(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2で提案された色素製剤によれば、製造時に加熱した場合であっても、変色を抑えてカロチノイド色素特有の赤色に着色した油脂含有食品を製造することが可能であった。しかしながら、本発明者らの検討の結果、この色素製剤を用いて油脂含有食品を赤色に着色するには、色素製剤を添加した食品原料を高速撹拌する必要があることが判明した。すなわち、食品原料を高速撹拌する工程を有しない油脂含有食品(例えば、食パン、マドレーヌ、蒸しパン等の小麦粉製品)を製造するには、特許文献2で提案された色素製剤では鮮明な赤色に着色することが困難であったり、均一に着色することが困難であったりする場合があった。
【0008】
また、食品原料の高速撹拌工程を有する油脂含有食品(例えば、魚肉・畜肉ソーセージ等)を製造する場合であっても、特許文献2で提案された色素製剤を高速撹拌工程で添加する必要がある。すなわち、食品原料への添加が高速撹拌工程に限定されてしまい、製造方法が制約されてしまうといった課題が生じていた。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、油脂を含む製品原料に添加して加熱処理した場合であっても、変色を抑制しつつ、カロチノイド色素に由来する鮮明な赤色に着色した製品を製造することが可能であるとともに、高速撹拌等のような製品原料を強く撹拌する工程を必要とせず、かつ、製品原料に添加する段階を選択する自由度の高い色素製剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記色素製剤の製造方法、上記色素製剤を用いた加工製品、及び加工製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す色素製剤及びその製造方法が提供される。
[1]カロチノイド色素、変色抑制剤、及び分散補助剤(但し、前記変色抑制剤を除く)を含有し、前記変色抑制剤が、
プロラミン、天然樹脂、及びセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記プロラミンが、ツェイン、グリアジン、ホルデイン、セカリン、カフィリン、及びペニセティンからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記天然樹脂が、シェラック及びロジンの少なくともいずれかであり、前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記分散補助剤が、
ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、スクシノグリカン、カラヤガム、プルラン、λカラギーナンガム、及びカゼインナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種であ
り、前記カロチノイド色素の結晶の表面の少なくとも一部を被覆する皮膜が前記変色抑制剤により形成されてなる色素微粒子が媒体中に分散した分散体である色素製剤。
[2]カロチノイド色素、変色抑制剤、及び分散補助剤(但し、前記変色抑制剤を除く)を含有し、前記変色抑制剤が、プロラミン、天然樹脂、及びセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記プロラミンが、ツェイン、グリアジン、ホルデイン、セカリン、カフィリン、及びペニセティンからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記天然樹脂が、シェラック及びロジンの少なくともいずれかであり、前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記分散補助剤が、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、スクシノグリカン、カラヤガム、プルラン、λカラギーナンガム、及びカゼインナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記カロチノイド色素の結晶、前記変色抑制剤、及びエタノールを含有する、前記変色抑制剤が溶解した混合物と、前記分散補助剤の水溶液とを混合する工程を有する製造方法によって製造される色素製剤。
[3]前記カロチノイド色素と前記変色抑制剤の質量比が、1:0.1〜10であり、前記カロチノイド色素1質量部に対する、前記分散補助剤の含有量が、0.016質量部以上である前記[1]
又は[2]に記載の色素製剤。
[
4]前記変色抑制剤が、
ツェイン、グリアジン、シェラック、及びカルボキシメチルエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[
