体の反応で得られるテロマーの濃度を測定する手段は、例えばポリマー比濁法や蛍光光度法や紫外吸光光度法などにより測定される。ここで、ポリマー比濁法はアニオン性高分子電解質とカチオン性化合物を定量的に反応させて安定な白濁を生じさせ、光の透過光ないし散乱光の強度を測定して、予め作成した検量線よりアニオン性高分子電解質の濃度を求めるものである。アニオン性高分子電解質と定量的に反応して安定な白濁を生じるカチオン性化合物として、炭素数が12以上の第四級アンモニウム塩があり、その具体的な例として、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジベンジルアンモニウム塩、アルキルトリベンジルアンモニウム塩、ベンゼトニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩ならびにこれらの誘導体が挙げられる。第四級アンモニウム塩は分子中に第四級アンモニウム基が2個以上あってもよい。第四級アンモニウム塩の形態は塩化物、臭化物、沃化物、硫酸塩などである。カチオン性化合物とともにキレート剤を添加することにより、測定用の試料水に共存する金属イオンが第四級アンモニウム塩とアニオン性高分子電解質との定量的反応を妨害するのをマスキングすることができる。また、キレート剤を中和塩として添加することにより反応時のpH緩衝剤として作用させることもできる。
【0065】
テロゲンとしてアミンチオールを用いたテロマーはテロマー末端にアミノ基を有するため、該アミノ基と反応可能な標識化合物を結合させて、該標識化合物の濃度を測定することによりテロマーの濃度を測定することができる。その具体的な方法は、特許第4095691号公報、特許第4528336号公報等に示されており、例えば、標識化合物として1−(ジメチルアミノ)−5−ナフタレンスルホン酸(別名:ダンシル(dansyl)酸)およびそのハライド;4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4−スルホン酸(別名:ダブシル(dabsyl))およびそのハライド、2,4,6−トリニトロ−ベンゼンスルホン酸およびその塩、3−ベンゾイルキノリン−2−カルボキシアルデヒド、3−(2−フルホイル)キノリン−2−カルボキシアルデヒド、2,4−ジニトロフルオロベンゼン(Sanger試薬)、およびニンヒドリンが挙げられ、測定手段として比色分析法、蛍光法、紫外分光法、各種クロマトグラフィー法等を用いることができる。
【0066】
被処理水中における、本発明の(B)成分の(2)次亜リン酸及び/又は水溶性次亜リン酸塩とヒドロキシル基を有さない不飽和単量体との反応で得られる有機ホスフィン酸化合物、及び(3)ヒドロキシル基及びアミノ基を有さない有機ホスホン酸化合物の濃度を測定する手段は、被処理水中に含まれる有機リン酸化合物を強酸性下で酸化剤や熱や光などによりオルトリン酸に分解した後、オルトリン酸を吸光光度法(モリブデン青法)により分析して、リン酸換算濃度として測定する。有機リン酸化合物の分析方法は、例えばJIS K0101:1998「工業用水試験方法」における加水分解性リンや全リンの分析方法が利用できる。
【0067】
本発明の水処理剤組成物は、各種の好気性細菌、嫌気性細菌、通性嫌気性細菌、カビ、酵母などの微生物や貝類、原生動物、藻類などを殺滅できるだけでなく、既に系内に付着している微生物や水棲生物を剥離除去することもできる。また、レジオネラ菌(Legionella pneumophila)に対しても有効である。
【0068】
本発明の水処理剤組成物のスケール付着抑制の対象となるスケールの種類は特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩スケール;硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの硫酸塩スケール;リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウムなどのリン酸塩スケール;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛などのケイ酸塩スケール;無定形シリカスケール;水酸化マグネシウム;水酸化アルミニウム;酸化鉄や水酸化鉄などが含まれる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
1.試験に用いた(A)成分と(B)成分
1−1.(A)成分の調製
1−1−1.(A)成分に該当する結合臭素化合物の調製
(結合臭素化合物No.A−1)
臭化ナトリウム5.2重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液を調製した。次いでスルファミン酸8.3重量部に水8.6重量部を加え、48%水酸化ナトリウム8.6重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液を該次亜臭素酸水溶液に加えて、室温(20℃)で10分間撹拌して、結合臭素化合物の水溶液である結合臭素化合物No.A−1を得た。なお、各反応の前後で有効ハロゲンの失活はなかった。
結合臭素化合物への転化は吸収スペクトルの変化によって判定した。即ち、図1のAの曲線は次亜塩素酸ナトリウム水溶液の吸収スペクトルを示し、図1のBの曲線は次亜塩素酸ナトリウムに臭化ナトリウム水溶液を加えて10分後の次亜臭素酸塩水溶液の吸収スペクトルを示すが、次亜塩素酸ナトリウムは完全に次亜臭素酸塩に転化していることが確認された。次いで、この次亜臭素酸塩水溶液にスルファミン酸ナトリウム水溶液を加えて10分後の結合臭素化合物水溶液の吸収スペクトルは図1のCの曲線として示されるが、Bの曲線とは全く異なって次亜臭素酸塩の吸収ピークは消失しており、完全に結合臭素化合物に転化していることが確認された。なお、吸収スペクトルの測定は、各試料を有効ハロゲンとして344mg/L(Cl換算)になるようにイオン交換水で希釈し、10mm石英セルを用いて測定した。
【0070】
(結合臭素化合物No.A−2)
臭化ナトリウム3.7重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液を調製した。次いでスルファミン酸8.3重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム12.9重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液を該次亜臭素酸水溶液に加えて、室温(20℃)で10分間撹拌して、結合臭素化合物の水溶液である結合臭素化合物No.A−2を得た。
【0071】
(結合臭素化合物No.A−3)
臭化ナトリウム4.2重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液を調製した。次いでスルファミン酸8.3重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム12.9重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液を該次亜臭素酸水溶液に加えて、室温(20℃)で10分間撹拌して、結合臭素化合物の水溶液である結合臭素化合物No.A−3を得た。
【0072】
(結合臭素化合物No.A−4)
