特許第6170377号(P6170377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170377
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】建設汚泥の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20170713BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20170713BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20170713BHJP
   A62D 3/30 20070101ALI20170713BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20170713BHJP
   E21D 9/13 20060101ALI20170713BHJP
   A62D 101/43 20070101ALN20170713BHJP
   A62D 101/45 20070101ALN20170713BHJP
   A62D 101/49 20070101ALN20170713BHJP
【FI】
   C02F11/00 C
   B09B3/00 304K
   A62D3/30
   C02F11/00 G
   C02F11/00 H
   C02F11/00 J
   E21D9/06 301M
   E21D9/13 C
   A62D101:43
   A62D101:45
   A62D101:49
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-177730(P2013-177730)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-44171(P2015-44171A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭二郎
(72)【発明者】
【氏名】川端 淳一
(72)【発明者】
【氏名】河合 達司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 毅
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−066471(JP,A)
【文献】 特開2011−131143(JP,A)
【文献】 特開2006−205152(JP,A)
【文献】 特開2009−173519(JP,A)
【文献】 特開2011−246950(JP,A)
【文献】 特開2013−213365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00
C02F 1/00
E21D 1/00−9/00
C01G 49/00
B01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型シールド工法を用いたトンネル施工で発生し、輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される、有害物質を含む建設汚泥を処理する処理方法であって、
前記有害物質は、ヒ素、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、フッ素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記輸送経路においてマイクロナノバブル水を前記建設汚泥に添加する添加工程を有する、建設汚泥の処理方法。
【請求項2】
前記添加工程では、前記マイクロナノバブル水を、前記輸送経路の一部を構成している前記シールドマシンの切羽部における前記建設汚泥に添加する、請求項1記載の建設汚泥の処理方法。
【請求項3】
前記マイクロナノバブル水を生成するマイクロナノバブル水生成工程を有し、
前記マイクロナノバブル水生成工程では、水に酸素を供給する、請求項1又は2記載の建設汚泥の処理方法。
【請求項4】
前記マイクロナノバブル水は、pHが調整されたものである、請求項1〜3のいずれか一項記載の建設汚泥の処理方法。
【請求項5】
前記マイクロナノバブル水は、鉄剤が添加されたものである、請求項1〜4のいずれか一項記載の建設汚泥の処理方法。
【請求項6】
前記添加工程の後に、前記輸送経路により輸送された前記建設汚泥の水素イオン濃度、酸化還元電位及び溶存酸素濃度からなる群より選ばれる少なくとも一種を測定する測定工程を有し、
前記測定の結果に基づいて前記マイクロナノバブル水の添加量、水素イオン濃度、及び溶存酸素濃度からなる群より選ばれる少なくとも一種を調整する、請求項1〜5のいずれか一項記載の建設汚泥の処理方法。
【請求項7】
密閉型シールド工法を用いたトンネル施工で発生し、輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される、有害物質を含む建設汚泥を処理する処理装置であって、