3]のいずれかに記載の色素製剤
。
[5]前記カロチノイド色素が、トマト色素及びベータカロテンの少なくともいずれかである前記[1]〜[
4]のいずれかに記載の色素製剤。
[
6]前記[1]〜[
5]のいずれかに記載の色素製剤の製造方法であって、前記カロチノイド色素
の結晶、前記変色抑制剤、及びエタノールを含有する、前記変色抑制剤が溶解した混合物と、前記分散補助剤の水溶液とを混合する工程を有する色素製剤の製造方法。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す加工製品及びその製造方法が提供される。
[
7]前記[1]〜[
5]のいずれかに記載の色素製剤を含む加工製品。
[
8]前記[1]〜[
5]のいずれかに記載の色素製剤を製品原料に添加及び混合する工程を有する加工製品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油脂を含む製品原料に添加して加熱処理した場合であっても、変色を抑制しつつ、カロチノイド色素に由来する鮮明な赤色に着色した製品を製造することが可能であるとともに、高速撹拌等のような製品原料を強く撹拌する工程を必要とせず、かつ、製品原料に添加する段階を選択する自由度の高い色素製剤を提供することができる。また、本発明によれば、上記色素製剤の製造方法、上記色素製剤を用いた加工製品、及び加工製品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<色素製剤>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の色素製剤は、カロチノイド色素、変色抑制剤、及び分散補助剤(但し、変色抑制剤を除く)を含有する。以下、本発明の色素製剤の詳細について説明する。
【0014】
(カロチノイド色素)
本発明の色素製剤は、カロチノイド色素を含有する。カロチノイド色素は、水不溶性・脂溶性色素であり、結晶状態で赤色を呈する。カロチノイド色素としては、市販のカロチノイド色素を特に制限なく用いることができる。カロチノイド色素の具体例としては、トマト色素(リコペン)、ベータカロテン、アスタキサンチン、アルファカロテンなどを挙げることができる。
【0015】
色素製剤中のカロチノイド色素の含有量は、色素製剤全体を基準として、0.5〜5質量%とすることが好ましい。カロチノイド色素の含有量が0.5質量%未満であると、着色能力がやや不足する場合がある。一方、カロチノイド色素の含有量が5質量%超であると、製剤の安定性がやや低下する場合がある。
【0016】
(変色抑制剤)
本発明の色素製剤は、変色抑制剤を含有する。この変色抑制剤は、20℃の水1Lに対する溶解度が1g以下であり、かつ、20℃の80体積%エタノール水溶液に対する溶解度が1g以上の有機高分子である。このような条件を満たす有機高分子を変色抑制剤として配合することで、油脂含有製品中におけるカロチノイド色素の変色を抑制する効果を得ることができる。このような効果を得ることができる理由につき、本発明者らは以下のように推測している。
【0017】
カロチノイド色素は、結晶状態で赤色を呈するが、油脂に溶解した状態では橙〜黄色を呈する。このため、油脂を含有する製品中ではカロチノイド色素が油脂に溶解し、結晶状態の赤色を失って橙〜黄色に変色する。ここで、変色抑制剤として機能する上記の有機高分子をカロチノイド色素と共存させると、カロチノイド色素の粒子(結晶)表面の少なくとも一部を被覆する皮膜が有機高分子によって形成される。その表面に皮膜が形成されたカロチノイド色素の結晶は油脂に溶解しにくいため、油脂を含有する製品中でも結晶状態が保持されて赤色を保つと考えられる。
【0018】
20℃の水1Lに対する変色抑制剤の溶解度が1g超であると、色素製剤を製品原料に添加した際に水に溶けてしまうために皮膜を形成することができず、変色抑制効果が発揮されない。一方、20℃の80体積%エタノール水溶液に対する変色抑制剤の溶解度が1g未満であると、製品原料中の水と接触しても十分な皮膜を形成することができず、変色抑制効果が発揮されない。なお、変色抑制剤は、20℃の水1Lに対する溶解度が0.5g以下であることが好ましく、0.1g以下であることがさらに好ましい。また、変色抑制剤は、20℃の80体積%エタノール水溶液に対する溶解度が10g以上であることが好ましく、50g以上であることがさらに好ましい。
【0019】
変色抑制剤としては、プロラミン、天然樹脂、及びセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。プロラミンの具体例としては、コムギ由来のグリアジン、オオムギ由来のホルデイン、ライムギ由来のセカリン、トウモロコシ由来のツェイン、ソルガム由来のカフィリン、アワ由来のペニセティンなどを挙げることができる。なかでも、ツェインを用いると変色抑制効果が顕著となるために好ましい。
