特許第6169967号(P6169967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6169967
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】配管内移動システム
(51)【国際特許分類】
   B61B 13/10 20060101AFI20170713BHJP
   G01N 21/954 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
   B61B13/10
   !G01N21/954 A
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-270719(P2013-270719)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-123908(P2015-123908A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 直樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒川 宜彬
(72)【発明者】
【氏名】野間 彰
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−324068(JP,A)
【文献】 特開平08−327605(JP,A)
【文献】 特開平05−272960(JP,A)
【文献】 特開昭63−201513(JP,A)
【文献】 米国特許第04862808(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/10
G01N 21/954
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにケーブルで接続された複数の車両を具備する配管内移動システムであって、
前記複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を具備し、
更に、前記複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する検出部と、
前記異常が検出されたとき、前記複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、前記隣接する2台の車両のうちの少なくとも一方の前記駆動部を制御する異常時制御を行う制御部と
を具備する配管内移動システム。
【請求項2】
請求項1に記載された配管内移動システムであって、
前記制御部は、前記異常が検出されていないとき、前記複数の車両が互いに同じ速度で移動する正常時制御を行うための指令信号を前記複数の車両の各々の前記駆動部に送信し、
前記制御部は、前記異常時制御を行っているときに前記異常が解消されたことを前記検出部が検出したとき、前記正常時制御に復旧する
配管内移動システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された配管内移動システムであって、
前記検出部は、前記ケーブルの張力が所定値を超えたときに、前記異常が発生したことを検出する
配管内移動システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載された配管内移動システムであって、
前記検出部は、前記複数の車両のうちのいずれかの前記駆動部が前記駆動力を生成するために消費する電力が所定値を超えたときに、前記異常が発生したことを検出する
配管内移動システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された配管内移動システムであって、
前記検出部は、前記複数の車両のうちのいずれかの前記駆動部の駆動輪の回転数が所定値を下回ったとき、前記異常が発生したことを検出する
配管内移動システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載された配管内移動システムであって、
前記制御部は、前記進行方向の後方側から順に、前記複数の車両のうちの前記隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、前記異常時制御を行う
配管内移動システム。
【請求項7】
互いにケーブルで接続された複数の車両を具備する配管内移動システムの制御方法であって、
前記複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を具備し、
