(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変換部は、前記第2供給路と前記主還流路との間で熱交換を行う熱交換器を有し、前記熱交換器において、前記再生部で再生された吸収液の熱を前記第2供給路のスラリー状の吸収液に供給して加温する請求項3に記載の二酸化炭素の回収装置。
前記再生部は、前記溶液状の吸収液を加熱するためのリボイラーを有し、前記変換部は、前記リボイラーから排出される廃熱を利用して前記スラリー状の吸収液を加温する熱交換器を有する請求項1〜3の何れか1項に記載の二酸化炭素の回収装置。
前記再生部は、前記溶液状の吸収液から放出される二酸化炭素を外部へ排出する排気管を有し、前記変換部は、前記排気管を通じて排出される二酸化炭素に含まれる排熱を利用して前記スラリー状の吸収液を加温する熱交換器を有する請求項1〜3の何れか1項に記載の二酸化炭素の回収装置。
前記吸収工程へ導入される吸収液の前記吸収剤の濃度は、前記吸収工程の温度において前記炭酸塩の析出物が飽和濃度で溶解する水溶液における前記吸収剤の濃度を超え、前記析出物は前記吸収剤の炭酸塩であり、前記析出物の形成によって前記吸収液は懸濁液状になる請求項7に記載の二酸化炭素の回収方法。
前記吸収工程において前記ガスと接触する吸収液は、30質量%を超える高濃度で前記吸収剤を含有し、更に、前記固液分離工程で固液分離された溶液状の吸収液を、前記再生工程で二酸化炭素を放出した吸収液と共に前記吸収工程へ供給する還流工程を有する請求項7又は8に記載の二酸化炭素の回収方法。
前記吸収液は、前記吸収剤を単独で、又は、前記吸収剤と吸収促進剤とを組み合わせて含有し、前記吸収促進剤の濃度は、吸収液の0〜35質量%であり、前記吸収液に溶解する吸収剤は、式:N(R1)(R2)-C(R3)(R4)-CH2OH で表されるエタノールアミン又は置換エタノールアミン化合物(式中、R1〜R4は、各々、水素原子、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状飽和炭化水素基、及び、アミノ基又は水酸基を有する炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状飽和炭化水素基の何れかであり、同一でも異なっても良い。)であり、前記吸収促進剤は、ヘテロ元素として少なくとも1つの窒素を含む複素環を骨格として有する環状アミノ化合物である請求項7〜9の何れか1項に記載の二酸化炭素の回収方法。
前記吸収剤は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)、2−(イソプロピルアミノ)エタノール(IPAE)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン、2−(メチルアミノ)エタノール(MAE)、2−(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2−(プロピルアミノ)エタノール(PAE)、N−エチル−2−アミノ−2−メチルプロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、1,1’−イミノジ(2−プロパノール)(DIPA、ジイソプロパノールアミン)及びトリエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種の直鎖状又は分岐状アミノ化合物であり、前記吸収促進剤は、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピロリン、ピロール、2H−ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、2H−アゼピン、インドール、イソインドール、1H−インダゾール、インドリン、イソインドリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、プリン、プテリジン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、モルフォリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)、ドデカヒドロ−1,4,7,9b−テトラアザフェナレン、キヌクリジン、3−メチルピリジン、2−メチルピラジン、2−(メチルアミノ)ピペリジン(2AMPD)、2−メチルピペラジン、2−(アミノメチル)ピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−(β−ヒドロキシエチル)ピペラジン、4H−4,7−ジアザインダン−1,3−ジオン、2−メチルイミダゾール及び2−エチル−4−メチルイミダゾールからなる群より選択される少なくとも1種の環状アミノ化合物である請求項10に記載の二酸化炭素の回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
化学吸収法による二酸化炭素の回収において有機系吸収剤として用いられるアミノ化合物は、主として、アルカノールアミン等の水酸基を有する水溶性アミノ化合物であり、従来のアミン吸収法における吸収液は、吸収剤が水に溶解した溶液状体が常に維持される。アミン吸収法に利用可能な様々なアミノ化合物について調べたところ、吸収剤濃度を高めた吸収液においては、二酸化炭素の吸収により炭酸塩を形成した吸収剤が懸濁液状に析出し得ることが確認された。つまり、有機系吸収剤を用いた化学吸収法においても、無機系吸収剤による吸収法と類似の手法で、吸収剤の炭酸塩を析出させて濃縮分離し、再生用の熱エネルギーを集中的に析出塩に供給することが可能である。有機化合物は、概して無機化合物より融点が低いので、有機系吸収剤の炭酸塩から二酸化炭素を放出させて再生する際の加熱温度は、無機系吸収剤の場合のような高い温度は必要とせず、従来のアミン吸収法における再生時の加熱温度と同様又はそれ以下に抑えることが可能である。又、化学吸収法においては、再生後の高温の吸収液から熱を回収して再生前の吸収液に供給するために、再生工程前後の吸収液間において熱交換が行われ、この熱交換における回収熱量は、従来のアミン吸収法では、温度を上昇させる顕熱のみであるが、吸収剤の炭酸塩析出物の場合は、熱交換時の加熱で析出塩が融解するので、析出塩の融解熱と温度を上昇させる顕熱との総量として回収される。再生工程において加熱される吸収液は、スラリー状の炭酸塩析出物が融解した極めて高濃度の吸収剤溶液であり、水量が少ないので、水蒸気の気化による潜熱損失を抑制可能であり、再生工程における熱の利用効率の向上が可能である。従って、有機系吸収剤を用いて炭酸塩が析出する形態で二酸化炭素の回収を行うと、熱エネルギーの利用効率及び回収効率において優れた処理系を構成可能である。
