【文献】
細見 直史 他,鋼部材のコンクリート地際における残存板厚の評価・予測(その1)−地際腐食部の平均腐食深さに基づく残存板厚の推定手法−,土木学会年次学術講演会講演概要集,2013年 8月 1日,Vol. 68th, ROMBUNNO. I-220,pp. 439-440
【文献】
入部 孝夫 他,鋼部材のコンクリート地際における残存板厚の評価・予測(その2)−鋼製橋脚基部の腐食損傷調査と残存板厚の簡易評価と予測−,土木学会年次学術講演会講演概要集,2013年 8月 1日,Vol. 68th, ROMBUNNO. I-221,pp. 441-442
【文献】
細見 直史 他,道路構造物の地際腐食損傷における鋼部材の非破壊検査と劣化予測,日本道路会議論文集,2013年,Vol. 30th, ROMBUNNO. 2061
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一部が基礎部分に埋められた構造物であって導電性を有する金属からなる板状体を含むものについて当該板状体のうち前記基礎部分の表面から特定深さまで当該基礎部分内に埋められた部分である際部分の減肉状態を判定するための検査方法であって、
励磁コイル及び渦電流の検出を行う検出部を含む測定プローブを当該励磁コイルの中心軸が前記板状体の表面に対して予め決められた特定傾斜角度で傾斜する姿勢で当該板状体の近傍の地盤上にセットすることにより当該励磁コイルの中心軸を前記際部分に指向させ、この状態で前記励磁コイルにパルス電流を流すことにより前記際部分の表面に渦電流を形成する渦電流形成工程と、
前記検出部により前記渦電流の強さを経時的に検出してその持続時間を特定する持続時間特定工程と、
その特定された持続時間と、予め採取されたデータであって前記板状体のうち前記基礎部分の外側に位置する健全部の表面に対して前記励磁コイルの中心軸が前記特定傾斜角度と同一の角度で傾斜する姿勢で当該励磁コイルに前記パルス電流が流されたときに形成される渦電流の持続時間に関する参照データと、を対比することにより、前記際部分における減肉状態の判定を行う判定工程と、を含む、一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法。
請求項1記載の一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法であって、前記判定工程で用いられる参照データは、既に地盤に立設されている前記構造物の板状体のうち前記基礎部分の外側に位置する部位に対して現場にて前記特定傾斜角度と同じ角度で前記励磁コイルを向けながら励磁することにより現場で測定された当該外側の部位での渦電流の持続時間である、一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法。
請求項1または2記載の一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法であって、前記板状体の材質と同じ材質を有する模擬体であって互いに肉厚の異なるものに対して前記特定傾斜角度と同じ角度で前記渦電流形成工程及び持続時間特定工程と同じ工程を実行することにより当該肉厚と当該渦電流の持続時間との相関関係を取得する工程をさらに含み、前記判定工程において前記際部分について特定された前記渦電流の持続時間と前記相関関係とに基いて当該際部分の肉厚を推定する、一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法。
請求項1〜3のいずれかに記載の一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法であって、前記渦電流形成工程では、前記測定プローブと前記板状体の表面との間に一定の形状を有する治具を介在させることにより当該板状体に対する当該測定プローブの角度を固定した状態で渦電流の形成が行われる、一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法。
請求項4記載の一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法であって、前記治具として、前記板状体の表面に当接可能な板状体当接面と、前記測定プローブに当接可能な測定プローブ当接面と、を有し、当該板状体当接面及び当該測定プローブ当接面にそれぞれ前記板状体の表面及び前記測定プローブが当接した状態で当該板状体と当該測定プローブとの間に前記特定傾斜角度を与えるものが用いられる、一部埋設構造物の際部分の減肉検査方法。
