【文献】
BUTLER TOM Z,SINGLE-MOLECULE DNA DETECTION WITH AN ENGINEERED MSPA PROTEIN NANOPORE,PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA,2008年12月,V105 N52,P20647-20652
【文献】
J. Biol. Chem.,2006年,vol.281, no.9,p.5908-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)前記変異体が、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着、エピトープの酵素修飾または末端の修飾によって化学的に修飾されており;
(ii)前記変異体が、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着によって化学的に修飾されており、および前記1つもしくは複数のシステインが、置換により前記変異体に導入されており;
(iii)前記変異体が、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、もしくは1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着によって化学的に修飾されており、前記分子が、(a)前記モノマーを含む細孔と標的ヌクレオチドもしくは標的核酸配列との相互作用を促進する分子アダプターもしくは(b)核酸結合タンパク質であり;
(iv)前記変異体が、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、もしくは1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着によって化学的に修飾されており、前記付着がリンカーを介しており、または
(v)前記変異体が、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、もしくは1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着によって化学的に修飾されており、前記分子が、配列番号2の90、91および103位の1つもしくは複数に付着している、
請求項7に記載の変異体。
Mspから得られる共有結合したモノマーを2個以上含む構築物であって、前記モノマーの少なくとも1つが、請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマーである、構築物。
請求項9に記載の構築物であって、(a)前記2個以上のモノマーが、同じまたは異なっており、(b)少なくとも1つのモノマーが、配列番号2に示される配列を含み、(c)前記構築物は2個のモノマーを含み、前記モノマーの少なくとも1つが、請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体であり、(d)前記モノマーが遺伝学的に融合されており、または(e)前記モノマーがリンカーを介して付着している、前記構築物。
請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマーを少なくとも1つ含み、8個のモノマーのうち少なくとも1つが他と異なっている、Mspから得られるヘテロオリゴマー細孔。
請求項14に記載のヘテロオリゴマー細孔であって、(i)前記細孔が、請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマー8個を含み、そのうちの少なくとも1つが他と異なっており、(ii)前記細孔が、配列番号2に示される配列を含む少なくとも1つのモノマーを含み、(iii)前記細孔が、(a)1個の変異体モノマーおよび(b)7個の同一のモノマーを含み、(a)の前記変異体モノマーが(b)の前記同一のモノマーとは異なっており、または(iv)前記細孔が、(a)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換N90R、N90K、N90Y、N90Q、N90WもしくはN90Cをさらに含む請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマー1個;(b)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個、および置換N91R、N91K、N91Y、N91Q、N91WもしくはN91Cを含む請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマー1個;または、(c)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個、および置換L88C、S103CもしくはI105Cを含む請求項1から8のいずれか一項に記載の変異体モノマー1個を含む、前記ヘテロオリゴマー細孔。
(a)請求項12から17のいずれか一項に記載の細孔および(b)ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヘリカーゼおよびトポイソメラーゼから選択される核酸ハンドリング酵素を含む、標的核酸配列を特徴付けるためのキット。
サンプル中の標的核酸配列を特徴付けるための装置であって、(a)請求項12から17のいずれか一項に記載の複数の細孔および(b)ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヘリカーゼおよびトポイソメラーゼから選択される、複数の核酸ハンドリング酵素を含む装置。
【発明を実施するための形態】
【0033】
開示された産物および方法の異なる適用が、当技術分野における特定の必要性に合わせられることは理解されよう。本明細書において使用される用語は、本発明の具体的な実施形態を記載するためだけのものであり、制限することを意図しないことも理解されよう。
【0034】
加えて、この明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、文脈に別段の明確な指図がない限り、単数形「a」、「an」および「the」は複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「変異体」への言及は「変異体(複数)」を含み、「置換」への言及はそのような置換を2個以上含み、「細孔」への言及はそのような細孔を2個以上含み、「核酸配列」への言及はそのような配列を2個以上含む、などである。
【0035】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、前後を問わず、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0036】
変異体Mspモノマー
本発明は、変異体Mspモノマーを提供する。変異体Mspモノマーを使用して、本発明の細孔を形成することができる。変異体Mspモノマーとは、その配列が野生型Mspモノマーと異なるが、細孔形成能を保持しているモノマーである。変異体モノマーが細孔を形成する能力を確認する方法は、当技術分野において周知であり、以下に詳述されている。
【0037】
変異体モノマーは、ヌクレオチド読み取り特性が改善されており、すなわちヌクレオチドの捕捉および識別が改善されている。具体的には、変異体モノマーから構築された細孔は、野生型より容易にヌクレオチドおよび核酸を捕捉する。加えて、変異体モノマーから構築された細孔は
、電流範囲を増加させ
(これにより異なるヌクレオチドの識別が容易になる)、
状態変動を減少させる
(これはシグナル対ノイズ比を高める)。加えて、変異体から構築した細孔を通って核酸が移動するにつれて電流に関与するヌクレオチドの数は減少する。これにより、核酸が細孔を通って移動する際に観察される電流と核酸配列との直接的な関係を同定することがさらに容易になる。変異体のヌクレオチド読み取り特性の改善は5つの主な機序、すなわち:
− 立体性(アミノ酸残基のサイズを増減する);
− 電荷(例えば+ve電荷を導入して核酸配列と相互作用させる);
− 水素結合(例えば塩基対と水素結合できるアミノ酸を導入する);
− πスタッキング(例えば非局在化π電子系によって相互作用するアミノ酸を導入する);および/または
− 細孔の構造の改変(例えば入口部および/または狭窄部のサイズを増大させるアミノ酸を導入する)、の変化によって得られる。
【0038】
これらの5つの機序のいずれか1つまたは複数が、本発明の細孔の特性の改善に関与している可能性がある。例えば、立体性の改変、水素結合の改変および構造の改変により、本発明の細孔は、ヌクレオチド読み取り特性を改善することができる。
【0039】
フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)またはヒスチジン(H)など嵩高い残基の導入は、細孔の立体性を増加させる。フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)またはヒスチジン(H)などの芳香族残基の導入は、細孔内のπステーキング(staking)も高める。嵩高い残基または芳香族残基の導入は、例えば細孔を広げ、入口部および/または狭窄部のサイズを増大させることによって、細孔の構造も改変する。これについては、以下に詳しく記載されている。
【0040】
本発明の変異体モノマーは、配列番号2に示される配列のバリアントを含む。配列番号2は、MspAモノマーのNNN−RRK変異体である。これは、以下の変異を含む:D90N、D91N、D93N、D118R、D134RおよびE139K。配列番号2のバリアントは、配列番号2と異なるアミノ酸配列を有するが、細孔形成能を保持しているポリペプチドである。
【0041】
バリアントは以下の変異:
(a)88位にアスパラギン(N)、セリン(S)、グルタミン(Q)またはトレオニン(T);
(b)90位にセリン(S)、グルタミン(Q)またはチロシン(Y);
(c)105位にロイシン(L)またはセリン(S);
(d)126位にアルギニン(R);
(e)75位にセリン(S);
(f)77位にセリン(S);
(g)59位にアルギニン(R);
(h)75位にグルタミン(Q)、アスパラギン(N)またはトレオニン(T);
(i)77位にグルタミン(Q)、アスパラギン(N)またはトレオニン(T);
(j)78位にロイシン(L);
(k)81位にアスパラギン(N);
(l)83位にアスパラギン(N);
(m)86位にセリン(S)またはトレオニン(T);
(n)87位にフェニルアラニン(F)、バリン(V)またはロイシン(L);
(o)88位にチロシン(Y)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、グリシン(G)またはシステイン(C);
(p)89位にフェニルアラニン(F)、バリン(V)またはロイシン(L);
(q)90位にロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン(N)またはシステイン(C);
(r)91位にセリン(S)、グルタミン(Q)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、イソロイシン(I)、アラニン(A)、バリン(V)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、ヒスチジン(H)、トレオニン(T)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン(N)またはシステイン(C);
(s)92位にアラニン(A)またはセリン(S);
(t)93位にセリン(S)、アラニン(A)、トレオニン(T)、グリシン(G);
(u)94位にロイシン(L);
(v)95位にバリン(V);
(w)96位にアルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、バリン(V)、アスパラギン(N)、セリン(S)またはトレオニン(T);
(x)97位にセリン(S);
(y)98位にセリン(S);
(z)99位にセリン(S);
(aa)100位にセリン(S);
(bb)101位にフェニルアラニン(F);
(cc)102位にリシン(K)、セリン(S)またはトレオニン(T);
(dd)103位にアラニン(A)、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、グリシン(G)またはトレオニン(T);
(ee)104位にイソロイシン;
(ff)105位にチロシン(Y)、アラニン(A)、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、グリシン(G)、バリン(V)、アルギニン(R)、リシン(K)、プロリン(P)またはシステイン(C);
(gg)106位にフェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、バリン(V)またはセリン(S);
(hh)108位にプロリン(P)またはセリン(S);
(ii)118位にアスパラギン(N);
(jj)103位にセリン(S)またはシステイン(C);、
(kk)10〜15、51〜60、136〜139および168〜172位のうちの1つまたは複数にシステイン
の少なくとも1つを含む。
【0042】
野生型MspAにおいて、各モノマーの残基88および105は、細孔の内部狭窄部に疎水性の環を形成している。L88およびI105位の疎水性残基は、細孔の主な狭搾部の真上に位置し、水性チャネルに面している。これら残基の変異は、ベースライン(配列番号2)に対して著しく高い開孔電流を有する細孔をもたらす。これらの位置に変異が作られるときに観察される電流差は、単一変異を作ることから予想される差より著しく高くなる。この驚くべき結果は、これらの位置における変異が、これら残基の局所的な環境だけでなくチャネル構造に対する効果も有する可能性があることを意味している。配列番号2ベースラインは広範な細孔伝導性を表すと報告されているが、その理由は十分に分かっていない。L88およびI105位に対する変異は、支配的な細孔電流レベルをベースライン細孔より著しく高める。加えて、この高い伝導性状態は、変異体の支配的な立体構造であり、広い電流範囲およびシグナル対ノイズの増加にとって望ましい。
【0043】
88位へのN、S、QまたはTの導入(すなわち上記の変異(a))は、核酸中のヌクレオチドと水素結合できるアミノ酸を細孔の内部狭搾部に導入する。
【0044】
各モノマー中の残基90および91も、細孔の内部狭搾部の部分を形成している。各モノマー中の残基118は、細孔の入口部の中に存在している。各モノマー中の残基134は、細孔への入口部分である。
【0045】
90位へのS、QまたはYの導入(すなわち上記の変異(b))は、核酸中のヌクレオチドと水素結合できるアミノ酸を細孔の内部狭搾部に導入する。
【0046】
バリアントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個以上の変異など、任意の数の変異(a)〜(kk)を含むことができる。変異の好ましい組合せについては後述する。バリアントに導入されるアミノ酸は、天然に存在するまたはそれの天然に存在しない誘導体であってよい。バリアントに導入されるアミノ酸は、D−アミノ酸であってよい。
【0047】
任意の数のシステインが、バリアントに導入されてよい。好ましくは、システインは、90、91および103位のうちの2つまたは全てなど、1つまたは複数の位置に導入される。これらの位置は、以下で詳述するように、分子アダプターの化学的付着に有用となる場合がある。任意の数のシステイン(例えば2、3、4、5、6個以上のシステイン)が、10〜15、51〜60、136〜139および168〜172位に導入されてよい。これらの位置は細孔の非保存的ループ領域に存在しており、以下で詳述するように、核酸結合タンパク質を細孔に化学的に付着させるのに有用である。
【0048】
好ましい実施形態において、バリアントは以下の(A)〜(Z)に示される1つまたは複数の置換を含む。バリアントは、A〜Zにある置換を任意の数(例えば1、2、3、4または5個など)含むことができる。
【0049】
(A)(i)75位へのセリン(S)、(ii)77位へのセリン(S)、(iii)88位へのアスパラギン(N)、(iv)90位へのグルタミン(Q)および(v)126位へのアルギニン(R)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2、3、4または5個含むことができる。各モノマー中に4つ全ての置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表3に示す。
【0050】
(B)(i)90位へのグルタミン(Q)および(ii)126位へのアルギニン(R)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表3に示す。
【0051】
(C)(i)88位へのアスパラギン(N)、(ii)90位へのグルタミン(Q)および(iii)126位へのアルギニン(R)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。各モノマー中に3つ全てのこれら置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表3に示す。
【0052】
(D)(i)88位へのセリン(S)および(ii)90位へのグルタミン(Q)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表3に示す。
【0053】
(E)(i)88位へのアスパラギン(N)および(ii)90位へのグルタミン(Q)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表3に示す。
【0054】
(F)(i)90位へのグルタミン(Q)および(ii)105位へのアラニン(A)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0055】
(G)(i)90位へのセリン(S)および(ii)92位へのセリン(S)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0056】
(H)(i)88位へのトレオニン(T)および(ii)90位へのセリン(S)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0057】
(I)(i)87位へのグルタミン(Q)および(ii)90位へのセリン(S)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0058】
(J)(i)89位へのチロシン(Y)および(ii)90位へのセリン(S)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0059】
(K)(i)88位へのアスパラギン(N)および(ii)89位へのフェニルアラニン(F)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0060】
(L)(i)88位へのアスパラギン(N)および(ii)89位へのチロシン(Y)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0061】
(M)(i)90位へのセリン(S)および(ii)92位へのアラニン(A)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0062】
(N)(i)90位へのセリン(S)および(ii)94位へのアスパラギン(N)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0063】
(O)(i)90位へのセリン(S)および(ii)104位へのイソロイシン(I)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0064】
(P)(i)88位へのアスパラギン酸(D)および(ii)105位へのリシン(K)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0065】
(Q)(i)88位へのアスパラギン(N)および(ii)126位へのアルギニン(R)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1または2個含むことができる。各モノマー中に両方の置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0066】
(R)(i)88位へのアスパラギン(N)、(ii)90位へのグルタミン(Q)および(iii)91位へのアルギニン(R)の1つまたは複数。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。各モノマー中に3つ全てのこれら置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0067】
(S)(i)88位へのアスパラギン(N)、(ii)90位へのグルタミン(Q)および(iii)91位へのセリン(S)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。各モノマー中に3つ全てのこれら置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0068】
(T)(i)88位へのアスパラギン(N)、(ii)90位へのグルタミン(Q)および(iii)105位へのバリン(V)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。各モノマー中に3つ全てのこれら置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0069】
(U)(i)90位へのグルタミン(Q)、(ii)93位へのセリン(S)および(iii)105位へのアライン(alaine)(A)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。各モノマー中に3つ全てのこれら置換を含むホモ八量体の細孔の利点を以下の表2に示す。
【0070】
(V)(i)90位へのフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)、(ii)91位へのフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)および(iii)105位へのフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。これらの嵩高い芳香族残基の導入は、細孔の入口部および/または狭搾部における立体性およびπスタッキングを増大させる。それらは、入口部および/または狭搾部のサイズも増大させる(すなわち、細孔を広げる)。
【0071】
(W)(i)90位へのセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)もしくはバリン(V)、(ii)91位へのセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)もしくはバリン(V)および(iii)105位へのセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)もしくはバリン(V)の1つまたは複数の導入。バリアントは、これら置換を1、2または3個含むことができる。小さい残基の導入は、細孔の入口部および/または狭搾部における立体性を減少させる。
【0072】
(X)90位へのセリン(S)、アルギニン(R)、リシン(K)もしくはヒスチジン(H)および/または91位へのセリン(S)、アルギニン(R)、リシン(K)もしくはヒスチジン(H)の導入。陽性電荷残基(R、KまたはH)の導入は、細孔の狭搾部と核酸配列との相互作用を高める。
【0073】
(Y)90位へのセリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)および/または91位へのセリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)の導入。これら残基の導入は、細孔の狭搾部と核酸配列との間で起こる水素結合を強める。それらは、入口部および/または狭搾部のサイズも増大させる(すなわち、細孔を広げる)。
【0074】
(Z)90、91および103位の1つまたは複数へのシステインの導入。これにより、化学基はシステイン結合を介して細孔に付着できるようになる。これについては、上および下に詳述されている。
【0075】
好ましいバリアントには、それだけには限らないが、以下の置換(複数可)の少なくとも1つを含むものがある。L88N;L88S;L88Q;L88T;D90S;D90Q;D90Y;I105L;I105S;Q126R;G75S;G77S;G75S、G77S、L88NおよびQ126R;G75S、G77S、L88N、D90QおよびQ126R;D90QおよびQ126R;L88N、D90QおよびQ126R;L88SおよびD90Q;L88NおよびD90Q;E59R;G75Q;G75N;G75S;G75T;G77Q;G77N;G77S;G77T;I78L;S81N;T83N;N86S;N86T;I87F;I87V;I87L;L88N;L88S;L88Y;L88F;L88V;L88Q;L88T;I89F;I89V;I89L;N90S;N90Q;N90L;N90Y;N91S;N91Q;N91L;N91M;N91I;N91A;N91V;N91G;G92A;G92S;N93S;N93A;N93T;I94L;T95V;A96R;A96D;A96V;A96N;A96S;A96T;P97S;P98S;F99S;G100S;L101F;N102K;N102S;N102T;S103A;S103Q;S103N;S103G;S103T;V104I;I105Y;I105L;I105A;I105Q;I105N;I105S;I105T;T106F;T106I;T106V;T106S;N108P;N108S;D90QおよびI105A;D90SおよびG92S;L88TおよびD90S;I87QおよびD90S;I89YおよびD90S;L88NおよびI89F;L88NおよびI89Y;D90SおよびG92A;D90SおよびI94N;D90SおよびV104I;L88DおよびI105K;L88NおよびQ126R;L88N、D90QおよびD91R;L88N、D90QおよびD91S;L88N、D90QおよびI105V;D90Q、D93SおよびI105A;N91Y;N90YおよびN91G;N90GおよびN91Y;N90GおよびN91G;I05G;N90R;N91R;N90RおよびN91R;N90K;N91K;N90KおよびN91K;N90QおよびN91G;N90GおよびN91Q;N90QおよびN91Q;R118N;N91C;N90C;N90W;N91W;N90K;N91K;N90R;N91R;N90SおよびN91S;N90YおよびI105A;N90GおよびI105A;N90QおよびI105A;N90SおよびI105A;L88AおよびI105A;L88SおよびI105S;L88NおよびI105N;N90GおよびN93G;N90G;N93G;N90GおよびN91A;I105K;I105R;I105V;I105P;I105W;L88R;L88A;L88G;L88N;N90RおよびI105A;N90SおよびI105A;L88AおよびI105A;L88SおよびI105S;L88NおよびI105N;L88C;S103C;およびI105C..
