(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170018
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
G03G15/20 505
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-129429(P2014-129429)
(22)【出願日】2014年6月24日
(65)【公開番号】特開2016-9076(P2016-9076A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】岡島 靖人
(72)【発明者】
【氏名】三宅 尚史
【審査官】
石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−164686(JP,A)
【文献】
特開2010−276785(JP,A)
【文献】
特開2009−015227(JP,A)
【文献】
特開2004−206105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G13/20
G03G15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に担持された未定着のトナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置であって、
ベルト状の第1回転体と、
前記第1回転体の外周面との間に前記記録媒体を挟持する第2回転体と、
前記第1回転体の内周側に設けられ、前記第1回転体を前記第2回転体に押圧する押圧部材と、
前記第1回転体の内周面と前記押圧部材との間に設けられ、前記内周面に摺接する摺動シートと
を備え、
前記摺動シートにおける前記第1回転体の摺動方向の引張強度は、前記摺動シートにおける前記摺動方向と交差する方向の引張強度よりも小さく、
前記摺動シートは、前記摺動方向と交差する方向に延びる複数の横糸と、前記摺動方向に延びる複数の縦糸とを含み、
前記複数の横糸の各々の直径は、前記複数の縦糸の各々の直径よりも大きい、定着装置。
【請求項2】
前記複数の横糸及び前記複数の縦糸の各々は複数の繊維の束によって構成され、
前記横糸を構成する前記複数の繊維の本数は、前記縦糸を構成する前記複数の繊維の本数よりも多い、請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記摺動シートがガラス繊維によって構成されている、請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記摺動シートの表面は低摩擦性樹脂でコーティングされている、請求項1から請求項3のうちの1項に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちの1項に記載の定着装置と、
前記記録媒体に前記トナー像を形成する画像形成部と
を備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機のような画像形成装置は、記録媒体(例えば、コピー用紙)に担持された未定着のトナー像を記録媒体に定着させる定着装置を備えている。近年、省電力化のために、定着装置の低熱容量化が盛んに検討されている。特許文献1には、低熱容量化を目的とした定着装置の一例が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の定着装置は、第1回転体と第2回転体とを備える。第1回転体はベルト状で、加熱部によって加熱される。第1回転体の内周側には押圧部材が設けられている。押圧部材は、第1回転体を第2回転体に押圧する。第2回転体は、第1回転体の外周面との間に記録媒体を挟持するとともに、第1回転体と一緒に回転する。
【0004】
第1回転体と第2回転体との間のニップ部に記録媒体を通すことにより、記録媒体が第1回転体と第2回転体とによって加熱及び加圧される。その結果、記録媒体に担持されたトナー像が溶融して記録媒体に定着する。
【0005】
押圧部材が第1回転体に与える押圧力によって、第1回転体の押圧部材に対する摺動抵抗が生じる。斯かる摺動抵抗が過大になると、第1回転体がスリップして画像品質が低下する虞がある。また、第1回転体が停止すると、第1回転体が放熱しにくくなるため、第1回転体が発火する虞もある。そこで、特許文献1に開示の定着装置では、第1回転体の内周面と押圧部材との間に摺動シートを設けて、第1回転体の押圧部材に対する摺動抵抗を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−276785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の定着装置には、以下に述べるような課題があった。
【0008】