前記複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する工程と、
前記異常が検出されたとき、前記複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、前記2台の車両のうちの少なくとも一方の前記駆動部を制御する異常時制御を行う工程と
を具備する配管内移動システムの制御方法。
【請求項8】
互いにケーブルで接続された複数の車両を具備する配管内移動システムの制御用プログラムであって、
前記複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を具備し、
前記複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する工程と、
前記異常が検出されたとき、前記複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、前記2台の車両のうちの少なくとも一方の前記駆動部を制御する異常時制御を行う工程と
をコンピュータに実行させるための制御用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内を自走して検査等を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配管内の経路を自力で移動して配管内での検査や作業を行う配管内移動装置(配管内移動ロボット,pipe crawler,pipe explorer等と呼ばれる)が知られている。このような装置は、屈曲した箇所(ベンド部)を有する配管内を走行できるように、例えばフレキシブルジョイントによって互いに連結された複数のセグメントを有する。このような構成を有する装置は、配管のベンド部を通過する際に、フレキシブルジョイントが屈曲することによりベンド部に沿った形状に変形し、ベンド部を通過することができる。
【0003】
そのような配管内移動装置の一例として、図1に、特許文献1に記載された技術を示す。探査機は、カメラヘッドユニット102、カメラヘッドジョイント110、駆動車ユニット103、ギアドモータユニット104、駆動車ユニット103、ケーブルジョイント111よりなり、それらは屈曲自在なフレキシブルジョイント106、107で連結されている。ケーブルジョイント111にはケーブル112が接続されて、地上のケーブルドラム115を経てコントローラ116に接続している。コントローラ116は、さらに空気圧供給用のコンプレッサ117、パーソナルコンピュータ120及び電源118に接続されている。配管内に挿入された探査機は、駆動車ユニット103の働きで配管内を進行する。この技術では、探査機がベンド部等で引っ掛かったとき、車輪押圧用の空気を減圧して駆動車ユニットを縮径することにより、引っ掛かりを脱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−272960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
配管内移動装置の後部には、ケーブルが取り付けられる。図1の例では、探査機の後部にケーブル112が取り付けられている。こうしたケーブルの内部には、電力線や信号線が配置される。このケーブルを介して、配管内移動装置と配管外部のコントローラ等の装置との間で、電力の供給や情報の送受信が行われる。
【0006】
このような配管移動装置が屈曲した配管の内部を走行するとき、ケーブル133によって摩擦抵抗が発生することがある。図2は、そのような摩擦抵抗を説明するための配管130の断面図である。配管130は、ベンド部131を有する。図2の例では、ベンド部131において配管130がU字型に屈曲している。
【0007】
車両132は、図2の右下側から配管130に導入され、上向きに走行する。車両132は、ベンド部131に達すると、ベンド部131に沿って図2の反時計回りに曲がり、左側の部分に達して下向きに走行する。車両132の後方のケーブル133は、車両132に牽引されて次第に配管130の奥の方に導入され、導入口から見てベンド部131の反対側にまで導入される。
【0008】
ケーブル133は、車両132によって牽引されることにより、ベンド部131のカーブの内周側の配管130の壁面に接触した状態で引き摺られる場合がある。このような場合、ケーブル133と配管130の接触箇所(図2の摩擦部134)において摩擦抵抗が発生する。以後、このような現象を、巻きつき(winding around,stick)と呼ぶ。このようなベンド部131における巻きつきが発生すると、摩擦抵抗により、車両132の走行が妨げられる可能性がある。