【0076】
特に好ましいバリアントは、I105Nを含む。I105Nを含む変異体モノマーから構築される細孔は、およそ80%に上昇する残留電流を有する。異なるヌクレオチドに関連する電流の変化も増大する。これは、I105Nを含む変異体モノマーから構築される細孔の構造変化を反映している。したがってそのような細孔は、ヌクレオチドを識別する能力が改善されている。
【0077】
ホモ八量体の細孔において使用される際に好ましい単一変異体およびそれらの利点を以下の表1に示す。
【0079】
ホモ八量体の細孔において使用される際に好ましい多重変異体およびそれらの利点を以下の表2に示す。
【0081】
ホモ八量体の細孔において使用される際に最も好ましい変異体およびそれらの利点を以下の表3に示す。
【0083】
上述した特定の変異に加えて、バリアントは他の変異を含むことができる。好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列の全長にわたって、バリアントは、アミノ酸同一性に基づいて、その配列と少なくとも50%相同になる。より好ましくは、バリアントは、アミノ酸同一性に基づいて、全配列にわたって配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは、少なくとも95%、97%または99%相同であり得る。100以上(例えば125、150、175または200以上)の連続するアミノ酸区間にわたって、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、90%または95%)のアミノ酸同一性が存在し得る(「厳密な相同性(hard homology)」)。
【0084】
当技術分野において標準的な方法を使用して相同性を決定することができる。例えば、UWGCG Packageは、BESTFITプログラムを提供しており、これを使用して(例えば初期設定で使用して)相同性を算出できる(Devereux et al (1984) Nucleic Acids Research 12, 387〜395頁)。例えばAltschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290〜300頁;Altschul, S.F et al (1990) J Mol Biol 215:403〜10頁に記載のとおり、PILEUPおよびBLASTアルゴリズムを使用して、相同性を算出するまたは配列を整列させる(例えば等価な残基もしくは対応する配列を(通常は初期設定で)同定する)ことができる。
【0085】
BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)によって一般公開されている。このアルゴリズムは、最初にデータベース配列中の同じ長さのワードと整列したときに、いくつかの正の値の閾値スコアTと一致するまたはそれを満たすクエリー配列中にある長さWの短いワードを同定することによって、高スコアの配列対(HSP)の同定を行う。Tは、近傍ワードスコア閾値と呼ばれている(上記のAltschulら)。これら最初の近傍ワードヒットは、それを含有するHSPを見出す検索を開始するためのシードとして機能する。ワードヒットは、累積整列化スコアが増加し得る限り各配列に沿って両方向に広げられる。ワードヒットの各方向への拡張は、次の場合に停止する:累積整列化スコアが、その最大到達値から量Xだけ低下する場合;1つもしくは複数の負にスコアされる残基の整列化が蓄積することにより累積スコアが0以下になる場合、または配列のいずれかの末端に達する場合。BLASTアルゴリズムのパラメータW、TおよびXにより、整列化の感度および速度が決まる。BLASTプログラムは、初期設定としてワード長(W)11、BLOSUM62スコア行列(Henikoff and Henikoff (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915〜10919頁を参照のこと)、整列化(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、および両鎖の比較を使用する。
【0086】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析を実行する;例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873〜5787頁を参照のこと。BLASTアルゴリズムによって得られる類似性の1つの基準は、最小合計確率(P(N))であり、2つのアミノ酸配列の一致が偶然に起こり得る確率の指標が得られる。例えば第1配列と第2配列との比較において、最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満および最も好ましくは約0.001未満である場合、ある配列は別の配列に類似していると見なされる。
【0087】
配列番号2は、MspAモノマーのNNN−RRK変異体である。バリアントは、MspAと比較して、MspB、CまたはDモノマー中にどんな変異も含むことができる。MspB、CおよびDの成熟形態を、配列番号16〜18に示す。具体的には、バリアントは、MspBに存在する以下の置換を含むことができる:A138P。バリアントは、MspCに存在する以下の置換の1つまたは複数を含むことができる:A96G、N102EおよびA138P。バリアントは、MspDに存在する以下の変異の1つまたは複数を含むことができる:G1、L2V、E5Q、L8V、D13G、W21A、D22E、K47T、I49H、I68V、D91G、A96Q、N102D、S103T、V104I、S136KおよびG141Aの欠失。バリアントは、MspB、CおよびDに由来する1つまたは複数の変異と置換の組合せを含むことができる。
【0088】
上述のものに加えて、配列番号2のアミノ酸配列に対して、例えば1、2、3、4、5、10、20または30個までアミノ酸置換を行うことができる。保存的置換は、アミノ酸を類似の化学的構造、類似の化学的特性または類似の側鎖容積の他のアミノ酸と置きかえる。導入されるアミノ酸は、それと置きかわるアミノ酸と類似の極性、親水性、疎水性、塩基性度、酸性度、中性度または電荷を有することができる。あるいは、保存的置換は、予め芳香族または脂肪族アミノ酸が存在している場所に芳香族または脂肪族である別のアミノ酸を導入することができる。保存的なアミノ酸変化は当技術分野において周知であり、以下の表4で定義される20種の主要なアミノ酸の特性に従って選択できる。アミノ酸が類似の極性を有する場合、表5にあるアミノ酸側鎖についてのハイドロパシー尺度を参照することによって、これを決定することもできる。
【0091】
配列番号2のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基を、上記のポリペプチドからさらに欠失させることができる。1、2、3、4、5、10、20または30個までの残基を欠失させることができ、それ以上でもよい。
【0092】
バリアントは、配列番号2の断片を含むことができる。そのような断片は、細孔形成活性を保持している。断片は、少なくとも長さ50、100、150または200アミノ酸であってよい。そのような断片を使用して、本発明の細孔を作製することができる。断片は、好ましくは配列番号2の細孔形成ドメインを含む。断片は、配列番号2の残基88、90、91、105、118および134のうちの1つを含まなければならない。通常、断片は、配列番号2の残基88、90、91、105、118および134の全てを含む。
【0093】
あるいはまたはさらに、1つまたは複数のアミノ酸を、上記のポリペプチドに付加することができる。伸長は、配列番号2のアミノ酸配列またはそのポリペプチドバリアントもしくは断片のアミノ末端もしくはカルボキシ末端に形成され得る。伸長は、例えば長さ1〜10アミノ酸と非常に短くてよい。あるいは、伸長は、例えば50または100アミノ酸まで長くてもよい。本発明によるアミノ酸配列に担体タンパク質を融合させてもよい。他の融合タンパク質については、以下で詳述している。バリアントは、配列番号2のアミノ末端にメチオニンを有する場合がある。
【0094】
上述のとおり、バリアントは、配列番号2とは異なるアミノ酸配列を有するが、細孔形成能を保持しているポリペプチドである。バリアントは通常、細孔形成に関与する配列番号2の領域を含有する。Msp(β−バレルを含有する)の細孔形成能は、各サブユニット中にあるβ−シートによってもたらされる。配列番号2のバリアントは通常、β−シートを形成する配列番号2の領域を含む。得られたバリアントが細孔形成能を保持する限り、β−シートを形成する配列番号2の領域に1つまたは複数の修飾を作ることができる。配列番号2のバリアントは、そのα−へリックスおよび/またはループ領域内に、好ましくは1つまたは複数の修飾(置換、付加または欠失など)を含む。
【0095】
変異体モノマーを修飾して、例えばヒスチジン残基(Hisタグ)、アスパラギン酸残基(Aspタグ)、ストレプトアビジンタグもしくはフラグタグを付加することによって、またはポリペプチドがシグナル配列を天然に内包しない場合には、細胞からの分泌を促進するためにそのような配列を付加することによって、変異体モノマーの同定または精製を補助することができる。遺伝学的タグを導入するための別の手段は、細孔上の天然のまたは工作された位置にタグを化学的に反応させることである。この例は、細孔の外側に工作されたシステインに対してゲルシフト試薬を反応させることである。これは、溶血素ヘテロオリゴマーを分離する方法として実証されている(Chem Biol. 1997 Jul;4(7):497〜505頁)。
【0096】
変異体モノマーを、明示用標識で標識することができる。明示用標識は、細孔を検出できるようにするどんな適切な標識であってもよい。適切な標識には、それだけには限らないが、蛍光分子、放射性同位元素(例えば
125I、
35S)、酵素、抗体、抗原、ポリヌクレオチドおよびビオチンなどのリガンドがある。
【0097】
変異体モノマーは、合成または組換え手段によって作成され得る。例えば、細孔は、in vitro翻訳および転写(IVTT)によって合成され得る。変異体モノマーのアミノ酸配列を修飾して、非天然アミノ酸を含めるまたはモノマーの安定性を高めることができる。変異体モノマーを合成手段によって作製する場合、作製する間にそのようなアミノ酸を導入することができる。変異体モノマーは、合成または組換え作製の後に改変されてもよい。
【0098】
変異体モノマーは、D−アミノ酸を使用して作製されてもよい。例えば、変異体モノマーは、L−アミノ酸とD−アミノ酸の混合物を含んでもよい。これは、そのようなタンパク質またはペプチドを作製する際に当技術分野で常用されている。
【0099】
変異体モノマーは、ヌクレオチドの識別を促進するために1つまたは複数の特定の修飾を含有する。変異体モノマーは、細孔形成を妨げない限り、他の非特異的な修飾を含有してもよい。いくつかの非特異的な側鎖修飾が、当技術分野において公知であり、変異体モノマーの側鎖に作ることができる。そのような修飾には、例えば、アルデヒドと反応させ続いてNaBH
4を用いて還元することによるアミノ酸の還元的アルキル化、メチルアセトイミデートを用いるアミジン化または無水酢酸を用いるアシル化がある。
【0100】
変異体モノマーは、当技術分野において公知の標準的な方法を使用して作製することができる。変異体モノマーをコードしているポリヌクレオチド配列は、当技術分野において標準的な方法を使用して生成し、複製できる。そのような配列については、以下に詳述する。変異体モノマーをコードしているポリヌクレオチド配列は、当技術分野において標準的な技術を使用して、細菌宿主細胞中で発現させることができる。変異体モノマーは、組換え発現ベクターからポリペプチドをin situ発現させることによって細胞中で作製できる。発現ベクターは場合によっては、ポリペプチドの発現を制御するための誘導性プロモータを持っている。
【0101】
細孔を生成する生物から任意のタンパク質液体クロマトグラフィーシステムによって精製した後に、または後述するように組換え発現した後に、変異体モノマーを大規模に作製することができる。典型的なタンパク質液体クロマトグラフィーシステムには、FPLC、AKTAシステム、Bio−Cadシステム、Bio−Rad BioLogicシステムおよびGilson HPLCシステムがある。次いで変異体モノマーを、本発明に従って使用する天然に存在するまたは人工的な膜へと挿入することができる。膜に細孔を挿入する方法については後述する。
【0102】
いくつかの実施形態において、変異体モノマーは化学修飾されている。変異体モノマーは、任意の方法で任意の部位で化学修飾できる。好ましくは、変異体モノマーは、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着(システイン結合)、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着、エピトープの酵素修飾または末端の修飾によって化学修飾されている。そのような修飾を実施する適切な方法は、当技術分野において周知である。変異体モノマーは、任意の分子の付着によって化学修飾され得る。例えば、変異体モノマーは、色素または発蛍光団の付着によって化学修飾することができる。
【0103】
いくつかの実施形態において、変異体モノマーは、モノマーを含む細孔と標的ヌクレオチドまたは標的核酸配列との相互作用を促進する分子アダプターで化学修飾されている。アダプターが存在することにより、細孔とヌクレオチドまたは核酸配列とのホスト−ゲスト化学が改善され、それによって変異体モノマーから形成される細孔の配列決定能が改善される。ホスト−ゲスト化学の原理は、当技術分野において周知である。アダプターは、ヌクレオチドまたは核酸配列との相互作用を改善する、細孔の物理的もしくは化学的特性に対して効果がある。アダプターは、細孔のバレルもしくはチャネルの電荷を改変することができ、またはヌクレオチドもしくは核酸配列と特異的に相互作用するもしくは結合することができ、それによって細孔との相互作用が促進される。
【0104】
好ましくは、分子アダプターは、環状分子、シクロデキストリン、ハイブリダイゼーションできる種、DNA結合剤もしくは相互キレート剤(interchelator)、ペプチドもしくはペプチド類似体、合成ポリマー、芳香族平面分子、正電荷小分子または水素結合が可能な小分子である。
【0105】
アダプターは環状であってよい。好ましくは、環状アダプターは細孔と同じ対称性を有する。通常Mspは中心軸の周りに8個のサブユニットを有するので、アダプターは、好ましくは8倍の対称性を有する。これについては、以下で詳述する。
【0106】
アダプターは通常、ホスト−ゲスト化学によってヌクレオチドまたは核酸配列と相互作用する。アダプターは通常、ヌクレオチドまたは核酸配列と相互作用できる。アダプターは、ヌクレオチドまたは核酸配列と相互作用できる1つまたは複数の化学基を含む。好ましくは、1つまたは複数の化学基は、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、π−陽イオン相互作用および/または静電力など非共有結合性相互作用によってヌクレオチドもしくは核酸配列と相互作用する。好ましくは、ヌクレオチドまたは核酸配列と相互作用できる1つまたは複数の化学基は正に荷電している。より好ましくは、ヌクレオチドまたは核酸配列と相互作用できる1つまたは複数の化学基はアミノ基を含む。アミノ基は、第一、第二または第三炭素原子に付着することができる。さらにより好ましくは、アダプターは、6、7または8アミノ基の環などのアミノ基の環を含む。最も好ましくは、アダプターは、8アミノ基の環を含む。プロトン化したアミノ基の環は、ヌクレオチドまたは核酸配列中にある負に荷電したリン酸基と相互作用することができる。
【0107】
細孔内部におけるアダプターの正しい位置決めは、アダプターと変異体モノマーを含む細孔とのホスト−ゲスト化学によって促進され得る。好ましくは、アダプターは、細孔中にある1つまたは複数のアミノ酸と相互作用可能な1つまたは複数の化学基を含む。より好ましくは、アダプターは、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、π−陽イオン相互作用および/または静電力など非共有結合性相互作用によって細孔中にある1つまたは複数のアミノ酸と相互作用可能な1つまたは複数の化学基を含む。細孔中にある1つまたは複数のアミノ酸と相互作用可能な化学基は、通常、ヒドロキシルまたはアミンである。ヒドロキシル基は、第一、第二または第三炭素原子に付着することができる。ヒドロキシル基は、細孔中の荷電していないアミノ酸と水素結合を形成することができる。細孔とヌクレオチドまたは核酸配列との相互作用を促進するどんなアダプターも使用することができる。
【0108】
適切なアダプターには、それだけには限らないが、シクロデキストリン、環状ペプチドおよびククルビツリルがある。好ましくは、アダプターは、シクロデキストリンまたはその誘導体である。シクロデキストリンまたはその誘導体は、Eliseev, A. V., and Schneider, H-J. (1994) J. Am. Chem. Soc. 116, 6081〜6088頁に開示されているもののいずれかである。より好ましくは、アダプターは、ヘプタキス−6−アミノ−β−シクロデキストリン(am
7−βCD)、6−モノデオキシ−6−モノアミノ−β−シクロデキストリン(am
1−βCD)またはヘプタキス−(6−デオキシ−6−グアニジノ)−シクロデキストリン(gu
7−βCD)である。gu
7−βCD中のグアニジノ基は、am
7−βCD中の1級アミンよりかなり高いpKaを有し、したがってより強く正に荷電している。このgu
7−βCDアダプターを使用して、細孔中にあるヌクレオチドの滞留時間を高め、測定される残留電流の精度を高め、高温または低いデータ収集速度における塩基検出速度を高めることができる。
【0109】
スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)架橋剤を以下に詳述するように使用する場合、好ましくは、アダプターはヘプタキス(6−デオキシ−6−アミノ)−6−N−モノ(2−ピリジル)ジチオプロパノイル−β−シクロデキストリン(am
6amPDP
1−βCD)である。
【0110】
より適切なアダプターは、8個の糖単位を含むγ−シクロデキストリンを含む(したがって、8倍の対称性を有する)。γ−シクロデキストリンは、リンカー分子を含有することができ、または修飾されて、上記のβ−シクロデキストリンの例において使用した修飾された糖単位を全てもしくはそれ以上に含むことができる。
【0111】
好ましくは、分子アダプターは、変異体モノマーに共有結合している。アダプターは、当技術分野において公知の任意の方法を使用して細孔に共有結合できる。アダプターは通常、化学的結合によって付着している。分子アダプターがシステイン結合によって付着している場合、好ましくは、1つまたは複数のシステインが置換によって変異体に導入されている。本発明の変異体モノマーは当然ながら、88、90、91、103および105位の1つまたは複数にシステイン残基を含むことができる。変異体モノマーは、1つまたは複数(2、3、4もしくは5個など)のこれらシステインに分子アダプターを付着させることによって化学修飾できる。あるいは、変異体モノマーは、他の位置に導入した1つまたは複数のシステインに対する分子の付着によって化学修飾されてもよい。好ましくは、分子アダプターは、配列番号2の90、91および103位の1つまたは複数に付着している。
【0112】
システイン残基の反応性は、付近の残基を修飾することによって増強できる。例えば、隣接するアルギニン、ヒスチジンまたはリシン残基の塩基性基は、システインチオール基のpKaをより反応性の高いS
−基に変化させることがある。システイン残基の反応性は、dTNBなどのチオール保護基によって保護できる。これらを、変異体モノマーの1つまたは複数のシステイン残基と反応させて、その後にリンカーを付着させることができる。分子は、変異体モノマーに直接付着することができる。好ましくは、分子は、化学的架橋剤またはペプチドリンカーなどのリンカーを使用して変異体モノマーに付着する。
【0113】
適切な化学的架橋剤は、当技術分野において周知である。好ましい架橋剤には、2,5−ジオキソピロリジン−1−イル3−(ピリジン−2−イルジスルファニル)プロパン酸、2,5−ジオキソピロリジン−1−イル4−(ピリジン−2−イルジスルファニル)ブタン酸および2,5−ジオキソピロリジン−1−イル8−(ピリジン−2−イルジスルファニル)オクタナノエート(octananoate)がある。最も好ましい架橋剤は、スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)である。通常は、分子を二官能性架橋剤に共有結合させた後に分子/架橋剤複合体を変異体モノマーに共有結合させるが、モノマーに二官能性架橋剤を共有結合させた後に二官能性架橋剤/モノマー複合体を分子に付着させることも可能である。
【0114】
好ましくは、リンカーはジチオスレイトール(DTT)に耐性がある。適切なリンカーには、それだけには限らないが、ヨードアセトアミド系およびマレイミド系リンカーがある。
【0115】
他の実施形態において、モノマーは、核酸結合タンパク質に付着することができる。これは、本発明の配列決定法において使用できるモジュラ配列決定システムを形成する。核酸結合タンパク質については、以下に記載する。
【0116】
好ましくは、核酸結合タンパク質は、変異体モノマーに共有結合している。タンパク質は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して細孔に共有結合され得る。モノマーとタンパク質は、化学的に融合されるかまたは遺伝学的に融合され得る。構築物全体が単一のポリヌクレオチド配列から発現される場合、モノマーとタンパク質は遺伝学的に融合されている。核酸結合タンパク質と細孔との遺伝子融合については、国際出願番号PCT/GB09/001679(WO2010/004265として公開)に記述されている。
