(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性基材が、チタン、アルミニウム、フッ素ドープ酸化スズ膜付きガラス、およびスズドープ酸化インジウム膜付きガラスから選ばれる1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本明細書において、「可視光」とは、人間の目で視認可能な波長の電磁波(光)を意味する。好ましくは、波長380nm以上の可視光線を含む光、より好ましくは、波長420nm以上の可視光線を含む光を意味する。また、可視光線を含む光としては、太陽光、集光してエネルギー密度を高めた集光太陽光、あるいはキセノンランプ、ハロゲンランプ、ナトリウムランプ、蛍光灯、発光ダイオード等の人工光源を光源として用いることが可能である。好ましくは、地球上に無尽蔵に降り注いでいる太陽光を光源として用いることが可能である。これにより、太陽光線の60%以上を占める可視光線を利用可能であるので、水から水素及び酸素を取り出せる指標となるエネルギー変換効率を高めることが可能となる。
【0015】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の調製
本発明による光触媒材の製造方法にあっては、まず一次粒子径が100nm以下であるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を用意する。
【0016】
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、高い結晶性、かつ微細な一次粒子径を有する。
【0017】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の結晶性
本発明者らは、従来のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子に比べて、結晶中のRh
4+に由来する光吸収率が大きいことと、結晶中に存在する酸素欠陥に由来する光吸収率が小さいことを両立した粒子が、高い結晶性を有し、かつ高い光触媒活性を示すことを見出した。Rh−SrTiO
3において、高い結晶性と、比表面積の大きい、すなわち微細結晶であることを両立させることには困難が伴う。つまり、Rh−SrTiO
3は、結晶成長にあたり微細結晶のままで、高い結晶性を有する結晶となるように成長させることが難しい物質である。このようなRh−SrTiO
3粒子において、結晶中のRh
4+に由来する光吸収率と、結晶中に存在する酸素欠陥に由来する光吸収率とを指標とすることで、微細結晶でかつ高い結晶性を有する結晶を得ることが可能となった。
【0018】
通常、金属酸化物の結晶性が低下する要因の一つとして、酸素欠陥の生成が考えられる。つまり、金属酸化物の酸素サイトの欠損部位が多い、すなわち酸素欠陥が多いほど、結晶としての周期性が乱れるため、金属酸化物の結晶化度が低下する、つまり結晶性が低下する。
【0019】
本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の酸素欠陥量は、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末の紫外光、可視光、近赤外光領域における拡散反射スペクトル測定により定量評価できる光吸収率A(=1−分光反射率R)を指標として評価することが可能である。金属酸化物、例えば、酸化チタンの中に存在する酸素欠陥は、酸化チタンのバンド構造において、Ti−3d軌道からなる伝導帯の下端から0.75〜1.18eV程度低い電子エネルギーの領域に、酸素欠陥により生成するTi
3+からなるドナー準位を生じさせる。また、酸素欠陥を有する酸化チタンの吸収スペクトルは、可視光域から近赤外域に渡る幅広い領域でブロードな光吸収帯を持つことが知られている(Cronemeyerら、Phys.Rev.113号、1222〜1225ページ、1959年)。今般、本発明者らは、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の拡散反射スペクトルを測定することで、酸化チタンと同様に、可視光から近赤外光領域に渡って、ブロードな光吸収帯が生じることを確認した。さらに、焼成温度を上昇させることで、この近赤外光領域において光吸収率が減少することを確認した。これらのことから、可視光から近赤外域における光吸収を測定することで、焼成温度の上昇に伴う結晶性の向上を定量化できることを見出した。
【0020】
また、本発明者らは、高い光触媒活性を有するロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子においては、ロジウムの状態も重要であり、チタン酸ストロンチウム結晶中の4価のロジウム(Rh
4+)に由来する光吸収が大きいほど、結晶性が高くなることを見出した。このロジウムの価数による結晶性への影響に関して、以下のメカニズムが予想されるが、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。
【0021】
通常、ロジウムの価数は、2価、3価、4価および5価が知られている。これらの価数を有するロジウムのうち、室温及び大気中で最も安定なのは3価のロジウム(Rh
3+)である。3価のロジウムを含む出発原料を用いた場合、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)を高温で焼成し結晶化する際、4価のチタン(Ti
4+)のサイトにロジウムがドープされることが知られている。この際、Rh
3+がTi
4+の結晶サイトに置換固溶した場合、電気的中性を保つために、酸素欠陥が生じてしまう。よって、本発明者らは、この酸素欠陥を減少させるためには、結晶の電気的中性を維持可能なRh
4+が、Ti
4+の結晶サイトに置換固溶する必要があり、このことにより粒子の結晶性が向上することを見出した。
【0022】
そこで、本発明者らは、以下の方法で粒子を測定することにより、本発明の高い光触媒活性を有するロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性パラメータを明らかにできることを見出した。
【0023】
本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性の測定方法として、例えば、積分球ユニットを装着した、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、“V−670”)を用いることが可能である。具体的には、紫外可視近赤外分光光度計に、積分球ユニット(日本分光株式会社製、“ISV−722”)を装着する。ここで、ベースライン測定には、アルミナ焼結ペレットを用いる。その上で、微量粉末セル(日本分光株式会社製、“PSH−003”)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように粒子粉末30mgを詰めた際の拡散反射スペクトルを測定することで、分光反射率Rの測定が可能となる。ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の光学特性は、この装置を用いて、波長200〜2500nmまでの範囲で、拡散反射スペクトルを測定することで示される。そして、本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、波長315nmにおける光吸収率A