【0009】
特に、車両132を配管130の深い箇所まで導入すると、多くのベンド部131を通過することが必要な場合がある。そのような場合、多数の摩擦部134が発生して摩擦抵抗が増大し、車両132の走行の妨げとなる場合がある。
【0010】
ベンド部におけるケーブル巻きつきの影響を緩和する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面において、配管内移動システムは、互いにケーブルで接続された複数の車両を備える。複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を備える。配管内移動システムは更に、複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する検出部と、異常が検出されたとき、複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、2台の車両のうちの少なくとも一方の駆動部を制御する異常時制御を行う制御部とを備える。
【0012】
本発明の他の側面において、制御方法は、互いにケーブルで接続された複数の車両を具備する配管内移動システムの制御方法である。複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を備える。制御方法は更に、複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する工程と、異常が検出されたとき、複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、2台の車両のうちの少なくとも一方の駆動部を制御する異常時制御を行う工程とを備える。
【0013】
本発明の更に他の側面において、制御用プログラムは、互いにケーブルで接続された複数の車両を具備する配管内移動システムの制御用プログラムである。複数の車両の各々は、配管内の経路を進行方向に向かって移動するための駆動力を生成する駆動部を備える。制御用プログラムは、複数の車両のうちの少なくとも一つに異常が発生したことを検出する工程と、異常が検出されたとき、複数の車両のうちの少なくとも一組の隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、2台の車両のうちの少なくとも一方の駆動部を制御する異常時制御を行う工程とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ベンド部におけるケーブル巻きつきの影響の緩和を可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、参考技術における配管の探査器を示す。
図2図2は、ベンド部における摩擦抵抗を説明するための図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る配管内移動システムを示す。
図4図4は、配管内移動システムの進行方向から見た断面図である。
図5図5は、車両の構成を示す。
図6図6は、配管内に導入された車両群を示す。
図7図7は、巻きつきの説明図である。
図8図8は、巻きつきの解消の説明図である。
図9図9は、異常時制御の動作を示すフローチャートである。
図10図10は、配管内に導入された車両群を示す。
図11図11は、異常時制御の動作を示すフローチャートである。
図12図12は、異常時制御の動作を示すフローチャートである。
図13図13は、蠕動運動の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図3は、本発明の一実施形態における配管内移動システムの構成を示す。配管内移動システムは、車両群1と、車両群1の後部に接続されるケーブル3(3−3)を巻き取って収納するケーブルドラム4と、ケーブル3に接続された電流計7及びコントローラ5と、コントローラ5に接続されたコンピュータ6(例示:パーソナルコンピュータ)とを備える。
【0017】
車両群1は、2台以上の車両2(2−i:iは先頭側から数えた車両の順序を示す整数)を備える。図3の例では、車両群1は先頭側から順に3台の車両2−1、2−2、2−3を備える。複数の車両2は一列に並び、隣接する2台の車両はケーブル3(3−i:iは整数であり、車両2−iの後方側に接続されるケーブル3がケーブル3−iで示される)で接続される。図3の例では、1番目の車両2−1と2番目の車両2−2がケーブル3−1で接続され、2番目の車両2−2と3番目の車両2−3がケーブル3−2で接続される。3番目の車両2−3は車両群1の最後尾の車両2であり、その後方側は、ケーブル3−3を介して、配管の外部に配置されるコントローラ5に接続される。ケーブル3の内部には、各車両2に電力を供給するための電力線と、各車両2とコントローラ5との間で情報通信を行うための信号線とが設けられる。
