【実施例】
【0041】
以下の実施例は、決して本発明の限定を意味するものではない。
【0042】
実施例1−リパーゼの活性および安定性
図4Aおよび4Bにおいて、カンジダ・ルゴサのリパーゼの酵素活性(
図4A)および安定性(
図4B)に対するpHの影響を示す。真菌リパーゼ国際(FIP)活性分析(Food Chemical Codex protocol, Volume 7: 1201-1202, 2011)を用いて、カンジダ・ルゴサのリパーゼが2〜8のpH範囲、より好ましくは3〜8のpH範囲において完全に活性であることを測定した。FIP単位は、1分でトリグリセリドから1マイクロモルの脂肪酸を放出するのに必要とされる酵素の量である。標準的なFIP分析は、リパーゼ反応混合物(pH7)の中性pHを維持するために、自動pH滴定機器を用い、温度は37℃である。脂肪酸がオリーブ油基質からリパーゼにより放出されると、pHは低下し、中性pHを維持するために、0.02NのNaOH溶液が自動的に反応混合物に加えられる。反応の間、中性pHを維持するために用いられたNaOH溶液の正確な体積の測定の実施により、リパーゼ活性を算出することができる。
【0043】
図4Aに示されるpHの影響のグラフに関して、自動滴定機器をセットし、グラフに示される異なるpHレベルで反応を維持した。その結果より、カンジダ・ルゴサのリパーゼは、ほぼ満腹の胃によるpHと類似するpH3〜4で完全に活性であることが示唆される。カンジダ・ルゴサのリパーゼは、低pHで安定であり、その酵素活性の大部分を維持している(
図4B)。これらの実験のために、カンジダ・ルゴサのリパーゼを、FIP活性分析(pH7.0)の実施の前に、異なるpH値の適切な緩衝液中で37℃で、2時間、前もってインキュベートした。総合すると、データにより、カンジダリパーゼは、満腹の胃の中でトリアシルグリセリドの分解を開始することができることが示唆される。
【0044】
2種の他の微生物リパーゼの酵素活性および安定性に対するpHの影響を、
図5A〜5Dに示す。クロコウジカビリパーゼの酵素活性および安定性に対するpHの影響を、それぞれ
図5Aおよび5Bに示す。クロコウジカビ由来のリパーゼは、カンジダ・ルゴサのリパーゼと比較して、低pHでやや低い相対酵素活性を示したが、広いpH範囲にわたり、類似した一定の酵素安定性を示した。リゾプス・オリーゼのリパーゼの酵素活性および安定性に対するpHの影響を、それぞれ
図5Cおよび5Dに示す。リゾプス・オリーゼ由来のリパーゼは、カンジダ・ルゴサのリパーゼと比較して、低pHで有意に低い相対酵素活性を示し、また、より狭いpH範囲で、より低い酵素安定性を示した。
【0045】
リパーゼ製剤を用いたトリアシルグリセリドの消化(実施例2〜5)
本発明者らは、pH4および7で様々なリパーゼを用いて、加水分解実験を実施し、もしあれば、リパーゼによりトリアシルグリセリドから放出される、グリセロールの量を測定した。
【0046】
加水分解実験
実験により、以下のリパーゼ:ブタ膵臓リパーゼ(American Labs Inc., Omaha NE)、クロコウジカビリパーゼ(Bio−Cat Inc., Troy VA)、リゾプス・オリーゼリパーゼ(Bio−Cat Inc.)およびカンジダ・ルゴサリパーゼ(Bio−Cat Inc.)を用いて、トリアシルグリセリド油(大豆油およびオリーブ油)の加水分解を検証した。
【0047】
標準反応プロトコールを用いて、異なるリパーゼによるトリアシルグリセリド消化を分析した。リパーゼ反応は、Fisher Isotemp再循環水槽を用いることにより37℃で維持し、100mlのジャケット型ビーカーを用いて実施した。0.05MのCaCl
2 5mLおよび5mg/mLの胆汁塩 1mLを、前もって温めたジャケット型ビーカーに加えた。反応混合物の入ったビーカーを、攪拌棒を用いて磁気攪拌プレート上でゆっくりと攪拌した。大部分の実験(結果を、
図6、7および9に示す)に対して、12,900FIP単位が加水分解に用いられた(860FIP単位/油mL)。リパーゼを、風袋された薬包紙上で検量し、次いで、4mLの水を用いて20mLのチューブへ移し、溶解するまでボルテックスした。チューブを、反応混合物に加えられた4.25mLの水で2度リンスした。反応物を、0.02NのNaOHの添加によりpH4.0(または、一部の実験においてはpH7.0)にした。リパーゼ反応を、15mLの大豆油(
図6〜8、Food Lion,Troy,VA)またはオリーブ油(
図9、Sigma−Aldrich Chemicals,St. Louis,MO)を添加することにより開始させた。30、60、120および180分でリパーゼ反応試料を得て、微小遠心管内に静置した。試料を5分間、10,000rpmで遠心し、油層と水層を分離させ、次いで、冷凍庫で、−20℃で保管した。