臭化ナトリウム2.9重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液を調製した。次いでスルファミン酸8.3重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム12.9重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液を該次亜臭素酸水溶液に加えて、室温(20℃)で10分間撹拌して、結合臭素化合物の水溶液である結合臭素化合物No.A−4を得た。
【0073】
(結合臭素化合物No.A−5)
臭化ナトリウム5.3重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液を調製した。次いでスルファミン酸8.3重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム12.9重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液を該次亜臭素酸水溶液に加えて、室温(20℃)で10分間撹拌して、結合臭素化合物の水溶液である結合臭素化合物No.A−5を得た。
【0074】
1−1−2.(A)成分に該当しない酸化性殺菌剤の調製(比較例に使用)
(酸化性殺菌剤No.B−1)
臭化ナトリウム5.2重量部を水7.3重量部に溶解した水溶液を、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部に加えて室温(20℃)で10分間撹拌して次亜臭素酸水溶液である酸化性殺菌剤No.B−1を得た。
【0075】
(酸化性殺菌剤No.B−2)
スルファミン酸8.3重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム12.9重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液に、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液30重量部を加えて室温(20℃)で10分間撹拌し、結合塩素化合物の水溶液である酸化性殺菌剤No.B−2を得た。
【0076】
(酸化性殺菌剤No.B−3)
有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液を酸化性殺菌剤No.B−3とした。
【0077】
(酸化性殺菌剤No.B−4)
スルファミン酸8重量部に水8.8重量部を加え、48%水酸化ナトリウム19重量部を冷却しながら加えて調製したスルファミン酸ナトリウム水溶液に、有効塩素12重量%(Cl換算)を含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量部を加えて室温(20℃)で10分間撹拌し、結合塩素化合物の水溶液である酸化性殺菌剤No.B−4を得た。
【0078】
1−2.(B)成分の調製
1−2−1.(B)成分の(1)に該当するテロマーの調製
(テロマーNo.1A)
撹拌機、温度計、窒素ガス通気孔、ガラス還流管を取り付けた500mLガラス製4つ口セパラブルフラスコに水を34.5重量部加えて窒素ガスの通気と撹拌を開始し、90℃に加熱した。次いで、液温を90℃を維持しながら3個のチューブポンプを用いてモノマー溶液、開始剤溶液、テロゲン溶液をそれぞれ別個に3時間かけて連続的に滴下した。ここでモノマー溶液は、80%アクリル酸の30重量部と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(略号:AMPS)の16重量部と48%水酸化ナトリウムの6.5重量部を撹拌混合して調製した。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム1重量部を3重量部の水に溶解したものを用いた。テロゲン溶液はピロ亜硫酸ナトリウムの1重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた。即ち、アクリル酸とAMPSの配合重量比は60:40、アクリル酸とAMPSからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.013である。各溶液の滴下終了後、90℃でさらに1時間加熱した後、水を加えて全量を100重量部としてテロマーNo.1Aを得た。該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上、該テロマーの平均分子量は約40000であった。
【0079】
(テロマーNo.2A)
ピロ亜硫酸ナトリウムの配合量を変え、反応モル比(t/m)を0.026とした以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.2Aを得た。該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上、該テロマーの平均分子量は約20000であった。
【0080】
(テロマーNo.3A)
ピロ亜硫酸ナトリウムの配合量を変え、反応モル比(t/m)を0.051とした以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.3Aを得た。該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上、該テロマーの平均分子量は約10000であった。
【0081】
(テロマーNo.4A)
ピロ亜硫酸ナトリウムの配合量を変え、反応モル比(t/m)を0.036とし、同時にモノマー溶液の80%アクリル酸配合量を40重量部に変え、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の配合量を8重量部に変えた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.4Aを得た。アクリル酸とAMPSの配合重量比は80:20であり、該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上であった。
【0082】
(テロマーNo.5A)
ピロ亜硫酸ナトリウムの配合量を変え、反応モル比(t/m)を0.051とした以外はテロマーNo.4Aと同様の方法によりテロマーNo.5Aを得た。該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上であった。
【0083】
(テロマーNo.6A)
モノマー溶液として、80%アクリル酸の30重量部とスチレンスルホン酸ナトリウム(略号:SS)の16重量部を水20重量部に撹拌溶解して調製したものを用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの4重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.6Aを得た。即ち、アクリル酸とSSの配合重量比は60:40、アクリル酸とSSからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.051、該テロマー中のアクリル酸とSSの合計含量は40%である。
【0084】
(テロマーNo.7A)