315(=1−R
315[波長315nmにおける分光反射率])が、0.86〜0.87の範囲になるような条件下で、チタン酸ストロンチウム結晶中のRh
4+に由来する光吸収に帰属される、波長570nmにおける光吸収率A
570(=1−R
570[波長570nmにおける分光反射率])が、0.6以上であり、かつ、結晶中の酸素欠陥に由来する光吸収に帰属される、波長1800nmにおける光吸収率A
1800(=1−R
1800[波長1800nmにおける分光反射率])が、0.7以下であることを特徴とする。好ましい態様によれば、波長570nmにおける光吸収率A
570は、0.6以上0.8未満である。また、別の好ましい態様によれば、波長1800nmにおける光吸収率A
1800は、0.3以上0.7以下である。
【0024】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、微細な一次粒子径を有している。一次粒子径は、70nm以下であることが好ましい。これにより、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は高い比表面積を有することができる。また、単位重量当たりの水と接触可能な表面積が大きくなる。これにより、水の還元反応サイトが増加し、その結果、高効率な水素発生が可能となる。好ましい一次粒子径は50nm以下である。より好ましい一次粒子径は30nm以上70nm以下である。さらにより好ましい一次粒子径は30nm以上50nm以下である。
【0025】
また、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が微細な粒径を有することの利点は、可視光照射により、粒子内で生成する励起電子及び励起正孔が、粒子表面まで拡散する距離が短いことである。これにより、励起電子が拡散した粒子表面における水の還元による水素発生反応が高効率に起こることが可能となる。
【0026】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径の評価手法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、“S−4100”、以下「SEM」ともいう。)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値で定義することが可能である。
【0027】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の構造
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、比表面積が大きいものである。本発明にあっては、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子のR
SP値を指標として用いることで、表面積の大きいロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子又はこれが集合した多孔質度の高い粉体(二次粒子)を示すことが可能となった。
【0028】
R
SP値は粒子表面に吸着した水分子の吸着量に相関する指標であり、水中に分散する粒子が水と接触している表面積に依存する指標である。本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は水分解用光触媒として利用されるため、この粒子は水と接触させて利用されるものである。この場合、水は一次粒子間の間隙あるいは二次粒子内の細孔に拡散し、粒子の表面に水が接触する状態となる。従って、本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子にあっては、水が吸着している粒子の表面積をR
SP値を指標として正確に測定可能であることは、比表面積の大きい粒子を得る上で有効である。なお、粒子の比表面積を測定する方法として、従来主流である窒素吸脱着測定を元にしたBET解析が挙げられるが、このBET解析では、プローブとして窒素用いており、窒素の分子直径は小さいため、水が拡散できない細孔表面に窒素が吸着してしまう。従って、BET解析による比表面積測定方法は水が吸着している粒子を対象とする場合有効性に欠ける。
【0029】
R
SP値は以下の式で表される。また、R
SP値は、パルスNMR粒子界面評価装置(例えば、“Acorn area”、日本ルフト製)により測定することが可能である。
R
SP=(R
b−R
av)/R
b (1)
ここで、R
avは、平均緩和時定数である。緩和時定数は、粒子が水に分散している際に表面に接触あるいは吸着している水の緩和時間の逆数である。平均緩和時定数は得られた緩和時定数を平均した値である。
R
bは、粒子が含まれていないブランクの水の緩和時定数である。
【0030】
R
sp値が大きいほど、粒子表面と水の相互作用が大きいことを示す。すなわち、粒子と水が接触している面積が大きく、粒子の比表面積が大きいことを示す。
【0031】
本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子のR
SP値は、0.86以上であることが好ましい。より好ましくは0.88以上である。またR
SP値は、10以下であることが好ましい。
【0032】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの組成
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウムの組成は、SrTi
1−xRh
xO
3で表わすことができる。ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の、M(ロジウム)/M(チタン+ロジウム)で表わされるモル比率は、0.001〜0.03であることが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.03である。モル比率をこの範囲とすることで、結晶中の酸素欠陥量の増加を抑制し、高い光触媒活性を実現することが可能である。
【0033】
以上のように、本発明に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は、上記に示す光吸収率と、SEMにより測定される微細な一次粒子形状を両立することで、高い光触媒活性の発現が可能となる。
【0034】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法として、ストロンチウムイオン、チタンイオン、ロジウムイオンを含む水溶液を用いた熱分解法(水溶液熱分解法)を好ましく用いることが可能である。「水溶液熱分解法」とは、金属含有前駆体を原料として用い、この金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応を起こす方法である。水との加水分解反応が速やかに起こる金属化合物(例えば、金属のアルコキシドや金属の塩化物等)を用いるゾル−ゲル法では、金属含有前駆体同士の加水分解により金属水酸化物が生成し、これらの脱水重縮合が速やかに起こることで、結晶核が粗大化しやすい。これに対して、水溶液熱分解法では、加水分解反応が緩やかな金属含有前駆体を原料として用いることで、水への安定な溶解が可能となる。また、このような金属含有前駆体を含む水溶液を加熱することで、溶媒である水の蒸発に伴い、金属含有前駆体同士の脱水重縮合反応が緩やかに起こり得る。これにより、熱分解時の結晶核の生成速度が遅くなり、結果的に結晶核の微細化が可能となる。
