(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも該検知部を覆うように、前記素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子であって、
前記保護層は、材質又は性状の異なる少なくとも2つの層を備えるとともに、前記2つの層として、前記素子本体部に近い側に形成される第1層と、当該第1層よりも外側に形成され、前記第1層に接する第2層とを備えており、
当該ガスセンサ素子は、前記素子本体部の前記側面上における前記保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、前記第1層および前記第2層が離間するよう形成される空間としての離間部を少なくとも1つ備えており、
前記保護層のうち前記第1層および前記第2層は、前記先端面の少なくとも一部、及び前記先端側領域における4つの前記側面の少なくとも一部において、前記離間部を介さずに積層されること、
を特徴とするガスセンサ素子。
前記離間部は、前記素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する前記素子本体部の3つの面上のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられている頂点離間部を有していること、
を特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子。
前記保護層は、前記先端側領域における前記素子本体部の4つの前記側面のそれぞれの少なくとも一部において、前記第1層および前記第2層が前記離間部を介さずに積層されること、
を特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも前記検知部を覆うように、前記素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子の製造方法であって、
前記保護層は、材質又は性状の異なる少なくとも2つの層を備えるとともに、前記2つの層として、前記素子本体部に近い側に形成される第1層と、当該第1層よりも外側に形成され、前記第1層に接する第2層とを備えており、
前記ガスセンサ素子は、前記素子本体部の前記側面上における前記保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、前記第1層および前記第2層が離間するよう形成される空間としての離間部を少なくとも1つ備えており、
前記保護層のうち前記第1層および前記第2層は、前記先端面の少なくとも一部、及び前記先端側領域における4つの前記側面の少なくとも一部において、前記離間部を介さずに積層され、
前記素子本体部に対して、少なくとも前記検知部を覆うように、熱処理後に前記第1層となる未焼成第1層を形成する第1層形成工程と、
前記未焼成第1層の外表面のうち前記離間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置する溶剤配置工程と、
前記揮発性溶剤が残存する前記素子本体部に対して、少なくとも前記検知部を覆うように、熱処理後に前記第2層となる未焼成第2層を形成する第2層形成工程と、
前記未焼成第1層および前記未焼成第2層が形成された前記素子本体部に熱処理を行い、前記第1層および前記第2層を形成する熱処理工程と、
を有し、
前記溶剤配置工程の開始時から前記熱処理工程の終了時までの間に、前記揮発性溶剤を揮発させて前記離間部を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のディップ法では、保護層の特定の部位(特に、素子本体部の先端における4つの頂点付近など)によっては厚さ寸法が小さくなるため、そのような特定の部位における保護層の厚さ寸法を十分に確保するために、浸漬作業を複数回行う場合がある。
【0008】
このとき、1回の浸漬作業で厚さ寸法が十分に確保できる部位については、複数回の浸漬作業を行うことで厚さ寸法がより大きくなり、保護層全体としての体積が大きくなり熱容量が大きくなるため、ヒータ消費電力の無駄が大きくなることや、センサ素子活性化に要する所要時間が長くなる等の問題が生じる。
【0009】
これに対して、1回の浸漬作業でスラリーを塗布した後、厚さ寸法が小さくなる特定の部位に対して、スプレー(霧吹き)を用いて素子本体部の表面にスラリー液を吹き付けるスプレー法を利用する対策が考えられる。
【0010】
しかし、このスプレー法は、スラリー液を霧状にして吹き付けるため、素子本体部に塗布されずに落下するスラリー液の無駄が生じやすい。また、スプレー法は、単位時間あたりの吹きつけ量が小さく作業時間が長くなるため、保護層の形成工程が繁雑になるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を提供すること、そのようなガスセンサ素子を備えるガスセンサを提供すること、およびそのようなガスセンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも検知部を覆うように、素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子である。
【0013】
保護層は、材質又は性状の異なる少なくとも2つの層を備えるとともに、2つの層として、素子本体部に近い側に形成される第1層と、第1層よりも外側に形成され、第1層に接する第2層とを備えている。そして、このガスセンサ素子は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、第1層および第2層が離間するよう形成される空間としての離間部を少なくとも1つ備えている。
【0014】
さらに、保護層のうち第1層および第2層は、先端面の少なくとも一部、及び先端側領域における4つの側面の少なくとも一部において、離間部を介さずに積層される。
このように構成されたガスセンサ素子は、保護層における第1層および第2層を離間する離間部を備えることから、保護層の表面に付着した水が保護層内を浸透する際に離間部に一時的に溜めることができる。このため、このガスセンサ素子の保護層は、厚さ寸法が同一で離間部を有さない保護層に比べて、保護層に付着した水が素子本体部に到達しがたくなり、被水による熱衝撃で素子本体部の先端が破損するのを抑制できる。
