【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。ここでは、インクジェット記録用水性顔料インクの粘度が、高粘度(10mP・s以上)、中粘度(5mP・s以上10mP・s未満)、低粘度(5mP・s未満)の3つに分けて説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特に指摘がない場合、下記において、「部」は「重量部」を意味する。また、下記において、「エマルジョン樹脂分散体」とは、本発明のエマルジョン樹脂を含む水溶液のことを意味する。
【0041】
[高粘度]
まず、高粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例1〜2、比較例1〜3を用いて説明する。
【0042】
(実施例1)
<顔料分散体の調製>
まず、以下の材料を下記の割合で混合攪拌後、東洋精機社製のペイントシェーカを用いて、直径0.3mmのジルコニアビーズを分散メディアとして60分間分散して顔料分散体を得た。
(1)顔料(デグサ社製、商品名“プリンテックス85”) 20部
(2)分散剤(スチレンアクリル酸共重合体、酸価:250) 6部
(3)消泡剤(日信化学工業社製、商品名“サーフィノール104”) 0.2部
(4)水 73.8部
【0043】
<インクジェット記録用水性顔料インクの調製>
次に、上記顔料分散体と以下の材料とを下記の割合で混合攪拌し、実施例1のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。
(1)顔料分散体 7.5部
(2)2−ピロリドン 10部
(3)ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5部
(4)界面活性剤(スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム) 0.5部
(5)エマルジョン樹脂分散体(ダイセルファインケム社製、商品名“アクアブリッドAST−499”、ガラス転移温度:80℃、固形分:40%) 25部
(6)増粘剤:(アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ルーブリゾール(Lubrizol)社製、商品名“PEMULEN TR−2”) 0.1部(0.10重量%)
(7)水 52.4部
【0044】
上記のようにして得られた実施例1のインクジェット記録用水性顔料インクの粘度を、円錐平板型回転粘度計(コーンプレートタイプ、東機産業社製、商品名“TV−22粘度計”)を用いて測定したところ、10.3mP・sであった。なお、以下の実施例及び比較例においても、同様にして粘度測定を行った。
【0045】
(実施例2)
増粘剤を、ルーブリゾール(Lubrizol)社製の商品名“PEMULEN TR−1”に変更したこと、増粘剤の添加量を0.2部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例2のインクの粘度は、10.9mP・sであった。
【0046】
(比較例1)
増粘剤を添加しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例1のインクの粘度は、2.0mP・sであった。
【0047】
(比較例2)
増粘剤をアルギン酸ナトリウム(キミカ社製、商品名“L”)に変更したこと、増粘剤の添加量を0.20部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例2のインクの粘度は、10.2mP・sであった。
【0048】
(比較例3)
増粘剤をアルギン酸ナトリウム(キミカ社製、商品名“LL”)に変更したこと、増粘剤の添加量を0.35部(0.35重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例3のインクの粘度は、11.2mP・sであった。
【0049】
上記実施例1〜2及び比較例1〜3のインクジェット記録用水性顔料インクに関して、下記に示す方法によって、吐出安定性及び耐薬品性の評価を行った。
【0050】
(吐出安定性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクをインクジェットプリンタを用いて、A4版Xerox P紙にマイクロソフト社のワードのMS明朝文字をスタイル標準サイズ10で2000字/ページの割合で100ページ連続印字し、印字乱れの状態を観察することにより吐出安定性を評価した。ここでは、評価結果は「A」、「B」、「C」で表すこととした。評価基準については、「A」は、印字乱れが10箇所未満で、吐出安定性が良好であることを示し、「B」は、印字乱れが10箇所以上100箇所未満で、吐出安定性がやや不良であることを示し、「C」は、印字乱れが100箇所以上で、吐出安定性が不良であることを示している。上記インクジェットプリンタとしては、高粘度インク(上記実施例1〜2、比較例1〜3)の場合、富士フィルム社製の“ダイマティックス・マテリアルプリンタ DMP−2831”を用い、中粘度インク(後述の実施例3〜4、比較例4〜8)の場合、リコー社製の“IPSiO GX e3300”を用い、低粘度インク(後述の実施例5〜6、比較例9〜13)の場合、セイコーエプソン社製の“EM−930C”を用いた。
【0051】
(耐薬品性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(未処理品)上に、バーコータ(#20)により、乾燥後の厚さが2〜3μmの塗膜を形成し、所定の乾燥温度で乾燥させることにより、評価用試料を作製した。なお、乾燥温度条件は60℃、75℃、90℃とした。そして、各乾燥温度で乾燥させた各評価用試料の塗膜面を、エタノール50%を含有した水溶液を含浸させた綿棒を用いて20回擦って、塗膜の剥離の状態を観察することにより耐薬品性を評価した。ここでは、評価結果は「A」、「B」、「C」で表すこととした。評価基準については、「A」は、綿棒で擦っても塗膜が全く剥がれず、塗膜の造膜性及び基材への密着性が良く、耐薬品性が良好であることを示し、「B」は、擦る回数が15回以上で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性がやや不十分であり、耐薬品性がやや不良であることを示し、「C」は、擦る回数が15回未満で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性が不十分であり、耐薬品性が不良であることを示している。
【0052】
表1に、実施例1〜2、比較例1〜3のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び密着性の評価結果を示した。また、表1では、インクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及び、インクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例1〜2では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例2〜3では、いずれの乾燥温度条件においても塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0055】
また、実施例1では、増粘剤の添加量が実施例2及び比較例2〜3に比べて半分以下であるにも関わらず、実施例2及び比較例2〜3と同程度の高粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤を添加していない比較例1は、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例1の3.5倍である比較例3では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例1の2倍である比較例2では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。
【0056】
[中粘度]
次に、中粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例3〜4、比較例4〜8を用いて説明する。
【0057】
(実施例3)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例3のインクの粘度は、6.9mP・sであった。
【0058】
(実施例4)
増粘剤の添加量を0.14部(0.14重量%)に変更したこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例4のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例4のインクの粘度は、7.0mP・sであった。
【0059】
(比較例4)
増粘剤の添加量を0.12部(0.12重量%)に変更したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例4のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例4のインクの粘度は、7.2mP・sであった。
