【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年5月20日 一般社団法人 日本塑性加工学会発行の「平成25年度塑性加工春季講演会講演論文集」に発表
【文献】
松本克史 外1名,自動車パネル用Al−Mg−Si合金の集合組織形成挙動に及ぼす溶体化処理の影響,神戸製鋼技報,日本,2004年12月,Vol54 No.3,URL,http://web.archive.org/web/20050512223643/http://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/54_3/047-50.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1や特許文献2のように、レーザビームの照射で金属材料を加熱しながら、あるいは、加熱部分の温度が冷めないうちに曲げ加工する方法は、設備が複雑化がするという問題がある。
【0007】
また、レーザビームを金属材料にスポット照射する方法は、あくまでスポット照射であることから、曲げ加工に応用するまでには至っていないという現状がある。
【0008】
また、圧延条件や熱処理条件を調整することで集合組織を制御する方法は、材料全体の集合組織制御となることから、コスト高になるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮し、簡易な設備で低コストに、難加工性の金属板材を、曲げ部の品質を保ちながら容易に曲げ加工することができる金属板材の曲げ加工方法及び該曲げ加工方法に用いるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の発明の金属板材の曲げ加工方法は、金属板材を所定の曲げ線に沿って曲げ加工する金属板材の曲げ加工方法において、前記金属板材に前記曲げ線に沿ってレーザビームを連続して照射して前記曲げ線の部位
のみを線状に加熱することにより、該曲げ線の部位
のみに、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域を形成し、その後、
前記金属板材を急冷した後に、前記レーザビームを連続して照射した前記曲げ線に沿って前記金属板材を曲げ加工することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の金属板材の曲げ加工方法であって、前記特定の結晶方位が立方体方位であることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の金属板材の曲げ加工方法であって、前記レーザビームの照射による加熱により、前記曲げ線の部位
のみに、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域を形成した後、前記レーザビームの照射により、前記金属板材を所定の板形状に切断し、その後、前記曲げ線に沿って前記金属板材を曲げ加工することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属板材の曲げ加工方法であって、前記金属板材の少なくとも前記曲げ線の部位に光吸収材を塗布し、この光吸収材を塗布した前記曲げ線に沿って前記レーザビームを連続して照射して前記曲げ線の部位
のみを線状に加熱することにより、該曲げ線の部位
のみに、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域を形成することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明のレーザ加工装置は、レーザ発振器から発振されたレーザビームを加工ヘッドから金属板材に照射して、該金属板材を曲げ加工する方法に用いるレーザ加工装置において、前記金属板材の材質と板厚により前記レーザビームの出力と照射速度及び前記金属板材上の照射ビーム径を制御する制御手段を備え、前記制御手段により前記レーザビームの出力と照射速度及び照射ビーム径を制御した状態で、前記金属板材を曲げ加工するために該金属板材に予め設定された曲げ線に沿って前記レーザビームを移動しながら該レーザビームを前記曲げ線の部位
のみに連続して照射して該曲げ線の部位
のみを線状に加熱して、前記曲げ線の部位
