(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170147
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】癌治療
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20060101AFI20170713BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20170713BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20170713BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20170713BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20170713BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20170713BHJP
C07F 5/05 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/409
A61K49/04
A61N5/10 Z
A61P35/00
C07D487/22
C07F5/05
【請求項の数】19
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-520999(P2015-520999)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(65)【公表番号】特表2015-524795(P2015-524795A)
(43)【公表日】2015年8月27日
(86)【国際出願番号】EP2013064735
(87)【国際公開番号】WO2014009496
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2015年5月14日
【審判番号】不服2016-6916(P2016-6916/J1)
【審判請求日】2016年5月11日
(31)【優先権主張番号】1212409.5
(32)【優先日】2012年7月12日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515008520
【氏名又は名称】モレックス デベロップメント パートナーズ エルエルピー
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ビーティー,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ワズワース,アン
(72)【発明者】
【氏名】レニー,ジェイムズ
【合議体】
【審判長】
福井 美穂
【審判官】
渡邉 潤也
【審判官】
大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−511704(JP,A)
【文献】
特表2005−504012(JP,A)
【文献】
特開2006−298897(JP,A)
【文献】
Journal of Pharmaceutical Sciences, 2000,vol.89,No.4,p.469−477
【文献】
Cancer Research,1966,vol.26,No.1,p.1769−1773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 41/00
A61K 49/00-49/22
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2週間毎に1回よりも多くない単一用量の投与によってX線治療による癌の治療に使用するための組成物であって、以下の式の化合物を含む、組成物:
【化1】
(ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4は、電子求引性基、−NO
2、ハロゲンまたは以下の式:
【化2】
で表される置換基(ここで、Yは、フェニル環上のオルト位、メタ位またはパラ位にあり得、そして水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル;あるいは
ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9またはポリアルキレンオキサイドから選択される1つから4つの親水性基で置換された、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基;あるいは
以下の式(3)により表される置換基
【化3】
から選択される)から選択され、
ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは、式(2)で表される置換基であり、ここでYは式(3)を表し;
ここで:
Xは、酸素または硫黄から選択され;、
R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、水素およびC
1からC
4ヒドロカルビルから選択され;
Zは、かご型構造内に、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも3個のホウ素原子、または少なくとも1個の炭素原子および少なくとも5個のホウ素原子を含むカルボランクラスターであり;
rは0または1から20の整数であり;
aは、1から4の整数を表し;そして
ただし、R
1、R
2、R
3、およびR
4の少なくとも1つは、電子求引性基、−NO
2またはハロゲンであり;そして
Mは、2個の水素イオン、1つの一価の金属イオン、2つの一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン、四価の金属イオン、五価の金属イオン、または六価の金属イオンから選択され、ここで、1つの一価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体は、カウンターカチオンによって電荷平衡化され、そして三価、四価、五価または六価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンによって電荷平衡化されている)。
【請求項2】
前記単一用量が、3から12週間毎に1回より多くないように、4から9週間毎に1回より多くないように、または5から8週間毎に1回より多くないように投与される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
患者の繰り返し照射を含む治療の全クールのために化合物の単一用量が投与される、X線治療による癌の治療における使用のための組成物であって、以下の式の化合物を含む、組成物:
【化4】
(ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4は、電子求引性基、−NO
2、ハロゲンまたは以下の式:
【化5】
で表される置換基(ここで、Yは、フェニル環上のオルト位、メタ位またはパラ位にあり得、そして水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル;あるいは
ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9またはポリアルキレンオキサイドから選択される1つから4つの親水性基で置換された、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基;あるいは
以下の式(3)により表される置換基