【0020】
天然樹脂の具体例としては、シェラック及びロジンなどを挙げることができる。なかでも、シェラックを用いると変色抑制効果が顕著となるために好ましい。また、セルロース誘導体の具体例としては、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなどを挙げることができる。なかでも、カルボキシメチルエチルセルロースを用いると変色抑制効果が顕著となるために好ましい。
【0021】
色素製剤中の変色抑制剤の含有量は、色素製剤全体を基準として、1〜10質量%とすることが好ましく、1〜5質量%とすることがさらに好ましい。変色抑制剤の含有量が1質量%未満であると、変色抑制効果がやや不足する場合がある。一方、変色抑制剤の含有量が10質量%超であると、製剤の安定性がやや低下する場合がある。
【0022】
(分散補助剤)
本発明の色素製剤は、カロチノイド色素の分散を補助しうる分散補助剤を含有する。この分散補助剤は、多糖類及びタンパク質の少なくともいずれかである。前述の通り、変色抑制剤をカロチノイド色素と共存させると、カロチノイド色素の粒子(結晶)表面の少なくとも一部を被覆する皮膜が変色抑制剤(有機高分子)によって形成される。ここで、分散補助剤をさらに添加すると、変色抑制剤で被覆されたカロチノイド色素の凝集が抑制され、安定な分散体となりうる色素微粒子が形成されると考えられる。
【0023】
このようにして形成される色素微粒子は、水等を主体とする媒体中に良好な状態で分散して分散体を構成することができる。さらに、このような色素微粒子を含む安定性の高い色素製剤とすることで、高速撹拌等による製品原料の処理を行わなくても、鮮明な赤色に着色した油脂を含む製品を製造することができる。さらに、高速撹拌工程で添加する必要がなく、製造工程のどの段階で添加してもよいことから、添加する段階を選択する自由度が高く、適用可能な製品の幅が広い。
【0024】
分散補助剤として用いることができる多糖類としては、例えば、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、スクシノグリカン、カラヤガム、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、タマリンドシードガム、トラガントガム、ウェランガム、λカラギーナンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、大豆多糖、プルラン、アラビアガム、コンニャク抽出物、ガティガム、オクテニルコハク酸デンプン、サイリウムシードガム、カードラン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、キトサン、及びこれらの塩などを挙げることができる。また、分散補助剤として用いることができるタンパク質としては、例えば、エンドウ豆タンパク質、大豆タンパク質、カゼイン、及びこれらの塩(例えば、カゼインナトリウム等)などを挙げることができる。
【0025】
上記の分散補助剤のなかでも、その分子構造中にカルボキシ基やスルホン酸基等の酸性基を有する、食品添加物として用いられる多糖類やタンパク質を用いることが好ましい。分子構造中に酸性基を有すると、ツェイン等の難水溶性の変色抑制剤により形成された皮膜に適度に付着しやすいと考えられる。このため、カロチノイド色素(の結晶)の凝集が抑制された前述の色素微粒子がより形成されやすくなると考えられる。これにより、水等を主体とする媒体中にさらに良好な状態で分散しやすくなるとともに、製品原料を高速撹拌しなくても、斑点状に着色されることを抑制し、着色均一性により優れた色素製剤とすることができる。
【0026】
分散補助剤は、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、スクシノグリカン、カラヤガム、及びカゼインナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。これらの成分を分散補助剤として用いると、水を主体とする分散媒体中における分散性に顕著に優れた色素製剤とすることができる。このため、製品原料に対してより実用的な量(少量)を添加するだけで、カロチノイド色素に由来する鮮明な赤色に着色した製品を製造することが可能となる。
【0027】
色素製剤中の分散補助剤の含有量は、色素製剤全体を基準として、0.02〜5質量%とすることが好ましく、0.05〜3質量%とすることがさらに好ましく、0.1〜3質量%とすることが特に好ましい。分散補助剤の含有量が0.02質量%未満であると、水等を主体とする媒体中での分散性が低下しやすくなるとともに、発色性がやや低下する場合がある。一方、分散補助剤の含有量が5質量%超であると、分散補助剤の種類にもよるが、粘度上昇により製剤化がやや困難になる場合があるとともに、使用時のハンドリング性が低下しやすくなることがある。