【0016】
本発明では、上記のような知見に基づき、有機系吸収剤の炭酸塩が吸収液から析出するように高濃度で吸収剤を含有する吸収液を調製し、これを用いて二酸化炭素の回収を行う。二酸化炭素の吸収工程において吸収剤の炭酸塩が析出して懸濁状態となった吸収液は、吸収剤の炭酸塩析出物が濃縮したスラリー状の吸収液と、析出物が減少した溶液状の吸収液とに分離し、スラリー状の吸収液を加熱により再生した後に、溶液状の吸収液と共に再度二酸化炭素の吸収に使用する。
【0017】
本発明において使用する吸収液は、吸収剤の炭酸塩が吸収液から析出する点において従来のアミン吸収法のものとは異なる。このような吸収液の調製条件は、
図1のグラフを参照することにより理解できる。
図1は、吸収剤の濃度が異なる吸収液を用いて、吸収液が二酸化炭素を吸収した際に吸収液から吸収剤の炭酸塩が析出し始める析出点(つまり吸収剤の炭酸塩の飽和点)における二酸化炭素吸収量(アミノ基当たり)と吸収液の温度との関係を調べて作成した析出境界線を示すグラフであり、吸収剤として2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)を用いている。グラフから明らかなように、吸収液に吸収された二酸化炭素量が析出境界線を超えると吸収剤の炭酸塩[(AMPH
+)
2CO
2、以下、アミン炭酸塩と称する]が析出するが、液温が上昇すると析出点における二酸化炭素吸収量が増加する。つまり、アミン炭酸塩は、液温が高いと溶解性が高くなり、析出し難くなる。特に、アミン吸収法において一般的に使用される吸収剤濃度の吸収液では、従来法における二酸化炭素の吸収工程における液温である20〜50℃付近においてアミン炭酸塩の溶解性が急激に高まるので、二酸化炭素の吸収によるアミン炭酸塩の安定的な析出は望み難い。しかし、吸収剤濃度が30質量%を超えると、アミン炭酸塩の溶解性が高まる温度域は高温側に移動し、20〜50℃程度におけるアミン炭酸塩の溶解性は比較的安定するので、二酸化炭素の吸収工程において吸収液からアミン炭酸塩を適確に析出させることが可能となる。従って、上記知見から、本発明において使用する吸収液は、吸収剤濃度が高い吸収液、具体的には吸収剤濃度が30質量%を超える濃度、好ましくは35質量%程度以上、より好ましくは40〜75質量%程度の吸収液であり、処理対象とするガスに含まれる二酸化炭素量や処理速度等に応じてこのような範囲内で適宜設定すると良い。吸収工程における液温が50℃程度以下、好ましくは40℃程度以下となるように調節すると、二酸化炭素を吸収した吸収液から吸収剤の炭酸塩を好適に析出させることが可能である。
【0018】
本発明において使用可能な吸収剤は、上述のAMPに限定されず、
図1と同様の析出境界線が得られ、吸収工程の温度において吸収液から蒸散しないアミン化合物を吸収剤として使用可能である。具体的には、水酸基を有する水溶性アミノ化合物であるアルカノールアミンであって、遊離体としての水への溶解度が40℃において30質量%以上(全量に対する溶質の割合)で、二酸化炭素と形成する析出物(炭酸塩)の状態での溶解度が100℃において15質量%程度以下となるアルカノールアミンを好適に使用することができ、このようなアルカノールアミンは
図1のような析出境界線を示す。アルカノールアミンの水溶性は、分子量や官能基数等によって異なるが、一般式:N(R
1)(R
2)-C(R
3)(R
4)-CH
2OH で表されるエタノールアミン又は置換エタノールアミン化合物(式中、R
1〜R
4は、各々、水素原子、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状飽和炭化水素基、及び、アミノ基又は水酸基を有する炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状飽和炭化水素基の何れかであり、同一でも異なっても良い。)は、概して上述の条件に合致し、AMPと同様に二酸化炭素の吸収による析出が可能である。水溶性の観点からは、炭素数が10以下、好ましくは5以下のアルカノールアミンが好ましく、pKa値の高さでは、アミノ基数及び水酸基数の和が3以下であり、pKa値が8.5程度以上であると好適である。具体的には、吸収剤として使用可能なAMP以外のアルカノールアミンとして、例えば、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)、2−(イソプロピルアミノ)エタノール(IPAE)、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン、2−(メチルアミノ)エタノール(MAE)、2−(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2−(プロピルアミノ)エタノール(PAE)、N−エチル−2−アミノ−2−メチルプロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、1,1’−イミノジ(2−プロパノール)(DIPA、ジイソプロパノールアミン)、トリエタノールアミン等の直鎖状又は分岐状アミノ化合物が挙げられる。上述のような化合物から1種又は2種以上を選択して、吸収剤として使用可能である。
【0019】
上述のような吸収剤が水に溶解した吸収液は、吸収促進剤を共存させると、二酸化炭素の吸収を促進可能であり、それにより、吸収剤の炭酸塩を効率的に析出させることが可能である。つまり、本発明における吸収液は、上述のような吸収剤を単独で含有するもの、及び、吸収剤と吸収促進剤とを組み合わせて含有するものの何れであっても良い。本発明における吸収促進剤は、吸収液に吸収される二酸化炭素と反応して下記の式(1)に示すようにカルバメートを生成するアミノ化合物である。カルバメート生成反応の進行によって生成するプロトンは、吸収剤に受容されてそのアミノ基のイオン化を促進し、吸収剤の炭酸塩形成を促進する。これに伴って、カルバメートからの炭酸脱離が進行して吸収促進剤はカルバメートからアミン状態に戻る。従って、吸収促進剤は、アミン状態とカルバメート状態とを交互に移行する反応サイクルの繰り返しによって、吸収剤へのプロトン供与及び炭酸供給を促進する(これらの変化は、NMRスペクトル分析等によって確認できる)。
【0021】