【化6】
から選択される)から選択され、
ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは、式(2)で表される置換基であり、ここでYは式(3)を表し;
ここで:
Xは、酸素または硫黄から選択され;、
R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、水素およびC
1からC
4ヒドロカルビルから選択され;
Zは、かご型構造内に、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも3個のホウ素原子、または少なくとも1個の炭素原子および少なくとも5個のホウ素原子を含むカルボランクラスターであり;
rは0または1から20の整数であり;
aは、1から4の整数を表し;そして
ただし、R
1、R
2、R
3、およびR
4の少なくとも1つは、電子求引性基、−NO
2またはハロゲンであり;そして
Mは、2個の水素イオン、1つの一価の金属イオン、2つの一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン、四価の金属イオン、五価の金属イオン、または六価の金属イオンから選択され、ここで、1つの一価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、カウンターカチオンによって電荷平衡化されており、そして三価、四価、五価、または六価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンによって電荷平衡化されている)。
【請求項4】
前記治療の全クールが1週間と16週間との間、3週間と12週間との間、4週間と9週間との間、または5週間と8週間との間を要する、請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
臨床的に関連する期間のX線治療のクールであって、患者の繰り返し照射を含むX線治療のクールを可能にするように、該臨床的に関連する期間のX線増感化合物の単一用量の投与後、治療上有効な量の該X線増感化合物が腫瘍組織内に保持されることで特徴付けられるX線治療による癌の治療における使用のための組成物であって、該組成物が、該X線増感化合物を含み、該X線増感化合物が、以下の式の化合物である、組成物:
【化7】
(ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4は、電子求引性基、−NO
2、ハロゲンまたは以下の式:
【化8】
で表される置換基(ここで、Yは、フェニル環上のオルト位、メタ位またはパラ位にあり得、そして水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル;あるいは
ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9またはポリアルキレンオキサイドから選択される1つから4つの親水性基で置換された、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基;あるいは
以下の式(3)により表される置換基
【化9】
から選択される)から選択され、
ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは、式(2)で表される置換基であり、ここでYは式(3)を表し;
ここで:
Xは、酸素または硫黄から選択され;、
R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、水素およびC
1からC
4ヒドロカルビルから選択され;
Zは、かご型構造内に、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも3個のホウ素原子、または少なくとも1個の炭素原子および少なくとも5個のホウ素原子を含むカルボランクラスターであり;
rは0または1から20の整数であり;
aは、1から4の整数を表し;そして
ただし、R
1、R
2、R
3、およびR
4の少なくとも1つは、電子求引性基、−NO
2またはハロゲンであり;そして
Mは、2個の水素イオン、1つの一価の金属イオン、2つの一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン、四価の金属イオン、五価の金属イオン、または六価の金属イオンから選択され、ここで、1つの一価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、カウンターカチオンによって電荷平衡化されており、そして三価、四価、五価、または六価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンによって電荷平衡化されている)。
【請求項6】
前記臨床的に関連する期間が1週間と16週間との間、4週間と9週間との間、または5週間と8週間との間である、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
R1、R2、R3、R4が−NO2、ハロゲンおよび式(2)から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項8】
R1、R2、R3、R4のうちの2つが−NO2であり、そしてR1、R2、R3、R4のうちの2つが式(2)である、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
R1およびR3がNO2である、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
R2およびR4が式(2)である、請求項7または8に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
Yがメタ位にある、請求項1から10のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項12】
Mが二価の金属イオンであり、R10およびR11が水素であり、rが1から6であり、aが1または2である、請求項1から11のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項13】
Zが、かご型構造内に2個の炭素原子および10個のホウ素原子を含む、請求項1から12のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記化合物が、銅メソ−5,15−ビス[3−[(1,2−ジカルバ−クロソ−ドデカボラニル)メトキシ]フェニル]−メソ−10,20−ジニトロポルフィリンである、請求項1から13のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記癌が、脳、頭部および/または頸部の癌である、請求項1から14のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記癌が扁平上皮癌である、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
2週間に一度よりも多くない化合物の単一用量の投与によっ
て腫瘍の繰り返し診断画像化に使用するための組成物であって、以下の式の化合物を含む、組成物:
【化10】
(ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4は、電子求引性基、−NO
2、ハロゲンまたは以下の式:
【化11】
で表される置換基(ここで、Yは、フェニル環上のオルト位、メタ位またはパラ位にあり得、そして水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル;あるいは
ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9またはポリアルキレンオキサイドから選択される1つから4つの親水性基で置換された、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基;あるいは
以下の式(3)により表される置換基
【化12】
から選択される)から選択され、
ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは、式(2)で表される置換基であり、ここでYは式(3)を表し;
ここで:
Xは、酸素または硫黄から選択され;、
R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、水素およびC
1からC
4ヒドロカルビルから選択され;
Zは、かご型構造内に、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも3個のホウ素原子、または少なくとも1個の炭素原子および少なくとも5個のホウ素原子を含むカルボランクラスターであり;
rは0または1から20の整数であり;
aは、1から4の整数を表し;そして
ただし、R
1、R
2、R
3、およびR
4の少なくとも1つは、電子求引性基、−NO
2またはハロゲンであり;そして
Mは、2個の水素イオン、1つの一価の金属イオン、2つの一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン、四価の金属イオン、五価の金属イオン、または六価の金属イオンから選択され、ここで、1つの一価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、カウンターカチオンによって電荷平衡化されており、そして三価、四価、五価、または六価の金属イオンから誘導された該ポルフィリン金属錯体が、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンによって電荷平衡化されている)。
【請求項18】
前記化合物が、2週間毎に一度より多くないように投与され、そして前記腫瘍が、2またはそれ以上の回数で画像化される、請求項17に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
腫瘍内投与のための、請求項1から18のいずれかに記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療を用いた癌治療に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのアプローチが癌治療に取り込まれ得る。一つのアプローチは、放射線増感剤を放射線治療とともに使用することである。この2つの方面からのアプローチは、癌治療法の成功の可能性を増加させる。放射線増感剤は、患者に投与されたとき、腫瘍を放射線治療に対し、より感受性を高くし、または、電離放射線に続き利用可能なフリーラジカルを増加させるような酸素類似物のようにふるまう化合物である。後者のタイプの化合物は、重症の細胞および起こりつつある細胞死における修復メカニズムとなる。
【0003】
放射線増感剤は、専門家による時間のかかる投与を伴う。それは、治療に関わる医療施設にとっても費用がかかる。放射線増感剤は、一般的に、投与に非常に時間がかかる大量液量にて静脈投与されるか、注射することによりなされ、そして単一用量は、1日以上にわたる投与を伴い得る。投与のこの侵襲的特性は、感染リスクのある多数の刺し傷につながり得る。
【0004】
最も重要なことは、放射線増感剤の投与が患者に苦痛を伴うことである。しかしながら、腫瘍内で治療に効果的なレベルを維持するためには、放射線に対する感受性を高める放射線増感剤は毎日投与されるかも知れない。毎日の照射はその後行われる。放射線増感剤として使われる細胞毒性のあるいくつかは、より低頻度、一般に、3〜4日に一度、または週に少なくとも1度(例えばシスプラチン)で投与され得る。
【0005】
放射線増感剤の投与に比べれば、照射は比較的簡単なステップである。照射は、しばしば5日間の間行われ、その後、患者には、その患者の臨床医によって立案された治療クールが完了するまでサイクルが繰り返される前に2日間の休みがある。治療クールの長さは、特に、患者、癌のタイプおよび癌のステージに依存するだろう。
【0006】
US2008/0131376は、特に、脳、頭部および頸部ならびに周辺組織の腫瘍の治療のためのホウ素中性子捕捉療法(BCNT)、X線治療(XRT)および光線力学的治療法(PDT)における、ハロゲン化物、アミンまたはニトロ基を有する低毒性のカルボラン含有ポルフィリン化合物および方法ならびにそれらの使用を記載する。MRI、SPECTまたはPETのような腫瘍の画像化および/または診断方法において、これらのカルボラン含有ポルフィリン化合物を使用することもまた記載されている。
【0007】
Daryoush Shahbazi-Gahrouei et al.「Synthesis and Application of New Gadolinium-Porphyrins as Potential MR Imaging Contrast Agents for Cancer Detection in Nude Mice」Iranian Biomedical Journal 5 (2 & 3), pp 87-95 (April and July 2001)は、Gd−ヘマトポルフィリンおよびGd−テトラカルボラニルメトキシフェニル−ポルフィリンの構造を開示し、ヌードマウスのヒトメラノーマ移植片中へのそれらの選択的な蓄積に言及する。これらの化合物のMRIおよびBNCTのためのデュアルプローブとしての使用が示唆された。
【0008】
Kreimann et al.「Biodistribution of a carborane-containing porphyrin as a targeting agent for Boron Neutron Capture Therapy of oral cancer in the hamster cheek pouch」Archives of Oral Biology, Vol. 48, Issue 3 , Pages 223-232, March 2003は、CuTCPH、脂溶性のカルボラン含有テトラフェニルポルフィリンのハムスターの口腔がんモデルにおける使用を開示し、腹膜投与後のその生体内分布を考察する。Kreimannらはまた、この化合物がBNCTに有用であるかも知れないと示唆している。
【0009】
WO2007/050564は、腫瘍のBNCT、腫瘍の放射線療法および腫瘍のPDTに使用するためのホウ素を含有するテトラフェニルポルフィリン化合物を記載する。
【0010】
US2005/0287073は、低毒性のカルボラン含有5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン化合物および脳、頭部、頸部および周辺組織の腫瘍の治療のためのBNCTおよびPDTに特に使用するための方法を記載する。US2005/0287073はまた、これらのカルボラン含有テトラフェニルポルフィリン化合物の、MRI、SPECTおよびPETのような腫瘍画像化および/または診断方法における使用を記載する。
【0011】
US2008/0233047は、低毒素ハロゲン化カルボラン含有5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン化合物および脳、頭部、頸部および周辺組織の腫瘍の治療のためのBNCTおよびPDTに特に使用するための方法を記載する。US2008/0233047はまた、これらハロゲン化カルボラン含有テトラフェニルポルフィリン化合物の、MRI、SPECTおよびPETのような腫瘍画像化および/または診断方法における使用を記載する。
