特許第6169692号(P6169692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6169692硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169692
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20170713BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20170713BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20170713BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20170713BHJP
   C22B 19/02 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C22B23/00 101
   C22B1/02
   C22B3/04
   C22B15/00
   C22B19/02
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-523350(P2015-523350)
(86)(22)【出願日】2013年7月22日
(65)【公表番号】特表2015-527492(P2015-527492A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】BR2013000262
(87)【国際公開番号】WO2014015402
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】61/674,624
(32)【優先日】2012年7月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510277338
【氏名又は名称】ヴァーレ、ソシエダージ、アノニマ
【氏名又は名称原語表記】VALE S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】ティアゴ、バレンティム、ベルニ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ、クラレティ、ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】フェリペ、イラリオ、ギマランイス
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭56−501528(JP,A)
【文献】 米国特許第04464344(US,A)
【文献】 特開昭59−028533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法であって、
卑金属鉱石を、卑金属に対して50重量%〜200重量%の比の第二鉄塩と、混合し、その混合物を温度400℃〜600℃で2〜8時間加熱すること、
水を加えて鉱液を形成すること、
前記鉱液を撹拌し、濾過すること、
を含んでなり、
前記卑金属が、銅、ニッケル及びコバルトからなる群から選択されるものである、回収方法。
【請求項2】
前記卑金属が、ニッケルである、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項3】
前記第二鉄塩が、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、又はそれらの混合物を含んでなる、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項4】
前記第二鉄塩の比が卑金属に対して90〜120重量%である、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項5】
前記混合物が、温度400℃〜500℃で5〜6時間の間加熱される、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項6】
前記水を前記混合物に加え、10重量%〜33重量%固体の鉱液を形成する、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項7】
前記水を前記混合物に加え、20重量%〜30重量%固体の鉱液を形成する、請求項1または6に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項8】
前記鉱液が1〜5時間の間撹拌される、請求項1に記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【請求項9】