上述のような吸収促進剤として使用可能なアミノ化合物は、ピペラジン(PZ)のような、ヘテロ元素として少なくとも1つの窒素を含む複素環を骨格として有する含窒素化合物であり、複素環を構成する少なくとも1つの窒素原子は、末端が自由な置換基を有さない(つまり、窒素元素には環を構成する置換基又は水素が結合する)。換言すれば、アミノ基又はイミノ基を環構成要素とする環状アミノ化合物であり、第2アミン又はイミンの窒素に結合する2つの置換基によって環が構成される構造、或いは、第3アミンの窒素に結合する3つの置換基によって架橋環が構成される構造の化合物に相当する。環構造によって窒素上の置換基の立体配置が規制されて窒素原子の孤立電子対が二酸化炭素と反応し易くなり、カルバメート生成及び脱離が容易で、二酸化炭素の吸収速度の促進効果を発揮し易い。環状アミノ化合物の複素環構造は、単環、縮合環、及び、窒素原子上での架橋環の何れでも良く、また、窒素以外のヘテロ原子、二重又は三重の不飽和結合を有してもよく、従って、複素環は脂環式炭化水素でも芳香性を示す環であってもよい。また、複素環を構成する窒素以外の原子の1つ以上に、置換基として、炭素数1〜10、好ましくは1〜5の脂肪族炭化水素基が結合してもよく、複数の置換基が互いに結合して縮合環を構成してもよい。但し、環構造において窒素に隣接する2つの原子が共に嵩高い置換基(芳香族基、t−アルキル基のような分岐基等)を有すると立体障害を生じるので、窒素に隣接する原子に結合する置換基を有する場合は、直鎖状基のような立体障害が少ないものが好ましい。上記置換基は、環状アミノ基のカルバメート化を阻害しない特性基を有してもよく、そのような特性基として、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、エーテル結合、シアノ基が含まれ得る。
【0022】
上述の環状アミノ化合物の具体例として、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピロリン、ピロール、2H−ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、ホモピペラジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、2H−アゼピン、インドール、イソインドール、1H−インダゾール、インドリン、イソインドリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、プリン、プテリジン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、モルフォリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)、ドデカヒドロ−1,4,7,9b−テトラアザフェナレン、キヌクリジン等の複素環化合物及びこれらを骨格として上述の置換基を有する置換複素環化合物、並びに、これらの誘導体があり、置換基を有する複素環化合物の例として、例えば、3−メチルピリジン、2−メチルピラジン、2−(メチルアミノ)ピペリジン(2AMPD)、2−メチルピペラジン、2−(アミノメチル)ピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−(β−ヒドロキシエチル)ピペラジン、4H−4,7−ジアザインダン−1,3−ジオン、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。このような化合物から1種又は2種以上を選択して、吸収促進剤として使用可能である。水に対する溶解度(40℃)が0〜35質量%程度(但し、0を除く)のものを使用することができ、実用的には5〜15質量%程度の溶解度のものが好ましい。水溶性の観点では、脂肪族単環構造のものや水酸基を有する芳香族環構造のものが好適であり、適用性の広さでは、窒素原子数(つまり、アミノ基又はイミノ基の数)が2以上であると好適である。このような点において、ピペラジンは特に適している。
【0023】
上述のような吸収促進剤は、炭酸塩として析出し難いが、吸収促進剤自体が吸収液から分離することは望ましくないので、吸収促進剤の溶解度以下となる濃度範囲で使用し、概して、吸収液の0〜35質量%程度、好ましくは5〜15質量%程度となる範囲で吸収液に配合すると好適である。アミノ基について吸収剤の0〜0.5モル当量程度になるように吸収促進剤の割合を設定すると好適である。吸収促進剤を吸収剤と組み合わせて用いることによって、吸収液の二酸化炭素吸収速度が格段に速まって、吸収性能(つまり、所定接触時間における吸収量)が向上する。本発明においては、二酸化炭素の吸収によって吸収液から吸収剤の炭酸塩が析出して吸収液中の吸収剤濃度が低下し、それにより析出点は二酸化炭素吸収量が高い方へ移動するので、吸収促進剤による吸収促進効果は、析出物を効率的に生成する上で非常に有用である。
【0024】
吸収液は、本発明の有効性を阻害しない範囲において、上述の吸収剤及び吸収促進剤に該当しないその他のアミノ化合物を添加剤として含有してもよい。そのような化合物として、例えば、ジグリコールアミン等のアミノポリオール類などが挙げられ、これにより吸収速度の改善が可能であり、0〜35質量%となる範囲で添加するとよい。又、必要に応じて、アルコール又はポリオール類等の親水性溶剤や他の各種添加剤を配合しても良い。
【0025】
上述のように調製される吸収液を用いて二酸化炭素の回収方法を実施する際の吸収液の状態変化は、例えば、
図2のように示すことができる。
図2は、AMP濃度が50質量%の水溶液(図中の点S0に相当、つまり、吸収液の吸収剤濃度は飽和濃度以下)を吸収液として用いて二酸化炭素を吸収させ、吸収工程終了時の液温が40℃である場合を想定している。吸収工程において、吸収液中の二酸化炭素量が増加すると、40℃の温度においては約0.23mol-CO
2/mol-amineにおいて析出境界線に達して析出が始まり、析出境界線より高濃度に二酸化炭素を吸収すれば、吸収剤の炭酸塩が析出した懸濁液状となる。吸収工程終了時に吸収液の二酸化炭素吸収量が0.45mol-CO
2/mol-amineであるとすると(図中の点S1)、吸収液から析出する吸収剤の炭酸塩は、図中の点S2(0.5mol-CO
2/mol-amine)に相当するので、炭酸塩の析出によって吸収液に溶解する吸収剤の濃度は低下して、析出点(飽和点)は、濃度50質量%の場合の析出点より二酸化炭素吸収量が高い側へ移行して、溶解/析出平衡における吸収液の溶液部分の状態は図中の点S2’(この図では、吸収剤濃度が約35質量%における析出点に相当)で示される。懸濁液状の吸収液を固液分離してスラリー状の吸収液(含水率:20質量%程度)と溶液状の吸収液とに分離し、スラリー状の吸収液を100℃付近に加熱する(図中の点S3に相当)と、吸収剤濃度が80質量%における析出境界線より溶解側になり、スラリー中の水に析出物が溶解して溶液状の吸収液となり、二酸化炭素の解離及び放出が始まる。更に、温度を110℃超に上げて放出を促すと、吸収液中の二酸化炭素量は著しく減少する(図中の点S4に相当)。再生された点S4の吸収液を、固液分離によって分離した点S2’の溶液状態の吸収液と合わせると、吸収液の状態は、40℃の温度においては図中の点S5の状態となる。このようにして、吸収工程、固液分離及び再生工程を繰り返すことによって、吸収液の状態は、点S1〜S5のサイクルに沿って変化する。吸収工程終了時の吸収液の温度を40℃より低くすると、吸収剤の炭酸塩の飽和濃度が低下して析出量が増加するので、点S2’も二酸化炭素吸収量が低い側へ移行する。