モノマー溶液として、メタクリル酸の24重量部と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の16重量部と48%水酸化ナトリウムの6.5重量部を撹拌混合して調製したものを用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの3.3重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.7Aを得た。即ち、メタクリル酸とAMPSの配合重量比は60:40、メタクリル酸とAMPSからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.049、該テロマー中のメタクリル酸とAMPSの合計含量は40%である。
【0085】
(テロマーNo.8A)
テロゲンとしてピロ亜硫酸ナトリウムの替わりにシステインを2.6重量部加えた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.8Aを得た。即ち、アクリル酸とAMPSからなるモノマー(m)に対するシステインからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.052である。
【0086】
(テロマーNo.9A)
モノマー溶液として、80%アクリル酸の30重量部と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の8重量部とN−tert−ブチルアクリルアミド(略号:tBuAAm)の8重量部を水20重量部に撹拌溶解して調製したものを用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの4重量部を用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.9Aを得た。即ち、アクリル酸とAMPSとtBuAAmの配合重量比は60:20:20、アクリル酸とAMPSとtBuAAmからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.048、該テロマー中のアクリル酸とAMPSとtBuAAmの合計含量は40%である。
【0087】
(テロマーNo.10A)
モノマー溶液として、80%アクリル酸の50重量部を用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの6.3重量部を用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.10Aを得た。即ち、アクリル酸の単独配合であり、アクリル酸からなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.060、該テロマー中のアクリル酸の含量は40%である。
【0088】
(テロマーNo.11A)
Optidose2000(商品名、ダウ・ケミカル社製)
テロゲンがアミンチオールであり、不飽和単量体がアクリル酸とAMPSである分子量4500のテロマー。
【0089】
(テロマーNo.12A)
Optidose3100(商品名、ダウ・ケミカル社製)
テロゲンがアミンチオールであり、不飽和単量体がアクリル酸とAMPSとtBuAAmである分子量4500のテロマー。
【0090】
(テロマーNo.13A)
Flosperse3024CSA50(商品名、SNF社製)
テロゲンが亜硫酸塩であり、不飽和単量体がアクリル酸とAMPSである分子量5500のテロマー。アクリル酸とAMPSの配合重量比は75:25である。
【0091】
1−2−2.(B)成分の(1)に該当しないテロマーの調製(比較例に使用)
(テロマーNo.1B)
テロマーNo.1Aの製造時と同じ4つ口フラスコにイソプロピルアルコール34.5重量部加えて窒素ガスの通気と撹拌を開始し、70℃に加熱維持しながらテロマーNo.1Aと同様のモノマー溶液、開始剤溶液をそれぞれ別個に3時間かけて連続的に滴下し、各溶液の滴下終了後、70℃でさらに1時間加熱した後、イソプロピルアルコールを留去し、水を加えて全量を100重量部としてテロマーNo.1Bを得た。ここで、該テロマーにおけるテロゲンはイソプロピルアルコールであり、本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。また、モノマーであるアクリル酸とAMPSの配合重量比は60:40、アクリル酸とAMPSからなるモノマー(m)に対するイソプロピルアルコールからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は1.4である。該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%、各モノマーの反応率は99%以上であった。
【0092】
(テロマーNo.2B)
モノマー溶液の80%アクリル酸配合量を40重量部に変え、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の配合量を8重量部に変えた以外はテロマーNo.1Bと同様の方法によりテロマーNo.2Bを得た。アクリル酸とAMPSの配合重量比は80:20であり、該テロマー中のアクリル酸とAMPSの合計含量は40%であった。
【0093】
(テロマーNo.3B)
テロゲンとしてピロ亜硫酸ナトリウムの替りにβ−メルカプトプロピオン酸を1.5重量部加えた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.3Bを得た。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのβ−メルカプトプロピオン酸は、本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。アクリル酸とAMPSからなるモノマー(m)に対するβ−メルカプトプロピオン酸からなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.034である。
【0094】
(テロマーNo.4B)
テロマーNo.1Aの製造時と同じ4つ口フラスコに無水マレイン酸10重量部とo−キシレン50重量部を入れ、140℃に昇温して攪拌溶解した。窒素ガス通気下で140℃を維持しながら、ジ−tert−ブチルパーオキシド0.3重量部をキシレン10重量部に溶解した開始剤溶液を15分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で140℃を90分間維持した後、フラスコ底部にポリマーが沈澱したことを確認し、デカンテーションにより上澄み液を取り除いた。そこへ水100mlを加え、透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液をロータリーエバポレーターにて、減圧下50℃の条件でキシレンを留去して、テロマーNo.4Bであるマレイン酸テロマーの30重量%水溶液を55重量部得た。該テロマーの平均分子量は500であった。ここで、該テロマーにおけるテロゲンはo−キシレンであり、本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。マレイン酸からなるモノマー(m)に対するo−キシレンからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は5.5である。