【0018】
車両2には、カメラ等の配管10の内部で観測・検査を行う装置や、配管10の内部で不要物の除去や物体の採取を行うアクチュエータなどの各種作業を行う装置を搭載することができる。このような観測・検査・作業用の装置は、先頭の車両2−1のみに搭載してもよいし、複数の車両2の各々に搭載してもよい。このような装置の操作は、コントローラ5からケーブル3の信号線を介して送信される指令信号によって実行することができる。
【0019】
図4は、配管10と、配管10の内部に導入された車両2を進行方向から見た断面図を示す。車両2は、配管10の延長方向に自在に進行できる駆動機構を有する。図4の例では、車両2は配管10の内周よりも小さい断面形状を有する車両本体8と、車両本体8の進行方向に対して垂直な面内で放射状に配置されて車両本体8に取り付けられた3個の車輪9とを備える。この3個の車輪9を配管10の内壁に所定範囲の圧力で押し付けながら、車輪9を回転することにより、車両2を配管10の延長方向に移動することができる。
【0020】
図5は、車両2の構成を示す。車両2は、車両本体8と、車輪9を備える。車両2にはケーブル3が取り付けられる。図5に例示されているのは、図3における先頭の車両2−1以外の中間車両2−2又は最後尾車両2−3であり、前方側と後方側にそれぞれケーブル3が取り付けられる。車両2は更に、自車両の後方側に接続されたケーブル3に対応して張力センサ14が取り付けられる。張力センサ14は、ケーブル3に掛かる張力を検出し、その検出値を示す検出信号をケーブル3を介してコントローラ5に出力する。
【0021】
車両2は、モータ12を備える。モータ12と車輪9により、車両2を配管10の内部の経路に沿って前後方向に移動するための駆動部DRが形成される。モータ12は、ケーブル3の電力線から供給される電力によってトルクを発生する。そのトルクにより、車輪9のうちの少なくとも一つである駆動輪が回転する。
【0022】
モータ12に、エンコーダ13が取り付けられる。エンコーダ13は、モータ12の毎秒の回転数を検出し、その検出値を示す検出信号をケーブル3を介してコントローラ5に出力する。エンコーダ13に替えて、モータ12の回転速度を示す電圧を生成するタコジェネレータを用いてもよい。あるいはエンコーダ13に替えて、駆動輪である車輪9にエンコーダ15を取り付け、車輪9の回転数を検出してもよい。
【0023】
図6は、以上に説明した構成を有する車両群1が配管10の内部に導入された状態を示す。車両群1は、図の右上側から導入される。車両群1が走行することにより、先頭の車両2−1は3か所のベンド部20−1、20−2、20−3を越え、それらよりも奥の位置に到達している。ベンド部20−1とベンド部20−2の間に2番目の車両2−2が導入される。ベンド部20−2とベンド部20−3の間に3番目の車両2−3が導入される。ベンド部20−3よりも入り口側に、4番目の車両2−2が導入される。
【0024】
このような車両群1において、各ベンド部20−1、20−2、20−3でケーブル3が配管10の内壁に接触したとする。仮に、車両群1の走行機構がケーブル3の先端付近にのみ存在すると、その走行機構は、配管10の内部のすべてのベンド部20の摩擦力の合計を上回る力でケーブル3を牽引しなければならない。このような牽引は、配管10が多数のベンド部20を有している場合には困難となる。
【0025】
本実施形態においては、以下の理由により、上記の困難を緩和することができる。本実施形態における車両群1は、複数の車両2によってケーブル3を延長方向に複数個所で分散的に牽引する。そのため、例えば先頭の車両2−1は、全体のケーブル3の一部であるケーブル3−1のみを牽引すれば良い。図6の例では、車両2−1は、1か所のベンド部20−1における摩擦力を上回る駆動力を有せばよい。同様に、車両2−2、2−3は、それぞれその後方側のケーブル3−2、3−3のみを牽引すればよく、1か所のベンド部20−3における摩擦力を上回る駆動力を有せばよい。
【0026】
以上、説明したように、本実施形態では、ケーブル3全体を牽引する力が、複数個所に配置された車両2によって分散的に与えられる。すなわちケーブル3とベンド部20の間の摩擦抵抗力は、複数の車両2に分散して掛けられる。そのため、多数のベンド部20を通過する場合でも、特定の車両2に過剰な負荷が掛かることが避けられる。その結果、複数の車両2を用いることにより、多数のベンド部20を有する配管10であっても、深い位置にまで車両2を到達させることができる。