【0026】
上述のような吸収液を用いて二酸化炭素の回収方法を実施する回収装置について、図面を参照して以下に説明する。
【0027】
図3は、本発明に係る二酸化炭素の回収方法を実施する回収装置の第1の実施形態を記載する。回収装置1は、吸収液をガスと接触させてガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収部である吸収塔10と、析出物が形成された吸収液A1をスラリー状の吸収液A2と析出物が減少した溶液状の吸収液A3とに分離する分離部として機能する分離器20と、吸収液を加熱し二酸化炭素を放出させて吸収液を再生する再生部である再生塔30とを有し、分離器20によって分離されたスラリー状の吸収液A2は、後述する変換部によって溶液状の吸収液に変換された後に再生塔30において再生される。再生塔30で再生された吸収液A4、及び、分離器20で分離された溶液状の吸収液A3は、吸収塔10へ還流されて吸収処理において再度使用される。回収装置1において使用する吸収液は、前述したように、吸収剤として二酸化炭素に親和性を有するアミノ化合物が溶解した水性液であり、吸収剤としてのアミノ化合物は、具体的にはアルカノールアミンであり、吸収液質量の30質量%を超える高濃度で含有され、更に、吸収促進剤として環状アミノ化合物を吸収液の35質量%以下の割合で含有してもよい。回収装置1に供給されるガスGについては二酸化炭素を含有する点以外に特に制限はなく、概して、二酸化炭素分圧が0〜50kPa程度(但し、0を除く)のガスについて適用可能で、とりわけ1〜15kPa程度のガスについて好適に適用でき、燃焼排ガスやプロセス排ガスなどの様々なガスの取扱いが可能である。尚、ガスGの温度が高い場合は、ガスを適正な温度に冷却するための前処理塔を設けて、ガスGを予め前処理塔で30〜40℃程度に冷却した後に、吸収塔10へ供給するとよい。
【0028】
吸収塔10及び再生塔30は向流型気液接触装置として構成され、気液接触部11,31を各々内部に有する。吸収塔10の気液接触部11は、接触面積を大きくするための充填材を装填した充填層や、流動接触用の複数のトレイを用いた棚段、液滴状で気液接触させるための噴霧器などの形態に構成可能である。析出物による吸収液の流動性低下や目詰まり等を考慮すると、棚段や噴霧等を利用することが操作上好ましいが、これらに限定されない。例えば、吸収液の二酸化炭素吸収量が低い前段(上段)と、二酸化炭素吸収量が高い後段(下段)とに気液接触部11を区分して、前段を充填層によって構成し、後段を棚段又は噴霧器を用いて構成すると、前段において接触効率を高めつつ、後段において目詰まり等を回避でき、二酸化炭素の吸収を効率的に進める上で有用である。再生塔30の気液接触部31については、吸収液が溶液状であるので、充填材を装填した充填層によって構成することによって、効率良く気液接触を行える。気液接触部11,31を構成する充填材やトレイ等は、概して、ステンレス鋼、炭素鋼等の鉄系金属材料製のものが用いられるが、特に限定されず、処理温度における耐久性及び耐腐食性を有する素材で、所望の接触面積を提供し得る形状のものを適宜選択して使用できる。
【0029】
吸収液は、吸収塔10内の気液接触部11上方に供給されて落下し、ガスGは、ブロア12によって配管13を通じて気液接触部11下方に吹き込まれて上昇する。ガスG及び吸収液が気液接触部11を通過する間に、気液接触によりガスG中の二酸化炭素が吸収液に吸収され、吸収液中で二酸化炭素と吸収剤とによって形成される吸収剤の炭酸塩が析出し、吸収液は析出物によって懸濁液状になる。気液接触部11において、吸収液は二酸化炭素の吸収及び析出によって発熱して液温が上昇するので、空冷が不十分である場合、必要に応じて、気液接触部11の温度を調節するための冷却システムを設けるとよい。又、気液接触部11で二酸化炭素が除去された処理後ガスG’も温度が上昇し水蒸気量が増加するので、ガスG’に含まれる水蒸気等を凝縮して回収するための冷却部14が、気液接触部11の上方に充填材を用いて形成される。処理後ガスG’は、冷却部14を通過する間に冷却されて水蒸気量が減少した後に吸収塔10頂部から排出される。冷却部14において凝縮する凝縮水は、冷却部14の下方に設けられる環状の受け皿に収容され、その一部は気液接触部11へ流下し、残部はポンプ15によって塔外に導出されて水冷式の冷却器16に送出され、冷却された後に冷却部14へ還流される。
【0030】
吸収塔10で二酸化炭素を吸収した懸濁液状の吸収液A1は、吸収塔10底部から第1供給路17を通じて分離器20へ供給される。分離器20は、吸収液A1中の析出物を収集して濃縮分離可能なものであれば良く、分離形態としては、沈降法、遠心分離法、圧搾法、濾過法等が挙げられ、固液分離が可能であれば何れでも良い。析出物から液体を完全に除去する必要はなく、むしろ、流動性を示す含水状態のスラリーとして分取する方が、吸収液を連続的に循環させるプロセスを構成する上で都合が良く、含水率が10〜30質量%程度のスラリーに濃縮し分取できる分離装置であると好適である。このためには、沈降法、遠心分離法、又は、沈降法と遠心分離法との組み合わせにおいて、連続的な分離及び排出が可能に構成した分離装置が有用である。沈降法による装置としては、例えば、ドル清澄器等が挙げられ、遠心分離法による装置としては、タイマー設定による自動排出型遠心分離器、ノズル型遠心分離器、傾斜分離版を用いたディスク型遠心分離器、懸垂式遠心分離器等が挙げられ、
図3においては、ドル清澄器が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、圧搾法や濾過等を利用した装置でも、適度な濃縮度で固形分を連続的に分離排出可能なように構成可能である。吸収液に含まれるアミノ化合物が、吸収剤であるアルカノールアミンと吸収促進剤である環状アミノ化合物との混合である場合、吸収液から析出するのは、吸収剤であるアルカノールアミンの炭酸塩であって、吸収促進剤である環状アミノ化合物は析出せずにカルバメートの状態で吸収液中に溶存するので、分離器20において分離される溶液状の吸収液A3は、吸収剤の濃度が減少し、吸収剤に対する吸収促進剤の割合が相対的に増加する。吸収液A3から完全に析出物を除去する必要はないが、可能な限り減少させることが望ましい。従って、溶液状の吸収液A3を分離器20から流出させる部分に濾過膜又は網を設けて析出物の流出を抑制し、析出物が分離器20中へ戻るように構成すると好ましい。又、吸収液A1が分離器20に導入される導入口付近に冷却手段を設けて液温が20〜30℃程度に低下するように構成すると、更に析出が促進されて、分離器20において分離される吸収液A2の析出物量が増加するので、吸収液A1に含まれる二酸化炭素のうち析出物として再生塔30へ供給される二酸化炭素の割合が高くなる。又、液温制御の精度向上及び析出量の安定化にも有効である。