【0095】
(テロマーNo.5B)
モノマー溶液として80%アクリル酸の30重量部と3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(略号:AHPS)ナトリウムの40重量%水溶液の44.5重量部を撹拌混合して調製したものを用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの3.3重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.5Bを得た。ここで、AHPSはヒドロキシル基を有しており、本発明の(B)成分の(1)の不飽和単量体には該当しない。また、モノマーであるアクリル酸とAHPSの配合重量比は60:40、アクリル酸とAHPSからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.042、該テロマー中のアクリル酸とAHPSの合計含量は40%である。
【0096】
(テロマーNo.6B)
テロゲンとしてピロ亜硫酸ナトリウムの替りにβ−メルカプトプロピオン酸を5重量部加えた以外はテロマーNo.10Aと同様の方法によりテロマーNo.6Bを得た。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのβ−メルカプトプロピオン酸は、本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。また、アクリル酸からなるモノマー(m)に対するβ−メルカプトプロピオン酸からなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.047、該テロマー中のアクリル酸の含量は40%である。
【0097】
(テロマーNo.7B)
モノマー溶液として80%アクリル酸の30重量部とアクリル酸−2−ヒドロキシプロピルの16量部を撹拌混合して調製したものを用い、テロゲン溶液としてピロ亜硫酸ナトリウムの3.3重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた以外はテロマーNo.1Aと同様の方法によりテロマーNo.7Bを得た。ここで、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルはヒドロキシル基を有しており、本発明の(B)成分の(1)の不飽和単量体には該当しない。また、モノマーであるアクリル酸とアクリル酸−2−ヒドロキシプロピルの配合重量比は60:40、アクリル酸とアクリル酸−2−ヒドロキシプロピルからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.037、該テロマー中のアクリル酸とアクリル酸−2−ヒドロキシプロピルの合計含量は40%である。
【0098】
(テロマーNo.8B)
モノマー溶液として80%アクリル酸の30重量部とメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルの16量部を撹拌混合して調製したものを用いた以外はテロマーNo.7Bと同様の方法によりテロマーNo.8Bを得た。ここで、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルはヒドロキシル基を有しており、本発明の(B)成分の(1)の不飽和単量体には該当しない。また、モノマーであるアクリル酸とメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルの配合重量比は60:40、アクリル酸とメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルからなるモノマー(m)に対するピロ亜硫酸ナトリウムからなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.037、該テロマー中のアクリル酸とメタリル酸−2−ヒドロキシエチルの合計含量は40%である。
【0099】
(テロマーNo.9B)
テロゲンとしてピロ亜硫酸ナトリウムの替りにβ−メルカプトプロピオン酸を1.5重量部加えた以外はテロマーNo.9Aと同様の方法によりテロマーNo.9Bを得た。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのβ−メルカプトプロピオン酸は、本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。また、アクリル酸とAMPSとtBuAAmからなるモノマー(m)に対するβ−メルカプトプロピオン酸からなるテロゲン(t)の反応モル比(t/m)は0.033である
【0100】
(テロマーNo.10B)
Belclene200LA(商品名、BWA社製)
テロゲンがo−キシレンであり、不飽和単量体がマレイン酸である分子量500のテロマー。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのo−キシレンは本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。
【0101】
(テロマーNo.11B)
アロンA−6016(商品名、東亜合成社製)
テロゲンがイソプロピルアルコールであり、不飽和単量体がアクリル酸とAMPSである分子量3000のテロマー。アクリル酸とAMPSの配合重量比は80:20である。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのイソプロピルアルコールは本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。
【0102】
(テロマーNo.12B)
アロンA−200U(商品名、東亜合成社製)
テロゲンがイソプロピルアルコールであり、不飽和単量体がアクリル酸である分子量2000のテロマー。ここで、該テロマーにおけるテロゲンのイソプロピルアルコールは本発明の(B)成分の(1)のテロゲンには該当しない。
【0103】
1−2−3.(B)成分の(1)に該当しない非テロマー系重合体の調製(比較例に使用)
(非テロマー系重合体No.1C)
テロマーNo.1Aの製造時と同じ4つ口フラスコに無水マレイン酸40重量部(0.40モル)、硫酸第一鉄7水和物0.02重量部、水40重量部を加え、これに48%水酸化カリウム水溶液を11.9重量部(0.10モル)加えた。窒素を連続的に通気しながら、この液を95℃に加熱した後、液温を95℃に維持しながら触媒として35%過酸化水素18.3重量部と過硫酸ナトリウム0.65重量部を水2.5重量部に溶解した液を120分間かけて滴下した。滴下終了後、硫酸第一鉄7水和物0.02重量部を一括で加え、更に95℃で2時間加熱して、重量平均分子量1000のマレイン酸重合体の水溶液である非テロマー系重合体No.1Cを得た。該非テロマー系重合体におけるマレイン酸の反応率は88%であった。
【0104】
(非テロマー系重合体No.2C)
アロンA−6520(商品名、東亜合成社製):分子量1000の非テロマー系マレイン酸重合体。
【0105】
(非テロマー系重合体No.3C)
アクアリックLS−20(商品名、日本触媒社製):アクリル酸とAHPSの共重合体。