【0117】
核酸結合タンパク質が、システイン結合によって付着している場合、好ましくは1つまたは複数のシステインが置換によって変異体に導入されている。本発明の変異体モノマーは当然ながら、10〜15、51〜60、136〜139および168〜172位の1つまたは複数にシステイン残基を含むことができる。これらの位置は、相同物の間で保存性が低いループ領域に存在しており、変異または挿入を許容できることを示している。したがってそれらは、核酸結合タンパク質を付着するには適している。システイン残基の反応性は、上述のような修飾によって増強できる。
【0118】
核酸結合タンパク質は、変異体モノマーに直接、または1つまたは複数のリンカーを介して付着することができる。分子は、国際出願番号PCT/GB10/000132(WO2010/086602として公開)に記載されているハイブリダイゼーションリンカーを使用して、変異体モノマーに付着させることができる。あるいは、ペプチドリンカーが使用されてよい。ペプチドリンカーは、アミノ酸配列である。ペプチドリンカーの長さ、柔軟性および親水性は通常、モノマーおよび分子の機能を妨げないように設計される。好ましい柔軟性があるペプチドリンカーは、2〜20個(例えば4、6、8、10または16個)の一続きのセリンおよび/またはグリシンアミノ酸である。より好ましい柔軟性があるリンカーには(SG)
1、(SG)
2、(SG)
3、(SG)
4、(SG)
5および(SG)
8があり、ここでSはセリン、Gはグリシンである。好ましい剛直なリンカーは、2〜30個(例えば4、6、8、16または24個)の一続きのプロリンアミノ酸である。より好ましい剛直なリンカーには、(P)
12があり、ここでPはプロリンである。
【0119】
変異体モノマーは、分子アダプターおよび核酸結合タンパク質を用いて化学修飾されてよい。
【0120】
構築物
本発明は、Mspから得られる共有結合したモノマーを2個以上含む構築物も提供する。本発明の構築物は、細孔形成能を保持している。本発明の1つまたは複数の構築物を使用して、配列決定など、核酸配列を特徴付けるための細孔を形成することができる。構築物は、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のモノマーを含むことができる。2個以上のモノマーは、同じでも異なっていてもよい。
【0121】
モノマーは、本発明の変異体モノマーである必要はない。例えば、少なくとも1つのモノマーが、配列番号2に示される配列を含んでいてもよい。あるいは、少なくとも1つのモノマーは、アミノ酸同一性に基づいて、配列番号2と全配列にわたって少なくとも50%相同である配列番号2のバリアントを含むことができるが、本発明の変異体モノマーに必要とされるいずれの特定の変異も含まない。より好ましくは、バリアントは、アミノ酸同一性に基づいて、配列番号2のアミノ酸配列と全配列にわたって少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは、少なくとも95%、97%または99%相同であり得る。好ましい実施形態において、構築物中の少なくとも1つのモノマーは、本発明の変異体モノマーである。構築物中のモノマーの全てが、本発明の変異体モノマーであってもよい。変異体モノマーは、同じでも異なっていてもよい。より好ましい実施形態において、構築物は2つのモノマーを含み、そのモノマーのうち少なくとも1つは本発明の変異体モノマーである。
【0122】
好ましくは、モノマーは遺伝学的に融合されている。構築物全体が単一のポリヌクレオチド配列から発現される場合、モノマーは遺伝学的に融合されている。モノマーのコード配列を任意の方法で結合して、構築物をコードしている単一のポリヌクレオチド配列を形成することができる。
【0123】
モノマーは、任意の構成で遺伝学的に融合されてよい。モノマーは、その末端アミノ酸によって融合されてよい。例えば、1個のモノマーのアミノ末端を、別のモノマーのカルボキシ末端に融合することができる。構築物が、配列番号2に示す配列またはそのバリアントを各々含む2個以上のモノマーの遺伝子融合から形成される場合、構築物中で2番目のおよび(アミノからカルボキシの方向で)その後にあるモノマーは、そのアミノ末端にメチオニンを含むことができる(各アミノ末端は前にあるモノマーのカルボキシ末端に融合される)。例えば、Mが(アミノ末端メチオニンを持たない)配列番号2に示される配列またはバリアントを含むモノマーであり、mMがアミノ末端メチオニンを持つ配列番号2に示される配列またはバリアントを含むモノマーである場合、その構築物は配列M−mM、M−mM−mMまたはM−mM−mM−mMを含むことができる。これらのメチオニンの存在は通常、構築物全体をコードしているポリヌクレオチド中で2番目またはその後のモノマーをコードしているポリヌクレオチドの5’末端におけるスタートコドン(すなわちATG)の発現に由来している。構築物中の1番目のモノマー(アミノからカルボキシの方向で)が、メチオニンを含んでもよい(例えばmM−mM、mM−mM−mMまたはmM−mM−mM−mM)。
【0124】
2個以上のモノマーが、直接一緒に遺伝学的に融合されてよい。好ましくは、モノマーは、リンカーを使用して遺伝学的に融合される。リンカーは、モノマーの可動性を限定するように設計することができる。好ましいリンカーは、アミノ酸配列(すなわちペプチドリンカー)である。上述したペプチドリンカーのいずれかが使用される。好ましくは、構築物は、配列番号29で示される配列またはそのバリアントを含む。配列番号29中の各モノマーは、配列番号2に示す配列またはそのバリアントを含む。2番目のモノマーも、上記のとおり、そのアミノ末端にメチオニンを含む。2個のモノマーは、ペプチドリンカーによって連結されている。配列番号29のバリアントは、配列番号2のバリアントを参照して、上述した方法のいずれかで、配列番号29と異なることができる。リンカーは、修飾することもまたは上述のペプチドリンカーと置きかえることもできる。
【0125】
別の好ましい実施形態において、モノマーは化学的に融合される。2つの部分が化学的に、例えば化学的架橋剤によって付着している場合、サブユニットは酵素に化学的に融合される。上述の化学的架橋剤のいずれかを使用することができる。リンカーは、本発明の変異体モノマーに導入された1つまたは複数のシステイン残基に付着することができる。あるいは、リンカーは、構築物中のモノマーのうちの一方の末端に付着することができる。
【0126】
構築物が異なるモノマーを含有する場合、リンカー濃度をモノマーより大過剰に保つことによって、モノマーとそれ自身との架橋反応を防止することができる。あるいは、2つのリンカーが使用される「鍵−鍵穴」構成を使用することができる。各リンカーの一方の端だけが一緒に反応して長いリンカーを形成することができ、リンカーの他方の端は各々異なるモノマーと反応する。そのようなリンカーは、国際出願番号PCT/GB10/000132(WO2010/086602として公開)に記載されている。
【0127】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明の変異体モノマーをコードするポリヌクレオチド配列も提供する。変異体モノマーは、上述したもののいずれであってもよい。好ましくは、ポリヌクレオチド配列は、ヌクレオチド同一性に基づいて、配列番号1の配列と全配列にわたって少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%相同である配列を含む。300以上(例えば375、450、525または600以上)の連続するヌクレオチド区間にわたって、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、90%または95%)のヌクレオチド同一性が存在し得る(「厳密な相同性」)。相同性は、上記のとおり算出され得る。ポリヌクレオチド配列は、遺伝暗号の縮重に基づいて配列番号1と異なる配列を含むことができる。
【0128】
本発明は、本発明の遺伝学的に融合された構築物のいずれかをコードするポリヌクレオチド配列も提供する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、上記のとおり配列番号1で示される配列またはそのバリアントを2個以上含む。好ましくは、ポリヌクレオチド配列は、配列番号28を含む、またはヌクレオチド同一性に基づいて、配列番号28の配列と全配列にわたって少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%相同である配列を含む。600以上(例えば750、900、1050または1200以上)の連続するヌクレオチド区間にわたって、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、90%または95%)のヌクレオチド同一性が存在し得る(「厳密な相同性」)。相同性は、上記のとおりに算出され得る。ポリヌクレオチド配列は、遺伝暗号の縮重に基づいて配列番号28と異なる配列を含むことができる。
【0129】
ポリヌクレオチド配列は、当技術分野において標準的な方法を使用して生成され、複製されることができる。野生型Mspをコードしている染色体DNAは、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)など、細孔を生成する生物から抽出できる。細孔サブユニットをコードしている遺伝子は、特異的なプライマーを含むPCRを使用して増幅できる。次いで、増幅した配列は部位特異的突然変異誘発を受けることができる。部位特異的突然変異誘発の適切な方法は、当技術分野において公知であり、例えば、組合せ連鎖反応(combine chain reaction)を含む。本発明の構築物をコードしているポリヌクレオチドは、Sambrook, J. and Russell, D. (2001). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYに記載の技術など、周知の技術を使用して作成できる。
【0130】
次いで、得られたポリヌクレオチド配列を、クローニングベクターなど組換え複製可能なベクターに組み込むことができる。そのベクターを使用して、適合宿主細胞の中でポリヌクレオチドを複製することができる。したがって、ポリヌクレオチド配列は、複製可能なベクターにポリヌクレオチドを導入し、適合宿主細胞にベクターを導入し、ベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させることによって、作ることができる。ベクターは、宿主細胞から回収できる。ポリヌクレオチドのクローニングに適切な宿主細胞は、当技術分野において公知であり、以下で詳しく記載する。
【0131】
ポリヌクレオチド配列は、適切な発現ベクターにクローニングされ得る。発現ベクターにおいて、ポリヌクレオチド配列は通常、宿主細胞によるコード配列の発現を得ることができる制御配列に作動的に連結されている。そのような発現ベクターを使用して、細孔サブユニットを発現させることができる。
【0132】
用語「作動的に連結された」は、並置を意味しており、記述した成分が意図する方式で機能できるような関係である。コード配列に対して「作動的に連結された」制御配列は、制御配列に適合する条件のもとでコード配列の発現が得られるような方法でライゲーションされる。同じまたは異なっているポリヌクレオチド配列の複数のコピーを、ベクターに導入することができる。
【0133】
発現ベクターは次いで、適切な宿主細胞に導入され得る。したがって、本発明の変異体モノマーまたは構築物は、発現ベクターにポリヌクレオチド配列を挿入し、適合細菌宿主細胞にベクターを導入し、ポリヌクレオチド配列の発現をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させることによって作製できる。組換え発現させたモノマーまたは構築物は、宿主細胞膜の中で細孔へと自己組織化することができる。あるいは、この方式で作製した組換え細孔を宿主細胞から取り出し、別の膜に挿入することもできる。少なくとも2つの異なるサブユニットを含む細孔を作製する場合、上記のとおり異なるサブユニットを異なる宿主細胞中で別々に発現させ、宿主細胞から取り出し、ウサギ細胞膜など別の膜の中で細孔へと組織化することができる。
【0134】
ベクターは例えば、複製起点、場合によっては前記ポリヌクレオチド配列を発現するためのプロモータおよび場合によってはプロモータの調節因子を備えているプラスミド、ウイルスまたはファージベクターであってよい。ベクターは、1つまたは複数の選択可能なマーカー遺伝子(例えばテトラサイクリン耐性遺伝子)を含有することができる。プロモータおよび他の発現調節シグナルは宿主細胞と適合するように選択され、それ用として発現ベクターを設計することができる。通常、T7、trc、lac、araまたはλ
Lプロモータが使用される。
【0135】
宿主細胞は通常、細孔サブユニットを高レベルで発現する。ポリヌクレオチド配列を用いて形質転換した宿主細胞は、細胞を形質転換するために使用した発現ベクターに適合するように選ばれることになる。宿主細胞は、通常は細菌であり、好ましくは大腸菌(Escherichia coli)である。λDE3溶原菌を持つ任意の細胞、例えばC41(DE3)、BL21(DE3)、JM109(DE3)、B834(DE3)、TUNER、OrigamiおよびOrigamiBが、T7プロモータを含むベクターを発現することができる。上に列挙した条件に加えて、Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Dec 30;105(52):20647〜52頁に引用されている方法のいずれかを使用して、Mspタンパク質を発現することができる。
【0136】
細孔
本発明は、様々な細孔も提供する。本発明の細孔は、異なるヌクレオチドを高感度で識別することができるので、配列決定など、核酸配列を特徴付けるには理想的である。驚くべきことに、細孔は、DNAおよびRNA中の4種のヌクレオチドを区別することができる。本発明の細孔は、メチル化および非メチル化ヌクレオチドを区別することさえ可能である。本発明の細孔の塩基分解能は驚くほど高い。細孔は、4種のDNAヌクレオチド全てをほぼ完全に分離する。さらに、細孔は、細孔中での滞留時間および細孔を通る電流の流れに基づいて、デオキシシチジンモノリン酸(dCMP)とメチルdCMPとを識別する。
【0137】
本発明の細孔は、様々な条件下で異なるヌクレオチドを識別することもできる。具体的には、細孔は、配列決定など、核酸の特徴付けに有利な条件下でヌクレオチドを識別することができる。印加電位、塩濃度、緩衝液、温度および添加物(尿素、ベタインおよびDTTなど)の存在を変更することによって、本発明の細孔が異なるヌクレオチドを識別できる程度を制御することができる。これによって、特に配列決定のときに、細孔の機能を微調整できるようになる。これについては、以下で詳述する。本発明の細孔を使用して、ヌクレオチド塩基毎ではなく、1つまたは複数のモノマーとの相互作用から核酸ポリマーを同定することもできる。
【0138】
本発明の細孔は、単離される、実質的に単離される、精製されるまたは実質的に精製されることができる。本発明の細孔が、脂質または他の細孔など他のいかなる成分も全く含まない場合、それは単離または精製されている。細孔が、意図する使用法に干渉することのない担体または希釈剤と混合されている場合、それは実質的に単離されている。例えば、細孔が、脂質もしくは他の細孔など他の成分を10%未満、5%未満、2%未満または1%未満含む形態で存在している場合、それは実質的に単離または実質的に精製されている。あるいは、本発明の細孔は、脂質二重層中に存在することができる。
【0139】
本発明の細孔は、個別のまたは単一の細孔として存在することができる。あるいは、本発明の細孔は、2個以上の細孔の同種または異種集団で存在することができる。
【0140】
ホモオリゴマー細孔
本発明は、本発明の同一の変異体モノマーを含むMspから得られるホモオリゴマー細孔も提供する。好ましくは、ホモオリゴマー細孔は、表1、2および3に示した変異体の1つを含む。本発明のホモオリゴマー細孔は、配列決定など、核酸を特徴付けるには理想的である。本発明のホモオリゴマー細孔は、上述した利点のいずれかを有することができる。本発明の特異的なホモオリゴマー細孔の利点を、表1、2および3に示す。
【0141】
ホモオリゴマー細孔は、任意の数の変異体モノマーを含有することができる。細孔は通常、7、8、9または10個の同一の変異体モノマーを含む。好ましくは、細孔は、8個の同一の変異体モノマーを含む。好ましくは、1つまたは複数(例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10個)の変異体モノマーが、上述のとおり化学修飾されている。
【0142】
細孔を作る方法については、以下で詳述する。
【0143】
ヘテロオリゴマー細孔
本発明は、本発明の変異体モノマーを少なくとも1つ含み、全8個のモノマーのうちの少なくとも1つが他と異なっている、Mspから得られるヘテロオリゴマー細孔も提供する。本発明のヘテロオリゴマー細孔は、配列決定など、核酸を特徴付けるには理想的である。ヘテロオリゴマー細孔は、当技術分野において公知の方法(例えばProtein Sci. 2002 Jul;11(7):1813〜24頁)を使用して作成できる。
【0144】
ヘテロオリゴマー細孔は、細孔を形成するのに十分なモノマーを含有する。モノマーは、どんなタイプであってもよい。細孔は通常、7、8、9または10個のモノマーを含む。好ましくは、細孔は、8個のモノマーを含む。
【0145】
細孔は、(a)配列番号2に示される配列または(b)本発明の変異体モノマーに必要とされる変異を持たないそのバリアント、を含めた少なくとも1つのモノマーを含むことができる。適切なバリアントについては上述している。この実施形態において、好ましくは、残りのモノマーは本発明の変異体モノマーである。したがって、細孔は、本発明の変異体モノマーを9、8、7、6、5、4、3、2または1個含むことができる。
【0146】
好ましい実施形態において、細孔は(a)1個の変異体モノマーおよび(b)7個の同一のモノマーを含み、(a)の変異体モノマーは、(b)の同一のモノマーとは異なっている。好ましくは、(b)の同一のモノマーは、(i)配列番号2に示される配列または(ii)本発明の変異体モノマーに存在する変異を持たないそのバリアントを含む。
【0147】
好ましい細孔は、それだけには限らないが、以下のいずれかを含む:
(a)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換N90R、N90K、N90Y、N90Q、N90WまたはN90Cを含む変異体モノマー1個。これらの細孔は、内部の狭搾部に導入された単一の立体性アミノ酸(YもしくはW)、単一の荷電アミノ酸(KもしくはR)または単一の反応性アミノ酸(C)を有する。
(b)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換N91R、N91K、N91Y、N91Q、N91WまたはN91Cを含む変異体モノマー1個。これらの細孔は、内部の狭搾部に導入された単一の立体性アミノ酸(YもしくはW)、単一の荷電アミノ酸(KもしくはR)または単一の反応性アミノ酸(C)を有する。
(c)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換L88C、S103CまたはI105Cを含む変異体モノマー1個。これらの細孔は、細孔に導入された反応性アミノ酸を有する。
【0148】
別の好ましい実施形態において、モノマーの全て(すなわち10、9、8または7個のモノマー)が、本発明の変異体モノマーであり、それらのうちの少なくとも1つが他と異なっている。より好ましい実施形態において、細孔は、8個の本発明の変異体モノマーを含み、それらのうちの少なくとも1つが他と異なっている。
【0149】
上述の実施形態の全てにおいて、好ましくは、1つまたは複数(例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10個)の変異体モノマーが、上述のとおり化学修飾されている。好ましくは、上記の好ましい細孔(a)〜(c)は、1つまたは複数の導入されたシステインに対して分子が付着することによって化学修飾されている。
【0150】
細孔を作る方法については、以下で詳述する。
【0151】
構築物を含む細孔
本発明は、本発明の構築物を少なくとも1つ含む細孔も提供する。本発明の構築物は、Mspから得られる共有結合したモノマーを2個以上含む。換言すれば、構築物は、2個以上のモノマーを含有しなければならない。細孔は、細孔を形成するのに十分な構築物および、必要に応じて、モノマーを含有する。例えば、八量体の細孔は、(a)4個のモノマーを各々含む2個の構築物または(b)2個のモノマーおよび構築物の部分を形成しない6個のモノマーを含む1個の構築物を含むことができる。細孔中のモノマーの少なくとも2つは、本発明の構築物の形態をしている。モノマーは、どんなタイプであってもよい。細孔は通常、合計で7、8、9または10個のモノマーを含む(そのうちの少なくとも2つは構築物中になければならない)。好ましくは、細孔は、8個のモノマーを含む(そのうちの少なくとも2つは構築物中になければならない)。
【0152】
細孔は通常、(a)2個のモノマーを含む1個の構築物と(b)5、6、7または8個のモノマーとを含む。構築物は、上述したもののいずれであってもよい。モノマーは、本発明の変異体モノマーを含めて、上述したもののいずれであってもよい。
【0153】