【0012】
さらなる背景は以下の文献に記載される。
Miura et al. 「Biodistribution and Toxicity of 2,4-Divinyl-nido-o-carboranyldeuteroporphyrin IX in mice」 Biochemical Pharmacology, Vol. 43, No. 3, pp 467-476, (1992).
Miura et al. 「Synthesis of a Nickel Tetracarbonanylphenylporphyrin for Boron
Neutron-Capture Therapy: Biodistribution and Toxicity in Tumour-Bearing Mice」 Int. J. Cancer, 68, pp 114-119, (1996).
Miura et al. 「Boron Neutron Capture Therapy of a Murine Mammary Carcinoma using a Lipophilic Carboranyltetraphenylporphyrin」 Radiation Research, 155, pp 603- 610, (2001).
Miura et al. 「Synthesis of copper octabromotetracarboranylphenylporphyrin for boron neutron capture therapy and its toxicity and biodistribution in tumour-bearing mice」 The British Journal of Radiology, 77, pp 573-580, (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、代替の癌治療法を提供することである。ある実施形態の目的は、改善された治療法を提供することである。そこでは、化合物は、当該化合物の用量の投与間の期間を延長する放射線治療を用いた癌の治療に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、以下の式の化合物を用いる:
【0015】
【化1】
【0016】
(ここで、R
1、R
2、R
3およびR
4は、電子求引性基、−NO
2、−NH
2、ハロゲンまたは以下の式:
【0017】
【化2】
【0018】
で表される置換基(ここで、Yは、フェニル環上のオルト位、メタ位またはパラ位にあり得、そして水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル;あるいは
ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9またはポリアルキレンオキサイドから選択される1つから4つの親水性基で置換された、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環、非芳香族ヘテロ環、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基;あるいは
以下の式(3)により表される置換基
【0019】
【化3】
【0020】
から選択される)から選択され、
ただし、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは、式(2)で表される置換基であり、ここでYは式(3)を表し;
ここで:
Xは、酸素または硫黄から選択され;、
R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10およびR
11は、水素およびC
1からC
4のヒドロカルビルから選択され;
Zは、かご型構造内に、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも3個のホウ素原子、または少なくとも1個の炭素原子および少なくとも5個のホウ素原子を含むカルボランクラスターであり;
rは0または1から20の整数であり;
aは、1から4の整数を表し;そして
ただし、R
1、R
2、R
3、およびR
4の少なくとも1つは、電子求引性基、−NO
2、−NH
2またはハロゲンであり;そして
Mは、2個の水素イオン、1つの一価の金属イオン、2つの一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン、四価の金属イオン、五価の金属イオン、または六価の金属イオンから選択され、ここで、1つの一価の金属イオンから誘導されたポルフィリン金属錯体は、カウンターカチオンによって電荷平衡化されており、そして三価、四価、五価、または六価の金属イオンから誘導されたポルフィリン金属錯体は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンによって電荷平衡化されている)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、32GyのX線を照射された安楽死のときのマウスの肝臓と腫瘍中のホウ素濃度を示す。
【
図2】
図2は、X線単独(32Gy)で、または、照射の1日前に150mg/kgのMTL005を注射されたC3Hマウスの大腿に移植されたSCCVII扁平上皮癌のカプラン−マイヤーグラフを示す。マウスは、腫瘍体積が500mm
3に達したとき安楽死させた。
【
図3】
図3は、照射後時間に対する正規化平均腫瘍体積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、2週間毎に1回より多くない化合物の単一用量の投与によって放射線治療による癌の治療に使用するための化合物を提供する。
【0023】
本発明はさらに、癌を治療する方法であって、患者に化合物の有効な用量を投与する工程および該患者を照射する工程を含み、ここで、2週間毎に1回より多くない単一用量が投与される、方法を提供する。
【0024】
従って、本発明によれば、上記化合物であって、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、または12週間毎に1回より多くない化合物の単一用量の投与によって、放射線治療による癌の治療に使用するための化合物が提供される。適切には、単一用量は、3〜9週間毎に1回より多くない、または5〜8週間毎に1回より多くないように投与される。
【0025】
このようなレジメに従う単一用量の投与は、患者の苦痛を顕著に低下させ、化合物の用量が頻繁(例えば、毎日など)に送達される必要がない場合、患者の感染リスクを低減する。さらに、化合物を毎日投与するために専門家が居合わせる必要がないため、治療はより安価となり得る。
【0026】
単一用量は、例えば、一度に大量の注射容量を受容する、または一度に副作用のおそれのある用量を受容するという患者の不便に対して、当該用量の投与を達成するバランスをとる都合上、少数の小分け用量で送達され得る。個々の小分け用量は、時間内に分けられてもよいが、単一用量としてみなされる。
【0027】
患者に化合物を投与する頻度が低くなるほど、患者および治療を提供する施設にとって、より多くの利益が可能となると考えられる。
【0028】
本発明によれば、化合物の単一用量が治療の全クールのために投与されるような放射線治療による癌の治療における、上記化合物の使用がさらに提供される。
【0029】