【0027】
次に、巻きつきの検出について説明する。各車両2は、自車両2の走行に関する検出信号を常にコントローラ5に送信している。具体的には、張力センサ14が検出する各ケーブル3の張力と、エンコーダ13又は15が検出する回転数とがコントローラ5に送信される。コントローラ5は、これらの検出信号に基づいて、車両2の移動が正常に行われているか、異常であるか(巻きつきが発生したか)を判定する。車両2の移動が正常に行われている場合には正常時制御を実行し、複数の車両2のうちの少なくとも一つに異常が発生した場合、巻きつきが発生したと判定し、異常時制御を実行する。このような正常時制御や異常時制御は、コントローラ5又はコンピュータ6のCPUが、予めハードディスク等の非遷移的(non−transitory)な記憶装置に格納された制御用プログラムを読み出し、そのプログラムに記述された手順を実行することによって実現される。
【0028】
図7は、配管10に導入した車両群1を示す。図7の例では、車両2−1を先頭とする車両群1が、逆さU字型に描かれた配管10に右下側から導入されている。コントローラ5は、正常時制御において、複数の車両2−1、2−2が互いに同じ速度で配管10の内部を前方に走行するように指令信号を各車両2の駆動部DRに送信する。図7では、車両2−1は配管10のベンド部20を通過してその向こう側を走行し、車両2−2は、配管10のベンド部20の手前側を走行している。
【0029】
車両2−1がベンド部20を通過すると、その車両2−1の後方のケーブル3−1は、図7に示すように、ベンド部20のカーブの内周側の壁面に接触しながら引き摺られる傾向がある。この接触による摩擦力が強いと、巻きつきが発生し、その前方側の車両2−1の移動が妨げられる場合がある。
【0030】
[巻きつきの検出方法1:張力による検出]
巻きつき発生は、例えば以下のように検出することができる。例えば車両2−1の後方側のケーブル3−1の張力が正常時よりも大きくなると、そのケーブル3−1がどこかに引っかかって摩擦抵抗が発生したため張力が大きくなっていると推定できる。すなわち、張力を検出することによって、間接的に、ベンド部20とケーブル3との間に生じた摩擦抵抗を検出することができる。
【0031】
巻きつきの検出方法は後述するように他にも考えられる。しかしながら、上記の張力に基づく検出方法は、例えば巻きつきにより車両2の移動ができなくなり、その車輪9がスリップしている場合でも巻きつきを検出できる点で優れている。
【0032】
より具体的には、コントローラ5は、車両2−1の後方側のケーブル3−1の張力Tが所定の閾値Tthを超えると、巻きつきが発生したと判断し、巻きつきを解消するための異常時制御を実行する。異常時制御は、張力が大きくなったケーブル3−1を挟んで隣接する一組の車両2−1、2−2の距離が小さくなるように行われる。
【0033】
図9は、異常時制御の一例を示すフローチャートである。正常時制御における車両群1の速度の指令値(設定値)をVとする。コントローラ5が異常時制御を開始すると、コントローラ5は、巻きつきケーブル3−1の後方側の車両2−2の速度の指令値を一定値ΔV増加させ、V+ΔVとする(ステップA1)。その後、コントローラ5は、巻きつきケーブル3−1の張力Tを監視し、その張力Tが所定の閾値を上回っていたときは(ステップA2YES)、異常時制御を継続する。張力が所定の閾値以下となった場合は(ステップA2NO)、異常が解消されたと判定し、後方の車両2−2の速度をVに戻し、正常時制御に復旧する(ステップA3)。
【0034】
図8は、異常時制御を行ったときの配管10の内部を示す。前方の車両2−1(速度V)に対して後方の車両2−2(速度V+ΔV)の方が速いため、ベンド部20におけるケーブル3−1が緩み、ケーブル3−1が配管10の内壁11から離れる。その結果、ベンド部20における巻きつきが解消される。
【0035】
異常時制御としては、図9に示した例に限られず、別の制御方法を採用してもよい。例えば、ステップA1において後方の車両の速度をVからV+ΔVに上昇する制御に替えて、前方の車両の速度をVからV−ΔVに低下する制御を行ってもよい。要するに、巻きつきケーブル3−1の前後の2台の車両2−1、2−2のうちの少なくとも一方の駆動部DRを制御して車間距離を小さくすることにより、ケーブル3を緩めることができる。
【0036】
[巻きつきの検出方法2:電流による検出]
