特許第6170034号(P6170034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170034
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】改良電池セパレータおよびその形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20170713BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20170713BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20170713BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   C08J9/28CES
   B29C55/14
   B29C67/20 B
【請求項の数】16
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-503650(P2014-503650)
(86)(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公表番号】特表2014-512657(P2014-512657A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】US2012000107
(87)【国際公開番号】WO2012138398
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】61/516,497
(32)【優先日】2011年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513245934
【氏名又は名称】アポラス,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェン,ウィリアム ウィンチン
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−232242(JP,A)
【文献】 特開2009−179699(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/020493(WO,A1)
【文献】 特開2010−024463(JP,A)
【文献】 特開2002−012694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
H01M 2/14−2/18
B29C 55/00−61/10、64/00−73/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート製品を形成する方法であって、
(i)100〜250℃の温度で、少なくとも30%の結晶化度と、0.8未満のメルト・フロー・インデックス(MFI)とを有する熱可塑性ポリマーと、135〜300℃の沸点と、70℃で1〜50mmHgの蒸気圧とを有する約20〜80重量%の第1の流体とを混合してほぼ均質な混合物を形成するステップであって、前記第1の流体は、C〜C20の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素の混合物である、ステップと、
(ii)前記混合物を延伸するのに十分な長さ寸法、幅寸法、および厚みを有するシート材料に成形するステップと、
(iii)(ii)の前記初期成形シート材料を、前記シート材料をポリマーの溶融温度(Tm)未満の温度にするのに十分な時間の間、約100℃以下の温度の第2の流体と接触させるステップであって、前記第2の流体は、前記第1の流体と混合可能であり、且つ、135〜300℃の沸点と、70℃で1〜50mmHgの蒸気圧とを有する、ステップと、
(iv)結果として形成される第1の延伸シート材料が少なくとも40%のポリマーの結晶化度(c)を有し、且つ、蒸発によって第1および第2の流体が前記シート材料から除去されて、第1の延伸シート材料の残留流体(f)が前記シート材料(iii)の約45重量%未満であり、f/c比が少なくとも0.2となる条件で、(iii)の前記シート材料を(Tm−70)℃〜(Tm−20)℃の温度に保ちながら少なくとも1つの第1の方向に元の寸法の少なくとも225%延伸する第1の延伸を行うステップと、
(v)第2の延伸シート材料が少なくとも40%の結晶化度を有し、且つ、前記シート材料の残留流体が約10重量%〜約45重量%となる条件で、(iv)の前記シート材料を(iv)の温度より少なくとも20℃低い温度に保ちながら、前記第1の方向に対して直角である少なくとも1つの第2の方向に元の寸法の少なくとも125%延伸する第2の延伸を行うステップと、
(vi)前記シート材料を一定の延伸寸法にするために、一定期間、前記シート材料に機械的引張力または横方向引張力を受けた状態で、前記シート材料を(T−50)℃〜(T−5)℃の温度にさらすステップと、
(vii)ステップ(vi)の時に、または別々に、またはこれらを組み合わせて、蒸発によって前記シート材料からほぼ全ての第1および第2の流体を除去するステップと、
(viii)前記シート材料を周囲温度になるまで冷却してシート製品を形成するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーは、2×10〜1×10の重量平均分子量を有し、40〜85質量%の結晶化度を有し、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらのコポリマーおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の流体は、20℃で0.1〜5mmHgの蒸気圧と、30〜170℃の引火点とを有し、前記均質な混合物(i)内に40〜70重量%存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の流体および第1の流体は、同じ流体であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の流体および第1の流体は、同じ流体であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記成形シート材料は、結晶化度40〜85%を有するシート材料を形成するためにステップ(iv)で第1の延伸が行われ、機械方向に第1の延伸が行われ、前記第1の延伸方向に対して直角な方向に第2の延伸が行われ、前記第1の延伸シート材料は、45重量%以下の流体を含み、0.2〜0.9の流体/結晶化度比を有することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記成形シート材料は、結晶化度40〜85%を有するシート材料を形成するために、ステップ(iv)において第1の延伸が行われ、機械方向に第1の延伸が行われ、前記第1の延伸方向に対して直角な方向に第2の延伸が行われ、前記第1の延伸シート材料は、45重量%以下の流体を含み、0.2〜0.9の流体/結晶化度比を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の延伸シート材料は、ステップ(v)において、周囲温度〜95℃の温度で横方向および機械方向同時に第2の延伸が行われ、ステップ(v)の前記第2の延伸シート材料は、10〜40重量%の残留流体を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の延伸シート材料は、ステップ(v)において、周囲温度〜95℃の温度で横方向および機械方向同時に第2の延伸が行われ、ステップ(v)の前記第2の延伸シート材料は、10〜40重量%の残留流体を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーは、1×10〜5×10の重量平均分子量と、40〜85%のポリマー結晶化度とを有する高密度ポリエチレンから選択され、前記混合物(i)を形成する前記第1の流体は40〜70重量%で存在し、前記第1の流体は20℃の範囲内にある沸点を有する流体の混合物を含み、前記初期成形材料は、まず0〜100℃の温度のガスと接触され、前記第1の流体と前記第2の流体は同じ流体であり、前記第1のシート材料は0.2〜0.7の流体/ポリマー結晶化度比を有し、最終シート製品は約5重量%以下の前記第1および前記第2の流体を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
シート製品を形成する方法であって、
(i)100〜250℃の温度で、少なくとも40%の結晶化度を有する熱可塑性ポリマーと、135〜300℃の沸点、70℃で1〜5mmHgの蒸気圧とを有する少なくとも20重量%の第1の流体とを混合してほぼ均質な混合物を形成するステップであって、前記第1の流体は、C〜C20の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素の混合物である、ステップと、
(ii)前記混合物を延伸するのに十分な長さ寸法、幅寸法、および厚みを有する初期シート材料に成形するステップと、