前記有害物質は、ヒ素、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、フッ素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記輸送経路においてマイクロナノバブル水を前記建設汚泥に添加する添加手段を備える、建設汚泥の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設汚泥の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型シールド工法を用いたトンネル施工において発生する建設汚泥には、重金属類等の有害物質が含まれている場合があり、これらを環境中に放出しないことが求められている。その具体策としては、従来、重金属類の不溶化剤を建設汚泥に添加する方法(例えば特許文献1参照)、及び、建設汚泥を長期間仮置きして重金属類を空気中の酸素と反応させ、重金属類を溶出し難い形態に変化させる方法(例えば非特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−66471号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】門間聖子、森研一郎、堀修、野溝昌宏、“仙台市内に分布する竜の口層の重金属溶出特性について”、日本応用地質学会平成20年度研究発表会講演論文集、2008年、75〜76頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、不溶化剤の材料コストが高い傾向がある。また、非特許文献1に記載された方法では、仮置きのための用地が必要であり、且つ、仮置き中の建設汚泥の飛散や重金属類の溶出を防止するために、対策設備が必要となることがある。また、仮置きでは、空気酸化に頼るために処理に時間がかかるほか、盛られた建設汚泥の表層と内部とで空気に触れる程度が異なるため、重金属類の処理が均一でない場合が多い。
【0006】
そこで本発明は、低コストで、重金属類の処理速度が速く、且つ、重金属類の処理が均一化された建設汚泥の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、密閉型シールド工法を用いたトンネル施工で発生し、輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される、有害物質を含む建設汚泥を処理する処理方法であって、有害物質は、ヒ素、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、フッ素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、輸送経路においてマイクロナノバブル水を建設汚泥に添加する添加工程を有する、建設汚泥の処理方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、密閉型シールド工法を用いたトンネル施工で発生し、輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される、有害物質を含む建設汚泥を処理する処理装置であって、有害物質は、ヒ素、シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、フッ素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、輸送経路においてマイクロナノバブル水を建設汚泥に添加する添加手段を備える、建設汚泥の処理装置を提供する。
【0009】
この処理方法及び処理装置では、建設汚泥にマイクロナノバブル水が添加されると、マイクロナノバブル水中の空気(より正確には酸素)により建設汚泥の酸化還元電位が上昇する。ここで、上記化学種(以下「重金属類」と呼ぶ。)は、酸化還元電位が上昇した建設汚泥中では、その化学的な存在形態が変化しうる。そして同様に、建設汚泥中に存在する天然由来の鉄イオンは酸化還元電位の上昇により水酸化鉄として存在しており、水酸化鉄は、存在形態が変化しうる上記重金属類を吸着して沈殿する。吸着された上記重金属類は環境中に溶出しにくくなる。また、マイクロナノバブル水が建設汚泥に添加されると、建設汚泥が輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される過程において両者が混合されるため、重金属類の酸化機会が均一となり、酸化速度も大きくなる。以上によれば、本発明の処理方法及び処理装置は、低コストで、重金属類の処理速度が速く、且つ、重金属類の処理が均一化されているといえる。
【0010】
ここで、「建設汚泥」とは、シールドマシンによる掘削工事で生じる泥水又は泥土である。
【0011】
本発明の処理方法において、添加工程では、マイクロナノバブル水を、シールドマシンの切羽部における建設汚泥に添加することが好ましい。この場合、切羽部のシールドマシンのカッターの回転により建設汚泥とマイクロナノバブル水とが混合されやすいため、重金属類の酸化機会が一層均一となり、酸化速度も一層大きくなる。
【0012】