前記鉱液が2〜4時間の間撹拌される、請求項1又はに記載の硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ここにその全文を参考文献として含める「硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法」と題する米国特許仮出願第61/674,624号、2012年7月23日提出、の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来の卑金属硫化物鉱石の処理は、精鉱の製錬として浮選及び乾式製錬学的技術を含む。
【0004】
米国特許第4,283,017号には、銅/ニッケル鉱物岩石からキューバナイト及び黄銅鉱を選択的に浮選する方法が記載されている。この方法の欠点は、非常に細かい粒子に達するために高エネルギー消費を必要とする、鉱石の選鉱方法にある。本発明は、粗い粒子を原料とする。
【0005】
米国特許第3,919,079号には、硫化物を含む鉱石から硫化物鉱物を浮選する方法が記載されている。この方法の欠点は、複雑な試薬、即ち分散剤、補修剤、アルカリ、凝集剤、を使用する浮選方法にある。浮選に使用する複雑な試薬は、これらの試薬を分解するための化学的酸素要求量のため、環境に対する影響を引き起こすことがある。本発明は、複雑な試薬を必要としない。
【0006】
米国特許第5,281,252号には、非鉄硫化物の転化が記載されており、この方法は、硫化銅粒子の吹込みを必要とし、撹拌レベル及び固体/液体の接触の複雑な調整を必要とする。さらに、この方法は、銅の還元及び反応用の電力供給を確保するために、内部雰囲気の制御を必要とする。
【0007】
米国特許第4,308,058号には、原料金属を製造するための、溶融した低−鉄金属マットの酸化方法が記載されている。しかし、この方法は、高エネルギー消費を伴う、複数炉の操作並びに高温(>1000℃)を必要とする。
【0008】
しかし、従来の方法は、低級材料及び不純物、例えば塩素及びフッ素、の含有量が高い鉱石を取り扱う場合に、非常に経費がかかる。乾式製錬処理のもう一つの問題は、新しいプラントの投資コストが高いこと、環境問題、及び高エネルギー消費である。
【0009】
通常、低級材料及び高不純物含有量の鉱石を取り扱う場合に、処理から発生するガス(粉塵、CO、NOx、HO)を、SOを硫酸プラントに送る前に、処理しなければならない。代替法は、精鉱を燃焼することを含んでなる。
【発明の概要】
【0010】
上記の問題及び未だ対処されていないニーズに鑑み、本発明は、硫化物の形態にある卑金属を、間接的及び選択的に硫酸化するための、有利で効果的な方法を提供する。この方法は、精鉱又は低級硫化物鉱石の両方に適用できるが、後者に重点を置いている。低級硫化物鉱石は、通常、精鉱中に望ましい含有量に達せず、そうなると、大きな損失となる。不純物が大きな問題である。この理由から、ここに記載する方法が提案されたのである。
【0011】
より詳しくは、本発明は、硫化物鉱石及び精鉱からの卑金属の回収方法であって、卑金属鉱石を、卑金属に対して50%〜200%の比の第二鉄塩と、混合し、該混合物を温度400℃〜600℃で2〜8時間加熱し、水を加えて鉱液を形成し、次いで鉱液を撹拌し、濾過する、方法を開示する。
【0012】
本発明のこれらの態様のさらなる利点及び新規な特徴は、一部は以下の説明に記載し、一部は以下の内容を研究することにより、又は本発明の実践により、当業者にはより明白となるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0013】
以下の詳細な説明は、本発明の範囲、応用性又は形態を一切制限するものではない。より正確には、以下の説明は、代表的な様式を実行するために必要な理解を与える。ここに記載する開示を使用する場合、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、好適な代案を理解する。
【0014】
本発明の方法は、卑金属を含む鉱石、精鉱又は他の硫化物材料を、硫酸第二鉄又は塩化第二鉄と、スクリューミキサー中で混合することを含む。塩は、水和された、又は無水物形態でよい。混合物は、硫化物材料と無水塩の比が1:0.001〜1:1000でよい。水和した塩を使用する場合、この比は比例して変えることができる。
【0015】
好ましい比は、無水物の形態のときには、化学量論を考慮して卑金属に対して50%〜200%、好ましくは90〜120%である。硫化物堆積物含有量が低く、浮選による選鉱により良好な品質の精鉱が造られない場合、これは特に魅力的な方法である。この方法は、フッ素及び塩素の濃度が、規格限界より上にある場合にも、効果的である。
【0016】
この最終混合物を、後で、キルン、炉又は当業者が公知の他の装置に取り、どのような種類の混合装置でもよいが、大気圧で、400℃〜600℃、より好ましくは400℃〜500℃の温度に達するのに十分な熱を与える。その温度で、一般的に卑金属硫化物に対して以下の反応が起こる。
3MS+Fe(SO+4.5O=3NiSO+Fe+3SO
(ここで、Mは卑金属を表す)
【0017】
卑金属は、好ましくは銅、ニッケル及び亜鉛であり、より好ましくはニッケルである。
【0018】
硫酸第二鉄を一例として使用するが、反応化学量論を変えて塩化第二鉄も使用できる。滞留時間は、好ましくは2〜8時間、より好ましくは5〜6時間と推定される。
【0019】