【0015】
つまり、このガスセンサ素子の保護層は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくでき、その結果、従来の保護層よりも熱容量を小さくすることができる。
【0016】
また、離間部は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに設けられている。これにより、離間部により一時的に水を溜めつつ、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも後端側の後端側領域において、保護層(第1層および第2層)と素子本体部との密着性が低下することを抑制できる。
【0017】
そのうえ、第1層および第2層は、先端面の少なくとも一部、及び先端側領域における4つの側面の少なくとも一部において、離間部を介さずに積層されることから、第1層と第2層とを離間するように形成される離間部が先端側領域に設けられているとしても、この先端側領域においても、保護層(第1層および第2層)と素子本体部との密着性が低下することを抑制できる。
【0018】
よって、本発明によれば、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を実現できる。
なお、本発明の「保護層の性状」とは、保護層が持つ多孔質の気孔率、気孔径、もしくは、保護層がセラミックにて形成される場合にこのセラミックの粒径などにより定められる特性であり、第1層および第2層は、これらのうち少なくとも1つが互いに異なる。
【0019】
また、保護層は、互いが接する第1層および第2層を備えていればよく、保護層が第1層および第2層のみから形成されていても良いし、第1層および第2層以外の別層を有していても良い。なお、別層は、第2層よりも外側に設けられるか、もしくは第1層と素子本体部との間に設けられる。
【0020】
また、離間部は、先端側領域に少なくとも1つ備えられていればよく、先端側領域に1つの離間部が備えられていても良いし、先端側領域に複数の離間部が備えられていても良い。
【0021】
また、保護層のうち第1層および第2層は、素子本体部のうち先端面の少なくとも一部に離間部を介さずに積層されていればよく、先端面の一部に第1層および第2層が離間部を介さずに積層されていても良いし、離間部を除く先端面全体に第1層および第2層が離間部を介さずに積層されていても良い。
【0022】
さらに、保護層のうち第1層および第2層は、先端側領域における4つの側面の少なくとも一部において離間部を介さずに積層されていればよく、先端側領域における1つの側面に第1層および第2層が離間部を介さずに積層されていても良いし、先端側領域における4つの側面それぞれに第1層および第2層が離間部を介さずに積層されていても良い。
【0023】
上記のガスセンサ素子においては、離間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する素子本体部の3つの面上のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられている頂点離間部を有している、という構成を採ることができる。
【0024】
このように構成されたガスセンサ素子は、保護層のうち厚さ寸法が小さくなり易い領域(素子本体部の先端における4つの頂点)のうち少なくとも1つの頂点上に、この頂点を構成する素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるようにして、第1層と第2層とを離間するように形成される頂点離間部を備えている。これにより、頂点近傍における保護層の厚さ寸法が小さくても、被水による熱衝撃で素子本体部の頂点およびその近傍が破損するのを抑制できる。
【0025】
なお、頂点離間部は、第1層と第2層とを離間する空間であり、保護層の厚さ方向に垂直な方向の形成領域が大きくなりすぎると、保護層の厚さ寸法が相対的に小さいため、第1層と第2層との剥離が生じる可能性がある。そのため、頂点離間部は、保護層の厚さ方向に垂直な方向の形成領域の大きさが、第1層と第2層との剥離が生じない範囲内で設定されると良い。
【0026】
本発明における「略直方体形状の素子本体部」とは、直方体形状の素子本体部はもちろんのこと、直方体形状の各辺に面取り部を設けた素子本体部も含む。また、面取り部を設けた素子本体部の場合、「素子本体部の先端における4つの頂点」は、面取り部と先端面との稜線を指す。
【0027】
また、離間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点上に設けられていればよく、1つの頂点上に離間部が設けられていても良いし、4つの頂点上全部に離間部が設けられていても良い。さらに、1つの離間部が1つの頂点上に対応して設けられていても良いし、1つの離間部が複数の頂点上にまたがって設けられていてもよい。
【0028】
上記のガスセンサ素子においては、1つの頂点離間部は、1つの頂点上のみに設けられる、という構成を採ることができる。
つまり、このガスセンサ素子においては、1つの頂点離間部が1つの頂点上のみに設けられるため、1つの頂点離間部が複数の頂点にまたがって形成されることが無い。このため、保護層における頂点離間部の占有領域が素子本体部の先端側領域に対して過大となるのを避けることができ、第1層と第2層との接触面積を十分に確保できる。
【0029】
よって、このガスセンサ素子によれば、第1層と第2層との接触面積を大きく確保できるため、第1層と第2層とが剥離するのをより抑制できる。
なお、上記のガスセンサ素子においては、頂点離間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち対角に位置する2つの頂点のそれぞれに少なくとも設けられる、という構成を採ることができる。
【0030】
上記のガスセンサ素子においては、保護層は、先端側領域における4つの側面のそれぞれの少なくとも一部において、第1層および第2層が離間部を介さずに積層される、という構成を採ることができる。
【0031】
このような構成であれば、素子本体部の4つの側面のそれぞれにおいて、第1層および第2層が離間部を介さずに直接当接する領域を確保できるため、先端側領域において第1層と第2層との密着性がより良好となり、保護層(第1層と第2層)との剥離がより生じがたくなる。
【0032】