(iii)(ii)の前記成形シート材料を、前記シート材料の前記ポリマーと前記第1の流体とを別々の相にするのに十分な時間の間、前記第1の流体と混合可能であり、0〜100℃の温度を有する第2の流体と接触させるステップと、
(iv)少なくとも40%の結晶化度を有すると同時に、前記シート材料の一部として少なくとも約15重量%の第1の流体を保持するシート製品を形成する条件で、(iii)の前記シート材料を(T−70)℃〜(T−20)℃の温度に保ちながら一方向に元の寸法の少なくとも225%前記方向に延伸するステップと、
(v)少なくとも40%の結晶化度を有すると同時に、シート材料の一部として少なくとも約10重量%の第1の流体を保持するシート製品を形成する条件で、前記シート材料を周囲温度より20℃低い温度に保ちながら前記第1の延伸方向に対して直角な第2の方向に元の寸法の少なくとも125%前記方向に延伸するステップと、
(vi)前記シート材料を一定の延伸寸法にするために、一定期間、前記シート材料を(T−50)℃〜(T−5)℃の温度にさらすステップと、
(vii)ステップ(vi)の時に、または別々に、またはこれらを組み合わせて、蒸発によって前記シート材料からほぼ全ての第1および第2の流体を除去するステップと、
(viii)前記シート材料を周囲温度になるまで冷却して、長さ寸法、幅寸法、および長さ方向および幅方向に伸びる交互領域を含む厚みであって、0.01〜2ミクロンの平均孔径を有する第1の領域と少なくとも0.5ミクロンの平均孔径および少なくとも3:1のアスペクト比を有する第2の領域とから成る厚みを有するシート製品を形成するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
ステップ(i)において、前記初期シート材料を形成するポリマーは40〜85%の結晶化度を有し、前記第1の流体は20℃で0.1〜3mmHgの蒸気圧と30〜170℃の引火点とを有し、前記流体は組成物の20〜70重量%であり、
ステップ(ii)において、前記初期シート材料の厚みは0.2〜3mmであり、
ステップ(iii)において、ステップ(iii)の接触時間は1〜90秒であり、前記第2の流体の温度は20〜90℃であり、前記シート材料は前記ポリマーの温度T未満になるまで冷却され、
ステップ(iv)において、前記シート材料は225〜1000%延伸され、前記第1のシート材料を形成する前記ポリマーの結晶化度は80%以下であり、前記第1のシート材料は15〜45%の流体を含み、
ステップ(v)において、前記延伸により125〜700%伸長し、前記第1および第2の延伸により、少なくとも2.8の合算延伸比となり、
ステップ(vi)において、前記期間は、1〜120秒であり、
ステップ(vii)において、除去は、周囲圧力下または減圧下で行われ、それと同時に、再利用のために流体の回収が行われることを特徴とする方法。
【請求項13】
熱可塑性ポリマーから成るシートを含むシート製品であって、前記熱可塑性ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらのコポリマー及びこれらの混合物から選択され、前記シートは、層状構造を有するとともに、長さ寸法幅寸法及び厚み寸法を有し、且つ、厚み方向に交互領域を備え、前記交互領域は、0.01〜2ミクロンの平均孔径を有する第1の領域と、少なくとも2ミクロンの平均孔径および少なくとも3:1の孔径及び孔深さの平均アスペクト比を有する少なくとも1つの第2の領域とから成ることを特徴とするシート製品。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリマーは、2×10〜1×10の重量平均分子量と、40〜85質量%の結晶化度とを有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらのコポリマーおよびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項13に記載のシート製品。
【請求項15】
前記第1の領域は、0.01〜0.5ミクロンの平均孔径を有し、前記第2の領域の孔は、少なくとも5ミクロンの平均孔径と少なくとも5:1のアスペクト比とを有し、前記第2の領域は、20ミクロンの厚みの間で、前記第2領域に備えられた少なくとも5つのから構成されることを特徴とする請求項13又は14に記載のシート製品。
【請求項16】
前記シート製品の主要面の各々に隣接して主要面の各々の大部分を形成する領域は、第1のミクロ多孔質領域から成ることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか一項に記載のシート製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、特有の構造を有し電池内のセパレータとして使用されるシート製品、および前記シート製品を形成する方法である。
【背景技術】
【0002】
蓄電池は、少なくとも1対の異極性の電極を有し、通常、一連の交流極性の隣接電極を有する。電極間の電流フローは、電解質によって維持されており、電解質は、電池システムの性質に応じて、酸性、アルカリ性、または中性の場合がある。セパレータは、電池内の異極性の隣接電極間に配置されて、逆帯電した電極板が直接接触しないようにする。セパレータは、(i)高エネルギー密度の電池を提供するのに役立つように薄く軽量であること、(ii)電極板間のデンドライト形成を妨げる構造を有すること、(iii)電解質組成物の取り込みを促進し、電解質組成物を電極板上にほぼ均一に分布させる能力(一般に、ウィッキング性と呼ばれる)を有すること、(iv)自由に電解伝導できる特性を提供することが大変望ましい。さらに、経済的に、かつ環境問題の点から見て安全な方法で、セパレータシート製品を製造することができると同時に、ピンホールなどの欠陥のないシート製品にすることが大変望ましい。
【0003】
従来、電池システムに使用されるセパレータは、電解質または電解質系の中に配置された時に高い伝導性を示すことができると同時に、電池システムによって形成された環境下で安定であるポリマーフィルムで形成される。フィルムは、スパンガラスなどによって形成されるフィルムのようなマクロ多孔質フィルムとしてもよい。あるいは、フィルムは、全体にフィラーが分散されたポリマーフィルムで形成されたフィルムのようなミクロ多孔質フィルムとしてもよい。フィラーは、電解質の吸着の役目をし、シート製品にウィッキング特性を付与する。このようなシートは、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0004】
また、ミクロ多孔質シート製品は、液体可塑剤を含むポリマー組成物で形成されており、液体可塑剤を抽出方法により除去すると、結果として得られたシートはミクロ多孔質構造になる。従来、このような可塑剤は、シート形成の初期段階ではポリマー材料に対する相溶性を有すると同時に、形成プロセスでは非相溶性であり容易に抽出可能であることを考えると、高分子量の油などである。従来、抽出は、相溶性の低分子量の第2の液体を使用して、初期に形成された冷却されたシートから可塑剤を洗浄することで行われる。可塑剤を除去したことで形成された空洞により、最終セパレータシート製品は全体にわたってほぼ均一な多孔質になる。結果として生じた混合液は、上述のプロセスの廃棄副産物である。
【0005】
ミクロ多孔質シート製品を形成するさらに別の態様は、ポリオレフィンシート材料を延伸してアニールすることによって加工シートをミクロ多孔質にするものである。このプロセスは、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、および特許文献11に開示されている。例えば、延伸ミクロ多孔質ポリプロピレンは、特許文献6に記載されている。ポリマーは、押し出されたフィルム内のポリマーの分子配列を最大限に発揮できるように、高せん断応力によって低い溶融温度下で押し出される。その後、フィルムはアニールされて結晶性ポリマー網目構造が強化され、その後、低温で延伸されて、結晶領域が残りの非晶質領域から引き裂かれる。こうして、微小亀裂が形成される。さたに、フィルムは、順次、延伸およびアニールされることで、亀裂が細孔になる。形成されたフィルムの多孔率は、約40%未満に制限され、十分にコントロールされていない。
【0006】
特許文献12には、ポリマーと相溶性液体との混合物を均質な混合物に混ぜ合わせることによってミクロ多孔質ポリマーシート製品を形成するプロセスが開示されている。混合物は、非平衡条件下で冷却されて、液液相分離を引き起こすことで、各々が液体ポリマーで囲まれた液滴が形成される。ポリマーを凝固させるためにさらに冷却が必要であり、その後、液体は第2の液体を使用して抽出され、一連のほぼ球状の封入セルであって、隣接する球状セルと相互に接続されたセルを有する構造が形成される。このプロセスは、時間をかけて行わなければならず、初期の相溶性液体を他の液体によって抽出する必要があるので、混合液体の廃棄副産物の流れが生じる。
【0007】