摺動シートは、押圧部材が第1回転体に接触しないように、押圧部材に対して第1回転体の摺動方向に突出するように形成される。摺動シートの柔軟性が低いと、摺動シートのうち押圧部材から突出した端部と第1回転体の内周面との摩擦力が大きくなるため、第1回転体の内周面が摺動シートの端部によって傷つけられる。その結果、定着装置の耐久性が低下する。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて創案されたものであり、その目的は、耐久性を向上させることができる定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による第1の態様は、記録媒体に担持された未定着のトナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置である。前記定着装置は、ベルト状の第1回転体と、前記第1回転体の外周面との間に前記記録媒体を挟持する第2回転体と、前記第1回転体の内周側に設けられ、前記第1回転体を前記第2回転体に押圧する押圧部材と、前記第1回転体の内周面と前記押圧部材との間に設けられ、前記内周面に摺接する摺動シートとを備える。前記摺動シートにおける前記第1回転体の摺動方向の引張強度は、前記摺動シートにおける前記摺動方向と交差する方向の引張強度よりも小さい。
【0011】
本発明による第2の態様は、画像形成装置である。前記画像形成装置は、第1の態様に係る定着装置と、前記記録媒体に前記トナー像を形成する画像形成部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、定着装置の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態である定着装置の断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態である画像形成装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明による実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態である定着装置100の断面図である。
【0015】
図1に示される定着装置100は、複合機のような画像形成装置に搭載され、記録媒体に担持された未定着のトナー像を記録媒体に定着させるために用いられる。定着装置100は、第1回転体110と、第2回転体120と、押圧部材130と、摺動シート140とを備える。
【0016】
第1回転体110はベルト状で、周方向(回転方向R1)に回転可能である。第1回転体110は第2回転体120に従動して回転する。第2回転体120は、第1回転体110の外周面との間に記録媒体Pを挟持する。第2回転体120は、モーターによって周方向(回転方向R2)に回転する。押圧部材130は第1回転体110の内周側に設けられ、第1回転体110を第2回転体120に押圧する。摺動シート140は、第1回転体110の内周面111aと押圧部材130との間に設けられ、内周面111aに摺接する。
【0017】
摺動シート140における第1回転体110の摺動方向(以下、「第1方向」と称する。)の引張強度は、摺動シート140における第1回転体110の摺動方向と直交する方向(以下、「第2方向」と称する。)の引張強度よりも小さい。摺動シート140によれば、第1方向の引張強度と第2方向の引張強度とが等しい摺動シート(以下、「比較例の摺動シート」と称する。)と比べると、内周面111aへの損傷を抑制することができる。
【0018】
すなわち、摺動シート140における第1方向の端部は、押圧部材130から突出しており、第1回転体110の内周面111aに摺接する。摺動シート140は、比較例の摺動シートよりも、第1回転体110の内周面111aの周方向に沿って変形しやすい。摺動シート140における第1方向の端部が第1回転体110の内周面111aに与える摩擦力は、比較例の摺動シートにおける第1方向の端部が第1回転体110の内周面111aに与える摩擦力よりも小さい。したがって、摺動シート140によれば、比較例の摺動シートと比べると、内周面111aへの損傷を抑制することができる。その結果、第1回転体110の耐久性は向上する。
【0019】