好ましくは、治療の全クールは、癌の治療に適した長さ、および/または患者がある長期間の治療を持ちこたえ得る治療の最大の長さであると、臨床医により決定される期間である。例えば、治療の全クールは、少なくとも1週間または少なくとも2週間を要し得、かつ16週間までを要し得、例えば1週間から16週間、3週間から12週間、または4週間から9週間、または5週間から8週間である。
【0030】
治療の全クールのための単一用量は、患者の生活の質を顕著に向上し、このような患者は、治療のクールにおいて化合物の繰り返し投与に耐える必要がなくなる。さらに、定期的に薬物を投与するために専門医が居合わせる必要がなくなるので、医療施設にとって費用面の利益が著しい。
【0031】
本発明のさらなる局面によれば、上記化合物は、臨床的に関連する期間の間の放射線治療のクールを可能にするように、当該臨床的に関連する期間の間の化合物の単一用量の投与後、治療上有効な量の活性薬剤が腫瘍組織内に保持されるような、放射線治療による癌の治療に使用するためのものである。
【0032】
本発明の化合物は、活性薬剤(化合物またはその活性代謝物もしくは誘導体であり得る)が長期の臨床的に関連する期間の間、治療上有効なレベルで維持されるような、腫瘍内で顕著な半減期を有することが見出された。これは、患者が、当該分野で示唆されるよりも少ない頻度にて化合物が投与されることを可能にする。
【0033】
好ましくは、臨床的に関連する期間は、放射線治療が患者になお与えられ得るか、または癌の治療のために患者に与えられる必要のある、任意の期間である。好ましくは、臨床的に関連する期間は、少なくとも1週間、または少なくとも2週間であり、そして16週間までを要し得、例えば、1週間と16週間との間、3週間と12週間との間、4週間と9週間との間、または5週間と8週間との間である。
【0034】
本発明は、脳、頭部および/または頸部の癌の治療の実施形態に有用である。動物モデルにおいて実施される試験では、本発明の化合物は、扁平上皮癌の治療および腺癌の治療において受容可能な効力を示した。脳、頭部および/または頸部の癌は、放射線治療を特に受け入れるものであることが知られている。好ましくは、放射線治療はX線によって提供され、そして化合物はX線増感剤として使用するためのものである。しかし、他の形態の放射線治療も用いられ得る(例えば、定位的放射線治療、中性子線治療、陽子線治療、強度変調放射線治療、3Dコンフォーマル放射線治療)。
【0035】
放射線線量は、治療において有効であるように選択される。線量は、典型的には20Gyまたはそれ以上、30Gyまたはそれ以上、20〜80Gy、30〜70Gy、20〜50Gy、または50〜80Gyである。典型的な臨床用途では、線量は、数週間にわたって毎日、ほぼ同様の線量の繰り返しとして与えられ得、期間全体にわたって全線量を蓄積する。例えば、ヒト患者の1回の治療において、2Gyの線量が1週間につき5日間(週末以外)を7週間毎日与えられて、全蓄積線量が70Gyとなる。動物モデルにおける本発明の試験では、1回だけの線量を用いて、本発明の化合物は、25Gyおよび32Gyの線量で効力を示した。
【0036】
化合物(上記のように複数のサブ用量であり得る)の単一用量は、患者1kg当たり2mgと50mgとの間の化合物、患者1kg当たり3mgと36mgとの間の化合物、または患者1kg当たり6mgと24mgとの間の化合物であり得る。調査された一例では、単一用量は、患者1kg当たり約12mgの化合物である。
【0037】
単一用量は、一般には、照射が始まる直前に投与される。従って、照射は、用量の投与の第1日目〜第4日目以内、または第1日目および第2日目以内に開始し得る。各放射線クールで必要とされる用量は、同時に全て投与すると有害な作用または事象を伴い得、これは、患者にとって不快となり得るので、単一用量の投与は、2回以上の期間に分割され得る。治療は、一般に、単一用量の全部が受容された後に始まる。
【0038】
本発明の化合物は、投与後一定期間にわたって照射される組織中に蓄積する。必要に応じて、この蓄積を可能にするため、および血液からのクリアランスを可能にするため、放射線治療の開始が短期間遅延される。好ましくは、この短期間は1日と7日の間であり、より好ましくは2日〜3日である。本発明は、記載のように長期にわたって活性である化合物の単一用量の投与を提供するので、照射が開始される前、必要であればさらに遅延しても、一般にはほとんど不都合がない。
【0039】
公知の投与方法および手段が一般に適しており、例えば、単一用量は、全身注射または点滴によって投与され得る。単一用量は、便宜的に、薬学的に受容可能なキャリア中で投与される。
【0040】
さらなる実施形態では、化合物は、化合物の単一用量が治療の全クールのために投与されることで特徴づけられる、放射線治療による癌の治療において使用するためのものである。
【0041】
本発明はまた、癌の治療方法であって、化合物を投与する工程および患者を照射する工程を含み、化合物の単一用量が治療の全クールのために投与されることで特徴づけられる、方法を提供する。
【0042】
なおさらなる実施形態では、化合物は、臨床的に関連する期間の間の放射線治療のクールを可能にするように、当該臨床的に関連する期間の間の化合物の単一用量の投与後に、治療上有効な量のX線増感化合物が腫瘍組織内に保持されることで特徴づけられる、放射線治療による癌の治療において使用するためのものである。
【0043】
本発明はまた、癌の治療方法であって、化合物を投与する工程および患者を照射する工程を含み、臨床的に関連する期間の間の放射線治療のクールを可能にするように、当該臨床的に関連する期間の間の化合物の単一用量の投与後に、治療上有効な量のX線増感化合物が腫瘍組織内に保持されることで特徴づけられる、方法を提供する。
【0044】
ポルフィリンは、腫瘍の治療において有用なだけでなく、これらの化合物は、腫瘍の可視化および診断においても有用である。ポルフィリン分子は、その内部に金属イオンをキレート化する能力を有するという利点を有する。このようなキレート化されたポルフィリンは、ポルフィリン濃度のリアルタイムモニタリングのための可視化ツールおよび/または診断剤としてさらに機能し得る。例えば、常磁性金属イオンに対してキレート化した場合、ポルフィリンは、磁気共鳴画像法(MRI)における造影剤として機能し得、そして放射性金属イオンに対してキレート化した場合、ポルフィリンは、単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)または陽電子放射断層撮影法(PET)のための画像化剤として機能し得る。
【0045】
したがって、本発明は、2週間ごとに1回より多くない単一用量の投与によって腫瘍を画像化するのに使用するための、本明細書中に定義された化合物をさらに提供する。本発明は、患者の腫瘍を画像化する方法であって、化合物の有効な用量を患者に投与する工程および腫瘍を画像化する工程を含み、2週間ごとに1回より多くない単一用量が投与される、方法をさらに提供する。従って、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、または12週間毎に1回より多くない化合物の単一用量の投与によって、腫瘍(例えば、癌)を画像化するのにおいて使用するための、上記化合物が提供される。適切には、単一用量は、3〜9週間毎に1回より多くない、または5〜8週間毎に1回より多くないように投与される。特に、単一用量が与えられ得、次いでその単一用量の画像化剤に基づいて、長期間にわたって種々の日数で、複数回の画像化が実施され得る。
【0046】
有利なことに、本発明のこれらの画像化の実施形態においては、造影剤または他の画像化剤を繰り返し投与する必要がなく、高頻度および/または繰り返しの画像化が実施され得る。特定の臨床状態(例えば、臨床試験)では、高頻度で走査が行われる必要があり、そしてこれは今や、画像化剤を用いた繰り返し投薬の不快を回避しつつ促進される。