別の典型的な細孔は、本発明の構築物を2個以上(2、3または4個の本発明の構築物)含む。そのような細孔は、細孔を形成するのに十分なモノマーをさらに含む。モノマーは、上述したもののいずれであってもよい。本発明のさらなる細孔は、2個のモノマーを含む構築物だけを含み、例えば細孔は、2個のモノマーを含む4、5、6、7または8個の構築物から構成されてよい。本発明に記載の特定の細孔は、2個のモノマーを各々含む4個の構築物を含む。構築物は、1個の構築物のうちの1個のモノマーしか細孔のバレルまたは入口部に関与しないような構造を持つ細孔へとオリゴマー化することができる。通常、その構築物の他のモノマーは、細孔のバレルまたは入口部の外側になる。例えば、本発明の細孔は、2個のモノマーを含む5、6、7または8個の構築物を含むことができ、これらの構築物ではバレルまたは入口部は8個のモノマーを含む。
【0154】
上記のように、変異を構築物に導入することができる。変異は互い違いになっていてもよく、すなわち2個のモノマーを含む構築物の中でモノマー毎に変異が異なっており、その構築物がホモオリゴマーとなって組織化され、その結果互い違いの修飾になる。換言すれば、MutAとMutBを含むモノマーが融合され、組織化されてA−B:A−B:A−B:A−B細孔が形成される。あるいは、変異は隣接していてもよく、すなわち同一の変異が構築物中の2個のモノマーに導入され、次いでこれが異なる変異体モノマーとオリゴマー化される。換言すれば、MutAを含むモノマーが融合され、続いてMutB含有モノマーとオリゴマー化されることによって、A−A:B:B:B:B:B:Bが形成される。
【0155】
構築物を含有する細孔中の1つまたは複数の本発明のモノマーは、上述のように化学修飾されてよい。
【0156】
個々のヌクレオチドを同定する方法
本発明は、個々のヌクレオチドを特徴付ける方法も提供する。本方法は、ヌクレオチドが細孔と相互作用できるようにヌクレオチドを本発明の細孔と接触させるステップと、相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってヌクレオチドを特徴付けるステップとを含む。したがって本発明は、個々のヌクレオチドのナノ細孔検出を含む。本発明は、相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってヌクレオチドの同一性を決定するステップを含む、個々のヌクレオチドを同定する方法も提供する。本発明のいずれの細孔も使用することができる。好ましくは本発明の細孔は、上述の分子アダプターで化学修飾されている。
【0157】
電流が、ヌクレオチドに特異的な形で細孔を通って流れる場合(すなわちヌクレオチドと関連した特徴的な電流が、細孔を通って流れているのが検出される場合)、ヌクレオチドは存在している。電流が、ヌクレオチドに特異的な形で細孔を通って流れない場合、ヌクレオチドは存在しない。
【0158】
本発明を使用して、細孔を通る電流に影響する異なる効果に基づいて、類似構造のヌクレオチドを区別することができる。ヌクレオチドが細孔と相互作用するときの電流振幅から、個々のヌクレオチドを単一分子レベルで同定することができる。本発明を使用して、特定のヌクレオチドがサンプル中に存在するか否かを決定することもできる。本発明を使用して、サンプル中の特定のヌクレオチドの濃度を測定することもできる。
【0159】
本方法は、本発明の細孔が膜に挿入されている任意の適切な膜/細孔系を使用して実施することができる。本方法は通常、(i)本発明の細孔を含む人工膜、(ii)本発明の細孔を含む単離された天然に存在する膜、または(iii)本発明に従って修飾された細孔を発現している細胞を使用して実施される。好ましくは、本方法は人工膜を使用して実施される。膜は、本発明の細孔に加えて、他の膜貫通および/または膜内タンパク質ならびに他の分子を含むことができる。
【0160】
膜は、イオン、ヌクレオチドおよび核酸のフローに対する障壁を形成する。本発明に従って任意の膜を使用することができる。適切な膜は当技術分野において周知である。好ましくは、膜は両親媒性層である。両親媒性層とは、両親媒性分子(リン脂質など)から形成される層であり、親水性と親油性の両方の特性を有する。両親媒性物質は、合成または天然であってよい。両親媒性層は、単分子層または二重層であってよい。非天然の両親媒性物質および単分子層を形成する両親媒性物質は、当技術分野において公知であり、例えばブロックコポリマーがある(Gonzalez-Perez et al., Langmuir, 2009, 25, 10447〜10450頁)。
【0161】
膜は、脂質二重層であってよい。本発明に従った使用に適している脂質二重層は、当技術分野において公知の方法を使用して作ることができる。例えば、脂質二重層膜は、Montal and Mueller (1972)の方法を使用して形成することができる。脂質二重層は、国際出願番号PCT/GB08/000563に記載の方法を使用して形成することもできる。
【0162】
本発明の方法は、リン脂質、糖脂質、コレステロール、ミコール酸およびそれらの混合物を含むがこれに限らない任意の膜脂質から形成される脂質二重層を使用して実施できる。国際出願番号PCT/GB08/000563に記載のいずれの脂質も使用できる。
【0163】
別の好ましい実施形態において、膜は固体層である。固体層は、生物起源ではないものである。換言すれば、固体層は、生物もしくは細胞などの生物学的環境、または生物学的に利用可能な構造を合成的に製造した変形からは得られず、単離されない。固体層は、マイクロエレクトロニクス材料、絶縁材料(Si3N4、A1203およびSiOなど)、有機および無機ポリマー(例えば、ポリアミド、テフロン(登録商標)などのプラスチックまたは2成分付加硬化シリコーンゴムなどのエラストマ)、ならびにガラスを含むがこれに限らない有機および無機材料から形成することができる。固体層は、グラフェンなどの単原子層またはほんの数原子の厚さしかない層から形成することができる。適切なグラフェン層は、国際出願番号PCT/US2008/010637(WO2009/035647として公開)に開示されている。両親媒性層は、固体細孔を横切って形成できる。これは、混成細孔形成として当技術分野に記載され得る(Hall et al., Nat Nanotechnol., 2010, 5, 874〜877頁)。
【0164】
脂質二重層などの膜に細孔を挿入する方法は、当技術分野において公知である。例えば、細孔が脂質二重層に拡散し、脂質二重層に結合し機能状態へと組織化することによって挿入されるように、細孔を、脂質二重層を含有する溶液中に精製された形態で懸濁することができる。あるいは、M.A. Holden, H. Bayley. J. Am Chem. Soc. 2005, 127, 6502〜6503頁および国際出願番号PCT/GB2006/001057(WO2006/100484として公開)に記載の「ピックアンドプレース」法を使用して、細孔を膜に直接挿入することができる。
【0165】
本発明の方法は通常、in vitroで実施される。
【0166】
個々のヌクレオチド
個々のヌクレオチドは単一ヌクレオチドである。個々のヌクレオチドとは、ヌクレオチド結合によって別のヌクレオチドまたは核酸に結合していないものである。ヌクレオチド結合は、別のヌクレオチドの糖類に結合しているヌクレオチドのリン酸基のうちの1つを含む。個々のヌクレオチドとは、通常、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000または少なくとも5000ヌクレオチドの別の核酸配列に、ヌクレオチド結合によって結合していないものである。例えば、個々のヌクレオチドは、DNAまたはRNA鎖など標的ポリヌクレオチド配列から消化されている。
【0167】
本発明の方法を使用して、任意のヌクレオチドを同定することができる。ヌクレオチドは、天然または人工であってよい。ヌクレオチドは通常、核酸塩基、糖および少なくとも1つのリン酸基を含有する。核酸塩基は通常複素環である。適切な核酸塩基には、プリンおよびピリミジン、より具体的にはアデニン、グアニン、チミン、ウラシルおよびシトシンがある。糖は通常、ペントース糖である。適切な糖には、それだけには限らないが、リボースおよびデオキシリボースがある。ヌクレオチドは通常、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである。ヌクレオチドは通常、一リン酸塩、二リン酸塩または三リン酸塩を含有する。
【0168】
適切なヌクレオチドには、それだけには限らないが、アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、チミジン一リン酸(TMP)、チミジン二リン酸(TDP)、チミジン三リン酸(TTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、環状グアノシン一リン酸(cGMP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)、デオキシウリジン二リン酸(dUDP)、デオキシウリジン三リン酸(dUTP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン二リン酸(dCDP)およびデオキシシチジン三リン酸(dCTP)がある。好ましくは、ヌクレオチドは、AMP、TMP、GMP、UMP、dAMP、dTMP、dGMPまたはdCMPである。
【0169】
ヌクレオチドは、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸などの核酸配列の消化から得ることができる。核酸配列は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して消化できる。適切な方法には、それだけには限らないが、酵素または触媒を使用する方法がある。核酸の触媒消化については、Deck et al., Inorg. Chem., 2002; 41: 669〜677頁に開示されている。
【0170】
単一の核酸配列に由来する個々のヌクレオチドを、連続して細孔と接触させて、その核酸の全部または一部を配列決定することができる。核酸配列決定については、以下で詳述する。
【0171】
ヌクレオチドが核酸配列の消化から得られる場合、ヌクレオチドは通常修飾されていない。あるいは、ヌクレオチドが修飾または損傷を受けている場合がある。ヌクレオチドは通常、メチル化または酸化されている。ヌクレオチドを、明示用標識で標識することができる。明示用標識は、ヌクレオチドを検出できるようにするどんな適切な標識であってもよい。適切な標識には、蛍光分子、放射性同位元素(例えば
125I、
35S)およびビオチンなどのリンカーがある。
【0172】
ヌクレオチドは通常、任意の適切な生体サンプル中に存在している。適切な生体サンプルについては、上述している。
【0173】
細孔とヌクレオチドとの相互作用
膜のいずれかの面で、ヌクレオチドを細孔と接触させることができる。膜のいずれかの面で、ヌクレオチドを細孔に導入することができる。ヌクレオチドが膜の反対の面へと細孔を通れる膜の面と、ヌクレオチドを接触させることができる。例えば、ヌクレオチドを細孔の端部と接触させると、それによりその自然環境において、イオンもしくは小分子(ヌクレオチドなど)は、ヌクレオチドが細孔を通れるような細孔のバレルまたはチャネルへと侵入できるようになる。そのような場合、ヌクレオチドは、細孔のバレルまたはチャネルを通って膜を通るときに、細孔および/またはアダプターと相互作用する。あるいは、ヌクレオチドを、アダプターを介してまたはアダプターと共に細孔と相互作用させ、細孔から解離させ、膜の同じ面に留まらせる膜の面とヌクレオチドとを接触させることができる。本発明は、アダプターの位置が固定されている細孔を提供する。結果として、好ましくは、ヌクレオチドは、アダプターがヌクレオチドと相互作用できるように細孔の端部と接触することになる。
【0174】
ヌクレオチドは、任意の様式でおよび任意の部位で細孔と相互作用することができる。上述のとおり、好ましくは、ヌクレオチドは、アダプターを介してまたはアダプターと共に細孔に可逆的に結合する。最も好ましくは、ヌクレオチドは、膜を横切って細孔を通るときに、アダプターを介してまたはアダプターと共に細孔に可逆的に結合する。ヌクレオチドは、膜を横切って細孔を通るときに、アダプターを介してまたはアダプターと共に細孔のバレルまたはチャネルに可逆的に結合することもできる。
【0175】
ヌクレオチドと細孔とが相互作用している間に、ヌクレオチドは、ヌクレオチドに特異的な形で、細孔を通る電流の流れに影響を及ぼす。例えば、特定のヌクレオチドは、特定の平均時間および特定の範囲で細孔を通る電流の流れを減少させることになる。換言すれば、細孔を通る電流の流れは、特定のヌクレオチドに対して特徴的である。対照実験を実施して、特定のヌクレオチドが細孔を通る電流の流れに及ぼす影響を決定することができる。試験サンプルにおいて本発明の方法を実施した結果を、次いでその対照実験から得られた結果と比較して、サンプル中にある特定のヌクレオチドを同定するまたはサンプル中に特定のヌクレオチドが存在するか否かを決定することができる。細孔を通って流れる電流が特定のヌクレオチドを示す形で影響を受ける頻度を使用して、サンプル中にあるヌクレオチドの濃度を決定することができる。サンプル中の異なるヌクレオチドの比率も算出できる。例えば、メチルdCMPに対するdCMPの比率を算出できる。
【0176】
装置
本方法は、本発明の細孔が膜に挿入されている膜/細孔系を調査するのに適切ないずれかの装置を使用して実施することができる。本方法は、ナノ細孔検出に適切ないずれかの装置を使用して実施することができる。例えば、装置は、水溶液を含むチャンバおよびチャンバを2つのセクションに分離する障壁を含む。障壁は、細孔を含有する膜が形成される開口部を有する。ヌクレオチドは、チャンバにヌクレオチドを導入することによって細孔と接触できる。ヌクレオチドは、チャンバの2つのセクションのいずれかに導入することができる。
【0177】
本方法は、国際出願番号PCT/GB08/000562に記載の装置を使用して実施できる。
【0178】
本発明の方法は、ヌクレオチドと相互作用している間に、細孔を通る電流を測定することを含む。したがって、装置は、電位を印加し、膜および細孔の電気シグナルを測定可能な電気回路も含む。本方法は、パッチクランプまたは電圧クランプを使用して実施することができる。好ましくは、本方法は電圧クランプの使用を含む。
【0179】
サンプル
ヌクレオチドは、任意の適切なサンプル中に存在する。本発明は通常、ヌクレオチドを含有することが既知であるまたは含有することが疑われるサンプルに対して実施される。本発明は、同一性が未知の1つまたは複数のヌクレオチドを含有するサンプルに対して実施できる。あるいは、本発明をサンプルに対して実施して、サンプル中の存在が既知であるまたは予想される1つまたは複数のヌクレオチドの同一性を確認することができる。
【0180】
サンプルは、生体サンプルであってよい。本発明は、任意の生物または微生物から得たまたは抽出したサンプルに対してin vitroで実施できる。生物または微生物は通常、原核生物または真核生物であり、通常は5界(植物界、動物界、真菌、モネラ界および原生生物界)のうちの1つに属している。本発明は、任意のウイルスから得たまたは抽出したサンプルに対してin vitroで実施できる。好ましくは、サンプルは液体サンプルである。サンプルは通常、患者の体液を含む。サンプルは、尿、リンパ、唾液、粘液または羊水であってよいが、好ましくは血液、血漿または血清である。通常、サンプルはヒト起源であるが、あるいは例えばウマ、ウシ、ヒツジまたはブタなどの商業的に飼育された動物由来など別の哺乳動物由来でもよく、あるいはネコまたはイヌなどのペットでもよい。あるいは、植物起源のサンプルは通常、穀物、豆類、果物または野菜、例えば小麦、大麦、オート麦、カノーラ、トウモロコシ、大豆、米、バナナ、リンゴ、トマト、ジャガイモ、ブドウ、タバコ、インゲン豆、レンズ豆、サトウキビ、ココア、綿、茶、コーヒーなどの商品作物から得られる。
【0181】
サンプルは、非生体サンプルであってもよい。好ましくは、非生体サンプルは、液体サンプルである。非生体サンプルの例には、外科輸液、水(飲料水、海水または河川水など)、および実験室試験用の試薬がある。
【0182】
サンプルは通常、アッセイされる前に、例えば遠心分離によってまたは不要な分子もしくは細胞(赤血球など)を除去する膜を通すことによって処理される。サンプルは、採取されると同時に直ちに測定されてもよい。サンプルは通常、アッセイ前に、好ましくは−70℃より低い温度に貯蔵されてもよい。
【0183】
条件
本発明の方法は、ヌクレオチドと相互作用している間に、細孔を通る電流を測定することを含む。膜貫通タンパク質細孔を通るイオン電流を測定するための適切な条件は、当技術分野において公知であり、実施例において開示されている。本方法は、膜および細孔に印加される電圧により実施される。使用される電圧は通常、−400mV〜+400mVである。好ましくは、使用される電圧は、−400mV、−300mV、−200mV、−150mV、−100mV、−50mV、−20mVおよび0mVから選択される下限値、ならびに+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mVおよび+400mVからそれぞれ独立に選択される上限値の範囲にある。より好ましくは、使用される電圧は、100mV〜240mVの範囲、最も好ましくは160mV〜240mVの範囲にある。印加電位を高めて使用することにより、本発明の細孔による異なるヌクレオチドの識別を高めることが可能である。
【0184】
本方法は通常、任意のアルカリ金属塩化物塩の存在下で実施される。上述した例示的な装置において、塩は、チャンバ内の水溶液中に存在する。塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)または塩化セシウム(CsCl)が、通常使用される。好ましくはKClである。塩濃度は通常、0.1〜2.5M、0.3〜1.9M、0.5〜1.8M、0.7〜1.7M、0.9〜1.6M、または1M〜1.4Mである。好ましくは、塩濃度は、150mM〜1Mである。高塩濃度は高いシグナル対ノイズ比をもたらし、ヌクレオチドの存在を示す電流を、正常電流のバックグラウンド変動に対して同定することが可能になる。ヌクレオチドの検出が、核酸を配列決定するときなど酵素の存在下で実施される場合、低塩濃度を使用できる。これについては、以下で詳述する。
【0185】
本方法は通常、緩衝液の存在下で実施される。上述した例示的な装置において、緩衝液は、チャンバ内の水溶液中に存在する。本発明の方法において、どんな緩衝液も使用することができる。1つの適切な緩衝液は、トリス−HCl緩衝液である。本方法は通常、pH4.0〜12.0、4.5〜10.0、5.0〜9.0、5.5〜8.8、6.0〜8.7または7.0〜8.8もしくは7.5〜8.5で実施される。好ましくは、使用されるpHは約7.5である。
【0186】
本方法は通常、0℃〜100℃、15℃〜95℃、16℃〜90℃、17℃〜85℃、18℃〜80℃、19℃〜70℃または20℃〜60℃で実施される。本方法は、室温で実施されてよい。好ましくは、方法は、約37℃など酵素機能を補助する温度で実施される。
【0187】
核酸を特徴付ける方法
本発明は、標的核酸配列を特徴付ける方法も提供する。標的核酸配列の1つまたは複数の特徴を決定することができる。本方法は、標的核酸配列の2、3、4または5つ以上の特徴の測定を含むことができる。好ましくは、1つまたは複数の特徴が、(i)標的核酸配列の長さ、(ii)標的核酸配列の同一性、(iii)標的核酸配列の配列、(iv)標的核酸配列の二次構造および(v)標的核酸配列が修飾されているか否か、から選択される。(i)〜(v)の任意の組合せを、本発明に従って決定することができる。
【0188】
(i)に関して、核酸配列の長さは、標的核酸配列と細孔との相互作用の数を使用して測定できる。
【0189】
(ii)に関して、核酸配列の同一性はいくつかの方法で測定できる。核酸配列の同一性は、標的核酸配列の配列測定と併せてまたは標的核酸配列の配列測定なしに測定できる。前者は直接的であり;核酸が配列決定され、それによって同定される。後者は、いくつかの方法で行うことができる。例えば、核酸配列中の特定のモチーフの存在を、(ポリヌクレオチドの残りの配列を測定することなく)測定できる。あるいは、本方法における特定の電気シグナルの測定により、特定の起源に由来する標的核酸配列を同定することができる。
【0190】
(iii)に関して、核酸配列の配列は、前記のとおり決定できる。適切な配列決定方法、特に電気的な測定を使用する方法は、Stoddart D et al., Proc Natl Acad Sci, 12;106(19):7702〜7頁、Lieberman KR et al, J Am Chem Soc. 2010;132(50):17961〜72頁および国際出願第WO 2000/28312に記載されている。
【0191】
(iv)に関して、二次構造は多様な方法で測定できる。例えば、二次構造は、滞留時間の変化または細孔を通る電流の流れの変化を使用して測定できる。
【0192】
本発明は、標的核酸配列の配列を推定する方法も提供する。本発明はさらに、標的核酸配列を配列決定する方法を提供する。
【0193】
核酸は、ヌクレオチドを2個以上含む高分子である。ヌクレオチドは、上述したそれのいずれであってもよい。
【0194】
一実施形態において、本方法は、(a)核酸結合タンパク質が、本発明の細孔を通る標的配列の移動を制御し、標的配列中のヌクレオチドの一部が細孔と相互作用できるように、標的配列を細孔およびタンパク質と接触させるステップと;(b)各相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによって標的配列の配列を推定するまたは配列決定するなど標的配列を特徴付けるステップとを含む。したがって、本方法は、ヌクレオチドがバレルまたはチャネルを通る際に標的核酸配列中のヌクレオチドの一部をナノ細孔検出して、配列決定など、標的配列を特徴付けることを含む。