上記のガスセンサ素子においては、離間部は、複数備えられる、という構成を採ることができる。
このように、離間部を複数備えることで、保護層に付着した凝縮水などを一時的に溜めておく容積を大きく確保でき、素子本体部まで凝縮水が到達しがたくなる。
【0033】
よって、このガスセンサ素子によれば、素子本体部まで凝縮水が到達しがたくなり、被水に伴う熱衝撃による素子本体部の破損を抑制できる。
上記のガスセンサ素子においては、素子本体部には通電により発熱するヒータを備え、第2層の気孔率は、第1層の気孔率よりも小さい、という構成を採ることができる。
【0034】
このような構成の保護層は、第2層の気孔率が第1層の気孔率よりも小さいため、第1層の気孔内に存在する大気が第2層から外部へ放出されにくくなる。一方、素子本体部のヒータからの熱を第1層内の大気が受熱することで、第1層内の大気は保護層内部で保温されることになる。その結果、この保温された大気により第1層と第2層との間に設けられた離間部の水の蒸発を促進することができる。
【0035】
よって、このガスセンサ素子によれば、素子本体部まで凝縮水が到達しがたくなり、被水に伴う熱衝撃による素子本体部の破損を抑制できる。
次に、本発明は、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサであって、ガスセンサ素子として、上述のガスセンサ素子を備える。
【0036】
このように、上述のいずれかのガスセンサ素子を備えるガスセンサは、被水による熱衝撃で素子本体部の先端側領域が破損することを抑制できるガスセンサ素子を備えている。また、このガスセンサ素子の保護層は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくできるとともに、従来の保護層よりも熱容量が小さくなる。
【0037】
よって、本発明のガスセンサによれば、従来よりも熱容量が小さい保護層を有するガスセンサ素子を備えた構成を実現できる。
次に、本発明方法は、長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも検知部を覆うように、素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子の製造方法である。
【0038】
この製造方法で製造されるガスセンサ素子においては、保護層は、材質又は性状の異なる少なくとも2つの層を備えるとともに、2つの層として、素子本体部に近い側に形成される第1層と、第1層よりも外側に形成され、第1層に接する第2層とを備える。
【0039】
また、この製造方法で製造されるガスセンサ素子は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、第1層および第2層が離間するよう形成される空間としての離間部を少なくとも1つ備える。そして、保護層のうち第1層および第2層は、先端面の少なくとも一部、及び先端側領域における4つの側面の少なくとも一部において、離間部を介さずに積層される。
【0040】
このガスセンサ素子の製造方法では、第1層形成工程と、溶剤配置工程と、第2層形成工程と、熱処理工程と、を実行する。
第1層形成工程では、素子本体部に対して、少なくとも検知部を覆うように、熱処理後に第1層となる未焼成第1層を形成する。溶剤配置工程では、未焼成第1層の外表面のうち離間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置する。第2層形成工程では、揮発性溶剤が残存する素子本体部に対して、少なくとも検知部を覆うように、熱処理後に第2層となる未焼成第2層を形成する。熱処理工程では、未焼成第1層および未焼成第2層が形成された素子本体部に熱処理を行い、第1層および第2層を形成する。そして、溶剤配置工程の開始時から熱処理工程の終了時までの間に、揮発性溶剤を揮発させて離間部を形成する。
【0041】
つまり、未焼成第1層の外表面のうち離間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置し、未焼成第1層の上に揮発性溶剤が残存する素子本体部に対して未焼成第2層を形成し、未焼成第2層が形成された素子本体部に熱処理を行い、第1層および第2層を形成する一連の工程の途中に揮発性溶剤が揮発して第1層と第2層との間に離間部を形成することができる。
【0042】
このような揮発性溶剤を用いると共に、第1層形成工程、溶剤配置工程,第2層形成工程,熱処理工程を有するガスセンサ素子の製造方法によれば、第1層と第2層との間に離間部を備えるガスセンサ素子を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を実現できる。
また、本発明のガスセンサによれば、従来よりも熱容量が小さい保護層を有するガスセンサ素子を備えた構成を実現できる。
【0044】
さらに、本発明方法のガスセンサ素子の製造方法によれば、第1層と第2層との間に離間部を備えるガスセンサ素子を製造でき、このガスセンサ素子は従来よりも熱容量が小さい保護層を有することが実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種である酸素センサのうち全領域空燃比センサ(以下単に、空燃比センサともいう)を例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における空燃比フィードバック制御に使用するために、測定対象となる排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するガスセンサ素子(検出素子)が組み付けられるとともに、内燃機関の排気管に装着される空燃比センサを例に挙げて説明する。
【0047】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態のガスセンサ素子が使用される空燃比センサの全体の構成について、
図1に基づいて説明する。
図1は、空燃比センサの内部構成を表す断面図である。
【0048】
図1に示す様に、本実施形態における空燃比センサ1は、排気管に固定するためのネジ部3が外表面に形成された筒状の主体金具5と、軸線方向(空燃比センサ1の長手方向:
図1の上下方向)に延びる板状形状のガスセンサ素子7と、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ9と、軸線方向に貫通する挿通孔11の内壁面がガスセンサ素子7の後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材13(セパレータ13)と、ガスセンサ素子7とセパレータ13との間に配置される5個(
図1には2個のみ図示)の接続端子15と、を備えている。
【0049】
ガスセンサ素子7は、後に詳述する様に、長手方向に伸びる直方体形状の素子本体部70と、素子本体部70の先端側を覆う多孔質の保護層17と、を備える。素子本体部70は、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部90を備える。また、ガスセンサ素子7は、後端側(
図1の上方:長手方向後端部)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1主面21および第2主面23に、電極パッド25,27,29,31,33(詳細は、
図2,
図3参照)が形成されている。
【0050】
接続端子15は、ガスセンサ素子7の電極パッド25,27,29,31,33にそれぞれ電気的に接続されるとともに、外部からセンサの内部に配設されるリード線35にも電気的に接続されており、リード線35が接続される外部機器と電極パッド25,27,29,31,33との間に流れる電流の電流経路を形成する。
【0051】
主体金具5は、軸線方向に貫通する貫通孔37を有し、貫通孔37の径方向内側に突出する棚部39を有する略筒状形状に構成されている。この主体金具5は、検知部90を貫通孔37の先端よりも先端側に配置し、電極パッド25,27,29,31,33を貫通孔37の後端よりも後端側に配置する状態で、貫通孔37に挿通されたガスセンサ素子7を保持するよう構成されている。
【0052】
また、主体金具5の貫通孔37の内部には、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ41、滑石リング43、滑石リング45、及び上述のセラミックスリーブ9が、この順に先端側から後端側にかけて積層されている。
【0053】
このセラミックスリーブ9と主体金具5の後端部47との間には、加締パッキン49が配置され、一方、セラミックホルダ41と主体金具5の棚部39との間には、滑石リング43やセラミックホルダ41を保持するための金属ホルダ51が配置されている。なお、主体金具5の後端部47は、加締パッキン49を介してセラミックスリーブ9を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0054】
更に、主体金具5の先端部53の外周には、ガスセンサ素子7の突出部分を覆う金属製(例えば、ステンレスなど)の二重構造とされたプロテクタ55が溶接等によって取り付けられている。
【0055】
一方、主体金具5の後端側外周には、外筒57が固定されている。また、外筒57の後端側の開口部には、各電極パッド25,27,29,31,33とそれぞれ電気的に接続される5本のリード線35(
図1では3本が図示)が挿通されるリード線挿通孔59が形成されたグロメット61が配置されている。
【0056】
なお、セパレータ13の外周には、鍔部63が形成されており、鍔部63は、保持部材65を介して外筒57に固定されている。
[1−2.ガスセンサ素子の構成]
次に、本実施形態の要部であるガスセンサ素子7の構成について、
図2〜
図5に基づいて詳細に説明する。
【0057】
図2は、ガスセンサ素子7の外観を表す斜視図である。
図2に示す様に、ガスセンサ素子7は、長手方向(Y軸方向)に延びる長尺の板材である。なお、
図2において、長手方向がガスセンサの軸線方向に沿う形態となる。また
図2のZ軸方向は、長手方向に垂直な厚さ方向であり、X軸方向は、長手方向及び厚さ方向に垂直な幅方向である。
【0058】
ガスセンサ素子7は、長手方向に伸びる直方体形状の素子本体部70と、素子本体部70の先端側(
図2における下側)を覆う多孔質の保護層17と、を備える。素子本体部70は、長手方向に伸びる板状の素子部71と、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、が積層されている。素子本体部70は、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部90を備える。保護層17は、少なくとも検知部90を覆うように、素子本体部70の先端面127及び側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)上に設けられる。
【0059】
図3に、ガスセンサ素子7を分解した斜視図を示す。なお、
図3では、保護層17、および後述する第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124の図示を省略している。
【0060】
ガスセンサ素子7の素子本体部70は、
図3に分解して示す様に、積層方向の一方の側(
図3の上側)に配置されて、長手方向に伸びる板状の素子部71と、素子部71の反対側(裏側)に配置されて、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、を備える。
【0061】
このうち、素子部71は、固体電解質体75の両側に多孔質電極77、79を形成した酸素濃淡電池セル81と、同じく固体電解質体83の両側に多孔質電極85、87を形成した酸素ポンプセル89と、これらの両セル81、89の間に積層され、中空のガス測定室91を形成するための絶縁スペーサ93と、を備えて構成される。なお、固体電解質体75,83は、イットリアを安定化剤として固溶させたジルコニアから形成され、多孔質電極77,79,85,87は、Ptを主体に形成される。
【0062】
また、ガス測定室91を形成する絶縁スペーサ93は、アルミナを主体に構成されており、中空のガス測定室91の内側には、酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77と、酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87が露出するように配置されている。
【0063】