本発明の処理方法は、マイクロナノバブル水を生成するマイクロナノバブル水生成工程を有し、マイクロナノバブル水生成工程では、水に酸素を供給することが好ましい。酸素は空気と比べて、気体の単位体積当たりの酸化促進効果が高く、建設汚泥の酸化還元電位が上昇しやすくなるため、本発明の効果が一層効率よく奏される。
【0013】
マイクロナノバブル水は、pHが調整されたものであることが好ましい。pHの調整により、マイクロナノバブル水の酸化力を向上させることができる。
【0014】
また、マイクロナノバブル水は、鉄剤が添加されたものであることが好ましい。これによれば、上記作用に基づく重金属類の沈殿を、一層効率よく進行させることができる。すなわち、建設汚泥中に含まれる天然由来の鉄イオンが乏しい場合に、これを補う意義がある。
【0015】
本発明の処理方法では、添加工程の後に、輸送経路により輸送された建設汚泥の水素イオン濃度、酸化還元電位及び溶存酸素濃度からなる群より選ばれる少なくとも一種を測定する測定工程を有し、測定の結果に基づいてマイクロナノバブル水の添加量、水素イオン濃度、及び溶存酸素濃度からなる群より選ばれる少なくとも一種を調整することが好ましい。これによれば、測定工程により、本発明の効果を奏するための好適な条件が整っているか否か、又は、本発明の効果を奏したか否かを判定することができ、その判定の結果に基づいて上記各種指標を調整することにより、建設汚泥を一層効率よく処理することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストで、重金属類の処理速度が速く、且つ、重金属類の処理が均一化された建設汚泥の処理方法及び処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の処理装置をシールド工法に適用した場面を示す図である。
図2】本実施形態の処理装置の概略構成図である。
図3】横軸にpH、縦軸にEhをとった場合のヒ素の形態図である。
図4】横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉄の形態図である。
図5】横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉛の形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、密閉型シールド工法を用いたトンネルの施工中の坑内に設置された泥土の処理装置の概略構成図であり、図示左側が泥土圧式のシールドマシン側を示し、図示右側が坑口側を示している。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態の処理装置1は、シールドマシン3により掘削して形成されたトンネルT内に設置され、シールドマシン3の背後からシールドマシン3の切羽部31に向けて延びる添加手段(詳しくは後述)により酸素マイクロナノバブル水を泥土に添加するものである。
【0021】
シールドマシン3は、地盤を掘削する切羽部31と、切羽部31の後方に延びる外筒32とを備えている。切羽部31は、シールドマシン3の周方向へ回転して地盤の掘削を担うカッター33と、カッター33の背面側に設けられた隔壁34と、隔壁34の中心部に取り付けられカッター33を回転させるためのモータ35とを有している。カッター33と隔壁34との間に形成された空間は、掘削土(泥土)が溜まるチャンバ36として機能する。
【0022】
隔壁34の背面側には、チャンバ36に溜まった泥土を密閉状態で後方に搬送するスクリューコンベヤ5が設けられており、当該スクリューコンベヤ5は、その先端部がチャンバ36の下端位置に配設され、斜め上後方に延びている。スクリューコンベヤ5の後端部は、泥土輸送配管L1に接続され、泥土輸送配管L1は、ポンプ等の輸送手段によって坑口側へ輸送される。泥土輸送配管L1には、泥土の水素イオン濃度(pH)、酸化還元電位(Eh)、及び、溶存酸素濃度(DO)を測定するための分析装置7が設けられている。
【0023】
上記のとおり、シールドマシン3の切羽部31、スクリューコンベヤ5、及び泥土輸送配管L1は、泥土をシールドマシン側から坑口側へ輸送する輸送経路を構成している。
【0024】
処理装置1は、シールドマシン3の後方に設置され、酸素マイクロナノバブル水を発生させる装置本体11と、発生された酸素マイクロナノバブル水を切羽部31に添加する添加手段12と、を備えている。なお、装置本体11は、地面に設置するほか、シールドマシン3の後続台車に載置してもよい。
【0025】
装置本体11は、外部から供給される水を原料として、切羽部31に供給するマイクロナノバブル水を発生する(すなわち調製する)装置であり、図2に示されるように、外部から上水が供給される上水供給管L2が接続されている。装置本体11は、pH調整剤タンク13と、上水供給管L2及びpH調整剤タンク13とそれぞれ配管により接続されたラインミキサ14と、ラインミキサ14から配管により接続されたpH調整水貯留タンク15と、を有している。このうち、pH調整剤タンク13は、具体的には、pHを酸性側へ調整するための炭酸ガス、及び、pHをアルカリ性側へ調整するための炭酸ナトリウム等を収容している。
【0026】