【0035】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法の一つの態様によれば、チタン化合物、ストロンチウム化合物、ロジウム化合物と疎水性錯化剤を混合し、水に溶解させることでロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体を含む水溶液を調製することが好ましい(これにより得られる水溶液を、以下、水溶液Aという。)。ここで、「ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体」とは、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位して、形成される六員環構造を有する化合物と、ストロンチウム化合物が解離して生成するストロンチウムイオン及びロジウム化合物が解離して生成するロジウムイオンの混合物である。水溶液Aを調製する方法は、まずチタン化合物と疎水性錯化剤を混合し水溶性チタン錯体を含む水溶液を調製する(これにより得られる水溶液を、以下、水溶液Bという。)。この水溶液Bにストロンチウム化合物及びロジウム化合物を混合し、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体を含む水溶液、つまり水溶液Aを調製する。ここで、水溶性チタン錯体とは、チタン化合物が解離して生成するチタンイオンに疎水性錯化剤が配位したものである。
【0036】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法において、本来難水溶性であるTi
4+を含むチタン化合物を水溶化させる方法として、原料としてチタン化合物の他に、疎水性錯化剤を添加することが好ましい。疎水性錯化剤をチタンイオンに配位させて、チタンイオンを錯化させることで、加水分解を抑制させることが可能となる。ここで、チタン化合物としては、チタンのアルコキシドやチタンの塩化物を用いることができる。チタンのアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド等を用いることができる。チタンの塩化物としては、四塩化チタン、四フッ化チタン、四臭化チタン等を用いることができる。
【0037】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法において用いられる疎水性錯化剤は、チタンイオンに配位でき、チタンイオンに配位した際に溶媒相側に疎水部が露出するものである。このような疎水性錯化剤として、例えばジケトン類、カテコール類を好ましく用いることができる。ジケトン類としては、一般式:Z
1−CO−CH
2−CO−Z
2(式中、Z
1およびZ
2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)で表されるジケトン類を好ましく用いることができる。前記一般式で表されるジケトン類としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル等を好ましく用いることができる。カテコール類としては、アスコルビン酸、ピロカテコール、tert−ブチルカテコール等を好ましく用いることができる。さらにより好ましくは、チタンへの水溶液中での錯化能が極めて高いアセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることができる。これにより、親水部である水酸基が溶媒相側に露出した場合に起こる分子間の脱水重縮合による分子間重合を抑制できる。よって、熱分解時において結晶核の微細化や、熱分解反応後の粒子の微細化が可能となる。
【0038】
また、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法の好ましい態様によれば、疎水性錯化剤に加えて、親水性錯化剤を用いることができる。親水性錯化剤としては、好ましくはカルボン酸を用いることができ、より好ましくは、式R
1−COOH(式中、R
1はC
1−4アルキル基である)で表わされるカルボン酸、または炭素数1〜6のヒドロキシ酸またはジカルボン酸を用いることができる。このような親水性錯化剤の具体例としては、酢酸、乳酸、クエン酸、酪酸、リンゴ酸等の水溶性カルボン酸等が挙げられる。さらにより好ましい水溶性カルボン酸は、酢酸または乳酸である。これにより、チタン化合物の加水分解反応の抑制や水への溶解性を向上させることが可能となる。
【0039】
また、錯体形成のための溶媒は水であってもよいが、別の好ましい態様によれば、溶媒として水溶性有機溶剤を用いても良い。これにより、遷移金属化合物の溶解性を向上させることができる。水溶性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、セロソルブ系溶媒、カルビトール系溶剤が挙げられる。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、水溶性チタン錯体として特開2012−056947号公報に記載のものを用いることができる。具体的には、チタンイオンに対する配位数が6であるチタン錯体であって、チタンイオンと、それに配位してなる、一般式:Z
1−CO−CH
2−CO−Z
2(式中、Z
1およびZ
2は、独立して、アルキル基またはアルコキシ基である。)で表され、二座配位子として機能する第1の配位子と、カルボキシラートである第2の配位子と、アルコキシドおよび水酸化物イオンからなる群から、独立してそれぞれ選択される第3の配位子および第4の配位子と、H
2Oである第5の配位子とを含んでなるチタン錯体を用いることができる。
【0041】
また、Sr
2+を含むストロンチウム化合物として、水溶性であり、加熱結晶化の際に、残渣としてアニオン成分が残らないものが好ましい。例えば、硝酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム等が好ましく用いられる。
【0042】
また、Rh
3+を含むロジウム化合物として、水溶性であり、加熱結晶化の際に、残渣としてアニオン成分が残らないものが好ましい。ロジウム化合物として、例えば、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、乳酸ロジウム、クエン酸ロジウム等が好ましく用いられる。また、ロジウム化合物として、Rh
4+を含む分子を用いても良い。ストロンチウム化合物あるいはロジウム化合物の水への溶解性を向上させるために、乳酸、酪酸、クエン酸等の親水性錯化剤を用いてもよい。
【0043】