【0195】
別の実施形態において、本方法は、(a)エキソヌクレアーゼが標的配列の一方の末端から個々のヌクレオチドを消化するように、標的配列を本発明の細孔およびエキソヌクレアーゼと接触させるステップと;(b)ヌクレオチドがアダプターと相互作用できるようにヌクレオチドを細孔と接触させるステップと;(c)相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってヌクレオチドを特徴付けるステップと;(d)標的配列の同じ末端でステップ(a)〜(c)を繰り返し、それによって標的配列を特徴付けるステップとを含む。したがって、本方法は、標的核酸配列中のヌクレオチドの一部を連続してナノ細孔検出して、標的配列を特徴付けることを含む。好ましい実施形態において、本方法は、標的核酸配列を配列決定することに関し、ステップ(a)はヌクレオチドの同一性を決定することを含む。個々のヌクレオチドについては、上に記している。
【0196】
本発明の細孔は、ヌクレオチドの識別が改善されているので、これらの方法に特に適している。具体的には、それらは、電流範囲を増加させ(異なるヌクレオチドの識別が容易になる)、状態変動を減少させる(シグナル対ノイズ比が高まる)。加えて、前の実施形態に関連して、細孔を通って核酸が移動するにつれて電流に関与するヌクレオチドの数は減少する。これにより、核酸が細孔を通って移動する際に観察される電流と核酸配列との直接的な関係を同定することがさらに容易になる。好ましくは、本発明の細孔は、上記のように(1)分子アダプターおよび/または(2)核酸結合タンパク質もしくはエキソヌクレアーゼで化学修飾されている。
【0197】
この方法を使用して、標的核酸配列の全部または部分だけを、配列決定など、特徴付けることができる。核酸配列は、任意の長さであってよい。例えば、核酸配列は、長さ少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも400または、少なくとも500ヌクレオチドであってよい。核酸配列は、長さ1000ヌクレオチド以上または5000ヌクレオチド以上であってよい。核酸配列は、天然または人工であってよい。例えば、本方法を使用して、製造したオリゴヌクレオチドの配列を検証することができる。本方法は通常、in vitroで実施される。
【0198】
本方法は、細孔が膜に挿入されている任意の適切な膜/細孔系を使用して実施することができる。本方法は通常、上で開示したシステム、装置または条件のいずれかを使用して実施することができる。
【0199】
上述のとおり、温度が上昇した場合、低塩濃度で、優れたヌクレオチド識別を得ることができる。溶液温度を上げることに加えて、酵素活性にとって適切な条件を維持しながら、溶液の伝導性を高めるために採用できるいくつかの他の戦略がある。そのような戦略の1つは、脂質二重層を使用して、塩溶液を異なる2つの濃度に分けることである(酵素側に低塩濃度、反対側に高濃度の塩)。この手法の1つの例は、膜のシス側に200mMのKClおよびトランスチャンバ中に500mMのKClを使用することである。これら条件において、細孔を通る伝導性は、通常の条件下で400mMのKClとおおよそ同等であると予想され、酵素は、シス側に配置された場合、200mMの影響しか受けない。非対称の塩条件を使用する別の考えられる利益は、細孔を横切って誘導される浸透圧勾配である。この正味の水の流れを使用して、検出用の細孔へとヌクレオチドを引き込める可能性がある。類似の効果は、スクロース、グリセリンまたはPEGなど中性浸透圧調節物質を使用して得ることができる。別の可能性は、比較的低レベルのKClを含む溶液を使用し、酵素活性に対して破壊的でない追加的な電荷を担持している種を利用することである。
【0200】
分析される標的配列は、公知の保護化学物質と合わせて、バルク溶液中にある間に結合タンパク質またはエキソヌクレアーゼによって受ける作用から配列を保護することができる。次いで細孔を使用して、保護化学物質を取り除くことができる。これは、印加電位のもとで細孔、結合タンパク質もしくは酵素にハイブリダイズされない保護基を使用することによって(WO2008/124107)、または細孔に対して近接近に保持されているときに、結合タンパク質もしくは酵素によって取り除かれる保護化学物質を使用することによって得ることができる(J Am Chem Soc. 2010 Dec 22;132(50):17961〜72頁)。
【0201】
鎖配列決定
鎖配列決定は、細孔を通る核酸ポリマーの段階的な移行の制御を含む。本発明の細孔は、鎖配列決定に使用できる。本発明の1つの方法は、細孔を通る標的配列の移動を制御するために核酸結合タンパク質を使用する。そのようなタンパク質の例には、それだけには限らないが、ヌクレアーゼ、ポリメラーゼ、トポイソメラーゼ、リガーゼおよびヘリカーゼなどの核酸ハンドリング酵素ならびにSCOP(タンパク質の立体構造分類)によって核酸結合タンパク質スーパーファミリー(50249)に分類されているものなどの非触媒的結合タンパク質がある。結合タンパク質は、一本鎖結合タンパク質(SSB)であってよい。
【0202】
核酸は、ヌクレオチドを2個以上含む高分子である。タンパク質に結合される核酸は、任意のヌクレオチドの任意の組合せを含むことができる。ヌクレオチドは、上述したそれらいずれであってもよい。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)であってよい。核酸は、ペプチド核酸(PNA)、グリセリン核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、ロックト核酸(LNA)またはヌクレオチド側鎖を持つ他の合成ポリマーなど当技術分野において公知の任意の合成核酸であってもよい。タンパク質に結合される核酸は、cDNA、RNA、GNA、TNAもしくはLNAなどの一本鎖、またはDNAなどの二本鎖であってよい。二本鎖DNAが、タンパク質に結合される前に一本鎖へと解離していれば、一本鎖核酸に結合するタンパク質を使用して、二本鎖DNAを配列決定することができる。
【0203】
好ましくは、核酸結合タンパク質は核酸ハンドリング酵素である。核酸ハンドリング酵素は、核酸と相互作用でき、核酸の少なくとも1つの特性を修飾できるポリペプチドである。酵素は、核酸を切断することによってこれを修飾し、個々のヌクレオチドまたは短いヌクレオチド鎖(ジ−もしくはトリヌクレオチドなど)を形成することができる。酵素は、核酸を正しい向きに配向させるまたは特定の位置に移動させることによってこれを修飾できる。核酸ハンドリング酵素は、標的配列に結合する能力および細孔を通る移動を制御する能力がありさえすれば、酵素活性を示す必要はない。例えば、酵素は、修飾して酵素活性を取り除かれてもよく、または酵素として作用できない条件で使用されてもよい。そのような条件については、以下で詳述する。
【0204】
好ましくは、核酸ハンドリング酵素は、核酸分解酵素から得られる。より好ましくは、酵素構築物において使用される核酸ハンドリング酵素は、酵素分類(EC)群3.1.11、3.1.13、3.1.14、3.1.15、3.1.16、3.1.21、3.1.22、3.1.25、3.1.26、3.1.27、3.1.30および3.1.31のいずれかのメンバーから得られる。酵素は、国際出願番号PCT/GB10/000133(WO 2010/086603として公開)に開示されているそれらのいずれかであってよい。
【0205】
好ましい酵素は、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヘリカーゼおよびトポイソメラーゼ(ジャイレースなど)である。適切な酵素には、それだけには限らないが、大腸菌(E. coli)由来のエキソヌクレアーゼI(配列番号6)、大腸菌(E. coli)由来のエキソヌクレアーゼIII酵素(配列番号8)、T.サーモフィラス(T. thermophilus)由来のRecJ(配列番号10)およびバクテリオファージラムダエキソヌクレアーゼ(配列番号12)ならびにそれらのバリアントがある。配列番号10に示される配列またはそのバリアントを含む3つのサブユニットが相互作用して、三量体エキソヌクレアーゼを形成する。好ましくは、酵素はPhi29DNAポリメラーゼ(配列番号4)に基づく。
【0206】
配列番号4、6、8、10または12のバリアントは、配列番号4、6、8、10または12とは異なるアミノ酸配列を有するが、核酸結合能を保持している酵素である。バリアントは、核酸の結合を促進するならびに/または高塩濃度および/もしくは室温での活性を促進する修飾を含むことができる。
【0207】
好ましくは、バリアントは、配列番号4、6、8、10または12のアミノ酸配列の全長にわたってアミノ酸同一性に基づいて、その配列と少なくとも50%相同になる。より好ましくは、バリアントポリペプチドは、アミノ酸同一性に基づいて、配列番号4、6、8、10もしくは12のアミノ酸配列と全配列にわたって少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは、少なくとも95%、97%または99%相同であり得る。200以上(例えば230、250、270または280以上)の連続するアミノ酸区間にわたって、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、90%または95%)のアミノ酸同一性が存在し得る(「厳密な相同性」)。相同性は、上述のとおりに決定される。バリアントは、配列番号2を参照して、上述した方法のいずれかで、野生型配列と異なることができる。酵素は、上述のとおり細孔に共有結合されてよい。
【0208】
ヌクレオチドが細孔の検出部分に達する系列において障害の可能性が全くないので、酵素は、個々のヌクレオチド配列決定の場合ほど細孔内腔に近接近する必要がない。
【0209】
一本鎖DNA配列決定のための2つの戦略は、ナノ細孔を通してDNAをシスからトランスへ、およびトランスからシスへと印加電位に伴ってまたは反対に移行させることである。鎖配列決定に最も有利な機序は、印加電位の下でナノ細孔を通る一本鎖DNAの移行を制御することである。二本鎖DNA上で漸進的または進行的に作用するエキソヌクレアーゼを細孔のシス側で使用して、残った一本鎖を印加電位の下で送り込むことができ、またはトランス側で使用して、逆電位の下で送り込むことができる。同様に、二本鎖DNAを巻き戻すヘリカーゼも、類似の方式で使用できる。印加電位とは反対への鎖の移行を必要とする配列決定応用の可能性もあるが、DNAは最初に逆電位または無電位の下で酵素に「捕われ」なければならない。次いで結合した後に電位を切り替えて、鎖は細孔を通ってシスからトランスへと通過し、電流の流れによって伸びた立体構造で保持されることになる。一本鎖DNAエキソヌクレアーゼまたは一本鎖DNA依存的ポリメラーゼが分子モーターとして作用して、移行したばかりの一本鎖を段階的に制御する方式で、印加電位とは反対方向にトランスからシスへと細孔を通して引き戻すことができる。
【0210】
エキソヌクレアーゼに基づく方法
一実施形態において、標的核酸配列を特徴付ける方法は、標的配列をエキソヌクレアーゼ酵素と接触させるステップを含む。上述したエキソヌクレアーゼ酵素のいずれも、本方法で使用できる。エキソヌクレアーゼは、標的配列の一方の端から個々のヌクレオチドを遊離させる。酵素は、上述のとおり細孔に共有結合されてよい。
【0211】
エキソヌクレアーゼは、通常核酸配列の一方の末端を掴み、その末端から一度に1ヌクレオチドずつ配列を消化する酵素である。エキソヌクレアーゼは、5’から3’方向にまたは3’から5’方向に核酸を消化することができる。エキソヌクレアーゼが結合する核酸の末端は通常、使用される酵素の選択によっておよび/または当技術分野において公知の方法を使用して決定される。通常、核酸配列のいずれかの末端にあるヒドロキシル基またはキャップ構造を使用して、核酸配列の特定の末端に対するエキソヌクレアーゼの結合を防止するまたは促進する。
【0212】
上述のとおり、本方法は、ヌクレオチドの一部を特徴付けまたは同定できる速度でヌクレオチドが核酸の末端から消化されるように、核酸配列をエキソヌクレアーゼと接触させるステップを含む。これを行う方法は、当技術分野で周知である。例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して同定できるように、エドマン分解を使用してポリペプチドの末端から単一のアミノ酸を連続的に消化する。本発明において相同な方法を使用することができる。
【0213】
エキソヌクレアーゼが機能する速度は通常、野生型エキソヌクレアーゼの最適な速度より遅い。本発明の方法におけるエキソヌクレアーゼの活性の適切な速度は、1秒につき0.5〜1000ヌクレオチド、1秒につき0.6〜500ヌクレオチド、1秒につき0.7〜200ヌクレオチド、1秒につき0.8〜100ヌクレオチド、1秒につき0.9〜50ヌクレオチド、または1秒につき1〜20もしくは10ヌクレオチドの消化を含む。好ましくは、速度は1秒につき1、10、100、500または1000ヌクレオチドである。エキソヌクレアーゼ活性の適切な速度は、様々な方法で得ることができる。例えば、活性の最適速度が低下したバリアントエキソヌクレアーゼを、本発明に従って使用できる。
【0214】
MspおよびPhi29DNAポリメラーゼ
好ましい実施形態において、鎖配列決定などの特徴付けは、Mspから得られる細孔およびPhi29DNAポリメラーゼを使用して実施される。本方法は、(a)Phi29DNAポリメラーゼがMspから得られる細孔を通る標的配列の移動を制御し、標的配列中のヌクレオチドの一部が細孔と相互作用するように、標的配列を細孔およびポリメラーゼと接触させるステップと、(b)各相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによって配列を決定するなど、標的配列を特徴付けるステップとを含み、ステップ(a)および(b)は細孔に印加される電圧により実施される。標的配列がPhi29DNAポリメラーゼおよびMspから得られる細孔と接触されるとき、標的配列は最初にPhi29DNAポリメラーゼと複合体を形成する。電圧が細孔に印加されるとき、標的配列/Phi29DNAポリメラーゼ複合体は細孔と複合体を形成し、細孔を通る標的配列の移動を制御する。
【0215】
この実施形態には、予想外の利点が3つある。第1に、商業的に実現可能でありなおかつ有効な配列決定を可能にする速度で、標的配列が細孔を通って移動する。標的配列は、溶血素細孔を通って移動するより速くMsp細孔を通って移動する。第2に、核酸が細孔を通って移動する際に、電流範囲の増加が観察され、より容易に配列を決定できるようになる。第3に、特異的細孔とポリメラーゼを一緒に使用する場合、電流変動の減少が観察され、それによってシグナル対ノイズ比が高まる。
【0216】
上述した任意の核酸配列を、特徴付けまたは配列決定することができる。好ましくは、核酸配列の少なくとも一部は二本鎖である。
【0217】
細孔は、上述した細孔のいずれであってもよい。好ましくは、細孔は本発明の細孔である。細孔は、配列番号2、16、17または18で示される配列またはそのバリアントを含む8個のモノマーを含むことができる。細孔は、本発明の変異のどれも含む必要はない。
【0218】
野生型Phi29DNAポリメラーゼは、ポリメラーゼ活性およびエキソヌクレアーゼ活性を有する。これは、適当な条件下で二本鎖核酸をほどくこともできる。したがって、本酵素は3つのモードで作動できる。これについては、以下で詳述する。
【0219】
Phi29DNAポリメラーゼは、配列番号4に示される配列またはそのバリアントを含むことができる。配列番号4のバリアントは、配列番号4とは異なるアミノ酸配列を有するが、核酸結合活性を保持している酵素である。バリアントは、後述する3つのモードの少なくとも1つで作動しなければならない。好ましくは、バリアントは3つ全てのモードで作動する。バリアントは、核酸の処理を促進するならびに/または高塩濃度および/もしくは室温での活性を促進する修飾を含むことができる。
【0220】
好ましくは、バリアントは、アミノ酸同一性に基づいて、配列番号4のアミノ酸配列とその全長にわたって少なくとも40%相同になる。より好ましくは、バリアントポリペプチドは、アミノ酸同一性に基づいて、配列番号4のアミノ酸配列と全配列にわたって少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは、少なくとも95%、97%または99%相同であり得る。200以上(例えば230、250、270または280以上)の連続するアミノ酸区間にわたって、少なくとも80%(例えば少なくとも85%、90%または95%)のアミノ酸同一性が存在し得る(「厳密な相同性」)。相同性は、上述のとおりに決定される。バリアントは、配列番号2を参照して、上述した方法のいずれかで、野生型配列と異なることができる。酵素は、上述のように細孔に共有結合されてよい。
【0221】
上述したシステム、装置または条件のいずれかを、この好ましい実施形態に従って使用できる。塩濃度は通常0.15M〜0.6Mである。好ましくは、塩はKClである。
【0222】
本方法は、Phi29DNAポリメラーゼの3つのモードに基づいて、3つの好ましい方法の1つで実施され得る。各方法は、配列を校正する方法を含む。第1に、好ましくは、本方法はポリメラーゼとしてPhi29DNAポリメラーゼを使用して実施される。この実施形態において、ポリメラーゼが、印加電圧により生じる電場とは反対方向に細孔を通して標的配列を移動させるように、ステップ(a)および(b)が遊離ヌクレオチドと酵素補因子の存在下で実施される。標的配列は、5’から3’の方向で移動する。遊離ヌクレオチドは、上述した個々のヌクレオチドのいずれか1つまたは複数であってよい。酵素補因子は、Phi29DNAポリメラーゼがポリメラーゼまたはエキソヌクレアーゼとして機能できるようにする因子である。好ましくは、酵素補因子は二価金属陽イオンである。好ましくは、二価金属陽イオンは、Mg
2+、Mn
2+、Ca
2+またはCo
2+である。最も好ましくは、酵素補因子はMg
2+である。好ましくは、本方法は(c)ポリメラーゼが、印加電圧により生じる電場に伴って(すなわち3’から5’方向に)細孔を通して標的配列を移動させ、標的配列中のヌクレオチドの一部が細孔と相互作用するように、遊離ヌクレオチドを取り除くステップと、(d)各相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた細孔に印加される電圧により実施される。
【0223】
第2に、好ましくは、本方法はエキソヌクレアーゼとしてPhi29DNAポリメラーゼを使用して実施される。この実施形態において、ポリメラーゼが、印加電圧により生じる電場に伴って細孔を通して標的配列を移動させるように、ステップ(a)および(b)が、遊離ヌクレオチドの非存在下および酵素補因子の存在下で実施される。標的配列は、3’から5’の方向に移動する。好ましくは、本方法は、(c)ポリメラーゼが、印加電圧により生じる電場と反対方向に(すなわち5’から3’方向に)細孔を通して標的配列を移動させ、標的配列中のヌクレオチドの一部が細孔と相互作用するように、遊離ヌクレオチドを添加するステップと、(d)各相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた細孔に印加される電圧により実施される。
【0224】
第3に、好ましくは、本方法は、アンジッピングモードでPhi29DNAポリメラーゼを使用して実施される。この実施形態において、ポリメラーゼが、印加電圧により生じる電場と共に細孔を通る標的配列の移動を制御するように(ほどかれるように)、ステップ(a)および(b)が、遊離ヌクレオチドの非存在下および酵素補因子の非存在下で実施される。この実施形態において、ポリメラーゼは、印加電圧の影響下で標的配列があまりに速く細孔を通って移動することを防止する制動装置のように作用する。好ましくは、本方法は、(c)標的配列がステップ(a)および(b)における方向とは反対方向に細孔を通って移動し(すなわち、再アニールし)、標的配列中のヌクレオチドの一部が細孔と相互作用するように、細孔に印加される電圧を下げるステップと、(d)各相互作用の間に細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた細孔に印加される電圧により実施される。
【0225】
本発明は、標的核酸配列を配列決定するためのセンサーを形成する方法であって、(a)標的核酸配列の存在下でMspから得られる細孔をPhi29DNAポリメラーゼと接触させるステップと、(b)細孔に電圧を印加して、細孔とポリメラーゼとの複合体を形成させるステップとを含み、それによって標的核酸配列を配列決定するためのセンサーを形成する方法も提供する。本発明は、Phi29DNAポリメラーゼの活性速度を高める方法であって、核酸配列の存在下でPhi29DNAポリメラーゼをMspから得られる細孔と接触させるステップと、細孔に電圧を印加して細孔とポリメラーゼとの複合体を形成させるステップとを含み、それによって、Phi29DNAポリメラーゼの活性速度を高める方法をさらに提供する
【0226】
キット
本発明は、配列決定など、標的核酸配列を特徴付けるためのキットも提供する。1つのキットは、(a)本発明の細孔および(b)核酸ハンドリング酵素を含む。別のキットは、(a)Mspから得られる細孔および(b)Phi29DNAポリメラーゼを含む。本発明の方法を参照して上述したどの実施形態も本発明のキットに同程度に適用できる。
【0227】