また、装置本体11は、酸素を発生させる酸素発生装置16と、pH調整水貯留タンク15及び酸素発生装置16とそれぞれ配管により接続され、マイクロナノバブルを発生させるマイクロナノバブル発生装置17と、マイクロナノバブル発生装置17から配管により接続された酸素マイクロナノバブル水貯留タンク18と、を有する。ここで、「マイクロナノバブル」とは、「マイクロバブル」と「ナノバブル」の両方を包含する概念であり、更には、「マイクロバブル」及び「ナノバブル」の両方が混在したバブルをも意味する。
【0027】
添加手段12は、図1及び図2に示されるように、装置本体11の酸素マイクロナノバブル水貯留タンク18内に貯留された酸素マイクロナノバブル水を導出して輸送するための注入ポンプ19と、注入ポンプに接続され、シールドマシン3の背後からシールドマシン3の切羽部31に向けて延びるホース20と、を有する。
【0028】
次に、処理装置1の運転方法(処理装置1を用いた泥土の処理方法)について説明する。以上のように構成された処理装置1の装置本体11では、外部から上水を供給する。上水供給管L2から供給された上水は、ラインミキサ14において、pH調整剤タンク13から供給されるpH調整剤と混合され、pHが所望の値に調整されてpH調整水となる(pH調整工程)。
【0029】
pH調整水は、pH調整水貯留タンク15に一時的に貯留され、その後、マイクロナノバブル発生装置17に導入される。これに伴い、酸素発生装置16は酸素を発生し、マイクロナノバブル発生装置17に酸素を供給する。マイクロナノバブル発生装置17では、導入されたpH調整水の中に、酸素のマイクロナノバブルを発生させて、酸素マイクロナノバブル水を調製する(マイクロナノバブル水生成工程)。調製された酸素マイクロナノバブル水は、酸素マイクロナノバブル水貯留タンク18に一時的に貯留される。
【0030】
そして、酸素マイクロナノバブル水を泥土に添加すべきときに、注入ポンプ19を駆動して、ホース20を通じて酸素マイクロナノバブル水をシールドマシン3の切羽部31における泥土に添加する(添加工程)。このとき、酸素マイクロナノバブル水はカッター33の前面における泥土に添加してもよく、チャンバ36内に溜まった泥土に添加してもよいが、撹拌性の観点から、カッター33の前面における泥土に添加することが、より好ましい。酸素マイクロナノバブル水が添加された泥土は、酸素マイクロナノバブル水と混合されながら輸送経路を通じて坑口側へ輸送される。
【0031】
なお、図2では図示していないが、配管を通じたpH調整水や酸素マイクロナノバブル水の輸送は、各配管に設けられた弁の切替え等により行う。また、上記一連の運転は、手動であっても自動であってもよい。
【0032】
ここで、処理装置1により添加された酸素マイクロナノバブル水によって泥土中の重金属類が処理される作用について説明する。
【0033】
図3は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合のヒ素の形態図であり、図4は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉄の形態図である。図3及び図4において斜線で示した領域(pH=6〜8程度、Eh=−0.2〜+0.2V程度の領域)は、一般的な土壌が有するpH及びEhがあてはまる領域であり、これによれば、ヒ素は通常、土壌中では亜ヒ酸(HAsO)として存在し、鉄は通常、土壌中では鉄イオン(II)(Fe2+)として存在している。これらの形態図から分かるように、いずれもpH又はEhが変化すると、その存在形態(酸化状態、イオン化状態)が変化する。なお、図3において、「PO2=1bar」が付記された線は、酸素分圧が1気圧である条件で考えられる最大の酸化状態の境界を表し、「PH2=1bar」が付記された線は、水素分圧が1気圧である条件で考えられる最大の還元状態の境界を表している。
【0034】
酸素マイクロナノバブル水が泥土に添加されると、輸送経路(切羽部31、スクリューコンベヤ5、及び泥土輸送配管L1)内において、泥土の酸化還元電位が上昇する。このとき、ヒ素及び鉄イオンはそれぞれ酸化されて、それぞれ図3及び図4に示された上向き矢印の方向へ存在形態が移り、ヒ素はヒ酸イオン(HAsO又はHAsO2−)として、鉄は水酸化鉄(III)(Fe(OH))として存在するようになる。すると、水酸化鉄(III)は、ヒ酸イオンを吸着して共に沈殿し、その結果、ヒ素が環境中に溶出しにくい形態となる。沈殿した水酸化鉄(III)は、泥土の輸送と共に、トンネルの坑口側へ輸送される。
【0035】
切羽部31において添加された酸素マイクロナノバブル水を含む泥土が輸送経路を通じて坑口側へと輸送される途中において、泥土輸送配管L1の途中に設けられた分析装置7によって、泥土のpH、Eh、及び、DOを測定する(測定工程)。すなわち、泥土中の重金属類の処理について上記作用が生じるための適切な条件となっているか否かを確認する。そして、測定の結果から、泥土の各種状態を調整すべきと判定した場合は、酸素マイクロナノバブル水の添加量、pH調整剤の使用量、及び酸素発生装置16からの酸素供給量のうち少なくとも一種を調整する。
【0036】