【背景技術】
【0002】
構造物の中には、例えば鋼管からなる照明柱や標識柱、信号柱、ガードレールの支柱、あるいは断面L字状のいわゆるアングル材で構成された鉄塔のように、金属製の板状体からなる構成要素を含み、かつ、その一部が土やアスファルトからなる地盤その他の基礎部分に埋められた状態で設置されたものが存在する。このような一部埋設構造物においては、その埋め込まれた部分のうち前記基礎部分の表面に近い部分である際部分に海塩粒子や結露水等の腐食因子が集中すること、あるいは地上と地中の電位差が生じることによるマクロ腐食現象により、当該際部分で前記板状体の局部的な腐食による減肉が進むことがある。このような腐食は、地盤上に立設されるものに限らず、例えばコンクリート壁に一部が埋め込まれて他の部分が水平に突出する鋼管等の際部分においても発生し得る。
【0003】
このような際部分の腐食による減肉は、構造物全体の強度を低下させる要因となり得る。その一方、当該際部分の腐食は特に基礎部分の表面から深さ50mm程度の範囲内で顕著に進行するため、外側から目視で確認することはできない。
【0004】
従来、このような際部分の腐食による減肉を検査する方法として、次のものが知られている。
【0005】
A)構造物の際部分が埋められている基礎部分の除去(例えば地盤の掘削)によりその際部分を露出させ、その露出した部分の目視観察やノギスによる肉厚の測定を行う。
【0006】
B)超音波探傷法を利用する。具体的には、構造物のうち外部に露出している部分に超音波探傷子を装着し、この探傷子から地盤内に向かってSH波を発信し、その反射波から欠陥の有無を判定する(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のA)の方法では、地盤の掘削等及び検査後の埋戻しのために大掛かりな作業を要する。また、掘削後にノギス等を用いて円管等の肉厚を測定する作業も容易ではない。
【0009】
一方、B)の方法は、構造物を構成する板状体の表面が塗膜等の表面層で覆われている場合に適用することができない。換言すれば、当該方法を適用するには事前に前記表面層を除去する作業が必要であり、従って、構造物をそのままの状態に保ちながら検査することは困難である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、地盤の掘削等の面倒な作業を行うことなく、地盤等の基礎部分に一部が埋められた一部埋設構造物の際部分の減肉状況を判定することが可能な検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記際部分の検査を行う手段として、パルス渦電流探傷法の適用に想到した。この方法は、本来は、被検査物において減肉等の欠陥が想定される部分の表面に励磁コイル及び検出部を含む測定プローブを当該励磁コイルの中心軸方向が前記表面の法線方向と合致するように当て、当該励磁コイルに直流のパルス電流を流した後の渦電流の存在を前記検出部(例えば受信コイル)で検出し、当該渦電流の残存時間から肉厚を推定するものである。具体的に、前記励磁コイルに直流のパルス電流が流されると、これによる磁界の急激な変化が前記被検査物の表面に渦電流を生じさせる。この渦電流は減衰しながら徐々に被検査物の内側に浸透し、最終的に、被検査物の裏面まで到達した時点で当該渦電流の減衰が急激に加速する。従って、渦電流が形成されてからその減衰の加速が始まるまでの時間を計測することにより、肉厚の推定が可能である。
【0012】
しかし、この従来のパルス渦電流探傷法は、欠陥の有無を判定すべき部位の表面に対してこれと垂直に(つまり励磁コイルの中心軸が前記表面の法線方向と合致する向きに)測定プローブを当てるものであるから、地盤等に埋められた際部分の検査を行うことはできない。そこで、本発明者らは、前記励磁コイルの中心軸が前記際部分の表面に指向するように当該励磁コイルの中心軸を斜めに向けながら測定プローブを被検査物の根元部分すなわち地盤等の基礎部分の表面の直上の部分に当てることで当該際部分の表面に渦電流を形成することに想到した。この場合、前記励磁コイルと際部分の表面との間には前記基礎部分、具体的には土やアスファルト、コンクリートといった絶縁物が介在し、かつ、その励磁コイルと際部分の表面との距離が当該励磁コイルの半径方向の位置によって異なるとともに、前記表面に対する前記励磁コイルの中心軸の傾斜角度によって測定条件が著しく変動することになるが、同じ傾斜角度で測定プローブを正常な部位(減肉が生じていない健全部)に当てて前記渦電流の残存時間を測定した結果と、前記のようにして際部分について渦電流の残存時間を測定した結果と、を対比することにより、当該際部分の肉厚を相対的に評価する(すなわち減肉の有無を評価する)ことが可能である。