【0031】
分離器20の底部は、第2供給路21によって再生塔30の上部と接続され、第2供給路21上にポンプ22が設けられる。前記分離器20において分離されたスラリー状の吸収液A2は、ポンプ22の駆動によって、第2供給路21を通じて再生塔30へ供給され、気液接触部31を流下して、再生された吸収液A4は再生塔30の底部に貯留される。再生塔30の底部は、主還流路23によって吸収塔10の上部と接続され、主還流路23上にポンプ24が設けられる。ポンプ24の駆動によって、再生塔30底部の再生された吸収液A4は、主還流路23を通じて吸収塔10の気液接触部11上方に還流される。つまり、第1供給路17、第2供給路21、主還流路23及びポンプ22,24によって吸収液を吸収塔と再生塔との間で循環させる循環システムが構築される。更に、分離器20と主還流路23とを接続する副還流路25が設けられ、分離器20で分離された溶液状の吸収液A3は、副還流路25を通じて主還流路23の吸収液A4に合流するので、再生塔30で再生された吸収液A4と共に水冷型の冷却器26によって冷却され、吸収工程に適した温度で吸収塔10へ供給される。
【0032】
再生塔30で再生された吸収液A4の熱を回収再利用するために、第2供給路21と主還流路23との間で熱交換を行う液−液型の熱交換器40が設けられる。分離器20で分離されたスラリー状の吸収液A2は、第2供給路21を流れる間に、熱交換器40において加温されて析出物の融解及び溶解が起こり、スラリー状から溶液状に変換される。従って、溶液状に変換された吸収液が再生塔30へ導入される。つまり、この実施形態においては、第2供給路21に設けられる熱交換器40は、再生塔30で再生された吸収液A4の熱を第2供給路21のスラリー状の吸収液に供給して加温する変換部として作用し、再生塔30から排出される熱がスラリー状の吸収液の加温に利用される。液−液型の熱交換器には、スパイラル式、プレート式、二重管式、多重円筒式、多重円管式、渦巻管式、渦巻板式、タンクコイル式、タンクジャケット式、直接接触液式等、様々な種類があり、本発明における熱交換器40として何れのタイプを使用しても良いが、装置の簡素化及び清掃分解の容易さの点ではプレート式が優れている。
【0033】
再生塔30の上部に供給される溶液状の吸収液は、気液接触部31の充填材上を流下して底部に貯溜される。再生塔30の底部には、溶液状の吸収液を加熱するためのリボイラーが付設される。即ち、再生塔30外に付設されるスチームヒーター32と、塔内の吸収液をスチームヒーター32を介して循環させる循環路33とが付設され、塔底部の吸収液A4の一部が循環路33を通してスチームヒーター32に分流され、高温蒸気との熱交換によって加熱された後に塔内へ還流される。この加熱によって、底部の吸収液から二酸化炭素が放出され、又、気液接触部31の充填材も間接的に加熱され、充填材上での気液接触により吸収液からの二酸化炭素の放出が促進される。
【0034】
再生塔30における加熱によって放出される二酸化炭素を含むガスは、回収ガスCとして頂部から排出される。再生塔30へ供給される吸収液は、分離器20で吸収剤の炭酸塩析出物を濃縮分離したものであり、その含水量は低いので、再生塔30における水蒸気の発生は、従来装置に比べて減少するが、高温の回収ガスCに含まれる水蒸気は回収する必要があるので、再生塔30上部には凝縮部34が設けられ、回収ガスCに含まれる水蒸気を凝縮させて過度の放出を抑制し、また、吸収剤の放出も抑制する。更に、再生塔30の外部には、塔頂部から排気管38を通じて排出される回収ガスCを冷却するための水冷式の冷却器35、気液分離器36及び調圧弁37が設けられ、再生塔30から放出される回収ガスCは、冷却器35で充分に冷却され、含まれる水蒸気等が可能な限り凝縮される。凝縮した水等は、気液分離器36において分離され、ポンプ39によって流路51から再生塔30の凝縮部34上へ供給され、冷却水として使用される。排気管38から排出される回収ガスCに含まれる二酸化炭素は、例えば、地中又は油田中に注入することによって、地中での炭酸ガス固定及び再有機化が可能である。尚、気液分離器36の気体排出側に設けられる調圧弁37は、再生塔30内の圧力調節等に利用可能であり、加圧状態での再生処理が可能になるが、省略してもよい。
【0035】
図3の回収装置1において実施される回収方法について以下に説明する。
【0036】
吸収塔10において、ブロア12の作動によりガスGを底部から供給し、ポンプ22,24の駆動により吸収液を循環させて吸収塔10の上部から吸収液(A3+A4)を供給すると、気液接触部11上でガスGと吸収液とが気液接触し、ガスGに含まれる二酸化炭素が吸収液に吸収される吸収工程が進行する。二酸化炭素は、低温において良好に吸収され、又、吸収剤の炭酸塩も低温において析出し易いので、吸収液の液温又は吸収塔10(特に気液接触部11)の温度が50℃程度以下、好ましくは40℃程度以下となるように温度を管理すると好適である。吸収液は二酸化炭素の吸収及び炭酸塩の析出によって発熱するので、これによる液温上昇を考慮し、液温が50℃を超えないように配慮することが望ましい。前述したように、吸収液として、二酸化炭素に親和性を有するアミン化合物、特に前述のようなアルカノールアミンを吸収剤として溶解した水性液が用いられる。更に、吸収促進剤として前述したような環状アミノ化合物を含有する吸収液を用いると好ましい。吸収剤及び吸収促進剤は、各々、複数種を組み合わせて使用しても良い。吸収液の濃度は、前述したように、吸収剤濃度が30質量%を超える濃度、好ましくは35質量%程度以上、より好ましくは40〜80質量%程度の吸収液であり、複数種を使用する場合は合計量による濃度とする。吸収促進剤を用いる場合は、吸収液の0〜35質量%程度(0を除く)、好ましくは5〜15質量%程度となる範囲で吸収液に配合すると好適であり、複数種を使用する場合は合計量による濃度とする。吸収液の組成は、処理対象とするガスに含まれる二酸化炭素量や処理速度等に応じて上述のような範囲で適宜変更可能である。ガスG及び吸収液の供給速度は、ガスGに含まれる二酸化炭素量及び気液接触効率等に応じて、吸収が好適に進行するように設定される。この際、吸収液の二酸化炭素吸収量が増加するに従って析出する吸収剤の炭酸塩の量が多くなるので、吸収液の二酸化炭素吸収量が最終的に0.3〜0.5mol-CO