【0028】
(色素製剤)
本発明の色素製剤の具体的な態様の一例は、カロチノイド色素を含む色素微粒子が媒体中に分散した分散体である。この場合、色素微粒子の面積基準の粒径分布の累積50%粒径(D50)は、0.1〜10μmであることが好ましい。色素微粒子のD50を上記の範囲内とすることで、より実用的な添加量(少量)で、赤色に着色した製品を製造することができる。なお、色素微粒子のD50は、例えば、用いる分散補助剤の種類を適宜選択すること等により制御することができる。
【0029】
本発明の色素製剤は、製品原料に添加及び混合する際の利便性の面から、水を含む液媒体を含有する液状の色素製剤であることが好ましい。また、色素製剤に配合する成分の種類や配合比を適宜調整することで、半液状又は固体状の色素製剤としてもよい。
【0030】
色素製剤中のカロチノイド色素と変色抑制剤の質量比は、1:0.1〜10であることが好ましく、1:0.4〜5であることがさらに好ましく、1:1〜3であることが特に好ましい。カロチノイド色素と変色抑制剤の質量比を上記の範囲内とすることで、加熱による変色をより一層抑制することができる。
【0031】
また、色素製剤中のカロチノイド色素1質量部に対する、分散補助剤の含有量は、0.016質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましく、0.1質量部以上であることが特に好ましい。カロチノイド色素に対する分散補助剤の含有量を上記の範囲内とすることで、分散性が向上し、製剤の安定性をより向上させることができる。また、添加する段階を選択する自由度をさらに高めることができ、適用可能な製品の幅をより広げることができる。なお、色素製剤中の分散補助剤の含有量の上限については特に限定されないが、実質的には、カロチノイド色素1質量部に対して7.5質量部以下であればよい。
【0032】
本発明の色素製剤は、カロチノイド色素の鮮明な赤色に着色された種々の加工製品を製造するための製剤として有用である。具体的には、食品用の色素製剤の他、化粧品用の色素製剤、及び(医)薬品用の色素製剤等として用いることができる。
【0033】
<色素製剤の製造方法>
次に、本発明の色素製剤の製造方法について説明する。本発明の色素製剤の製造方法は、カロチノイド色素、変色抑制剤、及びエタノールを含有する、変色抑制剤が溶解した混合物と、分散補助剤の水溶液とを混合する工程を有する。
【0034】
上記の混合物は、例えば、特許第5280571号公報(特許文献2)の記載内容を参酌して調製することができる。具体的には、変色抑制剤が溶解しうるエタノール水溶液に変色抑制剤を添加して溶解させた後、カロチノイド色素を添加することで、上記の混合物を得ることができる。なお、カロチノイド色素は、結晶の粒子径が細かいほどより良好に発色させることができるので、カロチノイド色素を添加した後、粉砕機等を用いて微粉砕することが好ましい。液状の色素製剤とする場合、変色抑制剤を溶解させる上記のエタノール水溶液中の水とエタノールの質量比は、1:1〜7であることが好ましく、1:2〜3.5であることがさらに好ましい。なお、プロピレングリコールやグリセリン等の液体成分を適宜添加してもよい。
【0035】
調製した混合物と、分散補助剤の水溶液とを混合することで、水に難溶な変色抑制剤を析出させて、本発明の色素製剤を得ることができる。なお、上記の混合物と分散補助剤の水溶液との混合によって変色抑制剤を析出させると、カロチノイド色素の粒子表面の少なくとも一部を被覆する皮膜が形成されると考えられる。さらに、系中には分散補助剤が存在するため、変色抑制剤で被覆されたカロチノイド色素の凝集が抑制され、本発明の色素製剤の具体的な態様の一例である、カロチノイド色素を含む色素微粒子が媒体中に分散した分散体を得ることができる。
【0036】
<加工製品及びその製造方法>
次に、本発明の加工製品及びその製造方法について説明する。本発明の加工製品の製造方法は、前述の色素製剤を製品原料に添加及び混合する工程を有する。そして、本発明の加工製品は、前述の色素製剤を含むものである。
【0037】
本発明の色素製剤を用いて加工製品を製造するには、食品原料等の製品原料に色素製剤を添加し、適当な方法で混合すればよい。製品原料に対する色素製剤の添加量は、製品原料の種類や、色素製剤の態様(粉体、粒体、液体等)などにより相違するので、一概に言うことはできないが、一般的には、製造しようとする加工製品中のカロチノイド色素の含有量が0.001〜0.02質量%となる量の色素製剤を製品原料に添加すればよい。
【0038】