【0060】
(比較例5)
増粘剤の添加量を0.2部(0.20重量%)に変更したこと以外は、上記比較例3と同様にして、比較例5のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例5のインクの粘度は、6.8mP・sであった。
【0061】
(比較例6)
増粘剤を、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)(ダイセルファインケム社製、商品名“SP600”)に変更し、増粘剤の添加量を0.12部(0.12重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例6のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例6のインクの粘度は、6.4mP・sであった。
【0062】
(比較例7)
増粘剤を、HEC(ダイセルファインケム社製、商品名“SP400”)に変更し、増粘剤の添加量を0.3部(0.30重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例7のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例7のインクの粘度は、6.2mP・sであった。
【0063】
(比較例8)
増粘剤を、HEC(ダイセルファインケム社製、商品名“SP600”)に変更し、増粘剤の添加量を0.8部(0.80重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例8のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例8のインクの粘度は、6.6mP・sであった。
【0064】
上述した評価方法を用いて、実施例3〜4、比較例4〜8のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び耐薬品性の評価結果を表2に示した。また、表2では、各実施例及び比較例のインクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及びインクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。なお、参考のため、増粘剤を添加していない比較例1も表2に示している。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例3〜4では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例4〜5、増粘剤としてHECを用いた比較例6〜8では、特に乾燥温度が75℃以下の低温の場合、塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0067】
また、実施例3では、増粘剤の添加量が実施例4及び比較例4〜8に比べて少ないにも関わらず、実施例4及び比較例4〜8と同程度の中粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例3の2.5倍である比較例5では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例3の1.5倍である比較例4では、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてHECを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例3の10倍である比較例8では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例3の1.5倍である比較例6、増粘剤の添加量が実施例3の3.75倍である比較例7では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムまたはHECを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。
【0068】
[低粘度]
次に、低粘度のインクジェット記録用水性顔料インクについて、実施例5〜6、比較例9〜13を用いて説明する。
【0069】
(実施例5)
増粘剤の添加量を0.03部(0.03重量%)に変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例5のインクの粘度は、4.3mP・sであった。
【0070】
(実施例6)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記実施例2と同様にして、実施例6のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。実施例6のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0071】
(比較例9)
増粘剤の添加量を0.08部(0.08重量%)に変更したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例9のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例9のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0072】
(比較例10)
増粘剤の添加量を0.15部(0.15重量%)に変更したこと以外は、上記比較例3と同様にして、比較例10のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例10のインクの粘度は、4.8mP・sであった。
【0073】
(比較例11)
増粘剤の添加量を0.07部(0.07重量%)に変更したこと以外は、上記比較例6と同様にして、比較例11のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例11のインクの粘度は、4.8mP・sであった。
【0074】
(比較例12)
増粘剤の添加量を0.15部(0.15重量%)に変更したこと以外は、上記比較例7と同様にして、比較例12のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例12のインクの粘度は、4.3mP・sであった。
【0075】
(比較例13)
増粘剤の添加量を0.6部(0.60重量%)に変更したこと以外は、上記比較例8と同様にして、比較例13のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。比較例13のインクの粘度は、4.5mP・sであった。
【0076】
上述した評価方法を用いて、実施例5〜6、比較例9〜13のインクジェット記録用水性顔料インクの吐出安定性及び耐薬品性の評価結果を表3に示した。また、表3では、各実施例及び比較例のインクジェット記録用水性顔料インクに含まれる増粘剤の種類、添加量、及びインクジェット記録用水性顔料インクの粘度についても示している。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いた実施例5〜6では、乾燥温度が60℃、75℃、90℃のいずれの場合にも塗膜の耐薬品性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた比較例9〜10、増粘剤としてHECを用いた比較例11〜13では、特に乾燥温度が75℃以下の低温の場合、塗膜の耐薬品性が劣っていた。このことから、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いることにより、低温での造膜が可能で、吐出後の乾燥性を向上でき、低温造膜時においても塗膜の耐薬品性を向上できることが分かった。
【0079】
また、実施例5では、増粘剤の添加量が実施例6及び比較例9〜13に比べて少ないにも関わらず、実施例6及び比較例9〜13と同程度の粘度を有するインクが得られ、かつ、吐出安定性が優れていた。一方、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例5の5倍である比較例10は、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例5の約3倍である比較例9は、吐出安定性は劣っていた。また、増粘剤としてHECを用いた場合、増粘剤の添加量が実施例5の20倍である比較例13では、吐出安定性は優れていたが、増粘剤の添加量が実施例5の約2倍である比較例11と、増粘剤の添加量が実施例5の5倍である比較例12では、吐出安定性は劣っていた。このことから、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムまたはHECを用いる場合、優れた吐出安定性を得るためには、増粘剤の添加量を多くする必要があるが、増粘剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合、増粘剤の添加量が少量であっても所望の粘度に調整できるとともに、吐出安定性を向上できることが分かった。