次に、定着装置100の各部の詳細を説明する。第1回転体110は、無端状のベルト111とベルトガイド112とを含む。ベルト111の外径は、例えば、20mm以上50mm以下である。ベルト111は、複数の層を含む。複数の層は、基材層と、弾性層と、離型層とを含む。基材層の外周面に弾性層が積層され、弾性層の外周面に離型層が積層される。基材層は、例えば、厚みが30μm以上50μm以下のニッケルで構成されるか、もしくは、厚みが50μm以上100μm以下のポリイミド樹脂層中に銅、銀、又はアルミニウムのような金属層を含有させた複合体で構成されている。弾性層は、例えば、厚みが100μm以上500μm以下のシリコーンゴムで構成されている。離型層はトナーの離型しやすさを向上させるために設けられる。離型層は、例えば、厚みが15μm以上50μm以下のPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)で構成されている。また、基材層の内周面は、摺動シート140の摺動しやすさを向上させるために、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、又はポリアミドイミドのような低摩擦性樹脂がコーティングされている。ベルトガイド112は定着装置100の筐体に固定されている。ベルトガイド112は金属のような剛性の高い材料によって形成されている。ベルトガイド112は、ベルト111の内周面111aに沿うように断面円弧状の形状を有しており、ベルト111を回転方向R1に案内する。
【0020】
第2回転体120は、芯金121と被覆層122とを備えている。被覆層122は、弾性層と離型層とを含む。被覆層122は内周側に弾性層を有し、外周側に離型層を有する。例えば、芯金121はアルミニウムで構成されており、被覆層122の弾性層はシリコーンゴムで構成されており、被覆層122の離型層はPFAで構成されている。
【0021】
押圧部材130は、押圧パッド131と、押圧パッド131を支持する支持体132とを含む。押圧パッド131は略角柱状の形状を有し、第1回転体110の軸方向に延びている。押圧パッド131は、例えば、液晶ポリマー、又はPPS(Poly Phenylene Sulfide )のような樹脂で構成される。なお、押圧パッド131のうち摺動シート140との対向面にはエラストマーを設けることができる。支持体132は角柱状の形状を有する。支持体132はSUSのような剛性の高い材料によって構成されている。支持体132は定着装置100の筐体に取り付けられている。
【0022】
定着装置100は、加熱部150を更に備える。加熱部150は、ボビン151と、コア152と、電磁誘導コイル153と、磁路形成部材154とを含む。ボビン151は、第1回転体110の外周面に沿うように断面円弧状に形成されている。コア152はボビン151に固定され、ボビン151から第1回転体110の径方向に突出している。電磁誘導コイル153は、コア152を挟み込むように配置され、ボビン151に巻回されている。磁路形成部材154は略C字形の形状を有し、両端がボビン151に固定されている。電磁誘導コイル153に通電することによって磁界が発生し、電磁誘導作用によって、ベルト111の基材層とベルトガイド112とが加熱される。
【0023】
図2は、第1実施形態の摺動シート140の模式図である。摺動シート140はガラス繊維によって構成され、例えば、厚みが40μm以上300μm以下である。摺動シート140は、第2方向に延びる複数の横糸141と、第1方向に延びる複数の縦糸142とを含む。摺動シート140の表面は低摩擦性樹脂(例えば、PTFE又はPFAのようなフッ素系樹脂)でコーティングされている。例えば、横糸141及び縦糸142は、複数のガラス繊維の束によって構成されている。横糸141及び縦糸142の各々の表面は、低摩擦性樹脂(例えば、PTFE又はPFAのようなフッ素系樹脂)でコーティングされている。摺動シート140に低摩擦性樹脂がコーティングされることで、摺動シート140の摩耗を抑制することができる。複数の横糸141の各々の直径は、複数の縦糸142の各々の直径よりも大きい。例えば、横糸141を構成するガラス繊維の本数は、縦糸142を構成するガラス繊維の本数よりも多い。例えば、横糸141の直径は0.2mm以上1.5mm以下である。また、縦糸142の直径は0.2mm以上1.5mm以下である。
【0024】
ガラス繊維は樹脂繊維に比べて硬いため、樹脂繊維と比べて変形しにくい。よって、ガラス繊維製の摺動シートと第1回転体110との接触面積は、樹脂繊維製の摺動シートと第1回転体110との接触面積よりも小さくなる。したがって、摺動シート140を備えた定着装置100では、樹脂繊維製の摺動シートを備えた定着装置と比べて、第1回転体110の摺動抵抗が小さい。その結果、第1回転体110を所定の速度で回転させるためのトルクが低減する。また、ベルト111の摩耗を抑制することができる。
【0025】
ガラス繊維製の摺動シートは、樹脂繊維製の摺動シートよりも硬いため、樹脂繊維製の摺動シートよりも第1回転体110の内周面111aを傷付けやすい。第1回転体110の内周面111aにコーティングされた低摩擦性樹脂が削られると、基材層が露出し、摺動シートが摩耗しやすくなる。基材層が露出した状態が継続すると、定着装置100の耐久破壊が生じることがある。摺動シート140における第1方向の引張強度は、摺動シート140における第2方向の引張強度よりも小さいため、摺動シート140は、第1方向の引張強度と第2方向の引張強度とが等しいガラス繊維製の摺動シートよりも第1回転体110の内周面111aの周方向に沿って変形しやすい。したがって、摺動シート140を用いると、第1方向の引張強度と第2方向の引張強度とが等しいガラス繊維製の摺動シートを用いる場合と比べて、内周面111aへの損傷が抑制され、定着装置100の耐久性が向上する。