以上の説明では、ケーブル3の張力を検出することによって巻きつき判定を行った。それに替えて、車両2のモータ12の消費電力によって巻きつき判定を行うこともできる。
【0037】
各車両2は、ケーブル3を介して配管10外のコントローラ5側に配置された電源から電力を供給される。モータ12は、その電力を用いて車輪9を駆動する。コントローラ5側に配置された電流計7は、車両群1に供給される電流Iをモニタする。あるいは必要に応じて、電流計7が各車両2のモータ12に供給される電流Ii(iは各車両2を特定する識別番号、車両がN台の場合はn個の値I〜I)を個別に検出し監視するようにしてもよい。
【0038】
巻きつきが発生すると、車両2が前進するために必要なトルクが増大する。そのためモータ12に流れる電流が増大する。従って、車輪9を駆動するモータ12に流れる電流を検出することで、間接的にベンド部20とケーブル3の間に発生した摩擦抵抗を検出することができる。
【0039】
このような巻きつき検知において、コントローラ5は、電流計7による電流の検出値が、正常時制御の電流値Iよりも所定の値ΔIだけ大きい閾値I+ΔI=Ithを上回ると、異常時制御を実行する。この場合、図9のステップA2における判定は、電流の検出値とIthとの比較により行われる。電流の検出値がIth以下となったときには、正常時制御への復旧が行われる。電流計7が各車両2のモータ12に供給される電流Iiをモニタしている場合には、各車両2について個別に上記の異常時制御が実行される。
【0040】
正常時制御の電流値Iは、例えば車両群1の速度に依存する。従って、コントローラ5は、速度指令値と正常時制御の電流値とを対応づけて格納するテーブルを記憶していてもよい。その場合、コントローラ5は、現在の速度指令値に対応する正常時制御の電流値Iをテーブルから抽出し、それに所定のΔIを加えることによって、巻きつき判定の閾値Ithを生成する。
【0041】
こうした電流に基づく巻きつき検出は、車両2にセンサやエンコーダ等の検出装置を取り付けなくても実行できる。そのため、車両2を小型化し、より小さい径の配管10を走行させたい場合に適している。
【0042】
[巻きつきの検出方法3:回転数による検出]
巻きつきを検出するために、更に他の方法も考えられる。ベンド部20とケーブル3との間に摩擦抵抗が生じると、巻きつきが生じたケーブル3の前方側の車両2が、そのケーブル3によって後ろから引っ張られて車両2の負荷が増大する。その結果、モータ12の回転数が低下する場合がある。従って、回転数の低下を検出することによって、間接的に摩擦抵抗を検出することができる。
【0043】
具体的には、以下のように異常時制御を実行する。各車両2のエンコーダ13は、モータ12の(単位時間当りの)回転数の測定値をコントローラ5に送信する。エンコーダ13に替えて、車輪9の回転数を検出するエンコーダ15を用いてもよい。コントローラ5は、その測定値に基づいて、各車両2の移動速度を算出する。コントローラ5は更に、算出した移動速度に基づいて、各車両2について、その前方の車両2との相対速度である前側相対速度RVfと、その後方の車両2との相対速度である後側相対速度RVrとを算出する。巻きつきが無ければ、それらの相対速度は小さい値となるので、相対速度が所定の閾値よりも大きければ、巻きつきが発生したと判定できる。
【0044】
具体的には、コントローラ5は、以下のように巻きつき判定を行う。各車両2について、エンコーダ13の検出値に基づいて算出された速度の測定値をVownとする。その前側に隣接する車両2の速度の測定値をVfront,後側に隣接する車両2の速度の測定値をVrearとする。コントローラ5は、前側相対速度RVf=Vown−Vfrontと、後側相対速度RVr=Vown−Vrearとを算出する。
【0045】
RVf、RVrの絶対値|RVf|、|RVr|が所定の閾値Vthより大きい場合は、いずれかの箇所で巻きつきが発生していると推定される。従ってこのような場合、コントローラ5は、異常時制御に移行する。この場合、図9のステップA2における判定は、|RVf|、|RVr|とVthとの比較により行われる。|RVf|と|RVr|の両方がVth以下となったときには、正常時制御への復旧が行われる。
【0046】
[蠕動走行]
次に、特に車両群1が3台以上の車両2を有する場合に適した制御について説明する。図10は、4台の車両2−1〜2−4を有する車両群1を配管10の内部に導入した状態を示す。先頭の車両2−1はベンド部20−1よりも奥に位置している。二番目の車両2−2はベンド部20−1よりも手前でベンド部20−2よりも奥に位置している。三番目の車両2−3はベンド部20−2よりも手前でベンド部20−3よりも奥に位置している。四番目(最後尾)の車両2−4はベンド部20−3よりも手前に位置している。