また、特許文献13には、ミクロ多孔質の電池セパレータとして最適なシート製品の形成について記載されている。上記文献には、溶解パラメータと水素結合パラメータとが結晶性ポリマーの個々の値の数単位内にある液体の使用について開示されている。高分子量鉱油、高分子量フタル酸エステルなどが初期のポリオレフィンとの混合物を形成するのに適していることが教示されている。最初に形成されたポリマーシート製品に使用された液体は、その後、抽出することで除去される必要がある。上記文献では、上述の液体を抽出するのにヘキサンまたはアルコールが適していると教示されている。その結果抽出された混合物は、廃棄物であり、特別な処理が必要である。形成されたシート製品は、無秩序に分散した空間と複数のポリマー繊維によって互いに結合された熱可塑性プラスチック粒子とを有するものとして記載されている。繊維/粒子の配列により、形成された多孔質製品は引張強度および突刺強度が低くなる。
【0008】
特許文献14には、まず、ポリオレフィン溶液と炭化水素またはデカリンのような第1の溶媒とからフィルムを形成し、フィルムの片面を第2の溶媒と接触させ、フィルムを、ガス、水、または炭化水素液から選択した冷却剤が入れられた冷却槽に通して、溶解温度未満の温度でフィルムから溶媒を除去し、フィルムをフィルムの面の1つまたは複数の方向に延伸することにより、フィルム製品を形成する方法が開示されている。最終品は、ほぼ孔の無い製品となり、溶媒の混合物から成る廃棄物の流れが生じるようにして形成される。
【0009】
特許文献15には、超高分子量ポリエチレンを使用した多孔質製品の形成について開示されている。冷却速度が結晶化の程度に影響を与えることが教示されている。
【0010】
特許文献16には、フィルムを冷却剤(例えば、水)と接触させる前にフィルムの両面を第2の溶媒と接触させることによってフィルム内で相分離させる方法について開示されている。上記文献には、第2の溶媒の濃度を冷却剤の濃度より低くしなければならないことが教示されている。
【0011】
特許文献17には、さまざまな電池セパレータに使用可能なミクロ多孔質ポリオレフィンフィルムの製造プロセスが開示されている。上述のプロセスは、ポリオレフィンポリマー(成分I)を第1の希釈剤(成分II)および第2の希釈剤(成分III)と組み合わせて、熱力学的に液液相分離され得る熱力学的単相を形成するものである。生成物は、その後、多孔質にするために塩化メチレンを使用して抽出が行われて、その後冷却空気または冷却水で急冷される。その結果生成された液体の混合物は、処理が難しい廃棄物の流れを生じる。
【0012】
特許文献18には、ポリオレフィン溶液と溶媒とを押し出してゲル状体を作成するステップと、ゲル状体を冷却空気、冷却水、他の冷却媒体、または冷却ロールと直接接触させることで冷却するステップとを含むミクロ多孔質ポリオレフィン膜の形成方法が開示されている。上記文献には、さらに、新しく形成された膜がまだゲル状体である間に、初めにゲル状体に含まれていた孔形成溶媒を除去して、その後、流動パラフィンのような高温溶媒でゲル状体を処理することによって上記膜を処理する方法が開示されている。
【0013】
特許文献19には、新しく形成された膜をまだゲル状体であるの間に、110℃〜130℃の温度で維持された有機溶媒で処理する方法が開示されている。°
【0014】
特許文献20には、少なくとも1%の超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレンから成るミクロ多孔質膜の形成方法が開示されている。上記膜は、ポリマーを液体ポリマー溶媒と溶融混合して、溶解物を押し出しおよび冷却してゲル状シートを作成することで形成される。その後、シートは延伸され、延伸されたシートはポリマー溶媒を除去できる液体で洗浄されて、多孔質膜が形成される。形成された多孔質膜は、延伸され、そして同じ温度条件下で熱硬化されて、ミクロ多孔質膜が形成される。上記プロセスは、初期シートを延伸し、それと同時にシート内のポリマー溶媒を保持する周知のステップを含む。その後、溶媒は、第2の液体を使用して一般的な抽出プロセスによって除去され、その結果、ポリマー溶媒と抽出液体との混合物から成る副産物が生成される。最後に、液体が含まれないシートがさらに延伸されて、ミクロ多孔質膜が形成される。
【0015】
上記文献はいずれも、ポリオレフィンとの初期混合物を形成するために、かつ冷却媒体として、同じ高揮発性で低分子量の有機流体を使用して、最初に成形されたポリマー組成物を特定の連続温度条件かつ延伸プロセス条件下で処理すると同時に、流体を蒸発させることにより、以下で説明する特有のシート製品構造を形成するものではない。
【0016】
電池セパレータとして有用なシート製品の特性は、透過性、機械的強度、および寸法安定性だけでなく、電解液吸収、電池サイクル性に関する特性を含む。電池に電極表面で電解質を保持して高い電解伝導を実現すると同時に、必要に応じて、異極性の電極素子間のデンドライト形成および成長を十分に抑制する能力を提供する高ウィッキング性を有する、薄くて軽量のシート製品を実現するのが大変望ましい。さらに、リチウムイオン電池用の電極は、リチウムの侵入および脱離に従って伸縮することが周知である。セパレータは電極が膨張すると圧縮されるので、セパレータはこのように圧縮可能であると同時に、圧縮された時に、電解液保持力の低下ができるだけないのが望ましい。さらに、例えば、循環的に処理材料を利用して、廃棄物の流れをほとんど発生させないまたは全く発生させないようにすることによって、コスト効率の良い、かつ環境的に望ましい製造方法で上述の特性を有するシート製品を実現するのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第3351495号明細書
【特許文献2】米国特許第4287276号明細書
【特許文献3】米国特許第3426754号明細書
【特許文献4】米国特許第3558764号明細書
【特許文献5】米国特許第3679538号明細書
【特許文献6】米国特許第3679540号明細書
【特許文献7】米国特許第3801404号明細書
【特許文献8】米国特許第3843761号明細書
【特許文献9】米国特許第4138459号明細書
【特許文献10】米国特許第4994335号明細書
【特許文献11】米国特許第5328760号明細書
【特許文献12】米国特許第4247498号明細書
【特許文献13】米国特許第4539256号明細書
【特許文献14】米国特許第4948544号明細書
【特許文献15】米国特許第5051183号明細書
【特許文献16】米国特許第5503791号明細書
【特許文献17】米国特許第5830554号明細書
【特許文献18】米国特許第7479243号明細書
【特許文献19】米国特許第7815825(B2)号明細書
【特許文献20】国際公開第2007/117042号パンフレット
【発明の概要】
【0018】
本発明の対象は、高い電解質ウィッキング性、高い電解伝導、およびデンドライトの成長を抑制する高い突刺強度を有する改良電池セパレータとして使用するのに適したシート製品の製造である。意外なことに、ある種の特定の開始組成物および製造条件を使用することで、本明細書で詳細に後述するようなシート厚さ全体にわたって交互に重なった構造または層状の構造を有する特有のシート製品が形成できることがわかった。対象となるシート製品を形成するプロセスは、低い製造コストで、かつ環境的に望ましい方法で実現することができる。
【0019】
本発明のシート製品は、2つの主要面と主要面間の厚みとを有するポリオレフィン組成物から成る。シート製品の厚み(または本体)は、比較的大きい孔の構造と小さい孔の構造の一連の交互層または交互領域から成る。シート製品の厚みの各層は、主要面の各々に対して(ほぼ平行に)ほぼ同じ方向に配向される。小さい孔の構造設計であるシート製品の主要面を形成する層およびシート製品の孔全てはミクロ多孔質であり、狭い孔径分布を有する。
【0020】
本シート製品は、初期成形材料として、少なくとも30%の結晶化度と、沸点が135〜300℃、蒸気圧が70℃で少なくとも1〜約50mmHgである有機流体混合物の全重量に対して20〜80重量%とを有する中程度の分子量のポリオレフィンから成る混合物を押し出すまたは成形することによって形成され、そのためにはポリマーは少なくとも部分的に可溶性である。初期混合物は、ポリマーと流体とを高温で混合することによって形成される。初期混合物の形成時に、ポリマー物質はかなりの程度の結晶性を失う。初期成形材料は、(例えば、押出機のスリットダイヘッドを通じた押し出しによる)初期成形材料の形成時に、または初期成形後に任意で空気空間内での滞留後に、100℃未満の温度で維持され、かつポリオレフィンと流体との初期混合物を形成する際に使用される同質の有機流体を少なくとも75重量%、好ましくはほぼ100重量%含む冷却槽内で、成形材料を凝固させるのに十分な滞留時間だけ浸漬される。
【0021】