【0047】
本発明の化合物は、好ましくは、放射線増感剤であり、これは、患者に投与した場合に腫瘍を放射線治療に対してより感受性とする。
【0048】
本発明の全ての局面において、一般式(1)の化合物が提供される。実施形態において、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つがハロゲンである。ハロゲンは、塩素、フッ素、臭素およびヨウ素から選択され得、そして好ましくは臭素である。
【0049】
R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つが、−NO
2および式(2)から選択され得る。本発明の特定の実施形態では、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも2つが、−NO
2および式(2)から選択される。例えば、R
1、R
2、R
3およびR
4の2つが−NO
2であり得、そしてR
1、R
2、R
3およびR
4の2つが式(2)であり得、またはR
1、R
2、R
3およびR
4の2つがハロゲンである。
【0050】
特定の実施形態では、R
1およびR
3がNO
2であり、そしてR
2およびR
4が式(2)である。
【0051】
本発明の実施形態では、R
1およびR
3がトランス位にある。
【0052】
Yは、適切には、ヒドロカルビルである。ヒドロカルビルは、1〜20個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖のヒドロカルビル基であり得、3つまでの二重結合または三重結合を任意に含み得る。好ましくは、ヒドロカルビル基は、以下から選択される:メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、プロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、3−ブチニル、2−メチル−2−ブテニル、n−ペンチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、およびエイコシル。
【0053】
ヒドロカルビル基は、置換されてないものであっても、またはヒドロカルビル基が許容し得る程度の数(好ましくは、1および4の間)の親水性基で置換されたものであってもよい。好ましくは、親水性基は、ヒドロキシ、アルコキシ、−C(O)OR
5、−SOR
6、−SO
2R
6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバマト、−SR
7、−NR
8R
9およびポリアルキレンオキサイドから選択される。好ましくは、R
5、R
6、R
7、R
8およびR
9は独立して、水素および上で定義したようなヒドロカルビル基から選択される(但し、R
5、R
6、R
7およびR
8のヒドロカルビル基が1〜4個の炭素原子を含むことを除く)。
【0054】
ヒドロカルビル基の炭素原子はまた、1〜4個のヘテロ原子で置換されていてもよい。本明細書中において、ヘテロ原子はO、S、NまたはNR
10である。R
10は、水素および上で定義したようなヒドロカルビル基から選択される。ヘテロ原子同士は一般には隣接せず、そして好ましくは、少なくとも1の炭素原子によって互いから離れている。好ましくは、各2個の炭素原子につきわずか1個のヘテロ原子が存在する。
【0055】
Yは、非芳香族炭素環またはヘテロ環であり得る。好ましくは、非芳香族炭素環またはヘテロ環は、4、5、6、7、または8員の炭素環またはヘテロ環である。環は、飽和されていてもよく、または炭素環が許容し得る程度の数の不飽和(すなわち、二重もしくは三重)結合を含んでもよい。
【0056】
飽和炭素環は、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、およびシクロペンタン環から選択され得る。好ましくは、不飽和炭素環は、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、および1,3−シクロヘプタジエン環から選択される。
【0057】
好ましくは、Yは、ヘテロ環である。好ましくは、ヘテロ環は、ヘテロ原子が許容し得る程度の数(例えば、1〜4個)のヘテロ原子(すなわち、O、S、NまたはNR
10)を含む。好ましくは、飽和および不飽和非芳香族ヘテロ環は、ピロリジニル環、ピペリジン環、ピペラジン環、テトラヒドロフラン環、フラン環、チオフェン環、1,3−オキサゾリジン環、イミダゾール環、およびピロール環から選択される。好ましくは、ヘテロ環は、上で定義したようなヒドロカルビルで、または同様に上で定義したような1〜4個の親水性基で任意に置換されていてもよい。
【0058】
Yは、非芳香族炭素環またはヘテロ環であり得る。好ましくは、非芳香族炭素環またはヘテロ環は、二環であり得る。好ましくは、炭素環は、ビシクロ[2.2.2.]オクタン、ビシクロ[3.1.1.]ヘプタン、ビシクロ[3.3.0.]オクタン、およびビシクロ[4.3.0.]ノン−3−エンから選択される。好ましくは、非芳香族ヘテロ環は、1,4アザビシクロ[2.2.2.]オクタンおよび2−アザビシクロ[3.1.1.]ヘプタンから選択される。
【0059】
Yは、アリール基であり得る。好ましくは、アリール基は、芳香族炭素環基またはヘテロ環基のいずれかであり得る。芳香族炭素環は、好ましくはフェニルである。アリール環は、上で定義したようなヒドロカルビルで任意に置換され、アルキルアリール基またはアリールアルキル基を生成していてもよい。好ましくは、アリール基、アルキルアリール基およびアリールアルキル基は、上で定義したような1〜4個の親水性基で置換されていてもよい。
【0060】
Yは、芳香族ヘテロ環であり得る。好ましくは、芳香族ヘテロ環は、1〜4個のヘテロ原子、すなわち、O、S、NまたはNR
10、を含む。好ましくは、環は、代表的には5、6または7員である。好ましくは、芳香族ヘテロ環は、チオフェン環、ピリジン環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジン環およびピラジン環から選択される。芳香族ヘテロ環は、上で定義したような1〜4個の親水性基で置換されていてもよい。
【0061】
好ましくは、上記環のいずれかがまた、1〜3個の追加の5、6または7員のアリール環に縮合され得る。好ましくは、縮合環は、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、クリセン環、インドリン環、キノリン環、およびテトラアザナフタレン(プテリジン)環から選択される。
【0062】
Yは、アルコキシ基であり得る。好ましくは、アルコキシ基は、上で定義したようなヒドロカルビル部分を含む。好ましくは、アルコキシ基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、n−ブトキシ、t−ブトキシおよびドデシルオキシから選択される。
【0063】
Yは、ポリアルキレンオキサイドであり得る。好ましくは、ポリアルキレンオキサイドは、式−(CH
2)
d−O−[(CH
2)
e−O−]
x−[(CH
2)
f−O−]
y−(CH
2)
g−OR’(ここで、独立して、dは0であるか、または1〜10の整数であり、eは0であるか、または1〜10の整数であり、fは1〜10であり、gは1〜10であり、xおよびyは各々独立して1または0であり、そしてR’はHまたは既に定義したようなヒドロカルビル基のいずれかであり、但し、eが0であるとき、xは0であり;fが0であるとき、yは0であり;eが0でないとき、xは1であり;そしてfが0でないとき、yは1である)によって定義される。