【0106】
1−2−4.(B)成分の(1)に係る一覧表
(B)成分の(1)に該当するテロマー、(B)成分の(1)に該当しないテロマー及び(B)成分の(1)に該当しない非テロマー系重合体について、概略を表1に示した。
【表1】
【0107】
1−2−5.(B)成分の(2)に該当する有機ホスフィン酸化合物の調製
(有機ホスフィン酸化合物No.1D)
テロマーNo.1Aの製造時と同じ4つ口フラスコに水35重量部と無水マレイン酸10.7重量部を加え、これに水酸化ナトリウム水溶液(48重量%)20重量部を徐々に加え、更に次亜リン酸ナトリウム・1水和物11.6重量部を加えた。この液を窒素ガス通気下で80℃に加熱し、35%過酸化水素1.6重量部を水5.5重量部に溶解した開始剤溶液と15.7重量部の80%アクリル酸とをそれぞれ別々に1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で2.5時間加熱して冷却後、全体で100重量部になるように水を追加投入して反応生成物水溶液の有機ホスフィン酸化合物No.1Dを得た。該有機ホスフィン酸化合物の活性分含量は34.8重量%、pH5、後述の測定方法により算出した有機ホスフィン酸転化率は95%、平均分子量は400であった。
【0108】
(有機ホスフィン酸化合物No.2D)
無水マレイン酸98重量部を水138重量部に溶解し、これに水酸化ナトリウム水溶液(48重量%)81.7重量部を徐々に加え、更に次亜リン酸ナトリウム・1水和物30.8重量部を加えた。この液を窒素ガス通気下で100℃に加熱し、過酸化水素水(35重量%)15.5重量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに100℃で2時間加熱して反応生成物水溶液の有機ホスフィン酸化合物No.2Dを得た。該有機ホスフィン酸化合物はポリ−ビス(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸を主成分として含み、その活性分含量は35.4重量%、pH4.4、後述の測定方法により算出した有機ホスフィン酸転化率は90%、平均分子量は420であった。
【0109】
(有機ホスフィン酸化合物No.3D)
テロマーNo.1Aの製造時と同じ4つ口フラスコに水を34.5重量部加えて、窒素ガスの通気と撹拌を開始し、90℃に加熱した。次いで、液温を90℃に維持しながら3個のチューブポンプを用いてモノマー溶液、開始剤溶液、次亜リン酸塩溶液をそれぞれ別個に3時間かけて連続的に滴下した。ここでモノマー溶液は、80%アクリル酸の30重量部と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の16重量部と48%水酸化ナトリウムの6.5重量部を撹拌混合して調製した。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム1重量部を3重量部の水に溶解したものを用いた。次亜リン酸塩溶液は次亜リン酸ナトリウム・1水和物の3重量部を8重量部の水に溶解したものを用いた。各溶液の滴下終了後、90℃でさらに1時間加熱した後、水を加えて全量を100重量部として有機ホスフィン酸化合物No.3Dを得た。該有機ホスフィン酸化合物の配合 モノマーの活性分含量は40%、後述の測定方法により算出した有機ホスフィン酸転化率は97%、各モノマーの反応率は99%以上、平均分子量は1000であった。
【0110】
(有機ホスフィン酸化合物No.4D)
Belclene500(商品名、BWA社製):次亜リン酸とアクリル酸の反応による平均分子量400の有機ホスフィン酸化合物
【0111】
(有機ホスフィン酸化合物No.5D)
Belsperse164(商品名、BWA社製):次亜リン酸とアクリル酸の反応による平均分子量1600の有機ホスフィン酸化合物
【0112】
(有機ホスフィン酸化合物No.6D)
Belclene400(商品名、BWA社製):次亜リン酸と、アクリル酸及びAMPS(重量比73:27)の反応による分子量4000の有機ホスフィン酸化合物
【0113】
1−2−6.(B)成分の(2)に該当しない有機ホスフィン酸化合物の調製(比較例に使用)
(有機ホスフィン酸化合物No.1E)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(=AMPS)の替わりに3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(=AHPS)ナトリウムの40重量%水溶液を44.5量部用いた以外は有機ホスフィン酸No.3Dと同様の方法により有機ホスフィン酸化合物No.1Eを得た。ここで、AHPSはヒドロキシル基を有しており、本発明の(B)成分の(2)の不飽和単量体には該当しない。
【0114】
1−2−7.(B)成分の(3)に該当する有機ホスホン酸化合物の調製
(有機ホスホン酸化合物No.1F)
水50重量部に無水マレイン酸17.9重量部と亜リン酸9.4重量部を加え、水酸化ナトリウム23.8重量部を冷却しながら徐々に加えた。この液を窒素通気下で105℃で還流しながら過硫酸ナトリウム4重量部を水7重量部に溶解した開始剤溶液を4時間40分かけて滴下した。滴下終了後、さらに液温を45分間維持した後、冷却して水を加えて全量を100重量部とし、有機ホスホン酸化合物No.1Fを得た。該有機ホスホン酸化合物はホスホノコハク酸と重合度2のポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム塩とを主成分として含み、亜リン酸に対するマレイン酸のモル比は1.6、配合モノマーの活性分含量は30.6%、後述の測定方法により算出した亜リン酸の有機ホスホン酸転化率は90%であった。
【0115】
(有機ホスホン酸化合物No.2F)
水50重量部に無水マレイン酸15.7重量部と亜リン酸9.4重量部を加え、水酸化ナトリウム22重量部を冷却しながら徐々に加えた。この液を窒素通気下で95℃に加熱維持しながら、過硫酸ナトリウム4重量部を水7重量部に溶解した開始剤溶液を7時間30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに45分間加熱を維持した後、冷却して水を加えて全量を100重量部とし、有機ホスホン酸化合物No.2Fを得た。該有機ホスホン酸化合物はホスホノコハク酸と重合度2のポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスホン酸ナトリウム塩とを主成分として含み、亜リン酸に対するマレイン酸のモル比は1.4、配合モノマーの活性分含量は29.4%、後述の測定方法により算出した亜リン酸の有機ホスホン酸転化率は90%であった。
【0116】
(有機ホスホン酸化合物No.3F)
ジエチルハイドロゲンホスファイト27.6重量部を窒素通気下で120℃に加熱した。これにジ−tert−ブチルペルオキシド7.3重量部とアクリル酸エチル60重量部を同時に4時間にわたって滴下後、液温を120℃で2時間維持した。水100重量部を加え、減圧下で有機分を留去後、塩酸(18重量%)200重量部を加えて16時間還流下で加水分解した。減圧下で水分を留去後、45重量部のポリマー状反応生成物の有機ホスホン酸化合物No.3Fを得た。該有機ホスホン酸化合物はポリ(2−カルボキシエチル)ホスホン酸を主成分として含む。