素子部71の側面(絶縁スペーサ93の側面)には、排ガス(測定対象ガス)の取り込み口となる2つのガス導入部94が形成されており、ガス導入部94は、ガス測定室91に連通している。2つのガス導入部94からガス測定室91までの各経路には、拡散律速部95が形成されている。拡散律速部95は、例えば、アルミナ等からなる多孔質体で構成されており、測定対象ガスがガス測定室91へ流入する際の律速を行う。拡散律速部95は、その一部がガス導入部94から露出する状態で備えられている。
【0064】
つまり、このガスセンサ素子7においては、ガス導入部94は、素子本体部70の最外面において異なる2方向に向けて形成されており、拡散律速部95は、異なる2方向に向けて露出している。
【0065】
更に、素子部71の第1主面21側(
図3上方)にはアルミナを主体とする絶縁基板97が積層されており、この絶縁基板97には、拡散律速部95と同様に、多孔質体で構成された通気部99が埋設されている。この通気部99は、酸素ポンプセル89の多孔質電極85を測定対象ガスに晒している。
【0066】
なお、ガス測定室91は、素子本体部70(詳細には、素子部71)のうち先端側(
図3における左側)に位置するように形成されている。素子部71の長手方向のうち、ガス測定室91の形成領域およびガス測定室91よりも先端側となる領域は、酸素を検知するための検知部90として備えられる。
【0067】
一方、ヒータ73は、アルミナを主体とする絶縁基板101、103の間に、Ptを主体とする発熱抵抗体パターン105が挟み込まれて形成されている。
このようなガスセンサ素子7では、第1主面21の後端側(
図3における右側)に3個の電極パッド25,27,29が形成され、第2主面23の後端側に2個の電極パッド31、33が形成されている。
【0068】
このうち、第1主面21の1つの電極パッド29(
図2の右側電極パッド)は、
図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165、絶縁スペーサ93に設けられるスルーホール171を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77に電気的に接続される。また、この電極パッド29は、絶縁基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87にも電気的に接続される。よって、多孔質電極77と多孔質電極87とは、同電位で電気的に接続される。
【0069】
また、他の電極パッド27(
図2の中央電極パッド)は、
図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール162、固体電解質体83に設けられるスルーホール166、絶縁スペーサ93に設けられるスルーホール172、固体電解質体75に設けられるスルーホール176を介して、酸素濃淡電池セル81の他方の多孔質電極79と電気的に接続される。更に他の電極パッド25(
図2の左側電極パッド)は、
図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール163を介して、酸素ポンプセル89の他方の多孔質電極85と電気的に接続されている。
【0070】
また、電極パッド31、33は、
図3に示すように、絶縁基板103に設けられたスルーホール181,182を介して、発熱抵抗体パターン105の両端に、各々電気的に接続されている。
【0071】
図2に戻り、上述した構成のガスセンサ素子7は、長尺の略直方体形状の板材であるので、その径方向の外周側の角部には、その長手方向(
図2のY方向)に沿って伸びる4つの辺(長手稜線)H1、H2、H3、H4を備えている。
【0072】
詳しくは、ガスセンサ素子7は、ガスセンサ素子7の長手方向に沿って延びる4つの外周壁として、第1主面21および第2主面23と、第1主面21および第2主面23に連接された第1側面111および第2側面113と、を備えている。また、第1主面21と第1側面111との間の稜線である第1辺H1と、第1主面21と第2側面113との間の稜線である第2辺H2と、第2主面23と第2側面113との間の稜線である第3辺H3と、第2主面23と第1側面111との間の稜線である第4辺H4とを備えている。
【0073】
第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4には、それぞれC面取り量0.2mmのC面取りが施されて形成された第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123(
図4参照),第4長辺面取り部124(
図4参照)が設けられている。なお、
図2では、第3長辺面取り部123および第4長辺面取り部124が現れないため、これらについての符号による図示は省略している。
【0074】
ガスセンサ素子7の後端側(
図2の上方)は、その中央に(長手方向と垂直な)後端面129を残す様にして、後端面129の周囲の四方の稜線に対してC面取りを施すことで、後端側C面取り部131が形成されている。
【0075】
次に、ガスセンサ素子7の保護層17に形成される離間部18について説明する。
図4に、ガスセンサ素子7の
図2におけるA−A視端面を表す端面図を示す。
図5に、ガスセンサ素子7の
図4におけるB−B視端面を表す端面図を示す。
【0076】
保護層17は、多孔質状のアルミナで構成されており、素子本体部70のうち少なくとも検知部90を覆うように形成されている。保護層17は、素子本体部70に近い側に形成される第1層67と、第1層67よりも外側に形成され、第1層67に接する第2層68と、を備える。
【0077】
第1層67および第2層68は、いずれも多孔質状のアルミナで構成されているが、それぞれの気孔率は異なる。具体的には、第1層67の気孔率は、第2層68の気孔率よりも大きい。そして、第1層67と第2層68との間の一部には、第1層67および第2層68が離間するよう形成される空間としての離間部18が少なくとも1つ形成されている。なお、離間部18は、第1層67および第2層68との境界において、第1層67の気孔や第2層68の気孔よりも大きく形成された空間となることから、保護層17の断面状態から離間部18の形成位置を判断することが可能である。
【0078】
保護層17には、複数の離間部18が形成されており、さらに、本実施形態の離間部18には、素子本体部70の先端面127における4つの頂点74に対応する頂点離間部69が含まれる。また、本実施形態の離間部18は、保護層17における第1層67と第2層68との間のうち、素子本体部70の先端面127の中央部分を覆う領域と、素子本体部70の頂点74どうしの中間位置を覆う領域と、にも形成されている。