【0013】
本発明は、このような観点からなされたものである。すなわち、本発明が提供するのは、基礎部分に一部が埋められた構造物であって導電性を有する金属からなる板状体を含むものについて当該板状体のうち前記基礎部分の表面から特定深さまで当該基礎部分内に埋められた部分である際部分の減肉状態を判定するための検査方法であって、励磁コイル及び渦電流の検出を行う検出部を含む測定プローブを当該励磁コイルの中心軸が前記板状体の表面に対して予め決められた特定傾斜角度で傾斜する姿勢で当該板状体の近傍の基礎部分の表面上にセットすることにより当該励磁コイルの中心軸を前記際部分に指向させ、この状態で前記励磁コイルにパルス電流を流すことにより前記際部分の表面に渦電流を形成する渦電流形成工程と、前記検出部により前記渦電流の強さを経時的に検出してその持続時間を特定する持続時間特定工程と、その特定された持続時間と、予め採取されたデータであって前記板状体のうち前記基礎部分の外側に位置する健全部の表面に対して前記励磁コイルの中心軸が前記特定傾斜角度と同一の角度で傾斜する姿勢で当該励磁コイルに前記パルス電流が流されたときに形成される渦電流の持続時間に関する参照データと、を対比することにより、前記際部分における減肉状態の判定を行う判定工程と、を含むものである。
【0014】
ここで、前記判定工程で用いられる参照データは、前記構造物の板状体のうち基礎部分の外側の部位(例えば地上部位)に対して現場にて前記特定傾斜角度と同じ角度で前記励磁コイルを向けながら励磁することにより現場で測定された当該外側部位での渦電流の持続時間であってもよいし、前記板状体が例えば工場から出荷される前に当該工場等で事前に採取されたデータであってもよい。
【0015】
さらに、本発明に係る検査方法では、前記板状体の材質と同じ材質を有する模擬体であって互いに肉厚の異なるものに対して前記特定傾斜角度と同じ角度で前記渦電流形成工程及び持続時間特定工程と同じ工程を実行することにより当該肉厚と当該渦電流の持続時間との相関関係を取得する工程をさらに含むことにより、前記判定工程において前記際部分について特定された前記渦電流の持続時間と前記相関関係とに基いて当該際部分の肉厚を推定することも、可能である。
【0016】
前記渦電流形成工程では、前記測定プローブと前記板状体の表面との間に一定の形状を有する治具を介在させることにより当該板状体に対する当該測定プローブの角度を固定した状態で渦電流の形成が行われることが、好ましい。このような治具の使用により、実際の板状体に対する測定プローブの傾斜角度が安定し、これにより検査精度が高められる。
【0017】
具体的に、前記治具としては、前記板状体の表面に当接可能な板状体当接面と、前記測定プローブに当接可能な測定プローブ当接面と、を有し、当該板状体当接面及び当該測定プローブ当接面にそれぞれ前記板状体の表面及び前記測定プローブが当接した状態で当該板状体と当該測定プローブとの間に前記特定傾斜角度を与えるものが、好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以上のようにして、地盤の掘削等の面倒な作業を行うことなく、基礎部分に一部が埋められた構造物の際部分の減肉状況を判定することが可能な検査方法が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一般のパルス渦電流探傷法の原理を説明するための断面図である。
【
図2】前記パルス渦電流探傷法に用いられる測定プローブの例を示す断面図である。
【
図3】前記パルス渦電流探傷法における渦電流の形成を示す斜視図である。
【
図4】前記パルス渦電流探傷法における渦電流検出信号の強度の時間変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態に係る円筒状構造物の際部分の減肉検査方法を示す断面正面図である。
【
図6】前記減肉検査方法において前記円筒状構造物の根元部分に治具を介して測定プローブを当てた状態を示す斜視図である。
【
図7】前記減肉検査方法の模擬試験に用いられる供試体である円筒物を示す断面正面図である。
【
図8】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度30°で測定プローブを当てた状態を示す斜視図である。
【