以上のように処理装置1が運転されて酸素マイクロナノバブル水が泥土に添加されると、この泥土が輸送経路によりシールドマシン側から坑口側へ輸送される過程において、泥土と酸素マイクロナノバブル水とが混合される。このため、泥土が酸素マイクロナノバブル水に接触しやすくなることから重金属類の酸化機会が均一となり、酸化速度も大きくなる。すなわち処理装置1によれば、低コストで、重金属類の処理速度が速く、且つ、重金属類の処理が均一化される。
【0037】
また、従来の仮置き処理と比べると、仮置きのための用地が不要であるし、また、仮置き中の泥土の飛散や重金属類の溶出を防止するための対策設備が必要となることもない。また、仮置きでは、空気酸化に頼るために処理に時間がかかるほか、盛られた泥土の表層と内部とで空気に触れる程度が異なるため、重金属類の処理が均一でない場合が多かった。これに対し、処理装置1による処理によれば、泥土と酸素マイクロナノバブル水とが混合されるため、重金属類の処理が均一化される。
【0038】
また、上記運転では、酸素マイクロナノバブル水を、シールドマシン3の切羽部31における泥土に添加するため、カッター33の回転により撹拌性が高く、泥土と酸素マイクロナノバブル水とが互いに混合されやすく、重金属類の酸化機会が一層均一となり、酸化速度も一層大きくなっている。
【0039】
また、処理装置1の装置本体11では、酸素を水に供給してマイクロナノバブルを発生させている。酸素は空気と比べて気体の単位体積当たりの酸化促進効果が高いため、泥土の酸化還元電位が上昇しやすく、重金属類の処理が一層促進される。
【0040】
また、酸素マイクロナノバブル水は、pH調整剤により、供給された上水のpHを調整することができるため、酸素マイクロナノバブル水の酸化力を向上させることができる。
【0041】
また、上記運転では、分析装置7による各種指標の測定結果により、重金属類が処理されるための好適な条件が整っているか否か、又は、重金属類が処理されたか否かを判定することができ、その判定の結果に基づいて酸素マイクロナノバブル水の添加量、pH調整剤の使用量、及び酸素発生装置16からの酸素供給量のうち少なくとも一種を調整することにより、泥土を一層効率よく処理することができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、酸素マイクロナノバブル水を切羽部31において泥土に添加する態様を示したが、輸送経路における他の箇所、例えばスクリューコンベヤ5内や泥土輸送配管L1内の泥土に添加してもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、酸素マイクロナノバブル水を調製する前に上水のpHを調整したが、pHの調整は、酸素マイクロナノバブル水を調製した後に実施してもよい。
【0044】
また、酸素マイクロナノバブル水の原料として供給する水は、上水のほか、掘削現場で発生した排水、冷却水、泥水等を再生して循環させたものであってもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、マイクロナノバブルの発生のために酸素を給気したが、代わりに空気を給気してもよい。この場合、酸素発生装置16が不要となるため、重金属類の処理をより低コストで行うことができる。
【0046】
また、酸素マイクロナノバブル水は、鉄剤が添加されたものであってもよい。これによれば、上記作用に基づく重金属類の沈殿を、一層効率よく進行させることができる。すなわち、泥土に含まれる天然由来の鉄イオンが乏しい場合に、これを補う意義がある。ここで、添加する鉄剤としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄等が挙げられる。
【0047】
また、上記実施形態では、輸送経路の一部に泥土輸送配管L1を使用したが、酸素マイクロナノバブル水が添加された泥土を輸送できるものに代えることができる。例えば、ベルトコンベヤを用いてもよい。
【0048】
なお、上記実施形態では、重金属類がヒ素である場合について説明したが、他の重金属類(シアン、水銀、六価クロム、鉛、カドミウム、フッ素又はホウ素)である場合にも処理装置1を適用することができる。図5は、横軸にpH、縦軸にEhをとった場合の鉛の形態図である。鉛の場合、pHが10前後である領域以外ではイオン化しており、且つ、酸素の給気による酸化還元電位の上昇のみではその存在形態が変化しないが、鉄のほうは上記と同様に水酸化鉄(III)に変化するため、これが鉛(鉛イオン)を吸着して沈殿させ、鉛を環境中に溶出しにくくさせる効果が奏される。
【0049】
また、上記実施形態では、建設汚泥が泥土である場合について説明したが、建設汚泥が泥水である場合であっても同様に重金属類を処理することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…処理装置、3…シールドマシン、5…スクリューコンベヤ(輸送経路)、7…分析装置、11…装置本体、12…添加手段、13…pH調整剤タンク、14…ラインミキサ、15…pH調整水貯留タンク、16…酸素発生装置、17…マイクロナノバブル発生装置、18…酸素マイクロナノバブル水貯留タンク、31…切羽部(輸送経路)、L1…泥土輸送配管(輸送経路)、L2…上水供給管、T…トンネル。
図1
図2
図3
図4
図5