【0048】
トリアシルグリセリド消化分析
トリアシルグリセリド消化は、HPLCで定量化した。HPLC分析のために、油層をアセトンに溶解し、量は試料濃度に依存した。HPLCシステムは、順番に、Agilent 1100シリーズのデガッサ、クォータナリポンプ、オートサンプラ、カラムオーブン、屈折率検出器、および2つのSupelcosil LC−18カラム(150x4.6mm; Sigma−Aldrich)で構成された。流速は、アセトン/アセトニトリル(64:36、体積/体積)の1mL/分で、カラムオーブンは25℃にセットされた。屈折率検出器の光学温度は30℃にセットされ、ピーク幅は0.2分超にセットされた。トリグリセリドの結果は、Perkins(1979)およびPodlanta and Toregard(1982)に採用され、Supelco Bulletin 787D (Sigma−Aldrich 1997)に記載される分離方法の改変版を用いて定量化された。
【0049】
実施例2−大豆加水分解結果
図6において、pH4での大豆油の加水分解の結果を示す。他の3種のリパーゼ(n=4)と比較して、カンジダリパーゼ(n=5)は、分析された4つ全ての時点で、有意に高い大豆油トリアシルグリセリド消化を示した(
*=P<0.01)。結果は、一元配置ANOVA(P<0.01)により解析され、次いで、ターキー・クラマーHSD事後検定により解析され、リパーゼ検証群の間の有意差を測定した。平均値の標準誤差(SEM)のバーは、カンジダリパーゼの結果に対して示されている。ブタ膵臓リパーゼがpH7で少量のリパーゼ活性を示したことを除き、同様の結果がpH7でトリアシルグリセリド反応を実施した際に見いだされた(データは示さず)。用いたブタ膵臓リパーゼ調製物がコリパーゼを含有したかどうかは不明であるが、コリパーゼの欠失により、観察された結果となった可能性がある。
【0050】
実施例3−グリセロール分析
4種のリパーゼ(それぞれ、12,900FIP単位を含有)による、一時的な大豆油トリグリセリド消化の比較を、標準反応プロトコール(pH4)を用いて実施した。試料は、水に溶解した水層の希釈により調製し、油層は30秒間のボルテックスにより水(50:50、体積/体積)で抽出された。次いで、油/水の混合物を、5分間、10,000rpmで遠心した。水層を必要に応じて水を使用して希釈した。1mg/mLのグリセロールのストック溶液およびすべての標準物を水で調製した。
【0051】
産生されたグリセロールの量は、Gandiら(The Application Notebook, Metrohm e-publication, LC_GC Chromatography online.com 12/02/2009)に採用された分離方法の改変版を用いたHPLCにより定量化された。HPLCシステムは、Agilent 1100シリーズのデガッサ、クォータナリポンプ、オートサンプラ、カラムオーブン、屈折率検出器、および、Supelocgel C−610H炭水化物カラム(300x7.8mm:Sigma−Aldrich)から構成された。流速は、0.1%リン酸の0.5mL/分で、カラムオーブンは30℃にセットされた。屈折率検出器の光学温度は、30℃にセットされ、ピーク幅は0.2分超にセットされた。
【0052】
図7に、グリセロール分析の結果を示す。用いられた他の3種のリパーゼ(n=4)と比較して、カンジダリパーゼ(n=5)は、分析された4つ全ての時点での大豆油トリグリセリドの完全な消化由来のグリセロール産生の有意な増加を示した(
*=p<0.01)。結果は、一元配置ANOVAにより分析され(P<0.01)、次いで、ターキー・クラマーHSD事後検定により解析され、リパーゼ検証群の間の有意差を測定した。平均値の標準誤差(SEM)バーは、カンジダリパーゼの結果に対して示されている。pH7でトリアシルグリセリド反応が実施されたとき、および、産生されたグリセロールの量が分析されたときは、類似の結果となった(データは示さず)。すなわち、カンジダリパーゼは、試験された他の4種のリパーゼよりも、pH4およびpH7の両方で有意に多いグリセロールを産生した。
【0053】
実施例4−濃度反応実験
図8に、カンジダリパーゼの濃度反応曲線を示す。カンジダリパーゼ(500〜12,900FIP単位;33.3〜860FIP単位/油mL)を、標準反応プロトコール(pH4)を用いて大豆油と反応させ、トリアシルグリセリドを30分間、消化させた。産生されたグリセロールの量は、上述のHPLCにより定量化された。カンジダリパーゼの量は、大豆油トリグリセリドの完全な消化に由来するグリセロールの産生上昇と相関し、このことから、グリセロール産生に対する反応特異性が示された。エラーバーは、本濃度反応試験で用いられたカンジダリパーゼの量により産生されたグリセロールの量(2回〜4回測定)の範囲を表す。