【0047】
このような場合にも、配管10の内部のどこかでケーブル3−1〜3−4の巻きつきが発生した場合、巻きつきの検出方法1〜3のいずれか一つを用いて、又は二つ以上を併用して、ケーブル3の巻きつきが発生したことを検出することができる。巻きつきが検出された場合、コントローラ5は、複数の車両2のうち、車両の進行方向の後方側から順に、隣接する2台の車両の距離が小さくなるように、異常時制御を行う。このような走行を、以下では「蠕動走行」と呼ぶ。いも虫型の動作(caterpillar motion)もしくは尺取り虫型の動作(inchworm motion)と言い換えてもよい。図10の例では、四番目(最後尾)の車両2−4の速度を上げ、次に三番目の車両2−3の速度を上げ、次に二番目の車両2−2の速度を上げ、最後に一番目(先頭)の車両2−1の速度を上げる。このような蠕動走行により、配管10内のいずれの箇所で巻きつきが発生した場合にも、その巻きつきを解消することができる。
【0048】
図11は、既述の巻きつきの検出方法1〜3を全て併用した場合の、巻きつき判定の動作の一例を示すフローチャートである。コントローラ5は、正常時制御を実行しているとき、各車両2に対して一定の速度指令値を送信する。巻きつきが発生していなければ、車両群1はその速度指令値に示された一定速度で配管10内を走行する(ステップS1)。
【0049】
コントローラ5は、或る車両2、例えば二番目の車両2−2について、張力センサ14で検出されるケーブル3−2の張力Tをモニタする。ケーブル3−2の張力Tが閾値Tth以下であれば、定速走行を続ける(ステップS2NO)。当該車両2−2に接続されたケーブル3−2の張力Tが閾値Tthを上回っていた場合は、ステップS3に移行する(ステップS2YES)。
【0050】
コントローラ5は更に、車両群1に供給している電流の検出値Iと、閾値Ithとを比較する。IがIth以下であれば、定常走行を続ける(ステップS3NO)。IがIthを上回っていたら、ステップS4に移行する(ステップS3YES)。コントローラ5は更に、相対速度V(既述のRVfとRVrの少なくとも一方)について、閾値Vthとの比較を行う。VがVth以下であれば、定速走行を続ける(ステップS4NO)。VがVthを上回っていたら、ステップS5に移行する(ステップS4YES)。
【0051】
ステップS2〜S4の全てにおいてYES判定の場合、コントローラ5は蠕動走行を実行する(ステップS5)。以上の処理が、複数の車両2−1〜2−4のすべてについて実行される。
【0052】
図11のフローチャートでは、いずれかの車両2において、車両2の走行に掛かる負荷を示す複数の測定量(測定張力T、測定電流I、前後のいずれかの車両の相対速度V)のすべてが閾値を超えていた場合に、蠕動運動を行う。3つの条件についてAND判定されるため、蠕動運動を実行するために厳しい条件を掛けていることとなる。このような判定処理は、できるだけ正常時制御を保ち、いずれかの車両2の運動がかなり強く妨げられた時にのみ巻きつみ解除を行いたい場合に適している。
【0053】
図12は、既述の巻きつきの検出方法1〜3を全て併用した場合の、巻きつき判定の動作の他の一例を示すフローチャートである。この例では、3つの条件がOR判定で用いられる。
【0054】
コントローラ5が正常時制御を実行し、巻きつきが発生していないとき、車両群1は定速で配管10内を走行する(ステップS11)。コントローラ5は、或る車両2、例えば二番目の車両2−2について、張力センサ14で検出されるケーブル3−2の張力Tをモニタする。ケーブル3−2の張力Tが閾値Tth以下であれば、ステップS13に移行する(ステップS12NO)。当該車両2−2に接続されたケーブル3−2の張力Tが閾値Tthを上回っていた場合は、ステップS13に移行する(ステップS12YES)。
【0055】
コントローラ5は、車両群1に供給している電流の検出値Iと、閾値Ithとを比較する。IがIth以下であれば、ステップS14に移行する(ステップS13NO)。IがIthを上回っていたら、ステップS15に移行する(ステップS13YES)。コントローラ5は更に、相対速度V(既述のRVfとRVrの少なくとも一方)について、閾値Vthとの比較を行う。VがVth以下であれば、定速走行を続ける(ステップS14NO)。VがVthを上回っていたら、ステップS15に移行する(ステップS14YES)。
【0056】
ステップS12〜S14のいずれか一つにおいてYES判定の場合、コントローラ5は蠕動走行を実行する(ステップS15)。以上の判定処理が、複数の車両2の各々について実行される。