冷却された成形シート材料は、その後、2ステップのシートの延伸/流体蒸発(成形材料から所定量の流体を除去することによる)が施される。第1の延伸/流体蒸発ステップでは、初期成形材料は、少なくとも機械方向に直線的に少なくとも225%延伸される。さらに、初期成形材料は、本明細書で後述するように、シート材料を所定の温度で維持しながら機械の延伸方向に対して直角方向に直線的に125〜700%延伸されてもよい。第1の延伸と同時に、流体の一部が蒸発により初期成形材料から除去されることで、所定の残留流体を含み、かつ約40〜85%のポリマー結晶化度を有するポリマーを含む第1の延伸成形材料が形成される。第1の延伸成形材料は、その後、第1の延伸ステップで使用された温度より低い所定の温度で横方向(任意で、機械方向)に延伸すると同時に、第1の延伸成形材料に含まれる流体の多量の残りを除去する別の第2の延伸/蒸発ステップにかけられる。任意で、第1の延伸および/または第2の延伸と同時に行われる蒸発の他に、第1または第2のシート材料に対して、流体含有量を本教示の目標残留流体含有量を実現するために本方法で規定された含有量に調節するために、追加の流体蒸発が行われてもよい。その結果得られた第2の延伸成形材料は、機械の横方向の引張力を受けながら1〜300秒間所定の高温にさらされ、その結果、所望のシート製品が形成される。シート製品は、任意で、さらに寸法安定性を改善するために、当業者に周知のように、一方または両方の延伸方向に緩和されてもよい(長さおよび/または幅を約10%縮小)。延伸は、シート材料が2軸二次元配向になるように行わなければならない。延伸は、2方向のそれぞれの方向に、連続ステップによって行われてもよいし、または1つまたは複数のステップが同時に行われてもよい。初期組成物および成形材料を形成するのに使用された、制御された量の有機流体は、第1および第2の延伸ステップそれぞれにおいて、同時に蒸発されてシート材料から除去される。液体は、初期シート材料を形成するのに適した次の混合物を形成する際に使用するために、または冷却槽の一部として使用するために、またはその両方の目的のために、回収、収集、および再利用されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】許容範囲の極限値の蒸気圧を有する流体を使用して形成されたセパレータの表面を示した顕微鏡写真(2000倍)である。表面は、数個の大きい孔と非常に小さい孔を含む領域とを有する。
【0023】
図2】本発明に従って形成されたセパレータの厚みの断面を示した顕微鏡写真(2000倍)である。大きい孔の領域と小さい孔を有するポリマー層とが交互にシート材料の厚み全体に伸びていることに注目されたい。
【0024】
図3】本発明のセパレータシート製品の斜位像を示した顕微鏡写真(2000倍)である。左部分は、小さい孔の材料の層で形成されたシートの片面を示している。写真の中央は、小さい孔と大きい孔の交互の構造を示した本シート製品の断面厚みの部分である。
【0025】
図4】比較のために、先行技術に従って形成された市販のシート製品を示した顕微鏡写真(2000倍)である。このシート製品は、厚み全体(写真の中央部分)にわたってほぼ均一な(層状でなく重層でもない)孔の構造を有する。
【0026】
図5】第1の延伸およびそれと同時に行われた流体除去の後に第1の成形材料に残っている流体量に対する形成されたシート製品の抵抗効果を示したグラフである。
【0027】
図6】第1の延伸およびそれと同時に行われた流体除去の後に第1の成形材料のポリマーに付与された結晶性の程度に対する形成されたシート製品の抵抗効果を示したグラフである。
【0028】
図7】第1の延伸およびそれと同時に行われた流体除去の後に第1の成形材料に残っている流体量(f)および第1の成形材料のポリマーに付与された結晶性の程度(c)との比に関する形成されたシート製品の抵抗効果を示したグラフ(対数グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のシート製品は、改良電池セパレータとして使用するのに適した高度な多孔質の一体品である。シート製品は、2つの主要面と、これら主要面間の厚みとを有するものと見なされ得る。厚みは、シート製品の主要面とほぼ同じ方向に伸びる一連の交互の第1および第2の相互接続の層(interconnecting layers)(または領域または重層(strata))から成る。材料の断面から見て、一体シート製品内に含まれる第1の重層のそれぞれは、平均孔径が約0.01〜2ミクロン(またはμm)、好ましくは、0.01〜1ミクロン、より好ましくは、約0.01〜0.5ミクロンのミクロ多孔質であるが、本発明の一体シート製品内に含まれる第2の層のそれぞれは、平均孔径が少なくとも約2ミクロン、好ましくは、少なくとも約5ミクロンのミクロ多孔質である。第2の層の孔は、第1の層に形成された孔より大きい孔径の孔であり、約100ミクロン以下としてもよい。また、第2の層の孔のアスペクト比は、少なくとも3:1であり、5:1、さらには10:1が一般的である。シート製品全体は、容量で少なくとも30%の多孔率を有し、全体の細孔の特性は、実質的に第1の層の細孔の特性である、すなわち、全体の孔径が約2ミクロン以下、好ましくは、約1ミクロン以下である。シート製品は、主要面をそれぞれ形成する第1の層を有する。本シート製品の厚みは複数の層から成るが、各々の層は、一体構造を実現するために結合ポリマー要素によって層の境界面で隣接層に結合される。
【0030】
交互層が小さい孔の構造と大きい孔の構造の層である上述の層状または重層構造を有するシート製品の形成が、所望の結果である。シート材料の全体の孔径(バブルポイント法によって決定される)は、ほぼ小さい孔の孔径である、すなわち、全体の孔径は約2ミクロンまたは2ミクロン未満、ほとんどの場合、約1ミクロン未満である。形成されたシート製品は、電池セパレータ用途に適した製品を提供するバイモーダルな多孔性を有する。小さい孔は、容易に電解質を保持して、十分なウィッキング性をもたらし、ひいては、電池の電極のすぐ近くの電解質を保持する。大きい孔は、材料の圧縮がシート製品内で生じるようにすることで、弾性および元の構造に再形成する能力を有する緩衝要素となる。したがって、本シート製品は、高いウィッキング性を示すので、隣接する電極表面に電解質が均一に分布することができる。さらに、シート製品は、電池システム全体にわたって非常に高いイオン伝導性を示すことができる。さらに、本シート製品は、非常に高い突刺強度を示し、電池システム内のデンドライト形成を妨ぐ。最後に、本発明のシート製品は、リチウムのようなアルカリ電池設計において発生する圧縮力及び膨張力に耐えることができる。
【0031】
明確にするために、本発明を説明するために本明細書および添付の特許請求の範囲内で使用される用語のいくつかを以下のように定義する。
【0032】
用語「シート材料」は、長さおよび幅の寸法に関して2つの大きな表面と、前記表面間の厚みとを有する一体品を定義するものとする。一般に、この用語は、最初に材料をシート状の形に押し出した時または成形した時に形成された構造物および最終シート製品を形成するために教示されたいずれかの中間ステップ時に形成された材料の構造物を記載するのに使用される。
【0033】
用語「シート製品」は、長さおよび幅の寸法に関して2つの大きな表面と、前記表面間の厚みとを有する一体の最終品を定義するものとする。最終品の厚みは、一連の交互の非常に小さいミクロ多孔質の層または領域と大きいミクロ多孔質の層または領域とから成り、表面層のそれぞれは小さなミクロ多孔質層から成る。シート製品の厚みは、約0.1〜10ミル(0.0025〜0.25mm)であり、0.5〜2ミル(0.0125〜0.05mm)が好ましい。
【0034】
用語「層」または「領域」または「重層」は、一体シート製品の厚みの異なる部分で、若干蛇行した状態ではあるが主要面とほぼ同じ長さ方向および幅方向に伸びた部分を定義するのに交換可能に使用されている。したがって、層はシート製品の主要面とほぼ平行に位置してもよい。それぞれの層または領域は、シート製品構造の中で形成、融合、または終端してもよい。
【0035】
用語「第1の」は、平均孔径が約0.01〜2ミクロン、好ましくは、0.01〜1ミクロン、さらに好ましくは、0.01〜0.5ミクロンであり、平均孔径が隣接する交互層の平均孔径より小さい層、重層、または領域に言及する語を修飾するものとする。さらに、用語「第1の」は、混合されて、初期の材料の押出しまたは成形時に得られるシート材料およびマルチステップのシート材料の延伸/流体蒸発の初期プロセスステップで形成されるシート材料を形成するのに使用される液体を修飾し言及するのに使用される。
【0036】
用語「第2の」は、平均孔径(大きい孔寸法に関して)が少なくとも2ミクロン、好ましくは、約5ミクロン、約100ミクロン以下であり、平均孔径が隣接する交互層の平均孔径より大きい多孔質の連続または不連続の層、重層、または領域に言及する語を修飾するものとする。さらに、用語「第2の」は、初期形成後のシート材料のマルチステップの延伸/流体蒸発の第2のプロセスステップを修飾および言及するため、また第2の延伸/流体蒸発ステップによって形成されたシート材料を区別するために使用される。
【0037】
交換可能に使用される用語「流体」、「液体」、または「溶媒」は、シート材料を形成するために初期ポリマー/流体混合物の形成に使用される液体成分のことである。さらに、これらの用語は、形成されたシート材料の初期冷却をするための冷却槽を形成するのに使用される液体、本シート製品を形成する他のステップで使用されるプロセス流体、および延伸/流体蒸発ステップのそれぞれのステップによって除去される流体を指すのに使用される。
【0038】
用語「主要面」は、シート製品の外表面および前記主要面に隣接する層を指すものとする。第1の層(一面が露出している)は、シート製品の主要面それぞれを形成する。
【0039】
用語「セパレータ」は、電池、特に蓄電池の部品であり、異極性の隣接電極板または電極素子間の分離を維持する部品を指すものである。セパレータは、例えば、フラット(好ましい)、畝状、波形のシートのさまざまな形状で、隣接電極間の分離を維持することができる膜またはエンベロープの形態にしてもよい。本発明のセパレータは、厚みが0.1〜10ミル(0.0025〜0.25mm)であるが、厳密な厚みは対象となる電池設計に応じて決まる。