2/mol-amine程度となるように吸収液とガスとの気液接触時間を設定するとよい。気液接触部11を上段及び下段に区分けして充填材方式と噴霧方式又は棚段方式とによって気液接触を実施する吸収塔を用いる場合には、充填材間の空隙寸法及び上段/下段の容積バランスを考慮して、充填材中で析出による目詰まりが発生しないような適正な気液接触時間となるように処理条件を設定するとよい。
【0037】
気液接触部11において二酸化炭素が除去された処理後ガスG’は、反応熱による温度上昇に伴って水蒸気量が増加し得るが、冷却部14を通過する間に冷却されて水蒸気量が減少した後に、吸収塔10頂部から排出される。処理後ガスG’の温度がガスGの初期温度に実質的に等しくなる(実用的には初期温度±3℃以内、好ましくは初期温度±2℃以内)ように設定すると、ガスG及び処理後ガスG’に含まれる水蒸気量が実質的に等しくなり、吸収塔10からの水蒸気放出及び吸収液からの気化が抑制できる。ガスG’の温度は、冷却部14での冷却程度、つまり、冷却器16で冷却される凝縮水を冷却部14に供給するポンプ15の駆動制御によって調整可能である。
【0038】
吸収工程において吸収される二酸化炭素と吸収剤とによって吸収剤の炭酸塩が形成されて吸収液中に析出し、懸濁液状になった吸収液A1が第1供給路17を通じて分離器20に供給されると、分離器20において、沈降、遠心分離等によって分離器20の局所(底部、周縁部等)に析出物が収集され、析出物が濃縮されたスラリー状の吸収液A2と、析出物が減少した溶液状の吸収液A3とに分離する分離工程が進行する。分離工程における分離度は、スラリー状の吸収液A2が流動性を保持する状態、具体的には、粘度が0.3Pa・s程度以下となるように調節される。これにより得られるスラリー状の吸収液A2は、含水率が10〜30質量%程度となる。析出物が減少して実質的に清澄な溶液状態となった吸収液A3には、吸収剤の炭酸塩が飽和濃度で溶解する。吸収液A3から完全に析出物を除去する必要はないが、可能な限り減少させるように分離することが望ましい。スラリー状の吸収液A2と溶液状の吸収液A3との割合が、1/1程度となるように分離すると、吸収液の再生率の点で好ましい。吸収促進剤を含む吸収液の場合は、吸収促進剤は析出せず、殆どが溶液状の吸収液A3に含まれ、スラリー状の吸収液A2に含まれる量は僅かである。
【0039】
分離器20によって分離されたスラリー状の吸収液A2が、ポンプ22によって第2供給路21上の熱交換器40に送出されると、再生塔30から送出される再生後の吸収液A4との熱交換が行われて、スラリー状の吸収液A2を加温して溶液状の吸収液に変換する変換工程が進行し、析出物の融解及び溶解が起こる。アミノ化合物の炭酸塩の融点(融解点)は、無機炭酸塩類に比べてかなり低く、概して70〜100℃近辺であるので、吸収液から析出する析出物は、再生塔30で再生温度(80〜120℃程度)に加熱された吸収液A4との熱交換によって融解し、特に、スラリー状の含水状態では、融解温度より低い温度で溶解度が上昇して容易に溶解して溶液状になる。例えば、AMPの炭酸塩(結晶固体)の融解温度は70℃付近であって60℃近辺から溶融し始め、溶融と共に二酸化炭素の解離が徐々に進行し、80〜95℃近辺において完全に解離するので、スラリー状態においては、70℃より低い温度で析出物の溶解が進行し、熱交換器40での加熱によって十分に溶液状に変換された吸収液が再生塔30へ供給される。
【0040】
熱交換器40から再生塔30へ溶液状の吸収液が導入されると、再生塔30においては、吸収液を加熱して吸収液から二酸化炭素を放出させる再生工程が進行する。具体的には、気液接触部31の充填材上での気液接触によって二酸化炭素の放出が促進されると共に、再生塔30底部での加熱によって更に昇温し、吸収液は、気液接触部31を流下しながら二酸化炭素を放出する。底部に貯留される吸収液A4は、スチームヒーター32への部分循環加熱によって、吸収液の沸点付近まで昇温可能であり、再生温度は80〜120℃程度に設定される。吸収液の沸点は、組成(吸収剤濃度)及び再生塔30内の圧力に依存する。本発明において、再生塔30で再生される吸収液は、従来に比べて極めて水量が少ない高濃度の吸収液であるので、吸収液から気化する水の量及び気化潜熱は少なくなる。つまり、気化潜熱の増加及び加圧による沸点上昇に起因する顕熱の増加を抑制することができる。従って、再生塔30内を加圧せずに再生を行っても、吸収液から失われる水の気化潜熱を抑制できるが、必要に応じて再生塔30内を加圧しても良い。この場合、再生塔30内の加圧は、排気管38の出口に設けられる調圧弁37の制御によって調整可能であり、気化潜熱及び顕熱の消費を考慮して、150〜350kPaA程度に調整すると良い。
【0041】
再生塔30の上部の温度は、熱交換器40から投入される吸収液の温度に近くなるので、凝縮部34を通過した回収ガスCは、冷却器35において冷却水(冷媒)により十分に冷却される。回収ガスCから凝縮する水分及び吸収剤は、気液分離器36において回収ガスCから分離され、これを凝縮部34に供給することによって凝縮部34は冷却され、同時に、再生塔30における吸収液の濃度上昇及び吸収剤の気化放散が抑制される。
再生塔30において再生された吸収液A4は、ポンプ24の駆動によって塔底部から主還流路23を流れ、熱交換器40においてスラリー状の吸収液A2を加熱して溶液状に変換する。これにより吸収液A4は、吸収液A2の温度近くまで冷却される。更に、分離工程で分離された溶液状の吸収液A3を、再生工程で二酸化炭素を放出した吸収液と共に吸収工程へ供給する還流工程が、主還流路23及び副還流路25によって実施される。従って、冷却された吸収液A4は、分離器20から副還流路25を通じて供給される溶液状の吸収液A3と合流して、吸収液中の吸収剤の濃度は、溶液状の吸収液A3における吸収剤の濃度(=析出物が吸収工程における温度で飽和濃度で溶解する水溶液における吸収剤の濃度)より高くなる。つまり、最初の吸収液の組成(
図2の点S5に相当)に戻る。この吸収液は、更に、冷却器26によって十分に冷却され、二酸化炭素の吸収に適した温度で吸収塔10上部に還流される。
【0042】