のみに、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域を形成
した後で、前記レーザビームの照射により前記金属板材を所定の板形状に切断することを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5に記載のレーザ加工装置であって、前記加工ヘッドの光軸と前記金属板材の板面とのなす角度が90度を外れるように設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項5の発明によれば、レーザビームの照射により、金属板材に曲げ線の部位
のみに、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域を形成するので、曲げ線に沿っての曲げ加工性が向上する。従って、難加工性の金属板材であっても、レーザビーム照射後の曲げ線に沿っての曲げ加工を、低い荷重で容易に行うことができる。また、加工性の向上により曲げ加工部に亀裂が入ることを防止でき、品質の良い曲げ加工品を作製することができる。また、加熱しながら、あるいは、加熱した部分の温度が冷めないうちに曲げ加工する必要がないので、レーザ照射系の装備と曲げ加工系の装備とを切り離して設けることができて、設備の複雑化を避けることができる。さらに、必要箇所のみにレーザビームを照射するだけであるから、圧延や熱処理で結晶方位を制御する場合のように材料全体を処理するのと違って、低コストに実現することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、特定の結晶方位が立方体方位であるから、曲げ線に沿っての曲げ加工性を確実に向上させることができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、レーザビーム照射による曲げ線部での結晶方位の制御の後にレーザビーム照射による金属板材の外周切断を行うので、レーザ加工装置の加工条件を変えるだけで、加熱と切断の一連の工程を同じ加工機で連続して行うことができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、レーザビーム照射により加熱する部位に予め光吸収材を塗布するので、加熱による結晶方位の制御の効率向上が図れる。
【0020】
請求項6の発明によれば、加工ヘッドの光軸と金属板材の板面とのなす角度が90度を外れるように設定するので、金属板材に照射された後のレーザビームの反射光がレーザ発振器側に戻るのを防止し、機器の保護を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態の曲げ加工方法の実施に使用するレーザ加工装置1により、曲げ加工すべき金属板材Wの曲げ線Sに沿って加熱用のレーザビームLBを照射している様子を示す説明図である。
【0024】
このレーザ加工装置1は、レーザ発振器10から発振されたレーザビームLBを、加工ヘッド20の先端より金属板材Wに照射してレーザ加工を行うものである。レーザ発振器10の前部にはオーバヘッドビーム11が水平に片持支持され、オーバヘッドビーム11の前部に上下方向に移動自在に垂直下向きに加工ヘッド20が設けられている。
【0025】
加工ヘッド20の上方には反射ミラー12が設けられ、加工ヘッド20の内部には、集光レンズ21やレーザビーム径測定器22が設けられている。そして、レーザ発振器10から出力されたレーザビームLBは、オーバヘッドビーム11内を通り、反射ミラー12で折り曲げられて、集光レンズ21で集光され、レーザビーム径測定器22を経て、加工ヘッド20の先端のノズル23から、被加工材である金属板材Wに照射され、それにより金属板材Wに所定の処理(加工)を行う。
【0026】
加工ヘッド20は、固定側加工ヘッド本体25と、この固定側加工ヘッド本体25に嵌装されて上下方向移動自在な移動側加工ヘッド本体26から構成されている。集光レンズ21及びレーザビーム径測定器22は、移動側加工ヘッド本体21の内部に装着され、レーザビーム径測定器22は、集光レンズ13の下方に所定距離をおいて配置されている。
【0027】