【0117】
(有機ホスホン酸化合物No.4F)
BriCorr288(商品名、SOLVAY社製):亜リン酸とアクリル酸の反応による有機ホスホン酸化合物
【0118】
(有機ホスホン酸化合物No.5F)
キレストPH−430(商品名、キレスト(株)社製):2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(略号:PBTC)
【0119】
1−2−8.(B)成分の(3)に該当しない有機ホスホン酸化合物の調製(比較例に使用)
(有機ホスホン酸化合物No.1G)
キレストPH−210(商品名、キレスト(株)社製):1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(略号:HEDP)。ヒドロキシル基を有する有機ホスホン酸化合物であり、本発明の(B)成分の(3)には該当しない。
【0120】
(有機ホスホン酸化合物No.2G)
Belcor575(商品名、BWA社製):2−ヒドロキシホスホノ酢酸。ヒドロキシル基を有する有機ホスホン酸化合物であり、本発明の(B)成分の(3)には該当しない。
【0121】
(有機ホスホン酸化合物No.3G)
キレストPH−320(商品名、キレスト(株)社製):ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(略号:NTMP)、別名:アミノトリメチルホスホン酸(略号:ATMP)。アミノ基を有する有機ホスホン酸化合物であり、本発明の(B)成分の(3)には該当しない。
【0122】
1−2−9.(B)成分の(2)及び(3)に係る一覧表
(B)成分の(2)に該当する有機ホスフィン酸化合物、(B)成分の(2)に該当しない有機ホスフィン酸化合物、(B)成分の(3)に該当する有機ホスホン酸化合物及び(B)成分の(3)に該当しない有機ホスホン酸化合物について、概略を表2に示した。
【表2】
【0123】
1−3.有機ホスフィン酸転化率及び有機ホスホン酸転化率の測定方法
(有機ホスフィン酸転化率)
反応生成物の1%溶液1mLに、トリエチルアミン10μL、3000mg/L塩化第2水銀水溶液200μL、エタノール1mLを加えて110℃で20分間加熱し、未反応の次亜リン酸をリン酸エステルに変化させ、モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法の加水分解性りん定量方法(JIS K0101:1998)により吸光度を測定した。予め作成した次亜リン酸の検量線より反応生成物溶液中の未反応の次亜リン酸の含量を求めた。また、モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法の全りん定量方法(JIS K0101:1998)により反応生成物溶液中の全リン酸の含量を求め、式(6)により次亜リン酸の有機ホスフィン酸転化率を計算した。
J=(Jt−Jn)/Jt×100 (6)
ここで
J:次亜リン酸の有機ホスフィン酸転化率(%)
Jn:反応生成物中の未反応の次亜リン酸含量(%)
Jt:反応生成物中の全リン酸含量(%)
【0124】
(有機ホスホン酸転化率)
反応生成物の1%溶液1mLに、トリエチルアミン10μL、3000mg/L塩化第2水銀水溶液200μL、エタノール1mLを加えて110℃で20分間加熱し、未反応の亜リン酸をリン酸エステルに変化させ、モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法の加水分解性りん定量方法(JIS K0101:1998)により吸光度を測定した。予め作成した亜リン酸の検量線より反応生成物溶液中の未反応の亜リン酸の含量を求めた。また、モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法の全りん定量方法(JIS K0101:1998)により反応生成物溶液中の全リン酸の含量を求め、式(7)により亜リン酸の有機ホスホン酸転化率を計算した。
J=(Jt−Jn)/Jt×100 (7)
ここで
J:亜リン酸の有機ホスホン酸転化率(%)
Jn:反応生成物中の未反応の亜リン酸含量(%)
Jt:反応生成物中の全リン酸含量(%)
【0125】
2.高温貯蔵安定性試験
気温が30℃を超える夏季に1箇月間以上貯蔵することを想定して、本発明の水処理剤組成物に対する40℃×30日間の高温貯蔵安定性試験を行った。
【0126】
2−1.試験に用いた水処理剤組成物の調製
表3、表4及び表5に示した(A)成分及び(B)成分を表3、表4及び表5に示した重量部で混合した溶液を調製し、該溶液のpHが13.3以上になるように48%水酸化ナトリウム溶液を添加した後、水を加えて全量を100重量部として供試用の各水処理剤組成物を得た。ここで用いる水は純水、イオン交換水、軟化水のいずれでもよい。
表3には、(A)成分と、自製品の(B)成分の(1)に該当するテロマー、又は自製品の(B)成分の(1)に該当しないテロマー、又は自製品の(B)成分の(1)に該当しない非テロマー系重合体を有効成分として含む水処理剤組成物が挙げられており、表4には、(A)成分と、市販品の(B)成分の(1)に該当するテロマー、又は市販品の(B)成分の(1)に該当しないテロマー、又は市販品の(B)成分の(1)に該当しない非テロマー系重合体を有効成分として含む水処理剤組成物が挙げられており、表5には(A)成分と、(B)成分の(2)に該当する有機ホスフィン酸化合物、又は(B)成分の(2)に該当しない有機ホスフィン酸化合物、又は(B)成分の(3)に該当する有機ホスホン酸化合物、又は(B)成分の(3)に該当しない有機ホスホン酸化合物を有効成分として含む水処理剤組成物が挙げられている。
これらの水処理剤組成物の有効ハロゲン含量(Cl換算重量%)は後述の測定方法で測定され、製造直後の有効ハロゲン含量は3.6%であった。この試験における供試水処理剤組成物の有効ハロゲン含量は結合臭素含量に相当する。また、後述の算出方法で算出される420nmにおける吸光係数は0.55であった。
【0127】
2−2.高温貯蔵安定性試験方法
供試各水処理剤組成物を密閉したガラス容器にそれぞれ入れ、40℃の恒温器中で30日間静置して高温貯蔵安定性試験を実施後、後述の測定方法で測定する有効ハロゲン含量と後述の算出方法で算出する420nmにおける吸光係数を求めた。本試験に用いた水処理剤組成物では有効ハロゲン含量は結合臭素含量に相当するため、高温貯蔵安定性試験前後の有効ハロゲン含量の比を結合臭素残留率として表3〜表5に示した。また、試験後の420nmにおける吸光係数を表3〜表5に示した。
【0128】
2−3.水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量の測定方法
本発明者は、本発明の水処理剤組成物の色相が強い黄色であることに着目して、有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光度の関係を調べた結果、両者は極めて高い相関を示すことを見出した。即ち、配合する酸化性殺菌剤が次亜臭素酸塩とスルファミン酸の反応により得られる結合臭素化合物の場合、有効ハロゲン含量:C(Cl換算重量%)と420nmにおける吸光度:A420の関係は式(8)で近似できた。
420=0.5575C (8)