【0057】
このような判定処理においては、測定張力T、測定電流I、相対速度Vのいずれかに異常が検出された段階で、蠕動走行が実行される。従って図12の処理は、巻きつきの可能性があれば少しでも早期に解消したい場合に適している。
【0058】
次に、蠕動走行の詳細について説明する。図13は、図11のステップS5又は図12のステップS15でコントローラ5が実行する蠕動運動の動作を示すフローチャートである。但し、説明を単純にするために、張力Tのみを用いて巻きつき判定を行う場合について説明している。
【0059】
車両群1がN台の車両2−1〜2−Nから成っていたとする。まず、定速走行において、コントローラ5は車両2−1〜2−Nのすべてに対して、同一の速度Vで走行することを指令する信号を送信する。蠕動運動を開始すると、最後尾のN番目の車両2−Nの速度がV+ΔVとなるように制御される(ステップS21)。
【0060】
車両2−Nの速度をΔVだけ上げた結果、N番目の車両2−Nの前側に接続されたケーブル3(先頭側から見て(N−1)番目のケーブル)の巻きつきが解消される可能性がある。そのため、(N−1)番目のケーブル3の張力を監視することにより、巻きつき解消の判定処理を行う(ステップS22)。(N−1)番目のケーブル3の張力Tが所定値よりも大きければ、車両2−Nの速度V+ΔVが維持される(ステップS22YES)。この所定値としては、図11図12で用いられた閾値Tthを用いることができる。但し、制御のチャタリングが問題となる場合は、閾値Tthよりも小さい所定値を用いて、ヒステリシスを持たせることが望ましい。
【0061】
(N−1)番目のケーブル3の張力Tが所定値以下となったら、巻きつきが解消されたと判断し、ステップS23に移行する(ステップS22NO)。
【0062】
(N−1)番目のケーブルの巻きつきが解消したら、N番目の車両2−Nの速度はV+ΔVを維持したまま、次の(N−1)番目の車両2−(N−1)の速度がVからV+ΔVに増加するように、指令信号を送信する(ステップS23)。
【0063】
次に、ステップS22と同様に、車両2−(N−1)の前側のケーブル3−(N−2)の張力Tを監視することにより、巻きつきの解消判定を行う(ステップS24)。以上のような処理を、車両群1の先頭側に向かって繰り返す。
【0064】
2番目のケーブル3−2の巻きつきが解消したと判定されると、3番目の車両2−3の速度はV+ΔVを維持したまま、2番目の車両2−2の速度がV+ΔVに上げられる(ステップS31)。1番目のケーブル3−1の巻きつきが解消したと判定されると(ステップS32NO)、すべてのケーブル3−1〜3−Nの巻きつきが解消したと判定され、正常時制御に復旧する(ステップS33)。正常時制御においては、全車両2−1〜2−Nの速度がVに戻される。
【0065】
以上に説明した蠕動運動の動作は、張力に替えて、モータ12の回転数や、モータ12に供給される電流の検出値によって巻きつき判定を行うことによっても同様に実行できる。
【0066】
蠕動運動は、必ずしも全ての車両2−1〜2−Nについて実行しなくてもよい。例えば、図11図12のような蠕動運動の開始判定を各車両2について行った際に、ある特定の車両2(例えば図10の車両2−3)よりも後方側でのみ巻きつきが発生していることが判定されたとする。そのような場合には、図13の蠕動運動の動作は、最後尾の車両2−4から、その特定の車両2−3まで実行すれば十分である。このような場合には、その特定の車両よりも前方の車両2−1、2−2については定速走行を続け、蠕動運動を行わなくてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 車両群
2、2−1〜2−4 車両
3、3−1〜3−4 ケーブル
4 ケーブルドラム
5 コントローラ
6 コンピュータ
7 電流計
8 車両本体
9 車輪
10 配管
11 内壁
12 モータ
13 エンコーダ
14 張力センサ
15 エンコーダ
20、20−1〜20−3 ベンド部
102 カメラユニット
103 駆動車ユニット
104 ギアドモータユニット
106 フレキシブルジョイント
107 フレキシブルジョイント
110 カメラヘッドジョイント
111 ケーブルジョイント
112 ケーブル
115 ケーブルドラム
116 コントローラ
117 コンプレッサ
118 電源
120 パーソナルコンピュータ
130 配管
131 ベンド部
132 車両
133 ケーブル
134 摩擦部
DR 駆動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13