硫酸第二鉄の製造は、当業者により幾つかの方法で行われる。
【0020】
あるいは、酸化物材料をこの混合物に加え、以下の反応を与えることができる。
MS+3MO+Fe(SO+2O=4NiSO+Fe
(ここで、Mは卑金属を表す)
【0021】
卑金属は、好ましくは銅、ニッケル及び亜鉛であり、より好ましくはニッケルである。
【0022】
上の反応は、SOを捕捉し、ガス浄化を回避する。固体形態でフッ素又は塩素を捕捉するために、ホウ酸塩供給源、例えばホウ酸、無定形シリカ又は当業者には公知の全ての試薬を添加することができる。
【0023】
キルンから出た最終生成物を溶解工程に取り、卑金属塩の大部分又は全てを可溶化する。これを水と混合し、10%〜33%、好ましくは20%〜30%固体の鉱液を形成する。この鉱液は、1〜5時間、好ましくは2〜4時間撹拌されるべきである。その時以降から、やはり当業者には公知の下流処理を、卑金属をさらに処理し、精製するために選択することができる。
【0024】
従って、本発明の処理態様は、塩(例えば塩化第二鉄又は硫酸第二鉄)をNi精鉱と、温度400℃〜600℃で2〜8時間の間混合することが関与する。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、塩(例えば塩化第二鉄又は硫酸第二鉄)とNi精鉱の混合は、温度400℃〜500℃で5〜6時間の間であり、Ni硫酸塩又は塩酸塩を得、これらを溶解工程に採用される。様々な態様により、Ni硫酸塩又は塩酸塩は溶解工程に直接採用される。この処理により、非常に安定した残留物(赤鉄鉱)および急速な塩の溶解を達成することができる。
【0026】
効率は、80〜95%であると推定される。
【0027】
所望により、本処理の後、従来の下流処理、例えばMHPの製造及び電解、を使用し、利益の上がる生成物を得ることができる。
【0028】
ユーザーは、高純度生成物、例えば電解ニッケル、又はMHPのような中間生成物を製造するかを設定する。これらのオプションは、網羅的なものではなく、下流処理の例に過ぎない。この下流処理は、不純物を溶液(例えばFe及びAl)から除去する工程が、最早必要ないので、大きく簡素化される。
【0029】
本発明の方法の利点は、数多くあり、以下の内容を含むことができる。
−従来の浮選処理では採算があわないと思われる低−硫化物の堆積物を含む、より効果的な堆積物の探査、
−酸消費量の低減、
−より優れた鉱液の沈降特性、
−凝集剤の消費量低減、
−高濃度のフッ素及び塩素が、本発明の方法では問題にならない、
−この方法は、卑金属に対して選択的である。不純物、例えば鉄及びアルミニウム、が溶解しないが、これらの不純物は、従来の方法では、下流で、かさが大きく、デカンテーションが困難な水酸化物を形成する。これらの元素は、安定した酸化物である(鉄の場合、赤鉄鉱として安定化すると予想される)ので、形成される固体の量が低いこと、及び固体のデカンテーションが速いことから、凝集剤の消費量が低減される。
−得られる溶液の酸性度が低く、中和の必要性が低減される。
−以下に、提案した反応の熱力学的データ(ニッケル及び銅に対する)を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表から分かるように、上記のデータは、反応が熱力学的に好ましいことを示している。
【0032】
例1 以下の表に記載する組成を有する火道壁岩鉱石を硫酸第二鉄と、鉱石200グラム対無水硫酸第二鉄(化学量論)2.5グラムの比率で混合した。適切に均質化した後、混合物を温度500℃に3時間さらした。材料が完全に冷却された後、水を加えて、30%固体の鉱液を形成し、混合物を1時間撹拌した。鉱液を濾過し、残留物及びPLSの試料を化学分析にかけた。結果は、85%ニッケル抽出物、77%銅抽出物及び88%コバルト抽出物を示した。鉄及び他の不純物は、マンガンが97%抽出物で得られた以外は、1%未満であった。
【0033】
【表2】
【0034】
例2 以下の表に記載する組成を有する火道壁岩鉱石を硫酸第二鉄と、鉱石200グラム対無水硫酸第二鉄(化学量論の120%)2.5グラムの比率で混合した。適切に均質化した後、混合物を温度600℃に2時間さらした。材料が完全に冷却された後、水を加えて、30%固体の鉱液を形成し、混合物を1時間撹拌した。鉱液を濾過し、残留物及びPLSの試料を化学分析にかけた。結果は、92%ニッケル抽出物、79%銅抽出物及び93%コバルト抽出物を示した。鉄及び他の不純物は、マンガンが99%抽出物で得られた以外は、1%未満であった。
【0035】
【表3】
【0036】
例3 以下の表に記載する組成を有する火道壁岩鉱石を硫酸第二鉄と、鉱石200グラム対無水硫酸第二鉄(化学量論の130%)2.5グラムの比率で混合した。適切に均質化した後、混合物を温度600℃に2時間さらした。材料が完全に冷却された後、水を加えて、30%固体の鉱液を形成し、混合物を1時間撹拌した。鉱液を濾過し、残留物及びPLSの試料を化学分析にかけた。結果は、98%ニッケル抽出物、82%銅抽出物及び94%コバルト抽出物を示した。鉄及び他の不純物は、マンガンが99%抽出物で得られた以外は、1%未満であった。
【0037】
【表4】