本発明のキットは、前述の実施形態のいずれかを実施可能にする1つまたは複数の他の試薬または機器を追加的に含むことができる。そのような試薬または機器には、以下の1つまたは複数が含まれる:適切な緩衝液(複数可)(水溶液)、対象からサンプルを採取する手段(注射針を備える容器または機器など)、ポリヌクレオチド配列を増幅および/または発現させる手段、上で定義した膜または電圧もしくはパッチクランプ装置。試薬は、液体サンプルで試薬を再懸濁するような乾燥状態でキット中に存在することができる。場合によっては、キットは、本発明の方法でキットを使用することが可能になる説明書、または本方法を使用できる患者に関する詳細を含むこともできる。キットは、場合によってはヌクレオチドを含むことができる。
【0228】
装置
本発明は、配列決定など、サンプル中の標的核酸配列を特徴付けるための装置も提供する。装置は、(a)本発明の複数の細孔および(b)複数の核酸ハンドリング酵素を含むことができる。あるいは、本発明は、Mspから得られる複数の細孔および複数のPhi29DNAポリメラーゼを含むことができる。装置は、アレイまたはチップなど分析物分析用のどんな通常装置であってもよい。
【0229】
好ましくは、装置は、
複数の細孔を支持することができ、細孔および酵素を使用して核酸の特徴付けまたは配列決定を行うように操作できるセンサーデバイスと;
− 特徴付けまたは配列決定を行うための材料保持用の少なくとも1つの貯蔵部と;
− 少なくとも1つの貯蔵部からセンサーデバイスへと制御可能に材料を供給するよう構成された流体系と;
− それぞれのサンプルを受けるための複数の容器とを含み、流体系は、容器からセンサーデバイスへと選択的にサンプルを供給するよう構成されている。
装置は、国際出願番号PCT/GB10/000789(WO 2010/122293として公開)、国際出願番号PCT/GB10/002206(未公開)または国際出願番号PCT/US99/25679(WO 00/28312として公開)に記載される装置のいずれかであってよい。
【0230】
以下の実施例は、本発明を例示している:
【実施例1】
【0231】
ホモオリゴマーは細孔であって、全てのモノマー単位が同一である。モノマー単位が自己組織化しようとするとき、これらは最も単純な構築物を作製することになる。塩基読み取り特性を改善するための戦略は、種類分けできる:
・立体性(アミノ酸残基のサイズを増減する)
・電荷(+ve電荷を導入してDNAと相互作用させる)
・水素結合(塩基対と水素結合できる残基)
・πスタッキング(非局在化π電子系によって相互作用するアミノ酸)
立体性/πスタッキングの増大(全NNN−RRKバックグラウンド):
立体性−残基をバルク(例えばフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ヒスチジン)と置換
πスタッキング−芳香族残基(例えばフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ヒスチジン)を置換
以下の全ての表(6〜11)に、配列番号2に作られた変異が示されている。B1=配列番号2。
【0232】
【表6】
立体性の減少−残基をより小さいサイズ(例えばセリン、トレオニン、グリシン、アラニン、バリン)と置換
【0233】
【表7】
電荷−残基を陽電荷(例えばアルギニン、リシン、ヒスチジン)と置換
【0234】
【表8】
水素結合−残基を結合能力(例えばアスパラギン、グルタミン、チロシン、ヒスチジン)と置換
【0235】
【表9】
【0236】
【表10】
【0237】
ホモオリゴマーを修飾して反応性基を含めることができ、次いで化学修飾することができる。
【0238】
【表11】
【実施例2】
【0239】
異なるモノマー単位を結合させて、新規なオリゴマー細孔を創出することができる。オリゴマーが2個以上の異なるサブユニットを含有する場合(例えばMS−(MutA)
6(MutB)
1(MutC)
1)、細孔はヘテロオリゴマーである。ヘテロオリゴマーは通常、1つの単位(例えばMS−(MutA)
7(MutB)
1)しか修飾されていない。他の割合のヘテロオリゴマーが形成される可能性もある(例えばMS−(MutA)
6(MutB)
2)。サブユニットは、配列番号2を含むこともできる。
【0240】
ヘテロオリゴマーの利点は、細孔に(あらゆるモノマー単位に変化を導入するのではなく)単一の化学変化を作れるということである。これは、ホモオリゴマーと比べると構造についてはそれほど大幅な変化ではなく、これによりホモオリゴマーでは有効でなかった位置で残基を細孔の中に導入できる可能性がある。DNAと相互作用する単一の残基が、複数の単位と比較して有益な場合がある(例えば、八量体上の8個のArgと比較したヘテロ八量体上の単一のArg)。変異体を組み合わせて、同じ残基で異なる効果を作製することもでき、この例は7個の単位のサイズを減少させ、一方で1つのサイズを増加させることである(例えばMS−(D90G)
8(D90Y)
1)。
【0241】
変異体設計の法則は、ホモオリゴマーについて上で提示したそれと類似することになる。
【0242】
単一の立体性残基の導入
【0243】
【表12】
【0244】
単一の荷電残基の導入
【0245】
【表13】
【0246】
単一の反応性残基の導入
【0247】
【表14】
【実施例3】
【0248】
化学修飾用としての単一の反応性残基の導入。
【0249】
【表15】
【実施例4】
【0250】
以下の表は、本発明の変異体細孔の要約である。1つ目はホモオリゴマーに関し、2つ目はヘテロオリゴマーに関する。
【0251】
【表16】
【表16-2】
表16の続き
【0252】
【表17】
【実施例5】
【0253】
HLと比較したMspA
Phi29DNAポリメラーゼ(DNAP)を分子モーターとして、変異体MspAナノ細孔と結合させて、細孔を通るDNA鎖の移動を制御することを可能にした。電圧は細孔に印加され、ナノ細孔の両側にある塩溶液中のイオンの移動により、電流が生成された。細孔を通ってDNAが移動するとき、細孔を通るイオン流はDNAに関連して変化する。この情報は、配列依存的であることが示されている。
【0254】
溶血素の変異型をMspA、具体的にはMS−(B1)
8と比較した。MspAの電流範囲は溶血素(HL)と比較して高い。加えて、DNAの鎖を細孔に通すとき、MspAの電流範囲もまた大きくなる。
【0255】
MspAとPhi29DNAPを一緒にすることによって、MspAについて予想していなかったいくつかの驚くべき特徴があることが示された。主な違いは、以下のとおりである:
1.HLと比較して速い鎖の移動(アンジッピングモード)。
2.細孔を通して鎖を移動させるときの電流範囲の増加。
3.HL変異体と比較した電流レベルの変動の減少。
【0256】
より速い鎖移動
134マーのssDNA鋳型(配列番号13)を84マーのssDNA(配列番号14)にハイブリダイズさせて、50マーのssDNA5’突出を持つ84マーのdsDNA鋳型を形成した。この鎖は、アンジッピングモードでPhi29DNAPを使用して、MS−(B1)
8MspA変異体および溶血素変異体を通って移動する。2回の実験を行った;全て室温で、10mM Hepes pH8.0、1mM EDTA、1mM DTTを含む、一方は400mM KCl、他方は600mM KCl。印加電位は、変異体構築物毎に最適化した;HLは220mVで、MspAは180mVで行った。
【0257】
電流レベルが、酵素に結合している状態のDNAに由来する事象として抽出され、これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0258】
全てのほどく実験について、ほどける速度は、鎖を通して一貫しているというわけではなかった。これは、事象継続時間の平均を算出することによって示され、事象索引を4分の1に分割することができる(
図1)。第1四分位値は、次の四分位値よりもかなり長い継続時間を有する事象を提供し、これはHLおよびMspA両方に当てはまった。第1四分位値の場合、平均事象長は、MspAでは400mM KClで最短であり、HLでは600mMで最短であった。しかしQ2、Q3およびQ4において、MspAは、両方の塩条件に関してより短い事象を生じた。シグナル対ノイズ比が十分な場合、細孔を通るDNA鎖が速い移動を示す際には短い事象が望ましく、したがって実験の処理量が増加する。
【0259】
電流範囲の増加および変動の減少
ここで記載のナノ細孔実験において、電流レベルは、主に塩濃度、印加電圧および温度に依存的である。HLとMS−(B1)
8MspA変異体とを、Phi29DNAポリメラーゼを使用して、アンジッピングモードで600mM KCl、10mM Hepes、1mM EDTA、1mM DTT、pH8.0、+220mVに設定した物理的条件で比較した。この実験において使用したDNAは、34マーの一本鎖5’突出を持つ100マーのヘアピンであった(配列番号15)。実験は、室温で実行された。
【0260】
電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出され、これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された(
図2および3)。
【0261】
電流範囲がおよそ20pAであるHL変異体と比較して、MspA変異体がおよそ50pAという著しく大きな範囲を与えることは、これらの実験から明白である(
図2および3)。大きな電流範囲は、大きなシグナル対ノイズ比を提供し、異なる電流状態の区別を容易にするので有利である。N塩基が電流シグナルに関与する可能性があるとき、これは配列決定用途に特別な利点があり、4
Nに可能な電流状態をもたらす。
【0262】
MspA変異体の状態の変動はまた、HLと比較して減少する。これは、上記痕跡における事象の標準偏差によって示される(
図2および3)。上記の鎖の場合、MspA鎖の全ての事象にわたる標準偏差の平均は、HLの4.5と比較して3.6であった。状態の小さい変動は、事象電流レベルの正確な評価を可能にするには望ましい。
【実施例6】
【0263】
MS−(B1)8ベースラインとMS−(B1−I105)8変異体との開孔電流比較
MspA細孔の電流レベルは、タンパク質中のI105位を変異させることによって制御できる。MspAモノマーに単一の変異を作ることにより、開孔電流を80%超増加できることを実証する。
【0264】
次の条件下で、単一のチャネルを脂質膜に挿入した:400mM KCl、10mM Hepes pH8.0、室温。開孔電流レベルを、−200mV〜200mVの印加電位の範囲にわたって記録して、I−V曲線を作製した。いくつかの細孔について実験を繰り返して、サンプルの分布を算定した。I−V曲線実験に由来するデータの例が、見られる(
図4)。
【0265】
実験において、ベースラインMS−(B1)8変異体は、+160mVでおよそ150pAの開孔電流を有する細孔を生成する(
図5)。
【0266】
高い残留電流を伴う多くの細孔を表すMS−(B1−I105Y)8変異体を用いて実験を繰り返した。これらチャネルの場合、開孔電流は+160mVでおよそ200pAであった(
図6)。
【0267】
電流レベルの2つの主な分布を表すMS−(B1−I105N)8変異体を用いて実験を繰り返した。16個の細孔のうち10個は、密な分布で高い残留電流を生じた。これらチャネルの場合、開孔電流は、+160mVでおよそ280pAであった(
図7)。
【実施例7】
【0268】
自発的に伝導性を変化させるMS−(B1−I105A)8細孔
MspA変異体細孔が、電気的記録実験の間に自発的に伝導性を変化させることが観察された。
【0269】
電気的な測定は、実施例6において説明したように、MS−(B1−I105A)8変異体細孔を使用して得られた。
【0270】
単一のMspA変異体細孔は、高低の伝導性状態の間で自発的に入れ替ることが可能である(
図8)。これは、MspAに対する変異により、ベースラインMS−(B1)8細孔においてまれに観察される立体構造変化が起こり得ることを示唆している。I105位における変異は、細孔の高い伝導性状態を安定させる可能性がある。
【実施例8】
【0271】
ベースラインMS−(B1)8細孔を通るDNAの移動を、MS−(B1−I105A)8細孔と比較したときのDNA電流の比較
MS−(B1)
8細孔とMS−(B1−I105N)
8細孔とを、Phi29DNAポリメラーゼを使用して、アンジッピングモードで400mM KCl、10mM Hepes、1mM EDTA、1mM DTT、pH8.0、+180mVに設定した物理的条件で比較した。この実験において使用したDNAは、34マーの一本鎖5’突出を持つ100マーのヘアピンであった(配列番号15)。実験は、室温で実行された。
【0272】
電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出され、これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0273】
MS−(B1)
8変異体を通って移動するDNA鎖に由来する電流レベルの広がりは、これらの条件下で30pA以下であった(
図9)。MS−(B1−I105A)
8変異体を使用して同じ実験が繰り返され、電流レベルは同じDNA鎖について40pA以下の範囲を表した(
図10)。ナノ細孔内のヌクレオチドの組合せを識別するためには、MS−(I105A)
8変異体のより大きな電流範囲が望ましい。
【実施例9】
【0274】
MS−(B1−L88N)8変異体とMS−(B1)8ベースラインとのシグナルノイズ比較
MspA細孔のノイズレベルは、MspAモノマー配列中のL88位を変異させることによって制御できる。MspAモノマーに単一の変異を作ることにより、ノイズレベルを19%減らせることが実証された。
【0275】
この実施例は、ヘリカーゼを使用してナノ細孔を通る完全なDNA鎖の移動を制御することにより、移行モードでMS−(B1)8細孔とMS−(B1−L88N)8細孔とを比較する。
【0276】
材料
プライマーは、PhiX174の400bp以下の断片を増幅するように設計された。これらプライマーの5’−末端の各々は、50ヌクレオチドの非賞賛(complimentary)の領域(ホモポリマー範囲または10ヌクレオチドホモポリマーセクションの繰り返し単位)を含んだ。これらは、ナノ細孔を通る鎖の移行を制御するための識別子として役立ち、ならびに移行の方向性を決定している。加えて、フォワードプライマーの5’−末端は「キャップ化」されて、4つの2’−O−メチルウラシル(mU)ヌクレオチドを含み、リバースプライマーの5’−末端は化学的にリン酸化された。次いで、これらのプライマー修飾により、ラムダエキソヌクレアーゼを使用すると、主にアンチセンス鎖だけを消化する制御が可能になる。mUキャッピングはヌクレアーゼ消化からセンス鎖を保護するが、アンチセンス鎖の5’のPO4は消化を進める。したがって、ラムダエキソヌクレアーゼとインキュベーションした後には、二本鎖のセンス鎖だけが、一本鎖DNA(ssDNA)として無傷で残る。次いで、生成したssDNAを、前述のとおりPAGE精製した。
【0277】
この実験に使用したDNA基質の設計を、
図11に示す(配列番号19および20(以下に配列およびタグを提示する))。DNA基質は、ナノ細孔による捕捉を補助するための50個のTの5’−リーダーを持つPhiXに由来するssDNAの400塩基のセクションを含む。二重層の表面にDNAを濃縮し、したがって捕捉効率を改善するために、3’コレステロールタグ(3’コレステリル−TEG)を含有するプライマーを、この鎖の50Tリーダー直後にアニールする。
【0278】
配列番号19
mUmUmUmUTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTGGTTGTTTCTGTTGGTGCTGATATTGCTTTTGATGCCGACCCTAAATTTTTTGCCTGTTTGGTTCGCTTTGAGTCTTCTTCGGTTCCGACTACCCTCCCGACTGCCTATGATGTTTATCCTTTGAATGGTCGCCATGATGGTGGTTATTATACCGTCAAGGACTGTGTGACTATTGACGTCCTTCCCCGTACGCCGGGCAATAACGTTTATGTTGGTTTCATGGTTTGGTCTAACTTTACCGCTACTAAATGCCGCGGATTGGTTTCGCTGAATCAGGTTATTAAAGAGATTATTTGTCTCCAGCCACTTAAGTGAGGTGATTTATGTTTGGTGCTATTGCTGGCGGTATTGCTTCTGCTCTTGCTGGTGGCGCCATGTCTAAATTGTTTGGAGGCGGTC
【0279】
配列番号20(プラス3’コレステリル−TEGタグ)GCAATATCAGCACCAACAGAAACAACCTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT/3CholTEG/
【0280】
実験方法
緩衝溶液:400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl
2、1mM DTT
ナノ細孔:MS(B1)8MspA;
MS(B1−L88N)8MspA
酵素:ヘリカーゼ
電気的な測定は、1,2−ジフィタノイル−グリセロ−3−ホスホコリン脂質(Avanti Polar Lipids)二重層に挿入された単一のMspAナノ細孔から得られた。2つの1mL緩衝液に分離している(特注のデルリンチャンバ内の)厚さ20μmのPTFE薄膜にある直径100μm以下の開口部を横切って、Montal−Mueller技術により、二重層が形成された。全ての実験は、記載の緩衝液で実施された。単一チャネルの電流を、1440Aデジタイザを備えているAxopatch200B増幅器(Molecular Devices)で測定した。シス区画(ナノ細孔と酵素/DNA両方が添加されている)をAxopatchヘッドステージのアースに接続し、トランス区画をヘッドステージの活性電極に接続できるように、Ag/AgCl電極を緩衝液に接続した。
【0281】
二重層中にMS(B1)8またはMS(B1−L88N)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号19および20)ならびにヘリカーゼを緩衝液100μLに添加し、5分間プレインキュベートした(DNA=1.5nM、酵素=1μM)。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液900μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるヘリカーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=0.15nM、酵素=0.1μMを得る)。ヘリカーゼATPアーゼ活性は、シス区画に二価金属(1mM MgCl
2)およびNTP(1mM ATP)を添加することによって、必要に応じて開始された。実験は、+140mVの定電位で実施された。電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出され、これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0282】
MspA細孔MS−(B1)8を使用した場合、検出された事象の31.08%は、+140mVの印加電位で標準偏差>2.0であった(追加的なデータを表18にまとめた)。MS−(B1−L88N)8変異体を用いて実験を繰り返し、検出された事象のわずか12.38%が、+140mVの印加電位で2.0より大きい標準偏差を表した(追加的なデータを表18にまとめた)。したがって、MspAモノマー配列中のL88における点突然変異は、観察されるノイズ範囲を19%減少させた。
【0283】
【表18】
【実施例10】
【0284】
MS−(B1−L88N)8、MS−(B1−L88S)8およびMS−(B1−L88Q)8変異体とMS−(B1)8ベースラインとのシグナルノイズ比較
MspA細孔のノイズレベルは、タンパク質中のL88位を変異させることによって改変できる。MspAモノマーに単一の変異を作ることにより、ノイズレベルを減少させられることが実証された。
【0285】
この実施例は、Phi29DNAポリメラーゼを使用してナノ細孔を通る完全なDNA鎖の移動を制御することにより、アンジッピングモードでMS−(B1)8細孔とMS−(B1−L88N)8、MS−(B1−L88S)8およびMS−(B1−L88Q)8細孔とを比較する。この実施例に記載されている全ての実験に使用したDNA基質の設計を、
図12に示す(配列番号21、22および23)。以下に示すように、配列番号23はIDT Int Spacer9(iSp9)および3’コレステリル−TEG(3CholTEG)を用いてタグ付けされた。実験は、室温で、+180mVの印加電位で実行された。
【0286】
配列番号23:
CAGCGATGGAGATAC/iSp9//3CholTEG/
【0287】
実験方法
緩衝液:400mM KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM EDTA、1mM DTT
細孔:MS(B1)8MspA;
MS(B1−L88N)8MspA;
MS(B1−L88S)8MspA;
MS(B1−L88Q)8MspA;
酵素:Phi29DNAポリメラーゼ配列番号4
電気的な測定は、実施例9に記載のとおり得られた。二重層中にMS(B1)8、MS(B1−L88N)8、MS(B1−L88S)8またはMS(B1−L88Q)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号21、22および23)ならびにPhi29DNAポリメラーゼを緩衝液100μLに添加し、5分間プレインキュベートした。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液900μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるポリメラーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=0.5nM、酵素=0.1μMを得る)。実験は、+180mVの定電位で実施された。DNAが酵素に結合している状態にあるとき、観察された電流レベルが索引付けされ、電流レベル、その継続時間および変動が記録された。