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造において、前記水溶液Aにおける各種原料の好ましい混合比率としては、水100グラムに対して、チタン1原子を含むチタン化合物は、0.01〜0.2モル、より好ましくは0.02〜0.1モルであり、ストロンチウム化合物は、チタン1原子を含むチタン化合物に対して1〜1.1倍のモル量であり、ロジウム化合物は、所望のドープ量であり、疎水性錯化剤は、0.005〜0.4モル、より好ましくは0.015〜0.15モルであり、親水性錯化剤は、0.01〜0.2モル、より好ましくは0.025〜0.15モルであることが好ましい。この比率で混合することで、チタン化合物が良好に水溶化し、熱分解後の粒子の高結晶化及び微細化が可能となる。また、チタン化合物に対する、疎水性錯化剤のモル比率としては、チタン1原子を含むチタン化合物1モルに対して、0.5〜2モルであることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2モルである。この範囲内では、チタン化合物の加水分解反応の進行や、分子の疎水性向上による水溶性の低下を抑制することが可能となる。また、チタン化合物に対する、親水性錯化剤のモル比率としては、チタン1原子を含むチタン化合物1モルに対して、0.2〜2モルであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5モルである。この範囲内では、チタン化合物の加水分解反応の進行を抑制し、チタン化合物の水への溶解性を向上させることが可能となる。また、水溶液Aにおいて、水溶液中での各イオンの安定性を維持し、結晶化後の粒子の微細化が可能なpHは、好ましくは、2〜6、より好ましくは、3〜5である。この範囲とすることで、強酸や強アルカリ雰囲気による加水分解重縮合の促進による結晶の粗大化を抑制できる。
【0044】
また、本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造においては、前記水溶液Aに、水中分散型有機ポリマー粒子を添加することが好ましい(これにより得られる水溶液Aに水中分散型有機ポリマー粒子を添加したものを、以下、分散体という。)。また、この分散体を加熱し結晶化することでロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉体を得ることができる。水溶液Aに水中分散型有機ポリマー粒子を添加することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子同士の凝集度を低減させ、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉体の多孔質度や空隙率を向上させることが可能となる。
【0045】
この水中分散型有機ポリマー粒子として、球状ラテックス粒子や、水中油滴分散型(O/W型)エマルジョンを用いることが可能である。この水中分散型有機ポリマー粒子の添加により、微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が得られ、このような粒子が集合した二次粒子は多孔質となる。このように微細な一次粒子が得られ、その結果それが集合した二次粒子の多孔質度が高くなるメカニズムは、以下のように考えられるが、本発明はこのメカニズムに限定されるものではない。水中分散型有機ポリマー粒子を添加することで、水中で極性を持つポリマー粒子表面に、同じく極性分子である水溶性チタン錯体、ストロンチウムイオンおよびロジウムイオンが吸着する。加熱結晶化の工程で、ポリマー粒子の表面にあるチタン錯体は加水分解され、ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶核が生じる。ここで、ポリマー粒子の表面にある結晶核は互いに物理的距離をもって存在するため、結晶核同士の結合の機会が少なく、結晶の成長は緩やかに進行すると考えられる。この結果、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の一次粒子径が微細になるものと考えられる。さらに、生じたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子は熱分解によるポリマー粒子の消失にともない互いに結着するが、ポリマー粒子の存在がロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の凝集を抑制し、その結果、その集合体としての二次粒子の空隙率が高くなり、すなわち多孔質度が高くなるものと考えられる。
【0046】
この水中分散型有機ポリマー粒子の水中での分散粒子径は、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは、30〜300nmである。この範囲の分散粒子径とすることで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶核同士の物理的距離を大きくすることできる。よって、加熱結晶化後に、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を微細化することが可能となる。また、水中分散型有機ポリマー粒子の材質としては、600℃以上の加熱結晶化後に、有機ポリマー粒子の加熱残存物であるアモルファス状炭素等の残渣が残らないものが好ましい。例えば、スチレン、アクリル、ウレタン、エポキシ等のモノマーユニットが重合されたもの、もしくは複数種類のモノマーユニットを含むものが好適に用いられる。そして、水中分散型有機ポリマー粒子の添加量は、高温結晶化後のロジウムドープストロンチウムの重量に対して、好ましくは、1〜20倍、より好ましくは、3〜15倍量であり、この範囲の量のポリマー粒子を、水溶液Aに添加することで、結晶化後の粒子の凝集を抑制でき、粒子の一次粒子径の微細化が可能となる。
【0047】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の製造方法における、前記分散体から、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製する方法として、以下の方法が好ましく用いられる。前記分散体を200℃以下の低温で乾燥することで、まず乾燥粉体を得る。この乾燥粉体を結晶化する為に焼成することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を製造することが可能である。また、この分散体の乾燥および焼成工程を、連続的に行っても良い。ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの結晶化の際の焼成温度は、800℃を超え1100℃未満であり、より好ましくは、900℃以上1050℃以下である。この温度範囲とすることで、水中分散型有機ポリマー粒子を熱分解しつつ、高純度なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を高度に結晶化することが可能となる。
【0048】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子への助触媒の担持