前述の通り、本発明の色素製剤を用いれば、高速撹拌等による製品原料の処理を実施しなくとも、鮮明な赤色に均一に着色した油脂を含む製品を製造することができる。すなわち、本発明の加工製品の製造方法は、色素製剤を製品原料に添加する段階が特に限定されないため、製造工程を設計する自由度が高く、汎用性に優れている。さらに、色素製剤を添加した製品原料を高速撹拌する必要がないため、高速撹拌工程を有しない、鮮明な赤色に均一に着色された油脂含有製品を製造する方法として有用である。
【0039】
本発明の加工製品の製造方法によれば、例えば、加熱による変色を防止することが困難であった、魚肉ソーセージ、蒲鉾、カニ風味蒲鉾などの魚肉練り製品;畜肉ハム、畜肉ソーセージ、レトルト食品等の油脂含有食品;蒸しパン、食パン、マドレーヌ等の小麦粉製品;(ミルク)プリン、白玉等の菓子類などの加工食品を、変色を抑制しつつ鮮明な赤色に着色して製造することができる。さらに、本発明の加工製品の製造方法によれば、上記の加工食品だけでなく、例えば、化粧品や(医)薬品などの着色された製品を製造する方法としても有用である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0041】
<魚肉ソーセージの製造及び評価(1)>
(実施例1)
(i)色素製剤の製造
95%エタノール210g、水90g、プロピレングリコール400g、及びグリセリン225gの混合液にツェイン50gを添加して溶解させた。さらに、トマト色素(ライコレッド社製)25gを添加して混合した後、ビーズミル(商品名「スターミル(登録商標)LMZ015」、アシザワ・ファインテック社製)を使用して粉砕処理し、粉砕処理液を得た。一方、ペクチン40gを水960gに溶解させてペクチン溶解液を得た。粉砕処理液1000gに対し、ペクチン溶解液1000gを添加及び混合して、色素を含む微粒子が分散した液状の色素製剤を調製した。
【0042】
(ii)魚肉ソーセージの製造
無塩冷凍すり身100部(固形分約30%、油脂含有量1%)に、氷水50部、食用油15部、食塩3部、砂糖2.5部、馬鈴薯澱粉2部、グルタミン酸ナトリウム0.5部、みりん2部、少量のゼラチン、エキス、香辛料、及びグルテンを加えた。ミキサーにより高速撹拌(約1500rpm)してよく混合し、魚肉ソーセージ用の練り肉(油脂含有量約8.5%)を得た。ミキサーとしては、商品名「ロボ・クープミキサーR−2A」(エフ・エム・アイ社製)を使用した。得られた練り肉100部に色素製剤0.3部を加え、高速撹拌してよく混合し、着色練り肉を得た。得られた着色練り肉を直径3cm、長さ10cmのケーシングに充填し、121℃で20分間レトルト加熱した後、冷却して魚肉ソーセージを得た。
【0043】
(実施例2〜24、比較例1〜7)
表4に示す種類の色素、変色抑制剤、及び分散補助剤を使用するとともに、これらの成分の使用量を、得られる製剤中の含有量が表4に示す量となるように適宜調整したこと以外は、前述の実施例1の「(i)色素製剤の製造」と同様にして、液状の色素製剤を調製した。さらに、食品原料(練り肉)に対する添加量が表4に示す量となるように、調製した色素製剤をそれぞれ使用したこと以外は、前述の実施例1の「(ii)魚肉ソーセージの製造」と同様にして、魚肉ソーセージを得た。使用した色素、変色抑制剤、及び分散補助剤の種類を表1〜3に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
(色調評価(1))
ケーシングに充填した着色練り肉(加熱前)の色調と、得られた魚肉ソーセージ(加熱後)の色調を肉眼で観察し、以下に示す評価基準にしたがって色調を評価した。結果を表4に示す。
◎:鮮明な赤色に着色され、加熱による色調の変化はほとんど認められなかった。
○:加熱によりごくわずかに黄色味を帯びたが、明らかな色調の変化は認められなかった。
△:加熱により黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
×:加熱により著しく黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
【0048】
【0049】
<魚肉ソーセージの製造及び評価(2)>
(実施例25)
(i)色素製剤の製造
95%エタノール210g、水90g、プロピレングリコール400g、及びグリセリン225gの混合液にツェイン50gを添加して溶解させた。さらに、トマト色素(ライコレッド社製)25gを添加して混合した後、ビーズミル(商品名「スターミル(登録商標)LMZ015」、アシザワ・ファインテック社製)を使用して粉砕処理し、粉砕処理液を得た。一方、ペクチン40gを水960gに溶解させてペクチン溶解液を得た。粉砕処理液1000gに対し、ペクチン溶解液1000gを添加及び混合して、色素を含む微粒子が分散した液状の色素製剤を調製した。
【0050】
(ii)魚肉ソーセージの製造