【0040】
用語「デンドライト」は、電極素子の表面で発生し、外側に伸びる成長物質を指すものとし、これは電池の充電時の電極材料の再被覆により発生する。異極性の一方の電極から他方の電極まで分離部分を突き破ってデンドライトが形成されることで、電池の短絡が生じる場合がある。
【0041】
用語「流動性」は、互いに滑り合う組成物のポリマー分子の物理的特性によって生じる流動性を示すポリマー組成物を指すものである。この物理的特性は、特に、接触される流体成分に対するポリマーの溶解特性が劣る(低い)場合に、流体物質を混入することで高められる。
【0042】
用語「結晶性」は、ポリマー分子の互いに対する規則的または構造化された配向性を指し、非晶質材料を形成するポリマー物質内のポリマー分子のランダムで不規則な配向性と区別される。ポリマー物質の結晶化度は、従来のX線回折分析による周知の方法で決定することができる。
【0043】
本発明のシート製品を形成するのに有用であると考えられるポリマーは、例えば、ポリオレフィンなどのミクロ多孔質シートを形成することができる熱可塑性ポリマーから選択することができる。本発明に使用されるポリマーの好適な種類は、ポリオレフィンである。ポリマー組成物はさらに、少量のフィラー、着色剤、抗酸化物質、安定剤などを含んでもよい。固体粒子材料はシート材料および最終シート製品を形成する初期ポリマー組成物の望ましい成分ではないが、存在する場合には、本明細書で後述するような初期ポリマーシート材料を形成するのに使用されるポリマー組成物の10重量%未満(好ましくは、5重量%未満)に制限すべきである。以降の本発明の記述では、ポリオレフィンを使用して本シート製品およびセパレータを形成する実施例について説明する。
【0044】
本発明の第1のシート材料および最終シート製品を形成するのに使用する好適なポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーのいずれかの形のポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテンコポリマー、エチレンヘキセンコポリマー、およびこれらの混合物である。
【0045】
ポリオレフィンのような熱可塑性ポリマーは、重量平均分子量が約20,000〜約1,000,000であり、中程度の分子量が約200,000〜400,000未満であるのが最も好ましいポリマーから選択すべきである。さらに、好適なポリマーは、メルト・フロー・インデックス(MFI)が約0.8未満、好ましくは、0.1〜0.001の範囲である。1,000,000より大きい分子量では、一般に、MFIは0である。メルト・フロー・インデックスもしくはMFIは、熱可塑性ポリマーの溶解物の流れやすさの指標である。これは、代替の所定の温度で、所定の代替の重量の重りによって加えられた圧力によって、特定の直径および長さのキャピラリ内を10分間流れるポリマーの質量(グラム)として定義される。MFIを決定する方法は、ASTM D1238およびISO 1133に記載されている。メルト・フロー・レートは、ポリマー分子重量の間接的な指標である。
【0046】
最も好適なポリマーは、ポリエチレンホモポリマー、ポリプロピレンホモポリマー、および共単量体単位として、プロピレン、ブテン‐1、ヘキセン‐1などの他のαオレフィン(C−C10αオレフィン)を10重量%以下、好ましくは1〜10重量%の少量含む上記ポリマーのコポリマー、およびシングルサイト触媒重合を使用して好ましくは生成されたこれらの混合物から選択されたポリオレフィンである。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンから選択されてもよく、その重量平均分子量(Mw)は、2×10〜1×10であるのが好ましい。ポリエチレンは、Mwが1×10〜5×10の高密度ポリエチレンがより好ましく、Mwが2×10〜4×10の高密度ポリエチレンが最も好ましい。
【0047】
初期混合物を形成するのに使用されるポリオレフィンは、少なくとも30%の結晶化度を有し、結晶化度は、30〜90%であるのが好ましく、40〜85%であるのが最も好ましい。
【0048】
本発明のシート製品は、複数のポリマーで形成されてもよい。初期シート材料、最終的には、一体シート製品を形成するために、例えば、ポリエチレンは、ポリプロピレン、フッ素重合体などの第2のポリマーと、さまざまな割合で、または同じポリマー(例えば、ポリエチレン)の異なる分子量の材料を混合することによって混合されてもよい。本発明の複数の一体シート製品を組み合わせて積層構造体を形成してもよい。本発明に従ってさらに処理される第1のシート材料を形成するために、積層シート材料は、異なる組成物の初期混合物から形成された1つのポリマーから成るシート材料であろうと、または異なるポリマーを使用したシート材料であろうと、従来のマルチシート押出ヘッド装置(例えば、共押し出し法)を使用して容易に形成することができる。
【0049】
初期シート材料の形成に使用される第1の流体は、選択されたポリマーに対して少なくとも低い溶解性を提供できる有機流体から選択するべきである。したがって、流体はポリマーに対して十分な溶媒としての機能を果たすので、ポリマーと流体とから高温(100〜250℃)で流動性を有する均質なポリマー混合物が形成され、初期シート材料を提供することができる。本発明に従って使用される流体は、低分子量で高蒸気圧の有機流体、例えば、石油スピリット、低分子量アルカン、C〜C20の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素、例えば、ノナン、デカン、p‐キシレン、ウンデカン、ドデカン、オクタデカン〜イコサンなど、およびこれらの混合物から選択すべきである。流体は、70℃で約1〜50(例えば、1〜5、5〜10、10〜20、20〜40)mmHgの高蒸気圧(好ましくは、さらに20℃で0.1mmHg〜約5mmHgの蒸気圧を有する)を有するべきである。本シート材料および最終シート製品を形成するのに有用であると考えられている流体は、少なくとも135℃から300℃(275〜572F)の沸点を有するべきであり、好ましくは、約170℃〜約250℃(338〜482F)の沸点である。最後に、第1の流体は、30〜170℃(86〜338F)の引火点の特徴を有するべきである。好適な流体は、沸点範囲(最初の沸点から最後の沸点)が少なくとも10℃、より好ましくは15℃、最も好ましくは20℃の幅である流体の混合物であり、さらに制御された複数の温度および複数のステップで溶媒蒸発を行う能力を向上させる。
【0050】
ほぼ均質な組成物を形成するためにポリマーと第1の流体とが混合される。混合は、通常、第1の成形材料の形成前、または形成の一部として、例えば、ポリマーと流体とを一軸または二軸押出機の供給室に供給することで行われる。上記押出機は、周知の押出機であり、国際公開第2009/51278号パンフレット、国際公開第2007/46496号パンフレット、国際公開第2007/73019号パンフレット、および国際公開第2008/72906号パンフレットに記載されている。特に重要ではないが、ポリオレフィン溶液の均一な溶融混合は、2軸押出機で行われるのが好ましい。膜形成流体が、溶融混合の開始前に加えられてもよいし、または混合の中間段階で押出機に供給されてもよい。
【0051】
第1の流体は、結果として得られる混合物の20〜80重量%、好ましくは、30〜75重量%、最も好ましくは、40〜70重量%を形成する。混合物は、従来の示差走査熱量測定法(DSC)により測定されたポリマーの溶融温度(T)より高く、同時に流体の沸点温度未満の温度まで加熱される。通常、混合物が(例えば、ダイヘッドによる押し出しによって)初期成形シート材料に成形される前に混合物にせん断力を受けさせて成分を均一な混合物にする間は、約100℃(212F)〜約250℃(482F)、好ましくは、約150℃(302F)〜200℃(392F)の温度が適している。ポリマーは、通常、この操作の時に、その結晶性の全てとは言わなくてもその大部分を失う。
【0052】
形成された混合物は、任意の手段、例えば、押出ダイによる初期混合物の押出しによって、初期シート材料に成形されてもよい。この初期シート材料の形成は、通常、上述した流体とポリマーとを混合するための高温で行われる。成形シート材料は、材料を分解させずに計画された延伸を行うのに十分な厚みにするべきである。適切な厚みは、本プロセスを実行している間に当業者が容易に決定することができるが、通常、約0.1〜5mm、好ましくは、0.2〜3mm、最も好ましくは、0.2〜2mmである。
【0053】
初期成形シート材料は、形成された成形シート材料を、初期のポリマー/流体混合物を形成するのに使用され初期成形シート材料の一部として含まれている同じ流体(第1の流体)の少なくとも75重量%(好ましくは、80重量%、より好ましくは、90重量%、最も好ましくは、100重量%)で形成された第2の流体から成る冷却槽に浸漬することによって冷却される。最も好ましいのは、第1の流体と第2の流体とが同一の組成であり、本明細書で後述するように、回収された流体の処理および再利用のしやすさを助けるために、100重量%の単一の液体であることである。同じ低分子量の流体が100重量%未満の第2の流体を構成する場合、残りの流体は、第1の流体と混合可能であり、上述した第1の流体と同じ範囲の沸点、引火点、蒸気圧の特性を有する有機流体から選択すべきである。冷却流体(第2の流体)は、100℃以下(好ましくは、0〜100℃、最も好ましくは、20〜90℃)の温度で維持される。初期成形シート材料は、シート材料の温度をポリマーの溶融温度未満に下げるための十分な時間、第2の流体内にある。初期成形シート材料は、通常、最長で約90秒間、好ましくは、1〜90秒間、より好ましくは、1〜60秒間、最も好ましくは、約5〜60秒間、冷却流体内にある。この時間は、初期成形材料を使用されるポリマーの温度T未満になるまで冷却するために十分な持続時間であるのが好ましい。