また、配合する酸化性殺菌剤が次亜臭素酸塩の場合、有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光度の関係は式(9)で近似できた。
420=1.1966C (9)
一方、配合する酸化性殺菌剤が次亜塩素酸塩とスルファミン酸の反応により得られる結合塩素化合物の場合、有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光度の関係は式(10)で近似できた。
420=0.0140C (10)
さらに、配合する酸化性殺菌剤が次亜塩素酸塩の場合、有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光度の関係は式(11)で近似できた。
420=0.0277C (11)
上記の式(8)〜(11)の関係において、吸光度測定時の光路長はいずれも1cmとした。
次亜塩素酸塩や結合塩素化合物と比較して、次亜臭素酸塩や結合臭素化合物の420nmにおける吸光度は極めて高いため、420nmにおける吸光度測定により水処理剤組成物中の結合臭素化合物あるいは次亜臭素酸塩の含量を測定できることを見出した。
【0129】
高温貯蔵安定性試験に用いた水処理剤組成物は、配合する酸化性殺菌剤が次亜臭素酸塩とスルファミン酸の反応により得られる結合臭素化合物の場合に相当するため、上記の式(8)を適用できる。即ち、供試水処理剤組成物の420nmにおける吸光度を測定し、その値(A420)を用いて式(8)を変形した下記の式(12)で求められる有効ハロゲン含量は結合臭素含量に相当する。
有効ハロゲン含量(結合臭素含量)(%)=A420/0.5575 (12)
【0130】
2−4.420nmにおける吸光係数の算出方法
供試水処理剤組成物の420nmにおける吸光係数は、前述の式(5)に従って水処理剤組成物の420nmにおける吸光度と水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量から算出する。光路長は通常1cmである。ここで用いる有効ハロゲン含量は以下の測定方法によって求める。
(有効ハロゲン含量の測定方法)
(1)N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩の1.0gとエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物の1.0gとリン酸二水素一ナトリウムの36.4gとリン酸一水素二ナトリウムの61.6gを乳鉢で混合してDPD希釈粉末とする。
(2)水処理剤組成物の1〜2gを採り秤量し、これをA(g)とする。これにイオン交換水を加えて全量を100mLにメスアップして水処理剤組成物溶液を調製する。
(3)200mLトールビーカーに0.5gのDPD希釈粉末を加える。
(4)100mLのイオン交換水と水処理剤組成物溶液の1mLを加え、撹拌してDPD希釈粉末を溶解させる。
(5)ヨウ化カリウム1gを加えて溶かし、2分間静置して赤に発色させる。
(6)速やかに2.82mmol/L硫酸第一鉄アンモニウム溶液で滴定する。赤色が無色になった点を終点とする。このときの滴定量をB(mL)する。
(7)次式により有効ハロゲン含量を求める。
有効ハロゲン含量(%Cl)=B/A
ここで、有効ハロゲン含量は、遊離塩素、遊離臭素、結合塩素、結合臭素の合計である。
【0131】
2−5.試験に用いた水処理剤組成物及び試験結果
試験に用いた水処理剤組成物の(A)成分と(B)成分の概略と高温貯蔵安定性試験結果を表3〜表5に示した。
【表3】
NT:未試験
【0132】
【表4】
NT:未試験
【0133】
【表5】
*:参考例
NT:未試験
【0134】
表3〜表5の結果から、比較例の水処理剤組成物は、25℃×14日間の貯蔵では結合臭素残留率が高いものの、40℃×30日間の貯蔵では結合臭素残留率が低く高温貯蔵安定性が悪いのに対し、本発明の水処理剤組成物は40℃×30日間の貯蔵においても結合臭素残留率が高く、その顕著な高温貯蔵安定性が明示された。
【0135】
また、(B)成分の(1)のテロゲンとしてピロ亜硫酸ナトリウムを用いたテロマーにおいて、テロゲンと不飽和単量体の比率(表1の(t/m)反応モル比)や不飽和単量体の共重合比は本発明の水処理剤組成物の結合臭素残留率に影響しなかった。この結果より、本発明の水処理剤組成物の結合臭素残留率は重合度や共重合比よりも末端基の化学構造が影響すると推測される。
【0136】
3.藻生育抑制試験
本発明の水処理剤組成物による藻の生育抑制効果を確認する藻生育抑制試験を行った。
【0137】
3−1.試験に用いた水処理剤組成物の調製
表6に示した酸化性殺菌剤成分、(B)成分及び1,2,3−ベンゾトリアゾール(略号:BT)を表6に示した重量部で混合した溶液を調製し、該溶液のpHが13.3以上になるように48%水酸化ナトリウム溶液を添加した後、水を加えて全量を100重量部として供試用の各水処理剤組成物を得た。ここで用いる水は純水、イオン交換水、軟化水のいずれでもよい。
供試水処理剤組成物の製造直後と前述の40℃×30日間の高温貯蔵安定性試験後の有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光係数を測定した。測定方法は前述の高温貯蔵安定性試験と同じである。
【0138】
【表6】
その他、前述の水処理剤組成物No.S3、S25も本試験に用いた。
【0139】
3−2.藻生育抑制試験方法及び試験結果
冷却塔より採取した藻を乳鉢ですり潰した後、MC培地を入れた三角フラスコに入れ、シリコン栓をして日光の当たる窓際に数週間程度静置して藻の培養液を調製した。
(MC培地の調製方法)
イオン交換水に硝酸カリウム1.25g、硫酸マグネシウム7水和物1.25g、リン酸二水素カリウム1.25gを溶解し、Fe金属混液1mL、A5金属混液1mLを加えて1Lにメスアップした。ここで、Fe金属混液は、硫酸第一鉄7水和物の1gをイオン交換水に溶解して500mLにメスアップ後、濃硫酸を2滴加えて調製した。A5金属混液は、ホウ酸2.86g、硫酸マンガン7水和物2.50g、硫酸亜鉛7水和物0.222g、硫酸銅5水和物0.079g、モリブデン酸ナトリウム2水和物0.025gをイオン交換水に溶解して1Lにメスアップして調製した。
別のフラスコに、pH8.3に調整したMC培地に表6に示す各供試用水処理剤組成物を、ジエチル―p―フェニレンジアンモニウム(DPD)−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法で測定した該組成物中の有効ハロゲン含量から計算した有効ハロゲン添加量としてそれぞれ5mg−Cl/L又は10mg−Cl/Lとなるように添加した試験液100mLを入れた。その各フラスコに培養液各1mLを接種し、シリコン栓をして日当たりのよい屋外に14日間静置した。
14日後に、JIS K0400−080−10:2000「水質−生化学的パラメータの測定−クロロフィルa濃度の吸光光度定量法」に準拠して試験液中のクロロフィルa濃度を測定した。すなわち、試験液をNo.6定量濾紙で濾過後、藻類を捕捉した濾紙を乾燥し、濾紙を20mLのエタノールを入れた密栓瓶に入れ、75℃で5分間加熱後、冷暗所で24時間静置して、付着藻類に含まれるクロロフィルaを抽出した。10mm比色セルを用いてエタノールを対照として、抽出液の665nmにおける吸光度A665と750nmにおける吸光度A750を測定した。別の抽出液10mLに4N−塩酸を0.03mL加えて15分間放置した後、同様にして665nmにおける吸光度Aa665と750nmにおける吸光度Aa750を測定する。