本発明の好ましい態様によれば、本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を用いて水を光分解して水素を生成するとき、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子表面に助触媒を担持させる。これにより、水素の発生が速やかに起こる。
【0049】
水素発生用助触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の金属粒子から選ばれる少なくとも1種、あるいはこれらの金属粒子を混合させたものを好ましく用いることができる。より好ましくは、白金、ルテニウムの金属粒子を用いることができる。この助触媒を、粒子形状で水素発生用光触媒粒子表面に担持させることにより、水の還元反応における活性化エネルギーを減少させることが可能となるため、速やかな水素の発生が可能となる。
【0050】
電気泳動法によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の基材への付着
本発明による製造方法にあっては、上記のとおり用意した一次粒子径が100nm以下であるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を導電性基材上に電気泳動法にて付着させる。電気泳動法を使用することにより、各種導電性基材へ簡便に光触媒粒子を付着させることが可能となる。
【0051】
電気泳動法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を導電性基材上に付着させる手順の具体例としては、例えば以下の手順が挙げられる。すなわち、用意したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含む分散スラリーを用意する工程と、このスラリーを溶媒に添加し、電気泳動用の溶液を用意する工程と、この溶液にロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の表面に電荷を付与する化合物を添加する工程と、得られた溶液に導電性基材を浸漬させる工程と、この導電性基材間に電圧を印加する工程とを含む手順を用いることができる。
【0052】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含むスラリーの調製
本発明による製造方法に用いられるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含むスラリーは、一次粒子径が100nm以下であるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を溶媒中に分散可能な任意の湿式分散法を用いて調製することができる。このような湿式分散法としては、機械混練および手動混練等の混練法;ボールミル、ビーズミルおよび遊星型ミル等の機械的ミリング法;超音波照射;撹拌を好適に用いることができる。
【0053】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を分散可能な溶媒としては、有機溶媒および水性溶媒のいずれも用いることができる。有機溶媒の具体例としては、10V程度の電圧印加によっても、電気分解しない溶媒が好ましく、例えばアセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、α―テルピネオール等の有機ビヒクル溶剤を用いることができる。水性溶媒の具体例としては、水、水溶性有機溶媒を用いることができる。水性溶媒として水を用いる場合は、電気分解により水素と酸素が生成し、生成した水素と酸素がロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子間に存在するため、粒子間に空隙が形成され、スラリーを多孔質な状態とすることが可能である。その結果、スラリー中のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子同士の凝集を抑制することができる。
【0054】
また、溶媒に分散剤を添加してもよい。溶媒として有機溶媒を用いる場合に添加可能な分散剤としては、ポリビニルブチラール、エチルセルロース等のビヒクル系バインダー高分子を用いることができる。また、水性溶媒を用いる場合に添加可能な分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、トリブロックコポリマー(例えば、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド)等を用いることができる。
【0055】
このようにして、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の溶媒中での分散性を向上させることが可能となる。このようにして、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が一次粒子に近い形態で均一に分散し、安定に混合されて存在してなる状態を実現することが可能となる。その結果、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子同士の凝集を抑制することができる。従って、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が互いに近い距離で存在でき、導電性基材への付着、これに次ぐ焼成の際または後に、溶媒成分が揮発することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が高密度に接触可能な光触媒材を得ることができる。
【0056】
電気泳動用溶液の調製
本発明による製造方法に用いられる電気泳動用溶液は、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を分散させたスラリーを溶媒に添加して調製する。溶媒としては、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含むスラリーの調製時にこの粒子を分散可能な溶媒として上述したものを用いることができる。
【0057】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウムの濃度
電気泳動用溶液に含まれるロジウムドープチタン酸ストロンチウムの濃度は0.01〜50重量%であることが好ましく、0.1〜20重量%であることがより好ましい。この濃度範囲とすることで、帯電した電極(導電性基材)表面と、溶液に含まれる帯電したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子との相対的な距離を近づけることが可能となる。これにより、十分なロジウムドープチタン酸ストロンチウム泳動粒子の量を確保でき、電極表面での粒子の付着・堆積を十分なものとすることが可能となる。また、電気泳動用溶液の粘性を制御することができ、すなわち溶液中での粘性抵抗を低くし、帯電したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が泳動し易くすることが可能となる。ここで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム濃度とは、下記式により定まるものである。