【0288】
実験において、ベースラインMS−(B1)8変異体は、+180mVで高レベルのノイズ(76.15%が標準偏差>2.0、表19を参照のこと)を表した。試験した他の3つの変異体、L88位に単一点突然変異を有する(MS−(B1−L88N)8、MS−(B1−L88S)8およびMS−(B1−L88Q)8)の全てが、同じDNA鎖配列に対してベースライン細孔より低いノイズレベル(表19を参照のこと)が観察された。したがって、MspAモノマー配列中のL88位に点突然変異を適用することによってシグナルノイズを減らすことが可能になった。
【0289】
【表19】
【実施例11】
【0290】
他のMspA変異体とMS−(B1)8ベースラインとの全シグナル範囲の比較
MspA細孔のシグナル範囲は、MspAタンパク質モノマー配列中の様々な位置を変異させることによって増加させることができる。
【0291】
この実施例は、Phi29DNAポリメラーゼを使用してナノ細孔を通る完全なDNA鎖の移動を制御することにより、アンジッピングモードでMS−(B1)8細孔と次の細孔−MS−(B1−D90Q)8、MS−(B1−I105L)8、MS−(B1−I105Y)8、MS−(B1−I89Y−D90S)8、MS−(B1−N86T)8およびMS−(B1−S103G)8−細孔とを比較する。この実施例に記載されている全ての実験に使用したDNA基質の設計を、
図12に示す(配列番号21、22および23)。iSp9および3CholTEGでタグ付けされた配列番号23を上に示す。実験は、室温で、+180mVの印加電位で実行された。DNAが酵素に結合している状態にあるとき、観察された電流レベルが索引付けされ、電流レベル、その継続時間および変動が記録された。
【0292】
実験方法
緩衝液:400mM KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM EDTA、1mM DTT
ナノ細孔:MS(B1)8MspA;
MS(B1−D90Q)8MspA;
MS−(B1−I105L)8MspA;
MS−(B1−I105Y)8MspA;
MS−(B1−I89Y−D90S)8MspA;
MS−(B1−N86T)8MspA;
MS−(B1−S103G)8MspA;
酵素:Phi29DNAポリメラーゼ配列番号4
電気的な測定は、実施例10に記載のとおり得られた。二重層中にMS(B1)8、MS(B1−D90Q)8、MS(B1−I105L)8、MS(B1−I105Y)8、MS−(B1−I189Y−D90S)8、MS−(B1−N86T)8またはMS−(B1−S103G)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号21、22および23)ならびにPhi29DNAポリメラーゼを緩衝液100μLに添加し、5分間プレインキュベートした。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液900μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるポリメラーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=0.5nM、酵素=0.1μMを得る)。実験は、+180mVの定電位で実施された。DNAが酵素に結合している状態にあるとき、観察された電流レベルが索引付けされ、電流レベル、その継続時間および変動が記録された。
【0293】
実験において、ベースラインMS−(B1)8変異体は、+180mVで35pAの最大範囲を表した(表20)。試験した他の6つの変異体、MS(B1−D90Q)8、MS−(B1−I105L)8、MS−(B1−I105Y)8、MS−(B1−I89Y−D90S)8、MS−(B1−N86T)8およびMS−(B1−S103G)8の全てで、同じDNA鎖配列に対してベースライン細孔より大きな最大範囲(表20を参照のこと)が観察された。したがって、MspAモノマー配列中の様々な位置に点突然変異を適用することによってシグナル範囲を増やすことが可能になった。
【0294】
【表20】
【実施例12】
【0295】
他のMspA変異体とMS−(B1)8ベースラインとの全配列決定プロファイルの比較
MspA細孔の配列決定プロファイルは、MspAタンパク質モノマー配列中の多様な位置を変異させることによって制御することができる。
【0296】
この実施例は、ヘリカーゼを使用してナノ細孔を通る完全なDNA鎖の移動を制御することにより、移行モードでMS−(B1)8細孔をMS−(B1−D90Q−D93S−I105A)8、MS−(B1−D90Q−Q126R)8、MS−(B1−L88N−D90Q−D91M)8、MS−(B1−L88N−D90Q−D91S)8およびMS−(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8細孔と比較する。
【0297】
実験方法
緩衝液:400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl
2、1mM DTT
ナノ細孔:MS(B1)8MspA;
MS(B1−D90Q−D93S−I105A)8MspA;
MS(B1−D90Q−Q126R)8MspA;
MS(B1ーL88N−D90Q−D91M)8MspA;
MS(B1−L88N−D90Q−D91S)8MspA;
MS(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8MspA;
酵素:ヘリカーゼ
実験の組み立ては、実施例9に記載のとおり実施された。二重層中にMS−(B1)8、MS−(B1−D90Q−D93S−I105A)8、MS−(B1−D90Q−Q126R)、MS−(B1−L88N−D90Q−D91M)8、MS−(B1−L88N−D90Q−D91S)8またはMS−(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号19および20(配列およびタグを上に示した))ならびにヘリカーゼを緩衝液100μLに添加し、5分間プレインキュベートした(DNA=1.5nM、酵素=1μM)。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液900μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるヘリカーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=0.15nM、酵素=0.1μMを得る)。ヘリカーゼATPアーゼ活性は、シス区画に二価金属(1mM MgCl
2)およびNTP(1mMATP)を添加することによって、必要に応じて開始された。実験は、+140mVの定電位で実施された。DNAが酵素に結合している状態にあるとき、観察された電流レベルが索引付けされ、電流レベル、その継続時間および変動が記録された。
【0298】
実験において、ベースラインMS−(B1)8変異体は、
図13aに示す配列決定プロファイルを作製した。多様な異なる配列決定プロファイルを表す次の変異体MS−(B1−D90Q−D93S−I105A)8、MS−(B1−D90Q−Q126R)、MS−(B1−L88N−D90Q−D91M)8、MS−(B1−L88N−D90Q−D91S)8およびMS−(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8を用いて実験を繰り返した、(
図13b〜fを参照のこと)。したがって、MspAモノマー配列中の多様な位置に点突然変異を作ることによって、検出される配列決定プロファイルを改変することが可能になる。
【実施例13】
【0299】
MS−(B1)8ベースライン細孔を使用するRNA鎖配列の分析
この実施例は、Phi29DNAポリメラーゼと合わせたMspAベースライン細孔MS−(B1)8を使用して、RNA鎖を配列決定できる方法について記載している。
【0300】
この実施例は、Phi29DNAポリメラーゼを使用してナノ細孔を通る完全なRNA鎖の移動を制御することにより、アンジッピングモードでMS−(B1)8細孔を使用する。この実験に使用したRNA/DNA混成基質の設計を、
図14(配列番号24および25)に示す。配列番号24および25を以下に提示している(RNAは太字)。実験は、室温で、+180mVの印加電位で実行された。
【0301】
配列番号24:
5’OH−CCCCCCCCCCCCCCCACCCCCCCCCCCCCCCCCCCUAUUCUGUUUAUGUUUCUUGUUUGU−3’OH
【0302】
配列番号25(プラスコレステロールタグ):
5’Phos−UAUUCUGUUUAUGUUUCUUGUUUGUUAGCCCCCUUUGAUAAGACAAAUACAAAGAACAAA−3’Chol
【0303】
材料
RNA/DNA混成鎖(長さ120マー)を合成するには、配列番号24と25を一緒にライゲーションする必要があった。これは、相補的なDNAアダプター鎖配列番号26を使用して、2本の鎖を近接近させることにより得られ、その後、それらを一緒にライゲーションし、120マーのDNA/RNA混成物、配列番号27を形成する。
【0304】
配列番号27(プラスコレステロールタグ;RNAは太字):
5’OH−CCCCCCCCCCCCCCCACCCCCCCCCCCCCCCCCCCUAUUCUGUUUAUGUUUCUUGUUUGUUAUUCUGUUUAUGUUUCUUGUUUGUUAGCCCCCUUUGAUAAGACAAAUACAAAGAACAAA−3’Chol
【0305】
実験方法
緩衝液:400mM KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM EDTA、1mM DTT
ナノ細孔:MS(B1)8MspA;
酵素:Phi29DNAポリメラーゼ配列番号4
電気的な測定は、実施例10に記載のとおり得られた。二重層中にMS(B1)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号24および25)ならびにPhi29DNAポリメラーゼを緩衝液100μLに添加し、5分間プレインキュベートした。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液900μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるポリメラーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=0.2nM、酵素=0.2μMを得る)。実験は、+180mVの定電位で実施された。電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出され、これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0306】
実験において、分子モーターとしてのPhi29DNAポリメラーゼと合わせたベースラインMS−(B1)8変異体を観察して、RNA鎖が細孔に通されるときの異なる電流レベルを検出した。次いで、これらの電流シグナルを使用して、標的の配列を決定した。Phi29DNAポリメラーゼアンジッピングモードにおける典型的なRNA移行事象を、
図15に示す。
【実施例14】
【0307】
細孔形成のためのMspAダイマーおよびオリゴマー化
この実施例は、MspAダイマーの調製およびオリゴマー化について記載している。
【0308】
ダイマーの調製
MspA NNNRRK単量体タンパク質は、184アミノ酸残基からなる。MspA−NNNRRKタンパク質のダイマー版を作るために、単一のポリペプチドが設計された。
【0309】
184残基MspA−NNNRRKポリペプチドをコードしているDNA配列が、短いDNAリンカー配列を介して、同一のポリペプチド鎖をコードしている第2のDNA配列と連結された。リンカーDNA配列は、SGSGSGDDDDDDDDSGSGSS(配列番号33;−(SG)
3−D
8−(SG)
2(SS)−と示す)をコードしている。第1塩基の直前に開始コドン(ATG)を付け加え、2つの停止コドン(TAATAG)をコードしているDNAを最後の塩基の後に付け加えた。これにより、MspA−NNNRRK−(SG)
3−D
8−(SG)
2(SS)−MspA−NNNRRKをコードしている全長DNA配列を、配列番号28に示す。
【0310】
DNAを、GenScript USA Incで合成し、発現目的用のpT7ベクターにクローニングした。
【0311】
環状DNA用として大腸菌(E. coli)T7−S30抽出物システム(Promega)を使用して、in vitroで転写と翻訳を連動させた(IVTT)によってタンパク質を生成した。
【0312】
システインなしの完全な1mMアミノ酸混合物とメチオニンなしの完全な1mMアミノ酸混合物とを等容量で混合して、高濃度のタンパク質を生成するのに必要な作業用アミノ酸溶液を得た。アミノ酸混合物(2.5.0μL)、予混合溶液(10μL)、[35S]L−メチオニン(0.5μL)およびリファンピシン(2μL、50mg/mL)を、プラスミドDNA(4μL、400ng/mL)およびT7S30抽出物(7.5μL)と混合した。合成を、37℃で90分間実施して、MspA−NNNRRKモノマーおよびダイマーのIVTTタンパク質25μLを生成した。反応後に、サンプルを25,000gで10分間遠心分離し、上清を破棄した。ペレットをMBSA(1mg/mL BSAを含有する10mM MOPS、150mM NaCl、pH7.4)100μLで洗浄し、薄膜サンプル緩衝液25μLに再懸濁した。サンプルを、10%ゲルのSDS−PAGEに供した。ゲルを、80℃で45分間乾燥させ、X線フィルムに2時間感光させた。ゲルは2本の異なるバンドを示し、1つがMspAダイマーにおよび1つがMspAモノマーに相当した。
【0313】
モノマーおよびダイマーのオリゴマー化
ダイマーおよび、それとは別にモノマーの発現を、合成脂質小胞の存在下で実施して、オリゴマー化を促進させた。5成分の脂質混合物を使用した(PS:SM:PE:PC:コレステロールを10:10:20:30:30の比率で、25mg/mL)。脂質混合物50μLを、1.5mLエッペンドルフチューブ中で、25,000gで10分間遠心分離し、上清を破棄した。システインなしの完全な1mMアミノ酸混合物とメチオニンなしの完全な1mMアミノ酸混合物とを等容量で混合して、高濃度のタンパク質を生成するのに必要な作業用アミノ酸溶液を得た。膜ペレットを、アミノ酸混合物(10.0μL)、予混合溶液(40μL)、[35S]L−メチオニンおよびリファンピシン(2μL、50mg/mL)で再懸濁した。プラスミドDNA(16μL,400ng/mL)およびT7 S30抽出物(30.0μL)を添加して、合成を開始した。合成を、37℃で90分間実施して、IVTTタンパク質100μLを生成した。IVTT反応サンプルを遠心分離(25,000g、10分間)し、得られた膜ペレットをMBSAで洗浄し、7.5%ゲルのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。ゲルを、ワットマン3M紙上で、50℃で3時間乾燥させ、X線フィルムに2時間感光させた。ゲルは、オリゴマー化したMspAダイマーに対する8本の異なるバンドを示し、その全てが、SDS PAGEにおいてオリゴマー化したモノマーより遅く移動した。
【0314】
二重層に対するタンパク質精製実験
ダイマーオリゴマー化実験に由来する3本のタンパク質バンドをゲルから切り出し、精製した。オートラジオグラムを型として使用して、バンドを切り出し、緩衝液(25mM トリスHCl、pH8.0 150〜200μL)に再水和した。紙を取り除き、乳棒を使用してゲル片を破砕した。スラリーを、25,000xgで10分間遠心分離することにより、QIAshredderカラム(Qiagen)を通して濾過した。次いで、モノマーレベルの第3のバンドから得られたタンパク質を、実施例15に記載の電気生理学実験に使用した。
【実施例15】
【0315】
モノマーからオリゴマー化されたMS−(B1)8とダイマーからオリゴマー化されたMS−(B1−B1)4との比較
この実施例は、ヘリカーゼを使用してナノ細孔を通る完全なDNA鎖(配列番号19および20(配列およびタグを上に示す))の移動を制御することにより、移行モードでモノマー(配列番号2)からオリゴマー化されたMS−(B1)8細孔とダイマー(配列番号29)からオリゴマー化されたMS−(B1−B1)4細孔とを比較する。
【0316】
実験方法
緩衝液:400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl
2、1mM DTT
ナノ細孔:MS−(B1)8;
MS−(B1−B1)4
酵素:ヘリカーゼ
電気的な測定は、銀メッキされた128ウェルシリコンチップ(形式、直径75μm、深さ20μm、間隔250μm)を使用して得られた(WO 2009/077734)。最初に、チップを20mLエタノール、次いで20mL dH
2O、そして20mLエタノールで洗浄した後にCF4プラズマ処理した。次いで、使用されるチップを浸漬被覆によって前処理し、真空密閉し、4℃で貯蔵した。使用前に、チップを最低20分間、室温で暖めた。
【0317】
1M KCl、10mMトリス、pH7.5に溶解した3.6mg/mL 1,2−ジフィタノイル−グリセロ−3−ホスホコリン脂質(DPhPC、Avanti Polar Lipids、AL、USA)を含む一連のスラグを、チップ全面に0.45μL/秒で通すことによって二重層を形成した。最初に、脂質スラグ(250μL)をチップ全面に流し、その後空気スラグ100μLを流した。次いで、スラグ155μLと脂質溶液150μLをさらに2回、各々を空気スラグ100μLで区切って、チップ全体に通した。二重層を形成した後に、チャンバを、流速3μL/秒で緩衝液3mLを用いて洗浄した。二重層形成の電気的な記録を、集積キャパシタンス1.0pFで、10kHzで実施した。
【0318】
モノマーからオリゴマー化されたMS−(B1)8細孔またはダイマーからオリゴマー化されたMS−(B1−B1)4細孔を使用して、10mMトリス、1mM EDTA、pH8.0中に生物学的ナノ細孔の溶液を調製した。+180mVの保持電位を印加し、溶液をチップ表面に流し、細孔に二重層を侵入させた。次いで、サンプリング率と集積キャパシタンスをそれぞれ10kHzおよび1.0pFに維持し、印加電位を0まで下げた。
【0319】
+180mVの保持電位を印加する制御プログラムを実行した。DNAポリヌクレオチド(配列番号19および20)とヘリカーゼを、5分間プレインキュベーションした。次いで、このプレインキュベーション混合物(MgCl
2とATPを含む)をチップ表面に流して、MspAナノ細孔中におけるヘリカーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=1.5nM、酵素=10nMを得る)。実験は、+180mVの定電位で実施された。電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出された。これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0320】
実験において、ダイマーのオリゴマー化により形成されたベースラインMS−(B1−B1)4変異体細孔は、モノマーのオリゴマー化により形成されたMS(B1)8細孔と同程度に効果的に脂質二重層に挿入された(MS(B1)8およびMS−(B1−B1)4の細孔挿入を示す
図16を参照のこと)。モノマーおよびダイマーがオリゴマー化した細孔が、分子モーターとしてのヘリカーゼと合わされる場合、DNA鎖が細孔に通されるときに異なる電流レベルを検出することができた。ヘリカーゼ移行モードでの典型的なDNA移行事象を、モノマーのオリゴマー化により形成されるMS−(B1)8細孔については
図17に、ダイマーからのオリゴマー化により形成されるMS−(B1−B1)4細孔については
図18に示す。したがって、ダイマー単位からオリゴマー化されたMS−(B1−B1)4細孔変異体が、モノマー単位からオリゴマー化されたMS−(B1)8細孔変異体と同程度に優れた細孔になることが判明した。
【実施例16】
【0321】
5−メチルシトシンとシトシンとを区別するためのMS−(B1−L88N)8変異体MspA細孔の使用
この実施例は、MspAのMS−(B1−L88N)8変異体細孔を使用して、シトシンとその後成的に修飾された塩基である5−メチルシトシンとを区別できる方法について記載している。この実験に使用したDNA基質設計を、
図19に示し、次の配列を有する:TTTTTTTTT/idSp/TTTTTTTTmCTTTTTTTTCTTTTTTTTmCGTTTTTTTTCGTTTTTTTTGTATCTCCATCGCTGCCCCCTTTTTCCCCCTTTTT(9個のTヌクレオチドおよび5’末端にIDT Int dスペーサ(idSp)を持つ配列番号30である)。mCは、5−メチルシトシンGGCAGCGATGGAGATACTTGAGGCGAGCGGTCAA(配列番号31)および5CholTEG/TTGACCGCTCGCCTC(5’コレステリルTEGタグを持つ配列番号32)を表している。
【0322】
材料
図19に示したDNA鎖構築物を形成するには、配列番号30、31および32を同時にハイブリダイズさせる必要があった。これは、3つ全ての鎖を同時にプレインキュベートすることによって実施された。
【0323】
実験方法