【0064】
好ましくは、ポリアルキレンオキサイドはポリエチレンオキサイドである。ポリエチレンオキサイドは、式−(CH
2)
d−O−[(CH
2)
e−O−]
x−[(CH
2)
f−O−]
y−(CH
2)
g−OR’(ここで、独立して、dは0または2であり、eは0または2であり、fは0または2であり、gは2であり、xおよびyは各々独立して1または0であり、そしてR’はHまたはエチル基のいずれかであり、但し、eが0であるとき、xは0であり;fが0であるとき、yは0であり;eが0でないとき、xは1であり;そしてfが0でないとき、yは1である)によって定義される。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、Yはメタ位にある。
【0066】
Mは、一価のイオンであり得、そしてLi
+1、Na
+1、K
+1、Cu
+1、Ag
+1、Au
+1およびTl
+1から選択され得る。好ましくは、Mは銅である。Mが1つの一価の金属イオンである場合、生じたポルフィリン金属錯アニオンは、カウンターカチオンによって電荷平衡化される。好ましくは、カウンターカチオンは、前出の一価の金属イオン、ならびにアンモニウムカチオンおよびホスホニウムカチオンのいずれかから選択される。好ましくは、カウンターカチオンは、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウムおよびテトラフェニルホスホニウムから選択される。カウンターカチオンは、ポルフィリン金属錯体となんらかの形態で結合または会合され得る。
【0067】
Mは、二価の金属イオンであり得る。好ましくは、二価の金属イオンは、V
+2、Mn
+2、Fe
+2、Ru
+2、Co
+2、Ni
+2、Cu
+2、Pd
+2、Pt
+2、Zn
+2、Ca
+2、Mg
+2、Sr
+2およびBa
+2から選択される。
【0068】
Mは、三価の金属イオンであり得る。好ましくは、三価の金属イオンは、Gd
+3、Y
+3、In
+3、Cr
+3、Ga
+3、Al
+3、Eu
+3およびDy
+3から選択される。
【0069】
Mはまた、四価の金属イオンであり得る。好ましくは、四価の金属イオンは、Tc
+4、Ge
+4、Sn
+4およびPt
+4から選択される。
【0070】
Mは、五価の金属イオンであり得る。好ましくは、五価の金属イオンは、Tc
+5である。
【0071】
Mはまた、六価の金属イオンであってもよい。好ましくは、六価の金属イオンは、W
+6、Tc
+6およびMo
+6から選択される。
【0072】
好ましくは、Mは、二価または三価の金属イオンである。
【0073】
好ましくは、生じたポルフィリン金属錯カチオンは、適した数のカウンターアニオン(これは、モノアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンであり得る)によって電荷平衡化される。好ましくは、三価金属イオンから誘導されたポルフィリン金属錯カチオンが、1つのカウンターモノアニオンによって電荷平衡化されるものであり得、そして四価の金属イオンから誘導されたこのような錯体は、好ましくは、1つのカウンタージアニオンまたは2つのカウンターモノアニオンなどによって電荷平衡化されるものであり得る。
【0074】
適切なカウンターモノアニオンとしては、クロライド、パーコレート、スルフェート、ニトレート、およびテトラフルオロボレートが挙げられる。好ましくは、カウンタージアニオンは、オキサイド、スルファイド、または二価の負電荷含有ポルフィリン化合物から選択される。二価の負電荷含有ポルフィリン化合物は、本発明のポルフィリン化合物であり得る(但し、Mが存在しない)。好ましくは、カウンタートリアニオンはホスフェートである。
【0075】
カウンターモノアニオン、ジアニオン、またはトリアニオンは、本発明のカルボラン含有ポルフィリン化合物となんらかの形態で結合または会合され得る。好ましくは、カルボラン含有ポルフィリン化合物はまた、中性荷電分子(例えば、溶媒和の分子、例えば、水、アセトニトリル、メタノールなど)と結合または会合され得る。
【0076】
Mは、単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)または陽電子放射断層撮影法(PET)により画像形成可能な放射性金属イオンであり得る。SPECTに適した放射性金属のいくつかの例は、
67Cu、
99mTc、
111Inであり、そしてPETに適したものとしては、
64Cu、
55Coが挙げられる。好ましくは、Mは、治療用放射性医薬品として有用な放射性金属である。このような治療に適した放射性金属のいくつかの例としては、
90Y、
188Reおよび
67Cuが挙げられる。
【0077】
Mは、適切には、磁気共鳴画像法(MRI)により検出可能な常磁性金属イオンである。好ましくは、常磁性金属イオンは、Mn、Fe、CoおよびGdから選択される。
【0078】
好ましくは、R
10およびR
11は水素である。
【0079】
好ましくは、rは1〜10、より好ましくは1〜6、より好ましくは1である。
【0080】
好ましくは、aは2または1、より好ましくは1である。
【0081】
Zは、好ましくは、カルボランの−C
2HB
9H
10または−C
2HB
10H
10(ここで−C
2HB
9H
10は、ニドのオルト−カルボラン、メタ−カルボラン、またはパラ−カルボランであり、そして−C
2HB
10H
10は、クロソのオルト−カルボラン、メタ−カルボラン、またはパラ−カルボランである)から選択される。Zは、かご型構造内に2個の炭素原子および10個のホウ素原子を含み得る。
【0082】
1つの特定の実施形態では、R
1、R
2、R
3およびR
4の2つが、式(2)により表される置換基であり;aは1であり;Yは−X−(CR
10R
11)
r−Zにより表され;R
10およびR
11はHであり;rは1であり;Zは−C
2HB
10H
10であり;−X−(CR
10R
11)
r−Z置換基は、フェニル環のメタ位にあり;式(2)により表されない2つのR
1〜R
4は−NO
2または−Brであり;そして式(2)により表される置換基は、ポルフィリン環上のシス配座にある。
【0083】
別の特定の実施形態では、R
1、R
2、R
3およびR
4の2つが、式(2)により表される置換基であり;aは1であり;Yは−X−(CR
10R
11)
r−Zにより表され;R
10およびR
11はHであり;rは1であり;Zは−C
2HB
10H
10であり;−X−(CR
10R
11)
r−Z置換基は、フェニル環のメタ位にあり;式(2)により表されない2つのR
1〜R
4は−NO
2または−Brであり;そして式(2)により表される置換基は、ポルフィリン環上のトランス配座にある。
【0084】
ポルフィリン化合物がカウンタージアニオンを必要とする場合、カウンタージアニオンは、二価の負電荷含有ポルフィリン化合物であり得る。二価の負電荷含有ポルフィリン化合物は、本発明のカルボラン含有ポルフィリン化合物であり得る(但し、Mが存在しない)。
【0085】
以下に詳述する具体的な実施形態では、化合物は、銅メソ−5,15−ビス[3−[(1,2−ジカルバ−クロソ−ドデカボラニル)メトキシ]フェニル]−メソ−10,20−ジニトロポルフィリン(=「MTL005」)である。
【0086】
使用時に、本発明のホウ素含有ポルフィリンは、他の臨床的に使用されるホウ素含有化合物よりも、より高い濃度、かつ、より高い腫瘍対正常脳および血液ホウ素比で新生物に選択的に蓄積することが見出された。
【0087】