【0054】
実施例5−オリーブ油およびショートニング実験
本発明者らはまた、大豆油トリアシルグリセリドに対するカンジダリパーゼの脂質消化作用の上昇が、他のトリアシルグリセリド源に対する作用にも当てはまる一般的な現象として現れるかどうかを検証した。そこで、トリアシルグリセリド源として、オリーブ油およびショートニングを使用して実験を実施した。
【0055】
図9において、オリーブ油を用いたトリアシルグリセリド消化およびグリセロール産生に対する4種のリパーゼの作用の比較を示す。標準反応プロトコール(pH4)を用いて、4種のリパーゼ(各リパーゼ反応は12,900FIP単位を含有)のそれぞれを使用して、オリーブ油のトリグリセリドを30分消化させた。リパーゼ反応により産生されたトリアシルグリセリドおよびグリセロールの量は、上述の技法を用いたHPLCにより定量化された。
【0056】
対照反応(リパーゼ無し)はオリーブ油トリアシルグリセリドを822±2mg/ml含有したが、遊離グリセロールは検出されなかった。
【0057】
大豆油を用いた場合と同様の結果が、トリアシルグリセリド源としてオリーブ油を用いた場合にも得られた。大豆油を用いた場合と同様に、カンジダリパーゼは、オリーブ油トリアシルグリセリドの消化で検証された中で最も効果的なリパーゼであり、消化反応の間に、一番多量のグリセロールを同じように産生した。トリアシルグリセリド源としてクロロホルムに溶解した溶かしショートニング(Crisco;Food Lion)を用いた場合にも、同様の結果が得られた(データは示さず)。カンジダリパーゼは、pH4およびpH7の両方で、大豆トリアシルグリセリドおよびオリーブトリアシルグリセリドで見られたものと同様の低レベルにまで、効果的にショートニングトリアシルグリセリドを消化した(対照トリアシルグリセリド 856mg/mlと比較して、それぞれ109mg/mlおよび164mg/mlの残存トリアシルグリセリドが検出された)。ゆえに、カンジダリパーゼは、概して、脂質消化を検証した中で、最も効果的な酵素であると思われる。
【0058】
実施例6−リパーゼ製剤を用いたヒト試験
インビボでの血清トリアシルグリセリドに対するカンジダリパーゼ組成物の効果を測定するために、1か月の試験が開始された。
【0059】
355mgの改善リパーゼ組成物を含有するカプセルを、3人の健康なヒト対象に投与した。本発明に含まれる構成成分のすべては、GRAS(安全であると一般にみなされる)である。355mgのカプセルは、以下の成分を含有した。
【0060】
被験者達は、1か月の期間中、各食事の間、355mgのカプセルを経口で摂取した。血清トリアシルグリセリドレベルは、試験開始前および1か月の処置後に、各被験者に対して測定された。血清トリアシルグリセリドおよび様々な他の血清タンパク質のレベルは、そのような試験の実施に熟練しているとして認証されている地域の病院実験室にて定量化された。
【0061】
結果を以下の表に示す。
【0062】
この結果により、カンジダリパーゼは、トリアシルグリセリドの高境界レベルまたは高レベルのいずれかから試験を開始した2人の試験の被験者において、血清トリアシルグリセリドのレベルを低下させることができたことが示唆される。3人の試験の被験者において、たとえば総コレステロールまたはその誘導体(たとえば、HDL)等の検証された関連パラメータにおいては、一貫した変化は記録されなかった。試験開始時に血清トリアシルグリセリドが正常レベルであった被験者に対するカンジダリパーゼ処置の作用は、無視できるほど小さいものであった。
【0063】
脂肪細胞および肝細胞によりトリアシルグリセリドが産生および貯蔵されることが可能なのは良く知られている。ヒトにおいて、遺伝的要因および環境要因により影響されるこれらの代替的TAG合成源により産生されるトリアシルグリセリドの基礎レベルの存在が考えられる。そのため、本明細書に記述される組成物は、食事性源および腸細胞の活動によってより高いレベルの血清トリアシルグリセリドとなり得る、境界レベルの血清トリアシルグリセリドまたは高レベルの血清トリアシルグリセリドを有している個体に対して、もっともふさわしいものである可能性がある。
【0064】
2型糖尿病を有している多くの患者において、高レベルの血清トリアシルグリセリド(TAG)が見いだされている(Bitzur et al., Diabetes Care 32 (suppl 2): S373-S377, 2009)。そのため、本明細書に記述される組成物による、高レベルの血清トリアシルグリセリドの低下が、2型糖尿病を有している患者の冠動脈疾患のリスクを低下させる一助となる可能性がある。
【0065】
参考文献
以下の文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。