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム濃度(重量%)=(溶液に含まれるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の重量)÷(溶液の総重量)×100
【0058】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子への電荷付与
本発明による製造方法に用いられる電気泳動用溶液には、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の表面に電荷を付与する化合物が添加される。これにより、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の表面が帯電状態となって、表面電荷を有することで、反対電荷を有する電極への静電気力による泳動が可能となり、電気泳動法にて粒子を電極上に移動させることができる。電荷を付与する化合物としては、ハロゲン分子を好ましく用いることができる。ハロゲン分子としては、ヨウ素あるいは臭素を好ましく用いることができる。
【0059】
導電性基材
本発明による製造方法に用いられる基材は、電気泳動法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が付着・堆積し得るものでなければならないため、導電性を有するものでなければならない。このような基材としては、金属、あるいは基材自体が導電性を有するものでない場合には、その表面に導電性を付与する薄膜を設けることにより導電性とされたものでもよい。例えば、導電膜が表面に付与されたガラスあるいは樹脂(PET、PEN、ポリイミド等)等を好ましく用いることができる。また、導電膜としては、公知の導電膜を制限なく用いることができるが、例えば基材の光触媒層が担持された側の反対側から可視光を照射して水の光分解を行う場合や、基材の周囲全体にわたって光触媒層が固定化されているような場合は、導電膜は透明であることが好ましい。ここで、透明導電膜としては、フッ素ドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、ニオブドープ酸化チタン、タンタルドープ酸化チタン等が挙げられ、好ましくは、フッ素ドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウムが挙げられる。また、金属としては、チタン、アルミニウム、ステンレス等が用いられ、好ましくは、チタン又はアルミニウムが用いられる。また、基材の形状としては、特に制限はないが、平板状、ファイバー状、メッシュ状等を挙げることができる。
【0060】
印加電圧
電気泳動法において印加する電圧は、1V以上20V以下であることが好ましく、さらに好ましくは5V以上15V以下である。これにより、溶媒の電気分解が起こらず、しかもスラリー中の荷電粒子を基板表面に堆積させるために十分な電位差を確保することができる。また、電圧付加装置としては、電極間に所望の電位差を付与できるものであれば、特に制限されずに用いることができるが、ポテンシオスタット、直流電圧発生器、エレクトロメータ等を好ましく用いることができる。
【0061】
また、電圧を印加する時間は、10秒〜30分が好ましい。これにより、電極上に十分な量の光触媒粒子を付着・堆積させることが可能となる。また、電気泳動の際の電気泳動用溶液の温度は、用いる溶媒の沸点を考慮して制御することが可能であるが、10〜80℃であることが好ましい。
【0062】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の基材への固定化
焼成
本発明による製造方法にあっては、乾燥させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体を次に焼成する。これにより、基材上に付着・堆積したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体を、この基材上に強固に密着させる。焼成温度は、溶媒や分散剤等の加熱分解温度以上であり、さらに、基材とロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子同士の焼結が促進可能な温度であることが好ましい。具体的には、200℃以上700℃以下であり、より好ましくは、300℃以上600℃以下である。この範囲の温度で焼成することで、基材とロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の反応による不純物の生成や、密着力不足による粒子の集合体の強度低下を抑制することが可能となる。また、基材と粒子の密着性が高く、粒子間の結着性の高い、光触媒材を得ることが可能となる。その結果、可視光照射下で長期間安定した水分解による水素生成が可能な光触媒材を得ることが可能となる。また乾燥時間は5分〜10時間であることが好ましい。
【0063】
乾燥
本発明による製造方法にあっては、電気泳動法によって基材に付着・堆積させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体を、焼成する前に、場合により加熱して、乾燥させることが好ましい。これにより、電気泳動に用いた溶媒の蒸発を促進することができ、乾燥後に行われる焼成により安定な粒子の集合体とすることが可能となる。乾燥温度は10〜120℃の低温であることが好ましい。
【0064】
光触媒材
本発明による製造方法により得られる光触媒材は、基材と、当該基材上に固定化されてなる一次粒子径が100nm以下であるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含んでなるものである。この光触媒材に担持された光触媒は、一次粒子径の小さい微細な構造のロジウムドープチタン酸ストロンチウムを含み、これら微細粒子が集合して形成された集合体として存在する(以下「光触媒層」ともいう。)。このため、この光触媒層の空隙率は高くなり、すなわち多孔質度は高くなり、光触媒層の比表面積は大きくなる。その結果、元々高い光触媒活性を有するロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が集合して形成された光触媒層の光触媒活性は低くならない活性が発揮される。
【0065】
また、本発明による製造方法により得られる光触媒材は、一次粒子径の小さい微細な構造のロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が集合して形成されてなるものであるため、この粒子と基材との接触面積は大きくなる。これにより、基材と光触媒層との密着性が高い光触媒材を得ることが可能となる。
【0066】
また、本発明による製造方法により得られる光触媒材は微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体であるため、粒子同士の結着性は良好である。その結果、粒子は均一性をもって光触媒層を形成することが可能となる。また、このように形成された光触媒層は、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が堆積した厚みのある状態となることが可能である。