レーザビーム径測定器22にて測定されたレーザビーム径の測定値はNC装置(制御手段)30に入力され、その入力された測定値によりNC装置30がビーム径調整機構(デフォーカス機構)31を駆動して、移動側加工ヘッド本体26の上下方向の位置を決める。これにより、集光レンズ21と金属板材Wの上面との間の距離、言い換えると集光レンズ21の焦点と金属板材Wの上面との間の距離(デフォーカス量Hに相当)が調整され、金属板材Wの表面に対する照射ビーム径Dが所望の値に制御される。
【0028】
また、NC装置30は、入力された金属板材Wの材質と板厚の値を入力として、レーザビームLBの出力と照射速度F(レーザビームLBの移動速度)及び金属板材W上の照射ビーム径Dを制御する機能を備えている。
【0029】
また、このレーザ加工装置1で金属板材Wを加熱する場合は、金属板材Wに予め設定された曲げ線Sに直交する面内における加工ヘッド20の光軸Lと金属板材Wの板面とのなす角度θが90度を外れるように設定することが必要である。例えば、金属板材Wを水平に対して傾けることで、θ=19.3°に設定する。そうすることで、金属板材Wの表面に照射したレーザビームLBの反射光がレーザ発振器10側に逆入射するのを防ぐことができる。
【0030】
次に、本発明の実施形態の金属板材の曲げ加工方法について説明する。
【0031】
この曲げ加工方法では、まず、金属板材Wに予め設定された曲げ線Sに沿って、前記レーザ加工装置1により加熱用に制御したレーザビームLBを連続して照射して、曲げ線Sの部位を線状に加熱する。具体的には、NC装置30により、レーザビームLBの出力と照射速度F(レーザビームの移動速度)及び照射ビーム径D(デフォーカス量Hに比例する値)を
図3(a)に示すように制御した状態で、曲げ線Sに沿ってレーザビームLBを移動(
図1の矢印Fで示すように移動)しながら、レーザビームLBを曲げ線Sの部位に連続して照射する。
【0032】
その際、予め金属板材Wの少なくとも曲げ線Sの部位にカーボンスプレー等により光吸収材を塗布しておき、それからレーザビームLBを照射することで、金属板材Wの吸収性をよくすることができる。
【0033】
そして、レーザビームLBの照射による加熱により、曲げ線Sの部位に、特定の結晶方位(主に立方体方位=Cube方位)の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域SBを形成する。
【0034】
その後、
図3(b)のようにレーザビームLBの照射ビーム径を絞ることで、切断仕様に設定した状態でレーザビームLBを金属板材Wに照射するにより、金属板材Wを所定の板形状に切断する。その後、例えば、
図4に示すように、ダイ51とパンチ52により、曲げ線Sに沿って金属板材Wを曲げ加工することで、所定の曲げ加工品を製造する。
【0035】
このように、レーザビームLBの照射により、金属板材Wに曲げ線Sの部位に、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域(局所的に集合組織を持つ領域)を形成した場合、材質が改善(伸びが大きく、あるいは引張強さが小さく)されることで、曲げ線に沿っての曲げ加工性が向上し、難加工性の金属板材であっても、曲げ加工を低い曲げ荷重で容易に行うことができるようになる。また、加工性の向上により、曲げ加工部に亀裂が入ることを防止でき、品質の良い曲げ加工品を作製することができる。
【0036】
また、加熱しながら、あるいは、加熱した部分の温度が冷めないうちに曲げ加工する必要がないので、レーザ照射系の装備と曲げ加工系の装備とを切り離して設けることができ、設備の複雑化を避けることができる。さらに、必要箇所のみにレーザビームLBを照射するだけであるから、圧延や熱処理で結晶方位を制御する場合のように材料全体を処理するのと違って、低コストに実現することができる。
【0037】
また、優先方位(結晶粒の体積分率が他の部位に比べて高い結晶方位)をCube方位とすることにより、曲げ線に沿っての曲げ加工性を確実に向上させることができる。
【0038】
また、レーザビーム照射による結晶方位の制御の後に、レーザビーム照射による金属板材Wの切断を行うので、レーザ加工装置1の加工条件を変えるだけで、一連の工程を連続して行うことができる。
【0039】
例えば、