このようにして、有機系吸収剤であるアミノ化合物が高濃度で溶解した吸収液を用いて、吸収液による二酸化炭素の吸収工程と、吸収液の再生工程とが繰り返し行われ、再生工程において放出される二酸化炭素が回収される。その間に、熱交換器40において、スラリー状の吸収液A2と再生塔30から還流する吸収液A4との熱交換が行われる。熱交換器の交換性能に基づいて、熱交換器40における吸収液A2の出口温度と吸収液A4の入口温度との差が10℃程度以下となるように構成可能であり、吸収液A2は、再生塔30での加熱温度に近い温度に昇温される。従来のアミン吸収法においては、熱交換器40において回収される熱量は、吸収液の温度上昇分の顕熱のみであるが、本発明においては、スラリー状から溶液状への変換に伴う融解熱と温度上昇分の顕熱との総量として回収されるので、熱交換器40から吸収塔10へ還流される吸収液A4の温度を従来法より低下させることができ、冷却器26における冷熱量の減少が可能である。しかも、再生塔30において加熱される吸収液に含まれる水量は、分離前の吸収液A1に比べて非常に少ないので、水の温度上昇に要する顕熱及び気化潜熱として消費される分の熱量を削減でき、析出物の融解及び二酸化炭素の放出に集中的に熱量を利用することができる。又、再生される吸収液に含まれる水量が少ないので、水による二酸化炭素の溶存容量が小さく、吸収剤から解離した二酸化炭素を水から放出し易くなり、再生塔30での加熱温度を従来法に比べて低い温度に設定可能である。故に、本発明の構成は、再生に要する熱エネルギーの削減に極めて有利である。シミュレーションによる計算では、
図3の構成において50質量%AMPの吸収液を用い、再生温度を110℃に設定して二酸化炭素の回収を実施する場合、再生に要する熱エネルギーは、約2.9〜3.3GJ/t−CO
2程度となり、これは、従来法により30質量%AMPの吸収液を用いた場合に比べて約0.3GJ/t−CO
2程度の削減が可能であり、又、従来法により30質量%MEAの吸収液を用いた場合との比較では1.5GJ/t−CO
2程度の削減が可能である。本発明においては、再生温度を100℃以下に設定することも可能であるので、上記シミュレーション結果よりも更にエネルギーの削減が可能である。
【0043】
図4は、本発明の二酸化炭素の回収方法を実施する回収装置の第2の実施形態を示す。
図4の回収装置2は、回収装置1と同様に、
図3の熱交換器40に対応する液−液型の熱交換器40aを有するが、更に、スラリー状の吸収液を溶液状に変換する変換部として作用する別の部材を有する。つまり、リボイラーの排熱を回収するための熱交換器41を有し、これが変換部として作用する。熱交換器40aは、変換部として作用する場合も作用しない場合もある。
【0044】
詳細には、回収装置2は、
図3の回収装置1の構成に加えて、第2供給路21上に設けられる気−液型の熱交換器41と、リボイラーを構成するスチームヒーター32から排出される排スチームが流れる配管42とを有する。熱交換器41は、分離器20と熱交換器40aとの間に配置され、第2供給路21と配管42との間での熱交換を行うように構成される。従って、分離器20から送出されるスラリー状の吸収液A2は、熱交換器41において、配管42を流れる排スチームの熱によって加温されて析出物の融解及び溶解が起こり、溶液状に変換される。つまり、熱交換器41は、リボイラーから排出される廃熱を利用してスラリー状の吸収液A2を加温し、スラリー状の吸収液A2を溶液状に変換する変換部として機能する。熱交換器41によって溶液状に変換された吸収液は、更に、熱交換器40aにおいて、再生塔30から送出される吸収液A4との熱交換によって加熱されて、再生温度に近い温度で再生塔30へ供給される。排スチームと吸収液A2との熱交換を行う熱交換器41には、一般的に気−液間の熱交換に用いられる種々の気−液型熱交換器から適宜選択して使用可能であり、例えば、直接接触式やフィンチューブ型等の熱交換器が挙げられる。
図4の回収装置2において、上述の構造以外については回収装置1と同様に構成されるので、その説明は省略する。
【0045】
図4の構成において、排スチームから回収される熱量が、スラリー状の吸収液A2を完全に溶液に変換するのに十分な熱量である時には、熱交換器40aは、変換部としては作用せず、温度を上昇させる顕熱を供給する一般的な熱交換器として作用する。他方、排スチームから回収される熱量が、スラリー状の吸収液A2を完全に溶液に変換可能な熱量に満たない場合は、熱交換器41を通過した吸収液A2は、析出物が残存する半溶解状態となり、熱交換器40aにおいて完全に溶液状に変換される。
【0046】
図4の実施形態において、再生塔30から送出される吸収液A4の温度に比べて配管42を流れる排スチームの温度が顕著に高い場合には、熱交換器40aと再生塔30との間に熱交換器41を配置するように変更すると、熱交換における顕熱としての熱回収効率の向上が可能である。又、この配置変更は、再生後の吸収液A4の冷却及び冷却器26の冷熱量低減が必要な場合にも有効である。
【0047】
図5は、本発明の二酸化炭素の回収方法を実施する回収装置の第3の実施形態を示す。
図5の回収装置3も、回収装置1と同様に、
図3の熱交換器40に対応する液−液型の熱交換器40bを有するが、更に、スラリー状の吸収液を溶液状に変換する変換部として作用する別の部材として、再生塔30から排出される二酸化炭素に含まれる排熱を利用してスラリー状の吸収液A2を加温する気−液型の熱交換器43を有する。熱交換器40bは、変換部として作用する場合も作用しない場合もある。
【0048】
詳細には、回収装置3は、
図3の回収装置1の構成に加えて、再生塔30内の吸収液から放出される二酸化炭素を外部へ排出する排気管38上に設けられる気−液型の熱交換器43を有する。スラリー状の吸収液A2を分離器20から再生塔30へ供給する第2供給路21aは、分離器20と熱交換器40bとの間において、排気管38との間での熱交換を熱交換器43によって行うように配設される。従って、分離器20から送出されるスラリー状の吸収液A2は、熱交換器43において、排気管38を通じて排出される回収ガスCの熱によって加温されて析出物の融解及び溶解が起こり、溶液状に変換される。つまり、熱交換器43は、再生塔30から排出される回収ガスCの廃熱を利用してスラリー状の吸収液を加温し、スラリー状の吸収液A2を溶液状に変換する変換部として機能する。熱交換器43によって溶液状に変換された吸収液は、更に、熱交換器40bにおいて、再生塔30から送出される再生された吸収液A4との熱交換によって加熱されて、再生温度に近い温度で再生塔30へ供給される。回収ガスCと吸収液との熱交換を行う熱交換器43には、
図4の熱交換器41と同様に、一般的に気−液熱交換に用いられる種々の熱交換器から適宜選択して使用可能である。
図5の回収装置3において、上述の構造以外については回収装置1と同様に構成されるので、その説明は省略する。
【0049】
図5の構成において、回収ガスCから回収される熱量が、スラリー状の吸収液A2を完全に溶液に変換可能な熱量に満たない場合、熱交換器43を通過した吸収液A2は、析出物が残存する半溶解状態となり、熱交換器40bにおいて完全に溶液状に変換される。本発明においては、再生塔30から排出される回収ガスCに含まれる水蒸気量及び熱量は、従来法による装置に比べて少ないので、熱交換器40bも変換部として作用し得る。勿論、回収ガスCから回収される熱量が、スラリー状の吸収液A2の変換に十分であれば、熱交換器40bは、変換部としては作用せず、温度を上昇させる顕熱を供給する一般的な熱交換器として作用する。