図9】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度45°で測定プローブを当てた状態を示す斜視図である。
【
図10】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度90°すなわち非傾斜の状態で測定プローブを当てた状態を示す斜視図である。
【
図11】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度45°で測定プローブを当てたときに磁場が及ぶ領域を示す断面図である。
【
図12】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度30°で測定プローブを当てたときに磁場が及ぶ領域を示す断面図である。
【
図13】前記模擬試験において前記供試体の根元部分に傾斜角度15°で測定プローブを当てたときに磁場が及ぶ領域を示す断面図である。
【
図14】基礎部分であるコンクリート等の壁に一部が埋められた構造物を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、本発明において利用されるパルス渦電流探傷法の一般的態様及び原理を、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、一般的なパルス渦電流探傷法において被検査物10の表面に測定プローブ20が当てられた状態を示している。
【0023】
図1に例示される被検査物10は、母材12と、その表面を覆う保温材14と、を有し、母材12は電磁誘導によって渦電流の発生が可能な材料、すなわち、導電性を有する材料(例えば鋼材)により構成される。前記保温材14は、絶縁材料からなる。このような保温材14に例示される表面層が母材12の表面を覆っていない場合は勿論、覆っている場合にも測定可能であることがパルス渦電流探傷法の利点の一つである。
【0024】
前記測定プローブ20は、
図2及び
図3に示す励磁コイル22及び検出コイル24と、を内蔵し、これらのコイル22,24が一体に走査されることが可能である。この測定プローブ20は、後述のように、本発明に係る検査方法にもそのまま流用可能なものである。この測定プローブ20の前記励磁コイル22には、
図2に示される電流供給回路26が接続され、この電流供給回路26は前記励磁コイル22に直流のパルス電流を流す。前記検出コイル24は、本発明に係る検出部に相当するもので、
図2に示される検出信号作成回路28に接続されている。前記検出コイル24は、前記励磁コイル22と同軸に配置されており、前記被検査物10の母材12に渦電流が形成されたときに電磁誘導によって当該渦電流の大きさに対応した大きさの電流が前記検出コイル24に流れる。前記検出信号作成回路28は、当該検出コイル24に流れる電流に基づき、前記渦電流の強度に対応した検出信号を作成して出力する。
【0025】
本発明に係る方法において用いられる測定プローブの検出部は、前記検出コイル24に限られない。当該検出部は、前記励磁コイル22の近傍の磁場を直接電気信号に変換する磁場検出素子であってもよい。あるいは、前記励磁コイル22のインピーダンスの変化を監視することによって当該励磁コイル22を検出部として兼用することも可能である。
【0026】
図1に示すような一般的なパルス渦電流探傷法では、前記励磁コイル22の中心軸が前記被検査物10の表面の法線方向と合致する姿勢で当該表面に当てられる。この状態で前記励磁コイル14に直流のパルス電流が流されると、これにより形成される磁束の急激な変化によって前記被検査物10の表面、より正確には母材12の表面に
図3に示すような渦電流16が生じ、この渦電流16は減衰しながら徐々に被検査物10の裏面18まで浸透する。このように被検査物10の裏面18まで到達した時点で当該渦電流の減衰が急激に加速する。従って、前記渦電流18が形成されてからその減衰の加速が始まるまでの時間を計測することにより、肉厚の推定が可能である。
【0027】
図4は、前記渦電流の検出信号の時間変化の例を示したグラフである。
図1の左側に示される健全部において励磁コイル22にパルス電流が流されると、
図4の実線に示されるように、母材12に形成される渦電流の検出信号の強度は、しばらくは直線的にかつ緩やかに減少するが、当該渦電流が母材12の裏面に到達した時点で急激に減少するため、図示のような変曲点P0、すなわち時間減少率が急変する点が認められる。従って、前記渦電流が発生してから前記変曲点P0を迎えるまでの経過時間を当該健全部における渦電流持続時間T0として特定することができる。
【0028】
一方、