【0054】
任意で、初期成形シート材料は、上述したように冷却流体内で浸漬される前に、空気空間に通されてもよい。空気空間は、周囲温度で維持されてもよいし、約0〜100℃の範囲内の温度で維持されてもよい。空気空間での滞留が使用された場合、シート材料が空気空間内にとどまる滞留時間は、例えば、約0.01〜8秒と短い。空間は、普通の空気、または窒素のような不活性ガス、または第1の流体のガス蒸気、またはこれらの混合物で満たされてもよいし、部分的に満たされてもよく、ほぼ窒素で満たされた空間が好ましい。
【0055】
押出機または他の選択された成形装置によって生成された初期成形シート材料は、選択されたポリマーと流体とから成る。第1の流体は、結果として得られる混合物の20〜80重量%、好ましくは、30〜75重量%、最も好ましくは、40〜70重量%を形成する。成形シートのポリマーの結晶性は、通常、ほぼ無定形であるが、それでも選択されたポリマーの元の結晶性を残存程度に保持する場合がある。初期シート材料の冷却時に、一部のポリマーの再結晶化が生じる場合がある。したがって、冷却された初期シートは、約30質量%以下、通常は20質量%未満、例えば、10質量%未満のポリマー結晶化度を有することができる。
【0056】
成形シート材料は、上述したように冷却槽内で冷却される時に、2ステップの延伸/流体蒸発処理が施される。第1のステップでは、冷却された成形シート材料が少なくとも一方向に延伸される。この第1の延伸方向は、通常、初期成形シート材料が押出ダイヘッドおよび冷却槽から出る機械方向に行われる。延伸は、例えば、成形シート材料を規定の回転速度のニップローラに通し、その後、巻き取りローラの前に、第2の組もしくは次の組のニップローラに通すことによって、容易に行うことができる。あるいは、他の従来の延伸手段、例えば、テンター法、インフレーション法、またはこれらの組み合わせを使用することもできる。延伸は、一軸で行われてもよいし、二軸(機械方向および横方向)で行われてもよいが、一軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、連続延伸、または多段階延伸(例えば、同時二軸延伸と連続一軸延伸との組み合わせ)が使用されてもよい。
【0057】
初期成形シート材料は、1つの第1の方向(例えば、機械方向)に最初の寸法の少なくとも約2.25倍第1の延伸が行われるべきであり、約2.25〜10倍の延伸が好ましく、約2.5〜7倍がより好ましく、3〜6倍が最も好ましい。この第1の延伸は、シート材料を高温に保ちながら行われる。温度は、(T−70)〜(T−20)℃(Tは、ポリマーの溶融温度である)またはシート材料および最終シート製品を形成するのに使用されるポリマーの混合物を形成するポリマーより高い温度Tで維持されるべきである。例えば、ポリエチレンで形成さえたシート材料の延伸は、約71℃(160F)〜約121℃(250F)、好ましくは、約77℃(170F)〜約116℃(240F)、最も好ましくは、約96℃(205F)〜約110℃(230Fの温度)で行われるべきであるが、ポリプロピレンを使用した場合、上述の温度範囲は約20℃高くなる。第1の方向の延伸は、1つのステップ操作で行われてもよいし、シート材料を望ましい程度まで伸長するために一連の延伸操作で行われてもよい。この延伸は、結果として形成された第1の延伸シート材料のポリマーの結晶化度を増加させる。延伸は、第1の延伸シート材料のポリマーの結晶性を回復させるのに十分な延伸とすべきである。ポリマーの結晶化度は、少なくとも約40質量%、好ましくは、少なくとも約50質量%とすべきである。得られた結晶化度が低い値である場合、最終シート製品は非常に高い抵抗率(Ω・cm)を示すので、電池セパレータ用としては非常に望ましい製品であるとは言えない。
【0058】
2ステップの延伸/流体蒸発プロセスの第1のステップの時に、流体は、蒸発させることによって第1のシート材料から除去され、それと同時にガス状蒸発物質の回収および凝縮が行われるのが好ましい。この蒸発は、第1のシート材料の延伸と同時に行われるべきである。ガス流の蒸発および回収は、第1のシート材料から蒸発した流体を除去するのを助けるために、延伸装置を覆って、不活性ガス(例えば、空気、窒素)の流れが第1のシート材料全体に行き渡るように行われてもよい。ガスは、高温に、例えば、上述した延伸を行うための温度にすべきである。あるいは、延伸装置は、減少された大気圧の限定空間内に収容されてもよい。蒸発流体は、例えば、凝縮装置を使用して、0℃から回収される流体の沸点未満の間の温度に保たれた冷表面の上を通過させることによって回収されて凝縮される。
【0059】
上述した第1のステップの延伸/流体蒸発によって得られた第1の延伸シート材料から、実質的に無孔質のシート材料が得られる。本発明を制限するのではないが、これは、第1の延伸シートを形成するポリマー材料が該シート上で再結晶化すること、および破壊されることが原因であると考えられる。
【0060】
形成された第1の延伸シート材料のポリマーは、少なくとも40%、通常は、40〜85%(好ましくは、50〜80%)の結晶化度を有するべきである。さらに、初期延伸シート材料に含まれる残留流体は、初期成形シート材料の10〜45重量%(好ましくは、15〜40重量%)で存在すべきである。残留流体が実質的に10%未満であれば、結果として、第2の延伸時のシートの破損および不均一性が生じる。保持される流体量は、好ましくは、ポリマーの結晶化度に比例する。したがって、第1の延伸後に第1の延伸シート材料のポリマーが高範囲(例えば、70〜85%)の結晶化度を有する場合、流体は上限(例えば、35〜45重量%)にあるのが好ましい。予想外に、上述したように、約45%以下の残留流体および50%より高いポリマー結晶化度を有する第1のシート材料となるように、2ステップの延伸/流体蒸発の第1のステップが行われた場合に、予想外に電気抵抗率が約250Ω・cm未満、ほとんどの場合、100Ω・cm未満の最終シートが得られることがわかった(図5および図6参照)。また、最終シート製品は、図示されるように、最終シート製品の20ミクロン厚の水平方向に配置されたサンプルに対して、30mgの添加有機溶媒(すなわち、イソプロピルアルコール)を直径1インチの円領域の中心から円領域の周囲に移動させることにより、200秒未満、大抵の場合、100秒未満、最も好ましくは70秒未満のウィッキング速度を実現することにより、高いウィッキング性を示す。
【0061】
また、シート製品の抵抗率は、以下の近似式に示されるように、残留流体および第1の材料の結晶化度の割合と相関がある。
Log r = 2(f/c) + 1
ここで、
r=KOH30%のシート製品の抵抗率(Ω・cm)
f=第1の延伸材料の流体の割合(%)
c=第1の延伸材料の結晶化度(%)であり、
今実施されている試験方法において、log rは、3以下である、または抵抗率は999Ω・cmである。
この関係は、図7にグラフで示されている。上述の式は、第1の延伸材料の流体濃度、第1の延伸材料のポリマーの結晶化度、および最終シート製品の抵抗率の近似関係を示すものである。この近似式から、低い抵抗率を実現するためには、f/c比は1.0以下、好ましくは、0.15〜0.9、より好ましくは、0.15〜0.8、最も好ましくは、0.2〜0.7(例えば、0.75)にしなければならないことがわかる。その結果、シート製品の抵抗率(r)は約100Ω・cm(抵抗率の対数は2)未満になる。
【0062】
第1の延伸シート材料は、上述した第1の延伸/流体蒸発ステップの後、続けて第2の延伸/蒸発ステップにかけられる。この第2のステップは、第1のシート材料を、上述した最初の延伸の第1の方向に対して直角である少なくとも1つの第2の方向に延伸する(例えば、上述した第1の延伸で機械方向のみが使用された場合、第1のシート材料は機械方向に対して直角方向に延伸される)ことによって行われる。延伸は、従来のテンター機によって行うことができる。テンターは、基本的には、シート製品の両端を掴んで、シートがテンターを通過する時にシートをさらに引き離すことができる1組のトラックを有する。テンターは、配向フィルム処理用として当業者に周知である。この第2のステップの延伸は、(第1の延伸で一方向のみが使用された場合)第1の延伸で使用された方向に対して直角な方向に行われる。第1の延伸が機械方向と横方向の両方の方向に行われた場合、第2の延伸もその一方または両方の方向に行われてもよく、同時にまたは連続してそれぞれの方向の延伸が行われてもよい。この第2のステップの延伸は、第1のステップのプロセスの操作温度より少なくとも20℃低い温度、より好ましくは、約30℃低い温度で行われるべきである。例えば、周囲温度から約95℃(203F)の温度、好ましくは、約38〜77℃(100〜170F)の温度が、低い溶融温度(T)のポリマー(例えば、ポリエチレン)およびそれより約20℃高い値で高い溶融温度(T)のポリマー(例えば、ポリプロピレン)に有用である。一方向または両方の方向の第1のシート材料の延伸は、第1の延伸シート材料の最初の寸法の約1.25〜7倍(125〜700%)である。