【0050】
上述の回収装置1〜3において、吸収塔10内の吸収液A1における析出物の生成は、吸収塔10と分離器20とを接続する第1供給路において、凝着等による配管の閉塞や目詰まりを引き起こす虞がある。しかし、これは容易に防止可能であり、例えば、第1供給路17を構成する配管の短縮又は口径拡大によって閉塞し難い構造に設計したり、第1供給路17を実質的に省略して吸収塔10の底部と分離器20とを直接接続するような変形が挙げられる。又、溶液状の吸収液に比べてスラリー状の吸収液A2の流動抵抗は高いので、第2供給路21,21aのポンプ22は、分離器20と変換部(熱交換器40,41,43)との距離が長いほど高出力での駆動が必要となる。従って、分離器20と変換部との間の距離が短くなるように構造設計を行うと、操業コストの点で有利である。
【実施例】
【0051】
(回収試験)
吸収液として、50質量%AMP水溶液(粘度(40℃):0.01Pa・s)を調製した。この吸収液を気液接触用の槽に投入して40℃の温度に維持し、攪拌しながら二酸化炭素分圧が10kPaの雰囲気に接触させて二酸化炭素の吸収を開始した。吸収液の二酸化炭素吸収量が約0.2mol-CO
2/mol-amineになった時に析出物の生成が確認され、吸収液が懸濁し始めた。二酸化炭素吸収量が約0.47mol-CO
2/mol-amineになったところで吸収を終了し、吸引濾過器を利用して、懸濁液状の吸収液を、濾過器を通過した清澄な溶液状の吸収液と、濾過残であるスラリー状の吸収液とに分離した。スラリー状の吸収液は、50質量%の収率で得られ、その含水率は20質量%、AMP濃度は77質量%、粘度は0.28Pa・s(40℃)、二酸化炭素吸収量は約0.51mol-CO
2/mol-amineであった。一方、溶液状の吸収液(収率:50質量%)のAMP濃度は38質量%、二酸化炭素吸収量は約0.35mol-CO
2/mol-amineであった。
【0052】
上述で得られたスラリー状の吸収液を加熱して温度を上げたところ、70℃において固形分が完全に溶解して溶液状の吸収液に変換された。これを350kPaに加圧した窒素雰囲気中で120℃に加熱した後に、二酸化炭素が検出されなくなった状態で終了し、全有機炭素計で残留吸収液中の二酸化炭素量を定量したところ、約0.05mol-CO
2/mol-amineであった。
【0053】
(再生エネルギーの評価)
シミュレーションによる計算では、
図3の構成において50質量%AMPの吸収液を用い、再生温度を110℃に設定して二酸化炭素の回収を実施する場合、再生に要する熱エネルギーは、約2.9〜3.3GJ/t−CO
2程度となり、これは、従来法により30質量%AMPの吸収液を用いた場合に比べて約0.3GJ/t−CO
2程度の削減が可能であり、又、従来法により30質量%MEAの吸収液を用いた場合との比較では1.5GJ/t−CO
2程度の削減が可能である。
【0054】
(析出物の分析)
上述の吸収試験において得られるスラリー状の吸収液を更に吸引濾過し、濾過残の固形物を乾燥して析出物の結晶を得た。この組成をラマン分光法によって分析したところ、AMPと二酸化炭素の割合が2:1であるAMPの炭酸塩であった。又、示差走査熱量計を用いた示差走査熱−熱重量の同時測定(昇温速度:5℃/分)によって、析出物結晶の温度による相変化を調べたところ、約60℃において溶融と共に二酸化炭素の解離が始まって徐々に進行し、そのピーク(融解点)は約70℃であった。又、二酸化炭素の解離は、約60〜100℃の範囲において進行し、そのピークは約95℃であった。
【0055】
(吸収液の析出境界線)
吸収剤としてAMPを用いて、吸収剤濃度が35質量%、50質量%及び80質量%の水溶液を調製した。各水溶液を一定温度に維持し、これを吸収液として二酸化炭素を吸収させて、析出物による白濁が生じる時点の二酸化炭素吸収量(析出点)を調べた。この操作を温度を変えて繰り返すことにより、
図1の析出境界線を作成した。
【0056】
図1の析出境界線において、吸収剤濃度が35質量%の場合の析出点は、約0.28mol-CO
2/mol-amine(20℃)、約0.32mol-CO
2/mol-amine(40℃)であり、吸収剤濃度が50質量%の場合の析出点は、約0.21mol-CO
2/mol-amine(20℃)、約0.23mol-CO
2/mol-amine(40℃)、吸収剤濃度が80質量%の場合の析出点は、約0.15mol-CO
2/mol-amine(20℃)、約0.17mol-CO
2/mol-amine(40℃)であった。上記の結果を、析出点における吸収液1kg当たりの二酸化炭素吸収量に換算すると、約1.1〜1.4mol-CO
2/kg(20℃)、約1.2〜1.5mol-CO
2/kg(40℃)となる。
【0057】
(吸収液の吸収速度)
吸収液として、50質量%AMP水溶液(試料L1)、及び、50質量%AMP−5質量%PZ水溶液(試料L2)の2種類の水溶液を調製した。各吸収液100mLについて、同じ二酸化炭素20%/窒素バランスのガスを流通させることで、40℃において二酸化炭素の吸収試験を行って、析出物の生成によって懸濁が始まるまでの時間を測定したところ、試料L1の吸収液では約255分、試料L2の吸収液では約40分であった。尚、懸濁した各吸収液の二酸化炭素吸収量は、何れも、AMPのアミンに対して約0.22mol-CO
2/mol-amineであった。
【0058】
(吸収液中の化学種の特定)
IPAE、MDEA及びPZの各アミン単体について、アミン水溶液50mLに二酸化炭素を50mL/分の速度で吹き込んで、0〜80分におけるpH、重量、ラマンスペクトル及び
13C−NMRスペクトルを測定した。
13C−NMRスペクトルにおいて観測されたバンドを帰属することにより、アミン、プロトン化アミン、カルバメート、カルボネート、炭酸イオン及び重炭酸イオンが水溶液中に存在することが判った。又、アミン、プロトン化アミン、炭酸イオン及び重炭酸イオンは、各々、1本のバンドを示し、二酸化炭素の吹き込み時間に依存してシフトしたが、他のバンドはシフトしなかった。
【0059】
更に、IPAEとPZの混合水溶液、及び、MDEAとPZの混合水溶液を用いて、二酸化炭素を吹き込んだ混合水溶液について同様の測定を行った。これらの結果を、アミン単体の場合と比較したところ、混合水溶液においては、IPAEのカルバメートは全く観測されず、IPAEのカルボネートの生成速度が特に遅いことが判明した。MDEAについても、カルボネートの生成速度は遅かった。又、混合水溶液においてはPZのカルバメートの生成比率が増加した。