無塩冷凍すり身100部(固形分約30%、油脂含有量1%)に、氷水50部、食用油15部、食塩3部、砂糖2.5部、馬鈴薯澱粉2部、グルタミン酸ナトリウム0.5部、みりん2部、所定量の色素製剤、少量のゼラチン、エキス、香辛料、及びグルテンを加えた。ミキサーにより高速撹拌(約1500rpm)してよく混合し、着色練り肉(油脂含有量約8.5%)を得た。ミキサーとしては、商品名「ロボ・クープミキサーR−2A」(エフ・エム・アイ社製)を使用した。なお、色素製剤は、練り肉(色素製剤以外の部分)100部に対して0.3部となるように、氷水に加えてよく混合してから添加した。得られた着色練り肉を直径3cm、長さ10cmのケーシングに充填し、121℃で20分間レトルト加熱した後、冷却して魚肉ソーセージを得た。
【0051】
(実施例26〜48、比較例8)
表5に示す種類の色素、変色抑制剤、及び分散補助剤を使用するとともに、これらの成分の使用量を、得られる製剤中の含有量が表5に示す量となるように適宜調整したこと以外は、前述の実施例25の「(i)色素製剤の製造」と同様にして、液状の色素製剤を調製した。さらに、食品原料(練り肉)に対する添加量が表5に示す量となるように、調製した色素製剤をそれぞれ使用したこと以外は、前述の実施例25の「(ii)魚肉ソーセージの製造」と同様にして、魚肉ソーセージを得た。
【0052】
(色調評価(2))
ケーシングに充填した着色練り肉(加熱前)の色調と、得られた魚肉ソーセージ(加熱後)の色調を肉眼で観察し、以下に示す評価基準にしたがって色調を評価した。結果を表5に示す。
◎:鮮明な赤色に着色され、加熱による色調の変化はほとんど認められなかった。
○:加熱によりごくわずかに黄色味を帯びたが、明らかな色調の変化は認められなかった。
△:加熱により黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
×:加熱により著しく黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
【0053】
【0054】
<蒸しパンの製造及び評価>
(実施例49)
(i)色素製剤の製造
95%エタノール210g、水90g、プロピレングリコール400g、及びグリセリン225gの混合液にツェイン50gを添加して溶解させた。さらに、トマト色素(ライコレッド社製)25gを添加して混合した後、ビーズミル(商品名「スターミル(登録商標)LMZ015」、アシザワ・ファインテック社製)を使用して粉砕処理し、粉砕処理液を得た。一方、ペクチン40gを水960gに溶解させてペクチン溶解液を得た。粉砕処理液1000gに対し、ペクチン溶解液1000gを添加及び混合して、色素を含む微粒子が分散した液状の色素製剤を調製した。
【0055】
(ii)蒸しパンの製造
薄力粉100部、砂糖30部、水60部、卵(全卵)50部、ベーキングパウダー3.6部、及びコーン油11部を混合し、よく撹拌して蒸しパン生地(油脂含有量約7%)を得た。得られた蒸しパン生地100部に色素製剤0.6部を加えてよく混合し、着色生地を得た。得られた着色生地30gをカップに流し込み、95℃で15分間スチーム加熱して蒸しパンを得た。
【0056】
(実施例50〜72、比較例9)
表6に示す種類の色素、変色抑制剤、及び分散補助剤を使用するとともに、これらの成分の使用量を、得られる製剤中の含有量が表6に示す量となるように適宜調整したこと以外は、前述の実施例49の「(i)色素製剤の製造」と同様にして、液状の色素製剤を調製した。さらに、食品原料(蒸しパン生地)に対する添加量が表6に示す量となるように、調製した色素製剤をそれぞれ使用したこと以外は、前述の実施例49の「(ii)蒸しパンの製造」と同様にして、蒸しパンを得た。
【0057】
(色調評価(3))
カップに流し込んだ着色生地(加熱前)の色調と、得られた蒸しパン(加熱後)の色調を肉眼で観察し、以下に示す評価基準にしたがって色調を評価した。結果を表6に示す。
◎:鮮明な赤色に着色され、加熱による色調の変化はほとんど認められなかった。
○:加熱によりごくわずかに黄色味を帯びたが、明らかな色調の変化は認められなかった。
△:加熱により黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
×:加熱により著しく黄色味を帯び、明らかな色調変化が認められた。
【0058】
【課題】油脂を含む製品原料に添加して加熱処理した場合であっても、変色を抑制しつつ、カロチノイド色素に由来する鮮明な赤色に着色した製品を製造することが可能であるとともに、高速撹拌等のような製品原料を強く撹拌する工程を必要とせず、かつ、製品原料に添加する段階を選択する自由度の高い色素製剤を提供する。
【解決手段】カロチノイド色素、変色抑制剤、及び分散補助剤(但し、変色抑制剤を除く)を含有し、変色抑制剤が、20℃の水1Lに対する溶解度が1g以下であり、かつ、20℃の80体積%エタノール水溶液に対する溶解度が1g以上の有機高分子であり、分散補助剤が、多糖類及びタンパク質の少なくともいずれかである色素製剤。