緩衝液:1M KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl
2、1mM DTT
ナノ細孔:MS(B1−L88N)8MspA
酵素:ヘリカーゼ
実験の組み立ては、実施例9に記載のとおり実施された。二重層中にMS−(B1−L88N)8の単一細孔を得た後に、DNAポリヌクレオチド(配列番号30、31および32)ならびにヘリカーゼを緩衝液50μLに添加し、5分間プレインキュベートした(DNA=5nM、酵素=100nM)。電気生理学チャンバのシス区画内の緩衝液950μLにこのプレインキュベーション混合物を添加して、MspAナノ細孔中におけるヘリカーゼ−DNA複合体の捕捉を開始した(最終濃度DNA=5nM、酵素=100nMを得る)。ヘリカーゼATPアーゼ活性は、シス区画に二価金属(1mM MgCl
2)およびNTP(1mM ATP)を添加することによって、必要に応じて開始された。実験は、+120mVの定電位で実施された。電流レベルが、酵素結合している状態のDNAに由来する事象として抽出された。これらの事象が索引付けされ、電流レベル、継続時間および事象の変動が記録された。
【0324】
実験において、シトシンおよび5−メチルシトシンが、ヘリカーゼの制御下でMS−(B1−L88N)8細孔を通って移行するときに、異なる電流レベルを発生することが観察された(
図20を参照のこと)。したがって、MspAのこのバリアントを使用すれば、シトシンとその後成的に修飾された塩基である5−メチルシトシンとを区別することができる。
本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
配列番号2に示される配列のバリアントを含む変異体Mspモノマーであって、前記バリアントが以下の変異:
(a)88位にアスパラギン(N)、セリン(S)、グルタミン(Q)またはトレオニン(T);
(b)90位にセリン(S)、グルタミン(Q)またはチロシン(Y);
(c)105位にロイシン(L)またはセリン(S);
(d)126位にアルギニン(R);
(e)75位にセリン(S);
(f)77位にセリン(S);
(g)59位にアルギニン(R);
(h)75位にグルタミン(Q)、アスパラギン(N)またはトレオニン(T);
(i)77位にグルタミン(Q)、アスパラギン(N)またはトレオニン(T);
(j)78位にロイシン(L);
(k)81位にアスパラギン(N);
(l)83位にアスパラギン(N);
(m)86位にセリン(S)またはトレオニン(T);
(n)87位にフェニルアラニン(F)、バリン(V)またはロイシン(L);
(o)88位にチロシン(Y)、フェニルアラニン(F)、バリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、グリシン(G)またはシステイン(C);
(p)89位にフェニルアラニン(F)、バリン(V)またはロイシン(L);
(q)90位にロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン(N)またはシステイン(C);
(r)91位にセリン(S)、グルタミン(Q)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、イソロイシン(I)、アラニン(A)、バリン(V)、グリシン(G)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、ヒスチジン(H)、トレオニン(T)、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン(N)またはシステイン(C);
(s)92位にアラニン(A)またはセリン(S);
(t)93位にセリン(S)、アラニン(A)、トレオニン(T)、グリシン(G);
(u)94位にロイシン(L);
(v)95位にバリン(V);
(w)96位にアルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、バリン(V)、アスパラギン(N)、セリン(S)またはトレオニン(T);
(x)97位にセリン(S);
(y)98位にセリン(S);
(z)99位にセリン(S);
(aa)100位にセリン(S);
(bb)101位にフェニルアラニン(F);
(cc)102位にリシン(K)、セリン(S)またはトレオニン(T);
(dd)103位にアラニン(A)、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、グリシン(G)またはトレオニン(T);
(ee)104位にイソロイシン;
(ff)105位にチロシン(Y)、アラニン(A)、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、トレオニン(T)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、グリシン(G)、バリン(V)、アルギニン(R)、リシン(K)、プロリン(P)またはシステイン(C);
(gg)106位にフェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、バリン(V)またはセリン(S);
(hh)108位にプロリン(P)またはセリン(S);
(ii)118位にアスパラギン(N);
(jj)103位にセリン(S)またはシステイン(C);
(kk)10〜15、51〜60、136〜139および168〜172位のうちの1つまたは複数にシステイン
の少なくとも1つを含む、変異体。
[2]
前記バリアントが、次の置換:
(a)(i)75位にセリン(S)、(ii)77位にセリン(S)、(iii)88位にアスパラギン(N)、(iv)90位にグルタミン(Q)および(v)126位にアルギニン(R)の1つまたは複数;
(b)(i)90位にグルタミン(Q)および(ii)126位にアルギニン(R)の1つまたは複数;
(c)(i)88位にアスパラギン(N)、(ii)90位にグルタミン(Q)および(iii)126位にアルギニン(R)の1つまたは複数;
(d)(i)88位にセリン(S)および(ii)90位にグルタミン(Q)の1つまたは複数;
(e)(i)88位にアスパラギン(N)および(ii)90位にグルタミン(Q)の1つまたは複数;
(f)(i)90位にグルタミン(Q)および(ii)105位にアラニン(A)の1つまたは複数;
(g)(i)90位にセリン(S)および(ii)92位にセリン(S)の1つまたは複数;
(h)(i)88位にトレオニン(T)および(ii)90位にセリン(S)の1つまたは複数;
(i)(i)87位にグルタミン(Q)および(ii)90位にセリン(S)の1つまたは複数;
(j)(i)89位にチロシン(Y)および(ii)90位にセリン(S)の1つまたは複数;
(k)(i)88位にアスパラギン(N)および(ii)89位にフェニルアラニン(F)の1つまたは複数;
(l)(i)88位にアスパラギン(N)および(ii)89位にチロシン(Y)の1つまたは複数;
(m)(i)90位にセリン(S)および(ii)92位にアラニン(A)の1つまたは複数;
(n)(i)90位にセリン(S)および(ii)94位にアスパラギン(N)の1つまたは複数;
(o)(i)90位にセリン(S)および(ii)104位にイソロイシン(I)の1つまたは複数;
(p)(i)88位にアスパラギン酸(D)および(ii)105位にリシン(K)の1つまたは複数;
(q)(i)88位にアスパラギン(N)および(ii)126位にアルギニン(R)の1つまたは複数;
(r)(i)88位にアスパラギン(N)、(ii)90位にグルタミン(Q)および(iii)91位にアルギニン(R)の1つまたは複数;
(s)(i)88位にアスパラギン(N)、(ii)90位にグルタミン(Q)および(iii)91位にセリン(S)の1つまたは複数;
(t)(i)88位にアスパラギン(N)、(ii)90位にグルタミン(Q)および(iii)105位にバリン(V)の1つまたは複数;
(u)(i)90位にグルタミン(Q)、(ii)93位にセリン(S)および(iii)105位にアラニン(A)の1つまたは複数;
(v)(i)90位にフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)またはヒスチジン(H)、(ii)91位にフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)またはヒスチジン(H)および(iii)105位にフェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)またはヒスチジン(H)の1つまたは複数;
(w)(i)90位にセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)またはバリン(V)、(ii)91位にセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)またはバリン(V)および(iii)105位にセリン(S)、トレオニン(T)、グリシン(G)、アラニン(A)またはバリン(V)の1つまたは複数;
(x)90位にセリン(S)、アルギニン(R)、リシン(K)またはヒスチジン(H)および/または91位にセリン(S)、アルギニン(R)、リシン(K)またはヒスチジン(H);
(y)90位にセリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H)および/または91位にセリン(S)、トレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、チロシン(Y)もしくはヒスチジン(H);ならびに
(z)90、91および103位の1つまたは複数にシステイン
の1つまたは複数を含む、上記[1]に記載の変異体。
[3]
前記バリアントが、次の置換(複数可):
の少なくとも1つを含む、上記[1]または[2]に記載の変異体。
[4]
化学修飾されている、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の変異体。
[5]
1つもしくは複数のシステインへの分子の付着、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着、エピトープの酵素修飾または末端の修飾によって化学修飾されている、上記[4]に記載の変異体。
[6]
前記1つまたは複数のシステインが、置換により前記変異体に導入されている、上記[5]に記載の変異体。
[7]
前記分子が、(a)前記モノマーを含む細孔と標的ヌクレオチドもしくは標的核酸配列との相互作用を促進する分子アダプターまたは(b)核酸結合タンパク質である、上記[5]または[6]に記載の変異体。
[8]
前記付着がリンカーを介している、上記[5]から[7]のいずれか一項に記載の変異体。
[9]
前記分子が、配列番号2の90、91および103位の1つまたは複数に付着している、上記[5]から[8]のいずれか一項に記載の変異体。
[10]
Mspから得られる共有結合したモノマーを2個以上含む構築物。
[11]
前記2個以上のモノマーが、同じまたは異なっている、上記[10]に記載の構築物。
[12]
少なくとも1つのモノマーが、配列番号2に示される配列を含む、上記[10]または[11]に記載の構築物。
[13]
前記モノマーの少なくとも1つが、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の変異体モノマーである、上記[10]から[12]のいずれか一項に記載の構築物。
[14]
2個のモノマーを含み、前記モノマーの少なくとも1つが、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の変異体である、上記[10]から[13]のいずれか一項に記載の構築物。
[15]
前記モノマーが遺伝学的に融合されている、上記[10]から[14]のいずれか一項に記載の構築物。
[16]
前記モノマーがリンカーを介して付着している、上記[10]から[15]のいずれか一項に記載の構築物。
[17]
上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の変異体または上記[15]に記載の構築物をコードするポリヌクレオチド。
[18]
上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の同一の変異体モノマーを含むMspから得られる、ホモオリゴマー細孔。
[19]
前記細孔が、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の同一の変異体モノマー8個を含む、上記[18]に記載のホモオリゴマー細孔。
[20]
上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の変異体モノマーを少なくとも1つ含み、全8個のモノマーのうち少なくとも1つが他と異なっている、Mspから得られるヘテロオリゴマー細孔。
[21]
前記細孔が、上記[1]に記載の変異体モノマー8個を含み、そのうちの少なくとも1つが他と異なっている、上記[20]に記載のヘテロオリゴマー細孔。
[22]
前記細孔が、配列番号2に示される配列を含む少なくとも1つのモノマーを含む、上記[21]に記載のヘテロオリゴマー細孔。
[23]
前記細孔が、(a)1個の変異体モノマーおよび(b)7個の同一のモノマーを含み、(a)の前記変異体モノマーが(b)の前記同一のモノマーとは異なっている、上記[21]または[22]に記載のヘテロオリゴマー細孔。
[24]
前記細孔が、
(a)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換N90R、N90K、N90Y、N90Q、N90WもしくはN90Cを含む変異体モノマー1個;
(b)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換N91R、N91K、N91Y、N91Q、N91WもしくはN91Cを含む変異体モノマー1個;または、
(c)配列番号2に示される配列を含むモノマー7個および置換L88C、S103CもしくはI105Cを含む変異体モノマー1個
を含む、上記[21]から[23]のいずれか一項に記載のヘテロオリゴマー細孔。
[25]
前記変異体モノマーの少なくとも1つが、上記[4]から[9]に記載のとおり化学修飾されている、上記[18]から[24]のいずれか一項に記載の細孔。
[26]
上記[10]から[16]に記載の構築物を少なくとも1つ含む細孔。
[27]
(a)上記[13]に記載の構築物1個と、(b)(i)配列番号2に示される配列または(ii)上記[1]もしくは[2]に記載の配列番号2のバリアントを各々含むモノマー6個とを含む、上記[26]に記載の細孔。
[28]
上記[14]に記載の構築物4個を含む、上記[26]に記載の細孔。
[29]
前記構築物の少なくとも1つが、上記[4]から[9]に記載のとおり化学修飾されている、上記[26]から[28]のいずれか一項に記載の細孔。
[30]
標的核酸配列を特徴付ける方法であって、
(a)核酸結合タンパク質が、上記[18]から[29]のいずれか一項に記載の細孔を通る前記標的配列の移動を制御し、前記標的配列中のヌクレオチドの一部が前記細孔と相互作用できるように、前記標的配列を前記細孔および前記タンパク質と接触させるステップと;
(b)各相互作用の間に前記細孔を通る電流を測定し、それによって前記標的配列を特徴付けるステップと
を含む方法。
[31]
前記標的核酸配列を特徴付けるステップが、前記標的核酸配列の配列を推定するステップまたは配列決定するステップを含む、上記[30]に記載の方法。
[32]
(a)上記[18]から[29]のいずれか一項に記載の細孔および(b)核酸ハンドリング酵素を含む、標的核酸配列を特徴付けるためのキット。
[33]
サンプル中の標的核酸配列を特徴付けるための装置であって、(a)上記[18]から[29]に記載の複数の細孔および(b)複数の核酸ハンドリング酵素を含む装置。
[34]
前記複数の細孔を支持することができ、前記細孔および酵素を使用して核酸の特徴付けを行うように操作できるセンサーデバイスと;
前記特徴付けを行うための材料保持用の少なくとも1つの貯蔵部と;
前記少なくとも1つの貯蔵部から前記センサーデバイスへと制御可能に材料を供給するよう構成された流体系と;
それぞれのサンプルを受けるための複数の容器とを含み、前記流体系が、前記容器から前記センサーデバイスへと選択的に前記サンプルを供給するよう構成されている、上記[32]に記載の装置。
[35]
標的核酸配列を特徴付ける方法であって、
(a)Phi29DNAポリメラーゼがMspから得られる細孔を通る標的配列の移動を制御し、前記標的配列中のヌクレオチドの一部が前記細孔と相互作用するように、前記標的配列を前記細孔および前記ポリメラーゼと接触させるステップと;
(b)各相互作用の間に前記細孔を通る電流を測定し、それによって前記標的配列を特徴付けるステップとを含み、ステップ(a)および(b)が前記細孔に印加される電圧により実施される、方法。
[36]
前記標的核酸配列を特徴付けるステップが、前記標的核酸配列の配列を推定するステップまたは配列決定するステップを含む、上記[35]に記載の方法。
[37]
前記ポリメラーゼが印加電圧により生じる電場とは反対方向に前記細孔を通して前記標的配列を移動させるように、ステップ(a)および(b)が、遊離ヌクレオチドと酵素補因子の存在下で実施される、上記[35]または[36]に記載の方法。
[38]
(c)前記ポリメラーゼが、ステップ(a)および(b)における方向とは反対方向に前記細孔を通して前記標的配列を移動させ、前記標的配列中のヌクレオチドの一部が前記細孔と相互作用するように、前記遊離ヌクレオチドを取り除くステップと;
(d)各相互作用の間に前記細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた前記標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた、前記細孔に印加される電圧により実施される、上記[37]に記載の方法。
[39]
前記ポリメラーゼが前記印加電圧により生じる電場に伴って前記細孔を通して前記標的配列を移動させるように、ステップ(a)および(b)が、遊離ヌクレオチドの非存在下および酵素補因子の存在下で実施される、上記[35]または[36]に記載の方法。
[40]
(c)前記ポリメラーゼが、ステップ(a)および(b)における方向とは反対方向に前記細孔を通して前記標的配列を移動させ、前記標的配列中のヌクレオチドの一部が前記細孔と相互作用するように、遊離ヌクレオチドを添加するステップと;
(d)各相互作用の間に前記細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた前記標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた、前記細孔に印加される電圧により実施される、上記[39]に記載の方法。
[41]
前記ポリメラーゼが、前記印加電圧により生じる電場に伴って前記細孔を通る前記標的配列の移動を制御するように、ステップ(a)および(b)が、遊離ヌクレオチドの非存在下および酵素補因子の非存在下で実施される、上記[35]または[36]に記載の方法。
[42]
(c)前記標的配列が、ステップ(a)および(b)における方向とは反対方向に前記細孔を通って移動し、前記標的配列中のヌクレオチドの一部が前記細孔と相互作用するように、前記細孔に印加される前記電圧を下げるステップと;
(d)各相互作用の間に前記細孔を通る電流を測定し、それによってステップ(b)において得られた前記標的配列の配列を校正するステップとをさらに含み、ステップ(c)および(d)もまた、前記細孔に印加される電圧により実施される、上記[41]に記載の方法。
[43]
標的核酸配列を特徴付けるためのセンサーを形成する方法であって、
(a)前記標的核酸配列の存在下でMspから得られる細孔をPhi29DNAポリメラーゼと接触させるステップと;
(b)前記細孔に電圧を印加して、前記細孔と前記ポリメラーゼとの複合体を形成させるステップと
を含み、それによって前記標的核酸配列を特徴付けるためのセンサーを形成する、方法。
[44]
Phi29DNAポリメラーゼの活性速度を高める方法であって、
(a)核酸配列の存在下で前記Phi29DNAポリメラーゼをMspから得られる細孔と接触させるステップと;
(b)前記細孔に電圧を印加して、前記細孔と前記ポリメラーゼとの複合体を形成させるステップと
を含み、それによってPhi29DNAポリメラーゼの活性速度を高める、方法。
[45]
前記細孔への印加電圧を増加させて、前記Phi29DNAポリメラーゼの活性速度を高めるステップをさらに含む、上記[43]または[44]に記載の方法。
[46]
前記核酸配列の少なくとも一部が二本鎖である、上記[35]から[45]のいずれか一項に記載の方法。
[47]
前記細孔が、上記[18]から[29]のいずれか一項に記載のとおりである、上記[35]から[46]のいずれか一項に記載の方法。
[48]
前記細孔が、配列番号2に示される配列またはそのバリアントを含むモノマー8個を含む、上記[35]から[46]のいずれか一項に記載の方法。
[49]
前記Phi29DNAポリメラーゼが、配列番号4に示される配列、または全配列にわたるアミノ酸同一性に基づいて、配列番号4と少なくとも50%の相同性を有するそのバリアントを含み、酵素活性を保持している、上記[35]から[48]のいずれか一項に記載の方法。
[50]
(a)Mspから得られる細孔および(b)Phi29DNAポリメラーゼを含む、標的核酸配列を特徴付けるためのキット。
[51]
サンプル中の標的核酸配列を特徴付けるための装置であって、Mspから得られる複数の細孔および複数のPhi29DNAポリメラーゼを含む装置。
[52]
上記[34]に記載のとおりである、上記[51]に記載の装置。