さらに、本発明のポルフィリン化合物は、インビボで試験され、理論的に治療に有効な用量において、非毒性であることが見出された。本発明のカルボラン含有ポルフィリンのより高い選択性と、より低い毒性により、照射した際、正常な組織および組織機能の最小の破壊で、腫瘍組織の選択的な破壊が可能になる。
【0088】
本発明のカルボラン含有ポルフィリンの他の利点は、それらの増加した極性であり、極性基NO
2、NH
2およびハロゲンを通して与えられる。そのような基のより高い極性は、ポルフィリン化合物をより脂溶性でなくし、それは、投与中の乳化共溶媒の量を少なくする効果があり得る。それゆえ、腫瘍細胞中の微小局在は改善され、より高い相対的な生物学的効果を生み出し得る。
【0089】
さらに、ポルフィリンのXが酸素の場合、本発明のカルボラン含有ポルフィリンにおけるエーテル結合は炭素−炭素結合よりもより高い極性となり、それゆえ、さらに脂溶性を減少させる。同時に、そのエーテル結合は、加水分解および他の形の化学的攻撃に対し炭素−炭素結合とほぼ同様の耐性を持つ。
【0090】
以下により詳細に記載した本発明の特定の実施例において、本発明の化合物は、単一用量にて投与され、その後長期間その化合物を再投与することなしに、X線増感剤の治療に有効な量が腫瘍組織内に留まることが見出される。それゆえ、化合物の単一用量が、繰り返し照射とともに使用され得る。単一用量の量を変化させることにより、最初の単一用量とさらなる単一用量(もしあれば)の間の時間を変化させることを可能にする。本発明は、それゆえ、化合物の単一用量および繰り返し照射または単一用量の間の延長された間隔と再度の繰り返し照射を伴う癌治療に適しており、特にヒト癌治療に適している。
【0091】
本発明の試験において、発明者らはまた、腫瘍内ルートにより活性薬剤を投与することに成功した。化合物がそのような方法を使用して投与されたとき、活性薬剤はその後腫瘍組織に入り、これにより吸収されたことが認められた。
【0092】
本発明の実施例は、以下の図面を参照して記載される:
図1は、32GyのX線を照射された安楽死のときのマウスの肝臓と腫瘍中のホウ素濃度を示す;
図2は、X線単独(32Gy)で、または、照射の1日前に150mg/kgのMTL005を注射されたC3Hマウスの大腿に移植されたSCCVII扁平上皮癌のカプラン−マイヤーグラフを示す。マウスは、腫瘍体積が500mm
3に達したとき安楽死させた;および
図3は、照射後時間に対する正規化平均腫瘍体積を示す。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
本発明の化合物を含有する処方は、次の成分で調製した。これは、下の表1に示されるとおりである。
【0094】
【表1】
【0095】
(実施例2)
動物腫瘍モデル
SCCVIIマウス扁平上皮細胞癌細胞を、10%仔牛血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1%L−グルタミンを混入したD−MEM中で培養した。1〜3継代のみを腫瘍をイニシエートするために使用した。それから細胞(0.05mLの培地中で2×10
5)を、20〜25gの雌のC3Hマウス(チャールスリバーラボラトリ、ウィルミントン、MA)の左の大腿の皮下に移植した。
【0096】
9%CRM処方
ケンブリッジ・メジャー・ラボラトリーにより供給されたMTL005(Batch CS08-119A and assayed at 98% purity by % area)を、約3mg/mLの処方(MX4−33)の15mLバッチ3つを作るために使用した。HPLCにより測定された終濃度は、HPLCによる97%純度で、2.80mg/mL銅メソ−5,15−ビス[3−[(1,2−ジカルバ−クロソ−ドデカボラニル)メトキシ]フェニル]―メソ−10,20−ジニトロポルフィリン(MTL005)であった。
【0097】
ホウ素およびMTL005分析
直流プラズマ原子発光分光法[DCP−AES](ARL/Fisons モデル SS−7)を、各々のマウスの組織中のホウ素濃度を決定するために使用した(検出限界:0.1μg B/mL)。試料(50〜130mg)を、硫酸:硝酸(1:1)とともに60℃で分解した。トリトンX−100および水を終濃度約50mg組織/mL、15%総酸v/vおよび5%トリトンX−100v/vになるように添加した。MTL005のための参照標準を、マサチューセッツ工科大学原子炉即発ガンマ中性子活性化設備で即発ガンマ分光法を用いて測定した。EMT−6腫瘍および正常組織におけるMTL005の濃度は、ポルフィリン(22.5%ホウ素)のホウ素濃度から計算し得る。ポルフィリンとカルボランのケージの間のエーテル結合はインビボでそのままの形で残ることが知られている。
【0098】
ポルフィリン濃度/処方/バッチ
2.80mg/mL MTL005/9% CRM Batch MX4−33。
【0099】
投与プロトコルと総用量
150mg/kgのMTL005の総用量を、3回の腹腔内(i.p.)注射を用いて、8時間にわたり、4時間の間隔で、各注射あたり0.018mL/gbwを用いて投与した。投薬し、照射する動物が多数であったために、動物を2つの同じサイズのグループ(グループAおよびB)に分ける必要があった。各々のグループAの動物は、腫瘍移植後7日目に注射され、各々のグループBの動物は、腫瘍移植後8日目に注射された。MTL005を投与された5匹のマウスのグループは、腫瘍、血液、肝臓、膵臓、脳および皮膚中のホウ素の生体分布データのために、照射(24時間クリアランス)のときに安楽死させた。MTL−005を投与され照射されたマウスの肝臓および腫瘍はまた、安楽死のときにホウ素濃度を測定した。
【0100】
照射
照射は、MTL005の最後の注射の1日後に実行した。
【0101】
グループAの動物を腫瘍移植後8日に、グループBの動物を腫瘍移植後9日に照射した。マウスは安楽死させ(ペントバルビタールナトリウム、約60μg/g i.p.)、直径2cmの平行な照射ポートに腫瘍を持つ脚を伸ばして照射の位置に置いた。腫瘍は、100kVpおよび8mAで作動するフィリップスRT−100セットを用い、2.0Gy/分の線量率で、32gyの単一線量分を用いて照射した。
【0102】
腫瘍を週に2〜3回測定し、算定腫瘍体積(x
2y/2、xがより短い表面次元である)が500mm
3を超えたときマウスを安楽死させた。
【0103】
線量測定
X線照射の線量測定は、指頭形電離箱を用いて1996IPEB実施コードを適用して行った。
【0104】
生体内分布
表2は、マウスの様々な組織におけるホウ素濃度(一連の3回のi.p.注射の1日後、9%CRM中の150mg/kgのMTL005を投与されたマウスの様々な組織における、平均±SD(μg/g))(n=5)を示す。
【0105】
図1に示すように、MTL005を投与されたマウスの肝臓からのホウ素濃度は、135〜207μg/gの範囲にあった(照射後40〜62日)。腫瘍中のホウ素は時間とともにより早く減少すると予想し得た。その期間にわたってそのグループ内に9〜22μg/gの一定の腫瘍ホウ素濃度であるように見えた。より高い生残性が、より高い腫瘍ホウ素値と関連するという示唆は無かった。
【0106】
【表2】
【0107】
放射線治療
図2は、X線単独よりも、MTL−005を用いた、より大きな腫瘍コントロールを示す。コントロールされた腫瘍がより多かっただけでなく、生残マウス数もまたより高かった。30日と62日におけるグループのウィルコクソンのノンパラメトリック2標本検定は、62日におけるグループ間に有意差(p=0.09)があることを示した。
【0108】
【表3】
【0109】
コントロールされた腫瘍数は、32Gyの放射線のみに比べて、MTL−005の存在下で2倍になった。さらに、化合物の単回投与後、数日、数週、数ヶ月の間、腫瘍中に、かなりの濃度の活性な増感剤がなお存在する。