【0063】
第2のステップの延伸/流体蒸発には、さらにシート材料に残っている流体の蒸発および除去を同時に含めるものとする。流体の蒸発および除去(任意で、回収)は、第1の延伸/流体蒸発ステップに関して上述した方法と同じ方法で行われてもよい。シート材料の延伸の完了後、通常、シートには、残留流体はほぼ無くなる、または少量の残留流体のみが残り、第1の延伸シートの残留流体の量に基づいて、約10〜約45重量%(例えば、第1の延伸シート材料に保持されている流体量に近い)、好ましくは、10〜40重量%、最も好ましくは、10〜20重量%の流体が残る。
【0064】
シート材料は、シート製品を生成するための第1および第2の(例えば、機械方向および横方向の)延伸がなされるものとする。合算延伸比は、機械方向の少なくとも約2.8倍の延伸と、好ましくは約2.8〜70倍の延伸、より好ましくは、3.4〜49倍の延伸、最も好ましくは、3.8〜35倍の延伸とを合算したものである。機械の設定に応じて、第1の延伸および第2の延伸は、連続して処理される場合に入れ替え可能である。
【0065】
延伸シート材料が少なくとも一方向または両方の方向の張力を受けた状態で、第2の延伸シート材料に対してアニール、または高温シート安定化が行われる。アニール温度は、一般的には、シート製品を形成するポリマー温度Tに対して、(T−50)℃〜(T−5)℃の間に設定される。例えば、好ましいアニール温度は、低い溶融温度(T)のポリマー(例えば、ポリエチレン)およびそれより約20℃高い値の高い溶融温度(T)のポリマー(例えば、ポリプロピレン)では、110〜138℃(230〜280F)、より好ましくは、120〜132℃(250〜270F)である。アニールの完全性は、熱伝達効果、温度、残留時間、および緩和の関数である。延伸シート材料は、これらの条件下で、1〜300秒間(好ましくは5〜120秒間)維持される。シート製品は、任意で、さらに寸法安定性を改善するために、当業者に周知のように、一方または両方の延伸方向に緩和されてもよい(長さおよび/または幅を約5%〜20%縮小)。これは、ポリマーを固定形状にして所望のシート製品を形成するためにシート材料がアニールされるものである。
【0066】
シート材料の延伸完了後、シート内の残留流体は、アニールの時および/またはアニール前に蒸発によって除去されることになる。残留量の流体は、アニールステップの後で除去されてもよい。最終シート製品は、第1および第2の残留流体の10重量%以下、好ましくは、5重量%以下、最も好ましくは、1重量%以下にしてもよい。残留流体を除去するプロセスは、任意の手段によって、例えば、冷却されたシート製品を真空ローラに通すことによって、または上述の方法のいずれかの方法によって行うことができる。最終シート製品は、実質的に、製品内に約1重量%未満の流体を有する。
【0067】
上述したポリマーと流体とを混合する操作、冷却操作、一方向または両方の方向の延伸操作、およびアニール操作のうちのいくつかまたは全ては、流体の蒸気を容易に捕捉することができるように、密閉されたシステム内で行われるのが好ましい。封入された蒸気は、その後、再利用するために凝縮または吸収される。
【0068】
上述したように、好ましい高温で第1の延伸およびその後の横方向の延伸が行われた場合、初期シート材料を形成するのに要した流体(単数または複数)を初期シート材料から放出することができ、次の初期シート材料形成に使用するのに適したほぼ純粋な状態で回収することができる。流体(単数または複数)の大部分は、高温で行われる第1および第2の延伸ステップの時に、それぞれ第1および第2の延伸シート材料から容易に蒸発する。これは、第2の抽出液を使用して流体(単数または複数)を除去する必要なく行われる。第2の延伸シート材料に保持される残留流体の量は、上述した第1および第2の延伸ステップのプロセス条件に応じて決まる。延伸後にシート材料に含まれている任意の残留流体は、アニール操作の際に除去されてもよい。この残留流体は、再利用するために前の捕捉された流体と混合される。流体は、空気流または同様の手段を用いて周囲圧力下または減圧下で除去され、その後、再利用するための流体を捕捉するために凝縮されてもよい。任意で、延伸操作後またはアニール操作後に、別のチャンバ内で周囲圧力下または減圧下でシート製品を周囲温度または高温(例えば、約60℃以下)の空気流にさらす従来の方法によって、流体の任意の残存量をシート製品から除去することができる。したがって、流体は、第1の延伸時、第2の延伸時、アニール時、または別個のステップとして、またはこれらのステップを組み合わせた蒸発により、除去することができる。
【0069】
最終シート製品は、特有の構造のシート製品となる。シート製品は、2つの主要面と主要面間の厚みとから成る構造を有する。厚みは、交互の第1および第2のミクロ多孔質領域(シート製品の長さ方向および幅方向に伸びる層)から成り、好ましくは、第1のミクロ多孔質領域は2つの各々の主要面に隣接して主要面の大部分を形成する。各々の第1のミクロ多孔質領域は、平均孔径が0.01〜2ミクロン(好ましくは、0.01〜1ミクロン、より好ましくは、0.01〜0.5ミクロン)の孔を有し、前記シート製品を形成する交互の第2のミクロ多孔質領域の平均孔径より小さい平均孔径を有する。一般に、第1のミクロ多孔質領域は、実質的に表面に平行または表面に沿って整列したポリマーフィラメントを有する。フィラメントは、層状モフォロジーを形成する。これが液体または電解質のウィッキング性を促進する。各々の第2のミクロ多孔質領域は、少なくとも2ミクロン(好ましくは、5ミクロンより上)の平均孔径、少なくとも3:1、好ましくは5:1を超える、最も好ましくは10:1を超える平均アスペクト比(シート製品の断面に基づいた長さ:幅)の孔を有し、隣接する交互の第1の層の平均孔径より大きい平均孔径を有する。本シート製品は、20ミクロンの厚みごとに少なくとも5、好ましくは少なくとも10の第2の層を有し、第1および第2の層または領域は、シート製品の厚み全体にわたって交互に位置する。これは、図2および図3の電子顕微鏡写真にはっきりと示されている。交互領域は、ポリマー材料の枝を結合することで接触面で互いに接続される。したがって、最終シート製品は、一体構造となる。最終シート製品を形成する際にポリマーに付与された高い結晶化度(65〜90%、好ましくは、70〜85%)は、優れた完全性と強度とを有するシート製品を実現する助けとなる。
【0070】
シート製品に含まれている第2の領域は、大きい平均孔径(通常は、2ミクロンより大きい)を有するが、第1の層の孔径が制限される(約0.01〜2ミクロン)という特性を帯びることから、シート製品全体の平均孔径は非常に狭くなる。特有の交互構造および非常に狭い孔径分布により、本発明のシート製品は、高い伝導性(第2の領域の大きい孔に起因すると考えられる)と、電解質を保持することができる高速ウィッキング性(第2の領域の大きい孔と隣接する第1の領域の小さい孔との組み合わせに起因すると考えられる)とを有する改良電池セパレータを提供する。ここで得られる本シート製品の特有構造は、初期シート材料の流体成分として、また初期成形シート材料の形成時に初期成形シート材料と接触する冷却流体として、同じ流体を使用すること、さらに、ポリマーの再結晶化およびシート材料から流体を蒸発させて除去するのと同時に延伸を行うことに起因すると考えられる。それぞれの上述の考えは、本明細書の記述または添付の特許請求の範囲を制限するものではなく、単に最終シート製品に関して観察された特性について説明したものにすぎない。
【0071】
最後に、本明細書で上述したように、高い蒸気圧および低い沸点を有する低分子流体を使用して、シート材料から流体を蒸発させることで前記流体を除去して、最終的に最終シート製品を形成することによって、所望のシート製品を実現すると同時に流体を再利用することができる。初期流体が第2の流体を使用して抽出することで除去するという他の周知の方法に共通して生じる廃棄物の流れは、本プロセスによって低減され、または取り除かれ、本発明の方法によって環境的にも経済的にも利点が得られる。
【0072】
以下の実施例は、単に例示目的であって、本明細書に記載されている本発明または添付の特許請求の範囲を制限するものではない。説明、実施例、および添付の特許請求の範囲の全ての部分および割合は、別段の規定がある場合を除き、重量で示すものとする。また、本明細書に記載されている全ての数字の範囲は、特に、それぞれの所与の範囲内の数字のサブセット範囲全てを開示するものとする。
実施例
【0073】
使用された材料は、以下の通りである。
−高いポリマー結晶化度を有するLyondell−Basell社製ポリプロピレンL5906(MFI=0.06)
−高いポリマー結晶化度を有するNova Chemicals社製ポリエチレン19A(MFI=0.7)
−蒸気圧が20℃で3mmHgであるMW Barr&Co.Inc.(Memphis、Tennessee)製の石油スピリット(MSB)
−以下の蒸気圧特性を有するCitgo社製石油スピリット(MSC)
【0074】
使用された機器は、以下の通りである。
−定量供給機、モデル#K2MV60(K−Tron社製)