図1の右側に示されるように腐食等によって母材12の肉厚が減少している減肉部分において励磁コイル22にパルス電流が流された場合も、
図4に二点鎖線で示されるように前記と傾向を同じくする渦電流の検出信号強度の減少が認められるが、肉厚が小さい分だけ渦電流が裏面18に到達するまでの時間が短いため、健全部に比べて早い時期に変曲点P1を迎え、よって特定される渦電流持続時間T1は健全部に係る渦電流持続時間T0よりも短くなる。この渦電流持続時間の長さから被検査物10の(母材12の)肉厚を推定することが可能である。
【0029】
以上示したように、一般的なパルス渦電流探査法は、例えば
図1に示される被検査物10の表面のように、欠陥の有無を判定すべき部位の表面に対してこれと垂直に(つまり励磁コイル22の中心軸が前記表面の法線方向と合致する向きに)測定プローブを当てるものであるから、一部が基礎部分に埋められた状態で設置される一部埋設構造物、例えば照明柱を構成する円筒状構造物のようにその下部が地盤内に埋められた構造物、の際部分、すなわち地面から特定深さ(例えば50mm)まで埋められた部分、の検査にそのまま適用することはできない。
【0030】
本発明の実施の形態に係る方法は、
図1及び
図2に示されるような測定プローブ20と同様の測定プローブを用いながらも、
図5に示されるように地盤Gに立設された構造物30であって板状体である円筒状の周壁32を含みその下部が当該地盤Gに埋められた構造物30の際部分34、すなわち、地盤の表面GSから特定深さまで埋められた部分、での減肉の判定を可能にするものである。
【0031】
具体的に、この方法では、前記測定プローブ20における励磁コイル22の中心軸が前記際部分34の表面に指向するように当該励磁コイル22の中心軸を斜め下に向けながら当該測定プローブ20を地盤の表面GSの直上の測定位置で前記構造物30の根元部分に当てることが、行われる。このような姿勢で前記励磁コイル22にパルス電流を流すことにより、前記際部分34に渦電流を形成することが可能であり、かつ、その渦電流の強さを検出コイル24によって経時的に検出することができる。そして、この検出コイル24が生成する検出信号の強度の時間変化から、
図4に示される例と全く同様にして、前記渦電流の持続時間を特定することができる。
【0032】
ただし、このような傾斜した姿勢での測定では、前記測定プローブ20の励磁コイル22と際部分34の表面との間の距離が励磁コイル22の半径方向の位置によって異なるのに加え、当該励磁コイル22の中心軸の傾斜角度によって大きく変動するため、構造物30を構成する板状体である周壁32の肉厚の絶対値を普遍的に特定することは難しい。しかし、前記構造物30の表面に対する前記励磁コイル22の中心軸の傾斜角度を予め定められた特定傾斜角度αに固定し、これと同じ角度で前記測定プローブ20を適当な高さ位置(構造物30の腐食による減肉が生じにくい位置、例えば
図5に示すように地盤の表面GSよりも上側の特定の高さ位置である参照位置)で当該構造物30の部位すなわち減肉がないと推定される健全部に当て、ここで前記と同様に渦電流を形成してその残存時間を測定した結果を参照データとして取得しておき、この参照データと、前記のようにして測定位置で際部分34について渦電流の残存時間を測定した結果と、を対比することにより、当該際部分34の肉厚の相対的な評価、すなわち減肉の有無の判定、が可能である。
【0033】
なお、前記参照位置では測定プローブ20と構造物30との間に土やコンクリートなどからなる地盤Gではなく大気が介在することになるが、当該地盤G及び大気のいずれも非磁性で絶縁性の高い物質であるため、測定条件に本質的な差異は生じない。従って、
図5に示す参照位置での測定結果と測定位置での測定結果との比較は有効であり、その比較に基いて際部分34での減肉の有無の判定が可能である。具体的には、前記参照位置で特定された渦電流の持続時間に対する前記測定位置で特定された渦電流の持続時間の割合、あるいはこの割合を100%から減じた減少率を演算し、例えばこの減少率が一定以上の場合に減肉が生じていると判定することができる。
【0034】
前記参照データは、あるいは、前記構造物30を構成する板状体である周壁が工場から出荷される前(つまり腐食による減肉が始まる前)に当該工場内で採取されたものであってもよい。ただし、
図5に示されるように既に立設されている構造物30に対して参照位置で測定プローブ20を当てる方法は、既存の構造物にも適用し得る利点がある。
【0035】