下記式より、抽出液中のクロロフィルa(ρc)とフェオフィチン(ρp)の各濃度(μg/L)を計算した。
ρc=(A−Aa)×29.6
ρp=Aa×20.8
ここで、
A=A665−A750
Aa=Aa665−Aa750

測定したクロロフィルaとフェオフィチンの濃度に基づいて、次式により藻生育抑制率を計算した。結果を表7に示した。
藻生育抑制率(%)=(Z0−Z)/Z0×100
ここで
Z:薬品添加時のクロロフィルaとフェオフィチンの合計濃度
0:薬品無添加時のクロロフィルaとフェオフィチンの合計濃度
【0140】
【表7】
【0141】
表7の結果から、本発明の水処理剤組成物を用いた実施例の藻生育抑制率は同じ有効ハロゲン添加量の比較例に比べて高く、本発明の水処理剤組成物の高い藻生育抑制効果が明示された。特に、30日間の高温貯蔵安定性試験を経た水処理剤組成物であっても、本発明の水処理剤組成物は結合臭素残留率が高いので、高い藻生育抑制効果を維持できることが明示された。
【0142】
4.開放式循環冷却水系評価試験
本発明の水処理剤組成物の付着物抑制効果及び金属腐食抑制効果を開放式循環冷却水系評価試験にて評価した。
【0143】
4−1.試験に用いた水処理剤組成物の調製
表8に示した酸化性殺菌剤成分、(B)成分及び1,2,3−ベンゾトリアゾール(略号:BT)を表8に示した重量部で混合した溶液を調製し、該溶液のpHが13.3以上になるように48%水酸化ナトリウム溶液を添加した後、水を加えて全量を100重量部として供試用の各水処理剤組成物を得た。ここで用いる水は純水、イオン交換水、軟化水のいずれでもよい。供試用水処理剤組成物の製造直後と前述の40℃×30日間の高温貯蔵安定性試験後の有効ハロゲン含量と420nmにおける吸光係数を測定した。測定方法は前述の高温貯蔵安定性試験と同じである。
【0144】
【表8】
その他、前述の水処理剤組成物No.S3、S44、S45を本試験に用いた。
【0145】
4−2.開放式循環冷却水系評価試験方法及び試験結果
開放式循環冷却水系の評価試験装置ならびに試験方法は、JIS G0593―2002「水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法」のオンサイト試験法に準拠した。試験装置の概略を図2に示す。伝熱管として外径12.7mm、長さ510mmのステンレス鋼管SUS304(JIS G3448)、炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)ならびにアルミニウム黄銅管C6871(JIS H3100)を用いた。
水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽2の水温は35℃になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量である210L/hになるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は35kW/mとした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。冷却塔入口・出口の循環水の温度差は15℃、蒸発水量は4.1L/hであった。
【0146】
補給水12の平均水質は、pH7、電気伝導度:18mS/m、Ca硬度:43mg−CaCO/L、Mg硬度:18mg−CaCO/L、Mアルカリ度:42mg−CaCO/L、 塩化物イオン:13mg/L、硫酸イオン:18mg/L、シリカ:12mg/Lであった。
初期処理として水槽2に補給水を張り、表8に示した供試水処理剤組成物400mg/Lとヘキサメタリン酸ソーダ(平均縮合度40)を12.5mg/L添加して、循環ポンプ3を作動させた後、常温で48時間循環した。(B)成分のテロマーNo.3Aを活性分として40mg/L添加後、熱交換器7の熱負荷を開始し、規定濃縮度に到達時点よりブローダウンを開始して循環水中のCa硬度が270mg−CaCO/Lになるように電気伝導率を自動的に制御した。具体的には、循環水の電気伝導率を電気伝導率測定セル4で連続的に測定し、その電気伝導率の入力信号を元に電気伝導率制御装置11を用いて設定された濃縮度に相当する電気伝導率になるようにブローダウンポンプ10を制御した。ブローダウンポンプ10と連動して、水処理剤注入装置13を同時に作動させて、図2に示されていない処理剤タンクから、表8に示す供試水処理剤組成物を添加量が250mg/Lになるように水槽2に添加した。試験期間は30日間とした。試験期間中の循環水の平均水質はpH8.8、Ca硬度270mg−CaCO/L、Mアルカリ度280mg−CaCO/L、濃縮度は6.3倍であった。また、循環水中の残留ハロゲン濃度、酸化還元電位(ORP)及び一般細菌数を定期的に測定した。循環水中の残留ハロゲン濃度はジエチル―p―フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法によって測定した。ここで残留ハロゲン濃度は、遊離残留塩素、遊離残留臭素、結合残留塩素、結合残留臭素の合計濃度である。ORPはORP計を循環水の戻り配管に設置して測定した。また、循環水中の一般細菌数はJIS K0102の方法に従って測定した。
【0147】
試験終了後、試験用伝熱管を取り外して、ステンレス鋼管におけるスケール付着速度と炭素鋼鋼管ならびにアルミニウム黄銅管における腐食速度をJIS G0593−2002の方法に則って測定した。また、試験終了後の冷却塔1内部の藻の付着状況を目視観察した。
循環水中の残留ハロゲン濃度、酸化還元電位(ORP)及び一般細菌数の平均値、ステンレス鋼管におけるスケール付着速度、炭素鋼鋼管ならびにアルミニウム黄銅管の腐食速度、及び試験終了後の冷却塔1内部の藻の付着状況の目視観察結果を表9に示した。
【0148】
【表9】
【0149】
表9の結果から、本発明の水処理剤組成物を用いた実施例のスケール付着速度と炭素鋼鋼管ならびにアルミニウム黄銅管における腐食速度は比較例に比べて小さく、本発明の水処理剤組成物の高い付着物抑制効果及び金属腐食抑制効果が明示された。また、本発明の水処理剤組成物を用いた実施例においては循環水中の残留ハロゲン濃度やORPも適切な範囲で維持でき、一般細菌数も低い値で維持できるので、冷却塔内の藻の付着状況においても、本発明の水処理剤組成物を用いた実施例では付着が認められず、僅かな付着や多い付着が認められた比較例に比べて明確な差異が示された。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の水処理剤組成物は、各種製造業の工程水、冷却水、洗浄水等の各種用排水系における微生物やスケールを主体とした付着物障害を抑制し、一般細菌のみならずレジオネラ属菌等の有害な細菌類の殺滅や藻の付着防止にも利用できる。更には、本発明の水処理剤組成物は、金属の腐食障害を抑制することにも利用できる。
【符号の説明】
【0151】
1.冷却塔
2.水槽
3.循環ポンプ
4.電気伝導率測定セル
5.流量調整バルブ
6.流量計
7.熱交換器
8.試験片保持器
9.水温制御装置
10.ブローダウンポンプ
11.電気伝導率制御装置
12.補給水
13.水処理剤注入装置

図1
図2