【0067】
このような光触媒層の状態としては、基材表面に光触媒粒子が存在していれば、完全な膜状に加え、例えば、部分的に膜状になっている状態も包含する。また、光触媒層は基材表面上に島状に離散して存在していてもよい。また、光触媒層はいわゆる膜の状態に加え、波状、くし型状、ファイバー状、メッシュ状などの状態であってもよい。本発明において「光触媒層」とは基材上に上記したような状態で存在する光触媒粒子の集合体を意味する。
【0068】
本発明による製造方法により得られる光触媒材に担持される光触媒層の厚みは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。より好ましい光触媒層の厚みは0.2μm以上30μm以下である。
【0069】
また、本発明による製造方法により得られる光触媒材は、微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体を担持していることにより、これら微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子と基材との単位面積当たりの接触点が極めて多い。これにより、基材−粒子間、および粒子−粒子間の機械的強度が良好となり、基材とロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子との密着性、およびロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子間の結着性を高めることが可能となる。これにより、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が基材から脱離したり、基材上に偏析したりすることを抑制することが可能となる。その結果、本発明による製造方法により得られる光触媒材は、長期に安定した水素製造機能を維持することが可能である。
【0070】
本発明による製造方法により得られる光触媒材に担持される、微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の集合体は、粒子間空隙が細孔を形成した多孔質度の高い構造を有することで、膜外からの水の効率的な膜中への拡散と、膜中で生成した水素と酸素の膜外への脱離を可能とする。これにより、光触媒材は、高い効率で水分解反応による水素の高効率な生成が可能となる。本発明の好ましい態様によれば、本発明による製造方法により得られる光触媒材の細孔径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明において光触媒層の細孔径とは、光触媒層に含まれる光触媒粒子間に存在する細孔の細孔直径を意味する。この細孔径は、窒素ガス吸脱着による細孔分布測定により測定可能であり、BJH法による解析により求められる。具体的には、例えば、ガス吸着細孔分布測定装置(“BELSORP−mini”、日本ベル製)を用いて、窒素ガスの吸脱着等温線測定を行い、BJH法による解析により細孔直径を得る。得られた細孔直径に対するLog微分細孔容積をプロットすることにより、細孔容積分布を得る。この細孔容積分布において、ピーク位置の細孔直径を、細孔径とする。
【0072】
本発明による製造方法により得られる光触媒材断面の模式図を
図1に示す。
図1において、光触媒材は、導電性基材3上に、微細なロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子1の集合体からなる、粒子間空隙2および膜厚4を有する光触媒層が固定化されている。
【実施例】
【0073】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1〜4
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の合成
20mLガラス製サンプル管瓶にアセチルアセトン(和光純薬製)0.02mol(2.003g)を添加し、室温で撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬製)0.02mol(5.684g)を添加して、黄色の水溶性チタン−アセチルアセトン錯体を含む溶液を調製した。この水溶性チタン−アセチルアセトン錯体を含む溶液を、0.32mol/Lの酢酸水溶液50mLに、室温で攪拌しながら添加した。添加後、室温で約1時間攪拌を行い、更に60℃で約1時間撹拌を行うことで、黄色透明な水溶性チタン錯体を含む水溶液を調製した。
【0075】
次いで、上記で調製した水溶性チタン錯体を含む水溶液を10g分取した(Ti含有量:3.41mmol)。また、高温焼成中に、昇華性のあるストロンチウムが減少するのを補償するために、SrがTiに対して1.07倍のモル量となるように、酢酸ストロンチウム・0.5水和物(和光純薬製)3.75mmol(0.84g)と、乳酸(和光純薬製)0.70gを蒸留水3.16gに溶解したSr含有水溶液を作製した。次に、分取した水溶性チタン錯体を含む水溶液に、Sr含有水溶液を徐々に添加した。さらに、Tiに対してRhが0.02mol%となるように、三塩化ロジウム(和光純薬製)5wt%水溶液を徐々に添加した後、室温で3時間撹拌を行った。これにより、橙色透明な2mol%ロジウムドープチタン酸ストロンチウム前駆体となる水溶液を得た。
【0076】
さらに、前記水溶液に、焼成後に得られるロジウムドープチタン酸ストロンチウムの重量に対して、重量比で5倍の固形分となるように、アクリル−スチレン系O/W型エマルジョン(DIC製、“EC-905EF”、分散粒子径150nm、pH:9、固形分濃度50wt%)を添加し、分散体を調製した。
【0077】
以上のように調製した分散体を、80℃で1時間乾燥させた後、500℃で2時間焼成した。ガラス基板から粉末を回収し、更に、1000℃で10時間焼成することで、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末を得た。走査型電子顕微鏡(S-4100、日立製作所製)観察により、このロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末は、一次粒子径が約50nmの微粒子からなる多孔質構造を有するものであることが確認された。
【0078】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子への助触媒の担持
得られたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含む粉末1gを、助触媒原料となる塩化白金酸・六水和物(和光純薬製)を1wt%含む水溶液1.32gに添加した後、超音波照射により懸濁分散させた。その後、この分散液を乳鉢を用いて30分間混練し、水を乾燥させつつ濃縮することで、ペースト状にした。その後、このペーストを室温で2時間乾燥させて、粉末を回収した後、400℃で30分大気焼成することで、助触媒として白金を0.5wt%担持したロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を作製した。
【0079】
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含む分散スラリーの作製