【0079】
なお、本実施形態の素子本体部70においては、第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124が設けられているため、4つの頂点74は、それぞれ第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124のそれぞれと、先端面127との稜線として備えられている。
【0080】
1つの頂点離間部69は、1つの頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれを覆う位置に形成されている。例えば、
図4に図示された4つの頂点離間部69のうち、左上に位置する頂点離間部69は、素子本体部70のうち、第1主面21,先端面127,第1側面111の3つの面のそれぞれを覆うように形成されている。
【0081】
また、
図5に示すように、離間部18は、素子本体部70の側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)のうち部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられる。なお、素子本体部70の部位19は、素子本体部70の側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)のうち保護層17が最大厚さDmaxとなる部位である。
【0082】
このガスセンサ素子7は、保護層17の厚さ寸法が小さくなり易い素子本体部70の先端面127における頂点74上に、この頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるようにして覆われる離間部18(特に、頂点離間部69)を備えている。これにより、頂点74近傍における保護層17の厚さ寸法L1が小さくても、被水による熱衝撃で素子本体部70の先端の頂点74が破損することを抑制できる。
【0083】
また、離間部18は、素子本体部70の4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)上における保護層17の最大厚さDmaxを有する部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられている。これにより、部位19よりも後端側の後端側領域E2において、保護層17と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0084】
そのうえ、保護層17のうち第1層67および第2層68は、先端面127の少なくとも一部、及び先端側領域E1における4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の少なくとも一部において、離間部18を介さずに積層される。これにより、第1層67と第2層68とを離間するように形成されている離間部18が先端側領域E1に設けられているとしても、この先端側領域E1において、保護層17(第1層67および第2層68)は、素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。つまり、素子本体部70と保護層17との接触部分を十分に確保できるので、素子本体部70からの保護層17の剥離が生じがたくなる。
【0085】
[1−3.ガスセンサの製造方法]
本実施形態の空燃比センサ1の製造方法について、
図6〜
図7に基づいて説明する。
図6は、ガスセンサ素子の成形体141の製造方法に関する説明図であり、
図7は、ガスセンサ素子の製造途中段階を示す説明図である。
【0086】
ガスセンサ素子7を製造する場合、まず、公知のガスセンサ素子7の材料となる各種積層材料、即ち、素子部71の固体電解質体75、83となる未焼成固体電解質シートや、ヒータ73などの絶縁基板97、101、103となる未焼成絶縁シートなどを積層状態とし、未圧着積層体を得る。なお、この未圧着積層体には、電極パッド25,27,29,31,33となる未焼成電極パッドなどが形成されている。
【0087】
これらのうち、例えば、未焼成固体電解質シートを形成する場合、まず、ジルコニアを主体とするセラミック粉末に対して、アルミナ粉末やブチラール樹脂などを加えて、さらに混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成固体電解質シートが作製される。
【0088】
また、未焼成絶縁シートを形成する場合、まず、アルミナを主体とするセラミック粉末に対して、ブチラール樹脂とジブチルフタレートとを加えて、更に混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成絶縁シートが作製される。
【0089】
さらに、未焼成の拡散律速部を形成する場合、まず、アルミナ粉末100質量%及び可塑剤を湿式混合により分散したスラリーを生成する。可塑剤はブチラール樹脂及びDBPを有する。このスラリーを用い、焼成後に拡散律速部95や通気部99となる部位に、未焼成の拡散律速部を形成する。
【0090】
そして、この未圧着積層体を1MPaで加圧することにより、
図6に示す様な圧着された成形体141を得る。なお、加圧前の未圧着積層体を得るまでの製造方法については、公知のガスセンサ素子の製造方法と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0091】
そして、加圧により得られた成形体141を、所定の大きさで切断することにより、ガスセンサ素子7の素子部71およびヒータ73と大きさが略一致する複数(例えば10個)の未焼成積層体を得る。
【0092】
その後、この未焼成積層体を樹脂抜きし、さらに焼成温度1500℃にて、1時間で本焼成して、
図7に示す様な焼成積層体143を得る。
次に、この焼成積層体143の長手方向に伸びる4辺(第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4)に対して面取りを行い、第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124を形成する(
図2、