図2に示すような金属板材Wから所定形状のワークW1を切り出す際に、点線で示す曲げ線Sに沿って矢印S1〜S4の順番に加熱用のレーザビームLBを照射して加熱し、それにより、曲げ線Sの部位に、特定の結晶方位の結晶粒の体積分率が他の部位に比べて局所的に高い線状の領域
を形成する。次に、集光径を絞り、実線で示す切断線Cに沿ってピアス孔C0から矢印C1〜C12の順番に切断用のレーザビームLBを照射して、所定形状のワークW1を切り出す。その後、前記曲げ線Sに沿ってプレスブレーキ等で曲げ加工を施すことにより、所定形状の成形品を得ることができる。
【0040】
このように、レーザビームLBの照射により、加熱と切断とを一連の工程でほぼ連続して行うことができるので、加熱工程が増えることによる加工負担がほとんどなく、難加工材に対する曲げ加工性を高めることができる。
【0041】
また、レーザビーム照射により加熱する部位に予め光吸収材を塗布しておくことにより、加熱による結晶方位制御の効率向上が図れる。また、加工ヘッド20の光軸Lと金属板材Wの板面とのなす角度が90度を外れるように設定しておくことにより、機器の保護を行うことができる。
【0042】
なお、加熱用のレーザビームLBを金属板材Wに照射する場合に、集光レンズ21でビームを絞らずに、反射ミラー12で進路を折り曲げたレーザビームLBを、
図3(c)に示すように、そのまま金属板材Wに照射するようにすることも可能である。
【0043】
また、以上の実施形態の説明においては、曲げ線に沿って加熱を行った後に金属板材を切断しているが、切断してから曲げ線に沿って加熱してもよい。
【0044】
次に、上記の曲げ加工方法の裏付けのために行った実験内容について説明する。
【0045】
この実験では、アルミニウム板(金属板材)にレーザビームを照射して、体積分率が高いほど曲げ加工性を良好にするCube方位の集合組織の制御を試みた。また、その曲げ加工性を調べてみた。
【0046】
加熱用のレーザビームの照射には株式会社アマダ製のCO
2レーザ加工装置を用いた。アシストガスはAr、集光径D(照射ビーム径)は、デフォーカス制御によりφ7mm〜10mmの範囲から選定し、ここでは約φ8mmに設定した。指令出力は、500Wとした。
【0047】
試料(母材)には、A5052(アルミニウム)の厚さ1mmの圧延板材を使用した。表1に試料として使用したA5052の成分を示す。
【表1】
【0048】
このA5052の圧延板材をシャーリングによって200mm×100mmに切り出したものを試料とした。
【0049】
板幅(100mm)の中央部に照射速度(レーザビームの移動速度)を変数としてレーザビームを照射し、レーザビームの熱を効率よく吸収させるために、予め試料の表面にカーボンをスプレーで吹き付けておいた。
【0050】
一方、レーザ照射による再結晶の比較のために、通常の電気炉による静的な焼きなましを行った。その試料には、A5052の圧延板材をシャーリングによって10.0mmx10.0mmに切り出したものを用いた。そして、株式会社アズワン製の高性能マッフル炉に入れて試料を加熱した。保持時間を7.2ksとし、温度を変数とした焼きなまし処理を実行する。
【0051】
その後、各結晶粒の結晶方位の解析をSEM−EBSD(Scanning Electron Microscope−Electron Back Scattering Diffraction)法により行い、集合組織を観察した。具体的には、集合組織観察のための研磨方法として、エメリペーパによる湿式研磨と、アルミナ粒子とコロイダルシリカによるバフ研磨とを行った。この試料を日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、EBSD法により局所的な結晶方位測定を行った。レーザ照射面の結晶方位解析には株式会社TSLソリューションズ製のOIM ver.6.0を用いた。
【0052】
図5(a)は、試料(A5052)にレーザビームを照射した場合のレーザ照射速度と試料表面に生成される主要4結晶方位(Cube方位、Goss方位、Brass方位、Copper方位)の結晶粒の面積率との関係を示すグラフ、
図5(b)は比較例として、試料を焼きなましした場合の焼きなまし温度と試料表面の主要4結晶方位の結晶粒の面積率との関係を示すグラフである。
【0053】