いずれの場合も、この検査方法では、前記特定傾斜角度αが変動すると測定結果に著しい影響を及ぼすため、測定データ及び参照データの採取に際しても、当該特定傾斜角度αを安定させることが重要である。その手段として、例えば
図5及び
図6に示される治具40を前記測定プローブ20と前記構造物30との間に介在させながら測定を行うことが有効である。この治具40は、例えば合成樹脂のように、非磁性でかつ電気絶縁性の高い材料からなり、前記特定傾斜角度αを固定できる程度の保形性を有するものが好ましい。当該治具40は、前記構造物30を構成する板状体である前記周壁32の表面に当接可能な板状体当接面42と、前記測定プローブ20の下面に当接可能な測定プローブ当接面44と、を有し、当該板状体当接面42及び当該測定プローブ当接面44にそれぞれ前記周壁32の表面及び前記測定プローブ20が当接した状態で当該周壁32の表面と当該測定プローブ20の励磁コイル22の中心軸との間に前記特定傾斜角度αを与える。さらに、この治具40は、前記測定プローブ当接面44上における前記測定プローブ20の幅方向の位置を安定させるための一対の突出部46を有し、これら突出部46同士の間に前記測定プローブ20が嵌入される。
【0036】
本発明に係る検査方法の有効性は、以下に説明する模擬試験の結果によってより明らかとなる。
【0037】
この模擬試験では、検査対象となる構造物の模擬体として、
図7に示すような供試体50が用いられる。この供試体50は、外径D=140mm及び全長Le=500mmを有する鋼管からなり、これを構成する板状体は、厚みto=4.5mmを有する円筒状の周壁52である。この周壁52の適所に、具体的には、地上存在領域の寸法に相当する寸法L1=350mmだけ上端から離れた部位に、腐食により減肉された部分を模擬するための模擬減肉部54が形成されている。この模擬減肉部54は、外周側の減肉によって前記厚みtoよりも小さい厚みt1を有するように、換言すれば、他の部分よりも小さい外径を有するように、前記周壁52の外周面を例えば旋盤による切削加工で除去することにより形成されたもので、軸方向について一定の幅L2=50mmをもつ。この供試体50のうち前記模擬減肉部54の上端よりも下側の部分が、
図8〜
図10に示すような模擬地盤60内に埋め込まれる。この模擬地盤60は例えば発泡スチロールのような絶縁物からなる。
【0038】
このように模擬地盤60に下部が埋め込まれた供試体50に対し、前述の検査方法が実行される。具体的には、前記特定傾斜角度αが15°,30°,45°,60°及び90°(すなわち非傾斜:比較例)の場合のそれぞれについて、前記模擬地盤60上の測定位置と、それよりも上方の参照位置とで、励磁コイル22にパルス電流を流すことによる渦電流の形成と、当該渦電流の強さの測定と、これに基づく当該渦電流の残存時間の特定と、が行われる。
【0039】
この模擬試験においても、各特定傾斜角度に対応した治具が用いられることが好ましい。
図8及び
図9は、それぞれ、前記特定傾斜角度αが30°及び45°の場合の試験状況を代表的に示しており、当該試験では、前記各特定傾斜角度α(=30°及び45°)に対応した治具40A,40Bがそれぞれ用いられる。一方、
図10は、特定傾斜角度αが90°の場合、すなわち、励磁コイル22に傾斜が与えられない場合(比較例)を示しており、この場合には前記治具は用いられない。
【0040】
以上のようにして行われた模擬試験の結果を以下の表1に示す。
【0042】
この表1に示すように、特定傾斜角度αが90°の場合、すなわち、測定プローブ20を供試体50の根元部分(模擬地盤60の直上の部分)に対して垂直に当てた場合は、減肉深さによる渦電流の残存時間の実質的な変化が認められないのに対し、特定傾斜角度αが30°及び45°の場合は、いずれにおいても、少なくとも1.0mm以上の減肉深さに伴う渦電流の残存時間の減少が認められる。その理由として、特定傾斜角度αが90°の場合つまり励磁コイル22の中心軸が水平である場合は、当該励磁コイル22の通電によって形成される磁場が当該励磁コイル22よりも下側に位置する際部分である模擬減肉部54に及ぶことができず、よって、この模擬減肉部54の減肉深さが測定結果に影響を与えないのに対し、特定傾斜角度αが30°及び45°の場合はいずれにおいても測定プローブ20が形成する磁場が前記模擬減肉部54に及び、かつ、当該磁場によって当該模擬減肉部54に形成される渦電流の残存時間が当該測定プローブ20によって検出されるため、当該模擬減肉部54の減肉深さが測定結果に影響を与えるためであると推察される。
【0043】