−流体ポンプ、Neptuneモデル515AN3
−二軸押出機(ZSK−30)(Krupp Werner&Pfleiderer(Ramsey、NJ、07446)社製)
−キャストフィルム巻き取り装置(Killion Extruders社、Davis Standard Company社(Pawcatuck、CT)製)
−双方向テンターフレーム(Marshall and Williams社(Woonsucket,RI)製)
【0075】
以下の手順は、表1および表2に記載されている各々のシート製品および表3にまとめられている各々の比較シート製品を形成するのに使用した手順である。
定量供給機によって指定分のポリマーが二軸溶融押出機に供給された。ポリマーは押出機内部で溶融され、指定分の流体が定量ポンプによって押出機に導入された。ポリマーと流体が混合されて、均質な流体混合物にされた。全体の押し出し速度は、指定されているように、3〜5.3kg/時に設定された。混合物は、スリットダイを使用してシートに形成された。シートは、ポリマー/流体混合物を形成するのに使用された流体と同じ流体で形成された49℃で保たれた液体冷却槽に流し込まれた。シート材料は、液相から固相のシート材料に転移された。
【0076】
シートは、延伸を受けるのに適したシート厚みを提供するために指示された流し込み速度で、巻き取りローラによって冷却槽から除去された。シートは、その後、一連のニップローラを使用して機械方向に延伸され、それぞれの延伸は制御された温度で行われた。総延伸率は、それぞれの延伸率の組み合わせの積である。それぞれの延伸操作は、流体を蒸発させて蒸発した流体を放出するのを助けるために、密閉環境で空気流がシート材料の上を通過するようにして行われた。第1の延伸によって生じた蒸気は、熱交換器に通されて、回収するために凝縮された。この第1の延伸/蒸発は、最初に形成されたシートのポリマーに結晶性を付与すると同時に、所定の程度の流体を残すことができるようにして行われた。
【0077】
その後、シートは、テンター装置を使用して、制御された高温(単数または複数)で第2の横方向の延伸にかけられた。延伸は、流体を蒸発させて蒸発した流体を放出するのを助けるために、密閉環境で空気流がシート材料の上を通過するようにして行われた。第2の延伸によって生じた蒸気は、回収された。
【0078】
テンターの力は、シート製品をアニールして固めるために、シートを張力を受けた状態で高温で60秒間保持することができるように調節された。形成されたシート製品のそれぞれの特性は、以下の表に示されている。
【0079】
以下の表1、表2、および表3にまとめられている各々のサンプルに対する詳細について本明細書で後述する。
【0080】
(実施例1)
41%のポリマー19Aが、押出機内で59%のMSB流体と混合された。キャストフィルムは、冷却され、その後、4つの連続ステップで機械方向に延伸された。第1のシート材料を形成するための延伸率1.5倍、1.4倍、1.4倍、および1.5倍と、それに対応する温度60℃、71℃、82℃、および94℃(140F、160F、180F、および200F)が表1に列挙されている。第1のシート材料は、その後、(予熱、延伸、および熱アニールで)使用された3つの領域全てに対して、温度71℃(160F)で3.5倍の延伸率で横方向に延伸された。最終シート製品は、0.1%未満の残留流体を含むための試験が行われた。シート材料は、多孔率84%、抵抗30mΩ・cm、抵抗率6Ω・cm、およびウィッキング速度55秒を示した。
【0081】
水平位置に配置された形成された電池セパレータの一片にイソプロピル・アルコール(IPA)一滴(30mg)を垂らすことによって、ウィッキング速度試験が行われた。ウィッキング速度は、IPAが液滴の中心から1インチの距離(すなわち、予め印を付けた1インチの円の縁部)まで広がるのにかかる時間として求めた。セパレータ内のIPAが広がった領域は、乳白色から透明に目に見える変化があった。これは、セパレータ内のIPAが広がった領域の孔の容積内にIPAが浸潤したことを示している。
【0082】
(実施例2)
36%のポリマーL5906が、押出機内で64%のMSC流体と混合された。キャストフィルムは、冷却され、その後、4つの連続ステップで機械方向に延伸された。第1のシート材料を形成するための延伸率1.5倍、1.2倍、1.2倍、および4倍と、それに対応する温度71℃、80℃、88℃、および110℃(160F、175F、190F、および230F)が表1に列挙されている。第1のシート材料は、その後、予熱、延伸、および熱アニール領域に対して、温度32℃、32℃、110℃(90F、90F、230F)で2.5倍の延伸率で横方向に延伸された。最終シート製品は、0.1%未満の残留流体を含むための試験が行われた。シート材料は、多孔率57%、抵抗40mΩ・cm、抵抗率17Ω・cm、およびウィッキング速度25秒を示した。結果として得られた製品は、厚みが24ミクロンで、突刺強度が440g重量となった。引張強度は、表1に示されている。
【0083】
(実施例3)
45%のポリマーL5906が、押出機内で55%のMSC流体と混合された。キャストフィルムは、冷却されて、その後、2つの連続ステップで機械方向に延伸された。第1のシート材料を形成するための延伸率1.5倍および4倍と、それに対応する温度71℃および105℃(160Fおよび220F)が表1に列挙されている。第1のシート材料は、その後、予熱、延伸、および熱アニール領域に対して、温度32℃、49℃、121℃(90F、120F、250F)で3倍の延伸率で横方向に延伸された。最終シート製品は、0.1%未満の残留流体を含むための試験が行われた。シート材料は、多孔率69%、抵抗54mΩ・cm、抵抗率16Ω・cm、およびウィッキング速度18秒を示した。
【0084】
(実施例4、実施例5、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10)
ポリマーL5906とMSC流体とが押出機内で溶融混合された。それぞれの実施例に対して、組成物の百分率、第1の機械方向の延伸率、および第2の横方向の延伸率が表1および表2に列挙されている。これらの実施例は、第1の材料の結晶化度および流体の目標値を満たす、50%より高い結晶化度および10%〜45%の流体となるように製造された。その結果得られたf/c比は0.8未満である。これらの実施例の抵抗率は、100Ω・cm未満となった。
【0085】
(実施例6)
46%のポリマーL5906と54%のMSC流体(Citgo社製)とが押出機内で溶融混合された。第1の機械方向の延伸率および第2の横方向の延伸率が表2に列挙されている。この実施例は、抵抗率が264Ω・cmとなり、望ましい目標値よりわずかに高い。この実施例は、第1の材料において、わずかに低い結晶化度(56%)とわずかに高い残留流体(46%)との組み合わせによって、高い抵抗率が得られることを示している。見掛けf/c比は、0.82である。
【0086】
(比較例11)
49%のポリマーL5906と51%のMSC流体と(いくつかの成分と量は実施例4と同じ)が押出機内で溶融混合された。第1の機械方向の延伸率および第2の横方向の延伸率が表3に列挙されている。この機械方向の延伸率を1.5倍とし、横方向の延伸率を3倍とした。このサンプルは、第1の材料の結晶化度および流体の割合に影響を与える乾燥または加熱を行わずに形成された。その結果得られた結晶化度は30%、流体の割合は51%であった。その結果得られたf/c比は1.7であった。この比較例は、抵抗率が999Ω・cm(抵抗率試験の最高値)と非常に高くなった。
【0087】
(比較例12)
46%のポリマーL5906と54%のMSC流体とが押出機内で溶融混合された。第1の機械方向の延伸率および第2の横方向の延伸率が表3に列挙されている。このサンプルは、機械方向の延伸率を4倍、横方向の延伸率を2.7倍とした。この比較例12は、第1の材料の結晶化度および流体の割合に影響を与える乾燥または加熱を行わずに形成された。その結果得られた結晶化度は47%、流体含有量の割合は48%であった。その結果得られたf/c比は0.98であった。この比較例は、抵抗率が999Ω・cmと非常に高くなった。
【0088】
(比較例13)
49%のポリマーL5906と51%のMSC流体とが押出機内で溶融混合された。第1の延伸は、機械方向に1.5倍および3.5倍の延伸率で連続して行われ、第2の延伸は、横方向に2.5倍の延伸率で行われた。これら全ての条件は表3に列挙されている。その結果得られた第1の材料は、結晶化度が82%となったが、流体含有量の割合を12%と低くするために第1の材料は高温で保たれた。その結果得られたf/c比は0.15である。この製品のサンプルは、特定の表面領域が延伸されて乳白色の外観を呈するが、断続的に、延伸されなかった領域できれいな透明のフィルムとなる領域も存在する場合に形成される断続的に不均一な縞模様の外観となった。延伸されなかった領域は、結晶化度が非常に高く、かつ流体量の割合が非常に低いことが、均一な第2の延伸を妨げたことにより生じた可能性がある。この製品の物理的試験では、延伸された不透明な多孔質領域は、厚みが26ミクロン、対応する抵抗率が18Ω・cmであるが、延伸されなかった透明領域は、厚みが65ミクロン、抵抗率が999Ω・cmとなった。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7