図5(b)に示すように、試料に静的な焼きなましを施した場合、280℃(553K)以上の焼きなまし温度で再結晶が起こっていることが分かる。具体的には、280℃(553K)での再結晶の前に、各々の集合組織の面積率がいったん低下し、その後、Cube方位の割合が大きくなっている。これに対し、
図5(a)に示すように、レーザ照射の場合は、レーザ照射速度が0.8[m/min]より小さく、特に0.6[m/min]以下になった場合に再結晶が起こっていることが分かる。この場合も、再結晶前に各々の集合組織の面積率が低下してから、Cube方位の割合が大きくなっている。
【0054】
レーザ照射の場合は、急熱急冷であるため、照射速度が速くなればなるほど試料の温度が低くなり、照射速度が遅くなればなるほど試料の温度が高くなる傾向がある。
【0055】
図6は、試料にレーザビームを照射した場合のレーザ照射速度別の試料表面のIPFマップ(結晶方位マップ)を示す図であり、レーザ照射速度ごとに測定した試料の温度を併せて載せてある。
【0056】
このIPFマップから、温度で見てみると、レーザ照射温度が723K(450℃)から750K(477℃)の間で再結晶が起こっていることが分かる。特に750K(477℃)で、Cube方位が他の集合組織に比べて顕著に発達していることが認められる。
【0057】
この再結晶の温度は、一般的な再結晶温度(焼きなまし時の再結晶温度)である280℃(553K)よりも高温である。これは、レーザビームを移動しながら照射することにより、試料上で急熱急冷がなされ、静的な焼きなましによる再結晶温度である280℃(553K)よりも高温で再結晶が起こったと認められる。
【0058】
試料の温度は、レーザ照射速度に応じて変化している。例えば、レーザ照射速度がF=0.8[m/min]のとき、試料の温度は450℃(723K)、レーザ照射速度がF=0.6[m/min]のとき、試料の温度は477℃(750K)、レーザ照射速度がF=0.4[m/min]のとき、試料の温度は503℃(776K)、レーザ照射速度がF=0.2[m/min]のとき、試料の温度は530℃(843K)、レーザ照射速度がF=0.1[m/min]のとき、試料の温度は543℃(816K)と測定された。
【0059】
従って、レーザ照射速度がF=0.6[m/min]よりも遅くなることで、再結晶と共にCube方位が発達した。
【0060】
図7は、レーザビームを照射した箇所とレーザビームを照射しない箇所のIPFマップと粒界マップを示す図である。この
図7にて分かるように、レーザビームが照射された箇所は集合組織の割合が増大し、レーザビームが照射されない箇所は集合組織の割合が少ない状態となる。
【0061】
集合組織の種類として主なものは、Cube方位、Copper方位、Brass方位、Goss方位があるが、特にCube方位の割合が大きいと剪断応力が抑制される。
【0062】
そこで、集合組織の制御の効果の確認のためU曲げ試験を行った。
【0063】
曲げ試験は、株式会社アマダ製のプレスブレーキを用いて、内角が90°になるまで鋭角に曲げを施した。この時のパンチの曲率半径rは0.65mm、ダイ幅Bは6.0mmとした(
図4参照)。
【0064】
図8は、曲げ試験した試料の曲げ部の外面の写真を示す図で、
図8(a)はレーザ照射しない状態の母材の曲げ部の写真を示す図、
図8(b)はレーザ照射速度を違えた場合の試料の曲げ部の写真を示す図、
図8(c)は曲げ部の写真撮影方向を示す図である。
【0065】
(a)に示すように、レーザ照射を施していない母材では、板幅方向に長いしわが発生しているが、レーザ照射を施したレーザ照射材の曲げでは、照射速度400(mm/min)で温度503K、照射速度600(mm/min)で温度476K、照射速度700(mm/min)で温度478K、照射速度800(mm/min)で温度450K、照射速度1500(mm/min)で温度358Kのいずれの場合でも、しわは発生していない。つまり、レーザ照射することにより、曲げ部の外面の品質が良くなり、曲げ性が向上したことが認められる。
【0066】
なお、以上の説明においては、加工ヘッド20の光軸Lと金属板材Wの板面とのなす角度が90度を外れるようにするため、
図1に示すように、レーザ加工装置1の垂直下向きの加工ヘッド20に対して、金属板材Wを傾斜させる場合を示したが、
図9に示すように、金属板材Wを水平に保持し、加工ヘッド20を傾斜させてもよい。