助触媒を担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を、遊星ミルを用いて、溶媒中に高分散させたスラリーを作製した。具体的には、高速遊星型ボールミル装置(フリッチュ製、“Premium Line P-7”)を用いて、ジルコニア被覆容器(内容量45ml)中に、助触媒を担持させたロジウムドープチタン酸ストロンチウム微粒子粉末、及び0.1mmφジルコニアビーズをそれぞれ1gずつ、そして、エタノール4gを入れて、700rpmで30分ミリング処理を行った。次に、樹脂製篩を用いて、処理後のスラリー液を減圧ろ過することにより、そしてジルコニアビーズを回収することにより、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が分散したスラリー(固形分20wt%)を得た。
【0080】
電気泳動法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が基材に固定化された光触媒材の作製
電気泳動法によるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の固定化は、次の手順で行った。まず、100mLビーカー中で、前記ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子を含む分散スラリーをアセトンに添加し、電気泳動用の溶液を調製した。この際、溶液に含まれるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の濃度が表1に示す濃度となるように、全体で50mLの各電気泳動用反応液(実施例1〜4)を調製した。更に、粒子表面に電荷を付与する目的で、この溶液にヨウ素10mgを添加し、1分間超音波分散した。
【0081】
そして、FドープSnO
2膜付きガラス(以下、「FTO基板」ともいう。AGCファブリテック製“U膜”、基板厚:1mm、シート抵抗:15Ω/□、サイズ:5×5cm)を2枚、導電面を対向させた状態で、電極取り出し部が1×4cmとなるように、ビーカー中に浸漬させた(電極間距離:1cm)。
【0082】
そして、2枚のFTO基板を、ポテンショスタットの端子(+、−)でつなぐことで2極式の電解セルとし、10Vを両極間に印加させることで、3分間、分散粒子の電気泳動を行った。さらに、電気泳動後の基板を反応液から取り出して、室温で1分、80℃で30分乾燥させた後、450℃で30分焼成して、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる光触媒層が基板に固定化された各光触媒材(実施例1〜4)を作製した。
【0083】
比較例1および2
ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の合成
固相反応法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウムを作製した。具体的には、炭酸ストロンチウム(関東化学製)、酸化チタン(添川理化学製、ルチル型)、および酸化ロジウム(Rh
2O
3:和光純薬製)の各粉末を、Sr:Ti:Rh=1.07:1−x:x(x:ロジウムドープ比率=0.02)のモル比率となるように混合した。その後、得られた混合粉末を1000℃で10時間焼成し、ロジウムドープチタン酸ストロンチウム粉末を作製した。走査型電子顕微鏡(S-4100、日立製作所製)観察により、このロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子からなる粉末は、一次粒子径が約500nmの微粒子からなる多孔質構造を有するものであることが確認された。
【0084】
得られた上記粒子粉末を用い、電気泳動用溶液に含まれるロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子の濃度を表1に示す濃度とした以外は、助触媒の担持、分散スラリーの作製、及び電気泳動法による光触媒材の作製の手順は実施例と同様の方法で、各光触媒材(比較例1、2)を得た。作製した光触媒材の作製条件および特性を表1に示す。
【0085】
電気泳動法によりロジウムドープチタン酸ストロンチウム粒子が基材に固定化された光触媒材の微細構造
上記実施例4で作製した光触媒材の表面および断面の走査型電子顕微鏡観察による写真をそれぞれ
図2および
図3に示す。
図2から、多孔質な膜構造が得られていることが確認された。
【0086】
走査型電子顕微鏡観察による光触媒材の膜厚の測定
得られた各光触媒材断面の走査型電子顕微鏡観察による写真(倍率:2000倍)から、膜厚を測定した。なお、ここで膜厚は、基板表面から光触媒層の最上部までの距離として測定した。実施例4では、
図3より9μmの多孔質な光触媒層が得られていることが確認された。実施例4以外の各光触媒材の膜厚は表1に示されるとおりであった。
【0087】
光触媒層と基材との密着試験
実施例1〜4および比較例1、2の各光触媒材において、基板上に製膜された光触媒層上にメンディングテープ(住友3M製、厚み63μm)を張り付けて、テープを剥離するテープ剥離試験により、基板と光触媒層との密着性を評価した。評価方法は以下の通りとした。すなわち、メンディングテープを光触媒層上に張り付け、指の腹でテープを押しつけながら指を5往復摺動させた。10秒後に、テープを一気に剥離させた。なお、判定基準は以下のとおりとした。
○:テープ剥離後、基材に光触媒層が残存していた
×:テープ剥離後、基材から完全に光触媒層が剥離された
【0088】
その結果、実施例1〜4の各光触媒材では、テープ剥離後も、チタン基板上に光触媒層が残存しており、強固な基板密着性が確認されたが、比較例1、2の各光触媒材では、完全に光触媒層が基板から剥離し、脆弱な基板密着性であることが確認された。
【0089】
光触媒材の水分解による水素発生活性
パイレックス(登録商標)製窓付きのセパラブルガラスフラスコに、作製した各光触媒材を導入し、犠牲試薬としてメタノール10vol%を含む水溶液200mlを入れて、反応溶液とした。そして、この反応溶液を入れたガラスフラスコを閉鎖循環装置に装着し、反応系内の雰囲気をアルゴン置換した。そして、UVカットフィルター(L−42、HOYA製)を装着した300Wキセノンランプ(Cermax製、PE−300BF)により、可視光をパイレックス(登録商標)製窓側から照射した。そして、光触媒反応により、水が還元されて生成する水素の発生量を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC−8A、TCD検出器、MS−5Aカラム)により経時的に調べ、照射開始後、3時間評価を行った。
【0090】
その結果は表1に示されるとおりであった。実施例1〜4の光触媒材では、可視光照射による水分解反応により、水素が良好に発生していることが確認された。さらに、3時間の評価後も、光触媒層は基板上に初期と同様に固定化されていることが確認された。一方、比較例1、2のサンプルでは、可視光照射による水素の発生はほとんどみられず、3時間の評価後にサンプルの状態を確認したところ、光触媒層が基板上にほとんど残存しておらず、光触媒層は評価中に基板から剥離した後、評価溶液中に拡散していったことが確認された。
【0091】
【表1】