図4参照)。具体的には、焼成積層体143の長手方向に伸びる4辺(第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4)を回転砥石に当接して、周知のC面取りを行う。これにより、素子本体部70を得る。
【0093】
このようにして素子本体部70を得た後、この素子本体部70の先端側の周囲に、焼成後に離間部18を有する保護層17(
図2,
図4、
図5参照)となる未焼成保護層を形成する。
【0094】
図8に、素子本体部70に対して未焼成保護層117を形成し、未焼成保護層117に熱処理を行って、保護層17を得るまでの各工程の状態を表した説明図を示す。
なお、未焼成保護層117の形成を行う前段階では、素子本体部70は揮発性溶剤118や未焼成保護層117を有さない状態である。
【0095】
まず、第1工程では、素子本体部70の先端側を第1層用スラリーが満たされたスラリー容器にディップすることで、少なくとも検知部90を覆うように素子本体部70に対して未焼成第1層167を塗布する。
【0096】
次の第2工程では、未焼成第1層167における複数の領域に対して、揮発性溶剤118(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ブチルカルビトールなど)を塗布する。本実施形態では、未焼成第1層167のうち揮発性溶剤118を塗布する領域として、少なくとも、素子本体部70の先端面127における頂点74を覆う領域と、素子本体部70の先端面127の中央部分を覆う領域と、素子本体部70の頂点74どうしの中間位置を覆う領域と、が含まれる。
【0097】
つまり、第2工程では、焼成後に離間部18となる部位に対して、揮発性溶剤118を塗布する。
次の第3工程では、揮発性溶剤118が残留している状態で、素子本体部70の先端側を第2層用スラリーが満たされたスラリー容器にディップすることで、少なくとも検知部90を覆うように素子本体部70に対して未焼成第2層168を塗布する。このあと、ディップを所定回数実行することで、所定の厚さ寸法となる未焼成第2層168の形成が完了する。
【0098】
これにより、未焼成第1層167および未焼成第2層168を有する未焼成保護層117の形成が完了する。
続く第4工程では、未焼成保護層117の熱処理を行う。具体的には、未焼成保護層117が形成された素子本体部70を、熱処理温度1000℃、熱処理時間3時間で熱処理を行い、離間部18を有する保護層17が形成されたガスセンサ素子7を得る。なお、未焼成保護層117(詳細には、未焼成第1層167および未焼成第2層168)が焼成されて保護層17(詳細には、第1層67および第2層68)となり、揮発性溶剤118の形成領域が離間部18となる。
【0099】
なお、第2工程にて揮発性溶剤118を塗布してから、第4工程で未焼成保護層117の熱処理を行うまでの間に、揮発性溶剤118が緩やかに揮発して保護層17(第1層67と第2層68との間)に離間部18を形成している。
【0100】
このようにしてガスセンサ素子7を得た後、ガスセンサ素子7を主体金具5に組み付ける組付工程を行う。
即ち、この工程では、上記製造方法で作製されたガスセンサ素子7を金属ホルダ51に挿入し、さらにガスセンサ素子7をセラミックホルダ41、滑石リング43で固定し、組み立て体を作製する。その後、この組み立て体を主体金具5に固定し、ガスセンサ素子7の軸線方向後端部側を滑石リング45、セラミックスリーブ9に挿通させつつ、これらを主体金具5に挿入する。
【0101】
そして、主体金具5の後端部47にてセラミックスリーブ9を加締め、下部組立体を作製する。なお、下部組立体には、あらかじめプロテクタ55が取付けられている。
一方、外筒57、セパレータ13、グロメット61などを組みつけ、上部組立体を作製する。そして、下部組立体と上部組立体とを接合し、空燃比センサ1を得る。
【0102】
[1−4.比較試験]
本発明のガスセンサ素子における耐被水性能を確認するための被水試験の試験結果について説明する。
【0103】
本試験では、ガスセンサ素子7の保護層17に対して所定量の水を付着させて、素子本体部70が破損したか否かを確認した。このとき、ガスセンサ素子7から出力されるセンサ信号Ipをモニタし、被水前のセンサ信号Ipの値を基準として、センサ信号Ipの変化量が1%以上である場合に素子本体部70が破損したと判定し、センサ信号Ipの変化量が1%未満である場合に、素子本体部70が破損していないと判定した。
【0104】
また、本試験では、比較例として、保護層の内部に離間部18を有しないガスセンサ素子についても被水試験を実施した。なお、本発明の実施例として、先端側角部の保護層厚さ寸法が異なる2つの試料(実施例1,2)について被水試験を実施すると共に、比較例として、先端側角部の保護層厚さ寸法が異なる2つの試料(比較例1,2)について被水試験を実施した。
【0105】
また、被水量は5段階(1μL、2μL、5μL、7μL、10μL)であり、少ない量から増量する順に試験を行い、素子本体部に破損が生じた試料については、その水量で試験を中止した。
【0106】
試験結果を[表1]に示す。なお、[表1]では、被水試験結果の欄において、素子本体部が破損していない場合に「○」を記載し、素子本体部が破損した場合に「×」を記載した。
【0108】
試験結果によれば、実施例1および実施例2はいずれも、全ての被水量(1〜10[μL])で素子本体部70が破損していない。比較例1は、被水量が2[μL]で素子本体部が破損しており、比較例2は、被水量が5[μL]で素子本体部が破損している。
【0109】
よって、本発明のガスセンサ素子7は、離間部18を有さない構成のガスセンサ素子に比べて、被水の熱衝撃による素子本体部70の破損が生じがたくなり、耐被水性能に優れる。
【0110】
[1−5.効果]
以上説明したように、本実施形態の空燃比センサ1におけるガスセンサ素子7は、気孔率の異なる2つの層(第1層67および第2層68)を有する保護層17を備える。第1層67は、素子本体部70に近い側に形成され、第2層68は、第1層67よりも外側に形成され、第1層67に接する。
【0111】
ガスセンサ素子7は、素子本体部70の側面上における保護層17の最大厚さDmaxを有する部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに、第1層67および第2層68が離間するよう形成される空間としての離間部18を少なくとも1つ備えている。