【0026】
次に、
図3を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
図3は、第2実施形態の摺動シート140’の模式図である。摺動シート140’は、複数の横糸141の間隔W1が複数の縦糸142の間隔W2と異なる点で摺動シート140と異なる。なお、第2実施形態において、第1実施形態に対応する箇所には第1実施形態と同一の符号を使用し、第1実施形態と重複する説明は省略する。
【0027】
本実施形態では、複数の横糸141のうちの隣り合う2本の間隔W1が複数の縦糸142のうちの隣り合う2本の間隔W2よりも小さい。例えば、W1/W2=0.1以上0.8以下である。本実施形態において、複数の横糸141の各々の直径は、複数の縦糸142の各々の直径と等しい。なお、複数の横糸141の各々の直径を、複数の縦糸142の各々の直径よりも大きくすることができる。また、横糸141を構成する複数の繊維の本数を、縦糸142を構成する複数の繊維の本数よりも多くすることもできる。摺動シート140’における第1方向の引張強度は、摺動シート140’における第2方向の引張強度よりも小さい。したがって、摺動シート140’を備えた定着装置100では、第1方向の引張強度と第2方向の引張強度とが等しいガラス繊維製の摺動シートを備えた定着装置と比べて、第1回転体110の摺動抵抗が小さい。その結果、第1回転体110の内周面111aへの損傷が抑制され、第1回転体110の耐久性が向上する。
【0028】
次に、
図4を参照して、定着装置100を備えた画像形成装置1の構成を説明する。
図4は、定着装置100を備えた画像形成装置1の模式図である。画像形成装置1は複合機であり、複写機、プリンター、スキャナー、及びファクスとして機能する。
【0029】
画像形成装置1は画像形成部60を備える。画像形成部60は、記録媒体Pにトナー像を形成する。具体的には、画像形成部60は、感光体ドラム61、帯電部62、露光部63、現像部64、転写部65、クリーニング部66、及び除電部67を有しており、画像データに基づいて記録媒体Pにトナー像を形成する。定着装置100は、記録媒体Pを加熱及び加圧して、記録媒体Pに担持された未定着のトナー像を記録媒体Pに定着させる。
【0030】
画像形成装置1は、制御部10、原稿搬送装置20、画像読取部30、給紙部40、搬送部50、及び排出部70を更に備える。
【0031】
制御部10は、画像形成装置1の各部を制御する。原稿搬送装置20は、読取原稿を画像読取部30に向けて搬送する。画像読取部30は、読取原稿の画像を読み取って画像データを生成する。給紙部40は、給紙カセット41及び手差しトレイ42を有しており、給紙カセット41又は手差しトレイ42に積載された記録媒体Pを搬送部50に供給する。搬送部50は、給紙部40から供給される記録媒体Pを画像形成部60に搬送する。排出部70は排紙トレイ71を有しており、画像が形成された記録媒体Pは排紙トレイ71上に積載される。
【0032】
以上、図面(
図1〜
図4)を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。なお、図面を理解しやすくするために、それぞれの各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から、実際とは異なる。また、上記の実施形態で示す各構成要素の形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0033】
例えば、摺動シートを構成する素材はガラス繊維に限定されない。摺動シートを構成する素材はガラス繊維以外の素材(例えば、フッ素繊維)であり得る。
【0034】
また、摺動シートを構成する横糸と縦糸との交差角度は直交(90°)に限定されない。横糸と縦糸との交差角度は90°以外の角度であり得る。
【0035】
また、第1回転体を加熱する加熱部は、電磁誘導作用により第1回転体を加熱する加熱部に限定されない。第1回転体を加熱する加熱部は、電磁誘導作用により第1回転体を加熱する加熱部以外の加熱部(例えば、ハロゲンヒーターにより第1回転体を加熱する加熱部)であり得る。
【0036】
また、画像形成装置は複合機に限定されない。画像形成装置は複合機以外の機器(例えば、コピー専用機、又は画像読取部を備えていないプリンター)であり得る。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、画像形成装置の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 画像形成装置
60 画像形成部
100 定着装置
110 第1回転体
120 第2回転体
130 押圧部材
140 摺動シート
141 横糸
142 縦糸