さらに、表1に示される結果によれば、特定傾斜角度αが30°の場合は45°の場合よりも減肉深さの増大に伴う渦電流の残存時間の減少が鋭敏であると認められる。これは、特定傾斜角度αが45°の場合は
図11に示すように測定プローブ20の形成する磁場の領域が模擬減肉部54に対して上側に逸れ、その結果、当該磁場が模擬減肉部54の一部の領域(上側の領域)にしか及ばないのに対し、特定傾斜角度αが30°の場合は
図12に示すように測定プローブ20の形成する磁場が供試体50の軸方向(上下方向)について模擬減肉部54の全域に及ぶためであると推察される。
【0044】
一方、特定傾斜角度αが60°及び15°の場合も減肉深さによる変化は認められるため、一応の減肉の判定は可能であるが、その変化率は非常に小さい。従って、高い検査精度は得られにくい。その理由は、特定傾斜角度αが60°の場合は、磁場形成領域が45°の場合に比べて模擬減肉部54から上側に逸れる度合いがさらに大きく、逆に、特定傾斜角度αが15°の場合は、
図13に示されるように前記磁場形成領域が模擬減肉部54から下側に大きく逸れるためであると推察される。
【0045】
従って、本発明では、測定プローブの励磁コイル22が形成する磁場が検査対象構造物の軸方向についてその際部分(測定対象部位:すなわち地盤等の表面から予め設定された深さに至るまでの部位)の全域に及ぶように特定傾斜角度を設定することが、検査精度を高める上で有効である。例えば、
図12に示す例では、特定傾斜角度αを30°に設定することにより、模擬減肉部54の幅が50mm未満(例えば25mm)の場合はもちろんのこと、当該幅が75mmと比較的大きい場合でも前記磁場を当該模擬減肉部54の全域に及ばせることが可能であり、これにより、高い検査精度を得ることが期待できる。換言すれば、本発明に係る「特定傾斜角度」は、励磁コイルにより形成される磁場の範囲や検査対象となる際部分の幅(深さ方向の寸法)に基づき、当該際部分のなるべく広範囲にわたって渦電流を形成することができるように設定されるのが好ましい。
【0046】
さらに、前記模擬体50について表1に示されるようなデータ、すなわち、減肉深さと渦電流の持続時間との相関関係についてのデータを取得しておくことは、実際の検査対象構造物における際部分の肉厚を推定することを可能にする。例えば、実際の検査対象構造物の際部分について特定傾斜角度α=30°で測定した渦電流の持続時間を、表1において当該特定傾斜角度α=30°で採取された各減肉深さに対する渦電流の持続時間と照らし合わせ、前者の持続時間が後者の持続時間のうち減肉深さが2.0mmに対応する持続時間と1.0mmに対応する持続時間との間の値であった場合に当該2.0mmに対応する持続時間と1.0mmに対応する持続時間とに基いて補間演算により実際の減肉深さを推算するといったことが可能である。
【0047】
本発明の検査対象となる構造物は、
図5等に示される円筒状の構造物(例えば照明柱やガードレールの支柱)に限られない。本発明は、構成要素として板状体を含んでいて当該板状体の際部分における減肉の検査が必要な場合に広く適用が可能である。例えば、本発明は、L字状の断面を有する複数の鋼材(いわゆるアングル材)の組み合わせにより構築された鉄塔であってその特定の鋼材の下部が地盤内に埋められることにより立設されたものや、金属製の壁材であってその下部が地盤内に埋められた状態で立設されたものの検査にも、有効に適用することが可能である。また、円筒状の構造物である場合にその腐食減肉部位は外周面に限られず、内周面の減肉の判定についても本発明に係る検査方法は有効である。
【0048】
さらに、本発明の対象となる構造物は、地盤上に立設される構造物、すなわち、その一部が地盤に埋められる構造物に限定されない。本発明は、例えば
図14に示すように、コンクリート壁等からなる基礎部分70に一部が埋め込まれた鋼管等からなる構造物72であって、当該基礎部分70から垂直方向以外の方向(
図14では水平方向)に突出するように設けられたものの際部分74(
図14では壁70の表面から所定深さに至るまでの部分)の減肉検査についても有効に適用することが可能である。具体的には、
図14に矢印で示される部分、つまり前記壁70の表面上の部分に対してプローブが傾斜姿勢でセットされればよい。
【0049】
測定プローブを走査する場合のその走査方向も、板状体の形状に応じて決定されることが可能である。当該走査方向は、基本的には基礎部分の表面に沿う方向であり、検査対象となる板状体が円筒物である場合はその周方向、平板である場合は直線方向となる。また、円筒状構造物でその内径が十分に大きい場合には、その内周面に沿って測定プローブを走査することも可能である。