【0112】
保護層17のうち第1層67および第2層68は、先端面127の少なくとも一部、及び先端側領域E1における4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の少なくとも一部において、離間部18を介さずに積層される。
【0113】
このように構成されたガスセンサ素子7は、保護層17における第1層67および第2層68を離間する離間部18を備えることから、保護層17表面に付着した水が保護層17内を浸透する際に離間部18に一時的にその水を溜めることができる。このため、このガスセンサ素子7の保護層17は、厚さ寸法が同一で離間部を有さない保護層に比べて、保護層17に付着した水が素子本体部70に到達しがたくなり、被水による熱衝撃で素子本体部70の先端が破損するのを抑制できる。
【0114】
つまり、このガスセンサ素子7の保護層17は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくでき、その結果、従来の保護層よりも熱容量を小さくすることができる。
【0115】
また、離間部18は、素子本体部70の側面上における保護層17の最大厚さDmaxを有する部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられている。これにより、離間部18により水を一時的に溜めつつ、素子本体部70の部位19よりも後端側の後端側領域E2において、保護層17(第1層67および第2層68)と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0116】
そのうえ、第1層67および第2層68は、先端面127の少なくとも一部、及び先端側領域における4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の少なくとも一部において、離間部18を介さずに積層される。このことから、第1層67と第2層68とを離間するように形成されている離間部18が先端側領域E1に設けられているとしても、この先端側領域E1においても、保護層17(第1層67および第2層68)と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0117】
よって、本実施形態のガスセンサ素子7によれば、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層17を備えるガスセンサ素子を実現できる。
[1−6.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
【0118】
第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113がそれぞれ素子本体部の側面の一例に相当し、空燃比センサ1がガスセンサの一例に相当する。
第1工程が第1層形成工程の一例に相当し、第2工程が溶剤配置工程の一例に相当し、第3工程が第2層形成工程の一例に相当し、第4工程が熱処理工程の一例に相当する。
【0119】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0120】
例えば、ガスセンサ素子の素子本体部については、第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4のそれぞれにC面取り加工が施されたものに限られることはなく、第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4のいずれも面取り加工が施されていない構成を採ることができる。
【0121】
図9は、面取り加工が施されていない第2素子本体部270を有する第2ガスセンサ素子207のうち、第2素子本体部270の先端面127における端面図である。このような構成の第2ガスセンサ素子207においては、頂点74が面取り部の稜線ではなく1点で形成されている。保護層17における第1層67と第2層68との間には、複数の離間部18が形成されている。離間部18には、頂点74上に設けられる頂点離間部69が含まれる。
【0122】
次に、上述のガスセンサ素子7では、第1層67および第2層68が互いの気孔率が異なる構成であるが、第1層および第2層はこのような構成に限られることはない。つまり、第1層および第2層は、互いの材質が異なる構成、あるいは互いの性状が異なる構成を採ることができる。なお、保護層における性状とは、多孔質の気孔率、気孔径、セラミック粒径などにより定められる特性である。第1層および第2層は、材質または性状のうち少なくとも1つが互いに異なる構成を採ることができる。
【0123】
次に、頂点離間部69は、第1層67と第2層68とを離間する空間であり、保護層17の厚さ方向に垂直な方向の形成領域が大きくなりすぎると、第1層67と第2層68との剥離が生じる可能性がある。そのため、頂点離間部69は、保護層17の厚さ方向に垂直な方向の形成領域の大きさが、第1層67と第2層68との剥離が生じない範囲内で設定されると良い。
【0124】
また、頂点離間部69は、第1実施形態のように素子本体部70の先端面127における4つの頂点74の全てに設けられる形態に限られることはない。例えば、頂点離間部69は、4つの頂点74のうち3箇所以下に設けられる構成でも良い。なお、ガスセンサ素子の用途などによっては、1個の頂点離間部で被水に伴う熱衝撃を抑制できる場合もあるため、そのような場合には、頂点離間部が1カ所のみに設けられる構成としてもよい。また、2個以上の頂点離間部を頂点上に設ける場合には、4つの頂点のうち対角に位置する2つの頂点のそれぞれに少なくとも設ける構成としても良い。
【0125】
また、1つの頂点離間部は、1つの頂点上のみに設けられる構成に限られることはなく、2つの頂点にまたがる形態であってもよい。
さらに、離間部は、頂点離間部に限られることはなく、素子本体部のうち4つの頂点以外の領域に設けられても良い。
【0126】
なお、離間部を多数設ける場合や離間部を大きく形成する場合、第1層と第2層とが互いに剥離し難くなるように、第1層と第2層との接触面積を十分に確保するとよい。例えば、素子本体部の先端側領域E1における先端面及び側面の表面積のうち半分以上の領域で第1層と第2層とが互いに接触することで、第1層からの第2層の剥離が生じがたいガスセンサ素子を実現できる。